悩める貧乏青年達が集まる郊外の古い安アパートには、まれに数匹、特定のカゲボウズが暮らしていることがあるらしい。
 彼らは宿付きカゲボウズと呼ばれ、都市型に発展したポケモンの生態系の一種であると見られる。
 とくに悩みつらみ凹んでいる住民の窓のさんに取り付き、負の感情にあやかるカゲボウズ達だが、あるアパートではカゲボウズの付き具合を見ておのおの鍋の具材を持ち寄り当該住人の部屋を訪れ、【メシウマ鍋】【ざまあ鍋】や【傷舐め鍋】などを執り行う等、古来より不吉の象徴として見られがちな彼らが、緩やかながら人間の生活に溶け込んでいるという現象も報告されている。

 また最近、なぜか当研究所に「カゲボウズは陰干しなのか?」という類の投書が多く寄せられるので回答させていただくと、陰干しとは本来、木綿素材など水分が蒸発する際に収縮する性質をもつ衣類の変形や、ジーンズなどの変色などを防ぐために風通しのよい日陰で洗濯物を乾燥させることを言うが、洗濯して干したカゲボウズがガビガビになった、カゲボウズが色落ちしたなどの事例は報告されていない。
 しかしカゲボウズはゴーストタイプであり、紫外線に弱いとのレポートも存在するため、カゲボウズを干す場合は結果的に陰干しが適当だとも考えられる。

――国立ゴーストタイプ研究所


 追記

 色落ちはしないが、日焼けしてひりひりすることはあるらしい。【要出典】
 暑い夏のことでもあるので、日向でカゲボウズとふれあう場合には十分注意が必要だと思われる。





 以上は、あれ以来うちのアパートに住んでいるカゲボウズの洗濯係みたいになってしまった俺に対して、上の階に住んでいる御影先輩が何も言わずに寄越してきたものだ。怪しい紙である。
 まあ俺の部屋と俺自身は日陰なので干し方には心配なかろう。

 ちなみに御影先輩は相変わらず寝起きの顔がミカルゲにそっくり似ている。あの不運げな顔では今年も落第は免れまい。

 負の優越にひたっていると、水をはったタライの中からカゲボウズがこっちをみつめていた。

 いかんいかん。こいつらを洗うときは無心でなくてはいけない。心に負の念が存在するとこいつらは目を閉じない。じっ、とこっちをみつめて瞬きもしない。
 きゅっと目を閉じているときでさえ洗うのに気をつかうというに、掴んだ手の中からじいっと見上げられているのにごしごし汚れを落としたりなんかできるか?

 なんだか日を増すごとに水浴びにくるカゲボウズは増えているような気がするし。この間なんてジュペッタが紛れ込んでいたし。すぐ飼い主が向かえに来たけどシャドーパンチを喰らっていたし。なにか似たようなものを感じたし。

 俺はタライの中を涼しげに泳ぎまわる黒いひらひら達を見つめながら、昼飯までに終わるかなー、と一人でつぶやいた。



 おわってくれ





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