姉の背中を追いかけて




 オレには3歳年が離れた姉がいる。

 姉は一言でいえば、チャッカリ者だ。そして、ポケモンを家族に見せたらとっとと町を出ていった薄情者でもある。

 昔から姉はどんな事に対しても普通以上の出来を見せていた。近所の勉強会でも常にトップにいたし、母を困らせる事は全くなかった。
 その中でもアイツが興味を持ったのはポケモンバトルだった。

 何がきっかけなのかはオレは知らない。ある日からアイツはアララギ博士からポケモンをもらう前から博士の研究所に行き、研究を手伝っていた事は確かな事だった。
 その成果なのか、アララギ博士はあの年齢であそこまでポケモンについて詳しい子どもも珍しいと言っていたらしい。
 また、自分の手にあまる用事だったらオレと幼馴染たちをも巻き込んでくれた。





 俺とは違って何事にも積極的で明るかった姉は色んな人から好かれていた。


 だから、アイツが旅立ってから特にそばにいた幼馴染のチェレンやベルがふとした事をきっかけにいきなり泣き出す事がよくあった。

 例えば、オレが持ってきたお菓子は姉が持ってきたものと同じだった時。
 例えば、オレが話した話はかつて姉が話した話だと言う事。

 オレがやった事が裏目に出て、ふたりは度々泣いていた。そんな彼らの相手をするのがオレの役目であり、また悩みの種でもあった。

 結局、オレでは姉の代わりにはならないのだと言う事を痛感させられた。

 だが今では泣いても姉が帰らない限り会えないのだ言う事を理解したようで二人とも泣かなくなった。





 周りに大きな影響を与え続けた姉はポケモンリーグチャンピオンを目指していた。

 姉が旅立ってから半年の間、母はそんな姉からの話を逐次ご飯の時にオレに嫌がらせの様に話していた。
 姉に劣等感を抱いていたオレは、無邪気な母の言葉に傷ついた。

 そのためなのか、話の内容は俺の中に残っていた。



 最近は観覧車でデートしているというポケモンとは関係がなさそうな話から今日は苦手なタイプのジムバッジをゲットしたと言う目標に向かう過程の話まで。
 毎日の夕食の中で、母が姉に関する話題に困っていなかったのは間違いない。


 そしてある時、ついに四天王にそしてチャンピオンに挑むと言っていたらしい。


 その時オレはオレとは違って挫折を知らない姉は、他の人には到底かなえるのが難しい夢――イッシュチャンピオンになる事――をかなえる事を決して疑っていはいなかった。




 その話から一週間も経たないうちに姉が家に帰ってきた。
 帰ってきた姉はとてもじゃないけれど、半年前にここから旅立ったあの姉と同一人物とは思えないほど落ち込んでいた。詳しい話は誰もしてくれなかったが、姉は結局チャンピオンになれないまま家に帰ってきたのだと言う事は理解できた。

 姉は一週間自分の部屋に閉じこもった後、オレの前から何も言わずに姿を消した。結局、姉はチャンピオンにならないまま何処かへと旅立ってしまった。
 その時のオレはぽっかりと心に穴が空いたようだったし、母は目に見えて傷心していた。




 それから3年の月日が流れた。



 今オレは姉が連れていたのと同じ種属のポケモンを手にポケモンリーグの前にいた。
 今までになく強くなっていた幼馴染を倒したオレはふと今までの事を思い返してみた。



 オレの夢、それはイッシュ地方のチャンピオンになる事だ。



 なんでもできた姉が、何故かなる事ができなかったチャンピオン。
 元はと言えば消えてしまった姉を探すために、目指し始めた夢だったが……意外な事に、バトルはオレの性格にすごくあっているようだ。


 だからこそ、オレはここに立っている――殿堂入りを果たすために。


 今までのジムでは、姉の素晴らしさばかりを聞いていた。それは3年前まで、オレを苦しめ続けていた姉の姿そのものだった。姉はすごいと言うジムリーダーの話を聞けば聞くほど、オレにはアイツがチャンピオンにならなかった理由がわからなかった。




「行こうか、イッカク」
 一番の相棒の頷きを確認したオレはチャンピオンロードに足を踏み入れる。

 幼馴染を倒しても、プラズマ団の王子が現れたとしても、オレは歩みを止めやしない。
 ――姉の挫折を知るために、姉の行方を知るために。



 そして、今度こそ姉に勝つために。


 オレは今度こそ真直ぐに強者への道に足を踏みだしていた。





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