お返事は愛の言葉




 手紙を書こうと思い立った。相手は同じクラスの女の子。控えめで目立たないけど、俺にとってはサーナイトの色気よりもドレディアの愛らしさにも勝る。
 彼女に対する思いは有り余っているが、いかんせん俺には文才というものが欠如していた。
 封筒と揃いの、エネコロロ柄がかわいい便せんはとうに尽きた。あわてて駆け込んだ文具店で購入した便せん帳は、すでに三冊目を数える。
 募り積もったものは、いささか不器用すぎる恋心と下記損じの便せんのみ。

 四苦八苦しながら手紙を書き上げた俺は、大事な大事な、それこそ一生分の勇気をつぎ込んだ手紙を一番の相棒、デリバードに託した。うっかりやのはこびやは、若干短めの赤い翼で任せておけと白い胸を叩き、手紙をいそいそと宝物袋に放り込むと、青い空へと飛び立った。
 
 ところが待てど暮らせど返事はこない。学校で彼女の様子をうかがってみても、なんの変化もない。はこびやに問い詰めても、たしかに届けたと首を振る。
 さすがに半月も経ったころには、あぁ、俺の淡い恋は大爆発したのだな……とあきらめモードに突入した。

 あきらめきれずクラス通信に載っている彼女の写真を眺めていたとき、自室に珍しい客が飛び込んできた。器用に、だが無遠慮に窓を開け放って入ってきたのは、とさかの形が音楽的なオウムである。すわ何事かと腰を浮かした俺を青い翼で制したオウムは……
 ぺらっぷー!
 間の抜けた鳴き声を俺の部屋に響かせた。あっけにとられる俺を尻目に、ペラップは赤茶のくちばしを開く。
 ぱかっと開いたくちばしから飛び出た言葉を聞いた俺は、手にしていたクラス通信を取り落とした。
 50cmの身体から発せられているとは疑いたくなるほどの、野太い声。それも明らかに男のもの。
 ペラップは野太い男声で、ご丁寧にも大きな声で、ひたすた愛の言葉を叫ぶのだ。それも、耳をふさぎたくなるほどに濃密な愛の言葉。
 きっと、デリバードが届け先を間違ったんだ。彼女の家の三軒隣に、元ふなのりのマサヒロさんが住んでいる。彼かもしれない。俺の文字は丸っこい。ともすれば女子のものに間違われるくらいに。便せんも桜が散ったかわいいものだった。勘違いしたのだ。
 思い至ると同時に、俺はペラップの告白をご近所に垂れ流すまいとテッカニン並の早さで窓を閉め、のんきに昼寝をしていたデリバードの胸ぐらをつかみあげた。

「おまえは、どこに手紙を届けたんだぁぁッ!」




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