マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1354] 四つ子との出会い 昼 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/10/31(Sat) 21:38:46   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子との出会い 昼



 オレはカロス地方のエリートトレーナーである。ちなみに名前はトキサという。
 オレは今、ミアレシティに来ている。
 スタイリッシュなエリートであるところのオレは、ただ単純に野山洞窟に籠ってポケモン勝負に明け暮れるだけではない。汁屋でミラクルソーダを楽しみ、ヘアサロンで髪形をダンディに整え、美術館で審美眼を磨く。一流のエリートは一流のミアラーでなければならぬ。
 そんなオレのおすすめの店は、ミアレシティは内周の南東、ベール広場の『カフェ・ツイスター』である。あの詩人の甘く切ない詩は、日々のポケモンバトルで荒み切ったオレの心を癒してくれる。
 日差しも暖かいのどかな昼下がり、オレはカフェ・ツイスターの窓際の明るい席でコーヒーの香りを楽しみつつ、ポケモンバトルの格好の相手が現れないかと、深緑のモニュメントのベール広場を観察していた。
 来た。
 そしてオレは奴と出会った。
 葡萄茶の旅衣、黒髪、袴ブーツ。
 それが二人、来た。
「……なんだ、どういう事だ? ……セッカの仲間か?」
 そう、片方は肩に雄のピカチュウを乗せた、凶悪なエセ新人トレーナーのセッカだった。
 しかしセッカと同じ服装をしたもう一人の人物は、――そいつがセッカと違うのは、頭から白緑の着物を被り、そしてその頭の上にフシギダネを乗せているという点だった。
 あの頭から着物を被るというスタイル、あれはそう、古代エンジュ時代以降、貴族やランセの女性が外出時に頭から単衣を被っていたという、被衣だ。エリートであるところのオレは、学校で購入させられた国語便覧の知識をフル動員してその解に達した。
 ピカチュウ連れのセッカと、そしてそのフシギダネ連れのトレーナーは、服装だけでなく、背格好までよく似ていた。黒髪も灰色の瞳も同じだった。目鼻立ちまで同じだった。
 それに気づいた途端、オレは勘定とチップを卓上に置くと、カフェ・ツイスターから飛び出した。
「うおおおおおい! お前ら、双子か!」
「あ、トキサだ。昨日はごっそさんっした」
 呑気に振り返ったのはセッカとピカチュウである。セッカの肩の上のピカチュウは、このオレを憐れむような目をし、鼻で笑った。
「ぺかっ」
「うっおおおおっなんだこのピカチュウは!」
 見た目の可愛らしいポケモンからあからさまな侮蔑の表情を向けられることほど、胸糞の悪いことはない。オレは知らず小鼻を膨らませて、トレーナー同様凶悪なピカチュウに鼻を突きつけた。
「昨日は騙されたんだ! 今日は手加減なしだ――」
「ああ、貴方が、昨日セッカがご馳走になったというエリートの方でしたか」
 涼やかな声が割って入った。
 その声の主は、フシギダネを頭に乗せた、緑の被衣のトレーナーだ。
 そいつはセッカと同じ灰色の双眸でオレを真正面から見つめ、そして目を細めた。
「目と目が合ったら、ポケモン勝負。受けてくれますね?」
 その笑顔は眩しいくらいに爽やかだった。新緑の風を思わせた。
 そいつの頭上のフシギダネも、これまた穏やかに満面の笑みを浮かべた。
「だねだぁね」


 ミアレシティ南東の広場、『ベール広場』。
昼下がり、深緑のモニュメントの周囲には、昼休憩中のビジネスパーソンが寛ぎ、ポケモンバトルのためのスペースは十分に確保できそうだ。
 オレは、セッカの双子の片割れであるらしき袴ブーツを見据えた。
「オレはエリートトレーナーのトキサ。バッジは八つ」
「あらら、お強いですねぇ。僕はキョウキっていいます。バッジは三つなんで、まあお手柔らかにお願いしますね」
「……三つか」
 オレは油断することなく、密かに歯噛みした。オレと、このキョウキというトレーナーとのバッジ数には五つの差がある。しかし、オレは昨日のセッカとのバトルで学んだのだ。
 バッジ数は、そのままトレーナーの実力を表すとは限らない。
 むしろ、そのバッジ数差に任せて、多額の賞金をむしり取っていく悪質な偽装ルーキーも存在するのだ。オレは黄色い悪魔を憎々しげに睨んだ。そいつのトレーナーはというと、広場の端の方まで下がってぴゃいぴゃいとはしゃいでいた。
「きょっきょ、ばんがれー!」
「うん、頑張るよ、セッカ」
 にっこりと微笑み、緑の被衣のトレーナーは頭上からフシギダネをそっと下ろした。穏やかな性格らしいフシギダネはおとなしくトレーナーの足元で丸くなった。
「では、お願いしますね、トキサさん。とりあえず一対一でいいですか?」
「構わない。バッジ三つだろうが容赦はしないぞ」
「それは賢明だ」
 緑の被衣のキョウキは一瞬小さく鼻で笑ったらしかった。オレの視界の隅では、セッカとピカチュウが賑やかしく審判のまねごとをしていた。
 キョウキが赤白のモンスターボールを取り出す。オレに向かって軽く一礼すると、両手で大切に包み込んだままボールからポケモンを解放した。
「頼むよ、こけもす」
 そして甲高い咆哮を上げて飛び出したのは、化石ポケモンのプテラだった。


「……岩と飛行のタイプを併せ持つプテラか。なら、行け、ブロスター」
 オレは相性を考え、ランチャーポケモンのブロスターを繰り出す。バッジ三個だからといって容赦する気にもなれなかった。そういう意味では、オレに慢心を教えてくれたセッカには感謝していなくもない。
 しかしそのセッカの双子の片割れが相手だからこそ、このバトルで負けるつもりは微塵もなかった。
「こっちから行くぞ! ブロスター、水の波動!」
「こけもす、躱してー」
 キョウキの指示は穏やかだが、悠長ではなかった。細身のプテラが身を翻し、岩タイプとは思えぬ敏捷さで水波の射程外へ逃げる。さすがに空中を動くものは狙いにくい。
「なら、ブロスター、波動弾だ!」
「岩雪崩。ついでに毒々」
 プテラは大量の岩を生み出し、それを波動弾からの防壁として利用した。
 しかし何だ、『ついでに毒々』って何だ。石頭のプテラにそんな指示が理解できるものか。
 しかしオレがそう思っている隙に、プテラはその石頭で岩の防壁を突き破り、そして不意にその大顎を開いて猛毒を飛ばした。ブロスターは真正面から毒を浴びてしまう。
 オレは慌てて指示を飛ばす。
「怯むな正面、水の波動!」
「躱して燕返し」
 ブロスターの真正面から猛毒をぶつけられたことによる一瞬の怯み、そして大量の水を溜める一瞬の隙、それはプテラに回避の暇を与えるに十分だった。
 一閃した。
「とりあえずもう一発、岩雪崩」
 キョウキの穏やかだが容赦のない追撃の指示が飛ぶ。
 セッカの双子の兄弟も、やはりえげつなかった。


 それから何があったかはお察しいただけるだろう。
オレはキョウキに賞金を支払う代わりに、ミアレシティ北西のオトンヌアベニューの『リストランテ ニ・リュー』に双子を連れて行ってやったのである。今日オレが負けたのはキョウキだけだが、その片割れが餓えた潤んだ目で震えながらじっと見上げてくるものだから、どうしても二人揃って連れてこないわけにはいかなかったのである。
 セッカとキョウキはトリプルバトルを四連戦しなければならないことにげんなりしていたが、セッカはピカチュウとガブリアスとフラージェスの三体、キョウキはフシギダネとプテラとヌメイルの三体で、いずれも完璧に三手で四連勝しやがったのであった。
 そして双子は二ツ星の美味しい料理をたらふく食べ、更にはバトルの賞金とお土産の大きなキノコ20個とを手に入れてほくほくしていた。
 オレは微妙に冷めた料理をつつきつつぼやいた。
「……お前ら、強いよなー……強いっつーか、ポケモンも賢いよな……」
「僕の手持ちは、基本的にご飯かバトルのことしか考えてませんから」
 緑の被衣を肩に落とし、キョウキは優雅に笑う。オレは溜息をついて、オレたちの傍らで食事にがっついているキョウキの手持ちを観察した。
 フシギダネこと『ふしやま』は穏やかにもそもそと食事をしているが、オレはつい先ほど、見てしまった。こいつはソーラービームの溜めの時間が毎回やけに短いのだ。どうしたらそんな芸当が可能なのか教えてほしい。
 プテラは身のこなしが軽すぎる。豪華な装飾品のあるレストラン内でも、危なげなく凄業の回避を見せてくれた。
「……つーかプテラのニックネームの『こけもす』ってさ……苔が“むす”と“moss”をかけてんだろ……? プテラが化石ポケモンだから、岩に苔がむすってことなんだろ……?」
「さすがはエリート、と言いたいところですが、まだ読みが甘いですよトキサさん。ご覧くださいな、このこけもすのモスグリーンの麗しい瞳」
「……すまん気付かなんだ」
 しかしこのキョウキの残り二体の手持ちも、なかなかにシュールだった。ヌメイルとゴクリンである。ニックネームはそれぞれ『ぬめこ』と『ごきゅりん』だそうである。
「何か全体的に湿っぽくって緑っぽくってイイよな……」
「でしょう」
「はいはいはい俺の手持ちは黄色統一だよ! 多分! いちおう!」
 セッカが割り込んできた。二ツ星レストラン内で大声を出すのはどうかと思ったが、今も店内のあちこちで激しいバトルの指示が飛び交っているのでオレはつい流してしまった。
「つーか、双子揃ってバトル強いってすごいじゃん、才能じゃん……」
 するとセッカとキョウキは奇妙な表情で顔を見合わせた。オレは首を傾げる。
「……なんだよ、変なこと言ったか?」
「双子といえば、ホウエン地方に双子のジムリーダーがいるそうですねぇ」
「あー、テレパシーできるっていう双子? 俺らもテレパシーできないかなぁー」
 それから双子は何やら手を繋いだり額と額をくっつけあったりして、テレパシーを試みていた。オレはそれを見ていた。
 この双子、仲がいいな。


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