マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1180] WeakEndのHalloWin 1 投稿者:烈闘漢   投稿日:2014/08/10(Sun) 15:14:12   28clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

WeakEndのHalloWin
        1







モンスターボールで山盛りになったカゴを並べ、
きずぐすりの入った霧吹きを補充し、
生温くなったおいしいみずを棚に詰め込んで、
包装されたオレンの実のドライフルーツや
缶詰のポケモンフーズ等を押し入れたりして、
狭い店内の陳列棚を彩っていく。

それから真っ白な床をモップで磨く。
カウンターも磨く。
ガラス張りの壁もピカピカに磨く。
ふと、綺麗になった透明なガラスに、シオンの顔が映った。
少しやつれているように見えた。
生気の抜かれた顔面の向こうで、鮮やかな青空がどこまでも広がっている。
こんな天気の良い朝に、店内にこもって、一人さみしく掃除をしている。

「何をやっているんだ、俺は……」

大金を賭けたポケモンバトルでダイヤモンドに敗北したため、
オウへの借金返済のためにフレンドリィショップでアルバイトをしている。
青いエプロンを身につけ、客足のない店内でせっせと真面目に働いている。

ばかみたいだった。

どうしてポケモントレーナーであるはずの自分が、今、
ポケモンバトルのことで一生懸命になっていないのか。
こうしてる間にも世界中に潜む同年代のポケモントレーナー達が
ポケモンバトルの実力をメキメキ上昇させているというのに。
今すぐにでもポケモンバトルをおっぱじめるべきだ。
ポケモンを鍛え上げるべきだ。
戦略を練り上げるべきだ。
対戦の知識を増やし、
有名なトレーナーの戦術を参考にし、
付近に住まうトレーナー達の情報を集め、
確実なる一勝を我がものとするために自分の持つ全ての時間と、全ての労力を捧げるべきだ。
のんきに硝子戸なんぞを磨いている場合ではない。

それなのに、働かざるをえないもどかしさと、はがゆさ。

ふいに、シオンは警戒心むき出しの眼つきで周囲を見渡す。
陳列棚の向こうにも、カウンターの向こうにも、硝子戸の向こう側にも、人の気配は全く感じられない。
「人件費削減だから」と言って店長までもが働かなくなったフレンドリィショップには、
今、シオン以外に誰もいない。
電気代削減のため、監視カメラはまとも機能していない。万引き犯を脅すためだけの飾りである。
もう一度周囲を確認すると、シオンは覚悟を決め、すぅっと息を吸い込む。
いかりのボルテージが限界を越え、シオンのがまんがとかれた。

「俺はぁっ! こんなくだらないことをするためにぃ! 生まれてきたっていうのかああああ!」

わめきながら目の前にあった菓子袋を思いっきり破いた。
乾燥したオレンのみが鏡のような床に散らばる。
拾い集めて、口いっぱいに頬張ると、
棚にあったサイコソーダのプルタブをまくり上げ、炭酸水を喉奥へと強引に流し込む。
口内で弾ける刺激に、涙が止まらない。

シオンは勤務中であるにも関わらず、店内で飲み食いをするという暴挙に至っていた。
(※ぜったいにまねしないでください。)

何でもいいから悪い事、困る事をしてスッキリしたかった。
しかし、自分の中の罪悪感に気がつくと、居心地が悪くなり、ますます苛々がつのる。

「くそ!」

ベルトのモンスターボールをむしりとり、尻で叩き割ると、
踏みならすような足取りで会計の場へ向かい、レジの上に相棒のピチカを乗せた。
さらにCDラックから『技マシン24』という曲名のものをひったくるなり、ピチカの耳に刺して遊ばせる。

「あーあ! 憧れのポケモンマスターになりたいなああああっ!」

もう何もかもやってられなかった。
世界中のトレーナーに置いてけぼりにされているかもしれない、という焦りに、ただ苛々する。

「なんでんなことやらにゃならねーんだよ! くそ!」

ストレスを吐き出すようにして叫ぶ。
叫んだ後、力が抜け、疲れたみたいに気だるい感覚に襲われた。
脱力感の中、長い長い溜息をつく。
ふらふらと店内を移動し、
カウンターをベッドに見立てて飛び乗り、そこでごろりと寝転んだ。
目を閉じて、静かにすると、天井からラジオの声が聞こえてくる。
店長の「予算削減」を無視してシオンが勝手につけたものであった。


――『近頃、トキワの森で大量のピカチュウがひんしの状態で見つかっているそうです』
   『いや、しかし、これはもう許せませんねー。一体どこのトレーナーがこんな悪行を』
   『ん? 悪行ですか? しかし、ひんしにするくらいなら別に犯罪でもなんでもないですし……
    トキワシティのトレーナーがポケモンのレベル上げでもしてたんじゃないですか?』
   『犯罪じゃないから問題じゃない? 何言ってるんですか! 困りますよ!』
   『困る、と、言いますと?』
   『ピカチュウほど人気のあるポケモンはいません。
    つまりピカチュウのいない他の地方ではピカチュウが高く売れるんです!
    だから沢山捕まえたいんです!
    それなのに、ひんし状態だったらピカチュウ、ゲット出来ないじゃないですか!』
   『えーと……ひょっとしてポケモン売りさばいてるんですか?』
   『……あっ』
「何やってるんですか、シオンさん?」

一秒後、それがラジオの声じゃないと気付くなり、シオンの心臓がとびはねる。
カウンターから飛び降りると同時に、レジからピチカを引きずりおろしながら、叫んだ。

「っしゃあああっせええええええ!」

コンビニに響いた回転寿司屋の雄叫び。
シオンは頭から着地し、舌を思いっきり噛んだ。痛い。
あまりの激痛に、しゃがんだまま全身を硬直させ、視線を目の前の一点に集中したまま、
プルプルと、痛みが退くまでじーっと『しびれてうごけない』の状態を味わっていた。

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、まあ」

来客に見えないようピチカを自分の背中に隠して、
痺れた舌のシオンはゆっくりと立ち上がり、カウンターから顔をのぞかせた。

赤いエナメルのハンチング帽。
きこりが着てそうなチョッキ。
大工さんみたいなダボダボのずぼん。
黄色のリュックサック。
カウンターの先にあったのは見覚えのある少年の童顔だった。

「だ、ダイヤモンドじゃないか!」

「お久しぶりです。シオンさん」

懐かしい声に一週間前の夜を思い出す。
シオンはオウに『きんのたま』を握られ、泣いている姿をダイヤモンドに見られてしまっていた。
恥ずかしくて、またカウンターの下に隠れてしまいたい、
と思ったが、きっとにげる方がもっと恥ずかしい。
仕方なくシオンは、まるで何事もなかったかのよう、普通に接することにした。

「ダイヤモンド、お前、どうしてこんなところにいるんだ?」

「どうしてって……ポケモントレーナーがフレンドリィショップに来てちゃおかしいですか?」

「おかしい! 凄くおかしい!」

「ええっ?」

予想外だったのか、ダイヤモンドはギョッとした顔でシオンを凝視する。

「あのな。俺、ここでバイトして一週間なんだが、日に日に客の数が減っていってな。
 実はお前、三日ぶりの客なんだよ」

本当のことなのに、口に出して話すと、自分が嘘をついているみたいだった。

「三日間もトレーナーが来てない? ……ああ、そっか。そういうことが起きてるのか。
 でもなるほど、それでレジにピカチュウ乗せたり、ジュース飲んだりしてたわけですか」

「見てのかよ」

恥ずかしくなって、シオンはダイヤモンドからそっぽをむいた。
たまたま視線に入った壁の時計が正午の時間をさしている。

「最近になって、物凄い勢いでトキワのトレーナーが減ってますからね。全部あの人の……おやっ?」

丁度シオンが、背中にしがみついていたピチカをカウンターの上に移動させた、その時だった。

「何かあったか?」

「いえ、そのピカチュウ、この前よりレベルが上がってますね」

ダイヤモンドは、カウンターの上にペタリと座り込むピチカを指さす。

「そらそうだろ。これでも一応、お前のディアルガとかいうの倒してるわけだし、
 レベル50くらいにはなっててもいいんじゃないか?」

「いえ。そのピカチュウのレベルは20です」

「……思ったより低いな」

「それにですね、シオンさん。
 僕はディアルガとのバトルの後から、さらにピカチュウのレベルが上がっていたから、
 だから少し驚いているんです」

何の前触れもなく、ダイヤモンドはピチカの額を指先で撫でた。

――ッチャァッ

喘ぐような声音と共に、ピチカは恍惚としたふやけた表情を見せつける。
ポケモン達は、この艶めかしい無邪気な笑みで、
一体どれほどのトレーナー達を虜にしてしまったのだろうか。

「ピカチュウのレベルが上がってるってことは、
 シオンさんはポケモンバトルをやってたってことですよね?」

「いや。あの偽審判に見つかったら何されるか分かったもんじゃないから、
 トレーナーとのバトルはやってないんだ。まぁ、ちょっと森にな」

「森? トキワの森ですか?」

「あぁ、いや、そんなことはどうでもいい。それより……あれ?
 お前、どうしてピチカのレベルが分かったんだ?」

誤魔化すように話題を変える。よくよく考えて見ると奇妙な話だった。
そもそも主人であるシオンでさえもピチカのレベルが分かっていなかった。
ダイヤモンドの言葉は事実なのだろうか。

「ああ、久しぶりに聞かれましたね、それ。
 実はですね、僕、特殊な眼を持っているんです。
 普通の人には見えないものが見えるんですよ」

「……はあ?」

訝しげに首をかしげる。なんだかおかしなことを言い始めた。

「ピカチュウのこのあたりにですね……」

ダイヤモンドはピチカの頭の上の空間を指す。

「このあたりに、ピチカっていうニックネームと性別、あとレベルが視えてます。
 それから、その隣に、ピカチュウのHPの量を示す緑色のバーが視えています」

「……はあ?」

「確か、オウさんも同じような眼をもってるとかなんとか」

「ふぅん。偽審判もねぇ」

半信半疑で聞き流す。
そんな眼、あるはずがない。
若い世代特有の自分は特別なんだ、という意識の現れなんじゃないか、
とシオンは勝手に決めつけていた。

「ところで、シオンさん。買い物してもよろしいですか?」

「あっ……ようこそ! おかいもの ですね?」

今になってようやく、店員らしいマニュアル通りの対応をとった。
しかしシオンに真面目な接客をする気など無く、
ダイヤモンドには全商品100%offの特大サービスを実施する予定であった。
来客が少なくなった途端、
シオン以外のバイトを全員クビにさせた挙句、家族旅行に出かけてしまった店長へのうらみである。

「では店員さん。ポケモンバトルを一つください」

予想外の注文に、シオンは自分の血が滾るのを感じた。
しかし、何をどう考えても、目の前の少年に勝てるビジョンが浮かんでこない。
返答に迷ったあげく、シオンは落胆の声を漏らした。

「お客様。当店ではそのような商品を取り扱っておりませんので……
 そのほかにわたしどもでなにかおちからになれることは?」

「まあまあ、そうおっしゃらずにー」

ダイヤモンドはニコニコしながらシオンの手を引っ張る。

「え? あっ、おい、ちょっと! どこ連れてく気だ!
 俺、仕事中だぞ。他の客が来たらどうすんだよ」

「そう言うだろうと思って、メタモン用意しときましたー」

言いながらダイヤモンドは、手の内のモンスターボールをカウンターの角で割った。
光の中から、ピンクのスライムのポケモンがうねりながら現れる。
点が二つに線が一本という雑な顔立ちをしていた。

「メタモン。シオンさんに『へんしん』」

ダイヤモンドの命令に呼応し、メタモンはぐにゃりぐにゃりと形を変え、
体積を変え、伸びたり、縮んだり、色が変わったりして、次第に人間の形へと変身していく。
そしてメタモンはシオンになった。
鏡の中の自分が立体になって飛び出してきたみたいだった。
顔も身長も服装も腕の毛までもが全て同じ。
自分をこうして観察するのは初めてだった。
そのせいか所々で自分とは少し違うような違和感があるような気もしたが、
それでもやはり、目の前にいる生き物の姿はヤマブキ・シオンで間違いなかった。

「始めて見たけど、凄い気持ち悪いな、コレ」

恐る恐る『自分』をつついてみると、力が抜けそうになるほど柔らかく、
体中が二の腕の脂肪みたいにぶよぶよしていた。
指で突くたびに、目の前にいるシオンの口から「モンモン」と甲高い鳴き声が発せられた。

「これで大丈夫です。それじゃ、行きましょう」

「全然大丈夫じゃねえよ! 喋れねえじゃねえか!
 もし、こいつがばれたら俺達警察に連れてかれるぞ!」

「このメタモンはレベル1ですし、おっとりした性格ですから、
 被害をおこせるような奴じゃありませんよ」

「騙されんぞ、俺は!」

ぶつぶつ文句を言いながらも、シオンは青いエプロンを脱ぎ捨てていた。
ピチカと、そしてカウンターの影に隠していたリュックサックを背負う。
実のところ、バイトを抜けだす口実が出来て、内心大助かりだとありがたがっているのだった。


青空の下、解放感。心地よい風、清々しい。
振り返ると、フレンドリィショップの前で、自分と全く同じ姿のポケモンが手を振って見送っている。
気味が悪かった。

「ああいうのドッペルゲンガーとか言うんだっけか?」

「ゲンガーじゃないですよ。メタモンですよ」

「……ああ、そうだったな」

二人と一匹はフレンドリィショップを後にした。


肩にピチカを乗せ、赤いエナメルの帽子を見下ろしながら、スニーカーを擦って、ちんたら歩く。
シオンはまるで、二人目と三人目が棺桶に入った状態のドラ○エみたいに、
一定の距離を保ちながらダイヤモンドの後に続いた。
ポケモンセンターを越え、曲がり角を迎えると、フレンドリィショップは見えなくなった。

「なあダイヤモンド」

「なんですかシオンさん」

「当たり前の話をするんだが、ポケモンバトルなんて、俺じゃお前に勝てないよ」

「まさか。本気でバトルするわけじゃありませんし」

さも当然のように言ってのける。わけがわからなくなった。

「なら何でバトルなんてするんだ?
 ひょっとして、バトルの相手が俺なことにも理由があるのか?」

「まあ、対戦相手は他のトレーナーでもいいんですけど……」

ダイヤモンドは迷い、少し言いよどんでから、こう続けた。

「そうだ、シオンさん。
 どうしてフレンドリィショップにお客さんが来ないのか、考えた事あります?」

「いや、ない。どうしてだ?」

「少し考えれば分かることです」

「分からん」

「少しも考えてないじゃないですかっ」

「そうだな。それで、どうして客が来ないんだ?」

「……」

靴の音だけが聞こえてくる。
「ばかの相手をするのは疲れる」、という言葉が聞こえてきそうな感じの沈黙だった。

「まったく……では質問を変えます。シオンさんて最近、フレンドリィショップで買い物しましたか?」

「タダ食いならさっきしてやったぜ」
(※はんざいです。自慢するようなことじゃないです。)

「そんなことしてると、メタモンのへんしんがバレる前に捕まっちゃいますよ」
(※捕まらなければいいという問題ではないはずです。)

「仕方ないだろ。俺、一文無しだし、借金まで背負ってるし、買い物なんか出来るかよ」

「そうです! それなんですよ!」

「おわっ、びっくりしたー。いきなり叫ぶなよ」

突然の大声に驚いて、シオンの背筋がシャキッと伸びていた。

「すみません。それで、一体誰のせいで借金になったんでしたっけ?」

「そりゃ、あの偽審判のせいだよ。
 あの似非やくざめ、ケッキングみてえな顔しやがって、思い出しただけでも腹が立つ」

シオンがムカムカしていると、ダイヤモンドがニコニコした顔で、一度振りかえった。

「それですよシオンさん。つまりは、そういうことなんです」

「は? 何が? どういうことなんだ?」

「つまり皆が……このトキワシティのポケモントレーナー達は全員、
 あのオウ・シンという審判にやられてしまったんです」

「はっ? 皆弱っ!」

ふざけた冗談だと思い、シオンは思わず鼻から噴き出していた。

「なので今、このトキワシティにいるポケモントレーナーの全員が、借金漬けの状態なんですよ」

「……それは嘘の話なんだよな? 本気で言ってるのか?」

「大マジです」

一瞬、時が止まったみたいになった。
オウがトレーナーを止めさせるために金を奪いまくっていることは理解しているつもりでいた。
しかし、トキワシティ全体というスケールの大きさに現実味を感じられず、
シオンはダイヤモンドの言葉を上手く信じられないでいた。

「ポケモントレーナー全員借金状態。んなことアイツに可能なのか?」

「シオンさんにやったことを他のトレーナーにもやった。それだけのことです」

言われてシオンは、オウにされたことを思い返す。
ポケモンバトルを始めた途端、
突然オウが現れて、勝手に大金を賭けたルールに変更させられる。
一度目のバトルで全財産を失い、二度目の負けで借金を背負った。
シオンもオウに刃向かってはみたものの、圧倒的な暴力の前に成す術もなく、
ただ言い成りになるしかなかった。
恐らく他のトレーナーもオウに逆らうだけの力を持ち合わせていなかったのだろう。

「要するに全員、金ないし、バトル恐いし、偽審判となんか会いたくなんかない……ってところか。
 なら店に客が来ないのも当然だな。
 フレンドリィショップはポケモンバトル用の商品しか扱ってないわけだから」

「そういうわけなんです。そこで僕は、皆の借金を帳消しにしたいなあ、と考えているわけで……」

「えっ! おまっ! それはまことか!」

咄嗟のことに、声を荒げ、食い入るようにダイヤモンドの後頭部を見つめた。
しかしなにもおこらない。
いきなり、買ってもいない宝くじが当選したような気分になる。
興奮気味のシオンを余所に、ダイヤモンドは淡々と深緑の下町を進んでいった。

「なあ、その話本当かよ? お前最っ高だな。でも、どうして俺達を助けてくれるんだ?
 そんなことしたって、お前にメリットなんてないだろ」

口数が増え、シオンは自分がニタニタと笑っていることに気付いていない。

「僕はただ、ポケモントレーナー達が消えていくの、嫌なんです。
 自分の好きが否定されてるみたいで、なんか……嫌だな」

呟くような静かな言葉は、それでも強い口調で、語尾が微かに震えている。
ダイヤモンドは怒っていた。

「僕は借金背負っている人なんて、もう見たくないんですよ。
 たんぱんこぞうが恐い大人達に囲まれてるのを見るのはもう嫌だ。
 ミニスカートが体を売っているなんて噂話はもう聞きたくない。
 借金のせいで、自分の育ててきたポケモン達が闇ルートで売り飛ばされ、
 外国の戦争に使われてる、なんて考えた事ありますか?
 ジュン君やヒカリちゃんがそうなっていたらって考えた時、
 僕はこの世界の何もかもが許せなくなったんだっ」

「お……おう」

借金帳消しの昂りは一瞬にして、重苦しい話題に飲み込まれる。
ダイヤモンドの迸る正義の炎を前に、シオンは若干怖気づいていた。
一週間前の夜、ダイヤモンドが
「ポケモントレーナーにこれ以上辛い目にあってほしくない」と言っていたのを思い出した。
力も金も手に入れた者に残された欲望というは、人助けくらいしかないだろうか。
(少し騙してやれば、こいつ利用出来そうだな)
よからぬ企みが脳裏をよぎる。

「それで、どうやって俺の借金をチャラにしてくれるんだ?」

「簡単です。借金を失くす方法なんて一つしかないでしょう」

シオンは物凄く真剣に考え、
肩が凝ってきたのでピチカを頭の上に移動し、
そして閃いた。

「そうか! つまりあの男を殺すのか!」

「惜しい!」

「何ぃ、違うのかぁ?
 けどよ、俺はあいつを殺すためだったら手を汚すのだってためらわないぜ」

冗談を語るように軽い調子だったが、それがシオンの本心だった。

「そんなことするまでもないです。
 単純に皆の借金の分だけの賭け金でバトルをすればいいんですよ」

「ほーん、なるほどな。それで勝つ、と。
 なら、もし偽審判が屁理屈ごねてバトルしてくれなかったらどうする?」

「最悪、神の力で恐喝します」

「そ、それは確実だな」

またしても年下の少年に怖気づく。
圧倒的な力への自信が、彼を非行の道へと駆り立てるのか。
(こいつならシンオウのチャンピオンくらい倒してそうだな)、と思った。

「ところで、ダイヤモンド。さっきも聞いたけど、俺がお前とバトルする理由ってあるのか?
 俺以外の他のトレーナーじゃ駄目だったのか?」

「はい。他の人じゃ駄目なんです。
 だいたいオウさんと関わりたがるトレーナーなんて普通いませんよ。
 けど、百万も借金を背負って、
 落ちるとこまで落ちたシオンさんならこれ以上どうなってもいいんじゃないかな、と思って」

「……まあ俺は大人だから怒らないし全然気にしてないけどシねよお前まじで」

不信のダイヤモンドに殺意を抱くなり、二人の会話は途絶えた。
ピリピリした空気の中、黙々と足を動かし、延々と歩き続ける。
偶然すれ違った老人が、『はねる』で移動するコイキングに首輪をつけて散歩をさせていた。

街並みを抜け、
田圃道を越え、
並木道を渡り、
しばらくすると、ずっと遠くに、サッカー場を山折にしたみたいな緑色の巨大な屋根が見えてきた。



ダイヤモンドはトレーナーハウスのドアを叩いた。しかし、自動ドアである。
建物に乗り込むなり、シオンは尋ねる。

「何でトレーナーハウス?」

「街中でバトルするのは近所迷惑ですから」

二人は淡々と歩いた。廊下を渡り、扉を開き、大広間に出る。
シオンの予想に反した、静かな光景があった。
トレーナーもポケモンも誰一人、もしくは誰一匹として見当たらない。
沢山の空席がまばらに広がっていた。
天井に電気は灯っておらず、窓から入ってくる昼間の日差しだけが室内を照らしている。
前回見かけた、シャンデリアのポケモンもいなければ、クラシックの曲さえも流れていない。

「この前は気色悪いくらいに人で溢れかえってたってのに……ひょっとして休館日か?」

物珍しげに辺りをきょろきょろ見渡しながら、ダイヤモンドの後に続く。
勝手に忍びこんでしまったような罪悪感とわくわくする気持ちがシオンの胸中で交差する。

「平日の昼間とはいえ、誰もいないなんて異常なんですよね。
 それくらいトレーナーがバトルを避けるようになっているんです」

信じ難かった話にも現実味が帯びてきた。
もし本当にトレーナーが減っているのだとしたら、
それだけポケモンマスターになりやすくなった、ということでもある。
何とかして「他のトレーナーなんてほっといて、俺だけ借金帳消しにしてくれ」と頼めないだろうか。
シオンは考えながらダイヤモンドの尻を追い、答えが出ないまま地下へと続く階段を下りて行った。


壁のスイッチをポチッとな。
高い天井から電気の光が射し、暗闇だった地下の空間があらわになった。
床に、テニスコートと同じくらいの長方形が四つ、並んでいる。
絨毯の上に白線をひいただけの簡単なバトルフィールドだった。
木の板で敷き詰められた壁にはホエルオー禁止のポスター、
トキワジム復活のポスター、
たずねポケモンのポスター、
テニスコートをポケモンバトルに使うな!、
等々が貼られている。

シオンは絨毯を踏みつけて弾力を確かめると、座布団くらい分厚いであろうことが分かった。
(この場所なら、闘うポケモンの怪我も少なくて済むんだろうなあ。
 あ、いや、ひんしになるまでやり合うワケだからあんま変わんねーか)

「なあダイヤモンド。オウは呼んであるのか?」

「えっ? 何言ってるんですか。
 一体なんのためにシオンさんに協力してもらおうとしてると思ってるんです?」

「何のためにって……」

オウの居場所が不明+シオンの協力が必要=二人で協力してオウの居場所を突き止める、と推理。

「これからオウを探すのか?」

「違いますよっ。今からここにオウさんをおびき寄せるんですよ」

「……ああ! そうか! そういうことか!」

分かっていたはずのことを、今ようやく理解できた自分が、ばかみたいだった。
ヒメリとバトルした時、そしてダイヤモンドとバトルした時のことを思い出す。
このトキワシティでポケモンバトルが始まると、どこからともなくオウが駆けつけてしまうのだ。
どうしてそんなことが可能なのか、想像しても理由さっぱり分からなかったが、
とにかくポケモンバトルを始めてしまえばオウは勝手にやってくる。そういうものなのだった。

「そんじゃあ早速、バトルする振りでもするか。行ってこいピチカ」

バトルフィールド中央の位置に、シオンは戦意ゼロのピチカを、頭の上から降ろした。
絨毯の感触が気持ち良いのか、横にごろんと寝転がる。ピチカのねむる。

「頼むよ、ゴウカザル」

ピチカの手前目掛けて、ダイヤモンドが腕を振り下ろす。
モンスターボールの封が解かれる。
閃光と共に、手足の長いやや筋肉質な猿のポケモンが現れた。
白い体毛に中華な雰囲気、どことなく『ソンゴクウ』と呼ばれていそうな風格がある。
炎タイプをもっているらしく、頭の上から火柱が、重力に逆らうロングヘアのように揺らめいていた。

――ウッキャッキャッキャー!

子供の絶叫のような甲高い雄叫び。
以前聞いた探偵の情報によると、このゴウカザルはレベル71の強さを持っているという。
しかし、シオンは(なんかこいつ頭悪そうなポケモンだな)と思った。
そして唐突に腕立て伏せを始める炎の猿。隣で眠る電気鼠。とてもバトルする雰囲気ではない。

「何かこいつら見てると、偽審判、来ないような気がしてきたぞ」

「大丈夫ですよ。今までと同じように、しばらくしたらやって来るはずです」

「そんな都合良くいくか?」

「これよりー! ポケモンバトルを始めるー!」

突発的に発せられた第三者の声に、シオンは心底驚いた。
ダイヤモンドの言った通りだったからではない。若い女の声だったからだ。
見上げた先に、階段を降りるスーツ姿――やはり女性であった。
三白眼のたれ目と視線が重なる。
見覚えのある目つきだった。

「あっ、この前の!」

やって来たのは、以前トレーナーハウスでダイヤモンドとのバトルを引き合わせてくれた女職員だった。
相変わらず、ベトベトンやマタドカスと似た眼つきをしている。

「何で? どうして、オウさんじゃないんだ……」

ダイヤモンドにも予想外だったらしく、ポカンと口を開け、固まっていた。

「誰かと思ったら……この間のバカなトレーナーと、ダイヤモンドじゃないの。
 あれ? でも確か、君ら二人って、この前バトルしたんじゃなかったっけ?」

「えぇ、まあ、一週間前にバトルはしていたんだけど……」

ふと、シオンはダイヤモンドと顔を合わせる。
アイコンタクトで「どうしようか?」と相談するも、
ダイヤモンドに尋ねたところで何かが分かるはずもない。
再び、女職員に目を戻した。

「なんで、あなたがここにいるんですか?」

「なんでって、当たり前でしょ。私はここで働いてるんだから。
 審判も仕事の内だし、仕方なく階段を降りて来てやったんだよ」

「え、降りて来たってことは、さっきまで上にいたってことか?
 このトレーナーハウスには誰もいないと思ったんだけどなぁ」

「じゃあ、どうして入り口やドアに鍵がかかってなかったわけ?
 誰もいなかったら不法侵入でしょうが、あんたら」

シオンが一階にいた時、考え事をしていたせいなのか、
たまたま女職員を見つけられなかったようだ。
納得してすぐ、ハッとした。そもそもこんなことを聞きたかったわけではない。

「えーと、それじゃあオウ・シンはどこにいるんだ?」

「は? 何それ?」

「紫のスーツを着た、ケッキングみたいな顔の、借金取りみたいな大男」

「誰それ?」

再びシオンはダイヤモンドと顔を見合わせた。声をひそめる。

「あの女が偽審判を知らないってことは、あいつ、この場所に来たことがないみたいだな」

「ですね。でも、どうしてオウさんはここには来ないんでしょう?」

「あー、それはだなぁ……」

(もしかしてオウは捕まったとか? それともトキワシティを去っていったとか?
 ――いや、もしそうだったとしたら手の打ちようがない。
 考えても無駄になるから、この案はあえて除外する。)

シオンは本気で頭をひねった。
何故オウはここに来ないのか。
ヒメリとダイヤモンドと闘った状況を思い出して、今の状況との違いを探してみる。

(俺達が本気でポケモンバトルをしてないからか? 
 ――違う。バトル前に偽審判が来るわけだから、そこは問題じゃない。
 この場所が屋根のある室内だから?
 ――違う。あの男が、その程度の障害に挫けるような奴とは思えない。
 人がたくさん集まる場所だから?
 ――確信はないが、答えはこれしか残ってない。)

「分かった。今、ここに、この人がいるから、だからあいつはやって来ないんだ」

シオンはビシッと女職員を指し示した。彼女の眉間にしわが寄る。

「私? 私が犯人なの? てか何の話?」

「いいか。偽審判がやって来るのは決まって俺と対戦相手の二人きりの時だけだった。
 そこに第三者はいなかった」

「そういえば確かに。
 一週間前も、オウさんが来るまでは、僕とシオンさんの二人しかいませんでしたね」

「ふぅーん、そうなの、何の話かよく分かんないけど。
 それで、なんで私がいたら、そのナントカって人が来なくなるワケ?」

(何故、よく分かっていない会話に首をつっこんでくるのか)、というつっこみは心の中で済ませる。

「バトルが終わった後、あの偽審判はトレーナーの全財産を強引にむしり取る。
 そんなの人のいる前で出来るわけないだろう」

「今この場には、お客さんが僕達しかいませんけど、
 たくさん人がいた時のトレーナーハウスで恐喝カツアゲ公開ショーなんてまずいですもんね」

「いやいやいや、あんたら何言ってんの。
 そもそもポケモンバトル自体が違法賭博に近いそれだと思うんだけれど?
 まあ何の話かよく分かってないんだけどね」

シオンもダイヤモンドも女職員の言葉を気にも留めなかった。
オウのやり方を見ていないからそんな呑気な事が言えるのだと、高をくくっていた。

「仮にシオンさんの言うとおり、
 『他の人が見ている前だからオウさんがやって来ない』、だったとします。
 でも、さっきも言いましたけど、トキワシティのトレーナーは皆借金を背負っている状態なんです。
 どうやって皆を人のいない所でバトルさせたんでしょう?
 トレーナーハウスでしかバトルしない人もいるのに」

「何を聞いてんだよ。そんなこと、俺よりお前のが詳しいはずだろ。
 なんてったって、オウとグルだったトレーナーなんだからよ」

「……それも、そうですね。ああそうだ、今、思い出しましたよ」

ダイヤモンドは、申し訳なさそうに、沈んだ雰囲気を醸し出していた。

「トキワシティのトレーナーが一人になった時を狙って、
 オウさんと組んでいたトレーナーが勝負をしかけるんです。
 『目があったら即ポケモンバトル』っていう暗黙の了解を利用して、です」

「わざわざ説明しなくても、なんとかく分かってるよ」

シオンの場合、まずミノ・ヒメリに誰もいない公園で勝負をしかけられた。
次のダイヤモンドとのバトルでは、
急遽場所変更となり、人気のないテニスコートで闘う事態となった。
邪魔ものが入らないよう、初めから仕向けられていたのだ。

「おいバトルしろよ」

いきなり命令される。女職員だった。
胸の下で腕を組み、右足のつま先を上げ下げしている。
分かりやす過ぎる苛々のアピールだった。

「さっきからわけのわからんキショイ会話して……もう勝負は始まってんの。早く争いなさいよ」

冷徹な女王の無情な囁き。
こんなにも静かな殺意を向けられたのは初めてだった。
女職員を無視し、二人で盛り上がっていたからだろうか。

「ああ、すんません。やっぱしバトルしないことにしたんで」

「ああん? ちっ! つまんねー客」

乱暴に吐き捨てる。何故なのか、シオン達の方が悪いことした気持ちにさせられる。

「シオンさん、シオンさん。なんかさっきと態度違いますけど、あの人本当に仕事中の人なんですか?
 何かひっでぇこと言ってくれてますよ」

「しーっ! それ以上は言うな。あの女の口からヘドロ爆弾、顔面にぶっかけられるぞ」

さりげなくシオンの方がひっでぇことを言っていた。

「ねえ、さっきから思ってたんだけどさ、そのピカチュウって誰の?」

「ん? こいつは俺のだけど」

手を上げたシオンの瞳に、女職員の鋭い視線を突き刺さる。ゾクっとした。

「危なかったね。アンタ、もしバトルしていたら、反則負けになる所だったよ」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

シオンは不思議に思い、ダイヤモンドは聞き返し、女職員は二人の反応に驚きの声を上げた。

「えっ? じゃないでしょ。アンタ反則してるでしょ」

「俺は反則なんかしないぞ。まあ確かに、反則っぽいこととか、
 反則してるとか言われるような事はあったようななかったような感じなんだけれども、
 とにかく、少なくとも今は、反則なんかしてはいないぞ」

まるでいつもはやってるみたいな言い草。
普段の自分の行いを隠そうとするあまり、余計に怪しい発言になってしまった。
二人の黒い眼差しにシオンの鼓動が動揺を示している。

「いや、反則してるじゃん。ほら」

あっけからんと女職員がピチカを指す。
三人はそろって、じーっと、横たわるピチカを見つめた。
おやすみピカチュウ。体を丸めて寝息を立てている。

「なあダイヤモンド、俺、ピチカになんかしたか?」

「さあ? 何かした風には見えませんでしたけど……
 あの、シオンさんのピカチュウのどこが反則してるんですか?」

「私、アンタらがここに来た時から見てるわけ。だから知ってんの。
 ピカチュウがずっと表に出てたの」

「えーっと……表ってモンスターボールの外ってことか? それが、何か?」

「ポケモンバトルってのは、普通、ポケモンがボールから出てくるもんなわけ。
 そのピカチュウ、ボールから出てきてなかった。ずっと表に出てた。だから反則」

(こいつは何を言っているんだ?)
納得のいかない道理を押しつけられ、シオンは面食らわざるをえない。
目の前のこの女は融通のきかないバカタレなのだと、無意識に見下し始める。

「……あのさぁ。それじゃあ『アニメの主人公の、永遠の十歳のトレーナーさん』はどうなるんだよ。
 あの人の、『ボールに入るのを嫌う相棒』になんか文句でもあんのか?
 あなたは、『世界一有名なトレーナーと世界一人気のポケモン』にケチつけようって言うんですか? え?」

指摘の後、女職員は腕を組んで、苦虫を噛み始める。

「うーん、確かにそういうことになっちゃうけど……
 けど皆、どのトレーナーも、ボールからポケモン出すところを相手に見せてから、バトルしてる。
 正直、私も理由なんてわからない。けど皆がそうしているのには理由があるはずじゃない?」

「理由なんかないに決まってる。
 というか、その反則認めたら、散歩してるポケモンはバトルやったらいけないってことになるよな。
 それはつまり、『ピカチュウ版』と『HGSS版』にケチつけるってワケだ。
 『ゲームフリーク様』に盾突こうってワケだ。いい度胸しておりますねー!
 そもそも野生のポケモンなんてボールの中に入った事すらないけど、
 普通にバトルしかけられてるじゃないか。
 それでも、まだ俺が反則してるって言うつもりなんですか? え?」

相手の台詞に呆れながら、
自分の言う事が正論なんだと言わんばかりに、
さも当然の如く、
一気にまくしたてた。
とことん質問で責めたてる内、なんだか嫌らしい弁護士になった気分になった。

「いや、ゲームとかアニメの話じゃなくってさ……
 よくわかんないけど、ちゃんとした本物の審判なら何か言うと思う。
 明らかに不自然だし、なーんかフェアじゃない気がする」

「『思う:』とか『気がする』って、それはただの感想じゃないか。質問の答えになってない」

「そういえば自称審判のオウさんは、ピカチュウのこと、反則なんて言っていませんでしたね」

「何ぃ!?」

分かりきっていることなのに、むしろだからこそ衝撃的な一言だった。
考えてみれば、オウはポケモンバトルが始まる寸前に現れているので、
ピチカがボールから現れた直後なのか、
それともピチカはずっと前からボールの外にいたのか確かめようがない。
少なくともオウは、ピチカが表に出ていたままであっても何も言ってこなかった。二度も。

それが分かった途端、シオンは女職員の言う反則が真実であってほしいと思い直した。
もしそうであれば、オウには絶対気付かれない反則技が存在することになるからだ。
両手で頭を抱え、目を閉じ、顔を上に向けて、思考する。

「あの、どうしました、シオンさん?」

オウの眼では絶対に見破れないこと。
モンスターボールの中では絶対にできないこと。
ピチカが外にいなければ絶対にやれないこと。
……すぐにわかった。簡単すぎる。答えなんて、もう、一つしかない。

「……なあ、ダイヤモンド。お前、何匹ポケモン持ってる?」

「えーと……四百九十三匹くらいだったかと」

「は!? 嘘!? 何言ってんの君!?」

女職員から悲鳴じみた声があがった。
期待以上の答えに、シオンはニマァっとほくそ笑む。
しかし問題はここから。ダイヤモンドを説得しなければならない。

「なあダイヤモンド。思ったんだが、あの偽審判、
 お前が対戦相手だったらバトルしてくれないんじゃないか?」

「そうですね。勝てると思ったバトルじゃないとやらない、っていうのはある意味定石ですからね。
 だからこそ恐喝して、なんとかします」

「脅したってあいつには効かないかもしれないぞ。
 そうなったら殺したり、時間戻したりするしかないけど、
 そっちの方が色々面倒だったりするんじゃないのか?」

「そこまで言うなら何かいい方法でも……いや、そうじゃない。
 シオンさん、あなたは一体何が言いたいんですか?」

「だからよ。俺が偽審判を倒してやるよ、って言ってるんだ」

大口叩いて自分に酔う。
(……決まった!)とか思っていた。

「シオンさんが、僕のポケモンを使ってバトルする。とかですか?」

「それじゃあ意味ねえよ。
 そもそもこのレベルのピカチュウ程度のポケモンじゃなきゃ、あいつはバトルなんてしてくれないだろ」

(我ながら自分の相棒に対してひでえ言い草だな)と思いながら、足元に注目する。
ピチカは相変わらずすやすやと寝むっている。聴こえていないらしくて、ホッとした。

「それではシオンさんは、一体どうやってオウさんに勝つつもりなんですか?」

「俺とピチカでバトルして偽審判に勝つ」

「今度こそ本当に『きんのたま』潰されますよ」

ゾッとして、シオンは反射的に股間を押さえてしまった。

「だっ、大丈夫だ。オウにだけは確実に通用する反則技が見つかったんだ。
 『バトルに勝てる』というより、『もう勝ってる』みたいなもんなんだよ」

「ふぅーん。そうですか。ま、話だけなら聞きますよ。その反則技っていうのを」

「ヤバい。完全に何の話してんのかわかんなくなったわ……」

嬉々として語るシオン、
あきれ顔のダイヤモンド、
困惑する女職員、
そして雪だるまでも作るみたいに丸まったピチカをごろごろ転がすゴウカザルなのであった。







つづく







あとがき

なんか地の文が会話文のテンポを駄目にしてる感じがするなぁ。
じゃあ地の文は削った方がいいか。
なんか会話文が作者に言わされてる感全開でキャラクターが木偶のように思えてきたなぁ。
じゃあ会話文も削った方がいいか。
――気がつくと、全ての文章が消滅していた。

熱くてだるくて書く気がないので、次回は一ヶ月以上後になるかもしれないです。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー