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  [No.1015] 第24話「休日なんて無かった」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/07/26(Thu) 14:08:07   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さて、立ち読みでもしようか」

 11月8日の日曜日。今日は珍しい休日だ。昼飯の時分だが、俺は本屋に向かっている。人の多い場所に行く気が無いのと、飯屋の奴らの態度が鼻持ちならねえからだ。家からは離れているし、かといって飯屋も駄目。ならば空きっ腹を我慢しても本を読んだ方が良い。

「今日は掘り出し物でもあれば良いのだが……ん?」

 そんなことを考えながら往来を歩いていたら、1人の女が道行く人々に声をかけているのを見つけた。俺が言えた言葉じゃねえが……あの女、かなり奇妙な服装だな。白いレースのついた黒いスカートに、これまたヤミカラスの濡れ羽のようなパフスリーブの服。ついでにエプロンなんかも着ている。メイド服ってやつか?

「客引きか、ご苦労なこった」

 全く、あんな服装で声かけなんてよくできるぜ。俺にはあんなのできそうにねえ。ま、だからと言って相手にする理由は無いがな。さっさと本屋に向かおう。

 そう思いながら足早に移動し始めた、まさにその時。俺の目の前にメイド服の女が飛び出してきたのだ。俺はすんでのところで止まったが、そいつとの距離は50センチもくだらない。それから彼女は、およそ聞き慣れない猫なで声でこう言ってのけた。

「あ、ご主人様! お帰りなさいませ!」

「な、なんだ! おいてめえ、冗談はよせ」

 俺は可能な限りのけぞった。そしてそのままブリッジの態勢になろうとするも、彼女に左腕を掴まれてしまう。

「冗談なんかではありませんよー。さあさあ、美味しいお茶の準備ができてます。早く家に入りましょう!」

「ぐおおおお……」

 こうして俺は、鼻歌まじりの彼女に連れられ、付近の家屋に入るのであった。……やれやれ。










「はい、どうぞ」

「お、こいつはナゾノ茶か。しかも上物の……って、そうじゃねえ」

 数分後、俺はメイド服の女に連れられた店で座っていた。個室には、俺と彼女が2人きり。木目が美しいフローリングに白の壁紙、ソファーにテーブルだけのシンプルな部屋だ。そして、テーブルには俺の好物のナゾノ茶。しかし、今の俺に茶を飲む余裕は無い。

 俺は彼女をまじまじと眺めた。……うん? この娘、見覚えがあるぞ。少し探りを入れるか。俺は腕組みをしながら質問をしようとしたが、先手を取ったのは彼女だった。

「ご主人様、今こんなことを考えてませんか? 『この娘、見覚えがあるぞ』って」

「ふん、んなのそっちの思い違いだろ」

「そんなことはありませんよー。なぜなら……私も覚えてますからね、サトウキビさん。いや、今はテンサイさんでしたっけ?」

 俺は不覚にも息を呑んだ。娘の一言は、俺を揺さぶるには十分すぎるものだった。だが、これで思い出したぜ、彼女が誰なのかを。

「……あんたは確か、ミツバだったかな。身なりと口調が違ったから気付かなかったぜ」

「ああ、これですか? ですよね、こんな格好は普通しませんから」

 メイド服を着た女、ミツバは無邪気に笑ってみせた。仕事中にんなこと言って良いのかは気になるところだがな。しかし、厄介な奴が現れたぜ。彼女はヒワダのボール職人であるガンテツの孫だ。かつて、旅の途中に知り合ったわけだが……念のために探りを入れるか。

「全くだ。ところで、あんたは俺のことを突き出す気か」

「突き出すって、コガネでの事件ですか?」

「その通り。俺は現在お訪ね者さ、あれほどの馬鹿騒ぎをやったんだからな。もしあんたが俺の存在を警察に知らせても、なんら不思議な話じゃないだろう?」

 俺はナゾノ茶でのどを鳴らしながら、サングラス越しに眼光を飛ばした。まるで通報するなと脅しているかのようだが、断じてそれはない。ただ、話の真偽を判断する時に出る癖だ。

 そんな俺の意図を察したのか、ミツバはあっけらかんと返答した。

「確かに、大々的に宣伝してましたからね。『市民を惑わす極悪人のサトウキビ逮捕にご協力ください』みたいに」

「やっぱりな」

「でも、私は通報する気はさらさらありませんからね。安心してください」

 あまりにストレートな回答に、俺は思わずむせこんだ。そりゃそうだろ、今の言葉は明らかに反社会的だからな。俺は呼吸を整え、再度問うた。

「お、おいおい。どういうつもりだ。穏やかじゃないじゃねえか」

「そりゃ、サトウキビさんは同志ですからね。もちつもたれつですよ」

「同志、なあ」

 なんだ、彼女は科学者なのか? それとも教育者? いや、さすがにこの風体で教育者はねえな。いずれにしても、彼女の真意を推し量るのは一筋縄じゃなさそうだ。

 俺が少し考え込むと、彼女はまるで何か思いついたかのように、右握りこぶしで左手のひらを叩いた。

「あ、そうだ! あと30分くらいで交代の時間なんですよ。だから私の家に来てください。びっくりしますよ! もし来ないなら、あなたの正体を町中で言いふらしますからね」

 ミツバはさりげなく牽制をかますと、自分の茶をいれゆっくり飲んだ。俺も、左手で頭を抱えながら湯飲みを空にするのであった。

「ちっ、しっかりしてやがるぜ」

 休日は長引きそうだな。


・次回予告

ミツバに連れられ、彼女の家にやってきた。……これは大したもんだ。俺はそこで見たものに、不覚にも感嘆するのであった。次回、第25話「悪の技術者」。俺の明日は俺が決める。




・あつあ通信vol.90

このコラムも、はや90回目。意外と頑張れるものですね。

さて、今回登場したミツバは以前出した気がしますが、覚えていた方はいますかね。以前と言っても、前作ですけど。スタッフロールでも何をやる人なのか分からずじまいでしたが、突然今回の電波を受信したわけです。


あつあ通信vol.90、編者あつあつおでん


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