マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1319] 四時間目「12時カレー戦争カビゴン戦線」 投稿者:GPS   投稿日:2015/07/27(Mon) 22:28:36   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『にくきカビゴン軍に制圧された給食室の平和をとりもどすためには、勇者よ、お前のきょう力が必要なのだ』

時計のはりが二本とも、てっぺんを指したときの教室で、おれはデデンネにそう言われた。


おなかもへった四時間目、おれは今日の給食のことだけを考えていた。今日のメニューはカレーライス、家で食べるのと給食のカレーはちがって、あのおいしさは他のどこでも味わえない。二ヶ月後のたんじょう日にもらうポケモンのことも、この前買った新しいゲームのことも、もちろん授業のことなんかも、全部忘れてカレーライスのことだけが頭にあった。
早く給食の時間になってくれ。ただそれだけをねがって、先生の話をぼんやり聞いていたおれのつくえに、そいつがあらわれたのはそんなときだった。そいつ、小さいデデンネはいつの間にやってきたのか、気がついたらおれのつくえの上にのっかっていた。なんだこいつ、いたずらするんじゃないか、そう思ったおれはえんぴつでそいつをつついて追いはらってやろうとした。

『そのようなことをするのではない。今は給食、カレーライスのキキなのだ、コクイッコクを争っているのじゃぞ』

おれはすごくおどろいた。だって、デデンネがしゃべったからだ。あまりにびっくりしてえんぴつをひっこめたおれに、デデンネはみょうに大人っぽい声で、またしゃべった。

『これ、何をおどろいているのじゃ。そんなキモで勇者になれると思ったら大まちがいであるからに』

デデンネの、豆つぶみたいな口の動きに合わせて声が聞こえるから、そいつがしゃべっているのはおれのかんちがいなんかじゃない。しかも、さらにおどろくのは、どうやらそいつの声はおれ以外に聞こえていないらしいことだ。先生も、クラスのみんなも、デデンネがしゃべっているのに知らんぷり。デデンネの声は、おれだけに聞こえているみたいなのだ。
とりあえず、おれはデデンネの話を聞くことにする。キキ、とか、コクイッコク、とかいう言葉の意味はわからなかったけれど、勇者という単語にはむねがどきどきしたし、カレーライスがどうにかなっているらしいことも、今のおれにとってはとても大切だったからだ。

「勇者って、どういうこと」

声を小さくしてそうたずねたおれに、デデンネは『うむ』と目をくりくりさせる。『わしはこの小学校に位置するデデンネ王国の長老なのであるが、その王国、つまりは給食室が危険なじょうきょうなのじゃ』

『わしら、デデンネ王国の民は昔から、お前たち小学校のものどもとうまくやってきた。お前たちの給食をわけてもらうかわりに、給食室の平和を守ってきたのじゃ』

「給食室の平和を守るって、どんなこと」

『そりゃあもう、色々じゃよ。まどから入りこもうとするむしポケモンどもに電げきをくらわせたり、パンをぬすもうとするポチエナやニャースにじゃれついたり。わしらはそうやって、長らく給食室を守ってきた』

しかし、と、デデンネは声を重くする。

『それもここまでじゃ。さっきせめこんできた、カビゴン軍にはわしらの力じゃとてもかなわない。技がきくとかきかないとかじゃなくて、体の大きさがちがいすぎるのじゃ。デデンネ王国の民は、それでもゆうかんに立ち向かったが、みんな、あのまるまるとしたおなかにはね返されてしまった』

「え、じゃあ、今給食室にはカビゴンがいるってこと?」

あわてて聞くと、デデンネは『その通り』とうなずいた。おれのせなかが冷たくなる。給食室にカビゴンがいるだなんて、そんなにおそろしいことがあるだろうか。先生やクラスメイトはふつうに授業をしているけれど、本当ならばそれどころではないはずだ。
デデンネは、『すでにカビゴン軍によって給食はをせいあつされてしまった』と悲しそうに話す。そんな、どうしよう、とおれはノートをにぎりしめた。あんなに楽しみにしていたカレーライスが、カビゴンに食べられてしまうかもしれない。考えるだけでこわくなった。

『しかし、まだあきらめるのは早いのじゃ』

うつむいていたデデンネが顔を上げる。どういうこと、としつもんしたおれを、デデンネの短い足がぴっと指した。

『勇者よ。だれよりもカレーライスをあいするお前に、われわれデデンネ王国民は希望をたくしたのじゃ。お前こそが、カビゴン軍をやっつけ、給食室の平和をとりもどせる、さいごのトリデなのじゃ』

「おれが、勇者……」

『そうじゃ、お前こそが、カビゴン軍に立ち向かう勇者なのじゃ!』



そうして、勇者となったおれはデデンネと共に給食室へと向かった。ふしぎなことに、席を立って歩いても、先生やみんなは気づかないみたいだった。ふだん、そんなことをしたらおこられてしまうにちがいないけれど、だれも何も言わなかった。まるで、おれたちが見えていないみたいである。
デデンネはそれを『カビゴン軍のサクリャクじゃ』と言った。カビゴンの中には、時間はかかるけれども、さいみんじゅつを使うみたいにして、人間やポケモンをねむらせてしまう力があるやつもいるらしい。

「じゃあ、みんなは今ねむっているの?」

『そうじゃ。カレーライスを強く思う心のあるお前だけが、そのじゅつをはねのけたのじゃ』

なるほど、とおれはうなずく。たしかにカレーライスを好きな気持ちはだれにも負けないし、それはカビゴンにだって同じだ。カレーライスを食べるためなら、どんなに強いやつにでも勝てると思う。
給食室のドアの前にとうちゃくした。いつもなら、給食のおばさんたちが話す声や食器の音が聞こえるのに、今はとてもしずかだった。

『わがデデンネ王国軍がやぶれ、カビゴンたちが勝利によいしれているのじゃ。やつら、きっと今にも給食を食べつくしてしまうにちがいない』

「そんな……だめだ、ゆるさない!」

「おい、待て、勇者よ!」

デデンネのあわてた声が聞こえたときにはすでに、おれは給食室のドアを開けていた。
とたん、びっくりするほど大きなかげがふってふる。それと同時に感じたのは、むにむにという、何かやわらかいものにおしつぶされるしょうげきだった。それがカビゴンのおなかだとわかったおれは、丸いかたまりとかべの間にはさまれてしまっていた。

「わあー!」

おれはおしつぶされたことにもおどろいたけれど、給食室の中が、知っている様子と全然ちがっているのにはもっとびっくりした。たくさんのカビゴンやゴンベが、大きなおなかをゆらして得意そうにしている足下で、もっとたくさんのデデンネがボロボロになって転がっている。デデンネたちはもう何もできないみたいで、さけんでしまったおれに気づくこともなくたおれていた。
しかし、さけび声のせいでカビゴンやゴンベがいっせいにおれの方を向いてしまった。おれをかべにおしつけていたカビゴンまでもが動いたおかげで、運良くぬけだすことができたけれど、みんながおれをにらみつけていた。なんびきものカビゴンたちが、おなかのかげを落としながらおれを見ている。おれはこわくなって、思わず一歩後ろに下がってしまった。

『勇者よ! 何をオクシテおるのじゃ、お前がたたかわなければ給食室の平和はくずされてしまう!』

「でも、どうやって勝つんだよ! あんなにたくさん、おれ一人じゃむりだって」

急に不安になったおれが言うと、デデンネは『何を言うのじゃ、その剣を使うのじゃよ!』と叫んだ。「剣?」そう思って首をひねったおれは、そこではじめて、自分の右手に大きな剣を持っていたことに気がついた。
その剣は、ゲームの中に出てくるみたいにかっこよくて強そうだった。こんなもの、どこから持ってきたんだっけ、と考えるおれにデデンネは小さな前足をぴぴぴ、とふって説明する。

『その剣は、古きより語りつがれる伝説の剣じゃ。本来、カビゴンをねむりからさますために作られたのじゃが、勇者によってふるわれることで再びねむりへとつかせることもできる』

「伝説の……剣……」

『さあ、勇者よ! 給食室を、カレーライスを救うのじゃ!』

デデンネの言葉に、おれはにぎりしめた剣をぐっとかまえた。カビゴンとゴンベの群れが、うなり声をあげておれに近づいてくる。その様子に足がふるえた。でも、やつらの後ろにある、給食のワゴンが目に入る。
カレーライス。あれを守らなくちゃいけない。おれはカレーライスを守って、給食の時間をむかえなきゃいけないのだ。そう思うと全身に力がわいてきて、カビゴンたちに絶対勝てるという気持ちになった。
剣を大きくふり上げる。『今じゃ!』というデデンネの声に、おれはカビゴン軍に向かって突げきした。



「おい、保! いねむりしてるんじゃないぞ!」

急に先生のおこる声がして、おれはあわててとびおきる。周りを見てみると、そこは給食室なんかじゃなくて、授業をやっている教室だった。カビゴンも、ゴンベも、デデンネも、いない。

「あれ、おれ……カレーライスのためにたたかって……」

「なにをねぼけてるんだ。はらがへったのはわかるが、もう少しがまんしろ」

先生の言葉にみんながわらう。おれはつられてわらいながら、さっきまでのは夢だったのかなあ、と思った。ねむっていたのはみんなじゃなくっておれで、あれは全部夢だった。そういうことだろうか。
でも、そっちの方がふつうだと思う。しゃべるデデンネや、カビゴンとのたたかいなんてあるはずがない。そうだ、きっと夢だったのだ。おれはそう考えて、ノートを書くためにえんぴつを動かそうとした。

「あれ、保くん、なんでリコーダーなんてつかんでるの?」

となりの席の女の子がそんなことを言ったけど、おれは「なんでだろう」としか言えなかった。よくわからなかったけど、べつにいいや、と思った。さっきのは全部夢だったとしても、今日の給食がカレーライスで、それがおいしいことはまちがいないのだ。
よし、給食までもう少し、がんばるぞ。先生の言葉に、おれは大きな声で返事をした。夢だろうが現実だろうが、勇者になるほど大好きなカレーライス。何よりおいしいカレーライスが、あと少しでやってくる。
みんながまたわらった教室のすみっこで、黒いしっぽがゆれるのが、ちょっとだけ見えた気がしたけれど、おれはカレーライスのおかわりのじゃんけんにどうやって勝つかを考えるのにいそがしかった。


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