マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1219] WeakEndのHelloWin 4 投稿者:烈闘漢   投稿日:2015/02/28(Sat) 18:59:01   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

WeakEndのHelloWin
       4







「普通じゃない! 気が狂っている! 頭がおかしい! ひょっとしてアホなんか?
 シオンさんはアホなんか! どうなんですか! え!?」

「おわ、何だ、いきなり、どうした、おちつけ、ダイヤモンドよ、何をそんなに怒っている?」

「あのですねー、シオンさん! せっかく借金がなくなったっていうのに、
 またオウさんと賭博バトルするって、一体何考えてるんですか!」

年下の少年にたじろぐ青年。
赤いハンチング帽を激しく揺らして、ダイヤモンドはシオンに怒鳴り散らしていた。
おっかなびっくりシオンが後ずさると、その分ダイヤモンドは迫り寄る。

「いいですか、シオンさん。あなたがオウさん……じゃなかった。
 あなたがシンさんに勝てたのは全部奇跡なんです。偶然なんです。まぐれなんです。
 運命のいたずらによってシオンさんは間違えてバトルに勝ってしまっただけなんです。
 もう一度勝てるとか思ってるんでしょ? 考えが甘い! ご都合主義思考も大概にしてくださいよ!」

疾風怒濤の罵詈雑言にシオンはひるんでうごけない。

「そ、そいつはさすがに傷つくなぁ。まあ確かに勝てたのは運の要素もあったけれど……」

「むしろ、運の要素しかありませんでしたよ! 実力で勝ったとでも思ってるんですか?
 僕、言いましたよね。トレーナーの借金をなくすのが目的だって、言いましたよね?」

「え、そうだっけ?」

「そうだったんですー! それなのにシオンさんときたら、
 勝ち目ほぼゼロのバトルに百万円も賭けて博打しにいくとか、
 わざわざ自ら借金背負いにいくようなもんじゃないですか!
 どうして懲りないんですか! そんなトレーナー、救いようがないですよ! このばか!」

「そんな怒らなくてもいいじゃないか……」

「んじゃあちゃんと説明して下さいよ。
 どうしてせっかく勝利出来たのに、またシンさんとポケモンバトルなんて始めるのか?
 僕が納得のいく答えを下さい!」

物凄い気迫で問い詰めるダイヤモンドにシオンは完全に気圧されていた。
仕方なく、何と答えるべきか、渋々自分の気持ちと向き合ってみる。
途端、忌々しい記憶が蘇り、重々しい不快感がシオンの胸中いっぱいにひろがった。
めまいがする。吐き気がする。股間の辺りがうずき出す。
オウ・シンに対する憎悪の念が際限なく膨れ上がり、
シオンの内側をどす黒い邪気が埋め尽くしていった。

「俺はっ……俺はアイツが許せないんだ。あの男がのうのうと生きていること自体が気に食わない」

眉間にシワを寄せ、歯を食いしばり、拳を思いっきり握りしめる。
殺意を押し殺すのに必死な形相でシオンは言葉を続けた。

「足りない。足りない。全然足りない! たかだか一回の勝利程度で、俺の心は癒せると思ったか。
 あの苦痛を! あの悲劇を! たった百万円ごときで済まされると思っているのか!
 そんな安っぽい罰を与えたくらいで、アイツの罪が許されてたまるものかぁっ!」

憎しみの込もった雄叫びだった。
心の中で血の涙を流しながら、シオンは、一週間前の出来事で頭がいっぱいになっていた。
そう、『きんのたま』を『にぎりつぶす』されそうになった、あの夜である。

あの息がつまるような苦痛。
ダイヤモンドに醜態を見せつけられた恥辱。
そして何よりも、自分の命が失われるかもしれない、と怯えさせられたことが許せなかった。
もはやオウ・シンの『でかいきんのたま』を『アームハンマー』でもしない限り、この殺意は収まりそうにない。

「俺が味わった地獄を! それ以上の絶望を!
 あのド腐れ糞審判に思い知らせてやらないとっ! 俺の気が済まないんだぁあああ!」

怒りと憎しみが爆発し、シオンの口から絶叫が迸った。

「あっ、そうですか。じゃあ、もう好きにしてください」
「ゑ!?」

あまりのことに思わず奇声を発した。
さっきまでの勢いはどこへやら、いきなりのそっけなさすぎる応対に、シオンはダイヤモンドへと視線を戻す。
目の前にいた少年は、半ば放心状態とさえいえる真顔で視線を宙に彷徨わせていた。

「どっ、どうしたダイヤモンド。なんか急に落ち着いてるみたいだけど……どうした?」

「よく考えたんですけど、シオンさんのことなんで、僕はどうでもよくなりました。
 ああ、まったく。こんな人に真剣になっていただなんて、僕としたことが……」

「え、あ、ちょっと」

にわかにくるりと身をひるがえし、ダイヤモンドはすたすた歩き去っていく。
呆気にとられたシオンは、口が半開きの間抜け面で、遠ざかる少年の背中を黙って見送る。
ワケが分からなさ過ぎて、自分を攻撃したい気持ちになった。

「……えー。なんだよそれ。まじめな性格かと思ってたけどアイツ、きまぐれな性格だったのかー?」

言うだけ言って、勝手に納得して、ダイヤモンドはシオンから離れた位置へと戻って行く。
やりきれない思いと、やり場のない怒りを抱え、シオンはただ茫然と立ちすくむしかなかった。




トキワシティの外れ、だだっ広い荒野の上にて、
シオンの借金を賭けたポケモンバトルが、再び幕を上げようとしていた。

「ねえ、シオン君! そのピカチュウ! レベルが上がってるね! メガバンギラスを倒したからかな!」

耳元で叫ばれたかのような爆音だった。
顔を上げて目をやると、なんと声の主は、シオンからホエルオー一頭分ほど離れた地点で立っている。
巨漢だった。
派手な紫のスーツに、屈強な体躯、
浅黒い肌に凄絶な笑みを張り付けて、純金製の歯をぎらつかせる。
禍々しいオーラを総身にまといながら笑う大男は、これほどの距離を隔ててなお、凄まじい
そんざいかんを はなつ。

「極悪非道の偽審判め……こんだけ離れてるのに、一目で借金取りだと分かるな」

誰に聞かせるわけでもなく、シオンは一人つぶやく。
そして『偽審判』と呼んだ男、『オウ・シン』を憎々しげに睨みつけていた。

「もう一度頼むよ! バンギラス!」

いきなりだった。
何の予備動作もなく、シンは屈強な腕を振り下ろした。
地表に叩き落とされたハイパーボールが割れ、中から閃光が弾け飛ぶ。
思わずまぶたを閉じ、開いた次の瞬間、バンギラスの巨体が再度出現していた。
肉食恐竜のような体躯が、背筋を伸ばして此方を見下ろしている。

――ヴグェオォオおオおオンンンンン゛!!!!

小顔から牙をのぞかせ、爆発音のような咆哮を上げる。
大きな胴体と凶悪な面構えは、隣に立つ主とよく似ていた。

疑問。何故やられたばかりのバンギラスが無傷の姿で立ちはだかっているのか。
頑丈なコンクリートを思わせる肌の表面には、かすり傷はおろか汚れ一つさえ見つからない。
おそらくハイパーボールの中に入っていた隙に、シンが『げんきのかたまり』でも使ったのだろう。
萌黄色の怪獣は、完全なる復活を遂げていた。

ふと、バンギラスの胸元が膨れ上がり、「ウォエッ」っと何かを吐き出した。
シンがそれを拾い上げると、シオンにも見えるよう、腕を伸ばして突き付ける。
シンの手中に納まった抹茶色の水晶玉が透き通って光を放つ。
遠目でよく分からなかったが、シオンには、
珠の中に何やら虹色の紋章のような物が埋め込まれているように見えた。

「バンギラスナイトだよ!」

それが、先程までバンギラスの咥えていた『どうぐ』の名前だと分かった。

道具を外して見せつけた、というシンの行為には
「お前もポケモンから『もちもの』を外せ」という意図が含まれている。
そう判断したシオンは、膝を地に着け、腰を丸め、足元の相棒に目を落とした。

柔らかな赤い頬に、くりくりの丸い黒目、電気鼠の愛らしい貌が上目遣いで見上げていた。
なんとかシオンの肩に乗るサイズの、ふにふに柔らかそうな、握りしめたい長耳の、
口元の膨らみが可愛い、鮮やかなレモン色の映える、そんなピカチュウがシオンの相棒だった。
敵であるバンギラスを前にした今でも、やはり、ピカチュウに怖気づいた様子は見当たらない。
それどころか、
ギザギザに伸びた尻尾(先っぽはハート型)を心地よさそうに揺らすほどの余裕を残しているようだった。

「ピチカ、まだ戦えるな?」

――チュゥッ!

ニックネームで相棒を呼ぶと、ピカチュウのピチカは赤い頬から青い電流を走らせて、応える。

「よし。んじゃ、ちょっと動くなよ」

戦意を確認するなりシオンは、ピチカが首に巻いていた数珠のような『どうぐ』を取り上げた。
十個の『でんきだま』を繋げて作ったシオンお手製の『もちもの』である。
そして、それはピカチュウの電気技を千二十四倍にまで跳ね上げるとんでもない代物でもあった。

「これでいいんだろ。これで」

シオンは投げやりな態度で、でんきだまの数珠を揺らして見せる。
そしてすぐにリュックサックの奥へとしまった。
シンの満足そうな返事が轟き渡る。
これでフェアだ。

「おうい! ダイヤモンド君!」

シンが怒号を飛ばすと、その先に、米粒ほど小さくなったダイヤモンドの姿があった。
視た所、どうやらシオンら三人は、上空から見下ろすと、
ちょうど正三角形の点になる立ち位置で向かい合っているらしい。

「頼むよ、ダイヤモンド君! 審判やってくれないか!」

「えー! 僕、ただのしがないトレーナーですし、審判なんて言われても何をすればよいのやら……」

「まずは! ルールの説明からするといいよ!」

借金取りで間違いないはずのシンが、審判らしい発言をすると、何故だかシオンの癪に触った。
そんな気持ちなど露知らず、ダイヤモンドはオホンと咳払いをし、語りだす。

「使用ポケモンは一匹。『どうぐ』の使用禁止。『もちもの』も禁止。
 それから、もちろんのことだけど反則も禁止。ルールを破ったら問答無用で負け。
 えーと、それからー……ルールってこんなもんでよかったですか?」

「いや、ちょっと待ってくれ」

伺うダイヤモンドを、シオンが制す。

「おや! シオン君! ひょっとして、ルールを変えるつもりかい!」

殺意のこもった『にらみつける』が、シオンの胸へと突き刺さる。
ルール無用のポケモンバトルで敗北を喫したばかりのシンには、
ルールに関して譲れないモノがあるのだと分かった。

「いや、ルールはそのままでいい。そうじゃなくて報酬の話だ。偽審判、お前に一つ頼みがある」

「おや、僕にかい!? まあ、言ってごらんよ!」

「聞いたんだが、お前、トキワシティにいるトレーナーのほとんどに借金を背負わせてるらしいな。
 もし俺がバトルで勝った場合、そいつら全員の借金をチャラにしてやってくれよ」

しばしの沈黙の後、シンは狂ったかのような高笑いを暴発させた。

「ヌッハッハッハッハァッ! 正気かい! なんてことだ! まさか君がそんなことを!」

大気を震撼させる獰猛な哄笑は延々と続いた。
そんなシンを無視してシオンはダイヤモンドを見やる。
そして満面の笑みでウィンクを送った。「俺って良い奴だろ?」というアピールである。

知らないトレーナー達の借金を返済するためにポケモンバトルをするなんて、
シオンにとっても不本意極まりない。
明日の食費さえままならぬというのに、人助けをするくらいなら、
普通に百万円の賭け金を受け取った方が得をするかに見える。

だが、しかし――いや、むしろ、『やはり』、シオンには思惑があった。
あからさまな善行を見せつけることによって、
目の前にいるダイヤモンドという名の純真無垢な少年に、
「この人はなんて優しく誠実で素晴らしいポケモントレーナーなんだ!」と思われようとしているのである。
そうなれば、今後も伝説級の強さを誇るこの少年トレーナーからの協力を仰げるかもしれない。
百万円よりダイヤモンドからの好感度の方が遥かに価値があると見極めての行為であった。

「ねえ、シオン君!」

シンが叫ぶ。

「僕が皆に背負わせた借金って、全部でいくらになると思う!? 物凄い額だよ!
 もしシオン君が負けた場合、一千万を越える借金をしてもらうけど! それでもいいのかい!?」

「ああ。構わないぞ」

あっさりシオンは受け入れる。
衝撃的発言ではあったが、それくらいの予想はついていた。
さらに、仮にバトルに勝ったところで、
シンがシオンに一千万円を渡す、なんて展開にはならないだろう、とも予想していた。

シオンは再び、顔面をぐにゃぐにゃに歪ませたウィンクで、良い人アピールを送信する。
ダイヤモンドが怒りを通り越し、呆れ返って言葉も出なくなっている、
なんて考えはシオンの中に微塵もなかった。

「ようし! それじゃあ始めようか!」

シンの大声に続き、バンギラスの股が開いた。
鈍い足音と呼応するように、周囲の地面から砂煙が舞い上がる。
砂と風とが逆巻いて、徐々に勢いを増し、大量の砂粒が暴風に乗って滅茶苦茶に吹き荒れ始めた。
バンギラスの『とくせい』が発動したのだろう。
ベージュ色の薄い幕がシオンの視界を覆い尽くす。

「ピチカ、構えろ」

小声で足元に指示を送った。
シオンは顔面の周りを両腕で囲み、
細めた瞳に砂粒が潜り込もうとも、シンの姿をとらえ続ける覚悟を決めた。
敵は、いつ動くのか?
どう出るか?
何を言うのか?
どこを突いてくるのか?

シンがどういう『わざ』を指示し、
バンギラスをどう動かすかを予測し、
尚且つそれらをどうやって切り抜けるのか、
そしてピチカでどう責めるべきなのか。

観察を止め、思考を絶やした瞬間、油断が生まれ、敗北へと繋がる。
シオンのポケモンバトルはもう始まっていた。

吹き荒れる砂粒の音と、吹き荒れる砂粒自体が、シオンの耳に入ってくる。
気が付くと、えらく長い膠着状態が続いていた。

「……あっ、そうか。僕が審判なんだった。全然バトル始まらないと思ったらそういうことか。
 あ、えー、それじゃあ、試合開始っ!」

締まりのない声が、緊張感のない戦いの幕開けとなった。
間髪を容れず、シオンは叫ぶ。

「10まんボルトォ!」

――チューッ!

ピチカは頬に青白い電流を滾らせて、撃った。
空中をジグザグに、光の速さで駆け抜けて、雷鳴の震えが轟き渡る。
青の閃光がバンギラスに触れる寸前、ピチカの稲妻は光の粉と化し、消失した。

「んっ!?」

思わず目の前の現実を疑った。
10まんボルトが突然消えた。
バンギラスにも外傷はない。
雲散霧消した電撃の謎に、瞠目したままシオンは固まる。
一体何が起こったのか。
推理するまでもなく、目の前の景色で謎が解けた。

一帯を渦巻く砂塵の暴風。

乱れ飛ぶ『すなあらし』こそが答えだった。
10まんボルトは電気タイプのわざ。
すなあらしは地面タイプのわざ。
電気タイプのわざは地面タイプに効果がないみたいだ……。

「くそったれがぁ……」

頭を抱えてシオンはうめく。
バトルが始まったばかりだというのに、敗北するビジョンが見えてしまった。
なんとも歯痒い。
大した威力のない、すなあらし如きにこんなに苦しめられるなんて!
どうしてシンがバンギラスを選んだのか、今になってようやく理解した。

先のバトルで使用した1024倍パワーの『1おく240まんボルト』ならば、すなあらしであろうと関係なく討ち滅ぼせた。
しかし、今は違う。

でんきショック、10まんボルト、しっぽをふる、でんこうせっか。
果たして、電気タイプの技を使わずに、バンギラスを倒す方法が、ピチカの中に存在しているのだろうか。
シオンにはそれが分からなかった。

「君が攻撃したから! これで僕の後攻だね! バンギラス! 『しっぺがえし』だよ!」

「なっ! 『じしん』じゃないのか!?」

驚いている場合ではなかった。
猛ダッシュからの跳躍。
バンギラスが大地を蹴り上げると、巨大な体が宙を舞い、ひとっ飛びでピチカとの距離を詰め、飛来した。
怪物の影がピチカの全身に覆いかぶさる。よけられない。

「ピチカ! 『こらえる』んだ!」

ピチカは『こらえる』を覚えていない。

重力に乗ったバンギラスの全体重が、
獲物を狙うピジョットの垂直落下するような速度で、小柄なピチカに墜落する。
もはや流星だった。
地鳴りの振動。空間がたわみ、ピチカを中心に爆発が起こったかのように砂煙が吹き荒れる。
凄まじい風圧でシオンのTシャツがはためき、短い前髪が後方に引っ張られる。
腕で顔を覆い隠し、砂塵の洗礼を全身で浴びた。

衝撃波は瞬時に納まり、腕と耳が痛さとかゆさでヒリヒリする中、シオンはおそるおそる前方を覗く。
バンギラスの足が地面についていなかった。
昔テレビで見た、小さな小石が大きな岩を支えている映像を思い出す。
圧殺するどころか、ピチカはバンギラスを持ち上げるようにして、攻撃を受け止め、耐え凌いでいた。

「そんな馬鹿な!」

シンが驚嘆の声を上げたと同時、シオンはバンギラスの倒し方を閃く。

「ピチカ、10まんボルトぉおお!」

――ピッ! カッ! チュウッ!

叫びと共に閃光が奔った。
ピチカの手の平からバンギラスの腹部へと、電撃の青白い明滅が流れ込む。
感電だった。
若草色の皮膚の上を、光る蛇のような電流の群れが、這いずりまわって火花を散らす。

直接触れてから攻撃すれば良かったのだ。
ピチカとバンギラスとの距離をなくしてしまえば、
二匹の間にあった『すなあらし』の障壁もなくなり、
問題なく電気タイプの技が通用する。
10まんボルトが使えると分かった今、シオンの目には勝利のビジョンが映っていた。

重い足音と共に地面が揺れた。
大地を蹴り上げたバンギラスが、ピチカから弾かれたようにして真後ろに吹っ飛ぶ。
宙に飛び出した電撃は、『すなあらし』によって即座にかき消されてしまった。

砂と風の向こう側で、雷に焼かれたバンギラスが、煙を上げ、肩で息をし、赤い瞳でピチカをにらんだ。
シオンはつい顔をしかめる。一撃では倒せなかった。

「シオン君! 君は一体! 何をしでかしたんだ!」

シンの大声が耳に突く。
その眼光は何故なのか、バンギラスの頭の上の虚空を見据えている。

「ピカチュウの攻撃! たったの一発で! どうしてエイチピーが黄色になるんだあああああ!」

聞き間違えたのかと思うほど、シオンには理解の出来ない意味の言葉だった。

「きゅうしょに当たったとして! こんな威力、有り得るのか! 『もちもの』はないはずなのに!」

姿も表情も砂に隠れて分からなかったが、
声色だけでシンのあからさまな焦り様が伝わって来る。
ピチカの攻撃力にばかり驚いていて、『ひんし』にならなかったピチカの耐久力に関しては何のツッコミもない。
どうやらシンは、ピチカが『こらえる』を使って攻撃に耐えたと思い込んでいるようだ。
シオンはホッと安堵の息をもらした。
バトルの最中で反則を嗅ぎつけられれば勝敗どころではなくなるからだ。

「なあ、偽審判。エイチピー黄色ってどういう意味だよ?」

「バンギラスの体力が半分も削られてるってことだよ! ……しまったああああああ!」

なんという幸運。次の10まんボルトでバンギラスを倒せる、というありがたい情報が手に入った。
うっかり口を滑らせたシンは急に押し黙り、いつしか二人の間を砂の音だけがさんざめいていた。

しばらく、にらみあいの沈黙が続く。
シオンは全く動けなかった。
ピチカがバンギラスを倒すためには、直接触ってから、10まんボルトを決めるしかない。
しかし近付けば、その分だけ、バンギラスの攻撃もピチカに当たり易くなっていく。
HPがもう限界ギリギリであることはピチカの表情を見なくとも明らかだ。
一撃だって耐えられない。
先に技が決まった方が勝ちか、もしくはダブルノックアウトか。

すなあらしを切り抜ける術さえあれば勝利は確実だというのに、
残念ながらそんな必勝法を編み出せるほどシオンの頭はよろしくなかった。
運に頼るしかないのだろうか。

すなあらしの向こう側から、シンの視線がシオンの足元へと注がれているのに気付いた。
ピチカを警戒しているのだろうか。
ふと、この長い沈黙に何か違和感が引っ掛かる。
どうしてシンはバンギラスを動かさないのか。

(ピチカが『こらえる』を使いながら直進し、
 バンギラスの首筋にでもしがみついて来るかも知れない……とか考えてるのか?
 首の裏側ならバンギラスの腕は届かないし、口からの攻撃も届かないし、『じしん』さえも通じない位置だから、
 その位置を確保した後、10まんボルトを直接流しこんでくるかもしれない……とか考えてるのか?

 しかし、そうではなく、ピチカの出方を伺ってると見せかけて、
 実は別の目的、例えば何か他の……時間稼ぎをしているとしたら……)

「ねえシオン君! 一つ、訊いていいかい!」

「ああ……いや、駄目だ! 何も聞くな! 訊くんじゃない!」

嫌な予感しかしないというのに、シンの口は勝手に動いていた。

「そのピカチュウ! 『すなあらし』が効いてないみたい! どうしてかな!」

シオンの頭の中が真っ白になった。

昔、小学校に通っていた頃、かくれんぼをしている最中、キッチンの棚に隠れて息を潜めていると、
しばらくして、ゆっくりと扉が開き、そこで、包丁を持った知らないおじさんと目が合ってしまった。
あの時の緊張感とよく似ている。
もしくは、興味本位でふらっと銀行を覗いた時、
覆面の男達に銃口を突き付けられた時の絶望、と言い変えても差し違えないだろう。

とにかくシオンの心臓は一度完全に静止し、今は激しくドラムロールのように脈打っていた。

「こらえるを使ったのなら! エイチピーは1しか残っていないはず! 
 すなあらしはエイチピーを徐々に削り取る天候だよ!
 どうしてピカチュウは、倒れていないのかなあ!?」

シオンの足元で突っ立つピチカ。
沈黙していた真の狙いがすなあらしによるダメージだったと、今になってようやく分かった。
どういう手を使ったかまではともかく、シオンの反則をシンは間違いなく確信している。
すなわちシオンの反則負けが、ほぼ決まった。
砂の擦れる音がしつこく、嫌に耳に響いて来る。気持ちが悪い。どうすればいい。

「ほら! 黙ってないで! 教えてくれないかい! シオン君!」

もうこうなったら自棄を起こすしかない。
勝てば官軍、死人に口なし、終わりよければすべてよし。
反則だろうが、インチキだろうが、勝者こそがこの世の心理。
勝った後で、「反則なんてなかった!」、と大声で主張するなりなんなりして押し通すしかない。
シオンは全力もって都合の良い展開を妄信した。

「走れピチカァ!」

バンギラス目掛けてピチカが飛び出す。
砂塵の彼方へ、一直線に、黄色い弾丸が突っ走る。

「ちゃんと! 説明! してくれないと!」

「お前のすなあらし、実は射程距離外だったんだよ! わかればか!」

「それは違うよ!」

「うっせぇ、しねぇっ!」

二匹の距離が一気に縮まり、ピチカはバンギラスの目前へと躍り出た。

「バンギラス! はかいこうせん!」

「ピチカ! 10まんボルト!」

四つん這いとなったバンギラスの、あんぐり開いた大あごから、光の十文字が閃いた。
三度、ピチカは青白い稲光を身に走らせ、解き放つ。

鼓膜をつんざく爆音がうなった。
『わざ』と『わざ』がぶつかりあう。
青と白の入り混じった輝きの爆発。幻想的な閃光の彩りに、視界の全てが包まれる。
あまりの衝撃に、一瞬だけすなあらしはまるごと消し飛んだ。
吹き荒れた爆風に乗って、ピチカは蹴り飛ばされた石ころのように、
シオンの足元にまでコロコロ戻ってきてしまった。
そして再び、周囲一帯を砂塵の風が覆い尽くす。

「まだやれるか、ピチカ?」

尋ねつつ見下ろすと、ピチカは電撃を放ったままの状態で、ふんばっていた。
先の方を見やると、10まんボルトとはかいこうせんのつばぜり合いが未だに続いていると分かった。
滝のような白い奔流と、砂嵐に威力を削がれる青い電流とが、押し合っている。
二匹の間で飛び散る火花は、確実にピチカの方へとじりじり迫る。
力負けしていた。

「もっと出力を上げろ、ピチカアアアア!」

思いっ切り声を張り上げたところで、しかし、何も起こらない。
なんとか対策を考えようにも、上手く考えがまとまらず、もはや成す術がないとしか思えない。
あまりにもどうしようもなく、シオンは急に恐くなってしまった。
あの白い輝きがピチカに触れた途端、全てが終わってしまう。人生の全てを失ってしまう。
どうしてこんなことになってしまったんだ。

試合中に余計な不安を抱えている隙に、青白い電撃は押し戻され、
あっという間に白い光はピチカの目と鼻の先にまで迫って来ていた。
もうどうしたらいいのか分からない。今すぐここから逃げたしてしまいたかった。

「ああ、もう、くそ、もうっ。このまま下がれピチカ!」

シオンは後退りながらも、自棄になって命令を飛ばす。
この判断が功を奏した。

ピチカが数歩だけ後退すると、先程までピチカが立っていた空間をはかいこうせんが食らった。
つまり、数秒だが、余命が伸びた。
急ぎ、後退りながらシオンはさらに叫んだ。

「下がれピチカ、もっと下がれ! 電気を撃ったままもっと!」

バンギラスの口元から如意棒の如く白銀の光は延々と伸び続ける。
しかし、バンギラスの光線がピチカの鼻先にたどり着く事はなかった。
10まんボルトに妨げられながら、ゆっくりと直進するはかいこうせんよりも、
ピチカの後退する速度の方が素早かったからだ。
まさしく戦略的撤退である。

ピチカと共に後退を続ける中、シオンは苦悩に頭を痛めていた。
バンギラスから遠ざかる程、勝利からも遠ざかる。

はかいこうせんを撃ったポケモンは、次のターン――ほんの数秒ではあるが反動で動けなくなる。
その隙に、でんこうせっかでピチカをバンギラスに近付ける。
直接触れた状態を作ると、次のターン、先攻で十万ボルトを撃ち放つ。最初は、そういう予定であった。

しかし、二匹の距離がこれだけ開くと、ピチカがバンギラスに到達する前に、
反動はなくなり、バンギラスが動き出してしまう。
それでは負けるか相打ちか、だ。

(十万ボルトならこの場所からでも一瞬でバンギラスを撃ち落とせるというのに)
飛び交う『すなあらし』を忌々しげに睨みつけながら、その場しのぎの後退を続けた。

例えば、ピチカを天高くに放り投げ、ピチカは上空に電撃を放って、雷雲を生みだし、
そこから『すなあらし』をも凌駕する超強力な『かみなり』が生まれ、
背の高いバンギラスの尖った頭上に突き落とされる
……この期に及んで絵空事ばかり思い浮かぶ自分の脳の頼りなさを呪った。

ふと、ピチカの後退が止まった。
エネルギー切れなのか、それともバンギラスの息切れなのか、
はかいこうせんの光は弱々しく、今にも消えてしまいそうなほど薄くなっていた。

脂汗が額ににじむ。
バンギラスが反動で動けなくなる今がチャンスだ。
どうする? どうすればいい? どうすればこの状況を覆せる?
時は待ってはくれなかった。
解決策を探している内に、長い長い白銀の光は、フッと、消失してしまった。
緊張が走る、
と同時に、シオンは目の前の景色に微妙な違和感を覚えた。

空洞があった。
ピチカの鼻先と、バンギラスの口元とを繋ぐ一直線の空洞があった。
ついさっきまで『はかいこうせん』が通っていた空間である。
その空間にだけ、『すなあらし』がなかった。

たったの一ヶ所、わずかに一瞬、電気を通さぬ砂塵の壁を、一点の風穴が貫いた。

「いっけぇえええ!」

詳しい指示を飛ばす暇などなかった。ただ叫んだ。それだけで通じた。

――ヂュウウウウウ!

紫電一閃。
放った稲妻、弾丸の如く、直線的に、疾駆する。
奇跡の軌跡が、砂塵に埋もれるより速く、ピチカの電光が駆け抜けた。
銃声のように、雷鳴が爆ぜる。

砂の嵐の向こう側、米粒のようなバンギラスの肉体が、青白い明滅を繰り返すのを見た。
小さな影は、煙をあげて、ゆっくり傾き、横たえる。
ずどん、と重々しい地響きがうなる。
バンギラスはたおれた。

「バンギラアアアアアッス! 立てえええええ! 立つんだあああ!」

往生際の悪い大男が、やかましい声で嘆いていた。

「ピカチュウに! 二度も! やられる! バンギラスが! いて! たまるかああああああ!」

惨めだとか哀れだとかを思う以前に、とにかく鬱陶しかった。
大人げないシンの、悲鳴のような絶叫に対し、吹き荒れていた砂の嵐は、次第に大人しくなってゆく。
腕を下ろし、砂を払い、澄んだ空気の中で、シオンは嘲笑った。ピチカも笑った。

「バンギラス、たぶん戦闘不能! なので、たぶん試合終了! だから、たぶんシオンさんの勝ち!」

高らかに、ダイヤモンドのジャッジが下る。シオンとピチカは勝利した。




「でかしたぁ! でかしたぞ、ピチカ!」

勝利の喜びで胸がいっぱいになって、シオンはその場にしゃがみこむ。
うつぶせで倒れるピチカがいた。
体中の至る所がボロボロで、ピチカは弱々しい苦笑をする。
この時初めて、シオンは自分の相棒の身を心配した。

「無事か? 無事だな。よくやったぞピチカ。後で何か美味いもん食わしてやらないと」

突っ伏すピチカの背面を、すりすりさすって労わった。
砂粒のざらざらした手触りに、土埃で汚れた毛並み。
ピチカは本当に頑張ったんだなあ、と母親のような気持ちになる。
シオンが感傷に浸っていると、気のせいだろうか、遠くで太鼓を連打するような震えが伝わってきた。
地面を叩くような音に不安を覚え、何の気なしに顔を上げる。
血走った眼の大男がシオン目掛けて爆走していた。
息を飲む。
オウ・シンだった。
大地を俊敏に何度も蹴り上げ、突進するケンタロスの如く、轢き殺す勢いで鬼気迫る。

悪鬼を前にし、
何が起きているのか把握しきれないまま、
とにかくピチカの危険を感じ、
シオンは咄嗟にベルトのボールをむしりとっていた。

「戻れピっ……」

突如、シンの動きが加速する。
シオンがボールを構えるより先、紫のスーツが視界いっぱいに広がった。
鳩尾(みぞおち)にかつてない衝撃が深くのめりこむ。

す て み タ ッ ク ル !

189センチメートルと97キログラムから繰り出す必殺の一撃。
シオンは肺の空気を全て吐き出す。
心臓に核弾頭でもぶちこまれたかの如く、衝撃は背中の向こう側にまで走り抜けた。
悶絶しそうな激痛に、一瞬だけ意識が消し飛び、力の抜けた手の平からモンスターボールが滑り抜ける。
足が浮いて、くの字になって、シオンは後方へ吹っ飛んだ。
眼前のシンが遠ざかっていく。
背中で風を受けながら、ふわっとした感覚の後、地面に尻もちを叩きつけた。
何度か咳き込みながらも急いで息を整え、力尽くで素早く立ち上がった時、
シオンはもう何もかもが手遅れなのだと悟った。

シオンのモンスターボールを掴んだシンが、じーっと自分の足元を見下ろしている。
視線の先の、突っ伏すピチカはじーっとしたまま動かない。
シンにピチカを連れ去られる=ピチカを調べられる=反則が発覚=シオンの反則負け=一千万円の借金。
たまらずシオンは叫んでいた。

「やめろぉォォォォオオオオ!」

必死になって腕を伸ばした。届かないとは分かっているのに。わるあがきだった。
虚空をつかんだ手の平の先で、ピチカの体は赤い色の光へと変わり、ぐにゃぐにゃに形を変え、
シンの手の平のモンスターボールへと吸い込まれていった。

「……えっ?」

ポカンとする。
予想外だった。
あまりのことに、シオンは自分の目玉が信じられない。
頭を落ち着かせて周囲を見渡す。

シンの姿が見える。シオンの手放したボールを握っている。
ピチカの姿はなかった。間違いなくこの場にはいない。

どうやら見間違いではないようだった。
シンは、ピチカを、モンスターボールの中へと戻したのだ。それも自らの手で。

みるみるうちにシオンの心はたくさんの幸せで満たされていく。
(うお! まじか! やった! やった! うおおーす!)
たまらないくらいの狂喜。
例えるならそれは、
腹に爆発物を抱えた状況、長い時間、我慢に我慢を重ね、全力疾走でトイレに駆け込み、
全てを出し切った時の解放感。
シンの犯した致命的なミスは、
ギリギリ便器に間に合った時のような圧倒的至福をシオンにもたらしていた。
喜びのあまりガッツポーズをとろうとした刹那、

――駄目だ!

本能が肉体の動きを押し留める。
シオンは自分の顔がゆるみきっているのに気付き、慌てて笑顔を噛み殺した。
ここで喜んではいけない。それでは、シンから見てあまりにも不自然だ。
だからこそもっと自然に……そう、今は怒るべき瞬間だ。
顔が赤くなるほど眉間に力を込め、シオンはシンをにらみつけた。

「人のポケモン盗ったら泥棒! 何してくれとんじゃいわりゃあ!」

一瞬、シンにつっかかろうと思ったが、やっぱり勝てそうにないので、暴言だけにとどめておいた。

「君のピカチュウ! すなあらしが効いていない様子だった! だから止めたんだ! 『じしん』をね!」

「話をそらすなボケがぁ!」

怒鳴りつけながらも、内心慌てた。
確かにシンは一度もじしんの命令してこなかった。
つまり、バトルの初めっからピチカに地面タイプの攻撃が通用しないと予測されていたことになる。

「覚えるはずのない『こらえる』!  効き目のなかった『すなあらし』!
 レベル21にして、バンギラスと同等のパワー! 何もしていないわけがない!」

「うるせえ! 勝ったんだ! この際だから、千万寄こせ!」

「そもそも君が! 反則をしなかった試しがあったかい!」

「え゛! ……あったさ!」

「思いっ切り言い淀んでいるじゃないか!」

(こいつ、面倒臭ぇ!)
しかめっ面に冷や汗がにじむ。
いつの間にか、演技でなく、シオンは本気で怒りと焦りを抱えていた。

「そんじゃあ聞くけど、俺が一体どういう反則をしたって言うんだ? 教えてくれよ」

「それはわからない!」

「ほれみろ! 俺が反則使ってねえ証拠だ!
 言いがかりつけてんじゃねえぞ! この、五年後はハゲ!」

「だからね! 調べに行くよ! これから! ポケモンセンターにね!」

心臓が凍りつく。
思わず息が止まった。
ポケモンセンターへ連れていかれたらピチカの反則がばれるのか?
しかし、ここでシンの動きを止めようとするものなら、余計に反則を怪しまれる。
どうしても避けられなかった、わずか1パーセントの不安要素。
シオンはそれを、背負わなければならないリスクととらえた。

「約束してくれ。俺が反則したって証拠が見つからなかったら、トキワシティ皆の借金をチャラにする、と」

シンはすぐには答えなかった。
ポケモンセンター行きを妨害しなかったシオンの意図が分からず、警戒しているのだ。
何を考えているのか、厚かましい仏頂面のまま固まってしまっている。

「おい返事しろよ!
 ひょっとしてお前、反則してようがしてなかろうが、俺に負けだって言い張るつもりなんじゃないのか!?
 ふざけんなよ! 証拠のない冤罪なのに押し通そうとするとか、どっかの国の……!
 これ以上は止めておく」

我ながら賢明な判断だ、とかシオンは思っていた。

「そうだね! そのとおりだよ! わかった!
 もし証拠が見つからなければ! 素直に負けを認めよう!」

「よし。約束だぞ。言質とったからな」

さすがに良心を咎めたか、それともシオンが面倒臭いので仕方なくなのか、
とにかくシンはしぶしぶ了承してくれた。
咄嗟にシンは身をひるがえし、広い背中を向けるなり、
大きな歩幅で、大地を踏みならして、みるみるうちに遠ざかっていく。
シオンの戦いは終わった。
後は天に祈るしかない。ピチカの反則が見つからない事を。




「いやー、勝ちましたねー」

へらへらしながらのこのことぼちぼちダイヤモンドがやって来た。

「シオンさんて、反則使わなくても、普通に強いトレーナーだったりするんじゃありませんか?」

「いいや。俺が勝てたのは、偽審判の判断ミスのおかげだよ。
 あの局面で『しっぺがえし』や『はかいこうせん』を使ってこなければ、俺が負けていたかもしれない。
 もしかすると、ポケモンバトルとは相手のミスを突く競技なのかもしれないな」

「そうですか? 僕は、てっきりレベルの差でゴリ押しする競技かと思ってましたけど」

「さ、流石だな。俺には真似できないぜ。ところで、ダイヤモンド。あのよ……バレると思うか?」

「十中八九。というか、普通に考えてバレバレの反則ですよ」

「そうか」

途方に暮れるように、シオンは離れ行く紫の背広を見据えた。

「でも、まぁなんとかなるだろ」

「反則が分かったところで、証拠が見つからなければ負けを認めるそうですからね」

「今さっきの約束だろ。我ながら天才的な思いつきだった」

「誰からも褒められない役立たずに限って、自分で天才とか言っちゃうんですよね」

「なんかお前、最近手厳しいぞ」

「ほら、駄弁ってる内に、シンさんがもうあんなところに。急ぎましょう」

「そうすっか。おいまてよ、偽審判! もしくは似非借金取り! なんちゃってヤクザ! ポケモン泥棒!
 さっさとピチカを返せぇ!」

砂粒ほど小さくなったシンの背中を追いかけて、シオンら一行はトキワを目指す。
鉛色の雲を見上げて、今にも雨が降り出しそうだな、と足を速めた。
荒野の大地を駆け抜ける。







つづく







あとがき

自分で書いておいてアレなんですけど、なんだか八百長試合っぽい感じがします。
シオンが勝利を勝ち取ったというより、オウ・シンがシオンを勝たせたような、そんな風にも見える。

あと推敲してて思ったんですが、
バトル中の地の文の説明がグダグダすぎて何が起こってんのかさっぱりですね。
もっと分かりやすく書けたらいいのですが、
どうやって説明したらいいもんか悩んでも分からなかったもんでして、
ちょっと申し訳なかったです。

次回の第二話で今回使っていたシオンの反則が描かれております。

ありがとうございました。


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