「こ、これ・・・受け取ってください!」 始まりはこのときだった。あの時、俺は彼女からチョコを貰った。 それと同時に・・・・告白もされた。 だけど、俺は自分の気持ちはよくわからない・・・。 分かっているのは・・・・あいつだけはむかつくってことだ! 「素直になれなくて」 「・・・・ふぅ」 俺の名前はクウト。トレーナー養成学校「バルムンク」の高等部二年。 その俺は自然とため息が出やすくなった。もうすぐ3月14日がやってくる。そう・・・・ホワイトデーだ。 俺は一ヶ月前のバレンタインデーにある女の子からチョコを貰った。それと同時に・・・告白もされちまった。 返事はいつでもいいって彼女はいったけど・・・・流石にこれ以上待たせちゃ不味いよな。 「でも・・・・どうすりゃいいんだよぉ・・・」 「何が?」 「そりゃ・・・あの子への返事だよ・・・・ってお前どこから湧き出やがった!?」 「失礼ね。人を霊扱いみたいに」 こいつの名前はカイリ。生まれたときからずっと一緒。家が隣同士で小等部も中等部も・・・・そして、高等部でも同じ、 同じクラスという・・・まぁ、いわゆる幼馴染だ。カイリの隣にいるのはチルットで、カイリが生まれたときから ずっと一緒にいる。俺たちは生まれたときからパートナーを決められる。カイリはチルットなわけで・・・・ 俺のパートナーは・・・・・・ 「ねっ、そういえばアブちゃんは?」 「アブちゃんって・・・・・勝手に人の相棒にニックネームつけるなよ」 「別にいいでしょ。で、どこ?」 「あいつなら今屋根散歩してるんじゃねぇか」 そう、俺のパートナーは災いポケモンのアブソルだったりする。はっきりいって俺はこいつが苦手だ。 災いポケモン・・・・その名のとおり災いを運んでくるという伝承があるからだ。なんだってこんな奴がパートナーに なっちまうんだよ。 「で〜、一体何に困っていたのかなぁ〜、ク・ウ・ト君♪」 「気色悪ぃからやめろ。お前には関係ねぇよ」 「ふ〜ん・・・で、それなに?」 「え? ・・・・あ〜!」 見られてしまった・・・、よりによってカイリに。見られてしまったのはあの子からの手紙。 チョコと一緒に受け取ったんだ。そのときは・・・何がなんだかわからなかったものだけど。・・・って、 おい勝手に見るんじゃねぇ! 「カイリ! 何勝手に見てんだよ!」 「嘘ぉ〜〜〜!」 「な・・・なんだよ」 「クウト、レンちゃんにチョコ貰ったの!?」 「・・・知ってんのか?」 「クラブの後輩だよ。・・・で、どう返事したの?」 「ま・・・まだだよ」 「・・・あんた、間抜け?」 「ほっとけ!」 何でお前からそんなこといわれなきゃいけないんだ。全く今日は厄日だな・・・・そういや、こいつ何しに来たんだ。 「お前・・・何しに来たんだよ」 「あっ、忘れてた」 忘れてたって・・・・そういってカイリは一緒に持ってきたハンドバッグから何かを取り出した。 何か包んでるな・・・・俺はそう直感した。んで、その白いものを俺に差し向けてきやがった。 「・・・なんだ? 毒か?」 「・・・あんた、殺されたい? 家で作ったクッキーよ。たくさん作っちゃったからおすそ分け」 「・・・食えるのか?」 「・・・いらないんだったら上げないけど」 「いやいや、貰えるもんは貰っとかないとな」 「そういってレンちゃんからのチョコも貰ったんだ」 「何でそこで彼女が出てくんだよ」 「べっつに〜」 「まぁいいや。んじゃ、いただきま〜す」 パクッと俺はあいつが持ってきたクッキーを頬張る。くやしいが、こいつお菓子作りは天下一品なんだよな。 それは俺も認めてる。でも、料理になったらちょっと・・・・な。お菓子は大得意なのになんで料理になるとだめなんだ・・・? ・・・・ん、ちょっと待て。この味って・・・・・・・ 「それじゃ、用はそれだけだから帰るね。また明日」 「あ、ああ・・・・・」 カイリはそのまま俺の部屋の窓からチルットと一緒に自分の部屋まで走っていった。自分の部屋に入ると俺に ウインクなんてしやがってから窓を閉めた。俺はそれを見送ってから窓を閉めてベッドに横がる。それにしても・・・・ さっきのクッキーの味は・・・気のせいか?俺はそんなことを考えながら・・・今日のところは眠りについた・・・・・。 翌日、今日は登校日だ。朝早くに起きて準備をして家の戸を空ける。すると、丁度いい具合にカイリもでてきた。 「おはよっ」 「おお」 特に一緒に行かない理由もなかったから俺たちは一緒に行くことになった。バルムンクに着くまであいつは これでもかというぐらい喋り続けた。でも、これが始まりだったわけじゃない。ずっとこうだった。いつからだろう、 こいつのお喋りがうるさいと感じなくなったのは。いつからだろう・・・・こいつと一緒にいることが当たり前になったのは・・・・ 「カイリ先輩、おはようございます」 「おはよっ、レンちゃん」 俺の耳が動く。カイリが彼女の名前をいったからだ。ふと振り返ってみると、そこには確かに俺にチョコを くれた彼女がいた。彼女も俺に気付いたのか、顔を赤く染めてバッグで顔を隠してしまった。その仕草が なんだか可愛くて、俺も柄にもなく赤くなってしまう。その仕草が誤解を生んだのか、なんだかカイリの奴が ニタァなんて変な笑みを出しながら 「それじゃあね、クウト」 「お、おいカイリ・・・」 こうしてカイリの陰謀?で俺と彼女だけが残されちまった。うぅ・・・気まずい・・・・。 だけど何も喋らないってのもなんか悪い気がする・・・・。 「お・・・おはようございます、クウト先輩」 「お・・・おはよう・・・・レンちゃん」 「・・・どうして私の名前を?」 「あぁ、カイリに教えてもらった。あいつとおんなじクラブだったなんてな」 「・・・カイリ先輩と・・・仲いいんですね」 「腐れ縁ってやつだよ。ずっと一緒にいるから慣れちまったぜ」 そんなことを話しながら、俺とレンちゃんは学園まで入っていった。レンちゃんは高等部一年なので玄関で 別れ教室まで歩いていった俺なのだが・・・ 「オッス! クウト」 「よぉ、ガイ」 こいつの名前がガイ。高等部に入ってから友達になった。気軽に話し掛けてきて軽いやつだと思ってたけど そうでもないらしい。今、俺の中では一番の親友にあたるやつだ。 「今日の一限、バトルだとよ。さっさと行こうぜ」 「いきなしバトルか・・・」 バルムンクではちょっと変わった科目が二つある。その一つがこのバトル。 名前の通り戦うことだ。自分のパートナーと相手のパートナーで技を競い合って互いに高めるために設立された・・・らしい。 そしてもう一つが・・・・俺の苦手な専門分野。17個あるタイプのうち一つを選んでそれを極める・・・・・ことを 目的とした科目。ちなみに俺の専門は悪。専門も勝手に決められる。俺の場合はパートナーのアブソルが 悪タイプしかないので悪になっている。二つタイプがあるやつはどちらか個人の意思で決められるらしい。 実際そんな奴と見たことないから分からんが・・・・。とりあえず、俺とガイは教室に荷物を置いてすぐフィールドに 出た。でるとほとんどの生徒がもうフィールドで準備運動をしている。俺たちも急いで準備運動にはいった。 ガイのパートナーはノクタス。ガイの専門も悪。俺たちほんとに相性いいんだな・・・・。ちなみに奥にはカイリもいた。 そして先生がやってきて・・・ 「では実戦に入る。まずは・・・・クウト! ティルス!」 しょっぱなかよ・・・・俺と一緒に指名されたのはティルス。俺たちの中でも優等生の類に入る奴だ。 パートナーはバシャーモ。炎と格闘タイプのパワーファイター。それと俺のアブソルがフィールドに出る。 試合開始が告げられた。時間は三分一本勝負。三分の間にどれだけ体力を削れるか・・・勝負の境目はそこで決まる。 「バシャーモ、"ブレイズキック"!」 「させるかよ、"高速移動"から"切り裂く"!」 バシャーモの攻撃を素早さでかわしてすかさず攻撃にでる。攻撃力ではこちらが上、素早さでもまあまあ勝っている。 「"シャドーボール"!」 俺はとりあえず体力を削るために攻撃の手を休めないでいた。あいつは避けてるのに必死だ。 勝てる、俺はそう思った。でも・・・その油断が甘かったんだ・・・。 「"火炎放射"」 「"守る"で回避!」 「そこだ、"オーバーヒート"!」 その攻撃で全てが決まった。あの"火炎放射"は囮だったんだ。本命は"オーバーヒート"。 さっき"守る"をつかっちまったから二度目の"守る"は不発。そこで時間切れ。ほんの少しの差で俺の負けとなった。 「うん。なかなかいい攻撃だった。クウトはもう少しその油断をなくすように」 何もみんなの目の前でそんなこと言わなくてもいいじゃねぇか。全員の笑い者だよ、これじゃ。 ガイも、カイリも笑ってた。全く・・・そんなに俺を笑い者にしたいのか? そんなことを思ってたらティルスが近寄ってきた。なんだよ、お前まで文句いうつもりか? 「・・・次は負けん」 ・・・・・・・は?俺は一瞬耳を疑った。負けんって・・・・今負けたのは俺じゃねぇか。相変わらずわけのわからない奴・・・・。 はぁ・・・空はいいなぁ。無邪気に浮いてるだけでいいんだもんなぁ・・・・ん?あそこのまでで見てるのって・・・・レンちゃん? 「クウト先輩!」 バトルが終わって教室に戻る途中、俺は誰かに呼び止められた。振り返ってみるとレンちゃんがいた。 手をもじもじさせて・・・どうしたんだ? 「レンちゃん」 「あ、あの・・・さっきは残念でしたね」 「さっき・・・? あぁ、バトルのことか。仕方ねぇよ、でも・・・今度は勝つさ」 「でも・・・クウト先輩もかっこよかったです」 「・・・ありがと、レンちゃん」 レンちゃんの顔が真っ赤になっちまった。こういう仕草は可愛いんだよな。 まるで、昔の誰かを見てるような・・・・・誰だっけ?そこでレンちゃんと別れて俺は次の教室に向かった。 次は専門の科目だ。バルムンクには予定表なんてものはない。その日その日に変わるから困ってくる。 ・・・・さて、さっさと教室に移らなきゃな。 「・・・おい、クウト」 「・・・なんだよ、ガイ」 授業中、ひっそりとガイが話し掛けてきた。今聞いているところはもう知ってるからいいので、 ガイに視線を向けた。 「誰なんだよ、あの子」 「あの子って?」 「とぼけんなよ、さっき一緒にいた可愛い子のことだよ」 「あぁ、レンちゃんのことか」 「レン・・・? お前ってやつはぁ〜」 「なんだよ」 「カイリちゃんがいるのに他の女の子に手を出すとは〜!」 「どうしてそこでカイリがでてくんだよ」 「こら、お前ら! 授業聞く気がないなら寝てろ!」 怒られちまったぜ。これも皆ガイのせいだ。でも・・・俺とカイリってそんな風に見られてるのか? ただの幼馴染のだけなはずのあいつと・・・・・ 「「あ・・・」」 その火の帰り、俺はまたしてもカイリと鉢合わせた。よくあうんだよな、最近は・・・・。 「クラブはどうしたんだよ?」 「今日は休み。・・・ね、一緒に帰ろっか?」 「あ、ああ・・・」 「それにしても、相変わらずティルス君は優秀よね〜。どっかの誰かさんとは大違い」 「・・・どっかの誰かって誰のことだよ」 「冗談冗談♪」 「言ってろ。次こそあいつに勝ってやる」 「ま、頑張りなさい。でも・・・・」 「でも?」 「バトルのときのクウト、ちょっとかっこよかったよ」 「え・・・・?」 「じゃ、あたしこっちだから!」 カイリからの突然の言葉にはかなりびびった。そのカイリは走っていっちまって俺はそこで呆然としていた。 あの言葉に意味がないのは分かっている・・・・でも、俺は・・・・・ その日の夜、俺は迷っていた。今度の3月14日のことでだ。 当然レンちゃんにはお返しをするとして・・・・実は困ったことがもう一つあった。 レンちゃんだけじゃないんだ。チョコ貰ったのは・・・。でも、そのチョコ差出人の名前がなかったんだ。 帰ってきたら俺宛で家のポストに入ってて・・・・誰のかは全く分からない。 でも、あのチョコは・・・・・・ 「・・・・よし! 決めた!」 こうして、様々な思惑の中、俺たちは3月14日を迎えることになった・・・・・・。 後編へ続く