マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1095] Episode2 Who are you? 投稿者:レイニー   投稿日:2013/04/13(Sat) 00:13:04   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 相も変わらず光の差さない森の中。目の前に立つ人間を見ながら、ムウマは考える。
「……で、これからどーしよ」
 独り言のその声色は、先ほどまでとは打って変わって暗色を帯びている。カゲボウズ達には自分が何とかする……と思わず啖呵を切ってしまったが、実はその対処法は何も考えていなかった。ノープランだ。しかし、威勢のいいことを言ってカゲボウズ達を帰してしまった以上、自分ひとりでこの女性と対峙しなければならない。難題を目の前にすれば、いくら軽いテンションで生きているムウマでもため息をつかざるを得ない。
「……ま、アイツらがまた負のエネルギーにやられちまうこと考えたら、アタシ一人でどうにかする方がよっぽど楽なんじゃないかとは思うけどー」
 しかし何だかんだで切り替えが早いのもまた彼女。声色戻った独り言を呟きながら、くるりと宙を一回転。考え事をする時の彼女の癖だ。そして特に良いアイディアが浮かばぬままに、やれやれともう一言呟いた瞬間。
「生憎だけど、もう私、負のエネルギーなんて放出しないから」
 独り言のはずだった。だからまさか目の前の人間から返事が返ってくるとは思ってもみなかった。
「………………ええっ!? ちょっと何!! アンタ人間じゃないの!? なんでアタシの独り言全部丸聞こえなのよー!」
 盛大な独り言を聞かれていたムウマが慌てるのも無理はない。ポケモンの言葉を完全に理解する人間なんて、彼女の知識には存在しなかった。そして、実際のところそれが普通なのだ。ムウマの慌てっぷりにも動じず、彼女は淡々と理由を口にした。
「昔プルリルにやられたことがあってね。川渡る寸前まで行ったことあるの。それからよ。ゴーストの言葉がわかるようになったの」
 ムウマではなく、ぼんやりと遠くを見ながら彼女は語る。そして最後に一言、私もゴーストみたいなものってことかしら、とつけ加えた。
「いやアンタ、どー見てもれっきとした人間じゃん」
 彼女の言葉にツッコミを入れつつ、ムウマはその前に向けられた一言に気がついた。
「……って言うか、何が生憎よ! アタシ負のエネルギーなんて全然欲してないから。同じゴーストでもカゲボウズ達とは全然違うんだから!」
 ついちょっとムキになってしまうのは、自分たちを『ゴースト』と一緒くたにされてしまったためだろうか。

「でも、このねーちゃんがもう負のエネルギー出してないのは本当だぜ」
 そんな声が横から飛んでくる。声の主は一匹のカゲボウズ。先ほど一緒くたにされてしまった『ゴースト』だ。
「ちょ、何でアンタ出てきてんのよ! 危ないから帰ってなさいって言ったでしょ!」
「他の奴らみたいに、おめーにちょっと言われただけでそう易々と帰るかよ。いい獲物になるかもしれねーのに。……でも負のエネルギー出てないのは本当だぜ。おかげで強すぎるエネルギーに操られることもないけど、特に美味しくもないけどな」
 負のエネルギーに敏感なカゲボウズがそういうのだ。間違いないのだろう。しかし話の腰を折られたムウマはうんざりした顔で、全くもう、と一人ぶつくさ。

 そして。
「……で、アンタ名前なんて言うのよ」
「……え?」
 ムウマが次に発した会話は、彼女への突然すぎる質問だった。
「アンタの名前よ、ナ・マ・エ! ニンゲンは名前で個体判別するんでしょ?」
 一方的に喋りつつ、ムウマはふわふわと彼女に近づく。と思ったら急にそっぽを向いて、ムウマは呟いた。
「……正直、何か気になるのよ、アンタのこと。どー言ったらいいのかわかんないけど」
 威勢のいい彼女にしては珍しく、ぼそぼそと小声になっていた。

「……ユミ」
「……え?」
「ユミよ」
「…………そ、そうなの。覚えとくわ」
 自分から質問しておきながら、素直に返答が返ってきたのが意外だと思ってしまったようだ。ムウマは相変わらず、らしくなくぼそぼそと呟き続ける。そしてその質問はムウマ自身にも帰ってきた。
「あなたは?」
「え?」
「名前、ないの?」
「野良ポケモンにそんなものないわよ」
 ぷいっと顔をそむけながらムウマは答える。しかし声のトーンは徐々に戻っていた。

「で、ユミ、これからどうすんの?」
「今日は帰るわ。勢いでここまで来ちゃったけど、やっぱり夜を明かすなら家の中の方が快適だし」
 ユミはそう返して、もと来た道へと引き返そうとする。その時だった。
「……じゃあ、アンタの家連れて来なさいよ」
「……え?」
「……何度も言わせないでよ。アンタのこと、気になるの。だからここでアンタを一人で帰しちゃいけない。……そんな気がするの。二度と会えなくなりそうだし」
 何故かどことなく顔が赤く、声色は必死になってくる。そしてさらにダメ押しの一言。
「連れてかないって言っても付いてくんだからね!」
 ここまでくるとユミも諦めざるを得ない。付いてくる……いや、むしろ憑いてくると言う方が正しいかもしれない、そんなムウマを引き離すこともなく、彼女は黙って歩き続ける。そして。
「……で、何でアンタも付いてきてんのよ!」
「おめー一匹だと心配だしさ。それにいい獲物になるかもしれねーじゃん」
「何でアンタに心配されなきゃいけないのよ! このお節介野郎!」
 ムウマとカゲボウズ、二匹の『ゴースト』も、彼女を追ってふわりと飛び出した。


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