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  [No.1068] 第41話「マッドな教師」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/11/20(Tue) 07:42:53   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「お、マクラギ先生いたか」

「そちらは確かテンサイ殿か。私に何か御用かな?」

 4月7日の水曜日、午後。今日は始業式と入学式だけで、昼から生徒は部活や勉学に精を出している。気温も順調に上がり、春風が心地よい。花開いた桜がたなびくのを眺めるのも趣がある。

 そんな中、俺は生物教室に足を運んでいた。新任のマクラギ先生を呼ぶためだ。新任と言ってもヘッドハントされた逸材らしいが。そいつは古ぼけた白衣に上下真っ黒なスーツとズボンを着用している。おかげで、ピカチュウを彷彿とさせるネクタイがよく映える。体型はごくごく平均的だが、首を見る限り鍛えられているようだ。頭髪はスーツと同じ色で、くせが無いストレートである。

「ああ、しばらくしたら会議が始まるから連絡に……何読んでるんだ?」

「これのことですかな。『現代訳シンオウ神話』という本ですが、非常に興味深い内容なのでね。仕事が済んだら読んでいるのですよ」

 俺はマクラギ先生の読んでいる本を尋ねた。一体いつのものか分からない程のハードカバーだが、神話か。俺はどうしても敬遠してたな。単なる物語として見れば面白いのだが、勝手に解釈して物知り顔で語る奴らが多いし。特に物書きには、これを取り入れさえすれば上手い作品ができると思っている野郎がわんさかだ。……おっと、つい熱くなっちまった。俺はマクラギにまた質問をした。

「神話か。つまりマクラギ先生は単なる教師ではなく……」

「そう、科学者なのですよ! これだけの説明で感付く方がいるとは驚きです。ではあなたも?」

 マクラギ先生の俺を見る目が様変わりした。科学しか知らない科学者なんてそうそういないからな。いたところで大成しないわけだが。

「まあそんなところだ。生物の担当ってことは専門もそれなのか?」

「ええ。特に超人力の研究をしていますよ」

 マクラギ先生は胸を張って答えた。……なんだ、俺は何か聞き違いでもしたのか? 全く聞き慣れない語句が飛び出してきたぞ。少しは他分野の勉強もしていたつもりだが、最先端の話題なのかね。

「……超人力? 超能力のことじゃなくてか?」

「超能力ではありません、超人力です。超能力では曖昧な上に語弊がありますので私は超人力と呼んでおります」

「ふむ、なるほど。超人力というからには、人力を超える力のことか?」

「その通り。人の限界を超えた位置にある能力者の存在と、彼らの心身を研究するのが私のフィールドです。これは世界で私だけがしている研究であり、故に世界をリードしているのは私なのですよ」

 マクラギ先生は不敵な笑みを浮かべながら述べた。声は何かを押さえているかのように震えている。オンリーワン、か。しかし、鵜呑みにできる内容ではない。

「……そりゃ、普通信じないからな、そんな力。根拠はあるのか?」

「ふっふっふ、それくらい計算済みですとも。根拠はシンオウ神話にあります。かつて人はポケモンと結婚していたという記述がありますが、人とポケモンの間に子供ができたとしたらポケモンの能力を受け継ぐ可能性もあるはずです」

「しかし、人はポケモンとは……」

「そう、人とポケモンは今でこそ分けられています。しかし、昔からそうだったとどうして断言できるでしょうか? 私は、太古の人はポケモンの一種であったと信じているのです。ポケモンには『タマゴグループ』という、タマゴを作れる組み合わせが存在します。人がそれらのいずれかに属しているとしたら……。それを証明するのが能力者の存在なのです。これらは言わば両輪なのですよ」

 マクラギ先生は表情を変えず、しかし語気を強めながらまとめた。つまり、ポケモンの能力を受け継いだ人の存在が人のポケモンたる所以となる。反対に、人がポケモンの一部ならその能力を受け継ぐってことだな。どちらの証明が楽かと言われたら、前者だろうな。まあ、この考えが本当に成り立つならの話だが。

「にわかには信じがたい説だが、夢があって良いな」

「いやはや、これは夢でもなんでもありません。あなたやあなたの周りにも、能力者がいる可能性はありますからね。もしその兆候が表れましたら、すぐに教えてください」

「それは構わないが、外に漏らすつもりじゃあるまいな?」

「その辺はご心配なく。能力者の存在が世に知られれば、彼らは忌み嫌われ、迫害されるでしょうから。決して能力者は、マイノリティなどではないのですがね」

 ふむ、やはり単なる科学者じゃねえな。自らの研究で見境なくなる男ではなさそうだ。風貌は30手前くらいだってのに、大した奴だぜ。

「おっと、話し込んでしまいました。そろそろ会議に行きましょうかね」

「ああ、そうだな」

 俺は部屋の時計を確認した。会議まで3分か。さっさと行って準備しないとな。俺はマクラギ先生と共に、職員室に急ぐのであった。



・次回予告

おい、こいつぁどういうことだ。あからさまな嫌がらせだろこれ。……いや、そんなのはいつものことだ。ならば平常通り、抜け道を見つけて悔しがらせるか。次回、第42話「働かざる者食うべからず」。俺の明日は俺が決める。


・あつあ通信vol.106

皆さんは超能力、あると思いますか? 私はあるとは思いません、少なくとも『自分は超能力を持っているかもしれない』などとは期待できないくらいに。それこそ才能に期待する方がまだマシです。しかしながら現実にはそうした能力者がいることがメディアを通じて知られています(ヤラセ臭いものも多々ありますが)。そういう神秘的な話もポケモンと絡められれば素敵ですよね。もっとも、神話を話の核に置くのは大嫌いなので科学的な面も多いに取り入れたというわけです。その辺については別の機会にでもお話しますね。


あつあ通信vol.106、編者あつあつおでん


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