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  [No.1087] 【再投稿】桜の散った日 投稿者:レイニー   投稿日:2013/03/12(Tue) 22:50:11   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:洗濯日和】 【抱きしめた】 【再投稿】 【ジュペッタ】 【※文章は2011年4月当時のままです

定時に帰れるなんて、いつぶりだろう。
そんなことを考えながら、疲れた体で今日も家路をたどる。

何気なく遠くを見てみると、夕空には月が昇りつつある。
そして手前には桜の木。しかしその桜はいつの間にか、美しき花びらをすっかり落としてしまっていた。
……あ、そういえば、今年お花見し損ねた。
満開になるのはまだまだ先だと思ってたのに、気がついたらもうこんな季節になってたのか……。

桜の一番美しい時期を忘れるほど目まぐるしかった、ここ最近の日々。
ここ最近は一大プロジェクトに関わっていたため、ほとんど休む暇もなく働く日々。終電ギリギリまで働き、家には寝に帰るだけ。……寝に帰る体力すらなくて、会社で夜を明かしたことも何度かあったっけ。
そして今日、そのプロジェクトが、ひと段落ついたのだ。
もちろん、まだひと段落であって、これからも仕事は続くけど。

帰る時間がいつもよりだいぶ早いとはいえ、自炊をするだけの気力もなく、途中のセブンエレブーで380円のお弁当を買って、私はさらに家路をたどる。
歩きながら、このひと段落でできた休みをどう使おうか、ぼんやり考えてみた。が、何がしたいとか、出てこなかった。頭の中に思い浮かぶのは「何もしない」ことばかり。

そんなことを考えていると、いつの間にか、アパートに帰りついていた。
鍵を開け、真っ暗な部屋に明かりをともす。
明るくなったいつもの部屋は、何となくいつもより広く見えた。

がらんとした静かな部屋で、電子レンジで暖めたお弁当を食べながら、ふと思う。

……このプロジェクト自体、もう終盤にさしかかっている。
ここしばらくは、必死にこの仕事に打ち込んできた。
この仕事が終わったら、私、どうなっちゃうんだろう……。

前は、休みになると、映画を見たり、旅行に行ったりしてたけど。
あの頃から、ふとした時に忘れたい何かを思い出してしまうことが度々あって、休みが来るのが怖くなった。
だから、仕事に打ち込んだ。
この一大プロジェクトに志願したのも、自分からだ。
余計なことを考える暇がないくらい、仕事で充実した日々になることが、わかっていたから。

確かに、この仕事が終われば、また新しい仕事が来る。
事実、今回のプロジェクトで、私は身を投げうって仕事に取り組んだだけあって、成果を上げていて、上司からの評価も上がっている。また大きな仕事が来るだろう。
それが終わったら、また仕事。
それが終わったら、また仕事。

でも、本当にそれでいいの……?

逃げるように仕事に取り組んでいたら、いつの間にか、休み方が、わからなくなっていた。

そして、そんな状態になった私は、仕事からたった束の間離れた今でさえ、無性に感じてしまったのだ。

私、一人なんだ……。

そう。
前は、一人でも平気だった。
でも、あの日から、一人でいることが辛くなってしまったのだ。
つい、あのことを思い出してしまいそうで……。

でも、このまま、一人でいいの……?
このままずっと仕事に打ち込んで、それだけの生活で?

目に留まったのは、ヒメグマのぬいぐるみ。
一人暮らしの私の、唯一の同居人、ヒメちゃんだ。
寂しくて、寂しくて、ヒメちゃんのことを前みたいに抱きしめたくなって。

でも。
ここで、抱きしめてしまったら、また思い出してしまうかもしれない。
そうしたら、また逆戻りだ。

寂しい。
どうしようもなく寂しい。
誰かに、そばにいてほしい。
その誰か。……いったい誰?

もう、あの人のことは忘れたはず。忘れたはず。
でも……。

いろんな思い出がフラッシュバックして、私は、「また」ヒメちゃんをゴミ箱に放り投げそうになった。
それが二度目であることを思い出したのは、投げようとしたとき、ヒメちゃんにつぎはぎを見つけたからだ。
そうだ、確かあの時ジュペッタが……。


以心伝心というのは、起こるものかもしれない。
そのとき、私は思った。
ヒメちゃんを以前に捨てた時のことを思い出し、ふとベランダを見ると、そこに、また、あのジュペッタがいたのだ。
ゴーストポケモンだから、夜の散歩とでもいったところだろうか。

「おいで。」
衝動的に、私は、彼を呼び入れていた。
彼は、何も疑問に思うことなく私の部屋へやってきた。
人なつこい、マイペースな性格なのは、以前の件で知っている。
純粋なその笑顔に、私はただただ癒され。そして、その優しい顔を見ると、私の中で、何かがはじけ飛んで。

「お願い。しばらく、一緒にいてくれないかな……?」

とにかく、今の私には、仕事以外の拠り所が欲しかった。
愛を注ぎ、また愛してくれる誰かが。
そんな私の事情をわかっていないだろうジュペッタは、きょとんとした顔で、こちらを見上げていた。
それがどうしても愛おしく。
そして、彼の笑顔の奥深くから、彼を育てた青年の顔が呼び起こされ。

私は、気がついたら、彼を抱きしめて、大声で泣いていた。


---

発掘ついでにこちらも再投稿。
てこさんの作品(ログ消失)を見て、思わずジュペッタ抱きしめたくなって書いたものだった記憶が。
気に入らなくて書き直そうと思ったまま結局放置してましたが、一度公開してるものだしいいやと思って勢いで。
また桜の時期がやってきたので、新しいの書きたいな……なんてこともぼんやり思いつつ。
勢いあった若い頃が我ながら羨ましいです。でもめげない。


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