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  [No.15] 【連載】大長編ポケットモンスター「逆転編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/13(Fri) 16:14:53   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 全ての少年少女に送る冒険物語、ここに誕生!

 バトルとゲットを繰り返し、ライバルとの熱き戦いに明け暮れる。仲間と旅に出て、まだ見ぬ世界を探しに行く。強大な敵を打ち破り、世界を守る……。皆が1度は憧れた夢物語を、今ここに呼び覚ます!

 人物の成長に目を見張れ。戦いの行方に手に汗握れ。怒涛のラストに度肝を抜かせ! 冒険は、ここにある!

 大長編ポケットモンスター第1部「逆転編」、完結。作者:あつあつおでん。

 〜ここまで宣伝〜


どうも、あつあつおでんです。サイト改装で今までの投稿がなくなったので、また1話から投稿させてもらいます。お時間があれば、読んでいってください。
*2011年5月19日より、「大長編ポケットモンスター」のタイトルを「大長編ポケットモンスター『逆転編』」に変更しました。
*2011年10月19日をもちまして、当連載は完結しました。


  [No.16] 第1話「ニュースから始まる物語」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/13(Fri) 16:19:38   203clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「な、何だこりゃ!?」
ある日の夕方、ジョウト地方ワカバタウンの少年ダルマは椅子から転げ落ちた。彼はすぐさま起き上がると、背中をさすりながらテレビにかじりついた。
「では、今回は参加可能な人数が増えるのですね?」
「そうです。今回のポケモンリーグセキエイ大会は、参加可能な人数を従来の128人から倍の256人に増やします」
テレビ画面の向こう側では、メモをしている記者らしき人達に1人の男が話している。赤く、天に向かった髪と、黒マントに黒スーツという黒尽くしの衣装が印象的だ。
「では、増加決定の経緯を教えて下さい」
「わかりました。今までポケモンリーグは狭き門で、やる前から諦める人もたくさんいました。今回の決定はそのような人がいないポケモンリーグを目指すための措置なのです」
「今回の決定による変化はどのように予測されますか?」
「そうですね、1つ目は今まで挑戦したことがない人がチャレンジすることによって、新たな才能を見つけだすでしょう。2つ目はトレーナーが活発に動くことによって町同士の交流が活発化します」
黒尽くしの男からの言葉に、記者達は思わず声を漏らしたり、メモに殴り書きをしていた。ペンの音がテレビ越しに聞こえてくる。「では、これで発表を終了します」
黒尽くしの男は一礼をすると、そそくさとその場を後にした。その映像を見終わったダルマはテレビの電源を切った。すると画面から映像がゆっくりと消えていった。
「これはもしかしたら行けるかもしれない」
ダルマは焦る気持ちを押さえつつ、自分の部屋から出て階段を駆け下りた。目指す場所はリビングだ。
「父さん聞いてくれ! 俺旅に出ることにしたよ!」 ダルマは自分の父に向かって話し掛けた。父はすぐさま振り向き、尋ねた。
「旅だと? この間まで行きたくないと……ははぁ、さっきの番組か」
「そうだよ。ポケモンリーグが開催される。しかも今回は本選に参加できる可能性が高いんだ。こんなチャンス滅多に無いよ!」
一気にまくしたてるダルマをやんわりと止めた父は、窓から暗い空に浮かぶ雲を眺めながら話した。
「それはお前の決めたことだ、好きにしなさい。だがお前は俺の息子だけあって、野心が途中で消え失せるからなあ」
「大丈夫だよ父さん。今回は最後までやりとげる! 安心して待っててよ」
「……そこまで言うならもう何も言わん! 自分の決めたことを貫け!」
「ありがとう父さん!」
ダルマは笑顔で荷物の準備を始めた。その間ずっと笑っていたのは言うまでもない。




翌朝。すっかり荷物の準備を整えたダルマは、リュックサックを背負うと、家の外に出た。
「準備できたか」
腕を組んでいる父に、ダルマは軽く答えた。
「大丈夫だよ。……あ」
「どうした?」
「……ポケモン貰わなきゃ」


その朝、町中を走る親子が見かけられたのはここだけの話である。


  [No.76] お父さんのセリフwww 投稿者:No.017   投稿日:2010/10/23(Sat) 14:25:39   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

感想つけようと思ってあらためて読んでみたら、
お父さんのセリフがものすごかったでござる。


> だがお前は俺の息子だけあって、野心が途中で消え失せるからなあ


クソワロタwwww
この台詞にすべてを持って行かれた。

物事のきっかけというのはまぁいろいろありますけど、だいたいこんな不純なもんです。
私もそうでした。


→すごいポケモンのCGのホームページを見る
→私もこんなん作る!
→で、ホームページってどうやってつくるの?

まぁそんなもんですw

息子にちゃんとつきあってあげるお父さんが素敵です。


  [No.89] Re: お父さんのセリフwww 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 07:17:31   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

感想ありがとうございます!

お父さんの台詞を見てもらえるとは……予想外でした。この作品は某野球ゲームやら某裁判ゲームやらを意識しているので、自然とこんな台詞になったのかもしれません。

またお時間があれば読んでいってくださいね。


  [No.17] 第2話「出発」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/14(Sat) 07:32:49   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

黄金色の朝日が寝呆けまなこのワカバタウンを照らしている。雲は新雪のように白く、澄み切った青色の空によく映える。この町に、ひたすら走る親子がいた。
「しかし、お前もとんでもないものを忘れるな。トレーナーにポケモンは必須だろ」
「仕方ないでしょ、昨日決めたんだから」
走っているのはダルマと父である。ダルマは青空のようなジーンズと真っ白な半袖シャツという旅らしい格好だ。
「ところで、何で父さんまで走っているの?」
「何だ、俺がいちゃ悪いか?せっかくの息子の門出なんだからな」
「よく言うよ、暇なだけでしょ」
このようなやりとりをしているうちに、2人は足を止めた。目の前には田舎町らしからぬ建物がある。表札には「ウツギ研究所」と書かれている。
「よし、入ろう」
ダルマが研究所に近づき、ドアに手を掛けた。
「ウツギ博士、おはようございます!」
「やあダルマ君、おはよう。……今日はお父さんも一緒かい?」
研究所に入ったダルマは、元気良く挨拶をした。答えたのはこの研究所の主、ウツギ博士だ。すらりとした長身で、研究者にもかかわらずそこそこの体格である。
「そうなんですよ、ウツギ博士。うちのバカ息子が急に旅をすると言い出したもので」
「へえ、遂にダルマ君も旅ですか」
ウツギ博士はゆっくりと歩き、近くの戸棚に手を伸ばした。そこには、赤と白が半々に塗られた球状の物が3個あった。
「ここに3個のモンスターボールがあるんだ。ここから君のパートナーを選んでよ、ダルマ君」
博士がモンスターボールを机に置くと、ダルマは飛び付いた。そして、首を左斜めに傾けた。
「じっくり考えると良いよ、大事なパートナーだからね」




「よし、こいつに決めた!」
数分後、ダルマは元気良く叫んだ。彼は右端のモンスターボールを掴んでいた。
「決まったみたいだね」
「で、どんなやつなんだ?」
「……それじゃ、ご対面だ。出てこい!」
ダルマは頬を緩ませながらボールを投げた。ボールは放物線を描き、光を放った。出てきたのは、青い体の半分はあるだろうあごと、背中にある紅葉色のギザギザが特徴のポケモンである。
「ワニノコだね。僕もこいつは最高のポケモンだと思うよ!」
「ありがとうウツギ博士!それとよろしく、ワニノコ」
ダルマはウツギ博士に頭を下げると、ワニノコと握手を交わした。
「……それじゃ、いよいよ出発か。やるからには、最後まで全力を尽くせよ」
父親が息子に最後の伝えると、ダルマの目に火が着いた。
「勿論!じゃあ父さん、ウツギ博士、行ってきます!」
ダルマはもう一度一礼をすると、元気よく研究所を飛び出すのであった。


  [No.25] 第3話「初バトル」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/15(Sun) 07:10:28   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「うーん、思ったより長いな」
ワカバタウンの西に伸びる29番道路。ダルマはそこをワニノコと一緒に歩いていた。この辺りは道路と言ってもほとんど整備されておらず、耳を澄ませば野生ポケモンの鳴き声がいくらでも聞ける。南には海があるのだが、乱立する木々に遮られ、とても見えたものではない。
「この道、こんなに長かったか?地図で見る限り1時間で着くはずなのに」
ダルマは首をかしげながら歩く。それに合わせてワニノコも首を傾けた。既に日は高く、暑さがじわじわと2人を苦しめる。
その時である。突然茂みから1人の少年が飛び出してきた。ツヤのある黒い防止とオレンジ色の半袖が特徴的だ。
「おいそこのトレーナー、俺とバトルだ!」
「バトル?良いけど、始めたばかりだから弱いぞ?」
「いや、その方がかえって都合が良い」
少年は、うっすら汗をかいているダルマを前に目を輝かせた。そしてモンスターボールを手に取った。
「行け、コラッタ!」
少年のモンスターボールからは、紫の身体に先が丸まったしっぽを持つポケモン、コラッタが現れた。コラッタは早くも威嚇をしている。
「よし、初バトルだ。ワニノコ!」
ダルマもモンスターボールを投げ、中からワニノコが出てきた。周りの木々は揺れ、風は草むらを撫でる。
「いくぜ!コラッタ、体当たりだ!」
少年の指示を受け、コラッタはワニノコに向かって突っ込んできた。
「うお、ワニノコ避けるんだ!」
ワニノコはギリギリのところで避けたが、かるく触れたのでバランスが崩れた。
「今だ、電光石火!」
コラッタは素早くワニノコの方を向き直すと、先程の倍以上のスピードで飛んできた。まるで彗星のようだ。この速さには対応できず、ワニノコは蹴散らされてしまった。
「ワニノコ!」
ダルマの叫びに反応して何とか立ち上がったワニノコは、しっぽを振り、牙を剥いた。
「よし、いけるな。今度はこっちの番だ、睨み付けろ!」
ワニノコは目を大きく開き、コラッタに視線を投げ掛けた。その威圧感でコラッタがほんの少し後退りした。
「今だ、ひっかく攻撃!」
この隙を逃さず、ワニノコはコラッタに迫った。コラッタは再び後退りするも、逃げ切れない。そしてワニノコは釣り針のように鋭い爪でコラッタを引き裂いた。コラッタは土煙をあげながら吹き飛ばされた。
「よし、良いぞワニノコ!」
強力な一撃に、ダルマは手応えを感じた。ワニノコもはしゃいでいる。
「……まだまだ!コラッタ、起死回生だ!」
なんと、勝負あったと思われたコラッタが、急にワニノコの目の前に飛び出した。そしてそのまま体重をかけてワニノコへ飛び掛かった。ワニノコは攻撃の勢いで若木に激突した。ぐったりとしているが、まだ動けそうだ。
「くそ、まだ動けたか」
ダルマは少し息を荒げながら呟いた。しかし、息つく暇は無い。
「中々しぶといな。こうなりゃトドメの必殺前歯だ!」
少年は体を前のめりにしながら叫んだ。コラッタは突風のようにワニノコに迫ってきた。
「……今だ、水鉄砲!」
コラッタがワニノコに手が届く距離まで近づいた時、ワニノコはその大きなあごから水の弾丸を放った。その激流のような一発を受けたコラッタは、ワニノコにトドメを刺すことができなかった。
「何ぃ!?」
少年は口をあんぐりと開けながらコラッタをモンスターボールに戻した。対して向こうではダルマが腰を下ろしてワニノコを撫でている。
「ワニノコ、ありがとうな。さっきの一発は凄かったぞ」
ワニノコは頭や首を撫でられて力が抜けたのか、地面に座り込んだ。ダルマはその姿を見るとゆっくり立ち上がり、少年の所に近づいた。
「ありがとう、良いバトルだったよ。えーと…」
「ゴロウだ。お前は?」
「俺はダルマ。今日旅立ったばかりだよ」
ダルマが帽子を取ると、ゴロウ少年は突然こう切り出した。
「何だ、俺と同じじゃないか。なら一緒に行こうぜ、旅は道連れっていうしな!」
「な、なんでそうなるんだよ!」
「気にしない気にしない、それじゃ行くぞ!」
ゴロウの言葉に抵抗をやめたダルマは、元気に進む彼の後を歩くのであった。


  [No.26] 第4話「地下での戦い」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/16(Mon) 07:03:03   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あー、この一杯は身に染み渡るな」

ここはジョウト地方ヨシノシティ。一緒に旅をすることになったダルマとゴロウは、トレーナーの憩いの場であるポケモンセンターにいた。もちろんポケモン回復のためだ。ダルマは豊かな水をたたえるヨシノの海を眺めながら水を飲んでいる。その姿はまるで雑巾のようだ。

そんなダルマを拍子抜けしながら見ていたゴロウは、こう指摘した。

「いや、これくらいでくたびれるか?シロガネ山を越えてきたならまだしもさ。あと言葉が少しオヤジっぽいぞ」

「そこまで言うか」

少し小さくなったダルマが小さくつぶやくと、ゴロウは続けた。

「それより、まだ明るいしちょっとぶらぶらしようぜ」

「……先立つものはあるのか?俺は貸さないぞ」

「……さあて、ちょっと地下でトレーニングするか」

ゴロウは肩をすぼめると、地下のエレベータへと消えた。

「やれやれ、世話が焼けるな」

ダルマは一気に水を飲み干すと、モンスターボールを受け取りゴロウの後を追った。

「おいゴロウ、ちょっと待……て?」

妙に磨かれているエスカレータを下った先の光景に、ダルマは思わず息を呑んだ。なぜなら、そこは異常に広かったからである。

「何だこれは、広すぎだろ」

「おーいダルマ、早く来いよ!」

ダルマの視界の右端から、ゴロウが叫んだ。右端といっても、その距離は随分離れている。なぜなら、地下がホエルオー6匹は入るほど広いからだ。

「ここ、広いな」

「そりゃあ、なんたって街中でのバトルは禁止されたからな。こういう場所が必要なんだよ」

ダルマがゆっくり歩きながらボールを手に取った。それに応じてゴロウも準備する。2人の間に熱気が集まってきた。

「準備は良いかゴロウ?」

「いつでも良いぜ!」

2人がボールを手から放り投げようとした、まさにその時、隣のフィールドから何かが壊れる音が聞こえた。骨にヒビが入ったような音である。

「な、なんだ?今の音は」

「隣のフィールドからだけど……あ!」

ダルマとゴロウの視線の先では、バトルが行われていた。もっとも、既に終わっているようだ。フィールドに隕石のクレーターに似たくぼみがある。その近くには、クレーターを作ったと思われるポケモンが1匹いる。頭と手にはよく磨かれた骨を装備している。

「おい、あのポケモンが音の発生源か?」

「多分な。ありゃ相当パワーがあるぞ」

ゴロウとダルマはしばらくそのポケモンを見ていた。というのも、地下は広いので、声がよく聞こえたからだ。骨のポケモンは、その手に持つ太い骨で伸びをしたり、柔軟をしている。

その時、ポケモンの方向から張りのある声が飛んできた。

「おい、俺に何か用か?」

「ダルマ!こいつ、喋るぞ!」

「……トレーナーが喋ったんだろ」

ダルマのごく普通の指摘に、ゴロウからなにやら声が漏れたが、さっきの声にかき消された。

「で、俺に何か用か?」

「いや、そのポケモンの破壊力が凄くて見てたんだよ」

ダルマが声の主――枯れかけた森のような色のズボンに、黒と白の縦じまが入った半袖シャツの少年である――に説明をした。少年はしばらく聞いていると、急にこう切り出した。

「ところで、お前もトレーナーなんだろ?俺と一勝負しようぜ」

「え、悪いけど遠慮しておくよ。俺じゃかないそうもないからさ」

少年の誘いをやんわり断ったダルマに、次の瞬間予想外の言葉がやってきた。

「ふん、断るか。腰抜けめ」

「なん……だと……?」

「そうさ。そんな言い訳が通用すると思う時点で甘ったれだ。まあ、別に構わねえけどな」

少年は直立不動のダルマにこう吐いた。周囲からは音が消え、ダルマは体を小刻みに震わせている。そんなダルマを尻目に、少年は出口へ歩をすすめた。

「じゃあな、腰抜け」

「……待てよ」

「何だ?さっさと言え」

「そこまで言うなら勝負してやるぜ!俺達の強さを見せてやるよ!」

ダルマは腕を回しながら少年を睨み付けた。もちろん、少年には効いてないが。

「ふん、そう来なくてはな。久々に骨のありそうな奴だし、楽しませてもらうぜ」


  [No.28] 第5話「力の差」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/18(Wed) 22:13:19   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「それじゃ、俺が審判やるけど……あんた誰だっけ?」

審判を買って出たゴロウは、まず少年に名前を尋ねた。

「俺はカラシだ。よろしく頼むぜ、審判さんよ」

少年カラシは、一言こう告げると、ダルマを鼻で笑った。

「ふ、ふん。そ、そんなんじゃ俺はび、びくともしないぞ」

ダルマは何とかこう漏らしたが、体が規則的に震えている。手に持っているモンスターボールが今にも滑り落ちそうだ。

 このような張り詰めた空気の中、審判ゴロウの声が響いた。

「えー、今からダルマとカラシのバトルを始めます!両者1匹のルールで大丈夫ですね?」

ゴロウの問いかけに、2人とも黙って頷いた。モンスターボールを片手に、準備万端といった様子だ。

「では、バトル始めぇ!」

ゴロウの怒号で勝負の幕が上がった。

「いけ、ワニノコ!」

「出番だ、カラカラ!」

2個の紅白のボールが宙を舞い、それぞれからポケモンが出てきた。ダルマのワニノコと、カラシのカラカラである。

「カラカラ、ホネこんぼうだ!」

先手を取ったのはカラカラだ。その手にあるホネを振り上げ、ワニノコ目がけて突っ込んできた。

「引き付けて避けろ!」

これに対しワニノコは、ただひたすら避けるばかりである。だが、しばらくするとカラカラの背中に隙ができた。

「今だ、ひっかく攻撃!」
ワニノコはカラカラの背中に、自慢の爪を食い込ませた。カラカラには見事なひっかき傷ができた。

「よし、良いぞワニノコ!」

ダルマは思わずガッツポーズを取った。ワニノコもおおはしゃぎだ。

「ふっ、そう来なくてはな。カラカラ、ホネこんぼうだ!」

騒ぐダルマを尻目に、カラシは不敵な笑みを浮かべた。それからカラカラにさっきと同じ指示を出した。カラカラが走ってワニノコとの距離を詰める。

「何度来ても同じだ!ワニノコ、もう一度ひっかく攻撃!」

ワニノコはカラカラの攻撃を右に避けて、腕を高らかと振り上げた。その瞬間、ワニノコの左頬にホネが飛んできた。その衝撃で、ワニノコはフィールドの端まで打ち上げられた。

「ああ、ワニノコ!」

ダルマの悲鳴にも似た呼び掛けで、何とか起き上がったワニノコだが、顔の左半分は大きく腫れあがり、息も絶え絶えだ。

「おっと、カラカラの一撃を耐えられるやつなんて久しぶりだな。ま、次は無理そうだが」

「な、何が起こったんだ……?」

あまりに急な展開に、ゴロウは思わず口を開いた。

「おやおや、審判さんには見えなかったのか?仕方ねえ、説明してやるよ」

カラシ小さくため息を吐いて、喋りだした。

「ワニノコが攻撃を避けるのは計画通りだ」

「な、なんだって!」

「ワニノコが右に避ける!カラカラが走り去る!そのすれ違いざまに一発お見舞いしただけのことだ」

「で、でもよ、いくらなんでも強すぎないか?」

「確かに……普通ならな。だが、俺のカラカラは違う。審判さんもよく見てみな」

 問い続けるゴロウに、カラシはカラカラに指差した。よく見ると、右手のホネは普通のものより明らかに太い。

「なんだこれ、やけに太いな。これがどうかしたのか?」

「それこそがカラカラの力の源、太いホネだ。こいつがあれば、カラカラの力は普通の倍になる。これなら説明つくだろ?さて、そろそろ終わりにするぜ」

カラシがワニノコをジロリと見ると、それに呼応してカラカラがうなりあげる。

「く……くそっ!ワニノコ、水鉄砲だ!」

ダルマは顔を紅潮させながら叫んだ。ワニノコの口から、激流の如き水の弾丸が放たれた。

「無駄無駄!打ち払え!」
カラカラは水鉄砲にホネを一振りした。すると、あれほど勢いのあった弾丸をアストラブルーの霞にしてしまった。

「食らいな、ホネこんぼう!」

カラカラはいよいよと言わんばかりにワニノコ目がけて駆ける。もはや一刻の猶予も無い。

「こうなったら、ワニノコ逃げろ!」

「な!ダルマ、正気かよ……」

あろうことか、ダルマはワニノコに逃走の指示を出した。動揺の色を隠せないワニノコだったが、主人の命令は絶対である。やむなくフィールド中を逃げ回り始めた。

「……話にならねえ。必殺の技をお見舞いしてやれ」

カラカラは命令を聞くと、ホネの持ち方をわずかに変えた。そして、ワニノコに投げつけた。

「何だと!ワニノコ避けろ!」

ダルマの叫びも虚しく、ホネはワニノコの背に直撃した。その勢いで、ワニノコは白目を剥いて倒れた。飛んできたホネはというと、長い楕円を描いてカラカラの手に収まった。

「そこまで!このバトル、カラシとカラカラの勝ち!」

勝負あった。結果はカラシとカラカラの圧勝だ。

「こ、ここまで歯が立たないなんて……」

ダルマはしばし呆然とし、膝をついた。そこに地下を出る準備を終えたカラシが近づき、こう言い捨てるのであった。

「やっぱり腰抜けだったな」


  [No.29] 第6話「初の捕獲」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/20(Fri) 18:55:52   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「おーいダルマ、待ってくれ〜」

ここは30番道路。ヨシノシティから北に伸びるこの道では、トレーナー達が互いに切磋琢磨し、野生のポケモンがあちこちで見られる。もう昼なのか、太陽も高く登っている。

そんな場所で、ダルマはただひたすらに草むらを掻き分けていた。目は少し血走り、手には切り傷がある。彼はゴロウの呼び掛けにもほとんど反応が無い。

「こんなことになるなら、あんなこと言わなければ良かったよ」

ゴロウは愚痴をこぼすと、ダルマの方へ走っていった。




時は数時間前、朝のポケモンセンターである。カラシに完敗して一夜、ダルマは腕を組んでなにやら考え事をしていた。

「なあ、俺はなぜあんなにてひどくやられたんだ?」

「え!うーん、そうだなあ」

ゴロウの目が泳いでいるのも気付かずにダルマは思索にふけっている。彼はベンチに座っているのだが、足を開き、両肘を膝に乗せ、手を絡ませ、前のめりにな状態だ。

「それにしても、あのパワーは凄かったな。ポケモンも見た目によらないんだな」

ゴロウがこう讃えると、ダルマは拳に力を入れた。

「で、結局俺には何が足りないんだ?」

「足りないものねえ……うーん、ポケモンの数じゃないか?1匹じゃ相手が強い時に不利だしなあ」

ゴロウは明後日の方向を見ながら呟いた。その姿はいかにもおどおどしい。

「なるほど、確かにそうだ!もっと数がいれば必ず勝てるな」

ダルマはゴロウの言葉を注意深く聞くと、こう言いだした。

「そうと決まれば、早速ポケモンを捕まえに行くぞ!」

「お、おい、準備がまだ……行っちまったよ」

ダルマは既に準備していた自分の荷物を背負ってポケモンセンターを出ていった。ゴロウはそんなダルマにため息をすると、自分の準備を始めたのであった。




「しかしまあ、今日は怪しいほど野生ポケモンがいないな」

炎天下の中、ゴロウはあきれたようにつぶやいた。彼が言う通り、水の中はともかく、地上にはポケモン1匹いない。ただ、鳴き声だけは振動が伝わってくるくらい聞こえてくる。

「はあはあ……どこにもいないな。今日は厄日か?何も出てこないぞ」

息を切らしながら草むらを進んでいたダルマであったが、近くにあった若木にもたれかかった。彼の額の汗が露のように頬を伝わり、その頬にそよ風が当たっている。木漏れ日は決して弱々しいものではなく、木陰を突き刺す。また一部に変わった形の影ができている。

「ふう……ゴロウが来るまで待つか」

ダルマは小さく見えるゴロウを見ながらリュックから水を取り出して飲もうとした。その時、どこかから声が響いた。

「ダルマー!上、上!」
叫んでいるのはゴロウだ。息を切らせ足元がふらつきながらも、ダルマの頭上を指差した。

「何だ?上を指差してるぞ。一体何が……あ」

ゴロウの指差す方向に目をやったダルマは、途中で言葉が止まった。彼の目線の先には、巨大な数珠が連なったようなポケモンがいた。ポケモンは木の枝にしがみつきながらダルマを見ている。まるで木に擬態しているようだ。

「このポケモンは、確かビードルだったかな?何にしても、ようやくポケモンを見つけたぞ!」

ダルマは腰からモンスターボールを取ると、枝にしがみつくポケモン、ビードルに向けて放り投げた。

「行け、ワニノコ!」

モンスターボールから出てきたワニノコは、枝につかまってビードルをにらみつけた。ビードルも負けずに頭のトゲをワニノコに向ける。

「ワニノコ、枝を揺らすんだ!」

ダルマの指示のもと、ワニノコは体重を使って枝を揺らした。枝はムチのようにしなり、木の葉がひらひらと舞い落ちる。だが、ビードルはこの程度ではまるで落ちなかった。

「くそぅ、これじゃ駄目か。なら水鉄砲だ!」

ワニノコは揺らすのをやめ、枝の動きが止まったところで水鉄砲を撃った。至近距離だったので、弾丸はビードルに直撃した。ビードルは目を白黒させながら、地面に落下した。

「よし今だ!モンスターボール!」

ダルマは勢いよく空のモンスターボールを投げつけた。ビードルは紅白の弧を避けることもできず、ボールの中に吸い込まれた。1、2、3、とボールが揺れる。ダルマが固唾を飲んで見守る中、ボールの揺れは止まった。

「よし、ビードルゲットだ!」

初のポケモンゲットに、ダルマは喜び勇んだ。顔に滴る汗が輝いている。

「お!ゲットできたみたいだな」

「ああ、これで奴にも勝てるぞ」

ここで遅れてきたゴロウが合流した。祝福の言葉をかけたが、ダルマの反応に言葉が詰まった。

「じ、じゃあそろそろ行こうぜ。次の街にはポケモンジムもあるしな」

「そうだな。よし、行こう!」

ダルマはワニノコをボールに戻すと、鼻歌混じりに歩きだすのであった。


  [No.78] ゲーム中に出ない表現がよい 投稿者:No.017   投稿日:2010/10/23(Sat) 14:37:29   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

> 「ダルマー!上、上!」
> 叫んでいるのはゴロウだ。息を切らせ足元がふらつきながらも、ダルマの頭上を指差した。
>
> 「何だ?上を指差してるぞ。一体何が……あ」
>
> ゴロウの指差す方向に目をやったダルマは、途中で言葉が止まった。彼の目線の先には、巨大な数珠が連なったようなポケモンがいた。ポケモンは木の枝にしがみつきながらダルマを見ている。まるで木に擬態しているようだ。

この場面いいですね。
何がいいって、ゲーム中では省略されてる表現だからです。
実際この手のポケモンってこういう発見のされかたされるんだろうなぁって。
数珠が連なったようなポケモンっていう表現もグッド。


> 「ワニノコ、枝を揺らすんだ!」

不覚にもここでやられたww
しかし間違っていない!ww まさしく正しい方法です。
枝をゆっさゆっさとゆらすワニノコって結構萌える。


> 「よし、ビードルゲットだ!」
>
> 初のポケモンゲットに、ダルマは喜び勇んだ。顔に滴る汗が輝いている。
>
> 「お!ゲットできたみたいだな」
>
> 「ああ、これで奴にも勝てるぞ」

そして相変わらず気の早いダルマ君であった。


  [No.30] 第7話「ぶつかって、連れ去られて」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/21(Sat) 20:55:24   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ダルマ、着いたぞ!キキョウシティだ!」

ゴロウの呼び掛けに、ダルマが上を向いた。昼間にもかかわらずくまができている。もっとも、炎天下の中ノンストップで進んだせいだが。

「やっと着いたか……ポケモンセンター行こう」

ダルマは少し右に視線を向けた。その先には、旅のお供であるポケモンセンターが見える。街の入り口に配置されている親切設計だ。






「あ゛あ、うまい!」

ダルマはポケモンセンターに入り込むと、すぐにポケモンを預け水飲み場へと走った。それからこの調子である。

「おいおい、やっぱオヤジみたいな口調じゃねえかよ」

ゴロウは遠くからダルマを見て、こうこぼした。おやつの時間のせいか客は少ないが、ほとんどはダルマに反応していた。

「おいダルマ、これからどうするんだ?」

近づいてきたゴロウの言葉を聞き、ダルマは一息入れた。

「うーん、夜まで結構時間あるしな。確かこの街にはジムと何かの塔があるんだよな?」

「マダツボミの塔だな。ダルマは少し修業してくれば?俺は先にジム行ってくる」

「何を言ってるんだお前は、俺に決まってるだろ」

ここでしばらく沈黙が続いた。わずか10秒程度だが、とても長い。

「じゃあ、じゃんけんで決めるか」

ふと、ゴロウが口にした。ダルマもその気なのか、相手の手を読むポーズを取っている。

「よしいくぞ、じゃんけんぽん!」





「じゃあ俺はジムに行ってくる。ダルマは修業頑張れよー」

こう言い残すゴロウを、ダルマはポケモンセンターで見送った。その後、ダルマも大きな荷物は預けて北へと向かった。

「ええと、マダツボミの塔はこの道をまっすぐに行けば良いのかな?」

ダルマは手持ちのタウンマップを開きながら進む。その姿は、旅慣れない旅行客そのものである。

「お、あの高い建物か。よし行くか」

目的地の確認すると、マップを収めて走りだした。その矢先、彼の額と誰かの額が激突した。

「きゃあっ!」

「うおっ!?」

条件が良かったのか、お互いしりもちだけで済んだ。ダルマは腰をさすりながら立ち上がり、ぶつかった相手に声をかけた。

「すいません、大丈……夫?」

ダルマは絶句した。もちろんみずからの行いを悔いたわけではない。普段良い加減の彼が真顔で相手を見ている。怪我をしているわけではない、非常に綺麗なのだ。

相手は女の子だ。まず目につくのは少しクセのある首までのセミショートの髪。色は濃いめの紅茶色といったところか。そこから、アクアグリーンの瞳にオレンジのパーカー、白いミニスカートに、か細い手足を際立たせるブラックのスパッツと続く。

その女の子は、すぐさま立ち上がると、素早く頭を下げた。

「す、すみません!急いでいたので……ごめんなさい!」

女の子はダルマに謝ると、走って東の方向に向かっていった。その姿を、ダルマはしばし呆然と眺めていた。

「何だったんだ?何だかむなしさだけが残るな……」

ダルマはどこか釈然としない顔だったが、再びマダツボミの塔目指して歩きだした。その時である。

「はーいそこの君ー、ちょっと良いですかー?」

「な、何ですか?」

ダルマの目の前に1人の男が現れた。腰周りがやけに太っており、背広を着ている。

「あなたトレーナーですね?ジムリーダーには勝てましたかー?」

「え、いやまだですけど」

「それはいけませんねー!勝てるように私の塾で勉強するでーす」

「待った!俺はまだ決めてな……ぐお、やめろー!」

ダルマは怪しげな男に腕を掴まれ、マダツボミの塔とは別の方角へと連れて行かれた。男は高速で回転しながら移動するので、ダルマは旗のように振り回されていた。


  [No.31] 第8話「2つの顔を持つ少女」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/23(Mon) 20:25:08   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「着きましたよー、ポケモン塾でーす!」

連れ回されること5分、怪しげな男はとある建物の前で歩を止めた。その建物は、いかにも古風な木造である。普通の家の3倍ほどの広さで、中々客入りは良さそうだ。

「さあ、中に入ってくださーい」

男は建物の引き戸を開けると、ダルマを中に入れた。中は外観以上に古風だ。まずチョークの匂いが黒板からやってくる。次に鉄パイプと木でできた机と椅子。そして鉛筆で筆記をする音である。電子黒板ことブラックボードにデスクチェアやテーブル、タッチパネル式の携帯教材の時代と比べると、明らかに時代遅れと言わざるをえない。

「では、そこの席に座ってくださーい」

「……はい」

ダルマは何とか声を絞りだし、男の指差した席に向かった。席の隣には誰かがいる。教室を見渡す限り、唯一の生徒だ。

「すいません、ちょっと隣失礼しますよ……あ!」

「はいどうぞ……あ!」

ダルマは思わず声を上げた。生徒も声を上げた。なぜなら、互いに顔を見たことがあったからだ。

「君、確かさっき俺とぶつかった人だよね」

「ええ、そうです。すぐに去ってしまってすみません」

「いや、別に良いよ。ところで名前は?俺はダルマ、旅のトレーナーだ」

「私はユミと言います」

ダルマと生徒ユミは、互いに頭を下げた。

「そろそろ良いですかー?」

ここで怪しげな男が話に割り込んできた。ダルマは怪訝な顔で男に尋ねた。

「ところで、あんたは誰だ?どう見ても怪しいぞ」

「私ですか?そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はジョバンニ、ポケモン塾の塾長でーす」

「……誰?」

「ダ、ダルマ様、ご存知ないのですか?ジョバンニ先生を」

ダルマの反応に不意を突かれたユミは、ダルマに説明しだした。

「ジョバンニ先生はかつてポケモンリーグの常連で、一時は四天王にまで推薦されたんですよ」

「良いのですよユミさん、もう20年も前のことです」

ジョバンニはニコニコしながら話を進めた。彼の顔は、ただのおじさんの顔から、様々な困難を乗り越えた男のものになっていた。

「さて、今日は素晴らしいことに生徒が2人もいますねー。というわけで、ユミさんの卒業試験は2人でやってもらいまーす。場所はマダツボミの塔でーす」

ジョバンニの言葉に、誰も異論はなかった。もともとダルマはマダツボミの塔が目的地であり、今日は暇である。そしてユミは塾の生徒なのだから。

「では行きましょう。遅れないでくださいねー」

そう言うと、ジョバンニは高速で回転しながら教室を出ていった。

「……行くか」

「そうですね」





マダツボミの塔は全国でも数少ない木造の寺だ。塔の中心にある太い柱がマダツボミのように動くことからこの名前がついたらしい。そんな由緒ある塔の中に、3人はやってきた。ダルマもユミもバトルの準備はできている。

「今回の目的は、3階にある秘伝マシンを取ることでーす。それでは、頑張ってくださーい」

ジョバンニの合図で修業は始まった。とはいえ、1階は階段しか無いのだが。

「よし、一気に行くか」

ダルマはそそくさと階段へと向かって行った。そのすぐ後ろで、ユミがダルマの後を追った。

「ワニノコ、ひっかく攻撃!」

「ビードル、糸をはくから毒針だ!」

道中は先頭のダルマがバトルをしていく。野生ポケモンはそこまで強くないのか、ダルマでも楽々倒していける。


30分もしないうちに、3階へとたどり着いた。3階にいるのは、野生ポケモンと1人の坊主だけである。その坊主が近寄りながら2人に話し掛けてきた。

「トレーナーよ、よくぞここまでたどり着いた!わしはこの塔の坊主じゃ。わしに勝てたら秘伝マシンをやろう」

「これが最後か。ユミが相手してくれ、俺は秘伝マシンいらないから」

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

ダルマの言葉に促され、ユミが一歩前に出る。いつでもバトルできる状態だ。

「おぬしが挑戦者だな!」

「はい、よろしくお願いします!」

「うむ!ではゆくぞ、マダツボミ!」

「頼むわ、チコリータ!」

ユミのボールからは「はっぱポケモン」のチコリータ、坊主のボールからは予想通りマダツボミが出てきた。お互い草タイプである。

「チコリータ、草笛よ!」

バトルはすぐに動いた。チコリータは何やら懐かしい音色を奏でた。すると、マダツボミがいつも以上にふらふらしてきた。

「負けるなマダツボミ!ツルのムチ!」

マダツボミは眠気をこらえてチコリータに攻撃をしかけた。だが、攻撃が届く前に床に伏してしまった。

「一気に行きますよ、はっぱカッター!」

ここでチコリータは、尖った若々しいはっぱを1枚ずつ飛ばし始めた。マダツボミは眠っているので抵抗しようがない。

「オラオラ、さっさと倒れな!」

「な、何だ今の口調は!?」

何ということか、急にユミの口調が変わった。あまりの急変ぶりに、ダルマは目を白黒させながら叫んだ。だが、周りの反応も気にせずユミはバトルを続ける。

「そろそろ捨て身タックルを決めてやりな!」

迫力満点の指示を受け、チコリータは力任せにマダツボミにぶつかった。はっぱカッターの連打でだいぶんダメージを負っていたので、トドメをさすには十分な威力である。マダツボミは気絶した。

「マダツボミ!」

あまりの猛攻に、坊主はこう叫ぶことしかできなかった。

「ぬぬぬ、ホーホーよ、出番じゃ!」

坊主はマダツボミをボールに戻し、ふくろうポケモンのホーホーを繰り出した。

「スキあり!毒の粉!」

なんと、チコリータはホーホーが出てきた瞬間毒の粉で狙い撃ちをしかけてきた。ホーホーは避けられるはずもなく、毒を浴びた。

「そこからはっぱカッターで決めな!」

チコリータの攻撃はとどまるところを知らない。再びはっぱカッターを繰り出した。攻撃は隙間なく飛んでくるので、避けることができない。毒のダメージも相まって、ホーホーは急激に体力を削られていった。そして……

「な、なんじゃと……」

結局、坊主はチコリータに攻撃することができずに完敗した。

「す、凄い勢いだな」

後ろで見ていたダルマは終始圧倒されっぱなしだった。もちろん、その理由はバトルの内容だけではない。

「ユミ、強いな。俺なんかよりよっぽど上だ」

「ありがとうございます。今日は少し本気を出してみたんです」

「あ、あれで少し……だと?」

ダルマは話の展開についていけず、最後には笑っていた。

「……挑戦者よ、おぬしの勝ちじゃ。これを持っていきなさい」

ダルマが笑っているうちに、坊主はユミに1枚の薄い円盤のようなものを手渡した。秘伝マシン「フラッシュ」である。

「ありがとうございます。ではそろそろ失礼しますね」

ユミは一礼すると、ダルマと供に塔を降りていくのであった。





「ほほー、上手くいったみたいですね」

「はい、先生のおかげです」

夕焼けで辺り一面燃える中、塔の前でユミとジョバンニ、ダルマは修業の報告をしていた。

「これなら、もう旅に出ても問題ないでしょう。よく頑張りましたねー」

「ありがとうございます!」

「これからはダルマ君と旅を楽しんでくださいねー」

このジョバンニの何気ない一言に、ダルマは食い付いた。

「……あの、『ダルマ君と』ってどういう意味ですか?」

「決まってるじゃないですかー。ユミ君はもう十分な実力があるから旅に出すのですよー」

「それはわかる。だが何故俺と一緒にするんですか?」

「それはですねー、強いといっても1人は危ないですから誰かと一緒に旅するほうが良いのでーす」

「はあ。まあいいか、特に問題なさそうだし。ユミはそれで大丈夫?」

「私は大丈夫ですよ。よろしくお願いしますね、ダルマ様」

ダルマは不器用ながらも、新しい仲間を歓迎した。彼の鼻の下は若干伸び、終始ニコニコ顔である。

「じゃあ、明日の9時にジムの前で集合な」

「はい。ダルマ様、遅れないでくださいね」

2人は明日落ち合うことを決めると、互いに戻るべき場所に戻るのであった。


  [No.32] 第9話「挑戦!キキョウジム前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/24(Tue) 17:20:10   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「な、何だと……もう一度言ってくれ」

「だから、俺は昨日ジムに挑戦して勝った。このバッジが目に入らぬか!」

「やめろ〜〜!」

坊主が早朝の修行を終えるころ、キキョウシティのポケモンセンターのロビーでダルマとゴロウは騒いでいた。泊まっている客はほとんどが朝食の最中であるにもかかわらずだ。

「なぜ……なぜゴロウが勝てたんだ?俺に負けたくせによ」

ダルマはコイキングのごとき目である一点を見ていた。その先には、ゴロウの手中にある翼の形のバッジにあった。

「決まってるじゃねえか、俺が強くなったからだ」

バッジの持ち主であるゴロウは、自信に満ちた顔で答えた。相棒のコラッタも声を出して笑いながら前歯を磨く。

「くそっ、こうしちゃいられねえ。俺は先にジムに行く。ゴロウも後から来いよ!」

ダルマはリュックを背負うと、ポケモンセンターを飛び出したのであった。





「広いなあ、このジムは。あんな場所でバトルするのか」

しばらくして、ダルマはキキョウジムの中にいた。見上げると首を痛めそうなほどに高い足場と、乗ってくれと言わんばかりのリフトが目立つ。

「これは、リフトに乗れということかな?」

ダルマは恐る恐るリフトの真ん中に来た。するとどこかのアトラクションのように急上昇し、止まった。所要時間は1秒以下にもかかわらず、どう見ても10メートルは上昇している。

「あー、びっくりした。けどこれでスタジアムに到着か」

震える足で何とか立ち上がったダルマは、辺りを見回してみた。フィールド自体はなんの変哲もないが、足場のある柱が何本か建っている。そして、ハカマを着た少年が1人。

「よう挑戦者、足の震えは収まったかい?」

「! あんたは誰だ?」

「俺はハヤト、キキョウジムのリーダーだ」

ハカマの少年、ハヤトはダルマの方へ近づいてきた。ダルマは思わず身構える。

「君の名前は?」

「俺?俺はダルマ、挑戦者だ」

「そうか。ではダルマとやら、早速始めよう。手持ちは何匹だ?」

「2匹」

「よし!ならこちらも2匹で勝負だ。覚悟は良いか?」

ハヤトはこう言うと、答えも聞かずにダルマから猛スピードで離れた。そして柱の根元付近で足を止め、ボールを放った。

「行け、ポッポ!」

ボールからはポッポが飛び出した。畑の土の色をした翼に、淡黄色の毛並みがなんとも美しい。

「どうやら後戻りは無理だな……なら、いくぜワニノコ!」

ダルマは帽子を少し上に向けると、ワニノコを繰り出した。戦いの始まりである。

「まずは砂かけだ!」

先手はハヤトのポッポだ。ポッポはそこら辺にある砂を巻き上げ、ワニノコにかけた。ワニノコは腕でそれらを防ぐ。だが、いくらか目に入ってしまった。

「隙あり、電光石火だ!」

ワニノコの動きが止まるやいなや、ポッポは急加速しながらワニノコに突撃した。ワニノコは避けられるはずもなく、ダルマの目の前まで飛ばされた。

「ワニノコ!」

「まだまだ、これからだ!」

ワニノコがまだ起き上がらないうちに、再びポッポが攻撃を仕掛けてきた。

「ワニノコ、真正面から来るぞ!水鉄砲だ!」

「何!?」

ワニノコは素早く起き上がると、水鉄砲を1発放った。ダルマの指示もあり、ワニノコに近づいていたポッポの右翼を貫いた。ポッポはよろめきながら着地した。

「よし、今のうちに砂を落とすんだ」

ワニノコは口から水を出すと、顔を手早く洗った。これでワニノコにかかった砂はあらかた落ちた。

「くっ、中々やるな、ダルマとやら」

「いやぁ、それほどでも……」

ダルマはハヤトの言葉に、無意識に頭を掻いた。ワニノコも頭を掻いた。

「だが、そう簡単には負けないさ。ポッポ、風起こしだっ!」

ポッポは再び飛び上がると、ワニノコに向けて大きく羽ばたきだした。

「ぐおっ、落ちるー!」

突然の大風に、ダルマはあたふたしながら近くの手すりにしがみついた。一方ワニノコは、その足でなんとか踏張っていた。

「これでトドメだ、体当たり!」

ポッポは一旦風起こしを止めると、またまたワニノコに近づいてきた。ずっと踏張っていたワニノコは、急に風が止み、前のめりになっている。

「ワニノコ、ひっかくで迎撃だ!」

ワニノコは態勢を立て直し、ポッポを迎え撃つ。ポッポはよりスピードを上げてワニノコと激突する。

「今だ!1発浴びせろ!」

両者の距離がわずか2メートルほどになった時、ワニノコは振り上げた腕をポッポ目がけて振り下ろした。対するポッポは体の右側に体重をかけてぶつかった。両者は2秒ほど拮抗していたが、最後にはポッポが山なりに吹き飛ばされた。

「やったぜ!」

1匹目を倒し、ダルマは拳を振り上げガッツポーズを取った。

「ぐう、ポッポがやられるとは。ならばピジョン、出番だ!」

ハヤトはポッポをボールに戻すと、すぐさま次のボールを投げつけた。着地地点は柱の上にある足場だ。出てきたポケモンは、ポッポの進化形であり、ポッポより一回り大きいピジョンである。

「さあ、柱の上にいるピジョンに攻撃を当てられるかな?」

「なんのこれくらい。ワニノコ、登るぞ!」

このままでは技が当たらないと判断したダルマは、ワニノコに柱を登るよい指示した。柱はせいぜい若木の幹くらいの太さなので、ワニノコでも登るのは容易い。ワニノコはどんどん柱を登っていく。

「甘いな、泥かけだ!」

ここでピジョンが動いた。そこら辺から泥をかき集め、ワニノコの頭に落としだした。砂より重い泥がどんどん降り掛かり、ワニノコはずり落ちていった。

「畜生、これじゃ登れないぞ」

「まだまだ、フェザーダンス!」

ピジョンの攻撃は止まらない。ワニノコが泥に手間取る隙にワニノコの頭上に飛び降り、綿毛のような羽毛をばらまいた。これによりワニノコは急に動きが鈍った。

「くそっ、なんだこれは!」

「見てのとおり、羽毛だ。敵の動きを鈍らせ、攻撃を大幅に下げる力がある」

思わぬ足かせを受け、先ほどの余裕はどこへやら、ダルマは拳を握りしめた。

「そろそろトドメだ、翼で打つ攻撃!」

ここでピジョンは飛行速度を大きく上げた。空気を唸らせるほどの勢いでワニノコに近づき、自慢の翼を広げた。

「そう簡単にやられるか。ワニノコ、水鉄砲!」

近づいてくるピジョンに一矢報おうと、ワニノコは水鉄砲を撃ち放った。しかし、勢いのあるピジョンの前では大したダメージにならず、霞と消えた。そして、ピジョンの翼はワニノコの腹に叩きつけられた。

「ワニノコ!」

ワニノコは一直線に飛ばされ、フィールド上の柱に激突した。

「……どうやら、これでイーブンみたいだね」

ダルマはハヤトの言葉に返事もせず、力なくワニノコをボールに戻した。

「さあ、次は何を使うんだい?」

「……次はこいつだっ!」

ダルマは2つ目のボールを掴むと、柱の根元に向けて投げつけた。ボールは見事狙いの場所に届き、ポケモンを出した。

「出番だ、ビードル!」


  [No.33] 第10話「挑戦!キキョウジム後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/25(Wed) 20:59:52   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「出番だ、ビードル!」

ダルマの2匹目であるビードルは、柱沿いに出てきた。その上空では、ピジョンが輪を描くように飛びながら獲物を狙っている。

「ビードルだと?あえて苦手なタイプで挑むつもりか」

「いや、単にポケモンが2匹しかいないだけだ」

なにやら感心しているハヤトに、ダルマは即座に突っ込んだ。その間ビードルは少しずつ柱を登っていく。ビードルには強力な吸盤が備わっており、どんな所でも登れるのだ。

「おっと危ない、翼で打ち落とせ!」

ビードルの前進に気付いたピジョンは、翼を広げて急降下した。

「こっちは糸を吐く攻撃!」

対するビードルは口からたっぷりの糸を撃った。だが、ピジョンは軽く身体を傾け避けた。

「今だ、一気に駆け上がれ!」

ビードルは急いで柱を登り、足場にたどり着いた。

「よし、いいぞビードル!……とは言うものの」

ダルマは辺りを見回してみた。ピジョンは相変わらず悠々と飛び回り、ビードルを狙っている。

「これからどうしようかな?」

「……おい、まさか何も考えずに動いたのか?」

ダルマの言葉に拍子抜けしたハヤトは、これ以上言葉が出なかった。

「うーん、ピジョンは速くて技が当たらないからな。……そうだ!」

一方、さっきまで頭を抱えていたダルマは、突然手を叩いた。そしてビードルにこう指示を出した。

「ビードル、他の足場に糸を垂らせ!」

ビードルは別の足場に向けて糸を吐くと、上手い具合に引っ掛かった。そして、口から垂れている糸を自分の足場の角に巻いた。

「よし、これを繰り返せ!」

ビードルは糸を垂らすという単純作業を延々と繰り返した。

「嫌な予感がするな。ピジョン、翼で打て!」

もちろんピジョンもただ傍観するだけではなく、ビードルを止めようと試みた。しかし、ビードルの毒針に妨害され、中々近づくことができない。

「よし、ビードルそろそろ良いぞ」

そうこうするうちに、ビードルは糸吐きをストップした。糸は1つの面を作るほど密に展開され、ビードル程度の重量なら伝うこともできそうだ。

「こんなに撒き散らすとは。これで何も無かったら、ただじゃおかないぞ」

「その心配は無いさ。ビードル、一端下りろ!」

苛立つハヤトをよそに、ビードルはなぜか柱を下り始めた。特に何かを仕掛けようといった様子ではない。

「バカにしやがって。ピジョン、電光石火だ!」

上空で様子を伺っていたピジョンは、今度こそと急降下した。しかし、それが裏目に出た。ハヤトが特に指示を出さなかったため、ピジョンは糸の網をもろにかぶるはめになった。

「し、しまった!」

「ようやく隙ができたな。ビードル、毒針を決めろ!」

ビードルは、糸がもつれてうまく動けないピジョンに近づいた。その距離は徐々に縮まり、ついにビードルの毒針がピジョンに刺さった。ピジョンはみるみるうちに顔が青くなっていった。

「いいぞビードル、その調子だ!」

「まだまだこれから!翼で打て!」

一発を食らったが、ピジョンはしぶとかった。その足でビードルに接近して、翼を無理矢理叩きつけた。虫タイプのビードルには効果抜群である。

「よし、これで俺の勝ちだ!」

ハヤトが今にもガッツポーズを取りそうになった、その時であった。瞬く間のうちにピジョンの身体中に糸が巻き付いた。体重と同じくらいありそうな量の糸である。

「な、何が起こったんだ!ビードルはやられたはず……」

「へへ、これこそが俺の狙いだったのさ」

「何だと?どういうことだ!」

何やら落ち着きがなくなってきたハヤトに、ダルマは話しだした。

「ワニノコが倒されたあの時……フェザーダンスを使ったのはまずかったな」

「フェザーダンス……ま、まさか!」

みるみるうちにハヤトの顔が凍り付いていった。一方ダルマは、勝ち誇ったかのように不敵な笑みを浮かべている。

「本来、フェザーダンスは攻撃力を下げる技。だけど素早さを下げるのにも役立ちそうに見える。なら糸でも同じことができるんじゃないのか?というわけさ」

「な、なんてことだ…」

「これで終わりだ!ビードル、毒針!」

ダルマの言葉で、ビードルは自慢の毒針をピジョンに一刺しした。針はピジョンの胸の下を突き刺した。これが決定打になったのか、ピジョンは抵抗することなく床に倒れこんだ。

「……勝ったぞ!ジム戦勝利だ!」

決着がつくとすぐに、ダルマはビードルの方へ駆け寄った。そこにハヤトもゆっくりと近づいた。

「まさかあの状況であんな戦いをするとは、君はとんでもないやつだな」

ハヤトは苦笑いしながらピジョンをボールに戻すと、懐から何やら取り出した。その形は、さながら鳥ポケモンの広げた翼といったところである。

「これがポケモンリーグ公認のウイングバッジだ。持っていってくれ」

「ありがとうございます」
「……君にはまだまだ成長の余地がある。頑張れよ」

「はい!」

二人はバッジの受け渡しの際、がっちり握手を交わした。それはダルマが一回り大きくなった瞬間であった。


  [No.34] 第11話「アルフの遺跡、ポケモンの謎」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/26(Thu) 19:08:58   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「なんだ勝ったのかよ、期待外れだぜ」

キキョウジムを出たダルマを迎えたのは、ゴロウの皮肉と旅装束のユミであった。

「そいつは悪かったな、期待を裏切って」

ダルマは誇らしげに答えた。右手には手に入れたばかりのウイングバッジが握られている。

「ダルマ様、さすがですわ!」

「いやぁ、それほどでも」

ユミの賛辞に、ダルマは思わず頭を掻いた。もっとも、視線はユミの姿に釘付けだった。昨日のパーカー姿では目立たなかったが、山あり谷ありの非常にスレンダーな体つきで、ダルマが釘付けになるのも無理もない。膝上20センチはあろう、もはやハーフといえないデニムのハーフパンツに、黒を基調としたチェックのレギンス、手首まである藍色のボディシャツ、そしてその上には赤色のTシャツといった出で立ちである。また、履いている旅行用のブーツは新品そのものだ。

「ところで、これからどうしますか?」

ふと、ユミが尋ねた。キキョウシティは様々な道に分かれているのだが、ジム巡りをする際は32番道路を通るのが慣例となっている。

「そうだなぁ、ここからなら南のヒワダタウンが近いかな」

ダルマはズボンのポケットからポケギアを取り出し、地図を眺めた。ポケギアとは、多機能かつシンプルな携帯式の電話であり、今年の期待商品である。

「おいダルマ、ヒワダに行くなら途中にあるアルフの遺跡に行こうぜ!」

「アルフの遺跡?なんだそれ」

ダルマは首を傾げながらゴロウに聞いた。

「アルフの遺跡ってのは、この辺りにある何千年も昔の遺跡のことだ。せっかく旅をするんだ、色々見て回らないともったいないだろ?」

「確かに、それもそうだな。ユミはどう思う?」

「はい、私もとても興味があります。まだ時間も早いですし、良いと思いますよ」

「そうか。それじゃ、行くか!」

こうして、ダルマ一行はキキョウシティの南、アルフの遺跡へと向かうのであった。





アルフの遺跡は、全国でも屈指の謎を抱える場所だ。ラジオで謎の音が発生する、壁に描かれた模様、石板のパズルなど、様々である。一体誰が何のためにこれらを作ったのか、いまだにそのほとんどが解決されてない。

そんな遺跡の東口に、ダルマ達はやってきた。彼らの目の前には、まばらな人の姿や石室が見える。白衣を着た研究者らしき人や、普通の旅人の足音以外は聞こえてこない。ちょうど雪の降る真夜中といったところだ。

「ここがアルフの遺跡か」

「何だか神秘的な雰囲気がしますね」

「これはもうロマンの匂いがするな!」

ダルマ、ユミ、ゴロウは思い思いの第一声を発した。これらもすぐに吸い込まれていく。

「早速回ってみましょう!」

「そうだな、まずはあの中からだ」

ダルマは目の前にある最も広い石室の中へ足を踏み入れた。ユミとゴロウも後に続いた。

「こ、これは!」

3人は中に入った途端、息を呑んだ。まず目に飛び込むのは、壁に隙間なく描かれた模様である。驚くべきことに、この模様は現代の文字とよく似ている。だが、彼らが最も驚いたのはこの程度のことではない。なんと、模様と同じ姿の生き物がいるではないか。

「あの生き物、もしかしてポケモンか?」

「多分な。あんな不可思議な姿なのは違和感あるが」

「そいつらはアンノーンだよ」

突然背後から声が響き、3人は振り返った。そこには、白衣と坊主頭がよく映える男がいた。

「あなたは誰ですか?」

「俺か?俺はパウル、研究者だ。よければ遺跡について説明するが、どうだい?」

「ええ、是非ともお願いします」

ユミが簡単に応対すると、パウル研究員は説明を始めた。

「よし、まずはアンノーンについてだ。アンノーンってのはシンボルポケモンと言われていて、姿が28種類もあるかなり珍しいポケモンだ。主に全国各地の古代の遺跡に生息している」

「え、ここだけじゃねえのか?」

ゴロウがこう聞くと、パウルはすかさずこう答えた。

「そこなんだ、問題は。なぜ別の場所にもいるのか?地方を行き来していた証拠があるのはカントーとジョウトくらい。しかし実際は全く環境の違うシンオウ地方やナナシマでも発見されている。」

「昔は同じ場所だったんじゃないですか?」

今度はダルマが尋ねた。これも即答である。

「確かに陸地は何回か大移動している。しかし、この辺りに人やポケモンが住み着いたのは早くても数万年ほども前だ。その頃はもう大体現在の型になっているんだよ」

ここまで話すと、パウルは頭をかいた。そしてまたしゃべった。

「このままじゃ他に先を越されちまうよ、ハハハ……」

「先を越されるってどういうことですか?」

「いやね、全国にはアンノーン研究会ってのがあって、それぞれが分かれて研究しているわけ。みんな野心があるから、他は少しずつだけど進んでいるらしいんだ。ところがここだけ中々進まないから、いずれ大発見を先に見つけらてしまうだろうさ」

パウルはそう言うと、左上を見た。そこでは「!」によく似たアンノーンが天井に張り付いて昼寝をしている。

「なあ、何か良いアイデアはないかい?若いトレーナーさん達よお」

「うーん、俺にはわからん!後は任せた、ダルマ!」

「おいゴロウ、少しは考えるそぶりを見せろ。……ユミは何か思いついた?」

「え、私ですか?」

「何かないかい、お嬢ちゃん。ほんの少しでも良いからさ」

パウルとダルマ達はユミを見つめた。ユミは首を少し左に傾け答えた。

「そうですね……もしかしたら、モンスターボールで運んだのでは?」

「も、モンスターボール?」

「はい、モンスターボールです」

ややのけぞったパウルを見て、ユミは続けた。

「ポケモンはモンスターボールに入ることができます。では、いつから入ることができるようになったのでしょうか?少なくとも、千年以上前のはずです。もし昔からモンスターボールがあったなら、跡を残さずに移動できるのでは?」

「……なるほど、古代のモンスターボールか」

パウルはしばらくあご髭を触りながら何か考えていたが、やがて口を開いた。

「いやはや、これは中々興味深い意見だ。是非とも参考にさせてもらうよ」

「あ、ありがとうございます!」

ユミは目を輝かせながら、深々と頭を下げた。

「すごいなユミ、こんなに短い間にここまで考えるなんて。探検家でも目指しているのか?」

「はい、実はそうなんです。世界中の宝物に最初に会えるなんて、とても素敵ですから」

ダルマの言葉に、ユミは水を得た魚のごとくいきいきと答えた。

「よーし、では貴重な意見の礼に色々案内しよう。しっかり見ていってくれよ!」

話が終わると、パウルが3人を引き連れ歩きだした。その白衣をたなびかせて。





「今日は色々ありがとうございました」

2時間ほど経った後、ダルマ達はアルフの遺跡研究所の前までたどり着いた。日は既に高く、正午が近いことを告げている。そんな中、ダルマがパウルに礼をした。

「いいってことよ、こちらも助かった。……そうだ!」

パウルはおもむろに腰に装着しているボールを手に取った。

「この中にはポケモンのタマゴがある。お嬢ちゃんにあげよう」

「え、私ですか?」

「そうだ。研究者ってのは中々律儀なんだよ。さあ、受け取ってくれ」

「わ、わかりました。ありがとうございます」

パウルはユミにボールを投げ、ユミは上手くキャッチした。ユミの新しい仲間は、ときどき動くようだ。

「それでは、俺達はこれで失礼します」

「また来るぜ!」

「タマゴ、大事にしますね」

「達者でな!」

皆それぞれに別れの挨拶をし、3人はアルフの遺跡を後にした。1日はまだ始まったばかりである。


  [No.35] 第12話「昔話の始まり」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/27(Fri) 19:08:09   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「うう、意外と長いな……」

「情けねえなダルマ!」

「あ、ポケモンセンターが見えて来ましたよ!」

日が大きく傾く中、影法師となったダルマ一行は海の上に掛けられた橋を渡っていた。キキョウシティの南に続く32番道路は長く、午前中に出発したにもかかわらず、まだまだ道は尽きることを知らない。ダルマは息を切らし、体を揺らしながら歩いている。ゴロウとユミは、さすが若者と言わんばかりに前を行く。

そんな中、地平線の彼方に何やら見えてきた。右手の森、左手の海のどちらでもない。モンスターボールらしきものが点灯している建物がぽつんとあるのだ。

「おい、あれもしかしてポケモンセンターか?」

「モンスターボール印の看板……間違いありませんね」

ゴロウとユミは互いに確認すると、実に軽やかに走りだした。

「おいダルマ!もたもたせずに来いよ!」

「ま、待ってくれ〜」

ゴロウが20メートルほど離れたところから叫ぶと、ダルマはしおれた声で答えた。腹の鳴る音と共に。





ポケモンセンターは全てのトレーナーが利用できる施設である。ポケモンの治療、宿泊、食事など、ここだけで大抵のことができる。それゆえ利用者が多く、街の中心地に建てられる。近頃は地下にバトルのスペースが設けられ、バトル講座なるものも開催されているようだ。

そんなポケモンセンターのロビーにある談話室に、ダルマ達はいた。ダルマは水を飲み、ゴロウはナナの実ジュースで喉を鳴らす。ユミはフエンせんべいとお茶でまったりしている。

「ふう……生き返る」

「おいおい、そんなんじゃポケモンリーグなんて夢のまた夢だぞ!」

「そんなこと言われてもなあ」

ダルマは目線をゴロウから逸らし、窓の外を見た。所々に雲が流れている中、月が弱々しく光っている。もっとも、まだ完全に日が暮れていないからなのだが。

「にしてもここ、今日は俺達しかいないのか?」

「みたいですね」

「まともな道があるのにわざわざ洞窟通る物好きなんていねえからな」

現在、このポケモンセンターにはダルマ達のほか、従業員しかいない。その従業員らも、テレビを見たり本を読んだりしている。そのため、今なら呼吸の音も聞き取れそうだ。

「で、明日はどうするんだ?ダルマ」

「そうだな……ん?」

突然、ポケモンセンターのドアが開いた。そして1人の男が入って来た。男は初め周囲を見回し、それからダルマ達に近づいた。

「おい、あんた達は旅のトレーナーか?」

「そうですけど……どちら様ですか?」

「おっと失礼。俺はサトウキビという者だ、よろしく頼む」

男サトウキビは頭を下げた。彼の身なりは3人の視線を浴びた。藍染めの着流しは所々ほつれている。輝く太陽のような白さの帯も同じような状態だ。足にはわらじを履き、着流しの中から見える胸にはさらしが巻いてある。頭には丈の短い烏帽子を被っている。体には無駄な贅肉が微塵も見受けられない。だが、彼らが最も目を奪われたものは、他にあった。

「ところでおっさん、なんで夜なのにサングラスなんかかけてんだ?」

ゴロウが注目したもの、それは顔にあった。ゴロウは眼鏡と評したが、形はお月様のようだ。レンズは黒く塗られており、奥底に潜む目は見えない。

「おいゴロウ、失礼だぞ!」

「俺は構わねえよ、少年。ところで、名前を教えてもらえるか?」

「名前ですか?俺はダルマです」

「ユミと申します」

「ゴロウだ、よろしくな!」

「ああ、よろしく」

サトウキビは近くにあったソファに座った。そしてこう尋ねた。

「お前達は旅の途中みたいだが、このポケモンセンターを使うとは珍しいな?」

「そうでしょうね。キキョウシティからすぐコガネシティやエンジュシティに行ける道がありますから」

「けど、俺達は物見遊山の旅をしてるわけじゃないんだぜ」

「端から見れば、こんな所に来る方がよほど物見遊山に見えるけどね」

ダルマの一言でゴロウの話が止まった。しかし、そんなことはお構い無く話は続く。

「ではいわゆるポケモン修行か?」

「そんなところです」

「そうか。やはり皆それぞれきっかけはあるのだろう。よければ話してくれないか?」

サトウキビはダルマの方へ顔を向けた。それにゴロウとユミも続いた。

「じゃあ、俺から話すよ」

「待ってました!」

「よし、では頼むぜ」

ダルマは残りの水を一気に飲み干すと、口を開き始めるのであった。


  [No.36] 第13話「ダルマのきっかけ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/28(Sat) 07:08:08   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「一体どうしたのでしょうか、トウサ選手がまだ入場して来ません」

 審判の声がマイク越しに響く。観客達は数万人抱えたスタジアムでどよめいている。スタジアムの中央にはバトル用のフィールドがあり、片方には1人の男がいる。手にはモンスターボールを持ち、向こう側を見ている。だが、そこには雲が流れる青空しかなく、本来いるはずの人はいない。お天道様はいくらか西に傾いて、男を後ろから照らす。

「んー、遅いですね彼も。トイレにでも行ってるのですかねー?」

「仕方ないですね、では5分待ちます。それで来なければ……」

「待った!」

突然、審判の話を遮り1人の男が選手の入場ゲートから現れた。男は息を切らしながら審判の方を向いた。額には大粒の汗が垂れている。

「遅れてすみません……」

「トウサ選手ですね。一体どうした遅くなったんですか?」

審判は男をトウサと呼び、尋ねた。しかし、彼から返ってきたのは沈黙だけである。

「……トイレではないんですかー?」

「え、ああそうだそうだ、トイレで遅くなってしまった。申し訳ない」

トウサは軽くお辞儀をした。ただ、目線は空にある雲を追っている。

「そうですか。では遅くなりましたが、ポケモンリーグ決勝戦、ジョバンニ対トウサの試合を始めます!」

審判が試合開始を宣言した。トウサともう1人の男、ジョバンニはボールを投げた。ジョバンニの1番手はヤドラン、トウサの先頭はスターミーである。

「スターミー、重力だ!」

「ヤドラン、トリックルームでーす!」









しばらくして、スタジアムから物音が消えた。観客は息をするのを忘れるほどにフィールドを見入っている。そのフィールドでは、1匹のポケモンが倒れ、1匹がそのポケモンを見つめている。西日はトウサを真正面から照らしている。

「……そこまで!ただいまの勝負、残りポケモン0対1で、トウサ選手の勝利!」

審判がジャッジを下した途端、観客から一斉に声が放たれた。ある者は勝者を称え、ある者は敗者をねぎらう。またある者は、涙を頬に流した。

「勝ったぞ……すまねえな、みんな。連戦で疲れていたのに無理させて」

大歓声の中、トウサはボールにポケモンを戻した。その表情は、なぜかはかばかしいものではない。腰についたボールを、頭をなでるようにさすっている。

「素晴らしいでーす!まさかあの状態から勝つとは思いませんでしたー」

そんなトウサのもとに、ジョバンニが近づき、右手を差し出した。トウサは静かに右手を出し、固く握手をした。

「ありがとう。だが今回はかなり無理をさせてしまった。喜ばしい勝利とは言えねえ」

「そうですかー、でも今だけは勝負の余韻に浸りましょー」










「……で?それからどうなったんだ?」

ダルマが一通り話し一息つくと、サトウキビが尋ねた。その声に力はなく、やや投げやりである。

「この勝負を見て、当時のトウサ選手の凄さに熱中したんですよ。おかげで対戦相手のジョバンニさんのことはよく知らないですけど。この間会った時も、誰だかわからなかったくらいに」

「なるほどな。ところで、その試合は何で見たんだ?確か20年前のはずだが、お前はそんなに年とっているようには見えない」

「俺が子供の頃『ポケモンリーグ名勝負集』という番組を見たんです」

「そうか。しかし、他にも勝負は見たんだろう?なぜその試合に感動したんだ?」

サトウキビは執拗に問い詰めた。ダルマはだんだん声が元気になってきている。

「当日のトウサ選手は、万全な状態じゃなかったんです」

「どうして?」

「スタジアムに行く途中、強盗に襲われている人を見つけたんです。その人を助けるために戦ったのですが、多勢に無勢。何とか撃退はしたものの、ポケモンにかなりダメージが蓄積されたそうです」

「……」

「その状態で勝った。その力に憧れたわけです。まあ、憧れた割に決心したのは遅いですけどね」

ダルマは笑いながら立つと、空のコップを片手に給水場まで向かって行った。

「おいおっさん!次は俺の番だぜ!」

「……ああ。話してみな、聞いてやるぜ」

サトウキビが上の空になっているので、ゴロウが話し始めた。夜はまだ始まったばかりである。


  [No.37] 第14話「つながりのどうくつ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/08/30(Mon) 19:10:54   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「はっくしょん!洞窟って思ったより冷たいな……」

ここはつながりのどうくつ。キキョウシティとヒワダタウンをつなぐ道である、と言えば嘘になる。正確にはキキョウシティとヒワダタウン、そしてアルフの遺跡をつなぐ天然の迷路である。洞窟ではあるが、山に降る雨水や雪解け水がしみ込むことによって多数の池ができている。

「そりゃ太陽の光がねえからな。ここがひなたならシャツ1枚でも十分だろうよ」

「……あの、サトウキビさん?」

寒風吹き込む中、ダルマが話し掛けた。その相手は、いつもの3人に混じって同行しているサトウキビである。

「どうしたダルマ、金なら貸さないぞ」

「どうしてついてきたんですか?見ず知らずの俺達に」

「随分疑われているようだな俺は」

サトウキビは思い切り笑った。乾いた声が湿った洞窟内にこだまする。

「なんのことはねえ、俺の行き先があんた達と同じだけだ」

「あなたも旅ですか?」

「いや、仕事だ。頼まれた作業が全部終わったからコガネの我が家に帰るんだよ。まあ、ついでに知り合いにも会ってきたんだけどな」

「はあ。仕事って何やってるんですか?」

「そこまで聞くか。……ポケモン預かりシステムのメンテナンスと改良だ」

「預かりシステムって、ポケモンセンターの右端にあるあれですか?」

「まあな。だが、今では預かりシステムは2階のポケモン交換システムも指すんだ。で、交換室の外にあったパソコンを中に移動させていたのさ」

「なるほど、でもパソコンの移動ってそんなに大変なんですか?」

「そりゃお前、一昔前のただのパソコンとはわけが違うんだ。物の転送ができるパソコンは固定されている。俺はこういうことが得意じゃない。だから配線工事からシステムのバージョンアップまで数日かかるんだよ。本当はマサキとかいう奴がやるはずだったんだが……」

ここまで話して、サトウキビは息を大きく吸い込んだ。それから大きく吐き出し、頭を掻いた。

その時突然、右手にある池から何かが飛び出してきた。点々と言うべき目に膝ほどある青藤色の体、それに頬から伸びる薄紫のヒレが特徴である。ヒレは、途中で3本に枝分かれしている。

「あのポケモンは何だ?」

「ありゃあウパーだな。ヒレを見る限り、どうやらメスのようだ」

サトウキビが冷静に解説していると、ウパーはモンスターボールほどの水を飛ばしてきた。狙った先は、意外な人物だった。

「きゃっ!」

「ユミ、大丈夫か!」

水はユミの目の前で四方にはねた。思わずユミが腕を前に出した。それを見て、ウパーはヒレを動かし笑っている。

「イタズラ好きか、良い個体だ」

「あの、それはどういう……あ」

その瞬間、事が動いた。ダルマがサトウキビの言葉に声を発する間もなく、彼の目が1枚の葉っぱを捉えた。葉っぱは一直線に進み、ウパーの頭に直撃。ウパーはしりもちをついた。

「あの葉っぱはまさか……ヤバイな」

「おい、一体どうしたんだ?」

「あ、少し離れた方が良いですよ、危ないですから」

「おいダルマ、もしかしてあのポケモンが怖いのか?」

ダルマが冷や汗を流して半歩後退りしたので、サトウキビがわけを尋ね、ゴロウが冷やかした。だが、2人がダルマの態度のわけを知るのに、言葉はいらなかった。

「オラオラ、ザコはおとなしくしてな!」

 急に聞き慣れない言葉が聞こえたので、3人は声のする方向を向いた。そこには、鬼気迫る少女の姿があった。肩に触れるくらいの髪は逆立ち、頭からは湯気がたっている。

「お、おい。あれはもしかして……」

「見損なったぞダルマ!ユミちゃん以外にも女を作っていたのか!」

サトウキビとゴロウは共に飛び上がった。そしてサトウキビはやや前かがみになり、ゴロウは騒ぎだした。

「……なんでそうなるんだよ、ゴロウ。様子はおかしいが、あれはユミだ」

「な、なんだってー!」

「つまり、普段はおとなしいが豹変するのか?小説の設定みたいだな、あの嬢ちゃんは」

サトウキビは苦笑いしながらユミを見た。ゴロウは腰を曲げて「く」の字になっている。もちろん、今のユミにはそんなことは問題ではない。

「チコリータ、構わねえよ。徹底的にやっておしまい!」

ユミが腹の底から叫ぶと同時に、チコリータは至るところから葉っぱを集め、ウパーに飛ばした。その数や、ウパーが落ち葉の中に埋まるほどである。

「……やや一本調子だが、展開が早い。成長株だな」

「サトウキビさん、こんな時によく状況分析できますね」

「まあ、これが俺の仕事だからな」

ダルマとサトウキビがつとめて冷静に状況を話すかたわら、ウパーが落ち葉の中から這い出た。そしてそのまま背中を向けた。

「あ、ウパーが逃げそうだぞ」

「だな。さて、これはどうなるかな?」

無論、この動きを今のユミが見逃すはずもない。彼女は即座に、モンスターボールを腰に装備したウエストポーチから取り出した。

「甘い、逃がさないよ!」

彼女の渾身の1球は空を裂き、ウパーを弾き飛ばしながらも封じた。ボールは最初こそ抵抗の素振りは見せたが、すぐにおとなしくなった。

「ふう……このアタシから逃げるなんて、100年早い……ですわ」

「……どうやら、落ち着いたようだな」

「あら、どうかしましたか、サトウキビさん?」

「いや、何でもねえ。……周りが見えないからこそ何でもできるってか」

サトウキビは額にうっすら吹き出した汗を手ぬぐいでぬぐいながらこう漏らした。

「そ、それじゃあそろそろ行こうぜ。日暮れまでには出ないとな!」

一段落ついたところで、ゴロウが言った。やや声が引きつっているが、皆気にせず歩き出した。まだ今日という日は始まったばかりである。


  [No.93] 第15話「ヤドンの井戸の悲劇」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 21:04:41   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ふぅーっ!やっと抜けられたぜ。おい見ろよ、ヒワダタウンだ!」

一番星が姿を現しだした時分に、ダルマ達はようやく洞窟から抜け出した。実に1日費やしたことになる。外の程よく乾いた空気に叫ぶゴロウに、ダルマは息も絶え絶えに言った。

「はぁはぁ、おいゴロウ、もう少しゆっくり歩け……。町にたどり着くまでにダウンするぞ、ぜぇぜぇ……」

「心配すんなって!あれを見ろよ!」

ゴロウは前方を指差した。ダルマがその先を見ると、何やら明かりが飛び込んで来た。はっきりとは確認できないが、煙突から登る煙も見える。ダルマからため息が漏れた。

「はぁ……やっと着いたな、ヒワダタウンに」

「えらく時間がかかったもんだ。早いところポケモンセンターに行こうぜ」

「そうですね……あれ?」

ふと右手を眺めると、ダルマは何やら妙な光景に気付いた。開けた空き地にはしご付きの井戸があり、その近くに和装の老人がいる。それだけなら何のことはない。ダルマを引き付けたのは、その老人が井戸のはしごに手足をかけようとしていた光景であった。

「む?誰じゃお前達。これは見せ物じゃないぞ!」

ダルマ達に気付いたのか、老人がはしごにかけようとしていた手足を戻し、怒鳴りながら彼らのもとへ歩いてきた。

「なんじゃ若い輩(ともがら)がこんな時間にほっつき歩いて……なるほど、トレーナーか。おおかた、つながりの洞窟で迷ったんじゃろう?顔に出ておるぞ」

老人は間髪入れずに喋り、皆の腰にあるボールを見ると声を出して笑った。少しして、その声が山びことなって帰ってきた。

「ところでお前さん達、名前は何て言うんじゃ?」

「僕達ですか?僕はダルマです。右隣の落ち着きのない奴はゴロウ、左の女の子はユミです。で、そこにいるサングラスをかけた人がサトウキビさんです」

「ふむ、皆旅のトレーナーのようじゃな。お前さん達、今晩の予定は入っておるか?」

「予定ですか?ポケモンセンターで休むくらいですよ」

「そうか。実はな……」

ここまで言って、老人は1度深呼吸をした。彼の着ている、町の名と同じ樋渡色の着流しに木炭のような黒さの帯は、見事に頭の白髪と調和している。また、小柄だが、袖口から垣間見える腕や足は筋骨隆々としており、物言わぬ圧力がひしひしとにじみ出ている。

「お前さん達、ロケット団を知っておるか?」

「ロケット団?何だか聞いたことあるような、ないような……」

「まあ、そんなことはどうでもいい。ロケット団はポケモンを使って犯罪をしておる集団じゃ。かつてレッドという少年が潰し、その3年後に復活した時も潰されたのじゃが……。懲りないことに、またしても復活しおった」

「そういえば、そんなこともあったな。あれからもう10年くらい経つから、ダルマが知らねえのも無理はない」

ダルマが首を右に傾ける側でサトウキビが呟いた。

「それで、そのロケット団がどうしたのですか?」

「そこじゃ!この町にはヤドンというポケモンがおるのじゃが、最近姿を見せなくなった。そして、入れ替わるかのように黒衣の集団が町に出入りするようになったのじゃ」

「それってもしかして……」

「ヤドンが人に変身したのか!?」

 このゴロウの言葉の直後、季節はずれの北風が光のごとく通り抜けた。ダルマはさりげなくゴロウの足を踏みながら、話を続けた。

「つまり、黒衣の集団がロケット団で、ヤドンをさらったというわけですか?」

「中々鋭いの。10年前も同じことをやってたんじゃ。ヤドンのしっぽは美味いうえに高く売れるかららしいのじゃが」

「はあ。それで、どうしてあなたはこんな時間に出歩いているのですか?」

「……肝心な場面で鈍いの。ワシはこれからヤドンの井戸の中で、奴らをこらしめてくる。この中を出入りしとるからのう」

「ヤドンの井戸って、あなたが入ろうとしていた井戸ですか?やめといたほうが良いですよ。あの直径だと結構深そうですから、落ちたら大変ですよ」

「なに、心配するな。10年前も落ちたゆえ、警戒は怠らん」

「そうは言ってもですね……」

「それじゃあの、お前さん達。くれぐれも奴らに襲われんよう気を付けるんじゃぞ!」

老人は腰の帯を結び直すと、勢い盛んに彼の真後ろにある井戸へと駆け出した。ダルマ達はそれをただ無言で見送るだけである。

「……さて、俺達はセンターに行くぞ。バトルはしてないけど、俺達のほうは……」

「ぐぬおおぉぉぉ…‥!」

その時である。情けない響きが井戸の中からこだましたと思うや否や、何かが落ちたような音が聞こえてきた。

「落ちた……」

「落ちましたね」

「落ちてんじゃねーか!」

「まあ、予想通りの展開だな」

ダルマ、ユミ、ゴロウ、サトウキビは、各々好き放題言い合った後、皆一様に肩を落とした。

「どうしますか、ダルマ様?」

「しょうがないなぁ。早く休みたいけど、助けに行くか。あの調子じゃ、自力で帰れそうにないし」

「よし!そうと決れば、さっさと行こうぜ!」

「お、おい待てよゴロウ!」

ダルマは、はやるゴロウについていく形で井戸へと入っていった。その後に、ユミとサトウキビも続いた。





ヤドンの井戸は、その名の通りヤドンが住んでいる。大昔、ヤドンがあくびをすると大雨が降ったという伝説もある。今では水を汲むことができないほど水位が下がっている。はじめ井戸は円柱状だったが、徐々にフラスコのように広がり、地面に到達するころにはすっかり広場くらいのスペースができていた。

「おじいさん、大丈夫ですか?」

「ワシはおじいさんじゃない!っつつ……」

はしごを下りた所に、先ほどの老人が腰をさすりながら座っていた。彼の腰をダルマもさする。

「ほら、動かない」

「ぐぐぐ、なんたることだ。このワシが2度も足を滑らすとは。これではヤドンが……そうじゃ、お前さん達!」

「な、なんですか?」

突然老人が炎の灯った目でダルマ達を見ると、こう言い出した。

「こんな時間であれじゃが、お前さん達でロケット団を倒すのじゃ」

「俺達がですか?俺達みたいな新米トレーナーがいくら集まったところで、無謀にもすぎますよ」

「大丈夫だ、ワシのポケモンを貸してやる。それに、下っぱは大したことないゆえ、新米でも十分勝てる」

「でも……」

「今頼れるのはお前さん達しかおらん。それとも、お前さん達は困ったやつを見捨てられるのか?」

老人は力強く語ると、腰から1つのモンスターボールを取り、ダルマの前に差し出した。ダルマは、初め目をうろうろさせていたが、結局ボールを受け取った。

「……やりましょう。ただし、結果は期待しないでくださいね」

「おお、やってくれるか!ならあの横穴を進め。奴らの縄張りになっとるはずだ」

老人は右手でダルマ達の後ろを指差した。ダルマ達が振り返ると、そこには人2人ほどが通れそうな穴があった。穴は風を吸い込み、井戸に落ちた枯葉が物寂しい音を奏でる。

「で、これからどうするんだ?ダルマ」

ここで、サトウキビがさりげなく尋ねた。ダルマは少し頭を抱えたが、すぐにこう答えた。

「そうですね……では、サトウキビさんはおじいさんの介抱をお願いします。一通り済んだら応援に来てください」

「ふん、しょうがねえな。で、残り2人は?」

「ゴロウとユミは、俺と一緒に先に行きます」

「なるほどな。それじゃ、早いとこ行ってきな。俺も後から行く」

「ええ、よろしくお願いします」

ダルマはこう言うと、穴の奥に向かって一歩前進した。

「それじゃあゴロウ、ユミ、準備はできてるか?」

「もちろんだぜ!」

「私も大丈夫ですよ」

「よし、なら出発だ!」

ダルマが大股で歩を進めると、ユミとゴロウもこれに続いて進むのであった。

「気を付けるんじゃぞ、お前さん達!」


  [No.95] 懲りないのがロケット団です 投稿者:No.017   投稿日:2010/10/24(Sun) 23:35:58   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

> 「まあ、そんなことはどうでもいい。ロケット団はポケモンを使って犯罪をしておる集団じゃ。かつてレッドという少年が潰し、その3年後に復活した時も潰されたのじゃが……。懲りないことに、またしても復活しおった」

ロケット団こりないwww
繰り返しはギャグの基本です。


> 「ぐぬおおぉぉぉ…‥!」

> 「落ちた……」
>
> 「落ちましたね」
>
> 「落ちてんじゃねーか!」
>
> 「まあ、予想通りの展開だな」

繰り返しはギャグの基本です。
大事なことなので二度言いました。


> 「ぐぐぐ、なんたることだ。このワシが2度も足を滑らすとは。これではヤドンが……そうじゃ、お前さん達!」

繰り返しはギャグの(ry



> 「大丈夫だ、ワシのポケモンを貸してやる。それに、下っぱは大したことないゆえ、新米でも十分勝てる」

さて、ギャグを繰り返すおじさんのポケモンとは。
言うこと聞くのかしら(



関係ないけどサトウキビさんていい名前ですよね。


  [No.96] Re: 懲りないのがロケット団です 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/10/25(Mon) 06:46:40   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

実は、サトウキビさんは重要キャラの1人なんですが、いまいち目立たない……。今後の彼にご期待ください。


  [No.120] 第16話「ロケット団の用心棒」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/12/12(Sun) 20:54:17   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「もしかして、あれがロケット団でしょうか?」

「そうみたいだな」

「うわ、あれはダサいな。まだダルマのほうがマシじゃねえの?」

「あのなあ……」

井戸の横穴を進むこと30歩、横穴はドーム状の空洞になっていた。地下の町と呼ぶに相応しい広さで、明らかに人の手で広げられたような跡が随所に見受けられる。また、人1人ほどの高さの崖が入り組んであり、奥へ続く道を形成している。そして言うまでもなく、井戸だけあって水溜まりがある。

 そんな井戸の内部を進み、崖を越え、右手の角を2回曲がった先に、黒服黒帽子の集団がたむろしている光景が見られた。

「むむ、誰だ貴様らは!どうやってここに入った!」
そんな井戸の道に、怪しいと言わざるをえない集団がたむろしていた。黒制服の胸には赤字で「R」とプリントされ、丸い蛍光灯のようなものを腰に装備している。

「誰だと言われても、人に頼まれてやって来た者としか言えないんですが」

「頼まれた……?さては貴様ら、俺達を潰しに来たのか」

「まあ、成り行きで頼まれただけですけどね」

「ふん、そんなこたぁ関係ねえ。これでもくらいな!」

黒ずくめの集団は皆一様にボールを投げると、大量のポケモンが出てきた。その大半はこうもりポケモンのズバットと、どくガスポケモンのドガースである。

「よし、それじゃおじいさんのポケモンのお手並み拝見といくか。出てこい!」

大量のポケモンを前にして、ダルマは額の汗を拭い、老人から託されたボールを投げつけた。出てきたのは、大きな耳と体長ほどのしっぽを持ったポケモンであった。体は夕暮れ時の薄紫で、手足と顔はお日様の色である。

「こいつは、なんてポケモンだ?」

「このポケモンはエイパムですね。素早く動き回って、手数で戦うのが得意だそうです」

「随分詳しいな、ユミ」

「市販ですけどポケモン図鑑がありますからね」

ダルマの傍らでは、ユミが折り畳み式のポケモン図鑑片手に周りをチェックしている。さすがの探検家志望である。

「そんなものがあるのか……それよりエイパム、1匹でこの数は大丈夫なのか?」

ダルマは近くでうろちょろしているエイパムに力なく尋ねた。するとエイパムは動くのをやめ、しっぽを揺らしながらポケモンの山と向かい合った。

「ああん?たった1匹で俺達と戦う気か?面白い、徹底的にやってやるぜ!」

「……どうやら、やる気はあるみたいだな。よしエイパム、まずは1発お見舞いしてやれ!」

ポケモンの山とエイパムは、ほぼ同時に動き始めた。だが、先手を取ったのはエイパムであった。まず両手を叩き敵を怯ませ、そこから手始めに1匹殴り飛ばした。飛ばされたポケモンは別のポケモンにぶつかり、さらに別のポケモンへ被害が広がる。これを繰り返し、瞬く間にポケモンの塚が出来上がった。

「な、なんだと!こいつ……できる!」

「す、すごいなこれは。あのおじいさん、相当強いぞ」

ロケット団員達とダルマ、対照的な態度はポケモンの士気にも現れた。いまだに壁をなすロケット団のポケモンはジリジリ後退し、その分エイパムが前進する。しまいには、しっぽを伸ばせば団員達の頭に届くほど距離が縮まった。

「ぐぐ、戦局はきわめて不利か。幹部殿もいらっしゃらない。こうなったら……こうだ!」

ここで、団員達は叫ぶと背を向け全速力で走りだした。

「おい、逃げるのかよ!」

「うるさい!これは戦略的撤退なのだっ!」

「……やれやれ、しょうがないな。ユミ、ゴロウ、追い掛けるぞ」

「はい!」

「任せろ!」

ダルマ達は奥へ逃げ込んだ団員達の追跡を開始した。先頭はエイパムだ。エイパムは自らの体を振り子のように揺らし、その反動でどんどん進んでいく。

その時である。奥から何かを叩く音が幾度か響き、そのたびにうめき声が漏れてきた。

「な、なんだ今の音は?」

「なんだか、ちょっと怪しいですね」

「ダルマ、ここは少し待ったほうが良くないか?」

「そうだな。エイパム、ちょっと止まれ!」

ダルマは先ゆくエイパムをボールに戻そうとした。だがエイパムは、大丈夫と言わんばかりにしっぽを振りながら進むだけである。

「おいおい、なんで言うことを聞かないんだよ」

「多分、ダルマ様のことを認めていないのでは?」

「認めていない?」

「はい。人のポケモンは、トレーナーの腕が未熟だと言うことを聞きません。基準はジムバッジらしいのですが、ダルマ様はまだ1個しか持ってないですから言うことを聞かないのだと思います」

「……なるほど。なんか悔しいなぁ」

ダルマが冗談を言っていると、またしても奥から音が響いてきた。先ほどと違い、何かが飛びこみ、ゴロウと接触した。

「ぐおっ、なんじゃこりゃ!」

「ゴロウ、大丈夫か!?」

「いてて、何とか大丈夫……ってこいつ、エイパムじゃねえか!」

 ゴロウがしりもちをつきながら抱えたものは、エイパムであった。胸部と背中に殴ったような跡があり、目は渦を巻いている。

「もしかして、今の音は……」

「エイパムを攻撃した音だったのでしょうか?」

「そうなるな。しかし、あれほど素早いエイパムを、それも一撃なんて、一体誰の仕業だ?」

「そいつは俺の仕業さ!」

その時、井戸に高笑いが響いた。奥からである。ダルマ達がその方向を凝視すると、暗がりから人が1人出てきた。

「おやおや、こんなとこまで物好きな奴らと思ったら、いつかの弱小トレーナーじゃねえか」

「!?……お前は一体……」

「おいおい、あれだけ徹底的にやっといて忘れるのかよ、心外だな。……俺はカラシだ、覚えときな」

「カラシだと!?何故こんなところで……」

「ご存知なのですか?ダルマ様」

「ああ。忘れられるわけがない。ヨシノで1度戦ったけど、歯が立たなかった」

「そのような方が、どうしてこのようなところに?」
 井戸の中を、徐々に張り詰めた空気が満たす。そんな中、カラシの視線がユミを捉えた。

「……お、中々の美形だな。あんな奴らと一緒とは、もったいない」

「え?もう、からかわないで、質問に答えてください!」

カラシの突然の言葉に、ユミは思わず顔を赤らめ拳を軽く振った。その際、近くにあった岩にヒビが入った。

「俺がいる理由?ただ雇われただけだ」

「雇われたって、もしかしてロケット団にか?」

「そうだ。金と侵入者との勝負が報酬さ。もっとも、金なんてこれっぽっちも支給されなかったがな」

「……何だか、地味に気の毒な奴だな」

「ふん、そうでもなかったがな」

「……え?」

 ダルマは拍子抜けついでにこう漏らした。

「弱いとはいえ、侵入者が3人も来たんだ。練習相手くらいにはなるだろう。悪いがやられてもらうぜ」

ここまで言うと、カラシは腰についていた唯一のボールを投げ付けた。ボールはやや離れた位置にある崖に届くと、中からカラカラが出てきた。

「何だ、結構高い位置に出てきたな。もしかして失投でもしたか?」

「何とでも言ってろ。これが俺のやり方だ」

ダルマの皮肉をカラシはさらりと流した。右足のつまさきで軽く地面を突いているその姿は、溢れんばかりに余裕に満ちている。

「ダルマ、どうするんだ!エイパムはもう戦えねえぞ!」

ゴロウがエイパムを抱えながらダルマに近寄ると、ダルマは黙ってエイパムをボールに戻した。その顔には、心なしか力が入っている。

「決まってるだろ?……リベンジを果たすぞ!」


  [No.194] 第17話「山なりの逆転」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/02/12(Sat) 21:21:00   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ゆけ、ビードル!」

ダルマはまずビードルを繰り出した。崖の上にいるカラカラが、下にいるビードルを見下ろす形で、リベンジマッチは始まった。

「ふん、その勇気は認めてやるが、無謀が過ぎるぜ」

「何だと!?」

バトル開始早々、ダルマはカラシの挑発に耳まで紅潮させた。

「先手はもらった!ホネブーメラン!」

ダルマが挑発に乗った隙に、カラカラが先手を取った。カラカラは、自らの腕より太い骨をビードルめがけて投げ付けた。

「させるか!ビードル、後退だ!」

 カラカラの動きを見たダルマは、すかさずビードルに指示を出した。ビードルはじりじりとカラカラとの距離を離した。

「……少なくとも、賢くはなっているようだな」

 ビードルに当たらなかった骨をキャッチするカラカラを見ながら、カラシは言った。

「あたりまえだろ。ビードル、糸をはくだ!」

 カラカラの次はビードルの攻撃だ。ビードルは口から糸を吹き出し、カラカラの骨に絡めた。

「よし、そのまま引っ張れ!」

 ビードルは糸をたぐり始めた。一方カラカラは、引っ張るということもなく、ただ右手で骨を握っているだけである。次第にカラカラは引きずられ、立っている崖の端にまで到達した。

「よし、そのまま落とせ!」

 ビードルの勢いは止まらない。そのまま首を右に大きく傾けようとした。

「……チャンスだ、振り抜け!」

 ここにきて、カラシが動いた。カラカラは、左足を前方に出して右膝を曲げ、右手で骨を引き抜いた。すると、たるみ無く張っていた糸の束はいとも簡単に千切れてしまった。引き抜く勢いでカラカラの左足は宙に浮き、ちょうど右足立ちの状態になった。

「何っ!」

「そのまま骨ブーメラン!」

 ここで、カラカラは左足を強く踏みしめた。そして体全てを使って骨を投げつけた。骨は空中を縦に一直線に割き、振り向きざまのビードルの頭部を直撃した。ビードルの体は山なりに飛び、ダルマに近づいてきた。

「うおっとおい、危ない危ない」

 ダルマはすんでのところでビードルを受けとめた。ビードルの、その弾力ある胴体はダルマの手元で軽く跳ねた。ダルマは何も言わず、ビードルをボールに回収した。

「どうした、もう戦わせないのか?」

 カラシは全てをわかっているかのような口振りでダルマに聞いた。ダルマは次のボールを片手に答えた。

「……どうも、一撃でやられたみたいだ。俺がビードルを受けとめた時、もう首が据わってなかったからな」

「なるほど、ならさっさと次のポケモンを出しな」

「言われなくても!頼むぞ、ワニノコ!」

 ダルマは、自身の左側にボールを投げた。ボールからはワニノコが登場した。ワニノコは目を大きく見開き、ヒレをゆらゆら動かしている。また、カラカラとワニノコの距離は、ビードルとカラカラのそれより大分離れている。

「……何故だ、いつもなら躊躇なく目の前に出すというのに」

 ダルマの普段通りではない動きに、カラシは逆に警戒した。一方、ダルマは胸を張って言った。

「へへっ、これならブーメランも届かないだろ?」

「随分と単純な発想だな。それならこれでどうだっ!」

 カラシは、洞窟内に反響する拍手を1回した。すると、カラカラは天井を見上げ、骨を飛ばした。骨は天井すれすれの高さまで達し、加速しだした。あろうことか、届かないはずの骨はワニノコの目の前まで迫っていた。

「ヤバい、水鉄砲で打ち落とせ!」

 ワニノコは、斜め上方から来る骨をめがけ水鉄砲を撃った。弾丸は骨に直撃したが、わずかに軌道を変えただけだった。骨はワニノコの左脇腹をえぐり、カラカラの手元に戻った。

「ワニノコ!」

 ワニノコは左に1回転し、片膝をついた。ダルマは思わず唾をのんだ。一方、カラシは唾を吐いた。

「ちっ、仕留めそこねたか。だが、次で決める!」

 カラカラは再び天井めがけて骨を投げ掛けた。やはり骨は弧を描き、徐々に加速してきている。

「くっ、しょうがない。ワニノコ、しばらく避け続けるんだ!」

 ここからの展開は半ば一方的であった。ワニノコは迫り来る骨をかわし、すかさずカラカラが追撃を行う。この流れが延々繰り返されると思われた。

「くそっ、これで15回目……まだ避けるか!」

「ぐう、何だかワニノコ、疲れてきてるぞ。このままじゃまずいな……」

 この長丁場に、ポケモン達はもちろん、カラシとダルマも疲れを見せ始めていた。カラカラの骨の軌道は徐々に鈍くなり、ほとんど落下の勢いだけで攻撃しているようだ。他方ワニノコは、避けるだけなのだが、最初に受けた一発がボディーブローのごとく効いてきた。

「ええい、往生際が悪い!」

 カラシが叫んだ、その時だった。カラカラの骨が遂にワニノコに当たった。今度は正面だったが、スピードが遅いのが幸いした。ワニノコは両手をクロスさせて防御姿勢を取り、何とか弾き返した。だが、当然無傷ではない。ワニノコは骨が当たった部位をさすりながら揉んでいた。息も絶え絶えで、今にも座りこみそうだ。

「ふん、ようやく当たりやがったか。そのままトドメだっ!」

 カラシはしてやったりの表情だった。カラカラは右肩を軽くほぐすと、最後の攻撃の態勢に入った。

「おいダルマ!このままだと前みたいに負けるぞ!」

「言われなくても分かってる!……しかし、いったいどうする?」

 ダルマの手のひらから汗がにじんできた。この場で勝ち誇っているのはカラシとカラカラだけであった。

「……万事休す、か?」

 ダルマの目から闘争心が消え失せ、彼は下を向いた。

「上を向くんじゃひよっこめ!」

 突然、カラカラがいる崖の方から怒鳴り声が飛んできた。場にいた皆が声の出所を注目した。

「?誰だ!」

「わしじゃ!」

「この声は、おじいさん!」

「こら、ええ加減年寄り扱いするな!」

 声の主は、先程腰を痛めたおじいさんだった。老人は、崖を慎重に降りて、ダルマに歩み寄ってきた。

「何を諦めておるのだ!ひよっこ程度の実力のお前さんが、そんな状態で勝てると思ったか!」

 老人の顔は溶岩のごとく湯気を撒き散らしていた。ダルマは1歩後退し、言った。

「け、けど、もうワニノコが倒れるのも時間の問題。一体どうしろと?」

「……逆転じゃ」

「逆転?立場がひっくり返ったりするあれですか?」

「そうじゃ。大方、今まで『どうやったらカラカラの攻撃を避けられるか』ばかり考えてきたと見える。違うか?」

「うっ、確かに、言われてみれば心当たりが」

「上手くいく時は別に構わんが、そうでない時は同じ考えに固執しちゃいかん。『いかにして攻撃を避けるか』ではなく、『そもそもどうしてこうなったのか』を考えるのだ!」

「!……わかりました、やってみましょう」

 おじいさんの叱咤激励に、ダルマの目に輝きが戻った。それに呼応して、ワニノコも鼻息を荒くする。

「ふっ、長話は終わりか?今度こそかたをつけさせてもらうぜ」

 カラシは深くため息を吐いた。カラカラも再度骨を振りかぶった。

「そもそも、あのブーメランが当たらないように後ろに下がった。すると斜め上に投げた。天井すれすれを通り、ワニノコに……あれ?もしかしたら……!」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!カラカラ、これで決めろ!」

「させるか!ワニノコ、思い切り飛び上がれ!」

 カラカラが骨を投げる直前、ワニノコは渾身の力で地面を蹴りあげた。その体は2メートル半にまで到達した。そして、ワニノコは手近な岩を掴んだ。これでワニノコとカラカラのいる高さはほぼ同じである。

「ちっ、気付きやがったか。だが、それでは何の解決にもなってねえな!」

「それはどうかな?」

 ダルマはカラシの言葉をものともしていない。その態度に、カラシは眉を吊り上げ歯ぎしりをした。

「カラカラ、もっと上だ!何としても当てろ!」

 カラシの怒号と同時に、カラカラは骨を天井へ投げつけた。その軌道は、最初の投てきより更に高く、このままいけばワニノコに当たることは間違いない。

「まだだ……あともう少し……!」

 ダルマの呟きが漏れた時である。骨は天井まで到達し、何か、湿った地面を削る音がしたかと思えば、急に勢いをなくして落下しだした。

「な……カラカラ、気をつけ!」

「もらった!水鉄砲で撃ち抜け!」

 カラシが全部言い切らないうちに、ワニノコから一発が放たれた。水鉄砲は、カラカラとワニノコと同じ高さで骨に当たった。激流のごとき水色の弾はそのまま骨を押し流し、遂にカラカラに一撃を与えることに成功した。その後、骨は崖の下に落下した。

「ぐっ、カラカラ!」

「な、なんだ今のは!?いきなりブーメランの勢いがなくなるなんて」

 この展開に、カラシとゴロウ達はにわかにざわつきだした。

「へへっ、勝機はブーメラン自体にあったのさ!」

「え?」

「そもそもブーメランを斜め上に投げていた理由は何か?今考えれば、飛距離を稼ぐためだったんだ。その際、軌道は天井すれすれを通っていた。だから、もっと高い位置にいれば、天井に骨をぶつけるのを誘発できる。仮にそれを読まれても、攻撃をされなくなる。まさに起死回生の一手さ!」

 ダルマはガッツポーズを取った。一方カラシは、苦虫をつぶしたかのような表情である。

「このまま決着をつけるぞ。ワニノコ、撃ちまくれ!」

 ワニノコは、間髪入れずに水鉄砲を乱射した。今のカラカラには十分すぎる威力を持った攻撃を受け、カラカラは背後の壁に叩きつけられた。そして、そのまま地に伏した。

「……これは……」

 まさかの事態の連続に、カラシはただただ目を疑うほかなかった。

「ふうう、何とか上手くいったか。よくやったぞワニノコ!」

 激戦を制したダルマは、ワニノコに向けて手を伸ばした。ワニノコもダルマに向かって岩壁から飛び降り、ダルマの腕の中に納まった。すると突然、ワニノコが太陽のごとく輝きだした。

「うわっ!なんだこりゃ?」

 思わずダルマは手を離した。光はどんどん強くなる。

「ダルマ様、これは進化じゃないですか?」

「進化?随分派手な演出だな」

 ダルマ達が言い合う間にもワニノコの光は強まり、次第に形を変えた。

「おおお、これは!」

 光が消えた途端、ダルマはうなった。背丈は倍近くになり、尻尾は太く、長い。腹には、黄色の皮膚が広がる中に水玉模様が見られる。

「アリゲイツになりましたよ!」

「アリゲイツか、良い名前だな。これからも頼むぜ!」

 ダルマは進化したてのアリゲイツの頭を撫でた。アリゲイツはキバを見せて笑った。

「そういえば、カラシはどこだ?」

 ふと、ダルマは辺りを見回した。近くには人の気配が全くせず、ダルマ達と老人しかいない。ただ、地面に麻の縄が散らばっていただけである。

「ふむ、あの少年は既に脱出したぞ。あなぬけのヒモでするするっとな」

「あ、おじいさんいたんですね」

「当たり前じゃ。お前さんみたいな危なっかしい若者は放っておけんからの」

「すみません……」

「それより、邪魔者はいなくなった。急いでヤドンを助けるぞ!」

「そういえばそうだった。行くぞ2人とも!」

「はい!」

「任せろ!」

 一段落したところで、老人は洞窟の奥に突き進んだ。3人もすぐさま後を追うのであった。


  [No.253] 第18話「それぞれの1日」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/03/25(Fri) 21:32:10   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「坊主、中々機転がきいてたぞ。おかげでヤドンを救出できた」

「あ、ありがとうございます」

「お、ダルマが照れてるぞ!」

「お前は子供か」

 カラシとの戦いを制した後、ダルマ達はおじいさんの家に移動していた。夜はとっぷり更けて、すきま風が心地よい。今、部屋にいるのは6人だ。おじいさんにダルマ、ゴロウ、ユミ、サトウキビ、そして見知らぬ少女である。部屋を見回してみると、たった一間の家ながらも、仕切りが無いため広く感じられる。畳が30畳ほど敷き詰めてあり、いぐさの独特な香りがほとばしる。部屋の左端には布団が積まれており、また、玄関から右手最奥には古ぼけたドライバーやらヤスリやらが机の上に置いてある。机の隣にある棚にあるのは、見かけない柄のモンスターボールに、色を塗ってない木製のボールだ。

「しかし!あの程度の実力ではこの先いくつ命があっても……」

 ここまで言ったところで、皆が囲むちゃぶ台に湯気を立てた湯飲みが置かれた。中身は緑茶である。

「はいはい、小言は後々!みんな疲れているんだし、まずはゆっくりしようよおじいちゃん」

「おお、そういえばそうじゃな。まずは自己紹介といこうかの」

 おじいさんは見知らぬ少女にに諭されると、目尻を下げてお茶をあおった。

「ワシはガンテツ、ボール職人じゃ。この娘はワシの孫娘でミツバ、仲良くしてやってくれ」

「ミツバです!よろしくね、えーと……」

「ダルマです」

「ゴロウだ!」

「ユミです」

「サトウキビだ」

 皆が口々に自己紹介をした。ガンテツの孫娘、ミツバは歯を見せ笑いながら一礼した。彼女は、ユミと好対照な雰囲気を出している。まず八頭身とも言える体つきが目を引く。背中の真ん中にまで届く本格的な黒のポニーテールに、夕日を浴びた海のように輝いた瞳も印象的である。さらに、肌に吸い付いているようなジーンズと真っ赤なタンクトップが、思わず息を呑むほどの曲線美を生みだす。

「では、話を戻すぞ」

「……俺達の実力不足についてですか?」

「さよう。どんなに良い考えが出てきたところで、それを達成する能力が無ければ、宝の持ち腐れでしかない。ダルマのアリゲイツなど、進化したばかりで体が慣れておらん。これではもったいない。逆に言えば、高いパフォーマンスができれば、それだけで大半の難局は突破できる。ワシのエイパムも、お前さん達の指示はいらんかったじゃろう?」

「た、確かに」

「でもよ、カラカラにやられたじゃねえか」

 ここで、気持ちよく話しているガンテツに、ゴロウが割り込んできた。

「そうなのか?ワシは見てないからよくわからんのじゃが」

「確かに、カラカラはエイパムを倒したみたいですよ。不意討ちみたいでしたけど」

「なんじゃ、それなら仕方ない。誰にだって不意討ちはある……ところで、気になったことがあるのじゃが」

「なんですか?」

「ヤドン達は確かに井戸にいたが、、肝心のロケット団どもは全くいなかった。そっちでは見なかったか?」

「そうですね、俺は見ませんでしたよ。ユミは?」

「私もです。おじさまは?」

「……裸眼で見えねえものがサングラス越しに見えるわけねえ。それと、おじさまはやめろ」

「俺も見なかったぜ!」

「ふむ、そうか。ならよい。では、そろそろ寝るとするかの。今日は疲れたわい。お前さん達も今日はここに泊まっていきなさい」

 ガンテツはあくびをしながら左手で口をおさえ、後ろにあるふすまを開いた。その奥は2段に分かれた押し入れなのだが、下の段に布団が敷かれており、上の段にはホコリをかぶった扇風機と火鉢がある。ガンテツは下の段に入ると、布団の中に潜りこんだ。

「寝床は好きにしてくれ。とっとと寝ろよ、明日は早いぞ!」

 こう言い残し、ガンテツはポケモンにも勝るいびきをたて、夢の世界に旅立ってしまった。ダルマはその光景を目の当たりにして、ゆっくりミツバの方を向いた。

「あの、押し入れで寝るのはむしろ俺達では?」

「いいのいいの、気にしないで。おじいちゃん、押し入れで寝るのが好きなの。こんなに広い家なのにね」

 ミツバは笑いながら部屋全体を見回した。確かに、ダルマ達4人にガンテツ、それにミツバの布団を敷いても、まだ1人分のスペースは明らかにありそうな広さである。

「それにしても、押し入れで寝るなんて、どこかで聞いた話ですね?ゴロウ様」

「というより、どう考えてもド……」

「……下らねえこと言ってる暇があったら、さっさと寝な。よい子は夜更かしなんぞしないもんだ」

 ここでサトウキビが話を締めた。彼は積み上げられた敷き布団を1枚広げ、枕を手に取ると、サングラスも頭の手ぬぐいも取らずに寝てしまった。

「……なんでサングラス外さねえんだろ?」

 ゴロウはサトウキビの行動に首をひねったが、サングラスを取ろうとはしなかった。

「知らないよそんなこと。それより、今日は早く寝るぞ」

「はい。おやすみなさい、ダルマ様」

「おやすみ!」









「それで、今日は何をしようか?」

 翌日。庭でラジオ体操をするガンテツの背後に、縁側に座るダルマ達がいた。ダルマとゴロウは大口開けてあくびをしているが、ユミとサトウキビ、ミツバは変わりない。

「そうですね、皆さんやるべきことが違いますから、自由行動というのはどうですか?」

 ユミの提案に、誰も異存はなかった。皆は首を縦に振り、今日の行動を考えだした。

「俺はアリゲイツ達と特訓でもしてくるよ」

「では俺は、町の散策でもやるか」

「俺はジム戦!ダルマに先越されるわけにはいかないからな」

「では私は、おじさまと町を歩いてみます。夕方までに戻るということで、よろしいですね?」

 各々うなずきながら今日の動きを確認し、荷物を手に取った。

「なんじゃお前達、もう出かけるのか」

 そこに、ラジオ体操を終えたガンテツが話し掛けてきた。

「ええ、今日は別行動です。」

「そうか。……そうそう、お前達にいいものがあるんじゃが、ちょっと待っとけ」

 何か思い出したのか、急にガンテツは部屋に上がり、戸棚を開いた。中には楕円形の球が2個ある。彼はその球を取出し、縁側に戻ってきた。

「これはもしかして……」
 ダルマ達は球を食い入るように見つめた。しかし反応は無い。ただの球のようだ。

「さよう、ポケモンのタマゴじゃ。わしに子守りは似合わん、引き取ってくれんか?」

「とか言いつつ、おじいちゃん結構このタマゴ大事にしてたでしょ?」

 ここでミツバの不意討ちにより、ガンテツの顔はにわかに茹であがった。

「ば、馬鹿言うでない!それより、もらってくれるか?」

「それは構いませんが、俺達4人ですよ?誰が……」

「ああ、俺はパスだ。俺も子守りする気はねえ」

 ダルマの言葉に、すかさずサトウキビが続いた。ダルマは少し腕組みをしていたが、やがてこう言った。

「……じゃんけんだな」

「そうですね」

「よし、じゃあやるぜ!じゃんけん……」








「気を付けてなー!」

 しばらくして、ダルマ達は出発した。後ろでは、ガンテツとミツバが手を振っている。一方、ダルマとユミはタマゴを抱え、ゴロウはそれを物欲しげに眺めている。

「さてみんな、今日はお互い頑張ろう!」

 ダルマが叫ぶと、4人は散り散りに進んでいくのであった。


・次回予告
特訓すべくうろついていたダルマの前に、とあるトレーナーが現れる。手合わせをするが、全く歯が立たない。そこでダルマは、そのトレーナーの練習方法を実行をしてみることに。
果たしてダルマは、成長することができるのか!?
次回第19話「特訓」、乞うご期待!






・あとがき的な何か

ミツバはBWの女主人公が文中の服装をしているイメージです。ユミの時もそうですが、わかりにくかったらすみません。


  [No.278] 第19話「特訓」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/04/12(Tue) 19:04:07   79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さて、修行とはいったけど……」

 ヒワダの町外れを、ダルマはぶらぶらしていた。ダルマの後ろをアリゲイツとビードルが続く。南には松の木が隙間なく植えられ、視界がよくない。また、上空には鳥ポケモンが風に乗って鳴いている。一方、はるか北には手付かずのままである山が幾重もそびえ立つ。山とダルマの間には何枚もの畑に水路があり、いかにも田舎といったようである。

「とにかく、体を動かさないとなあ……ん、潮の香りがするな」

 ふと、ダルマは歩を止め、目を閉じながら鼻を立てた。アリゲイツとビードルも主人の真似をする。他のポケモンでやれと言われそうな光景である。

「思えば、家を出てから匂いや香りを気にする時なんかなかったな。父さんは大丈夫だろうか、家事は俺がしていたし……どうしたアリゲイツ?」

 ダルマが下を見ると、アリゲイツがズボンの裾を引っ張り、何かを指差している。視線の先に目をやると、松の木の間に道があり、奥には砂浜が見える。

「砂浜か、どうりでにおうはずだ。ちょっと行ってみるか!」

 ダルマはビードルを左肩に乗せて走った。みるみるうちに砂浜は大きくなっていく。砂浜に入ると、彼の眼前には途方もなく大きな海が広がった。

「やっぱり海があったか。せっかく来たわけだし、泳いでいくか。アリゲイツ達もどうだ?」

 ダルマの問いかけに、アリゲイツは答えるまでもなく駆け出し、ダイブした。一方ビードルはダルマの肩から降り、砂遊びを始めた。

「ビードルは泳がないか。それじゃ、荷物を見といてくれよ」

 ダルマは松の木の死角に隠れ、なぜか持ってた海パンに着替えた。海パンと言っても、海パン野郎御用達のタイトなものではなく、ハーフパンツに近いものである。

 着替えたダルマは、準備運動もそこそこに、海に足を踏み入れた。誰も来ないのか、水はどこまでも見渡せるほどの青さで、水平線で空と同化している。そのおかげで、腰がつかるくらいの深さでも足がはっきり認識できる。

「お、思ったより冷たいな。それとも暑いからそう感じるだけか」

 ダルマは肩をさすると、ゆっくり泳ぎだした。足で蹴り、腕で横に水をかきわける、平泳ぎである。10秒ほど息継ぎせずに泳ぎ、頭を出した。

「うーん、やっぱり息継ぎが上手くいかないな。水ポケモンは息継ぎしなくていいから楽そうだ」

 ダルマは深呼吸をしながら、離れてはしゃぐアリゲイツを眺めた。すると、他にも何かが動くのが見えた。

「な、なんだあれは……?」

 ダルマは怪しげな「何か」に近づいていった。「何か」は紫の糸の束のようなものである。その下にも何かあるようだが、距離があるのでまだはっきりしない。

 一歩一歩近づき、ようやく手の届くところまでやってきた。ダルマが顔を寄せると、突然「何か」が水から飛び上がった。

「うおっ!危ない危ない」

 ダルマはさっと後退した。彼は「何か」をまじまじと見つめた。どうやら「何か」の正体は人間みたいだ。紫の糸のようなものは髪の毛で、海水が滴り日光に輝く様子はどことなく色っぽい。

「あ、ゴメンゴメン、驚かせちゃったね」

「いや、いいよ。それより、あんたは誰だ?」

「僕?僕はツクシ。君は?」

「俺はダルマ、旅のトレーナーだ」

「へえ、旅のトレーナーか。それがどうして泳いでるの?」

「実はな……」











「なるほど。ジム戦に向けて特訓しようとしたけど、何をすべきかわからなかったから泳いでたんだ」

「まあ、そういうとこかな」

 しばらくして、2人は浜辺にあがっていた。その傍ら、アリゲイツは砂風呂をやっており、ビードルは自分の砂の像を作っている。

「それなら話は早いや、僕とバトルしようよ!」

「ええ、あんたと?大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。こう見えて、僕はダルマ君より年上なんだよ」

「な、なんだってー。12くらいだと思った。まあ、それなら大丈夫かな」

「そうと決れば、早速始めよう!出番だよ、ストライク!」

 ツクシが腰のボールを投げると、中から両腕にカマを持つポケモンが出てきた。

「よし、こっちはビードルだ!」

 ダルマは遊んでいるビードルを呼び寄せた。ビードルも像が完成したのか、すぐにやってきた。これで準備は整った。

「それじゃ、先手はもらうよ!ストライク、つばめがえし!」

 先手はストライクだった。ビードルが動く暇もないほど素早く移動して、一瞬のうちに右のカマで切り付けた。ビードルは為す術なく崩れ落ちた。

「ビードル!」

「よし、まずは1匹!この調子この調子!」

 ツクシがガッツポーズを取るのとは対照的に、ダルマはビードルをボールに戻した。

「さあ、次のポケモンはなんだい?」

「……次はこいつだ!」

 ダルマはそう叫ぶと、砂の中からアリゲイツを引っ張り出した。アリゲイツが身震いすると、体の砂はあらかた落ちた。

「め、珍しい登場のしかただね」

「まあな。ちなみに、こいつが最後の1匹だ」

「なるほど、じゃあこっちも全力を出すよ。ストライク、シザークロス!」

 ツクシは寸分の隙も与えない。再び踏み込んだストライクは、今度は両腕のカマを交差させた。アリゲイツは左へと避けようと試みるが、右脇腹に左のカマの一撃が入った。アリゲイツは倒れそうになるが、受け身を取って立ち上がった。

「それでは、トドメの電光石火だ!」

「なんの、一矢報いれ、氷のキバ!」

 2匹は同時に動いた。ストライクは急加速してアリゲイツにぶつかりにいった。一方アリゲイツは、奥のキバを中心に冷気をため込み、ストライクの左肩を力いっぱい噛んだ。どちらの攻撃も相手に当たったが、氷のキバがより大きなダメージを与えたようだ。

「どうだ!噛み付かれたら動けないだろ!」

 アリゲイツはストライクを噛んだままだったので、ストライクは身動きが取れないでいた。アリゲイツのあごの力は並大抵ではなく、そうやすやすと抜けることはできない。

「なるほど、上手い考えだね。ならこれはどうかな!シザークロス!」

「なんだとっ!」

 ストライクは自由な右腕を振り上げ、素早く振り下ろした。アリゲイツは、不意の一撃に防御することができず、そのまま倒れた。

「アリゲイツ!」

「よし、僕の大勝利だ!」

 ダルマがアリゲイツの側に駆け寄るのと同時に、ツクシはガッツポーズを取った。

「ダルマ君、良いバトルだったよ」

「……まあ、あんたからすれば丁度いいサンドバッグだったろうけどさ」

 ダルマはストライクを眺めながら答えた。

「うーん、中々面白い動きだったけど、どこかうっかりしている部分があったね。あとやっぱり能力不足かな?」

「……それ、ガンテツさんにも言われたんだけど」

 ダルマのこの一言に、ツクシは意外そうな表情を浮かべた。

「え、そうなの?なら聞き入れた方が良いよ。ガンテツさん、弟子なんかは取らないんだけど、トレーナーとしても指導者としても優秀なんだ。僕もあの人に色々アドバイスしてもらってるし」

「はあ。一体どんなことを言われたんだ?」

「えーと、確か『伸ばしたい能力が高いポケモンと戦う』だったかな。『自分より優れた力を持つ相手と勝負を重ねれば、おのずと慣れて、いつしか相手と同じくらいの能力に到達できる!』ということみたい。僕も実践してみたけど、それが今のストライクさ」

「なるほど……参考になった、ありがとう」

「どういたしまして。それじゃ、僕はそろそろ帰るね。次に会う機会を楽しみにしているよ」

 ツクシはこう言い残し、海岸から出ていった。南中した太陽が照らす浜辺にいるのはダルマだけになった。

「また会う機会ねえ、旅人が同じ相手と2度も会う機会なんて無いだろうに」

 ダルマはアリゲイツに傷薬を吹き掛けた。背中に負ったカマの傷はすぐにふさがっていく。

「さて、あんだけ強いポケモンを見せつけられたんだ。あいつの特訓方法を真似させてもらおう。じゃあどの能力を伸ばそうか?やっぱりすばやさは大事だよなー、ならすばやいポケモンを探すか」

 ダルマはなんとなく空を見上げてみた。アリゲイツも見上げた。すると、アリゲイツが何かを指差した。ダルマがその先に視線を送ると、1匹のピジョンが見えた。ピジョンはしばらく海上を旋回し、ダルマの近くにある松の木の枝に降りた。

「……鳥ポケモンならすばやさは申し分ないな。よし、アリゲイツ、ピジョンのいる枝に飛び付け!」

 アリゲイツは走りだし、松の枝目がけてジャンプした。気付いたピジョンは隣の木に悠々と飛び移った。そのままアリゲイツは枝にしがみついたのだが、枝が折れてアリゲイツは地面に落下した。

「あれ、おかしいな。ビードルを捕まえた時は枝が折れることなんて無かったのに」

 無理もない話である。松はビードルがいた木ほど太くないというのもあるが、体重が違いすぎたのである。ワニノコは9.5kgなのに対し、アリゲイツは25kgあり、およそ3倍もあるのだ。これではワニノコほど機微のある動きは望むべくもない。

「くっそー、こりゃ中々面倒だな。あ、せっかくだからビードルも鍛えとくか」

 ダルマはボールから再度ビードルを出し、傷薬を使った。

「よし!2匹がかりでもピジョンを倒すぞ!」















「よし、今度こそ!まずはアリゲイツ!」

 太陽が西の海に近づくまで、ダルマ達は動き続けた。あたりには犠牲になった松の枝が散らばっている。

 そんないたちごっこにも遂に決着がついた。まずアリゲイツが枝に飛び付く。もう枝は折れなくなっている。そのうえ始めたころより格段に機敏になっている。しかし、やはりピジョンは何食わぬ顔で飛び上がる。

「今だ、ビードル!」

 このときを待っていたかのように、ビードルが糸をはいた。こちらもレーザーのように鋭く、速い。ピジョンは抵抗する間もなく糸を翼に絡ませてしまい、ゆっくり地面に着地した。

「へへ、飛んでるときは上手く技が出せないのに気付けば案外楽だったな」

 ダルマは大きく深呼吸すると、体を伸ばした。そしてピジョンのもとへ近づき、翼の糸を取り払った。ピジョンはすぐに山の方向へ飛んでいった。

「さてと、今日は良い練習ができたな。これならツクシのストライクにも何とか……って、これは!」

 突然、足元で何かが光りだしたので見てみると、ビードルが光に包まれていた。そのまま体が大きくなり、そして光は収まった。そこには、さなぎのようなポケモンがいた。

「ビードル……遂に進化したか!よし、これで役者は揃った。明日はジム戦頑張るぞ!」

 ダルマは明日の勝利を夕日に誓い、海岸をあとにするのであった。



・次回予告

明日の勝利を目指すダルマに、新しい仲間が加わった。しかしそいつはとんだ暴れん坊だった。ダルマは新しい仲間と共に、ヒワダジムに殴り込む!次回第20話「タマゴが孵った!」ダルマの明日はどっちだ!





・雑談タイム

今回の雑談では、私の小説の投稿の流れを紹介します。例えば19話の場合、

・19話、20話を書く

・推敲して19話投稿

と、常に1話分ストックを持つようにしています。

ちなみに、大長編ポケットモンスターは30話頃までには大事件が起こります。それはこの作品の折り返し地点であることをお知らせしときます。


  [No.314] 第20話「タマゴが孵った!」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/04/24(Sun) 21:59:49   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ダルマ様、起きてください!」

「んー……、なんだよこんな時間に」

「ダルマ様のタマゴが……!」

 まだ太陽も寝ている真夜中、ユミはダルマを叩き起こした。ダルマは布団の中で丸くなっていたが、ユミが激しく叩きつけるので、頭だけ出した。

「!……これはもしかしたら」

「はい、きっともうすぐ……」

 ダルマは一気に目が覚めた。彼の眼前には、ひっくり返りそうなほど揺れるタマゴがあった。タマゴのてっぺんには少しひびが入っており、中で何かが動いているのがわかる。

「い、いよいよだ。すぅーはぁー、げほっげほっ」

 ダルマは深呼吸をしようとしたが、逆にむせてしまった。その間に、タマゴの殻が徐々に割れていき、中のポケモンが姿を現した。

「う、生まれたぞ!」

 ダルマは思わず声をあげた。生まれたばかりのポケモンは、鳥ポケモンである。ヒレのついた黄色い足に、全体的に落ち葉のような色の体、V字型のつながり眉毛が特徴的だ。しかし、最も目立つのは左脇に抱えた植物の茎である。驚くことに、この茎はタマゴの中にあったにもかかわらず、とても若々しい。

「このポケモンは確か……」

「カモネギですわ。絶滅の危機にあるという、とても珍しいポケモンです」

「そうそう、俺でも知ってるぞ。けどなぜ絶滅しそうなんだ?」

「それは……確か、『色々とお得だから』乱獲されたそうですよ」

「な、なるほどねえ、なんとなくわかるな。こいつを見てると、何だかすごく腹が減ってきたし」

 ダルマは自分の腹をさすりながらカモネギを眺めた。すると、急にカモネギはけたたましく叫び、茎でダルマの頭を叩きだした。

「ぐおっ、な、何をする!」

「もしかして、食べられると思ったのでは?よしよし、私達はあなたに危害を加えるつもりは……」

 全て言い切らないうちに、カモネギはユミをも攻撃した。その刹那、ユミがカモネギの首根っこを掴み、カモネギの動きを止めた。それを見たダルマは、そそくさとユミから離れた。

「おいおい、雑魚はおとなしくすっこんでな。目障りなんだよ!」

 こう言うと、先程と形相を一変させたユミはカモネギを投げ捨てた。カモネギは他の人の布団に直撃し、中からうめき声が漏れた。

「なんなんだよ、うるせえなあ」

「……夜中に他人の家で騒ぐとは関心せんの」

 口を押さえてゴロウは大あくびを、ガンテツは着流しを整えながら、ダルマとユミに話しかけた。

「……すまんゴロウ、ガンテツさん」

「す、すみません」













「ダルマ、それは一体なんだ?」

「これか。これは気合いのタスキだ」

 翌日。ダルマ達一行はガンテツ、ミツバを加えてヒワダジムへと向かっていた。ダルマの右手には、帯には短いがそれなりに長い布がある。その布へ、ゴロウが突っ込みを入れた。

「気合いのタスキたぁ、随分立派なもの持ってやがる。作ったのか?」

 ダルマの持つタスキに興味を持ったのか、サトウキビも尋ねてきた。

「ええ。ゴロウの話だと、ヒワダジムは3対3。こちらは3匹いるけど、カモネギは生まれたばかり。というわけで、カモネギを戦力にするために徹夜して作りました」

「なるほど。だが、カモネギはがむしゃらのようなタスキと相性の良い技を覚えないぞ。そこら辺はどうなんだ?」

「それなら心配無用。ちゃんと作戦は練ってますから」

「あ、着きましたよ!」

 ガンテツの家から歩くこと10分、ダルマ達はヒワダジムへと到着した。ジムは全面ガラス張りで、中にはジャングルのごとく木々が生い茂っている。

「よし、それじゃあ入ろう」

 ダルマはジムの扉を引くと、中に入っていった。

「うわ、なんだこりゃ。思った以上にうっそうとしているな。誰だよ、こんなジムのリーダーは」

 入った早々ダルマがぶつぶつこぼしていると、どこからか声が聞こえてきた。

「誰だよと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!」

「世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く!ラブリーチャーミィな敵役!」

「おいおい、勘弁してくれよ……」

「とうっ!」

 名乗り口上が一旦止まると、ダルマの目の前に、茂みから紫の髪の若者が現れた。

「ムサシ!コジロウ!」

「銀河をかけるロケット団の2人には!ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!にゃーんてな!」

「……ジムの場所間違えたか」

 名乗り口上が終わっても、その場は凍り付いたままだった。ダルマは一言漏らすのが精一杯で、他の皆は視線を泳がせたり、互いに顔を見合わせたりしていた。

「ようこそヒワダジムへ!僕はジムリーダーのツクシ、よろしく」

「え……えええぇぇぇぇ!あんたは昨日の!」

「ダルマ様、ご存知なのですか?」

「ああ、昨日海岸でバトルした。おそろしく強いストライクを使ってきた」

「あ、ダルマ君おはよう。やっぱり来たね」

 驚くダルマを気にすることなく、紫髪の若者ツクシは気軽に挨拶をした。彼は皆に対して説明を始めた。

「さて、このジムは3対3のシングルバトルのルールでバトルをしています。今回の挑戦者はどなたですか?」

「挑戦者か、それはこの俺だ!」

 ダルマが勇ましく手を上げた。ツクシは一瞬目を丸くしたが、すぐに瞳に火をつけた。

「挑戦者はダルマ君か。昨日とは大分変わったみたいだね。顔に書いてあるよ」

「そりゃもうめちゃくちゃ変わったよ。今からその成果、見せてやるぜ!」



・次回予告

ヒワダジムのジム戦、壁となったのはやはりあのポケモンであった。なんとか攻撃しようにも、ある技のせいで中々当たらない。果たして勝負の行方は!?次回第21話「リベンジマッチ!対決ヒワダジム」、ダルマの明日はどっちだ!



・あつあ通信vol.1

今回から後書きのタイトルを統一します。

さて、突然ですが皆さんにお知らせです。この連載は某所の「普通(王道)な話が読みたい」という発言をきっかけに始まりました。なのでタイトルも普通に「大長編ポケットモンスター」となったのです。しかし、実際はタイトルが決まってなかったからとりあえずつけただけで、現在のタイトルは仮題なのです。そこで、これを読んでいる方にタイトルをつけてもらうことにしました。

・概要
「大長編ポケットモンスター『●●』」の●●にあたる部分を投稿してください。

・応募資格
20話を読んだ方全て。

・期間
21話を投稿する1時間前まで。

・結果発表
21話に掲載するあつあ通信vol.2にて発表予定。


見ての通り、皆さんからはいつ期間が終わるかはわかりませんが、ご容赦ください。ちなみに、0〜1通りの応募がくると予想しているので、応募すればほぼ採用されるであろうことを付け加えときます。また、応募がない場合はこちらで決めます。

あつあ通信vol.1、編者あつあつおでん


  [No.454] 第21話「リベンジマッチ!対決ヒワダジム」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/05/19(Thu) 19:08:09   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「それでは、わしが審判をやろう。お互い、準備はできとるか?」

 ダルマ達はジムの中央にあるバトル場に移動していた。植物に囲まれてはいるが、それ以外は他のジムと何ら変わりはない。審判席にはガンテツ、トレーナー席にはダルマとツクシがスタンバイしている。

「僕はいつでも大丈夫ですよ。ダルマ君が始めたいときにどうぞ」

「ああ、俺も大丈夫だ、問題ない。だが……」

「だが?」

「この観客はなんだぁ!」

 ダルマは自分の左側に目をやった。そこには、それほど大きくはないが常設の観客席が設けられており、町の人々やゴロウ達が陣取っていた。

「これかい?ヒワダタウンはお話の舞台になりそうなほど田舎で、娯楽も少ないんだ。だから挑戦者が現れたときはジムを開放して、皆にバトルを見てもらうんだよ」

「なんじゃダルマ、この程度でおじ気付いたのか?わしが現役だった頃は……」

「べ、べつにそんなことはないぜ、ガンテツさん。それより、さっさと始めよう」

「それもそうじゃな。それではヒワダジムリーダーと挑戦者のジム戦を始める!ルールは3対3のシングルバトル。始め!」

「いくよ、ストライク!」

「頼む、アリゲイツ!」

 ダルマの2度目のジム戦の火蓋が切って落とされた。ダルマの先発はアリゲイツ、対するツクシの1番手はストライクである。

「お互い、最初から切り札を投入しやがったか。さてさて、どうなることやら」

 サトウキビが両者の解説を始めた。観客席ではツクシの応援が大勢を占めている。その中でゴロウとユミ、ミツバがダルマに声援を送る。

「こっちからいくよ、とんぼ返りだ!」

 先手は素早いストライクだ。ストライクは静かに移動し、アリゲイツの脇腹を両足で蹴った。その勢いと背中の羽で飛び上がり、ツクシのもとへ戻っていった。

「な、なんだこの技は?まあいいや、氷のキバ!」

 アリゲイツはストライクの攻撃を耐え、口に氷を溜めた。そしてストライクに襲い掛かった。

「ふふ、そううまくいくかな?」

 ツクシは不敵な笑みを浮かべた。すると、ストライクは急にモンスターボールに入り、かわりに別のポケモンが出てきた。

「ぐっ、なんだこりゃ!」

 ダルマが驚く暇もなく、アリゲイツは交代したポケモンにキバをむいた。しかし、そこまで効いてはないようだ。

「あれはトランセルか。ふん、薄々ジムリーダーの戦略が見えてきたぜ」

「どういうことですかおじさま!?」

「簡単なことさ。とんぼ返りは攻撃しながら交代する技。出てきたのはトランセルだ。ここから、やつの切り札がストライクであるのがわかる。つまり、他のポケモンで相手を弱らせ、ストライクで一気にけりをつけるつもりなんだろうよ」

 サトウキビの冷静な解説に、ゴロウ達のみならずヒワダの住人も驚嘆した。無理もない。ただ勝ち負けばかりに注目していたなか、突然戦略的な話をする者が現れたのだから。

「それで、ダルマ様はそのことを理解しているでしょうか?」

「……それは本人を見ればわかる」

 ユミはダルマを見た。ダルマは冷や汗をたらしながら歯ぎしりをしている。ついでに言えばやや前かがみだ。

「くそ、あのタイミングで勝手に交代するなんて。あのとんぼ返りとかいう技、中々厄介だな」

「どうだい、僕の戦い方は?ちなみに、このストライクは昨日の個体とは違うからね」

 ツクシとダルマ、2人の様子は実に対照的である。そのなかで次に動いたのはツクシであった。

「そっちから来ないならこっちからいくよ、むしくいだ!」

 ツクシの2番手のトランセルはぴょんぴょん飛び跳ねながらアリゲイツに近づいていった。

「くっ!戻れアリゲイツ、ゆけ、コクーン!」

 ダルマはアリゲイツをボールに戻し、コクーンを繰りだした。コクーンは鼻息荒く、いつでも戦える状態だ。

 トランセルは交代する間も距離を詰め、コクーンが出てきたと同時に噛み付いた。だが、コクーンにはかすり傷もついてない。

「へへ、あんたと同じことをやってみたぜ」

「なるほど、想像以上に吸収が早いね」

 ダルマはしてやったりの表情をとった。ツクシの目の炎は一層熱くなる。

「ならば……トランセル、体当たり連打だ!」

 トランセルは強硬手段にでた。体当たり連打で畳み掛けてきたのである。

「なんのなんの。負けるなコクーン、こっちは毒針だ!」

 コクーンも負けじと毒針で対抗する。お互い、どんどん体力が削られていくが、徐々にコクーンの毒が回ってきた。トランセルの顔は少しずつ青ざめていき、肩で呼吸をし、動きも鈍くなった。

「しまった、油断したか……!」

「いいぞコクーン、そのまま勝負を決めるぞ!」

 コクーンの攻撃はいよいよ激しくなった。昨日までの、のんびりしたビードルの面影はなく、素早い成虫を待つサナギがそこにいた。そして……

「トランセル!」

「むぅ、なんと!」

 そこにいた誰もがバトルフィールドの中央に釘付けとなった。ツクシのトランセルが倒れ、コクーンが誇らしく立っていたのである。

「……トランセル、戦闘不能!まずはダルマが一歩リードじゃ」

「やったぜ!どうだ、これが特訓の成果だ!」

 ダルマは握りこぶしを高く振り上げ、ガッツポーズを見せた。コクーンも跳ねる。

「すごいよダルマ君、あの短期間にここまで成長するなんて。けど、僕は負けない!」

 ツクシはトランセルをボールに戻すと、再びストライクに交代した。

「またストライクか、けど同じ手が2度も通用すると……」

「ふふ、それがするんだよ。とんぼ返り!」

 ストライクは、先程と寸分変わらぬ動きでアリゲイツを攻撃した。ストライクはそのままツクシのもとに戻っていく。

「なんの、水鉄砲!」

 アリゲイツは肩で息をしながらも、激流の弾丸を2、3発放った。ストライクにはまたしても当たらなかったが、交代してきたポケモンに1発当たった。

「あ、あれはコクーンか。あんたも持ってるのか」

「もちろん、僕は虫ポケモン博士だからね」

 ツクシは胸を叩いた。彼は中性的な見た目だが、れっきとした男なので胸はまな板である。

「コクーンを倒せばストライクは逃げられなくなる……ここが勝負だ、水鉄砲!」

「負けるな、毒針!」

 アリゲイツは、腹から出せるだけ強い力で水鉄砲を撃った。コクーンは毒を仕込んだ針をありったけ飛ばした。お互いの攻撃はほとんどがぶつかり相殺されたが、毒針1本、水鉄砲1発はそのまま相手の足元に届いた。

「どうだ……」

「……僕の勝ちだ!」

 ツクシが叫んだ。アリゲイツはその場に座り込み倒れた。コクーンは、震えているもののまだ立っている。

「アリゲイツ!くそー、よりによって最後がこいつか……ええい、もうどうにでもなれ!」

 ダルマはアリゲイツをボールに戻すと、半ば自棄になって3匹目のボールを投げた。ボールからは当然、今日生まれたあのポケモンが出てきた。

「これはカモネギ?にしては妙に若々しいなあ」

「うっ、まあな。ともかく、こいつで決着をつける!」

 ダルマがこう言っている間にも、カモネギはそこら辺をちょこまかと動き回る。それに応じて植物の茎に結んである布も揺れる。生まれてまもないのもあるが、中々落ち着きがない。

「さて、まずは動きを止めるよ、糸を吐く攻撃!」

「させるな、トドメのつつく攻撃だ!」

 コクーンはカモネギの右足を狙って糸を放った。カモネギはまんまとひっかかってしまい、そのまま転んだ。

「これで身動きはできない。勝負あった!」

「くそ!またしても負けてしまうのか……ん、あれは?」

 拳を握り締めるダルマは、あることに気付いた。カモネギの体から、わずかではあるが湯気が出ているのだ。

「ふん、運の良いやつだぜ、あいつは」

「おじさま、あれは一体?」

「あれは『まけんき』という特性が発動した時に現れる湯気だ。この特性の効果は、『戦闘中相手の技で能力が下がったら、攻撃が上がる』。この特性を持つカモネギは絶滅したと聞いたが、まさか生き残りがいたとはな」

 サトウキビは、僅かに興奮した口調で解説した。これを聞いて、ユミはもちろん、観客席はことの成り行きを固唾を飲んで見守った。

「なんだかよくわからないけど、いけそうだな。カモネギ、まずは糸を切るんだ!」

 さて、カモネギの特性など知りもしないダルマは、いちるの希望をかけて指示した。カモネギが思い切り茎を振ると、糸の束はいとも簡単に切れた。

「なに、あんなに簡単に……!」

「もらった、つばめがえしだ!」

 コクーンは口から糸を垂らしているので攻撃できない。その隙を突いて、カモネギは茎をコクーンの頭上に叩きつけた。蓄積したダメージもあり、コクーンは地に伏せた。

「よっしゃ、なんとか最後の1匹まで持ち込んだぞ!」

「これは不覚だったよ、コクーンの糸がああも簡単に破られるなんてね。じゃあ、いよいよこれで最後だ、ストライク!」

 ツクシは最後のポケモンであり切り札のストライクを繰り出した。これでお互い1対1である。

「何もさせないよ、つばめがえし!」

 先手はストライクだ。ストライクは一瞬にして消えたと思えば、カモネギの目の前に姿を現し右のカマで切り付けた。中々のテクニシャンであり、普通より切れ味が増している。

「ふふ、このスピードにこのテクニックを耐えるポケモンは少ない。君に勝ち目はない!」

 ツクシは勝ち誇った顔で勝利宣言をした。ストライクも羽をはばたかせている。だが、いつまでたってもカモネギが倒れる気配はない。

「……ついに来たぜ、逆転の風が!アクロバットをお見舞いだ!」

 カモネギはストライクの一撃を耐えていたのだ。不意の事態に虚を突かれたストライクは、カモネギのアクロバティックな茎さばきをくらった。

「い、一体どうなってるんだ!確かに当たったはず……」

「確かに当たった。まあ落ち着いてあれを見なよ」

 ろうばいするツクシのために、ダルマはこの事態の答えとなるものに向けて指を差した。その先には、カモネギの茎に結んである布があった。

「気合いのタスキ。俺が作ったんだ、中々よくできてるだろ?その証拠に、カモネギは見事耐えてくれた」

「気合いのタスキだって……!」

「これで最後だ、フェイント!」

 カモネギはトドメに入った。軽く茎でストライクをつつくと素早く右に動いた。ストライクは無意識のうちに反撃するが、当たらない。そして、カモネギはストライクの脇に茎を突き付けた。ストライクは観客席の前まで吹っ飛ばされ、倒れこんだ。

「むむ、そこまで!この勝負、1対0で挑戦者ダルマの勝ちじゃ!」

「……はあー、勝ったぁ!俺の勝ちだ!」

 ダルマは喜びを爆発させた。カモネギのもとに近寄ると、一緒に飛び跳ねた。そこにツクシも歩み寄ってきた。

「……おめでとうダルマ君。久々に熱いバトルができたよ」

「いやいや、あんたのおかげだ。昨日ボロ負けしてなかったら、ここまで上手くいかなかっただろうし」

「はは、そう言ってもらえると助かるよ。それじゃ、これがヒワダジム勝利の証、インセクトバッジだ!」

 ツクシはズボンのポケットから小さなバッジを取り出し、ダルマに託した。ダルマはそれをバッジケースに入れた。

「よーし、インセクトバッジ、ゲットだぜ!」


・次回予告:容量不足のため無し



・あつあ通信vol.2

容量ないので手短に。
タイトル決りました。「大長編ポケットモンスター『逆転編』」です。「だが断る」という方はどしどしお葉書ください。

あつあ通信vol.2、編者あつあつおでん


  [No.525] 第22話「深緑ティータイム」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/06/13(Mon) 21:11:57   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さて、ここらで一休みするか」

「賛成ー!わかってんじゃねえかおっちゃん」

 ポケモンリーグを目指すダルマとその一行は、ヒワダタウンを発ち、ウバメの森を歩いていた。緑豊かなジョウト地方で森と呼ばれるだけあり、ウバメの森は木々と水とポケモンで溢れかえっている。例えば、木漏れ日を追ってナゾノクサがまめに動く光景は、この森特有のものである。こうした風景が、旅人の感性をくすぐってきたのだ。

 そうした森の途中のやや開けた場所で、彼らは一息ついた。サトウキビは風呂敷を広げ、湯を沸かし、お茶をいれた。

「ほらよ、飲みな。今流行のナゾノ茶だ」

「な、ナゾノ茶?」

 ダルマは思わず、サトウキビから渡された湯飲みを落としそうになった。

「そうだ。ナゾノクサの葉っぱをむした代物だが、中々いけるぜ」

「……あの、おじさま?何だか、色が葉っぱに見えないですよ」

 ユミが湯飲みのナゾノ茶に目を向けた。通常ナゾノクサの葉っぱは緑色である。しかし、このお茶は明らかに落ち葉の色だ。

「なあに、むした茶にはよくあることだ。男は度胸、何でも試してみるもんだぜ」

 サトウキビは湯飲みを手に取ると、ナゾノ茶を喉を鳴らして飲んだ。飲み終わった彼は、頬を震えさせながらも笑っていた。

「こ、これは『ナゾノカブ茶』じゃねえか。どうりで苦いはずだぜ。誰だこんなもの入れた奴は」

「……どう考えてもサトウキビさんしかいないでしょう、自分のことは自分でやってますし」

 ダルマはため息をつき、自分の肩を軽く揉んだ。旅の荷物は見た目以上に重いので、長時間歩くと肩に痛みが出てくる。だからこうして肩をほぐすのは至って普通である。

「まあそうだがな。ところで、ちょっと聞いていいか?」

「なんですか?」

 突然、サトウキビがじっとダルマ達に注目した。サトウキビはナゾノカブ茶を飲み干すと、こう切り出した。

「お前さん達とはキキョウシティからヒワダタウンへの道のりで出会ったわけだが、何かあったのか?」

「へ?何かあったとは?」

 ダルマは少し拍子抜けしたような表情をとった。サトウキビは続ける。

「キキョウからなら、コガネかエンジュにも行ける。昔は道をふさぐポケモンがいたようだが、今はそういったこともない。なのになぜヒワダのような田舎に行こうと考えたのか、気になってな」

「なるほど。そういえばどうしてヒワダに行こうって話になったっけ?」

 ダルマはゴロウとユミに尋ねた。ゴロウは話を聞いてなかったのか、ナゾノカブ茶に手を出したようである。一方ユミは木漏れ日を浴びながら体を伸ばしている。ダルマはその光景に息を漏らした。

「確か、『色々な地域を回って見聞を深める』はずですわ」

「いや、『ジム線のために後から行くのが面倒だから先に行く』というはずだぞ?」

 ユミとゴロウはそれぞれ答えた。しかし、お互いの答えは全く異なっていた。

「なんだ、何となくこっちに来ただけか?」

「まあ、そういうことになりますね」

「そうか。まあいい、若いうちはそのくらい無謀でなくてはな。俺もお前さん達くらいの頃は……」

 サトウキビは徐々に舌が回ってきた。こころなしか、サングラス越しの目が輝いているように見える。

「へえ、サトウキビのおっさんにもやんちゃな時があったのか?」

「おい、俺はおっさんではないぞ坊主」

「そうですよゴロウ様。サトウキビ様はおじさまですよ」

「……フォローになってねえよ、お嬢ちゃん」

 このやり取りにより、森中に笑いがこだましたのは想像に難くない。彼らの旅は、まだまだ続く。


・次回予告

 門をくぐるとそこは、別の世界だった――。たどり着いた街は、ジョウト地方最大の規模を誇るコガネシティ。そこで見るもの聞くものは、全てダルマ達の常識を覆すものであった。しかし彼らが最も驚嘆した事実、それは……。次回、第23話「栄華の街、コガネシティ」。ダルマの明日はどっちだ!?


・あつあ通信vol.3

今回はメインキャラであるゴロウについて話します。
まず、彼がどうしてこの名前になったかについてです。覚えている方がいるかわかりませんが、GBCのクリスタルバージョンの30番道路に、「コラッタだけで最強になる!」と豪語する短パン小僧がいました。彼の名前がゴロウだったので、そのまま採用しました。現在ゴロウはコラッタ以外のポケモンを持ってません。とても意識しているわけです。

では、なぜたかだかモブ1人に愛着を持つのか。それは単純に「コラッタだけで最強になる」という心意気に感動したからです。ゆえに、「せっかくだから活躍させよう」とメインキャラとして使うのです。

ところで、前回の話では生まれたばかりのカモネギとストライクがバトルをしました。ゲーム的にはカモネギがレベル1、ストライクはレベル17です。本当に勝てるのか?と思った方もいるはずですが、何とかなります。まずコクーンの糸を吐くで負けん気発動、カモネギはコクーンを倒します。これでレベル10まで上がり、タスキ消費からのアクロバットとフェイントを叩き込みます。両方最大ダメージならばギリギリ撃破。ちなみに、経験値の計算はBWの式を使用しております。

それではこの辺で失礼します。ありがとうございました。


あつあ通信vol.3、編者あつあつおでん


  [No.547] 第23話「栄華の街、コガネシティ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/06/24(Fri) 18:43:45   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
第23話「栄華の街、コガネシティ」 (画像サイズ: 856×535 34kB)

「着いたぜ。ここがコガネシティだ」

「こ、これは……!」

 太陽が海に沈み、紺色の夜がやってきた頃、ダルマ達は新たな街の入り口にいた。既にヒワダを出発して3日が過ぎようとしている。まず目立つものとして、入り口に瓦を葺いた白壁の門がそびえている。門の上には物見やぐらが、脇には詰所がある。詰所には2人の見張りがあちこちに目をやっている。驚いたことに、2人とも小袖に肩衣、袴を着ている。

「ちょっと待ってな、話をつけてこよう」

 サトウキビはそう言うと、単身詰所に向かっていった。初めこそ門番は警戒していたようだが、突然サトウキビに頭を下げだした。しばらくしてサトウキビがダルマ達のもとに戻ると、大きな門の脇にある扉が開いた。

「開いたぜ。さあ、行こうか」

「すげーなおっさん、一体どうやったら触らずに扉を開けられるんだ?」

「はいはい、無駄口叩かずに行くぞ」

 ダルマはゴロウの襟を掴みながら、中に入るサトウキビの後に続いた。










「……見るもの全てが聞いた話とまるで違う」

「ま、そーゆーこともあるんじゃねーの?ダルマは特に」

「『百聞は一見に如かず』というやつですわね」

 ダルマ達は現在、夜のコガネ市街を歩いている。コガネシティはジョウト地方最大の都市として全国各地にその名をとどろかせているのだが、妙なことに4階以上の建物が全く見当たらない。あると言えば、街の中心部にある城と塔が1つ。夜といえど、ちょうちんがあちこちに吊されているおかげで、他の大都市に劣らず明るい。ただ、街の人々は他の街のそれとは雰囲気が異なっている。

「サトウキビさん、ちょっといいですか?」

「なんだ?金なら他をあたりな」

「この街……着物を着た人が多すぎないですか?」

「失礼なやつめ、何でもかんでも着物でくくるな」

 サトウキビは、やれやれと言わんばかりに首を横に振り、手を肩まで上げた。彼は続ける。

「いいか、一概に着物と言えど、様々な種類があるんだ」

「例えばどんなだ?」

「そうだな、例えば……さっきの門番が着ていた服は、内側は小袖、外側の短いのは肩衣という。小袖は袖口の狭い、足まである着物で、その上から袴を穿くんだ」

「では、普通の人達が着ているものは?」

「あれは着流しだ。ちなみに、腹の弱いやつは腹にさらしを巻いたりすることもある。まあ、これは現代でもたまにやるやつがいるみたいだが」

「では、あそこにいる商人らしき人が着ているのは?」

「あれは羽織だ。夜は冷えるからな、金持ちは上に1枚羽織るわけだ、文字通りにな」

「へえ、着物と言っても、色々あるもんですね」

「勉強になりますわ」

 ダルマとユミはサトウキビの話に感心しながら、目を左右にやった。ユミは写真も撮っている。

「さてお前さん達、そろそろ俺の家に着くが、時間があるならあがっていきな」

「え、サトウキビさんこの街に住んでるんですか?」

「おっさんの家ってどんな感じなんだ?」

「私は大丈夫ですが、よろしいのですか?」

 突然のサトウキビの提案に、ダルマは意表を突かれ、ゴロウは尋ね、ユミは気を遣った。

「大丈夫だ、問題ない。3人くらい造作もないことだ、ゆっくりしていきな」

 こう言うと、サトウキビはより速く歩を進めた。他にあてもないダルマ達はただただついていくのであった。









 街の外れに、サトウキビの家はあった。といっても、普通の人では家と言われても、どこに気付かないだろう。なぜなら、これは「家」というより「屋敷」といった方が似付かわしいほど広いからである。まず、1キロメートル四方もの敷地を漆喰と瓦の壁が覆っている。入り口の表札には「私塾がらん堂」と書かれており、門の奥に建物が見える。

 中も中ですさまじい。敷地内には並木道が通り、大小様々な平屋が立ち並ぶ。バトル用のスペースがあるかと思えば畑もあり、池と一緒に鹿威し、枯山水まである。良く言えば多様な、悪く言えば節操がない。しかし、あまりに広いのでそれぞれが同居することなく独立しており、不自然さは感じられない。

「ようやく帰ってきた。おーい、今帰ったぞ」

 ダルマ達は、最も大きな家屋の前にいた。サトウキビが引き戸を開けて中に入ると、皆も入った。玄関は一般的な家の倍はあり、四角い和風の電灯が照らしだしている。

 しばらくすると、大慌ての若者が続々とやってきた。例によって、彼らも

「おかえりなさいませ、先生!」

「出迎えご苦労。今日は客人を連れてきたのだが、もてなしてもらえるか?」

「はっ、すぐに!」

 若者達はサトウキビに敬礼すると、また大急ぎで屋敷の奥に消えていった。

「あのーサトウキビさん」

「なんだ?」

 サトウキビは履き物を脱ぎ、廊下を歩きだした。手を着流しの袖に入れながら腕を組んでいる。

「先生って言われてましたけど、もしかして……」

「……ああ、その通り。俺は『私塾がらん堂』の塾長だ。もっとも、普段は機械整備や鍛冶なんかをやっているわけだが」

「塾長!俺の予想の斜め上をいくとは……おっさんスゲーな」

「まあ、あれだけ大勢かけつけるくらいだし、変じゃないかな」

「さあ、わかったらあがれ。大方、若いのに足が棒になっちまったようだしな」

 サトウキビの正体を知ったダルマ達は、靴を脱いで廊下を歩いた。途中、何箇所かの曲がり角を通り抜け、ある部屋の前で止まった。サトウキビがふすまを開けると、目の前に畳が広がった。その部屋は30畳ほどの広さがあり、真ん中には座卓が、部屋の隅には文机とあんどんが置かれている。文机は右側に引き出しがあるタイプで、顔が映りそうなほど磨かれている。

 サトウキビは部屋に入ると、押し入れから座布団を4枚取出し、自分はそのうちの1枚にあぐらをかいた。

「楽にしてな。じきに茶が来る」

「え、お茶ですか?またナゾノカブ茶じゃないでしょうね」

「心配無用、ここは俺の家だ。最高に上手いナゾノ茶がたっぷりある」

 ダルマ達が怪訝な表情を浮かべていると、誰かが入ってきた。着物の上に白衣を着た怪しい男である。手には4つの湯飲みを乗せたお盆を持っている。

「お待たせしました、どうぞごゆっくり」

「あ、どうも。……あれ、あなたはもしかして」

 ダルマは思わず男の顔を凝視した。そしてアッと声を上げた。

「あなたはパウルさんじゃないですか!」

「お、誰かと思えばアルフの遺跡で会った少年達ではないか。先生の客人だってね?」

 白衣を着た男はパウルであった。パウルは湯飲みを置きながら白い歯を見せな
がら思わぬ再開を喜んだ。

「パウル、知り合いなのか?」

「はい。遺跡での仕事が終わる数日前にたまたま。いろいろ話していたのです
が、特に彼女には貴重な発想をしてもらいまして」

「ほう、なるほど。お前がそう言うとは……なかなかできるみたいだな」

 パウルの話を聞き、サトウキビは心なしか頬を緩ませた。そこには旅の間感じられなかった雰囲気があふれている。

「おじさまとパウルさんはどういう関係なのですか?」

 お茶を飲みながら、ユミが尋ねた。よほどうまいのだろうか、熱々にもかかわらず一気飲みをしている。

「見りゃわかるだろ、パウルは俺の弟子の1人だ。その中でも最初の1人であ
り、また最も優秀だ」

「へえ、じゃあバトルは強いのか?」

 舌を出しつつゴロウも尋ねる。どうやらゴロウには少々熱かったようだ。

「もちろんバトルも強い。俺とまともに勝負できる奴は、弟子の中では多分こいつくらいだ。……しかしパウルの専門は歴史や考古学。この分野では弟子の中でまず1番だ」

「サトウキビさんは歴史はやらないのですか?」

「少しはやるが、道楽みたいなもんだ。俺の専門は科学でね、歴史や哲学は教養としてやる程度なんだよ」

「か、科学者でも歴史なんてやるんですか?」

「まあな。新しい発見をするのに様々な知識や感性がものを言うというわけだ。それに、俺がやってるのはまだまだ少ないほうだ。実際、俺の弟子の中には歴史や哲学のみならず、美術に音楽、他の言語までやる奴もいるぜ」

「ふーん……俺もやってみようかな、何か」

「ゴロウの場合、寝る前に勉強した方が良さそうだな。便利な睡眠薬になりそうだし」

 ダルマは皮肉っぽくゴロウに言った。それを聞いて、皆は声をあげて笑うのであった。






・次回予告

ダルマ達はコガネシティの実情を知り、ただただ驚くばかり。そんな彼らに、とある誘いがやってくる。次回第24話「海の誘い」。ダルマの明日はどっちだ!?


・あつあ通信vol4.

前回のタイトル「深緑ティータイム」は、けいおん!の「放課後ティータイム」をもじったものなんですよね。けいおん!は1話しか見てないのであまり詳しくは知りませんが、たしかグループの名前でしたよね?これに反応してニヤリとしてもらえれば幸いです。

さて、遂に来ましたコガネシティ。サトウキビの素性もはっきりし、パウルさんが再登場と、やっと「大長編」の名前に恥じないストーリーになってきたと思います。以前も触れましたが、もう一息で物語も後半です。毎回拍手及び閲覧してくださる皆様、これからもよろしくお願いします!また、知恵を授けてくださったチャットの皆様、ありがとうございます。

ちなみに、この連載でのコガネシティのイメージは「江戸時代の大阪」です。江戸時代なんて描写したら興ざめなので、ここで補足しておきます。まあ、一番上に地図を載せているので、そちらを参考にしてください。


あつあ通信vol.4、編者あつあつおでん


  [No.581] 第24話「マルチプレイヤー」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/07/11(Mon) 19:14:57   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「あの、サトウキビさん?」

「どうした朝っぱらから。朝飯ならもう食っただろうが」

「いやいや、そうじゃないです。今から行く場所はどこなんですか?」

「なんだ、そんなことか。今から行くのは俺の職場だ」

「職場?塾の先生じゃないんですか?」

「ふん、俺は仕事を掛け持ちしてるのさ。1つは塾の経営者、1つは技術者。そしてもう1つは……さあ、着いたぞ。ここが俺の3つ目の職場だ」

「しょ、職場?これがですか?」

 ダルマは思わず声を上げた。目の前にそびえたつのは、昨日の夜見えた城である。石垣に瓦ぶきの屋根、そして中型ビルほどの高さは、絵巻物に出てきかねないほど豪華と言える。城の周りの広大な敷地は塀で囲まれており、敷地内には大小様々な建物が連なる。そこを大勢の人達が往来する。一見街中と勘違いしそうになる人だかりだ。

「そうだ。ここはコガネ城と言ってな、コガネの新名物であり、街の運営拠点でもある」

「運営拠点?では役所でもあるんですか?」

「そうだ。まあ、俺は役人ではないがな。ついてきな」

 サトウキビは城の中に入っていった。ダルマ達も後に続く。

 城の中も、外装に負けず劣らずなものである。まず、入ってすぐ飛び込むのは「会議室」と墨で書かれた木札のかかった部屋だ。部屋の左側には「会議傍聴席」とかかれた札と引き戸がる。引き戸の付近には黒山が集まっているが、サトウキビは気にすることなく右側へと向かった。しばらくすると「市長室」の札と障子が見えてきた。サトウキビは障子を静かに引いた。

「おお、やっと戻ってきたか!待っておったぞ」

 部屋に入ると、背の低い男がサトウキビを迎え入れた。紋付きの羽織袴に口髭をたくわえ、手には何枚かの紙を持っている。不毛の大地と化した頭からは、汗が流れている。

「ただいま戻りました。なにぶん今回は連れがいましたものでして」

「連れというと、この子達か?」

「その通りです。さて……」

 男とひとしきり話し、サトウキビはダルマ達に向かって言った。

「お前達、今から俺は仕事にかかる。この部屋を出てから左に『会議傍聴席』と書かれた札があるから、そこの部屋で待ってろ。じきに俺も行く」

「ちょ、ちょっと待ってください。結局、サトウキビさんの職業は……」

「それはすぐに分かる。とにかく今は時間が無いから、早く行け」

「はあ、わかりました。行くぞ、ゴロウ、ユミ」

 ダルマはサトウキビの言われた通り、部屋を出て左に進んだ。しばらくする
と、先ほどの『会議傍聴席』と記された札が見えてきた。その周りには、なおも大勢の人が集まっている。

「会議って、サトウキビさん一体何をやるんだろ」

「雑用じゃねーのか?」

「お茶汲みの可能性もありますね」

「……お茶汲みは雑用とほとんど同じだよ」

 ダルマ達は他愛もない雑談をしながら、傍聴席の最前列中央に腰を下ろした。会議室は傍聴席とつながっており、間には手すりが設置されている。会議室の席には議員席、議長席、市長席と書かれており、傍聴席と議長席が向かい合う形となる。議員席は2つに分かれており、議長席と傍聴席との間で向かい合う。また、市長席と議長席は並んでいる。会議室の時計は9時57を指しており、席は全て埋まっている。ただ1席、市長席を除いて。

「おいおい、遅刻か?市長が遅刻なんて、この街も終わりだな!」

 傍聴席からは、慣れた感じのヤジが飛ぶ。それに呼応するかのごとく、会議室に2人の男が入場した。1人は空の市長席に座り込んだ。もう1人はサトウキビで、男の隣でしゃがみこんだ。

「あれ、あの人はさっきの部屋にいた方ではありませんか?」

「確かに。あの席に座ったということは、もしや……」

 ダルマは顎を左手で触り、右手で左ひじをおさえた。

 そうこうするうちに、会議が始まった。まず、議長席に座った男が口を開いた。

「ええー、ただいまより、本日の会議を始めます。本日の議題は……」

「もちろん、『カネナルキ市長の賄賂問題』についてでしょう」

 議長の言葉を遮り、1人の議員が挙手をした。すると大勢の議員から拍手が巻き起こった。

「カネナルキ市長は、ある企業から不正に金品を受け取っていた。これを一週間に渡って追求した。もう話し合いの必要は無い!我々は、市長の辞任を要求する」

「こら、イブセ君。人の発言は最後まで聞きなさい!」

 議長が議員の1人、イブセなる男を諌めた。

「……議長。1つ市長側から言わせてほしいことがあるのだが」

「今度はサトウキビ君ですか。今日も朝から大荒れですねえ」

「イブセ議員、この賄賂についてだが……誰が持ってきたのかはわかってないのか?」

「誰が持ってきた?くくく、面白いことを言う。君はいつもそうして問題をうやむやにしようとする。君も市長と一緒に辞めたいのかな?」

「ふん、今回はあんたが話をごまかしているようにしか見えないがな。まあい
い、知らないなら教えてやる。今回市長に賄賂を渡したのは、両替商コガネ屋……あんたの有力支持者だ」

「こ、コガネ屋だと!?ばかな、やつらは私が手なずけたはずだ!」

 サトウキビの一言に、会議室は嵐に見舞われた。事情を察した傍聴席からは、市長のみならずイブセ議員にもブーイングが浴びせられ、議員席からは驚嘆の声が相次ぐ。イブセ議員は手元の資料を握りしめ、サトウキビはしたり顔だ。彼は攻撃を続ける。

「今の言葉、聞き捨てならねえな。それじゃあまるで、『金を握らせてコガネ屋に自分を支持させていた』と言ってるみたいなもんだ」

「ち、違う!私は……」

「ついでだから言っておいてやるが……手なずけておいたにも関わらず他の議員に賄賂を渡した。これが意味することは何か?答えは簡単、あんたはその程度にしか考えられていないということだ」

「……一体、何が起こっているのだ!私が、議員の中で最も強い力を持つイブセが、こうも手玉に取られるとは……」

「以上だ、議長」

「やれやれ、これでひと段落ですかな。それでは、今日の本題に入りますか」













「どうだ、これがおれの3つ目の職業だ」

 時刻は午後の3時、あたりではポケモン向けのお菓子であるポロックやポフィン、煎餅の匂いが立ち込める街中を、ダルマ達は歩いていた。道沿いには川が流れており、海へとつながっている。海には港があり、そこに豪華客船と呼ぶにふさわしい大きさの船が煙をふかしている。

「まさか、コガネ市長の秘書だったとは……いつもあんな感じなんですか?」

「まあな。普段は政策立案から街の調査、資金集めなんかもやるが、市長がやばくなったら助け船を出したりすることが多いな」

 ダルマの問いに、サトウキビは静かに答えた。

「例えば、この街がこのような風景になったのも、俺の発案が元になっている」

「おじさまがこのようなことを進めたのですか?」

「そうだ。コガネの近くにはエンジュシティがあるが、あそこは風景を非常に重要視してきた。おかげで観光客やトレーナーからは大人気だった」

「だった?今はそうじゃねーのか」

「……よりにもよって、昔のコガネをモデルとした大都市を目指したわけだ。その結果、中途半端にビルが立ち並び、風情ある景観は潰されていったのさ。そして、観光客は激減。今では体の良い田舎町だ」

「それで景観を重要視しようと?」

「そうだ。コガネは元々大都会で収入はある。そこで、街をあげて大々的に改修工事に取り組んだ。大きな出費だったが、長い目で見れば大成功。カントーのタマムシシティを超えたとまで言われている」

「なるほど。しかし、こうした景観が嫌いな人もいるのでは?」

「確かに、結構いたな。そのために、地下街を作った」

「地下街ですか?」

「そうだ。『ニューコガネ』と呼ぶんだが、地上の家と地下の家がつながっていて、地下から外に出れば、そこはもう昔のコガネだ。繁華街に庭園、ゲームセンターなど、他の街に匹敵する設備が自慢だな」

「あっ、地上に平屋が多いのはもしかして……」

「その通り、地下があるからだ。これで上手く反対派を丸め込んだのさ。他にも、市民や観光客にバッジを配布して、連帯感を強めるといったこともしている。こういう街は皆が仲良くしないといけないからな」

 サトウキビは胸を張って答えた。

「……ところで、今日はこれから仕事があるんだが、来てみないか?」

「え、またですか?俺、ジム戦がしたいんですけど」

「俺もやりたいぞー!」

 サトウキビの唐突な提案に、ダルマとゴロウは声を上げた。

「心配するな。今日の仕事場にはジムリーダーがいる。もちろんジム戦だってできる」

「本当ですか!それを先に言ってくださいよ」

「それで、おじさまの今日の仕事場はどこなんですか?」

 ユミの問いに、サトウキビは指差しで答えた。彼の人差し指の先は、港にたたずむ船を示した。

「今日の仕事場は船だ。市長の資金調達パーティーの手伝いをするのだが、人を呼ぶように言われてるもんでね」

「パーティーですか……ダルマ様とゴロウ様はどうしますか?」

「もちろん行くぜ!ジムリーダーに勝って、ダルマを悔しがらせてやるよ!」

「俺も当然行くよ」

「……決まりだな。それじゃあこっちだ、ついてきな」

「はーい。ゴロウ、ユミ、行くぞ」

 今日の目的地が決まったダルマ達は、意気揚々とサトウキビについていくのであった。



・次回予告

船に乗り込んだダルマ達は、ひょんなことから売店を訪れることに。そこである男と出会う。彼は一体何者だ?次回、第25話「つなぎの男」。ダルマの明日はどっちだ!?



・あつあ通信vol.5

サトウキビさんがどんどん超人に迫ってきました。彼はレオナルド・ダ・ヴィンチ程ではないにせよ、万能人をモデルにしています。まあ、しばらくの間は出ないので、次は少し普通の話になると思います。もちろん、後半への繋ぎをしっかりさせるので、是非とも見てください。

あつあ通信vol.5、編者あつあつおでん


  [No.607] 第25話「つなぎの男」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/07/30(Sat) 07:16:44   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「それじゃ、お前達はのんびりしてな。俺は仕事に行ってくるぜ」

 ここはコガネシティの港、先ほど話題に上がった船が停泊している。サトウキビはこう言い残すと、静かに歩きだした。行き先はもちろん、目の前の船であ
る。2本の煙突からは白煙を吹き出し、波間に漂うことなく構える鉄の塊に、人が続々と入り込んでいく。その様子は、さながら豪華客船と言っても差し支えないだろう。

「それじゃ、俺達も行くか。えーと、まずは……」

 サトウキビを見送り、ダルマ達も乗船口に近づいた。そこには受付がおり、不審者がいないか目を光らせている。

「すみません、乗船の受付をお願いしたいのですが」

「ん?君達、とても今日のパーティーに参加するような人には見えないが、何か証明書とかあるかな」

「証明書はありませんが、サトウキビさんが……」

 ここまでダルマが言いかけると、突然受付の背筋が伸びた。

「もしや、君達が先生の客人なのかい?」

「え、ええ。そういうことになります」

「先生の紹介なら大歓迎だ、乗ってくれ。」

「あ、ありがとうございます。けど大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題ない。俺も先生の弟子の1人でね、今日は客人を連れてくると言われていたんだ」

「え、がらん堂の人なのですか?」

「そうさ。今日は大半の弟子がパーティーに駆り出されているんだよ」

「そうですか。それでは、お言葉に甘えて行ってきます」

 ダルマは頭を下げると、船内へ架かる階段を上っていった。ゴロウとユミもそれに続くのであった。

「いってらっしゃい、どうぞお元気で!」







 船はホラ貝のように汽笛を鳴らすと、港を出港した。一時の船旅の始まりである。ダルマはゴロウとユミに尋ねた。

「さて、まずは何をする?」

「そうですね、ちょっとお買い物をしませんか?」

「へ、お買い物?」

 ユミの答えに、ダルマは頭にクエスチョンマークを浮かべた。

「これだけ大きな船でしたら、お店があると思うんです。これからも旅は続きますし、必要なものは買い足しておいた方が良いと思いますよ」

「そうだな……ゴロウはどうだ?」

「俺は別に構わないぜ!まだ飯の時間には早いからな」

「そうか。じゃあまずは店を……お、あんな所に売店が」

 ダルマが目をやった先に、都合良く売店があった。彼らはそこへ向かうと、物色を始めた。

「そうだなあ、ポケモン図鑑とか置いてないかな?」

「ダルマ様はまだ図鑑を持っていませんでしたよね?」

「そうそう。ポケモンのことに詳しいわけでもないし、あると助かるかなってね」

「お、これは何だ?」

 ゴロウはふと品物を手に取り、ダルマとユミに見せた。胸ポケットに入るくらいの手帳に見えるが、一方に液晶画面がついている。また、もう一方にはスピーカーとマイク、数個のボタンがついている。外装は昔の紐とじの本のようだが、材質は樹脂である。売れているのか、棚に置いてあるのは3つだけだ。

「これはポケギアか?それともポケモン図鑑?」

「どちらとも取れますが……どうなんでしょう?」

「それはポケモン図鑑付きポケギアだよ」

 突然、背後から声が聞こえてきた。ダルマ達が振り向くと、そこには1人の男がいた。色あせた紺のつなぎを着ており、あちこちがすすけているが、左胸には「ボルト」と書かれたアップリケが縫い付けてある。坊主頭が目立つ。また、腰にトイレットペーパーの芯程度の太さがあるスパナを提げている。

「あのー、どちら様ですか?」

 ダルマは男に話しかけた。男は静かに答えた。

「僕かい?僕はボルト、しがない技術屋だよ」

「技術屋さんでしたか。随分詳しいですね」

「ああ。何せ、それは僕が開発したからね」

 男、ボルトの言葉に、思わずダルマは声を上げた。その様子を見て、ボルトは頬を緩ませる。

「コガネシティでしか販売されてないからね、知らないのは無理もない。けど、これからどんどん人気が上がってくるよ。既に雑誌とかでも紹介されつつあるしね」

 ボルトは雑誌置き場から1冊引き抜くと、手慣れた手つきで真ん中のページを開いた。そこには「これは流行る!今話題の複合型ポケモンギア」という大見出しがうってある。

「なるほど……確かに流行っているみたいですね」

「そうだ!俺達もこれ買っていこうぜ」

「おいおい、一体どうしたんだゴロウ」

 ゴロウらしくない発言に、ダルマは目を丸くした。

「これから人気になるなら、俺達も流行に乗っとこうぜ。トレーナーも人間、お洒落くらいしねえとな」

 ゴロウは胸を張って答えた。ボルトは笑いながら雑誌を元の場所に戻す。

「ハハッ、そりゃ良いな。他の奴らにもどんどん宣伝してくれよ」

「おう、任しとけ!」

「……ところでボルト様、今日はどういう御用事なのですか?」

「用事?ああ、今日は市長の献金パーティーの日だから、つなぎ姿のおじさんは目立つよね。僕は今日のパーティーに出席するんだよ」

「えっ、その姿でですか?」

「いや、もちろんパーティーには背広で出席さ。僕は船が出発するまでの準備も任されていたんだよ。出発してからはサトウキビさんと交代したけどね」

「へぇー、サトウキビのおっさんは船の手入れもできるのか!一体何者なんだ?」

 ゴロウは感嘆のため息をもらしながらつぶやいた。ボルトもこれに同調する。

「まったくだよ。あの人は普通では考えられないくらい仕事の幅が広い。今回のパーティーを企画したのも彼らしい」

「まあ、市長の下で仕事してますからね」

「そうだね。しかし彼はしたたかで、さりげなくコガネの宣伝もしている」

「と、言うと?」

「僕はコガネで町工場を経営しているんだけど、この度新しい商品を開発したんだ。これを市長に売り込んだわけだけど、相手にもされやしない。しかしサトウキビさんがそれを見るなり、『献金パーティーを兼ねた販売会を開きましょう』と進言したんだ。おかげで今回の企画が実現したというわけさ」

「な、なるほど。……ところで、その新商品って何ですか?」

 ダルマは何気なく、ボルトに尋ねた。ボルトは輝く海のような目をしながら答えた。

「お、食い付いたね。本当はまだ見せてはいけないんだけど……ついてきなよ、見せてあげるから」

「よろしいのですか?大事なものなのでしたら販売会まで待ちますわ」

「気にしないで良いよ。あれがばれてまずいのは、金持ちくらいだし。彼らに考える時間を与えないためにも、なるべく見せないようにしてるんだ」

「なるほど。それでは俺達も他言しないようにしますね」

「助かるよ。じゃあ、そろそろ行こうか。あ、図鑑はちゃんと買っといてね」

「はーい。さすがにしっかりしてるや」

 ダルマ達はコガネ限定ポケギアを買うと、船内の奥へ進むボルトについていくのであった。








・次回予告

ボルトに連れられ、ダルマ達は彼の「傑作」を見せてもらう。それは、世界中を驚愕させうるとんでもないものだった。次回第26話「レプリカボール」。ダルマの明日はどっちだ。



・あつあ通信vol.6

最近話が増えて地の文が減っていると感じているのですが、皆さんはどう感じますか?分かりにくいならもう少し説明を増やしますし、今ので大丈夫ならそのままいきます。皆さんの意見を聞かせてもらえれば幸いです。

あつあ通信vol.6、編者あつあつおでん


  [No.620] 第26話「レプリカボール」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/07/31(Sun) 13:34:53   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


※この話では、独自の世界観を振り回す場面があります。この話を飛ばしてもストーリーの理解にそこまで支障は出ませんので、こうした設定を好まない方は飛ばしてください。




「さあ、こっちだよ」

 ボルトは船内のある部屋の前で止まった。扉には「新製品販売会会場」と書かれた紙が貼られている。

「ここにあるんですか?」

「そうそう。見つかったら怒られちゃうから、そっと入ってね」

 ボルトは右左を確認し、もう一度右を見ると、そそくさと部屋の中に入って
いった。ダルマ達も忍び足で潜り込んだ。

「おいおい、ここ真っ暗じゃねーか!」

 ゴロウが叫ぶ。部屋は二重のカーテンが閉められており、電気も消されてい
る。おかげで、まだ夕方にもかかわらず一条の光すら届かない。

「じゃあ電気点けるよー」

 ボルトは壁をまさぐると、電気のスイッチをオンにした。小気味良い音と同時に、眩い光が辺りを照らす。

「あら、もしかしてあれが?」

 ユミが部屋の奥にあるものを指差した。そこには白い布を被った、大人の背丈ほどある何かが鎮座している。

「その通り、これこそ私が作った作品の中でも最高傑作だ。これが初公開、君達はついてるね」

 ボルトは鼻歌を歌いながら布を取り払った。ダルマ達の目の前に、まだ世間で全く知られていない、新しい道具が姿を現した。それは道具というよりむしろ機械である。コンピューターが、本来の10倍くらいの厚さの自動販売機そっくりな機械につながれており、そばには見たことのない柄のボールが置いてある。

「これは一体?」

「これこそレプリカボール。世界をアッと言わせる秘密道具さ」

「レプリカボールとは、どのようなものなのですか?」

「お、気になるみたいだね。……レプリカボールは、簡単に言えば『モンスターボールの進化形態』なんだよ」

 ボルトは胸を張って答えた。これにゴロウが詰め寄る。

「おいおい、それじゃ訳が分からないんだけど。結局、何に使うの?」

「ははは、こりゃ参った。それでは改めて……レプリカボールは、普通に使えばモンスターボール以下の性能のボールさ。しかし、こいつの凄いところはそんな点を霞ませるほどのものなんだよ」

「それはどういうものなんですか?」

「うんうん、良い質問だね。モンスターボールはポケモンのデータを取ることで保存、携帯を可能にするんだ。けど、ポケモンというのは複雑な生き物でさ、データ移動やポケモンセンターでの回復くらいしかできなかったわけ。しかしこのレプリカボールなら、そのデータを基に『複製』ができるんだよ」

「複製、ですか。随分突然な話ですね」

 ダルマは首をかしげた。ボルトは得意げに続ける。

「何かを入れたボールをそこの機械にセットする。そしてコンピュータを使って機械を動かす。しばらくしたら、受け取り口から複製されたものが出てくるから、そいつを回収すれば完了だ。こいつのすごいとこは、ポケモン以外でもデータの保存ができる。それゆえ、いままでたくさん作ることができなかった職人の技を大量生産することもできるんだよ」

「そ、それは確かに……凄いですね」

「だろう? まあ、値段が少々高いのが玉に瑕なんだけどさ」

「おいくらなのですか?」

「……本体の複製機が1台300億円、ボールが1個100円、複製の材料は1キロ300円だ」

「それ、どう考えても少々ってレベルじゃないですよ」

 ダルマは半ば呆れながら、その高価すぎる機械を眺めた。ユミ、ゴロウも同様である。

「そうでもないもんだよ。何せどんなものも複製できる。その気になれば君達を5人にすることもできるくらいだ。金持ちからすれば、これほど便利な代物もないんだよ」

「はあ、そうなんですか。ところで、原料には何を使うんですか?」

「そうだねえ、ポケモンの複製をするなら、水、木炭、空気、硫黄、リン辺りかなあ」

「……何だか、妙に現実的ですね」

「そりゃ仕方ないよ、これは科学の結晶だからね」

 ボルトは腕時計を眺めた。時刻は午後5時23分を指している。

「それじゃ、そろそろ……」

 ボルトが言いかけた時、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、頭が寂しい、ダルマ達が先ほど見かけた人物である。

「む? ボルト、これはどういうつもりじゃ。部外者なんぞ入れおって」

「これはカネナルキ市長、申し訳ありません」

「あれ、あなたはコガネ城でサトウキビさんと一緒にいた人じゃないですか」

 ダルマは入ってきたカネナルキに話しかけた。カネナルキは初め、汚いものでも見るかのような目をしていたが、急に頬を緩ませた。

「おお、あんた達は今朝見たの、確かサトウキビの連れじゃったの」

「はい、俺はダルマです。彼女はユミ、この男はゴロウです」

 ダルマは2人を紹介した。市長は満面の笑みでこれに答える。

「うんうん、よろしくの。それにしても珍しいの、あの男が誰かを連れてくるとはな」

「と、言うと?」

「うム。あやつは普段から素性を隠しておるじゃろ?」

「確かに、寝る時までサングラスをかけているくらいですからね」

「そうじゃ。がらん堂の門下生でさえ誰も知らないというし、優秀じゃが怪しいと言わざるを得ん。じゃからわしが独自に調べているが、もう少しではっきりしそうじゃ」

「へー、よく調べたなおっさん。サトウキビのおっちゃんってどんな人なんだ? わかっている範囲で良いから教えてくれよ」

「そうじゃの……いや、これはわしの足で稼いだ貴重な情報じゃ、そう簡単には教えられんのう」

「ちぇっ、つまんねえの」

 ゴロウの言葉に、カネナルキは高笑いをした。それからすぐに目付きが鋭くなり、ボルトにこう言い放った。

「それよりもボルト、6時半から販売会の打ち合わせじゃ。着替えたらわしの部屋に来い。ついでじゃから、わしのとっておきである新しい服を見せてやろう」

「どんな服なんだ? やっぱ着物か?」

 ゴロウが興味津々そうに聞いてきた。カネナルキは悦に入った表情になる。

「ふふふ、それは秘密じゃ、せっかくのお披露目じゃからの。ただ、あえて例えるなら『真っ赤』じゃな」

「真っ赤、ですか。それは、何ていうか……楽しみですね」

「そうじゃろうそうじゃろう。ではわしはそろそろ部屋に戻る。いいかボルト、このわしを待たせるでないぞ」

 カネナルキはこう言い残すと、鼻息荒いまま部屋を後にした。

「……なんだか、随分横柄な態度でしたね」

「そうですね。コガネ城で見かけたときはおどおどしていましたのに」

「……あの人はサトウキビさんの力で、激戦区と言われるコガネ市長の座に長いこと君臨している。きっと勘違いしているんだろうさ」

「はあ。色々大変なんですね」

「そんなことはないさ。何を言われようが、やっと掴んだチャンスだ。レプリカボールの性能を知らしめた暁には、それを馬鹿にしたあの人を思い切り叩いてやるだけだよ」

「そりゃ面白そうだな、俺も混ぜてくれよ!」

「ハハハ、それは心強い限りだ。機会があれば是非とも頼むよ」

 ボルトは笑いながら部屋の扉に近づいた。ダルマ達も彼にならい、そのまま部屋を出た。

「さて、しばしお別れだ。販売会でまた会おう。それまではデッキでバトルでもやってたらどうだい? 今日はジムリーダーも来てるみたいだしね」

「あ、そうでした。元はと言えばそのために来たんですよ」

「そうかい、じゃあ頑張りなよ。ここのリーダーはかなり手強いからね。……それじゃ、また後で」

 ボルトは一礼をすると、ふらふらと歩いていった。ダルマ達は彼を見送ると、一路デッキへ駆けるのであった。





・次回予告

コガネシティジムのリーダーと戦うダルマだったが、リーダーのポケモンは予想外の戦いを繰り広げる。果たして彼に勝機はあるのか。次回第27話「コガネジム前編、悪あがき作戦」。ダルマの明日はどっちだ。



・あつあ通信vol.7

 今回は、ある意味とんでもないものが登場しましたね。あらゆるものを複製できる機械が実在するなら、偽札が大流行するでしょう。これで得をするのは流通していない2000円札くらいかな? どちらにせよ、あったらあったで危なっかしい機械になるでしょう。やはり、みんな違ってみんないいという言葉が全てを物語っていますね。


あつあ通信vol.7、編者あつあつおでん


  [No.626] 第27話「コガネジム前編、悪あがき作戦」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/06(Sat) 09:22:32   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]








 ノックをする音が聞こえる。扉が開く。中にいる人物が声を上げる。

「……なんじゃ、お前か。今わしは着替え中、手が離せん。そんな作業服の格好でわしの部屋に入るとは、お前も偉くなったもんじゃい。しかし、打ち合わせはまだじゃろうがはっ」

「……ふん、貴様には2つの罰を受けてもらうぜ。1つはこれ、2つ目は海の藻屑だ。悪く思うなよ、当然の報いなんだからな」








「お、やってるやってる」

 時刻は5時半を回り、雲の合間で太陽は帰り支度を始めたようだ。ダルマ達はデッキにたどり着いた。そこでは、既にバトルが行われていた。恰幅の良い紳士にスーツを着た子供など、顔ぶれは様々だ。しかし、皆そこまで真剣というわけではない。

「さすがにパーティの参加者だけあって、みんな金持ちそうだ」

「ですが、バトルにはあまり興味なさそうですわね」

「弱いからやりたくないんじゃねえか?」

「ハハハ、それはあるかもな」

 ダルマ達は周囲にわかるくらい大きな声で笑った。それを、人々は遠巻きに眺める。

「ところで、ジムリーダーってどんな人なの?」

「あ、そういえば聞いてませんでしたね」

「そうだなー、何か目立つ物でも持ってりゃわかりやすいのになー。例えばバッジとか」

 ゴロウがそうぼやいた時だった。浴衣を着た赤髪の女性がダルマ達の方に振り向くと、そのまま1人で近寄ってきた。浴衣は白い生地を使っており、裾は赤紫。右肩から左脇にかけて緋色の紅葉が舞う。帯も燃えるような朱色で、背中には団扇を挿している。

「ちょっと、皆はん見あらへん顔やけど、どないしたん?」

「それが、ここにコガネジムのリーダーがいるって聞いたんですけど」

「ジムリーダー? そらうちのこってんちゃう?」

「えっ、あなたがジムリーダーですって?」

「そうやねん。ジムリーダーのアカネはうちのこって」

 浴衣の女性アカネは、目を丸くするダルマ達を見回しながら団扇を手に取った。

「……思ったより早く見つかりましたね」

「確かに。あの……」

「あ、硬い話はなしでぇな。バトルやろ?」

「は、はい。ジム戦お願いします」

 ダルマはバトルの申し込みをした。アカネは大きなのびをすると、こう答えた。

「ええよ、始めようか。うち、弱いトレーナーばっかりで退屈やったんや」

「あ、ありがとうございます」

「おいダルマ、バトルは俺が先だからな!」

「なんでだよ。俺が頼んだから俺が先だ」

「く、くそー。早く声かけときゃ良かったぜ」












「ほんなら、使用ポケモンは2匹でええ?」

「2匹ですか。わかりました」

 ダルマ達はデッキの中心にあるステージに移動していた。辺りには大勢の見物人が集まっていた。中には金を賭ける者までいる。オッズを見る限り、ダルマはかなり不利だ。

「ほな、始めさせてもらうか。ピッピ!」

「……コクーン、出番だ!」

 アカネとダルマ。コガネジム戦の幕が切って落とされた。ダルマの先発はコクーン、アカネの1番手はようせいポケモンのピッピである。

「あれがピッピか。早速図鑑の出番だな」

 ダルマはポケットから買ったばかりの図鑑を取り出し、ピッピを調べた。ピッピは人里離れた山奥に住んでおり、発見するのは難しい。様々な技を覚え、物理、特殊、耐久と、あらゆる可能性を持つポケモンである。

「よし、これでいいか。ではコクーン、まずは毒針だ」

 先手はコクーンからだ。身体中から針を出すと、ピッピ目がけて飛ばした。ピッピは踊るように避けていたが、針の1本が右足に刺さった。針に塗ってある毒が、ピッピの体内に入り込む。

「よし、幸先良いな。これでじわじわ……あれ?」

 ダルマは向かいに立つアカネの表情を確認すると、冷や汗を流し始めた。彼女は不敵な笑みを浮かべていたのである。

「へぇ、ほんでリードしたつもりなん?」

「な、なんだと?」

 ダルマはピッピを凝視した。よくよく観察すると、ピッピは毒をくらったにもかかわらず、これといって苦しむ素振りすら見せない。

「お、おい。なんでピッピはあんなに元気なんだ?」

 外野にいるゴロウとユミはいまいち状況が掴めていない。彼が頭を抱えると、袴に肩衣を着こんだ男が近づいてきた。

「お、もうバトルが始まってるねー。こりゃ中々楽しめそうだ」

「あ、ボルトのおっちゃん!」

「お兄さんだ。それより、アカネちゃんの1匹目はピッピか。少々厄介だな」

「ボルト様、何かご存知なのですか?」

「ああ。……あのピッピの特性は『マジックガード』と呼ばれる珍しいものなんだ。効果は『攻撃以外のダメージを受けない』というわけ」

「じゃあ、毒のダメージを食らってないのも?」

「ご名答。もちろん、毒以外にもやどりぎのタネに反動のある技の反動なんかも受けない。中々小手先の技術だけでは勝てないよ」

 ボルトは解説を終えると、試合を見物しだした。彼が話す間にも、勝負の行方は刻一刻と変化する。

「今度はうちの番や、からげんき!」

 ピッピはコクーンに近寄ると、そこら辺に当たり散らした。その様子は、どうも無理をしていると感じられる。

「お、この技が意外な場面で役立ったなあ」

「意外な? 最初から意図的に教えていたと?」

「そない。元々は毒々玉を使ってからげんきをお見舞いするつもりやったんや。ねんけど、あんたのおかげで手間が省けたちゅうわけや」

「なるほど。からげんきは状態異常なら威力が上がる。俺はみすみす相手を強化してしまったわけか」

 アカネがVサインをする傍ら、ダルマは腕組みして思考をめぐらせている。これだけ見比べれば、どちらが勝つかは一目瞭然だ。

「ぐぐ、仕方ない。コクーン、てっぺきだ」

 コクーンは動きを止めると、身体から光沢を放った。ただかたくなるのとは違う様子だ。

「そのままむしくい攻撃!」

 コクーンはそのままピッピに接近して、右耳に食らい付いた。

「や、うちのポケモンになんちゅうこっちゃしてくれるんや!」

「ただ攻撃しただけですよ。それがたまたま耳だった。それ以上でもそれ以下でもありません」

「く、言わせておけば。ピッピ、あないなやつ振り払うんや!」

 ピッピは頭をあちこちに揺らした。先程のからげんきに匹敵する力だが、コクーンは離れない。それどころか、耳に歯が食い込んでいった。ピッピは痛みに耐えられず、「ギエピー」と悲痛な叫びをあげる。

「よし今だ、毒針!」

 コクーンは容赦なかった。ピッピに張りついたまま毒針を雨のように降らせた。1本2本ならどうということはない攻撃だが、数が増えれば決定力になり得る。毒針を撃ち終えると、コクーンはピッピから離れた。しかし、ピッピは動くことも倒れることもない。まさに立ち往生と表現するのがふさわしい状態だ。

「どうです、まだ続けますか」

「うう……戻るんやピッピ」

 アカネは力なくピッピをボールに戻した。観客はジムリーダーが先にやられたことにざわめいている。

「うん、彼の戦い方は中々えげつないものだったね、アイタタタ」

 外野では、ボルトがかき氷を食べながら頭を抱えている。その隣ではゴロウとユミが戦局を見守る。

「ダルマ様、どうしてあのような戦いをしたのでしょうか」

「ああ、そりゃ簡単な話だ。己の実力不足に気付いたんだろう」

「でもよ、ピッピとコクーンは互角に見えたぜ」

「おいおい、本当にそう思ったのかい? 状態異常の時に使うからげんきの威力は毒針の9倍以上。むしくいと比べても2倍以上ある。もし正面からぶつかれば、よほどレベル差がない限りアカネちゃんのピッピが勝つ算段さ」

 ボルトはゴロウに説明した。ゴロウには返す言葉がなかった。

「そこで、悪あがきをしようと思ったんだろうねえ。アカネちゃんを挑発し、冷静な判断を取らせないようにする。それからコクーンの防御を高め、ダメージ覚悟でピッピの弱い部分を徹底的に攻撃する。例えるなら、不利な相手に苦し紛れのハサミギロチンを使う、ってとこれか。ルールには反してないけど、あまり良くは思われないよ。なんたって悪あがきだからねえ」

 ボルトはかき氷を全て胃の中に収めると、近くのゴミ箱に容器を投げた。容器は見事にゴールした。

「まあ、アカネちゃんの切り札はトラウマ級の強さだし、これくらいが丁度良いとは思うよ、おじさんは」

 ボルトはそうまとめると、再び観戦に集中するのであった。

「さて、あと1匹だ。このまま……あれ、もしかして」

 一方、ステージでは動きがあった。ダルマが肩をほぐしていると、コクーンが光りだしたのである。光は瞬く間にコクーンを包み、その輪郭が刻一刻と変化する。

「コクーン、遂に進化か!」

 ダルマが叫ぶと同時に光は途切れ、新しいポケモンが姿を現した。赤い目に触覚を備えた頭に、削ったばかりの鉛筆のように鋭い手を持つ胴。黒と黄の横縞に尻の針が特徴的な腹、後ろが透けて見える4枚の羽。虫ポケモンの見本と言うべき風貌である。

「このポケモンは、たしか……」

 ダルマは図鑑を見開いてチェックした。コクーンの進化形、スピアー。高速で飛び回り毒針を刺して離れるという一撃離脱が得意。がむしゃらや追い風を覚え、先発に向いているという。

「スピアーか。これからもよろしく頼むよ。まあ、まずはこのバトルで活躍してもらわないとね。一気に勝ってやる!」




・次回予告

緒戦を制し、勢いに乗るダルマ。しかし、そこに立ちふさがるのは「トラウマ」とも呼ばれるポケモンであった。ダルマはこのまま逃げ切れるのか? 次回第28話「コガネジム後編、ピンクの悪魔」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.8

今回から図鑑を活用してみます。せっかく買ったんですから、使わなければもったいない。説明がやりやすくなるので私にもメリットがあるんですよね。
さて、後編で出てくるピンクの悪魔とは何者か。ダルマは勝てるのか。次回にご期待ください。
なお、アカネの台詞はもんじろう様を参考にさせてもらいました。

あつあ通信vol.8、編者あつあつおでん


  [No.628] 第28話「コガネジム後編、ピンクの悪魔」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/07(Sun) 11:20:21   86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]









 扉が開く。足音が響く中、ハンガーから1着の衣服が下ろされる。

「随分不用心なことだ、鍵をかけないとはな。しかし、これが落とし穴になるとは誰も思うまい。さて、最も安全な場所に隠すとするか」









「いくでぇ、これがうちの切り札や!」

 ジムリーダーアカネはピッピを戻すと、次のボールを放り投げた。ボールは弧を描き、彼女の「切り札」を繰り出した。

「ん、あれは確か……ミルタンクか」

 ダルマは「切り札」を図鑑で調べた。名前はミルタンク、ノーマルタイプ。このポケモンから取れるモーモーミルクは全国的にも有名で、ジョウト地方の西部には牧場がある。耐久、素早さ共に高く、回復技もあるため粘り強い戦いを得意とする。

「何はともあれ、あと1匹倒せば俺の勝ちだ。頼むぜスピアー」

 ダルマはスピアーに声をかけた。スピアーは進化したばかりのためか、荒らぶっている。

「あんた、ミルタンクをピッピと同じだと思たら痛い目見るで」

「望むところですよ」

「ふーん、やったらええねんけど。ミルタンク、まずは電磁波や!」

 ここにバトルの第二幕が下ろされた。先手を取ったミルタンクはスピアー目がけて電撃を放つ。

「なんの、ダブルニードル!」

 スピアーは電磁波を避けることなく果敢に攻めた。新品同様の腕から2本の針を発射し、ミルタンクの腹にヒットさせた。ミルタンクは針を振り払ったが、直後に顔色が悪くなった。

「よし、毒が効いたな」

「ほんま、毒が好きやな。ま、それもここまでや。頭突き!」

 ミルタンクは、電磁波を浴びてスピードの落ちたスピアーに近づいた。そし
て、自らの頭をスピアーに打ちつけ始めた。

「チャンスだスピアー、こちらも反撃だ!」

 ダルマはスピアーに指示を送る。だが、スピアーは何かに取りつかれたかのように動かない。1回2回は耐えていたが、ミルタンクの執拗な攻撃の前に、スピアーは為す術なく地に伏せた。

「す、スピアー!」

「どや、これがミルタンクの力やで!」

 スピアーをボールに戻すダルマとは対照的に、アカネはまさに左団扇である。ダルマは歯ぎしりをすると、次のボールを手に取った。

「こうなったら……頼むぞアリゲイツ」

 ダルマは2つ目のボールを投げ入れた。出てきたのは、毎度おなじみのアリゲイツである。牙を剥き、ミルタンクを威嚇するが、ミルタンクは平気な顔をしている。

「ふーん、そいつがあんたの切り札か。随分弱そうやな」

「そ、そんなことはないですよ。こいつは、幾多もの戦いをくぐり抜けた相棒です」

「なるほどな……。ほなウチも本気でいかせてもらうってするで」

 アカネは浴衣の袖をまくった。艶やかな腕が露わになる。周囲の男達の鼻の下が伸びたのは言うまでもない。

「うーん、これはちょっとまずいな。形勢は極めて彼に不利だ」

 外野では、ボルトもニコニコしながら戦況を分析する。彼の鼻の下もまた、よく伸びている。ただ違うと言えば、鼻血が垂れていることだ。その横ではユミが右手を拭いており、ゴロウは彼女と距離を取ろうとしている。

「おっちゃん、ダルマはどれくらい不利なんだ?」

「お兄さんだ。そうだね、勝負が決まったと言えるくらいかな。さっきのスピ
アーの惨状を見ただろ? あれがアカネちゃんの強さの秘訣、『まひるみ』なんだ」

「まひるみとは、どのようなものなのですか?」

「……まひるみは、相手を麻痺させてからひるみ効果のある技で攻め立てるという戦術さ。麻痺せず、しかもひるまないで動かないといけないから、行動回数が著しく減る。ダメージを受けずに何回も攻撃できる、とも言えるね」

「でもよ、普通に攻撃していれば勝てるんじゃねえのか?」

「ああ、みんなそう言って彼女に負けるんだよ。君も彼女に挑むなら、まずはしっかり見ることだ」

 ボルトが声を出して笑い上げた。ゴロウは再びバトルに目を遣った。

「まずは水鉄砲で様子見だ!」

 先に動いたのはアリゲイツだ。手始めに水の弾丸を2、3発ミルタンクに撃ち込んだ。ミルタンクはこれを腕で受け止め、アリゲイツに接近した。

「逃がさへん、電磁波や!」

 ミルタンクはスピアーの時と同じく弱々しい電気を、アリゲイツに浴びせた。アリゲイツは一瞬うずくまるものの、なんとか立ち上がる。

「隙あり、頭突き攻撃や!」

「負けるなアリゲイツ、水鉄砲を乱射してやれ!」

 こうして激しい殴り合いが始まった。とは言うものの、実際はミルタンクの独壇場に近い。ミルタンクは何度も頭部を叩きつけるのに対し、アリゲイツはひるみと痺れで思うように攻撃ができていない。しかし、幸いにもスピアーの置き土産である毒がまわってきたようで、ミルタンクはアリゲイツから離れた。一時的に解放されたアリゲイツには脂汗がにじんでいる。

「く、くそ。毒が効いてくるの遅くないか?」

「んー、もしかしたらそれ、食べ残しのせいちゃう?」

「た、食べ残し? なんですかそれは」

「……これはびっくり、食べ残しを知らんトレーナーがおるとはな」

 アカネは目を丸くしてダルマを眺めた。

「あのー、できれば教えてくれませんか?」

「うん、ええよ。食べ残しってんは、持たせたらちびっとずつ体力を回復できる道具や。これである程度毒のダメージを減らしとったちゅうわけや」

「な、なるほど。しかし、毒がまわってきていることに変わりはない。もうちょっとでこっちの勝ちだ」

「そらどないんちゃう? ミルタンク、休憩がてら一杯飲むんや」

 アカネは勝ち誇った顔をした。ミルタンクは、どこからともなく白い液体が入ったビンを取り出し、それを気持ちよさそうに飲み干した。すると、ミルタンクの顔から疲れの色が抜けていくではないか。

「な、なんだありゃ? ミルタンク、体力回復しちまったぞ」

 これに驚きを隠せないのは外野のゴロウである。ボルトは頭をかきながら説明した。

「そうなんだよ、あれがミルタンクのアイデンティティーとも言える技、ミルクのみだ。効果は至ってシンプルで、体力を回復する。多少毒がまわったところで、回復が追いついちまう」

「しかし、回復する時は攻撃のチャンスなのでは?」

「普通ならね。けど、今アリゲイツは麻痺しちゃってるだろ? これにより回復の隙ができる。アカネちゃんのミルタンクにはこういうカラクリがあるのさ」

「じゃ、じゃあダルマは……」

 ゴロウは食い入るように戦況を見守る。しかし、見れば見るほどダルマが不利なのがはっきりしてくる。

「どない? うちのミルタンクは。強いやろ」

「ぐぐぐ……」

 ダルマはぐうの音も出ない。周囲は決着がつくのを今や遅しと待っている。

「さて、ぼちぼち決めようか。頭突き!」

 一息入れて体力を回復したミルタンクは、今一度アリゲイツに向かって歩を進める。

「く……こうなりゃやけだ。アリゲイツ、まもるだ!」

 ミルタンクの前進に対し、アリゲイツは腕を交差して構えた。

「時間稼ぎなんて無駄や。そのまんまいてまえ!」

 ミルタンクは強引に攻撃を加えた。アリゲイツは、歯を食い縛り必死に守る。

「あと少し……あと少しでなんとか……!」

 ダルマは全ての神経を研ぎ澄ました。彼は勝機を見出だそうと、血眼になってバトルの行方を注視する。

 その時である。ミルタンクの顔に、疲れが見え隠れしてきた。ここが勝負所と、ダルマは人差し指をミルタンクに突き付ける。

「もらった、ばかぢからだっ!」

「な、なんやって!」

 ダルマの叫びに、アカネの表情が凍り付く。アリゲイツはミルタンクの攻撃をなんとかこらえ、鳩尾にあたる部分を全力で殴り付けた。この衝撃で、ミルタンクは一直線に吹き飛ばされ、アカネの足元で転がった。

「み、ミルタンク、しっかり!」

 アカネの懸命の声かけも及ばず、ミルタンクの意識は遠退き、そして倒れこんだ。

「……はあー、勝ったー。もう駄目かと思った……」

 勝利を確信したダルマは、思わずその場に座り込んだ。外野からは多くの悲鳴と少しの驚喜がこだまする。

「ダルマ!」

「ダルマ様!」

 その騒ぎを縫うように避け、ゴロウとユミが駆け寄ってきた。その後ろからボルトがのんびり歩いてくる。

「ダルマ、中々やるじゃねーか。けど、あんな隠し玉あったんなら、なんですぐ使わなかったんだ?」

「ああ、ばかぢからは使うと能力が落ちるんだ。下手に使ったらかえって危ないと思ったからとっといたんだよ」

「それにしても、今のバトルは素敵でしたよ」

「はは、そりゃありがとう。けど、今回の勝利はアリゲイツのおかげだな」

 ダルマは苦笑いしながらアリゲイツをボールに戻した。

「うーん、うらやましいねえ、こんな可愛い女の子にそんなこと言ってもらえるなんてさ」

「あ、ボルトさん。時間は大丈夫なんですか?」

「もちろん。今が6時だから、もう少しだね。さて、そろそろ例のものを受け取ったほうがいいんじゃないかな」

 ボルトは軽く目配せした。ダルマはすぐ、何かを手に持つアカネに気付いた。

「あんたごっついな、こないな強いトレーナーは久しぶりや」

「あ、ありがとうございます」

「ちゅうわけで、これをプレゼント。レギュラーバッジ、大事にしてな」

 アカネはダルマに、ジムバッジを手渡した。ダルマはそれをまじまじと見つめ、こう呟くのであった。

「……これで3個目。あと5個でポケモンリーグ、これからも頑張るぞ!」








・次回予告

ポケモンを回復させに空いている部屋を探していたダルマ。その時彼は、あるものを見てしまう。彼が発見したものとは一体? 次回、第29話「逆転クルーズ前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.9

最近、中谷彰宏氏の「『!』は使わない」という言葉を意識して台詞を考えてます。いかに記号を使わずに表現するか。例えば、次回予告の最後の部分「ダルマの明日はどっちだっ」は、以前は「ダルマの明日はどっちだ!?」といった感じでした。気付いた方はいらっしゃるでしょうか?

ちなみに、同レベルで努力値無振りアリゲイツのばかぢからでは、防御特化ミルタンクの体力を、最大でも45%程度しか削れません。話通りにバトルをする時は、必ず毒を入れましょう。

あつあ通信vol.9、編者あつあつおでん


  [No.629] 第29話「逆転クルーズ前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/08(Mon) 19:47:06   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※微グロ注意。



「ここがパーティー会場ですか」

 現在午後6時。ダルマ達はバトルの後、カネナルキ市長の資金パーティーの会場にやってきた。そこはボルトの販売会会場の隣にある部屋で、多くの招待客が食事をしながら話に花を咲かせている。また、奥にあるステージでは余興として音楽が演奏されている。

「このパーティー、表向きは市長の資金集めのために行われているから、販売会の会場と別にセッティングしているんだよ」

 ボルトは辺りを見回しながら話す。その傍ら、ゴロウは料理、ユミは演奏に心奪われているようだ。

「なあ、俺達も食べても良いんだよな?」

「んー、ここに来ている人なら誰でも大丈夫だと思うよ」

「で、では私、向こうで鑑賞してきますね」

「ああ、どうぞごゆっくり」

 ボルトに促され、2人はそれぞれの目的地へと向かった。

「さて、ダルマくんはどうするかな?」

「そうですね、ちょっとポケモンを回復させてきます」

「そっか、まだ回復させてなかったね。場所わかる? ここから2つ下の階にポケモンセンターがあるからさ、行ってみるといいよ」

「ご丁寧にどうも。ではちょっと失礼します」













「うーん、随分迷っちゃったな。この船広すぎるぞ」

 しばらくして、ダルマは船内の廊下をうろついていた。ポケモンの回復は既に済ませ、パーティー会場に戻る途中である。彼は、この船の広さと部屋数とに辟易していた。

「早く戻って晩飯にありつくとしよう……あれ?」

 ダルマは眼前に1人の男を確認した。ダルマは男に近づき話しかけた。

「ボルトさん、どうしたんですか?」

「ん? まあ、市長との打ち合わせに来たんだけどね……部屋の鍵が開かないんだよ」

「鍵が開かない? 何かあったんですかね」

「僕もそう思って、合鍵を借りてきたというわけ。あ、ちょっと待ってね、今開けるから」

 ボルトは、手に持つ鍵をドアノブに差し、右に回した。小気味良い音と共に、ドアが開く。

「市長、入ります……よ……?」

 ボルトは部屋に入った途端、顔がみるみる青ざめていった。不審に思ったのか、ダルマが部屋を覗き込む。

「ボルトさん、何をそんなに……う、うわっ!」

 ダルマは腰を抜かし、無意識のうちに後ずさりをした。

「し、市長が死んでるー!」

 ダルマは可能な限り大きな声で叫んだ。部屋に入って右側には仰向けになって倒れているカネナルキがいたのである。胸部には何かが差し込んであり、とても生きているとは思えない状況だ。部屋自体は畳が敷かれた和風のもので、左側の文机の近くに血だまりがある。文机の上には1枚の紙とかばんが置いてあるが、それ以外のものはない。

「おい、一体どうしたんだ?」

「あ、あなたは?」

 ダルマが動けないでいると、上の階から男が下りてきた。コートを着た痩身の中年といった風貌である。

「私は国際警察の者だ。名前は……いや、コードネームはハンサム。それで、先程の悲鳴はどういうことだ?」

「そ、それが……人が死んでるんです」

「な、なんだと。つまり私の出番というわけか。君達、そこを動いてはダメだぞ。すぐに医者と被害者の関係者を連れてくる。被害者の名前は?」

「か、カネナルキ市長です」

「了解。それでは行ってくる。いいか、絶対に動くんじゃないぞ」

 コートの男、ハンサムはそそくさと階段を駆け上がっていった。ダルマはそれを見送ると、重い腰を上げた。

「ふう、少し落ち着いたな。あのーボルトさん、あのおじさんが来るまでどうします?」

「……そうだなー、こっそり現場を捜査してみる?」

「捜査ですか。大丈夫ですかね?」

「まあ、普通はダメだろうね。でも、万が一僕らが疑われた時のために情報収集しておくのは大事なことだと思うよ」

「なるほど。では……観察する程度に調べましょうか」

「わかった。じゃあ入ろうか」

 2人はそれぞれの履き物を脱ぐと、そっと部屋に忍び込んだ。

「さて、まずは死体からチェックしますか」

 ボルトはカネナルキに歩み寄り、腰をかがめて眺めだした。ダルマもそれに続く。

「……死因は、右手で握ったナイフで一刺しってところかな。あまり刃渡りは大きくないみたいだし、背中まで貫通しているわけではなさそうだ」

「変わっている点と言えば、さっき会った時と服装が違うのと、右手人差し指に血がついているくらいですかね」

「……この服、真っ赤な小袖か。市長が今日披露するはずだった真っ赤な着物、多分これのことだね」

「まさか、こんな形で見るはめになるとは思いませんでしたよ」

 ダルマはこう漏らすと、部屋にただ1つある窓を調べた。窓の外はもう日が暮れ、徐々に空と海が同化してきている。

「この窓、開いてますね」

「本当だ。けどおかしいな、全室空調が効いてるはずだよ」

「鼻をかんだちり紙でも捨てたんですかね。この部屋、ゴミ箱ないですし」

 ダルマは部屋全体に目を遣った。あるのは死体、文机、紙、かばんのみだ。

「さすがにそれはないと思うよ。そういうのはかばんにでも入れて……あ、あれ?」

「どうしました?」

「……このかばん、中が空っぽだ。まさか、この紙切れ1枚のために使っていたのかな?」

 ボルトは穴が開くほどかばんに見入った。しかし、ないものはない。かばんには何も入っていない。その脇を通り、ダルマは机に置かれた紙に目を通す。

「なになに、某製品販売会要綱、か。ボルトさん、某製品ってレプリカボールのことですか?」

「そうだよ。どこから情報が漏洩するかわかったもんじゃないし、ギリギリまで秘密にしていたんだ」

「なるほど。ん、この紙少しふやけていますよ」

「ふやけてる? あーなるほど、何かに濡れて乾いた時になるパリパリした感じのやつね。変だな、この部屋にある液体なんて、僕らの目の前にある血だまりしかないはずだけど」

 ボルトは畳にべったり付着している血だまりを見下ろした。ダルマは思わず鼻を押さえた。

「血の臭いってのは中々慣れないものですね」

「ま、慣れてる人は逆に怖いけどね」

「確かに。……この血だまり、一部かすれてますよ」

「ありゃ、そうだね。何かあったのかな?」

「うーん、現時点ではなんとも言えないです。ただ、死体からは手を伸ばしても届かないですね」

「んー、言われてみればその通りだ。……さて、あらかた調べちゃったね。後は外で待っとくとしよう」

「はい。それじゃ、見つからないうちに」

 ダルマとボルトは廊下に誰もいないことを確認すると、何事もなかったかのように部屋から出るのであった。



・次回予告

船内で起こった事件は、着実に進展する。新たな証拠、数々の推理、そして矛盾。これらの先にある真実とは。次回、第30話「逆転クルーズ中編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.10

このコーナーが始まってもう10回ですか。月日が進むのはかくも早いものと再確認させられます。
さて、しばらくバトルはお休みで推理の時間となります。寝る間も惜しんで考えましたので、楽しんでいただければ幸いです。

あつあ通信vol.10、編者あつあつおでん


  [No.630] 第30話「逆転クルーズ中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/09(Tue) 14:57:57   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「おーい、1人だけだが関係者を連れてきたよ」

「あ、やっと来ました」

 現場の調査をして10分ほど後、ハンサムが何人か引きつれて戻ってきた。

「……第一発見者が2人いるとは聞いていたが、まさかお前さん達だったとはな」

「あ、サトウキビさん。……その服、どうしたんですか?」

 ハンサムの背後から、サトウキビが声をかけた。彼の服装は最後に会った時と違っていた。着流しが小袖、それも鮮やかな浅緑の小袖になっているのだ。また、妙に厚着なせいか汗が滝のように流れている。

「これか。パーティー用に新調しておいたものだ」

 サトウキビは何気なしに答えた。同じ説明でも、市長とその補佐では随分様子が異なる。

「……うおっほん、そろそろよろしいですかな」

 ハンサムは咳払いをした。集まった人々の視線が彼に集中する。

「皆さん、先程説明しましたように、カネナルキ市長が死亡しました。これから現場の検証と検死を行いますので、その間に聞き取り調査をします。よろしいですね?」

 ハンサムの言葉に、全員が首を縦に振った。すると彼の後ろの部下らしき集団が市長の部屋へ乗り込んでいった。

「さて、まずは第一発見者のお二方に話を聞きましょうか。名前を教えてもらいたい」










「……なるほど、たまたま居合わせて部屋に入ったらこの状態だったというわけか」

「そうですね、そこにハンサムさんが来たんですよ」

「うむ、事情はわかった。それでは私も捜査に向かうから、3人はここで待っててください」

 こう言い残すと、ハンサムは部屋の中に入り込んだ。後にはダルマとボルト、サトウキビが残された。

「……さて、時間が空いたな。少し話でもしとこうぜ」

 サトウキビが話しだした。それにつられてダルマとボルトも口を開く。

「サトウキビさん、どうしてあなただけが呼ばれたのですか?」

「……仕方ないだろ、俺の仕事は市長の補佐だからな」

「ま、市長に近い人物だから当然と言えば当然か」

 ボルトはサトウキビの言葉に相槌を入れた。

「それにしても、緑の着物とはまた思いきりましたね」

「そうか? 市長を目立たせるのが今回の狙いだったから、成り行き上こうなっただけなんだが」

「み、緑で目立つんですか?」

「ああ。いずれわかるようになる」

 サトウキビは不敵な笑みを浮かべた。それに対してダルマは釈然としない様子である。

「ところで、サトウキビさんは市長に詳しいんだよね? 僕もそこまでよく知らないし、色々教えてくれないかな」

「別に構わない。とはいえ、俺もそこまでは知らないが」

 サトウキビはボルトの頼みを聞き入れた。

「カネナルキは、元々新聞記者だった。10年くらい前にある事件に関する記事で世間の注目を浴び、その勢いに任せて市長選に当選する。しかし、お茶の間からの興味が失われた途端その立場は不安定なものになった。俺はもう8年くらい補佐をやってるが、その頃から既に議会に糾弾されてばかりだったな」

「はあ。他に何かありませんか?」

「そうだな……やつは左利きだ。それと、詮索好きだ。まあ、その性格が敵対勢力のあら探しなんかに役立っていたわけだが」

「……運が良い人なんですね」

 ダルマは呆れたような口調でこぼした。

「おーい皆さん、検死が済みましたよ」

 そこにハンサムが軽快な足取りで戻ってきた。その手にはメモ用紙を携えている。

「検死ですか。どうだったのですか?」

「まあまあ、慌てない慌てない。えー、『死因は胸から右手のナイフで心臓を刺されたためで、即死。傷口は背中にまで達するが、凶器と傷口の形は一致しない。心臓付近の傷口の幅は小さく、また皮膚近くの幅は大きい。なお、凶器の先端は背中に達していない。なぜなら、ナイフの刃渡りは10センチと、そこまで大きくないからだ』ということらしい。どうしても、死亡推定時刻まで正確には調べられないけど、大体これで合ってるはずです」

「なるほどなるほど……」

 ダルマはハンサムの言葉を一字一句メモに取っている。ペンの音が重苦しい現場に響く。

「……ハンサムさん、あなたはこの事件をどう考えてるのかな?」

 不意に、ボルトがハンサムに尋ねた。ハンサムは目の色を変えて答える。

「そうだな……まあ良いか。皆さん、既にこの事件は解決しました。今からその説明をしましょう」

 ハンサムは右手人差し指と中指を右こめかみに当てると、こう切り出した。

「まず、凶器は胸に刺さったナイフで間違いない。ナイフは、被害者の右手に握られている。そこから導かれる結論は1つ。……自殺だ。被害者は自ら命を絶ったのだ! ……どうです、どこにも矛盾はありませんよ」

「た、確かに。じゃあ市長は自殺?」

 ダルマは首を捻った。これにボルトが突っ込む。

「おいおい、矛盾なら1つあるじゃないか、さっきの話とさ」

「さっきの話? ……あ、確かに。ちょっとハンサムさん」

「なんだい?」

「今の推理……どこか矛盾しています!」

「どこか? 私の推理のどこに矛盾があるんだい?」

「先程あなたはこう説明しました、『死因は、胸から右手に握られているナイフで心臓を一刺し』と。しかし、サトウキビさんによれば市長は左利き。右手で凶器を握っているのは不自然なのです」

「な、何っ、左利きだと? ……ふっ、しかし。自殺である根拠は他にもある。これで証明してみせよう」

「だ、大丈夫かな……」

 ダルマの頬を冷や汗が伝う。そんなことはお構い無しにハンサムは続ける。

「何も、自殺の根拠はそれだけではない。くまなく探してみたのですが……部屋には争った形跡がない。また、刺した回数が1回であることから、やはり被害者が自殺だったと断定できたのだ。これなら問題あるまい」

「……あのー、『刺した回数が1回』というのは?」

「うむ、検死の報告書によると『傷口は背中にまで達する』という。この他に外傷は見つかっていないゆえ、刺した回数が1回だと判断したのだ」

「……なるほどね、新しい矛盾が見つかったよ。あなた、本当に警察なのかな? 僕達が調査したほうが良さそうだよ」

 ボルトは勝ち誇った顔でハンサムを挑発した。ハンサムもハンサムで、これに簡単に乗ってきた。

「む、そこまで言うなら示してもらいましょうか、どこが矛盾するのか」

「……さ、出番だよダルマ君」

「やっぱり俺ですか……。まあ、指摘する場所ははっきりしてますけど」

 ダルマはさっきのメモを取り出しこう発言した。

「検死によれば、『凶器と傷口の形は一致しなかった』そうですね。ならば、凶器で刺されたのが1回と断定できるはずがない」

「ぐおっ、なんだと……」

「そもそも、『傷口は胸から背中にまで達する』にもかかわらず『凶器の先端は背中に達していない』。これをどう説明するつもりですか?」

「ぬぬぬ……ほわあぁぁぁぁぁ!」

「これは俺の仮説に過ぎませんけど、被害者は少なくとも2回刺されたんだと思います。刃渡り10センチでは、柄の部分ぎりぎりまで刺しても背中にまで貫通するはずがない。しかし、背中からも刺されていたとしたら? すなわち、被害者が自殺ではなく殺害されたのだとしたら? 状況は一気に変わってくるはずです」

「うんうん、中々厳しい指摘だねー。けど、あの人まだ何か言いたそうだよ?」

 ボルトは人差し指で前方を指した。そこには、まだ納得していない様子のハンサムがいた。

「し、しかしだね。2回刺された証拠なんて……」

「……この人、まだ気付かないのか。ハンサムさん、よく考えてください。傷口はどのような形でしたか?」

「傷口? 確か、『心臓付近の幅は狭く、背中と胸の皮膚に近づくにつれ幅が広くなる』とあったな」

「そう、これこそが2回刺された証拠です。ナイフに限らず、刃物は先端ほど幅が狭く、柄に近づくほど太くなります。背中と胸でそれぞれ刺し、傷口がつながれば、『心臓付近だけ幅が狭い傷口』ができるのです。つまり! 被害者は1度背中から刺された後もう1度、偽装工作のために胸から刺されたのです。……いかがですか、ハンサムさん」

「……は、反論は……な、ない」

 ハンサムは頭をかいた。ダルマは一息ついて伸びをした。

「いやー、さすがだねダルマ君。君は見事示したわけだ、『被害者は自殺ではなく殺害された』と」

「はあ、それほどでも……」

「……で、犯人の目星はついてんのか?」

「う! それは……」

 久々に発したサトウキビの言葉がダルマにクリーンヒットした。それに乗じてハンサムも元気を取り戻す。

「そ、そうだ。殺害されたのなら犯人がいるはずだ。早く調査を……」

「その必要はないぜ、刑事さんよ」

「サトウキビさん?」

「……よく見てみな、部屋の扉の上を」

 サトウキビは視線を扉の上に遣った。その先にあったのは、親指ほどの大きさの機械である。先端にはレンズがついてあり、ダルマ達を睨み付けている。すると、急にハンサムが叫んだ。

「ぼ、防犯カメラ!」

「そうだ。他の部屋の前には置いてないのを考慮すると、こりゃ私設防犯カメラだな」

「私設……市長、何か心配事でもあったのかなあ」

 ボルトが首をかしげた。その時、サトウキビはある提案をした。

「なあ、せっかくだから見てみようぜ。犯人がいるなら、ここに映ってるかもしれねえだろ?」

「た、確かに。どうですかハンサムさん?」

「う、うむ。そうだな、全ての証拠に目を通すのは重要なことだ。早速見てみよう」

「では、俺がビデオデッキを借りてこよう。あんた達はおとなしく待ってな」

 サトウキビはそう言い切ると、颯爽と上の階に移動するのであった。





・次回予告

防犯カメラに映っていた姿は、予想だにしない人物であった。決定的な証拠が飛び出した今、その人物の無実を知っているダルマはただただ矛盾を指摘する。その先に見えた真相とは。次回、第31話「逆転クルーズ中編2」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.11

最近1話当たりの容量が10000バイトすれすれになる傾向があります。携帯のメールで下書きしてるので中々厳しいです。
さて、この話は某法廷バトルのゲームソフトに多大な影響を受けております。皆さんはダルマより早く真実にたどり着けたでしょうか? 最後の傷口の形は屁理屈みたいなものですが、あとは分かりやすかったと思います。この調子で最後までいきますのでご期待ください。
ちなみに、ハンサムの口調はダルマと話す時とそれ以外とで変えてみました。気付いたかな?
あつあ通信vol.11、編者あつあつおでん


  [No.634] 第31話「逆転クルーズ中編2」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/10(Wed) 14:30:38   79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「それじゃ、早送りしながら確認するぞ」

 しばらくして、市長の部屋の前にビデオデッキ付きテレビが用意された。サトウキビはビデオを入れると、リモコンで操作を始めた。

「えーと、録画開始時間は午後4時か。この頃船に乗ったのでしょうか」

「多分な。空っぽの部屋の防犯なんて、尺の無駄遣いだからな」

 サトウキビは早送りボタンを押した。特有のスリップ音を伴い、ビデオは勢い良く進む。

「そろそろ5時だね。まだ誰も入った様子はないなあ」

「乗客の往来なら何度かありますけどね」

 ダルマ達はビデオに映る隅から隅まで目を凝らす。しばらくすると、あるものがカメラに捉えられた。

「あ、市長が部屋の前に。ちょっとゆっくりにしてください」

「了解」

 ダルマの指示を受け、サトウキビは再生ボタンを押す。そこに映っていたのは、紛れもなく生前のカネナルキであった。

「なになに、時間は5時20分か。多分、僕達と会った後だろうね」

「なに、君達は被害者と接触していたのか?」

 ハンサムが疑惑の目でダルマとボルトを見つめる。ダルマは苦笑いしながら答えた。

「接触といっても、世間話ですよ。そもそも、俺みたいな旅人が市長に敵意を持つ理由がありませんからね」

「むう、そうだな。では続きを見ようか」

 ハンサムは再び映像に集中した。

「にしても、この映像かなり荒くないですか? 人の顔がいまいちはっきりしませんよ。服装くらいならなんとか判別できますが」

「……いつもあれほど言っておいたんだがな、『必要な経費だけ払うのは倹約だが、必要以上に節約するのは単なるケチだ』と」

「お、誰か来たみたいだよ」

 ボルトが画面の右側を指差した。そこには、見慣れない格好の人物がいた。

「これは……作業服? どうしてパーティー会場にこんな服を着た人がいるんだ」

 ハンサムが首を捻る間にも、作業服の人物はカメラの真正面に近づき、下の方に消えていった。

「消えた……」

「消えたんじゃねえ。カメラの設置場所を考えればはっきりする。この人物は部屋に入った」

「けど、顔はいまいちわからないね」

「全く、死んでまで他人に迷惑かけるとは、良い度胸してるぜ」

 サトウキビがため息を吐いていると、作業服の人物はまたしても画面に出没した。

「何か、その作業服に特徴はないのかね?」

「そうですね……入る時もそうでしたが、何もついてないですよ。」

「ふむ、手がかりはなしか。では最後まで見とこう」

 ハンサムはテレビの早送りボタンに触れた。ビデオの時間はみるみるうちに過ぎていく。

「ん……少し待て」

 ビデオの時間が6時29分になると、サトウキビは再生ボタンをプッシュした。そこには、見慣れた人物がいた。

「これは、あんた達3人か。このカメラでも何とか判別できる」

「うむ、私が彼らを発見した時だ。この時彼らには動かないよう……なんだと?」

 ハンサムは思わず目を丸くした。なぜなら、ハンサムが現場を去って1分もしないうちに、ダルマとボルトも画面下に隠れてしまったからだ。

「き、君達これはどういうつもりだ!」

「ああ、申し訳ないけど少しだけ調べさせてもらったよ。でも、僕達は現場のものに指1本触れてない。このことは一緒に入ったダルマ君が証明してくれる」

「ほ、本当なのか?」

 ハンサムは呆れた表情でダルマに尋ねた。ダルマは冷静に答える。

「もちろんです。うっかり触ったりして疑われたら、たまったものじゃないですから」

「確かに、なら問題な……」

「異議あり」

 その刹那、ハンサムの言葉を遮る声が飛んできた。皆が声の方向を注視する。

「さ……サトウキビさん?」

「ありゃりゃ、どうしちゃったのサトウキビさん。お腹痛いならトイレはあっちだよ」

「……さっきの作業服を見た時、まさかとは思った。しかし、これを見せられた以上庇うわけにはいかねえ。ボルトにダルマ、貴様らが犯人だ」

「……な、な、なんだってー! 俺とボルトさんが殺人犯?」

 この瞬間、場の空気が完全に凍り付いた。ハンサムが即座に口を開く。

「証拠は? 決定的な証拠がない限り、逮捕はできません」

「ふん、証拠ならある。まあ、まずは俺の推理を聞きな。反論はその後いくらでも受け付けてやる」

「それなら、早いとこ聞かせてもらおうか」

 ボルトはサトウキビに催促した。いつもの笑顔もどこへやら、刺すような視線をサトウキビに向けている。

「よし、では……。まず、5時半頃に1度目の来客。そいつは無地の作業服を着ている。作業服を着た乗客なんざ、ボルトしかいねえ。……それからあんた達が発見するまでは誰も入ってない。主犯はボルト、ダルマは証拠の隠滅を手伝ったのだろう。防犯カメラの映像が、それを証明している。……どうだ、何か反論は?」

「ぐぐ……反論したいけど矛盾がない」

 ダルマは歯ぎしりをする。一方ボルトは余裕綽々と顔に書いてある。

「無地の作業服ねえ。確かに、映像の人物が着ている作業服はなんの変哲もないものだ。しかし、だからこそ矛盾が起こる」

「ほう、何がおかしいと言うんだ?」

「……僕の作業服には、名札がついているのさ! 名札がなければ、それはもはや僕の作業服ではないんだよ」

「あ、そういえば妙なアップリケを縫い付けてましたよね」

「しかし、そんなことはどうにでも説明できるのでは? 例えば、名札をはがしたと言われればどうにもならない」

 ここでハンサムが1つ指摘をした。ボルトは待ってましたと言わんばかりにまくしたてる。

「それこそあり得ない話だ。作業服を持ってるのは僕だけなのに、わざわざ名札をはがす意味がない。そもそも僕は防犯カメラのことを知らなかったし、仮に知ってたら作業服なんか着ませんよ」

「ふーむ、そりゃそうだな」

 ハンサムは何度もうなずいた。勢いに任せてダルマも続く。

「そ、そもそもサトウキビさん。もし俺達が犯人なら、あなたは当然無実でなければならない。その証明はできるのですか?」

「……アリバイか。逃げ口上にしては上出来だな。まあ良い、気になるなら教えてやる」

 サトウキビはゆっくり口を開いた。ダルマは固唾を呑んで耳を傾ける。

「船に乗り込んだ後、ボルトと交代して機関室の手入れをしていた。しばらくして、パーティーの時間が近づいたから服を着替え、会場へと足を運んだ。飯を食べようとしたら刑事がやってきてここに連れられたというわけだ。どうだ、2人も証人がいれば疑いようがあるまい」

 サトウキビは勝ち誇った表情でダルマに迫る。ダルマはダメ元でボルトとハンサムに確認した。

「ボルトさんハンサムさん、今のは本当ですか?」

「ああ、僕と入れ替わったのは間違いない」

「……君にとっては良くないことに、事実だ」

「うう、やっぱり。証言も短いし、どこかで揺さぶらないと」

 ダルマは眉毛をへの字に曲げながらも、追及を開始した。

「あのー、服を着替えたのはやっぱり汚れちゃったからですか」

「中々鋭いな。機関室は蒸し暑いから汗だくでな、前もって用意していた何着かの中から着替えたのさ」

「はあ。緑を選んだのは市長を目立たせるためだそうですが、具体的にはどういう?」

「……赤い小袖」

「え?」

「市長は赤い小袖を着て出るから、補色の緑を使えば互いに際立つだろうという魂胆だ」

「そうですね、どこにも矛盾は……って、あれ?」

 ダルマは一瞬はっとした。そしてサトウキビに人差し指を突き付けた。

「サトウキビさん、あなたは確かによく状況を把握している。けど、少し詳しすぎるようですね」

「……何が言いたい」

「被害者は生前こう言ってました、『今日の衣装を披露するのは初めてだ』と。つまり、まだ衣装は誰も見たことがない。しかしあなたは赤い小袖と、種類まで正確に証言している。被害者の衣装を事前に知る方法はただ1つ、部屋に入りさえすれば良い。つまり! あの時部屋に入ったのはあなただったのです!」

 ダルマは全てを言い切ると、深呼吸をしてサトウキビの反撃を待った。しかし、サトウキビの口から放たれた一言は意外なものだった。

「……それで?」

「え」

「それがどうしたんだ。まさか、部屋に入っただけで犯人呼ばわりか?」

「そ、そんな! だったら俺達だって……」

「ああ、それは駄目だ。あんた達は2回も入った疑いがあるからな。まあ……血痕の付着した作業服でもあれば、話は変わっていたかもな」

 サトウキビは明後日の方向を眺めた。ダルマは壁を叩いて嘆いた。

「くそっ、このままじゃ……」

「さあ、反撃はここまでだ。刑事、連れていってくれ」

「う、うむ。ダルマとボルト、船を降りたら……」

 ハンサムは手錠を2つ取り出した。鈍く光るそれを見て、ボルトは観念し、ダルマは天を仰いだ。

 その時である。天から声が聞こえてきたのであった。

「ちょっと待ったー!」

「これを見てください!」




・次回予告

最後の最後で聞こえてきた天の声。これがダルマとボルトの運命を大きく変える。果たして真実は如何に。次回、第32話「逆転クルーズ後編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.12

今回サトウキビが言った「必要な経費だけ払うのは倹約だが、必要以上に節約するのは単なるケチだ」は、私も常に意識しています。どうせ長く使うなら良いもの買っておきたいと思っております。しかしDS本体は資金難のため中古を買いました。現実と折り合いをつけるのは難しいですね。


あつあ通信vol.12、編者あつあつおでん


  [No.635] 第32話「逆転クルーズ後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/11(Thu) 16:39:51   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「き、君達は……誰だ?」

 ハンサムは声の方向を見ると、何気なく問うた。そこにいたのは、ずぶ濡れになった何かを握り締めた2人の男女であった。

「ゴロウ、ユミ!」

「はあ、はあ……間に合ったぜ。大丈夫かダルマ」

 ダルマは思わず目の覚めるような声で叫んだ。やってきたのはゴロウとユミだったのだ。

「君達、一体どうしたんだ? 用事なら後にしてくれないか」

「違う違う、俺達は証拠を持ってきたんだよ!」

「し、証拠だって? もしかして、その手に持ってる?」

 ボルトはゴロウの右手を指差した。そこには1着の服があった。洗濯でもしてきたのか、しずくが滴り落ちている。

「そうです。この作業服、血が付いてるんです」

「な、なんだと? 血痕の付着した作業服……早速見せてくれ」

 ハンサムの求めに応じ、ゴロウは衣服を広げた。この作業服は防犯カメラと同じく名札もアップリケもない。代わりに、大量の血液が胸部に飛散している。

「血痕だ。犯行の際に着ていたと考えて間違いないだろう。しかし、どこで発見したのだね」

「それがよ、俺達外に出て海を眺めてたんだ。で、ふと下を見ると何か引っ掛かってたんだよ。せっかくと思って釣り竿で引き揚げてみればこの有様だ」

「な、なんという偶然だ……」

 ハンサムは半ば呆然とした表情で作業服を見渡した。一方、ダルマの眼には輝きが戻った。

「さあどうです、サトウキビさん。作業服が見つかった以上、反論のしようは……」

「……あるな」

「え」

「ようやく揃ったわけだ……ボルトが犯人だという決定的な証拠が」

「な、何を言ってるんですか。先程の証言にある矛盾と作業服で、あなたがやったという証拠が集まってしまったんですよ?」

 ダルマはいまいちサトウキビの意図を把握できてないようである。それに答えるかのように、サトウキビが口を開く。

「そもそも、なぜボルトが疑われたか。作業服を着た人物が映っていたからだ。ではなぜ作業服ならボルトにつながるのか。……作業服なんざ、乗客の中で持ってるのはせいぜいあんたくらいだからだ」

「な……しかし、別の作業服を用意すればなんとでも説明できます!」

「ほう、そいつは面白い。なら、ボルトの部屋を調べてみたらどうだ? 作業服があったなら、すなわち俺の犯行。だが、なかった時は……わかるな?」

 サトウキビは語気を強めり。それに臆することなく、ダルマは胸を張ってこう述べた。

「……ハンサムさん、ボルトさんの部屋を調べてみてください!」















 10分後。調査に向かったハンサムが帰ってきた。手ぶらの彼は皆の注目を一身に浴びる。まずダルマが口を開いた。

「ど、どうでした? 作業服、見つかりましたよね?」

「……残念ながら、部屋に作業服、つなぎ及びそれらに準ずるものはなかった」

「……どうやら、決着がついたようだな」

 サトウキビはため息をつくと、ハンサムに目で合図した。ハンサムはゆっくり頷くと、再び手錠を手に取った。

「血痕のついた作業服がある以上、もはや言い逃れできまい」

「お、おいおい、おじさんはやってないってば。ダルマ君、なんとかならないのか!」

「そ、そんなこと言われましても。部屋にないなら、船内全てを探しても出てくるはずがないですよ!」

 ダルマは頭を抱えた。それを横目に、サトウキビはこう呟く。

「……残念だ、2人とも才能はあったんだがな」

「く、くそ……!」

 ダルマは全力でサトウキビを睨み付ける。すると、突然ダルマの顔から驚きの色がにじみ出てきた。

「そういえば……サトウキビさん、やけに厚着だな。空調設備は万全なのに、汗だくだ。いつもより大きなサイズの服を着てるから、裾を引きずっている。いつもなら目立つはずの胸元のサラシも、首まで着物に覆われて見えないな。……あ、あぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「ど、どうしたのですかダルマ様!」

 急に奇声を発したダルマを気にしてか、ユミがダルマに近寄った。

「……隠し場所」

「隠し場所、ですか?」

「作業服の隠し場所がわかったんだよ。……サトウキビさん、自分の無実を証明するためとはいえ、やはりあなたを告発するのは本意ではありません」

 ダルマはうつむいて拳に力を入れた。

「ふん、御託はいらねえ。さっさと指摘してみな……聞いてやるぜ」

「……わかりました。作業服の隠し場所はここです!」

 ダルマは、その人差し指をある方向に向けた。指先が示しているのはサトウキビである。

「サトウキビさん、あなたはその着物の中に作業を重ね着しているはずです。仮にボディーチェックを受けても、何を着ているかまではそうそう調べられません。あなたがその服を選んだのは、市長の小袖の色合いを考慮したからだけではない。着込んだ作業服を隠すためでもあったんだ!」

「……なるほど。では、事件の流れを説明してもらおうか。もうわかってんだろ?」

「ええ。……市長の部屋に作業服姿で入ったあなたは、背後からナイフで市長を刺します。その後自殺に見せかけるため、今度は胸を刺します。そして、被害者のかばんを物色します。今思えば、販売会の資料にシワがあったのは、機関室で仕事をしていたために汗が流れ落ちたからでしょう。物色を済ませたら、その中のものを捨てるなり盗むなりした。窓が開いていたのはそのためと考えられます。……部屋を出たあなたはボルトさんの部屋に侵入し、彼の作業服に着替え、血痕のついた作業服を海に捨て、緑の着物を着用した。これが、この事件の全てです。さあ……どうですか、サトウキビさん!」

 ダルマはサトウキビに詰め寄った。全ての視線が彼に集中する中、彼は肩を震わせ笑いだした。

「……ふっふっふっ、やってくれるぜ。計画は大幅に狂ったが、それ以上に楽しめた」

「計画? 何かまた変なことでも画策してるのかい?」

「その通り。そろそろだな……全てが帳消しになるのは」

 ボルトの問いに答えたサトウキビは、腕時計をチェックした。時刻は間もなく8時となる。彼は不敵な笑みを浮かべると、静かに右腕を振り上げた。

 その時である。船内に爆音と衝撃が駆け巡った。不意を突かれたダルマ達はその場に転んだ。

「な、なんだ今のは?」

「どこかで爆発があったみたいだね」

「爆発? ま、まさか!」

 地に這うダルマは、1人立つサトウキビを見上げた。

「そうだ、船内の各所に時限爆弾をセットさせてもらった。これからこの船は海の藻屑となり、俺を捕まえるための証拠は露と消えるのさ。では、さらばだ」

 サトウキビはこう言い残すと、一目散に甲板へと駆けていった。

「ま、待て!」

 これをハンサムがおいかけ、残りが後に続いた。











 甲板に出ると、避難しようという乗客でごったがえしていた。船の底付近では黒煙と火の手が巻き上がっていている。救命ボートがゆっくり下ろされているが、かえって恐怖を助長している。

「いたぞ、あそこだ!」

 ダルマ達は船首にサトウキビを追い詰めた。しかし、サトウキビは歩を止める様子がまるでない。驚くべきことに、彼はフェンスを飛び越え、そのまま海中にダイブした。しばし海面から彼の姿が消える。

「な、なんて無茶を。サトウキビさん!」

 ダルマはサトウキビに呼び掛けた。だが、サトウキビは浮かび上がると、ダルマの言葉を無視してこう口にした。

「いいか貴様等、俺はあの時のことを決して許さない! 何があろうと、裁きを下してみせる。そのことを忘れるな」

 サトウキビはそのまま、コガネシティの方向に泳いでいった。ダルマ達はそれをただただ見送ることしかできなかった。

「あの時のこと? サトウキビさん、あなたは何者なんだ……」

「おいおい、今はそんなこと考えてる場合じゃないよ」

「ダルマ様、一刻も早く脱出しましょう!」

「……ああ!」




・次回予告

命からがら逃げてきたダルマ達。ところが、1日過ぎたコガネシティはとんでもないことになっていた。さらに、あの団体も動きだす。次回、第33話「コガネシティを脱出せよ」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.13

我ながら、トンデモ推理連発だった気がします。皆さんは納得できたでしょうか。あと、いよいよ誰の台詞かわかりにくくなってきました。こんな調子で大丈夫か?


あつあ通信vol.13、編者あつあつおでん


  [No.637] 第33話「コガネシティを脱出せよ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/12(Fri) 10:21:05   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ふうー、ようやく戻ってきたな」

 太陽が仕事を始めだした明け方、コガネの港に数多くのボートが流れてきた。言うまでもなく、昨晩の事件から脱出したものである。その中に、ダルマ達はいた。顔に疲れの色が見え隠れする。彼らはボートが接岸すると、事前に連絡を受け用意されていた縄ばしごを登って上陸した。

「危ねえ危ねえ、もうちょっとで俺の冒険が終わっちまうところだった」

「皆さん無事で良かったですわ」

「当然だ。正義は必ず勝つものだからな」

「……船を爆破させられといてそんなこと言えるとは、刑事さんも中々やるね」

 ゴロウ、ユミ、ハンサム、ボルトはそれぞれ無事を喜びあった。しかし、ただ1人浮かない表情の者もいた。

「おいダルマ。せっかくつながった命なんだしよ、もっと喜ぼうぜ」

「そうは言ってもな……」

「もしかして、サトウキビさんの最後の言葉が気になるのかい?」

「ええ。『俺はあの時のことを決して許さない』と言ってましたが、彼には何かあったのでしょうか?」

 ダルマはボルトに尋ねた。ボルトは腕組みして唸るが、答えは出てこない。

「けどよ、何かあったならニュースの1つにでもなりそうなもんだぜ。『敏腕塾長の知られざる過去』みたいな感じでさ」

「ああ、そりゃ無理だ。彼は自分のことを一切語らないからね。おかげで変な噂も立つんだけど、異議は唱えない。自分のことを話したくないからだそうだよ」

「それは随分徹底してますね」

「全くだよ。彼も僕達と同じ人だけど、まるで別物みたいになんでもできる。彼には妥協という発想がないんだろうな」

 ボルトは深いため息をついた。ダルマは静かな市街地を遠望する。

「……ところで皆様、何か気付きませんか?」

「どうしたのユミ?」

「この街、朝だからということかもしれませんが、昨日と比べて明らかに活気がありません」

「……言われてみればそうだな。ここは港、貨物船から積み荷が下ろされても良さそうなものだ。しかし今は、船どころか人っ子1人いやしない」

 ハンサムは顎に手を当ててまごついた。それを尻目にダルマは胸ポケットからポケギアを取り出す。

「せっかくだから使わないとね。えーと、ラジオラジオっと」

 ダルマはチューニングをして、アンテナを幾らか伸ばした。初め雑音が、徐々にはっきりとした音声が聞こえてくる。

「……全国の諸君、おはよう。我らは泣く子も黙るロケット団だ。首領サカキ様が失踪して3年後、1度はなされた復活宣言は失敗した。しかし我らは諦めなかった! 10年間に及ぶ泥水をすするような地下活動を耐えぬき、今ここにロケット団の完全復活を宣言する! 手始めに昨夜、我らはジョウト地方最大の都市たるコガネシティを占拠した。間もなく街中の捜索を開始するが、目についたやつからは遠慮なく略奪をさせてもらう」

「ろ、ロケット団だと? ヤドンの井戸でセコい商売してた?」

 ダルマは呆気に取られた様子である方向を眺めた。その方向にあるのは、コガネ城の敷地内にそびえ立つラジオ塔だ。

「これまた、厄介な時に来てくれたもんだ」

「ボルトさん、警察はどうなってるんですか?」

「警察? コガネシティの治安は全てがらん堂の門下生がやってたから、多分今回も動いてるはずだよ。まあ、昨日の船上パーティーに結構な人数が借り出されてたし、時間はかかるだろうね」

「ちょっと待った、警察業務を民間に委託していたというのですか? そんな話、国際警察の私でも知りませんよ」

「そうでしょうね。治安が恐ろしく良い街ゆえ、大して気に掛ける必要なんてありませんから。」

 ボルトは大あくびをすると、ラジオの音に耳を澄ませた。

「お、予想通りやってきたみたいだね」

「……全国の諸君、おはよう。って何、もう追い詰められたというのか! く、10年間の努力が……。全国の諸君、ロケット団は永久に不滅だ。そのことを忘れるな!」

 どうやら、スピーカーの向こう側では動きがあったようだ。ロケット団員らしき男の声は途切れ、代わりに聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「皆さん、こちらがらん堂のパウルです。たった今ロケット団の脅威は去りました。もう心配いりません。時間がかかってしまい申し訳ありません」

「これは、パウルさんか。あの人残ってたのかな」

 ダルマが進展に思いをめぐらす間にも、パウルは語り続ける。

「今回、事態の鎮圧に時間がかかったのには理由があります。1つは、昨日のカネナルキ市長の船上パーティーに多く人員を割いていたためです。そして2つ目は、その船が沈没したことにより、彼らの帰還が大幅に遅れてしまったことです」

「うーん、やはり報告はいってたみたいだね」

「……私達は、犯罪者であるロケット団員をほぼ捕まえました。ところが、私達の包囲網をくぐり抜け、今尚街にのさばる団員が5人もいるのです」

「へー、しぶといやつもいるもんだな。5人なんて、まるで戦隊ヒーローじゃねえか」

「やつらは船上でカネナルキ市長を殺害し、私達のコガネシティを支えていたサトウキビ先生に濡れ衣を着せた。その上船を爆破し、私達の活動を妨害した。……残念なことに、サトウキビ先生とは現在連絡が取れていません」

 パウルはむせび泣いているようだ。ここから、彼の悲痛な面持ちが容易に想像できる。また驚いたことに、先程までもぬけの殻と言えた市街地も急に騒がしくなってきた。

「サトウキビさんが行方不明というだけでこれだけ街が揺れるなんて……慕われていたんだな、あの人」

「しかし、市長を殺害したのが5人とはどういうことでしょうか?」

 ユミの問いに答えるかの如く、ラジオから荒い口調の一言が届いた。

「私達のサトウキビ先生を罠にはめた人物、それは以下の通りです。ダルマ、ゴロウ、ユミ、ボルト、ハンサム……この5人こそ、私達に残された不和の種なのです!」

「……な」

「な、なんだってんだよー!」

「私達が、おじさまを……」

「罠にはめただって?」

「ちょっと待った、どうして私までそうなるんだ!」

 パウルの怒りに満ちた放送は、ダルマ達の動揺を誘った。互いに顔を見合わせ、頭からクエスチョンマークが飛び出している。

「皆さん、安心してください。サトウキビ先生は不死身です。例えどれだけ辛くても、あの人は必ずやまた、私達の前に現れることでしょう。では、今私達にできることは何ですか? ……そうです。凶悪犯罪者の5人を捕まえ、先生の復活までこの街を守ることです。大丈夫、恐れることはないです。皆さん手に手を取り合い、私達の街を守りましょう! 尚、市長が死亡した現在、がらん堂の者が代理で街の運営を担います。その点についてはご容赦ください」

 パウルが全て言い切ると、ダルマは黙ってラジオのスイッチを切った。5人の中に重苦しい空気が流れる。

「ダルマ様……どうしましょう?」

「そ、そりゃ決まってるだろ、この街から逃げる」

「逃げるったってどこにだよ?」

「う、そうだな。ウバメの森なら隠れる所もいっぱいあるだろうし、南に行ってみるか」

 ダルマは南の方角に進路を取った。海岸沿いに道があり、こっそり抜け出すのに悪くない。

 ところが、その道の遥か遠くから人影が出てきた。人影はこちらにゆっくり接近してくる。

「ありゃりゃ、面倒なお客さんがいるよ。他の道を探したほうが……」

「いや、その必要はない」

 ボルトの言葉をハンサムが遮った。彼はあちこちを指差した。皆がそれに注視すると、全ての道からこちらに向けて市民が迫ってくるではないか。ダルマは頭をかきむしった。

「……あーあ、遂に俺達の冒険もここまでか。ポケモンリーグ、行きたかったんだけどなあ」

「ダルマ様、そのようなことは言わないでください!」

「そう言われても、しょうがな……」

 ダルマはここまで言いかけて、飲み込んだ。ユミの頬から光るものが流れ落ちるのが、彼の視界に入ったからである。

「くっそー、誰でも良いから助けてくれー!」

 ダルマはまたしても天を仰いだ。しかし空は薄い雲に覆われているだけである。

 その時である。何か大きなものが3つダルマ達の頭上から降りてきた。何かには小さな翼と角がついており、どうやらポケモンらしい。また、うち1つには人が乗っている。コスプレまがいの怪しい格好である。

「君達、早く乗るんだ!」

「え、あなたはもしや……」

「話は後だ。とにかく今は脱出しよう。さあ急いで!」

 ダルマ達は急かされるようにポケモンの背中にしがみついた。怪しい格好の人物は5人がいることを確認すると、口笛を吹いた。ポケモンは大地を蹴りあげ、すんでのところで大空に飛び立つのであった。



・次回予告

怪しげな人物に連れてこられた場所、そこはダルマが目指した地であった。憧れの大地で聞かされた事実は、ダルマ達の運命を変えることになる。次回、第34話「自らのために」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.14

最近ふと思ったのですか、ツリー式掲示板ってどれくらいまで投稿できるのでしょうかね。この調子だとかなり話数が増えるので、限界になったら分けないといけませんね。
さて、次回はあの人が登場。ダルマの身に何が起きるのか、乞うご期待。


あつあ通信vol.14、編者あつあつおでん


  [No.638] 第34話「自らのために」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/13(Sat) 10:22:27   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「さあ着いたぞ」

 果たして何時間飛び続けただろうか。謎の人物に連れられ、人気のない原っぱでポケモンから下ろされた。ダルマ達のすぐそばには巨大なビルがそびえる。

「ここは一体どこなんでしょうか?」

「わからない。けど、どうやら助かったみたいだな」

「ま、あんな怪しげな人物についてきて安全かどうかは微妙なところだろうけどね」

 ボルトは笑顔で呟いた。ダルマはそれに感心して尋ねる。

「……ボルトさん、こんな時によく笑えますね」

「でしょ? だってさ、不機嫌な顔したって状況が改善するわけじゃないし、そもそも周りに悪い」

「まあ、確かにそうですね」

「だからいつも意識してるのさ、『ピンチの時ほど笑え』ってね。笑う門には福来たるというやつだよ」

 ボルトは声を出して笑った。それにつられてダルマの表情からも笑顔がこぼれる。

「おーい、みんなこの中に入れだとさ」

 ここでハンサムは皆に声をかけ、近くの建物を指差した。ダルマ達が振り向くと、既にあの人物が建物内に入ろうとしていた。彼らも急いで後を追った。












「……なるほど、大体わかった。しかし、名乗りもせずに連れてきて申し訳ない。僕はワタル、ポケモンリーグでチャンピオンをやっている」

 建物の中にある一角で、一同はテーブルを囲んでこれまでの状況を説明しあった。マントを着用した怪しげな人物は静かに耳を傾ける。

「ちゃ、チャンピオン? じゃあ、ここはもしかして……」

「うん、セキエイ高原にあるポケモンリーグ本部だよ」

 ダルマは辺りを見回した。ポケモンセンターはもちろん、フレンドリーショップや通信施設も揃っている。また、壁に「まずは1人倒そう」と書かれたポスターが張り尽くされており、目にした者を萎縮させそうだ。

「でもよ、そんな偉いやつがなんで俺達を助けたんだ?」

「ああ、それは体が勝手に動いただけだよ。困ってる人を助けるのは当然のことじゃないか」

「へえ。ファッションセンスはアレだけど、殊勝な心がけだね」

 ボルトはさりげなく毒づいた。男ワタルの額から冷や汗が幾筋も流れる。

「それなら……早いとこ私達の無実を証明してもらえないだろうか。犯罪者扱いじゃ、警察と言っても信用されやしない」

「う、実はそのことなんだけど……多分無理だ」

 ワタルは眉間にシワを寄せた。これだけで10歳は老けて見えるのだから驚きである。

「無理とは、何か事情でもあったのでしょうか?」

「うん。君達がさっき話してくれたがらん堂と呼ばれる集団なんだけど、現在ジョウト地方の街々を占領しつつあるようなんだ。『凶悪犯罪者の5人を探す』という名目で、独自に警察業務をやっている。それだけならまだしも、各地の議会や権力の吸収まで図る始末。その勢いはとどまるところを知らず、現在タンバシティとフスベシティを除く全ての街が勢力下に置かれているという状況だよ」

「もうそんなに? でもおかしいですね。俺達がここに来るまで1日経ってないんですよ。どうやったらそんな短期間に支配できるんでしょうか」

「そう、問題はそこなんだよ。報告によれば、彼らはなぜか必ずポケモンセンターから現れ、そこを拠点にする。抵抗しようにも回復施設を取られているわけだから不利になるとのことらしい」

「抵抗する人ってどれくらいいるんだい?」

「……なぜか皆無だそうだ。何か特別な話術を使うわけでもなく、住民を懐柔する光景も見られない。だからこそ怪しいわけだ」

 ワタルは腕組みしながら首をかしげた。皆も沈黙する中、この男だけは騒がしかった。

「なあなあ、がらん堂のやつらをなんとかするつもりはないのかよ?」

「もちろん対処するよ、秩序を乱した者を野放しにするわけにはいかないからね。しかし恥ずかしいことに、人数が全然足りないんだ。今のまま勝負に出たら結果は考えるまでもない」

「だったらさ、俺達も参加するぜ!」

「ゴロウ、一体何を言いだすんだ?」

 ダルマは寝耳に水といった表情でゴロウの発言に口を挟んだ。

「考えてもみろよダルマ。俺達世間的には犯罪者だぜ? まともに生きてくにはやつらを打倒するしかない。そうだろ?」

「そりゃそうだけどな……」

「それに、俺もボランティアでやるつもりはねえよ」

 ゴロウはワタルの目を見ると、こう頼み込んだ。

「それでよ、ちゃんとがらん堂の撃退を手伝ったら、俺達をポケモンリーグに出場できるようにしてほしいんだ」

「ぽ、ポケモンリーグだって?」

「そうだ。こんな騒動があったからにはとてもバッジ集めなんてできるわけないし、できたとしても間に合わないかもしれない。だったら確実な手を打っておこうってわけだ。なあ、頼むよおっさん!」

「こら、おっさんはやめてくれよ。しかし、人手不足は切実だし……まあ、もう1人認めちゃったしな。うん、わかった」

 そう言って、ワタルは1枚の紙を取り出し何やら走り書きをした。彼はそれを5人に見せた。

「なになに、『がらん堂鎮圧に貢献した以下の者を、ポケモンリーグへ推薦する』か。中々気前が良いね。僕は現金のほうがありがたいけど、工場の宣伝にもなるし……ま、いっか」

 ボルトは手渡されたペンで署名をした。残りの4人もこれに同調する。

「うむう、私はそこまでバトルは得意ではないのだが……もらえるものはきっちりもらっておこう。警察という身分で大会に参加なんてほとんどできないしな」

「私がポケモンリーグにですか? バトルで珍しいポケモンに会えるかもしれませんし、探検家としては少し興味がありますわ」

「へへ、せっかくポケモンリーグの有力者が困ってたんだ。足元見ても罰当たらねえだろ」

「……やれやれ、こんな形で本来の目的が果たされようとするとは。複雑な気分だけど、これはチャンスだな。じゃあ、よろしくお願いしますねワタルさん」

 最後にダルマがサインすると、ワタルは印鑑を押した。印鑑には「ワタル」という文字とカイリューが彫られていて、拳ほどの大きさはある。

「それではみんな、がらん堂鎮圧の件、一緒に頑張ろう! あ、出発まで数日あるし、各自準備をしといてね。では解散!」




・次回予告

出発までの時間を使って、各自バトルの腕を磨くことに。ダルマはとある場所であの人と出会うことになり、お互い驚きを隠せなかった。次回、第35話「まさかの再会」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.15

今日は久々に短かったですが、かわりにgdgd進行となりました。逆転クルーズはあれでも綿密な準備をしていたのでスムーズでしたが、この辺りは詰めが甘かった。
さて、次回から各自分かれて行動するので話数は増えますが楽になります。そして、ダルマが会うのはあの人です。覚えている人いるのかなあ。


あつあ通信vol.15、編者あつあつおでん


  [No.641] 第35話「驚きの再会」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/14(Sun) 11:09:38   80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「うーん、里親募集中か」

 ダルマは1人である看板を見つめていた。彼らは一旦解散し、各自鍛練に励むことにしたのだが、その合間に彼は散歩をしていたのである。セキエイ高原は高原と名乗るだけあり平地が広がっており、各地にポケモンが放し飼いされている。

 そのような中、彼はある張り紙に目をとめたのだ。張り紙には「里親募集……色々います。中には四天王のポケモンが親の子も」と太字で書かれている。

「今3匹しかいないからなあ。戦力アップとしては手っ取り早いかも」

 ダルマは周囲を眺めた。高原の敷地の一部に囲いがあり、内側には小さなポケモンがたくさんいる。また、囲いの近くには小屋が幾つか立ち並ぶ。

「あの小屋が受け付けかな? せっかくだから行っておこう」

 こうして、ダルマは意気揚々と走っていくのであった。











 小屋の内部には藁が敷き詰められてあり、そこで何匹かのポケモンがうとうとしている。管理人らしき人はいないが先客なら既に来ていて、品定めをしているようだ。坊主頭にサンダルを履き、膝より少し下まである綿パンツに黒のTシャツを着ている。幾分日に焼けており、筋骨隆々とまではいかないが割と鍛えられている。

「……なんか見たことある気がするけど、もしや」

 ダルマはその先客に背後から近づき、声をかけた。

「父さん?」

「む、ダルマではないか! なぜお前がここに」

 なんという巡り合わせだろうか。ダルマが話しかけた相手は自分の父親だったのだ。驚くダルマを気にすることなく、父は手をポンと叩く。

「そうか、わかったぞ。遂にバッジが揃ったからここまでやってきたんだな? まさかとは思ったが、本当に成し遂げてしまうとはな。しかもこんなに早く! さあ、わしに8個のバッジを見せておくれ」

「……はいはい」

 ダルマはため息をつきながらバッジケースを開いた。そこにあるのはもちろん8個のバッジではなく、ウイング、インセクト、レギュラーの3個のみである。

「……なんだ、8個ないではないか。さてや、どこかで落としたのか?」

「いやいやいや、これが全部だよ。8個揃ったというのは父さんの単なる思い込み」

「なんと……しまった。このドーゲン、一生の不覚! ……なーんてな」

 父、ドーゲンは苦渋に満ちた表情をしたと思うと、舌を出しておどけてみせた。

「俺もそこまで馬鹿じゃない。色々大変だったそうだな。よく生きて戻ってきた」

「あー、やっぱり知ってた?」

「当たり前だ。早朝のニュースでお前が大犯罪者だと言われてびっくりしたぞ。だから助けを乞うために大急ぎでセキエイまで駆け付けたのだ。まあ、逆に俺が騒ぎの鎮圧を頼まれたわけだがな。ははははは」

 ドーゲンは腹の底から笑ってみせた。ダルマの手から汗が滲む。

「と、父さんも参加するの?」

「ん、それはつまり、ダルマも参加するのか?」

「うん。どのみち、がらん堂をどうにかしないと俺の無実は保証されないからね」

「そうか。ところで、ちゃんと取り引きはしといたか? 俺はポケモンリーグの出場権を引き出したが、お前はこういうところで甘いからなあ」

「それなら大丈夫。しっかりした友人がいたからさ。しかし……既に認めた1人って父さんのことだったのか」

 ダルマは父を感慨深く見回した。ドーゲンは子供のように興奮している様子で、よほど嬉しいようだ。

「ふふふ、1度は諦めた夢が今になって実現するとは思わなかったぞ。やはり長生きはするものだな」

「……父さんまだ45じゃないか」

「まあ、そういう細かいことは言うな。で、ここに来たということは……里親でもやるのか?」

「うん。今はどのポケモンがいるの?」

「そーだな。俺もちょっと興味があったんだが、さすがに人気でほとんど残っちゃいない。ここにいるやつらは大体親が決まっているらしい」

「そ、そんなまさか……じゃあ、何が残ってるのさ?」

 ダルマはダメ元で聞いてみた。するとドーゲンは小屋の隅にいる2匹のポケモンを指差した。1匹は、黄色と茶色の縦縞につぶらな瞳の頭を持ち、頭頂部に双葉が生えているポケモン。もう1匹は大きな耳と尻尾が特徴的で、藁ベッドの上で体をくねらせている。

「今残ってるのはイーブイとヒマナッツだけだそうだ」

「はあ。ヒマナッツはともかく、イーブイが残ってるなんて珍しいな。テレビでも特集が組まれるくらいだから、人気ありそうなのに」

「まあ、ジョウトは進化の石が中々手に入らんからな。それで、連れていくのか?」

「そうだな。じゃあイーブイだけ……」

 ダルマがそこまで言いかけると、父は叱咤が飛んできた。

「こらダルマ、お前はヒマナッツとイーブイを離ればなれにするつもりか! そのような薄情なことをするとは、父さん悲しいぞ!」

 ドーゲンは子供でもわかるような嘘泣きをしてみせた。ダルマは引き気味ながら、こう宣言した。

「う……わかったよ、両方連れていく。だから静かにしてくれ」

「よーし、よく言った。さて、そろそろ管理人も戻ってくるだろう。さっさとサインしとくんだぞ」

 そう言い残すと、父は外へ向かっていった。ダルマは慌てて引き止めようとする。

「ありゃ、これからどこ行くの?」

「うむ、暇だから練習場にでも行ってくる。お前もしっかり鍛えとくんだぞ、今回の旅は中々タフになるだろうからな」

 ドーゲンは振り返ることなく、右手を上げて去っていくのであった。

「……今回の仕事、大丈夫かな。父さんは色々厄介な事件を巻き起こすからなあ」




・次回予告

セキエイ高原を散策していたユミも、ある人物と出くわす。彼女は思い切って自分の悩みを相談することに。次回、第36話「ライバルを持て」。ユミの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.16

実に33話ぶりに登場したダルマのお父さん、名前は最初なかったのですが丁度良いのを思いついたのでこれにしました。ダルマは禅宗(座禅で悟りを開く宗派)の開祖、ドーゲンは日本に曹洞宗(禅宗の一派)をもたらした僧侶です。親子につける名前としては逆かと思いましたが、後付けなら仕方ない。
しかし、登場人物が5人から2人になると1人あたりのセリフが増え、文字数は減ってるのに話が進む。登場人物がいっぱいいる作品の作者さんが大変なんだと実感しました。


あつあ通信vol.16、編者あつあつおでん


  [No.642] 第36話「ライバルを持つこと」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/15(Mon) 15:57:50   80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「静かで良い所ですわね……」

 セキエイ高原のだだっ広い原っぱの真ん中を、ユミは1人で歩いていた。辺りにはそよ風でざわめく草が至るところに生えており、雲がゆっくり流れている。

「それにしても、特訓なんて何をすれば良いのでしょうか。私の場合、やはり自分自身を鍛えたほうが良さそうではありますが……」

 ユミは辺りを見回した。近くをバタフリーが舞っている以外、特に目立つものはない。が、それはユミにとっての話である。彼女のよく知る人物が1人、彼女の視界に入り込んだ。

「あれはやっぱり……先生!」

 ユミはその人物に向かって走った。その人物も彼女に気付いたらしく、声をかける。

「おー、ユミさんではないですかー。こんな所で会うとは奇遇ですねー」

「ジョバンニ先生お久しぶりです。先生こそどうしたのですか?」

「私ですか? ポケモンリーグから力を貸してほしいと言われたのでやってきたというわけでーす」

 ジョバンニは笑顔で受け答えた。相変わらず腹は自己主張をしており、くるくる回る所作も健在だ。だが、ジョバンニの表情は突然曇った。

「……ところで、大丈夫でしたか? 大変な目に遭ったそうですが」

「あ、ご存知でしたか?」

「当然でーす。あれだけ派手に宣伝されては嫌でもわかりまーす。それにしても、よく無事でしたねー」

「はい、変な格好をした殿方に助けられたもので」

「……多分、ワタル君のことですねー。彼にはもう少し服装を考えてもらいたいものです」

「ふふ、そうですね」

 ふと、ユミの顔から笑顔がこぼれた。疲れの色は見えるが、少しはリラックスしたようである。

「では、ここにいるということは……ユミさんもがらん堂討伐に参加するのですか?」

「はい。あの方々を止めなければ、私達はずっと追われる立場になりますから」

「そうですねー。自分の身を自分で守ることは大事でーす。私もお手伝いしますよー。何かできることはありませんかー?」

「そうですね……では、少し相談してもよろしいですか?」










「なーるほど、勝負の際に熱くなっちゃうわけですねー」

 ユミとジョバンニはポケモンリーグ本部ビルのカフェテリアに移動していた。その片隅でユミはノメルティーを、ジョバンニはブラックコーヒーを飲んでいる。

「はい。抑えよう抑えようと意識はしているのですが、いつも周りが見えなくなってしまうのです。他の方にも変な目で見られていると思うと……」

 ユミは無意識のうちにティーカップへ手を伸ばした。ノメルは酸っぱいことに定評のある木の実であり、お茶にしてもその酸味が衰えることはない。ユミは一気に流し込むとむせこんだ。

「……若い時、人にどう思われているかは重要な判断基準になりまーす。私もそうでしたよ、懐かしいでーす」

「え、先生もそのような時期があったのですか?」

 ユミは、さも意外と言わんばかりの驚き様を見せた。ジョバンニは機嫌良く話を続ける。

「もちろんでーす。今でこそ、一歩間違えたら挙動不審と勘違いされますが、あの頃は良い人を演じていましたよー」

「は、はあ。ではどうしてそのような動きを?」

「……私の永遠のライバルのことはご存知ですねー?」

「はい。確か、トウサ様でしたね」

「……彼はなりふり構わず活動してました。私と彼は旅をする途中で好敵手になるわけですが、彼に負けまいと必死になって頑張りました。そうするうちに、自分なりの形が身についていたのでーす。人の影響で普通になってたのが、同じく人の影響でこのようになるとは……当時は思いもしませんでしたよ」

 ジョバンニはテーブルにある塩をコーヒーにふりかけた。ユミが度肝を抜かされているのも気にせず、彼は塩入りコーヒーを飲んだ。ジョバンニは脂汗を流す。

「私達はトレーナーを引退後、10年間科学者をやりましたが……ここでも切磋琢磨の過程で自分の性格や癖など気にもなりませんでしたよ。彼は今どこにいるんですかねー、ポケモンリーグからの協力要請は届いてるはずですが。やはり、ライバルがいないとこちらも元気がなくなりまーす」

「先生……」

 ジョバンニは窓の外をぼんやり眺めた。外では、綿雲の隙間から太陽の光が差し込んでいる。

「ですからユミさん、一生物のライバルを見つけてくださーい。自らの力だけで行動を改めるのは難しいでーす。しかし、ライバルと競い合えば性格のことなんて気になりませーん。むしろ自分の全てに誇りを持てるようになりまーす。その時、もう恥ずかしがることは何もありませーん。『コーヒーに塩を入れたって良いじゃないですか、それが私のルールですからねー』と言えるようになったら楽しいですよー」

「な、なるほど……コーヒーに塩は単なるやせ我慢かと思いましたが、そのような深い考えがあったのですね」

「おー、さすがに塩コーヒーは演技ですよー。さて、迷いも晴れたようですし……鍛練あるのみでーす」

「は、はい! タマゴを2つとも孵さないといけないですし、進化も……やるべきことは多いです!」

「その意気でーす。では外に出ましょう、今日は久々に私が指導しましょうねー」

 ジョバンニは残りのコーヒーを飲み干すと、立ち上がり回転しながら出ていった。ユミもノメルティーを片付けると、軽い足取りでジョバンニの後についていくのであった。


・次回予告

独自に特訓をするゴロウの前に現れたのは、ポケモンリーグ四天王の1人だった。ゴロウは無謀にも、勝負を挑む。次回、第37話「炎の力」。ゴロウの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.17

がらん堂がダルマ達を捜すという名目で各地を占領してますが、鎌倉時代初頭にも同じようなことがありました。そう、義経です。ルールを破って朝廷から官位をもらった義経は、頼朝から敵視されます(武術が兄より達者なこと、取り返せと命令した三種の神器をスルーした挙げ句海の底に沈めてしまったことも関係してます)。頼朝は義経に適当な罪を着せ、彼の捜索のために守護が全国に置かれました。守護の重要な仕事、大犯三カ条の1つに「殺害人、謀反人の逮捕」があるのもその名残でしょうか。
それにしても、この話は難しかった。こういうしみじみとした話は苦手なもので、さらに後々につながる要素も入れないといけない。次回は楽に書けることを願うばかりです。

あつあ通信vol.17、編者あつあつおでん


  [No.645] 第37話「炎の力」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/16(Tue) 10:33:34   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



「ん、あれ誰だ?」

 ゴロウは目を凝らしながらある人物に接近した。その人物とは、道端で草を摘んでいる白髪で見慣れない装束を着込んだ初老の男である。足袋に草履、深紫の怪しい服に革手袋、スカーフが特徴的だ。ゴロウはその人物に声をかけた。

「おっさん、こんな所で何やってんだ?」

「おやおや、随分な御挨拶だ。拙者にはキョウという立派な名前があるのだが……」

「ん、キョウ? ……ああ、ジョウト四天王の1人の!」

「左様。我こそ、元セキチクシティジムリーダーにて現四天王の1人、キョウだ。して、お主は?」

「俺? 俺はゴロウ、次のポケモンリーグの頂点に立つ男だっ」

 ゴロウは高らかに名乗りあげた。あまりの清々しさに、四天王キョウは腹を押さえて笑った。

「ぬ、ふははははははは。先程の挨拶といい、中々肝が据わっておるようだな。うむ、気に入ったぞ。然らばゴロウよ、本当にそのような力があるかを拙者が見てみようではないか」

「え、バトルしてくれるのか?」

「その通り。しかし、拙者に負けるようならポケモンリーグは諦めたほうが良い。そこまで甘いものではないからの」

「へ、その言葉をそのまま返してやるぜ」










「さて、始めるとしよう。使用ポケモンは3匹でよろしいか?」

 2人は近場の練習場に足を運んでいた。当然ギャラリーなどいない。男同士の真剣勝負にはもってこいのシチュエーションだ。ゴロウはやや前傾姿勢、キョウは直立不動で腕を組んでいる。

「あ、ちょっと待ってくれ。俺1匹しか持ってないんだ」

「なんと……お主、さてや初心者か?」

「ちげーよ。俺は、相棒のこいつと1番になるって決めてんだ」

「ほほう、若さ故の拘りか。それが本物であることを願いたいものよ。フォレトス、出番だ」

「いくぜコラッタ!」

 両者はほぼ同時にボールを投げた。2つの放物線から放たれたのは、コラッタと何かゴツゴツしたポケモンである。

「えーっと何々、フォレトスかあ」

 ゴロウは尻ポケットから図鑑を取り出した。それによると、フォレトスは虫タイプと鋼タイプを併せ持つポケモンで、防御に定評がある。特性の頑丈も相まってサポート役などが多いとされる。

「ふむ、コラッタか。一見どこにでもいそうなものだが……闘争心は並ではないな」

「当たり前だろ、最強を目指す俺の相棒だからな。先手はもらった、怒りの前歯!」

 先手はコラッタだ。コラッタはフォレトスの懐まで飛び込むと、自慢の前歯でフォレトスを食い千切った。コラッタの前歯は若干削れたが、それでもフォレトスは顔を歪ませる。

「うむ、基本は押さえておるようだ。ではこれはどうかな、砂嵐」

 フォレトスは体を回転させると、大量の土煙を巻き起こした。ゴロウとコラッタの視界は瞬く間に狭められる。

「ぐお、なんじゃこりゃー」

「……ファファファ、これぞ変幻自在怪しの技よ。本来は惑わし眠らせ毒を食らわすものだが、このようなこととて造作もない」

「くっそー、前が見えねえ。コラッタ、早いとこけりをつけるぞ。もう1度怒りの前歯!」

 コラッタは砂嵐に隠れた影に向かって突進した。ところが、攻撃は空を切るばかりでフォレトスに当たらない。

「どこを見ておる、こっちだ。いたみわけで体力回復させてもらうぞ」

 いつの間にかコラッタの背後を取っていたフォレトスは、体から出ている管を動かした。するとコラッタの動きが鈍くなり、代わりにフォレトスが元気一杯といった状態だ。

「な、何が起こったんだ……?」

「どうやら勉強不足のようだな。いたみわけは相手と自分の体力を同じにする技……体力が少ない時に使えば相手にダメージがたまるというわけよ。力技だけでは及ばないバトルの真髄、如何かな?」

「ぬぬぬ……うがあああああ!」

 ゴロウの頭が噴火した。頭から湯気を放つと、辺りの砂煙を一掃した。まだかなり残ってはいるが、一寸先すらはっきりしない状況は崩れた。

「ぬ、なんという荒技よ。しかしこちらとてチャンス、ジャイロボールで仕上げるぞ」

 フォレトスは殻を閉じると、高速で回転しながらゆっくり近づいてきた。さながら浅紫色のスマッシュボールである。コラッタは微動だにせず、距離は徐々に詰まる。

「……コラッタ、全力で加速だ。俺達の力、焼き付けるぜ!」

 ゴロウが右腕を上げると、コラッタは動いた。フォレトスの周囲を旋回しながらどんどん走るスピードを増していく。フォレトスはなんとか捉えようとするものの、いかんせん遅いために追い付けない。

「逃げるもまた戦術。だがいつまでも逃げられるとは思わないことだ」

「あと少し……あと少しであの技が使える……!」

 ゴロウが拳を握りしめた、まさにその時である。コラッタの足元から火花が飛び散ったかと思えば、瞬時にコラッタは業火に包まれた。ゴロウは勝ち誇った晴れやかな表情を、キョウは焦りの色を見せる。

「なな、あれはまさか……」

「そのまさかだ。必殺かえんぐるまを食らえっ!」

 ゴロウの怒号に合わせ、火鼠はフォレトスに体を押しつけた。フォレトスはあっという間に火だるまとなり、地面に転がりこんだ。しばしうごめいていたが、やがておとなしくなった。コラッタはフォレトスから離れ、ゴロウの元に戻る。

「……まさか、弱点を突かれるとはな。こればかりは予想外と言わざるを得ん」

「へへ、どうだ。こんなちっちゃなポケモンでも……お、コラッタお前!」

 ゴロウから歓喜の声が漏れた。コラッタが突然光を帯び、姿を変え始めたのである。姿はみるみる様変わりし、光が収まった時には別のポケモンとなっていた。紫の体は黄唐茶に、大きさはゴロウの太ももにまで達するほどに成長している。前歯はますます伸び、光沢を持っている。

「コラッタ……遂にラッタへ進化したか。これで俺達の最強にまた1歩近づいたってわけだ」

 ゴロウはコラッタの進化形ラッタに近寄ると、背中を撫でた。ラッタはねずみポケモンにもかかわらず猫なで声をあげる。そこにキョウもやってきた。

「お主、今のバトルは中々良かったぞ。まだまだ荒削りな部分はあるが、それは伸び代がいくらでもあることの裏返しだ」

「おう、あんたも話がわかるじゃねーか」

「……そこでだ。拙者の下で鍛えてみぬか? 拙者には、お主が稀に見る才の持ち主だと感じられた。このままただ漫然と成長させるよりは、短期間でも良い環境で育ってほしいとは思うのだが、どうかな?」

「ま、マジか? じゃあ、他の四天王とも勝負させてもらえるか?」

「それはお主次第だ。拙者に勝ったと言えば大丈夫だろうが、拙者の紹介なら確実であろう」

「そうか! じゃ、短い間だけどあんたの下で色々やらせてもらうぜ」

「うむ、心得た。……拙者の鍛練に耐えられる初めてのトレーナーになるか、見物だな。ファファファ……」

 ゴロウとキョウはがっちり握手を交わした。いつの間にか砂嵐も収束し、ゴロウを祝福するかのように空は晴れ渡るのであった。


・次回予告

各自の鍛練が終わった頃、いよいよセキエイ陣営はがらん堂討伐に動きだす。ところが、がらん堂は衝撃的な手法で機先を制するのであった。次回、第38話「内側からの侵攻」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.18

連載も随分長くなってきました。これが完結したら製本してみたいと思う今日この頃。1話あたりの文字数は少ないですが、腐っても大長編。400字×300ページの本が2冊くらいはできるのではないかと予想しています。ないとは思いますが、需要ありましたら完結するまでにコメントで知らせてください。先着1名様に無料でお届けします。一応挿し絵や表紙絵も頑張ってみます。


あつあ通信vol.18、編者あつあつおでん


  [No.646] 第38話「内側からの侵攻」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/17(Wed) 22:11:00   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「あれ、ボルトさんとハンサムさんとゴロウは?」

 数日後。出発の準備が整ったダルマ達セキエイ高原の面々は、進軍経路を確認するためにポケモンリーグ本部ビルのある部屋へ集められていた。既に夜は更け、隠密活動をするにはもってこいである。現在集合しているのは、ダルマとユミ、ジョバンニとドーゲンのみだ。

「ボルト様とハンサム様は別行動だそうです。ゴロウ様はどうされたのでしょうか」

「彼なら特別に修行中だよ」

 そこに、ワタルがドアを開けて入ってきた。右手には丸めた大きな紙がある。

「なんでも、キョウさんに付きっきりで稽古してもらってるらしい」

「キョウって、四天王のですか?」

「うん、だから僕達の隊はしばらくこの5人で進むことになる。彼は後々援軍として参加してもらうよ」

 ワタルはそう説明すると、咳払いを1回した。一同が彼に注目する。

「さて皆さん、僕達は2つの隊に分かれてコガネシティを目指します。1つは僕が率いる隊で、メンバーはここにいる全員です」

「おいおいあんた、いくら人手不足といっても、さすがに5人は……あ、チャンピオンだったねあんた」

 ドーゲンは自分の疑問に勝手に納得し、うなずいた。ワタルは続ける。

「はい、こちらには僕とジョバンニさんがいるので大丈夫です。それでは、進路の確認をしときますね」

 ワタルは机に右手の紙を広げた。書いてあるのはジョウト地方の地図と大量のメモ書きである。

「まず僕達はセキエイを抜け、直接フスベシティに進みます」

「いきなりフスベですかー。何かあるのですか?」

「……ここにはジョウト地方の電気を賄う発電所があります。がらん堂の強さはポケモンセンターによる無尽蔵の回復ですから、それを止めようというわけです。もっとも、ポケモンセンターには予備電源がありますから油断はできませんけど」

「なるほど。では、その次はどうするんですか?」

「……フスベを攻略した後は、隊を分けて進みます。僕達はキキョウシティ、別動隊はチョウジタウン経由でエンジュシティに。どちらの街も交通の要地だから、ここを押さえれば物資の輸送を止められます」

「どれどれ、キキョウシティに行くにはくらやみのほらあなを通るのか。ゲリラ戦もいいところだな」

「ドーゲンさん、それは言わない約束ですよ。ともかく、2つの隊は36番道路で合流して決戦に臨みます。相手は民間人、鍛えぬかれたポケモンリーグの敵ではありません」

 そこまでワタルが言い切った時、彼の背後にある扉がひとりでに動いた。外から1人の男が入室してくる。

「そいつは聞き捨てならぬ台詞なり。速やかに撤回すべし」

「だ、誰だ!」

 ワタルは背後の男に向けて叫んだ。男は簡素な防具を身につけ、円錐型の帽子をかぶっている。無精髭を生やし、モミアゲがあごでつながっている。

「背後を取られてその余裕……また、愚かならずや」

「……あの、言ってることがよくわからないんですけど」

 ダルマは冷静に突っ込みを入れた。ジョバンニがそれをフォローする。

「どうやら、『背後取られてそんな呑気とは、なんて愚かなことだ』と言ってるようでーす。文語を使うとわかりづらいですねー」

「それで、あんたは誰だ? 俺はドーゲンという者だが」

「……名乗られた手前、名乗るべし。それがしはサバカン、がらん堂が誇る猛者なり」

 謎の男サバカンの言葉に、周囲は言葉を失った。無理もない。厳重警備されているはずのセキエイ高原にがらん堂の刺客の登場が意味することは明白だからだ。

「一体どこから入った? いや、それより他の隊員は!」

「焦るな、チャンピオンよ。今宵はそれがし1人、他には手をつける余裕なし。それがしは、内より入りて衛士を見ず」

「衛士とは警備のことでしょうか。内側から入ったということは、このビルのどこかに隠された入り口でもあるのですか?」

「……それ以上は他言不用だ、娘。さて、それがしの役は貴殿らの力を計ることなり。いざ尋常に勝負!」

 サバカンは廊下まで下がると、ボールを取り出して投げた。出てきたのは赤く、両手に目玉のあるハサミを持ったポケモンである。通常より3倍くらい速そうだ。また、頭には妙な柄の鉢巻きを装備している。

「あのポケモンは……」

 ダルマの図鑑の出番だ。サバカンのポケモンは、ハッサムと呼ばれるストライクの進化形である。鋼タイプがつき素早さこそ低いものの、優秀な耐性で繰り出しやすい。最近はバレットパンチを習得するようになり、決定力がかなり向上している。

「よし、ここは僕に任せてほしい。カイリュー!」

 ワタルもサバカンに対抗してポケモンを出した。太い尻尾に小型の翼と角を持つ、ダルマ達が脱出する時に乗ったポケモンだ。

「あれは、この間のカイリューですわね」

 ユミも図鑑を引っ張り出した。カイリューは珍しいドラゴンタイプを持ち、攻守にわたり高い能力をほこる。近年野生の個体が発見されて大騒ぎになったそうだ。

「さあ、いざ参らん。バレットパンチだ」

「甘いな、大文字!」

 先手はハッサムだ。ハッサムは自らを白銀の弾丸とし、勢いをつけてカイリューに突進した。攻撃に成功すると一気にサバカンの元に逃げ帰り、カイリューの炎を軽やかに避けきった。カイリューは苦しそうな表情である。

「くっ、たかが先制技でここまで効いてくるなんて……」

「ハッサムの特性はテクニシャン。持ち物はこの拘り鉢巻き。元より高き攻撃を活かせば、チャンピオンのポケモンと言えどかくなるべし」

「あのハッサム、スピードをバレットパンチでカバーしとるな。こりゃ普通にやっても捕まらんぞ」

 端っこで鍋をかぶりながらドーゲンがハッサムの戦いを分析する。それを聞いたワタルは不敵な笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ。僕は腐ってもチャンピオンですから」

「ほう、それはなんともかたはらいたし。ハッサムの攻撃は耐えてせいぜい2回……所詮この程度よ。げに悲しきは貴殿が弱さ。トドメだ、バレットパンチ」

 ハッサムは再び動き始めた。しかし、カイリューは引き付けるだけで何もしてこない。

「……そこだ。カイリュー、燃えろ!」

 ワタルが叫ぶと、カイリューは自らに火を放ち、瞬く間に火だるまとなった。加速していたハッサムだったが、カイリューの熱で少し怯んだ。これを見逃すチャンピオンではない。

「今だ! カイリュー はかいこうせん」

 カイリューは素早く体の炎を消し去ると、口から黄金色の光線を発射した。光線はハッサムの胸部を直撃し、サバカンもろとも壁に叩きつけた。ハッサムは崩れ落ち、サバカンも片膝をついた。

「ぬぬぬ、少し見くびったか。……今日はこの辺で失礼する。しかと報告せん、『ポケモンリーグのワタルはやや危険だ』と」

 サバカンはハッサムをボールに回収すると、膝を引きずりながらも一目散に走りだした。

「あ、待て! 皆さん追いかけましょう!」

「はい!」

「了解です!」

「逃がしませんよー!」

「待たんか若造!」

 ワタルに促され、皆一斉にサバカンを追った。彼の背中を捕まえようと懸命に走るが、いまいち距離が縮まらない。しばらく走ったサバカンはポケモン交換システムのある部屋に入り込んだ。5人もすぐさま後に続く。

「御用だ、観念……あれ?」

「サバカンが」

「いないです」

「だと……?」

「おー、これはミステリーでーす」

 一同は呆気に取られた。交換所には人1人おらず、もぬけの殻と言って差し支えない状況である。部屋には隠れ得る場所などなく、また逃げられる場所もない。ダルマはまごついた。

「うーん、どういうことだろう。手品でも使ったのかな?」

「それはないと思います、ダルマ様。タネになりそうなものなんてどこにもないですもの」

「確かに。じゃあもっと根本的な何かがあるのか……」

 ダルマは頭をかきむしった。ユミ、ジョバンニ、ドーゲンも考え込む中、ワタルは気を取り直してこう指示するのであった。

「しかし、やつがいないのは明らかです。安全が確保された今、大至急状況の把握に移りましょう!」


・次回予告

いよいよ打倒がらん堂の勢力が出発した。最初の目的地、フスベシティに向かう道中、ダルマ達は様々な話をする。それは、今の彼らにとって数少ない安らぎの時であった。次回、第39話「戦場ティータイム」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.19

この連載でのコガネシティは色々ぶっとんでます。前近代の街並み、生活風景、コガネ城etc...。しかし、構想段階ではこれを遥かに上回るトンデモ設定でした。まず街がガラス管(上空数百メートルまで続く)で覆われ、地上からの強力な電磁石の反発で大地を浮かべます。上部の大地が影を作らないように高度は調整可。連絡手段はエレベーターのみ。で、上は現代のような大都会、下は風情残る街並み(連載でのコガネシティと同じ感じ)というものでした。今思うと……うん、企画って大事。
ちなみに、サバカンさんが言っていた「かたはらいたし」、近世以降は「笑っちゃうぜ」という意味ですが、それ以前は「傍ら痛し」で「気がかりだ」とかいう意味となります。今回は前者の意味が適切でしょうか。

あつあ通信vol.19、編者あつあつおでん


  [No.648] 第39話「戦場ティータイム」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/18(Thu) 10:13:48   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「拘りメガネで特攻は何倍になる?」

「1.5倍になります」

「じゃあ狙いのまとの効果は?」

「確か、『持たせたポケモンに効果のないタイプの技が効くようになる』でしたよね?」

「……すごいな、全部あってる。ユミは努力家なんだね」

 満天の星空の下、ダルマとユミは来るべき戦いに備えて知識を蓄えていた。セキエイ高原からフスベシティに向けて出発し早3日。今晩はやや開けた、山の中腹でキャンプを張り、各自翌日を待っている。ワタルは地図とにらめっこ、ボルトとジョバンニは何やら話し込む。そしてダルマとユミは先程の通りである。たき火の炎が2人の顔を赤く染める。

「そんな、私なんてまだまだです」

「そうかなあ。俺は道具職人の息子だけど、狙いのまとなんて最近まで名前しか知らなかったよ」

「あら、ドーゲン様は道具職人なのですか?」

「うん。せんせいの爪から命の珠まで幅広く扱ってるよ。ヒワダジム戦でカモネギに気合いのタスキを持たせたんだけど、あれは俺が作ったんだ。まあ、俺のはまだまだ売れるものじゃないけどさ」

 ダルマはドーゲンの寝ているテントに目を遣った。そこから、周囲にダメージを与えかねない大いびきが耳に入ったのですぐに目線を逸らす。

 ダルマは側にあるヤカンから麦茶をコップに注ぎ、一口飲んだ。そしてユミにこう尋ねた。

「ところでさ、ボルトさんとジョバンニさんは何やってるの? フスベシティまで一緒だけど、妙に急いでるみたいだし」

「そうですね、多分出発前の事件の調査かと思われます」

 ダルマは険しい表情をした。コップに残った麦茶を飲み干すと、こう口を開いた。

「がらん堂のサバカンか。現場には何も残ってなかったし、もしかして交換システムが怪しまれたのかな? だとしたら、ボルトさんはともかくジョバンニさんが機械に詳しいなんて意外だなあ」

「……先生は10年前まで科学者と技術者をやってたそうですよ。ダルマ様の憧れるトウサ様も科学者だったそうですね」

「へえ、あの人科学者だったのか。確かにトウサさんの特集でやってたような気がするなあ。ある時を境に、両方とも突如として第一線から姿を消したらしいけど、何か聞いてる?」

「そこまでは……。ですが、先生は当時活躍していたそうですし、単に引退したというわけではなさそうですね」

 ユミは読んでいた本を閉じ、熱々の麦茶で喉を潤した。山の夜は静かだ。中腹にたまった水からできる霧がそよ風に乗り山道を隠す。植物は霧に負けまいと成長するが、どうしても霧の流れる高さを越えられない。数世紀にかけて続く山の自然は、今も変わることなく動いているのだ。

「落ち着きますね……」

「まったくだよ。早くこの戦いを片付けてゆっくりしたいな」

「ふふっ、まだ始まってもないですよ」

「そういえばそうだな」

 ダルマとユミから思わず笑みがこぼれた。少しの間が空き、ユミが真面目な面持ちでダルマを見つめる。

「ダルマ様、1つ頼みを聞き入れてもらえませんか?」

「た、頼み? 俺でできることなら手伝うよ、言ってみて」

「は、はい。ダルマ様に、私の……」

「私の?」

 ダルマは不意に唾を呑んだ。ユミは紅葉のごとく紅潮しながらも、最後の言葉を絞りだした。

「私の……ライバルになってください!」

「……ら、ライバル?」

「はい。とある事情でライバルを持った方が良いというアドバイスを頂きました。一緒に旅をしているダルマ様にライバルになってもらえれば、私はもっと成長できると思うのです」

「な、なるほど。それくらいなら構わないよ」

「ほ、本当ですか? ありがとうございます! ふつつかものですが、よろしくお願いします!」

「ふつつかものって、結婚するわけじゃないんだから。まあいいか、改めてよろしく、ユミ」

 ダルマは右手を差し出した。ユミもそれに応じて固い握手を交わすのだった。


・次回予告

フスベシティに乗り込んだダルマ達は、総力をあげて発電所に攻め上がる。ところが、がらん堂の援軍が大量にやってきて、ダルマ達は完全に囲まれた。この危機を突破することはできるのか。次回、第40話「誘い込み作戦」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.20

前回ハッサムがカイリューを追い詰めてましたが、いじっぱり攻撃全振りテクニシャンハッサム@拘り鉢巻きのバレットパンチでHP全振りカイリューが乱数2発となります。マルチスケイルなら確定3発。結構な決定力ですが、鋼タイプは半減されやすいのが難点。また、ハッサムはメジャータイプに等倍ダメージを受けるので、繰り出しが微妙に難しい気がします。強いポケモンなのは確かですが、色々惜しいですね。


あつあ通信vol.20、編者あつあつおでん


  [No.649] 第40話「誘い込み作戦」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/19(Fri) 21:32:13   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「見えたぞ、あれが発電所だ」

 林の茂みにしゃがんで隠れながらワタルが指差した。その先には、有刺鉄線で囲まれた建造物が鎮座している。それほど異常なものには思われないが、中から人の気配はまるで感じられない。

「あれがフスベシティにできた新しい発電所ですか」

「ただの小屋のようにも見えますわね」

「うん。コガネシティの人口増加に伴ってカントーの発電所じゃ足りなくなったんだ。そこで、この山に囲まれた土地に新たな発電所を作ったというわけさ」

 ワタルが発電所の説明をした。口調は軽快だが、既にその目は次のバトルに向けて燃えている。

「しかし、こんな場所だと来るのだけで大変ですよね」

「それは彼らにとってメリットだね。山と有刺鉄線に守られるだけでも攻略は難しくなる。しかもここは発電設備を地下に置いているから、侵入されてもかなり抵抗されるはずだ。隊を分けずに攻め入るのもわかるだろ?」

「確かに。……あ、そろそろ時間ですよ、ワタル様」

 ユミは腕時計の時刻を示した。そろそろ午前10時になりそうだ。それを確認したワタルは全員の方を向く。

「皆さん、セキエイ高原から休みなく歩き続け5日経ちました。私達はいよいよフスベシティ発電所に攻撃を開始します。本当は施設の破壊ができれば楽なのですが、こちらがポケモンセンターに頼れない等のデメリットが大きいので、今回は占領するだけです。戦略としては、まず僕が先陣を切り突入します。皆さんは僕に続き畳み掛ける。とにかく素早くことを進めて、最小限の犠牲で勝利しましょう!」

 ワタルの話が終わると、皆はゆっくりうなずいた。ワタルは力強く立ち上がった。

「では行こう。全員僕に続け!」

 ワタルは茂みを飛び越え、発電所目がけて走りだした。ダルマ達も遅れないように必死で追いかける。

「くっそー、邪魔する奴らは毒針の餌食だぞ!」

「おらおら、雑魚はすっこんでな!」

 ダルマとユミが前を、その後ろをドーゲン、ボルト、ハンサム諸々、そしてジョバンニがしんがりを務める格好で、勢い良く扉をけやぶり発電所内に入り込んだ。

「御用だ御用だ、ドーゲン様の……ありゃりゃ、誰もいないぞ」

 ドーゲンは辺りを見回した。一同もあちこちを探す。しかし、人っ子1人いない。拍子抜けしたダルマは深呼吸をした。

「なーんだ、意外とあっさり攻略できちゃったじゃないか。心配して損したよ」

「しかし、こうも簡単に動力を手放すものかなー。技術者の僕から言えば、罠だと思うよこれ」

「ははは、まさか……」

 ダルマがボルトの言葉に笑って受け答えすると、外から土を踏む音が聞こえてきた。足音は1人でも2人でもない。10人は軽く超えているだろう。ダルマ達の額から冷や汗が一筋流れる。

「……あのーワタルさん、これってもしかして?」

「ああ、そのようだな。皆さん、モンスターボールを準備してください」

 ワタルは各員を促し建物の外に進んだ。ダルマ達はボールを1個握りしめ、その時に備える。

「また会ったなワタル。それがしを忘れたとは言わせぬ」

「……サバカンか。君も忙しいな、この前はセキエイで今度はフスベとはね」

 ワタルは見覚えのある男へ気の毒そうな言葉を投げかけた。5日ぶりにワタルの前に立ちふさがるのはサバカンである。

「……無知はこれだから困る。先生は、我らがためにあるものを残された。移動に苦しむ理由なし」

「なるほど。やはり、セキエイでまんまと逃げられたのは何か仕掛けがあったからか」

「……この度は以前と異なり、手加減は無用との沙汰なり。こちらは総勢50人に対しそちらはたかだか10人前後。多勢に無勢なる言葉知りたるならば、諦めたくならぬか?」

 サバカンの問いかけに、ワタルは鼻で笑った。彼は右手にボールを持ち、臨戦態勢を取る。

「生憎、諦めは悪いものでね。僕はチャンピオンだ、何人がかりでも撃破してみせる」

「……愚かなり、チャンピオンよ。ここで投降すればがらん堂の慈悲にすがることもできたものを。されど、もはや情けは与えぬ。貴様の、薄氷のごとき見栄で他人が苦しむ姿、しかと目に焼き付けよ。皆の衆、かかれ!」

 サバカンの怒号に従い、着流し姿の若者が一斉に有刺鉄線の中になだれ込んできた。ワタルは舌打ちしながらも叫ぶ。

「くっ、下見ではここまでいなかったはず……。皆出動だ、なんとしても全員倒すぞ!」


・次回予告

がらん堂の軍勢相手に良く戦うダルマ達であったが、遂に追い詰められた。しかし誰もが敗北を確信したその時、とんでもない援護が飛んでくるのであった。次回、第41話「心強き味方」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.21

以前チャットで「天才型主人公の話は難しい」という話題が上がってました。もしこのようなタイプが主人公だとしたら、先生や監督等の指導者にするのが良いかなと思います。「自分がやればすぐ終わるが、部下が上手くいかずやきもきする」といった中で部下の成長を見ていくのは中々面白そうです。


あつあ通信vol.21、編者あつあつおでん


  [No.650] 第41話「心強き味方」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/21(Sun) 08:40:51   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「はあっはあっ……倒しても倒してもきりがない」

 がらん堂との対決が始まって30分ほど経過した。ダルマ達は善戦を続けていたが、がらん堂の人海戦術に押されがちであった。ダルマは息切れしながらも叫ぶ。

「まだまだ、この程度じゃ終わらない! アリゲイツ、水鉄砲!」

 ダルマの相棒アリゲイツは、がらん堂の若者目がけて弾丸を撃ち続ける。たかが水と言えど、ポケモンが放つものだ。1人ずつ確実に吹き飛ばし、有刺鉄線に叩きつける。だが、いくら痛め付けても彼らは立ち上がり、ダルマ達に詰め寄る。

「くそっ、まだ動けるのか。さすがに鍛えてるな」

 ダルマは舌打ちをした。彼の耳に、徐々に苦しくなる戦況が続々と聞こえてくる。

「うわっ、おじさんのポケモン全部やられちゃったよ……」

「ぬぬぬ、このドーゲンが最後の1匹まで追い込まれるとは」

「きゃっ! 全員瀕死ですわ……」

 各員の手持ちをどんどん倒され、残ったメンバーに新たな敵が迫る。それによりまた敗退する者が現れ、また別の者に矛先が向けられる。ジリ貧を通り越してどうしようもなくなってきた。

「……言ったはずだ、多勢に無勢と。貴様もそこまでだ、チャンピオン」

「ぐぐ……まさかここまで強かったとは。がらん堂、少々侮ったな」

 発電所の入り口付近ではワタルとサバカン達の戦いが展開されていた。辺りには下っぱの山ができているが、ワタルも無傷では済まされなかったようである。既にポケモンは5匹倒され、切り札のカイリューも片膝をつく有様だ。

「だ、ダルマ様……このまま私達、負けてしまうのですか?」

「ば、馬鹿言うなよ。まだ逆転のチャンスはあるはずだ」

「それでも! まだ戦っているのはダルマ様とワタル様だけですよ……?」

 ユミは左右に目を遣った。あちこちでセキエイ陣営のメンバーが縄で縛られ、残すところダルマとユミ、ワタルのみとなった。ダルマはユミを背後に連れ、発電所の壁を背に奮闘しているが、もはや四面楚歌と言うにふさわしい状況である。

「まあ、確かにヤバいな。けど、弱音を吐くのはまだ早いよ」

「え……?」

「……コガネで俺が諦めた時、ユミは俺を鼓舞した。だから俺も言わせてもらう。まだ終わるような時間じゃねえ!」

 ダルマは目の前をアリゲイツに任せ、側面から迫るがらん堂の内側のすねにローキックをかました。痛みに悶絶するがらん堂員はその場にうずくまる。

「俺達は世間的には犯罪者。ここで捕まったって、これ以上どん底に落ちることなんてないさ。だったら、あらゆる手段で抵抗してやるよ。思い残すことがないように!」

「だ、ダルマ様……」

 ダルマは、右へ左へ大忙しに攻撃を加える。駆け付ける人数が撃退する人数より多いのでますます囲まれていくが、ダルマは抵抗を止めようとしない。

「……私だって、最後まで意地を見せます!」

 ユミは拳を握ると、勢いをつけて飛び上がり、がらん堂員の胸元を蹴った。その一撃は多数の構成員を巻き添えにした。さながら、ポケモンの技にあるとびげりのような威力だ。

「チェストー!」

 ユミの雄叫びで周囲がにわかに怖気づいた、まさにその時。近くで何かが落ちる音が鳴り響く。あまりの大きさに、全ての者が音源に注目する。

「……そこまでだ。3人がかりなれば、チャンピオンとて心得なき素人の如し」

「か、カイリュー!」

 地響きの正体は横たわるカイリューであった。ワタルはカイリューをボールに戻すと、苦虫をつぶしたかのように顔を歪ませる。

「余興は終わりだ。皆の衆、残った3人を捕らえよ」

 サバカンの号令のもと、がらん堂員は大挙してダルマ達に襲いかかった。ワタルは観念したのか、目を閉じ両手を上げた。

「ここまでか……」

 ダルマも快晴の青空を見上げた。彼は回転しながら接近する棒状の物体した。物体はぐんぐん距離を縮め、がらん堂員をなぎ払いながら地上に到達した。

「な、何が起こったんだ……?」

「ダルマ様、あれを見てください!」

 流れが掴めないダルマはもちろん、あらゆる勢力が上空を注視した。よくよくチェックすると、発電所の屋上に1人と1匹がいるではないか。各々が驚嘆の声をあげる中、1人と1匹は飛び降りた。1人は迷彩柄のズボンに真っ黒なシャツを着た少年。1匹は頭蓋骨をかぶり、中から眼を光らせている。

「あ、お前は……カラシ! それにそのガラガラ、進化したのか」

「久しぶりだな、確か……ダルマだったか。ガラガラも挨拶してるぜ」

 飛び降りた1人と1匹、カラシとガラガラはダルマに一礼した。ガラガラはそのまま、地面に刺さっている骨を回収する。

「カラシ様、どうしてこちらに? あなたはロケット団と協力していたのでは?」

「おっと、話は後だ。まずは邪魔者を蹴散らす。俺達の力をよく見ておくことだ」

 カラシは口笛を吹いた。それに呼応し、ガラガラは得意の骨ブーメランを放った。以前のように、パワー不足で飛距離が伸びないということはなく、ばっさばっさとがらん堂員に土をつける。一方カラシはブーメランの軌道を縫うように移動し、取りこぼしたがらん堂員を別の構成員目がけて投げ飛ばす。快刀乱麻とは彼のためにある言葉だと唸りたくなる手さばきで、見事下っぱの大半を地に伏せさせた。

「き、貴様は凶悪犯罪者ロケット団のカラシか! がらん堂の前に立ちはだかるとは……」

 先程まで優勢だったサバカンは、歯ぎしりしながらカラシとガラガラを睨み付ける。だが、もはやそのような威嚇に力は伴っていないのは、誰の目からも明らかだ。

「なら、俺と1試合やるか? チャンピオンを倒したとはいえ、そっちも手負いみたいだが大丈夫か?」

「……ぐ。今日のところは見逃しておこう。だが覚えておけ、がらん堂は貴様らを逃すことなからん」

「へ、おとといきやがれ」









「いやー助かったぞ少年。この年であれだけ強いとは、息子にも見習ってもらわねばな」

「父さん、それは余計なお世話だよ」

「でも、本当に助かりましたわ。ありがとうございます」

 がらん堂が撤退した後、捕縛されたセキエイ陣営を救助し、カラシとの対面を果たした。感謝の言葉にも彼は顔色1つ買えない。ダルマはそんな彼に根本的な質問をした。

「ところでさ。なぜ俺達がここにいるとわかったんだ? それと、助けた理由は?」

「……簡単なことだ。1つ、情報収集をした結果から推測しただけ。2つ、お前達セキエイ陣営に協力しようと思ったからだ」

「え、もしかして君も参加してくれるのか?」

 予想外の発言に、ワタルの声はうわずった。カラシは不敵な笑みを浮かべて言う。

「ああ。ただし、それ相応の報酬を頂く」

「なるほど。じゃあ、ポケモンリーグの出場資格なんてどうかな?」

「……中々悪くないな。では、俺は今日から正式に協力させてもらう。今から俺の活躍ぶりに舌を巻くがいいさ」

 カラシがセキエイ陣営入りを宣言すると、各人は大いに沸くのであった。ダルマ達に心強き味方が加わった瞬間である。


・次回予告

ダルマ達一行はフスベシティのポケモンセンターを奪回し、束の間の休息を楽しむ。そこで、ユミの2つのタマゴが激しく揺れるのであった。次回、第42話「新たな仲間は色違い」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.22

最近はワタルが喋る機会が多いので、誰が主人公か自分でも度忘れしている感じです。しかし今日は久々にダルマが主人公らしい台詞で存在感を発揮できたと思います。彼は最後まで主人公の座を守り切ることはできるのでしょうか。様々な面で彼に試練が続きます。

あつあ通信vol.22、編者あつあつおでん


  [No.652] 第42話「新たな仲間は色違い」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/22(Mon) 15:12:00   91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ああ、久々にゆっくりできるぞ」

「そうですね。5日も山を歩き続けて皆さんお疲れみたいですし、丁度良いですわ」

 フスベシティのポケモンセンター。その一角でダルマとユミはソファーに座って一息ついていた。外は山ならではの澄み切った夜空で、星がウインクする様まで丸見えだ。

「けど、籠城してると思ったのに誰もセンターにいなかったのは妙だよな」

「それは私も考えていました。カラシ様が来られたとはいえ、私達は全滅に等しい状況でした。みすみすチャンスを潰すのはおかしいですよね」

「なんだ、俺がどうかしたか?」

 と、2人の話にカラシが入ってきた。彼はソファーにどっかり腰を下ろすと、テーブルに置いてあるのど飴をさりげなくポケットに入れた。

「そういえば……カラシ、何故セキエイ陣営に加入しようと思ったんだ? 最後に会った時はロケット団の用心棒をやってたじゃないか」

「なんだ、そんなことか。ロケット団が壊滅し、俺の仕事がなくなった。だからここに仕官しただけのことだ」

「あら、私達と同い年くらいに見えますが……お仕事をなさるのですか?」

 ユミの問いかけに、カラシは窓の外を眺めながら答えた。

「……俺の家は『赤貧洗うが如し』という言葉を体現したかのようなところでな。食べ盛りの子供は家族に負担をかけちまう。だから、旅をしながら稼ぐことにしたんだよ。なのに……」

「なのに、どうしたんだ?」

「……俺がちゃんと旅ができるようにって、ない金はたいて準備してくれたんだよ。馬鹿らしいだろ? まあ、俺はそれに報いるためにこうして仕事を探していたわけだ。バトルが上手いのも、それを仕事にするためさ」

 カラシはソファーにもたれかかり、腕組みをしながら目を閉じた。ダルマとユミは互いに見合わせ小声で話す。

「……カラシ様、とても大変そうですね。私達に何かできないでしょうか?」

「どうかなあ。俺達もなんだかんだで金があるわけじゃないし……」

「ふん、余計なお世話だ」

 不意にカラシが発言をしたせいで、ダルマとユミは飛び上がり冷や汗を流した。カラシは機嫌良く続ける。

「ところで、がらん堂の技術はもう聞いたか?」

「技術ですか? もしかして、人が突然消えたりするあの?」

「察しが良いな。あれはポケモン交換システムを人に使えるように改良したらしい。人をポケモンと同じように処理すれば移動も楽なんだろう。サトウキビという男が各地のポケモンセンターの機器を不正に改造していたそうだ」

「な、なんだって……。サトウキビさん、初めて会った時はポケモンセンターの修理って言っていたけど、このためだったのか。それでも、そんな技術聞いたことないぞ」

「そりゃそうだろ。こんな技術、失敗したら命の保証なんてない。表立ってやれる方がよっぽどおかしい」

「……言われてみればそうだな」

 ダルマは納得したのか、何度もうなずいた。しかしカラシの説明は止まらない。

「そうそう、何故人々が抵抗しないか。怪電波でコントロールしているってよ」

「か、怪電波、ですか?」

 博識のユミも首をかしげた。ダルマに至っては言うまでもない。

「そうさ。元々コガネシティは旅人や住人にバッジや記念品をばらまいていた。それが実は中継機になっていて、ラジオ塔の怪電波を受信して持ち主の家で猛威をふるうという寸法だ。」

「……そういやサトウキビさんが言ってたな、『連帯感や一体感を高めるために配っている』って。俺達危なかったんだな……ん、ちょっと待てよ。どうしてカラシはそんなに詳しいんだ? 専門のジョバンニさんとボルトさんでもわからなかったのに」

 ダルマはカラシに疑いの目を向けた。ユミも不安げな表情をとる。しかし、カラシの次の一言が彼らの注目を完全に彼から逸らした。

「……それはさておきだ。かばんが光ってるぜ、あねさん」

「え? あ、これはもしかして……」

 ユミは大急ぎでかばんからあるものを取り出した。それは、今にも割れんと輝く2つのタマゴである。3人の目の前で殻が勢い良く飛び散り、そして……。

「これは、イーブイに……なんだこのポケモンは」

 ダルマは図鑑を引っ張り出して調べた。1匹はイーブイ。有名なポケモンだが、特筆すべきはそこではない。この個体、特性がきけんよちなのである。

「あれ、イーブイの特性にきけんよちなんてないぞ。もしかして、新種かな?」

 ダルマは感嘆のため息をついた。ユミがイーブイを静かになでると、イーブイは健気に鳴き声をあげた。

「で、こっちはえーん、フカマル? タイプはドラゴンと地面……え、ドラゴン?」

 ダルマは図鑑を穴が開くほど見つめた。フカマルはシンオウ地方のとある洞窟に生息するポケモンで、進化形のガブリアスは非常に高い能力を持つ。対策必須と言っても過言ではない。だが、ダルマが驚いたのはそれだけではない。

「おい、色が明らかに違うぞ」

 ダルマはフカマルを指差した。本来のフカマルは青い体に赤の腹だが、この個体は藍色の体に黄色の腹部を持つ。

「なるほど、こいつは色違いだな。しかもジョウトでは見かけないポケモン……ついてるな、あねさん」

「そ、そんなことないです。ですが、やっと会えましたね。イーブイにフカマル、これからよろしくお願いしますね!」

 ユミの呼びかけに応じ、イーブイとフカマルは元気に前足と手を持ち上げるのであった。ユミに新しい仲間が加わった瞬間である。

・次回予告

さらなる激戦が予想される中、ワタルの案内で一同はある場所に訪れる。そこでは強力なトレーナーが待ち構えていた。次回、第43話「フスベジム前編、ドラゴンへの道」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.23

実はこの連載、金銀世代までの251匹をメインに使ってるんですよ。ユミのフカマルなんかは例外ですが、野生やトレーナーが使うポケモンは原則ジョウトまでのポケモンのみ。他の地方に行ったことがあるトレーナーやタマゴから生まれたポケモンには他の地方のポケモンも採用すると。これだときっと最後はネタ切れ必至ですが、のらりくらりとやってみますよ。


あつあ通信vol.23、編者あつあつおでん


  [No.656] 第43話「フスベジム前編、ドラゴンへの道」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/23(Tue) 21:40:55   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ジョバンニさんジョバンニさん」

「どうしましたかーダルマ君、お金なら別の人に借りてくださーい」

 発電所の攻防から一夜明け、ダルマ達はフスベの町中を歩いていた。山の上にあるフスベシティは空気が薄いのだが、5日間もかけて山越えをした彼らには大した問題ではなさそうだ。ドーゲンとボルトに至っては呑気に鼻歌オーケストラをやっている。

「いやいや違いますよ。がらん堂の技術についてです」

「ほー、あなたも科学に興味がありますかー。なんでも聞いてくださーい」

「では遠慮なく。人の転送と怪電波なんて、誰が開発したんでしょうか?」

「ふむふむ、なーるほど」

 ジョバンニが何度もうなずく。はっきりしないジョバンニに、ダルマは詰め寄る。

「正確に答えてください。これらの技術は表立ってできるものではありません。その道の専門家が長い年月を費やさなければ実現は難しいでしょう。あなたは昔科学者だったそうですが、このような分野の研究者に心当たりはありませんか?」

「……そうですねー。私も年ですから、少し記憶が曖昧なのでーす」

「じょ、ジョバンニさんっていくつなんですか?」

「今年で35になりまーす」

「十分若いじゃないですか!」

「ふふっ、あなたも年を取ればわかりまーす」

「な、なんだか地味に突き刺さる台詞だ……」

「とにかく、キキョウに戻ったら自宅の資料を調べてみましょう。それまでは待つことでーす。焦らない焦らない」

「は、はあ。ではお願いしますね」

 ダルマは複雑な面持ちで歩き続けた。対してジョバンニは軽快に跳ね歩く。

「お、やっと見えてきたな」

 やがて、とある建物が視界に入ってきた。ワタルは額の汗を拭いながらそれを指差す。

「あれはフスベジム。僕も昔修行した場所だけど、皆元気かなあ。がらん堂の被害に遭ってなければ良いけど」

「ほう、人をも巻き込むはかいこうせんはそこで身につけたのか。中々面白そうだな、がはははは」

 ドーゲンの言葉に唇を震えさせながらも、ワタルは歩を進めた。そして、ようやく入り口にまで辿り着いた。古ぼけた外装に柱の曲がったポスト、立て札にはかすれた字で「フスベシティジム。ジムリーダー」とまでは書かれている。だが、肝心要のリーダーの名前がきれいに消えている。

「懐かしいな、この感じ。ただいまー」

 ワタルは引き戸を引いた。滑りが悪いものの無事に開き、一同は中に入り込む。驚くべきことに、屋根がない。どうやら外から確認できたのははりぼてのようである。ジム自体は学校のグランド程度の広さがあるので、大型のポケモンでも縦横無尽に戦える。

「……誰かと思えば、負け犬に成り下がったチャンピオン御一行じゃないの」

「おいおい、久々の再開の第一声がそれはないだろイブキ」

 そこに、1人の女性がいた。ワタルに苦笑いされたイブキと呼ばれる女性は、まずワタル同様マントを羽織っている。肘までの長い手袋をはめ、ブーツを履き、膝すれすれのスカートを着用。お互い似たり寄ったりなセンスを持ち合わせているみたいだ。

「皆さん、こちらはフスベジムリーダーのイブキ、僕の妹弟子です。気難しいやつですが、どうかいたっ!」

「……余計なことは言わなくてよろしい」

 イブキはさりげなく左腕でワタルの首の後ろをチョップした。ワタルはすぐさまその部分をもみほぐす。

「それで? 大挙してジムに押しかけた理由は何かしら」

「ああ、まずは無事か確かめに。もう1つは訓練に付き合ってほしい」

「なるほどね。……私達は無事よ。完璧をよしとするフスベジムが雑兵ごときに遅れをとることなどあり得ないわ」

 イブキは胸を張って答えた。ボルトは彼女のボディラインに釘付けだが、彼女の一睨みで真顔に戻る。

「最初に言っておくけど、私は弱いトレーナーと訓練する気なんてさらさらない。だからまずは手頃な相手と勝負させてもらうわ。そうね、そこの冴えない男がおあつらえ向きかしらね」

 イブキは人差し指で実験台を指し示した。ジョバンニの隣で眠そうにあくびをするダルマが犠牲者である。

「お、俺ですか?」

「そうよ。神聖なジムであくびをするその無神経さ、私が叩き潰してあげるわ。感謝することね」










「使用ポケモンは3匹ずつ。その他は公式ルールに則ります。では、始め!」

 ダルマとイブキは対面し、審判をワタルが務める。他のギャラリーは遠巻きに眺めている。そのような状況で、フスベジム戦は幕を開けた。

「初陣だ、イーブイ!」

「ハクリュー、まずは小手調べよ」

 ダルマの先頭はイーブイ、イブキのトップはハクリューだ。ダルマは早速図鑑に目を通す。

「なになに、ハクリューはドラゴンタイプのポケモンで、耐性に優れている。弱点は氷かドラゴンのみにもかかわらず水、草、炎、電気に抵抗を持つ。ただし耐久は平凡なのでそこまで頑丈ではない、か」

 ダルマはハクリューを見やった。群青の背中に純白の腹、首根っこの玉に頭部の羽が目立つ。一方イーブイは、ハーネス代わりか赤いひものようなものを胴に巻き付けている。

「先手はいただくわ、げきりん!」

 先に動いたのはイブキのハクリューだ。体から湯気を放ちながら尻尾でイーブイを打ちのめしまくった。ところがイーブイは避けようともせずに攻撃を受けた。

「へへ、たった1回の攻撃じゃあイーブイは倒せないよ。じたばただ!」

 ハクリューの攻撃が一段落するとイーブイの反撃が始まった。先程の手痛い打撃をものともせずハクリューの懐に飛び込むと、力一杯暴れたのである。引っ掻き傷やはたかれた跡で彩られたハクリューは、たまらず地に伏せてしまった。

「ハクリュー戦闘不能、イーブイの勝ち!」

「くっ、今の攻撃……あんな小柄のポケモンが出せる力じゃないわ。一体何が起こったというの?」

 イブキは目の前の出来事を信じがたいのか、拳を握り締めながらハクリューをボールに戻した。

「あれはおそらくダルマ様の得意技、気合いのタスキとじたばたの組み合わせですね。ですが、それだけでハクリューを一撃で倒せるでしょうか?」

「なんだお嬢ちゃん、適応力を知らんのか?」

 外野では、戦況のチェックに余念がないユミにドーゲンが補足をしている。

「適応力は、自分と同じタイプの技を使うと威力が上がるという代物でな。タスキとじたばたと組み合わせればイーブイの進化形より高い決定力をはじき出せるというカラクリよ」

「なるほど。さすがドーゲン様、道具職人はバトルに関する造詣が深いですわ」

「なに、これくらいは基本よ。俺もダルマのように旅をしていたもんでね。さて、そろそろ次の勝負が始まるぞ」

 ドーゲンは自信満々な表情でイブキに注目した。彼女は既に2匹目のポケモンを用意している。

「フン、最後に勝つのはこの私よ。この子でそれを完璧に証明してみせるわ」



・次回予告

イブキのポケモンはどれもこれも鍛え上げられており、正攻法では勝ち目がない。ダルマはあらゆる技を活かして戦わざるを得ない状況に。そして、遂にとんでもない戦力が目覚める。次回、第44話「フスベジム後編、空飛ぶ砲台」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.24

ダルマ、ゴロウ、ユミの3人の中で、今1番強いのは誰なんでしょうか。個人的にはダルマですが、四天王のポケモンを倒すゴロウも有力。もっとも、最終的な面子はどう考えてもユミが優勢(夢イーブイ、フカマル、ウパーなどの実力者が数多く在籍)。まあ、主人公が誰かわからないのでなんとも言えないですね、今は。


あつあ通信vol.24、編者あつあつおでん


  [No.657] 第44話「フスベジム後編、空飛ぶ砲台」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/24(Wed) 11:45:08   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「出番よギャラドス、実力を見せつけなさい」

 イブキが投てきした2個目のボールから出てきたのは、ハクリューと似たような体型のポケモンである。ただし、太さ長さは段違い。鋭い目つきでイーブイを威嚇している。

「2匹目はギャラドスか。さすがにこいつは知ってるぞ」

 こう呟きながらもダルマは図鑑に目を通す。ギャラドスは、有名なコイキングの進化形である。威嚇により物理攻撃に強いため耐久型もできるが、メジャーなのは竜の舞いを使ったエース型だ。また、豊富な技を活かして特殊型に育てる者もいる。様々な戦い方ができるので見極めが重要だ。

「イーブイはちょっとキツいか。よし、電光石火で削れ!」

 勝負の第2幕はイーブイの急加速から始まった。イーブイはみるみるうちに距離を縮め、ギャラドスにぶつかる。しかし、ぶつかったイーブイの方が空中に投げ出されてしまった。

「甘いわ、たきのぼりよ」

 この隙を逃すイブキではない。ギャラドスはイーブイに頭でどついた。イーブイはダルマの手元まで吹き飛ばされ、ダルマは慌ててキャッチする。

「ありゃりゃ、さすがにやられたか。しかしかなり硬いな、あのギャラドス」

「フン、当然ね。フスベジムは完璧をもってよしとする。このくらいの攻撃ではびくともしないわ」

「なるほど。じゃあ俺の2番手はこいつだ!」

 ダルマは次のボールを投げた。出てきたのはスピアーである。今日も両腕の針は輝いている。

「スピアーとは、私も舐められたものね。ギャラドス、竜の舞い」

「ならばこっちはにほんばれだ。たいよおっ!」

 先に動いたのはギャラドスだ。ギャラドスは激しい戦いの踊りを始めた。一方、スピアーは両腕を天に伸ばして唸り声をあげる。すると、大空を隠す雲という雲がどこかへ消えてしまった。フスベジムには屋根がないので、直射日光がさんさんと降り注ぐ。端から見れば何かの儀式と思われそうだ。

「にほんばれですって……。仕方ないわね、じしんで沈めなさい!」

 ギャラドスは自らの胴を地面に叩きつけた。その直後、大地の咆哮がスピアーに襲いかかる。なんとかしのいだスピアーは背中の羽をはばたかせた。

「危ない危ない、よく耐えた。よし、逆転の切り札、追い風を吹かせろ!」

 スピアーは紅の瞳から閃光を放つ。その瞬間、スピアーの背後から台風を彷彿とさせる風が流れてきた。スピアーはすぐさま追い風に乗る。

「くらえ、がむしゃら攻撃!」

「くっ、速い……!」

 スピアーはギャラドスにしがみつくと、反撃を受ける前にあちこちを針で刺したおした。ギャラドスは苦痛に表情が歪むものの、辛うじて返しのたきのぼりをヒットさせる。スピアーは崩れ落ちた。

「スピアー戦闘不能、ギャラドスの勝ち!」

「……他愛ないわね」

 ダルマはスピアーをボールに回収した。そして最後のボールを手に取る。

「それはどうですかね。スピアーが整えた場で、俺の切り札が火を吹きますよ。ヒマナッツ!」

 ダルマは切り札の入ったボールを送り出した。中から出てきた切り札は、今日が初陣のヒマナッツである。ヒマナッツは何か妙な眼鏡をかけており、体中から煙が上がっている。

「あら、これが切り札かしら? ……ギャラドス、たきのぼ……」

「ソーラービーム!」

 ヒマナッツは機先を制した。頭の双葉から大量の光を集め、その口から集約した光線を発射した。光線はギャラドスを飲み込み、丸焼きにしてしまった。

「……はっ、ギャラドス戦闘不能、ヒマナッツの勝ち!」

「な、なんなの今のパワーは……」

 イブキは床を蹴りながらギャラドスをボールに収めた。ダルマは不適な笑みを浮かべる。

「これがサンパワーの力か。勉強の甲斐はあったみたいだな」

「……ここまで追い詰められたのはいつ以来かしら。これで全てを決めるわ、キングドラ!」

 イブキは3匹目のボールを場に出した。登場するのは口の長いポケモンである。

「どれどれ、キングドラか」

 ダルマは図鑑のキングドラのページをチェックした。キングドラはシードラの進化形で、ドラゴンタイプでありながら氷タイプを弱点としない。特性のすいすいを活用して雨を戦術に取り込む者もいるという。

「キングドラ、格の違いを教えてあげるわよ。竜星群!」

 イブキの号令の下、キングドラは身震いした。すると、なんということだ。上空から燃え上がる岩石が無数に飛んできたではないか。イブキは勝利を確信したのか、ガッツポーズをとる。

「……俺達は負けない。ヒマナッツ、飛び上がれ!」

 ここでヒマナッツは、双葉を上下に動かした。追い風の効果もあり、ヒマナッツ徐々に舞い上がっていく。しまいには太陽に重なってしまった。

「そのままソーラービーム発射!」

 ヒマナッツは今一度、極太のビームを撃った。地上での攻撃とは異なり、空中での攻撃において反動が如実に現れる。ヒマナッツは顔面を振り回された。

「あらあら、そんなに狙いが逸れていては……」

「いや、これこそが作戦だ!」

 ダルマは胸を張って答えた。ヒマナッツのソーラービームは四方八方乱射されているが、それにより流星群が次々に塵と化していく。キングドラも良く避けていたのだが、不運にも流れ弾が直撃。たちまち光に包まれ、そのまま壁に激突した。

「……キングドラ戦闘不能、ヒマナッツの勝ち! よって勝者はダルマだ!」

「そ……そんな! この私が、こんな素人に!」

 ワタルのジャッジが下った瞬間、イブキは身動きが取れなかった。それを横目にダルマはヒマナッツのもとに駆け寄る。

「すごいぞヒマナッツ、あそこまで強烈だとは思わなかったよ」

 ダルマはヒマナッツの頭を撫でた。ヒマナッツは気持ちよさそうに喉を鳴らす。

「いやあ、見事な作戦勝ちだったよダルマ君」

「ワタルさん、本当ですか?」

「ああ。スピアーのサポートからヒマナッツの火力を引き出す……ポケモンバトルが1匹だけのものじゃないことを改めて実感したよ。さて……」

 ワタルはイブキの方を向き、満足げな顔で再び頼み込んだ。

「イブキ、これでわかったかな。約束だから訓練手伝ってくれよ。それと、バッジもね」

「うるさい、わかってるわよ」

 イブキはダルマに歩み寄った。途中でワタルの足を全力で踏みつけたのは内緒である。

「これがフスベジム勝利の証、ライジングバッジよ。さっさと受け取りなさい」

「ありがとうございます。よーし、ライジングバッジゲットだぜ!」

 イブキからバッジを受け取ったダルマは、それを天に掲げるのであった。


・次回予告

がらん堂との戦いに備え、1人鍛練をするダルマ。そこに父が現れ、2人で話を始めたのだが……。次回、第45話「技の継承」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.25

かなりカオスな勝負になりましたが、ようやくダルマの戦い方が提示できたと思います。ちなみに、全員6Vレベル40前提ですが、ダメージ計算はなんとか辻褄が合います。意地っ張り全振りハクリューの逆鱗でイーブイ乱数1発。返しの適応力じたばたで確定1発。無振りギャラドスの竜舞地震をHP全振りスピアーは高乱数で耐え、追い風で抜けます。ひかえめ素早全振りヒマナッツは無振り竜舞ギャラと無補正全振りキングドラを抜き去り、サンパワー眼鏡ソーラービームで無振りうっかりやキングドラを乱数1発で葬れます。うっかりやだと特防が下がるとはいえ、種族値オール30のヒマナッツがキングドラを一撃にできるとは……太陽神となる時が楽しみです。


あつあ通信vol.25、編者あつあつおでん


  [No.664] 第45話「技の継承」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/26(Fri) 23:30:00   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「よし、少し休憩しようか」

 夕日が人々にウインクする頃、ダルマはフスベジム周辺の湖で小休止していた。傍らにはアリゲイツとイーブイ、ヒマナッツにカモネギ、そしてスピアーが肩で息をしている。

「やっぱり走るのは疲れるなあ。けどがらん堂とポケモンリーグが控えてるわけだし、もう少し頑張るか」

「おお、まだトレーニングをしておったか。感心感心」

 と、そこにあの朗らかな声が飛び込んできた。ダルマは声の方向に目を遣る。

「……父さん、どうしたの?」

「飯の時間だ。センターに戻るぞ」

「もうそんな時間か。ちょっと待って」

 ダルマは自分のポケモンをそれぞれのボールに戻し、そのままポケモンセンター目指して歩きだした。走り終えたばかりである彼の足取りは重い。

「しかし、やりおったなダルマよ。お前は本当に才能があるのかもしれんな」

「どうしたんだよ一体。別に驚くことなんかしてないって」

 普段お目にかかることなどまるでないドーゲンの真剣な表情に、ダルマは思わず背筋が伸びた。

「……お前は俺が旅をしていたのは知っておるな?」

「うん。海千山千越えた大冒険だったらしいね」

「そうだ。あの頃は夢中だった。だが、俺の旅はこの町で終わってしまったのだ」

「え、どういうこと?」

 ダルマの口から疑問が出てきた。ドーゲンは山々の頂上を眺めながら、一言一言呟く。

「……バッジを7つ集め、遂にたどり着いたフスベジム。俺はジムリーダーと勝負をした。当時のリーダーは初老の爺さんだったが、俺はこてんぱんにやられちまった。すると、それまで持っていた『ポケモンリーグで成り上がる』という野心が吹き飛んじまったのさ。やる気がなくなった若かりし俺は、おとなしくワカバに帰って道具作りを始めたってわけよ」

「……と、父さんも色々あったんだ」

 夕焼けを一身に浴び黄昏に染まる父を見て、ダルマは一瞬言葉を失った。ようやく絞りだした台詞を受け、ドーゲンはきっぱりこう言い切った。

「そうだ。今思えば、道具作りを始めたのは自分に言い訳がしたかったからかもしれないがな」

「言い訳?」

「あの時道具があれば勝てたはず。そんな言い訳にすがって道具作りに打ち込んだもんだ。もっとも、現在は道具職人の自分を誇りに思っているのは紛れもない事実よ。トレーナーの明日を左右するものを手掛けるんだ、つまらないはずがねえ」

 ドーゲンは、腹の底から笑ってみせた。ダルマもそれにつられる。一息おいて、父は鋭い眼差しで息子を見つめ、あることを尋ねた。

「……ダルマよ。この旅が終わった後に道具作りをやってみる気はないか?」

「え、俺が? うーん、正直まだわかんないよ。他の地方に足を運ぶのか、あるいは旅を止めるのか。そもそもがらん堂との戦いもあるし、今は決められない」

「確かにそうだ。では今晩から少しずつでも教えてやろう、いつでも仕事を始められるようにな。異存はないな?」

「それは構わないけど、どういう風の吹き回しだよ? 家にいた頃は頼んでも教えてくれなかったじゃないか」

 ダルマはいぶかしげに質問を返した。ドーゲンは腕組みしながら何度もうなずき、言葉を選ぶように答える。

「うむ。あの頃は無理に教えて嫌気が差してしまうのを警戒していたのだ。それと、中途半端な気持ちでやった挙句飽きられても困るからな。だが、お前はこの旅を経て随分成長したようだ。……子供が独り立ちできるように技術を仕込むのは親の義務だと俺は思っている。だから、旅の間に少しでも鍛えておくとしよう」

「……旅が始まる前はこんなことになるなんて思いもしなかったよ。まあどちらにせよ、がらん堂を倒さないとこれからのことは考えられない。そのための戦力を充実させるためにも、道具の力はあるに越したことはない。今日からよろしく頼むよ、父さん」

「よく言った! さあ、こんな湿気た話は終わりだ。しっかり食べて準備しとけよ!」

 そうとだけ言い残すと、父は息子を残して先にポケモンセンターへ走りだした。その後ろ姿を見送りながら、ダルマも家路につくのであった。

「あ、父さん! やれやれ、これじゃあどっちが親かわからないな」


・次回予告

フスベシティを出発してくらやみの洞穴を進むセキエイ陣営。彼らは思いがけないものを発見するのであった。次回、第46話「石の宝庫」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.26

セキエイ陣営は、なぜ人手不足にもかかわらずゴロウの修行を認めたのでしょうか。ストーリー的にはキョウが才能を見出だし、戦力を増やすという観点からワタルもゴーサインを出してますが、作者的な都合もあります。あんまり人数が増えると敵も増やさないといけないし、それぞれをざっくり描くのが難しいと判断したためです。カラシも入ってきましたしね。それでもゴロウは印象に残っている……と信じたいです。皆さんは誰がお気に入りキャラですか?


あつあ通信vol.26、編者あつあつおでん


  [No.665] 第46話「石の宝庫」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/27(Sat) 11:05:38   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ふわーあ、眠い眠い」

「ダルマ様、昨日は遅くまで起きていたようですが、大丈夫ですか?」

「うん、大丈いてっ」

 ここはくらやみの洞穴。一寸先は闇という言葉が見事にマッチするこの洞窟は、整備がほとんどなされていない天然の迷路だ。それゆえ明かりなど望むべくもなく、利用者は数えるほどもいない。そのような道で、フスベシティを出発した一同はキキョウシティを目指して歩を進めていた。そんな中、ダルマとユミは小声で会話をしている。

「ほら、やっぱり疲れているようですわ」

「……どうやらそうみたいだ。けど、少しでも速くキキョウシティに到着しないと」

「それはそうですが……。発電所がこちらの管理下にある今、幾分は有利になったわけですから。休憩はちゃんととってくださいね」

「そうするよ。にしても、全員で歩くと狭いなここは」

 ダルマは壁に触れながら進む。進軍における安全確保の理由から光源は一切使用されておらず、セキエイ陣営は文字通り手探りで歩く。ダルマの付近にいるのはユミ、ドーゲン、ジョバンニ、ワタル、ボルト、ハンサム、カラシだが、驚くことにこれで全員である。また、暗がりに話し声とポケモンの鳴き声がこだまする。

「仕方ないだろう。この人数を分散させたら各個撃破されるのは、火を見るより明らかだからな。フスベのトレーナーも町の防衛に必要である。交換システムを停止したとはいえ、強襲の可能性はある」

「ハンサムさん。……前々から思ったのですが、ハンサムさんは何か得意なものはないんですか? 訓練中もあまりバトルが強そうには感じられませんでしたけど」

 話に割り込んできたハンサムに対し、ダルマはふと質問を投げかけた。するとハンサムは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「良い質問だ。私の得意技はずばり、変装だ」

「へ、変装?」

「その通り。人の姿をそっくりそのまま借りられるのだ。人だけではなく、岩に擬態したこともある。いずれもばれた試しはない」

「岩……まるで学芸会の木みたいですわね」

 ユミの一言は彼にクリーンヒットしたこともようだ。ハンサムは苦笑いをしながら話題を変えた。

「そ、そうそう。この辺りはジョウト地方でも進化の石が豊富な場所らしいな。開拓はあまり進んでないようだが」

「進化の石って、イーブイの進化なんかに使うあれですか?」

「うむ。ほれ、君達の足元にあるじゃないか」

 ハンサムは地面を指差した。ダルマとユミは目を凝らして観察してみると、彩り豊かな石が点在することに気付いた。

「こ、これが全部そうなんですか?」

「おそらく。君達は石で進化するポケモンを持っていたな。ダルマ君はイーブイとヒマナッツ、ユミ君はイーブイ。せっかくだから失敬したらどうだい? 誰もケチをつけることはないだろうし、戦力の充実にもなるからね」

「……それもそうですね。では頂きますか」

「私もお言葉に甘えて失礼します」

 ダルマとユミは腰をかがめ、手元にあった石を抜いたり別の石で折ったりした。ダルマの収穫は炎の石2個と太陽の石1個、ユミは水の石1個である。

「進化の石かあ……こういうのも人の手で作れればいいんだけどなあ、ふわーあ」

 ダルマは大あくびをして口を手で押さえた。それから伸びをすると、元気に出口を目指すのであった。



・次回予告

キキョウシティまでたどり着いたダルマ達は解放作戦を決行する。ダルマの任務はマダツボミの塔の攻略となり、意気込むのだが……。次回、第47話「キキョウシティ解放作戦前編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.27

実はゴロウには「ゲットの際にボールを投げるのが壊滅的にノーコンで、2匹目が中々手に入らない」という裏設定があります。現実の世界にポケモンがいたら、このようなトレーナーは必ずいると思われます。例えば私とか。逆にサトシやらのアニメキャラはコントロール良すぎです。やはりスーパーマサラ人は格が違う。


あつあ通信vol.27、編者あつあつおでん


  [No.668] 第47話「キキョウシティ解放作戦前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/28(Sun) 13:38:57   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「お、ようやく見えたぞ」

 茂みの中からダルマは周囲を伺う。人はいないが、3階建ての古びた塔がたたずんでいる。ダルマはポケギアを耳に当てながら、茂みの中を移動する。

「マダツボミの塔はあったかい?」

「はい、発見しました」

「よし、それでは早速忍び込むんだ。洗脳電波の中継装置を確認したら、速やかに破壊するように。バッジは装置しているね?」

「もちろんです」

 ダルマは左胸にあるバッジに触れた。「ワ」の文字がプリントされた安物の缶バッジである。

「それから洗脳電波を妨害する電波が発信されている。くれぐれも落とさないようにね」

「了解です。ではワタルさん、行ってきます」

 ダルマはポケギアのスイッチを切ると、そそくさとマダツボミの塔に潜入するのであった。










「ここに来るのもだいぶ久々になるな」

 ダルマはマダツボミの塔の2階を歩き回っていた。無事に突入できたのか、追っ手は見当たらない。また、内部からの応戦もまるで起こらない。

「予想通り、洗脳電波に頼っているから警備が甘いな。これなら俺1人でも十分仕事できる」

 ダルマは、いつ現れるかわからないがらん堂の構成員を警戒しながらも、軽い足取りで階段を上る。また、なぜか腰も塔を支える柱のように揺れている。

 こうしてダルマは最上階に到達した。彼が辺りに目を遣ると、およそ古風な建物には似つかわしくない機械が視界に飛び込んできた。

「お、あれが中継装置かな? 不用心だな、こんなに堂々と置くなんて」

 ダルマは怪しい機械に接近し、それをまじまじと眺めた。機械は西の窓に沿って設置されており、アンテナとコンピュータの構成である。稼働中なのか、低い唸りのような音を放っている。

「それじゃ、早いとこ終わらせようか。アリゲイツ、頼む」

「ちょっと待った!」

 ダルマがアリゲイツをボールから出した、まさにその時。何者かが階段を駆け上がってきた。その人物は、足元まで届く灰色のフード付きコートを着用しており、コートの裾がたなびいている。内側に着るのは黒のワイシャツ、白のネクタイ、岩井茶のズボン、これまた黒の革靴で、右手首にはミニチュアのトランプとサイコロが付いたミサンガをはめている。

「……あのー、どちら様ですか?」

「それはこっちの台詞だ! 俺がちょっとトイレに行ってた間にこんな所まで来るとはな、やりやがるぜ」

「で、結局どちら様ですか? 人に聞く前に自分から名乗り出る。俺は学校でそう習いましたよ」

「く、くっそー。反論できねえ。……軍師リノムと申します。がらん堂の幹部として、キキョウシティの中継装置を守護しています」

「そうですか。俺はダルマ、旅のトレーナーです。早速ですが、これは壊しときますね」

 ダルマはがらん堂のリノムに一礼すると、さりげなくアリゲイツに合図を送った。アリゲイツは中継装置に水鉄砲を食らわせると、自慢のパワーで装置を持ち上げ、窓から放り投げた。数秒後、何かが地面に激突する音が響いた。

「あ、みんなの嫁が!」

「よ、嫁? あの機械が?」

「そうだ。がらん堂に従うだけでなく、『あの機械はみんなの嫁であり共有財産であり、決して傷つけてはならない』って洗脳してたんだ。ちゃんとシャニーという名前もあったのに……」

 コートの奥で体を震わせるリノムに対し、ダルマは困惑するしかなかった。至極当然の反応である。

「許さねえ。許さねえぞてめえ、嫁の仇は俺が取る! トゲチック、出番だ!」

「え、ちょっと待ってってば!」

「るせえ!」

 リノムはボールを手に取り力強く投げつけた。登場するのはカラフルなわっかの模様のある、卵の殻のような色をした鳥ポケモンだ。ダルマはすぐさま図鑑をチェックする。トゲチックはトゲピーの進化形で、癖のある特性を2つ持つ。技はそこそこあるが、特に補助技のレパートリーが光る。これを活かしたサポートが主流となっているようだ。

「なるほど、タイプはノーマルと飛行か。あまり戦いたくはないけど、仕方ない。アリゲイツ、新技のお披露目だ!」

 ダルマの指示の下、アリゲイツはトゲチックに接近した。そして右腕に冷気を発生させ、トゲチックの腹部に殴りかかった。トゲチックはその場にうずくまる。

「なんだと! どうなってんだどうなってんだ!」

「へへ。隠し玉の冷凍パンチ、大成功だ!」

「……くっそー、なめやがって。神軍師の俺の力を見ろ! トゲチック、ぜったいれいど!」

「な、なにいぃぃぃぃぃ!」


・次回予告

がらん堂幹部のリノムと戦闘を開始したダルマだったが、その常識を覆す戦略の前に終始押され気味。バトルの行方はどうなるのか。次回、第48話「キキョウシティ解放作戦後編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.28

最近の執筆の流れが、あつあ通信→本文→次回予告の順に固定されてきました。このコーナーで書きたいことが結構あるものでして。ちなみに、本文は流れをちょろっと書いて下書きなしでやってます。誤字が心配ですが時間短縮のためにはやむを得ません。誤字がありましたら報告お願いします。
ちなみに、岩井茶というのは黒と緑を合わせた色に少し白を混ぜたような色で、例えるなら「黒っぽい畳」です。ググれば出てきますが、良い色ですよ。


あつあ通信vol.28、編者あつあつおでん


  [No.670] 第48話「キキョウシティ解放作戦後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/29(Mon) 13:58:34   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「な、なにいぃぃぃぃぃ!」

 ダルマの悲鳴とほぼ同じタイミングで、トゲチックは指を振った。すると指先から極寒の冷気が放たれた。狙いは滅茶苦茶だが、攻撃した直後のアリゲイツに当てるのは造作もないことだ。アリゲイツは瞬く間に氷漬けとなってしまった。

「あ、アリゲイツ!」

「どうだてめえ、これが神軍師の力よ」

「……どちらかと言うと、『運』師だけどな」

 ダルマは毒づきながらアリゲイツをボールに戻した。既に次のポケモン、スピアーのスタンバイは完了している。

「スピアー、いつものあれ、頼むよ」

 スピアーは勢いよく飛び立つと、両腕を上げたり踊ったりした。端から見れば滑稽でもあるが、中々馬鹿にできるものではない。その証拠に、窓という窓から照りつける日ざしが入り込み、塔はほのかに明るくなってきた。

「にほんばれだと? んなもん効くかっ。トゲチック、スピアーにしがみつけ!」

「まずい、急いで追い風だ!」

 追いかけるトゲチックから逃げながらも、スピアーは唸り声をあげた。それと同時に窓から突風が吹き荒れてきた。しかし、追い風発動時に一瞬止まったのがあだとなり、トゲチックに胸ぐらを掴まれてしまった。スピアーは必死に抵抗するが、予想以上に張り切るトゲチックの力に歯が立たない。

「つのドリルだっ!」

 リノムの怒号を受け、トゲチックはスピアーを拘束しながら右手の指を動かした。トゲチックの手元が光ったかと思えば、どこからともなく高速回転するドリルが出現。そのままスピアーの胸部をえぐった。たまらずスピアーは気絶して床に落下した。

「スピアー! くそっ、なんなんだよこのトゲチックは!」

「おい見たかてめえ、これが神軍師の引きなんだぜ。トゲチックの『ゆびをふる』で狙った技を使えるってのは、実に便利なもんだ。あらゆる技に最高の頭脳が加わればどうなるか? 考えるまでもねえ、完全勝利を達成できるのだっ!」

「……ふーん。じゃあいきなりだけど、その完全勝利とやらを潰させてもらうよ」

 ダルマはボールからヒマナッツを出した。フスベジム戦同様、こだわり眼鏡を装着している。また、日に当たって焦げている。

「ヒマナッツ、もっとすごい一発を見せてくれ!」

 ダルマはポケットから太陽の形をした石を取り出し、ヒマナッツの額に乗せた。石を当てられたヒマナッツは、目をくらますほど全身が光に包まれた。形も変わり、光が収まる頃には別のポケモンとなっていた。葉っぱの手足が生え、何枚もの花びらを持つ頭。口元の笑みと奇抜な眼鏡は強烈な印象を与えることうけあいだ。

「キマワリに……進化だ。これで勝ちを手繰り寄せてみせる」

「あぁん、何言ってんだこいつは。できるもんならやってみな!」

「……言ったな? その油断、命取りだぞ。キマワリ、ソーラービームだ」

 ダルマは胸を張って指示した。キマワリは窓際の日光の当たる位置に移動すると、トゲチック目がけてソーラービームを発射した。ヒマナッツの時でさえ数々のポケモンを丸焼きにしてきた一撃だが、進化して塔全体をカバーできるほどの光線を撃てるようになったみたいだ。トゲチックはおろかリノムをも巻き込んだ光の束は、しばらくしてようやく止まった。トゲチックは炭のように黒くなり、リノムもまた片膝をついた。

「どうだ、草タイプ半減の飛行タイプだって一撃だぜ!」

「う……ばぐってんだろおおおおおおお」

 リノムは苦しそうに呼吸をしながらトゲチックをボールに回収した。顔からは脂汗が噴出している。

「くっそー、健康に悪そうなビームなんて撃ちやがって。俺は神軍師なんだぞ!」

「そんなの関係ない。それなら避ければ良かっただけのことだよ」

「ぐぐ……まあいい。次でそのちんけなひまわりを止めてみせるぜ、ドククラゲ!」

 リノムは2番手を送り出した。中から現れるのは大量の触手を持ったポケモンだ。ダルマは再び図鑑に目を向ける。ドククラゲはメノクラゲの進化形で、実に80本もの触手がある。防御こそ低いものの、恵まれた技、タイプ、能力を備える。物理、特殊、二刀流、耐久、どれをやらせても結果を残す優秀なポケモンだ。

「うわ、結構特防高いな。けど、立ち止まる余裕なんてない。キマワリ、もう1度ソーラービーム!」

「負けるな、ミラーコートだっ!」

 キマワリは今一度、日の光を集めてドククラゲにぶちこんだ。対するドククラゲは体を鏡のようなもので覆い、キマワリの攻撃に真正面から挑んだ。2度目の攻撃はキマワリも自重したのか、幅を狭めてドククラゲに狙いを絞った。代わりにパワーが一ヶ所に集中し、先程を超える火力となった。陽炎を作り出すほどの高温と光ならではの速さ。2つを兼ね備えた一閃を弾くことなど不可能に近く、ドククラゲは何もできずに崩れ落ちた。

「よし、これで2匹!」

「や……ヤバいヤバい。ヤバいを通り越してヤバい」

「さあ、次はどんなポケモンを使いますか? 神軍師リノムさん」

 ダルマが勝ち誇った表情でリノムに視線を遣った。リノムは万事休すといった様子で後ずさりを始めた。それをダルマがじわりじわりと追い詰める。

 その時、どこかから「めざせポケモンマスター」のメロディが辺りを包んだ。ダルマは静かに耳を傾け、音源のありかに顔を向けた。そこでは、リノムがポケギアを耳に押しつけていた。

「はい、すみませんが今お父さんとお母さんがいないのでわかりません。……え、パウルさんっすか。……はい、はい。つまり、撤退してコガネに戻ると? わかりました、すぐに帰ります」

「あ、あのー。今のはもしかして……」

「おい、電話を盗み聞きすんなよ。それはともかく、俺は今から戦略的撤退をする。決して逃げるんじゃないからな、勘違いすんなよ! それと、俺の情報は漏らすな。ではさいならっ!」

 リノムはポケギアを納めると、すたこらさっさと階段を駆け下りた。後に残されたのは、呆れて追うこともできなかったダルマとキマワリだけである。

「なんだか、最後まで忙しいやつだったなあ。……しかし、これで任務完了だ。キマワリ、みんなと合流するぞ!」

 ダルマはキマワリをボールに入れると、ポケモンセンターへと急いだ。追い風とにほんばれは落ち着き、塔の内部にはそよ風と柔らかな陽光が流れるのであった。


・次回予告

無事に帰還したダルマは皆と合流し、戦況を報告する。そんな中、見当たらない人物がいる。ダルマ達はその人物を探すのだが……。次回、第49話「失踪」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.29

今日のバトルでヒマナッツが太陽神になりました。もう少し後でも良かったのですが、ドククラゲを一撃で倒すために進化させました。レベル45個体値オールVの場合、攻撃無振りアリゲイツの冷凍パンチと控えめ全振りサンパワーキマワリ@眼鏡のソーラービームで、ずぶといHP防御248特防8振りトゲチックが乱数で落ちます。また、素早全振りキマワリは無振りドククラゲを抜き去り、上記のソーラービームでHP全振りドククラゲを確定1発。ドククラゲはかなり特防が高いのですが、やはり太陽神は格が違った。皆さんも、今日からヒマナッツをお供えして太陽神を使いましょう。


あつあ通信vol.29、編者あつあつおでん


  [No.672] 第49話「失踪」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/30(Tue) 14:53:29   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「……なーるほど。彼の正体、突き止めましたよ。生きていたのですねー。彼女の研究も引き継いでいたとは……そこにいるのは誰ですかー?」

「ああ、心配ご無用。俺です」

「そーですか。どうしたのですか、あなたも彼の正体が気になるのですかー?」

「いえいえ、違います。俺はあなたを連れ去りに来たんですよ」

「な、なんですっ……て……」

「……よし、任務完了だ。後はこれを回収してコガネに戻るだけ。悪いな、これも金のためだ」










「あ、ダルマ様!」

 月が水を得た魚の如く輝く夜、ダルマはセキエイ陣営と合流した。場所はキキョウシティポケモンセンター、皆くたくたな様子であちこちに座り込んでいる。

「……センターが開いてるということは、もしかして?」

「はい、がらん堂の拠点をまた1つ崩したことになります」

 ユミは笑顔で受け答えした。疲れは隠せないみたいだが、充実感もまたにじみ出ている。

「なるほど。やっぱりキツかった?」

「ええ。人数が多いうえにセンターの予備電源で回復してくるので、しばらくは均衡していました。ところが、いきなりセンターを放棄してどこかに行ってしまいました」

「どこか? それって、例の交換システムを使ったのかな」

「おそらくは。予備電源が切れる前に脱出したのでしょうか?」

「お、帰ってきたね」

 ちょうど良いタイミングでワタルが話に入ってきた。彼の自慢のマントはほこりまみれになっており、戦いの激しさを物語る。

「ワタルさん、ただ今戻りました」

「おかえり。今回は全てが上手くいって、被害はほとんどなかった。ジョバンニさんとカラシ君という重要な戦力のおかげだ。あ、もちろんダルマ君もね」

「ありがとうございます。……あれ、そのジョバンニさんとカラシはどこですか?」

 ふと、ダルマは辺りを見回した。センターにいるのはショップの店員やジョーイを除けば、ソファーで寝ているドーゲン、日記を書いているボルト、変装の練習をするハンサムだけで、ジョバンニとカラシはいない。

「ジョバンニさん? 彼なら自宅のポケモン塾で調べものだそうだよ。けど、ちょっと遅いな。カラシ君の方は何も連絡がないんだ」

「な、なんだか怪しいですわね」

「確かに。少し様子を見に行った方が良さそうだな。君達も一緒に来るかい?」

「はい、せっかくなのでご一緒します」

「そうですね、先生の調べものも気になりますし、私も行きます」










「ジョバンニさーん、いないなら返事してくださーい」

「ダルマ様、それは無理ですよ」

「そりゃそうか、ははは」

 ダルマ達はジョバンニのポケモン塾に来ていた。2人が面識を持った場所である。部屋は暗く、人探しどころではない。

「えーっと、電気のスイッチは……あ、ここか」

 ダルマは壁をまさぐり電気のスイッチを入れた。少しして蛍光灯が光り、目がくらむ。

「こ、これは! 部屋が滅茶苦茶に荒らされてるじゃないか!」

「そんな、先生!」

 視界が開けた先にあったもの。それは以前訪れた時とはまるで違うものだった。本棚の本は投げ出され、ジョバンニのものらしき机の引き出しは全て引っ張りだされてある。書類が足元に散乱し、まるで空き巣でも侵入したかのような惨状だ。これに動揺したワタルとユミを、ダルマはなんとかなだめる。

「……ユミ、ワタルさん、落ち着いてください。まず何が起こったのかを把握しなければ。これだけ荒らされています、まずは片付けてみましょう。手がかりが残っているかもしれません」

「……そ、そうだな。つい焦ってしまった」

「で、では1つずつ整理してみましょう」

 3人は手分けして部屋の片付けを始めた。思いの外散らかっており、やや時間がかかる。

「これはここであれはあっちで」

「このファイルはあいうえお順に分けられているみたいですね」

「しかし、ポケモン関係と科学に関する資料ばかりだな。ポケモンリーグの優勝者、戦術の論文なんかもあるな。セキエイに持ち帰りたいくらいだ」

 およそ15分ほど後、ようやくあらかたの始末はついた。ダルマは額の汗を拭いながら元通りになった部屋を眺める。

「ふう、これで大体終わりかな」

「……あの、ダルマ様。足りないものがあるのですが」

「足りないもの?」

「ここの、科学者略歴のた行とな行のファイルが見当たらないのです」

 ユミは本棚を指差した。そこには「科学者略歴」というラベルの貼られたファイルが整然と並んでいる。が、なぜかた行とな行は行方知らずのままだ。ダルマは首をかしげた。

「た行とな行だけ? 部屋を荒らした誰かさんが持っていったのかな」

「しかし、それだけではジョバンニさんがいないことに説明がつかない」

 ワタルの突っ込みに対し、ダルマは頭をかきむしった。そしてしばし唸り、一言ずつひねり出した。

「うーん、ジョバンニさんは調べものをしていたんですよね? 何か重要な事実を知って、他人に話すのを恐れたから連れ去った、というのはどうでしょう。あるいは単純に、こちらの戦力を削るためにがらん堂がさらったとか」

「なるほど。……いずれにせよ、ジョバンニさんがいなくなったのは僕達にとっては大打撃だ。急いで対策を考えなければ」

 ワタルはまごつきながらポケモン塾を後にした。ダルマとユミも彼に続くのであった。


・次回予告

ジョバンニとカラシの失踪という一大事に、一同は頭を悩ませる。そんな彼らに、とんでもないニュースが飛び込んできた。次回、第50話「名誉の帰還」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.30

薄々気付く方もいるとは思いますが、最近は結構ストーリーを端折ることが多いです。ストーリーのメインや新キャラの顔出しにダルマを絡め、ダルマを中心に話を進めることでいくらか飛ばします。キキョウシティポケモンセンターの攻撃も、本来なら書くべきでしょうが説明だけに留めました。1話最大5000字しか書けないのと、大量の下っぱと長々戦闘させる技量がなかったためです。いつか外伝という形で書くかもしれません。


あつあ通信vol.30、編者あつあつおでん


  [No.676] 第50話「名誉の帰還」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/31(Wed) 10:58:00   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……というわけです」

「なんと、では俺達6人でコガネに乗り込むのか」

「むう、こんな時に警察の応援を呼べれば……」

「ワタルさん、さすがにそれは無謀すぎる。僕達8人の時でもほうほうの体だったんだよ?」

 ポケモンセンターに戻ったダルマ達は、ドーゲン、ハンサム、ボルトに事情を説明していた。初めこそ機嫌の良かったドーゲン達だが、話を聞くと言葉に詰まってしまった。

「確かに、今のままではかなり厳しいでしょう。ですからコガネへの進路と作戦を変更します」

 ワタルはポケットから地図を取り出し、テーブルの上に広げた。ジョウト地方全体の地図である。

「本来、僕達はキキョウから36番道路と35番道路を経由してコガネに突入する予定でした。しかし戦力の欠如が明確な今、こうした真面目からの戦いを挑むのは得策ではありません」

「では、どのように進むつもりだ?」

 ドーゲンの問いに、ワタルは地図のある地点を指差して答えた。そこは、キキョウとコガネの間にある場所だ。

「キキョウの隣にあるアルフの遺跡の西側は、人が入りこまない森林地帯です。普段は道路があるので通ることはまずありませんが、現在は非常事態。ここから直接コガネに侵入します」

「ほう、そりゃまたワイルドだな。では作戦はどうする?」

「もちろん作戦は集団戦法です。数人で1人を囲い込み、反撃を受けないうちに倒します。いくら個々が優秀とはいえ、人数で勝れば恐るるに足りません」

 ワタルは胸を叩いた。いまだ各々の表情から晴れ間は見えないが、少しは落ち着いたようだ。

「……そうだ、たまには情報収集しないと。セキエイ出発してもう10日くらい経つ、何か変化があったかも」

 ふと、ダルマはポケギアのラジオの電源を入れた。図鑑を兼ねる紐で綴じた昔の本のようなポケギアも、大分しっくりしてきた。やがて、スピーカーから音声が流れてくる。

「……皆さん、がらん堂から本日のお知らせです。この時間はパウルがお送りします。まず、凶悪犯罪者を擁する暴徒が各地で暴れています。集団はフスベとキキョウを襲撃し、現在占領中。フスベの発電所が止められ、大規模な停電が発生しております。ろうそくを灯りに使う場合は火事に注意しましょう」

「……どうやら、相当悪く言われてるみたいだね。今に始まったことじゃないけどさ」

 ボルトは笑いながら手元に置いてある飴を舐めた。ラジオ放送はまだまだ続く。

「では、続いてのニュースです。皆さんに朗報です。私達のサトウキビ先生が、本日夕方帰還しました! 間もなく会見が開かれる模様です」

 ニュースを読み上げるパウルの言葉に、一同は凍り付いた。ダルマは少し飛び上がり、ユミはお茶で舌を火傷。ワタルはむせこみ、ボルトは冷や汗を滴らせ、ハンサムは声にならない叫びを放つ。ただ1人、ドーゲンだけは事の次第を把握しきれないのか、皆の顔を見回している。

「それでは皆さんお待たせしました。サトウキビ先生の会見です」

 パウルの一言の後、何かが切り替わる音がした。6人は耳を傾けて、一字一句洩らすまいとしている。

「……親愛なるコガネの諸君。いや、今ではジョウトの諸君と言った方が良いな。俺はサトウキビ本人だ。濡れ衣を着せられ、海に沈められるという屈辱を受けたが、今こうして諸君に話しかけることができている。それもこれも、諸君が俺の帰還を信じて待っていてくれたからだ。まずはそのことに深く感謝する」

 サトウキビの声が聞こえてきた。最後に話したのはもう2週間以上も前になるから、懐かしささえ感じられる。ラジオの向こうからは歓声とスタンディングオベーションの嵐が巻き起こる。サトウキビはそれらが静まるのを待ち、また口を開いた。

「……それから、がらん堂の弟子達。コガネにまたしても現れたロケット団を成敗し、市民の平和を守った。それだけでなく、動揺の走る他の町を指導し、正しい方向に導いている。彼らには最大級の敬意を払いたい」

「良く言うよ、洗脳電波で無理やり従わせてるってのにさ」

 ボルトは口の中の飴を噛み砕き、まとめて飲み込んだ。

「……だが。このジョウト地方にはいまだ、平和を乱す悪の枢軸がいるそうだな。報告によれば、俺に濡れ衣を着せた奴らやポケモンリーグ、一般人を寄せ集めただけの暴漢に過ぎないらしいが、現にフスベシティとキキョウシティを占拠しているそうじゃねえか。それにより、なんの罪もない市民の生活に大きな支障が出ている。電気は止まり、物流量は減少。占領地域では暴行まで行われる始末。実に嘆かわしい事態だ。……多くを与えられる者は多くを求められる。我々は今まで、実に多くのものを与えられてきた。ならば今こそ、多くを求められる時なのだっ!」

 サトウキビの怒号と共に、机を叩く音もやってくる。いよいよボルテージも最高潮に迫ってきた。

「悪の枢軸は、我々の手で倒さねばならない! 賢く気高きジョウト地方の諸君よ、立ち上がるのだ! 今虐げられている友の犠牲を無駄にしないためにも、我々はあらゆる手段をもってして奴らに対抗する! なに、恐れることはない。抵抗の方法などいくらでもある。奴らと商売をしない、嘘の情報を教える、奴らの現在地をがらん堂に伝える……戦わなくても良い。自らにできる形で奴らに一矢報いるのだ。たとえ1人の力は微弱でも、ジョウト地方の全ての市民が力を合わせれば、未来を変えることなど造作もない。未来を変えるのは明日、明日を変えるのは今日。明日を変えるためにも、今日から変わるのだ。戦え、市民よ!」

「……ここまで、サトウキビ先生の会見の冒頭でした。それではここで……」

 パウルが全て言い切らないうちに、ダルマはラジオのスイッチを切った。皆一様に黙りこくっているが、ワタルは弱々しく呟いた。

「……なんてことだ。あんなに早く帰ってくるとは」

「ワタル様、おじさまのことをご存知なのですか?」

「う、うん。以前からその存在は掴んでいたけど、四天王以上の力を持つともっぱらの評判だったようだ。僕がすぐにがらん堂退治を決断したのも彼が行方知らずだったからで、まさかこうもすぐに現れるとは……正直、思いもしなかった」

 ワタルはうつむきながら返答した。彼の顔色は徐々にモスグリーンに染まっていく。それを阻止せんとばかりに、ダルマが発言をした。

「な、なら一刻も早くサトウキビさんに匹敵する力を身につけましょう!」

「……また特訓かい? 駄目だ、彼がいたら交換システムがなくても3日ともたない。かといって今更撤退するわけには……」

「なら1日で十分です」

「な、なんだって?」

 ダルマの予想外の言葉に、ワタルは拍子抜けした。思わず顔から暗さが逃げていく。

「ここで逃げたら、がらん堂に勢いがつきます。今でさえ苦戦するのに流れを持っていかれたら、勝利は絶望的でしょう。それどころかセキエイ高原にまで攻め込まれて、誰も抵抗できなくなるかもしれない。それなら、今あがけるだけあがくしかないじゃないですか。」

「ダルマ君……」

「まだ時間はあります。進路は森を進む。直接対決は避けられます。だから1日だけ、最後の訓練をしましょう!」

「……君を見てると、古い友人を思い出すよ。常に全力で挑むその姿、そっくりだ」

 ワタルの顔から自然と笑みがこぼれた。肩の力が抜けたのか、呼吸も穏やかである。彼は全員に向けてこう指示を下すのであった。

「皆さん、明日は1日ポケモンを鍛える日とします。移動はしません。がらん堂との勝負は近いです、各人最大限の力を出せるように準備してください。では本日はこれにて任務完了、ゆっくり寝てください!」



・次回予告

コガネシティへの決戦に向け、ジョバンニとカラシの穴を埋めようと懸命に訓練しようとするダルマ。そんな彼に、あるトレーナーが勝負をしかけてきた。次回、第51話「ライバルバトル」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.31

遂にこの連載も50話に到達しました。ここまで来れたのもひとえに読者の感想やコメントのおかげです。
さて、このシリーズの終わりはまだまだ先になると思いますが、がらん堂の話は80話までには完了すると想定しています。チャットで60話くらいで終わるとか言いましたが、無理でした。自分でもどこまで長引くかは未知数です。ストーリーは決まってるんですけどね。


あつあ通信vol.31、編者あつあつおでん


  [No.683] 第51話「ライバルバトル」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/01(Thu) 11:08:51   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ダルマ様、ライバルの私と勝負してくれませんか?」

「え、俺と?」

 キキョウシティのポケモンセンター前で、ダルマはストレッチをしていた。既に朝食を食べた後であるせいかわからないが、とてつもなく硬い体だ。長座体前屈をやっても、指先はすねの真ん中程度までしか届かない。

 そんな彼に、ユミが勝負を申し込みに来た。彼女は少し照れ臭そうにしているが、ダルマは特に気にせず返事をした。

「そういえば、ユミと勝負したことってまだないよなあ。じゃあちょっとやってみようか」

「ありがとうございます。では早速練習場に行きましょう」

 ユミは足取り軽く歩きだした。ところが、突然ダルマが彼女を呼び止めた。ユミはダルマの方に振り向く。

「あ、ちょっと待って。……できれば背中押してくれないかな。体が硬くてこれ以上曲がらないんだ」










「使用ポケモンは手軽な2匹でいこうか」

「はい、ではそれでお願いします」

 ダルマとユミはポケモンセンターの脇にある屋外練習場に移動していた。センターの地下にも練習場はあるが、天気の良い日は屋外の方が人気がある。溢れる日差しに流れ行くそよ風といった、自然に近い環境が好評の秘訣だ。

 ダルマとユミは1個目のボールを手にした。ダルマは至って落ち着いているが、ユミの瞳には火が灯る。2人はほぼ同時にボールを投げ込んだ。

「アリゲイツ、出番だ!」

「ベイリーフ、いきますよ!」

 ダルマの先発はアリゲイツ、ユミの1番手は初見のポケモンだ。首周りと頭に葉っぱを持ち、辺りにスパイシーな香りを振りまく。ダルマは図鑑を取り出した。ベイリーフはチコリータの進化形で、耐久力が高い。葉っぱから漂う香りは、嗅いだ者を元気にさせたり戦いたい気分にさせるという。

「ベイリーフ、まずはエナジーボールで様子見です!」

「チコリータ、進化していたのか。相性も相まって手強そうだ……よし、いきなりだがアリゲイツ戻れ! カモネギ!」

 ダルマは初っぱなからアリゲイツを戻し、2匹目のポケモンを繰り出した。出てきたのは茎を操るカモネギだ。カモネギは、ベイリーフが放った攻撃を茎で切りながら受けとめた。

「チャンスだカモネギ、つるぎのまいだ!」

「これは分が悪いですね……ベイリーフ、下がってください。ヌオー!」

 ユミはベイリーフを引っ込め、次のポケモンが飛び出してきた。なにやら丸々とした体形で、ややうとうとしている。一方でカモネギは茎を用い、戦いの舞いに耽っていた。

「ヌオーか、カモネギで大丈夫なのか?」

 ダルマは険しい表情で図鑑を覗き込む。ヌオーはウパーの進化形で、水タイプながら地面タイプのおかげで電気タイプを無効とする。また、特性の貯水で水タイプも効かない故に、電気タイプや水タイプを完封することができる。これらのタイプには強いポケモンが多いので、数値以上の活躍が期待される。

「なるほどなあ。アリゲイツが動きにくくなるのは厄介だ、一気に決めるか。カモネギ、アクロバットだ!」

 ダルマの指示の下、カモネギは茎をくわえて飛び立った。太陽と重なる位置に到達すると急降下して、軽やかな身のこなしでヌオーの頭を攻撃した。ヌオーはやや表情が苦しくなる。

「ふふ。ヌオー、カウンターですよ!」

「か、カウンターだって!」

 ところが、カモネギが一発入れた瞬間、ヌオーの目は大きく見開いた。それから右手を振り下ろし、カモネギを叩き落とした。驚くほど急な反撃にカモネギは対応できず、そのまま気絶してしまった。

「カモネギ!」

「これでまずは1匹ですわね」

「……ユミは俺の動きを読んで、敢えて動かなかったのか」

「ええ、その通りです。ダルマ様のバトルは何回も見てきましたから、ある程度の推測はできます」

「……それもそうか。どちらにせよ、こいつで勝負をつけなきゃな。アリゲイツ!」

 ダルマは力強くボールを放り込んだ。再び現れるはアリゲイツ。牙をむいてヌオーを威嚇している。

「まずはヌオーを倒そう。噛み砕く!」

「させませんわ、自己再生!」

 先に行動したのはアリゲイツだ。アリゲイツはヌオーが技を使わないうちに接近し、ヌオーの背中に全力で噛み付いた。ヌオーはたまらず全身を揺さぶりアリゲイツを引き離した。しかしカモネギの攻撃によるダメージも重なり、ヌオーはその場に倒れこんだ。

「よーし、これでイーブンだな」

「……ヌオー、戻ってください」

 ユミは力なくヌオーを回収した。ダルマは深呼吸をして最後の局面に備えている。

「さあ、あとはベイリーフだけだ。タイプは不利だけど必ず勝ってみせる」

「ふふ、勇ましいことですね。では……とっとといくぜ、ベイリーフ!」

 ユミの目がますます燃え上がったところで、ベイリーフがバトルに舞い戻ってきた。ベイリーフは闘志むき出しで、前足で地面を蹴っている。

「うわっ、そういやユミは性格変わるんだっけ。こりゃもたもたできないな。アリゲイツ、冷凍パンチだ!」

「甘い、エナジーボール!」

「は、速い!」

 なんと、先手はベイリーフである。ベイリーフは口からエネルギーの塊を発射し、アリゲイツにぶつけた。アリゲイツは直撃しながらもベイリーフに近づき、凍った右腕で殴りつけた。だがベイリーフは涼しい顔であった。

「はん、ぬるい攻撃ね。……とどめよ、マジカルリーフ!」

「まずい、避けろアリゲイツ!」

 ダルマが叫んだ直後、ベイリーフはどこからともなく葉っぱを撃ちだした。アリゲイツは辛うじてかわしたが、葉っぱはアリゲイツをつけまわしてきた。かわしてもかわしても何度も追いかけるしぶとさに、アリゲイツの体力は確実に奪われる。そして……。

「アリゲイツ!」

「フン、雑魚はすっこんでな」

 アリゲイツは遂に攻撃を受け、地に伏せた。ダルマがアリゲイツに駆け寄るのとは対照的に、ユミは静かにベイリーフをボールに収め、ダルマに歩み寄ってきた。

「すまんアリゲイツ、今回は俺のプレイングミスだ」

「ダルマ様! 今のバトルはどうでしたか?」

「え。う、うーん……なんというかその、強かったよ」

 ダルマは冷や汗を流しながら答えた。しどろもどろな上に目線をわずかに逸らしている。その反応のためか、ユミの表情が曇る。

「もしかして、また熱くなっていましたか? 私」

「い、いや。そんなことはないよ。例えそうだとしても大したほどじゃ……」

「あ、隠さないでも大丈夫ですよ。これは昔からの癖ですので。……これのせいであまりお友達ができなかったり敬遠されたりしてましたが、気にしてないですから」

 ユミはそう言ってのけたが、うつむいている。無理をしているのはさすがの彼でも容易に理解できる。ダルマは頭をかきむしりながら、なんとかフォローしようと言葉を捻りだした。

「……俺、そういうの嫌いじゃないよ」

「えっ? 今まで嫌われることはあってもそんな風に言われることはありませんでした。どうしてですか?」

「そ、そうだなあ。嫌がられていたのは単にギャップが激しいからだと思う。……勝負で熱くなれるのは、それだけ真剣な証拠。俺の場合は熱くなるというよりは慌ててるだけだし、羨ましいな。もっと自信持って、胸張ってみてよ。俺が見とくからさ」

「だ、ダルマ様……」

 ユミは思わずむせ、目から光るしずくが滴り落ちた。ダルマは彼女の肩を軽く叩くと、こう切り出すのであった。

「さ、一緒に練習しよう。あと1日だからね」

「……はい!」



・次回予告

最後の準備を終え、遂にダルマ達はコガネシティへ出発する。その道中の森で、あるポケモンと遭遇するのだが……。次回、第52話「幻の狐」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.32

今回はベイリーフの技のなさに苦しみました。ダメージ計算はレベル50、6V前提で。攻撃全振り剣の舞カモネギの手ぶらアクロバットでHP全振りヌオー確定2発、返しのカウンターで即死。攻撃全振りアリゲイツの噛み砕くとアクロバットの合計ダメージでヌオーを倒せます(ただし乱数)。特攻無振りベイリーフのエナジーボールとマジカルリーフでHP全振りアリゲイツを高乱数で倒せ、アリゲイツの冷凍パンチをHP全振りベイリーフは余裕で耐えます。ちなみに、ベイリーフはアリゲイツより素早さが高いです。先に行動できたのはそのためです。


あつあ通信vol.32、編者あつあつおでん


  [No.685] 第52話「幻の狐」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/02(Fri) 09:46:20   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



「さすがに人が立ち入らない場所とだけあって、うっそうとしてるな」

「これだけ木々に囲まれては、野生ポケモンもあまりいないでしょうね」

 最後の訓練から一夜明けた早朝、ダルマ達は決戦の地へ向けて出発していた。進路は、アルフの遺跡の西側にある森林地帯を踏破し、コガネシティの東側から突入するというものである。コガネ東部にはがらん堂の敷地があり、これを奇襲できる点で優れている。だが、その前に最後の難関である大自然が立ちはだかる。

「山道はまだしも、旧道の1本もないとは驚くばかりだな」

「まあ、既に平地に道路がありますからね」

 ダルマはハンサムの言葉にさらりと返答した。この辺りは深い森だけでなく、山でもあるのだ。傾斜と遮られた視界のダブルパンチが、道行く者を苦しめる。ダルマはやや息切れをしながらも山中に分け入っていく。

「私達がこの森に入ったのは午前3時。予想では15時間ほどで市街地に到達する。現在は午前8時、もう朝日が射し込んでも良い時間帯だが、いまだに暗いな」

 ハンサムは頭上を見上げた。空には雲1つない。代わりに木々の枝や葉が所狭しと並ぶ。おかげで彼らの足下は一向に明るくならない。

「仕方ないです、このような場所ですもの。それよりも、今日中にはコガネシティに入りたいですね」

「ああ、まったくだ。早くこの汚名を返上してポケモンリーグに……あれ?」

 ダルマは汗を拭いながらも、ある光景に目を奪われた。そこにいるのは1匹のポケモンである。全身は茜色に染まり、大きな瞳と6本の尻尾が特徴的だ。だが、彼が引き付けられたのはそのようなことではない。なんと、そのポケモンの周りにだけ日光が降り注いでいるのだ。もちろん、ポケモンの上も葉っぱやつるで覆われている。

「こうした僻地にもポケモンはいるのですね。ダルマ様、どうしますか?」

「……まだ気付いてないな。今のうちに、クイックボールの出番だ」

 ダルマはリュックのボールポケットからあるボールを取り出した。青地に黄色でバツマークが描かれたボールである。ダルマはそれをポケモンに投げつけた。ポケモンは逃げる暇なくボールに吸収された。しばらくボールは揺れていたが、やがてそれも納まる。ダルマはおとなしくなったボールを手に取り、図鑑で調べた。

「えーと、このポケモンはどうやらロコンのようだな」

「ほう、こんなじめじめした地域にロコンとは……って、これは!」

「どうしたんですかハンサムさん?」

 図鑑をそっと盗み見していたハンサムは、いきなり叫んだ。彼に他のメンバーの視線が集まる。

「そ、そのロコンの特性……ひでりではないか」

「ひでり?」

「確か、バトルに出すと天気が晴れになるはずです。一般に、伝説のポケモンが持つ特性ですよね、ハンサム様」

「そうだ。ポケモンにはたまに、新しい特性を持った個体が生まれる。ダルマ君のカモネギにユミ君のイーブイもその類だ。ひでりロコンもそうしたポケモンなのだが、この特性は非常に危険なものとされている」

「危険なもの? ロコンの周りくらいしか晴れてませんでしたよ」

 ダルマは首を捻る。そのまま進んでいたのでつまずいた。いまいち実感が沸いてない様子である。ハンサムは解説を続けた。

「それは普段抑えているだけで、実際は陽炎を発生させることだってできる。……ここから離れたホウエン地方である事件が起こったことがあるのだが、その時この特性が悪用された。それはホウエンの大地を荒れさせ、復旧まで時間を要した。そうでなくても、天気を変える特性はバトルで絶大な影響力を持つ。それゆえ密猟や密輸が絶えない。今は取り締まりを強化したから沈静化したが、野生では絶滅したとも考えられていたんだ。まさか生き残りがいたとは……生きていれば色々な縁があるものだな」

 ハンサムは歩きながら何度も頷く。ダルマはボールを見つめながら、ハンサムに問うた。

「で、でもちゃんと扱えば大丈夫ですよね?」

「……それは微妙だ。自分だけはと言う者に限って、コントロールできずに捨てていく。私も現場で幾重に渡り見てきたさ」

「そんな、ダルマ様は立派なトレーナーです! この子もきっと……」

「もちろんそれはわかっている。私も君なら問題ないと思うよ。船上で会った時から随分成長しているからね」

 ハンサムは朗らかに笑い声をあげた。落ち葉が口の中に入ったが、それを吐きだすとダルマの肩を叩いた。

「この件は口外しないでおこう、全て君に任せる。ただし最後まで面倒みるようにな」

「ハンサムさん……心遣い、感謝します」

 ダルマは頭を下げた。ハンサムは前を向くと、また1歩ずつ前進しだした。

「それでは、再び出発だ! 一刻も早くがらん堂を捕まえねばな!」

 ハンサムが先頭を快走する後ろで、ダルマとユミ達は着実に山を登る。彼らの足下には先程とは異なり、仄かな木漏れ日が届くのであった。












「……久しぶりだな、ジョバンニ。最後に会ったのは10年前か」

「その通りでーす。しかし……まさかあなたとこんな形で再会するとは思いませんでしたよ」

「ふん。その様子だと、もう気付いちまったようだな。先手を打って正解だぜ」

「当然でーす。電波研究をしていた彼女の亡き今、それを形にできるのはあなたくらいしかいませんからねー。ところで……なぜこのような騒乱を起こしたのですか? 彼女の研究成果まで悪用する必要のある理由なのですか?」

「黙れ、気安くあいつの話をするな。それに、理由ならあるさ。俺を葬った奴らへの復讐という目的がな。……あいつは優秀な女だったよ、体を張って悪人を示してくれたからな。俺はその想いに応えてやるだけだ」

「なーるほど。しかしそうしたところで、彼女は戻ってきませーん。進むべき道を間違えたのではありませんかー?」

「……フハハハハハ! 貴様も老けたものだ、ジョバンニよ。俺の研究テーマを忘れたのか?」

「あ、あなたの研究テーマですかー?」

「そうだ。俺の研究は正しかった。そしてそれは歴史さえ動かすことができる。貴様の命と引き換えに、全てを元通りにしてやる。悪く思うなよ? あいつが教えてくれたからな、元凶は貴様だと!」



・次回予告

コガネシティに足を踏み入れたダルマ達は、作戦通りまとまって進むことに。ところががらん堂幹部に囲まれ、分散を余儀なくされるのであった。次回、第53話「運命の夜」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.33

皆さん大好きな狐ポケモンの登場回でした。私はロコンキュウコンはそこまで好きというわけではありませんが、特性がダルマにぴったりなので採用しました。これでダルマのパーティは原型ができました。キマワリをエースとした追い風晴れパです。果たしてどれだけ戦えるのか。

ストーリーも佳境ですね。コガネにたどり着いた先には何が待っているのか。乞うご期待。

あつあ通信vol.33、編者あつあつおでん


  [No.691] 第53話「運命の夜」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/03(Sat) 14:37:59   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「よ、ようやく着いた……。コガネシティ、決戦の地だ」

 深い深い森を抜けた先には、見覚えのある光景が広がっていた。なだらかな平地に穏やかな川の流れ。2本の川の間にはいつか訪れた広大な屋敷が鎮座している。これこそ、半月以上前にダルマ達が宿泊したがらん堂である。6人は遂にコガネシティに到着したのだ。日はとっぷり暮れていたが、ダルマの目は達成感に満ちていた。

「まだ油断はできないよ、がらん堂を退治するまではね」

「わかってますよ、ワタルさん」

 ダルマはタオルで額の汗を拭った。セキエイからフスベに行く時もしたが、やはり山越えは普通の旅人には厳しいものであったようだ。

「よし、じゃあまずは手近ながらん堂から攻撃しましょうか。もう目と鼻の位置にあるからね」

「だ、大丈夫なのですかワタル様? がらん堂は相手の本拠地、守りも強固なのでは?」

「ああ、それなら心配いらない。向こうは僕達がキキョウにいると思っている。僕達の討伐に人出を割いているなら、残っている人数はそう多くないはずだ」

 ワタルは自信を持って断言した。その視線は、がらん堂を捉えている。ダルマ達はワタルの指示を待った。

「……では、これより全速力でがらん堂に突撃します。遅れないでついてきてください」

 ワタルの言葉を受け、各々は静かに頷いた。ワタルはそれを確認すると、まず1歩踏み込んだ。

「行くぞ、出発!」

 ワタルの叫びと同時に、6人はスタートを切った。月明かりだけが辺りを照らす夜に、くたくたながらも疾走する集団。洗脳電波に影響されたコガネ市民とて、これに気付くことすらかなわない。一方ダルマ達は、ボルトお手製の妨害電波発信バッジのおかげで快適に進む。

 そうして数分が過ぎ、いよいよがらん堂の入り口が視界に飛び込んできた、まさにその時。物陰から3人の若者が現れ、道をふさいだ。ワタルが怒号をあげる。

「お前達は何者だ、そこをどくんだ!」

「……おやおや、チャンピオンともあろう方がそこまで焦るとは」

「なんだと?」

 3人のうち、真ん中の1人が前に出た。そしてこう名乗り出た。後ろの2人もそれに続く。

「お前達は何者だ! と聞かれたら」

「答えてやるのが世の情け」

「愛と真実と正義を貫く」

「ラブリーチャーミーな救世主っ!」

「パウル!」

「サバカン」

「リノムッ!」

「銀河を駆けるがらん堂の3人には」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜっ!」

 名乗り口上が終わった。ダルマ達はさりげなく別の道からやり過ごそうとしていた。3人はそれに突っ込みを入れる。

「こら、待ちやがれっ! この神軍師から逃げられると思うなっ!」

「……やれやれ、またあなたですかリノムさん。マダツボミの塔以来ですね」

「サバカンか、久しぶりだな。発電所では遅れをとったけど、今回はそうはいかない」

「ぱ、パウル様……やはり戦わねばならないのですか?」

 ダルマ、ワタル、ユミはそれぞれ、思うところを述べた。リノム、サバカン、パウルも返答する。

「あ、お前はキキョウで会った奴だなっ! お前も他の奴らもぎたぎたにしてやるぞっ!」

「……またしても某の邪魔をするか、チャンピオンよ。貴殿とは決着をつける時分のようだな」

「……久方ぶりだね、ユミちゃん。君が考えている通り、俺達がらん堂と君達は戦わねばならない。残念ながら、ね。君のような才能ある少女に手をかけるのは俺の、がらん堂の信条に反するけど、俺達のやり方に反対するなら致し方ない」

 3人のうちの中央に立つパウルは軽く頭を下げた。背後で様子を見ていたリノムとサバカンは、じりじりとダルマ達との距離を詰める。

「ここで総力戦というのも悪くない。けど6対3は2対1とは違う。……皆さん、作戦を変更します。各員分散してください」

 ここで、ワタルから作戦変更の号令が出た。これに慌てたダルマは、その意図を尋ねた。

「ワタルさん! これはどういう……」

「大丈夫だ。僕達はセキエイを発った頃の自分じゃない。必ず勝てる。さあ、早く散るんだ!」

 ワタルの鬼気迫る表情に、ダルマは思わず腰が引けた。しかしすぐに脇道へ目を向け、一目散に闇夜へ消えていった。これを受け、他の4人も蜘蛛の子を散らしたように分散した。最後にワタルもカイリューを繰り出し、夜空へと逃げていった。

「くっ、まどろっこしい。サバカンとリノムは奴らを追跡してくれ。俺もすぐに加わる」

「合点」

「任せときなっ!」

 パウルの言葉に従い、サバカンとリノムも路地裏へ足を踏み入れていった。それを見届けたパウルは懐からポケギアを取り出し、電話をするのであった。

「……先生、奴らを発見しました。人数は6人ですが、中々手強そうな布陣です。ですから、彼に援軍として来るよう伝えてください。……はい、了解しました、では後ほど」



・次回予告

家屋に隠れながら西へ進路をとるボルトであったが、がらん堂幹部の1人に見つかってしまう。彼は見事撃退することができるのか。次回、第54話「ギャンブルゲーム前編」。ボルトの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.34

遂に! 最後の戦いが始まりました。構想開始から実に4年近くかかりましたが、ようやくここまでたどり着きました。まあ、話の半分はここ1ヶ月で書いたのですが。

このがらん堂との激突で、残された謎が全て明かされます。また、バトル方面もよりハイレベルな戦術や立ち回りを繰り広げます。是非ともご期待ください。 


あつあ通信vol.34、編者あつあつおでん


  [No.698] 第54話「ギャンブルゲーム前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/05(Mon) 15:00:44   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「やれやれ、だいぶがらん堂から離れちゃったなあ。みんな無事なら良いけど」

 ボルトは長屋の軒下を歩いていた。多くの市民が住まう地で姿を見られたら非常に危険であるが、上空からの監視や追っ手を避けるため、敢えて込み入った長屋の集中する場所を歩いていたのである。辺りは静寂に包まれており、ボルトの乾いた足音はよく響く。

「さて、どうしたものか。ラジオ塔やコガネ城に突っ込むのも悪くないけど、さすがに1人だとまずいか……って、あ」

 ふと、ボルトは足を止めた。彼の目の前には、開けた大通りが広がっている。人通りは皆無だが、思わずボルトは身構えた。

「危ない危ない、こんな道を通ったら簡単に見つかっちゃうよ。さて、戻ろうか」

「ちょっと待ちやがれっ!」

 ボルトがUターンしようとした、まさにその時。大通りから怒号が聞こえてきた。ボルトが声の方向に目を向けると、1人の男がいた。

「あれ、君はがらん堂の……リノム君だっけ?」

「そうだ、俺様は神軍師のリノムだっ! 命が惜しけりゃ無駄な抵抗をするなっ!」

「……君、神軍師を名乗るには少し思考力がなさすぎるよ」

 リノムの発言に半ば呆れながら、ボルトは言い放った。リノムは顔を真っ赤にしながら反論する。

「んだとっ、どこがおかしいっ!」

「だってさあ、考えてもみてよ。僕達はわざわざ自分からコガネシティにやってきたんだ。他の地方に逃げるという選択肢もあったのにさ。それはつまり、僕達は命を賭けていることを示している。今更命乞いなんかしないよ。僕達は何も悪いことしてないし、人としての誇りがあるからね」

「ぐぐ、言わせておけば綺麗事を……! 先生はいつも言っている、『自らの行いを反省できない奴は治しようのない愚か者だ』と。てめえみたいな奴は俺様が成敗してやる、トゲキッスっ!」

「やれやれ、これだから若い人は困るよ。ランターン、出番だ!」

 リノムがボールを投げたのに応じ、ボルトもポケモンを繰り出した。リノムの先発は翼を持ったポケモン、ボルトの1番手は光を撒き散らす青いポケモンである。

「えーと、確かトゲキッスはっと」

 ボルトはポケットからくすんだ図鑑を取り出した。トゲキッスはトゲチックの進化形で、全体的に高い能力を備える。特性はどちらも中々強力で、天の恵みを用いて追加効果を狙う型や、はりきりとしんそくで相手に何もさせない型などが代表例だ。

「なるほどね。ま、タイプ相性もあるから大丈夫かな」

「ごちゃごちゃうるせえぞっ! トゲキッス、まずは電磁波だっ!」

「で、電磁波だって?」

 ボルトの驚く顔を見向きもせず、トゲキッスは先制で電磁波を使った。弱々しい電撃はランターンに当たり、ランターンは元気になった。痺れた様子は微塵もない。

「う、嘘だろおい。電磁波が効かないなんて……」

「リノム君、ランターンの特性が蓄電なのくらい知ってるだろ? 良くないなあ、うっかりミスは。ということでこちらはあまごいだ」

 ランターンは頭の先を著しく明るくした。するとどこからともなく雨雲が現れ、土砂降りになった。ボルトもリノムもずぶ濡れである。

「くっそー、舐めやがって。くらいな、くさむすびっ!」

「なんの、雷だ!」

 雨に打たれながら、トゲキッスは草を絡ませランターンを転ばせた。技を使おうとしていたランターンは照準が逸れたようだが、問題なくトゲキッスに雷を当ててみせた。

「はは、やっぱり雨の雷は良いね。必中するから小手先の技くらいでは止められないのも魅力的だ」

「ぬぬぬ……ええい、もう1度くさむすびっ!」

「甘い、とどめの雷だ」

 トゲキッスは再び攻撃しようとするものの、体が言うことをきかない様子である。その隙を突き、ランターンは悠々とトゲキッスに引導を叩きつけた。雷はまたも命中し、トゲキッスは力なく地面に落ちた。

「よし、まずは1匹」

「……ばぐってんだろおおおおおお」

 リノムは雨に打ちつけられているトゲキッスをボールに回収した。ここで、ボルトがある提案をした。

「なあリノム君、君の実力では僕に勝つことすら難しいと思う。ここは休戦して、お互い会わなかったことにするのはどうだろう? 君は負けなかったことになるからお咎めなしになる。悪い話じゃないとは思うんだけど、どうだい?」

「……おい、なんで俺が負ける前提で話を考えてんだよ。俺はてめえなんざに負けるかっ!」

「おやおや、こりゃ交渉失敗か。わかったよ、ならば気が済むまでやってごらんよ」

「……馬鹿にしやがって。その言葉、後悔させてやるぜ。ドククラゲっ!」

 リノムは歯ぎしりしながら次のボールを投げた。出てくるのはドククラゲ。ボルトはため息をついた。

「やれやれ、あまり学習してないみたいだ。トゲキッスの二の舞になっても知らないよ?」

「フンッ、こいつを見ても減らず口が叩けるか? つぼをつくだっ!」

「つ、つぼをつく?」

 ドククラゲは登場早々、80本の触手で体中を突きまくった。ボルトとランターンはその異様な光景に唖然としている。

「……はっ、油断してしまった。とにかくチャンスだ、雷で落とすんだ!」

 ランターンはボルトの指示の下、三度雷を呼び込んだ。それはドククラゲにクリーンヒットした。だが、ドククラゲはびくともしない。

「な、雷が効かないだって!」

「言っただろ、俺は負けねえって。つぼをつくは能力を上げる技だが、何が上がるかわからない。しかしこの80本の触手で突きまくればすぐに全ての能力が限界まで伸びる。これこそ神軍師たる俺様の力だっ! ドククラゲ、ヘドロばくだんっ!」

 ドククラゲは想像以上に速かった。ヘドロでできた塊を作ったと思った時には、既に発射してランターンに直撃していた。ランターンはボルトの手元まで吹き飛ばされ、そのまま気絶するのであった。

「ランターン!」

「へっ、俺様の勝ちは決まりだなっ!」



・次回予告

ドククラゲの圧倒的な力の前に、ボルトのランターンは為す術なく倒れてしまった。このポケモンの快進撃を止めることはできるのか。次回、第55話「ギャンブルゲーム後編」。ボルトの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.35

実はリノムにはモデルとなった人物がいます。運師というのもそれが元ネタです。お時間のある方はニコニコのタグ検索で「運師」と入れてみてください。どんな人かわかりますよ。

今回のダメージ計算は、ランターン穏やか特攻特防振り、トゲキッスずぶといHP防御振り、ドククラゲずぶといHP防御振り、レベル50で6Vを前提とします。ランターンの雷でトゲキッス確定2発、トゲキッスのくさむすびをランターンは2回耐える。つぼをつくで限界まで能力を上げたドククラゲはランターンの雷を4〜5回耐え、返しのヘドロばくだんでくさむすびのダメージと合わせてランターンを確定で倒せます。ランターンの雷こんなに耐えるとかチートすぎる。

あつあ通信vol.35、編者あつあつおでん


  [No.699] 第55話「ギャンブルゲーム後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/06(Tue) 11:58:16   79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ははは、俺様の力はどうだ?」

「うんうん、確かにすごいな、『君のドククラゲ』は」

 ランターンをボールに戻したボルトは、ふてぶてしく笑った。その手には既に次のボールがスタンバイしている。いまだ雨は降り続くものの、徐々に晴れ間が覗いてきた。

「なんだとおい、明らかに俺の腕だろ。100歩譲っても7割は俺の実力だっ!」

「ふーん。……どちらにしろ、僕はかなり不利だ。けど、こんなこともあろうかと対策はばっちりさ」

「はっ、どうせハッタリに決まってらぁっ!」

「なら、実際に見てみればいい。ヌオー、出番だ!」

 ボルトの叫びと同時に、2匹目が飛び出した。くびれのない胴体にぼんやりした眼、あくびをするその姿は、まさにヌオーである。

「ヌオー? 貯水で水、タイプで毒を封じるつもりか。残念だったな、こいつにはこれもあるっ! 冷凍ビームだっ!」

 リノムの指示を受け、ドククラゲは凍えるビームを発射した。ビームはヌオーの腹部に直撃する。ヌオーは多少のけぞったが、すぐに体勢を立て直した。

「うっそ、ドククラゲの攻撃を余裕で耐えただとっ! ゲームバランスがおかしいっ!」

「おいおい、何を言ってるんだい。ヌオーの特性、天然が効いてるだけだよ」

「て、天然だと?」

「そうそう。『お互いの能力変化を無視する』だなんて、便利な特性でしょ? 元々はちいさくなるとかの技を対策するために入れてたんだけど、意外なところで役立ったよ。というわけで、地震攻撃」

 ヌオーは足をばたばたしながら地面を揺らした。するとドククラゲ目がけて、横揺れと縦揺れが順番に襲いかかった。ドククラゲはなんとか踏ん張ったものの、苦しそうなのは火を見るより明らかだ。

「ぐおお、何しやがるっ! 能力アップなんかなくても俺は勝てるっ! ハイドロポンプだっ!」

「やれやれ、元気なことだ。ヌオー、もう1発頼むよ」

 雨があがって雲が散り散りになりだした。ドククラゲは間欠泉のごとき水を叩きこみ、ヌオーは再び地震を放った。どちらもクリーンヒットし、互いにしゃがみこむ。やがてヌオーはゆっくり立ち上がったが、ドククラゲはそのまま崩れ落ちた。

「よし、その調子だヌオー!」

「や……ヤバいヤバいヤバい。ヤバいを通り越してヤバい」

「さあ、まだやるかい? 僕は一向に構わないけどさ」

「……ああ、やってやるぜ。ただしっ! 俺が勝ったら神軍師と呼んでもらうぞっ!」

「どうぞどうぞ、いくらでも呼びますとも」

「よーし。いくぜ最後の1匹、サイドンっ!」

 リノムの掛け声に合わせ、彼の切り札が場に出てきた。2本の足で立ち、鼻の上にはドリルのような角が生えている。また、手には長い爪が取り付けられている。

「なるほど、あれが彼の最後のポケモンか。またとんでもない戦法なんだろうな」

 ボルトは図鑑に目を通した。サイドンはサイホーンの進化形で、弱点こそ多いが攻防ともに優れた物理性能を持つ。中々手に入らないアイテムだが、しんかのきせきを持たせると驚異的な耐久力を得られる。

「いくぜ、神軍師の本領っ! つのドリルっ!」

 先手を取ったのはサイドンだ。ヌオーに接近してから頭を突き出し、角を差し込んだ。ヌオーは悶絶し、すぐに気絶してしまった。ボルトは苦虫をつぶすような表情で、ヌオーをボールに回収した。

「な、一撃必殺技をこうも簡単に当てるとは……」

「へっへっへっ、所詮素人にはたどりつけねえレベルさ。それより早く次を出しな、またぶちのめしてやるぜ」

「くっ、……これで終わりだ、ピカチュウ!」

 ボルトは3個目のボールを投げつけた。中から現れたのは、様々な事件やブームを巻き起こしたあのポケモン、ピカチュウである。ピカチュウの左手には、赤い帯のようなものが結んであるが、リノムはお構いなしにサイドンに命令した。

「はーっはっはっはっ、そいつが最後の1匹たあ、運が尽きたなっ! 先制つのドリルで終わりだっ!」

「な、なんだって!」

 突然、サイドンの爪が光ったかと思えば、サイドンは猛然とピカチュウに近寄った。完全に不意を突かれたピカチュウは回避のしようがない。それを見たボルトは、人々を起こしかねない怒号をあげた。

「今だ、カウンターを決めろ!」

 サイドンの角がピカチュウに突き刺さる。ピカチュウは脂汗を流しながらサイドンの耳に手を伸ばした。そのままサイドンの勢いを利用し、体を反らしながらサイドンを地面に叩きつけた。鮮やかな動きにサイドンは全く反応できず、驚くことにこの一撃で地に伏せた。ボルトの顔からは笑みがこぼれ、リノムは膝をついた。

「……うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお! すまねえ先生っ! 奴らを止めることはできなかったっ!」

「そう、君達の野望は今日で終わる。このバトルをきっかけにね。さ、おとなしく捕まってもらうよ」

 ボルトはピカチュウをボールに収めると、うなだれるリノムを縄で縛った。これで1人目の討伐が完了である。

「……助かったよ、ダルマ君。さてと、早いとこがらん堂の中に行かないとね。みんなも無事なら良いんだけど……」

 ボルトは他のメンバーの身を案じながら、元来た道を静かにたどっていった。雨雲はいつのまにか消え去り、綺麗な星空が夜のコガネを照らすのであった。



・次回予告

ワタルが出会ったのは、今まで2度戦ったサバカンであった。因縁の対決は、どちらに軍配が上がるのか。次回、第56話「3度目の正直前編」。ワタルの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.36

天然はピクシーとビーダルがいましたが、被りを気にせずヌオーを選択しました。理由としては、1つはピクシーの天然は夢特性ですが未解禁なこと。もう1つはビーダルはジョウト地方にいないことです。意外と天然って少ないんだなあ……。

ダメージ計算は、前回同様レベル50かつ6V。ヌオーはいじっぱりHP攻撃振り、サイドンは慎重防御特防振りで先制の爪持ち。ピカチュウは臆病特攻素早振りで気合いのタスキ持ち。ヌオーは地震でドククラゲを確定2発、ドククラゲは冷凍ビームとハイドロポンプを合わせてもヌオーを倒せません。また、ピカチュウのタスキカウンターでサイドンは確実に沈みます。仮に地震を受けても結果は一緒。やはりタスキカウンターは便利だ。


あつあ通信vol.36、編者あつあつおでん


  [No.700] 第56話「3度目の正直前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/07(Wed) 11:32:18   99clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「……そろそろ姿を現したらどうだ、サバカン」

 35番道路へとつながる門の近くに、ワタルはいた。既に地上に降り、カイリューはボールの中だ。南に雨雲が発生して大雨が降っているものの、それ以外は全くの静寂である。その中で、ワタルはあの男を呼んだ。すると、物陰から当人が姿を見せた。

「……やはり気付いておったか」

「当たり前だよ、これでもチャンピオンだからね」

「残念ながら、その肩書きも今宵で外れるべし。明朝には『反逆者』として処刑されよう」

「ははは、そりゃ傑作だ。けど、僕だってそう簡単には捕まらないよ。ギャラドス!」

「ふん、もとより承知しておる。ハッサム、仕事だ」

 ワタルとサバカン、3度目の戦いの火蓋が切って落とされた。ワタルの先鋒はギャラドス、サバカンの初手はハッサムだ。ハッサムは相変わらずこだわりハチマキを装備している。ギャラドスはまずハッサムを威嚇した。

「手始めに竜の舞いだ」

「ならばこちらはとんぼがえり」

 ギャラドスは、ただ跳ねているとしか思えない舞いを披露した。一方ハッサムはギャラドスの懐にジャブを入れ、すぐさまサバカンの元に引く。そして、次のポケモンと交代した。出てきたのは、額と尻尾の先にある赤い玉が印象的なポケモンである。また、首には紐を通した木の実がぶらさがっている。

「デンリュウか。しかしそれだけでは対策にならないよ。地震だ!」

「……甘い」

 ギャラドスは地面を叩きつけ、大地を揺らした。デンリュウは地に伏せる。ところが、デンリュウの首にある木の実が光り、地震が急に弱まった。ワタルはこのカラクリにすぐピンときた。

「な、まさかあれはシュカの実!」

「10万ボルトだ」

 デンリュウは立ち上がるとギャラドスに電気の束を放った。ギャラドスは水、飛行タイプ。通常の4倍ものダメージを耐えられるはずもなく、あっけなく丸焼きになってしまった。

「ぎゃ、ギャラドス!」

「……哀れなり、チャンピオンよ。命に関わる勝負に道具すら使わないとは。平和ボケもここまでくれば、ある意味幸せなのかもしれんな」

 サバカンは、ワタルがギャラドスを回収するのを鼻で笑った。ワタルは拳を握り締めながら2匹目のボールを掴む。

「くっ、ならばプテラだ!」

 ワタルから飛び立った2個目のボール、そこから2番手は登場した。そのポケモンは宙を舞っており、手と翼が1つになっている。いわゆる古代のポケモン、プテラだ。これにサバカンは身構えた。

「……敢えて飛行タイプを出すのはいと怪し。戻れデンリュウ、出でよハッサム」

「地震攻撃!」

 サバカンは冷静にデンリュウを戻し、再びハッサムを繰り出した。プテラは地震を発生させたが、ハッサムには大したダメージになっていない様子である。ワタルは攻め手を緩めることなく指示を出す。

「まだまだ、ストーン……」

「バレットパンチ!」

 プテラが動きだすよりも先に、ハッサムが急加速した。あまりの勢いに残像ができたほどである。ハッサムは飛んでいるプテラの真下に移動すると、自慢のハサミをプテラの腹部にねじりこんだ。プテラは一瞬にして気絶し、ハッサムのハサミにかぶさった。ハッサムはそれを軽々と投げ捨てる。

「プテラ!」

「……まさかこの程度とはな。1度とはいえ、このような者に遅れをとった自分が情けない」

「ぐ、ぐう。何も言い返せない……」

 ワタルは歯ぎしりをして肩を震わせた。サバカンは自信に満ちた声でワタルにこう言い放った。

「さて、チャンピオンよ。某は手持ちが3匹しかいない。対する貴殿は5匹のようだ。こちらはいくらかダメージを負ったが、ようやく公平になった。ここからが本当の勝負、せいぜいあがくことだ」

「……言われなくても、必ず君に勝つ! チャンピオンの底力、目に焼き付けろ!」

 ワタルは瞳に炎を宿し、3匹目のポケモンを場に送り出すのであった。



・次回予告

華麗な立ち回りの前に、能力で勝るはずのワタルは大苦戦。このまま押し切られるのか、それともチャンピオンの意地を見せられるのか。次回、第57話「3度目の正直後編」。ワタルの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.37

結構バトルシーンを考えるのって難しいんですよ。誰がどんなポケモンを使うかもそうです。パーティバランスを考慮してみると同じタイプばかり入れられないのですが、結果としてあるタイプが足りないという事態になるのです。

今回のダメージ計算は、ギャラドス陽気攻撃素早振り、デンリュウひかえめHP特攻振り@シュカ、ハッサム意地っ張りHP攻撃振り@拘り鉢巻、プテラ陽気攻撃素早振り、レベル50、6V。竜舞ギャラドスの地震をシュカ込みで余裕で耐えたデンリュウは返しの10万でギャラドス即死。プテラの地震を軽く流したハッサムのバレットパンチでプテラは即死。ワタル交代しろよ……2度バトルしてるからいくらか読めるはずでしょ。


あつあ通信vol.37、編者あつあつおでん


  [No.704] 第57話「3度目の正直後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/08(Thu) 17:30:35   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ゆけ、リザードン!」

 ワタルは3匹目のポケモンを繰り出した。両肩から生える翼に尻尾の炎がトレードマークのポケモン、リザードンである。サバカンは腰にあるボールに手をつけた。

「……いい加減学習したらどうだ、チャンピオンよ。戻れハッサム、出番だマンタイン!」

「身代わりだ!」

 サバカンはハッサムを戻し、新たなポケモンを投入した。扁平な体型で非常に大きな胸びれを持つ。また、テッポウオがくっついている。カイトポケモンのマンタインだ。一方リザードンは人形を作り出し、左手に持った。サバカンは思わず目を丸くする。

「身代わりとは、慣れないことはしないことだ。身を滅ぼすのみよ」

「それはどうかな? リザードン、かみなりパンチ!」

「なんと!」

 リザードンとマンタイン、先手はリザードンだ。リザードンは右腕を帯電させ、マンタインの顔面を殴りつけた。電気はマンタインの体に流れ込み、みるみるうちにダメージを蓄積させる。そうして、マンタインは力なく倒れた。

「よし、まずは1匹だ」

「……これは驚いた。かくのごとき懐刀を持っていたとは」

「どうだい、僕の腕は」

「ふん、自惚れるな。出でよデンリュウ」

 サバカンはマンタインを回収すると、再びデンリュウを場に送り出した。ワタルは不適な笑みを浮かべ、リザードンに指示を出す。

「……今こそチャンスだ。リザードン、集中しろ!」

 突然、リザードンの周囲が揺らぎだした。尻尾の炎はリザードンの頭に届くほど強くなり、辺りを熱気で包み込む。

「何をする気かは知らぬが、そうはいかん。デンリュウ、10万ボルトだ」

 デンリュウは充電をすると、まばゆい電撃を放った。電撃は空気を押し退けリザードン目がけて迫る。

「甘い、ガードするんだ!」

 ここで、リザードンは左手の身代わり人形を前方に突き出した。10万ボルトは人形に命中し、人形は消えてしまった。だがリザードンには何の被害もない。

「きあいパンチ!」

 リザードンはそのまま、隙だらけのデンリュウに接近。唸る拳を腹に叩きつけた。先程の地震によるダメージもあったため、攻撃を受けたデンリュウは立つので精一杯だった。だが、しまいには地響きとともに崩れ落ちた。サバカンの頬に脂汗が滴る。

「ぐ、デンリュウ!」

「……さあサバカン、君の手持ちはもうハッサムだけだ。……あくまでも抵抗するつもりかい?」

 ワタルはサバカンの意志を確認した。サバカンは静かに首を縦に振り、こう口を開いた。

「愚問だな。某は誇り高きがらん堂の一員、命に替えても師に背くような真似はしない」

「そうか。ならばもう何も言うことはない、決着をつけよう」

「……ハッサム、頼むぞ」

 サバカンはデンリュウをボールにしまうと、最後の1匹ハッサムに全てを託した。彼は一縷の望みを持って怒号をあげる。

「バレットパンチ!」

「これで終わりだ、リザードン フレアドライブ」

 ハッサムはハチマキを棚引かせながら加速、リザードンにハサミをねじりこんだ。リザードンはそれを悠々と受け止め、全身に火炎をまとう。それからハッサムに突進した。リザードンは歩を止めることなく前進し、サバカンもろとも業火にさらした。

「う、うぐおぉぉぉぉぉぉおおおお!」











「……これがチャンピオンの実力だ。わかってもらえたかな?」

 数分後、決着がついていた。ワタルはサバカンに近寄り声をかけた。サバカンは仰向けで虫の息となっている。

「……ああ、確かに我が身をもって思い知らされた。貴殿は強いな」

「ありがとう。……ところで1つ聞いていいかい。何故君達がらん堂の人達はそこまでサトウキビに忠実なんだ? 離反しようとは思わないのか?」

 ワタルの問いかけに、サバカンは胸を張って答えた。その眼は子供のように光り輝く。

「そのようなこと、考えるはずなどない。……師は、向上心はあるが事情により学ぶことができない若者を養い、好きなだけ勉強させる。某も師に救われた1人だ。当然、我等は師の恩義に報いるために様々なことをした。貴殿等を迎えうつのもそういった活動の1つに過ぎない」

「……そうだったのか。だとしたら尚更わからないな、彼は何故急にこのような暴挙に出たのか」

「ふん、気になるなら師に直接会うことだ。まあ、生きては帰れぬだろうがな」

「お、忠告ありがとう。じゃあ僕はそろそろ行くよ、がらん堂にね」

 ワタルはそう言い残すと、1人がらん堂へと移動するのであった。夜はまだまだ長い。



・次回予告

ユミの前に現れたのは、がらん堂のパウルであった。サトウキビに匹敵する力を持つ彼のバトルは、実に厄介なものであった。次回、第58話「避けられぬ戦い前編」。ユミの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.38

私が出す女の子キャラは、大体自分好みに設定している気がします。例えばユミはおしとやかだったり清楚な点ですね。ただ真面目なのも好きですが、立ち居振る舞い1つ1つに現れる優美な感覚を重視していると思います。あとは眼鏡っ子等も好みです。次回作では必ず……おっと、危ない危ない。

ちなみに、ダメージ計算はリザードン陽気攻撃素早振り、マンタイン穏やかHP特防振り。リザードンのきあいパンチとギャラドスの地震でデンリュウが乱数で落ちます。雷パンチはマンタインを確定1発。フレアドライブでサバカンもろともハッサムを一撃。

あつあ通信vol.38、編者あつあつおでん


  [No.706] 第58話「避けられぬ戦い前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/09(Fri) 10:15:56   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「……ようやく見つけたよ、ユミちゃん」

「パウル様」

 ユミとパウルは、コガネ港にて対峙していた。打ちつける波の音だけが響く、静かな時間である。

「しかし、なんとも惜しいね。才能ある美人を葬るのはさ」

「か、からかわないでください。私もパウルさんとは戦いたくなかったです」

「そう言ってもらえるだけでもありがたいね。……さて、最後にもう1度確認しておこう。がらん堂に来ないか? 君のように真面目で観察力のある人は大歓迎さ」

「……申し訳ありませんが、それはできません」

 ユミは軽く頭を下げた。それを受けてパウルは首を捻る。

「どうして? 君にとって良い環境は揃ってるんだよ。ただ各地を回るだけじゃ得られないものが、がらん堂にはあるんだ」

「確かにそうかもしれません。ですが、私は他人に迷惑をかける人間になるつもりはありません。私はあなた方とではなく、旅で知り合った方々と道を共にします」

 ユミの声は凛としており、力強さがあった。これを聞いたパウルは、右手にボールを持った。彼の瞳には炎が宿り、臨戦態勢と表現して差し支えない。

「……そうかい。ならばもう何も聞くまい。もったいないけどここで捕まってもらうよ。エテボース!」

「そうはいきません、ベイリーフ!」

 パウルはボールを投げた。すかさずユミも繰り出す。ユミの先発はベイリーフ、パウルの1匹目は2本の尻尾を持つポケモンだ。

「あのポケモンは……」

 ユミは図鑑を開いた。エテボースはエイパムの進化形であり、高い素早さと攻撃を持つ。特性のテクニシャンにより様々な技で大ダメージを与えてくる。特にねこだましは、ポケモンによっては体力の半分以上持っていかれることもある。

「まずは手堅くねこだましといこうか」

 先手はエテボースだ。エテボースはベイリーフに接近して1回拍手をした。そしてベイリーフが怯んだ隙に尻尾で叩きつけた。怯んだおかげでベイリーフは技を使えなかった。

「ベイリーフ、しっかりしてください!」

「さらにそこからとっておきでとどめだ」

 エテボースの攻撃はこれだけでは止まらない。エテボースは両手首を合わせ、手のひらからエネルギーを放った。この攻撃を直撃で受けたベイリーフは、なんとバトル開始から1分も経たずにやられてしまった。

「ベイリーフ!」

「ふふっ、どうだい、先生とまともに勝負できる俺の腕は。もう命乞いしても助けてあげないからね」

「命乞いなんかしません! ヌオー、出番です!」

 ユミはベイリーフをボールに戻すと、次のポケモンを投入した。ずんぐりした体形のヌオーの登場である。パウルは冷静に指示を出した。

「今度はヌオーか。エテボース、とっておきだ」

「カウンター!」

 エテボースは再度手のひらからエネルギーを放出した。これに対し、ヌオーは腕で払いのけ、反射した。エネルギーはエテボースの顔面に衝突し、エテボースは伸びてしまった。パウルは思わず身構える。

「おっと、こりゃびっくり。良い技覚えてるね。じゃあ俺の次のポケモンはこいつだ、ウソッキー!」

 パウルはエテボースを回収すると、2番手のポケモンを送り出した。胴は樹木のようだが、腕は緑色をしている。

「あれはもしかして……」

 ユミは図鑑に目を通す。ウソッキーはウソハチの進化形で、見た目に反して岩タイプである。無駄のない能力を備え技も優秀なので、活躍が期待できる。ただし遅いのでその点は注意する必要がある。

「なるほど、素早さは低いのですね。では先制しますよ。ヌオー、じし……」

「遅い、ウッドハンマーだ!」

 驚くべきことに、ウソッキーはヌオーの倍近いスピードで走った。そしてヌオーが技を使う前にタックルをかました。ウッドハンマーは草タイプの攻撃技、ヌオーには効果抜群である。たまらずヌオーは地に伏せるのであった。

「ヌオー!」

「ははっ、戦況は俺に有利か。どこまで戦えるかな? ユミちゃん」

「……まだまだ私とポケモンは戦えます! いきますよ、ガバイト!」



・次回予告

余裕綽々で戦うパウルに対し、苦戦を強いられるユミ。彼女にチャンスはいつ来るのだろうか。次回、第59話「避けられぬ戦い後編」。ユミの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.39

今更ですが、パウルの名前は海外でよくある名前が由来です。パウロというのがあまりにもメジャーなのでパウルにしたのですが、こちらも使う人が割に多いだと……。

ダメージ計算はレベル50、6V、ベイリーフ穏やかHP特防振り、エテボース陽気攻撃素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ウソッキー陽気攻撃素早振り。エテボースのテクニシャンねこだましととっておきでベイリーフを確定で倒します。ヌオーのカウンターでエテボースは軽く一撃。ウソッキーのウッドハンマーでヌオーはどうあがいても一撃。


あつあ通信vol.39、編者あつあつおでん


  [No.708] 第59話「避けられぬ戦い後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/10(Sat) 17:55:56   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「いきますよ、ガバイト!」

 ユミの3番手は軽やかに舞い降りた。首元から腹部にかけては深紅、それ以外は瑠璃色の皮膚を持つ。また、背中にはヒレを備えている。

「ガバイトとは珍しいな、しかも色違いか」

「……この子はタマゴから孵ったポケモンなんです」

 ユミが漏らした一言に、ふとパウルは食いついた。

「タマゴ? それってもしや、俺があげた?」

「それはわかりません、タマゴは2つ持っていましたから」

「ふーん、そっか。じゃあそろそろ再開しようか、ウッドハンマーだ」

「ならばこちらは砂嵐、起こします!」

 勝負は再び動きだした。先手はガバイト、周辺から土煙を巻き起こし、砂嵐が発生した。ウソッキーは砂嵐に隠れたガバイトを捉えることができず、ウッドハンマーは当たらなかった。

「くっ、外したか。ウソッキー、今度は当てるんだ」

「ガバイト、今のうちにつめとぎです!」

 ガバイトはウソッキーから距離を置き、片方の爪でもう片方の爪をとぎだした。ウソッキーはこのチャンスを逃すまいと懸命に走り、なんとかガバイトにその腕を叩きつけることができた。

「今です、あなをほる!」

「なんだと、逃がすなウソッキー!」

 ここで、ガバイトは地面に穴を空けて地中に潜った。ウソッキーはウッドハンマーで追撃するものの、すんでのところで逃げられた。それからしばし訪れた沈黙。砂嵐の舞い踊る音と2人の呼吸だけが耳に入る。

「……そこです!」

 束の間の静寂は、ガバイトがウソッキーの足元から出てくることで破られた。ガバイトは地下から飛び上がり、ウソッキーを穴に打ち落とす。ウソッキーは背中から着地し、周囲の岩で傷つけられた。どうにか地上まではい上がったが、そこでウソッキーは力尽きた。パウルは目を丸くした。

「やりました、これで2匹!」

「こいつは驚いた。ウソッキーをたった1回の攻撃で倒すとはね」

「ふふ、私もあの時よりは成長しましたから」

「そうかい。では俺の3匹目はこいつだ!」

 パウルはウソッキーをボールに戻すと、3匹目のポケモンを繰り出した。顔が2つあり、あごにはバツやマルの模様が施されている。また、妙な形のメガネをかけている。

「あれはマタドガスですね。こだわりメガネでしょうか、あれは」

 ユミは図鑑をチェックした。マタドガスはドガースの進化形であり、高い防御を持つ。また、毒タイプでありながら特性の浮遊により地面タイプを克服。格闘タイプを受けるためによく使われる。

「防御が高いのは厄介ですが、こちらは能力を上げています。ガバイト、ドラゴンダイブです!」

「そうはいくか、めざめるパワーだ!」

 ガバイト対マタドガス、またしても先制はガバイトだ。ガバイトはジャンプし、マタドガスの頭上からずつきをかました。マタドガスはこれをこらえ、体中からエネルギーを放出。これが顔面に直撃し、ガバイトはぼろきれのように動かなくなった。

「ガバイト!」

「……はっはっはっ、やはりめざめるパワーは素晴らしい技だ。せっかくだから教えておくと、マタドガスのめざめるパワーのタイプは氷。ドラゴンタイプは強いからね、対策はしっかりしとかないと」

「……油断しましたわ。あとはこの子だけ、しくじんじゃないよ!」

 ユミの瞳が火事になった。彼女はガバイトを回収すると、最後の1匹を送り出した。夕暮れ時の紫色の体毛に、額の赤い宝玉、それに二股の尻尾が印象的なポケモンである。パウルはユミの豹変にうろたえながら、戦況を見通した。

「く、口調が変わったぞ。いやそれより、最後はエーフィか。俺はあと2匹、交代してもいいけど万が一の時マタドガスでは勝てないからな」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる。サイコキネシスでぶっ飛ばしな!」

 ユミの最後の1匹エーフィは、パウルを待たずに攻撃をしかけた。マタドガスはサイコキネシスに捕まり、雑巾の如くたっぷり絞られる。そして、そのまま目を回して気絶した。パウルは冷静にマタドガスをボールに収める。

「さすがに耐えないか。それにしても、ここまで追い詰められるのは先生とのバトル以来だ。……いくぞ最後の1匹、スリーパー!」

 パウルは4個目のボールを投入した。現れたのは、ふさふさした首輪に紐を通したコインを装備するポケモンである。

「スリーパーねえ、そんなのでアタイを止められるとでも?」

 ユミは図鑑を眺めた。スリーパーはスリープの進化形で、エスパータイプながら高い耐久を持つ。反面決定力がやや低めで、補助技を絡めた戦術が求められる。また、幼い子供を襲うことがあるという。現に、パウルのスリーパーはユミに反応して興奮している。もっとも、彼女がガンを飛ばすとしゅんとなったが。

「止めてみせるさ。先生の邪魔はさせないよ」

「はっ、ならやってみな。エーフィ、瞑想で様子見だよ」

「隙だらけだ、催眠術!」

 最後の対決、エーフィが機先を制した。エーフィは意識を集中させ、力を蓄える。他方、スリーパーは振り子を揺らし、エーフィを夢の世界へ引き込もうとした。ところが、眠ったのはスリーパーの方ではないか。パウルは予想外の事態に動揺した。

「ば、馬鹿な! 当たらないならまだしも、スリーパー自身が眠るなんて……!」

「あんた、何勘違いしてんの? この子の特性はシンクロじゃなくてマジックミラーなんだけど」

「ま、マジックミラーだって! 常にマジックコートを使った状態になるあの特性か……!」

「今更気付いても遅いよ、シャドーボール!」

 エーフィはどこからともなく黒い塊を数個作り出し、サンドバッグ状態のスリーパーに撃ちまくった。スリーパーは吹き飛ばされ、パウルもまた被弾した。

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」

「雑魚はすっこんでな!」









「……ははははは、俺もまだまだ弱いな。先生と渡り合えてると思ったけど、実は手加減してくれてたのか」

「パウル様……」

 しばらくして、ユミはパウルの元に歩み寄っていた。パウルは乾いた笑い声をあげる。

「しかし、負けは負けだ。もう俺に抵抗する手段はない、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「……私はあくまでがらん堂のやっていることを止めに来ただけ、あなた方をどうこうするつもりはありません。ただ、1つ聞いてもいいですか?」

「ん、なんだい。プライベートな質問でも答えてあげるよ」

「……がらん堂がこのようなことを起こした理由を教えてください。あなた方が私達に濡れ衣を着せてまでジョウト地方を支配しようとした、その訳を」

 ユミが問いただすと、パウルは何度も頷きながら言葉を発した。

「ほう、そりゃ確かに気になるよね。……実は、わからない」

「そ、そんな!」

「おいおい、そんな目で見ないでよ。この計画は先生が考えたわけだけど、理由を一切言わなかったんだ。今まではそんなことなかったのにさ。でも、あの時の先生はとても怖かったことは覚えてる。何かに対する怒りとでも言えばわかりやすいかな」

「怒りですか……」

 ユミは腕組みしながら首をかしげた。しかし、頭に浮かぶのはクエスチョンマークばかり。考えるのを諦めた彼女は、パウルに礼を述べながら東北東の方角に目を遣った。

「ありがとうございます。ではそろそろ私は行きますので、おとなしくしててくださいね」

「ああ、そうしとくよ。君に逆らったらとてもかなわないてっ!」

 最後にパウルの背中を蹴ると、ユミはがらん堂へと向かうのであった。



・次回予告

がらん堂幹部は全て倒された。にもかかわらず、街中を歩くダルマの前に1人のトレーナーが立ちはだかる。果たしてトレーナーの正体は、そして実力は如何に。次回、第60話「雪辱の戦い前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.40

どう考えても現状ダルマ以上の力を持ってますよね、ユミは(種族値的に)。ゴロウやダルマと差別化しようとした結果がこの豪華な面子です。一応ダルマパーティなら有利に戦えるのですが……。

ダメージ計算は、ガバイト陽気攻撃素早振り、エーフィ臆病特攻素早振り、マタドガス控えめHP特攻振り、スリーパー控えめHP特攻振り。ウソッキーのウッドハンマーをガバイトは耐え、ガバイトのつめとぎ穴を掘るでウソッキーを確定1発。ガバイトのドラゴンダイブをマタドガス@眼鏡は耐え、返しのめざ氷でガバイトを確定1発。エーフィのサイコキネシスでマタドガスは確実に沈みます。そして瞑想エーフィのシャドーボールでスリーパーは確定2発。


あつあ通信vol.40、編者あつあつおでん


  [No.710] 第60話「雪辱の戦い前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/11(Sun) 13:19:47   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「お、ようやく見えてきた。ラジオ塔にコガネ城だ」

 ダルマは前方にある建物を見上げた。何重もの白壁に囲まれた敷地にあるのは、権力を象徴する天守閣とラジオ塔である。ラジオ塔からはいまだ怪電波が垂れ流しにされている。

「そういや、発電所は止めたのに何故ラジオ塔は動いてるんだ? 自家発電でもしているのかな」

 ダルマが疑問に思いながら歩いていると、突如彼の目の前に1本の骨が飛んできた。ダルマはすんでのところで回避したが、骨はUターンしていった。ダルマは辺りに呼びかける。

「だ、誰だ!」

「……俺だ」

「あ、お前はカラシじゃないか!」

 ダルマの前に現れた人物、それはカラシとガラガラであった。ダルマには聞きたいことが色々あるようだが、まず1つ尋ねた。

「今までどこに行ってたんだ? 迷子になるようには見えないし、かといって1人で行動するほど無鉄砲でもない。何があったんだ?」

「……これまでの状況から考えても思いつかないとは、やはり凡人か。俺はがらん堂に雇われた身、お前達の動向を探っていた。仕事が済んだから雇い主の元に帰還しただけ、どこかおかしいところがあるか?」

「……な、な、な、なんだってええええ! お前は金を稼ぐためにセキエイに仕官したんじゃなかったのか!」

 衝撃的なカミングアウトに、ダルマは思わず後ずさりした。一方カラシは、そうしたダルマをあざ笑うように話を続ける。

「ああ、あれか。つくづく馬鹿な奴め。考えてもみろ、ワタルという男が俺に提示した報酬は何だ?」

「報酬? 確か、俺達と同じでポケモンリーグの出場権だったよな。それがどうしたんだ」

「……ポケモンリーグの出場権。魅力的な条件であることに変わりはない。しかし、それが直接金になるわけではないのもまた事実。金を求めていた俺がそんなもので動くのは、端から眺めれば不自然極まりない。つまり、俺の行動は根本的に矛盾していたのだ! それに気付けなかったお前達の、なんと浅はかなことよ。ははははは」

 カラシは、腹を押さえながら笑った。幸い、周囲に民家はないので市民が様子を伺うことはない。彼の発言を受け、ダルマは冷や汗を流しながらも首をかしげた。

「そ、そこまで堂々と自分の矛盾を主張するとは……。ん、待てよ。お前は以前ロケット団でも仕事してたじゃないか。そんなトレーナーをがらん堂は雇ったのか?」

「ふん、ようやくましな思考になってきたな。それについては心配いらない、ロケット団はがらん堂の下部組織だからな」

「え、ロケット団ががらん堂の一部だって!」

 2度目の重大発言に、ダルマはのけぞり、そのままブリッジして1回転した。カラシは眉1つ微動だにせず説明をする。

「そうさ。がらん堂の弟子達がロケット団として悪事を働くふりをし、それをがらん堂が成敗する。がらん堂が高い支持率を誇った理由はこれだ。ロケット団がコガネを占領したというのも、がらん堂によるジョウト征服をスムーズに進めるための狂言だったのさ」

「……するとあれか、俺達はコガネに来た時から完全に利用されていたのか?」

「なんだ、今更理解したか。ま、わかったところで邪魔はさせねえけどな。今回の仕事は、コガネ市街に潜伏する反逆者を捕らえること。悪いが連行させてもらうぜ」

 カラシは1歩前進した。彼の左手には手錠がぶら下がっている。ダルマは腰のボールに手をつけた。

「そ、そうはいくか。お前を倒してがらん堂を止めてみせる!」

「はっ、あくまで抵抗するか。……俺とお前は2回戦い、どちらも1勝1敗。あの時の雪辱、今果たすのも一興だ。相手してやろう」

 カラシもボールを手に取った。2人はしばし睨み合うと、ほぼ同時に最初のポケモンを繰り出すのであった。



・次回予告

ダルマとカラシ、因縁の対決は熾烈なものであった。カラシの動きにかき回され、ダルマは中々得意のパターンに持ち込めない。果たしてダルマは彼に勝てるのか。次回、第61話「雪辱の戦い中編」。ダルマの明日はどっちだっ。






・あつあ通信vol.41

遂に60話到達。毎日投稿していたらこんなに早く進むのか……。

そういえば、この間文章の診断サイトで自分の作品をチェックしてみました。そしたら、概して硬い文章と言われました。接続詞の多用や体言止めをほとんど使わないこともよくわかりました。文体が似ているのは浅田次郎だそうです。まあ、わかりやすければそれに越したことはありませんけどね。


あつあ通信vol.41、編者あつあつおでん


  [No.714] 第61話「雪辱の戦い中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/12(Mon) 10:57:58   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ふん、相変わらずアリゲイツからか」

「あれはキリンリキか。カラシの奴、手持ちが増えているな」

 ダルマの初手はアリゲイツ、カラシの先発は尻尾にも頭を持つポケモン、キリンリキである。ダルマは図鑑を開いた。キリンリキは珍しいノーマルとエスパーの複合で、トリックを自力で覚えられる希少な1匹である。攻守ともにバランスが良いが、どちらかと言えば補助をこなすことが多い。

「まずは小手調べだ。いくぜキリンリキ、こうそくいどうだ!」

「アリゲイツ、まずはアクアテール!」

 戦いの火蓋は、切って落とされた。先手はキリンリキで、辺りを駆け回りだした。一方アリゲイツはゆっくり歩き、キリンリキが付近を通る時に自慢の尾を叩きつける。キリンリキは一端歩を止めて懐から木の実を取り出し、さっと食べた。

「あ、あれはオボンの実か。体力回復したみたいだし2回で倒すのは無理そうだな」

「……1回の攻撃でオボンを使わせるとは、思ったよりはやる。キリンリキ、そのままバトンタッチだ!」

「逃がすな、もう1度アクアテール!」

 ここでキリンリキが動いた。どこからともなくバトンを持ち出すと、急いでボールへ逃げ帰ってしまった。代わりに、2本の足と4本の腕を持ったポケモンが登場。手から玉のようなものが確認できる。アリゲイツのアクアテールはこのポケモンに当たった。この直後、カラシのポケモンが握る玉から毒が吹き出し、そのポケモンは猛毒状態になった。

「か、カイリキーもいたのか。にしても、何故毒々玉を持っているんだ?」

 ダルマは再び図鑑を覗いた。カイリキーはゴーリキーの進化形で、非常に高い攻撃と多様な技を兼ね備える。反面素早さは低い。ノーガードという特性を持ち、爆裂パンチとの組み合わせは強力。また、根性の特性も厄介である。

「なるほど、根性の特性を発動させるために持ってるか」

「……おいおい、良いのか? そんなにちんたらしててよ。カイリキー、インファイトだ」

 カラシの指示の下、カイリキーは瞬時にアリゲイツの眼前まで接近。そのままやたらめったらに殴りまくった。そして、アリゲイツはボロ雑巾のように投げ飛ばされてしまった。

「あ、アリゲイツ!」

「ははは、脆いもんだな。さあ、次はどいつが相手だ?」

「くそっ、こりゃ厄介だな。頼むぞスピアー!」

 ダルマはアリゲイツをボールへ戻すと、2匹目を繰り出した。出てきたのは、きあいのタスキを腕に巻いたスピアーである。カラシは眉1つ動かさずカイリキーを動かす。

「はっ、お決まりの手だな。カイリキー、ストーンエッジ!」

「なんの、おいかぜだ!」

 カイリキーは軽く跳ね、地面を踏みつけた。すると、スピアーの足元から岩の刃が突き出してきたではないか。この不意討ちをもろに受けたスピアーだったが、きあいのタスキでなんとか凌いだ。そこからおいかぜを呼び起こし、辺りに大風が吹き荒れた。

「それくらい計算済み。バレットパンチでとどめだ」

 カイリキーは攻撃の手を緩めない。急加速しながらスピアーの前に躍り出て、軽めのパンチを当てた。ほうほうの体だったスピアーはそのまま地に伏せた。カイリキーは毒が回ってきたようだが、まだ戦えそうだ。ダルマは苦虫を噛んだような表情でスピアーを回収する。

「うぐ、戻れスピアー」

「どうした、さっきまでの威勢は。……晴れにできなけりゃ、お前のパーティなんざ約立たずばかりだろ?」

「う、うるさい! お前の知らない新しい戦い、見せてやるよ。ロコン、出番だ!」

 ダルマは3匹目のポケモンを投入した。現れたのは、今朝仲間になったばかりのロコンである。ロコンの出陣と同時に、夏の暑さと照り返しが周囲を襲った。

「……新しいポケモンか。それよりなんだ、真夜中だってのに日差しが強くなっただと! まるで昼間じゃないか!」

「これこそ俺の隠し玉だ。火炎放射!」

 ロコンはおいかぜに乗って走り、カイリキーの顔面に陽炎を放つほどの炎を放射した。自らが起こす日照りで強化された炎技にアリゲイツのアクアテール。自身の毒のダメージによりカイリキーは地響きを立てながら倒れこんだ。カラシは脂汗を流しながらカイリキーをボールに納める。

「ぐ、速いな。これでこちらは残り3匹か。……いくぜ、次はこいつが相手だ!」


・次回予告

激戦の続く2人の戦い。数で有利なダルマの手持ちは徐々に減り、遂にカラシと並んだ。果たして勝負の行方は。次回、第62話「雪辱の戦い後編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.42

カラシは高速バトン、ダルマは追い風。お互いやってることは似ているんですよね。まあ、130族が抜けるポケモンを使うあたりカラシの方が1枚上手でしょうけど。

ダメージ計算は、いつものようにレベル50、6V、アリゲイツ意地っ張りHP攻撃振り、キリンリキ@オボン臆病HP252防御68特攻4特防108素早76振り、カイリキー@毒々玉意地っ張り攻撃素早振り、ロコン臆病特攻素早振り、クロバット陽気攻撃素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、イーブイ意地っ張り攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り。キリンリキは、高速移動で100族スカーフ抜き、プレートメタグロスコメットパンチ耐え、残り特防の調整となってます。一応控え目ボーマンダの流星群も耐えます。で、アリゲイツのアクアテールでオボン発動。カイリキーの根性インファイトでアリゲイツ確定1発。ロコンの晴れ火炎放射とアリゲイツのアクアテール、毒々玉3ターン分のダメージでカイリキーは倒れます。

今更ですが、ストーリーの途中からアリゲイツの性格が無補正のものから意地っ張りになってます。同一個体ゆえにこのミスはまずいと思いますが、見逃してもらえれば助かります。


あつあ通信vol.42、編者あつあつおでん


  [No.715] 第62話「雪辱の戦い後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/13(Tue) 15:37:15   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あれはクロバットか。思った以上に速いな」

 ダルマはカラシの3匹目、クロバットを図鑑で調べた。クロバットはゴルバットの進化形で、全てのポケモンの中でも特に高い素早さを誇る。それ故素早さ調整の標的にされやすい。嫌がらせやサポートを得意とする。

「……こいつのスピード、とくと見ておくことだ。ブレイブバード!」

「負けるな、火炎放射!」

 バトルが再開した。まずロコンがおいかぜに乗り、火炎放射をした。クロバットはそれを受けながらも体の側面をロコンに向け、回転しながら突っ込んだ。回転により予想以上の破壊力を持った攻撃を食らい、ロコンはたまらず気絶した。

「ロコン!」

「ちっ、抜けるとは思ったが見当違いか。だが……こちらが有利になったことに変わりはない」

 カラシは辺りを見回した。先程まで吹いていたダルマのおいかぜが、本来のそよ風に姿を変えた。

「おいかぜがやんだ……」

「これでお前のポケモンは機能停止だな。キマワリのソーラービームにイーブイのじたばた、お前はこれに頼りきり。しかし、先制できなければ意味のないこと。きあいのタスキも消費した今、お前に勝ち目はない」

「……それはどうかな」

「なんだと?」

 ダルマは冷や汗を滴らせながら、不適な笑みを浮かべた。そんなダルマをカラシは怪訝な表情で睨みつける。

「どんなに不可能と思われても、必ず逆転への糸口はある。それがあったからヤドンの井戸で勝つこともできたし、今まで戦ってこれた。そして、それはこれからも変わらない! 頼むぞカモネギ、俺達の腕の見せ所だ!」

 ダルマはロコンをボールに戻し、4匹目のポケモンを繰り出した。植物の茎を口にくわえ、カモネギが舞い降りる。カラシは鼻で笑って指示を出した。

「ふん、自惚れやがって。クロバット、ブレイブバードだ」

「まずはこらえるんだ!」

 カモネギは腹部に力を込め、翼を交差させた。そこにクロバットが4枚の羽を鞭のようにしならせカモネギを襲う。カモネギはずるずる押されていくが、なんとかダルマの目の前で踏みとどまった。ここでクロバットが攻撃の手を休める。

「今だフェイント攻撃!」

「し、しまった!」

 これを好機とばかりに、カモネギは茎でクロバットの頭をどついた。ロコンの火炎放射とブレイブバードの反動のダメージを負ったクロバットは、抵抗できずに力尽きた。

「よし、やっと半分か。まともにやったら大変だから、確実に倒さないとね」

「……キリンリキ、いくぜ」

 カラシは静かにクロバットを回収し、再びキリンリキを投入した。さっきの戦いの疲れはほとんど残っていないようである。

「よし、じた……」

「遅いわ、サイコキネシス!」

 わずかな差だが、キリンリキが機先を制した。キリンリキはカモネギの体を雑巾のように絞った。これをこらえられるはずもなく、カモネギはあっさり瀕死となってしまった。ダルマは歯ぎしりしながらカモネギをボールに納める。

「嘘だろおい、あんなに素早さ伸ばしたのに先制されるなんて」

「くく、残念だったな。もう少し強いポケモンなら勝てたかもしれないが」

「うるさい、馬鹿にするな! イーブイ、出番だ!」

 ダルマは顔を紅潮させながら5匹目を送り出した。出てきたのはイーブイだが、今日は手ぶらである。

「はっ、やっとチャンスが巡ってきたぜ。キリンリキ、こうそくいどう!」

「こっちもチャンス到来! あくびだ!」

 キリンリキは最初と同じく力を抜き、高速で移動した。他方イーブイはあくびをし、キリンリキの眠気を誘った。カラシは首をかしげながらイーブイを見つめる。

「……なんの真似かは知らねえが、悪あがきは止めとくことだ。バトンタッチ」

「……この一瞬、待ってたぜ。イーブイ、もう1度あくび!」

 ここで勝負が大きく動いた。キリンリキは現在の状況を引き継ぎ、カラシの最後の1匹であるガラガラに交代。ダルマはイーブイに再びあくびをさせた。カラシはせせら笑いをしながらキマワリを見下ろす。

「おやおや、遂に血迷ったか。ガラガラ、骨ブーメランだ」

 ガラガラは自慢の太い骨をイーブイに投げつけた。ガラガラとは思えない機敏な動きについていけず、イーブイは倒れた。ダルマは勝ち誇った顔でイーブイをボールに戻ず。

「助かったよイーブイ。これでガラガラは眠る!」

 ダルマはガラガラを指差した。ガラガラは舟を漕いでいるかと思えば、骨で体を支えて寝てしまったではないか。すかさずダルマは最後のポケモンをスタンバイする。

「キマワリ、ソーラービームだ!」

 キマワリは自らの体を焼きながら光線を発射。寝ているガラガラに逃げ場はない。一撃で地に伏せた。

「ば、馬鹿な!」

「さあ、あとはキリンリキだけ。次の1手で勝負が決まる」

「くっ、そんなことは百も承知。キリンリキ、これで最後だ!」

 カラシはガラガラを退かせ、キリンリキに全てを託した。カラシの命令にも力が入る。

「キマワリはサンパワーの特性でダメージが蓄積されている。サイコキネシスで決めろ!」

「そのくらいなら耐えられる! もう1度ソーラービーム!」

 キリンリキはキマワリを丸めて握り潰した。キマワリはこれを余裕を持って耐え、2度目のソーラービームを撃つ。光線はカラシもろとも飲み込んでいった。

「ぐぐ、がはぁっ!」










「畜生、何故だ! 何故このような素人に負けたんだ俺は!」

「……現実的な理由としては、手持ち不足かな。さすがに4匹で6匹を相手にするのは難しいよ」

 戦いの後、カラシは膝をついて地面を叩いた。ダルマはカラシに近寄り声をかけようとしたが、さえぎられた。

「言っておくが、慰めならいらないからな。お前に負けたせいで今回の報酬はなしだ。笑いたければ笑うがいいさ。さあ、笑えよ!」

「そ、それは遠慮しとくよ。なんだか、発狂するか泣きだしそうだからな。それより、まだ報酬もらってなかったのか?」

「……ああ。後払いという約束だったからな。おかげで俺は赤貧のままだ。どうせもうすぐ逮捕されて、評判も失っちまうさ」

「なるほど。ならもう1度こちら側についたらどうだ?」

 ふと、ダルマが口から漏らした言葉に、カラシは目を丸くした。それからいきらかうろたえる。

「な、何をふざけたことを。そんなこと、できるわけがないだろ」

「そうかあ? カラシががらん堂にいたのを知ってるのは俺だけだ。俺が黙っとけば大丈夫だろう。ついでに、報酬を上乗せしてもらえば良いさ。少しくらいならはずんでくれるよ。手柄なしよりはよっぽどましだろ?」

「……不思議な奴だ。さっきまで敵だった人間を平気で引き抜くなんてな」

「そんなに変か? ポケモンバトルなんかも野生のポケモンと戦って仲間にするわけだし、普通じゃないかな。それに俺達は頭数すら集まらない状況だから、いちいち気にしないよ」

 ダルマはそうまとめると、ゆっくり歩を進めだした。

「じゃ、俺はラジオ塔を調べてくるから。仲間になるならがらん堂の屋敷に行ってくれ、みんないるはずだから」

「……ちょっと待て、こいつを取っとけ」

 突然カラシはポケットから石のようなものを取り出し、次々ダルマに投げつけた。ダルマはそれらを全てキャッチする。

「こ、これはげんきのかたまりか。4個もあるけど良いのか?」

「気にするな。……上にはあの男がいる。せいぜい頑張ることだ」

「カラシ……。助かった、じゃあ行ってくるぜ」

 ダルマはそう言い残すと、ラジオ塔に突入した。夜はまだ深いが、星の明かりがダルマを照らすのであった。



・次回予告

一足先にがらん堂の屋敷へと忍び込んだドーゲンとハンサムであったが、大勢の弟子達に囲まれる。このピンチを救ったのは、あのトレーナーだった。次回、第63話「遅れてきた勇者」。おじさん達の明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.43

終わった、やっと連戦が一段落しました。ジョウトカントー縛り故、普段考察もしないようなポケモンばかりを起用しましたが、予想通りかなりてこずりました。あれでも、パウルさんとカラシのパーティは気に入ってるんですよ。やっつけにしては上手くできているんで。

ダメージ計算は、クロバット陽気攻撃素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、イーブイ意地っ張り攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り。クロバットのブレイブバードでロコンは確定1発、カモネギのフェイントと火炎放射、ブレイブバードの反動でクロバットは倒れます。カモネギはなんと最速でも調整キリンリキより遅いです。後は太陽神の独壇場。キリンリキのサイコキネシスはサンパワーのダメージを1回受けても確定で耐えるので、そのまま無双できます。

あつあ通信voL.43、編者あつあつおでん


  [No.717] 第63話「遅れてきた勇者」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/14(Wed) 10:00:39   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「むむ、お前達。下っぱはキキョウか屋敷にしかいないはずだが、何故ここにいる?」

「いえ、先生からの指示です。キキョウに討伐に行く人数を減らし、屋敷を守れとのことでした」

 がらん堂の入り口には、3人の男がいた。1人は門番、後の2人は弟子のようである。3人とも着流しを着て草履を履いている。門番は2人を鋭い目でチェックすると、門を開けた。

「なるほど、先生の指示なら問題ない。屋敷には見られてはまずいものがたくさんあるからな。よし、入れ」

 門番に促され、2人は礼をしながら黙って門をくぐった。それから門番の死角に入り、そそくさと茂みに飛び込む。2人は頭だけを出し、様子を伺った。広大ながらん堂の屋敷だが、人影はまるでない。そして不気味なほど静かだ。

「……そろそろ良いか、ハンサムさんよ」

「ええ。ここなら大丈夫でしょう、ドーゲンさん」

 2人は誰もいないことを確認すると、おもむろに鼻を引っ張りだした。するとなんということか、顔面の皮膚が全て剥け、別人の顔が現れたではないか。更に2人は着流しも脱いだ。そこにいるのはもはやがらん堂の弟子ではなく、2人の中年男性である。

「ふう、やっと楽になったわい。変装というのは思った以上にキツいな」

「最初は皆そう言いますね。ですが人を騙すのはこの上なく面白いですよ、ドーゲンさん」

「……あんた、本当に警察か?」

 2人のうちの1人であるドーゲンは、もう1人のハンサムに突っ込みを入れた。ハンサムはそれをスルーし、腰をさする。

「さあ、そろそろ中に入りましょうか。がらん堂はキキョウに大半の弟子を投入していると推測される。とすれば屋敷に残る弟子は少数、我々でもなんとか突破できるでしょう。かなり鍛えましたからね、老体に鞭打って」

「おい、俺はまだ45だぞ。……おい、何かおかしくねえか?」

 ふと、ドーゲンが辺りを見回した。そして冷や汗が幾筋も滴ってきた。ドーゲンの言葉の意味をいまいち把握できてないのか、ハンサムは首を捻る。

「おかしい? 私にはなんのことか。静かですし、問題があるようには思えません」

「あんたも分かってねえたあ。静かすぎるだろ、今。ポケモンの鳴き声さえない。明らかに変だ」

「そう言われれば……こ、これは!」

「ふふふ、やはり図星か。警戒して正解だった」

 ハンサムが周囲を眺めると、物影からわらわらと人が集まってきた。数は40人とも50人ともいそうだ。その中には、あの門番も混じっている。

「お前は先程の門番、何をした!」

「何もしてないさ。ただ怪しい奴を敷地内に誘い込んだと仲間に知らせただけのこと」

「くっ、私の変装が見破られるとは……」

 ハンサムが唇を噛んだ。それを受け、門番はにやにやしながら1歩前進する。

「ああ、あれか。確かに変装は完璧と言って差し支えない。だが先生の行動が不自然すぎる。がらん堂は報連相を徹底している故、そのような真似は有り得ない! まして先生がルールを無視したら、私達に示しがつかないだろ?」

「……油断したか。こうなればこちらもただではやられたりしない!」

「ハンサムさんよ、逃げるのも戦うのも無理だと思うのだが」

 ドーゲンは四方を指差した。いつの間にか背後からも弟子が迫り、進退窮まったと表現しても差し支えない。包囲網は徐々に狭まり、血路を開くことすら難しい状況だ。

「くくく、ものわかりの良い奴だ。皆の衆、かかれ!」

「くそっ、ここまでか……」

 ハンサムは天を仰いだ。彼の視界に2つの影が通り過ぎる。次の瞬間、その影が彼の目の前に飛び降り、弟子に向かって突進。それを数回ほど繰り返し、弟子達を皆のびさせてしまった。残るは門番のみである。門番は不測の事態に目を丸くした。

「なな、何が起こった? 私達がらん堂の兄弟が全滅するなど、よほどの手練でないと不可能だぞ! 何者だ一体!」

「……勇者は遅れてやってくる。どんなに遠く離れても、助けの声ありゃ馳せ参じる。これぞヒーローの心意気よ!」

「あ、あれはまさか……」

「1人に1匹のトレーナーか、セキエイで見たな。確か……」

「勇者ゴロウ、ただ今参上!」

 2つの影のうちの1つは人であった。その者は名乗り口上をあげると、門番にのしかかった。

「ば、馬鹿な……」

 門番は抵抗するものの、やはり気絶するのであった。突然登場したその人は、軽いノリでハンサム達に声をかけた。

「ようおっさん達、大丈夫か? 早速だけどがらん堂の奴らを縛るの手伝ってくれよ」










「ゴロウ君、実に驚いたよ。まさかたった1人でこの場を切り抜けてしまうとは」

「うむ、若いもんはそれくらいやんちゃでなければな!」

 一段落した後、ハンサム達は現れた影、ゴロウと話をした。近くには足首と、手首を背中で縛られたがらん堂の弟子達が転がっている。ゴロウは頭をかきながら喋る。

「へへ、セキエイできっちり鍛えた甲斐があったもんだぜ」

「……そういえばゴロウ君、君はどこからやってきたのだ? 道によってはがらん堂の者と鉢合わせたはずだが」

 不意に、ハンサムがゴロウに尋ねた。セキエイからコガネまで、ハンサム達がたどり着くまで10日はかかったのだから、急にやってきたことに疑問を持つのは自然な成り行きである。

「道のり? セキエイからキキョウまで飛んで、そこから自転車で36番道路と35番道路を駆け抜けてきたけど。がらん堂の奴らにはたくさん出くわしたけど、全員倒しといたぜ」

「ぜ、全員か。それはまた……恐ろしい強さだな。しかし、キキョウまで飛んだというのはどういうことだ?」

「ああ、交換システムが改造されてたらしいじゃん。あれを使わせてもらったんだよ。すげえ気分が悪かったけど、おかげで間に合ったみたいだな」

「全くだ。助かったぞボウズ、それとラッタにもな」

 ドーゲンはもう1つの影の正体、ラッタに頭を下げた。ラッタもない首を少し曲げる。

「……さ、ぐずぐずしている暇はない。皆が無事ならここに集合することになっている。それまでに残党探しと物色をしておくとしよう」

 ハンサムがそう言うと、3人と1匹はがらん堂の屋敷へ潜入するのであった。


・次回予告

ドーゲンとハンサム、ゴロウは外で戦っていたワタル達と合流。彼らががらん堂の捜索をしていると、あの人を発見。その人から聞かされたことは、この動乱の根本に関わるものであった。次回、第64話「合流、そして発覚」。彼らの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.44

カラシ以来の無双状態に、書いてる私もちょっと興奮しました。普段はゲームに忠実な戦闘なので、どうしても無双にならないわけです。

そして今日は久々にダメージ計算がありませんでした。私の連載からバトルを引いたら水分の抜けたキュウリみたいなものですが、終盤だし大丈夫か。何度も言ってますが、70話(遅くとも73話)までには決着がつきます。そこまで読んでもらえれば後はなんとかなりますので、もう少しお付き合いください。


あつあ通信vol.44、編者あつあつおでん


  [No.720] 第64話「合流、そして発覚」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/15(Thu) 20:11:37   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「お、来てくれたねゴロウ君」

「ワタルのおっさん達じゃねえか。待ちくたびれたぞ!」

 屋敷の周辺をうろついていたゴロウは、ワタルとユミ、ボルトと合流した。3人とも疲れが顔に出ているものの、目立った外傷等はない。

「悪いねえ、ちょっと勝負に付き合ってあげてたんだよ」

「それで私達、時間がかかってしまいました。そちらは大丈夫でしたか?」

「当たり前だろ。なんたって鍛えに鍛えた俺がいるんだからな! 今はダルマの父さんとハンサムのおっさんとで屋敷の捜索してるぜ」

「そうか。サトウキビ氏の手がかり、何か見つかれば良いのだけど」

 ワタルは一息つきながら縁側に腰を下ろした。その光景は、さながら老人のそれとなんら変わりないものである。

 とそこに、ドーゲンが大声で叫びながら走ってきた。4人の視線が一斉にドーゲンに向けられる。

「おーい、ジョバンニのおっちゃんがいたぞ!」

「何、本当ですか!」

「ああ。ある部屋に隠し扉があったんだが、その奥にいた。ついてきてくれ」










「皆さん、助かりましたー。ありがとうございまーす」

「どういたしまして。それにしても、まさかおじさまの部屋の押し入れに、隠し部屋へつながる扉があったなんて」

 ジョバンニはサトウキビの部屋の隣にある部屋で捕われていた。サトウキビの部屋にある押し入れの壁に隠し扉があり、そこから入るという仕組みだ。現在、ジョバンニがいる部屋にはダルマを除く全員が集合している。部屋にはファイルが2つ無造作に置かれている。他に、食器や机、大量の書類に使い古された万年筆等、様々な品が整然としている。もっとも、整然としている割りには生活感がある。

 ジョバンニは発見時、目隠しをされた状態だった。久々に周りの風景を眺めていた彼は、ユミの言葉に思わず飛び上がる。

「まったくでーす……って、ちょっと待ってくださーい。この部屋の手前は彼の部屋なのですか!」

「そーだぜジョバンニのおっさん。自分の部屋の奥に部屋作るなんて、よっぽど見られたくないんだな。弟子はまるで気付いてなかったみたいだくどさ、部屋の広さと外からの幅で気付きそうなもんだけど」

「……なーるほど。彼がこの部屋を隠したがる理由もわからないではありませーん」

 ジョバンニはぽつりと呟いた。ワタルはその一言で目の色を変える。たまらず彼はジョバンニへ質問を投げかけた。

「ジョバンニさん、それはもしかして、サトウキビ氏が何者かわかったということですか?」

「ええ、彼の正体はキキョウに着いた夜に確信しました。皆さんにも話しておいた方が良いでしょう」









「そ、そんな馬鹿な……。そのようなトレーナーだったなんて」

「残念ながら事実でーす。彼から確認を取りましたからね」

 ジョバンニが一通り話し終えると、ワタルは言葉を失ってしまった。他の皆も困惑した表情を浮かべている。重い沈黙が場を包んだ。そのような状況で、ユミが口を開いた。

「……ところで、ダルマ様はまだいらっしゃらないのですか? お屋敷で合流というはずでしたのに」

「そういやいないな。あの馬鹿息子め、どこをほっつき歩いてやがるんだ」

「ダルマならラジオ塔だ」

 ふと、隠し扉の外から声が聞こえてきた。一同は声の方向に注目する。現れたのはすすけたカラシであった。足元はふらついているが、健在の様子だ。ワタルはカラシに近寄り、問い詰める。

「き、君はカラシ君じゃないか! 一体どこに行っていたんだ?」

「俺のことは気にしないでください、全てが終わったら話しますから。それよりダルマです。あいつはサトウキビのいるラジオ塔に突入しました、今頃は接触しているでしょう」

「何、たった1人でか! カラシ君、何故止めてくれなかったんだ?」

 ワタルは冷や汗を一筋流した。ドーゲンの顔からは徐々に血の気がなくなる。カラシは腰からボール4個を手に取り提示した。

「……あいつはただの素人だと思っていましたが、いつのまにか十分な強さを身につけましたからね。それに、俺の手持ちは全滅していたので止められなかったんですよ。それより、急いで応援に行った方が良いと思いますよ。万が一ということがあってはまずいでしょう」

「た、確かにそうだ。全員ラジオ塔に向かうぞ!」

 カラシに促され、ワタルは全員に指示を出した。7人のトレーナーは一路、ラジオ塔へと急ぐのであった。


・次回予告

あの人のもとにたどり着いたダルマは、最初で最後の対決をすることに。ポケモンリーグすら注目するその手腕は如何に。次回、第65話「最後の決戦前編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.45

ストーリーも残すところあと6〜7話。あとは純粋なバトルもの、エピローグのみ。

さて、物語で隠され続けた謎はなんだったでしょうか。そして、その謎が導く結末はいかに。いや、私の拙い文章ならもうバレバレかな。本当はまだまだ上手く隠すこともできるのでしょうが。

なお、第62話にて「あくびをバトンタッチして寝てしまうシーン」がありましたが、これは誤った情報でした。あくび状態のポケモンがバトンタッチしても後続は眠りません。既に記事の修正は行いましたが、読者に誤った知識を教え得る結果となってしまいました。この場を借りてお詫びいたします。


あつあ通信vol.45、編者あつあつおでん


  [No.723] 第65話「最後の決戦前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/16(Fri) 14:17:46   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ほう、遂にここまでやって来たか。手塩にかけて育てた弟子達を倒すとは、やはり俺の目に狂いはなかったな」

「……サトウキビさん」

 ラジオ塔の屋上に、追い求めた人はいた。屋上にあるのは小屋の形をした機械に周囲を照らす照明、追い求めたその人、サトウキビ。そしてダルマだけだ。天上では星々が状況を見守る。そうした中、まずダルマが尋ねた。

「まず先に教えてください。何故このような事件を起こしたのですか? 殺人に手を染め、俺達に濡れ衣を着せてまで実行に移したこの動乱の目的を」

「……そんなこたあ、お前さんが知る必要は断じてない。どうとでも判断するが良い」

 サトウキビは腕組みしながら飄々と受け答えした。相変わらず手ぬぐいを頭に巻き、サングラスで素顔を隠している。ダルマはそんなサトウキビに対して食い下がる。

「そ、それはあんまりですよ! せめて何があったくらい説明してくれても良いじゃないですか」

「ふん、知ったところでどうするつもりだ? ゴシップ紙にでも情報を売りに行くか? あるいは俺を揺するか? 所詮庶民なんざ、知っててもろくな行動を取らねえ奴らだからな。そう易々と教えられるか」

「な、それはどういうことですか?」

 サトウキビの発言に、思わずダルマは首をかしげた。サトウキビの口から刺のある言葉が徐々にあふれ出てくる。拳を握りしめ、歯ぎしりの音はダルマの耳に届くほどだ。だが、勿論この程度で終わるサトウキビではない。次から次へと飛び込んでくる。

「……お前さんも分かっているとは思うが、フスベの発電所を奪還された時点で俺達が使える電力は限られていた。だから怪電波は重要拠点を除き止め、節電に努めた」

「え、洗脳に使う電波は止めていたのですか? しかし、がらん堂に対する反対運動が起こったなんてまるで聞きませんよ。……もしや、情報統制でもしてるのですか?」

 ダルマはこの不意打ちに目を丸くした。サトウキビはしてやったりと言わんばかりに鼻で笑う。サトウキビの意図が掴めないダルマは困惑の色を浮かべるばかりである。

「残念ながら外れだ。俺達がそんなことしなくても、反乱は全く起こらなかったからな。ただ一部、お前さん達を除けば」

「反乱が……起きなかった?」

「そうさ。正気を取り戻し、事情を察した庶民の取った行動は何だったか? それは、無関心だ。自分達は厄介事に巻き込まれたくないと、知らんぷりしたのさ。なんとも情けねえ話だ。こういう奴らに限って、人の粗を知っては喜びやがる。ま、こちらからすれば有り難い話だがな」

 サトウキビは執拗なまでに悪態をついた。これが本来のサトウキビという男であると勘ぐってしまうほどの勢いである。これには星達も聞きかねたのか姿をくらまし、空は絵の具で塗ったような真っ黒になった。そんな彼の話が一段落すると、ダルマは静かに、しかし力強く口を開いた。

「……あなたが一般人を敵視するのはよく分かりました。しかし、それでこのようなことが許されるはずないでしょう!」

「はっ、甘いな。元より許されないことなのは承知している。それでも自分のケツくらい自分で拭いてやる。だが……もうこんなしみったれたことをやる理由はねえな」

「え、それはどういう……」

 サトウキビはダルマの問いかけを無視し、腰に装備しているボールに手を取った。それから彼は鬼気迫る迫力でダルマを促す。

「勝負だ、ダルマ。俺を止めたいのなら力を示してみろ。がらん堂を打ち破ったその力……最後に確かめさせてもらうぜ」

「の、望むところですよ! 絶対にあなたを倒してみせる!」

 ダルマもボールを持った。そして、2人同時に最初の1匹を繰り出すのであった。最後の決戦の始まりである。



・次回予告

ダルマとサトウキビ、一世一代の大勝負が幕を開けた。互いに自分の形に持ち込もうと駆け引きを繰り広げるが、ある技で戦況が大きく変わるのであった。次回、第66話「最後の決戦中編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.46

以前も書きましたが、サトウキビさんは私の理想とするナイスミドルとなっております。本人の実力もさることながら、若い人を積極的に登用。不可能という言葉を破壊するほど働き、人情に厚い。風情も解す。こんな人が本当にいたらかなり慕われると思います。私もそのようになれるよう、精進しないといけませんね。


あつあ通信vol.46、編者あつあつおでん


  [No.727] 第66話「最後の決戦中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/18(Sun) 16:51:36   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「まずはスピアーか。相性はこちらが有利だな」

「えーっと、あれはフォレトスだっけ? 珍しいポケモンだからよくわからないぞ」

 ダルマの先発はお馴染みスピアー、サトウキビの1番手は殻のようなものを装備したポケモン、フォレトスである。ダルマは早速図鑑を開いた。フォレトスはクヌギダマの進化形で、非常に高い物理耐久を持つ。タイプや特性も中々優秀で、主に場を整えるために使われる。

 ダルマは深呼吸をすると、スピアーに指示を出した。

「まずはこちらから、おいかぜ!」

「フォレトス、ステルスロックだ」

 スピアーは手慣れた手つきで踊った。ラジオ塔の上空で、にわかに風が吹き始める。一方フォレトスは尖った岩を数個、スピアーの近くに飛ばした。岩は空中に浮遊し、スピアーの飛行を妨げる。

「い、岩が浮いてる。暗いのもあるけど、見にくいな」

「……さてさて、次はどうする。まさか、風吹かしただけじゃねえよな?」

「勿論。スピアー、とんぼがえり!」

 スピアーはフォレトスに接近し、右腕の針で突ついた。それと同時にダルマの元に逃げ帰る。

「とんぼがえりたあ良い技持ってやがる。フォレトス、重力を強くしろ」

 サトウキビが手を上げた。フォレトスは軽くジャンプして床を叩く。すると、明らかにおかしなことが起こった。ダルマはスピアーの代わりのポケモンのボールを投げたのだが、そのボールの軌道が下に押し曲げられたのだ。おかげでロコンはダルマの付近から飛び出した。なお、ロコンにはステルスロックが刺さってダメージを受けている。ダルマ自身も体を支えられず、地べたを這いながら叫ぶ。

「うぐぐ、一体何が起こってるんだ!」

「……これこそ昔俺が流行らせ、そして今では俺しか使えない戦術、重力パーティだ。トレーナーすら巻き込む重力で技の命中を上げ、飛ぶ者すら逃がさない。これが何を意味するかわかれば大したものだが」

「は、はあ。いまいちぴんとこないな。まあいいか、ロコン、これを使え!」

 重力が強まったにもかかわらず平然としているサトウキビに驚きながら、ダルマは赤い石をロコンに投げつけた。石がロコンに当たると、急にロコンの体が光に包まれる。しばらくして光が収まると、そこには9本の尻尾を持つポケモンがいた。サトウキビはこれに対し、淡々と分析を進める。

「このタイミングで進化か。この天気、さてはひでりキュウコンだな。そんなポケモンまで用意してたとは、心意気が伝わってくるぜ」

「当然ですよ。キュウコン、だいもんじ!」

 ダルマはひざまずきながら威勢を上げた。それに応えるかの如くキュウコンは辺りを晴れさせ、大の字の炎を撃った。重力下ではサトウキビのポケモンとて動きが鈍る。フォレトスは直撃を食らい、黒焦げになってしまった。サトウキビは顔色1つ変えずにフォレトスをボールに戻す。

「ふっ、やってくれる。この間までただの原石だと思ったが」

「頑丈はとんぼがえりで無効化し、だいもんじの命中は重力で補う。俺も成長したということですよ」

「そのようだな。まあ、それでも俺の足元にも及ばないだろうが。さあ行くぜスターミー、久々に本気で戦えるぞ」

 サトウキビは笑いながら2匹目のポケモンを繰り出した。出てきたのは、2つの星を重ねたようなポケモンである。後ろの星は回転し、前の星にあるコアが点滅している。

「スターミーか、かなり速いポケモンだよな」

 ダルマは図鑑を眺めた。スターミーはヒトデマンの進化形で、水タイプでは最も速い。その技と能力の都合上、何年経っても昔の型が通用する。それゆえ生きた化石と言われることも。勿論、耐久型やサポートもこなせる。いれば頼れるポケモンであることは確かだ。

「スターミーとはいえ、おいかぜが吹いてる今ならどうってことはないさ。キュウコン、ソーラービーム!」

「んなもの効くか、ハイドロポンプだ」

 キュウコンは周りの光を集め、スターミーに発射した。それに差し違える形でスターミーも大量の水を噴射する。ハイドロポンプは天気の影響か、やや効き目が悪い。お互いまともに当たり、肩で息をしている。ここで、スターミーは懐からオボンの実を取り出して食べた。

 そんな中、ダルマに吹いていたおいかぜがそよ風になり、やがて無風状態になった。ダルマの額からは冷や冷や汗が流れてくる。

「やば、おいかぜが……」

「どうやら、手品のネタが切れたみたいだな。重力はまだ強い、雷でとどめだ」

 おいかぜがなくなったことで素早さが逆転、スターミーが先手を取った。スターミーは雲もないのに雷を降らした。晴れているとはいえ、重力下なら高い命中である。キュウコンは避けきれず帯電し、そのまま力尽きた。

「キュウコン!」

「……おいかぜは止み、ひでり持ちのポケモンもやられた。これで天気を変えられたらどうなることやら」

「ま、まさか!」

「さあ、どうだかな。それより早く次のポケモンを出せ」

「む、むう。カモネギ、仕留めるぞ!」

 ダルマは顔を強ばらせながら3匹目のポケモンを投入した。現れたカモネギは岩が食い込むのもお構い無く、茎を軽く研いだ。ダルマはスターミーを指差し、腹から声を出す。

「フェイント攻撃!」

「やれやれ、随分安直な動きだ。戻れスターミー、逃がすなソーナンス」

 サトウキビは呆れた様子でスターミーを回収、後続を送り出した。そのポケモンは黒い尻尾を隠すのに必死である。カモネギのフェイントはこのポケモンの頭をはたく程度で終わった。

「ソーナンス……げぇっ、しまった!」

 ダルマの顔色がモスグリーンになった。彼は恐る恐る図鑑に目を通す。ソーナンスはソーナノの進化形で、かなり特殊な戦い方を強いられる。特性の影踏みは相手のポケモン交換ができないという極悪性能で、苦手な相手に繰り出し強引に倒すことができる。その他、サポートとしても非常に優秀である。

「どうした、攻撃しないのか?」

「く、くそー。こうなりゃ自棄だ、アクロバット!」

 サトウキビの挑発に、ダルマは渋々乗った。カモネギは回転しながらソーナンスに迫る。サトウキビは余裕綽々な表情でソーナンスに声をかけた。

「来たぜソーナンス、カウンターだ」

 カモネギは回転の力を利用して軽やかに茎で叩いた。ソーナンスは攻撃を受けてから頭を後ろに反らし、反動でカモネギを弾いた。カモネギは重力を無視して吹き飛ばされ、ダルマの目の前で倒れた。ダルマは眉をへの字に曲げてカモネギをボールに収める。ちょうどこの時、重力が弱まりダルマは立ち上がった。

「うう、やはり駄目だったか」

「……そうなんだよ、俺に勝てる奴なんざこのジョウトにはいない。何故なら俺は……いや、これは言わないでおこう。さっさと次のポケモンを見せてくれよ」

「な、なんだ、あの含みのある一言は。……考えても仕方ない、今は勝利にのみ集中だ。いくぞ、こいつが俺のエースだ!」

 ダルマはサトウキビの発言に首をかしげながら、4匹目のポケモンに次を託すのであった。最後の決戦はまだまだ終わらない。



・次回予告

サトウキビが操る重力パーティの前に、ダルマは劣勢に立たされる。このピンチを救ったのはやはりあのポケモンであった。そして、決着は如何に。次回、第67話「最後の決戦後編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.47

サトウキビさんのイラストを描いてみたのですが、現在ツイッターのアイコンに使用しています。興味のある方は見ておくと良いかも。

ダメージ計算はレベル50、6V、フォレトス腕白HP防御振り、スピアー陽気攻撃素早振り、キュウコン臆病特攻素早振り、スターミー臆病特攻素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、ソーナンス穏やか特防素早振り。キュウコンの大文字でフォレトス確定1発。頑丈もとんぼ返りで潰せます。キュウコンのソーラービームをスターミーは乱数で耐え、スターミーの晴れハイドロポンプをキュウコンはステルスロック込みで確定で耐えます。このターンで追い風が切れ、スターミーの雷でキュウコン瀕死。カモネギのフェイントとアクロバットをソーナンスは余裕で耐え、返しのカウンターで一撃。


あつあ通信vol.47、編者あつあつおでん


  [No.728] 第67話「最後の決戦後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/19(Mon) 11:26:47   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「なんだ、まだアリゲイツのままか。大成しないのは持ち主と一緒か」

「むむ、それはどうですかね。俺もこいつも着実に成長してますよ」

 ダルマの4匹目のポケモンはアリゲイツだ。頭のとさかも今晩はよくとがっている。晴れているせいか、そこまで元気というわけではなさそうだ。

「……んなもんどうでも良い。大事なのは勝敗だ。ソーナンス、カウンターだ」

「隙あり、つるぎのまい!」

 勝負が再び動きだした。ソーナンスは先程のように頭を反らし、アリゲイツの攻撃に備える。しかしアリゲイツはソーナンスを尻目に戦いの踊りを舞った。その結果、アリゲイツからやる気がみなぎってきた。サトウキビは舌打ちしながら次の手を考える。

「ちっ、読み外したか。俺も衰えたものだ」

「アリゲイツ、冷凍パンチだ!」

 ここでアリゲイツは右腕に冷気をため込み、ソーナンスを殴りつけた。カモネギの攻撃でダメージを受けていたこともあり、ソーナンスは苦渋の表情でこらえている。だが健闘むなしくも倒れこんでしまった。

「……2匹やられたか。ソーナンスがやられた以上、こいつも仕事がなくなったな。行くぜダグトリオ」

 サトウキビはソーナンスをボールに戻し、4匹目のポケモンを繰り出した。頭を3つ持ち、床に穴を開けている。

「な、なんだあれは。床に穴掘ってるぞ」

 ダルマは図鑑をチェックした。ダグトリオはディグダの進化形で、驚異的な素早さを持つ。特性のありじごくはポケモン交換を封じる厄介なもので、地面タイプという都合上電気タイプを狩るのが得意だ。ある技を用いればダグトリオ1匹で全てのポケモンを倒すことも可能である。ダルマはアリゲイツに指示を出した。

「地面タイプか、ならあれが効くな。アリゲイツ、新技アクアジェットだ!」

「甘いな、ふいうちを食らえ」

 先手を取ったのはダグトリオだ。ダグトリオはアリゲイツの死角まで床下を移動し、そこから頭で突いた。一方アリゲイツは体中に水をまとい、高速でダグトリオに体当たりした。ダグトリオは潜ってやり過ごそうとしたが、間に合わない。その一撃でのびてしまった。サトウキビは感心しながらダグトリオをボールに回収する。

「晴れ状態の水タイプの技で一撃か。さすがに予想外だぜ」

「よし、やっと4対3に持ち込んだ。これで……あ、アリゲイツ?」

 突然、アリゲイツからまばゆい光が溢れてきた。光に覆われたシルエットはみるみるうちに大きくなり、光が収まった時には別のポケモンがいた。アリゲイツより一回りは大きく、手足や尻尾は太くなっている。ダルマは感慨深くそれを眺めた。

「ふん、またしても進化しやがったか。どこまでも悪運の強い奴め」

「……アリゲイツ、やっとオーダイルになったな。さあサトウキビさん、これで俺には百戦錬磨の相棒が揃いましたよ。どんなに追い込まれようと、必ず俺は勝ちます!」

「……その言葉に二言がないのを望むばかりだ。スターミー、もう一息頼むぜ」

 サトウキビは1度引いたスターミーをもう1度送り出した。キュウコンの攻撃の影響か、本調子とは程遠い様子である。ダルマは自信満々にオーダイルに命令した。

「アクアジェットで仕留めるんだ!」

「それくらい耐える、重力を強くしろ」

 機先を制したのはオーダイルだ。動きの鈍いスターミーに猛スピードで突っ込む。スターミーも負けじと辺りの重力を強くした。ダルマやオーダイルは体が重くなったが、その勢いはもう止められない。

「くそ、まだ倒れないか。オーダイル、今度こそ決めろ!」

 オーダイルは続けざまにアクアジェットを使い、ようやくスターミーをダウンさせた。サトウキビはスターミーをボールに収め、5匹目のボールに語りかける。

「あと2匹。このようなポケモンにこうも押されるとは。だがこいつの前ではそれも無意味……出番だカイリュー!」

 サトウキビが全身全霊で投げ込んだボールから出てきたのは、ダルマもよく知るあのポケモンだった。ダルマは思わず後ずさりする。

「か、カイリューだって!」

 ダルマは伏せながら図鑑を見た。カイリューはハクリューの進化形で、攻守にわたり高い能力を備える。素早さが控えめなのが玉に瑕だが、それを補い余りある程の技レパートリーがあり、どんな戦い方もできる。

「食らいな、ぼうふう攻撃」

「負けるなオーダイル、必殺冷凍パンチ!」

 カイリューが先に動いた。背中にある翼で、嵐を思わせる暴風を発生させたのだ。オーダイルは重力と暴風に悩まされながらも着実に前進し、なんとかカイリューに迫る。そして冷凍パンチをたたき込んだ。カイリューはそのまま倒れ……なかった。驚くべきことに、冷や汗こそ流しているがまだカイリューは戦える様子だ。

「ど、どうなってるんだ。つるぎのまいを使って弱点の冷凍パンチを放ったというのに、倒れないだと……」

「……ふははははは。これぞカイリューの特性、マルチスケイルの為せる力だ」

「マルチスケイル? 聞いたことないぞそんな特性」

 ダルマは不測の事態に困惑を隠せない。サトウキビは勝ち誇った表情でダルマに説明した。

「おやおや、不勉強な奴め。マルチスケイルは、体力が満タンの時受けた技のダメージを減らす特性だ。大概のドラゴンタイプは低威力の氷技でも致命傷となるが、これがあればそのようなことは起こらない。……これで分かっただろう、お前さんは俺には勝てねえのさ! しんそくを使え!」

 カイリューは目にも止まらぬ速さで回転しながら、オーダイルの懐をドリルのようにえぐった。連戦によるダメージがたたり、オーダイルは気絶した。ダルマは思い切り叫ぶ。

「う、うおおおおおおおおおおおお! オーダイルううう!」

「さて、後の3匹は何が出てくるんだ? 骨のあるポケモンなら助かるのだがな」

 サトウキビは余裕綽々という言葉を体現したような状態である。ダルマは4匹目のボールを見つめ、手に力を込めた。

「……スピアー、お前に全てを託す!」

 ダルマは再度スピアーを投入した。出てきた途端ステルスロックが刺さり、痛々しい。

「はっ、遂に万策尽きたか。しんそくで倒すんだ」

「まだまだ、おいかぜを呼べ!」

 カイリューはオーダイルの時と同じくスピアーにしんそくで襲いかかった。スピアーは両腕の針でしのぎながら、今一度おいかぜを発生させた。それと入れ代わりに重力が弱まる。

「耐えやがったか、だが同じこと。もう1度しんそく」

 おいかぜを使って満身創痍のスピアーに、カイリューはしんそくでとどめを刺した。力なく落ちたスピアーをダルマは引っ込める。

「……スピアー、助かった。お前が体を張って呼び込んだおいかぜ、無駄にはしない。勝つぞキマワリ!」

 ダルマは5匹目のポケモン、キマワリに全てを託した。こだわりメガネをかけたキマワリは今宵も煙たい。ここで、サトウキビが初めて意表を突かれた顔になる。

「馬鹿な、キマワリだと! 晴れを使うのはキュウコンだけじゃなかったのか!」

「その通り。これが俺のやり方、おいかぜ晴れパですよ! キマワリ、ソーラービームだ!」

「なんの、しんそく!」

 キマワリより先にカイリューがしんそくを決めた。キマワリはそれを余裕で耐え、太陽光線でカイリューを丸焼きにした。草タイプはカイリューに相性がすこぶる悪いものの、オーダイルが与えたダメージを合わせれば突破できる。強敵カイリューが地響きを鳴らしながら地に伏せた。

「……カイリューがやられたか。残るは1匹、向こうにはおいかぜ。それでも俺はふてぶてしく笑ってやるぜ。ニョロボン、これが最後だ!」

 サトウキビはカイリューと入れ替えで最後のボールを投げた。現れたのは渦巻き模様のあるポケモンである。

「こ、これがサトウキビさんの6匹目か。一体何をする気だ」

 ダルマは慎重に図鑑で調べた。ニョロボンはニョロゾの進化形で、珍しい水と格闘の組み合わせである。攻撃範囲が広い上、物理と特殊の判別がつきにくい。尚、とある理由で分岐進化のニョロトノの使用率が高いため、相対的にニョロボンの使用率は低い。

 ダルマは図鑑をポケットに入れると、最後の指示を送った。

「勝利はもらった、ソーラービーム!」

 キマワリはニョロボンに狙いを定め、光の束を集めた。そして、それをまとめて発射。ソーラービームはニョロボンはおろかサトウキビをも飲み込む。周囲が真っ昼間の如く輝く中、サトウキビの笑い声のみが響くのであった。

「……ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 全く、やってくれるぜ。まさか、この俺を超えるトレーナーが出てきたとはな。20年も経つと時代は変わるというわけか……」


・次回予告

サトウキビとの決着がついた直後、ジョバンニ達が駆けつけた。そこでダルマはサトウキビの正体を知らされる。あまりに衝撃的な事実に、ダルマは動揺を隠せないのであった。次回、第68話「真相はサングラスの奥に」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.48

この勝負、ソーナンスがカウンターをミスった時がターニングポイントでしたね。なんだかんだでアリゲイツは体面を保ったわけです。

ダメージ計算は、アリゲイツ意地っ張りHP攻撃振り、ダグトリオ陽気攻撃素早振り、カイリュー控えめHP特攻振り、キマワリ臆病特攻素早振り、ニョロボン意地っ張りHP攻撃振り。剣の舞を使ったアリゲイツの冷凍パンチでダメージの蓄積したソーナンスをギリギリ乱数で倒せます。更にダグトリオの不意討ちを余裕で耐え、晴れ状態のアクアジェットでダグトリオを乱数1発。オボンを使ったスターミーに晴れアクアジェット2回で乱数で倒せます。カイリューの暴風は、アリゲイツの時に受けたステルスロックと不意討ちのダメージと合わせても乱数。返しの冷凍パンチはなんと乱数で耐えられ、神速で押し切られます。カイリューの神速とステルスロックのダメージをスピアーは耐えぬき、切り札キマワリのソーラービームで、オーダイルの冷凍パンチが最低乱数でもカイリューを寄り切ります。あとはニョロボンをソーラービームで焼き切るのみ。さすが太陽神、初登場から未だ無敗だぜ!


あつあ通信vol.48、編者あつあつおでん


  [No.729] 第68話「真相はサングラスの奥に」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/20(Tue) 18:06:25   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ダルマー、大丈夫か!」

「ダルマ様!」

「ユミにゴロウ! それにみんなも……」

 決着がついた直後、ユミやゴロウ達がダルマの元に駆け寄ってきた。サトウキビは全てを察したように呟く。

「全員お揃いといったところか。ジョバンニがいるということは、屋敷も全滅だな」

「……もうやめるのでーす、トウサ。あなたの計画は全て失敗しました、これ以上戦う理由はありませーん」

「それはどうかな。がらん堂は滅びない、何度でも蘇るさ」

「と、トウサ? ジョバンニさん、あの人の名前はサトウキビですよ!」

 ダルマは、サトウキビとジョバンニの会話にまるでついていけてない。ジョバンニは手を軽く叩いた。

「おっと失礼、ダルマ君にはまだ説明してませんでしたねー。では改めて……」

「待った、そこからは俺自身が教えてやろう。俺を超えていった褒美だ」

 ここでサトウキビが口を挟んだ。ジョバンニは口を閉じる。それから、サトウキビの説明が始まった。

「俺の本名はトウサ、元科学者だ。巷ではポケモンリーグ優勝者としても名が通っている」

「……な、な、な、なんだって! サトウキビさんの正体がトウサ……有り得ない! あんなに輝かしい経歴を持つ人が、何故そのように姿をくらます必要があるんですか!」

「ま、そう急かすな。今更逃げたりなんかしねえからな」

 サトウキビ、トウサは明後日の方向をぼんやりと眺めた。そのまま話を続ける。

「俺はジョバンニに勝ち、15でポケモンリーグの頂点に立った。だがそれを最後にトレーナーを止め、科学者になることを決めた」

「科学者? バトルの指導者やプロ選手になるならまだしも、随分突飛な選択だな。道具職人になった俺が言うのもあれだが」

 ドーゲンから質問が飛んできた。トウサは即座に返答する。

「簡単なことだ。俺達トレーナーは科学技術に頼りきりで、ついつい感謝を忘れがち。そこで科学に光を当てるため、科学者を志すようになったのだ。3年に及ぶ勉強の末、俺は研究を始められる程になった」

「ふむ、ジョバンニさんから聞いた話と同じだな。確かジョバンニさんはトウサさんに誘われたのでしたよね」

 ハンサムがジョバンニに尋ねた。ジョバンニは何度もうなずく。

「その通りでーす。彼の熱意は本物でしたから、私も乗ってみることにしたのでーす」

「……俺は通信についての研究、ジョバンニはポケモンの研究をした。そしてトレーナーを辞めてから8年が経った頃、俺達は今に残る発明を完成させた。ポケモン転送システムとタウリン等の薬だ」

「タウリンって、攻撃の基礎ポイントを上げる薬だよね? おじさんも、発売された時はびっくりしたよ」

 ボルトは腕組みしながら昔を思い出しているようだ。トウサは胸を張っている。

「物の構造やポケモンの修正に着目した俺は、データ化して遠方に送れることを発見した。ジョバンニは育て方によるポケモンの成長の差異に気付き、ある能力を重点的に伸ばす薬を開発。どちらも瞬く間に一大センセーショナルを巻き起こし、科学者がにわかに注目されるようになった。だが……」

「だが、どうしたのですか?」

 急にトウサの表情が暗くなった。ダルマは疑問に思ったのか、問いかける。

「厄介なことに注目されすぎた。事態を知ったスポンサーが『資金を少数の科学者に集中する』とハッパをかけたのも痛手だった。俺達は衆人環視の中での研究を強いられたのさ」

 トウサの顔にはしばらく苦々しさが出ていた。しかし、次の話題に移ると穏やかな顔つきになった。

「そんな俺にもいつしか後輩ができていた。ナズナという女で、電波の研究をしていた。メディアの対応に追われてうんざりした時に何度彼女に助けられたかわからねえ。互いに信頼しあい、最後には自他共に認めるコンビとなっていたのさ」

「最後には……?」

 ダルマは何気ない言葉を見逃さなかった。トウサもそれをわかっていたのか、詰まることなく語る。

「そうだ。10年前、ジョバンニの研究室で発生した爆発事故に巻き込まれて以来、彼女は行方不明になっている。恐らくもう生きてはないだろう。当然、メディアはこれに飛び付いた。当初こそ、論調は俺に同情的だったよ、『最愛の相方を失った敏腕科学者の悲しみは深い』ってな」

「……あの、それだけではよくわかりませんよ」

「まあ慌てるな。……事故が起こって数日、ある記事が新聞に載った。『爆発事故はトウサ氏の狂言だ。世間の同情を買ってスポンサーの援助を得ようと企んでいる』という内容だ。言うまでもなく俺には非難が集中。一般人は掌を返したように罵声や嫌がらせをしてきた。そうして、俺は表の世界から身を引いたのさ」

「……そんなことがあったなんて。ん、けど待ってくださいよ。では結局、今回の事件はいわゆる復讐というやつですか?」

 ダルマは冷や汗を流しながら確認した。トウサは首を縦に1回振ってそれに答える。

「ご名答。身分を隠した俺は人材を育成し、コガネ発展に尽力し、自らの研究とナズナの研究を続けた。何故か。俺を、トウサを死に追いやったカネナルキと庶民共、彼女を殺したジョバンニに一矢報いるためだったのさ!」

「ど、どうしてそこでジョバンニさんにカネナルキ市長の名前が出てくるんですか?」

「……鈍いな、もてねえぜ。カネナルキはあの記事を書いた記者だ。この記事で名を上げた奴は市長選に立候補、当選したのさ。奴もまさか、俺を昔記事のネタにした男だとは思わなかっただろうよ」

「で、では庶民に対する復讐とは?」

 ダルマに続いてユミも追求した。トウサは何かの作業をしながら吐き捨てる。

「……あの男が出任せの記事を書いた時、皆それに疑問を挟むことなく鵜呑みにした。もし誰か1人でも異議を唱えていれば、俺の未来は変わっていたかもしれねえ。長いものに遠慮なく巻かれる奴らにはほとほと呆れたぜ。だから洗脳電波で考えることを止めてもらった。こんな奴らに考えるなんて行為は贅沢だからな」

「私への復讐とはどういうことですかー?」

 ジョバンニは身に覚えのない素振りを見せた。その時、何かが切れた音がした。トウサが一気にまくしたてる。

「はっ、とぼけるのも大概にしろ。あの日、お前は彼女と研究室で会った。彼女を守れたのはお前しかいなかったのさジョバンニ! 仮にそれが無理でも、何故俺を擁護してくれなかった? 貴様もそこら辺の凡庸な奴らと同じだったというのか!」

「……それじゃあ、ジョバンニさんをさらったのは?」

「あれは単に俺の正体を隠そうとしただけだ。なかったことになるとはいえ、なるべく表沙汰にしたくはなかったからな。ジョバンニへの復讐は今から行う。俺の後ろを見な」

 トウサは自分の背後にある小屋のような機械を指差した。一同の視線はそこに集まる。機械には扉がついてあり、中に入ることができそうだ。扉には窓があり、中を覗ける仕組みとなっている。

「あれは数年前に俺が発明したタイムカプセルだ。例によって人を転送できるように改造してある。今から俺は過去に行き、ジョバンニを殺す。ダルマとのバトルで充電の時間を、今の話でポケモンを回復する時間を稼ぐことができた。最早誰も俺を止めることはできない」

「私を殺害ですって?」

 ジョバンニはさすがにのけぞってしまった。目の前で殺害宣言などされては無理もないが。

「そうだ。お前を殺し、あの事故をなかったことにする。そうすれば未来が変わり、今の状況も大きく変わる。お前さん達と会ったことも、市長の死もなかったことになる。もちろん、がらん堂の動乱もだ。ジョバンニの死と引き換えに、俺は失われた10年を取り戻す!」

 トウサは一目散に小屋、タイムカプセルに駆け込んだ。それからすぐにタイムカプセルは動きだし、トウサは姿を消した。ダルマは皆に向かってこう叫ぶと、自らもタイムカプセルに入り込むのであった。

「あ、待て! みんな、追いかけよう!」


・次回予告

タイムカプセルを使い、過去に行ったトウサを追うダルマ達。その先で目にしたものは。次回、第69話「10年の時を経て」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.49

12話から登場して67話まで、実に56話もの間謎だったサトウキビさんの素性がようやく判明しました。本来彼はジョバンニのみに復讐するつもりだったのですが、それだとジョウト地方の侵攻に必要性がなくなってしまいます。そこであのような不自然な理由が後付けされたというわけです。結果として風刺っぽくなったから、結果オーライでしょうか。ちなみに、サトウキビさんの本名がトウサなのは言及しましたが、作者としてはトウサと呼ぶことに違和感があります。ストーリーのほとんどでサトウキビと書いていたので、慣れちゃいました。

さて、次回は一体どうなってしまうのでしょう。ジョバンニの運命は、トウサの悲願は? 全てに答えが出る時、読者の皆様が息を呑むことを期待して、今日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。


あつあ通信vol.49、編者あつあつおでん


  [No.731] 第69話「10年の時を経て」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/21(Wed) 17:16:32   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「うーん、ここはどこだ?」

「ここは私が昔いた研究所ですねー。今のコガネ城にあたる場所で、川沿いにありまーす。私の研究室はまさに川の隣、穏やかな立地でーす」

 ダルマ達は気が付いたら別の場所にいた。清潔感溢れる廊下である。目の前に上面図があるが、それを見る限りここが研究所なのは疑いない。

「ここにサトウキビさんがいるはず。……もしかして、事故が起こる直前に殺害するのかも」

「だとしたらまずいですねー、事故の時間まであと3分しかありませーん」

 ジョバンニは冷や汗を流しながら腕時計を確認した。時刻は午後9時57分、夏でも外は真っ暗な時間だ。

「あと3分! ジョバンニさん、急いで研究室に案内してください」

「もちろんでーす、皆さんちいてきてくださーい」

 ダルマに急かされ、ジョバンニは小走りで廊下を進んだ。一同もそれについていく。やがて、「ジョバンニ研究室」と書かれたプレートを発見した。ジョバンニはこっそり扉を開けて忍び込んだ。

「つきましたー。トウサはあそこにいますね」

 ジョバンニは物陰に隠れながら辺りを見回した。ジョバンニの研究室はかなりごちゃごちゃしている。ポケモンの研究をしているだけあり大量のボールや書類が保管されている。棚やロッカーが所狭しに並び、本来なら公園程の広さの研究室も見通しが悪い。トウサはダルマ達から約10メートル離れた場所にいた。

「あ、あれが昔のジョバンニさんか。で、あの女性がナズナって人かな?」

「2人で何か話しているみたいですよ」

 ダルマとユミが棚の隙間から研究室の奥を眺めると、2人の男女がいた。1人はジョバンニだが、明らかに今と変わりない姿である。せいぜい違いは白衣を着ているくらいだ。彼の後ろには研究で使うであろう機械が鎮座しているが、「DANGER」と記されている。もう1人の女の子も白衣を着用している。黒髪で、15センチくらいのアーチを描くポニーテールだが、背中にまで毛先が届く。内側は深紅のTシャツに黒の短パンという装備だ。また、彼女の背後には開いた窓がある。過去のジョバンニは女の子に話しかけた。

「どうしたのですかナズナさーん。あなたが私と会ったのが知られたら、騒動になりますよー」

「わかってますよ、それくらい。今日は相談に来たんです」

「相談? お金の工面なら勘弁してくださいねー」

 過去のジョバンニはポケットから薄い財布を取り出して笑った。女の子、ナズナは膨れっ面しながら本題を切り出す。

「もう、真面目に聞いてくださいよ! ジョバンニさん、トウサさんと一緒に現役科学者を引退してくれませんか?」

「わ、私が彼と引退? どういうことですかー?」

「最近トウサさん、すごく疲れているみたいなんです。私、トウサさんには1度表舞台から退いてゆっくり研究に取り組んでほしいんですよ。でも1人で辞めたらなんて言われるか分からないから、ジョバンニさんも一緒なら良いかなあって思ったわけです」

「なーるほど。……それはそれで悪い話ではありませんねー。私も近頃の注目のされかたには辟易していました。1つ彼に提案するのも良いでしょう、のんびりした研究に戻るように」

 過去のジョバンニは何度も頷きながらメモを取った。ナズナは満足げな表情をする。

「ジョバンニさん、今の話は?」

「事実でーす。トウサがこのことを知らないのは当然ですねー、事故以来話す機会がありませんでしたから」

「あ、おじさまがボールからポケモンを!」

 ユミがトウサを指差した。皆の視線がトウサを捉える。彼はボールからスターミーを出し、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた。

「……あばよ、ジョバンニ。スターミー、ハイドロポンプ!」

「誰か止めてくださーい!」

「駄目だ、間に合わない!」

 今のジョバンニは天を仰ぎ、ダルマは頭を抱えた。2人とも状況をわきまえず絶叫である。スターミーのコアから螺旋状に回転した放水が放たれた。みるみるうちにジョバンニに水の槍が迫る。

「あ、危ない、ジョバンニさん!」

 ここで、事態にいち早く気付いたナズナが動いた。なんと過去のジョバンニを華奢な腕で突き飛ばし、身代わりとしてハイドロポンプを食らったのである。

「きゃあっ!」

 横から割り込む形となったので、彼女はハイドロポンプの勢いに弾かれる。そのまま開いた窓から外に放り出され、川に沈んだ。彼女の着水音が聞こえるのとほぼ同時に、ハイドロポンプが過去のジョバンニの奥にあった機械に命中。機械は煙を出し、火の手が上がった。

「な、なんだと……!」

 トウサは状況を理解したくないのか、歯ぎしりしながら目を手で覆った。その瞬間、トウサの姿が消えた。その光景を見届けると、ダルマ達も過去から現在に送還された。残された過去のジョバンニは燃え上がる機械にたまげると、一目散に窓から川に飛び込む。その直後、爆炎が研究室を包んだ。










「サトウキビさん、自分でナズナさんを……」

「……結果はどうあれ、彼自身の手で彼女に手をかけてしまったのですねー」

「おじさま……」

 現在に帰ってきたダルマ達は、1人呆然と立ちすくむトウサをじっと見つめていた。未来が変わった様子は見られない。過去に行く前と同じで、夜風が気持ち良い。

「……事実は小説より奇なりとは言うが、全くもってその通りだな。はは、ははははは……」

 トウサは一言、ぽつりと呟いた。次に膝をつき、かがんで床を右手で殴りつけた。右手の指の根元から血がにじんでくる。そして、街中に響く声をあげた。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉををををををををををををををををををををををををヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ! 済まねえナズナ! 俺のせいで、俺がいなければ……。ただ俺は運命を、困難を乗り越えようと……反吐が出るあの男の下でも働いてきたというのに……!」

 トウサの声が徐々に上ずってきた。真夜中のコガネに届く悲痛な叫び。ダルマ達は目を閉じうつむいた。

 それからいくらか経った頃、ジョバンニはトウサに近寄った。それから背中をさすり、トウサに語りかける。

「トウサ、彼女はあなたの攻撃を受けるまで、あなたのことを心配していました。その思いに応えるためにも、これまでの行いを償うのでーす」

「……罪を償う、か。今更抵抗する気はねえ、好きにしな。だがその前に1つやらせてくれ」

 トウサは立ち上がり、とぼとぼと歩いた。その先にあるのはポケギアである。おそらくトウサのものだろう。彼はそれを手に取ると、以前の力強い口調で話し始めた。

「勇敢なるがらん堂の諸君、塾長のサトウキビだ。よくこれまで耐えてきてくれた。ただ今をもって戦いの終了を宣言する。各自戦闘を切り上げ、速やかにコガネへ帰還するように。繰り返し放送する。がらん堂は負けた。コガネに戻って公の指示を待て。以上、今までありがとう」

 トウサは感謝の言葉で締めると、ポケギアを投げ捨てた。彼はダルマ達の方を向き、一礼した。

「お前さん達には世話になったな。このような結果になったとはいえ、真実に近付けた。特にダルマは、この俺を超えていったからにはポケモンリーグでも十分勝ち上がれるだろうよ。期待してるぜ」

「サトウキビさん、いやトウサさん……」

 ダルマは息を呑んだ。トウサは大きなため息をつくと、サングラスの下から光るものが滴り落ちてきた。

「……さて、ここで1つ問題だ。男が泣くのはいつだ?」

「え、男が泣く時? ……今ですか?」

「……最後まで鈍いな、俺に似てやがる」

 トウサは北を向くと、全力で走った。あまりに唐突な動きに、ダルマ達は対応できない。

「いいか、よく覚えとけ! 男が泣くのはっ! 全てが終わった時だっ!」

「トウサさん!」

「トウサ!」

「おじさま!」

 トウサはこう言い残すと、柵を越えて落下した。落下点は彼の相方が姿を消した川である。ダルマ達もすぐさま駆け寄り呼びかけた。それに対し、トウサは川に叩きつけられる音で答えるのであった。


・次回予告

がらん堂との戦いは終結した。ダルマ達は約束通りポケモンリーグの出場権を得たのである。向かうはセキエイ高原、ダルマ達はたどり着けるのか。次回、第70話「いざ、セキエイ高原へ」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.50

トウサという名前、私には珍しく由来があります。この3文字を並び替えると「サトウ」となります。サトウキビと縁ある名前なのです。サトウキビは江戸時代の日本をはじめ、カリブ海にアフリカ、南アメリカやヨーロッパを巻き込んだ悲しい歴史があります。それと重ね合わせた結果、サトウキビとトウサになったのです。並び替えたのは先読みされないようにするためですよ。


あつあ通信vol.50、編者あつあつおでん


  [No.733] 第70話「いざ、セキエイ高原へ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/22(Thu) 12:14:56   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「皆さん。今回のがらん堂討伐、ご苦労でした。結果は悲しいものでしたが、これで任務完了です」

 一夜明け、ダルマ達はコガネシティのポケモンセンターに集まっていた。がらん堂の崩壊した今、街は日常を取り戻したようである。当たり前のようにトレーナーがポケモンの回復を行い、トレーニングに励む。

「……ということは、俺達全員ポケモンリーグに参加でくると?」

「うん。ダルマ君にユミ君。カラシ君、ドーゲンさん、ボルトさん、ハンサムさん、ジョバンニさん、ゴロウ君。皆さんにこれを渡しておきます」

 ワタルは一同に紙を配った。それには「ワタル」という文字とカイリューが彫られた判子が押されている。また、「この書類を持つ者にポケモンリーグの出場権を与える」と書かれている。ダルマは目を通し、念のために確認した。

「あの、これは?」

「許可証だよ。これがあればチャンピオンロードに入れる。後は256人の1人に入れるように頑張ってね」

「ちょ、ちょっと待ってください。俺達の報酬は『ポケモンリーグの出場権』ですよ? これでもし出られなかったら……」

 ダルマは慌ててワタルに抗議した。しかしワタルは意に介さない様子である。

「ふふふ、その心配はいらないさ。今の君達なら十分やっていけるよ。僕の目から見ても分かるくらいにたくましくなったからね」

 ここで、カラシがワタルに近づいた。それから許可証をワタルに差し出した。表情はいつにも増して険しく、眉間にひびが入りそうな程だ。

「……ワタルさん、1つ言わせてくれ。俺は……」

「俺は?」

 ワタルが問い返した。カラシは踏ん切りがつかないのか、中々言いだせない。ここで、事情を察したダルマは助け船を出した。

「おいカラシ、恥ずかしがるなよ。カラシは報酬に現金も欲しいそうなんです。家族に送るとのことですよ」

「おい、余計なことを……!」

「なんだ、それくらいお安い御用さ。今は無理だけど、セキエイに来たら幾らか工面しよう。まずは500万円くらいかな?」

「そ、そんなにですか?」

 ダルマは目を丸くし桁を数えた。カラシも思わず唾を呑む。

「いや、むしろ安いくらいさ。発電所での活躍がなければ僕達の勝利はなかったわけだしね。後に正式な報酬を用意しとこう」

「なるほど。良かったな、カラシ」

「あ、ああ。……済まない、ありがとうございます」

 カラシはワタルに一礼した。ついでにダルマも頭を下げる。ワタルはダルマの行動に首を捻ったが、すぐに切り替えた。

「それじゃ、僕はそろそろセキエイに帰るよ、始末書をたっぷり書かないとね。ポケモンリーグで会えるのを楽しみにしてるよ」

 ワタルはそう言い残すと、手を振りながらポケモンセンターを出ていった。そして、カイリューにつかまり空へ飛び立つのであった。

「行ってしまったか。ふむ、俺達も一端家に戻った方が良さそうだな。ポケモンリーグまではまだ時間があるし、たまった仕事を片付けなくてはな」

「そうだな。私も1度本部に合流しておこう、給料日が近いものでね。またスロットでもやっておくとしよう」

「じゃあ僕は工場の掃除でもしておくよ。ポケモンリーグで知名度を上げて、今度こそレプリカボールを売らないと」

 ワタルの退出に釣られたように、ドーゲンにハンサム、ボルトも相次いでポケモンセンターを後にした。残ったのはゴロウ、ユミ、カラシ、ジョバンニ、ダルマである。その中で次に動いたのはジョバンニだった。

「私はがらん堂の屋敷を訪ねてみますかねー。私が捕らえられていた部屋にあった数々の品は、ナズナの遺品でした。がらん堂の生き残りに大事にするよう伝えとかないといけませーん」

 ジョバンニはこまのように高速で回転しながらがらん堂に向かった。道行く人々の度肝を抜いたのは言うまでもない。

「俺も行かせてもらうぜ。今回は礼をさせてもらうが、ポケモンリーグでは必ず勝ってみせる」

 残り4人となったところで、カラシもダルマ達にしばしの別れを告げた。遂にいつものトリオにまで解体されてしまった。

「みんな行っちゃったなあ。ゴロウとユミはどうする?」

 ダルマはぼんやりと2人に尋ねた。するとゴロウは荷物を手に取りダルマに宣戦布告をした。

「俺は1人で行くぜ。もうダルマに負けっぱなしの俺じゃないからな!」

「ふーん、強くなったようには見えないけどな」

「ふっふっふっ、脳ある鷹は爪を隠す。ポケモンリーグで泣いても知らねえからな!」

 ゴロウは上機嫌でその場を去っていった。ダルマはただ1人残ったユミに問いかける。

「ゴロウは1人か。ユミは俺と一緒に来る?」

「……ダルマ様、私はダルマ様のライバルです。がらん堂の件が終わった今、私達に馴れ合いは許されません」

 突然のお別れ宣言。ユミの瞳はバトルでもないのに燃えていた。ダルマはのけぞりながらもこれに対応する。

「え、だからと言っていきなり豹変しすぎじゃあ……」

「そのようなことはありません。ともかく、私も冒険家を志す者。1人でセキエイ高原に向かいます。それでは失礼します」

 ユミはダルマに背中を向けると、さっさと歩いていった。ダルマは半ば唖然としている。8人のグループは瞬く間に離散してしまったのである。

「おいおい、全員ばらばらかよ。仕方ない、大急ぎで家に帰るか。ワカバから東に進めばチャンピオンロードにたどり着くはずだ。いざ、セキエイ高原へ!」

 ダルマは気を取り直し意気込むと、リュックを背負いコガネシティを経つのであった。


・次回予告

数々の困難を乗り越え、ダルマはセキエイ高原に戻ってきた。一息ついた彼は様々な思いをめぐらす。次回、第71話「到着」。ダルマの明日はどっちだっ。







・あつあ通信vol.51

さて、いよいよポケモンリーグですね。本当に長かった。しかし本番はここからですよ。なんたって次回かその次からは、平均2〜3話使うバトルを何回も繰り広げますからね。がらん堂との勝負どころではありませんよ。まあ、全員既出のキャラ使いますし、あの人とあの人以外は楽でしょうか。展開考えるのは大変ですが。


あつあ通信vol.51、編者あつあつおでん


  [No.735] 第71話「到着」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/23(Fri) 14:56:16   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「や、やっと着いた……。チャンピオンロードを抜けてからも中々長いな」

 太陽が帰宅する頃、ダルマはセキエイ高原にあるポケモンリーグ本部前にいた。彼の後ろには数キロメートルに及ぶ道があり、さらに後ろには大きな洞窟がある。チャンピオンロードのことだ。ダルマは汗を拭いながら深呼吸をした。

「とにかく、受け付けをしないと」

 ダルマは本部の建物に入り、所定の受け付けに足を運んだ。

「すみません、ポケモンリーグの出場申し込みをしたいのですが、まだできますか?」

「ええ、できますよ。ではバッジを提出してください」

 ダルマは受け付けの男にワタルの許可証を見せた。受け付けは一瞬面食らった様子だったが、すぐに冷静さを取り戻す。

「こ、これはワタルさんの許可証ですか。……確かに確認しました。これで参加選手は255人目。それでは宿舎に案内するのでついてきてください」










「ここがあなたの部屋となります」

 宿舎の3階にある355号室。ダルマはこの部屋の前に案内された。他の部屋は既に埋まっているらしく、中から物音が聞こえてくる。しかし、廊下をうろつく人は全くいない。ダルマは首をかしげながらも部屋に入室する。

「今日から大会が終了するまで、大会の公平性を保つために他の選手との接触は禁じられます。あらかじめご了承ください。では、ごゆっくりどうぞ」

 受け付けはお辞儀をすると、静かに持ち場へ帰っていった。ダルマは荷物を置き、ベッドに腰かける。

「やれやれ、久々に屋根のある場所で眠れるぞ。コガネからセキエイまでの半月以上の道のり、恐ろしいものだったなあ」

 ダルマは外を眺めた。日はとっぷり落ち、藍色と紺色の微妙な色合いが空を染めている。彼は冷蔵庫からミックスオレを取り出し、喉を鳴らした。

「コガネからワカバに戻って挨拶回りしてたら、父さんはもう出発しただって。相変わらずせっかちだな」

 1人しかいない部屋でダルマは苦笑いした。この部屋にあるのはベッド、机、椅子、テレビ、風呂、パソコンだ。驚くことに、ポケモンを回復させる機械も完備している。これが、ここをポケモンリーグの宿舎だということを思い出させてくれる。

「ワカバからセキエイまでの道も中々手強かった。トレーナーの数も野生ポケモンも多いし、何より長い。最後の難関チャンピオンロードよりきつかったはずだよあれ。トレーナーがいないだけまだ楽だよ。しかし、俺で255人目ということは、まだ1人来る可能性があるのか。締切は今日までなんだけどなあ。そして明後日から1回戦、誰と戦うんだろ」

 ダルマは何気なしにテレビの電源を入れた。映画をやっている。1人の青年と老博士が時代を超えて大活躍するという内容だ。ダルマは今回の旅に思いをめぐらした。

「思えば、普通とはだいぶ違う旅だったよなあ。ゴロウやユミと出会ったところまではどこにでもいるトレーナーだった。けどトウサさんと知り合ってからは大変。乗ってる船を爆破されたり濡れ衣を着せられたり、しまいにはがらん堂の討伐をしてトウサさんの真実に迫った……。本当にこれで良かったのかな、もっと良い選択肢はなかったのか?」

 ダルマはしばし唸った。それから目を細める。彼の視界にポケモンリーグのトーナメント表が飛び込んできた。トーナメント表には名前の代わりに部屋番号が使われている。これを見てダルマは吹っ切れたのか、伸びをする。

「……うーん、悩んでも分からないものは分からない! それよりは今に集中だ。俺の試合はっと……げ、初日の第1試合かよ! こうしちゃいられない。さっさと寝て本番に備えないと」

 ダルマはトーナメント表をチェックして目を丸くした。ミックスオレを飲み干して歯を磨くと、おとなしく眠りにつくのであった。


・次回予告

待ちに待ったポケモンリーグ。1回戦第1試合はダルマの晴舞台となった。彼の前に立ちふさがるのは……。次回、第72話「ポケモンリーグ1回戦」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.52

チャンピオンロードなんてなかった。本当は書こうとは思ったのですが、宿舎の方が書きたくなったのでこんな話に。今考えると、ダルマはポケモンリーグに出場するために旅立ったんですよね。書き始める前から流れは決まってましたが、まさかがらん堂にここまで話を割くとは思いませんでした。

さて、いよいよ次回からポケモンリーグ1回戦。未だ対戦相手の候補がいないですが、なんとかなりますよね。またダメージ計算で文量が減るとは思いますが、ご容赦ください。

ちなみに、作中の映画、皆さんわかりましたか? 正解は「バックトゥーザフューチャー」でした。


あつあ通信vol.52、編者あつあつおでん


  [No.739] 第72話「ポケモンリーグ1回戦第1試合」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/24(Sat) 13:07:01   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さあ、ポケモンリーグ本選がいよいよ始まります。各地のジムを攻略するという形で予選が行われ、256人の精鋭が勝ち残りました。全国中継される中、彼らは常に注目されています。スカウトもあちこちにいるはずです。果たして今回の優勝に輝くトレーナーは誰なのでしょうか? では1回戦第1試合に出場するトレーナー2人の入場です!」

「……行くぜ、俺達の檜舞台に!」

 実況の声に促され、ダルマは戦いの舞台に乗り込んだ。セキエイ高原のスタジアムは超満員だ。皆全国からの猛者を今か今かと首を長くしている。スタジアムには巨大モニターがあり、半分をトーナメント表が占めている。観客には困ったことに、トーナメント表には今から行う試合、つまり1回戦第1試合の組み合わせしか表示されていない。

「1回戦からダルマ君とか。これは気が抜けないなあ」

「……な、な、何故ワタルさんがいるんですか!」

 トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマはトーナメント表と目の前にいる人物を何度も見比べ、目を点にした。彼の対戦相手はワタルである。ワタルはいつものように時代錯誤甚だしい服装で立ちふさがる。

「実はね、チャンピオンロードを突破して受け付けをしたのが255人しかいなかったんだ。そこで最後の1人の代役として、現チャンピオンの僕が参加することになったのさ」

「……次の大会は128人に戻した方が良いかもしれませんね」

「全くだよ。それじゃ、そろそろ始めようか」

 ワタルはボールを手に持つと、審判に目配せをした。審判はそれに気付くと、試合開始の号令をかける。

「これより、ポケモンリーグ本選1回戦第1試合を始めます。対戦者はワタル、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」

「ギャラドス、出番だ!」
「ゆけ、オーダイル!」

 ワタルとダルマは同時にポケモンを繰り出した。ダルマの初手はオーダイル、ワタルはギャラドスである。バトルに使うフィールドは角張った岩石がそこら辺にある、荒れたものだ。

「さあ、バトルが始まりました。ワタル選手の1番手はギャラドス、ダルマ選手はオーダイルだ。レベルはどちらも50ですね。尚、選手のポケモンには専用のチップが取りつけてあり、強さの目安をレベルとしてモニターに表示しています」

 実況の説明でテレビカメラがモニターを捉えた。トーナメント表の右隣に選手名、残りポケモン、現在戦うポケモンのレベルが映されている。しかし勝負に影響するのか、さすがに能力は一切分からない。

「まずは竜の舞いだ!」

「ならばこちらはつるぎのまい!」

 そうこうするうちにバトルが動きだした。オーダイルは戦いの舞いを踊り、ギャラドスは跳ねる。ギャラドスの竜の舞いはコイキングのはねるに匹敵する程間抜けな様子だ。観客席から爆笑が巻き起こる。

「先制攻撃だ、地震!」

「負けるな、いわなだれ!」

 能力を上げた後は、両者攻撃に移る。まずギャラドスが尻尾で地面を叩き、地を這う波を一直線に飛ばした。それに対しオーダイルは懐からオボンの実を取り出し、腹ごしらえ。そして周囲の岩という岩をギャラドスに投げつけた。ギャラドスは6.5メートルもの巨体である。次々に襲いかかる砲弾にたまらず気絶した。これがまた観客席のツボを刺激する。

「……ギャラドス戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「おーっと、ここで大波乱だ! 緒戦を制したのはダルマ選手、ワタル選手を力で押し切りました!」

「くっ、さすがに元チャンピオンに勝つだけのことはある。けど、これならどうかな? カイリュー!」

 ワタルはギャラドスを引っ込めると、2匹目を場に送り出した。現れたのは、色々な意味で彼の象徴と言えるカイリューである。

「ワタル選手、2匹目に投入したのは切り札のカイリュー。ここを勝負所と判断したのでしょうか」

「これ以上好きにはさせないよ、竜星群!」

 カイリューは出てきて早々勝負にきた。スタジアム中に響く咆哮をあげると、空から火のついた岩石が雨のように降り注いだ。狙われたオーダイルは何発も受けるが、すんでのところで踏みとどまった。とはいえ、肩で呼吸をする程ダメージが蓄積しているようである。

「……よし、よく耐えた。返しの冷凍パンチ!」

 カイリューの攻撃をしのいだオーダイルは、カイリューに捨て身で近づき冷気を込めた右手拳を腹に差し込んだ。カイリューの顔色はみるみる青くなり、歯をがたがたさせながら倒れた。これにはワタルも叫ばずにはいられない。

「カイリュー!」

「……カイリュー戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「ななな、なんということでしょう。現チャンピオンのワタル選手、オーダイルの前に2匹を落としてしまいました! ダルマ選手、あと1匹倒せば1回戦勝利となります」

 さっきまで笑い声の絶えない観客席だったが、ここにきて静まり返った。ダルマは不敵な笑みを浮かべながらワタルの3匹目を待ち構える。

「へへ、マルチスケイルじゃなかったらカイリューだって一撃ですよ」

「ま、まさか立て続けにやられるとは。……最後の1匹、ダルマ君の控えを考えるとこいつかな。プテラ、任せたぞ!」

 ワタルは祈るように最後のボールを投じた。甲高い鳴き声と一緒にプテラが空中を舞う。

「ワタル選手、最後のポケモンはプテラです。このポケモンに全てを託します」

 ダルマはそっと図鑑をチェックした。プテラは化石から蘇ったポケモンで、ポケモン全体でも屈指の素早さを持つ。決定力自体は大したことないが、先手でステルスロックを撒くなどの仕事をこなす。稀ではあるが、寝言でふきとばしと吠えるを引き、まきびし等のダメージを稼ぐ戦い方もある。

「プテラ、ストーン……」

「隙あり、アクアジェットで終わりだ!」

 プテラが技を使う前に、ダルマは素早く指示を出した。オーダイルは全身に水をまとい、弾丸としてプテラに突進。激流の如し攻撃でプテラの体力を削りきり、何もさせずにダウンさせた。スタジアムがしばし沈黙に包まれる。

「……プテラ戦闘不能、オーダイルの勝ち! よって1回戦第1試合の勝者はダルマ選手!」

「よっしゃ、まずは1回戦突破だ!」

「これは現実なのでしょうか……。現チャンピオンのワタル選手が無名のトレーナーにストレート負け。ダルマ選手、もしかしたら彼は今大会のダークホースかもしれません」

 審判のジャッジが下ると、観客席はどよめいた。実況もスタジアムやテレビに驚きを隠せないようだ。実況の戸惑いがスピーカーを通じて聞こえてくる。

 そんな中、ガッツポーズを取っていたダルマにワタルが近寄ってきた。

「さすがだね、ダルマ君。やはり初めてセキエイに来た頃より格段と強くなってたよ」

「いやあ、それほどでも。……けどこうなれたのは、今思えばワタルさんががらん堂討伐に誘ってくれたからです。ついでにコガネからの救助も助かりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。……僕に勝ったことで注目度が増すとは思うけど、2回戦も頑張ってね。君なら優勝できるさ」

「はい!」

 ダルマとワタルはがっちり握手を交わした。この姿を撮ろうと、テレビカメラはもちろんカメラが一斉にスタジアム中央を狙う。カメラのフラッシュはしばらく途切れることはないのであった。



・次回予告

観客から見れば大番狂わせとなった1回戦第1試合。これを制したダルマは、勢いそのままに次の試合に臨むのであった。次回、第73話「ポケモンリーグ2回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.53

ドラクエモンスターズというゲームを昔やってた時、モンスターの性格を変えるために「冒険談」のようなアイテムを使っていました。このようなアイテムがポケモンでもあれば良いなあとは思うのですよ。

ダメージ計算はレベル50、6V、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ギャラドス陽気攻撃素早振り、カイリュー控えめHP特攻振り、リザードン陽気攻撃素早振り。オーダイルの1段階上昇岩雪崩でギャラドスを低乱数1発。カイリューの竜星群はオボン込みで乱数で耐えます。しかしギャラドスの攻撃でオボンが発動しなければ終わります。カイリューは冷凍パンチで言わずもがな。リザードンは1段階上昇激流アクアジェットで確定1発。カイリューはトウサさんのやつと努力値が被るので逆鱗型でも良かったのですが、描写が思いつきませんでした。

にしても公式絵見る限り、何故ギャラドスがイワークより小さいか分からないです。


あつあ通信vol.53、編者あつあつおでん


  [No.740] 第73話「ポケモンリーグ2回戦第1試合」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/25(Sun) 14:16:00   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ポケモンリーグ本選も3日目に突入しました。今日から2日にわたり2回戦を行います。まず128人になりましたが、現チャンピオンのワタル選手にストレート勝ちしたダルマ選手の注目度が急上昇中です。各局テレビカメラにスカウトがわんさか詰めかけています。さあ、そんな中2回戦第1試合が間もなく始まります。選手入場!」

「うわあ、なんだかとんでもないことになってきたな」

 実況に合わせ、ダルマは入場した。1回戦とはうってかわってカメラが彼の一挙手一投足を追いかける。対応の違いに戸惑いながらもダルマは歩く。

「おっと、これはビックリ。2回戦で君と当たるなんてね」

「ボルトさん! あなたも勝ち残ってましたか」

 トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマは声をあげた。そしてトーナメント表を確認する。相変わらず他の組み合わせは隠されているが、自分の対戦相手なら分かる。2回戦の相手はボルトだ。

「当然だよ。工場の宣伝のためにも、なるべく勝たないといけないし」

「……けど、服に広告を貼りまくるのはどうかと思いますよ」

 ダルマはボルトを指差した。彼は作業服を着ているのだが、あちこちに「世界を揺さぶる発明、ボルト製作所」と書かれたアップリケを縫いつけてある。呆れたことに、電話番号や料金体系まで書いてあるものもある。しかしボルトは気にせず話を進めた。

「気にしない気にしない。さて、そろそろ始めましょうか審判さん」

「了解。ではこれより、ポケモンリーグ本選2回戦第1試合を始めます。対戦者はボルト、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」

「……行くぞオーダイル!」

「仕事だランターン!」

 2回戦の幕が開いた。ダルマの1番手はオーダイル、ボルトはランターンである。

「さあ2回戦が始まりました。ダルマ選手はオーダイル、ボルト選手はランターン。共に1回戦と同じ出だしです」

「ランターンか、厄介なポケモンだな」

 ダルマは図鑑をチェックした。ランターンはチョンチーの進化形で、高い体力とタイプ構成が特徴的だ。水タイプと電気タイプを兼ね備え、特性で電気タイプが無効。故に水タイプと電気タイプに滅法強い。似たような性能のポケモンがいるが、そのポケモンを完封することも可能だ。

「ちょっとオーダイルは面倒だねえ。よし、まずは10万ボルト!」

「やべ。戻れオーダイル、キマワリ!」

 バトルの歯車が動きだした。まずダルマはオーダイルとキマワリを交代。いつものようにこだわりメガネを装備している。一方ランターンは10万ボルトで攻めた。しかし、キマワリは余裕綽々の表情でこれを受けとめる。ボルトは至って普段通りに指示を送る。

「やっぱりいたね、キマワリ。しかし晴れてなければ怖くないさ。冷凍……」

「それはどうでしょう。キマワリ、リーフストーム」

 なんと、キマワリがランターンより先に技を使ったではないか。キマワリは尖った葉っぱを嵐のように飛ばし、技を使おうと隙だらけのランターンに襲いかかった。さすがこだわりメガネは伊達ではなく、直撃を受けたランターンは崩れ落ちる。

「ランターン戦闘不能、キマワリの勝ち!」

「おいおい……ランターンより速いのかよあのキマワリ」

「これでも速さは限界まで鍛えてますからね」

 ボルトの驚く様を見て、ダルマは胸を叩いた。ボルトはまごついて次の手を考える。

「なるほど。参ったなあ、僕電気タイプと水タイプしかいないんだよね。てなわけでピカチュウ、頼んだよ」

 ボルトはランターンを戻すと、2匹目のポケモンを投入した。ギザギザ尻尾に赤いほっぺたのポケモンである。

「ボルト選手、2匹目はピカチュウです。中々テレビ受けするポケモンを出してきました」

「ピカチュウ? あえてライチュウを使わないってことは……」

 ダルマは図鑑を眺めた。ピカチュウは既に進化したポケモンである。別世界では大人気で、とあるポケモンに責任を押しつけたりもする。責任を押しつけられたポケモンは出番がなくなるらしい。これでもかと言う程強化され、決定力は非常に高い。ただし装甲は紙同然である。

「僕はピカチュウを3匹持ってるんだけど、この子はそのうちの1匹、物理寄りの二刀流さ。ではさらばキマワリ、めざめるパワー!」

「なんのこれしき、もう1度リーフストーム!」

 バトルはピカチュウが冷気のこもったエネルギーを放つことで再開した。多少疲れがたまったのかキマワリはめざめるパワーを被弾するものの、歯を食い縛りこれを耐える。そして2度目のリーフストームを撃った。ピカチュウは予想以上に脆く、特攻の下がったキマワリの攻撃であっけなく気絶してしまった。

「……ピカチュウ戦闘不能、キマワリの勝ち!」

「あちゃー、これはもしや、僕の負け決まっちゃった? ……いや、人間もポケモンも諦めの悪さが肝心だ。だから僕はこいつに賭けるよ、ヌオー!」

 ボルトはふてぶてしく笑った。そして最後のポケモンを送り出す。登場したのはずんぐりむっくりな体型をしているヌオーだ。首から何かの木の実がぶら下がっている。

「ボルト選手、最後の1匹はヌオーです。果たしてこの状況を覆すことはできるのでしょうか」

「……やってみせるさ。幾度となくピンチを切り抜けてきたんだ。キマワリはリーフストームを連打してかなり特攻が下がっている。そこを狙えば勝機はある」

 ボルトはダルマの出方を伺った。ダルマはヌオーの木の実に警戒したが、そのままごり押しを進めた。

「そうはいきませんよ。見映えはしないけど、とどめのリーフストーム!」

「ふっ、そのくらい……な、これは!」

 キマワリは3発目のリーフストームを使った。ところが、既に特攻がガタガタにもかかわらず最初と同じ勢いで葉っぱが舞い散るではないか。ここでヌオーの木の実がいくらかその力を軽減したが、最早焼け石に水。切り裂かれたヌオーは顔色1つ変えずに倒れた。

「……ヌオー戦闘不能、キマワリの勝ち! よって勝者はダルマ選手!」

「よし、2回戦も突破だ!」

「ダルマ選手、危なげなく2回戦も勝利。これは本当に最後まで勝ち残るかもしれません。2試合連続ストレート勝ちは中々できませんからね」

 実況がスタジアムにこだまする中、ダルマはガッツポーズを取った。その瞬間シャッターの音が鳴り響く。ダルマは目を細めながらボルトの元へ歩み寄った。

「いやあ、さすがダルマ君だ。全くかなわなかったよ」

「ありがとうございます。けど今回はタイプ相性があったからなんとも言えないですよ」

「なるほどね。しかし最後のリーフストームは何故あんなに強かったんだろ?」

「……多分それはヌオーの特性が天然だからじゃないですか? もしそうならこちらの特攻ダウンもないものとして扱われちゃいますから、リンドの実を使っても耐えなかったのはうなずけます」

 ダルマがそこまで説明すると、ボルトは舌を巻き拍手をした。その顔は実にさわやかなものである。

「かー、あれだけで色々分かるものなんだねえ。こんなにお勉強してる人にはそりゃ勝てないよ。……ダルマ君、君なら優勝できるかもね。僕からはこの言葉を餞別として送るよ、『ピンチの時こそふてぶてしく笑え』」

「……ボルトさん、その言葉、胸に刻んどきましたからね」

 ダルマはそう言うと、ボルトと握手を交わした。すると観客席から惜しみないスタンディングオベーションが送られるのであった。



・次回予告

ダルマの勢いはとどまるところを知らない。次の対戦相手は彼を止めることはできるのか。次回、第74話「ポケモンリーグ3回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.54

最近ダルマが無双しているのは、たまたまです。どうしても活躍するポケモン、しないポケモンの差が出てきますが、そこはどうしようもないです。

そういえば、オーダイルは冷凍パンチとアクアジェットを両立しています。これは実現可能ですが、教え技必須です。特にBWではHGSSから冷凍パンチを覚えた親が必要となります。

ダメージ計算はレベル50、6V、ランターン穏やか特攻特防振り、キマワリ@こだわり眼鏡臆病特攻素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ピカチュウ@電気玉せっかち攻撃素早振り。キマワリはランターンより速く動け、リーフストームで確定1発。ピカチュウのめざ氷をランターンの10万ボルトと合わせて確実に耐え、2段階ダウンリーフストームで確定1発。ヌオー@リンドは4段階ダウンリーフストームで確定2発。まあ、ボルトのヌオーはてんねんの特性なので、通常威力で撃てるのですが。しかしさすが太陽神、晴れてなくても無敗記録を維持したぜ!


あつあ通信vol.54、編者あつあつおでん


  [No.742] 第74話「ポケモンリーグ3回戦第1試合」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/26(Mon) 15:07:20   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「さあ、ポケモンリーグも5日目になりました。今日から3回戦が2日にわたり行われます。残るトレーナーは64人、4回戦に進める32人になるのは誰なのでしょうか。では3回戦第1試合、選手入場!」

「よし、今日も勝つぞー」

 ダルマは足取り軽やかに入場した。だいぶ場慣れしてきたように見受けられる。

「3回戦はダルマ君か。悪いけど勝たせてもらうよ」

「ハンサムさん、勝ち残ってたんですか」

 ダルマはトーナメント表と対戦相手をチェックした。彼の立ち位置の向こう側には、いつか見たよれよれのコートを着た痩身の男、ハンサムがたたずんでいる。ハンサムは朗らかに笑って受け答えした。

「そりゃ、がらん堂の調査を単独で任されていたくらいだからね。全国各地で捕まえたポケモンが私の味方さ」

「……そのわりに、誤認逮捕しようとしてましたが?」

「むう、それはそれだ。ではそろそろ始めよう」

 ダルマの突っ込みに言葉が詰まったハンサムは、審判に試合の開始を促した。審判はいつも通り試合開始を宣言する。

「これより、ポケモンリーグ本選3回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、は、ハンサム。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」

「カモネギ、出番だ!」

「アバゴーラ、今日も頼むぞ」

 ハンサム、ダルマ共に最初のポケモンを繰り出した。ハンサムはカメックスによく似たポケモン、ダルマはカモネギである。互いにレベルは50と表示された。

「ただ今試合が始まりました。ダルマ選手はカモネギ、ハンサム選手はアバゴーラ。アバゴーラはかなり珍しいポケモンですが、入手経路が気になります」

「アバゴーラ? 見たことないポケモンだな」

 ダルマは図鑑を開いた。アバゴーラはふたの化石から復活したポケモンである。岩、水タイプでどの能力もそれなりにある。それ故何をやらせてもネタとは言えず、戦い方に幅がある。型の見極めが重要であろう。

「なるほど。じゃあまずはリーフブレードだ!」

「アバゴーラ、からをやぶる!」

 バトルの幕が開けた。先手はカモネギだ。その植物の茎でアバゴーラの腹部を真っ二つにした。これをアバゴーラは耐え、体中に力を入れる。すると甲羅の表面がはがれ落ち、新しい甲羅が現れたではないか。ダルマは目を丸くした。

「うっそ、リーフブレード耐えられたぞ。それにあれは……脱皮か? いずれにせよ相手は虫の息、フェイントでとどめだ!」

「甘い、冷凍ビーム」

 カモネギは右に動くふりして左に流れ、茎でアバゴーラを叩いた。しかしアバゴーラはびくともせず、返しの冷気を込めたビームで返り討ちにされた。

「カモネギ戦闘不能、アバゴーラの勝ち!」

「ふふ、これが私の力だ。君とてそう簡単には勝てまい」

「うぬぬ、予想外だった。ならば行くぞ、オーダイル!」

 ダルマはカモネギを引っ込めると、オーダイルを場に出した。今やパーティを支える重要なポケモンとなったオーダイルは、3試合連続の登場である。

「ダルマ選手、2匹目はオーダイルです。今大会初の瀕死による交代となりました」

「これは先制技がくるな。アバゴーラ、アクアジェットだ」

「こっちもアクアジェット!」

 アバゴーラとオーダイルはほぼ同時に水をまとい、そのまま突進。ぶつかり合う形となったが、ダメージの蓄積していたアバゴーラが力尽きた。オーダイルは顔色1つ変えずにダルマの前に戻る。

「アバゴーラ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「よし、これで2対2か」

「ふむ、これで場は整ったわけだ。ではそろそろ使うか、これが私の切り札だ!」

 ハンサムは不敵な笑みを浮かべると、2匹目を投入した。出てきたのは、3本の指と1本の爪を備えた手が特徴的なポケモンである。指と爪は分かれており、用途別に使うのだろう。

「ハンサム選手、2匹目はドクロッグです。これまたカントーでは見かけないポケモンだ」

「ドクロッグ……タイプからしてわからない」

 ダルマは図鑑を眺めた。ドクロッグは毒タイプと格闘タイプを兼ねるポケモンだ。多くのタイプに耐性を持つが、厄介なのは特性の乾燥肌である。なんと水無効なのだ。そのため立ち回りに気を付けねばならない。

「水が効かないか。仕方ない、戻れオーダイル。キュウコン、仕事だ!」

 ダルマはオーダイルを戻し、キュウコンと交代した。スタジアムはみるみるうちに日本晴れとなっていく。

「おっと、キュウコンが登場した途端日差しが強くなりました!」

「読み通り。ドクロッグ、つるぎのまい」

 ドクロッグはしてやったりと言った顔で万歳をした。おそらく戦いの舞いなのだろう。ダルマがクエスチョンマークを泳がせるのを見て、ハンサムは次の1手に出る。

「さらに不意討ちで仕留めるんだ!」

「やべっ。負けるな、大文字!」

 キュウコンが攻撃しようとすると、ドクロッグは体から煙をあげながら懐に右腕をねじ込んできた。キュウコンは大きくのけぞるが、口から大の字の炎を放つ。キュウコンのすぐ近くにいたドクロッグはこれを直撃で受けた。ドクロッグは晴れと灼熱の炎の二重苦状態となり、たまらず地面をのたうち回る。そしてそのまま気絶した。

「ドクロッグ戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「やれやれ、なんとかなったか。最後の1匹が気になるけど、また他の地方のポケモンかな?」

「むむむ……遂にあと1匹か。仕方あるまい、意地を見せるぞロトム」

 ハンサムはコートをたなびかせると最後のポケモンに全てを託した。現れたのは、ふわふわと浮いたポケモンである。小柄で明るい色なので、観客席からはほとんど見えてないと思われる。

「ハンサム選手、最後はロトムで勝負します。ダルマ選手は1歩リードです」

「最後までよく分からないポケモンばかりだなあ」

 ダルマは図鑑に目を通す。ロトムは電気、ゴーストタイプのポケモンだ。しかし電化製品の中に入るとタイプがころころ変わる。現在は電気と草、水、炎、飛行、氷の組み合わせがある。また、特性の浮遊により電気タイプながら地面タイプに強い。

「ふっ、警察の底力をとくと見せてくれる。シャドーボール!」

「させるか、大文字で終わりだ!」

 最後の戦いが始まった。ロトムは黒い塊を作り出し、キュウコン向けて発射しようとした。だが既に目の前にキュウコンの大文字が迫っている。キュウコンの方が1歩先に動いていたのだ。ロトムは避けようとするが間に合わない。結局、攻撃することなく業火に焼かれ、ロトムは倒れこんだ。ここで審判のジャッジが下る。

「……ロトム戦闘不能、キュウコンの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」

「ふうー、危ない危ない。これで次は4回戦か」

 ダルマは額の汗を拭うと、キュウコンをボールに収めた。一方ハンサムはスタジアムに響く程の高笑いをする。

「……あっはっはっはっはっ、実に良い勝負だったよダルマ君。やはり君は有能だな、国際警察にスカウトしたいね」

「ありがとうございます。しかし俺はまだ……」

「わかってる、将来の目的が決まってないんだろう? だからゆっくり考えれば良いさ、人生に早い遅いなんてないからね」

 ハンサムはロトムを回収すると、ダルマにこう告げた。実に満ち足りた表情である。

「さて、私はそろそろ職場に帰るよ。事件が私を待っている。君のことは同僚に自慢できるよ、『がらん堂を壊滅に追い込んだトレーナーと戦った』って。またどこかで会いたいものだ、もちろん事件抜きでね。……さらばだ!」

 ハンサムはそう言い残すと、出口を向いた。彼は背後のダルマに手を振りながら、しかし決して後ろを見ずにポケモンリーグを後にするのであった。



・次回予告

3回戦も危なげなく突破し、4回戦へ駒を進めるダルマ。ここから試練の道が続くとは、まだ誰も知る由もなかった。次回、第75話「ポケモンリーグ4回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.55

ポケモンリーグの話を書いてる時、ふと「これロックマンのボスラッシュじゃね?」と思いました。

今回ハンサムはシンオウやイッシュのポケモンをバリバリ使いましたが、行ったことあるから使っても大丈夫ですよね?

ダメージ計算はレベル50、6V、カモネギ陽気攻撃素早振り、アバゴーラ無邪気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ドクロッグ意地っ張りHP攻撃振り、キュウコン臆病特攻素早振り、ロトム(ノーマル)臆病特攻素早振り。カモネギのリーフブレードとフェイントをアバゴーラは耐え、返しの冷凍ビームで確定1発。しかしオーダイルのアクアジェットでとどめ。ドクロッグの2段階上昇不意討ちをキュウコンはギリギリ耐え、乾燥肌補正大文字で一撃。続けざまにロトムも即死。


あつあ通信vol.55、編者あつあつおでん


  [No.743] 第75話「ポケモンリーグ4回戦第1試合前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/27(Tue) 17:31:34   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ポケモンリーグも7日目に突入しました。現在32人のトレーナーが勝ち残っています。今日から4回戦を2日で行い、1日の休みが入ります。それ以降最大6匹使える5回戦へと続きます。果たして後半戦へ進むことができるのは誰でしょう。では4回戦第1試合、選手入場!」

 本日もダルマの1日はスタジアムへの入場から始まった。トーナメント表をチェックし、対戦相手が誰なのか確かめる。そしてルーチンが終わったら驚くのが常だ。

「ジョバンニさん! 思った以上に残りましたね」

「4回戦はダルマ君ですかー。……トウサに勝った君と勝負するなんて、何か縁がありそうですねー」

 ダルマと対峙するのはジョバンニであった。今日も背広姿で高速スピンをしている。ダルマはまずこう述べた。

「あの時は助かりました。トウサさんの過去を知らなければ、今回の事件はいつか忘れたでしょう。尊敬する人の真相に近づけた……それだけでも旅をした甲斐がありましたよ。もちろん、ポケモンリーグも大事ですけどね」

「ほー、嬉しいことを言ってくれますねー。しかし、私もかつては旋風を巻き起こした身。手加減なしでいくので覚悟してくださーい」

「望むところですよ!」

 ダルマは腕まくりをした。既に右手にはボールが握られている。頃合いと判断した審判は試合開始を宣告した。

「これより、ポケモンリーグ本選4回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、ジョバンニ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」

「行け、ブースター!」

「ナッシー、出番でーす」

 両者最初のポケモンを繰り出した。ダルマの先発は何やらもふもふした赤いポケモン。対するジョバンニの1匹目は頭が3つあるポケモンである。

「さあ4回戦が始まりました。ダルマ選手はブースター、ジョバンニ選手はナッシー。ジョバンニ選手は20年前の大会で準優勝している実力者、ダルマ選手との勝負は今大会屈指の好カードとなっています」

「ブースターですかー。進化させたということですねー?」

「ええ、昨日。ジョバンニさんはナッシーからか」

 ダルマは図鑑を取り出した。ナッシーはタマタマの進化形で、弱点の数が7個もある。もっとも耐性も6個あるので、強い弱いがはっきりしている。特性のようりょくそを活かして晴れパーティで使うと活躍が期待できるだろう。

「ナッシーを倒した後も考えると、あの技かな。まずはニトロチャージだ!」

「甘いでーす、トリックルーム!」

 バトルの歯車が回りだした。先手を取ったブースターは全身に炎をまとい突進した。これをナッシーの頭の1つは冷静な顔で耐え、頭の葉っぱを揺らした。すると驚くべきことに、スタジアム全体が歪んで見えるではないか。明らかに妙な状態に、ダルマは辺りを見回す。

「な、なんだこれ?」

「これはどういうことでしょう! 歪んでいます……おかしい……何かが……スタジアムの……」

「ほっほっほっ、トリックルームを使うと遅いポケモンから動けるのでーす。ではナッシー、だいばくはついきましょー!」

 観客席がざわめく中、ジョバンニは調子が上がってきたみたいだ。回転しながらナッシーに指示を送ると、ナッシーはいきなり爆発した。頭は飛び散り葉っぱは宙を舞い、胴体は破裂する。会場全体を煙が包み、爆風はブースターにも襲いかかった。

「な、なんだってー!」

「どぅわぁいぶぁくはつが決まったー!」

 ダルマは吹き飛ばされないよう、目を閉じ前屈みで耐えた。やがて煙が晴れて目を開けると、気絶したブースターとナッシーがいた。審判が落ち着いてジャッジを下す。

「……ナッシー、ブースター、共に戦闘不能!」

「な、なんてこったい。予想外すぎる……」

「バトルはナッシーのだいばくはつで状況が一変、2対2となりました! これがこの先の勝負にどのような影響を与えるのでしょうか!」

 ダルマはブースターをボールに戻しながら必死に次の手を考える。それを尻目にジョバンニは不敵な笑みを浮かべるのであった。

「ふふふ……まだまだこれからですよ!」



・次回予告

ジョバンニが扱うトリックルームでバトルは大混乱。完全にアウェーな状況に立たされたダルマは、このピンチをしのげるのか。次回、第76話「ポケモンリーグ4回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.56

今回のバトルは久々に難産でした。

ダメージ計算はレベル50、6V、ナッシー冷静HP特攻振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り。ブースターのニトロチャージはナッシーに確定2発、ナッシーの大爆発はブースターを高乱数1発。威力が下がっても大爆発は優秀な退場技ですね、特にトリパなら。


あつあ通信vol.56、編者あつあつおでん


  [No.746] 第76話「ポケモンリーグ4回戦第1試合後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/28(Wed) 14:30:34   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ジョバンニ選手の2匹目はオクタン、ダルマ選手はキュウコンとなりました。そして日差しが一気に強くなった!」

「オクタンか……色々使いそうだな」

 ダルマは図鑑を開いた。ジョバンニの2匹目は、7本の足と茹であがった赤いボディが特徴的なオクタンである。オクタンはテッポウオの進化形で、攻撃と特攻が高めだ。水タイプだが、ドラゴン、格闘、ゴースト以外のタイプの技を覚えられる。そのため水タイプでも屈指の攻撃範囲を持つので注意が必要だ。

「ふふふふふ、私のトリックルームパーティに翻弄されるといいでーす。ロックブラスト!」

「く、速い!」

 歪んだスタジアムの中、先手を取ったのはオクタンだ。なんと、口から岩を発射してきたのである。あまりの奇襲にキュウコンは全く対応できない。1発、2発、3発、4発。ここで攻撃は止まった。キュウコンはまだ戦えそうだが、出て早々虫の息である。

「ほー、耐えてきましたか。しかし耐えただけでは勝てませんよー」

「言われなくてもわかってますよ。キュウコン、ソーラービームだ!」

 キュウコンは意地を見せた。ひとたび雄叫びをあげると、天から光の束が降り注ぐ。それはオクタンを飲み込み、そのまま焼き尽くした。光が消えると、オクタンの丸焼きが完成していた。

「オクタン戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「ぬうう……これは予想以上にまずいですねー。しかし私は勝ちまーす、リングマ!」

 ジョバンニはオクタンを戻すと、3匹目を繰り出した。出てきたのは、腹部にわっかが描かれているポケモンである。

「ジョバンニ選手、3匹目はリングマです。これが最後のポケモンになってしまいました」

「リングマか、最後にふさわしい強敵だな」

 ダルマは図鑑をチェックした。リングマはヒメグマの進化形で、ノーマルタイプで3本の指に入る攻撃を持つ。特性はどちらも状態異常に関するもので、相手の補助技読みで交代したり、補助技の制限を期待できる。

「まずはとどめでーす、アームハンマー!」

 先に動いたのはリングマだ。素早くキュウコンに接近し、丸太のような腕を振り下ろす。ほうほうの体であるキュウコンを仕留めるには十分な威力、たまらずキュウコンは気絶した。

「キュウコン戦闘不能、リングマの勝ち!」

「くそー、さすがに甘くはいかないか。……よし、久々の出番だ。しくじるなよスピアー!」

 ダルマはキュウコンを引っ込めると、最後のボールを握り締める。そしてそのまま送り出した。3匹目はスピアーだ。肩には気合いのタスキがかかっている。

「ダルマ選手の最後の1匹はスピアーです。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか?」

 実況の言葉を受け、スタジアムは一段と静まり返る。そんな中、ジョバンニが動いた。

「勝負はいただきでーす、すてみタックル!」

 リングマはスピアーめがけ、なりふり構わずタックルした。スピアーは脂汗を噴出するものの、気合いのタスキでことなきを得る。ここで反撃のチャンスが生まれた。

「なんの、がむしゃらで反撃だ!」

 スピアーは、両腕の針でやたらめったらに突きまくった。瞬く間にリングマの体が蜂の巣になっていく。しかしリングマはまだ動けそうである。

「おや、スタジアムの歪みが……」

 実況が思わず漏らした。スタジアムを支配していた歪みが、跡形もなく消え去ったのだ。ダルマは力強く最後の指示を出す。

「これで終わりだ、シザークロス!」

「のおおおおおおお!」

 スピアーは右腕の針でリングマを切り裂いた。トリックルームの効力が切れた今、先手を取ることはできない。リングマは膝をつき、地響きをあげながら地に伏せた。

「……リングマ戦闘不能、スピアーの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」

「やったぜ、4回戦突破だ!」

「ダルマ選手、4回戦も勝利を手にしました。5回戦にも期待がかかります」

 ダルマはガッツポーズを取った。スタジアム全体から歓声とフラッシュが巻き起こる。そこに、ジョバンニが近寄ってきた。

「いやあ、やりますねーダルマ君。私に勝ったのはあなたが2人目ですよー」

「ありがとうございますジョバンニさん。まあ今回はタスキがあったから実力とは言い難いですけどね」

「のんのんのん、それは違いまーす。道具を誰に持たせるか、与えられた状況をいかに用いるかはトレーナーの腕の見せ所。あなたはただ胸を張っていれば良いのですよ、私みたいに」

「はあ。しかしジョバンニさん程やるのは遠慮しときます」

「ほっほっほっ、そうですかー。……今日の勝負、彼と戦っているみたいでした。負けはしましたが、非常にすがすがしい気分でーす」

「ジョバンニさん……」

 ダルマはそれ以上の言葉が出なかった。いつもはピエロのようなジョバンニが、この時は風格漂う男に見えたからである。

「では、私はそろそろキキョウに帰りまーす。ダルマ君、頑張ってくださいねー」

 ジョバンニはダルマにこう言い残すと、高速スピンしながらスタジアムを後にした。ダルマは言葉が出ないので、礼をするのであった。



・次回予告

5回戦を迎えたダルマ。彼の相手は「超えなければならない人」であった。ダルマはどのような戦いを繰り広げるのか。次回、第77話「ポケモンリーグ5回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.57

気合いのタスキの便利さが痛感できる小説になってきた気がします。RSE時代に同じパーティを使ったらまずこうはいかないでしょう。

にしても、次回からいよいよフルバトル。構成に悩まされる……。

ダメージ計算はレベル50、6V、オクタン冷静攻撃特攻振り、キュウコン臆病特攻素早振り、リングマ勇敢HP攻撃振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り。オクタンのロックブラスト4発をキュウコンは中乱数で耐え、返しのソーラービームで最高乱数を引けば1発。リングマのアームハンマーでキュウコンは瀕死。スピアーのがむしゃらと虫の知らせシザークロスでリングマはダウン。


あつあ通信vol.57、編者あつあつおでん


  [No.752] 第77話「ポケモンリーグ5回戦第1試合前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/29(Thu) 17:24:30   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ポケモンリーグは10日目に入りました。今日から2日にかけて5回戦を実施します。現在残るのは16人ですが、誰もが優勝を狙える位置にいます。また、5回戦から最大6匹のフルバトルになるので、本当の実力が試されます。では5回戦第1試合、選手入場!」

「次は誰が相手になるんだろ」

 セキエイ高原のスタジアムに、ダルマは今日も入っていた。ポケモンリーグ本選もいよいよ後半戦とあり、彼の顔は自然と引き締まる。その一方で、場慣れした穏やかな表情も見受けられる。

「ダルマじゃないか、まだ負けてなかったのか」

「げえっ、父さん! まさか5回戦まで進んでくるとは思わなかった」

 そんなダルマの落ち着きは、今日の対戦相手によって吹き飛ばされた。ダルマはトーナメント表を確認する。ダルマの今日の相手は父、ドーゲンだ。ドーゲンはぐふぐふ笑いながら胸を張る。

「ふふふ、俺を甘く見てはいけないぞ。今、俺は人生で最も充実している。当然よ、諦めたはずのポケモンリーグが、この年になってチャンスを得たんだからな。そんな俺の前では、例え四天王が相手でも負けん。勢いが違うわ」

「……要は、興奮して暴走気味ってことだよね?」

「そうとも言う。しかし今の俺は最強だ、息子と言えど容赦せんぞ」

「別に手加減してもらう必要はないよ、俺は実力で勝ってみせる!」

「さあさあ、試合前から火花が飛び散っております。ドーゲン選手とダルマ選手は親子のようで、実に数年ぶりの親子対決となります」

 実況の一言で、にわかに外野が騒がしくなった。スタジアムは徐々に熱気に包まれる。ダルマとドーゲンはボールを手に取った。それを確認した審判は試合開始を宣言する。

「これより、ポケモンリーグ本選5回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、ドーゲン。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」

「ゆけ、キマワリ!」

「ゆくのだカメックス!」

 必然の対決、開幕。ダルマとドーゲンは、ほぼ同時にボールを投げた。フォームが2人共よく似ている。

「親子対決、遂に火蓋を切りました。ダルマ選手はキマワリ、ドーゲン選手はカメックスが先発となります。今日のキマワリはこだわりメガネを装備していませんね」

「カメックスか、何故か印象に残らないんだよな」

 ダルマは図鑑を開いた。カメックスはカメールの進化形で、バランスの良い能力を持つ。だがどれも突出しているとは言い難く、火力も耐久も微妙に半端。逆に言えば火力も耐久もそれなりにあるので、様々な立ち回りを同時にこなせる。

「ふふふ、カメックスは水タイプだからキマワリは有利……そう思っているだろ? 馬鹿め、カメックスを舐めるな! 冷凍……」

「まずはリーフストームだ!」

 先手はキマワリだ。キマワリは嵐を巻き起こし、それに尖った葉っぱを乗せてカメックスに飛ばした。カメックスは紙のように切り刻まれ、試合開始30秒も経たないうちにノックアウトしてしまった。

「カメックス戦闘不能、キマワリの勝ち!」

「おっと、キマワリがいきなりカメックスを倒しました! ダルマ選手、1歩リードです」

「むう、やってくれるわ。しかしカメックスは俺の手持ちでは最弱、まだ5匹残っているぞ」

「ならさっさと出してよ」

 ダルマは素っ気なく促した。ドーゲンはため息をつきながら2匹目の準備をする。

「……つれない息子め。出番だ、エアームド!」

 ドーゲンは力強く次のポケモンを繰り出した。出てきたのは、薄い羽に鋼の体を持った鳥ポケモンである。

「エアームドか、フスベの周辺にいたような気が」

 ダルマは図鑑を覗き込んだ。エアームドは鋼、飛行の組み合わせで、非常に物理耐久が高い。耐性も優秀で、一昔前は必須と言われる程のポケモンだった。近年は炎タイプの台頭で使用率が下がっているものの、とある組み合わせの発見で再評価されつつある。ダルマはエアームドに目を向けると、ボールを握り締めた。

「相性は良くないな。戻れキマワリ、いくぞキュウコン!」

「隙あり、ステルスロック」

 ダルマはキマワリを引っ込めてキュウコンを投入。対するエアームドは辺りに切れ味鋭い岩石を浮かべた。キュウコンの周りを岩が衛星のように回転する。

「ダルマ選手、キマワリをキュウコンに交代。しかし、周りに尖った岩が漂いだしました。」

「うむ、これは厄介だな。晴れがキュウコンの力の源、これを封じるのも悪くないが……戻れエアームド、仕事だラッキー!」

「逃がすな、大文字!」

 ドーゲンは手早くエアームドを回収し、3匹目のポケモンを送り出した。現れたのは、腹部にタマゴを抱える白いポケモンである。また、薄紫の石が首からぶら下がる。丁度キュウコンの大文字が直撃するも、そのポケモンは何食わぬ顔でタマゴをさすった。

「ドーゲン選手、エアームドからラッキーに交代です。その際キュウコンの大文字を受けましたが、驚くことにぴんぴんしています!」

「な、なんだあれは! キュウコンの晴れ大文字をああもたやすく耐えるなんて」

 ダルマは図鑑を食い入るようにチェックした。ラッキーはピンプクの進化形で、全ポケモン中トップクラスの体力を誇る。特防にも定評があり、進化途中にもかかわらずかなりの特殊型が止まる。ただし決定力は皆無に等しく、防御も恐ろしく低い。もっとも、防御を伸ばせば体力があるので、物理耐久は高くなる。

「見たかダルマ。これが俺の最高傑作、量産型しんかのきせきの力だ」

「しんかのきせき? 何それ」

「なんだ、知らんのか。しんかのきせきは『進化できるけど進化していないポケモンに持たせたら防御と特防が上がる』という効果を持つ。便利だが希少性が高く、値段が高騰していたのだ。そこで、俺は1個買って同じものを作ったのさ。観客席の皆さん、これさえあればかなりの数のポケモンがバトルで活躍できます。興味のある方は是非ワカバ工房までお電話ください!」

 ドーゲンは観客席とテレビカメラに向けて惜し気もなく新製品を紹介した。その直後、彼の懐からバイブレータの音が止まらなくなった。そんな父親に、ダルマは唸りながらも頭を抱えるのであった。

「く、くっそー。宣伝なんて余裕かましやがって。けど、どうすれば良いんだ?」



・次回予告

父、ドーゲンは、お手製の道具とポケモンの組み合わせでダルマを悩ませる。ダルマはこの強敵を打ち破ることができるのか。次回、第78話「ポケモンリーグ5回戦第1試合中編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.58

親子対決がやってきました。ドーゲンは一応フスベジムまで到達しているのでそれなりに強いです。道具職人だけあり、アイテムが彼の強さを支えています。

ダメージ計算は、レベル50、6V、カメックス@オボン冷静HP特攻振り、キマワリ臆病特攻素早振り、エアームド@食べ残しわんぱくHP防御振り、キュウコン臆病特攻素早振り、ラッキー@進化の輝石図太い防御素早振り。キマワリの手ぶらリーフストームで確定1発。キュウコンの晴れ大文字はラッキーに乱数4発。ラッキーぇ……。


あつあ通信vol.58、編者あつあつおでん


  [No.758] 第78話「ポケモンリーグ5回戦第1試合中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/01(Sat) 11:39:01   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「まずは態勢を整えねばな、身代わりだ」

「ならばこちらはわるだくみ!」

 バトルに新たな流れが生まれつつあった。キュウコンは不敵な笑みを浮かべながら辺りに熱を撒き散らす。一方ラッキーは身代わり人形を作り、タマゴを入れる袋の中に入れた。互いににらみ合いを続け、攻め手に欠く。

「試合は緊迫した展開が続きます。しかし両者決定打を欠きます」

「ほれほれダルマ、そっちが来ないならこっちから行くぞ。ラッキー、どくどくだ」

「くっ、ひとまず身代わりだ!」

 ここでラッキーが動いた。タマゴの袋の中から毒々しい塊を投げつけてきた。キュウコンは身代わり人形でそれを受けとめる。人形には傷1つできず、互いの人形が残る形となった。

「うむ、避けられてしまったか。このままではすこぶる不利、これはあやつの出番だな。ゆくのだニョロトノ!」

「今だ、わるだくみ!」

 ドーゲンはラッキーを引っ込めると、別のポケモンを繰り出した。腹部に渦巻きがあるポケモンである。キュウコンはすかさずわるだくみで特攻を上げた。

「ドーゲン選手、ラッキーからニョロトノに交代です。そしてスタジアムはいきなり土砂降りになったぁ!」

「そ、そんな馬鹿な、出てきただけで雨が降るなんて……」

 天気がめまぐるしく変わる中、ダルマは図鑑を開いた。ニョロトノはニョロゾの進化形で、全体的に平均的な能力を持つ。ほろびのうたやアンコールといった補助技を備え、相手をかき回しながら攻撃をする。また、ごくまれに天気を変える特性を持つ個体もいる。

「ぬはは、ニョロトノの特性はあめふらし。晴れてなければキュウコンなど怖くないわ、ハイドロポンプ!」

「くそ、身代わりでしのぐんだ!」

 先手はニョロトノだ。キュウコンを上回る速さで水柱を発射する。キュウコンは身代わり人形でそれをしのぎ、再び人形を盾にした。

「こりゃまずいな……って、あれ? ニョロトノってそんなに速くないはずだぞ。もしや……」

 ふと、ダルマは首を捻った。そしてニョロトノを凝視する。頭、腕、足……あちこちチェックした末、ダルマは思わず唸る。しかしその間にもニョロトノの攻撃は止まらない。

「どんどんゆくぞ、ハイドロポンプ!」

「させるか、かなしばりで止めろ!」

 ニョロトノはもう1度キュウコンの身代わり人形を破壊した。その隙に、キュウコンはニョロトノをにらみつける。すると、ニョロトノは上手く動けなくなってしまったではないか。

「ぐう、しまった。戻れニョロトノ、ゲンガー!」

「隙あり、大文字!」

 慌てたドーゲンはニョロトノを戻し、5匹目のゲンガーを投入。キュウコンは雨を蒸気にする程熱い大の字の炎を撃った。出てきたゲンガーはこの炎をまともに受け、何もせず倒れてしまった。

「ゲンガー戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「い、一体何が起こったのでしょうか。有利なはずのニョロトノを交代。そして雨にもかかわらず大文字1発で倒れてしまいました」

「……父さん、ニョロトノの持ち物はこだわりスカーフなんでしょ。でなければ、キュウコンより速く動けるはずがない。どこに隠したのかは分からないけど」

「やはり読まれたか。さすが俺の息子だ。実は背中に貼りつけておいたのさ。ではもう1度、ニョロトノ!」

 ドーゲンはカラクリをばらした上で、ニョロトノを再度送り出した。天気は相変わらず雨、ダルマは3匹目のボールを握り締める。

「ここは引くべきと見た。戻れキュウコン、オーダイル!」

「そうはいかん、ハイドロポンプ」

 ダルマは手早くキュウコンとオーダイルを入れ替えた。オーダイルは出てきて早々ハイドロポンプを浴びる。だがニョロトノの攻撃はまだまだ終わらない。

「続けるのだニョロトノ!」

「負けるか、つるぎのまい!」

 ニョロトノは何回も水の槍を刺してきた。オーダイルはオボンの実をほおばりながら、負けじと戦いの舞いを披露する。反撃の準備は整った。

「そこから地震攻撃!」

 オーダイルは地面を踏みならし、波でニョロトノを攻めた。ニョロトノは浮き足だっていたのか、転んで背中を打った。

「よし、とどめのアクアジェットだ!」

 このタイミングで、オーダイルは水をまといニョロトノに襲いかかった。雨、つるぎのまい、特性の激流……まさに水を得た魚、ニョロトノを完膚なきまで叩きのめした。

「ニョロトノ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「オーダイル、交代から強引にニョロトノを沈めました。今は普段と違い雨の恩恵があります。果たしてどこまで戦えるのでしょうか」

 実況の解説と並行して、観客席もざわついてきた。モニターに映し出される残りポケモンは、ダルマが6匹に対し、ドーゲンは3匹。もっとも、ドーゲン自身は意に介さない様子で笑い飛ばしている。

「……がはははは、これで勝ったつもりか? まだ俺は3匹も残しておる。出でよ、エアームド!」

「ふん、今更出ても遅い。アクアテール!」

 ドーゲンは先程のエアームドを場に呼んだ。一気に勝負を決めようとしたオーダイルは自慢の尻尾でエアームドを打ちのめす。だが、エアームドはなんとか堪えた。

「甘いわ、頑丈からのドリルくちばし」

 エアームドはオーダイルを逃がさない。その鋼鉄のくちばしで突きまくる。虫の息だったオーダイルはたまらず気絶した。

「オーダイル戦闘不能、エアームドの勝ち!」

「ふっ、やっぱ頑丈は便利だな、不測の事態に柔軟な対応ができる」

 ドーゲンは胸を張ってダルマを威圧した。ダルマは一瞬たじろぐものの、モニターを見て深呼吸をした。少し落ち着いた模様だ。

「……よく考えたら、俺にはまだ5匹も残っているじゃないか。何故不利なはずの父さんがあんなハッタリをするのか掴めないな。けど、いくら厄介な戦いをされても、最後は必ず勝ち抜いてみせる!」



・次回予告

親子対決も佳境に入った。数で押すダルマと戦略で戦うドーゲン。勝負の行方は如何に。次回、第79話「ポケモンリーグ5回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.59

今考えたら、キュウコンの攻撃技が文字しかない。あと、パパさんの使うポケモンが贅沢すぎる。そういえば、パパさんの6匹目は何かわかりますか? 少しバトルの組み合わせを勉強していればすぐわかるはずですよ。

ダメージ計算は、ニョロトノ@こだわりスカーフ臆病特攻素早振り、ゲンガー@命の珠臆病特攻素早振り、オーダイル@オボン意地っ張りHP攻撃振り、エアームドわんぱくHP防御振り。悪巧み2回積んだら雨でも大文字でゲンガーを確定1発。オーダイルはステルスロックとニョロトノの雨ハイドロポンプ3回をオボン込みで乱数で耐え、剣の舞からの地震と激流アクアジェットで倒せます。雨剣の舞激流アクアテールでエアームドの頑丈を発動させます。


あつあ通信vol.59、編者あつあつおでん


  [No.760] 第79話「ポケモンリーグ5回戦第1試合後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/02(Sun) 11:21:59   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ここからが本番だ、カモネギ!」

「ダルマ選手、次のポケモンはカモネギ。現状ではダルマ選手がかなり有利ですが、まだまだ油断なりません」

 ダルマはオーダイルを引っ込め、カモネギを繰り出した。カモネギには出て早々岩が食い込む。ドーゲンは腰に装備するボールを眺めながら戦況を読む。

「ふむ、カモネギか。真意は計りかねるが、交代しても得策とは言えんな。よし、ドリルくちばしだ」

「させるか、アクロバット!」

 エアームドより先にカモネギが動いた。カモネギは懐から何かの石を取り出し、それを砕いた。そして軽やかにエアームドを攻撃。予想外の1発にエアームドはたまらずダウンした。

「エアームド戦闘不能、カモネギの勝ち!」

「よし、あと2匹だ」

「見る限り、あれは飛行のジュエルか。中々良い出来だ。……久々に熱くなってきたぞ。実に良い気分だ。そろそろこいつを出すのも悪くない、出でよ我が秘密兵器!」

 ドーゲンは興奮した様子で新たなポケモンを場に出した。出てきたのは、ハサミと数珠が連なったような尻尾が特徴的なポケモンである。

「ドーゲン選手の6匹目はグライオンです。これで全てのポケモンが出揃いました。あとはこのポケモンとラッキーを残すのみです」

「グライオンか……でかいな」

 ダルマは図鑑を開いた。グライオンはグライガーの進化形で、非常に高い防御を持つ。そのタイプと能力から、耐久型で大概の格闘タイプを手玉に取れる程の実力者。また、格闘タイプを起点につるぎのまいを使い、ジュエルとアクロバットで攻める物理型も侮れない。ダルマは図鑑を閉じると、慎重に指示を飛ばした。

「まずはアクロバットで様子を伺うんだ!」

「グライオン、守る!」

 カモネギは手始めに茎でグライオンを切り付けた。しかしグライオンにガードされてしまい、軽く弾かれてしまった。その直後、グライオンから大量の毒が吹き出してきた。ダルマは思わず身構える。

「おっと、グライオンは猛毒を食らってしまった! あれはどくどくだまでしょうか?」

「ま、また何か企んでるのか? けど今は攻めるしかない。カモネギ、とにかく攻撃し続けるんだ、アクロバット!」

「そんな半端な攻撃効かん、つばめがえしで返り討ちだ」

 ここからチャンバラが展開された。カモネギは茎、グライオンはハサミでお互いを殴りあう。だがステルスロックのダメージとそもそもの能力差により、2回攻撃したところでカモネギは倒されてしまった。

「カモネギ戦闘不能、グライオンの勝ち!」

「くっそー、硬いなさすがに。……ん、ちょっと待てよ。もしかしてグライオンの体力、回復してるのか?」

 ダルマはグライオンを凝視した。本来、猛毒状態ならダメージを受けるはずである。しかしグライオンはダメージはおろか、カモネギの攻撃により傷すら余裕といった感じだ。ドーゲンは不敵な笑みを浮かべながら説明する。

「ほう、よく気付いたな。俺のグライオンの特性はポイズンヒール、毒状態で体力を回復できるのだ。この耐久に回復が合わされば、どんなポケモンでも倒せるというカラクリよ」

「……なるほどね、そういうことか。なら一撃で仕留めないと、キュウコン!」

 ダルマはカモネギを戻し、キュウコンを呼び出した。またしても岩が刺さり、いきなり肩で息をする状態だ。

「ダルマ選手、再びキュウコンの登場です。それと同時にスタジアムは急に晴れあがりました。まるでダルマ選手に天気が味方しているようです」

「一気に決めるぞ、大文字!」

「なんの、地震で終わりだ!」

 キュウコンはグライオンよりも速く大文字を放った。グライオンは地震を起こすことができずに直撃、そのまま落ち葉のように地面に舞い落ちた。

「グライオン戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「なんと、幾度もの逆転をしてきた俺が追い詰められたとは……。しかし、これで勝ったと思うなよダルマ! 俺には最後の砦たるラッキーがいるのだ!」

 ドーゲンはグライオンを回収し、ラッキーを送り出した。驚くことに、ラッキーは耳をはばたかせて宙に浮いたではないか。しばらくして落下したが、スタジアムの度肝を抜いたのは間違いない。

「ドーゲン選手、最後のラッキーを場に出しました。晴れ大文字を軽々耐えるその硬さで、どこまで抵抗できるでしょうか」

「こちらは4匹、あっちはラッキーのみ。なのにあの自信はどこから湧いてくるんだ? いやそれより、体力的に身代わりはできないな。仕方ない、大文字だ!」

「そうはいかん、ちきゅうなげ!」

 最後の勝負が始まった。キュウコンは白みがかった大の字の炎を撃った。一方ラッキーはキュウコン目がけて前進。あろうことか大文字をも蹴散らしキュウコンを掴み、バックドロップを決めた。まさかの攻撃にキュウコンは気絶した。

「キュウコン戦闘不能、ラッキーの勝ち!」

「そ、そんな馬鹿な! 大文字を突き破るなんて……」

「ふっ、ラッキーを舐めてもらっては困る。名前通りの幸運な勝利、必ず手にしてみせる。さあ、どこからでもかかってこい!」

「……こうなったら、頼むぞブースター」

 ダルマはキュウコンを収め、ブースターに交代。晴れているせいか、ブースターは口から火を漏らしている。

「はん、性懲りもなく特殊アタッカーで来たか。ダルマ、敗れたり!」

「それはどうかな。馬鹿力で決めろ!」

 ブースターは急加速してラッキーに接近した。それからラッキーの頭上にジャンプ。そして4本の足でラッキーを蹴りつける。攻撃を終えたブースターはダルマの元へ撤収した。ラッキーは気丈に振る舞おうとしたが、万事休す。目を渦巻きにして仰向けで倒れた。

「ラッキー戦闘不能、ブースターの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」

 審判が決着のジャッジを下した。ダルマは飛び上がって叫んだ。他方、ドーゲンはその場にしゃがみこむ。

「よし、5回戦突破!」

「ぬ、ぬうう……俺のポケモンリーグもここまでか。30年越しの悲願には届かずじまい。まあ、ある意味俺らしいな、ははははは!」

 ドーゲンは腹の底から笑った。それに共鳴するかのように、スタジアム中から万雷の拍手が鳴り響いてきた。

「これは、観客席からスタンディングオベーションの嵐が巻き起こりました! スタジアムが親子の健闘を称えています。私も、不覚にも目から汗が……」

 実況は徐々に鼻声になり、実況にならなくなった。鳴り止まない拍手の中、ダルマはドーゲンに近寄った。

「父さんお疲れ。まさかここまで強いとは思わなかったよ」

「お前もな。よもやこの短期間で俺を超えていくとは、あっぱれだ。……俺はお前が旅に出ると決めた時、『野心が途中でなくなる』とからかった。だがお前はあらゆる困難に打ち勝ち、遂にポケモンリーグの頂点を目指せる位置にまでいる。大したものよ」

「父さん……」

 ダルマは息を呑んだ。ドーゲンは立ち上がりダルマの瞳を注視する。

「ここまで来たら、俺に言えるのはただ1つ。戦えダルマ。戦って戦って戦いぬいて、その先に何が待っていようと、決して諦めるな! 諦めないその心が、最大の武器になるのだからな。……以上、俺は家に帰るぞ。仕事が入ったからな。優勝したら一緒に飯でも食おう」

 ドーゲンはそう言い残すと、ダルマの返事も聞かずにスタジアムを後にした。父を見送ったダルマに、陽光と拍手がいつまでも降り注ぐのであった。



・次回予告

ポケモンリーグに残るトレーナーは、あと8人。その中にダルマもいる。5回戦を勝ち抜いてきた彼に立ちはだかるのは、予想だにしない人物であった。次回、第80話「ポケモンリーグ6回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.60

非常に今更ではありますが、当連載のおすすめの見かたを紹介。それは、BGMを流しながら読むことです。今なら話の流れ上、熱い戦闘曲をニコニコ辺りで再生しながら読めば、臨場感は3割増し(当社比)に。是非ご活用ください。

今回ドーゲンさんが使ったラッキー、グライオン、エアームドの組み合わせを俗にラキグライムドと呼びます。早い話が、受けループに持ち込みステルスロックや毒々でダメージを稼ぐのが狙いです。スイクンやクレセリアがいればより安定しそうですが、伝説ポケモンを出すのはあれなのでこのように。対策はパルシェンやゴウカザル、マジックミラーやマジックガードくらいでしょうか。

ダメージ計算はレベル50、6V、カモネギ@飛行ジュエル陽気攻撃素早振り、グライオン@どくどくだまわんぱくHP防御振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り。カモネギのジュエルアクロバットでとどめ。カモネギはステルスロック込みでグライオンの燕返しが確定2発。キュウコンの大文字とカモネギの与えたダメージでグライオンは乱数。ブースターの馬鹿力で大文字2発受けたラッキーを確実に倒します。

しかし、そろそろポケモンリーグも終盤。ダルマの相手を予想できるのもあと3回。次回は誰と勝負するのかしら。

あつあ通信vol.60、編者あつあつおでん


  [No.768] 第80話「ポケモンリーグ6回戦第1試合前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/09(Sun) 07:58:57   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ポケモンリーグは6回戦まで進みました。今日は12日目。トレーナー達は次々と姿を消し、残るはたったの8人です。今大会は大番狂わせや予想外の選手の活躍が目立ち、大変盛り上がっています。さあ、そろそろ試合が始まります。世間的には準々決勝、ポケモンリーグ的には6回戦、選手入場!」

「さて、今日も戦いぬくぞ」

 ダルマは今日もスタジアムに乗り込んだ。日に日に大きくなる歓声とカメラのフラッシュにも、もはや物怖じする気配は微塵も感じられない。

「ようやく会えましたね、ダルマ様」

「ユミじゃないか! まさかここまで勝ち残るなんてびっくりだよ」

 ダルマは対戦相手を見て思わず興奮したようである。無理もない、彼に立ちはだかるのはずっと旅をしてきたユミなのだから。彼女は穏やかな口調で受け答えした。

「ふふ、私はダルマ様のライバルですからね。そう簡単に負けてしまっては、ダルマ様に顔向けできません」

「……今も顔を背けているみたいだけど?」

 ダルマはさりげなく指摘した。彼の言う通り、ユミは少し目線がふらついている。彼女は一瞬飛び上がったものの、何事もなかったかのように流した。

「そ、そんなことありません。それより早く試合を始めましょう」

「……まあ良いか。審判さん、お願いします」

 腑に落ちない表情ながら、ダルマはボールを手に取った。その動きを確認した審判はいつものように試合開始を告げる。

「これより、ポケモンリーグ本選6回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、ユミ。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」

「ゆけ、キマワリ!」

「いきますよ、ガブリアス!」

 ダルマとユミ、ライバルの2人による対決が幕を開けた。ダルマはキマワリ、ユミは黒ずんだ青色のポケモンが先発である。その色に、観客席から驚嘆の声が漏れた。

「ダルマ選手はキマワリ、ユミ選手はガブリアスで始まりました6回戦第1試合。ガブリアスとはまた強力なポケモンですね、しかも色違いだ!」

「ガブリアスって、もしかしてフカマルのか」

 ダルマは図鑑を開いた。ガブリアスはガバイトの進化形で、現在最も強いポケモンの1匹である。高い素早さ、攻撃、耐久を兼ね備え、技も強力なものばかり。真正面はもちろん、交代からでも軽く2、3匹は倒してしまう。倒すなら早いにこしたことはない。

「なるほど、ドラゴンタイプだけど草タイプは効くのか。よし、まずはリーフストームだ!」

「ガブリアス、つるぎのまいです!」

先手はガブリアスだ。ガブリアスは悠々と戦いの舞いを披露した。一方キマワリは、懐から若草色の石を取り出し、噛み砕く。それから嵐に尖った葉っぱを乗せて飛ばした。その威力はいつもより明らかに強く、ガブリアスに深々と葉っぱが突き刺さる。だが、ほうほうの体ながらガブリアスは耐えきった。

「キマワリ、初手からジュエルリーフストームを決めてきました。しかしガブリアスは硬い、なんとか首の皮1枚でつながりました」

「おいおい嘘だろ、素で耐えるなんて」

 ダルマは息を呑んだ。その姿を前にして、ユミは自信満々に指示を出す。

「……これが私の実力ですわ。ガブリアス、げきりん!」

「やばっ、戻れキマワリ、オーダイル!」

 ダルマはキマワリを引っ込め、オーダイルを繰り出した。他方、ガブリアスは頭から湯気を放ちながら滅茶苦茶に暴れだした。つるぎのまいで強化されていることもあり、オーダイルは苦渋に顔を歪ませる。だが、ぎりぎりのところで踏みとどまった。ダルマはここぞとばかりに叫ぶ。

「げきりんの途中なら逃げられない、アクアジェットでとどめだ!」

 オーダイルは全身に水をまとい、突撃した。激流の如き砲弾はガブリアスを蹴散らし、沈めた。

「ガブリアス戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「よし、これで1歩リードだ」

「さすがダルマ様、そう易々とは勝たせてくれませんね。では2匹目、メガニウム!」

 ユミはガブリアスをボールに戻すと、次のポケモンを送り出した。出てきたのは、首周りに花びらがあるポケモンだ。そのポケモンが呼吸をする度、辺りの空気が清々しいものになる。

「メガニウムか。オーダイルよりちょっとだけ速いんだよな、あの姿で」

 ダルマは図鑑をチェックした。メガニウムはベイリーフの進化形である。その吐息には枯れた植物を蘇らせる力がある。能力はHP、防御、特防が高く、耐久型がよく使われる。草タイプだがかなり硬いので色々厄介だ。

「先制技が使えるオーダイルはまだ使い道がある。よし、戻れオーダイル、キュウコン!」

「隙あり、ひかりのかべ!」

 ダルマはオーダイルを戻し、キュウコンを投入。スタジアム上空の雲が瞬く間に消えて晴れ上がった。その間にメガニウムは薄い赤紫の壁を張った。

「キュウコン登場、スタジアムは日差しが強くなったあ! ダルマ選手、ユミ選手、共に場を整えてきました」

「へへ、晴れていたら苦しいでしょ。さあ、大文字で焼き払え!」

「……この時を待ってましたよ。メガニウム戻って、バンギラス!」

 キュウコンが大の字の炎を撃とうとした、まさにその時。ユミは素早くメガニウムを回収し、別のポケモンに交代した。2メートル程の高さに若緑の鎧を装備し、頭にハチマキを巻き、非常に威圧感のあるポケモンである。しかもそのポケモンが唸ると、たちどころに天気が砂嵐になったではないか。晴れの恩恵を得られないキュウコンの大文字は、そのポケモンに傷1つをつけるのがやっとだった。

「な、なんだと! 天気が砂嵐に……しかも全然効いてないじゃないか!」

 ダルマは図鑑を覗き込んだ。バンギラスはサナギラスの進化形で、能力が非常に高い。素早さこそ低いものの、持ち前の耐久でそれをカバー。特性のすなおこしは天気を砂嵐にするというもの。砂嵐状態だと岩タイプの特防が上昇する。バンギラスは岩、悪タイプ故に、素の耐久もあるためとても硬い。しかし弱点も多い。相性がはっきりしているポケモンである。

「ふふっ、早くセキエイ高原に着いたので、シロガネ山で捕まえておいたんです。これで私の勝ちは決まりですね」

「それはどうかな。また場に出せば良いだけのこと。戻れキュウ……」

「逃がしませんよ、おいうち!」

 ダルマはキュウコンを別のポケモンと入れ替えようとした。バンギラスはそれを狙っておいうちを仕掛ける。不意の1発を受け、キュウコンは気絶してしまった。

「キュウコン戦闘不能、バンギラスの勝ち!」

「おっと、ダルマ選手は要のキュウコンを早々と失ってしまいました。ここからどのように戦うのでしょうか」

「や、やられた……。うかつだった、こんな隠し玉がいたなんて。まずはこいつをなんとかしないとな……」

 ダルマは頭をかきむしりながら次のポケモンを場に出すのであった。



・次回予告

ユミのハイスペックなポケモンに押され、中々自分の流れを掴めないダルマ。果たして彼は勝利を手にできるのか。次回、第81話「ポケモンリーグ6回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.61

今日は登場人物のポケモンの紹介をしてみます。メインの3人で唯一シンオウのポケモンを持っているユミ。彼女のガブリアスは陽気HP172攻撃44防御4特防36素早252振りです。この振り方はHPが205になることから205ガブリアスと呼ばれます。耐久は、特化ヘラクロス@拘り鉢巻のインファイトと、無補正全振りサンダーのめざぱ氷を確定で耐えます。実際はもう少し効率の良い201ガブリアスもあるのですが、身代わりが地球投げを耐えるのでこちらも中々人気。剣の舞を確実に使うのが狙いとなっています。さすが現状最強ポケモン、やることが違う。
ダメージ計算は、レベル50、6V、ガブリアス陽気205ガブリアス調整、キマワリ@草ジュエル臆病特攻素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、メガニウム穏やかHP特防振り、キュウコン臆病特攻素早振り、バンギラス@意地っ張りHP252攻撃220特防36振り。バンギラスの調整は、メジャーな「拘りメガネ臆病ラティオスの竜星群を半減込みで2回耐える」ものです。これで交代しなくても追い討ちでHP4振りラティオスを砂嵐で超高乱数1発にできます。で、キマワリのジュエルリーフストームをガブリアスは確定で耐えます。ガブリアスの剣舞逆鱗はオーダイルを中乱数1発、半分くらいの確率で耐えます。そこからの激流アクアジェットでキマワリの与えたダメージを合わせて確定で倒せます。キュウコンの大文字は壁と砂嵐のあるバンギラスにはたった14〜16ダメージ、乱数13〜15発という超耐久。そして交代際追い討ちで砂嵐なしでもキュウコンを確定1発。バンギラス強すぎる。まさに相手を選ぶポケモンですね。

あつあ通信vol.61、編者あつあつおでん


  [No.771] 第81話「ポケモンリーグ6回戦第1試合後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/10(Mon) 16:00:10   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ゆけ、ブースター!」

 ダルマはキュウコンとブースターを交代した。もふもふの体が砂嵐の中でも目立つ。

「ダルマ選手、次のポケモンはブースターです。このポケモンも大事な場面でさりげない活躍を見せています。今回はバンギラス相手にどう立ち回るのでしょうか」

「ブースターですか、進化させたのですね」

 ユミは図鑑を開いた。ブースターはイーブイの進化形で、俗に唯一王と呼ばれる。非常に高い攻撃を持つものの、使える物理技が貧弱なことがその由来だ。しかも鈍速低耐久故に動く前にやられることもままある。だが活躍できないわけではない。

「一気に決めるぞ、馬鹿力!」

 ブースターは機先を制した。素早くバンギラスの頭上に飛び上がり、4本の足で踏みつける。バンギラスは地面にめり込み、たまらず気絶した。

「バンギラス戦闘不能、ブースターの勝ち!」

「そんな、バンギラスが1発で倒されるなんて……」
「へへ、ブースターの攻撃を舐めちゃいけないよ。まあ、馬鹿力はデメリットもあるから連発できないけどね」

「……油断しましたわ。しかしまだまだ勝負はこれからです、ヌオー!」

 ユミはバンギラスをボールに戻し、ヌオーを繰り出した。相変わらず点のような目が人々を和ませる。もっとも、ダルマにはそのような余裕は見受けられないが。

「ユミ選手、後続はヌオーです。その耐久から安定した威力のカウンターで、幾多のピンチを切り抜けてきました。ここではどのように動くか」

「ヌオー、地震攻撃です!」

「危ない、戻れブースター、キマワリ!」

 ダルマはブースターを回収し、キマワリと入れ替えた。キマワリは出てきて早々地震の衝撃と砂嵐を食らうも、まだまだ元気だ。

「ダルマ選手、キマワリに交代です。ポケモンリーグではその超火力でここまで無敗、先程もガブリアスをあと1歩まで追い詰めました。既にユミ選手の光の壁は消滅、大活躍が期待できます」

「キマワリはちょっと不利ですね。戻ってヌオー、メガニウム!」

「隙あり、にほんばれだ!」

 ここで勝負が大きく動いた。まず、ユミはヌオーからメガニウムにチェンジ。一方キマワリは両手の葉っぱを天に伸ばす。すると砂嵐は収まり、かんかん照りになった。そしてキマワリの体中から煙が立ってきた。

「日差しが強くなりましたね。しかし、これなら何も問題ないですよ、ひかりのかべ!」

「チャンスだ、アンコール!」

 メガニウムが再びひかりのかべを使った直後。キマワリは葉っぱで拍手をし、アンコールを促した。メガニウムは照れ笑いをしながらそれに応じる。

「アンコールが決まったあ! ダルマ選手、大きな好機を手にしました」

「くっ、仕方ありません。戻ってメガニウム。ヌオー、お願いします!」

「よし。いくぞ、ソーラービーム!」

 ユミは苦渋の1手を打たざるを得なかった。メガニウムを引っ込め、ヌオーを再登場させたのである。他方、キマワリはお得意の光の束を集め、丸太のような太さの光線を発射した。ひかりのかべで幾分削がれたが、それでも十分な1発がヌオーを焼き尽くす。結果、ヌオーの丸焼きが完成した。

「ヌオー戦闘不能、キマワリの勝ち!」

「ふう、あと2匹か。だいぶ楽になってきた」

「……いけませんね、そろそろ本気を出さなければ。エーフィ、叩き潰してやりな!」

 ユミは次のポケモンを送り出した。出てきたのはエーフィである。スタジアムは急にざわめいてきた。実況も戸惑い気味だ。

「ユミ選手、5匹目はエーフィです。これで全てのポケモンを使いましたが……何かが変です。まるで別人のような……」

「つ、遂に豹変したか」

 ダルマは冷や汗を流しながら図鑑をチェックした。エーフィはイーブイの進化形で、高い特攻と素早さを備える。どこかのもふもふより遥かに使いやすいが、攻撃するだけではフーディンに劣る。そのため、補助技を絡めて戦うのが人気である。

 ダルマは豹変したユミをまじまじと見つめた。出会った時から変わらぬ美貌だが、恐怖を感じさせるのが今の彼女である。しかし彼は物怖じすることなく叫んだ。

「……どんなに変わっても、彼女が俺のライバルであることに疑問の余地はない。だからびびらない。何があっても俺は退かない。かかってこい、ユミ!」

「はっ、寝言は寝て言いな、サイコキネシス!」

 バトルが再開された。キマワリが動こうとする前に、エーフィはサイコキネシスでキマワリをきつく絞る。ダメージの蓄積していたキマワリはここで倒れた。

「キマワリ戦闘不能、エーフィの勝ち!」

「キマワリ、6回戦で遂に土がつきました! 勢いのついたユミ選手を、ダルマ選手は止められるのか?」

「くっそー、さすがにやるな。ブースター、かたをつけるぞ!」

 ダルマはキマワリをボールに収め、ブースターを投入した。エーフィの攻めは緩むことなく、交代際から攻撃が飛んでくる。

「雑魚はすっこんでな、サイコキネシス!」

「あくびで眠らせろ!」

 ブースターはエーフィに雑巾のように扱われる中、なんとかあくびを使った。ところが、なんとブースターが舟を漕ぎだしたではないか。これにはダルマも驚きを隠し得ない。

「な、なんだ……ブースターがうとうとしているじゃないか!」

「ふん、何勘違いしてんだい。アタイのエーフィの特性はマジックミラー……そんなちゃちな技なんざ効かないのさ! サイコキネシス!」

 エーフィはブースターを何度も地面に叩きつけた。このたたみかける攻撃に、ブースターはぼろきれのようになってしまった。

「ブースター戦闘不能、エーフィの勝ち!」

「まずいな、追いつかれてきた。頼む、スピアー!」

 ダルマはブースターとスピアーをバトンタッチさせた。スピアーにはきあいのタスキが巻いてある。

「無駄無駄無駄無駄、サイコキネシス!」

「おいかぜだ!」

 エーフィは思考を停止したかのようにサイコキネシス1本で攻める。スピアーはタスキでこれをしのぎ、おいかぜを辺りに吹かせた。スピアーの動きがにわかに俊敏になる。

「今だ、シザークロス!」

 おいかぜに乗ったスピアーはエーフィに接近、自慢の針で切りつけた。効果は抜群、無双状態のエーフィを見事に止めた。

「エーフィ戦闘不能、スピアーの勝ち!」

「はあはあ……あと1匹、メガニウムだけか」

「ちっ、いけすかないね。メガニウム、出番だよ!」

 ユミは唇を噛みながら最後のポケモン、メガニウムを呼び出した。

「ユミ選手、最後に残ったのはメガニウム。ダルマ選手は3匹と、大きくリードしています」

「シザークロスだ!」

「甘いね、ギガドレイン!」

 スピアーはさっきと同じくメガニウムを切り裂く。その時、メガニウムはスピアーの針を通じて養分を吸い取った。ほうほうの体だったスピアーは、しなびたキノコのように崩れ落ちる。

「スピアー戦闘不能、メガニウムの勝ち!」

「や、ヤバい。あと2匹しかいないぞ。けどおいかぜがあるから大丈夫、オーダイル!」

 ダルマはボールを強く握り締めると、切り札オーダイルを降臨させた。すかさず彼は指示を送る。

「これで最後だ、冷凍パンチ!」

 オーダイルは右腕に冷気を込め、メガニウムを殴りつけた。これが決定打となり、メガニウムは地響きをあげて倒れこんだ。

「……メガニウム戦闘不能、オーダイルの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」

「よっしゃ、準決勝進出だ!」

 勝利が決まったダルマは、思わず雄叫びをあげた。それを受け、テレビカメラが一斉にダルマに注目する。

「ダルマ選手、見事6回戦も勝利しました。残すところあと2試合、今大会のダークホースは優勝にまた1歩歩み寄りました」

 実況と外野が大騒ぎする中、ユミがダルマに近寄ってきた。ダルマはふと身構える。

「ダルマ様、さすがでした!」

「ありがとう。あ、元に戻った?」

「はい。……ダルマ様、ありがとうございます。ダルマ様がライバルになってくれたおかげで、勝つためになりふり構わず戦えました。もうどんな自分だって受け入れられます」

「はは、そりゃ良かった。ん、でも試合前は目が泳いでいたような……?」

「そ、それは関係ありません! では私はこれで失礼します!」

 ユミはさっとダルマに背を向け、そそくさとスタジアムを後にした。ダルマは首をかしげながらオーダイルに尋ねるのであった。

「なあオーダイル。俺、何か変なこと言ったかな?」



・次回予告

準決勝、ここまで残ったのはたった4人。その中にダルマはいるのだ。ここまで戦いぬいた彼に対抗するのは、あのトレーナーであった。次回、第82話「ポケモンリーグ準決勝第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.62

今日のポケモン紹介はダルマのオーダイルです。意地っ張りHP攻撃振り、技はアクアジェット、剣舞、何か、何か。作中で何度も戦ってますが、剣舞からの物理エースです。ギャラドスには使えない激流剣舞アクアジェットで並のポケモンをことごとく倒します。進化するまではかませ役も結構ありましたが、今ではキュウコン、キマワリに並ぶ主力に。種族値合計がパーティで1番なだけはある。ブースターもこれくらい活躍させたいです。

ダメージ計算は、レベル50、6V、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、エーフィ臆病特攻素早振り、スピアー陽気攻撃素早振り。ブースターの馬鹿力でバンギラスが確定1発。キマワリにヌオーの地震は確定4発、キマワリのサンパワーソーラービームは壁があってもヌオーを確定1発。エーフィのサイコキネシスでダメージ受けたキマワリが確定1発、ブースターが確定2発。スピアーの虫の知らせシザークロスでエーフィが確定1発、メガニウムには耐えられます。そしてオーダイルの冷凍パンチでメガニウムを倒せます。


あつあ通信vol.62、編者あつあつおでん


  [No.772] 第82話「ポケモンリーグ準決勝第1試合前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/12(Wed) 14:33:25   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ポケモンリーグ13日目、今日は準決勝の2試合が行われます。今日勝った選手が、最終日である15日目の決勝戦に参加します。今や、残るトレーナーはたったの4人。しかし、その4人を見ようと今日も観客席は大入り満員です。では、そろそろその期待に応えてもらいましょう。準決勝第1試合、選手入場!」

「今日勝てば決勝戦か……」

 湧き起こる歓声を浴びながら、ダルマはスタジアムに乗り込んだ。毎回見てきたトーナメント表は敗者の名前が消され、すっかり寂しくなっている。

 そんな中、感傷に浸るダルマに対戦相手が声をかけた。

「遂に当たったな、ダルマ」

「カラシ! 準決勝でお前と勝負か、こりゃかなり厳しいな」

「ふん、まだ残っていたか。俺とぶち当たるまでに負けやしないかと心配した
が、杞憂だったな」

 ダルマの準決勝の相手、カラシは不敵な笑みを浮かべた。ダルマは苦笑いしながら受け答えする。

「全くだよ。それより、報酬はもらえたか?」

「……ああ。想像以上の額だった。しかも正式に四天王候補のオファーまで来た。全てお前のおかげだ、感謝する」

 カラシはダルマに向けて頭を下げた。ダルマは一瞬目を丸くしたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「はは、どういたしまして」

「……だが、当然この試合では本気でかかる。手加減なんて考えないことだ。さあ、命を賭けてかかってこい!」

 カラシはこう宣言すると、ボールを手に取った。ダルマも釣られてバトルの準備に入る。2人の様子を確認した審判は、試合開始を叫んだ。

「これより、ポケモンリーグ本選準決勝第1試合を始めます。対戦者はダルマ、カラシ。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」

「キュウコン、いくぞ!」

「キリンリキ、出番だ!」

 準決勝の幕が、遂に上がった。ダルマの先発はキュウコン、カラシの1匹目はキリンリキである。スタジアムは早速強い日差しが降り注いできた。

「準決勝が始まりました。カラシ選手はキリンリキ、ダルマ選手はキュウコン。共に各選手の戦術を支えてきたポケモンです。さあ、どちらが先に主導権を握るのでしょうか」

「キリンリキか、またバトンタッチかな。よし、まずはわるだくみだ!」

「こうそくいどう!」

 まずはお互い様子見だ。キュウコンは低い笑い声を漏らし、尻尾から熱を噴出した。一方、キリンリキは体の力を抜いて辺りを駆け回る。

「バトンタッチだ」

「させるか、大文字!」

 ここで、キリンリキはカラシの元に帰り、別のポケモンと交代した。そうはさせじとキュウコンは大の字の炎を発射。大文字は交代したポケモンに命中したものの、相手は余裕たっぷりの表情である。しかも、とんでもないことが起こった。

「カラシ選手、素早さを引き継ぎゴルダックに交代してきました。おや……天気が落ち着いてきましたね」

「な、なんだ? あんまりパワーが出なかったぞ」

 ダルマは図鑑を開いた。ゴルダックはコダックの進化形で、バランスが良いとも中途半端とも言える能力を持つ。このポケモンの特性ノーてんきは天候の効果を無効にするというものである。非常に強力な特性であり、能力差を気にせず使う人も少なからずいる。

「なるほど、晴れをかき消されたから耐えられたのか。仕方ない、戻れキュウコン。オーダイル!」

「逃がすな、ハイドロポンプで仕留めろ!」

 ダルマはキュウコンを引っ込めオーダイルを繰り出した。オーダイルは登場早々、ゴルダックの槍の如き水を受けたが、意に介さない様子である。カラシもこれは計算済みなのか、眉1つ動かさない。

「ふん、その程度で止められるものか。めざめるパワーだ」

「なんの、つるぎのまい!」

 先手はゴルダックだ。ゴルダックは若草色の光を放った。オーダイルはその顔を苦渋に歪ませるも、懐のオボンで回復。そして戦いの舞いを披露した。

「もう1発、これで終わりだ!」

「そうはいくか、地震攻撃!」

 ゴルダックは再びめざめるパワーを使った。オーダイルは脂汗を滴らせたが、踏ん張った。オーダイルは地面を踏みならし、地震波でゴルダックに襲いかかる。ゴルダックはこれを耐えきれず、倒れこんだ。

「ゴルダック戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

「よし、まずは1匹。……だけど、また日差しが強くなってきたぞ。このままだとやり辛いな。カラシの奴、そこまで見越していたのか?」

 ダルマは額の汗を拭いながら空を見上げた。ゴルダックが倒れたことで、天候はまたかんかん照りになってきている。

「ふん、俺を舐めたら痛い目見るぜ。クロバット、仕事だ」

 カラシはゴルダックを回収すると、自信に満ちた表情で次のポケモンを投入した。現れたのは、素早さに定評のあるクロバットである。

「カラシ選手の2匹目はクロバット、さっそうと登場です。オーダイルは激流の特性、つるぎのまいを駆使した攻撃で、数多の強敵を突破してきました。今回はどこまで活躍するのでしょうか」

「オーダイル、アクアジェット!」

「無駄だ、アクロバット」

 オーダイルは全身に水をまとい、激流の如くクロバットに攻め込んだ。しかし晴れているせいか、いかんせん火力がない。これを受けとめたクロバットは、華麗に4枚の翼でオーダイルを叩きつける。蓄積ダメージもあり、オーダイルは地に伏せた。

「オーダイル戦闘不能、クロバットの勝ち!」

「はっ、これでお前の切り札はいなくなったな。あとは厄介な晴れ使いさえ潰せば俺の勝利は決定的、せいぜいあがくことだ」

「……おいおい、そんな天狗になったらろくなことにならないぞ。まあ良いか、今はバトルに集中だ。頼むぞ、ブースター!」



・次回予告

準決勝は一進一退の攻防が続く激戦となった。そこでカラシが投入した秘密兵器に、スタジアムが唸りをあげるのであった。次回、第83話「ポケモンリーグ準決勝第1試合中編」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.63

やはり、カラシは最後の対決を飾るにふさわしい相手です。登場人物が結構のんびりしている中でも、彼はストイックに頑張るのでやりやすいです。

ダメージ計算は、レベル50、6V、キュウコン臆病特攻素早振り、キリンリキ臆病HP252防御68特攻4特防108素早76振り、ゴルダック控えめHP特攻振り、オーダイル@オボン意地っ張りHP攻撃振り、クロバット陽気攻撃素早振り。キュウコンの悪巧み大文字はノーてんきゴルダックに確定で耐えられます。オーダイルはオボン込みでゴルダックのハイドロポンプとめざぱ草2発を乱数で耐えます。そして剣舞地震でキュウコンの大文字と合わせてゴルダックを確定で倒せます。オーダイルの剣舞激流アクアジェットは晴れ込みでクロバットに耐えられ、返しのアクロバットで落とされます。


あつあ通信vol.63、編者あつあつおでん


  [No.773] 第83話「ポケモンリーグ準決勝第1試合中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/14(Fri) 18:21:49   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ダルマ選手、ブースターを連れ出しました。晴れ下での決定力に定評がありますが、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか」

 ダルマが次に繰り出したのはブースターだ。ブースターは体中から熱気を放ち、辺りの空気が揺らぐ。

「そんな鈍い奴にはこれがお似合いだな、あやしいひかり!」

 勝負が再び動き始めた。まずクロバットがブースターに刺すような光を浴びせた。すると、ブースターの足元がふらついてくる。これに気付いたダルマは、腹から声を出した。

「ぐっ。負けるなブースター、ほのおのキバだ!」

 ダルマの叫びが通じたのか、ブースターはなんとかクロバットに飛びついた。そして自慢の牙を熱し、クロバットの翼の付け根に噛みつく。クロバットは苦悶の表情を浮かべるが、手がないのでブースターを引き剥がすことができない。故に、クロバットはブースターの攻撃で力尽きた。

「クロバット戦闘不能、ブースターの勝ち!」

「ふう、危なかったー」

 ダルマは額の汗を拭った。安堵の表情を浮かべている。一方カラシはやや眉を釣り上げた。

「ちっ、悪運の強い男だ。キリンリキ、いくぜ」

 カラシは入れ替わりでキリンリキを送り出した。今日2回目の登場である。

「こうそくいどうだ」

「仕留めろ、オーバーヒート!」

 先程のように、キリンリキは周囲を駆け回った。そんなキリンリキに狙いを定め、ブースターは全身から熱波を放出。晴れも相まってスタジアムの地面が焦げつく程だ。キリンリキはこれをもろに受けたが、まだ動ける様子である。

「まだ倒れないのか。ならば電光石火だ!」

「甘い、バトンタッチ」

 ブースターは急加速してキリンリキに体当たりした。ところが、キリンリキは体を震わせながらも耐えきってしまったではないか。すかさずキリンリキは退場、控えのポケモンと入れ替わる。出てきたのはカイリキー、前回と同じく毒々玉を手にしている。

「カラシ選手、カイリキーにバトンタッチです。いきなり猛毒を浴びましたが大丈夫でしょうか」

「カイリキー、インファイトだ」

 カイリキーは有無を言わせずブースターの懐に接近。そこから4本の腕で滅多打ちをした。さすがの攻撃力に、ブースターはたまらず気絶した。

「ブースター戦闘不能、カイリキーの勝ち!」

「う、うぐおおお! かなり厄介なことになってきたな。だけど、こいつがいれば逆転できる。スピアー、頼むぞ!」

 ダルマは目をぎらつかせながらスピアーを投入した。今日の試合も、気合いのタスキを持つのはこのスピアーである。

「無駄無駄、ほのおのパンチ!」

「なんの、おいかぜだ!」

 先手はやはりカイリキーだ。カイリキーは腕を燃やし、スピアーの腹部に叩きつけた。スピアーはタスキでこらえ、おいかぜを呼び込む。スタジアムに熱を帯びた風が流れてきた。

「そのままがむしゃ……」

「遅い、バレットパンチ」

 スピアーが動くよりも先に、カイリキーは弾丸のように飛びとどめのパンチをヒットさせた。スピアーは紙切れの如く地面に落下する。

「スピアー戦闘不能、カイリキーの勝ち!」

「へっ、俺の勝ちが見えてきたな。3対3ならこちらが有利、一気にいかせてもらうぜ」

 カラシは左うちわの様子で不敵な笑みを浮かべた。ダルマはと言うと、こちらはふてぶてしく鼻で笑っている。2人の笑い声がスタジアムに染み入る。

「……今までこんな状況が幾度もあった。いつ負けてもおかしくないシチュエーション。けど、今はピンチじゃない。むしろ俺は今チャンスのまっただ中にいる。もう舞台は整ったからな、出番だキュウコン!」

 ダルマは胸を張ってキュウコンを再登場させた。キュウコンは出てきて早々に行動に移る。

「大文字だ!」

 キュウコンは大の字の炎を撃った。それはちょうどカイリキーの手足にぴったり命中し、丸焼けにしてしまった。カイリキーは、火が消えると同時に崩れ落ちる。

「カイリキー戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「なんだと……どういうことだ!」

 カラシは拳を握り締め、歯ぎしりをした。地面を踏みつけてもいる。ダルマは勝ち誇った顔でこう断言した。

「どういうことって、最初から俺のチャンスだったんだよ。おいかぜが決まった時点でね」

「ふん、口だけは達者みたいだな。キリンリキ!」

 カラシはさらに目を釣り上げ、キリンリキを引っ張り出した。ブースターの与えたダメージのせいか、足に力が入っていないように見受けられる。

「キリンリキはもう虫の息、大文字だ!」

 キュウコンは三度大文字を発射した。キリンリキに避ける力は残っておらず、直撃。キリンリキの姿焼きの完成である。

「キリンリキ戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

「よっしゃ、あと1匹!」

 ダルマは思わずガッツポーズを取った。おいかぜは止んだが、彼が圧倒的優位なことに変わりはない。この状況で、カラシは最後のボールをじっと見つめる。

「……遂にこれを使う時が来たか。俺を勝利に導く最後のチャンス、必ず掴んでみせる。ガラガラ!」

 ちょっと間を置いて身を正し、澄ました顔をしながら、カラシはガラガラに全てを託した。これが彼の最後のポケモンである。

「カラシ選手、いよいよ最後のポケモンです。数々の強敵を蹴散らした力を持ちますすが、この1対3という状況を覆せるのでしょうか」

「……ここが勝負所、全てに決着をつけよう。キュウコン、大文字で終わりだ!」

「……甘いぜ」

 キュウコンは渾身の力で大文字を使った。業火はガラガラに迫り、カラシは万事休すと観客の誰もが息を呑んだ。

 ところが、である。ガラガラがひとたび骨を投げつけると、大文字を打ち破ってしまったではないか。溶けんばかりに熱せられた骨が戻ってくると、ガラガラは予想外の動きを見せるのであった。

「ガラガラ、はらだいこだ!」



・次回予告

ガラガラが使った技により、バトルの状況は一変。ダルマは一気に窮地へ追い込まれてしまった。果たしてこのピンチを切り抜けることができるのか。次回、第84話「ポケモンリーグ準決勝第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.64

いきなりですがお知らせです。この作品がもうすぐ完結するのは皆さんおわかりだと思います。そこで、たまにはこんなのがあっても良いかなあと考え、以下のような募集をします。

・【募集】質問、お便り
・【期間】最終話を投稿するまで
・【内容】ストーリーのこと、誤字脱字及び技の誤用の報告、作品執筆の過程など、常識の範囲内なら可
・【採用したら】後に投稿する総括にて回答
・【備考】紙面が最大5000字です。質問数によっては全て答えられない可能性があります。また、質問がなくても総括は投稿します。
以上。お時間があれば書いてやってください。

ちなみに、本文の「ちょっと間を置いて身を正し、澄ました顔をしながら」は、某プロ野球監督が発言した「すごいな、カープ。どうやったんだ?」の記事を引用しました。あの監督は前任に比べ散々だけど、ネタ発言はしっかりしてくれる。

ダメージ計算は、レベル50、6V、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、カイリキー@毒々玉意地っ張り攻撃素早振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り。ブースターの炎の牙で手負いのクロバットを確定で倒せます。ブースターのオーバーヒートと電光石火をキリンリキは高乱数で耐え、ブースターはカイリキーの根性インファイトで一撃。スピアーはタスキ込みでカイリキーの炎のパンチを耐えます。キュウコンの大文字なら毒々玉込みで倒せます。もちろん後続のキリンリキも1発。なお、ガラガラが骨ブーメランで大文字を打ち破ったのは、「ゲームにおける技が外れる」を表現したものです。

あつあ通信vol.64、編者あつあつおでん


  [No.775] 第84話「ポケモンリーグ準決勝第1試合後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/15(Sat) 12:11:36   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「な、なんだ一体……辺りの様子がおかしいぞ」

 ダルマは辺りを見回した。ガラガラが自らの腹部を叩いた途端、雲もないのに雷があちこちに降り注ぎ、大地が唸りだしたのである。ガラガラからは蒸気があふれ、目を光らせ、体が震えている。それを見たカラシは、腹を抱えて笑った。

「ふふふ……はははははは! はらだいこが決まった。もうお前に勝ち目はないぜ、ダルマ!」

「どういうことだ!」

「まあ、そう慌てるなよ。図鑑で調べてみたらどうだ?」

 カラシに促され、ダルマは図鑑をチェックした。はらだいこは、自分の体力の最大値の半分を消費してパワー全開になる技である。例えどれだけ攻撃を下げられても、必ずパワー全開となる。一昔前は非常に強力な技であったが、今ではすっかり見向きもされない。理由としては、ポケモンの耐久力低下によって素の状態でもダメージが大きくなったことが1つ。また、リスクなしで強力な補助技が増えたのも大きい。しかし、中には先制技と組み合わせると言ったポケモンもいるので、油断はできない。

「パワー全開、か。でも体力が減ったから帰って倒しやすいな。キュウコン、大文字だ!」

「ふっ、骨ブーメラン」

 キュウコンが再び大文字を放つ。それと同時にガラガラは骨を投げるポーズを取った。だが骨は手に収まったままである。ところがその瞬間、どこかから何かがぶつかる音が2回聞こえてきた。音の1つは破裂音、もう1つは鈍い音である。周囲が騒然とする中、今度は何かが倒れる音が響いた。一同が目を向けると、そこには気絶したキュウコンがいた。審判は慌ててジャッジする。

「きゅ、キュウコン戦闘不能、ガラガラの勝ち!」

「ななな、なんということでしょう……。ガラガラ、攻撃してないように見えましたが、実は既に攻撃が終わっていた! つまり、手元にあったのは残像でしょうか。これがカラシ選手の切り札、隠し玉……ダルマ選手、激しく動揺しております」

 実況が言うまでもなく、ダルマは開いた口がふさがらない状態だった。それでもなんとか言葉を絞り出す。

「くっ。あの音、最初の1回で大文字を打ち破り、もう1回でキュウコンを攻撃したのか。たった1回なのになんてパワーだ……」

「わかったか、最強は俺だということが」

「わ、わからないね! 頼むぞキマワリ!」

 ダルマは強がりながらキマワリを投入した。今日もこだわりメガネをかけている。そして焦げている。

「素直に降参すれば良いものを。骨ブーメランだ」

 ガラガラはまたしても腕を振った。やはり骨は手元に残っているように見える。だが、またしても鈍い音が響いた。先ほどと同じく、そこには伸びているキマワリの姿があった。

「キマワリ戦闘不能、ガラガラの勝ち!」

「キマワリ! 半減しても1回で倒されちまっただと……」

 ダルマは力なくキマワリをボールに戻した。彼は何度も深呼吸をし、辛うじて冷静さを保っていた。

「ようやくわかったか、俺の力が。さて、最後はネギを背負ったカモだったな。せめてもの情けだ、一瞬でかたをつけてやる。そして、決勝に進ませてもらう」

「……カモネギ、今こそお前に全てを託す!」

 ダルマは最後のボールを全力で投げた。出てきたのはカモネギ。カモネギは出てきて早々ガラガラに襲いかかるが、その圧倒的な力で押し返された。

「ダルマ選手、最後にカモネギを送り出しましたが……なんと、二刀流です!」

 実況は思わず叫んだ。カモネギの右手にはいつもの茎がある。一方、普段手ぶらの左手には、いつもの茎より一回り長い茎があった。カモネギの闘志を確認したダルマは、カラシを指さしこう言い放った。

「カラシ、敗れたり! 終わっていない勝負で後のことを考えるなど、負けたも同然! これで終わりだ、リーフブレード!」

「笑止! つばめがえしで返り討ちだ!」

 カモネギとガラガラは全速力で接近し、互いに剣を構えた。そして、そのまますれ違いざまに斬りつけ合い、駆け抜ける。やがて2匹の足は止まり、背中を向け合った構図となった。どちらが先に倒れるか……全ての視線が2匹に集まる。

「どうだ……」

 ダルマは両手を合わせて目を閉じた。時間はこれでもかと言う程ゆっくり過ぎていく。カモネギとガラガラは石のように微動だにしない。ダルマとカラシは固唾を呑んで見守り、そして祈る。

 その時、遂にカモネギがふらついてきた。スタジアムは一気にどよめく。カモネギは2本の茎で体を支えた。歯を食いしばり、額から脂汗を噴出するその姿に、一部からすすり泣きが聞こえてくる。

「……ふん、これで俺の……な、何!」

 カラシが勝利を確信した、まさに最後の瞬間。1匹のポケモンが地に伏せた。ダルマは恐る恐る目を開き、結末を確かめた。ダルマの近くにいるポケモン、すなわちガラガラが倒れている。

「……が、ガラガラ戦闘不能、カモネギの勝ち! よって準決勝第1試合、勝者はダルマ選手!」

 審判の声が放たれると、スタジアム中から拍手喝采と叫び声が湧き上がってきた。ある者は勝者を称え、ある者は敗者にねぎらいの言葉をかける。涙で顔がくしゃくしゃになった者もいる。全ての者が揺さぶられる戦い……ダルマとカラシはそれを体現してみせたのだ。

「な、なんという最後だったのでしょうか。スタジアムは静まり返り、実況の私も思わず仕事を忘れてしまいました。これは文句なしで今大会最高のバトルです!」

「ふううううぅ、終わったかあ。勝てて良かった、本当に良かった!」

 ダルマは腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。彼はカモネギをすぐさま回収し、カラシに話しかけた。

「どうだカラシ、あの時勝ったのはまぐれじゃなかったのがわかっただろ?」

「……ああ、俺の負けだ。だが、不思議と悔しさはない。おそらく、本気で戦って負けたからだろうな」

 カラシはガラガラをボールに収めながら呟いた。これを受け、ダルマは頭をかきむしる。

「へへ、そう言われると悪い気はしないな。まあ、お前と勝負して負けたからこそ、ここまで来れたと思う。ありがとう」

「……ふん。その言葉、今回はそっくりそのままもらっておこう。だが次こそは俺が勝つ! せいぜい首を洗って待ってることだ」

「望むところだ!」

 ダルマとカラシ、2人は再戦を約束した。するともう1度スタジアムからスタンディングオベーションの嵐が起こる。

「さて、そろそろ故郷に帰らせてもらうぜ。たまには家に顔を出さないとな」

 カラシはそう言い残すと、ボルテージが最高潮の中出口へと歩き出した。そんな彼に、ダルマはこの言葉を送るのであった。

「か、カラシ! まだ3位決定戦が残っているぞ!」



・次回予告

泣いても笑っても、今度こそ最後の勝負。それはすなわち、ダルマの旅の終わりをも意味する。苦しいことも楽しいこともあったこの旅に、彼は有終の美を飾れるのか。次回、第85話「ポケモンリーグ決勝戦」。ダルマの明日はどっちだっ。


・あつあ通信vol.65

ガラガラとカモネギの戦い……遂に実現しました。まるで宮本武蔵と佐々木小次郎ですね。持ち物とか技とかも意識してみました。しかし素早さ無視をしてしまい、ゲームに忠実なバトルが破綻。2連続で当たらなかったと考えれば良いのでしょうが、いささか違和感が残ってしまう。バトルの難しい点です。

ダメージ計算は、レベル50、6V、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り、カモネギ@長ネギ陽気攻撃素早振り。キュウコンに対して腹太鼓ガラガラの骨ブーメランが、1発目で626〜738、2発食らうと1252〜1476もの規格外のダメージ。これなんてマダンテ? キマワリは半減にもかかわらず、1発目で198〜233、2発食らうと396〜466で確定1発(キマワリのHPは150)。最後のカモネギのリーフブレードは体力半減ガラガラを中乱数で仕留めます。

さて、次はいよいよ決勝戦。ポケモンリーグの優勝者は、その後の結末は。そもそも相手は誰なんだ。私も全力を尽くしますので、どうか最後までお付き合いください。

あつあ通信vol.65、編者あつあつおでん


  [No.780] 第85話「ポケモンリーグ決勝戦」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/19(Wed) 09:30:18   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



「ポケモンリーグ、今日は15日目、時刻は午後8時。いよいよこの時がやってまいりました。先程行われた3位決定戦も中々の盛り上がりを見せました。しかし、ここにいる観客、テレビの視聴者が見たいのは! 今から行われる決勝戦だ! 笑っても泣いてもこれが最後。だからこそ、笑顔で迎え入れよう! それでは、選手入場!」

「……いくぜ。俺とポケモン達、最後の勝負だ!」

 ダルマは力強くスタジアムに乗り込んだ。雲1つない夜空、瞬く星々、スタジアムを照らすライト……全てが彼のために用意されたような気さえ起させる。

「久しぶりだなダルマ! 最後はお前と勝負か」

「ゴロウ! まさかお前が決勝戦の相手なのか?」

 ダルマはトーナメント表と対戦相手を見比べ、目を丸くした。表に書かれていた256人の名前は殆ど消されてしまっている。残るは、ダルマとゴロウ、この2人のみである。決勝戦の相手は、ダルマが初めて戦ったゴロウだったのだ。

ダルマはふと、スクリーンに注目した。映っているのは手持ちの数である。ダルマが6匹なのに対し、ゴロウは1匹しか表示されていない。

「な、なんで1匹しか表示されてないんだ……?」

「それはもちろん、俺が1匹しか持ってねえからだ」

「1匹……はっ、もしかして?」

「その通りだ。俺はポケモンをゲットするのが壊滅的に下手だからな、割り切って1匹で戦っていたんだよ。まあ、キョウのおっさんに相当鍛えてもらったから1匹でも全然大丈夫だけどな!」

「……そうか、なら良い。じゃあそろそろ始めようぜ、これが最後だ」

「おう。あの時の悔しさ、今こそ晴らしてみせる!」

 ゴロウの目に炎が宿った。戦いの開始を告げる合図である。ダルマは1匹目のボールを手に取った。

「これより、ポケモンリーグ決勝戦を始めます。対戦者はダルマ、ゴロウ。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」

「ブースター、まずはお前だ!」

「いくぞラッタ!」

 2人はほぼ同時にボールを投げた。出てきたのはラッタとブースターである。ラッタには、体中に傷が入っている。

 ダルマは図鑑を開いた。ラッタはコラッタの進化形で、並以上の素早さを武器とする。全体的に能力が低いものの、特性や技の威力でそれらを補う。技の範囲は狭いが、全く駄目ということもない。単に鋼タイプを出せば止まるわけではないので、注意が必要だ。

「ダルマ選手はブースター、ゴロウ選手はラッタからです。ゴロウ選手はラッタがやられた瞬間負けとなりますが……な、あれはなんでしょう!」

「う、どうなってるんだ!」

 ダルマはスクリーンの表示に腰を抜かした。ブースターのレベルは50と示されている。他方、ラッタのレベルは上限の100となっていたのである。ブースターは、そんなラッタの威圧感に委縮してしまっている。

「れ、レベル100なんて……どの対戦相手も50程度だったのを考えると、とんでもないな。けどそれがなんだって言うんだ。ブースター、手始めに馬鹿力だ!」

「俺のバトルに手始めなんてねえぞ! 不意打ちだ!」

 ブースターが動き出した途端、ラッタの姿が消えた。すると次の瞬間、ラッタがブースターの背後に現れ、ブースターを殴った。一見普通の攻撃のようだが、ブースターは為す術なく崩れ落ちた。

「ブースター戦闘不能、ラッタの勝ち!」

 ダルマは思わず唸ってしまった。対するゴロウは完全に勝ち誇った様子である。

「ブースター! くそー、こりゃかなり厄介だな。……あ、あれ?」

 ダルマはラッタの異変を察知した。体中を炎が包んだかと思えば、ラッタは火傷状態になってしまったではないか。

「ラッタ、火炎玉で自ら火傷になりました。これはまさか……」

「根性か!」

「その通り。1発耐えてどうにかできるなんて思うんじゃないぞ!」

「へ、へへ。1発耐えるくらい簡単さ、頼むぞスピアー!」

 ダルマはブースターと入れ替わりにスピアーを繰り出した。例のように、右腕にタスキを結んでいる。

「きあいのタスキか。んなもんで俺達は止まらねえよ、みだれひっかき!」

 ラッタは一気にスピアーに接近、自慢の爪でやたらめったらに引っかいた。火傷をしているとは思えないキレである。なんと2回目の攻撃でスピアーを切り捨ててしまった。ラッタはそのままゴロウの元に戻る。

「スピアー戦闘不能、ラッタの勝ち!」

「な、なんだとおおお! みだれひっかきなんて反則だろ」

「んなことねえよ。相手の意表を突くのは立派な戦略だ」

「う、反論できない……」

 ゴロウの言葉に、ダルマは唇を震わせながら地面を踏みつけた。彼はしばし首を捻ると、苦渋の色を浮かべた。

「ええい、こうなったら持久戦だ。キマワリ!」

 ダルマはスピアーとキマワリを交代した。今日もこだわりメガネを装備している。こうして見てみると、どこか別世界の敵と似てなくもない。

「無駄無駄無駄無駄ぁっ、かえんぐるまだ!」

 ラッタは攻め手にこと欠かない。自らに着火し、キマワリに高速で突っ込んできた。これを食らったキマワリは瞬く間に火だるまとなり、炭を通り越して灰となってしまった。

「キマワリ戦闘不能、ラッタの勝ち!」

「やはり耐えないか。けど徐々に体力が削れてきたな。よし、次はキュウコンだ!」

 ダルマはためらわずにキュウコンを投入した。日差しが一気に強くなる。ここまで敵なしのラッタは徐々に火傷のダメージが蓄積しているのか、やや呼吸が荒くなっている。

「おらおら、今度はからげんき!」

 ラッタの快進撃は止まらない。キュウコンの懐へ駆け、無理に暴れまくったのである。歴戦のキュウコンでさえ話にならず、たまらず気絶した。

「キュウコン戦闘不能、ラッタの勝ち!」

「まだまだ、カモネギ!」

 ダルマはすぐさまキュウコンを退かせ、カモネギを送り出した。準決勝と同じく、二刀流で立ち向かう。

「何匹来ても同じこと、からげんきだ!」

 ラッタの前に茎ではあまりに脆い。ラッタは再度からげんき攻撃を行い、2本の茎でガードしていたカモネギを吹き飛ばした。耐久力のないカモネギは、確認するまでもなく瀕死である。

「カモネギ戦闘不能、ラッタの勝ち!」

「なんという戦力差でしょうか。ダルマ選手、あっという間に1対1に持ち込まれました。この絶体絶命のピンチをしのげるのでしょうか」

「……あー、ここが勝負所だな。時間稼ぎをしてくれた皆のためにも、これは負けられない。出番だ、オーダイル!」

 ダルマは努めて冷静に最後の1匹、オーダイルに全てを託した。迎え撃つラッタは既に火傷のダメージが馬鹿にできないものになっている。息は切れ切れで、持ってあと数ターンと言ったところだ。

「へっ、最後は最初と同じ相手か。今の俺達は違う、不意打ちだ!」

 最後の対決、先に動いたのはラッタだ。ラッタはまたしても姿を隠してオーダイルの背後を取り、正拳突きをかました。オーダイルは苦痛に顔を歪ませながら、辛うじて耐えてみせた。一方的な展開で沈黙していたスタジアムが、一気に盛り上がる。

「よし、計画通り。アクアテールを食らえ!」

 オーダイルは背後のラッタに尻尾を叩きつけた。虚を突かれた1発により、ラッタの体は宙を舞う。

「とどめだ、アクアジェット!」

 すかさずオーダイルは全身に水をまとい、激流の如き砲弾となって追撃した。これを受けたラッタは体勢を崩したまま着地し、それを見たダルマは安堵の表情を浮かべた。スタジアムは再び静まり返り、ジャッジを待つ。

 ところが、予想外の事態が発生した。なんとラッタが起き上がったのである。スタジアムのあちこちに、悲鳴にも似た叫びがこだまする。もちろん、ダルマの顔も凍りついた。

「……お前は最高の相棒だぜ、ラッタ。終わりにするぞ、からげんき!」

「うおおおおおおおおおお!」

 ラッタは最後の力を振り絞り、からげんきを叩き込む。ほうほうの体であるオーダイルにはこれを避けることなどできず、地響きを立てながら倒れた。そして、審判の声が全てに幕を下ろすのであった。

「オーダイル戦闘不能、ラッタの勝ち! よって決勝戦、勝者はゴロウ選手!」



・あつあ通信vol.66

ダメージ計算は6V、ラッタ@火炎玉陽気攻撃素早振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り、キュウコン臆病特攻素早振り、カモネギ@長ネギ陽気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り。レベルはラッタが100、その他が50。ブースターへの通常不意打ちを皮切りに、キマワリは火炎車で、スピアーは根性乱れひっかき2発目で、キュウコンは根性空元気で、カモネギも根性空元気で確定1発。オーダイルは根性不意打ちをギリギリ耐えた後激流アクアテールとアクアジェットを255/256の確率で耐えられ、根性空元気で万事休す。ダメージ乱数の選び方がBWで変わってなければ255/256以上の確率で耐えます。まあ、日照り状態の時点で完璧に耐えられてしまうのですが。


あつあ通信vol.66、編者あつあつおでん


  [No.781] 第86話「大長編ポケットモンスター」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/19(Wed) 09:42:03   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「終わっちゃったなあ……」

「どうだダルマ、俺の強さがわかったろ? 初めて戦ったあの時のリベンジ、遂に果たしたぜ!」

「わかったわかった、頼むから何回も言わないでくれ」

 決勝戦が終わった直後から、ダルマ達はセキエイのポケモンセンターで旅の打ち上げをしていた。もっとも、既に寝呆け眼ながら太陽が仕事を始めた様子である。皆、バトル以上に疲れきった表情をしている。その中でも、ゴロウは自分の活躍を語るのに忙しいのか、まだまだはつらつとしている。

「ふふ、2人とも兄弟みたいですね」

「それは」

「ないぞ!」

 ユミの軽い突っ込みに、ダルマとゴロウは即座に否定した。この茶番を眺め、カラシがため息をつく。

「ふん、最後までこのざまか。こんな奴に負けたと思うと、どうしても納得いかないな」

「ははは、そりゃきついなあ。まあ良いじゃないか」

 ダルマは手元にあったサイコソーダで喉を鳴らした。それから、感慨に浸りつつ旅を振り返る。

「この旅で色んな人に出会ったけど、誰もかれも凄い奴ばかりだったよ。ゴロウ、カラシ、ユミ……他にもいっぱいいるけど、これでお別れとなるのは寂しい限りだ」

「確かになー。なんだかんだで長い付き合いになったし、これでおしまいなのはもったいねえ」

「で、でしたらまた旅に出るのはどうですか?」

 ここで、ユミが皆に提案を出した。ダルマは彼女の方を向き、大事な点を尋ねる。

「またって、どこかあてがあるの?」

「ええ。私の家がアサギシティにあるのですが、そこを中心にジョウトの西部なんてどうでしょう。私達、コガネシティまでしか行ってませんから丁度良いと思いますよ」

「お、そりゃ面白そうだな! じゃあ俺は行くぜ、ダルマも当然行くだろ?」

 ゴロウは挙手で意思表示をした。彼はダルマに目を遣る。ダルマは頷きながら答えた。

「ああ、しばらくやることもないしな。カラシはどうする?」

「ふん、俺は遠慮させてもらうぜ、これから忙しくなるからな。……それじゃ、そろそろ失礼する。いいかダルマ、次は俺が勝つことを忘れるな」

 カラシはそうとだけ言い残すと、荷物を手に取りその場を後にするのだった。この無愛想にはダルマもお手上げである。

「行っちまったか、かわいげのない奴。ま、あの調子ならまた会えるだろうし、大丈夫か」

「そうですね。では、私達も出発しましょう。まずはワカバタウンですかね」

「そうだな。……おや、こんな時間に誰だ? もしもし」

 突然、ダルマの図鑑、もといポケギアの着信音が辺りに響いた。彼はポケギアを耳に押し当て受け答える。相手は、聞き慣れない声で話した。

「あ、ダルマさんですか? 私作家をやっている者です、突然のお電話失礼しました。ご迷惑でしたでしょうか?」

「いえ、俺もさっき起きたばかりですから。それで作家さん、こんな時間にご用件ななんでしょう?」

 ダルマがこう問ったところ、作家を名乗る者の声が一段と大きくなった。

「おお、よくぞ聞いてくれました。実は私、ノンフィクションの題材を探していたのですが、なんとも凄い体験をしたトレーナーがいると聞きましてね。そこで、あなたの旅を小説にしたいので、許可を頂こうと連絡をした次第です。どうですか、了承してもらえますか?」

「それは構いませんが……」

 ダルマは気の抜けた返事をした。作家はいよいよご機嫌な調子で喋る。ダルマはもちろん、端から見ているゴロウとユミも、漏れてくる声に戸惑い気味だ。

「そうですか、ありがとうございます! では後に取材をさせてもらいますね。そうそう、タイトルはもう決まっているんですよ。こっそり教えておきますね」

 ここで、作家は受話器越しに深呼吸をして間を置いた。そして、澄ました声でこう叫ぶのであった。

「『大長編ポケットモンスター「逆転編」』!」
















大長編ポケットモンスター「逆転編」

・キャスト

・ポケモントレーナーのダルマ
・ポケモンリーグ優勝者のゴロウ
・探検家志望のユミ
・道具職人のドーゲン
・ポケモン博士のウツギ
・ポケモントレーナーのカラシ
・ポケモン塾のジョバンニ
・キキョウジムリーダーのハヤト
・がらん堂幹部のパウル
・がらん堂塾長のサトウキビ
・ボール職人のガンテツ
・???のミツバ
・ヒワダジムリーダーのツクシ
・コガネ市長のカネナルキ
・市議のイブセ
・技術者のボルト
・コガネジムリーダーのアカネ
・国際警察のハンサム
・チャンピオンのワタル
・四天王のキョウ
・がらん堂幹部のサバカン
・フスベジムリーダーのイブキ
・がらん堂幹部のリノム
・科学者のナズナ
・他端役多数
・出演ポケモン73種類63匹


・スタッフ

・元作品:ポケットモンスターシリーズ
・原作:ゲームフリーク様
・執筆:あつあつおでん
・ストーリー:あつあつおでん
・バトルプラン:あつあつおでん
・設定:あつあつおでん
・デバッグ:読者の皆様


・スペシャルサンクス(敬称略)

・もんじろう
・モバイル色見本 原色大辞典
・文体診断ロゴーン
・小説形態素解析CGI(β)
・トレーナー天国i
・ポケモン ブラック・ホワイト攻略ガイド
・ネタポケまとめwiki
・ポケモン第五世代・対戦考察まとめwiki
・Weblio類語辞典
・ライトノベル作法研究所
・マサラのポケモン図書館
・Google先生
・Yahoo!辞書


・後日談

・逆転の代名詞 ダルマ

 ポケモンリーグでの戦いぶりから、良くも悪くも逆転の代名詞として名を馳せる。パーティ全員で1つの戦略を成し遂げる姿は、初心者トレーナーの手本となった。現在はジョウトの西部を旅しているらしい。

・不器用な優勝者 ゴロウ

 たった1匹でポケモンリーグを制したこだわりと強さから、後々まで語り継がれていく。やがて、彼は全てのポケモントレーナーの目標になる。

・二面性の探検家 ユミ

 故郷に戻り、ダルマと共に探検家の訓練をしている。また、時々ジョバンニの下でポケモンバトルを教えている。彼女の授業は恐れと敬意を持って親しまれているともっぱらの噂らしい。

・真摯な虎 カラシ

 その実力を高く評価され、四天王の1人となる。家族をセキエイに呼んで生活しているらしい。世間から忘れられたはらだいこを使いこなしたことで、評論家からは高い評価を受けた。もっとも、彼は周りを気にせず修練に励むばかりである。

・稀代の道具職人 ドーゲン

 大会で使った量産型しんかのきせきを売りさばき、財産を築く。彼が作った道具はどれもポケモンバトルを変革し、常に時代を作り続けた。しかし、彼自身はバトルをしなかったようだ。

・片割れの科学者 ジョバンニ

 がらん堂が崩壊したことで、閑古鳥が鳴いていたポケモン塾に人が戻ってきた。彼の昔話は様々な人を引き付け、それにより友人トウサが見直されることとなる。

・技術者の鑑 ボルト

 コガネの海に沈んだレプリカボールを作り直し、1代にして巨万の富を得る。しかし物作りへの情熱はとどまるところを知らず、数々の発明品を世に送り出すのだが、それはまた別の話である。

・立ち向かう警察 ハンサム

 最近は暇になり、スロットで時間を潰すこともしばしば。だが割に上手く、コインで手に入れた道具でバトルの腕を磨いていったらしい。

・忘れられた科学者 トウサ

 あれから捜索が続くが、一向に見つからない。果たして彼は生きているのか、それとも……。その答えは神のみぞ知る。



        THE END


  [No.782] あつあ通信特別号 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/19(Wed) 09:43:47   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 いやあ、最後まで読んでいただきありがとうございました。これで本編は終了です。次に投稿する時は別の作品になっているでしょう。

 では、なぜ今更特別号なのか。早い話が、連載の総括と質問の受け答えをするためです。なにせ86話も書きましたから、色々考えることもあるのです。では、まず総括からいきましょう。

・総括

 この作品は「バトルの面白さ」を前面に出すことを目標に作りました。当初はただの冒険物語という予定でしたが、サトウキビさんを思いついたので大幅修正。結果的にこのような話になりました。

 序盤こそは普通のアクションみたいなバトルでしたが、ヒワダジム戦で激変の兆しが現れました。そう、ダメージ計算という概念の導入です。これも当初はなかった要素です。せいぜいタイプ相性を意識すれば良いかと考えていたのですよ。ところがちょっといけそうな感じでしたので試してみたら、あら意外。結構バトルっぽくなってるではありませんか。おかげで途中から「再現性のあるバトル」に目標が変化しました。まあ、シナリオを組む上では楽でしたよ。短いですからね。淡白なのは否めませんが。

 後半からは、とにかく先に続くキーワードを忘れないように入れるのが重要課題でした。突飛な流れは読者を逃がしかねないので、バランス取りに苦心。連載作家さんてこんなに大変なのね。個人的には短編より楽でしたけど。

 さて、この辺で質問に移りたいと思います。いまだリクエストが来ないので自問自答となりますが、良ければどうぞ。


・Q&A

Q:ダルマ、ゴロウ、ユミ、カラシの中で一番強いのは?

A:ストーリー的にもダメージ計算的にもゴロウが最強で間違いありません。ただ、現実的にはフラットバトルを採用するので、その場合はゴロウが最弱です。フラットではユミかカラシでしょうが、ポケモンの能力や相性でユミが1歩リードしています。やはり600族2匹の壁は高い。

Q:得意なジャンル、苦手なジャンルは?

A:これはどうなんだろう。ネタでは陽気な話が得意で、深い思想とかを混ぜた話はてんで駄目、というか好きじゃないです。これはあくまでも私の持論ですが、お話は始めに面白さありきだと考えています。暗くてうじうじした話はイライラしてしまい、内容云々を論じる気になれないと感じているからです。だからその手の話は書きません。よって上手くありません。また、書き方で言えばいわゆる「堅い書き方」を得意としますが、そうでなくても案外書けると思います。

Q:自分の作風はどのようなものだと思うか?

A:これは先の質問と被りそうですが、せっかくなので。私の作風を、自分ではこのように評価しています。「とにかく前向きなエンターテイメント」と。ぶっちゃけた話、作者である私は最初の読者でもあります。もし私が嫌いな作風を貫いたら、仮に読者から好評でも私が持ちません。そのままうんざりして、よくある未完成作品になるでしょう。そうした事態を避ける意味も込めて明るい作品に仕上げています。

Q:次回作で力を入れたい点は?

A:これを語るには、まず今作の反省点を挙げねばなりません。まず何よりもまずかった点が、「ストーリーにカットを入れすぎた」ことです。お気付きだと思いますが、町から町への移動時間が短いんですよ。あって1話を挿入する程度。これを言い換えれば、モブを作ったりするのが苦手なのです。せっかく原作とは違うのですから、こうしたモブをばんばん使えば良かったと反省しています。
2つ目は「100話に届かなかった」ことです。この後書きと感想を合わせても92件の記事と、大長編を名乗るにはやや物足りないです。この作品は3部作なので100話どころか200話くらい軽く超えますが、単体で100話書けなかったのは悔やまれます。
3つ目はあまりにもしょぼい心理描写です。私の話を丁寧に観察すれば、毎度同じ表現を使っていることに気付くでしょう。心理描写に限らず、私は描写全般で苦戦しています。連載中の改善が見られなかったのが非常にもったいないです。
以上より、次回作の目標は「どんな小さな話でも書ききる」、「100話以上続ける」、「一人称で気持ちを前に出す」、これらに加えて「世界中で使われる戦術を世に送る」の4つです。可能な限り頑張りますよ。

Q:ストーリーはどの辺で決まったか?

A:大元となる「普通の冒険」は4年前にできてました。それからしばらくしてサトウキビさん関連のイベントを思いつき始め、原形は完成。あとは執筆の度に町ごとで起こるイベントを考え、町と町の間のイベントをその場その場で構想します。小さな話にはプロットなんて一切ありません。あるのは流れをメモしたものだけです。それすらない話も大量にあります。自分でもよく何も書かずにできたものだと呆れています。

Q:作るのが一番きつかった話は?

A:とにかく逆転クルーズがきつかったです。あんななりでも推理ものですからね、細心の注意を払いましたよ。構想3ヶ月、執筆4日。この後の展開まで全て計算した上であの話を書いたので、随分手間取りました。
ちなみに、次点はダメージ計算の書いてあるバトル全般です。結構辻褄を合わせるのが難しいんですよ。あと、バランスを重視すると様々なタイプを使う必要があります。ところが、鋼タイプやドラゴンタイプはすぐにネタ切れになるのです。おかげで構成の時点で悩まされました。

Q:思い入れのあるキャラは?

A:ゴロウとサトウキビ、ドーゲンです。ゴロウは金銀クリスタルの30番道路にいる短パン小僧で、クリスタルでは「コラッタ1匹で最強になる」という野望を持ってました。これが妙に印象に残っていて、次第に使いたくなりました。実においしいところをさらっていきました。
サトウキビさんは完璧超人として書いたつもりでした。ストーリーの都合上ダルマに負けるので、どうしても完全体にできなかったのが残念です。個人的には渋いキャラで、あらゆる分野に見識を持つおじさんなんですよ。次もこういうキャラを出したいところ。
ドーゲンさん……名前のないパパからよくここまで出世したものです。1話での台詞に爆笑されてしまい(だがお前は俺の息子だけあって、野心が途中で消え失せるからなあ)、そこからキャラとしてレギュラー化。一体何人がこの展開を予想したでしょうか。サトウキビさんとやや被るのが難点ですが、ギャグでもシリアスでも使えるので助かりました。

Q:一番気に入っている話は?

A:やはり逆転クルーズが挙げられますね。産みの苦しみがあった分、愛着もひとしおです。次回作でもミステリーをやってみたいと考えていたり。
これ以外では、キキョウジム、ヒワダジム、フスベジム、69話がお気に入りです。ワタルとサバカンの3回目のバトルも中々。

Q:次回作の目標は?

A:上の質問と被る気がしますが気にしない。今作は残念なことに、誤字が1箇所ありました。故に、次回作は誤字脱字を一切見逃さないようにしたいです。また、風刺や時事ネタをきかせてみたいとは考えています。

Q:なぜサトウキビさんはサングラスをしているのか?

A:ストーリー的には素性を隠すためです。作者的には作画の負担を減らすためです。彼を考案した当初、私は絵、特に目元が壊滅的に下手でした(現在は多少ましになってます)。で、いつか描きたいと思っていたので、「眼鏡かけよう」ということになったのです。しかし眼鏡だと年寄り臭くなりそうでしたから、サングラスを採用したのです。


以上。最後までありがとうございました。次回作もお楽しみください!


あつあ通信特別号、編者あつあつおでん


  [No.783] 次回予告 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/19(Wed) 09:54:25   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

大長編ポケットモンスター第2部制作決定!

今度の舞台は、ななななんと学校! 

はちゃめちゃなキャラクターが織りなす痛快な生活に、もう釘付け!

さらに進化したバトルや理論は読者の想像をはるかに超える! これを読めばバトルに強くなる!

さあ、新たなステップへ……。

大長編ポケットモンスター第2部「逆境編」、こうご期待。