マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1437] 優しく甘い 昼 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/12/04(Fri) 20:36:32   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



優しく甘い 昼



 キナンシティの別荘地は、実にのどかだった。
 白い壁、橙色の屋根。そのコントラストが青空に映えて美しい。
 別荘の窓際には色とりどりの花々が飾られ、統一された街並みを彩る。四つ子は並んでのんびりと歩き出した。今日から本格的に、キナンを巡ることになる。
 とはいえ、四つ子のやることは決まっている。
 ヒトカゲを脇に抱えた、赤いピアスのレイアが呟く。
「とりあえず、イーブイの進化形たちは育てる」
 フシギダネを頭に乗せた、緑の被衣のキョウキが軽く首を傾げる。
「バトルハウスに挑戦するつもりだったけど、賞金は貰えないらしいねぇ?」
 ピカチュウを肩に乗せたセッカがぴょこぴょこ跳ねる。
「でもさ、でもさ、トレーナーはたくさんいるから、そいつらに野戦仕掛ければいいんじゃね?」
 ゼニガメを両手で抱えた、青い領巾のサクヤが囁く。
「賞金が貰えなくとも、何かしら代わりとなるものは得られるだろう。でなければ人が集まらない」
 そこに、四つ子の背後から青年の声が追いかけてきた。
「バトルポイント――BPが貰えるんですよ……」
 四つ子は同時に立ち止まり、軽くむっとして背後を振り返った。
 そこには、茶色い短髪の長身の青年、エイジが肩で息をしながら立っている。別荘から走って四つ子を追いかけてきたようだ。黒のパーカーにジーンズを身につけた青年は、人懐こい笑みを浮かべる。
「ね、自分案内しますよ……。バトルハウスはこっちです」
 そう笑いながらエイジが一人でどこかへ向かうので、四つ子は無視しようかとも考えた。
 四つ子が無表情で道中に立ち止まっていると、エイジは子犬のようにいそいそと四つ子の元まで律義に戻ってきた。そして困ったような顔をして首を傾げる。
「あの、もしかして、自分のことまだ疑ってます……?」
「たりめぇだろ」
「エイジさんって、得体が知れませんもの」
「なんかあんた怖い」
「貴様はこのキナンで何をするつもりなんだ」
 四つ子は警戒心も露わに、エイジを睨みつける。エイジはぱたぱたと両手を振った。
「ああ、じゃあ自分のこと、もっと詳しくお話ししましょうか……。――ああいや違うな、じゃあ……四つ子さんにいいものをお聞かせしましょう」
「いいもの?」
 四つ子は揃って首を傾げ、長身の青年を見上げた。
 エイジは咳払いをすると、朗々と歌い出した。
「おヒマやったら寄ってきんしゃい♪ 退屈やったら見てきんしゃい♪ 思う存分戦いんしゃい♪ 勝負するなら♪ バトルハウス♪」
 四つ子は目を点にした。

 四つ子は、青年を、まじまじと見つめた。

 青年は咳払いした。
「…………おヒマやったら――」
「いやもういい」
「ありがとうございます」
「あんた割と歌うまいな」
「もう出てけよ」
 四つ子は冷淡に言い放った。


 エイジはわたわたと両手を振り、どこかへと歩き去ろうとする四つ子の前に立ちふさがった。
「すみません! 本当にすみません……!! 今のは、バトルハウスの公式キャンペーンソングなんです……」
「知らねぇよ」
「あの、次はちゃんと役立つ話をしますから……ね?」
 四つ子は胡散臭そうな目で青年を見上げた。
「役立つ話……?」
「さっきも言いましたけど……バトルハウスでバトルに勝利すると、賞金ではなく、BPが貰えるんですよ」
 エイジはバトルハウスへと歩き出しながら、そう説明を始めた。四つ子も仕方なくついていく。
 BPはバトルハウス独自の通貨のようなもので、BPと引き換えに様々な役立つ道具を得ることができる。
 何でもかんでもBPによって得られるわけではないが、トレーナーにとって貴重な道具と交換できるので、BP目当てにバトルハウスを訪れるトレーナーは多い。
 また、バトルに負けたとしてもBPが奪われるというようなことはない。そこが通常の賞金をやり取りするバトルとは違うところだ。また、一戦ごとにポケモンは全回復され、ポケモンが使用した持ち物も補充される。すなわち、いくらバトルに負けても損失がないということだ。
 とはいえ、あまりにも無様なバトルを繰り返すと、バトルハウスの運営側から注意を受けることがある。バトルハウスはただトレーナーの技術を磨き上げるために、無償で貸し出されているわけではないのだ。上質なバトルによって観光客を誘致しなければならない。基本的にバトルハウスでバトルに興じることができるのは、一地方のバッジを八つすべて集めた者だ。
 エイジはそこまで、すらすらと説明した。
 そこでセッカが顔色を失った。
「……俺、バッジいっこしか持ってない!」
「えっ……」
 エイジが絶句した。
 セッカはぴゃあぴゃあと騒ぎだした。
「うわああああどうしよぉぉぉぉ俺だけバトルハウスに挑戦できないよぉぉぉぉ――!」
「だからさっさと集めろっつったのによ……」
「セッカの実力は僕らと同等だから、普通に戦っていけると思うんだけどねぇ……」
「困ったな。どうにかこいつの実力を見せつけて、特例を認めさせるしか……」
 口々に喚き合いつつ、そうこうしているうちにバトルハウスの前に着いてしまう。
 セッカだけ挑戦できないというのは、どうにも気分が悪い。ヒトカゲを抱えたレイアは、勢い込んで玄関ホールを駆け上がり、受付に詰め寄った。
「おい! バッジ一個しか持ってねぇ馬鹿は、どうしても挑戦できねぇのか!」
 受付の女性は目をきょとんとさせた。そしてレイアの隣にやってきたキョウキ、セッカ、サクヤに視線を滑らせる。
「トレーナーカードをご提示ください」
 女性の笑顔に促され、四つ子は全員トレーナーカードを差し出した。
 受付の女性は四人分のトレーナーカードを、次々と読み取り機に通していく。
 そして笑顔で四人にカードを返却した。
「はい、レイア様、キョウキ様、セッカ様、サクヤ様の出場登録を受け付けました。どうぞお好きなバトルルールをお選びいただいた上で、各控室にお進みくださいませ」
「えっ」
 声を漏らしたのは、ピカチュウを肩に乗せたセッカである。
 ヒトカゲを抱えたレイアが受付にさらに詰め寄る。
「おい、マジで!? マジでいいのか、こいつは!? バッジ一個だけども!!」
「はい。セッカ様については、ポケモン協会の方から特例を認める旨のご連絡を頂いておりますので」
「てめぇかポケモン協会ィィィィィィィィ!!」
 レイアは絶叫した。
 キョウキとサクヤは、セッカの両肩をそれぞれ軽く叩いた。
「よかったね」
「出られるぞ」
「なんかよくわかんないけど、俺ってすごいな!」
 セッカはふんぬと鼻を鳴らした。



 紫の大広間は、今日も朝からバトルが続けられていた。
 アーボック対チラチーノ。一般トレーナー同士のシングルバトルだが、客席も埋まり、大変な盛況ぶりである。
 バトルの最中は、二階の観客席な選手の控室に移動することはできない。丸テーブルの上の軽食をつまむ四つ子に向かって、エイジが笑顔で解説する。
「ほら、こっちに別館への渡り廊下があるんですよ……。シングル以外にも、ダブル、トリプル、ローテーション、マルチといったルールで戦っているところがありますからね」
「……んむ、そうそう! 俺ら、まずはマルチで挑戦しようとしてたんだっけ!」
 胡瓜のサンドイッチを飲み込んだセッカがぴいぴいと騒ぐと、同じく胡瓜のサンドイッチをほおばっていたレイアとキョウキとサクヤが顔を見合わせた。それぞれの相棒のヒトカゲとフシギダネとピカチュウとゼニガメも顔を見合わせ、首を傾げる。
 エイジが慣れたように解説した。
「マルチバトルなら、一人二匹ずつで、二人一組での挑戦ですね……」
 四つ子は顔を見合わせた。
 赤いピアスのレイアと、緑の被衣のキョウキの視線が合う。
「……やるか?」
「うん。よろしくね、レイア」
 セッカと、青い領巾のサクヤが互いを見やる。
「わぁい、しゃくやとタッグだぁ!」
「頼むぞ」
 組分けは数瞬で終了した。
 エイジの案内で、四つ子はマルチバトルを行う広間へと向かった。






 四つ子はキナンシティの巨大ショッピングモールをぶらついていた。
 その後を、長身の青年、エイジが追う。
 エイジは四つ子の荷物持ちをさせられていた。両手いっぱいに紙袋を提げている。四人分のリボン付きプルオーバーだの、エスニックカットソーだの、ジョッキーブーツだの、ベルトアクセントバッグだの、下着だの、靴下だの。
 重い荷物を抱えて、エイジはにこにこと笑った。
「四つ子さんて、クノエのブティックとかお好きなんですか? っていうか、レディースばっかお買い上げですけど、やっぱり女性なんですか? それとも女装趣味ですか?」
 袴ブーツ姿の四つ子は、青年の問いかけをすべて無視した。そのままドーナツ屋を見かけて四人で突進する。四人揃ってチョコレートのたっぷりかかった大きなドーナツを一つずつ注文し、それぞれヒトカゲやフシギダネやピカチュウやゼニガメに分けてやりつつ、歩きながらかぶりつく。
 そしてドーナツを飲み込んでしまうと、四つ子はアイスクリーム屋を見つけてそれに突進していった。四人揃ってミントアイスを注文し、やはり相棒と分け合いつつせっせと口に運んでいる。
 エイジは、この四つ子はやけ食いをしているのかなぁ、とぼんやりと思った。


 しかし実際のところ、四つ子はバトルに関していえば、特に問題を感じていなかった。
 レイアとキョウキ、そしてセッカとサクヤという二人組に分かれてマルチバトルに挑戦し始め、もう数日経つ。
 ただ、たったの数日で四つ子はバトルハウスに嫌気がさしていた。
 その理由としてまず一つには、観客との距離が近い。周囲を観客に取り囲まれた大階段の踊り場では、そのざわめき一つ、ヤジ一つがトレーナーの気を散らす。
 また、バトルハウスには様々な人間がいた。
 バトルに勝つなり、相手に偉そうに押しつけがましくアドバイスをするトレーナー。
 バトルに負けるなり、心無い暴言を吐き捨てていくトレーナー。
 入れ代わり立ち代わり、様々なトレーナーが踊り場に現れる。
 さらには、近い観客席から時折ヤジが飛んでくる。薄暗い片隅で賭博をしていた人々のうち、自分が賭けたトレーナーが負けてしまったために賭けに負けたのだと思われる者からも、たびたび暴言が飛んでくる。それらは直に吐きかけられても、また傍から聞いていても、とても気持ちのいいものではなかった。
 優雅だと思われた屋敷の中は、割と放埓だった。粗野なトレーナーもいれば、粗野な観客もいる。ルールで規律されたバトルの聖地と思われた踊り場は、今や賭け事の舞台だった。大広間の隅のテーブルでひたすら多額の金がやり取りされている。
 バトルハウスとは、ただの賭場ではないか。
 次第に四つ子は吐き気を催した。
 人間臭い。
 バトルハウスの中は、においがこもっている。香水の匂い。煙草の臭い。アルコールのにおい。様々な人のにおい。
 確かに繰り広げられるバトルは一流だ。
 しかし、不健全だ。
 ここではバトルは見世物だ。賭博の対象だ。ここは誰のための場所なのだろう。
 紫の大広間が紫煙に霞む。
 強さを値踏みしてくるギャンブラーたちの視線が、不躾で、嫌らしくて、気持ち悪い。

 レイアもキョウキもセッカもサクヤも、そこまで人が好きではない。
 それは四つ子の友達と呼べるような存在が、ユディやルシェドウやロフェッカぐらいしかいないことからも窺える。自分たち以外のトレーナーは、四つ子にとっておよそ狩りの対象でしかなかった。そしてトレーナー以外の人間は、およそいてもいなくてもどちらでも構わなかった。
 しかし、たまにトレーナーを利用しようと近づいてくる、小賢しい人間がいた。
 それは無学なトレーナーを搾取する詐欺商人であったり――おいしい水やコイキングでぼったくりを行う悪徳商法は有名だ――、バトルを賭け事の対象にするギャンブラーであったり。彼らにとってトレーナーとは盲目の奴隷であり、愚かしい愛玩動物に過ぎなかった。そのような人間はトレーナーの無知につけこみ、トレーナーから簒奪し、トレーナーを弄ぶ。
 そうした汚い大人がこの世界にははびこっている。だからこそ、四つ子はそれぞれ一人旅をする中で利己主義者になり、懐疑主義者になったのだ。
 そして、そうしたトレーナーを搾取せんとする汚い大人の巣窟が、まさにこのバトルハウスだった。
 四つ子は汚い大人を嫌悪した。
 バトルハウスに唾棄した。
 そしてマルチバトルで連勝中だった挑戦を途中で切り上げ、さっさとその場を後にしたのである。それきり、バトルハウスには寄っていない。


 仲良くミントアイスを舐めている四つ子に、エイジはにこにこと機嫌よく話しかけた。
「大丈夫ですよ……。バトルハウスは途中で抜けても、連勝記録は続きますからねぇ。多分十年くらい時間を空けなければ、記録も消されませんって……」
 四つ子は無視して映画館に入った。
 レイアが封筒から万札を取り出し、適当なチケットを購入する。四つ子は先ほどからショッピングモールでひたすら買い物に明け暮れていた。その資金は、レイアとセッカがハクダンシティで女性政治家のローザから受け取った大金だ。
 四つ子は、山のような荷物を持ったエイジを一人だけ放置し、四人で映画館に入った。
 レイアはヒトカゲを膝に乗せ、キョウキもフシギダネを膝に乗せ、セッカもピカチュウを膝に乗せ、サクヤもゼニガメを膝に乗せた。そして映画『ハチクマン』を鑑賞した。
 そして四人で号泣した。
 ハチクマンは日常では人情味あふれる、実に愛嬌溢れるいいキャラクターだった。ヒロインとの出会い。陰謀の芽生え。憎らしい敵役。繰り返される、迫真のポケモンバトル。ハチクマンは決めるところはしっかり決める。格好いい。クールだ。セリフにもいちいち痺れる。細かい演出もまたにくい。そして、別れ。ハチクマンは冷静に、これからも孤独に、戦い続けていくのだ。
 レイアは目を片腕で覆って震えている。
 キョウキは美しく微笑みながらはらはらと零れる涙を緑の被衣でそっと押さえている。
 セッカは鼻水を垂らしてエンドロールの間じゅうおいおい泣いた。
 サクヤはスクリーンをまっすぐ見つめたまま、堂々と涙の落ちるに任せていた。
 ヒトカゲとフシギダネとピカチュウとゼニガメも、終始おとなしく映画を眺めていた。
 四つ子は袖を絞った。ポップコーンの塩味がただ心に沁みた。
 そして四つ子はハチクマン人形を迷わず四つ、お買い上げした。すべてポーズが違うやつである。



 それから数日間、四つ子はイーブイの進化形だけはきっちりと毎日特訓をしつつ、遊び呆けた。バトルハウスには足が遠のいたどころの話ではない。とっくに愛想が尽きている。
 買ったばかりの流行の衣装を身につけ、キナンの誇る遊園地であるポケパークにも遊びに行った。ギャロップやゼブライカの回転木馬に乗り、鳥ポケモンのフリーフォール――もちろん技ではなくアトラクションだ――に乗り、渦巻島のぐるぐるカップに乗り、アルトマーレの大ゴンドラに乗り、裂空のジェットコースターに乗り、星空の空中ブランコに乗り、そしてそれらのアトラクションを二、三周して、チュロスや林檎飴を四人でもさもさと貪り、大観覧車に乗った。
 楽しかった。四つ子にとって着物以外のいわゆる洋服を身につけたのは初めてだったし、遊園地で遊ぶのも生まれて初めてだった。ミアレシティも夏には公園に移動式遊園地が来るという。所持金に余裕があれば行ってみたいと思った。遊園地がこんなに楽しいものだとは思いもしなかった。
 観覧車はゆっくりと上昇する。地上に放置してきたエイジが点になる。
 赤いピアスのレイアがぼやく。その膝の上ではヒトカゲがびくびくしながら窓の外を覗いている。
「カネの力ってすげぇな」
 緑の被衣のキョウキがほやほや笑う。その腕の中のフシギダネも満面の笑顔である。
「来れてよかったね」
 セッカがえへえへ笑う。ピカチュウはせわしなくゴンドラの中を駆け回っている。
「また、みんなで来たいな」
 青い領巾のサクヤが静かに呟いた。ゼニガメは暴れないようしっかりと押さえつけられていた。
「そうだな」
 それから四つ子は観覧車が一周するまで、飽きることなくしゃべり続けた。バトルハウスはけしからん、ショッピングモールをもっと見ていきたい、キナンじゅうの屋台巡りをしてみたい、ゲームコーナーも気になる。
 幸せだった。政治家のローザから与えられた金はまだたくさん残っている。新品の色鮮やかな服も心を浮き立たせる。
 そして、エイジの存在を無視しつつ、四つ子は別荘に帰った。


 夜ももう遅い。
 その日は遊園地でチュロスや林檎飴を夕食代わりにしてきた四つ子は、帰ってきた別荘の居間で、ウズとロフェッカが何やら深刻そうに向かい合っているのを目にした。
 そして面倒事に巻き込まれるのを嫌って、そそくさと四人は二階に上がろうとした。
 しかし、ウズに低い声で呼び止められた。
「――待たんか、アホ四つ子」
「……うす」
「なぁに、ウズ」
「なんだよー」
「いかがいたしましたか」
 仕方なく、ヒトカゲを抱えたレイアと、フシギダネを抱えたキョウキと、ピカチュウを抱えたセッカと、ゼニガメを抱えたサクヤは立ち止まった。ほぼ半日中、四人で遊びまわっていたせいで、ひどく疲れている。ショッピングも遊園地もとても楽しかったが、いかんせん人の多いところでずっと過ごしていたため、疲労は大きい。
 ウズは、四つ子の洋装を見て眉を顰めた。
「……服を買ったのか」
 その呟きを四つ子は無視した。
 ウズは和裁士だ。着物を仕立てることにかけては一流の腕を誇り、クノエのジムリーダーであり有名デザイナーでもあるマーシュとも懇意にしている。四つ子はこれまで、ウズの仕立てた着物以外を身につけたことはなかった。しかし今は、アウトレットモールで購入したばかりの洋服で着飾っている。
 ウズは四つ子の洋服を黙って睨んでいる。
 四つ子はもぞもぞした。四人揃ってエスニックな洋服を選んで図らずも四つ子コーデというものになっているのだが、ウズにとっては何か納得のいかないファッションなのだろうか。そもそもウズはファッションに聡い人間なのだろうか。それすらもわからない。
 四つ子はウズのことをほとんど知らなかった。
 ところが、ウズは無言で睨んでいた割には四つ子の服装については何も述べず、ただ冷淡に言いやった。
「話がある。まあ今日は遅いで、明日の朝にするかの」


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