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  [No.1011] 3話  角飾り(後編) 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2012/07/12(Thu) 22:07:56   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

  ※ 一部、生物に対する残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意下さい?




 日がとっぷりと沈んで、紫がかった夕闇が空を覆っていた。

 パチパチと音を立てながら輝く松明を、疲れた様子で眺める女性。黒いショートカットの髪、一見ラフなスタイルでよく動き回りそうな若い彼女は、実はポケモンの研究クラブに所属する立派な研究員。しかし白衣でも着ていない限り、人に言ってもあまり信じてもらえそうに無い。
 彼女は数日前から、ある理由でこの村に滞在しているのだった。

 彼女、カナメ(本名:黒島 要)の在するクラブの研究テーマは、“ポケモンの予知能力について”。現在最新の技術で研究を進めても、ポケモンには本当に未知の部分が多い。そのうち、例えば時間を超えて攻撃する『みらいよち』等の技、人や物、自然環境に起こりうる事へ対しての察知。そういうものが、おおかた研究対象にされていた。
 そして、彼女がこの村を訪れた理由。それは、災いポケモン“アブソル”に関する祭りを見るためである。いや、祭りというよりは“儀式”といった方が正しいかも知れなかった。少なくとも、おめでたい類のものでは無い。少々、見ていられる自信が無くなってくるのを自分で感じていた。

 一気に暗くなって、物々しい雰囲気が村には立ち込めてきたところだ。それはざわめく村人たちが発しているのか、はたまた黒い塊と化した木々がそう見せているのかは分からない。

「おい、本当に大丈夫かクロシマ? 見てられなくなったら無理すんなよ?」
 同僚の一人が彼女に声を掛けた。それもそのはず、日々意気込んで研究に没頭し、そのうえ自然へも出向く行動力を持ち合わせたカナメは、疲れた姿を普段滅多に見せる事が無かったからだ。

「疲れてるだけだから、大丈夫だって」

 アブソルが捕まったので儀式を執り行うという連絡が入り、研究クラブの数人で約一日かかって交通の便の悪いこの村へ急いで来たのだ。疲れていないほうがおかしい。
 そこまでして来たのだから、できればしっかりと見、参考にして帰りたい。カナメは一人ぼーっとそんな事を考えていた所だった。

 突如、人ごみのざわめきが強まったのを聞き、視線を移した彼らの目にまず映ったのは、白と黒の物体。


 白い物体、と見えたのは、“毛皮”、そして“骨”。すでに焼かれ洗われ、闇に浮かぶような白さのそれは、丁度四足で歩くポケモン一頭分ほどの量と大きさで、木で作られた机の上に乗せられている。机の下には、薪がすでに置かれていた。

 黒い物体は一つだけ、村長が抱えていた。長く湾曲した、やや薄く黒い角。まさしく災いポケモンの持つそれだった。


 突如目に入ってきたあまりにも衝撃的すぎる光景を、研究員一同は言葉を失ったまま凝視していた。
 毛皮も骨も、ポケモンを研究する上で彼らの誰もがもちろん一度は目にした事がある。ここに置かれた物はしかし、彼らの目には違う物の様に映ったことだろう。

 骨格標本でも、剥製でも、インテリアでもない、骨と毛皮。これから炎に焼かれようとしている、忌み嫌われ、捕らえられて殺された者の抜け殻――
 もう魂も宿っていない抜け殻でさえも、炎で跡形も無く燃やし尽くしてしまう。なんと残酷なのだろう。
 何か、古風な口調で、詩のようなものが唄われているのが聞こえた。とりあえずビデオカメラで撮っている人がいるから、後からでも調べられるだろう――そんな事が、もう何も考えられなくなったカナメの頭にすっと上った。

 そして村長が、持っていた黒光りする角を高々と掲げると同時に紅い炎がボウッと燃え上がる。

 パチパチと音を立てる炎が、カナメ達の目にはやけに美しく映った。何故だかは誰も知らない。
 ああ、燃やされて、焼かれておしまいだ、よかったね。後ろの方で、誰かがそんな事を言っていたのが耳に入った。

 村長が持っている角だけは、燃やさずに取っておき、村の御社に飾るのだそうだ。カナメはこの村に来る前にインターネットで調べた事を思い出した。


 *


(『アブソル』って、“災いを呼ぶポケモン”なんだ……。)

 燃える炎を眺めながら、ナツキの意識はついさっきの記憶に飛んでいた。
 白くて、長く黒い角を持ったフウ達は、アブソルというポケモンなのだそうだ。隣に居る祖母が、儀式の直前に話した事が何度も何度も耳の奥に蘇る。

 ――アブソルってのはね、災いを呼んでくるポケモンだよ。
 だからこうやってね、見つけたら退治するのさ。
 なっちゃんも、山に行く時は気を付けなさいね。最近はほとんど見ないって言うからおばあちゃん安心して言わなかったけど、見つけたらすぐ大人に知らせなさい。


 なら、私にもいつか災いが来るのだろうか?
 それは怖い。
 大人に正直に言った方が良いのだろうか。

 でも、フウは私が迷子になった時、助けてくれたよね。

(フウは、私の友達……)

 声も分かるくらいの。
 もし見つかったら、フウは殺されて、あんなふうに毛皮と骨にされて、燃やされる。
 友達が殺されてみんなの前で燃やされるなんて嫌だ。

(…でも、フウは私に何も言わなかった)


 隠していたの?

 言いたくなかったの?

 それとも、大人の人たちは間違っているの?


 それだけをナツキは今すぐフウに聞きに行きたかった。



【次回予告】
 ナツキは昨晩見た壮絶な光景、知った事実がまだ信じきれない……。
 揺れる心のまま、山へと足を運ぶ少女の思いやいかに。



―――――
 やっと新キャラ登場。もう執筆ペースについては何も言わないで置こうか…。
 ちまちま、本当にちまちまと書いてます。それでも読んでくださる皆さんに本当に感謝です。

【好きにしていいのよ】


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