マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1323] 第5話 海の向こうの遠い国 投稿者:SpuriousBlue   投稿日:2015/09/06(Sun) 16:17:11   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]




【一部過激な描写が含まれます】






海の向こうの遠い国








「キラキラ〜! くるくる〜?『突然の出会い!ミラクル☆アイドルスカウト!』って感じだね!」

 気を失っていた可憐な少女は、目を覚ますと俺の腕からするりと降り立つ。1回転して振り返ったのち俺に向かってうやうやしくお辞儀をして礼を言う。そして俺の顔を覗き込み、再度一回転したのち出たのが先の発言だった。
 意味が分からなかった。
 でも、悪い気はしなかった。
「ロックだな」
 俺は言う。
 少女は同意して笑う。

    ◇

 この町は狂い始めた。
 人が死ぬことに鈍感になった。
 町のショーウィンドウ。テレビ画面にポケモンの映像が映る。
 メディアではゲームの勝ち負けを頻繁に取り上げた。負けたプレイヤーを顔写真とともに公開し、負けた理由を評論家が解説した。負けた人間は、死者であるということに注意を向ける者はいなかった。
 ジバコイルを連れた真面目そうな青年が、髪を金色に染め、耳にいくつものピアスをしている男のゴウカザルに殺された。そのサルはある日、空から落下して死んだ。
「ポケモンバトルには相性があります。ただ強いというだけでは勝てないというのが、このゲームの難しいところなのですね」
 髪の毛をぼさぼさにして天才肌を装った平凡な評論家がそう言った。
「ロックじゃねぇ」
俺は言う。

 ガラスに映った自分の顔を見て、茶色く染めたやや長い髪を整える。
 サングラスをかけて、4年前に買ったエレキギターを担ぐ。
 存在すら忘れられた裏路地。新しい広告を張ることさえ皆がためらう汚れた壁。開けると毛が逆立つような音のする扉。点滅する裸電球。そこを抜けると、俺たちの場所がある。
「ロックかぁ!」
 コンサートはすでに始まっている。
 演奏の途中、サビがながれるど真ん中。俺は小学校の教室ほどの大きさの小さなコンサートホールに大声を出して入る。
 演奏が止まる。
 観客の視線が一斉に俺に集まる。
 俺はケースからギターを取り出す。
「第二幕、始まるぜぇ!!」
 慌ててアンプのコードを持ってきてくれた友にウインクし、おれはギターを派手に鳴らす。
 ステージのメンバーがそれにこたえる。
 そして一拍おいて、観客が、そしてこの部屋全体が一つになる。
 ロックで語るは、俺たちのこの世界。
 嘘偽りも何もない。本音だけで語る、俺たちの世界。
 第二幕が始まった。

    ◇

 嫌いなこと、ね。仕事以外に何があると?
 もちろんそんなことは上司に言えない。カイバ女史は機嫌を損なうと大変怖いのだ。
「やはり、ゲームの規律を乱す者はあまり好ましいとは言えませんね」
 私の仕事が増えますから、というセリフは飲み込んでおいた。
「じゃあ、ちょうどよい仕事があるわ」
 カイバ女史は言う。
「また”介入”ですか? これは最小限に抑えるとの話では……」
「あら、知らないの? とても大きな変化を止めるには、絶え間ない小さな変化が必要なのよ」
 俺は同意する。ため息はつかない。あくまでクールに作業に当たる。
 取り乱すことは、私のキャリアに響くだけでなく、下手すると命にもかかわるのだから。

    ◇

「今日もありがとうな」
 コンサートの後、俺はひときわ体格のいいリーダーに礼を言う。
「ったく。あのタイミングで入ってくるとはな」
 まぁ、お前らしい。リーダーは続けた。
 東京にあるFランクの大学の軽音部。メンバー5人、アシスタント1人の小さなバンド。しかし、夢に向かって着実に進んでいく。CDもインディーズレーベルで発売された。まったく売れなかったが、これからだ。おれは就活をするつもりはなかった。
 プロになれる。俺は本気でそう信じている。
 テンプレかもしれない。しかし、テンプレ通りに動くのはロックじゃねぇ。テンプレだとそろそろ現実を見始めるころだ。平凡な幸せを追い求めるころだ。それでも、俺はロックに打ち込む。それがロックってもんだ。
「あの、ごめん、話があるんだ」
 ギターの山本が小さな声で言う。
 俺はその続きを促す。
 俺は認めたくなかった。でも、想像できることでもあった。どこかのテンプレートからとってきた三文芝居のように、マニュアルに従って動くコマのように、俺たちの生きたバンドも少しずつ硬直していくのかもしれない。そんなことはないと振り払おうとした。自分をだましているだけなのかもしれない。それでも俺はロックの可能性を信じた。
 俺たちは山本のために、そして4人に減ったこのバンドのために、夜まで飲み明かすことにした。

 俺にとって、音楽がこの世界のすべてだった。音楽のない人生はありえなかったし、俺の作るロックがこの世界を変えると信じていた。
 この日、山本はあまり飲まなかった。CDの販売に最も喜んでいたのは背の低い山本だった。バンドに入る前、山本は太っていた。しかし、バンドのために痩せた。好きだったという地下アイドルとも別れを告げた。そして誰よりも早く部室に来て、黙々と練習を続けていた。その山本が、就活を選んだ。
 それでも、俺は山本を責めなかった。
 お前は、お前の信じる道を生きろ。そう言うと、シラフに近かったのにかかわらず、山本は号泣した。
 山本の本気を、俺は知っていた。だから、俺は引き止めなかったし、それでも、俺は、ロックを続ける。
「俺は東京から出られなかったけど、お前らは世界で有名になれよ!」
 山本が俺たちに言った。
 そういえば、俺たちの活動は常に東京都内だった。
 東京都から出たことは一度もなかった。
 このメンバーで東京から出た記憶がなかった。
 メンバーと別れ、俺は駅から20分以上離れた場所にある自分のアパートに向かった。
 築34年の木造アパートの前で、声をかけられた。
「お前、何色だ?」
「は?」
 振り返ると唇と化粧の厚い女が立っていた。目は細く吊り上がっており、濃いアイラインが塗られている。年は20半ばか。黄色のテカテカする派手な服を着て、爪が真っ赤に塗られていた。
「あら、トレーナーじゃないの。今日はトレーナーが多かったからもしかするとと思ったけど。ま、いいわ。おい! デンチュラ! 腹が減っていればこの男も喰いな」
「おい! まて!」
 プレイヤーの中には無差別に襲ってくる奴もいるとは聞いていたが、こんな夜中に出くわすとはついてねぇ。デンチュラといえば蜘蛛のようなポケモンで、ゲーム内でもなかなかの強キャラとして通っている。
 だがしかし、
「ロックだ」
「は?」
 蜘蛛女は俺を見下すようにして言った。俺は反応しなかった。生きて帰るのが今の状況で最も大切なことだったからだ。何があっても最後まであきらめない。それがロックだ。
 背後で重い音がした。振り返ると、黄色の巨大なクモがすぐ後ろに立っていた。屋根かどこかから降りてきたらしい。
 おれはギターケースを肩から外して握りなおす。武器がないよりはましだ。
 蜘蛛はじりじりと俺のほうに近寄る。俺は距離を保つため、じりじりと後ずさりする。
 大量に飲んだ酒が胃から逆流しそうになるのをこらえる。汗が出るのは暑いからだと思い込む。この震えは武者震いだ。
 足が道の端の排水溝を踏む。後がない。
 逃げられないなら、立ち向かうまで。
 俺は攻撃を仕掛けるタイミングを計った。
 ギターケースのリーチを計る。蜘蛛の攻撃を脳内でシミュレートする。こちらから攻撃できるよう、逆に間合いを詰める。
 不意に均衡が破られた。
 蜘蛛がそっぽを向いて歩いていく。
「別の獲物が見つかったの。運がよかったね、あんた」
 それに、と蜘蛛女は続ける。
「あんたの顔、結構タイプだから、殺すには惜しかったかも。あ、糸でからめてそのまま持ち帰っちゃえばよかったのかな」
「無理やり連れ込むのはロックじゃねぇ。俺がほしけりゃ、蜘蛛の代わりに偽りのない愛を持ってきな」
「あんたの性格ウザそうだからやめとく」
 じゃあね、と言って女は立ち去る。
 俺は、ギターのケースを下して、深呼吸した。
 そして、廊下に刺さっている鉄パイプを抜き取って自宅に戻り、ギターを置く。
 鉄パイプを持ち、家を出る。
 他の奴らを見殺して助かるのはロックじゃねぇ。
 俺は蜘蛛女の獲物を探すため、夜の街に繰り出した。

    ◇

 朝も昼も夜もない。
 アラートが鳴った時が仕事が始まるとき。保守とはそんなものだ。先輩にあたるカイバ女史が言う。
 そして、とても大きなアラートは開始1か月後に発生した。計画に全く入ってこなかったとても大きな課題が、赤いビックリマークの「重要」というタグとともに、課題管理表に燦然と輝いている。
 とても大きな課題をなくすために、それ以外の小さな問題には目をつむりなさいと、そういうことであるらしい。
 0.5か月の間、私たちはそれを放置した。
 今回、最小限のコストでそれを解決できるかもしれないからと、私たちは規則をいくつか破って行動に移すことにしたのだ。

    ◇

 この鉄パイプはただのパイプじゃない。その証拠に、先が少し赤黒くなっている。アパートの歴代の先輩がいつもケンカの相棒にしていた代物だ。
 しかし、鉄パイプに血を吸わせる相手がいない。
 蜘蛛女は見当たらず、あれだけ目立つ黄色い巨大蜘蛛もまったく姿を現さない。
 叫びたかったが、呼んで出てくるとも思えない。
 仕方なく路地裏を徘徊していると、山本に出会った。ついさっきまで開いていた送別会の主賓だ。もうすぐバンドをやめて就職活動をする山本。そいつが、ごみ箱をあさっている。
「山本……?」
 俺が声をかけると、山本は盛大にごみ箱をひっくり返した。そして慌てて大きなごみ袋を後ろに隠して俺と向かい合う。
「なんだ、高田か……。何やってるんだ」
「それはお前に聞きたいが。それはともかく、デンチュラってポケモンがこの辺りをうろついている。気を……」
 気を付けろというより前に、山本が叫んだ。
「加奈子が来たのか!」
「あの蜘蛛女、知ってるのか?」
「違うんだ! 俺は頼まれただけなんだ!」
 山本は顔面を蒼白にし、唾を飛ばして叫ぶ。「オレがやったんじゃないだ! オレが悪いんじゃないんだ!」
 明らかに普段の山本と違うその様子をみて俺は言葉を失った。たった数時間空いただけだ。それでここまで人が変わるものなのか?
「金はやる! だから加奈子には言わないでくれ!」
 そういって、山本は俺に札束を押し付けて走り去っていく。
 俺は少しの間呆然として、そのあと札束を放り投げ、山本が残していったごみ袋に目をやる。
 その形状をみて、まさかと思いながら袋を持ち上げようとする。とても重い。
 空気穴が開いている。蜘蛛女が近くにいないことを確認しながら袋を破いていくと、中からアイドルのような露出の多い青い服を着た少女が現れた。
 現実感がまるでない姿だった。目の大きさは、身長は何センチで、髪の色にスタイルに胸の大きさはどうなのか。そんなことはどうでもいい。ただ「美少女」というカテゴリに入れるために作られたお人形。そんな気がした。
 この人形は誰で、なぜ山本につかまっていて、ごみ袋から出てきたのか。まるで意味が分からない。もしかすると、本当に人形であって、本物の人ではないのかもしれないとさえ思った。山本はドールを運ぶバイトをしていただけ。そう思えばいいのかと思った。
「10万ボルトォ!」
 蜘蛛女の声だった。俺は瞬時に身を伏せる。しかし、雷撃は隣の路地から響いた。別の相手と戦っているらしい。
「このニワトリがぁ!」
 加奈子とよばれる蜘蛛女は別のポケモン――おそらく鳥ポケモン――と交戦中らしい。巻き添えを食らうと命が危ない。あの女から逃げるのが最優先のはずだ。俺は我に返って少女を担いで走り出す。状況を理解するのは後回し。まずは生き残ることを考えたほうがいい。
 自分のアパートまであと少しというところで少女が目覚めた。本物の人間だったようだ。しかし、冷静に考えると、意識を失った少女を担いで走っている俺は相当アブナイ。すこしビビってしまったが、少女はそんなことは気にしていないようだった。
 困惑する俺を完全に無視して、少女は俺の顔をしげしげと覗き込み、くるりと優雅に一回転する。そして、まったく今の現状に似つかわしくない言葉を歌うように口にするのだ。
 
「キラキラ〜! くるくる〜?『突然の出会い!ミラクル☆アイドルスカウト!』って感じだね!」

    ◇

 六畳一間の汚い部屋に二人で入った。落ち着かせようと思ってペットボトルのジュースを注いで彼女に渡す。テーブルはないので、カップは床に置いた。置いたときに中身が少しこぼれた。焦るなと自分に言い聞かせて床をティッシュでふく。家に女を呼んだ事はたびたびあるが、今回は少し事情が違う。青い服の少女は笑顔でジュースを受け取った。
 驚いたことは2つある。
 一つは、この少女がポケモンについて非常に詳しかったこと。詳しいを通り越してポケモンを育てていたことさえあるらしかった。それなのに、彼女はこのサバイバルゲームについて何も知らない。
 二つ目は、ロックという言葉を彼女が知らなかったこと。
「じゃあなんで”ロックだな”って言ったときに同意したんだ?」
 俺がそう尋ねると、なんとなくそれっぽかったという返事が返ってきた。残念ではあったが、ロックという言葉だけで通じたということは、ロックの価値を高めることなのかもしれない。

 対して驚かなかったこととしては、彼女が現役のアイドルだということ。これは見ればわかる。アイドルが目の前にいるということは驚くべきことだが、彼女がアイドルだということは驚くべきことじゃない。
「しかし、なんでごみ箱に入ってたんだ?」
 そう尋ねても、彼女は何も知らないらしかった。
 山本のことも、デンチュラのことも何も知らないという。
じゃあ次の質問。君はどこから来たんだ?
しかし返事はない。そして、ボンヤリとした風に、彼女は答えた。

 遠くの方、と。

    ◇

 データを消すのが目的だった。
 データを消すために、必要なアプリを中に入れた。
 そしたら、消すのがすごく困難なデータまで中に入りこんでしまった。それが今回の課題。システム設計してデータ移管した奴らが悪い。
 まぁ、そのデータは俺が消すとしよう。で、最後に残った「データを消すためのアプリ」は一体誰が消すのだ? データを消すためのアプリを消すためのアプリを入れるというくだらない冗談はやめてほしい。
 この問題の答えを知る者はいない。カイバ女史には「あなたが自分の手で消しなさい」と言われそうで嫌だったので、聞いていない。

    ◇

 心地よい疲労とともに俺たちは眠りについた。
 別に肉体関係を持ったわけじゃねぇ。しかし、考え方によってはよりディープな関係になったといえるだろう。
 俺たちは、曲を作った。
 歌って踊れるロックな曲を。

 少女の危機感のなさは異常なほどだった。
 デンチュラににらまれ、命の危険を感じた俺とはとらえ方が違うのかもしれないが、それでも誘拐された少女の態度とは思えない。
 付き合いきれねぇと最初は思った。
 しかし、1時間もたつと、彼女のペースに巻き込まれていた。
 彼女は天才的に歌と踊りがうまかった。しかし、うぬぼれるのではなく貪欲にロックについての知識、技術をせがんだ。ロックを取り入れたいと彼女は言った。俺はそれを手伝った。
 五線譜が書ける、自分で踊りの振り付けを考えられる、自分の行動が観客に与える影響をつぶさに分析し、コードを導いていける。もはやアイドルというのが失礼なくらいの能力だった。俺はそんな彼女の熱意にこたえたいと思うようになった。蜘蛛女のことは頭から抜けてしまっていた。
 そして、一つの曲が出来上がった。
 激しくて、でも投げやりでない。
 静かで、でも心に突き刺さる。
 新しくて、でもどこか懐かしい。
 真に言いたいことを慎重に選び取った音と言葉と踊りが作り上げられたのだ。
 俺は満足だった。
 とても充実し、満ち足りた気分だった。
 俺はきっと、これがしたくてロックを続けていたのだろう。毎日でも彼女と一緒に曲を作り続けたいほどだった。
 でも、それは無理だと心のどこかでは気づいていた。
 彼女はどこか、現実離れしていたから。
 幸せな今もきっと、現実ではない。

 朝、少女は旅立ちを告げた。
 迎えが来たと言っていた。
 俺は、迎えが来る場所まで一緒についていくことにした。
 感情が抑制されたかのように、俺は彼女の言葉に従った。

 風は冷たく、少し肌寒い。木も葉を枯らし始めている。
 俺たちは東京湾につながる多摩川に来ていた。河口から最も近い橋の根元。左右には緑地が広がり、野球やサッカーのできるグラウンドが整備されている。
 普段は散歩やジョギングでにぎわう多摩川緑地には、誰もおらず、朝焼けが作るたった二人だけの影が細く長く伸びていた。
 川から青い物体が飛び出してきた。たしかマナフィという名前のポケモンだったはずだ。
 そいつの背中に少女が乗る。
 しかし、その直後に少女はマナフィから降りてきて俺のもとに駆け寄り、頬に小さくキスをした。
 そしてうつむいたまま走り出し、マナフィに乗る。
 マナフィは透明な空気の壁を作り出し、少女をすっぽりと包んでから、多摩川の深くへと沈んでいった。

 少女とマナフィが完全に見えなくなってから、俺は正気を取り戻した。
 なぜ俺は彼女を行かせたのだ? 蜘蛛女は? 蜘蛛女と戦っていたポケモンは? また誘拐されたりしないのか? 頭の中いっぱいに不安が押し込まれていくようだ。
 いや、そんな心配は言い訳に過ぎないのかもしれない。
 俺はただ、彼女に一言、好きだと伝えたかったのだ。もう二度と会えなかったとしても、それでも君と作った曲のことは忘れないと。
 俺は橋に上る階段を駆け上がる。橋の中央からならば、彼女が見えるかもしれない。祈るような気持だった。
 息を切らせて陸橋までたどり着き、そのまま走って川の中央へと向かう。
 川の中央近くに小さなしぶきが見えた。
 俺は橋のフェンスを飛び越えて外壁を走る
 しぶきの見えた場所までもう少しだった。
 俺は声がかれるまで叫ぼうと思った。一言でも声が届けばいいと思った。川に向かって体を乗り出した。
 鈍い音がした。

 見えない壁に、俺の体が激突したのだ。

    ◇

 結果オーライだった。
 一時はどうなるかと思った。消すことができないのではないかと。除外できないままで、ゲームバランスが崩れてしまうのではないかという危惧さえあった。
 デンチュラにメガバシャーモ、そしてエーフィ。優勝候補クラスのポケモンたちの熾烈な争いに巻き込まれると、私でさえ命が危ない。
 そんな中、あのロック青年が少女を戦いから守ったことは、本当に幸運なことだった。
 ロック青年はただのモブ。操作はたやすかった。消すのに許可もいらない。

 彼を消す前、ぎゃあぎゃあ騒いでうるさかったので、彼の質問に答えてやった。
 なぜ見えない壁があるのかって? それは、川の向こうが神奈川県だからだよ、君。





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