謹慎中5
クノエでの四つ子の自宅謹慎生活は、穏やかに過ぎていった。
ウズの手料理を食し、雨や野生ポケモンの心配をすることもなくぬくぬくと眠り、毎日温かい風呂に入る。毎日乾いた服を着る。久々にテレビを見る。
謹慎の初日以来、裁判官のモチヅキは現れない。
週に一度は、騒がしいルシェドウと気のいいロフェッカが押し掛け、四つ子に面白おかしい旅物語を聞かせるだけ聞かせては、去っていく。
四つ子の幼馴染のユディは、ほとんど毎日、家の中に押し込められて退屈しきっている四つ子の元に遊びに来た。
日々が穏やかに過ぎていく。
ミアレシティでの一件が夢のようだ。
けれど謹慎期間中は、四つ子は手持ちのポケモンたちのボールにすら触れることができない。テレビ番組でポケモンバトルを見ても、実際に自分たちが自分たちのポケモンで戦わなければ、おのずとバトル勘も薄れていく。
「……平和ボケする……」
赤いピアスのレイアがぼやく。
「そうだね」
緑の被衣のキョウキが同意する。
「この生活、確実に金かかってるよな」
セッカは無表情だった。
「……謹慎生活を得るために犯罪に手を出すトレーナーも、いるかもしれないな」
サクヤが呟く。
養親のウズは毎日のように、四つ子が重傷を負わせたエリートトレーナーにお詫びの手紙を書けと口うるさく言ってくる。
四つ子は聞き流す。
幼馴染のユディも、そのエリートトレーナーのことが気になるのか四つ子を心配しているのか、大学で聞き知ったらしきポケモントレーナー優遇の現在の社会制度をぽつぽつと語っていく。四つ子に反省させようという目論見は、四つ子にバレバレである。
反抗期も真っ盛りの四つ子は、ろくな関心を示さなかった。
裁判官のモチヅキからは音沙汰ない。
四つ子は特に気にも留めなかった。
ポケモン協会から派遣されてくるルシェドウとロフェッカは、ひたすら呑気だった。四つ子に旅のすばらしさを吹き込み、これからも恐れず旅に飛び込んでいくことを延々と推奨しているようだった。
四つ子は聞き流す。
日々は平和で、単調で、すぐに四つ子の間でも話すことがなくなる。退屈を持て余し、テレビを眺め、暇つぶしに新聞を読んでは読めない漢字の多さに狼狽し、あるいはひたすら寝た。
そうしてミアレのエリートトレーナーのことを考えた。
四つ子は何もすることがなく、ひたすら布団に寝っ転がって、ぼんやりと考えた。
あのエリートトレーナーも今、四つ子と同じように、何もせず、ただひたすら何かを考えて、天井を見つめているだろう。
けれど、四つ子のこの生活はひと月で終わる。エリートトレーナーのこの生活は一生続く。
「トキサ、どうするのかなぁ」
座敷に寝転がって、セッカは呟く。
「俺らのこと、怒ってんのかなぁ」
「彼の場合、カロスリーグに出られないことの方が辛いだろうねぇ」
キョウキが他人事のように応えた。
「それよりも、あいつに怪我させた俺ら四人は普通に旅を続けられるってことの方が、やっぱこたえんじゃねぇの?」
レイアも呟いた。
「どうにもならない。僕らの知ったことではない」
サクヤが淡泊に切り捨てた。
ウズが毎日口うるさいので、四つ子はとうとう、エリートトレーナーに宛てて手紙を書いた。
毎日毎日、嫌がらせのように四人分の手紙を送り続けた。最初は何を謝ったらいいのか分からず、伝え聞きの拙い知識をひたすら紙上に展開した。しかしそういったものは四つ子自身には詳しくは理解できず、文字にしたためればしたためるほど混乱して、そして残ったのはただ現状への疑問と、不満と、焦燥ばかりだった。
四つ子は他にすることもないので、暇さえあれば辞書を片手に紙を睨んでいた。誰が最も優れた表現でお詫びの気持ちを表現できるかの競争に、四つ子は明け暮れた。
早く、自由になりたかった。
不自由は、ある意味ではあのエリートトレーナーのせいであり、ある意味ではそうでない。その葛藤を、似通った単語の羅列に込める。
すみませんでした。許してください。早くここから出たいです。こんな生活はお金がかかります。ウズへの借金が増えます。そうしたらまた旅で貧乏暮らしをしないといけません。お金が欲しいです。バトルをして勝ちたいです。賞金が欲しいです。カロスリーグで好成績を残して賞金がたくさん欲しいです。強いトレーナーに勝ってたくさん賞金を巻き上げたいです。
俺たち、僕たちには戦うしかないんです。
旅をしないと生きられないんです。
だから許してください。
もう周りの人を不幸にしません。
不必要に大技ばかり使いません。力を誇示したりしません。
もっとよく考えてポケモンを戦わせます。
がんばります。
だからトキサもがんばってください。
いつか、寿司を奢ってください。