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  [No.1049] Hello, Mr.Painless 投稿者:レイニー   投稿日:2012/10/17(Wed) 00:02:49   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 痛い。

 辛い、怖い、寂しい、汚い、妬ましい、醜い、嫌い、憎い。

 どうして。どうしてこんなに私は痛いの。
 痛いなんてこと、あるわけないのに。どうして、どうしてこんなになっちゃったの。


 ああ、痛みなんてなければいいのに。


『だったらこっちへおいで。痛みのない世界へ。』



 ――Hello. Mr.Painless


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「そうだ、長編を書こう。」
というわけで見切り発車です。完全に。

【注意書き】
・予定は未定ですが、流血描写等々若干出てきそうな予感がしてます。
・情欲的な表現ももしかしたら出てくるかもしれませんが、多分そんなにはない予感です。
・真っ白ホワイティにはなりません。多分。
・見切り発車なので色々不安定です。生温かい目でお願いします。


  [No.1051] Episode1 in the dark forest 投稿者:レイニー   投稿日:2012/10/17(Wed) 23:58:00   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 丑三つ時の森の中。月光も星明りも雲に遮られた真っ暗な夜。彼女は今日も宙を彷徨う。
「あーあ、やっぱり街行かなきゃダメかー。だーれもいやしない」
 わかっちゃいるんだけどね、と彼女は呟き、くるりと宙を一回転。

 彼女の種族、ムウマは人間や他のポケモンを驚かせ、その際の感情エネルギーを摂取し生きている。そのため、生きるためには他の生き物と触れ合うことが不可欠となる。なかでも、人間は感情エネルギーの変動が激しいため、彼女らムウマが生きていくのには人間を驚かせるターゲットとするのが、最も効率がよい。
 しかし、ムウマが最も活動しやすい時間帯である深夜に、彼女が寝座としている深い森に人間などいるはずもない。
「面倒くさいんだよなー。今日はやめにしようかなー。でもそろそろ感情エネルギーも欲しいのよねー。木の実も飽きてきたし」
 ムウマは通常の食事によってもエネルギーを摂取することはできる。しかしその効率は感情エネルギーによるそれと比べるとかなり劣る。おまけに感情エネルギーは彼女らにとって美味らしい。感情エネルギーを摂取するのは、いろいろな意味で「美味しい」のだ。
「あーでもなー。悩む悩む」
 悩むと言っているわりにはそれほど悲観した様子のない声で独り言をつぶやきながら、またくるり。彼女にとってはエネルギー摂取も遊びの一つらしい。幸い、この森には木の実なら山ほどある。感情エネルギーが摂取できずとも飢えることはない。
「まあいっか。カゲボウズどもでも脅かしに行くか」
 木の実よかマシだし、とやっぱり独り言を呟きながら、彼女はふわりと移動を始めた。

 ゴーストポケモンたちの住処と化しているこの森だが、自然と種族ごとに縄張りが形成されている。少し離れたカゲボウズの集落へ、彼女はふわり、ふわり。
 と、遠くからコツリ、コツリと靴音が。人間だ。間違いない。
「あら、こんな時間にお客さん? ラッキー☆」
 心の声をダダ漏れにさせつつ、彼女はどうやって客人を驚かせるか策を練る。彼女がここに来るまでには考えなくちゃ。
 あれやこれと悪戯を思い描いていた彼女だったが、ふと異変に気づく。何かがおかしい。
「何……この気配。ただの人間じゃない……!」
 息を潜め、気付かれないように異様なオーラの元へ向かう。

 こっそりとオーラの近くへ向かい、物陰から様子を窺う。中心にいたのは一人の少女だった。いや、少女というには大人になりすぎているし、女性というには幼すぎる。微妙な年頃だ。
 そして、そこに連なる大量のカゲボウズ。この森に住んでいる奴らなのは間違いがない。見覚えのある顔ばかりだ。しかし、いつもとは明らかに違う。

「ウラミ、ネタミ、イッパイ、イッパイ。オイシイ、オイシイヨ」

「ちょっとこれ……。どういうことよ」
 あまりの状況にムウマの口からは驚きの言葉しか出てこない。
 ご近所住まいのカゲボウズ達が、みんな正気ではない。完全に個々の意思を失っている。ただただ、負のオーラにただ引き寄せられているだけで、それ以上でも以下でもない。
 そしてオーラの中心にいる人間。彼女がオーラの元だ。間違いない。しかし、負のオーラが一人の人間から発せられるものとしてはあまりにも膨大すぎる。でなければカゲボウズ達はこんなになってやしない。
「ねえ、ねえ、アンタたちどうしちゃったのよ!」
 馴染みのカゲボウズ達に声をかける。へんじがない。ただのにんぎょうのようだ。
 ムウマが驚きによる感情エネルギーを主食としているように、カゲボウズは負の感情エネルギーを主食としている。しかし、こんなのは初めてだ。負のエネルギーが強すぎて、それを取り込むはずのカゲボウズ達が精神を持っていかれるなんて。まるで麻薬だ。
「何かこれ……、ヤバいよ。ねえ、ねえってば! 目ェ覚ましてよ!」

 へんじがない。ただのにんぎょうのようだ。

 このままじゃ隣人たちがヤバい。とっさに感じとった彼女は、実力行使に出た。
「てええええええいっ! ばあっ!」
 カゲボウズ達を『おどろかす』。とはいえ、いつも彼女があの手この手を尽くして感情エネルギーを得る際のそれとは異なる。相手をひるませる攻撃技だ。威力は小さいが、驚かされたことによるひるみ効果は大きい技だ。
 そして、それだけで十分だった。ひるむことによって、カゲボウズ達は一瞬目を覚ます。しかし、再び引き戻されそうになるカゲボウズ達。彼らにムウマは声を投げつける。
「アンタたち、人間ごときに骨抜きにされちゃって! 何やってんのよ!」
 引き戻されそうになるカゲボウズ達がムウマの声に反応し、その自我を保つ。

「……お、オイラ一体何やってたんだ」
「美味しそうな匂いがするから飛んでったら、偉い目に会ったぜ……」
 自我を取り戻したカゲボウズ達が次々とつぶやく。その様子を見て安心するムウマ。
「オマエ、俺たちのこと助けてくれたのか? ありがとな」
 ムウマに言葉を向けたのはリーダー格のカゲボウズ。急に礼を言われたことに動揺しながら、ムウマは彼に言葉を投げつける。
「別に助けたわけじゃないわよ。正気に戻ったんだったら帰んなさい。あいにく私は負のエネルギーには反応しないから、アンタたちよりはどうにかできるでしょ」
 本当は安堵の気持ちがあるのに棘のある言葉が出てくるのは、褒められることに慣れておらず、とっさに素直になれない彼女の性質なのか。しかし、取り込まれた際に空腹を満たしてしまったせいなのかになっていたからなのか、カゲボウズ達は歯向かうことなく素直に住処へ戻って行った。
 そして、彼女と彼女、一匹と一人がそこに残された。


  [No.1095] Episode2 Who are you? 投稿者:レイニー   投稿日:2013/04/13(Sat) 00:13:04   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 相も変わらず光の差さない森の中。目の前に立つ人間を見ながら、ムウマは考える。
「……で、これからどーしよ」
 独り言のその声色は、先ほどまでとは打って変わって暗色を帯びている。カゲボウズ達には自分が何とかする……と思わず啖呵を切ってしまったが、実はその対処法は何も考えていなかった。ノープランだ。しかし、威勢のいいことを言ってカゲボウズ達を帰してしまった以上、自分ひとりでこの女性と対峙しなければならない。難題を目の前にすれば、いくら軽いテンションで生きているムウマでもため息をつかざるを得ない。
「……ま、アイツらがまた負のエネルギーにやられちまうこと考えたら、アタシ一人でどうにかする方がよっぽど楽なんじゃないかとは思うけどー」
 しかし何だかんだで切り替えが早いのもまた彼女。声色戻った独り言を呟きながら、くるりと宙を一回転。考え事をする時の彼女の癖だ。そして特に良いアイディアが浮かばぬままに、やれやれともう一言呟いた瞬間。
「生憎だけど、もう私、負のエネルギーなんて放出しないから」
 独り言のはずだった。だからまさか目の前の人間から返事が返ってくるとは思ってもみなかった。
「………………ええっ!? ちょっと何!! アンタ人間じゃないの!? なんでアタシの独り言全部丸聞こえなのよー!」
 盛大な独り言を聞かれていたムウマが慌てるのも無理はない。ポケモンの言葉を完全に理解する人間なんて、彼女の知識には存在しなかった。そして、実際のところそれが普通なのだ。ムウマの慌てっぷりにも動じず、彼女は淡々と理由を口にした。
「昔プルリルにやられたことがあってね。川渡る寸前まで行ったことあるの。それからよ。ゴーストの言葉がわかるようになったの」
 ムウマではなく、ぼんやりと遠くを見ながら彼女は語る。そして最後に一言、私もゴーストみたいなものってことかしら、とつけ加えた。
「いやアンタ、どー見てもれっきとした人間じゃん」
 彼女の言葉にツッコミを入れつつ、ムウマはその前に向けられた一言に気がついた。
「……って言うか、何が生憎よ! アタシ負のエネルギーなんて全然欲してないから。同じゴーストでもカゲボウズ達とは全然違うんだから!」
 ついちょっとムキになってしまうのは、自分たちを『ゴースト』と一緒くたにされてしまったためだろうか。

「でも、このねーちゃんがもう負のエネルギー出してないのは本当だぜ」
 そんな声が横から飛んでくる。声の主は一匹のカゲボウズ。先ほど一緒くたにされてしまった『ゴースト』だ。
「ちょ、何でアンタ出てきてんのよ! 危ないから帰ってなさいって言ったでしょ!」
「他の奴らみたいに、おめーにちょっと言われただけでそう易々と帰るかよ。いい獲物になるかもしれねーのに。……でも負のエネルギー出てないのは本当だぜ。おかげで強すぎるエネルギーに操られることもないけど、特に美味しくもないけどな」
 負のエネルギーに敏感なカゲボウズがそういうのだ。間違いないのだろう。しかし話の腰を折られたムウマはうんざりした顔で、全くもう、と一人ぶつくさ。

 そして。
「……で、アンタ名前なんて言うのよ」
「……え?」
 ムウマが次に発した会話は、彼女への突然すぎる質問だった。
「アンタの名前よ、ナ・マ・エ! ニンゲンは名前で個体判別するんでしょ?」
 一方的に喋りつつ、ムウマはふわふわと彼女に近づく。と思ったら急にそっぽを向いて、ムウマは呟いた。
「……正直、何か気になるのよ、アンタのこと。どー言ったらいいのかわかんないけど」
 威勢のいい彼女にしては珍しく、ぼそぼそと小声になっていた。

「……ユミ」
「……え?」
「ユミよ」
「…………そ、そうなの。覚えとくわ」
 自分から質問しておきながら、素直に返答が返ってきたのが意外だと思ってしまったようだ。ムウマは相変わらず、らしくなくぼそぼそと呟き続ける。そしてその質問はムウマ自身にも帰ってきた。
「あなたは?」
「え?」
「名前、ないの?」
「野良ポケモンにそんなものないわよ」
 ぷいっと顔をそむけながらムウマは答える。しかし声のトーンは徐々に戻っていた。

「で、ユミ、これからどうすんの?」
「今日は帰るわ。勢いでここまで来ちゃったけど、やっぱり夜を明かすなら家の中の方が快適だし」
 ユミはそう返して、もと来た道へと引き返そうとする。その時だった。
「……じゃあ、アンタの家連れて来なさいよ」
「……え?」
「……何度も言わせないでよ。アンタのこと、気になるの。だからここでアンタを一人で帰しちゃいけない。……そんな気がするの。二度と会えなくなりそうだし」
 何故かどことなく顔が赤く、声色は必死になってくる。そしてさらにダメ押しの一言。
「連れてかないって言っても付いてくんだからね!」
 ここまでくるとユミも諦めざるを得ない。付いてくる……いや、むしろ憑いてくると言う方が正しいかもしれない、そんなムウマを引き離すこともなく、彼女は黙って歩き続ける。そして。
「……で、何でアンタも付いてきてんのよ!」
「おめー一匹だと心配だしさ。それにいい獲物になるかもしれねーじゃん」
「何でアンタに心配されなきゃいけないのよ! このお節介野郎!」
 ムウマとカゲボウズ、二匹の『ゴースト』も、彼女を追ってふわりと飛び出した。