※当作品には一部過激な描写と考えてしまう可能性がある場面があります。ご了承ください。 ……オレはどうすれば…… ……許せない、アイツ……絶対にオレの手で復讐したい…… 目の前は病院のベッド、そこに一人の女が寝ていた。 永遠に目覚めることのない、大事な彼女が……     蜜 オレは怨んだ。 大事な彼女彼女――フジヤマ ナツコを殺したあの男を…… ――カラシマ ユウイチ―― オレの大事な親友だった。  オレ――モトヤ ノブオが彼と出会ったのは大学であった。 そして大学で最初に心を通わせることができた人間が彼だった。 彼――いや、もうアイツでいいだろうが――アイツは心理学を専攻していた。 そして、オレと同じサークルに入った。 学部も同じであったナツコとオレは、アイツとはサークル仲間として次第に心を開いた。 フジヤマ ナツコは、オレにとって今までの人生の中で一番素晴らしい女性だと思う。 彼女の身体は美しい薔薇や向日葵の花と並べれば花々は目立ちもせず、背景にも使えないといえる。 そして、美しく長い髪――ポニーテールにしていたが、肩に掛かり、胸の辺りまでの栗色の髪にケチのつけようもなかった。 いや、褒め言葉を何回でも言いたい気分にしてくれた。 「いつ見ても、かわいいよな」 とアイツにオレが言うと、 「えっ?そ、そんな……そんなことないですって!」 そこに一緒に居たナツコは頬を赤らめつつ言ったことを覚えている。 ナツコとは同じ学部で講義の時は彼女と仲が良い女生徒とオレと友達が近くに座りあった。 「それにしても……お前ら二人ってあってねぇ?」 友達の一人が急に言い出したので困った。 「だ、黙れっ!この二人の息が合っているものかっ!」 オレは急いで反論した。 確かに、彼女はオレを惹かせるが、息が合うとは思ってもいない。 しかし、彼女はクスッと軽く笑ってオレを見た。 「いや、結構合っているのじゃないですか?」 オレの心に鋭い矢――いや、槍かもしれない――とりあえず鋭い何かが突き刺さった。 無事留年も無く、大学三年生を迎え、そろそろ卒業後の進路に向けて慌しくなるだろうな……そう思った春頃だった。 ある日の夜、急に電話がかかってきた。 「もしもし?」 『あっ!ノブオ君?』 受話器からナツコの声がした。 『ちょっと話があるんだけど……今からいい?』 何の用なのか見当がつかなかった。 今まで何回か一緒に食事にいったことがある。 任意同行に近い形であるが。 というのも、彼女の友達やアイツとオレの友達を含めて行ったというわけだ。 しかし、そのときはオレや彼女の友達が元々提案したわけで、彼女が企画したことは一度もない。 であるからにして、一瞬彼女が初企画したのか、と思ったが違うようだった。 オレは約束場所の近所の公園に居た。 左手首の腕時計――便器上そう言ったが正確にはポケギアという機械――をふと見る。 「ゴメーンッ!待たせちゃって!!」 声がして顔を上げると、ナツコが走ってきた。 止まって、オレの顔を凝視した。 今までにこれほど近くでナツコを見たのははじめてであった。 息切れして肩を上下させて息している姿、息が上がって胸に手を当てている姿が更に魅力的に感じた。 「そんなに急がなくてもいいし……」 オレは彼女にそう言った。 自分は遅くても待てるだろうし。 「で、でも……一つ私の心に引っかかるものがあって……」 肌寒い夜であった。 多少だが、心地よい風が吹き渡り、ナツコの髪を揺らした。 「で、何の用なんだよ?」 オレが聞くと、彼女はもじもじした。 どこまでオレが落ちつぶれたのか――いや、惹かれすぎたのかはわからないが、その仕草さえ魅力的に感じる自分が恐ろしかった。 「あっ、あのぉ……」 彼女の頬は赤く染まった。 その夜のことは今でも鮮明に覚えている。 なんせ、オレにとって初めて告白を受けたのだから。 オレもそんなことは予想だにしていなかったのだし。 そうして、オレとナツコは付き合い始めた。 ただ、食事などは友達と一緒に行くようにしなければ、皆が少し不快に思うかもしれない、そう考え、二人だけはしなかった。 しかし、世で言うデートというものはたまにしたといっていいだろう。 それから、何故か分からないが、二年も続いていた。 彼女とも親友たちとも。 そんなある日、いつものように食事の日だった。 今回の主催はオレの先輩。サークルの時にお世話になった人だった。 その日はいつも以上に大盛り上がりだった。 先輩が連れて行ったのは居酒屋。 先輩曰く「どうせ酒飲めるだろ?酔いつぶれようぜ?」ということだった。 どうやら、先輩も忙しく、ストレス発散がしたかったようだった。 数時間がたつにつれて、次第に人数が減っていることに気づいた。 「そろそろ帰るねー」 ナツコの声がした。 隣にはアイツが居た。 「夜は危険だからつれて帰るよ……じゃ、またな」 アイツは背を向け、店を出た。 「……まぁ、他の奴らも――」 ……先輩以外居なかった。どうやらすでに帰ってしまったらしい。 「先輩……オレ以外、帰っちゃってますよ?」 オレは心配になった。 「んあぁ……いいだろ?どうせお前がいるしぉさ……」 多少だが酔いつぶれていた。 確かに、オレが居ないと意味が無いだろうな。 「そうそう話があるんだがぁさ……」 先輩が口を開いた。 「へ?どうしたんです?」 先輩がこんなことを言うのはまれであった。 いや、無かったかもしれない。 「いやぁ……実はさぁ……ユウイチから困った相談うけてなぁ……」 先輩の「相談」という言葉がかなり気になった。 「前にユウイチからさ、お前とナツコの仲に不服でさ。どうやらアイツも好意あるみたいでさぁ……」 急に良いが覚めたようなしゃべり方になった。 「それがなぁ……すんげえ、お前がむかつくってさ。正直、滅したいとかなんとか……本当に困るんだよなぁ」 先輩はふと顔を上げたようだったが、それは分からなかった。 既にオレは走って店を出て行くところだったからだ。 間違ってなければ、ナツコが危ない。それもオレの想像に過ぎないが。 頭の中で被害妄想といえば簡単だろうか、色々と何かが駆け巡った。 しばらく走ると、彼女の住んでいるマンションへ着いてしまった。 あまりにも無意識だったが、何か惹きつけられるものがあったのだろう。 オレは急いでマンションの中に入っていった。 目の前に誰かがぶつかってきた。 「痛っ!」 オレはその誰かを見て、言葉を失った。 アイツだった。 アイツはオレの顔を見て、すぐにオレの横に避けた。 「ま、待てよっ!」 オレは叫んだが、アイツは自動扉の外に出て行くところであった。 普通なら、アイツを追いかけるのだが、そんなことは考えもしなかった。 エレベーターのボタンを連打した。 なかなかこない。反対側の階段へ一目散と駆けた。 階段を駆け上り、彼女の部屋のある階へ着いた。 ドアノブをひねると、易々と開いた。 オレの心の奥底に、嫌な予感がしてきた。 しばらく足を進ませ、リビングに着いた。 「……!!」 予感が的中していた。 オレはその場に立ち尽くしてしまった。 言葉を失ってしまったかと思った。 一ヶ月が経った今、オレの目の前に一匹のサーナイトが居た。 スカーフを巻いていて、名前をサリアというらしい。 一部では有名だとのことらしいが、オレははじめて聞く名前だった。 ……で、そのサリアはオレの思考を読み取っていた。 本人――便座上言いようがないのでこうしかいえないが――曰く、そのほうが悩みが分かりやすいとのことだ。 十分後、サリアは思考を読み取ったらしく、手をゆっくりと額から放した。 「……?」 何か、周りが傾いた感じがした。 立ち眩みだろうか。 「……大丈夫でしょうか?貴方としては少し深入りさせられたような感覚かもしれませんね」 サリアは口を開いた。 全く持って不思議だ。ポケモンが直接話している。 この世界には人間の言語が話せるポケモンも居るらしいが、今サリアが話していることのほうが不思議だった。 そもそも、何故彼女が自分にところに来たのかが謎だ。 別にオレが探したわけでもなく、すべてお見通しのように話してくる。 何か不快感も感じるようであった。 「……さて、本題ですが」 サリアの目線がオレの目に来ていることに気づいた。 「……貴方は、復讐がしたいのですね?」 オレはそこまで言ってない無いはずだ。 思考として表そうとも考えても無い。 それなのに何故そこまで言うことができるのだろうか? 「……ところで、『復讐の蜜』をご存知ですか?」 オレは首を横に振った。 そのようなものは初耳だ。 「……『復讐の蜜』……それは、貴方が抱いている人間に在り来りな憎むべき感情……」 「憎むべき感情」という部分を強調されたような気がする。 強調するところは一番言いたいところなのだと、昔から多くの人に言われてきていた。 親、先生、そして先輩…… 彼女に何が言いたいのか質問すべきだとオレは思った。 「あの……サリアさ――いえ、サリア様。一つ聞きたいのですが……」 オレは失礼にならないように言ったが、あまり自信が無かった。 しかし、サリアは笑みを返してきた。 「人間は、所詮感情の塊。己の利益ばかりを求める。だから、私は人間を憎んでいるのですよ。人間は憎むべき存在なのですから」 あまり――はっきり言えば、全く意味が分からなかった。 何故憎んでいるのか?その核心が分からない。 オレは言いたかったが、言い切れなかった。 「さて……貴方はどうするのです?親友に復讐をするのです?」 サリアは何が言いたいのだろうか。 既に決意をしているのに。 「当たり前だっ!アイツを許せるものか!人の大事な……大事な……」 胸の奥底からこみあげて来るものがあった。 「そうですか……先ほど、私が『復讐の蜜』を出した意味を分からなかったということ。ならば教えてあげましょうか?」 サリアの腕がオレの頭に再び当たった。 「……!!」 一瞬、電撃のようなものが身体を駆け巡った感覚がした。 「……『感情の蜜』、それは貴方の心と同じ。憎しみは甘くなり、そして……」 強い電撃が身体の中を巡った感覚がした。 頭がクラクラしてきた。 「……全てを崩壊させてしまうのですよ。人間に、あなたの……存在も」 体中に強い電撃が駆け巡ってきた。 いや、電撃なのかは分からない。 しかし、何かが自分の頭に向かって駆け巡っている。 「そのために、貴方の存在を崩壊させてあげましょう」 オレは心の中で叫んだ。 抵抗しようとしたが、頭の上部で何かが爆発していた。 目の前が急に真っ白になった。 そして、何かが突き刺された感覚がした。 そこで、全てが終わった。 ……オレは……? 森が広がっているようだった。 しかし、目の前には一人の男が居た。 手には銃を持っていたが、身体を震わせて、後ろに退いている。 ……どうしたんだ?…… オレはふと思った。 一瞬、頭に激痛が走った。 ……いや、激痛より「許さないっ!」という声が鋭くなったような感じのようだった。 見つからないように男の見ている方向を見ると、言葉を失ってしまった。 仲間らしき男が仰向け倒れていた。 男は口を開いたまま、動いていなかった。まるで死んでいるかのように。 ……いや、実際にそうなのかもしれない。 男の額に銃が貫通した痕があるのが分かった。 理由は簡単だ。その痕から出血が多い。 男の横には一匹のポケモンが倒れていた。 ポケモンをよく見ると、エルレイドだろうか。 両方に共通していることがすぐに分かってしまった。 体中が血で紅く染まっていた。 その上空に銃が浮いていた。 その向こう側に一匹のキルリアが立っていた。 オレは状況がすぐに分かった。 男の顔を見た。 蒼白になった顔は恐怖そのものであった。 「おっおい……やめろよ……一体何があったのか分からないけどさ……」 オレは男の目の前に近づいてきた。 銃声がなった。 男から紅い液体がオレの身体に降りかかってきた。 避けようと退いたが、液体はオレの体中に付いた。 男が地面に倒れた。 顔の辺りから次第に大きくなっていく溜まりがオレの足に広がってきた。 「……」 キルリアはオレに銃を向けた。 「ま、待てよ……オレはただここに居るだけでさ……」 「……殺す」 「うわぁっ!!」 急に目が開いた。 目の前には天井がある。 一回瞬きをして、ゆっくりと起き上がった。 空気を吸って、此処が病室だとすぐに分かった。 病院には病院特有のにおいがする。 ……いや、悪い意味でなく、薬の臭いがするというわけだからなのだが。 これは夢だよな?そうだ、これは夢だ。 ベッドのすぐ横にテレビがあった。 何を思ったか、起きてすぐテレビをつける習慣があるオレはテレビの電源を点けた。 ちょうどニュース番組が行われていた。 内容を見ると、何かの事件についてやっているのだろうか。 ――発見された遺体は、二十代前半の男性のものと見られるが、身元はいまだ不明である―― なぜだろうか、悪寒を感じた気がする。 理由が分からないが、その男がアイツではないかという考えが脳裏によぎってきた。 ……そんなわけはない。そんなわけは…… 全面否定をしたが、何か突っかかるものがあった。 看護士の話によると、ただ気を失っていただけらしく、けがなどは特に無いらしい。 明日にでも退院できるとのこと。 オレはそのことについては安堵したが、やはりアイツのことが気がかりであった。 日が暮れて、月が大地を照らしていた。 病室の明かりは消え、暗黒の世界が広がっていた。 オレは寝るつもりだったが、病室で寝ることなど今までめったに無かったことだからか寝付けそうに無かった。 ――ノブオさん、少しよろしいでしょうか?―― 何か呼びかける声が聞こえた気がした。 上半身をゆっくりと起こし、周りを見たが、何も変化は無い。 「気のせいかな……」 オレは蒲団にもぐりこんだ。 ――ノブオさん……―― 気のせいとは思えなかった。 上半身を再び起こした。 何も変化は無さそうだった。 オレは瞬きをした。 それと同時だったのかはわからないが、サリアが目の前に居た。 「お元気でしょうか?今日はいくつかお話がありまして……」 「……ろしたのか?」 無意識に口から出てしまった。 サリアは何を言いたいか分かっているようだったが、何を言うのだろうかという表情をした。 「……お前が、あ、アイツを……?」 これ以上言えまい。自分の意志が足りないだろう。 サリアは微笑んだ。 「貴方の希望を叶えてあげただけですよ」 この人生で感じたことの無い絶望感がオレを襲った。 「なんせ、貴方が復讐をしたいといったからでしょう?」 サリアは微笑みを続けていた。 何だろう、この微笑みが妬ましくなってきた。 「しかも、私の記憶まで引き出してしまったのですから、充分と思っていただかなくては」 記憶……もしや、あれなのだろうか? 背筋が震えた。あれが記憶ならば、酷い惨劇だ。現実にあってはならないはずだろう。 「貴方の憎しみを私がいただいたのですから、貴方は心残りなど無いでしょう?」 サリアの笑みを見ると、胸の奥底から煮えたぎってくるものがあった。 「……返してくれ。返してくれよっ!誰も人に頼むなんてする気じゃあないし……お願いだよ……生き返らせてくれよ……」 オレはベッドに座り込み、土下座した。 これはオレが悪かったのだ。サリアに言わなければ…… 「……つまり、貴方の都合にあわせろと?」 サリアの顔から笑みが消えた。 「……だから、人間はつまらない。自分の利益になることしか願わない……」 サリアの腕がオレの額に触れた。 「……さあ、どうします?」 あの時と同じ感覚がしてきた……身体の中に電撃が流れてくるようなあの…… 「……ど、どうするって……?」 何のことか検討がつかない。全く持って。 「……お二人を助けて、自分の命を変えるか、自分を守るか……」 なんて選択だ。友か自分かという選択とは。 「……どっちにしても、私が貴方の息の根を止めて差し上げますけど?」 「……もう、どっちでもいい!」 思わず息を荒げてしまった。今まで積もりに積もった思いが一気に放出された。 今までアイツに向けていた恨みが全てサリアに向けそうな気がしてきた。 強い電撃が身体を巡ってきた。 「……そうですか。では……」 目の前がうっすらとしてきた。 サリアの姿さえみえなくなってきた。 「……うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」 電撃が胸の辺りに渦巻いたような感覚がした。 真っ白になった。何もかもが。 雨が降り始めた。 走って二人を追いかけるオレは天気などどうでもよかった ……あれ?待てよ……何を…… ああ、そうか。先輩の相談に気づいて此処を走って彼女の家に向かっているんだったっけ。 それにしては、なんか夢を見ていたきもする。 ……気のせいか。 雨足は次第に強くなってきているような気がする。 アスファルトに針のような雨が跳ね返っていた。 目前の横断歩道の向こうにに三人――いや、二人と一匹だろうか?それが見えてきた。 その一人の後ろ姿で分かった。いや、分からないことがおかしいだろう。 ナツコだ。すると、隣はユウイチだろう。 そして……サーナイト? オレは急いで駆け寄ろうと走り出した。 ナツコが振り返った。 「あっ……」 微かに聞こえた気がする。 オレは走って横断歩道を走り始めた。 急に突っ込んだ自分が悪かった。 ふと横を向くと、大型のトラックが走ってきていた。高速で。 「!!」 もう無理か……直感でそう思った。 目を瞑ったオレはそこに立ち尽くすしかできなかった。 「……」 何もおきない。痛みも無かった。 ゆっくりと目を開くと、何かの力で止まったトラックがほんの数メートル先にあった。 「……た、助かった……のか?」 そういうことなのだろう。予測の粋に達しそうだが。 「……の、ノブオくん……」 ナツコが走ってきた。 オレの身体に寄添った。 気のせいにしておきたい。頬に暖かい感覚がしたのは。 少し恥ずかしい気もしつつ、ユウイチの顔を見た。 ユウイチは笑顔を見せ、親指を上げて何かを伝えようとしていた。 ナツコはオレの身体から放れた。 ユウイチの隣のサーナイトは微笑んでいた。 ――危なかったですね。こちらも怖かったですよ―― 今のは、このサーナイトの思念だろうか? ユウイチがオレの前に来ていた。 口元をオレの耳に近づけてきた。 「……応援しているからな。がんばれ」 なるほど、こういいたかったのだな。 ふと気づいた。 今のは奇跡だったのではない、あのサーナイトのおかげだ。 お礼を言おうと見たが、既に居なかった。 「……それにしても、あのサーナイト不思議だったぜ?」 「え?」 ユウイチの一言が気になった 「いや、なんかさ……」 どうやら、簡潔に言えば「人というのは怨みの感情で構成されている」等と意味があまり分からないことを言ったらしい。 そして、一つ心に引っかかった。 「……命を守ってください。自分と……友の」 どういう意味かは分からない。 しかし、何か意味がある気がする。 ふと、見たことの無い影像が流れた気がした。 血まみれになって倒れてくる一人の男。 ――私の記憶を引き出してしまったのですから―― 何故か、胸に違和感があった。 いつの間にか、雨は降り止んでいることに気づいた。   完