マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1355] 四つ子との出会い 夜 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/10/31(Sat) 21:39:46   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子との出会い 夜



 オレはカロス地方のエリートトレーナーである。ちなみに名前はトキサという。
 オレは今、ミアレシティに来ている。
 スタイリッシュなエリートであるところのオレは、ただ単純に野山洞窟に籠ってポケモン勝負に明け暮れるだけではない。ポケサロン・グルーミングでバトル用ではないトリミアンのカットを維持し、グランドホテルシュールリッシュのアルバイトでマダムをもてなし、メゾン・ド・ポルテで高級な服も即買いする。一流のエリートは一流のミアレニストでなければならぬ。
 そんなオレのおすすめの店は、ミアレシティはサウスサイドストレート、コボクタウン方面即ちミアレ南西部にある『カフェ・ソレイユ』である。大女優の行きつけだというこのカフェは、ケーキからして品格が溢れ出ている。スタイリッシュな人種の隠れ家にはもってこいな店だ。
 その日オレは一日の疲れを癒すべく、日没ごろからこのカフェ・ソレイユで休んでいた。しかし下手な時間に来てしまった。午後のティータイムには遅く、夕食後のティータイムには早い時間、すなわちうっかり腹が満たされて夕食が食えん。
 こういう時はポケモンバトルをするに限る。オレはミアレシティ南西の広場、『ブルー広場』に繰り出した。
 紺碧のモニュメントの周囲には、ショッピング中らしき仕事帰りのオフィスパーソンや放課後の学生たちが多く休息をとっていた。オレは視線を巡らせ、同じくバトルの相手を求めているポケモントレーナーを探した。
 そして見つけた。
 袴ブーツのトレーナーだ。
 しかしそれは、三人いた。
 葡萄茶の旅衣、黒髪、灰色の瞳、同じ目鼻立ち。
 オレは思わず叫んだ。
「おおおおお前ら、三つ子だったのか!!」
「あ、トキサだ。昨日はごっそさんっした」
「あ、トキサさんだ。こんばんは」
 笑顔で振り返ったのは、ピカチュウを肩に乗せたセッカと、フシギダネを頭に乗せたキョウキである。
 そして残る一人は、ゼニガメを両手で抱えていた。
 やはり服装はセッカやキョウキと酷似している。しかしこのゼニガメのトレーナーの特徴は、両腕に濃い青の布を絡めていることだ。そう、古代エンジュ人だか古代ヒワダ人だかの宮廷女官が袖に絡めていた、羽衣、いや違う、これは領巾というのだ。オレはエリートだからそれくらい国語便覧で読んだのだ。
 青い領巾をしたゼニガメのトレーナーが、灰色の双眸でオレを見据えた。
「……貴様か。セッカとキョウキに料理を奢ったというエリートトレーナーは」
 『貴様』。
 『貴様』だって。
 オレは面食らってしまった。いや、確かに三つ子ということで、それぞれキャラ分けも兄弟の中で必要になってくるのだろう。それにしてもどういうキャラだ。
 街灯に照らされるゼニガメのトレーナーは、無表情だった。
「いいだろう、手ほどきしてやろう。目が合ったら勝負、とも言うしな」


 新たに現れた三つ子の片割れ、青い領巾のトレーナーは、そっとゼニガメを地面に下ろした。やんちゃそうなゼニガメは拗ねてそのブーツに纏わりつく。
「ぜーに! ぜにぜに、ぜにがー!」
「だめだ。大人しくしていろ」
 ゼニガメに言い聞かせる声音は穏やかだった。
 オレは生まれて初めて見た三つ子に未だにやや興奮しつつ、名乗りを上げる。
「ええと、その、聞いてるかもしれないが、一応名乗っておくとだな、オレはエリートトレーナーのトキサだ。バッジは八個。……えっと、一対一でいいな?」
「構わない」
 青い領巾のトレーナーの返答は、それだけだった。
 セッカから黄色い声援が、キョウキから新緑の風のような応援が飛んでくる。
「しゃくや、ばんがれー!」
「がんばれサクヤ。勝てば美味しいご飯をおごってもらえるよ」
「畜生てめぇら! オレは財布じゃないぞ! ていうかサクヤっつーのか、この生意気なガキは!」
 しまった、夜間なのについ大声で叫んでしまった。ブルー広場で休憩していた人々の注目を集めてしまう。落ち着け、オレはスタイリッシュなエリートトレーナーだ。エンジュかぶれの三つ子ごときに惑わされてはならない。
 オレは余裕を装って、生意気な対戦相手を見下ろした。
「……ふ、ふん、サクヤとやら、お前はバッジはいくつ持っている?」
「五つだ」
「ほお。ほおほおほお。バッジ五つのくせして、バッジ八つのエリートトレーナーのこのオレに『手ほどきしてやろう』たあ、いい度胸してるな。はは、ははははは、後悔するなよ。むしろこのオレが手ほどきしてやろう!」
「うるさい。セッカやキョウキに負けた奴に言われたくはない。御託は要らん。始めるぞ」
 そしてこのくそ生意気な青い領巾のサクヤは、赤白のボールを両手で包み込むように持ち、ポケモンを解放した。
 現れたのは、ボスゴドラだった。


「よっしゃ、頼むぞ、ホルード!」
 オレはホルードを繰り出した。オレのパーティーの中でも二番目に古参で、オレと息がぴったり合うだけでなく、カロスリーグに向けての最終調整もあとは詰めるばかりの究極の一体だ。
「このホルードはな、もう何千戦とやっているが、聞いて驚け、その勝率は……」
「冷凍パンチ」
「くっそその手に乗るかぁぁホルード穴を掘る!」
 ホルードはその巨大な耳であっという間に穴を掘り、地中に身を潜めた。冷気を纏ったボスゴドラの腕が空ぶる。そこにサクヤの指示が飛ぶ。
「地震」
「あっ」
 ボスゴドラが鋼鉄の鎧の尾を、広場の石畳に叩き付けた。広場のあちこちで悲鳴が上がる。畜生、場所柄をわきまえやがれ。やっぱりこいつもえげつない。本気で叩きのめすしかないだろう。
「ホルード!」
 ホルードはどうにか穴を掘って地中から脱した。地震のダメージも耐えきっている。そのままボスゴドラの側面をとる。これはチャンスだ。
「アームハンマーだ、ホルード!」
「アイアンテール」
 サクヤの指示は的確だった。ボスゴドラの反応速度を知り尽くしている。ボスゴドラはただトレーナーの指示を信じ、ホルードが地中から飛び出した方向に鋼鉄の尾をぶち回すだけでよかった。
「耐えろ!」
 ホルードにその自慢の耳で受け身を取らせる。重い一撃に軽くふらつきつつも、ホルードはひっくり返ることもなく体勢を整える。
 こちらも世間体などを気にする余裕はなかった。
「ホルード、地震だ!」
 これで決める。電磁浮遊などを覚えていない限り、ボスゴドラにこの一撃は躱せない。
「詰めろ」
 サクヤのその冷静な指示を理解するのに、オレは時間を要した。
 ボスゴドラが、耳を振り抜いているホルードに思いきり距離を詰めるのを、信じられない思いで見た。
 どういうつもりだ、自ら震源に近づく真似をして。その速度では、ボスゴドラがホルード本体に何かをするにしても、地震の発動まで間に合わない。
 ホルードが耳を地に叩き付ける。
 ぐらりと揺れる。
 ボスゴドラは体勢を崩さぬよう、耐えて、耐えて、いや、鋼と岩タイプを併せ持つボスゴドラに、オレのホルードの地震を耐えきれる筈が無い。行ける。
 地震が収まる。オレはボスゴドラがくずおれるのを待った。
 サクヤの小さな溜息が聞こえた気がした。
「冷凍パンチ」
 ボスゴドラがわずかに残った体力で、ホルードに冷気を叩き込むのを、オレはぽかんとして見つめていた。
「……特性……『頑丈』」
「手ほどきになったか」
 倒れたホルードをサクヤは涼やかに一瞥し、手慣れた様子で、まだしっかと地に足付けて立っているボスゴドラをボールに戻した。


 そしてオレは、当然のごとく三つ子に三ツ星レストランまで連れて行かされた。メディオプラザの輝くプリズムタワーを横切り、ミアレシティ北東のイベールアベニューの『レストラン・ド・キワミ』に、賞金代わりに三つ子を連れて行ったのである。
 セッカとキョウキとサクヤはローテーションバトルの五連戦にげんなりしていたが、セッカはピカチュウとフラージェスとマッギョの三体、キョウキはフシギダネとヌメイルとゴクリンの三体、サクヤはゼニガメとニャオニクスとチルタリスの三体で、完璧に六手で五連勝しやがったのである。
 最高においしい料理を腹いっぱい食べ、さらにはバトルの賞金とお土産の香るキノコを25個も貰って三つ子はほくほくしていた。
 三つ子の向かい側で、オレはすっかり冷めきった料理をつつきながら惨めにぼやいた。
「……何なの……何なの」
「どうだ、サクヤはすげぇだろ!」
「ああもう凄いよさすがの一言しか出ねぇよど畜生」
 自分のことのように威張るセッカに、オレは最早溜息しか出てこない。
周囲では激しいバトルがひっきりなしに続いており、三ツ星レストラン内でもその轟音に隠れるようにして思う存分悪態がつける。しかしよくもまあ、このような落ち着かない状況で食事しなければならないレストランに三ツ星が付いたものだ。料理は冷めきっているし、ああ、それはオレのバトルの腕のせいだった。オレは自己嫌悪に陥った。
 俯きついでにサクヤの手持ちのポケモンを観察する。
 ゼニガメはいかにもやんちゃ坊主という雰囲気だが、オレは先ほど見たのだ、このゼニガメのハイドロポンプの驚異的な命中率を。何をどうすればそんな芸当が可能になるのか教えてほしい。
 ボスゴドラは巨体をほとんど動かさず、静かに食事を続けている。その鋼の鎧には無数の傷跡があり、まさしく百戦錬磨という言葉しか浮かばなかった。
 緑の被衣のキョウキが、優しくボスゴドラの鎧を撫でている。
「メイデンちゃん、お疲れ。すごいバトルだったねぇ」
「……メイデンってあれだろ、ボスゴドラの鋼タイプとかけて、アイアンメイデンってことだろ。……ニックネームに拷問器具かよ。……つーかこのボスゴドラ、雌かよ」
「失礼な、メイデンちゃんはメイデンちゃんですよ。僕が名前付けてあげたんだよ、サクヤはニックネーム付けようとしないからさぁ」
 キョウキが頬を膨らませている。そこにセッカが割り込んできた。
「ちなみにサクヤのゼニガメは『アクエリアス』、ニャオニクスは『にゃんころた』、チルタリスは『ぼふぁみ』だぞ!」
「もう突っ込まねぇ……」
 サクヤは、セッカのマッギョや、キョウキのヌメイルやゴクリンといった、いかにも癖のありそうなポケモンは所持していないらしい。ニャオニクスにしろチルタリスにしろ、一般的に高い人気を誇るポケモンだ。それにしてもこれら二体も、バトル用のポケモンとしては毛艶もよく、動作の一つ一つから気品が漂っているのは気のせいか。
「……あーもう、三つ子揃ってアホみたいに強いとか何なの、天才の家系なの?」
 オレは頭を抱えて唸った。
 三つ子からは沈黙が返ってきた。
 オレは恨みがましく三つ子を睨み上げた。
「……何とか言えよ、え? 天才の三つ子さんよ」
「三つ子っていえば、イッシュ地方に三つ子のジムリーダーがいるらしいねぇ」
 緑の被衣のキョウキがのんびりと嘯く。
「あー、赤と青と緑の三つ子だろ? それって三卵生だよな。俺らは一卵性だな!」
 セッカは何が楽しいのかぴょこぴょこと左右に揺れている。
 青い領巾のサクヤはオレをまっすぐ見つめてきた。
「何をごまかしている? エリートトレーナー」


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