※この作品には、一部過激な描写が含まれております。 覚悟のできる方のみ、ご覧くださいませ。 私は人間が嫌いだ。 人間というものは、自分の利のみを追求する。 その挙句、「怨み」というものを作り出す。 それは、一部では利用されるものらしいが、そんなことはどうでもいい。 どうせ、人間はそれでほぼ構成されているから。  償い 「お兄ちゃんっ!お腹空いたー」 私は兄を見た。目線が上なのが当時はとても楽しかった。 自分より背の高い物はなにかしら興味があった。 なんせ、まだキルリアのときだったから、その興味の全盛期だっただろう。 兄は"エルレイド"という種族であった。 「……お前は食いしん坊か」 兄は冷淡な風に言い放った。 直後に、自分以外の何かのお腹がなる音が聞こえた。 「……そろそろ、木の実取りに行くかっ」 兄は自分の失態を無理矢理隠そうとしていた。 しかし、全く隠しきれてないのは一目瞭然であった。 兄は冷や汗をかいているのがよく分かった。 木の実というのは住処――いや、住まいの近くの森にあるわけだった。 通常の木の実も美味しいのだが、此処の木の実は尚更美味しい。 それで私はとても好んで食べていた。 「ちょっと待っててな」 兄は飛び上がり、肘の刃を振りかざした。 木の実が二つ落ちてきた。私は手を出し、それを受け止めた。 「ナイスキャッチ」 兄の気楽な声で思わず笑みを漏らした。 「お兄ちゃん、今日もちゃんととったよ!」 地に足をつけた兄に向かって木の実を投げた。 兄は片手で木の実を受け取った。 「しっかし、今日『は』じゃないのか?」 「今日『は』じゃない!いつもでしょ!」 私の頭に血が上り始めたのは自分でもよく分かった。 ……頭が熱い。 「……なんか言ったかな?……ほら、早く帰るよ」 何か兄に無視された気がする。 妹を置いて帰っていく兄に気づいた私は駆け足で追いつこうとした。 「……ったく、色々とうるさいんだなぁ……お前は」 兄は私に向かって笑顔でそんなことを言ってきた。 私は頬をふくらませ兄の顔を見つめた。 「……」 ピシッと頬を押された。口内の空気が一気に放出される。 「……そこ、怒るなよ?ケンカしたら、お袋が悲しむぜ?」 なんと痛いとこを突く兄なのか。 母は数年前に他界した。 不慮の事故とここでは語っておこう。あまり話したくはない。 これは……全ては私のせいだと把握しているからだ。 一生の中で、全てを変え、狂わした出来事といえばいいのだろうか……。 夕暮れ時であった。 「……そら、早く寝ないと。夜がもう来るよ?」 兄は真顔で言ってきた。 流石に、真顔で言われるのは耐えられない。顔をそむけた。 「……ほおら、もう日が暮れてきた、そろそろ寝床に帰ろう」 兄は私の腕をぎゅっと掴んだ。 兄の熱さがしっかりと伝わってくるのを感じた。 寝床は森の木々の中に囲まれていて、ひんやりと感じる。 私はそれが好きだ。 木の枝の上はそれをよく感じることが可能なわけだ。 一番のスポットはそこであろう。 近くの池に入って、身体を濡らしたままそこに寝るのがまたいい。 風邪を引く?そんなことはいまだに無いからいいだろう。 いつもそのまま寝てしまうのだが、この日は寝なかった。まぁ、良くあることにしておきたい。 毎日、風の表情が違う。それが楽しい。 「なぁ……」 枝の下から、聞き覚えのある兄の声がした。 下を見ると、兄が私の方を見るため、首を上に向けていた。 「どうしたの?」 多分だが、何を言うかは予測ができた。 「……お袋のことを言うのは良くは無いが、思い出してもらいたくてな。お前に残した言葉……」 何を言うかと思えば、またそんなことか。やはり…… もう私は母のこと――存在さえないことにしたいのだ。 なんせ、母を殺したのは私なのだから。 「おかーぁさんっ!」 私がラルトスであったとき、よく母に言っていた言葉。 それも、既に過去の話だ。 もう、アレなど思い出すだけで胸糞悪い。 「……嫌なのは分かるが、そろそろ現実を考えなきゃならないんだよ。な?お前がお袋の跡を継ぐってことも決まってるしさ……」 兄は、飛び上がって、私の隣に座った。 そういえば、忘れていた。 正直、考えるだけでそんなことも嫌であった。 そんな、命を捨てなければならない仕事などするわけがない。 「だから――っ!静かにっ!」 兄は私の口に手を伏せた。 何があったのかはすぐに把握できた。 ――囁き声が何処かから聞こえる。 「……ら、此処らへんに良そうだろ?」 「あぁ、そうだな。確かに居そうだな……」 見つからないように、静かに顔を動かした。 向こう側に男らしき影が二つ見えた。 話の内容から推測すると…… ……密猟者。 それしかないだろう。 「……ん?どうした、ヘルガー?」 ヘルガー……匂いで捜しているのだろう。だとすれば、圧倒的にこちらが不利となる。 出会ってしまい、、戦ったとしても、だ。 そもそも、タイプ相性が悪くては私では勝てない。 兄ならば、どうにかなるのだが、そんなに頼りすぎるのも良くない。 そんなヘルガーは吠えた。私達の方を見て。 「……居たのか!?よしっ……獣たちめ!早く出て来い!」 兄は私の顔をじっと見ていた。 「……っ!?」 いきなり下へ引っ張られる感覚。 兄は地に足をつけると、ヘルガーのほうを見ていた。 「……お兄……ちゃん?」 私は兄のしたいことが全くもって分からなかった。敵にわざわざ姿を見せるのは何故なのだ? 「……黙っとけ。あえていうなら、すぐに逃げろ」 「でっ、でも……」 この状況では逃げられまい。いや、逃げられるとしても、逃げるつもりは無かった。 密猟者の二人はそれぞれ特徴があるのがすぐに分かった。 片方は長髪で細身、もう片方は短髪で丸めの身体だ。 仮に細身をA、短髪をBにしてあげておこう。今言っておくが。 「自ら来るとはなぁ……糞獣め。大人しく捕まりやがれ。ヘルガー!」 ヘルガーが跳びあがった。 「邪魔だ!」 兄は私の腹をつき、押し飛ばした。 木にぶつかったが、頭を運良くぶつけなかった。 「そこで隠れておけ!」 兄は私の方をみていったが、すぐにヘルガーの方に向いた。 そういわれても、兄の言うことを聞いたためしが無いのが現状だ。 私は密猟者Bの腕に噛み付いた。 「うぎゃぁぁぁぁっ!」 ちょうど、護衛のためにか持っていた銃を手放し、飛ばした。 銃は木のすぐ近くに転がった。 銃を取りに行こうとする私は、兄が気がかりになり、振り返った。 ヘルガーは鋭い牙ばかりの口を大きく開けた。 兄は腕の刀を鋭く伸ばし、走り始めた。 ガシャンッ!! すれ違いさまに、一つの大きな音が聞こえた。 二つの身体はそこにとどまり、相手を睨んだ。 ドスンと地を揺らして、倒れたのは……ヘルガーであった。 兄は、密猟者の方を睨んだ。 「ヒィッ……!」 悲鳴を上げ、震えていた。 Aはポケットの中に手を突っ込んで、震えていた。 「お兄ちゃん……大丈夫?」 私は兄に駆け寄った。 「ああ、大丈夫さっ」 笑顔の兄は、私の身体を抱きかかえた。 「相手の攻撃による負傷もしちゃあいな――」 一発の銃声が聞こえたのは気のせいかと思った。 しかし、目の前の兄の見開いた眼、口から流れ出て、次第に溢れそうになっている血で状況が分かった。 「お、お兄――」 兄の身体が傾き始めた。 急いで腕の隙間を潜り抜け、倒れこんだ兄の身体を揺らした。 この負傷であるからには、非常に大事な箇所に撃たれたに違いないと分かっていた。 うつ伏せの兄の背中を捜して……見つけた。 ちょうど、心臓の辺りだろうか。それならば、納得はいく。 「お兄ちゃんっ!お兄ちゃん!死んじゃだめだよっ!お兄ちゃん!……」 兄の身体が微かに動いた。 「……あまり、身体…を…動かす…な……出血…が…さ……さら…に……」 「お兄ちゃん!」 口から血を吹き出した。私は慌てた。 「……どうに……か、にげ……るんだ……ぞ……」 兄の薄っすらと開いた目が閉じた。 「……っ!お、お兄ちゃん!お兄ちゃん!」 兄の身体を揺らした。しかし、変化があるのは私の体力の減少だけであった。 次第に、兄の身体がぼやけてきた。そして、はっきりとという繰り返し。 撃たれた跡を触ると、兄の血が腕の先についた。 後ろを振り返ると、密猟者達は冷や汗をかいてそこに突っ立っていた。 Aの右手には黒く光る銃が収められていた。 何を思ったのか、私は木の下に転がっている銃に向かって駆けだした。 拾うとすぐさまBに向けた。 「……な、何をっ……い、今のはワザとじゃないよ?じ、事故だってば!」 Bは金切り声をあげ、座り込んだ。 しかし、そんな懇願など目に入っていなかった。 「お、お願いだっ!俺達が悪かった!この償いはきちんとするか――」 「償い?そんなの、今できるよ」 念力を銃にすぐに向けた。 Bの悲鳴が轟いた。 Bは兄の横に倒れこんだ。 頭のほうからゆっくりと血の池が広がってきていた。 「おっおいっ!!」 Aは慌てて身体を揺らしたが、全く動く気配は無かった。 「け、獣の、くせに……」 右手の銃を私に向けた。 私は銃の持ち方を知らなかった。 しかし、Aの持ち方を見て、銃を構えた。 「……さない……絶対に……」 「……な、なんだよ?」 私の声が聞けるほど心は無防備になっているに違いない。 通常なら、そこで護る必要があるが、今はそんなことをすることさえ頭に無かった。 「……絶対に、許さないっ!」 私は一歩歩んだ。 Aは一歩後退した。 それの繰り返しだった。 そして、Aの歩みが止まった。 Aの冷や汗をかいた顔が、後ろを見て、木であることに気づいた。 「……ま、待てよ……あ、安心しろ……こ、こっちもち、ちゃんと何かするからさ……」 もう男にも理性など無かった。そして、私にも。 「黙れ。償いなら、今すぐしてもらう……」 男は身体を震わせた。多分、私の微笑をみたからだろう。 いや、それとも、私の言葉で怯みかけているのか。 「……”死”という形で」 引き金が軋む音がした。 「ま、待てっ!べ、別に……俺を討っても何も変わらないぞ?」 男は身振りで何かを表そうとしていた。 「へえ?自分の利を重視?」 引き金が再び軋んだ。 「わ、悪かったっ!どうかお、俺を……許してくれっ!!」 男は手を合わせ、顔を下げた。 「……顔を上げろ」 引き金を軋ませように力を込めながら、口を開いた。 男はあまりの恐ろしさに流した涙で顔がぐちゃぐちゃになっているといえる状況になっていた。 一気に、引き金に力を入れた。 銃口から煙が出てきた。 銃が中に入り込んだ男の額から血が少しずつ流れ始めた。 まだ、収まらなかった。 男の胸に向かって念力を使った。 気持ちの悪い音が聞こえ、私の身体に鮮血が降り注いだ。 胸の辺りに大きな穴が開いた男はゆっくりとうつ伏せになって倒れた。 男の頭から溢れた血がゆっくりと広がっていた。 はっ、と理性が戻ってきた私の目の前には、息途絶えた血まみれの男と兄が倒れていた。 私の身体を見渡すと、血で染まっていない部分が無いようだった。 私は人間が嫌いになった。 人間というものは、自分の利のみを追求するからだ。 その挙句、「怨み」というものを作り出してきている。 そして、家族を失い、人を殺めてしまった…… 何をすべきなのか分からなかった。 考え、一つの結論に達した。 母の跡を継ごう、そして、殺めた人間、命を落とした家族のために償おう。 そうして、「サリア」として、迷いし者を救うことに決めた。 ……怨むべき人間を排除しつつ。 そして今、その怨むべき男が座り込んでいた。 男は元密猟者で、猟でポケモンを殺してしまったらしい……かつて兄が殺されたのと同じように。 そして、私のことを知り、どうすれば罪を償えるかを訊きに来たわけだ。 私は、そういわれても許すつもりなど無かった。 償える方法、それは自分の命しかない。 「……何をすればよいのでしょうか……償うには」 男の目には涙が浮かんでいた。 「それは簡単なことですよ……」 「な、何ですかっ!?教えてくださいっ!」 男は期待を寄せた声で訊いてきた。 なんて、愚かなのだろうか。 「貴方の命で償うのです」 一気に男の表情が硬くなった。 「……つまり……し、死ね……と?」 男の震えた声が妙に嬉しく感じてきた。 「し、しかし……生きて償いたいのです!どうか、お許しを……」 私は男の懐に手を向けた。 懐から、黒い凶器が飛び出してきた。 「ああっ!そ、それは……」 男は、どうにか言い逃れをしようとしていた。 「銃を持っていて、償いたい?何をとぼけているのです?」 男は私の表情を見て、怖気ついたのだろうか。 本人には、どんな表情かは分からないが。 「と、とぼけてなんかっ!ただ、銃を持っていて――」 「持っていて?それで?ご安心なさい、この銃で……」 男の冷や汗が顎を滴り、地面に落ちた。 「……眠らせてあげますから」 男は、即時に理解できたらしい。あたふたとし始めた。 私は、引き金をゆっくりと引きはじめた。 「やめてくれっ!殺すのだけは!確かに、悪いのは自分だ!し、しかし……殺すのまでは……おねがいだ……」 別に、土下座されようと、態度を改めるつもりはなかった。ポケモンを殺した、という時点で。 「言い分は残念ながら、聞けませんので」 引き金を更に引いた。 予測だが、もう少し引けば、射撃可能になるだろう。 「頼む!第一、ポケモンは人間に危害を加えるなんてのは違反じゃないかっ!だ、だか――」 引き金を一気に引いた。 銃は腹を突きぬけたようだ。 男の横腹から、鮮血が噴出しはじめていた。 「反省しましたか?こうなることを考えなかったと……?」 男は身体を震わせながら、私の顔を見た。 恐怖で目を見開いていた。 例え、「怨んでやる」と言われようと、もう私は止められない。 再び、銃を向けた。 男は歯を食いしばりながら、私を凝視していた。 「……」 どうも、殺る気にはならない。 私は背を向け、歩みを進めた。 急に、足首に圧力を感じた。 振り向くと、男の腕が私の足首に伸びていた。 「まだ、粘るつもりなのです?」 男は答えなかった。 「……」 手を前に出し、力を込めた。 あの時と同じように、気持ちの悪い音と共に、足に鮮血が降りかかった。 男の手が緩み、私は足を進めた。 ……背後からの血の匂いを感じながら。 ……また、償うべきことが増えてしまった。 私の心には引っかかるものができていた。 私は人間が嫌いだ。 人間というものは、自分の利のみを追求する。 その挙句、「怨み」というものを作り出す。 それは、一部では利用されるものらしいが、そんなことはどうでもいい。 どうせ、人間はそれでほぼ構成されているから。 そして、これからも人間は嫌いのままだろう。 何故、人間を救わねばならないのか? 誰か、教えてくれ。