おやすみ
おいらは、アクエリアスだよ。
サクヤの相棒をやってるよ。サクヤっていうのは、青い領巾を袖にくるくるだらりんした人のこと。そっくりさんがなんと三人もいるから、ちゃんとよく見て見分けてくれよな。
サクヤはいっつも落ち着いてて、でも熱いハートを秘めた、とっても強い奴だぞ。ミアレの路地裏のギャングもその拳一つで制圧したぞ。サクヤと戦ったら、サクヤはおいらより強いかもしんない!
じゃあ、そんなおいらとサクヤの仲間を紹介するぞ。
ボスゴドラのメイデン。図太くってとっても強いお姉ちゃんだぞ。
ニャオニクスのにゃんころた。真面目なインテリ系。なんかふしやまを思い出すけど、普通にいい奴。
チルタリスのぼふぁみ。控えめだから、好きなだけもこもこをモフモフさせてくれるぞ。
ブラッキーの螺鈿。気まぐれ。協調性が皆無だぞ。
グレイシアの玻璃。陽気だけど、双子の兄貴と同じで協調性が皆無だぞ。
そんなおいらたちは、現在バトルハウスで絶賛シングルバトル中です。
三対三。
お相手は黄色いドレスの女の子。ぺろぺろりーん、だってさ。
相手の一体めはブニャットだった。
サクヤが最初に繰り出したのはブラッキーだ。がんばれ。
敵のブニャットが催眠術を仕掛けてきた。ブラッキーが身を守る。危なかった。
ブラッキーがバークアウトを使う。まくし立てるように怒鳴りつけて相手の特攻を下げる技だぞ。
敵のブニャットはどうにかして催眠術でブラッキーを眠らせてこようとするけど、サクヤの的確な指示のおかげでブラッキーはすべてうまく防いでいる。やっぱりサクヤはすごい。
敵のブニャットが輪唱を使ってきた。けれどブラッキーのバークアウトのおかげか、その歌声は聞いていてもずいぶん楽だ。
ブラッキーがイカサマをする。ブニャットの攻撃力を利用し、倒した。やっぱりサクヤはすごい。
敵の二体目はプクリンだった。
ブラッキーはバークアウトを使ったけれど、プクリンの恐ろしい気合玉を受けて倒れてしまった。一進一退だ。
サクヤが繰り出した二体目は、グレイシア。氷の礫で先制した。
敵のプクリンのチャームボイスを受け、グレイシアがミラーコートで跳ね返す。やっぱりサクヤの指示が的確なんだ。
けれどそこに、恐ろしい気合玉が飛んできた。グレイシアも頑張ったけど、どうにも耐えられない。
これで残りは一対二だ。ちょっと危なくなってきたかも。
サクヤが最後に繰り出したのは、チルタリスだった。もこもこ。
チルタリスは流星群を放ち、プクリンを倒す。こいつ、控えめなくせして、なかなかやりおるぞ。
敵の最後のポケモンはブーピッグだった。
そしてサクヤがチルタリスに命じたのは、パワースワップ。
これは自分と相手の特殊攻撃力を入れ替えてしまう、びっくりな技なのだ。チルタリスがさっき放った流星群の反動で下がってしまった特攻を、敵のブーピッグに押し付ける。
そのおかげで、敵のブーピッグのサイコキネシスは痛くもかゆくもなかった。
敵のブーピッグの特殊攻撃力を手に入れたチルタリスは、再び流星群を放った。
そして勝った。楽勝楽勝。
と思ったら、バトルシャトレーヌのやつ、懲りずにまた本気出してなかったみたいだ。なんなんだ。
大階段の上から、サラマンドラを抱えた赤いピアスのレイア、ふしやまを頭に乗せた緑の被衣のキョウキ、ピカさんを肩に乗せたセッカが下りてくる。
レイアの腕の中のサラマンドラが笑っている。
「すごいや、ぼくたちみんな、バトルシャトレーヌ倒せたね!」
キョウキの頭の上のふしやまも満足げに微笑んだ。
「当然です。わたくしたちの仲間ですよ」
セッカの肩の上のピカさんもにやにやした。
「おれらが修業つけてやったおかげだな」
床の上のおいらは、三匹を見上げてひっくり返りそうになりながらも反論してやった。
「すごいのはご主人たちだよ」
そう言っているところを、おいらはサクヤに後ろから拾い上げられた。青い領巾を袖に絡めたサクヤの腕が、おいらを抱える。視点が高くなっていい気分だ。
サクヤは、レイアやキョウキやセッカと見つめ合っていた。どうした? どしたどした? 見つめ合っちゃって、フォーリンラブか? いいのか、あんたら四人、同じタマゴから生まれたんだろ?
それからサラマンドラとふしやまとピカさんとおいらは、レイアとキョウキとセッカとサクヤに連れられ、バトルハウスを出ていった。
途中の受付でばとるぽいんととかいうものを色々な技マシンや道具と交換していた。
そして玄関ホールに来たところで、背高のっぽのエイジを見つけてしまった。
ご主人たちが立ち止まる。
サラマンドラは全身を緊張させ、ふしやまも無表情になり、ピカさんは微かに唸り、おいらは手足を甲羅に引っこめる。エイジは悪いやつだ。
なのにエイジはへらへらと笑って、ご主人たちを褒めているみたいだった。ご主人たちはそれを無視し、エイジを追い立てて別荘へと案内させる。悪い奴をうまくこき使うご主人たち、かっこいい。
外に出てみると、もう夜だった。お腹が空いた。朝からずっとバトルハウスでバトルを続けていて、昼ごはんも軽いサンドイッチとかだけだったからお腹が空いた。
別荘に帰ると、ご主人たちは四人で、銀髪のウズっていう人を取り囲んだ。そして四人で寄ってたかって、バトルシャトレーヌを撃破した“ご褒美”をウズから奪い取った。ふしやまが溜息をついている。
「……こういうの、カツアゲというんですよ」
「バトルシャトレーヌをちゃんと倒したんだから、別に当然だろ!」
ピカさんはご機嫌に笑っている。
ご主人たちは“ご褒美”を持って二階の寝室へ上がると、四人でベッドの上で車座になり、四方向から“ご褒美”を覗き込んだ。サラマンドラとふしやまとピカさんとおいらもそれを覗き込んだ。
“ご褒美”は、ただの木箱みたいだった。
レイアがそれを開ける。
木箱の中にはさらに四つの紙箱が入っていた。それぞれにご主人たちの名前と、小さなメモがついている。
ご主人たちはそれぞれの紙箱を拾い上げ、開けた。
中から現れたのは、ご主人たちの片手で握り込めそうな、球体だった。
サラマンドラとピカさんとおいらが首を傾げる。なんか、どっかで見たような。
ふしやまが呟いた。
「……メガストーン?」
その単語にも、サラマンドラとピカさんとおいらは首を傾げるしかなかった。それは宝石みたいに、ご主人たちの指先でキラキラと輝いていた。
レイアのは、薄紅色の球の中に、黒と赤が揺らめいている。
キョウキのは、薄紫色の球の中に、紫と黒が揺らめいている。
セッカのは、紺色の球の中に、黄と赤が揺らめいている。
サクヤのは、灰色の球の中に、銀と黒が揺らめいている。
不思議な色に煌めいてとても気になるけれど、おいらたちよりその宝石が気になる奴らがいるみたいだ。
ご主人たちは何やら小さなメモを覗き込み、首を傾げ、互いに何やら話し合っていた。
そしてその不思議な宝石を、大事そうに懐にしまった。
それからたっぷり晩御飯を食べ、ご主人たちは歯を磨き、お風呂に入り、そそくさと二階の寝室に戻ってきた。
けれど、お寝間着に着替える様子はない。寝るつもりがないみたいだ、しっかり着物を着て袴にブーツ、さらには葡萄茶の旅衣まで着こんでいる。
サラマンドラとふしやまとピカさんとおいらは顔を見合わせた。
「お出かけかな?」
「違うでしょう。主たちはキナンを出るつもりなのです。これまではどこに出かけるにしろ、旅衣まではご着用でなかったでしょうが」
「あー、そっか。バトルシャトレーヌも倒してご褒美もなんかよく分かんないの貰って、もう用済みだしな」
「あ、じゃあまたあのすっごい速いやつに乗るのかな?」
おいらたちはわくわくとご主人たちを見上げた。
ご主人たちはそれぞれモンスターボールを六つ、きちんと袴の帯の上のベルトに装着して、荷物も持って、そして赤いピアスのレイアはサラマンドラを、緑の被衣のキョウキはふしやまを、セッカはピカさんを、青い領巾のサクヤはおいらをそれぞれ拾い上げる。
そして足音を忍ばせて、おいらたちを抱えたご主人たちはベランダに出た。二階からこっそり脱出するのだ!
すごくわくわくする。
サラマンドラも楽しそうだし、ふしやまも満足げに笑っているし、ピカさんもワクワクして飛び跳ねそうな勢いだし、おいらもサクヤにしっかり捕まえられてなきゃ踊り出したいよ。
みんな、退屈してたんだ。だってご主人たちと出会って旅を始めてから、同じとこに何週間もいるなんて、これまでなかったもんな。
新入り達は、シャトレーヌのポケモンとも渡り合えるほどまでに強くなった。おいらたちもさらに強くなれた気がする。
だからもう、きっと、フレア団とかいうのが来ても大丈夫なのだ。
そういうことだよな。
サラマンドラを抱えたレイアと、ふしやまを抱えたキョウキの二人は、キョウキのプテラ――こけもすの背に乗った。ピカさんを抱えたセッカと、おいらを抱えたサクヤの二人はサクヤのチルタリス――ぼふぁみの背に乗った。
そして二組に分かれ、そっと別荘のベランダを離れた。
ウズとか、ロフェッカとかいうおっさんとか、エイジの野郎は驚くかな?
キナンシティの夜景がおいらたちの下に広がっている。
きらきらと輝いて、まるで宝石をちりばめたみたい。そして空を見上げれば、こちらも見事な星空だった。
駅を目指して、飛ぶ。
そこから列車に乗って――この山奥の牢獄からようやく抜け出せるんだ。
そしてまた、自由な旅を。