カントー、ジョウト、ホウエン地方。   伝説のポケモンが存在している。見たことのある人は無いに等しい。   だが、いたのだ。会える者は伝説のポケモンに一番近い場所にいた。   そして、絵を描いた。巻物に・・・。強大な魔力を秘めたもの。    全部で20本。伝説のポケモンの数+一本。   ここまで知る者はどれほどいるのだろうか。   集めたときに何が起こるか知っている者はいるのだろうか。   絵巻のことはホウエンの騒動を治めた英雄ですら知らない。   伝説を欲する者の方が案外知っているのかもしれない・・・。 ポケモン絵巻         第一話「トレーナー探偵G´」    テントの中で少年は寝ている。しかし、睡眠は見事に妨害された。   バサバサッと手紙が覆いかぶさった。ぺリッパーは用を済ませると少年をこづく。   「う・・・。また、依頼か。睡眠妨害はやめてほしいが・・・」    ポケギアを見て少年はうんざりとする。     午後二時――。日は高い。   ガサガサと封を破るかのごとく千切っていく。途中で手を止める。    「・・・!これは・・・!」    何度も少年は文面を読み返した。    間違いない。    「私の他にも『ドラゴンズロード』の存在を知っている奴がいたのか・・・」   少年は呟いた。この手紙の送り主、どういうやつなんだろう。   興味も抱いたが、内容及び依頼主の名前が気に入らない。        G´様    この手紙を見てもらい誠に感謝。言葉が悪いところは自分のためと思って我慢   してくれ。早速用件を書くことにする。    1、ドラゴンズロードの詳しい調査    2、最近浮き彫りになってきた組織「レジェンズ」の調査    3、神の社についての詳しい調査    4、ポケモン絵巻についての詳しい調査   重要度は最初と最後のみ。だからといって真ん中の手は抜かないでくれ。   報奨金額は百万円。                         四天王の将 ワタル    少年は無益だと考えた。どう考えてもおかしい。なんだ、この金額。   四つも依頼しておきながら百万円。彼でなくとも安すぎると思うだろう。   どれも困難なことばかりなのだ。ドラゴンズロードと神の社は伝説と呼ばれる   くらいである。    レジェンズにしたって危険な組織だ。警察も手を焼いているほどである。   そして、ポケモン絵巻。一番困るところかもしれない。もちろん、どれも難題   なことに違いはない。    ポケモン絵巻は普通の人が知っていることはまず、ない。専門家や、ポケモン   トレーナーとして優れた者でも認識しているか危ういところである。    「ポケモン絵巻・・・。伝説のポケモンが描かれた絵巻だったな」        内容を改めて確認し、呟く。      即座に断りたかった。G´とコードネームで彼は評価を受けている。   無理難題だからできない、そんな理由は言い訳にしかならない。   彼は凄腕の探偵として名を馳せている、裏業界で。   プロになれば常人の言い訳はできない。だからといって断る理由がないわけではない。    金額である。調査だけとはいえ、危険かつ難易度が高いものにこの金額は妥当ではない。     他にもある。    ―――依頼主の名だ。   四天王ワタル。これは果たして真実だろうか。   まず四天王といえば史上最強とも言われるトレーナー集団である。   ワタルはその四天王の将であった。かなり好戦的な人物であり、こういう事件に   は興味がなさそうだ。G´の憶測に過ぎないが・・・。    考えても仕方がない。G´はぺリッパーに手紙を渡す。   当然ながら断りの手紙である。彼は届けに行くのを見送った。   依頼は拒否したがドラゴンズロードなどについて調べるつもりである。   ただ、絵巻についてはその必要はない。   誰よりも彼は絵巻に詳しかったのだ。    ――――スオウ島。    「ふむ、やはり断ってきたか。さすがに百万じゃ安いって言いたいのだろうな」   カイリューの隣に座っている青年はポツリと呟く。この青年こそ四天王の将、ワタル。   ホウエンの騒動から長い年月が経ちワタルも二児の父親。性格もすっかり丸くなって   いる。    「ワタル、まさか・・・、それは女からの手紙じゃないわよね?」    後ろから女性が覗き込んだ。彼女は四天王のひとり、カンナである。   カンナは17年前にワタルと結婚した。    「別に女じゃないさ。ただの野暮用だ。おまえ、オレが浮気するとでも?」    「いいえ、念のために聞いただけよ。でも誰からなの?ワタルが手紙を貰うなんて   珍しいじゃない」    窓の外を見ながらカンナは言う。外には一面に野花が咲き誇っている。何十年も前   ならば信じられない景色である。腰を落ち着けようと一軒家を建て、夫婦水入らずの   生活をしている。世間から遠いために静かな暮らしだ。    「ああ、知人に出した返事だ。もっとも向こうは忘れてるだろうがな」    「ひょっとして十年前の子?確かドラゴンズロードにいた・・・?」    懐かしそうに笑みを浮かべながらワタルはうなずく。今、噂によるとG´という   コードネームで暗躍しているらしい。ワタル以外にG´の顔を知っている者はあまり   いない。本名も知られていない。謎の人物、ということになっている。    「ところで何を出したのよ。文通でもしよう、とは思ってないんでしょ?」    「ああ。当ててみな」    意地悪ね、と呟きカンナは思案した。少しイタズラっぽい笑みを浮かべてワタルは   見ている。    「確か、探偵トレーナーでしょう?私が浮気していないか、とか。シリアスな答え   ならレジェンズや絵巻についての調査かしら」    「あ、ああ。後者のシリアスな答えで正解だ。わざわざギャグっぽい答えも言うな」    げんなりした顔でワタルは言った。この女はいつから軽くなったんだ。   ふと思い出したようにワタルは二階の部屋に呼びかけた。    「オイ、予想通りダメだったから行けよ。旅に出るいい機会だ。レジェンズのこと   について調べてこい」    バタバタと音がして女の子が降りてきた。歳は14くらいである。   頬を膨らませて女の子が言った。    「うーん。しかたないわ。じゃあ、お父さん、お母さん。明日から出かけます。   私もがんばる!」    カリナがはりきって言った。ワタルとカンナはホウエンの騒動に関わっている。他の   正義のトレーナーと一緒にアクア団とマグマ団に戦いを挑み、そして勝った。   カリナはそんな両親を尊敬している。そして、他の英雄達を・・・。   英雄と会えるといいな、そう思ってカリナは翌日出発した。    「ありがとう、ソラさん」    お礼の言葉にソラと呼ばれた少年は微笑む。    「いいよ。僕は好きでやっていたことだしね。もう暗いから帰ったほうがいいよ」    小さな子供をソラは見送る。そろそろテントに戻ろう。随分と疲れた。   一人旅というのはこんなにも大変なのだ、と実感するのである。   ソラは割りと体力もあるほうだったがもう、ない。   早く休んで明日に備えようと足早に暗い森の道を進んだ。    トウカの森においてあるテントを見るとにわかに元気が出るソラ。    (僕でも疲れることってあるんだな)    まだ新しいテントの裾をまくり、寝転ぼうとしたとき彼の表情が強張った。   今朝にはなかったあるものを見つける。    まちがいない、誰かが自分のテントの中にいる!    「だ、誰だ?泥棒かっ!?早くそこから出ろっ!!」    薄暗い森にソラの声が響き渡る。ホーホーと鳥ポケモンの声も静かに響く。   ソラの頬に汗が流れる。変な奴だったらどうしようか。   今まで、といってもまだ旅に出て五日だがこんなことはなかった。    ――――――恐い、でも怖気づいちゃいけない・・・。   ぎっと睨みつけるとテントの侵入者はのっそりと起きた。    「ああ、どうも。疲れたので休ませて頂いてます・・・」    気の抜ける声で侵入者は挨拶した。ソラは少しその態度に安堵した。   問答無用で飛びかかってくる人間だったら、と心配していたのである。   しかし、侵入者の顔をみてゾッとした。    ニット帽を深くかぶり、マスクをしている。   どこからどう見ても泥棒に見えた。    「疲れてる?ど、泥棒にしては随分と図々しい奴だな。何の目的だ?」    「泥棒じゃありませんから・・・。本当に疲れてただけですよ?」    どういう顔かわかればソラも安心するのだが、その顔が全く分からない。   ただ、分かるのは相手が中年のオヤジではないことだけだ。    「顔を見せろ。でなければ警察に突き出す」    冷たくソラは言った。なんだか自分の部屋を荒らされたような気がしたのである。    「見せなきゃいけませんかねぇ・・・、私は人様に顔を見せるのは少々気が引け   るのですが・・・そうしなければ警察ですよね・・・?」    「ああ。さあ、観念して早く見せろ」    侵入者はゆっくりとニット帽とマスクを取り払った。   ソラはその顔に思わず目を剥いた。    「なっ・・・・・・!・・・、す、すっぴんなのか?」              Go to next! 後書き    ここまで読んでくださり、ありがとうございました!   多少長かったかもしれませんが本当に感謝の一言です。   ワタルとカンナファンに怒られるかもしれない設定ですね。   パロディですから大目に見てください(汗)。   すごくルビーとかサファイアの設定無視のような気がしますが・・・。   本人すごく楽しいです(笑)。   主人公がどれかわかりにくいですが、これから目立つと思います、たぶん。    これから一話一話に愛着を持って育てていきたいです。   続きも見て頂ければ嬉しいです。   見てもらえる作品にしていけるよう一話入魂していきます。