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  [No.1420] 気が付くと、生きていた 1 投稿者:まーむる   投稿日:2015/11/27(Fri) 01:11:53   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

頭の中の構想が、何か消えなかったからちょっと始めてみる。
流血表現があります。
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 空は、青かった。
 それは、長い、永い時が過ぎようとも変わらない事だった。
「どうだい?」
 デンリュウが話し掛けて来て、俺は答えた。
「悪くない」
 風がなびく。無意識に翼を広げていた。
「あ、どっか行っちゃうのは勘弁ね。マスターに言われてるから」
「マスター?」
「君を生き返らせた人間。僕の主人」
 へぇ。あんなか弱そうな奴に従ってんのか、こいつは。
「少し位なら良いだろ?」
「いやぁ、僕が追いつけなくなる場所まで行っちゃうと困るなぁ」
 デンリュウと呼ばれる奴の、手と足をじろじろ眺めて、俺は溜息を吐いた。
 二足歩行で、ぺたぺたとしか歩けなそうな短い足。腕も、そんなに長くない。不便そうだな。
「ったく」
 俺が空を飛ぼうとすれば、すかさず拘束しようとでもするんだろう。
「今は、いいか」
 名残惜しく、俺はまた空を眺めて、翼を収めた。

 デンリュウに連れられて、俺が生き返った建物の中に入る。正直、四方八方を壁で囲まれているのは狭苦しいと感じるが、仕方ない。
 生き返らせて貰った以上、そんなに文句は言えまい。
 それに、聞きたい事も沢山あった。
「……なあ、俺が生き返った直後にお前、言ったけどさ、俺が生き返るまで、大体、二億年って言ったよな。億年って、どの位なんだ?」
 少し、聞くのが怖かった質問だった。
「季節が、一周するのが一年って呼ぶのは、良い?」
「……ああ」
 デンリュウは、短い腕で少しの幅を作った。
「これが一年の長さだとしよう」
 そうして、片腕で、遠くにある山を指した。
「あそこの頂上まで、この長さを延ばしても、全く、本当に微塵たりとも足りない位」
 ……。
 …………。
「は? え、それは」
「そう。君が想像出来ない程の、とにかく昔。僕、デンリュウと言う種族さえ、居なかった、人間という種族さえ、居なかった、今とは何もかもが違う、大昔」
 混乱する頭で、必死に考えようとした。
 長い、永い時だとは思ってた。だけれど、それほどだとは思わなかった。
 そして、デンリュウが言った一言。
 今とは何もかもが違う。
「それは…………正直に答えてくれ。俺という種族は、今、この空で、飛んでいるのか?」
「……いや」
 ……嘘だろ。

「でも、君みたいに生き返った同世代のポケモンは今はそこそこ居るけどね。卵も出来て、この時代で生まれたのも少し居るよ」
 そんな事を聞かされても。
 混乱したまま、取り敢えずデンリュウに付いて行った。俺が生き返った場所にまで戻ると、デンリュウのマスターとやらの人間が、忙しなく何かを弄っていた。
 俺を生き返らせたモノなのだろうか、と何となく思う。
 ごうんごうん、と透明な壁で囲まれて、その中が液体で包まれている所がいくつかある。
 一つの中には、デカい骨と、その周りの土が入っていた。
 人間が何かを操作すると、うぃぃんと、不快な音を立てて、その骨と土が形を一気に変えて行った。
「……俺も、ああやって、生き返ったのか?」
「うん」
 デンリュウは、静かに答えた。
 それを見ている間は、少しだけ混乱を忘れられるような気がして、目を離さなかった。
 内臓から出来て行く。何となく、見た覚えがあるポケモンのような気がした。
 うぞうぞと、土が、液体と交り合い、骨の周りに肉を付けて行く。
 じじじじ、と音がする。ごうんごうんと言う音が一層強くなる。
 骨さえも、再生されていく。肉が出来上がった所から、表皮が象られていく。小さな手、太い足。首回りに白い鬣が出来て行く。
 ああ、あいつは。何となく思いだした。
「ガチゴラス、って今では呼ばれてる。因みに、君はプテラって呼ばれてる」
「……へぇ」
 プテラ、か。まあ、勝手に名前を付けられたのは余り好きじゃないが、そんなに悪くないかな。
 それに、俺は自分の名前さえも、思い出せない。
「あいつら、凶暴だぞ? 大丈夫なのか?」
「それを、僕が治めるんじゃん。僕は強いんだからね」
 両腕の先から、ぱりっ、と音を立てて電気の線を作って俺に見せてきた。
「止してくれ。何か、凄く嫌な感覚がする」
「ま、そりゃあね。君、電気苦手なタイプだもんね」
 デンリュウが両腕を離して電気を消した時には、ガチゴラスの形は殆ど完成していた。
 尻尾の先が、ちょっとまだ、欠けていた。

 ぷしゅぅ、と液体が抜けて行き、ガチゴラスが目を覚ました。
「……?」
 デンリュウが、困惑しているガチゴラスの前に行き、俺にもしたようにぺらぺらと喋り始めた。
 デンリュウのマスター、人間の手によって、生き返った事。何をしたいか、という事。
 ガチゴラスは、驚いた様子も見せたが俺程でも無さそうで、デンリュウの問いに、取り敢えず動きたい、と言った。こんな窮屈な壁の中に居てられるかと、尻尾を壁に叩きつけ始めて、デンリュウが開けるから壊さないで、と咄嗟に宥めた。
 僕が怒られちゃうから。
 その言葉に、変な感覚を覚えた。どうして、こんなひ弱そうな奴にそこまで従順なんだか。
 俺やあいつを生き返らせた位の何かの力がある事は認めるが、歯も腕も足も、何も戦いにおいては役に立ちそうにもない。
 何だかな。
 ぷしゅう、と音を立てて、今度はガチゴラスを囲っていた壁が上にせりあがって行く。
 ガチゴラスは背伸びをして、体の調子を確かめるようにして、少し歩いた。
「これなら、大丈夫だな」
 隣に居たデンリュウが、ん? と疑問があり気な顔をした。
 そして、ガチゴラスは次の瞬間、デンリュウのマスター、人間に向って一気に走った。
 人間が、固まった。何が起きているのか分からない、と言った顔のようだった。デンリュウが慌てて電撃をガチゴラスに飛ばした時、ガチゴラスは既に人間の目の前に立っていた。
 ばちばち、とガチゴラスの体に電撃が流れる。デンリュウが、逃げてと人間に叫ぶ。
 それでも人間は、動けなかった。足ががくがくと震えていた。ガチゴラスは電撃を耐えて、その大きな口を開いて、牙を見せつけた。
 人間が叫んだ。足がやっと動いた。けれどもう、遅かった。
 ガチゴラスの大きな口に、人間の頭がすっぽり入った。
 デンリュウが走りながら、ばちばちと体中から音を立てながら、ガチゴラスに更に電撃を飛ばした。
 けれどもう、遅かった。
 ガチゴラスが強く頭を揺らすと、ぶちぶちぶちぶち、と音がした。
 人間の胴体が落ちて、首から上を失ったそれが、どばどばと血を流し始めた。
 がりゅ、ごりゅ、とガチゴラスがその頭を噛み砕く音がする。
 デンリュウは攻撃も止めて、茫然としていた。
 ごくり、と飲み込んだ音が、変に大きく、響いた。


  [No.1424] 気が付くと、生きていた 2 投稿者:まーむる   投稿日:2015/11/27(Fri) 17:23:12   21clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 げっふ、とガチゴラスが息を出した。その目は、満足はしていない様子だった。
 デンリュウは呆然としたままだった。だらだらと人間の首から流れ続ける血は、広く地面を赤く染め上げつつあった。
「……どうして、んな事した」
 ガチゴラスが俺の方を向いて、つまらなそうに答えた。
「ムカついたからな」
 たったそれだけで。
 いや、俺にも、その感覚は少しだけ分かる気がした。
 ガチゴラスは足で人間胴体を蹴って続けた。
「上手くは言えねぇし、俺自身も分かってねぇ部分もあるが、本当に馬鹿にされた気分だ」
 デンリュウは、ふらふらと、立ち上がった。
「馬鹿にされたと思っただけで、殺した? たったそれだけで?」
「十分過ぎる理由さ。俺にとっちゃ」
 デンリュウの体全体から、ばち、ばち、と電気が漏れ始めた。憎悪が溢れていた。
「お前もやるか?」
 ガチゴラスが、変わらない目のまま、闘志も見せずに血まみれの牙を剥き出しにしてデンリュウに向けた。
 その時、複数の足音が聞こえた。
『*****!』
 人間達だった。殺されたデンリュウのマスターと同じように白い物を身に着けていて、惨状を目にすると全員がボールに手を付け、投げた。
 ぽんぽん、と音を出して、また、俺の見たことの無いポケモン達が出て来た。
『***!』
 そして即座に、ポケモン達はガチゴラスに向けて攻撃を放ち、ガチゴラスは応戦し始めた。
 けれど、抑えられるのが時間の問題なのは、俺の目から見ても明らかだった。ただ、氷を身に受けても、電撃を身に受けても、ガチゴラスの目は、変わらずつまらなそうなままだった。

「……どうして」
 取り押さえられ、ボールに入れられて、ガチゴラスは人間達の手によってどこかに連れて行かれた。
 デンリュウのマスターの死体も運ばれて、俺とデンリュウだけが残った。
 デンリュウは続けた。
「どうして」
 がん、と頭を壁にぶつけて、デンリュウはただ、どうして、とつぶやき続けていた。
 デンリュウにとって、その人間のマスターの存在がどれほど重いものだったか、俺には分かりもしないが、番を失えば俺もこうなるだろうか、と少し思った。
 壁に頭をこすりつけながら、デンリュウは俺を見て、呟いた。
「君には、分かる?」
「……何となく」
「教えて」
 一息吐いて、言った。
「生き返らせられて、何だろうな、俺を俺として扱ってくれてない感じがした」
「……どういう事?」
 少し考えて、思いついた。
「俺を命としてでなく、結果として扱ってた感じだった」
 多分、そんな所だと思う。
「結果……」
 呑み込むにはかなり時間が掛かるだろう、と俺は思った。
 冷気を感じて、後ろを振り返ると、ガチゴラスを抑えた内の一匹のポケモンが居た。
「こんにちは」
「……こんにちは」
 翼もないのに、地面に足を付けずにふわふわしている。
「ハツユキ……」
 ハツユキって種族、ね。
「初めまして、プテラさん。私はハツユキ。ユキメノコって種族」
 ああ、ハツユキは名前か。
「初めまして」
 ハツユキはデンリュウに向き合って、言った。
「外、出ない?」
 デンリュウは無言で頷いた。

 日が少しずつ、落ち始めていた。また外に出てくるまでそんなに長い時間があったとは思わなかったが、意外と時間は経っていたみたいだ。
 デンリュウは外に出て、ぽつぽつと、言葉を漏らすように言った。
「僕は、元々、マスターの元じゃなくて、野生で暮らしていたんだ」
「縄張り争いなんて事もしてなくて、でもそれでも平穏だったんだけど、ある日サイドンっていうポケモンが現れて、相性最悪なのもあってやられちゃって」
「命からがら逃げた所をマスターに助けられた」
「楽しかった」
「うん」
「楽しかった。とても」
「本当に」
 ……。
「うああああああああああああっ、あああああああああああああっ」
 電気を纏ったその腕で、デンリュウは壁を殴った。壁は黒焦げになって、俺は思わず一歩、引いた。
 ばちばち、ばちばち、とデンリュウは泣きながら、電気を撒き散らした。思わず俺は飛んだが、無作為に飛んできた電撃の一つに当てられて、すぐに落ちた。
 痺れと痛みでのたうち回る事もあまり出来ない。いい迷惑だとも思う。
 ハツユキも遠くで見守るだけだった。
 日が暮れるまで、デンリュウは泣き続けた。人やポケモンが来ようとも形振り構わず、誰かが止めようとしても振り払って、感電させて、泣き続けた。