マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1454] こんばんは 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/12/10(Thu) 20:53:20   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



こんばんは



 おれは、ピカさんだぜ。
 呼び捨てでいい。ピカさんさんなんて呼ばれた暁にはサンパワーになっちまう。おれの特性は避雷針だ。だからただのピカさんでいい。
 セッカの相棒やってる。
 セッカは良いやつだ。元気で楽しい奴だし、一緒にいて飽きねえ。それにあいつはああ見えて割と頭は切れる。でなけりゃ、おれらをここまで育てられないだろ。


 てわけで、愉快なメンバーを紹介します。
 ガブリアスのアギト。こいつすげぇ腕白。たまにおれの尻尾に食らいついてそのまま炎の牙ぶっぱしてくんのはやめてほしい。
 フラージェスのユアマジェスティちゃん。慎重な女王様ね。橙色の花背負ってていい香りする。
 マッギョのデストラップちゃん。頑張り屋な踏まれたい系女子。ユアマジェスティちゃんといい感じにSM気質がぴったり来てていいコンビだと思うわ。
 ブースターの瑪瑙。寂しがりなまだまだ甘いぼんぼん。ま、まだまだこれから。
 リーフィアの翡翠。呑気なレディ。ま、この双子は頭は悪くねぇから期待はしてる。



 おれの相棒セッカは、ぐったりと大階段の踊り場の手すりに伸びていた。おれはその手すりの上に乗って、そんなセッカを見つめていた。
 どうしたよ、相棒。
 最近元気ないな。
 分かってる。悩み事だろ。
 でもおれはポケモンだから、悩みなんざ相談しちゃもらえないし、されたところで困る。おれには人間は分からねえからな。
 おれにできるのは、パーティーの奴らをまとめて、最高のバトルができるようにすることだけだ。
 ここまでずっとダブルバトルをしてきたが、勝ってばっかだ。さすがだぜ、おれ。アギトもユアマジェスティちゃんもデストラップちゃんも瑪瑙も翡翠もおれが育てた。
 だからさ、セッカ。てめぇはてめぇの心配してな。


 青いドレスを着たお嬢ちゃんが現れる。バトルシャトレーヌだ。セッカはこいつに勝ちたがっている。
 だからおれが勝ってやる。
 セッカがのそりと手すりから身を離した。無表情だった。考え事してる時の顔だ。
 相棒が考え事をしてんのは稀だが、ここんとこずっとこんな顔をしている。はてさて、バトルのことを考えてんのか他のことを考えてんのか。他ごと考えてんなら邪魔だぜ、引っこんでなセッカ。バトルのこと考えてんならよし。
 ダブルバトルが、互いに二体ずつポケモンを出し合うルールだってのは有名な話だ。このバトルハウスで行われるのは四対四のバトル、ポケモン同士のコンビネーションが鍵を握る。
 最初の敵は、オコリザルとペルシアンだった。
 セッカはブースターとリーフィアを繰り出す。双子コンビだ。さあ双子ども、おれの訓練の成果、見してやんな。

 敵のペルシアンが、ブースターに猫騙しをした。
 早速のコンボ崩しだ。リーフィアの日本晴れからのブースターの炎技、というパターンをおれは教え込んでやっていたのだが。
 戸惑うリーフィアにセッカが鋭く指示を飛ばす。さすがだぜ相棒。リーフィアが剣の舞を使う。
 怯んだブースターに、オコリザルのストーンエッジが襲い掛かる。リーフィアがブースターをどついて逃れさせた。
 続いてリーフィアが日本晴れで、強い日差しをバトルハウス内に取り込む。ようやく双子コンビの調子が出てきた。
 ブースターがフレアドライブでオコリザルに突っ込む。強い日差しでバトルハウスの空気は干上がっており、炎の勢いが増す。攻撃の反動は大きいものの、敵のオコリザルを一撃で倒した。やるじゃねぇか。
 と思った瞬間、ペルシアンのパワージェムがブースターに直撃した。哀れ。お疲れ。
 残りは三対三。

 敵はペルシアンとパチリス。
 こちらはリーフィアとフラージェスだ。この女子コンビも、なかなかダブルバトルでは活躍していた。フラージェスの特性のフラワーベールが、リーフィアを状態異常や能力変化から守るためだ。
 敵のパチリスが光の壁を張る。フラージェスのムーンフォースの威力が半減してしまったが、リーフィアのリーフブレードは通る。
 敵のペルシアンは急所に一太刀浴びつつ、悪の波動をリーフィアに浴びせた。
 相打ちになった。ペルシアンとリーフィアが崩れ落ちる。
 一進一退。残りは二対二。

 敵はパチリスとネオラントだ。
 そしてこちらの二体は、フラージェスとマッギョ。SM女子コンビだな。
 怒りの前歯で襲い掛かる敵のパチリスを、フラージェスはサイコキネシスで動きを止めた。
 敵のネオラントの冷凍ビームに、マッギョが10万ボルトで対抗する。
 しかし相手には光の壁がある。押し負けた。
 セッカが叫ぶ。フラージェスはリーフィアの残した強い日差しを浴びて光合成で体力を回復する。
 そしてマッギョが、地割れを撃った。
 凄まじい地響きが起こり、大地の割れ目がパチリスを飲み込んだ。一撃必殺の恐ろしい技だ。会場も静まり返ってやがる。
 敵は残り一体、ネオラントのみ。

 敵のネオラントは雨乞いをし、強かった陽射しを陰らせ、大雨を降らせた。そして大規模な波乗りをかます。
 マッギョが10万ボルトを水流に向かって放つ。フラージェスが花弁の舞で迎え撃つ。しかし敵を守る光の壁のために、大した威力にならなかった。
 マッギョとフラージェスが大波に飲み込まれた。
 マッギョがなおも放電する。あいつって結局魚なんかな。水流にもまれながらにやにや笑いながら、10万ボルトを放つ。フラージェスの方まで痺れかけてんだが、フラージェスはフラージェスで狂ったように花弁の舞を続けていた。
 水が散る。
 火花が散る。
 花弁が散る。
 美しかった。
 水が引く。
 ネオラントは踊り場に横倒しになっていた。


 ナイスだぜ。
 セッカの肩に乗ったおれは、セッカの顔を覗き込む。しかしセッカは無表情だった。さっきからずっとこれだ。いや、さっきまでは、バトルシャトレーヌに勝つまでは浮かれないとセッカは決めてんのかと思っていたのだが。その目標を倒したのに、この沈黙。
 らしくない。
 どうしたよ、セッカ。
 セッカはフラージェスとマッギョをボールに戻すと、傷ついた仲間たちを回復してもらった。そしてそれを受け取って、ようやくセッカはおれを見た。
 ああ。
 そうか。
 さてはてめぇ、飽きたな?
 分かる、分かるぜ。ルールに縛られたバトル、それは確かに公平だ。
 でもそこには命の燃え滾るような熱さがない。食らい合い、殺し合うような冷酷さが足りない。てめぇの求めてんのはそれだろ? 欲求不満抱えちまってんだろ? 生きてる証が欲しいんだろ?
 誰かに認められようとするよりも、てめぇの信じた道に応えろよ。
 何を迷う。飛び出せセッカ。いつだってそうやってきただろうが。
 てめぇが望むなら、レイアもサラマンドラも、キョウキもふしやまも、サクヤもアクエリアスも置いてっちまえ。おれたちはてめぇだけについてってやるからよ。


 ――おれはそのような事をセッカに言ってやった。しかしセッカがおれの言葉をすべて理解できたとはとても思えない。
 セッカは手を伸ばして、おれの頬をふにふにした。ちょ、ばか、やめ……気持ちいい…………。
 おれがぼんやりしているうちに、セッカはおれを肩に乗せてふにふにしつつ、どこかへ移動する。
 ふにふには良いものだ。勝手に喉が鳴る。
 たまらずうっとりしていると、サラマンドラとふしやまの声が聞こえてきた。
「あ、ピカさん。おつかれー……って、何もしてなかったけどね」
「凄まじいアホ面ですね、ピカさん」
 目を開けると、回廊の中ほどには、サラマンドラを抱えた赤いピアスのレイアと、ふしやまを頭に乗せた緑の被衣のキョウキが立っていた。セッカとおれを待っていたようだ。
 サラマンドラがレイアに抱えられたまま、笑っている。
「早く早く。シングルバトルやってるよ」
「サクヤさんですね。アクエリアスは戦っているのでしょうか」
 ふしやまもキョウキの頭の上で、微笑んでいる。
 おれを肩に乗せたセッカは、レイアとキョウキと連れ立って歩き出した。
 けれど三人は言葉少なだった。おれとサラマンドラとふしやまの話し声の方が大きかった。


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