「なぁなぁ、知ってるか?」 「知ってる?」 「知ってます?」 「……何を?」 「俺らってさ、三つも心臓があるんだって」 「三つも心臓があるんだよ」 「三つも余計に心臓があるんですよ」 「あ、そう……」 「なぁなぁ、知ってるか?」 「知ってる?」 「知ってます?」 「……あのさ」 「俺らってさ、三つも肺があるんだって」 「三つも肺があるんだよ」 「三つも無意味に肺があるんですよ」 「あのさ、一人が喋れよウザったいな!!」 ――とりあえず、不満をぶちまける。全く、ウザいったらありゃしないな。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜      ウザいあいつら  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「一人が代表して喋れ! または一人ずつ画期的に効率よく喋れ!  こっちは脳みそが一個しかねぇんだよ!!」 「何だよ、短気だな、ニドリーノ」 「短気だね、ニドリーノ」 「短気ですね、ニドリーノ。ウザいです」 「ウザいのはどっちだコンチクショウ!!」 ここはカントー地方のサファリパークとかいう場所であり、俺はニドリーノであり。 何の用もなく話しかけてくるドードリオは少々ウザかった。特に左の奴が一言多い。 「まぁまぁ短気は損気って言うだろ?」 「短気は損気って言うよ?」 「短気は損気と言いますよ? ウザリーノ」 「誰がウザリーノだコラ!」 取ってつけたようなフザけた名前だな、オイ。 左もそうだが、右の奴も結局真ん中の言葉を繰り返してるだけじゃねーか。 「なぁなぁ、知ってるか?」 「知ってる?」 「知ってます? ウザリーノ」 「…………」 「最近、何かダグトリオが気になるんだ」 「ダグトリオが気になるんだよ」 「ダグトリオが気になるんです。ウザいです」 「……おい、今全国のダグトリオファンに睨まれたぞ」 ダグトリオファンがいるかどうかはわからない。ファンがつくのは大抵かっこいいポケモンかかわいいポケモンだ。 だが世界は広い。ダグトリオの身体から染み出す何かに憑りつかれた熱烈なファンがいてもおかしくない。 「ポケモン界最高の謎のポケモンだよな。下半身見えないし」 「下半身見えないし」 「下半身見えませんし。あらゆる意味でぜひ見てみたいです」 「……変態?」 「第一どうやって『切り裂く』とかしてんだろうな。不思議だ」 「不思議だね」 「不思議です。ぜひ解剖してみたいです」 「オイ」 こんな会話にいつもつき合わされている自分に誰か同情してくれ。 そんなことを知り合いのケンタロスのおっさんに話したら朝まで愚痴に付き合ってくれたよ。ありがとう、おっさん。 「ところでニドリーノ、俺たちは旅に出る」 「僕たちは旅に出るよ」 「私たちは旅に出ます。見送れ」 「何で命令形?」 また意味もなくこういうことを言ってくる。どういうつもりだ? 「ドードー&ドードリオの間に伝わる裏ルートでコンパスとトロける地図を手に入れたんだ。どうよ?」 「どう?」 「どうです? 敬え」 「だから何で命令形? つーか食うの? チーズ?」 どこからかボロボロの地図を引っ張り出すドードリオ。 ていうか、裏ルートって何? ヤバそうな雰囲気プンプンなのに地図なんか出回ってるの? しかもトロけてるの? 「俺たちは世界を見てくるぜ。いつまでもこんなパークで納まる器じゃねぇ」 「器じゃないよ」 「器じゃありません。ちなみにパークは直訳で公園。またはいつかのポケモンカードゲームの主人公」 「直訳か? それ」 懐かしい。1998年に発売されたゲームだ。 作者も当時購入したとか言ってたが、どうも簡単に極めてしまって速攻で飽きたとか言ってた。さすが自称ゲーマー。 「よく見ろ、ニドリーノ。この地図、何か冒険とかロマンとか詰まってそうじゃね?」 「詰まってそうでしょ?」 「詰まってそうでしょう? 最後の出したのは一週間前です」 「便秘!?」 いきなり下ネタ走るドードリオ。ダメだ、やっぱりついていけない。 第一三匹で喋る上結局同じこと言ってるし、左は一言多くてウザ過ぎる。 そんなことを知り合いのピカチュウの女の子に話したら励まされたよ。ありがとよ、女の子。 「じゃ、行って来るよニドリーノ。クソうるさいサイホーン共によろしく」 「よろしく」 「よろしくお願いします、ウザリーノ」 「マジで伝えとくからなコラ。つーかいい加減ウザリーノ言うな!!」 人間たちで言うところ暴走族みたい連中に去り際にケンカ売ってたよ、あいつら。 まぁ真面目な話、どっか行ってくれればこっちも静かで安泰だ。 地図を持ってくんだからかなり広範囲に旅をするはずだ。いや、する。してくれないと困る。 ……そういやあいつら、海とかどうするつもりだ? 「帰ってきたぜ、ニドリーノ」 「帰ってきたよ、ニドリーノ」 「今帰りました、ウザリーノ」 「……早くねぇ?」 どっか行ってきたわりにはお早いお帰りだった。約三週間いなかったことで随分平和だったものだ。 世界を見てくるぜとか言ってたはずなのに、三週間で帰ってくるのはいかがなものかと。 「まずは手始めに海の向こうの『ほーえんちほー』とかいう場所に行ってきたぜ」 「行ってきたよ」 「行ってきました。俺の靴を舐めろ」 「キャラ変わってねぇ?」 いきなり帝王キャラになる左はもう完全に無視しようと思った。正直ついていけない。 靴とか履いてないクセに左足を差し出してきたのでツノで突き返してやった。 「そこでちょっとしたお土産を持ってきた。受け取れ」 「受け取ってよ」 「受け取ってください。私のハート」 「ハートはいらねぇ」 シカトするつもりだったのに反応してしまった自分が情けない。 どこからか荷物を取り出し、がさがさと漁り始める。……地図の時も思ったが、どっから出した? 「まずこれ、『マッハ自転車』だ」 「絶対その荷物に入らないだろ」 「次にこれ。『ボロの釣竿』だよ」 「せめて『いい釣竿』持ってこい」 「最後はこれです。『紅色の珠と藍色の珠』」 「すぐに返して来い!!」 これがきっかけで何か赤と青のポケモンが争って緑のポケモンがそれを鎮める事態が起きかねない。 遠き海の向こうで何が起ころうと、カントー地方サファリパークにはとりあえず支障はないだろう。 いや、津波とか起こるかもしれない。地震も起こるかもしれない。そんな時、きっとこいつらは生きているだろう。多分。 「あ、まだあった。『ダイゴへの手紙』」 「どこで見つけた!?」 他にも『探知機』とか『デボンの荷物』とか、ホウエン地方の大切な物ラインナップは続く。 『夢幻のチケット』を取り出した時点で、俺はそろそろ止めるべきだと悟った。 「おい、そろそろ……」 「これで最後だよ。『教えテレビ』」 「お前らホウエン行ったんじゃないのか!?」 「……とまぁ、夢溢れる地図に導かれるまま俺たちは大冒険を繰り広げたわけだ」 「繰り広げたんだよ」 「繰り広げました。とりあえずお茶」 「出さねぇ」 やたら偉そうな左。もうやってられません。 夢溢れる地図に導かれたわりには結構近場に冒険してきたこいつら。……いや、ちょっと待てよ。 「お前ら、海を渡ったんだよな」 「ああ」 「うん」 「そうですよ、クズ」 何だか完全に左がSみたいになってきた。やっぱり無視しよう。 「…………。で、どうやって渡ったんだ?」 「どうやってって……」 そこでは初めてドードリオが口を閉ざした。いや、今までも閉ざしている時はあったのだが。 質問されて無意味な内容てんこもりの返答がすぐに返って来ないなんて、明日は地割れが起きるだろう。 「ほら、昔のスーファミのゲームでゴリラが活躍するゲームあったろ?」 「あ、アレか」 「その中に、ダチョウみたいなキャラいたでしょ? 羽ばたくことでゆっくり降りる奴」 「ああ、アレね」 「そういうわけです」 「どういうわけ!?」 ……いや、ちょっとだけ心当たりがあったんだ。でも一応聞き返す。 返答によっては、俺の脳みそが言葉を吐き出し続ける限りツッコまないといけない。 「だから、あのダチョウと同じ要領で海渡ったんだよ」 「あれは飛ぶというよりゆっくり落ちる、だよな?  そんじゃお前ら、スゲェ高いところからジャンプして、羽ばたきまくって海越えたと」 「うん」 自信たっぷりで言い切る右。ここに来てやっと存在が濃くなってきたな。 が、言い切ってから三秒後、少し自信なさそうに首を傾げて、 「……多分」 「多分!? お前ら実行したんだろ!?」 「それはお前の妄想だろ、ニドリーノ」 「妄想だよ、ニドリーノ」 「妄想ですよ、クソリーノ」 「マジ角ドリルするぞ左!!」 「夢とロマン溢れる地図に導かれ、俺たちは再び旅に出る」 「再び旅に出るよ」 「再び旅に出ます。死ね」 「よし、帰ってくるまでに月の石見つけてブン殴ってやるからな」 ドードリオが帰ってくるまでの新たな目標を掲げる俺。 いい加減左を黙らせよう。心臓三つあるんだから一つ奪っても大丈夫だろう。いや、大丈夫じゃないか。 「次はここ行ってくるよ、ここ」 「ここだよ」 「ここです。…………」 「何か言えよ身構えてたのに!!」 例の裏ルートとやらで手に入れたいかがわしい地図を広げるドードリオ。 三つのくちばしが同時に……全くバラバラの場所を指したのでさすがにキた。 「どこ!!?」 「だからここだよ、オーストラリア。ここには舌が短いベロリンガがいるんだってよ」 「違うよ。ここでしょ、イタリア。長靴履いてないと食べられるんだって」 「いいえ。ここです、公衆便所。一緒に落書きしましょう」 「全部間違ってんだろ! つーか左! それ完全に国内っつーか近所! サファリの事務所近くの便所!!」 「ダメだな、やはり俺たちは地図なんかに縛られてはいけない」 「縛られちゃいけないね」 「縛られてはいけません。もっとマニアックな縛られ方を望みます」 「ちょっと待て! 地図には冒険とかロマンとか詰まってんじゃねぇのか!?」 「おいおい、妄想はその辺にしとけよ。ニドリーノ」 「妄想はほどほどに。ニドリーノ」 「妄想も卒業しましょう。ウザリーノ」 「ぜってぇ帰ってくるまでにニドキングになってやっからなァ!!!」 …………っていうか。 「結局お前ら、どうやって飛んだ?」 「国家機密だ」 「国家機密だよ」 「国家機密です。これ以上干渉するとヤミラミにヌケニンの特性『不思議な守り』が備わります」 「無敵!?」  ―― 終 ――