カゲボウズがなびいている。
 しかも長い。
 縦に。

 衝撃の瞬間を目撃した。
 カゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズ。

 数匹のカゲボウズが縦に長く連なり、あたかも見舞いの千羽鶴のような格好で風になびいている。

 しかし、彼らは何も楽しくてあんな格好をしているわけじゃないことを、一部始終を見守っていた俺は知っている。

 ――最近、幸薄荘に住み着いてるカゲボウズに、一匹新顔が加わったのだ。
 まだ子供なのか何なのか、ほかのカゲボウズより一回り小さいカゲボウズ。
 大家さんによってつけられたニックネームはぷちボウズ。

 うまく軒下にくっつくことができないのか、なぜか一匹だけぽとりと、地面に落ちてしまったりしているぷちボウズ(救出済)。
 アパートの二階へあがる手すりのところに何故だかたまに挟まっているぷちボウズ(救出済)。
 消火器の箱の上で昼寝していてヤミカラスに食われそうになっていたぷちボウズ(救出済)。

 ドジなのか迷子になりやすいのか、一匹でふらふらしていることが多い(そして気がつくと地面に落ちていることの多い)新顔のそいつ。
 他のカゲボウズと仲が良くないのかナァ、と思ってちょっと心配したりしていたのだが。

 八月某日、その日カゲボウズが並んだのは、二階の205号室。
 あそこに誰が住んでいるのか俺は知らないが、相当のことがあったらしい、普段住んでいるカゲボウズの他にも、なんとどこから現れたのか、ゴースがうろついたりもしていた。大きいカゲボウズたちとしばらく睨みあって退散したようだったが。ゴーストタイプのポケモンにも縄張りがあるらしい。

 そしてそこにあのぷちボウズも居た。
 右端のほうでそよ風に吹かれてふらっふらしていたので、落ちるんじゃないかと思って下で待機していたら、案の定、そいつの頭は軒下から離れ、ふわふわと落ちてきた。

 しょうがねえから受け止めてやろうかと思った矢先。

 まず一番右のカゲボウズが軒下を離れ、ふわふわと新入りを追いかけてきた。
 そしてぷちボウズを受け止める。

 次に右から二番目だったカゲボウズが離れ、さらに後を追いかける。
 そして受け止めたカゲボウズの頭の先を受け止める。

 三番目も四番目も……と続いて、一番左はしに居たカゲボウズはちょっとふわふわした後、205号室の物干し竿の右はじにくっついた。

 気がつくとあらふしぎ。
 カゲボウズのぼりが出来上がっていた。

 良かったなぷち子。
 お前、意外と愛されているみたいで。
 羨ましいぜこの野郎。

 俺がそんな光景を見上げていると、後ろから肩を叩かれた。
 誰だと思って振り向くと、左頬に大家さんのひとさし指が突き刺さった。

「またカゲボウズの観察ですか?」

 長い髪と可愛いモンスターボール型のエプロンを真夏のあっつい風に揺らす、可愛い大家さん。
 フラグが立ったと思う前に、"また"のニュアンスになんともいえないものを感じて、とりあえずハローワークに通っています。


 おわりなさい





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 毒男lv.31 ジョブ:夢追い人





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