マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1331] 6 投稿者:イケズキ   投稿日:2015/10/07(Wed) 21:01:39   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 目の前のディアルガは私の身長のずっと上から見下ろしていた。
 しばらく惚けていた私の脳みそは再びゆっくり回転を始めていた。
 こいつが本当にディアルガならこの異常な状況につじつまが合う。本に載っていた話によればディアルガというのは時という概念そのものを生み出しているらしい。時間を生み出すというのはよく分からないが、自在に時間を移動もできるのだろう。それならばあの時自分の部屋で死んだ私をここまで移動されられるのかもしれない。
 「状況は飲み込めたか? チャンピオン」ずっしりと脳天に響き渡るような声だ。
 「本当に、本物か……?」未だ半信半疑だ。おとぎ話の生き物が目の前にいるなんて。
 「ふふっ、鈍いなチャンピオン」嘲るような声で言う。それに“チャンピオン、チャンピオン“とやけに嫌みったらしく私のことを呼ぶ。
 「私が何者かはともかく、私がお前をここまで連れてきた。それだけは信じてもらっていいだろう?」
 今の私にしてみたら信じる信じないというよりも、このディアルガこそが唯一の希望だった。こいつなら私をこの忌ま忌ましい過去から解放してくれる。その可能性がある。
「わかった、信じる。だから頼む。私をここから助け出してくれ」懇願するように言った。
 するとディアルガは、
「はははっ、『ここから助け出して』だと? 一体どこへだ? すでに死んだお前がどこへ行けば救われるんだ?」
 さも面白そうにディアルガが言った。
「それは……あの世とかそんな感じの……」
「そんな場所はない。あの世も天国も生きてる者のなかだけにある世界だ。死んだお前はここにいるか“無“となって消えるだけだ」
「じゃあ早く俺を消してくれ! もう見たくもないもの振り返るのはうんざりなんだ!」
 焦れったいような、もどかしいような気持ちがあふれて来る。
「ダメだ。何度も言わせるな、これは罰だ。終わらせろと言われてその通りにするわけがないだろう」
「じゃあどうしたらいいんだ!?」
 話が一向に進まず余計苛立ちが募る。
 ディアルガはやれやれといった様子で話始めた。
「お前はこのまま“あの子“の誘いを受けて家に行くんだ。翌日のこの時間まで彼らとすごしもう一度ここに来い」
 なぜ私とあの子のやりとりを知っているのかなんて気にもならなかった。そんなことより圧倒的な絶望感に襲われていた。
「そんな……」
「それが出来ないなら、お前は永遠にこの時間の中で過ごすことになる。懐かしいものに囲まれて気の狂うほどの時間居続ければいい」
 ディアルガはそっけなく言った。
 ここに永遠と居続けるなんて考えるだけで考えるだけでぞっとする。
「それじゃあどっか遠い所へ行ってやる。どんな場所でもここよりはましだ」
「残念ながらチャンピオン、それは無理だ」面白くてしょうがないという調子で言う。
「そんなことあるものか! 歩いてでも遠くへ行ってやる」
「お前にはこの街からでられぬように細工させてもらった。出られるか試してもいいがそれこそ時間の無駄というものだろう」
 私はしばらく黙ってディアルガの様子を見た。どこかハッタリを伺わせる素振りはないか……。
「クソッ」ディアルガは依然余裕尺尺といった様子だ。私は完全にこいつの手の内ということらしい。
「“あの子”の家に行けば俺を解放するんだな?」
「一日すごせばな」ディアルガが大事な事と念を押す。
「お前が約束を守るという保証は?」
「私を信じられないならそこまでだ。懐かしいこの街で楽しく暮らせばいい。永遠にな」
 ディアルガが嫌みったらしくつけたす。
 私に選択肢は無いらしい。ふぅと一息ため息をつき私は諦めた。
「明日のこの時間だな」
「そうだ」ディアルガは話がついたのを悟り満足そうに答える。
 ディアルガが約束を守るかは運を天にまかせるしかない。神に祈りたい気分だったが私はもう神を信じられなかった。

 さっきの公園にもどると“私”がすでに待っていた。
「おそいよー!」
 待ちくたびれたように男の子が言った。
「ごめんごめん」
「はやく来てよ!」
 言われるがまま私は男の子に連れられる形で家にむかった。道中のことはあまり覚えていない。私は見覚えのある建物や道が目に入っても極力意識しないよう努めていた。
 男の子の家はあの公園から歩いて10分ほどの所にある小さなアパートの2階だ。
「ううっ……」
 家に着いたとたん思わず呻いてしまった。生々しいほど記憶のままだった。
 家のドアの前まで来たところで男の子に待っているよう言われた。
「泊まるのは全然大丈夫なんだけどさ、一応母さんに先にいっとかなきゃいけないからさ」
 完全に目が泳いでいる。その母さんに大目玉食らうのは時間の問題だろう。
 男の子が一人ドアの向こうへ行ってから間もなく案の定大きな声が聞こえてきた。ドアの向かいの立つ私はおろか、隣人方にも十分響いていることだろう。
 しばらくしてガチャという音とともにドアが開いた。
「あの申し訳ないんですが−−」
 エプロン姿の女性はそこまで言ったところで声が止まった。
 私はその様子を息の詰まるような思いをしながら見ていた。間違いなくこれが、これこそが私の一番恐れていた瞬間だった。
「母さん……?」
 しばらくお互い見つめあった後最初に声をかけたのは“私”だった。
「あなたどこかで……?」
 男の子の疑問を放置し目の前の女性が質問した。
 母さんもまた記憶のままだった。生前の私が最後に母とあったのはリーグ戦が始まる前のことだった。その時の母はもっと白髪が増えていたし顔のシワも多かった気がする。派手な赤い花柄のエプロンも着けなくなっていた。  
「い、いえ……」私はそれだけ言うの精一杯だった。
「ねぇ、母さん! 大丈夫? 顔色悪いよ?」
 心配そうに男の子が言った。異常な雰囲気に気づいたのかもしれない。
「あっ、だ、大丈夫。あはは、ぼーっとしてすいません……。トレーナーさん宿が無くて困ってるんですか?」
 気を取り直したように私に向かい尋ねる。
「えぇ……」
「でしたらうちに泊まっていってください。ちょうど夕飯だったんです」確かに奥の方から食欲をそそるカレーの良い香りがした。
「そんな……いいんですか?」
「もちろん! この子もお世話になったようですし」
「ではお言葉に甘えて」
 私はドアの向こうへ招き入れられた。母さんがドアを開けた瞬間、少しだけ私は期待していた。もしかしたら私を家に入れることを断るかもしれない。ディアルガとの約束を守れないことになるが向こうが拒否したなら仕方の無いことだし許してもらえるかもしれない。 
 しかし期待は裏切られた。これから私の経験したことない長い一日が始まる。


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