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  [No.1469] 四つ子とメガシンカ 夜 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/12/20(Sun) 19:01:44   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子とメガシンカ 夜



 潮騒の聞こえる、海割れの道を四つの影がそろりそろりと渡っていった。溺れそうな海のにおいがした。
 シャラシティは夜の海に抱かれている。
 並の崖に打ち寄せる音が、夜のしじまに轟く。
 光源は空の月、雲の切れ間の微かな星明り、そして四人の先頭を行くレイアの抱えるヒトカゲの尾の灯火ばかり。それも闇を払うには不十分で、キナンの光溢れる祭の空気に慣れた四つ子にはまどろっこしい。五間ほど先は闇。ただ海の先にそびえる砦だけはその威圧感も露わに、海のように立ちはだかっている。
 湿った砂をブーツの底で踏み、夜の海を眺めながらシャラシティの北へ。海は闇だった。砕ける月光を飽き足らず飲み込み、四つ子の足元へ黒い波を投げる。
 波。
 砕けた波の音。
 湿った砂を踏む四人の足音。
 ピカチュウを肩に乗せたセッカがのんびりと呟く。
「なんかさー、すげぇなー」
「何が」
 無感動に返事をしたのは、ヒトカゲを抱えたレイアである。
「だって、シャラにこんなとこがあったなんてなー」
「てめぇは本気でシャラサブレにしか興味なかったんだな……」
「そーそー。前に来たときは、こんな塔があるなんて気づきもしなかったもんなー」
「……マスタータワーは、ポケモンのメガシンカに関わりのある建物らしい」
「ポケモンの目が進化?」
 セッカがのんびりと聞き返すと、ゼニガメを抱えたサクヤは顔を顰めた。
「メガシンカ、だ。進化を超えた進化。プラターヌ博士の研究テーマだろう?」
「僕らもメガシンカのために、今マスタータワーに向かってるんだよ? セッカは何をするかも分からないままここに来たの?」
「れーやときょっきょとしゃくやが行くから、俺も来ただけだもん」
 セッカはぷーと頬を膨らませる。そして急にぐりんと、フシギダネを頭に乗せたキョウキを振り返った。
「俺らも目が進化すんの!?」
「メガシンカするのは僕らじゃなくて、僕らのポケモンだよー」
「えっ!」
「えっ?」
「なに茶番やってんだよ、お前らはよ……」
 レイアが振り返り、呆れたような声を出している。ヒトカゲもその腕の中できゅきゅきゅと笑っていた。
「キナンでバトルシャトレーヌ倒して、んでウズから巻き上げたのが、どうもメガストーンぽいって話になったろうがよ」
「ねえれーや、目がストーンってどういうこと!? この石って目なの!!?」
「――目が石なわけねぇだろうが! ほんっとどういう目と耳してんだてめぇはよ! 病院に突っ込んだろうか!! 海に突っ込んで海水で洗浄するぞてめぇ!!」
「ぴゃあああー! やめてぇー! いじめないでぇー!」
「静かにしろよお前ら」
 サクヤの冷静な一言によってレイアとセッカは口を噤んだ。サクヤに従わないと拳や蹴りが飛んでくるのだ。
 海上の砦には巨大なアーチ状の門、その先には広大な階段が広がっている。ポケモンリーグに劣らぬ威厳。
 海の中に構えられた壮麗なその砦は、マスタータワーだ。赤茶の煉瓦造り、大理石の装飾。いくつもの尖塔。正面の巨大な塔の装飾はどこか時間を司る神の爪に似ている。
 マスタータワーは闇に沈んでいた。外壁に灯り一つ掲げていない。四つ子の訪れた時間が遅すぎるためかもしれないが。
 黙々と大階段を登りつめれば、正面の巨塔内のホールには光が満ちていた。
 四つ子はそこに足を踏み入れた。
 その時だった。

「……あっ」
 少女の声がした。
「あ――?」
「わあ――」
「ぴぎゃあああああああああ――!」
「わっ――」
 四つ子はローラースケートに次々とはね飛ばされていった。


 セッカがよろよろと床に手をついたまま、ぴゃいぴゃいと泣き叫ぶ。ピカチュウも床に降り立って盛んに鳴きたてた。
「いったぁぁぁい! 痛いもんっ! ひどい!!」
「ぴぃかー! ぴかぴかーっ!!」
「ああああああ、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいっ!」
 そして死屍累々とする四つ子の前に、ローラースケートの少女が手と膝をついた。
 さらに老人の怒号が響く。
「こらあコルニ! だから前をよく見いとあれほどゆっとるだろうがー!」
「ごめんなさいおじいちゃん!」
 ヒトカゲが涙目でレイアの肩を揺すり、フシギダネがキョウキの頭を鼻先でつつき、ゼニガメがサクヤの黒髪を引っ張りまくっている。レイアは腹部を押さえて床に倒れたまま呻き、キョウキはうつ伏せに床に潰れたまま微動だにせず、サクヤは床に座り込んで深く項垂れている。
 セッカはボロボロ泣きながら、ローラースケートの少女に向かって喚いた。
「ひどいもん! 死ぬかと思ったもん! 弁償しろ!」
「ごめんなさい! ……って、あれ? あなた、レイア……だっけ? あれ……キョウキだっけ……あれ、サクヤな気も……?」
「俺はセッカ! れーやはあっち! きょっきょはそれ! しゃくやはこいつ! 俺たち四つ子!」
 セッカはずびしずびしとそれぞれの片割れを指さした。そして痛みをこらえ、ぼろぼろ泣きながら立ち上がって喚きまくる。
「もうなんで、目が進化するかと思ったのに、なんで撥ね飛ばされなきゃなんないわけ! 何なの修業なの!? 俺らに何をさせたいの!」
「メガシンカ、じゃと? ほう、どこでそれを耳にした」
 その老人の声に、セッカは泣きながら顔を上げた。
 眉毛の特徴的な老人が、ホール中央の巨大な銅像の台座に作られた部屋の中から歩み出てきていた。
 セッカは嗚咽し、洟を啜り上げる。老人を涙目で睨んだ。
「……じーちゃん、誰……?」
「人呼んで、メガシンカおやじ。こっちのシャラシティジムリーダーのコルニは、わしの孫じゃ」
 メガシンカおやじはそう言いつつ、傍らのローラースケートの少女の肩を軽く叩いた。
 セッカは涙も拭かずに、じとりとその少女を見やる。
「……あんた、ジムリーダーのくせに、俺らのこと轢き殺しかけたんだね?」
「ごめんなさいってばぁ!」
「ごめんじゃすまないもん! ジムリーダーならさ、あれだよ、ウルップさん見習えよ!」
「うう……だってぇ……謝ったじゃん、許してくれたってよくない?」
「ごめんで済んだら世界は平和だもん! ふーんだ! ひどいもん! ジムリーダーのくせに、若いトレーナーいじめるんだ!」
「ちょっと、何それ!? 言いがかりもほどほどにしてよ!」
「言いがかりじゃないもん! そっちが悪いんだもん! 俺らが怪我したんだもん!」
「ぐう……」
「こらコルニ、そのぐらいにせい。この者の言う通り、お前が客にぶつかっておいた上に、お前はジムリーダーなのだ。ジムリーダーたるもの、他のトレーナーの模範たるべく……」
 セッカとコルニの口喧嘩の間に、コルニの祖父が割り込んでコルニに説教を始める。威厳のあるお爺さんだとセッカは思った。
 コルニは不満そうに眉根を寄せた。
「だっておじいちゃん、あたしは何度も謝っ……」
「言い訳するでない!!」
 老人の怒鳴り声に、コルニはおろかセッカまでも、ぴいと首を縮めた。
「大事なのは言葉ではない、心! 本当に申し訳ないと思う心があるならば、そのような幼い言い訳もせんはずだ!」
「ううー……」
「コルニのじーちゃん、こええー……!」
「……でしょ? だよねだよね、なにもここまで怒んなくてもいいよね?」
「ほんとコルニのじーちゃんこええな!」
「でしょ!」
「マジでそれな!」
 そしてメガシンカおやじが怖いという点で、セッカとコルニは意気投合した。


 マスタータワーの内部は、巨大な吹き抜けになっている。
 その中央にそびえるのは、これまた巨大な銅像。コルニがそれを見上げ、セッカの視線を導く。
「この像がメガルカリオだよ。昔この地にやってきた人がルカリオを連れていて、そこでキーストーンとメガストーンを発見して、初めてのメガシンカが起こったんだ!」
「……目がルカリオ? え? え? どういう意味?」
「ちょっとセッカ! メガルカリオは、メガシンカしたルカリオでしょ!」
「……目が進化したルカリオが、目がルカリオなの? え、何も変わってなくね?」
「ぜんっぜん違うに決まってるじゃん! メガルカリオって、すぅっごく強いんだよ! くうー、あたしも早くルカリオをメガシンカさせたい!」
 コルニとセッカの話はまったく噛み合わなかった。
 その二人をよそに、ようやく起き上がった緑の被衣のキョウキが、フシギダネを腕に抱えてメガシンカおやじにようやく挨拶した。
「はじめまして、メガシンカおやじさん。僕はキョウキ、そしてこちらがレイア、この子がサクヤ、そしてお孫さんとすっかり意気投合しているあちらの馬鹿がセッカです」
 メガシンカおやじはキョウキに視線を合わせてゆったりと頷き、その挨拶に応えた。
「ふむ。こんばんは。では、このマスタータワーを訪れた要件を伺おう」
「メガシンカについてお伺いしたいのですが」
 起き上がったサクヤがそう問うと、メガシンカおやじはそちらを見やり、鷹揚に頷いた。
 威厳を称えた老人はどうやらこのマスタータワーの管理者であるらしい。朗々とした声で、求めに応じてメガシンカについて語りだした。
「――ポケモンの持つメガストーン、トレーナーの持つキーストーン。ポケモンとトレーナーの絆の力によって二つの石が共鳴するとき、ポケモンは進化を超えた進化、メガシンカを果たす」
 そう重々しく語る。
「我が一族は代々このマスタータワーにて、メガシンカの秘密を守ってきた。心悪しき者に利用されぬよう、正しき者にのみ二つの石を授けてきた」
「つまり、メガシンカするためにはここで何かしらの審査を受けねぇとだめってことかよ? ここはポケモン協会の一機関か何かか?」
 ヒトカゲを抱えたレイアが用心深く問いかける。
 すると老人はレイアを見やり、鼻で笑った。
「ポケモン協会などと。あのような青い組織に組み込まれるほど、我らは軽くはないぞ」
 レイアとキョウキとサクヤは顔を見合わせた。メガシンカおやじはその三人を鋭い眼差しで見据え、語り続ける。
「我が一族は古来より独自に、マスタータワーを訪れるトレーナーの素質を見極め、そして心正しき者にのみメガシンカの極意を伝えてきた。……どうじゃ、興味が出てきたか? おぬしらもポケモンをメガシンカさせたいか?」
 そうにやりと笑って、レイアとキョウキとサクヤの顔を覗き込んでくる。
 三人は再び顔を見合わせた。
 四つ子は現在、メガストーンと思しき石を持っている。ウズから貰ったものだ。
 どうやらメガストーンというのは、このマスタータワーの外でも手に入れることができるものらしい。おそらくキーストーンもだ。
 メガストーンとキーストーンは、自然発生したもののようだった。進化の石のような。
 メガシンカおやじの話を聞く限り、四つ子は後はキーストーンだけを手に入れれば、メガシンカを扱えるようになるのかもしれなかった。
 サクヤが老人に尋ねた。
「……キーストーンは、どこで手に入りますか」
「さてな。山奥からひょっこり見つかるかもしれん。我が一族は長い時をかけ、野山を巡り、二種類の石を探し求めてはこのマスタータワーに収めてきた。……すなわち、このマスタータワーにもキーストーンはいくつか収められておる」
 レイアとキョウキとサクヤはメガシンカおやじを凝視する。
 メガシンカおやじは三人の目を覗き込み、ますます笑みを深めた。
「ポケモンをメガシンカさせたいか。ふむ……その様子じゃと、メガストーンらしきものは既に手に入れたというところか? ふむふむ……強さを欲しとる目だな?」
 マスタータワーの守護者の目は確かのようだ。ほんの数分で四つ子の望むもの、この場を訪れた目的を見定めてしまった。
 その観察眼は、確かに尊敬に値する。
 レイアとキョウキとサクヤは改めて継承者を見つめ、素直に囁いた。
「……俺らは、狙われてんだ」
「僕らは何も悪くないのに、僕らを傷つけようとしてくる敵がいるんです」
「その敵を退けるために力を求めることは、間違っていますか?」
 その三人の訴えを、老いた継承者は目を伏せて頷きながら聞いていた。そしてじろりと四つ子を眺めまわし、口を開いた。重い言葉が漏れる。
「自力救済は現代において、望ましいことではない。……しかし確かに、善悪は正しく見極めねばならんな」
 メガシンカおやじは巨大な銅像を背に、そう静かに告げた。
「それでもじゃ。――おぬしたち自身の幸せだけを願ったところで、それではフレア団と何も変わらぬということを、よくよく心に留めおくがいいぞ。四つ子のトレーナーよ」
 一方のセッカとコルニは、未だにメガシンカの見解の相違について恐慌をきたしていた。



 夜も遅いということで、四つ子はマスタータワー内の客室を与えられた。吹き抜けの外縁の坂を上るさなかの一部屋に四つ子は入った。
 ヒトカゲとフシギダネとピカチュウとゼニガメがようやく四つ子の手から解放されて、思い切り部屋を走り回る。もう夜もだいぶ更けたというのに元気なことだ。
 四つ子は室内を検分した。簡素な四つのベッド、机、鏡、椅子、本棚。ガラスの嵌められた窓からは、果てしない滄溟と、マスタータワーから南に伸びる道、そして夜空の下で輝くシャラシティが臨めた。
 それから四つ子はベッドに腰を下ろす。走り回る相棒たちを眺める。
 キーストーンを求めた四つ子に対するメガシンカおやじの反応は、非常に曖昧だった。このマスタータワーにキーストーンの用意があることを明言しつつも、四つ子にそれを授けるかについては茶を濁していた。そしてもう夜も遅いと諭され、客室に押し込められたのだ。
 メガシンカおやじの孫のコルニは、まだメガシンカを極めるための修行の途中であるらしく、彼女自身も未だにメガシンカは使えないという。なのでキーストーンを授けるか否かの決定権はコルニにはないのだ。
 メガシンカおやじに認められなければ、四つ子はメガシンカを扱うことはできない。
 四つ子は、メガシンカを、一応は望んでいる。
 それは一つには、キナンでウズから与えられた、実家の父親からの生まれて初めての贈り物だというそれが、メガシンカの鍵を握るメガストーンだったからというのもある。
 また、フレア団やポケモン協会に狙われている恐れがあるからというのもある。
 他にも、単純にバトルで強くなれば、賞金を稼ぎやすくなるからというのもある。
 四つ子にとって一番重要なのは何だろうか。一つめの理由はほとんど四つ子にとっては重大な価値を持たなかった。二つめと三つめの理由は四つ子にとって大事な問題だったが、わざわざメガシンカに頼らずとも安全と金銭は贖えるようにも思われる。どうしてもメガシンカにこだわることの理由にはなっていなかった。
 心からメガシンカを欲する気持ちは、四つ子にはない。
 だからなぜメガシンカが必要なのかと問われると、どうにも答えられなかった。

「コルニはさー」
 セッカがベッドにごろりと転がって呟く。
「ポケモンと一緒に強くなるのが嬉しいって言ってたよ。グッとくる、ってさ」
「……メガシンカはトレーナーがいなければ不可能だ。確かにメガシンカをすれば、ポケモンから必要とされているような感覚には浸れるだろう」
 青い領巾を袖に絡めたサクヤもまたごろりと転がる。続いて緑の被衣を頭から被ったキョウキもころんと転がった。
「自己承認欲求は満たされるかも、だね」
「ポケモンに認められて、そんなに嬉しいもんかねぇ」
 赤いピアスのレイアが最後にどさりと倒れた。
 四つ子はぎしぎしいうベッドの上をごろごろ転がった。
「俺らのポケモンは俺らのこと認めてくれてる。なら、これ以上特別な絆とか要るかね?」
「正直、僕、特に何も考えずにここ来ちゃったんだよね。コンコンブルさんもなんだか、あんまりすんなりとはキーストーン渡してくれそうにないし。僕らには素質とやらがないのかもね」
「……こんぶ?」
「コンコンブル。先ほどのご老体の名だ」
「昆布の佃煮食べたい!」
「ま、メガシンカ使えるトレーナーは少なくって、そんだけ特別ってこった。ジムリーダーでもメガシンカできないらしいぞ? チャンピオンとか四天王級だとよ」
「僕らがジムリーダー級に甘んじるなら、メガシンカは不要だ、と」
「え? え? ……四天王と渡り合うには目が進化した方がいいってこと?」
「セッカさっきからアクセントおかしい」
 ここでようやく片割れたちはセッカに、メガシンカとは目が進化することではないこと、メガシンカのメガはメガドレインのメガだということを教え込んだ。
 セッカは勢いよくバンと簡素な寝台を叩いた。
「――なるぴよ!」
「なんでまた、んな基本的なとこを勘違いするかねぇ」
「でさ、でさでさでさ! なんで佃煮じいさんは俺らにキーストーンくれないわけ?」
「コンコンブルの原形すら留めてねぇな。……それがわかりゃ苦労はしねぇっつーか、このままキーストーン貰うのに時間かかるんだったら、マジで時間の無駄なんですけど。地道に山で野生のポケモンと戦ってる方がまだ強くなれるわ」
「コンコンブルさんは僕らに何を求めてるんだろうね。渡すことすら確約しなかったところを見るに、僕らにはまだ何かが足りないんだよ。たぶん」
「要は、メガシンカ使いたるに相応しいか、ということだろう」
 うーん、と四つ子は唸った。

 コンコンブルは何かヒントのようなことを言っていたかと頭をひねった。
「善悪が何とかかんとか」
「自分のことだけ考えてたら、フレア団と何も変わらないとか何とか」
「どうだセッカ、何か閃いたか」
「ピカさんのこと? ピカさんはいっつもぴかぴか、元気でちゅう!」
 駄目だこれは、とレイアとキョウキとサクヤは溜息をついた。セッカは枕元に飛び込んできたピカチュウをキャッチして、きゃっきゃうふふと頬ずりしている。今日のセッカは馬鹿モードだ。およそ頼りにならない。
 レイアもまた飛びついてきたヒトカゲを抱きしめてやり、その頬をうりうりする。ヒトカゲが幸せそうな声を漏らす。
 キョウキもフシギダネを腹に乗せて微笑む。
 サクヤは頬をつねってくるゼニガメに文句を言った。その甲羅を両手で掴み、リーチの差でゼニガメの悪戯を完封する。ゼニガメはサクヤの顔面に軽い水鉄砲を見舞った。サクヤが鬼の形相になった。ゼニガメは頭を甲羅の中に引っこめた。
 メガシンカとは何なのだろう。
 相棒や、そのほかの手持ちたちとも四つ子はうまくやれている。指示と技とがかみ合い、あらゆる敵を退け、賞金をとる。
 今のままで十分ではないか。
 十分なのだろうか。
 四つ子はどこまで強くなるべきなのだろう。
「……これ以上強くなったらさ、またトキサみたいなことが起きる確率も上がるわけじゃん?」
 セッカが囁いた。
「でも、敵がどれだけ多いかもわからないんだよ。というか、正当防衛なら、トキサさんみたいなことが起こったってしょうがないし、僕らの責任じゃないと思うの」
 キョウキが囁いた。
「どうとも言えねぇな。メガシンカの強さも、敵の規模も分からん。そもそも、フレア団が俺らを狙ってるってのもただの被害妄想かもしんねぇ。何一つ確実じゃない」
 レイアが囁いた。
「その中で何かしらの覚悟を決めるのは難しい。何をしたらいいかすら分からないのだから」
 サクヤが囁いた。
 そこで四人は目を閉じた。夜も遅い。
 微かに波の音が聞こえていた。


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