・・・・3月14日。ついにその日がやってきた。俺はプレゼントを二つ用意した。一つはレンちゃんに、そしてもう一つは・・・・・ 「「あ・・・」」 またしても登校時に鉢合わせした俺とカイリ。でも、俺とカイリはここんとこ気まずくなっちまった。ことの始まりは三日前・・・・ 三日前・3月11日 その日はやけに教室が騒がしかった。誰かの噂話をしているみたいだ。俺とガイが入ってきたとき、急に皆の 視線がこちらに向かれた。人違いだったのか、一気に視線が戻った。一体なんだってんだ・・・・・? 「おい、どうしたんだよ」 「しらねぇのか、お前ら」 「ティルスがカイリちゃんに告白したんだってよ」 ティルスがカイリに・・・・・?教室を見渡してもカイリとティルスの姿はない。でも、噂なんだからそんなに 心配することないのに・・・・なんだ、この胸騒ぎは? 「なぁ、本当なのか、その話」 「本当だってよ、さっき見た奴がいたんだってさ」 ガラッ 扉が開いた音がした。振り返るとそこにはカイリが。カイリは何事もないかのように自分の席に戻っていった。 そのカイリに女子度もが群がり、話の真相を聞いている。カイリは笑ってごまかしているが、俺にはわかった。 あいつの笑みがまやかしであることに・・・ 放課後、カイリに一緒に帰らないかと誘われた。俺はすぐOKした。昔からあいつは何か相談事があると俺と 帰りたがった。多分、さっきの話のことだろう。帰ってる間も、あいつは暗かった。そんな顔をすると、 こっちも暗くなっちまう・・・。 「・・・ねぇ、クウト」 「ティルスのことか?」 「知ってたの!?」 「クラス中で噂になってるじゃねぇか。耳に入らないほうがおかしいぜ」 「・・・どうしたいいのかなぁ」 「・・・それを俺の口から言わせる気か」 「だって・・・・あたし・・・・」 「じゃあ、聞くけどな。俺が付き合うなといったらお前は付き合わないのか? 付き合えっていったら 付き合うのか? それはお前の本心か?」 「・・・・違う・・けど」 「違うだろ? こういうことはおまえ自身が決めることなんだよ。俺が決めたら・・・お前のために成らない」 「じゃあ・・・じゃあクウトはあたしがティルス君と付き合ってもいいって言うの?」 「・・・・それがお前が決めたことなら、俺は止めない。止める資格なんて・・・ない」 パンッ! 頬に痛みが走った。カイリが俺の頬をひっぱたいたからだ。でも、そんなことそのときはどうでもよかった。 もっと驚いたのは・・・・・カイリの奴、泣いてたんだ。涙をぽろぽろこぼして・・・・ 「だったら・・・勝手にするわよ! クウトの馬鹿!」 カイリは泣き崩れて走っていった。俺は・・・それを追うことはできなかった・・・。痛いほどよくわかった、 俺があいつを傷つけたことが・・・・・。それ以来、俺とあいつは口を聞いていない・・・・ こういう経緯があって、今俺とカイリははっきりいってきまづい。こっちから話し掛けても無視されるし・・・ あってもシカトされるし・・・・・。そんなこと考えている間にあいつは先にいっちまった。俺はため息をついてゆっくりと歩き出した。 クラスでも話に出てくるのは大抵がカイリとティルスのこと。よくあきねぇよな。あれから三日経ってるって いうのに・・・・。あいつがティルスと付き合い出したら必ず話になるはずだ。でも、まだその話は出てないってことは ・・・まだ付き合ってないってことか・・・・。 「よぉクウト、いいのか? このままで」 「・・・何のことだよ」 「何のことじゃねぇだろ。カイリちゃんだよ。お前ら最近話してないだろ」 「あぁ・・・そのことか」 「そのこと勝手・・・・いいのかよ、カイリちゃんがティルスと付き合っても」 「別に・・・俺には関係ねぇよ。あいつはただの幼馴染。それだけだ」 「・・・本気でいってんのか?」 「・・・なんだよ?」 「いい加減、自分の気持ちに気付いたらどうなんだ?」 ・・・自分の気持ち?なんだよそれ。自分の気持ちって言ったって・・・・・あいつとは本当にただの幼馴染なんだから ・・・・本当に?だって、あいつとはずっと一緒にいたし・・・これからもそれが当たり前だって思ってたし・・・・。 あぁ、もう!訳わかんねぇ!・・・・ってそうだ。レンちゃんにお返し渡してこねぇと・・・。 教室を出た俺が向かったところは高等部一年棟。レンちゃんと同じクラスの奴にレンちゃんを呼んでもらって ・・・・・レンちゃんはすぐに出てきた。流石にそこで渡すのは恥ずかしかったから中庭に行くことにしたんだ。 「これ・・・ホワイトデーの」 「・・・・・」 「・・気に・・・入らなかった?」 「そんなことありません! ありがとうございます!」 本当に嬉しそうだ。レンちゃんに上げたのはトゲピーのストラップ。レンちゃんのパートナーがトゲピー だったからというのが一つの理由。もう一つの理由が・・・・・なんとなく彼女に似合いそうだったから・・かな? 「それで・・・あの・・・・」 「ん?」 「その・・・告白の・・・返事・・・・」 「あ・・・・うん」 昨日の夜、真剣に考えた。自分にとっての本当に気持ちとか、レンちゃんに対する気持ちとか・・・・ だけど、上手くまとまらなかったんだよな。けどこれ以上待たすのも悪いし・・・・そんな時、思い出すのは 必ずといっていいほどカイリのこと。な、なんであんなやつのこと!?俺が大きく顔を横に振ったのを不思議に 思ったんだろう、レンちゃんの顔色が変わった。 「クウト先輩」 「・・・何?」 「好きな人・・・・いるんですね」 そうレンちゃんに言われて、俺の心は飛び出しそうになるぐらいびっくりした。 そんな急に好きな奴とかいわれても思いつかないに・・・・決まってる・・・・。・・・本当か? 本当に思いつかないのか、俺は。ガイにも言われた・・・正直になれって。目を瞑ってゆっくりと自分の心の 中に問い掛ける。俺にとっての大事な人。一番安心できる人・・・・そんなことを考えて思い浮かぶのはいつもあいつ。 あぁ、そうか・・・俺、ずっと前からあいつのこと・・・・・」 「レンちゃんごめん! 俺、あいつが・・・・」 「わかってます」 「・・・へ?」 「分かってました。クウト先輩が・・・・カイリ先輩を好きなことぐらい」 「分かっちゃいますよ。いつもクウト先輩を見ていれば・・・・それでも、私はクウト先輩が好きです。 この気持ちに・・・嘘はつけません」 ・・・本当にいい子だ。こんな子に惚れられるなんて、案外俺も捨てたもんじゃなかったんだな。 でも、俺も・・・・自分の気持ちに嘘はつきたくないから。 「・・・ごめんね、レンちゃん」 「私のことより、早くカイリ先輩のところにいってあげてください」 俺はレンちゃんの心遣いを無駄にしないために、それからカイリを探し続けた。でも、気付いたんだ。カイリに 告白する前に・・・やらなきゃいけないことがあることを・・・・。そう、それは・・・あいつに勝つこと。 放課後、早速俺はあいつを誘ってフィールドに出た。あいつに勝たなきゃ・・・俺があいつと肩を並べること なんかできない。あいつ・・・ティルスも俺の心に気付いたのか、意外に了承してくれた。負けるわけには 行かないぜ、相棒! 「いくぞティルス!」 「返り討ちにしてやるさ」 「"シャドーボール"!」 「"火炎放射"」 この前のリベンジって訳じゃない。あいつを傷つけた・・・その償いでもない。でも、こいつに勝たなきゃいけない。 勝たなきゃ俺たちは・・・・いや、俺は前に進めない! 「アブソル! "噛み砕く"」 「"ブレイズキック"」 悔しいけどやっぱりティルスは強い。バトルに関していえば天才だ。凡人の俺なんか敵う分けない。 それはわかってる・・・・けど、この勝負にかける気合は・・・・いつもと違う! 「負けるなぁぁ、アブソル!」 「無駄なこと・・・"オーバーヒート"!」 あの時と同じだ。アブソルに"オーバーヒート"が炸裂した。俺の脳裏に、またあのときの光景を浮かんできた。 あの時と同じになってしまう、俺は思わず目を瞑りそうになった。そのとき、アブソルが咆えた。アブソルが 咆えることなんて滅多にない。パートナーである俺でさえ、見たのは1,2回ぐらいだ。俺に喝を入れて くれてるのか・・・・それとも、俺と同じで負けたくないのか。・・・そうか、俺たちは似てるんだ。どうしてこんなことに 今まで気づかなかったんだろう。あいつのことも・・・アブソルのことも・・・・。 「まだやる気か」 「負けるわけにはいかねぇんだ!」 「何故そうまでする?」 「お前に勝たないと・・・俺は・・・・あいつと肩を並べることはできねぇんだよ! "剣の舞"!」 「ならば・・・その決意、へし折ってくれよう! "オーバーヒート"!」 もう一度"オーバーヒート"が飛んでくる。でも、これを耐えなきゃいけない。"守る"を使う暇はない。 全力で耐えまくってやる! 「耐えろ! アブソル!」 「押し返せ、バシャーモ!」 こいつには過去何度も負けてる。それは天才と凡人の差だと今までそう言い聞かせていた。でも・・・今回は違う。 凡人でも・・・天才に勝つことはできるんだ! 「"鎌鼬"!」 アブソルの"鎌鼬"は"オーバーヒート"を切り裂いた。そのまま空気の刃となってバシャーモに飛んでいく。 "オーバーヒート"発動直後でバシャーモは動けない。"鎌鼬"が命中して・・・丁度三分間を知らせる音が鳴った。 俺たちは一斉に掲示板を見る。残っていた体力が多いのは・・・・・アブソルだ。 「・・勝った・・・?」 「そうだ・・・お前の勝ちだ」 「ティルス」 「結局、俺はお前には勝てなかった・・・・」 「・・・どういうことだ?」 「断られたんだよ、カイリには」 「えっ・・・」 ――「ごめんなさい!」―― ――「・・・どうしても・・・ダメか?」―― ――「・・・ごめん。でも、好きな人がいるの」―― ――「・・・そいつは君のことどうでもいいのかもしれないぞ」―― ――「それでもいい! それでも・・・あたしはあいつが好きなの」―― 「カイリが・・・そんなことを」 「今年のバレンタインデーにチョコを送ったらしい。結果は・・・聞かなかった」 「恐かったってか?」 「その通りだ。天才といわれても・・・俺も一人の人間だ」 「・・・そっか」 「・・・早くいってやれ。きっと彼女は待ってるぞ」 「・・・・また勝負しような、ティルス」 「次こそ俺が勝つ」 「抜かせ」 俺は急いで帰っていた。あれから学園中を探してカイリの姿は見当たらなかった。カイリといつも一緒に いる奴から聞いたらカイリはもう帰ったって言ってた。ちくしょう、こんな調子じゃいつあいつに会えるか・・・・。 そんなときだった。急にボールが開いてアブソルが出てきたんだ。アブソルはそのまま自分の背中を指差す。 ・・もしかして乗れって入ってるのか?俺は走りながらアブロスに跨る。すると、アブソルは高スピードで 駆け巡っていった。正直、俺はしがみつくのに精一杯だ。すぐ家に着いた。本当にこいつ・・・早かったんだな。 俺は家に入る前にアブソルにこういった。 「お前って・・・・災いポケモンじゃなくて、幸福ポケモンかもな!」 そのあとのアブソルはしらない。だけど、きっと笑っていたんだろう。俺も笑っていたんだから。 どうして俺のパートナーがアブソルなのか、今そのわけがはっきりと分かったような気がした・・・・。 「クウトの・・・・馬鹿」 「誰が馬鹿だって」 カイリは部屋にいた。俺は気付かれないようにこっそりとあいつの部屋の窓まで忍び込む。 急に俺がいたことにあいつはかなりびびっていたようだ。急いでドアを開けて俺を中に入れようとする。 そりゃここにいるのも不味いからな。俺はあいつの部屋に入っていった。・・・そういや、こいつの部屋に 入るのも久しぶりだな。っと、そうだ。早いところ用事を済ませないと・・・。 「ほい」 「・・・何? これ?」 俺があいつに渡したのはチルットが描かれてるのイヤリング。これだけ渡しても、あいつには何のことだか分からないみたいだな 「ホワイトデーのプレゼント。みりゃわかるだろ」 「・・・あたし、あんたにチョコなんて」 「帰ってたらな、ポストのチョコがあったんだよ。名前なしの。ビターチョコ」 「・・・・」 「妙に俺の子と知ってるんだよな。俺が甘すぎるの苦手なの知ってるからかビターチョコだったんだよ・・・・ あれ、お前だろ?」 カイリの肩が震えてる。図星だったようだな。カイリはこっちを向こうとはしない。まだあのときのこと怒ってんのか・・・・・。 「どうして・・・分かったの?」 「お前があの日くれたクッキーとビターチョコ。・・・・味付けがおんなじだった」 「・・・・」 「偶然にしちゃで来すぎてるだろ・・・」 「・・・・クウトが、レンちゃんにチョコ貰ったって知って・・・恐かった」 「・・・え?」 「そのままレンちゃんと付き合うんじゃないかって・・・・恐かった!」 「お前・・・それって」 「・・・恐かった。クウトがあたしから離れていくんじゃないかって・・・・。好きだから・・・・恐かった!」 ・・・・こいつでも、こんなに恐くなることあるんだな。って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ! ちゃんと俺の気持ちも話さないと・・・カイリの肩を掴んで、俺と向かい合わせにした。 カイリはまた泣いていた。こいつの泣き顔・・・もうみたくない。 「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ」 「う、うん・・・・」 「俺が好きなのはな・・・・お前だ、カイリ」 「・・・え?」 「俺は・・・お前が好きだ」 「だって・・・レンちゃんは?」 「俺がいつレンちゃんが好きだなんていった? ちゃんと断ってきたよ。お前こそ、ティルスに断ったんだって」 「だって・・・クウトのこと大好きなんだもん。たとえクウトがレンちゃんと付き合っても・・・あたしは」 ・・・・こいつ。カイリがそれ以降言葉を言うことはなかった。いや・・・俺が言わせなかった。 いつの間にか、俺はあいつを抱きしめてた。こんなにこいつのことが愛しいと思ったことはない。 気がつくと俺は・・・あいつと唇を重ね合わせてた。あいつの方も拒んでこない。 俺はそのあとも、何度も唇を重ね合わせた・・・・・・。 ――「ねぇ、クウト。一つ聞いていい?」―― ――「なんだよ」―― ――「いつからあたしのこと好きになってたの?」―― ――「どうだっけな・・・・お前はどうなんだよ」―― ――「あたし? あたしはねぇ・・・・・」―― ――「始めてあったときから、ずっと大好きだったんだよ!」―― THE FIN