マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1394] 四つ子と、双子かける四 昼 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/11/13(Fri) 21:56:21   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子と、双子かける四 昼



 ユディは講義があると言って、そのまま大学に残ってしまった。
 ヒトカゲ、フシギダネ、ピカチュウ、ゼニガメを連れた袴ブーツの四つ子は、それぞれが双子のイーブイを抱えながら、クノエシティのカフェで、生まれて初めての雑誌の取材を受けていた。
 ルポライターのパンジーはヘッドセットを起動し、四つ子に笑いかける。
「まあまあ、気楽にね。イーブイちゃんたち、ご誕生おめでとうございます!」
「お、おお……」
「ありがとうございます、パンジーさん」
「えへ、えへえへえへ」
「ありがとうございます」
 ヒトカゲを連れた赤いピアスのレイアは顔を引き攣らせ、フシギダネを連れた緑の被衣のキョウキはにこにこと愛想笑いを浮かべ、ピカチュウを連れたセッカはもぞもぞし、ゼニガメを連れた青い領巾のサクヤは背筋を伸ばして無表情である。
 五人はソファの設えられた広い席で、コーヒーとポケモンのための木の実クッキーを頼み、そしてコーヒーの香りの中、一対四で向かい合っていた。
 パンジーが軽く苦笑する。
「ごめんなさい、そっち側ちょっと狭い?」
「いえ、慣れてますので」
 慣れた様子で笑顔で答えるのはキョウキである。四つ子は三人掛けのソファにぎゅう詰めになり、膝に小さなイーブイたちを乗せていた。
 ヒトカゲとフシギダネとピカチュウとゼニガメは、パンジーの連れているエリキテルにちょっかいをかけ始める。怯えるエリキテルをヒトカゲとピカチュウとゼニガメが上機嫌で追い回し、フシギダネはそれを笑顔で見守っていた。
 エリキテルがパンジーの肩の上に逃げ込み、そしてそれを追おうとパンジーの足にくっついたゼニガメを、サクヤがすばやく拾い上げる。
「ゼニガメが失礼をしました」
「ううん、いいのよ。ごめんなさいね、この子、ちょっと臆病なの」
 パンジーはエリキテルを指で優しく撫でる。ゼニガメはさっさとサクヤの手の中から逃げ出し、ヒトカゲやピカチュウと一緒に今度はパンジーのゴーゴートに構い始めた。やはりフシギダネはにこにこと目を細めて丸くなっている。
 一方、四つ子の膝の上の小さな八匹のイーブイは、生まれて初めてのコーヒーの香りを興味深げに嗅いだり、走り回る四つ子の相棒たちに目を白黒させたり、四つ子の肩によじ登ったりと思い思いに動いていた。
 四つ子は小さなイーブイをつまんでは膝に戻しつまんでは膝に戻し、ようやくパンジーに話しかけた。
「えーと、それで何話せばいいんすか」
「そうそう、あのね、私もタマゴから双子のポケモンが孵るなんて、見たことも聞いたこともなかったのよ。なのに、あなたたちの持っていた四つのタマゴからはすべて、双子のイーブイが生まれた。これってすごいことよね?」
「そうですね」
 キョウキが穏やかに笑顔で答える。パンジーも笑顔で深く頷いた。
「そうそう、そうなのよ。だから是非お話を聞きたいの。じゃあ、そうだなぁ、まずトレーナーさんの経歴から聞こうかな? ねえもしかして、四つ子さん……なの?」
「うす。俺はレイアっす。で、こっちからキョウキ、セッカ、サクヤ」
「わあ、四つ子さんが、タマゴから双子のポケモンを四組孵したのね。イーブイたちが生まれた時、まずどんな気持ちでした?」
「わけわかんなかった」
「正直にびっくりしました」
「ぴゃーって感じだったっす!」
「純粋に驚きました」
 なるほど、とパンジーは微笑む。四つ子の貧相なボキャブラリーが早々に露呈したが、四つ子は勝手に這い回っている小さなイーブイを膝に戻すのに忙しい。
「イーブイのタマゴはどのような経緯で手に入れたの?」
「今朝、幼馴染の大学の後輩が」
「家のポケモンがタマゴを持ってしまったらしくて」
「自分ちじゃ飼えないからトレーナーに渡そうと思ったんだって!」
「そういう縁で僕らの元にタマゴが来ました」
「ふんふん、なるほどね。これまでにタマゴを孵したことは?」
「ねぇっす」
「だから余計に、双子が生まれたときにはびっくりしちゃったんですよね――」


 そうして四つ子はパンジーに尋ねられるがままに話をした。
 パンジーはさすがルポライターとあって、話を聞くのが上手い。気付けば四つ子は語りに語り、昼時にもなってしまった。
「あ、じゃあ取材のお礼ということで、お昼は奢らせてもらうわね。サンドイッチとかでいい?」
「わあ、恐縮です。ありがとうございます」
 キョウキは人好きのする笑顔を浮かべて受け答えした。うっかり機嫌を損ねさえしなければ、最も人当たりのいいのはキョウキである。
 昼食が席に運ばれたところで、パンジーはヘッドセットの電源を切った。そしてリラックスした雰囲気で伸びをし、人懐っこく四つ子に微笑みかける。
「ふふ、本当にありがとう。これでとっても良い記事が書けるわ」
 四つ子はサンドイッチをぱくつきつつ、めいめい小さく会釈を返す。パンジーもコーヒーカップを口につけて、四つ子に微笑んだ。
「じゃ、ここからは別に記事にはしないけれど、せっかくお会いできたんだから四つ子さんのお話が聞きたいなぁ。四人は仲が良いの?」
「悪くはねぇけど」
「とっても仲良し!」
 セッカが手を上げて元気よく叫ぶ。耳元で怒鳴られたサクヤが、セッカの頭をぺしりと叩いた。パンジーはこらえきれずに笑い出す。
「ふふふ、本当に仲が良いのね。……ああ、そうだ。四つ子さんがトレーナーだって話をさっき聞いたけど、ハクダンジムのバッジはもう持っている?」
 すると、レイアとキョウキとサクヤの三人は、一斉にセッカを見つめた。
 一同の注目を集めたセッカはぴしりと背筋を伸ばし、ぴゃあぴゃあと叫ぶ。
「なに! バッジいっこは持ってるって言ったじゃん! ビオラさんには勝ったし! バグバッジだけは持ってる!」
「なんだ、ハクダンのジムは行ったのかよ」
 レイアがにやにやとしている。セッカはぷうとむくれた。
 パンジーは耐えられないといった様子で笑い、コーヒーカップを下ろした。
「ふふ、あはは、セッカ君って面白いわね。そっか、じゃあ四つ子さんはみんな、ビオラには勝ったのね?」
「そゆこと! ビオラさんには勝ったもん! 他のバッジだって取ろうと思えば取れるもん! わざと取ってないだけだもん!」
「そう、ならハクダンジムに来てもらえて光栄ね。ビオラは私の妹なの」
 ぴええ、とセッカは目を見開いた。
「うわあ、美人姉妹じゃん!」
「光栄の極みです。でもそうかぁ、じゃあビオラに聞いたら、四つ子さんのこと覚えてるでしょうね。四つ子なんてそうそう会えないもの」
「それこそ光栄ですね」
 キョウキが微笑んで応じる。
「ビオラさんは、お元気ですか?」
「もちろん! 毎日、朝早くからあちこち歩き回って写真ばっかり撮ってるわ。ああ、最近はバトルシャトーの方にもちょくちょく顔を出してるみたい。四つ子さんは爵位を持ってる?」
 四つ子は首を傾げて顔を見合わせた。
「爵位?」
「爵位?」
「バトルシャトーで用いられる称号よ。バロン、ヴァイカウント、アール、マーキス、デューク、そしてグランデューク。カロスリーグのチャンピオンや四天王、ジムリーダーたち、それにカロスリーグに出場するようなエリートトレーナー達はみんな爵位を持ってるわ」
 四つ子は顔を見合わせた。
「俺ら、持ってない」
「そうなんだ……。でも、リーグに出るほどの実力があると見込まれれば、ジムリーダーの誰かに推薦してもらえば称号は授与されるわよ? ビオラに頼んでみましょうか?」
 パンジーの申し出に、四つ子はさらに顔を見合わせる。
「……爵位っての、要るか?」
「わからないよ。そもそもバトルシャトーってのがどんなにえげつない所かわからないしね」
「なんでも、高額の賞金がやり取りされるバトルの社交場らしいわよ?」
「行こう!」
「やめないか。はしたない」
 セッカが目を輝かせる。サクヤがそれを嗜めた。


 膝の上でイーブイたちを遊ばせながら、四つ子は美女との会話を楽しんだ。
 パンジーは生まれたての小さなイーブイを四つ子から借りて、愛情をこめて撫でている。イーブイが気持ちよさそうに鳴くと、パンジーはますます笑顔になった。美女を喜ばせることができるのは四つ子にとっても光栄なことである。
 思わず長話をして、秋の短い日は早くに傾く。
 そのまま午後の茶まで付き合って、そして何かの弾みにパンジーはふと口を噤んだ。
 そして何かを思い出したように、四つ子をしばらく見つめた。
「……何ですか」
 サクヤが口を開くと、パンジーは慌てた風に手を振る。
「あ、ううん、何でもないの。これはあまり言わない方がいいことね、きっと」
 その一言に四つ子は少なからずショックを受けた。そしてパンジーをさらに慌てさせた。
「あああ、ううん違う、違うわ、別になにか悪いわけじゃなくって! えーと、うーん、そう……気を悪くしたらごめんなさいね、私の同僚が四つ子のトレーナーの話を聞いたことがあるっていうのを……思い出しただけ」
 セッカは首を傾げる。レイアは小さく鼻を鳴らし、キョウキはふわりと愛想笑いを深くした。
 サクヤがぽつりと呟く。
「貴方は、ミアレ出版の方でしたね」
「ええ、そうだけれど……ううん、ごめんなさい、やっぱり忘れて!」
「構いません。一度起きたことは、そう簡単には忘れ去られませんから」
 無表情のまま、サクヤはパンジーを見据えて囁いた。
 パンジーは困り果てた表情をした。
「本当にごめんなさい、ミアレの…………ううん、私も事故だったと思っているわ。だから四つ子さんのことは、本当に……。……いやなことを思い出させたかしら」
「いいえ。僕らにとって大事な話ですから」
 青い領巾のサクヤは椅子の上で屈み込み、足元に走り寄ってきたゼニガメをそっと抱き上げる。ゼニガメを追うように、レイアのヒトカゲ、キョウキのフシギダネ、セッカのピカチュウがそれぞれの相棒の足元に寄り添う。残る三人も相棒を抱き上げた。小さなイーブイが八匹、ソファの上を転がるように這い回る。
 レイアの赤いピアスが揺れる。ヒトカゲを抱えたレイアは顎を上げて、ルポライターに問いかけた。
「あんた、エリートトレーナーのトレーナー人生を奪った奴のこと、どう思う?」
 パンジーは表情を引き締め、背筋を伸ばした。
 まっすぐ、四つ子に向き合う。新緑の瞳で四つ子を見据える。
「……私は、貴方たちは悪くないと思うわ」
「ある意味、模範解答ですね」
 フシギダネを抱えた緑の被衣のキョウキが、間髪入れず口を挟んだ。口元には密やかな笑みが湛えられている。
 レイアが思い切りキョウキの脛を蹴り上げ、その巻き添えを食らったセッカがぴゃああと情けない悲鳴を上げ、サクヤは一人さっさと立ち上がった。
 四つ子は手に手に小さなイーブイを二匹ずつ掴んだ。
 そして、カフェでパンジーと別れた。


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