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  [No.1035] 【長編】タイトル未定 投稿者:アルパ   投稿日:2012/09/07(Fri) 16:30:39   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

王道なポケモンストーリーを書きたいなぁと思います。
すなわち、

・初めてのポケモンと一緒に旅立って
・バッジを集めながらポケモンリーグを目指して
・その途中で悪の組織と戦う

ってな感じです。


がんばって週一以上の連載を目指したいと思います。
しばしお付き合い下さると嬉しいです。


  [No.1036] プロローグ 投稿者:アルパ   投稿日:2012/09/07(Fri) 16:31:10   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

プロローグ

 旅立ちの前夜、タツキはなかなか寝付けなかった。
 明日の出発に備えて、9時には支度を終えてベッドに入っていたのだが、これから始まる旅のことを思うと、眠気などすっかり忘れてしまうのだった。
 タツキは早寝するのをあきらめ、ベッドから降りると、カーテンを開けて外を眺めた。
 明かりのついている家はなかった。物心ついてからずっと暮らしてきたマサラタウンは、夜の闇の中で静かに眠りについていた。
 明日になれば、しばらくこの町に帰ってくることはなくなる。一緒に過ごした人々とも――。
 そう思うと、少し寂しさが込み上げてきた。

 空を見上げると、まんまるの月が浮かんでいた。それを見てすぐにモンスターボールのことを連想した自分に、タツキは思わず苦笑した。本当に、旅のことしか考えていないのだった。
 育ててくれた両親に代わって、これからは太陽と月とがタツキのことを見守ってくれる。神さまがいるかはわからないが、タツキは月に向かって旅路の安全を祈った。

 そのとき、月の光が一瞬さえぎられた。

 何か影が通り過ぎたように見えた。鳥ポケモンではなかったと思う。一体何だったのだろう?
 タツキは急いで窓を開けると、身を乗り出し、影が過ぎ去った方角を見た。
 白く、華奢な体躯のポケモンの姿が見えた。初めて目にするポケモンだった。長い尾をなびかせ、夜の空を飛んでいくその姿は、神々しさすら感じさせるほどに美しかった。
 呆然と見ていると、そのポケモンが突然身を翻し、タツキの方に振り向いた。青い瞳から放たれる真っ直ぐな視線に貫かれ、思わず息を呑んだ。かなり距離があるにも関わらず、自分のすべてを見通されているような感じがした。
 不意に、ポケモンが左手をかざした。次の瞬間、全身から力が抜けた。意識は朦朧とし始め、タツキはそのまま、眠りの中に落ちて行った。……



 翌朝起きたときには、タツキはそのポケモンのことを覚えていなかった。


  [No.1037] 第一話 投稿者:アルパ   投稿日:2012/09/07(Fri) 16:36:18   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 部屋中に鳴り響くアラームの電子音で、タツキは目を覚ました。少し体が痛い。床の上で眠ってしまっていたらしい。
 眠い目をこすりつつ起き上がり、ベッド脇に置いてある目覚まし時計のアラームを止める。起床時刻は予定通りだった。
 伸びをしたとき、気持ちの良い風が部屋の中に吹き込んできた。窓が開いていたようだ。
 ――いつ窓を開けたんだっけ?
 しかし、昨晩のことはよく思い出せなかった。気が付いたら窓際の床の上で眠っていた。もやもやとした気分だったが、出発の支度をしなければならないので、そのことは忘れることにした。開けっ放しになっていた窓を閉め、身支度に取り掛かる。
 動きやすい旅の服装に着替え、机の上に置いたリュックの中身を確認した。トレーナー修行の旅に必要な道具は、バッチリ揃っている。トレーナーカード、傷薬や毒消しといった治療薬、タウンマップ、おやつに水筒、それからお金。本当はポケモン図鑑も欲しかったが、高価なのでタツキの小遣いでは手が出なかった。
 そして最後に、トレーナーにとって何より大事な旅の仲間であり、一緒に戦ってくれるパートナー。
「……がんばろうね、ピカチュウ」
 真新しいモンスターボールをぎゅっと握り、タツキはつぶやいた。


 第一話


「それじゃ、行ってくる」
「怪我や病気には気を付けるのよ。ご飯はちゃんと食べること。あと、たまには連絡しなさいね」
「わかってるよ、母さん」
 家族揃っての最後の朝食を終え、タツキは玄関で両親と別れの挨拶をしていた。母は旅立つ息子が心配でたまらないらしく、あれこれと注意事項を並べ立てた。約束の時間に送れちゃうぁ、と思いながら、タツキはうんうんと頷いていた。
「ほら、お父さんも何か言って」
「ああ……。タツキ、これを持って行け」
 父は何かを手渡してきた。受け取ってみると、タツキの手より二回りも大きな赤い電子機器だった。手のひらにずしりと重さが伝わってくる。トレーナーなら誰もが憧れる、あのグッズだった。
「これ、もしかして」
「最新型のポケモン図鑑だ。大事に使えよ」
「ありがとう、父さん!」
 父は口元でふっと笑うと、一足先に家の奥に戻っていった。母は腰に手をあてて「もう!」と憤慨していた。息子に対する素っ気ない態度が気に入らなかったのだろう。しかし、父は照れているだけだ、とタツキにはわかっていた。
「じゃ、そろそろ行くね」
「がんばりなさい。無理はしないように」
「わかってるってば。行ってきます!」
 タツキは返事もそこそこに、玄関をくぐり、家の境を跨いだ。
 腕時計を確認すると、予定の時刻を少しばかり過ぎていた。
「走らなきゃ間に合わないなぁ」
 約束した集合場所に向かう途中、もらったばかりのポケモン図鑑を開いてみた。カントー地方に生息しているポケモンがずらりと記録されている。ざっと眺めてみたが、知っているのは全体の半分にも満たなかった。すべてのポケモンと出会ってみたい。タツキはそう思った。

 5分ほど走って、集合場所であるマサラタウンの郊外に着くと、よく見知った少年が腕を組んで待っていた。タツキと同じようにリュックを背負い、腰のベルトにはモンスターボールが一個だけセットされていた。
「遅いぞタツキ!」
「ごめんごめん、母さんの話が長くて」
 息を切らすタツキに怒号を飛ばすこの少年もまた、今日マサラタウンから旅立つ新米トレーナーだった。幼馴染で、名前はサクヤと言う。タツキにとって、数少ない同年代の友達だった。
「おまえ、普段は遅刻しないのに肝心なときには遅れるよなぁ」
「あはは、そうかも」
 ようやく息が整ったところで、タツキは来た道を振り返った。サクヤもその隣に立つ。
 二人は、生まれ育った町の姿をその瞳に焼き付けていた。大好きなこの町は、昔からずっと変わらない姿でいた。
「いよいよだね。ポケモントレーナーとしての、修行の旅」
「ああ。おまえには負けないからな」
「僕だって負けないよ」
「お、その意気だぜ、タツキ。――それから俺は、姉ちゃん探さねーとな」
 そうつぶやいたサクヤの表情は、わずかに曇っていた。タツキの声も少しトーンダウンした。
「まだ、居場所わからないの?」
「連絡も寄越さないからな、あいつ。どこで何してるんだか」
 サクヤには年の離れた姉がいた。二年前、親との争いが原因で町を出て行ってしまって以来、行方もわからずにいる。小さい頃にはよく遊んでもらったので、一人っ子のタツキにとっても姉のような存在だった。旅の途中で、せめて手掛かりだけでも見つけたかった。
「……それじゃ、そろそろ行こうか」
 町に背を向けて歩き始めたタツキだったが、首根っこを掴まれて引き戻される。急に首が圧迫されたので、今度はむせかえってしまった。
「その前に、やることがあるんじゃないか?」
「な、なんだっけ」
 サクヤは自分のモンスターボールを手に取ると、タツキの方に突き付けてきた。その表情からにもう陰りはなく、代わりに闘志がみなぎっていた。
「勝負だよ勝負。せっかくトレーナーになったんだ。記念すべき第一戦と行こうぜ」
「……あぁ、望むところだ!」

 タツキとサクヤは距離を十分にとって、お互いに向かい合った。タツキはベルトからモンスターボールを外し、握りしめた。手のひらには汗が滲んでいる。
「勝負とは言っても、完全に戦闘不能にしちまうのはナシだぜ! これから旅が始まるってのに、いきなりポケモンセンターまで引き返すのは情けないからな」
 サクヤが声を張った。タツキも大きく頷いて見せた。
「じゃあ行くぞ! 出ろ、イーブイ!」
「行ってくれ、ピカチュウ!」
 二人は同時にボールを投げた。サクヤのボールの中から現れたのはイーブイだった。ふさふさとした茶色い毛並に、大きな耳と尻尾を持つ四足のポケモンだ。
 対するタツキの側は、ピカチュウ。黄色の体に、ほっぺたには赤い電気袋。ギザギザの形をした尻尾は敵の気配を読み取るだけでなく、攻撃にも用いることができる。
 二匹とも、タツキたちがトレーナーの資格を取ったときに支給されたポケモンだった。
「先手必勝だ、イーブイ、体当たり!」
 イーブイが砂煙を巻き上げながらピカチュウに接近してきた。見たところ、あちらの方がやや馬力があるようだ。だが、力比べでは負けても、ピカチュウには素早さの点で利がある。
「ピカチュウ、回り込むんだ!」
 タツキの指示を受け、ピカチュウは地面を蹴った。ひとっ飛びでかなりの距離を移動し、あっという間に敵の死角に移動する。急にピカチュウの姿が見えなくなったので、イーブイは戸惑い、立ち止まってしまった。
「気をつけろイーブイ、ピカチュウは後ろだ!」
「今だ、電光石火!」
 今度はピカチュウが攻撃を仕掛ける番だった。自慢の脚力から生み出される推進力を利用した体当たりが、イーブイの体を真後ろから捉えた。茶色の体がはね飛ばされる。しかし――
「……あれ、効いてない?」
 イーブイは攻撃をものともしない様子で、空中で姿勢を直し、何事もなかったかのように着地した。タツキはすぐに原因に思い至る。
「尻尾で衝撃を吸収した?」
「ははは、見たか! これが奥義『ふさふさ尻尾ガード』だ!」
「絶対に今考えたでしょ、それ」
 調子のいいことを言うサクヤをたしなめ、タツキはもう一度、攻撃手順を練り直すことにした。
 このイーブイに対しては、死角である後方からの攻撃は通りにくいようだ。今回はこちらの攻撃を防がれただけで済んだが、次はさらに尻尾で反撃されるかもしれない。
「だったら横から攻めるしかないか。ピカチュウ、今度は横に回り込め!」
「そう来るのはバレバレだぜ。イーブイ、とにかく走り回れ!」
 敵から離れるように走るイーブイに、ピカチュウが追いすがる。素早さに差があるため、距離はどんどん縮まっていく。途中、イーブイがちらりと後ろを振り返った。電気ショックで足止めをしておいて、その隙に横から体当たりだ――。タツキがそう指示を出そうとした矢先、サクヤの声が飛んできた。
「そこだ、振り向いて頭突き!」
「何っ」
 急旋回したイーブイが、頭からピカチュウに突っ込んできた。勢いに乗っていたピカチュウは避けきれず、正面から頭突きの直撃を受けて弾き飛ばされてしまった。
「ピカチュウ!」
「とどめだ、尻尾でたたきつけろ!」
 イーブイが迫る。その目には勝ちを確信した色が浮かんでいる。ようやく起き上がったばかりのピカチュウには、防御も回避もする余裕がなかった。イーブイがその大きな尻尾を振りかぶった。タツキは思わず目を閉じた。やられる――!
「ストップ、ストーップ! そこまでだ、イーブイ」
 サクヤの大きな声が響いた。
 おそるおそる目を開くと、イーブイは尻尾を下ろし、心配そうにピカチュウの顔を覗き込んでいた。ピカチュウは体についた泥を払うと、イーブイに向かって照れ笑いをした。
 タツキはピカチュウの元へ駆け寄った。リュックから傷薬を取り出し、擦り傷になったところに塗ってやった。ピカチュウは傷に沁みたようで少し顔をしかめたが、薬を塗り終わると嬉しそうにぴか、と鳴いた。
 その間にサクヤも側にやって来て、イーブイをボールに戻した。
「最初に決めたろ? 戦闘不能にはしないって」
「あ、そうだったね。忘れてた」
「ルールを忘れるなよ……。それにしても、お前が目を閉じてどうすんだ。ポケモンはまだ戦ってるんだぞ。目をつぶるくらいなら、いっそ降参してやれよな」
「……ごめん」
「俺に謝ってどーする」
 タツキは傷口を気にしている様子のピカチュウを抱き上げた。
「ごめんね。僕、もっとしっかりするから」
 ピカチュウはきょとんとしていた。


 タツキとサクヤは、次の目的地であるトキワシティへと続く道路を歩いていた。初めは談笑していたが、しばらく経つと、どちらからともなく黙り込んだ。言葉のないまま二人は歩き続けた。
 分かれ道に差し掛かった。同時に足を止める。サクヤが先に口を開いた。
「さてと。ここから先は別行動だぜ」
「ねえ、サクヤ。本当に別れて旅するの? せっかく一緒に旅立つのに」
「ばーか。俺とおまえはライバルなんだぞ。ライバルってのは、馴れ合ってちゃダメなんだよ」
 その言葉を聞いて、タツキはなんだかくすぐったい気持ちになった。
「……ライバル、か」
「うむ、ライバルだ」
 また沈黙が流れた。風が吹き抜ける。
「ま、基本的に行き先は同じなんだ。途中の道は違っても、しょっちゅう会うことになるさ」
「そうだね。またトキワシティで会おう」
「あぁ、違う違う! 約束して会うもんじゃねーんだよ。しかも、それを言うなら『セキエイ高原で会おう』だろ? わっかんないかなぁ……」
 サクヤはやれやれと言わんばかりに首を横に振った。「ライバルかくあるべし」ということについては、彼なりのこだわりがあるようだった。
「とにかく! また会うことになったら勝負だからな。次はもっと楽しませろよ」
「うん。期待に沿えるようにがんばるよ」
「だから……まあいいか」
 タツキの返事にまだ不満があるようだったが、サクヤはそれ以上追及してこなかった。
「それとさ。もし旅の途中で姉ちゃんと会ったら、家に連絡くらい入れろって、伝えてくれ」
「わかってる」
「俺はこっちの道に行くぜ。じゃあな、タツキ!」
「うん、またね、サクヤ!」
 幼馴染と手を振り合ってしばしの別れを告げると、タツキも自分の道に向かって歩き始めた。
 その胸に少しの不安と、大きな希望を秘めて。