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  [No.1151] 薄馬鹿下郎のYOU討つ 1 投稿者:烈闘漢   投稿日:2014/01/13(Mon) 11:42:46   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※『悪徳勝法の馬鹿試合』のつづきです。










薄馬鹿下郎のYOU討つ
       1









「お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」

ジョーイさんからモンスターボールを返して貰うなり、
シオンはすぐにボールを額で割り、ポケモンを召喚した。

「またいつでもごりようくださいませ」

ジョーイさんの決まり文句をないがしろにし、
シオンはポケモンセンターを後にする。

雌のピカチュウを頭に乗せて歩くシオンの後姿は、
見る者達の心に主人公の真似事をする小学生を連想させるのだった。



迅速に行動しなければならない!

ポケモンセンターから急いで離れ、トキワの町を闊歩する。

シオン、現在、一文無し。
早いうちに資金を稼がねば今宵の晩飯を確保できない。
腹が減れば減った分だけ気力が無くなり、金を稼ぐのも困難になるに違いない。
その先に待つのは飢え死にのみ。
ピチカと共にゲッソリとやつれていき、
十五歳という若さで自分は死ななければならなくなってしまうのだ。

死ななければならなくなってしまうのだ!

恐怖を前にし、焦った気持ちがシオンの歩く速度を増していく。
気力がなくなり何も出来なくなる前に、出来るだけ稼いでおかなければならない。
太陽は未だてっぺんに在るが、余裕を味わう暇があったらさっさと行動するに限った。

稼ぐ手段は唯一つ。
ポケモンバトルで勝利し、賞金を獲得し、それで生計を立てていく。
ポケモントレーナー本来のあり方でもあり、シオンの目指すところでもあった。

金が欲しけりゃ勝つしかない。
勝ちたければ、確実に勝てる闘いをしなければならない。
確実に勝てる闘いをしたければ、自分よりも弱い対戦相手を見つけるしかない。

弱い物いじめをするしかない!

黙って待ってたって、わざわざ負けにやって来るトレーナーなんていない。
こちらから勝負を仕掛ける。それ以外ない。
自ら闘いの渦中へと身を投じねばポケモントレーナーとしてやってはいけない。

自分は今から金の亡者になるのだ。
金のために無慈悲で狡猾な悪魔になるのだ。
知略を振り絞れ。心を鬼にしろ。残虐非道の限りを尽くせ。

そして、間抜けな雑魚トレーナー共を食い物にしてやる!

馬鹿共の生き血をすすり、己の懐を潤い満たすのだ!

いつの間にか、シオンは血走った目をして走っている真っ最中であった。



首の痛みが気になり始めた頃、
シオンは肩で息をしながらフラフラとトキワの町をさまよっていた。
ピチカを頭から肩に移動させ、頭が凄い軽くなると、
もっと早くにそうしておけばよかったとヘトヘトになって後悔した。
酔っ払いのような千鳥足で路上を漂っているうち、
お目当ての施設を発見し、ようやくシオンは足を止める。

巨大な丸太が敷き詰められた外壁、
そして深緑色の巨大な屋根はサッカー場を山折りにしたみたいに広がっている。
さながらログハウスの大豪邸であった。

「えーっと……トレーナーハウス。ここだな」

入り口ドアの上に掛けられた看板を確認すると、
シオンはトレーナーハウスへと乗り込んだ。



いともたやすく正面から侵入出来たことも含めて、
このトレーナーハウスとやらは恐らく公共施設なのだろう。
などと予測しつつシオンは廊下を進んだ。
通路の果てで重そうな木製の扉に当たり、
ドプァッと開くと、明るくてやかましい場所に飛び出した。

群がりうごめく蟲の如く、人々が集まり、ウジャウジャとひしめきあっている。
レストランのように幾つかの席が設けられた多目的ホールであるらしく、
シオンの脳内で、お祝いにやってきた部外者の多すぎる結婚式の披露宴を連想させた。

トレーナーハウス。
文字通りポケモントレーナーの巣窟であり、
闘いと賞金に飢えた連中の集うところでもあり、
ここにいる全員がシオンの敵でもありライバルでもあった。

老若男女の誰しもが、至るところでワイングラスを片手に明るい談笑を繰り広げている。
しかし、それらが全てカモフラージュであるとシオンは勘付いていた。
ポケモンバトルは情報戦。
既に腹の探り合いが始まっているのだ。
ここのトレーナー達の誰しもが
顔面にうすら寒い笑顔を張り付けていたが、
その三日月に象られたまぶたの向こう側には、
獲物を狙う野獣の眼光がギラついている。
人懐っこそうなソトヅラとは裏腹に、
内心では牙を研いで
目の前の相手を喰い殺す機会をうかがっているに違いないのだ。
思いのほか、飛び交う殺気で空気がピリピリ張り詰められているような気がした。

トレーナー達の真っ黒い雑談が耳障りではあったが、
小奇麗でいかにも金のかかった感じのする空間を前に、
シオンは内心ワクワクしながら周囲キョロキョロと見渡した。

無数の火を揺らす数匹のシャンデラ達が、天井から紫色の光で室内を満たしている。
アップテンポなクラシックと、モモンの実の仄かな香りがどこからともなく漂ってくる。
磨き抜かれた明るい樹の板張りが床に壁にと敷き詰められている。
あまりにも美しく、清潔で、自然とは随分かけ離れた空間であり、
なんとなく都会のおもむきがあるなあ、とシオンはしみじみ思った。


「お客さぁん。あんまり挙動不審な態度をとらないでいただけますか? つまみだしますよぅ」

突発的に投げかけられたのは、甲高くて愛らしい女性の声だった。
ほんの少しの期待を寄せて、シオンはくるりと振り返る。
マタドガスみたいな顔の女がいた。

「うわあああ! 出たああああ! 妖怪ポケモン人間だあああ!」

「んだとこのヤロー! 喧嘩売ってのかオラァ!」

声が可愛すぎて全く凄みのない怒声の恐喝が返ってきた。

「アンタこそ何よ、その顔は!
 福笑いみたいな面しちゃってまあ! この、あべこべフェイス!」

「な、なんてことを言うんだ! 俺はただ見たまんまを……」

シオンが引くと、女は眉間にしわを寄せて前のめりになった。
その時、ようやく気が付いた。
天井のシャンデラに照らされて、女の色白の顔が紫色に染まって見えるのだ。
さらに女の御団子ヘアが相まって、余計にマタドガスっぽく見える。

「すっ、すんませんでした!
 いきなりだったんで、その、目の錯覚だったみたいです……」

「けっ! 昨日はベトベトンで、今日は妖怪呼ばわりか。
 アンタ、次は気ぃつけろよ」

女は疲れたような顔をし、吐き捨てるようにして言った。

「あの、ひょっとしてここの職員さん? ……ですよね?」

恐る恐るシオンは訪ねる。
他の誰しものカラフルな私服に対し、女は黒いスーツ姿であった。
『お客さん』呼ばわりされた事実も相まって、
シオンは女がここで働く人間なのだと確信している。

「ええ、まあ、職員さんといえば職員さんですけど何か?
 ……じゃないや。えっと、で、本日はどういったご用件で?」

威圧的な口調を従業員用に変え、女は真顔になって問う。

「俺はポケモンバトルがやりたいです。だから対戦相手を探してほしいです」

「まっ、そらそうよね。それ以外でここに来る理由なんてないもんね」

女はおもむろに、側にあった席に腰かけ、
脇と二の腕に挟んでいたらしいノートパソコンを机に広げ、電源を入れた。
女に合わせるように、シオンもまた向かいの席に座りこんだ。

「トレーナーカード。見してもらえる?」

女に手を差し伸べられた。
透き通るように白い肌……おかげで綺麗な紫の手の平をしていた。
シオンは、一円玉すら入ってない軽い財布をポケットの底から引っ張り出し、
そこからトレーナーカードを引っ張り出し、女に手渡した。

「どうぞ」

「どうも」

思った通り、すべすべした肌触りの手の平だった。

――スタンッ! スタタンッ!

突如、女は豹変したかのように、キーボードをぶっ叩き始めた。
その美しく可憐な指先は、全速力で稼働するミシンの如く、激しく苛烈に踊り狂っていた。
トレーナーカードのIDやら、パソコンのパスワードやらを打ってるのだとシオンは推測する。

――スタンッ! ターンッ! シュタタタタタタッタッ!

……そこまで長いIDナンバーではなかったはずだ。
指圧の嵐が治まると、女は何食わぬ顔でシオンの方を向いた。

「それで? 本日は、どういった対戦相手がお望みです?」

「出来るだけ多くの金を払ってくれるトレーナーを……とにかく金の儲かるバトルがしたいんです」

シオンは空っ欠の財布を握りしめ、言った。
女は光るディスプレイを血走った双眸で食入るように凝視し、
そしてマウスを動かした。

――カチッ! シュコー! カティカティカティッ! シュコー! シュコー! 

左クリックの乱打に交え、縦横無尽にマウスが動き回る。
大胆かつ繊細、大雑把なのに流麗、
無茶苦茶な軌跡で走らせるマウスさばきに、一瞬シオンは魅入ってしまった。

「……はっ? えっ? マジ? 何これ?」

素っ頓狂な声が上がり、女の右手は止まっていた。

「何かありました?」

「うん、あった。賭け金が、えっと……四十九万九千九百九十九円のトレーナーがいる」

「……は?」

一瞬、シオンは何と言ったのか理解できなかった。
それとも聞き取れなかっただけだろうか。
呪文でも唱えだしたのかと錯覚すらした。

「だからさ、もしも勝てたら、
 四十九万九千九百九十九円が手に入るポケモンバトルが出来る
 ……みたいだけど、どうする?」

女の顔が、スーッと、こちらを向く。
三白眼で物凄く角度の下がったたれ目
……確かに眼つきだけならマタドガスやベトベトンに似ている。
ぽかんと口を開け、固まった女の表情は、大金の衝撃を物語っていた。
手を伸ばすだけで、貧乏脱出どころか大金持ちになれる。
シオンの胸の高鳴りは、自分の鼓膜にまで届いていた。

「やる! 俺、それ、やる!」

「あん? アンタ正気?」

「おう! 俺、そのトレーナーとポケモンバトルをやるよ!」

やや興奮気味になった。シオンのボルテージがあがっていく。

「やったぁ、ド貧乏かと思ったけど、まさか一瞬で金持ちになれるなんて……」

と、シオンはニヘラニヘラと薄気味悪い笑みを浮かべ、天井を見上げる。

「ねえ、お客さん。四十九万九千九百九十九円って、どういう額か知ってる?」

「ああ、知ってますよ。凄い大金ですよね」

「そうなんだけど、そういうことじゃなくてさぁ。
 所持金として許されてる金額の上限いっぱいが、九十九万九千九百九十九円。
 だから、四十九万九千九百九十九円っていうのは、賭け金にして最大の金額。
 この賭け金で勝利したら、後1円で財布パンパンになる計算なの。分かる?」

「分かります! そりゃあ凄い!」

「凄いじゃなくって! ああん、もうっ!」

まだるっこしそうな声が出る。
女は物凄い嫌がっていそうな表情をしていたが、
それでも女はシオンに言い聞かせるようにして向き合った。

「いい。それだけの大金を賭けるってことは、
 それだけバトルの腕に自信のある強いトレーナーだってこと。分かる?
 勝てるだなんて、都合のいい妄想してる所わるいんだけど、間違いなく負けるから」

「ええ、そのくらい予想ついてますよ」

「あぁ、そう。意外。
 それじゃ、アンタ……じゃなくて、お客さまが負ける可能性がほとんど百パーセントで、
 しかも負けたらお客さん……じゃなくて、
 アンタは四十九万九千九百九十九円支払わなきゃならない。分かってる?」

「そのことなら問題ないですよ」

「どうして?」

「だって俺、所持金ゼロ円ですから」

おもわずシオンはほくそ笑んだ。俗に言うドヤ顔である。
持ってない物は奪われない、という安心感がシオンにはあった。
女はポカンと口を開け、眉間にしわを寄せ、
汚い物でも見るかのような嫌悪感にまみれた表情で固まってしまっていた。
それから侮辱するかのようにして鼻で笑った。

「そう。ああ、そう。分かった、君馬鹿なんだ! ああ、そっかそっか、そういうことなんだぁ……」

一人納得したようにつぶやく。その後、女の眉毛がキッとつり上がった。

「アンタ調子に乗りすぎ。いっぺん地獄で診てもらった方がよさそうね」

再び女はパソコンと向き合い、
――シュビビン! スタタタッ!――
と両手を駆使してパソコンを打ち鳴らした。

「もう後悔しても遅いからね。どうなっても知らないから」

「えっと……一体何を?」

女が手を止め、シオンをにらむ。

「四十九万九千九百九十九円のトレーナーとポケモンバトルが決まったから」

「よっし! それで、対戦相手は? どんな人ですか?」

「何でそんな嬉しそうに出来るわけ?」

シオンの笑顔を眺め、呆れ果てたみたいな顔つきで女は訊いた。

「要は勝てばいいんですよ。負けなきゃ俺に被害はない」

「何、その自信? どっから来るわけ?」

「その自信をこれから作るんですよ。絶対に勝てると思える状態に仕上げるんです。
 そのためにも、誰が対戦相手なんですか? さっさと教えて下さいよ」

「はぁ〜」と、重いため息をついてから、女はディスプレイに向き直る。
馬鹿の相手に疲れてしまったのだろう、とシオンは勝手に予想した。

「アンタの対戦相手の名前は、ヤイダ・ドモン」

「……ん? ヤイダ・ドモンってトレーナーの名前ですか?
 それは一体、どっちが苗字でどっちが名前です?」

「知らない。でも、彼、『ダイヤモンド』って愛称で呼ばれてる。
 シンオウじゃかなりの有名人みたいだけど」

「ちょ、ちょっと待って下さい! あの、ダイヤモンドって……」

「何? 知ってるの?」

「ダイヤモンドって、六文字じゃないですか!」

つい大声で叫んでしまった。
シオンは今、目的を忘れるほどのショックを受けていた。

「ひょっとして知らない?
 つい最近……二千十三年十月十二日くらいからは六文字もオッケーなんだってさ」

「マジですか」

「まじです」

信じられなかった。
四十九万九千九百九十九円以上の衝撃だった。
ポケモン世界で生まれ育ったシオンにとって、五文字以上の人名の想像が出来ない。
十五年の人生の全てを覆す新事実であった。

「それからバトル形式はタイマン……じゃなくて一対一ね。
 場所は、ここ。今日の夜七時までにトレーナーハウスに来て。
 それから……以上なんだけど、なんか質問とか文句とかあったら言って」

「……あ、いや、特に、ないです」

半ば放心とするシオンは、上の空で話を聞き流す。
六文字の衝撃に、シオンは未だ茫然自失となっていた。

「ねえ。本当にバトル、勝てるわけ? 絶対無理だと思うんだけど」

「いや、そのことについては放っといて下さい。全く問題ないですから」

「でもアンタ、大して強いトレーナーじゃないっしょ? 見るからに才能なさげな感じだし」

「そういう風に見られても仕方ないですね。
 昨日トレーナーになったばかりの新米トレーナーですから」

「だったら尚更だ。
 さっきから問題ないっていうけどさ、やっぱ夢見がちなだけじゃないの?
 今からなら取り消せるよ。引き返すのだって勇気じゃん。
 やるなら弱いトレーナーからでいいじゃんか。私、探すよ。アンタにでも勝てそうなトレーナー」

年上のお姉さん特有の優しさを与えられたみたいになって、
ついシオンの胸がときめいてしまった。
しかし、甘えたくなる気持ちを振り切る。

「あの、心配とかしなくて結構なので。俺、勝ちますから。
 全部あなたのおかげです。本当にありがとうございました。それでは」

「いや、だから、ちょっと待ってってば。何なの? アンタのその自信は一体どこから」

「俺は思うんです。
 相手が強いトレーナーだとか、強いポケモンだとか、
 ポケモンバトルの前ではそんなの些細な問題に過ぎない、って」

それからシオンは、強く、ゆっくりと、女の脳に刻みつけるようにして言った。

「ポケモンバトルはトレーナーの二人が向かい合った地点で、既に勝敗が決している。
 つまり、今から俺は、今日の夜の七時までにダイヤモンドと決着を付けないといけません」

手首のポケギアに目を落とすと、デジタル数字で十四時を示していた。

「じゃ! 急いでますので!」

シオンは素早く席を立って、そそくさとその場を離れていく。

「ちょっ、ちょっと待って!」

呼び止めようとする女の声を聴こえなかったことにした。
シオンは逃げるようにして、トレーナーハウスを後にするのだった。





つづく


















後書
どっかで見たことあるような造語を二つ混ぜたに過ぎないのに、
私のうぜぇドヤ顔が目に浮かぶようなタイトルでございますが、
実はタイトルと内容とは全く関係がなかったりします。
ただ読者の目を引くインパクトを欲しいがために、
つい目立つ題名にでっち上げちまった、というわけです。


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