マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1364] 謹慎中4 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/10/31(Sat) 21:49:50   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



謹慎中4



 四つ子がクノエシティに戻り、養親のウズの無理心中に付き合わされかけ、逃げ出したところを幼馴染のユディに連れ戻され、そして裁判官のモチヅキから説教を食らった、その翌日のことだった。
「ユディ君って、面白い子だよねー」
 そう言い放ったのは、鉄紺色の髪の、細身のポケモン協会職員だった。名をルシェドウという。
「今どきのガキにしちゃ、ポケモンバトルより勉強が好きなんて、確かに珍しいわな」
 そう朗らかに笑って応じたのは、金茶髪の壮年の大男、これもまたポケモン協会員である。こちらの名はロフェッカという。


 赤いピアスのレイアは顔を引き攣らせた。
「……なんで、俺んち知ってんの?」
「いやーここがレイアのお家だったとはね! というかエリートトレーナーのトキサ君を怪我さしたのがまさかレイアとその片割れさんたちだったとはね! いやー驚き驚き!」
 鉄紺の髪のルシェドウはテンションも高く、年若い友の背を叩きに叩きまくった。レイアが噎せる。
 ルシェドウとロフェッカの二人は、レイアが旅先で知り合ったポケモン協会員である。
レイアとこの二人は何かと縁があり、レイアも請われるままに何かと彼らの任務を手伝っているうち、いつの間にか友達とも呼べる間柄になってしまったのである。
 ルシェドウとロフェッカのポケモン協会職員としての任務は、実に多様だ。野生ポケモンの生態を調査したり、傷薬をはじめショップで販売されている道具の効果を確認したり、トレーナー同士の諍いを仲裁したりと多岐にわたり、一般トレーナーであるレイアも様々な珍妙な任務に付き合わされた経験がある。ちなみに、ルシェドウのこれまででの最大の仕事は、フレンドリィショップへのシルバースプレーの販売営業だったという。
 そのポケモン協会員のルシェドウとロフェッカは、四つ子の自宅謹慎が決まったその翌日に、四つ子の自宅たるウズ邸に現れ、応接間でのんびりと茶を啜っていた。
 ウズと四つ子もその応接間にいたが、その中でもレイアは機嫌が悪くしていた。
「……で、何の用だよ」
「いやー、ミアレシティでエリートトレーナーが重傷を負った事件で自宅謹慎になったトレーナーがいるから、その子のメンタルケアと、あとポケモンの取り扱いについての諸注意的な?」
「……俺がいるって知ったから、てめぇらが来たんだろ!」
「まっさかぁ。こういうのはね、普通は知り合いの元に派遣されることはないんだよレイア。だから何かの手違い手違い」
「てめぇらが断りゃ済んだ話だろうが!」
 軽いノリのルシェドウにレイアが激しく食ってかかる。四つ子の片割れたちは、レイアに良い友達ができて良かったとのんびり考えていた。


 傷害事件などを起こして自宅謹慎となったトレーナーの元には、ポケモン協会から職員が派遣される。
 職員はトレーナーと様々な話をし、今後はポケモンの取り扱いに気を付けることなどを訓告していく。そういう職員訪問が一週間に一度ほど、謹慎期間が明けるまで続くのだ。
 しかし、何の手違いでかそれとも確信犯でか、四つ子を訪問してきたのは四つ子の知り合いであるルシェドウとロフェッカだった。
 二人は職員としての任務を全うする気があるのかないのか、ひたすらリラックスした雰囲気でぺちゃくちゃと朝から昼までしゃべり続ける。
 こないだの仕事は虫よけスプレーの規格調査だった、フレンドリィショップに並べられているものを協会のお金で購入してありとあらゆる道路でスプレーの効果がしっかりしているか調べないといけなかった、おまけにそのついでか何か知らないけれどハクダンの森の土壌調査もさせられた。ポケモンの……から作る肥しも採集して自分で作ったり購入したりして、きのみの成長も観察した。めちゃくちゃ写真撮影の腕が上がった。云々。
 四つ子は、そのようなルシェドウの冒険譚を延々と聞かされていた。
 一方で、ロフェッカとウズは二人で世間話に花を咲かせている。
「――そうっすね、トレーナーによる傷害事件でトレーナーが訴訟を提起されるってのは近年じゃ滅多にありませんなぁ。国相手の訴訟もめっきり減りましたな」
「それも、一向に判例が覆らないからですかのう?」
「でしょうなぁ。高裁だとモチヅキ判事殿などは、随分と苦心されて被害者に有利な判決を下そうとされとるそうですが。それでも、最高裁の判断は未だかつて変わらずです」
「あたしとしてはこの四つ子が訴えられるとなっては困るんじゃが、しかしモチヅキ殿の考えられることも分からないでもなく。複雑じゃな……」
「世間の圧倒的多数は、歴代政権のトレーナー政策を歓迎しておりますしねぇ」
「これもユディが教えてくれたことじゃが、法学者の中でも近年は人権保護を強く訴える気風は薄れてきておるとか……」
「まあ何事も行きすぎは危険ってことですな。まあ我々ポケモン協会としては、トレーナー政策に頓挫されちゃあそれこそ商売あがったりって立場ですがね。まあ私個人としてはモチヅキ殿の人権保障にも共感はなくはないですよ。あくまで個人の意見ですがね」
 セッカはひたすら目を白黒させていたが、緑の被衣のキョウキと青の領巾のサクヤは何が面白いのか、そういったロフェッカとウズの間の小難しい話にも注意深く耳を傾けているようだった。


 ルシェドウのポケモン絡みの冒険譚にもひとしきり退屈し、セッカはロフェッカの難しい話も拾い聞きしていた。
そしてセッカは、ふとキョウキとサクヤに尋ねる。
「……あのさ、人権って何?」
 キョウキが答える。
「すべての人間が平等に持つ権利、だよ」
「たとえば、どんなの?」
「わかんないよ。モチヅキさんかユディに聞きなよ」
 その話に割り込んだのは、鉄紺の髪のルシェドウだった。
「人権保障はね、国家権力の支配に対抗するものだよ」
「わかりませーん」
 セッカが口をとがらせる。ルシェドウはにこりと笑った。
「人権は、国が侵害しちゃいけない個人の権利だよ。すべての人間が持つ大切な権利さ。例えば具体的には、殺されたり傷つけられたりしないための権利」
「……つまり、オレたちは、トキサを傷つけたから、その罰として自宅謹慎食らってるわけ?」
 セッカは首をひねって思ったことを述べてみた。しかしルシェドウもまた首をひねった。
「うーん、ちょっと違うかなー。まあ似たような感じだよ。人間が他の人間を傷つけるということが許されたら、世の中は大変なことになっちゃうでしょ? だから、法律で人間を傷つけた人には罰を下すように決めているんだー」
 でもね、とルシェドウは言い聞かせる口調である。
「でもね、セッカたちみたいな一ヶ月だけの自宅謹慎では、罰が軽すぎると考える人もいるんだよ。だって、トキサは一生寝たきりなのに、セッカは一ヶ月だけ家の中でおとなしくしてれば、あとは自由だものね」
「……そっか、そうだな。……釣り合わないよな」
 セッカも頷いた。
 そこでルシェドウは破顔した。
「でも、セッカ君やキョウキ君やサクヤ君やレイアが心配することは、なにもありません!」
「……んええ?」
「世の中の多くの人は、一ヶ月だけ家の中でおとなしくしていてくれればそれで十分だろう、って考えてっからねー。多くの人がそう考えてるから、そういう法律ができたわけですよ。だからセッカたちは、気にしないでよろしい!」
「え? ……えええ? それでいいのか?」
「いいんだよ。俺らやモチヅキさんみたいな実務家はそれでいーの、むしろそうしなくちゃならないの。……でもね、学者さんやユディ君みたいな学生さんは、今の法律や制度が本当に正しいのか、考えなくっちゃいけないよ。つまりユディ君はえらい!」
 そこでルシェドウは一人明るく拍手した。セッカもつられてぺちぺちと手を叩いた。
「ユディはえらい?」
「イエス! ユディ君はえらい! 無理難題の解決のため、少数者保護のため、世の中はきっとユディ君を必要としている! いけいけユディ君! がんばれユディ君! まあユディ君が頑張りすぎたら、たぶん君たち四つ子はすぐ牢屋行きだけどね。ドンマイ」
 ほお、とセッカは感心しきりで溜息をついた。
ルシェドウの隣ではなぜか金茶髪のロフェッカが吹き出すのを堪えていた。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー