マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1516] 一話「裸の出会い」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/02/14(Sun) 00:08:54   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アサギシティ。ジョウト地方西部の町、異邦へと繋がる港町、出会いと別れが交錯する運命の町。この町がまさに、物語の舞台となる場所である。
町の北西にあるポケモンジムに、主役はいた。情けない声で叫んでいる彼がそうだ。
「くっそう、また負けた! もう何回負けたか分かんねえよ」
 この男、名はケイと言う。赤のワイシャツに黒のベスト、黒のデニムといった出で立ちであり、対峙する同年代程度の女とは対照的な色使いである。
「ふふ。その調子じゃ、旅立ちはまだ先になりそうね」
 彼女はミカン、アサギジムのジムリーダーである。ケイとは幼馴染、近所と揃っていながら、雰囲気は正反対。服装も薄緑のワンピースに白のカーディガンと、上述の通り対照的だ。
「そんなことねえさ、日毎に着実に差は縮まってきてる。これなら近いうちに勝って見せるさ」
「さて、それはどうかしらね。私も若いとはいえ、ジムリーダーの一人。そう易々と負けたりしないわ。それより、この後いつもの場所に行くのでしょう? 連絡しておいてあげるね」
「ああ、ありがとな。それじゃ行ってくるわ」
 ケイ、モンスターボールを持ち足早にジムを去る。その姿を見送るミカン、少し悲しげな表情を浮かべる。
「ごめんなさい、ケイ。あなたをこの町から出すわけにはいかないの……」
 彼女の目線は、自然とジムの脇にある机を向いていた。その上にある新聞、一面の見出しにはこう書かれていた。
「……行方不明のトレーナー急増……」
 一方ケイはと言うと、傷ついたポケモンの回復へ急ぐ。だが、懐に余裕のない若者に、ポケモンセンターを使うという選択肢はない。彼が向かう場所、それはジムから歩いて約十分、町の中心部にある建物だ。「バース」と書かれた看板の店に入ったケイは、開口一番ボールを出した。
「おっちゃん、二時間でお願い! ポケモンに風呂、あとご飯も食べてくよ」
「了解。連絡は来てるから時間料金と飯代で頼むぜ。……ところで、ミカンと何かあったのか? 受話器越しにすすり泣きが聞こえたような気がするんだが」
「え、あいつが? ジムを出る時には何も変わったようには見えなかったぜ」
「そうか、なら良い。とりあえず支払いが先だ」
「分かった。えーと、三百円に飯代だから、これで」
 ケイ、財布から千円札を取り出し「おっちゃん」に渡す。そして一目散に浴場へ走っていった。
 言うまでもなく、浴場は男女に分けられる。近くに銭湯がない者は知らぬかもしれないが、こうした公衆浴場は思いの外客が多い。平日でも時間帯によっては大入りとなる。しかし、今は学校が終わる少し前で、当然仕事上がりの人々もいない。黒い石材で造られた湯船には、しかし先客が一人いた。
「あれ、おっさん見ない顔だね。旅の人?」
 湯船に入ったケイは、見知らぬ男に声をかけた。もみあげがあごを通じて繋がっており、しかし幅・長さ共に短く揃えている。やや日焼けしたその顔から、口から返事が飛んできた。
「誰がおっさんだ誰が。俺っちにはレアードって立派な名前があるんだぜ? そう言う坊主は、この町の人間ってところか」
「う、なんか変な奴。それと俺はケイ、いずれポケモンリーグに挑む男だ」
 ケイの口上に、レアードと名乗る男、吹き出す。不敵な笑みを浮かべ、ケイにこう返す。
「ほーん、お前さんがねえ。どう見てもペーペーにしか見えないルーキーだが……。そこまで自信があるからには、当然この町のジムリーダーには勝ってるんだよな?」
「う、それは……」
 ケイ、返す言葉もない。言えるわけがない、もう百にも届く数、負けを重ねていることなど。
「現在、あのフスベジムは勿論、下手したらポケモンリーグ本部ともやり合えると専らの噂。ジムリーダー・ミカンの名は俺の故郷であるオーレ、滞在先のカロスにも聞こえてきた。明らかに強くなったのは数年前……何があったか気になって取材しに来たのが、俺と言うわけ」
「はあ、そりゃご苦労様。じゃあレアードってカメラマンか何かなの?」
「おいおい、そこはジャーナリストだろ? 新聞や雑誌の記事は俺みたいな奴らが足で稼いでんだ。もうちょっと知ってほしいもんだねえ。ま、俺の場合は少し違うが……」
 今度はレアードが言葉に詰まる。ケイはこれに突っ込む。
「違うって、じゃあ何してんの?」
「ん? ああ、俺の場合はブログで自分の集めた記事を出してるのさ。そのネタ探しも兼ねて、世界中を飛び回る。ブログの閲覧数に応じて金が入るから、こっちも真剣そのものよ」
「……要するに、小銭を稼ぐ無職なんでしょ」
「まあな……。俺も好きでこのポジションに収まったわけじゃないんだがな。ま、青いケイ君にはまだ分からんだろう。それよりも、頼みたいことがあるんだが」
 レアード、ややばつの悪そうな顔でケイを見る。頼みは意外なものであった。
「俺っちをミカンちゃんへ紹介してくれないか? 生憎電話を持ってないものでね、まだ予約を入れてないんだ」
「……しょうがないなあ。後で飯でもおごってよ」
「お、頼まれてくれるか! 話が早いぜ、相棒」
「なんで俺が相棒になるんだよお」
 こうして。ケイとレアード、二人の縁が始まったのであった。このいまいちパッとしない男達が、後に大仕事をやってのけることを、今はまだ誰も知る由がない。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー