マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1328] 2.ミノムッチ 投稿者:   投稿日:2015/10/04(Sun) 22:04:18   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 冒険に出てはじめての、野生のポケモンとのバトル。
 弱らせて、ボールを投げて、初ゲット! なんてうまくいくのは、アニメやマンガの世界の話。
「逃げられちゃった」
 そう言って頭をカキカキするのは、新人トレーナーのテト。今日旅だったばかりのなりたてホヤホヤだ。テトといっしょに頭をカキカキするのは、彼の相棒のグレッグル。
「なんでだろうね」
 と首をかしげる新人トレーナー、その足元で同じく首をかしげる相棒初心者グレッグル。端から見ていれば原因はくっきりはっきり見えるもので、いくら相手を弱らせて、捕まえやすいように“どく”状態にしたとしても、その目の前で膝をついて「すいませんが、そのお羽を触らせてもらっても」と一席ぶっていたら逃げられるというものだ。
「ポッポには逃げられちゃったけど、この近くで、もうちょっとポケモンを探したいな。いったん戻ってね、グレッグル」
 気を取り直して試合延長。旅はまだ始まったばかりなのだから。
 グレッグルには一度、モンスターボールの中に帰還してもらう。特性“かんそうはだ”のダメージが蓄積しないように、水場を確保しない内は連れ歩きは控えたい。
「さて、と」
 大きなリュックサックを背負って、再出発だ。

 コラッタ、オタチ、キャタピーに、地面によく気をつけてみればナゾノクサ。気づかなかっただけで、町の近くにもたくさんのポケモンがいる。
 悲願の「ポケモンに触らせてもらう」はまだ達成していないが、ちょうど開けた河原を見つけたので、そこを拠点に再びのチャレンジだ。
 今度はグレッグルも連れ歩き。人数が増えれば目も増える。歩き出して間もなくグレッグルがオレンジ色の中指で示したのは、木の葉にまじって枝からつり下がっているポケモン。
「おお」
 テトはグレッグルに言われるまで気づかなかった。完璧な擬態も擬態、そのポケモンは周りの葉っぱと同じ種類の木の葉を身にまとっているのだ。
 ミノムッチ。進化するまでは、周囲のものを利用してミノを作るという。頭から生えたバネのようなものが、枝にくっつき、枝といっしょにビヨンビヨンと揺れている。揺れるリズムまで合わせるなんて、ますます完璧。
 あのポケモンは、どんな触り心地がするだろう? バネのような部位は? あのミノの中身は? 気になった。触りたい。元より、ポケモンに触るために冒険している。
 テトは一歩進んで、
「ミノムッチさん、どうかぼくに触らせてください」
 作戦変更、最初に頼む。バトルの途中では逃げられることが多いから。
 ミノムッチは迷った後、バネのような部位をびよよんと伸ばして、テトのそばに降りてきた。テトは気持ちが通じたと思って、ミノムッチを歓迎する意味も込めて、笑顔になった。実際は後ろでグレッグルが“どくばり”を構えていたからだけど。

 少年テトはそんなグレッグルの粗相など気づくよしもなく。
「ではミノムッチさん、よろしくお願いします」
 ミノムッチは黒い頭を動かしてうなずいた。遠目には葉っぱで隠れて緑色だったが、本体は黒色だ。初手に本体と逸る心は抑えて、緑色、ミノの部分から。
 葉っぱだ。まごうことなき葉っぱだった。落葉樹の葉。柔らかい、この春でたばかりの新葉を使っているようだ。ところどころ、枯れてきてクシャッとなる葉もまざっている。
 枯れて割れた葉を取り除き、新しい葉っぱの向きをそろえるように撫でつけると、ミノムッチは尖った口をピクピク動かした。
「気持ちいいですか?」
 コクリとうなずくミノムッチ。テトはそれに気をよくした。
 次に触れるのは黒いバネの部分。ぐるぐる螺旋に沿って指をはわせると、ミノムッチはくすぐったそうに身をよじらせた。バネの隙間がきゅうっと詰まる。
「いてて」
 ミノムッチが申し訳なさそうにペコリ。挟んだ指をふーふーして、仕切り直しだ。
 黒い顔、ミノムッチのほっぺたの部分を撫でる。指先でカリカリかくと、ミノムッチは気持ちよさそうに目をトロンとさせた。
「ふふ」
 そのまま、指の場所を変えながらかきつづける。
 ミノムッチの触り心地はよいけれど、固い。グレッグルと違って、指で押してもへこまないというか。むしポケモンってみんな、こんなに固いのかな? プニプニな弾力を感じない体つきなのに、葉っぱのミノで擬態しているのが不思議。とりポケモンのくちばしや爪は、この皮膚よりもっと固いのだろうか。
 そのままプニプニ成分の少ない肌の、ツルツル成分を楽しみながらなぞっていって、黒と緑の境目に入る。頭の後ろを回って手前に戻って、葉っぱと葉っぱの隙間からミノの中へ。そこは、外側よりもちょっと柔らかかった。
 ガクンと落ちこむような節目があって、そしてまたぷっくりと膨らむ。丘のようなラインを行ったり来たりした。スッとのぼって、ツルンと落ちる感じ。谷の部分は薄くて柔らかい。力加減一つで破ってしまいそうなそこは早々に退散して、二つ目の節に移る。そこは一つ目の丘より、もっと柔らかかった。といってもむしポケモンらしく、皮がプニプニといった柔らかさではなくて、皮のすぐ下に体の内側を感じる、そういった柔らかさ……
 ミノムッチの頭がガクンと落ちた。

「ミノムッチのミノは、身を守るために着てるんですよ。それをまあ、いちいちミノの中に手をつっこんで突き回すとは」
 最寄りのポケモンセンターで、テトは職員さんにみっちり絞られていた。
 撫でてる途中で急にミノムッチが気を失い、今度は長距離走の自己新の勢いでテトは巣立った町に戻ってきた。そのまま放り出すようにミノムッチをセンターに預け、処置室の前で五分ほど祈り、ミノムッチに大事はなかったものの。
「すいません」
「謝罪はミノムッチにしなさい」
 テトは目を診察台の上に向ける。ピンク色のミノが、こっちに背を向けていた。
「ごめんなさい」
 ピンク色のミノから、黒い顔がちょいとのぞいた。引っこんだ。元いた場所に帰してやりなさい、と職員さんにうながされ、テトはおずおず、ピンク色のミノを抱っこしてポケモンセンターを出た。

「ごめんなさい、ミノムッチ」
 テトの何度目かの謝罪に、ホコリで集めたミノをまとったミノムッチは、尖った口をちょっとばかし上向けた。ミノムッチはテトの胸に顔を当てていたから、それがちょっとくすぐったい。
「ふふ」
 笑って、
「やっぱり、ごめんなさい、ミノムッチ」
 ミノムッチと出会った森への帰り道は、二人っきりだった。生まれ育った町のポケモンセンターに出戻る時は、外に出しっぱなしのグレッグルがいたけれども。
 だからこの時間のテトの言葉は、ミノムッチに向けるものだけ。
「ぼく、ポケモントレーナーになって浮かれてた。一人前なんだって。誰もぼくのじゃまをする人はいないって。
 違うんだね。トレーナーの試験だけ受かっても。ぼくは知らないことばっかりだ」
 ポケモンの手触りだけじゃない。触ってもいいところ、いけないところ。ミノムッチが町中ではホコリを集めて“ゴミのミノ”を作ることも知らなかった。
 ピンク色のミノは、ミノムッチ本体の手触りからは想像できないくらい、フワフワのフカフカで、砂粒でもまざっているのか、少しザラザラしていた。
「今日はありがとう、ミノムッチ」
 やっと森まで戻ってきて、テトはミノムッチを地面に下ろす。ミノムッチは、お辞儀か、うなずきか、よくわからない角度でテトを振り返って、それから森へ入っていった。しばらく、葉っぱのガサガサいう音がしていたが、ミノを作り終えたのか、じきにその音もやんだ。


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