マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1505] 激昂のエメラルド 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/01/19(Tue) 16:47:58   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……君たちの功夫、見せてもらった。ジムバッジを受け取ると良い」
「ありがとうございます!」

ルビーと洞窟を出た後エメラルドと合流し、3人でジムに挑戦する。結果は3人とも余裕を持って勝つことが出
来た。ルビーとサファイアに関しては先の戦いで進化とメガシンカを果たしたことが大きい。

「じゃ、この町に用はねえしさっさとカイナシティに行くとするか」
「……今度は何もないといいけど」
「……」

 船の上で気持ち悪くなったことを思い出したのか胸を抑えるルビー。それを見てサファイアは少し考えた後
、提案した。

「なあ、ぱっと行くのもいいけどここで少し飯食っていかないか?せっかくみんなでジム戦に勝ったんだしさ
。それの祝勝会って感じで」
「はあ?そんなの別にカイナシティついてからでいいじゃねえか。こんなしけた町で飯食ってもつまんねーよ


 難色を示すエメラルドだが、その時彼のお腹が鳴る音がする。ばつが悪そうな顔をするでもなく、いつも通
り偉そうに。

「……と言いたいところだが、さすがに腹減ったな。まあお前らがどうしてもっていうんならこの町で食って
やらんこともないぜ!」
「やれやれ、じゃあどうしてもと言わせてもらおうかな。ところでサファイア君。祝勝会というからには好き
なものを食べていいんだろう?」
「勿論さ。せっかくのお祝いなのに好きじゃないもの食べてもつまらないしな」

 ルビーはそれを聞くと機嫌がよくなったのか、あるいは自分に気を遣ったサファイアへの感謝の表れなのか
。サファイアの片腕をぎゅっと抱き寄せて笑んだ。

「……なんかお前ら距離近くなってね?」
「ん。まあ……ちょっとな」
「そうだね、ちょっとね」
「否定しねえのがムカつく。人が必死に助け呼んでやったのに合流した時にはいちゃつきやがって」
「それはほんとに感謝してるよ。ありがとう」

 エメラルドは自分のポケモンを回復させてからではあるが、ポケモンセンターの職員さんを連れてきてくれ
ていた。尤もサファイアは無事ルビーを助けたため結果的には無用となってしまったが。

そんなわけで3人は恐らくこの町唯一のお食事処に入り、各々好きなものを注文した。サファイアはハンバーグ
とオレンジジュース、ルビーの前にはパフェとアイスココア、エメラルドの前には担々麺とコーラが並ぶ。

「それじゃあムロタウンのジム戦の勝利を祝って……乾杯!」
「ふふ、乾杯」
「おう」

 3人でコップを合わせた後、それぞれのペースで食事を取り始める。特にルビーにとっては大好きな甘味を
気兼ねなく食べられるとあって、嬉しそうにスプーンでアイスの部分を掬ったりしている。

(……船の上や洞窟では色々苦しかっただろうし、せめてこれで少しでもルビーの気持ちが楽になってくれれば
いいんだけど)

 サファイアがこの祝勝会をやろうと言い出したのはそれが理由だ。とりあえずルビーの表情を見て安堵して
いると、担々麺をすすりつつエメラルドが話しかけてきた。

「そういやお前よ。カイナシティでポケモンコンテストに出るつもりはあんのか?知ってると思うがカイナシ
ティはジムはねえ、その気がないなら軽く市場を冷やかしてさっさとキンセツシティに向かいたいんだけどよ」
「ポケモンコンテストか……」

 サファイアの目指すのは人を惹き付けるポケモンバトルだ。そういう意味ではコンテストに通ずるものがあ
る。シリアもテレビで何度か出ていたことがあることもあって、興味のないジャンルではなかった。

「……もしついた時丁度始まるタイミングなら参加するかもしれないけど、そうじゃなかったらやめておくよ
。待たせるのも悪いしな」
「うし、じゃあカイナシティにも特別用はなし……と」
「随分早く進みたがるんだね。何かわけでもあるのかい?」

 ルビーが聞くと、エメラルドの箸を持つ手がぴたりと止まった。彼にしては難しい顔をした後。顔をそむけ
て言う。

「……別に何でもいいだろ。ジムバッジ集めなんてさっさと終わらせてシリアをブッ飛ばしてやりてーだけさ

「ふうん……ま、頑張ってくれたまえ」
「はっ、言われるまでもねえっつーの」

 再び麺をすすり始めるエメラルド。彼は彼で何かわけがあるのだろうか。だが本人に話す気がなさそうな以
上、ただの好奇心で聞くことは憚られた。

「ここのパフェ、なかなか美味しいね。サファイア君も少し食べないかい?」
「えっ、いいのか?」

 思わず聞き返すとルビーはおもむろにチョコアイスを乗せたスプーンをサファイアに差し出してきた。当然
のように自分がさっきまで使っていたのと同じスプーンである。

「なっ……恥ずかしいだろ、やめてくれよ」
「いいじゃないか。大体最初に一緒に食事を取ったとき、自分の使っていた箸ごとボクによこしたのは君だよ
?」

 言われてみればその通りだがじゃあはいいただきますといえるほどサファイアは大人でもなくまた幼くもな
かった。

「……そうだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい」
「やれやれ、じゃあまたの機会にしておこうかな」
「お前な……」
「だから俺様の目の前でいちゃついてんじゃねえ!飯がまずくなる!」
「別にそんなんじゃ……」
「無きにしも非ずだね」

 エメラルドの突っ込みもさらりと流しつつサファイアをからかうルビー。そんなこんなで、主にルビーが楽
しい祝勝会は終わりを告げた。





そのあと3人は船に乗り込み、カイナシティへ向かう――その道中にはムロタウンへ向かうときの波乱が嘘のよ
うに何事もなく、カイナシティの砂浜に到着する。

「ん……なんだこりゃ、誰もいねえ?」

 人の姿の見えない砂浜を見て、エメラルドが訝しげに呟く。彼の記憶では、ここはいつでも活気にあふれて
いる砂浜で、それこそ嵐でも起きない限り遊ぶ子供の声やポケモンバトルをする船乗りの声が聞こえたものだが
、今聞こえるのは波の音だけだ。

「ボクもここは人の集まる場所と聞いていたんだけど……何かあったのかな?」

 エメラルド、ルビー、サファイアの順で船から降り歩を進める。すると海の家から一人の二十代くらいの男
が出てくるのが見えた。青いウェーブのかかった綺麗な長髪を靡かせて、格好は海パンにアロハシャツ、そして
サングラスをかけていてサーファーかナンパ師の類にサファイアには見えた。エメラルドが話しかける。

「おいそこのおっさん。全然人の姿が見えねえんだけど、ここで最近何かあったのか?」
「んまっ!だ〜れがおっさんよぉ、せめてお兄さんと呼びなさい!」
「うわっ、オカマかよあんた……」

 話しかけられた男はオネエ風の口調でエメラルドに怒る。ルビーとエメラルドが若干引いたのでサファイア
が代わりに聞く。

「すみません、失礼な奴で……俺たち、ここは人気の多い場所って聞いてたんで誰もいないのに驚いたんです
けど、何か知りませんか?」
「あら、カワイイ坊やもいるじゃな〜い。そうね、坊やだけにはこっそり教えてあげてもいいわ。ちょっとこ
っちに来てくれない?」
「……どうせ俺だけに教えても俺は二人にも教えますよ。だから、普通に教えてくれませんか」

 別にオカマに近づくのが嫌とかそういう意味ではなくサファイアはなんとなくこの男を怪しいと思っていた
。まるで待ち構えていたかのように海の家から出てきたからだ。

 それを向こうも感じ取ったのだろう。口の端を釣り上げて上に向かって声を上げた。

「なかなか勘がいいじゃない……ルファく〜ん!」
「ッ、ルビー!」

 声がかかると同時に海の家の上から一人と一匹の影が下りてくる。ルビーを咄嗟にこちらに引き寄せ、エメ
ラルドも砂浜を蹴って横に避けた。その空間を、剣と牙が一閃する。

「……ったく、気の抜ける呼び方すんなっての。避けられたじゃねえか」

 降りてきたのはグラエナと、全身黒一色の薄手な服を着た青年だった。彼は振りかざした剣を鞘にしまう。

「おいてめえら……もしかしてあの博士の仲間か!?」
「ご明察よぉ、ワタシがポセイで、こっちがルファ。よろしくね♪」
「だったら容赦はしねえ!出てこい、俺様に仕える御三家達……」
「遅えよ!」

 モンスターボールを取り出し、空に放り投げようとするエメラルドをルファが近づいて拳で殴る。散らばっ
たボールの内二つをグラエナが口でキャッチし、出てくる前に封じた。エメラルドも殴られながらも一個は自分
でキャッチしてヌマクローを出す。

「てめえ……ヒーローの口上中に攻撃してくるなんざ悪役の風上にもおけねえ!いいぜ、てめえらごとき、ヌ
マクロー一体で倒してやらあ!」
「はっ、口だけじゃないことを期待するぜ……いくぞグラエナ!」
「バウッ!」

 エメラルドとルファのポケモンがぶつかり合う。その間。サファイアはポセイと名乗った男とにらみ合って
いた。

「お前たちはなんであの博士に協力しているんだ!みんなからメガストーンを奪って、そんなことして何も思
わないのか?」

 サファイアはエメラルドとは少し違う。あの博士とは話しても無駄だと分かったが、目の前の人はもしかし
たら話せばわかってくれるかもしれない。そんな思いを胸に対話を試みる。

「ん〜可愛いわぁ。正義感に燃える熱い坊やの主張……お兄さんの胸にも響くけど。生憎もっとあの子には敵
わないのようねえ。ま、お兄さんがあの博士に協力してるのはぁ、可愛い子に頼まれたからだっていうことでよ
ろしく。ちなみにルファ君は……ていうか、家のメンバーはそれぞれ違う理由で協力し合ってるから、その手の
説得は無駄だと思うわよん」
「そんな理由で……どうしても、メガストーンを奪う気なんだな」
「そうそう、だからさっさと始めましょ?ワタシはルファ君ほどせっかちじゃないけど、可愛い坊やに焦らさ
れるのも辛いわあ。カモ〜ン、シザリガー!サメハダー!」

 ポセイはモンスターボールを持っていない。どこからポケモンを出すのかと思えば――それは、海の方から
やってきた。頭に傷のついた星をつけた、巨大なハサミを持つポケモンと、十字の痣を持つ鮫のようなポケモン
がアクアジェットでサファイアとルビーに突っ込んでくる。

「ダンバル、突進!」

 すかさずダンバルを繰り出してシザリガーに突撃させる。ぶつかり合った両者はいったん止まったが――す
ぐにダンバルがふっとばされ、そのまま突っ込んできた。

「キュウコン、火炎放射!」

 ルビーがキュウコンを繰り出し、その9つの尾から業火を噴出させる。さすがにこれを突破するのは難しい
と判断したのだろう、シザリガーが止まり、サメハダ―はUターンで海に戻る。そしてポセイが指示を出した。

「シザリガー、バブル光線よっ!」

 シザリガーの二つのハサミが開きそこから無数の泡が噴き出る。それは業火とぶつかり合い、はじける泡が
炎の勢いを殺した。

「ダンバルが一発で戦闘不能に……」
「ただものじゃなさそうだね。恐らくここに人気がないのも、彼のシザリガーとサメハダ―が海を荒らしまわ
ったせいだろう」

 ご明察、とポセイが口笛を吹いた。自分たちを狙うだけでなくこの砂浜の人達皆に迷惑をかける行為を平然
と行う彼にサファイアの怒りが強くなる。

「お前っ……!」
「――――」

 モンスターボールの中からジュペッタがサファイアに声をかける。それは自分の相棒からの、落ち着いてと
いうサイン。

「……わかった。ここは頼むぜ、ジュペッタ!」
「ボク達もやるよ、キュウコン」
「コォン!」

 ジュペッタとキュウコン。二人の相棒といえるポケモンを見て、ポセイは笑う。

「あらん、ほんとに噂通りタイプ相性を気にせずにくるのねえ……私自慢の水・悪ポケモンにゴーストと炎タ
イプで挑んでくるなんて。大けがしても知らないわよ?」
「心配いらないさ。俺たちは……」
「君には、負けないよ」
「へえ、それじゃあ……本気でいっちゃうわよ!シザリガー、クラブハンマー!」

 シザリガーがハサミを閉じて、巨大な槌のごとく振るう。だがそれはルビーやサファイアにしてみれば単調
な一撃。

「「影分身!」」

 二匹がクラブハンマーを振り下ろす影さえ利用して自分の分身を作り出す。だがポセイとシザリガーもそれ
を読んでいたかのように冷静に対処する。

「もう一度バブル光線よ!」

 二つのハサミが開き、がむしゃらにそれを振り回しながら無数の泡を放つ。それは広範囲に広がり、ジュペ
ッタ達の分身をかき消した。

「ふふ、影分身からのトリッキーな戦術が得意なのはリサーチ済みよん。それは封じさせてもらうわ」
「こいつ……俺たちの戦術を知ってる?」
「そりゃそうよ〜。あのヘイガニとドククラゲは私の物なんだから。あんたたちの戦術はお見通しよん」
「そういうことか……だったらルビー、鬼火を頼む。ジュペッタはあれ頼んだ!」
「了解したよ。キュウコン、鬼火」
「コォン!」

 キュウコンがやはりその尾から9つの揺らめく鬼火を放つ。不規則に揺れる鬼火を防ぎきるのは難しくバブ
ル光線で打ち消そうとするも、一つの鬼火がシザリガーに当たる。

(ふふーん。鬼火で状態異常にして祟り目で一気に攻撃力を上げるタクティクス……技を言わなければばれな
いと思ったかしら?だけどその程度は読み読みよ。なぜなら私のシザリガーには火傷を無効にするチーゴの実を
持たせてある……祟り目を決めに来たところを、噛み砕くで迎え撃ってあげるわ!)

 ポセイは二人の戦術を事前にミッツ達から聞き出し、また船の上で一度襲うことで観察して戦術を練ってい
た。水タイプ使いである彼が的確に水・悪のポケモンを連れてきたのもそのためだ。彼らのポケモンが進化して
いたのは誤算だったが、大勢に影響はない。まだこちらのレベルの方が上だという確信がある。

 だが、戦術を知っていることをサファイアたちに言ってしまったのは驕り。それは隙となり、彼らに付け入
るスキを生む。鬼火が命中したシザリガーの体がチーゴの実によって回復――しない。

「な……!?」
「……俺が鬼火に合わせて祟り目を打つと思ったんだろ?今まではそうしてきたからな」

 サファイアとジュペッタが笑う。シザリガーに近づいたジュペッタは祟り目による闇のエネルギーの放出で
はなく――相手が鬼火への対策をしていると踏んでシザリガーに『はたき落とす』を使っていた。チーゴのみが
叩き落とされ地面につぶれ、その効果を発揮できなくなる。ポセイの対策を、サファイアの読みが勝ったのだ。

「な……鬼火読みチーゴの実読みはたきおとすですって……やってくれるじゃないこの子……」
「さあ、これであんたのシザリガーの攻撃力はダウンした!まだやるか?」
「……当然よ!シザリガー、噛み砕く!」
「ジュペッタ、シャドークロー!」

 シザリガーのハサミとジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。レベルの差も相性の差もあったが、攻撃力を下
げられていることが功を奏し、互角にぶつかり合った。さらに。

「キュウコン、炎の渦」

 ルビーのサポートが入り、シザリガーを炎の渦が包み込んでさらに火傷のダメージを加速させる。

「よし、このままいけば……」
「させないわ。サメハダ―、ロケット頭突き発射よ!」

 海中から思いっきり速度をあげ、十字の弾丸と化したサメハダ―がキュウコンに突っ込んでくる。炎の渦を
放っているキュウコンには避ける暇がない。思い切り吹き飛ばされ砂浜を転がり、美しい毛並が砂と海水の混じ
った泥で汚れた。起き上がろうとするが、彼女の体は倒れてしまう。

「キュウコン!ゆっくり休んで……」
「ふふん、そう簡単にはやられないわよ?」
「許さない……いくよ、クチート」

 自分のポケモンを倒されたことに珍しく少しだが怒りを見せるルビー。とはいえサファイアのように冷静さ
を失うことなく。メガストーンを光らせる。クチートの角が二つになり、ツインテールの少女のような姿になっ
た。

「そんなポケモンを捕まえてたのね……ならワタシも奥の手を出すしかないわ!」

 彼が知っているのはムロタウンに着くまでの情報なのでクチートに関するデータはポセイの中にはない。彼
のサングラスにつけたメガストーンとサメハダ―のサメハダナイトが深い海のように青黒く光り輝く。

「行くわよサメハダ―!その荒々しくも美しき海の力身にまとい、全ての敵を噛み砕きなさい!」

 光に包まれ、現れたのはより十字の傷が深くなり、一回り躰も大きくなった姿。もはや砂浜の上であること
すらお構いなしにアクアジェットで駆け回る。そして隙をつくつもりなのだろう。クチートでは追いつけない速
度に対し、ルビーはシザリガーを見据える。

「だったらまずシザリガーから倒す……クチート、じゃれつく」
「そうはいかないわ、鉄壁!」
 
 じゃれつくとは名ばかりの特性『ちからもち』による暴力を硬くなった殻で受け止める。火傷も相まってダ
メージは小さくないが、倒れるまではいかない。

「今よサメハダ―、噛み砕く!」
「こっちも噛み砕く!」
「シャドークローで援護だ、ジュペッタ!」
 
 メガシンカしたサメハダ―の牙とクチートの二つの角、そしてジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。二対一
、いや三対一の状況でなお――サメハダ―は二体を噛み砕くことは出来なかったが勢いで押し勝った。二体の身
体が砂浜を転がり、立ちあがる。

「こいつ……なんて力だ」
「おほっ、驚いたかしら?降参するなら今の内よ?」
「いいや、そうはいかない。ジュペッタ、ナイトヘッド!」
「影分身なしのナイトヘッドなんて恐れるに足らないわ。サメハダ―、もう一度噛み砕くよ!」

 巨大化したジュペッタの影にサメハダ―がその顎で突っ込んでくる。だがポセイはサファイアとジュペッタ
のあの技を知らない。

「いくぞジュペッタ――虚栄巨影!!」

 洞窟で身に着けた新たな『必殺技』。巨大化した爪がサメハダ―を切り裂こうとするが、そのサメハダ―の
速度はジュペッタを上回り、その影を噛み砕いた。ジュペッタの巨大な影が、倒れる。サメハダ―すら飲み込ん
で。

「おほっ、やっぱり小手先だけの技じゃダメね!あんたのエースは倒したわ」
「……それはどうかな?」
「?」

 自分の『必殺技』を破られ、相棒を倒されてなお、サファイアの笑みは消えない。なぜなら今は――強い絆
で結ばれた仲間が、もう一人いるから。
 ジュペッタの影に隠れたのはサメハダ―だけではない。ルビーとクチートの姿をも隠し、ポセイの目から二
人の動きを見失わせる――。

「クチート、じゃれつく!」
「グギャアアアアアアアア!!」

 サメハダーは極めて高い攻撃力を持つが、守備力は低い……下手に海から出たこともあだとなり、クチート
のじゃれつく一発で砂浜の上に倒れた。

「そ、そんなっ!!シザリガー……シェルブレード!」
「無駄だよ、噛み砕く!」

 ポセイが反撃するが、攻撃力の半減したシザリガーと攻撃力が倍加したクチートでは勝負にならない。巨大
な二角が、今度こそシザリガーの殻を砕いて瀕死にする。――サファイアとルビーの勝利だ。

「ル、ルファく〜ん?お願い、助けてぇ!」

 自分のポケモンを倒されたポセイが仲間のルファに懇願する。エメラルドと、バトル中に進化したであろう
ラグラージと戦っている――彼と彼のグラエナには泥こそついているものの傷を負っているようには見えない―
―はやれやれとため息をついた。

「何やってんだよ……しょうがねえ、引き上げるぞ。ここで無理して集めたメガストーン取られちゃ俺たちま
で『オシオキ』されちまうからな。フライゴン!」

 ルファは手持ちのフライゴンを出し、ポセイが慌ててその背に乗る。

「じゃあ、今日のところは見逃してやるよ。……ったく、我ながら安い台詞だぜ」

 ルファが軽く手を振ってその場から離脱しようとする。だがそれを、エメラルドは見逃そうとしなかった。
怒り心頭で、ラグラージのメガストーンを光らせる。

「ルファ……てめえだけは逃がさねえ!ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウ
ェーブを巻き起こせ!!」

 メガシンカし、よりその体を大きく、たくましくしたラグラージが指示されるままに大波を起こす。いや、
それはもはや津波といって差し支えなかった。そう、サファイアとルビーをも巻き込むほどに。

「なっ……ばっかやろ。逃げるぞフライゴン!」
「この砂浜ごと消す気か、エメラルド!?」
「うるせえ……うるせえうるせえうるせえ!うぜーんだよ、てめえら!」

 もはや我を見失うほど怒っているらしく、話は通じなさそうだ。サファイアが慌ててヤミラミを出し、メガ
シンカさせる。口上など述べている余裕があるはずもない。

「ヤミラミ、俺たちを守ってくれ!」

メガシンカしたヤミラミが、緑色のオーラでサファイア、ルビーを包む。そしてその防御ごと、津波が彼らを飲
み込んだ――。



――津波が怒涛と化してサファイアとルビーを飲み込む。メガシンカしたヤミラミの守るに包まれてなお、激流
に飲み込まれて視界がぐるぐると回った。しっかりとルビーの手を握り、離れないようにする。

 どれくらい水の中で守られていただろうか、ほんの十秒ほどだった気もするし数分間だったかもしれない。
ともかく水が引き、大分波打ち際に引き寄せられこそしたがサファイアたちは無事だった。

「ルビー、大丈夫か」
「なんとかね。ありがとう。どちらかといえば危ないのは彼の方だろう」
「エメラルドは無事なのか……?」

 巻き込まれた側ではあるが、サファイアはエメラルドのことを心配していた。とにかく攻撃するスタイルの
彼が自分のポケモンに守るのような防御技を覚えさせているとは思えなかったからだ。

 心配して周囲を見回すと、彼は波打ち際からはるか先、街の方にまで逃げていた。ジュプトルが隣にいるあ
たり、恐らくは彼に自分を運ばせて津波の範囲外まで逃げようとしたのだろう。完全には逃げきれず、彼の体は
濡れていたが。

「エメラルド!どうしたんだよ、一体……何があったんだ?」

 大声でエメラルドに呼びかけるサファイア。だが彼はそれを無視して舌打ちし、踵を返した。ポケモンセン
ターのある方へ歩いていってしまう。

「……どうする?」
「どうするもこうするもない。追いかけよう。俺たちだってポケモンを回復させないといけない」

 彼を追いかけて、サファイアたちはポケモンセンターに向かう。さっきの舌打ちの音が、妙に頭に響いて、
市場のある華やかな街並みも頭に入ってこなかった。




 ポケモンセンターに入ると、彼はポケモンを回復させたところらしくモンスターボールを受け取っていた。
サファイアたちが来たことに気付くと、彼はまた舌打ちする。

「……んだよ、何ついてきてんだよ」

 突き差すような物言いにはサファイアも少しむっときた。だがまだ抑える。せめてあんな暴挙に出た理由を
聞きたかった。

「なんでって……俺たち一緒に旅してる仲間じゃないか。当たり前だろ?一体あのルファってやつとのバトル
で何があったんだ?」

 そう言えるのはサファイアの優しさゆえだろう。だがその態度が、今のエメラルドには腹立たしくてしょう
がなかった。

「はっ、仲間だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ。俺はてめえらを利用してただけだっつーの。そこの
女は最初から分かってたみてえだが、てめえはまだ気づいてなかったとはとんだ間抜けだな!」
「利用って……どういうことなんだよ!」
「鈍いな、てめえらはあの博士の一味をおびき寄せるためのエサだっつってんだよ!そのためなら多少いちゃ
つこうが、俺様の足引っ張ろうが構わねえと思ってたが、もう我慢の限界だ!」
「!!」

 自分たちを船に誘ったのはそんな理由があったのかと驚くサファイア。ルビーはまあわかってたとばかりに
肩を竦めてみせる。

「あいつ……ルファとかいう野郎、俺様に対して明らかに手を抜きやがった!この俺様が、てめえらのせいで
舐められたんだぞ!だからてめえらとは、もうこれまでだ!」
「なんで俺たちのせいなんだよ!」

 その疑問には、ルビーが代わりに応える。

「エメラルド君は広範囲の攻撃が得意みたいだからね。本気を出すとどうしてもボクらを巻き込む危険があっ
たんだろう。仲間として旅をするのを装う以上、それは出来ない。故に本気が出せなかった……そう言いたいの
かな」

 ああそうだよ、とエメラルドは吐き捨てる。そんな彼を、ルビーは嗤った。

「そしてそれは、ただの責任転嫁だよ。ボク達から船に乗せてくれるよう頼んだわけでもないしね。いわば―
―自業自得さ。責められる謂れはないね。はっきり言って、君には失望したよ。」
「チッ……」

 エメラルドもそれはわかっているのだろう、露骨に舌打ちした。そしてサファイアたちを押しのけてポケモ
ンセンターから出ようとした。

「とにかく、てめえらと旅をする理由はもうねえ。二度と俺様の前に面出すんじゃねえぞ……」
「待てよ!!」

 だがそれを、サファイアは彼の胸ぐらを掴んで止めた。それはただ怒りをぶつけるための行為ではない。サ
ファイアはまだエメラルドのことを一緒に旅した仲間だと思っているし、それを解消する気もなかった。

「だったら……だったら、一度俺とバトルしろ!」
「ああ……?なんで俺がんなことしなきゃいけねえんだよ」
「俺はバトルしてお前に勝つ。俺は、俺たちはお前が本気を出しても巻き込まれたりしない、大丈夫だってこ
とを証明してやる!」
「……上等じゃねえかこの野郎!丁度むしゃくしゃしてたところだ。そのムカつく態度、メタメタのぎたぎた
にへし折ってやらあ!!表に出ろ!」

 お互いににらみ合い、今にも二人して外に出ていきそうなところを、ルビーが止めに入る。

「はいはい、熱くなるのもいいけれどまずはサファイア君のポケモンを回復させてからだよ。君たち、少し頭
を冷やしたまえ。エメラルド君だって、弱った彼に勝ってもむしゃくしゃとやらは晴れないだろう?」
「……俺は先にあの砂浜で待ってる、てめえもポケモン治したらすぐに来い!ぶっ潰してやる!」

 今度こそエメラルドはポケモンセンターから出ていく。ルビーはサファイアを見て、呆れたように言った。

「やれやれ。あんな自分勝手な子なんて、放っておけばいいんだよ?まあ、そういうところも嫌いじゃないけ
どね」
「……ごめん、迷惑かける。でも俺、エメラルドのことこのままほっとけない。なんだかあいつ……凄く焦っ
てた」
「それはわかるけどね……面倒だからバトルには参加しないけど、見守るだけ見守らせてもらうよ。大丈夫、
自分の身は自分で守るから」
「ありがとう……さて、早くポケモンを回復させないとな」

 いつもの調子のルビーと話して、頭が冷えていく。それが彼女なりのサファイアに対する協力なのだろう。
それに感謝しつつ、サファイアはポケモンを回復させ、砂浜へと向かった――。



「はっ、逃げずにわざわざやられに来やがったか」

 彼は開口一番、喧嘩腰で話しかけてくる。サファイアはそれには応じず、ルールを提案した。

「ルールはシングルバトルの3対3。それでいいか?」
「なんでもいいっつの。うるせーな。なんなら女と組んで戦ったっていいんだぜ?さっきみたいによ」
「いいや、それはしない。これは俺とお前のバトルだ」
「どこまでもうぜえやつだな……それじゃあ行くぜ、ワカシャモ!」
「頼んだ、フワンテ!あいつの全力、受け止めてやってくれ!」

 少年二人の、お互いの意地と性分がぶつかり合ったバトルが始まる。ルビーは津波で倒れたパラソルを立て
直し、その日陰に座った。隣には自分を守るためのサマヨールを従えて。

「男の子って、どうしてこうなんだろうね。ボクには理解不能だよ。ねえサマヨール?」

 呼ばれた彼女も頷き、彼らのバトルを見守った。ワカシャモの火炎放射とフワンテの風起こしがぶつかり合
う――

「はっ、そんな雑魚技で俺様の火炎放射が防げるかよ!」

 確かに風起こしと火炎放射では威力の差は違い過ぎる。風が吹き散らされ、炎が突き抜けるが、その方向は
多少ずれた。

「これで十分、小さくなるだ!」

 フワンテがその体を縮めて業火を躱す。エメラルドが舌打ちした。

「やろっ……もう一発だ、ワカシャモ!」
「怪しい風!」

 ワカシャモの口から放たれる業火を、不可思議な風が方向を逸らす。またしてもエメラルドの攻撃は外れた


「だったらこれでどうだ、大文字!」
「もう一度怪しい風!」

 ワカシャモがさらに炎を溜めて、溜めて、巨大な火炎輪を放つ。それは怪しい風にぶつかると文字通りの大
文字焼きと化した。だが小さくなって自分も風に漂うフワンテには当たらない。

 その後も何度か同じ技の応酬が続き、エメラルドがしびれを切らして怒鳴る。

「くそっ……おい、いきなり防戦一方じゃあねえか!そんなつまんねえバトルすんなら、もう降参しろっつー
の!何がシリアのバトルだ!てめえのバトルはただの猿まねだ!」
「……そう思うのはまだ早いぜ。怪しい風のもう一つの効果はもうすでに発動した!フワンテ、風起こしだ!

「だからそんな雑魚技が……何!?」

 フワンテの風起こしがワカシャモに突っ込んでいく。それはさっきとはまるで威力が違っていた。小さな竜
巻のようになって、ワカシャモの体をきりきり舞いに吹き飛ばす。ワカシャモは思いっきり目を回し、地面に倒
れた。戦闘不能だ。

「怪しい風はただの攻撃技じゃない。確率は低いけど、発動した時フワンテの全能力をアップさせる!俺はそ
れで風起こしの威力をあげたのさ!」
「つまんねえ御託並べてんじゃねえぞ……戻れ、ワカシャモ」

 エメラルドは次に何を出すかを考える。相手は飛行タイプ持ち、しかも能力が大幅にアップしている。草タ
イプのジュプトルは出したくない。

「だったら、こいつしかねえよな……出てこい、ラグラージ!」
「やっぱりラグラージで来たか……」
「もちろんそれだけじゃあねえぜ?ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウェー
ブを巻き起こせ!」

 ラグラージの体が青く澄んだ光に包まれ、その光の衣を解き放つ。より大きくたくましくなったメガラグラ
ージの登場だ。

(あいつの波乗りは小さくなるじゃ躱せない……なら、先手必勝だ!)
「フワンテ、風起こし!」

 小さな竜巻がラグラージの体に命中する。だがラグラージはその巨躯を浮かさず、地面から山のように動か
なかった。メガシンカによって防御力も増大しているのだ

「てめえの考えごときわかってんだよ、ラグラージ、岩雪崩だ!」
「まずいっ!」

 あえてフワンテの攻撃した直後を狙ってラグラージが空中から岩雪崩を降らせる。メガシンカした最終進化
系の力はすさまじく、雪崩に飲み込まれたフワンテは戦闘不能になった。

「威力はさすがだな……戻れ、フワンテ」

 今度はサファイアが出すポケモンを決める番だ。サファイアの考えではヤミラミかジュペッタの二択。そし
て、あの攻撃力に対抗するには――

「出てこい、ヤミラミ。そしてメガシンカだ!その輝く鉱石で、俺の仲間を守れ!メガヤミラミ!」

 ヤミラミの体が紫色の光に包まれ、メガシンカを遂げる。胸の宝石を大楯にした。サファイアの手持ちの中
で最も守りに優れたポケモンだ。

「だがその盾は無敵じゃあねえぜ!ラグラージ、地震だ!」

 地響きを起こし、大地を隆起させて下からメガヤミラミを襲う。大きく硬い宝石も、下からの攻撃を防ぐこ
とは出来ない。動きの鈍いヤミラミでは、避けられないかと思われたが――サファイアはそれを読んでいた。

「ヤミラミ、だまし討ちだ!」

 メガヤミラミにその大楯を敢えて、捨てさせる。盾を捨てて本来の速度に戻ったヤミラミが、その爪でラグ
ラージの皮膚を裂いた。

「ちっ……だが盾のないヤミラミなんて敵じゃねえ!ラグラージ、泥爆弾だ!」
「さらにシャドークロー!」

 泥爆弾が放たれる前に闇の爪がラグラージの体を引き裂く。連続でのひっかきを受けて、ラグラージが顔を
歪めるが動かない。そして泥爆弾は放たれ、爆音を響かせてヤミラミの体を吹き飛ばし、砂浜を何度もその小さ
な体が泥だらけになって見えなくなるくらい転がる。ヤミラミも戦闘不能だ。

「どうだ!これが俺様の本気だ!てめえごとき雑魚トレーナーが叶う相手じゃねえんだよ、この圧倒的な攻撃
力で俺は新しいチャンピオンになる!」
「……どうしてそこまで攻撃に拘るんだ?」
「うるせえ!てめえの知ったことじゃねえだろ!」
「……なら、勝ってから聞くさ!」
「あり得ねえよ、このまま3タテしてやらあ!」

 最後の一体を決める。サファイアの中で、誰を出すかは最初から決まっていた。


「出てこい、俺の……そしてエメラルドの仲間!ダンバル!」


 その選択にはルビーが少し驚き、エメラルドに至っては露骨に顔をしかめた。自分が役立たずだと捨てたポ
ケモンだからだ。それをこの場で出すということは、彼にとっては侮辱にも等しい。

「ここでダンバルだとぉ!?てめえまで俺を舐めてやがんのか!」
「舐めてなんかいないさ、俺はこいつと一緒にお前に勝つ!」
「……やれるもんならやってみな!一撃で沈めてやれ、泥爆弾だ!」
「躱して突進!」

 ダンバルが、ラグラージの巨大な泥爆弾をまず横に水平移動してから、全速力でラグラージに突っ込む。突
進を受けたラグラージは――やはり山のように、動かない。

「はっ、やっぱりそんな雑魚ポケモンじゃ俺様のラグラージには傷一つつけられねえってこった。決めろ、ラ
グラージ。マッドショットだ」

「……それはどうかな?」
「何?」

 ラグラージはマッドショットを放たない。いや――放てないのだ。不動の体がゆっくりと……しかし確実に
傾いて、倒れる。

「嘘だろ……ダンバルごときに、メガシンカしたラグラージが……」
「……ダンバルだけの力じゃないさ。エメラルドのラグラージはフワンテの風起こしやヤミラミのシャドーク
ローで確実にダメージを受けてたんだよ。メガシンカを過信しすぎだぜ」

 エメラルドが歯噛みし、仇でも見るような眼でサファイアを見る。ラグラージを戻し、ジュプトルを繰り出
した。エメラルドは再び激昂する。

「それがどうした……それがどうしたってんだ!まだ俺様にはジュプトルがいる。突進しか出来ねえダンバル
ごとき、こいつで片づけてやるぜ!」
「焦るなよ、お楽しみはこれからさ」
「ああ!?」

 怒り声を上げるエメラルド。それに対してサファイアは指揮棒を振るう指揮者のように滑らかにダンバルを
指さした。

「お前の強いラグラージを倒したこと――それにお前や俺と旅して得た経験値は、ダンバル自身の強い成長に
もなったんだ。――今進化せよ!硬く鋭き鉄爪よ、誇り高き英知よ。新たな力となって仲間を支えろ!メタング
!」

 ダンバルの体が白い光に包まれ、その姿を変えていく。丸い鉄球のついたアームのような体が、確かな胴を
持った二本の鉄腕を持つ体と進化した。

「ダンバルが……進化した?」
「さあ、お前が雑魚って呼んだポケモンの力、味わってもらうぜ!メタング、念力だ!」
「くっ……」

メタングの頭が輝き、ジュプトルの体を触れずに投げ飛ばす。ジュプトルもすぐさま体勢を立て直し、メタング
へと挑みかかった。

「リーフブレードだ、ジュカイン!」
「メタング、メタルクロー!」

 低い姿勢から上を切り裂くように振るわれる草薙の剣を、鉄の爪が受け止める。お互いにつばぜり合いの様
相を呈するが、もともと体が硬く、また念力も使えるメタングが圧倒的に有利だった。

「俺様が、こんな奴に……雑魚と見下したポケモンに、負ける……?」

 念力がもう一度ジュプトルを吹き飛ばす。ジュプトルはよろめきながらも起き上がったがもう一発耐えられ
るかというところだろう。打開策は、思いつかない。


「いやだ……いやだ!俺は悪党どもに、シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメなんだ!俺はシリアと
は別の方法でチャンピオンになる!そして――企業家としてじゃねえ、トレーナーとして、ホウエンを守るヒー
ローとして親父たちの役に立つんだ!

 頼む、力を!もっと力を出してくれ、ジュプトル――!!」


 ふらついていたジュプトルが、その声に答えるかのように体を輝かせる――そう、ダンバルがメタングにな
ったのと同じ光。

「まさか……進化か!」

 光が消え、その体を大きくしたジュプトル、いやジュカインの姿が現れる。とはいえ、体力の消耗は避けら
れていない。

「……ここで決める!メタング、念力だ!」
「ジュカイン、リーフブレード!!」

 メタングの念力がジュカインを確かに捉え、その体を投げ飛ばそうとする。だがジュカインはそれを堪えて
、一歩一歩踏み出してメタングに近づいた。自分に応えようとするポケモンを見て、エメラルドの心が動かされ
る。


「頑張れ、ジュカイン!もうちょいだ!いっけええええええ!!」


 戦術も何もない、完全にまっすぐなごり押し。それでも声援を受けたジュカインが一気に踏み出し、メタン
グの鋼の体を特性『葉緑素』で強化されたリーフブレードが引き裂いた――



「……俺の負けだ、エメラルド」

 サファイアが敗北を認め、メタングをボールに戻す。エメラルドはしばし放心していた。ふらふらになりな
がらも寄ってきたジュカインに気付いて、我に返る。

「……へっ、当然だろ」

 憎まれ口を叩くのは、変わらない。それでもその声の調子は、いつもの傲慢で不遜な彼に戻っていた。

「良かったら、なんであんなに焦ってたのか教えてくれないか?」
「けっ、そんなに知りたきゃ教えてやるよ……俺はな、知っての通り金持ちの息子だ。だがそれは何もいいこ
とばっかりじゃねえ。自由に金を使える代わり、将来のためにやらなきゃいけねえことがある。俺の本当の意味
で自由な時間は、そんなにねえ」

 一から十まで説明する気はないのだろう。大分端折った説明だが、なんとかついていく。

「俺がトレーナーとして大成するにはただ強いってだけじゃダメなんだ。親父みたいな企業家並の金を稼げる
トレーナーにならなきゃいけねえのさ。その為に、チャンピオンの地位がいる」

 チャンピオンになるのは、目的ではなく手段。しかも彼はシリアについてある秘密を知っている。だからこ
そ、彼と同じではいけないのだ。

「……シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメだって言ってたよな。あれは?」
「……」

 それについて聞かれて、エメラルドは黙った。自分の知る事実をサファイアたちに話すかどうか考える。結
論は。

「さあな、本人に会うか何かして聞けよ。その方がお前も納得できるだろ」
「……わかった」

 エメラルドは愛用のマッハ自転車をバッグから取り出し、展開する。そしてマッハ自転車に跨った。

「じゃあな。俺はもう行くぜ。むしゃくしゃは収まったが、やっぱりてめえらと旅するのは御免だ」
「ッ……わかったよ」

 負けたサファイアにそれを止める権利はない。だが、何もせず見送る気はなかった。

「ただ……こいつを連れていってくれ。元はお前のポケモンだ」
「こいつは……メタング」

 受け取ったエメラルドが不思議そうな顔をする。何故俺に、目線で訴えた。

「元はお前のポケモンだし、メタングが雑魚なんかじゃないってのはお前もよくわかっただろ。そいつはもっ
ともっと強くなれる。だから、連れていってくれ」
「ちっ……しょうがねえな。俺様の足引っ張るんじゃねえぞ」

 その舌打ちは、なんだかバトルする前よりもとても軽くサファイアには聞こえた。もう彼がダンバル――メ
タングを蔑むことはないだろう。

「それじゃあ……じゃあな」
「ああ、お前の事情は少しだけわかったけど……あんまり、急ぎ過ぎるなよ。ポケモンのことも、お前自身の
こともさ」
「はっ、そんなことてめえの心配することじゃねえっつーの」

 エメラルドが自転車を漕ぎ出し、カイナシティを走っていく。ほどなくして彼の姿は見えなくなった。

「……いやあ、大した熱血っぷりだったね」
「……それ、褒めてるのか?」
「あんまり。ボク好みの舞台ではないかな。だけどたまにはこういうのも、悪くないだろう。お疲れ様」
「……ありがとう」

 ルビーがサファイアに手を差し出し、サファイアがそれを握る。そして二人は改めて、カイナシティへ向か
うのだった。


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