マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1517] 雷と暗雲の街、キンセツ 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/02/15(Mon) 15:09:56   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ここが・・・キンセツシティ」
「町そのものが一つの屋内と化した場所・・・日傘の必要がないくらいにおもっていたけど、これはすごいね


老婆と別れを告げ、オーロットとパンプジンとの息を合わせながら草むらを抜けたサファイア達はキンセツシ
ティを見上げて感嘆の声をあげていた。

そこは正しくルビーの言う通りの場所で、入り口のサファイア達から見ればそびえ立つ黄色と銀の城のようです
らあった。カイナシティも華やかな町だったが、あちらは草花が豊かだったのに対し、こちらは鉄と鋼の光沢に
よる美しさを感じる。
 
「この中にはどんな店があるんだろうな、なんかわくわくするよ、俺」
「浮かれちゃって、子供みたいだね。・・・ま、わからなくもないけど」
 
 そういうルビーも、内心は期待に胸を踊らせているのかもしれない。キンセツシティには町の前に受付があ
り、そこで名前を言うと登録証が発行され、街中ではそれがパスポートのようなものになる。不審者を防ぐため
のシステムらしい。
 
「サファイア・クオールです」
「ルビー・タマモだよ」
 
 そう名乗ると、受付嬢が目を見開いた。すぐに冷静を装って少々お待ちくださいといい、どこかに電話をす
る。ほどなくして登録証は発行された。だが。
 

「貴様ら、そこで止まれ。これ以上近づけば命の保証はせんぞ」
 
 
 いざ町に入った二人を待ち受けたものは、紫色と金の派手な制服を来た男達、そしてサファイア達に物騒な
事を言い放った紫の革ジャンを来て、髪を雷の具象化のように尖らせた派手な男による包囲だった。いきなり取
り囲まれ、困惑するサファイア。
 
「な・・・なんなんだ、あんたらは!」
「俺様の名を問うか。ならば聞くがいい。俺様はキンセツシティジムリーダー、ネブラ・ヴォルトだ」
「あんたがこの町のジムリーダー?何のためにこんなことを」
 
 ネブラと名乗った男の口調は少しだけエメラルドに似ていたが、向こうは自分の自信が満ち溢れているが故
のものに対し、目の前の彼は自分の与えられた役目に相応しいものにすべく意図的にやっているようにもルビー
には感じられた。彼はサファイアの質問にこう答える。
 
「はっ!知れたことよ、世界の王者にありながらティヴィル団なる悪の組織に荷担し、この町に仇なすシリア
・・・其奴と血を分けた女が入り込む前に捕らえにきたのだ」
「なっ・・・!!」
「・・・」
 
 あまりに突然の嫌疑を向けられ、言葉を失うサファイアとルビー。ルビーは増して直接疑いをかけられ、シ
リアと同一視されているのだ。ルビーの目が冷たくなる。

「なんの根拠があってそんなこと言うんだ!シリアが何かしたのかよ!」
「ふ・・・愚問だな。カナズミシティでのやつの戦い、あれはとんだ茶番だ。それを見抜けぬ俺様の邪眼では
ない」
「それは・・・」
 
 ルビーも感じていた違和感をこの男も気づいていたらしい。
 
「そしてこれが動かぬ証拠だ。見るがいい」
 
 ネブラは懐から一通のメールを取り出す。そこにはこう書かれていた。サファイアが読み上げる。
 
「我々はティヴィル団。近日中にこの町はメガストーンを集めるための礎となる。そのための布石は既に打っ
た・・・?」
「またいかにもな新聞の切り貼りだね・・・彼ららしい手口だけど、これは」
「どうだ。このメールが届いてすぐ、俺様のもとに貴様がやって来た。王者と血を分けしものを引き連れてな
。それをなんと弁解する」
「とにかく誤解だ!俺達はあいつらに協力なんかしてない!」
「聞くに耐えん悲鳴だな」
「くそっ・・・こうなったら」

聞く耳持たない様子のジムリーダーに、腰のモンスターボールに手をかけるサファイア。それを止めたのは他
ならぬルビーだった。

「やめたほうがいいね」
「なんでだよ!」
「今ここで反抗しても、良いことはない。むしろ本当にティヴィル団が来るなら、そちらへの警戒が薄くなっ
てしまうよ」
「・・・わかったよ」
 
 不承不承頷くサファイア。ネブラはしたり顔で部下達に命じる。
 

「賢明な判断だーー連れていけ」
 
 
 サファイア達は一旦キンセツシティのジムに連れていかれた。そこでジムのトレーナーが着る制服に着替え
させられる。金と紫の意匠の制服は派手であまり好んで身につけたい格好ではなかったが、仕方がない。
 
「貴様らには24時間監視をつけさせてもらう。また、夕方5時にはジムに戻り、朝9時までの外出は禁止だ。分
かったか」
「わかったよ・・・」
「牢屋に入れられないだけましとするさ。服まで着替えさせられるとは思わなかったけど」
 
 不満はあるものの、抵抗しないほうがいい以上仕方がない。

「ではせいぜい、この町を楽しむがいい。健全にな」

キンセツジムから一旦出ていかされ、町を観光することになったものの、男女二人ずつの監視がついてはまとも
に楽しめたものではない・・・そう思っていたのだが。

「坊っちゃん、旅して短い間にもうバッジを集めたのかい。最近の若者は大したもんだねえ」「嬢ちゃん、こ
の町のクレープは美味しいよ?奢ったげるから食べていきなさい」

見張りの人に気さくに話しかけられ、主にサファイアが戸惑いながらも町を案内される。ルビーは最初こそ驚
いたものの、今ではすっかりおごってもらったクレープを幸せそうにちまちまかじっている。 
 
「いい加減、肩の力を抜いたらどうだい?辛気くさいとせっかくの案内役さんも困ってしまうよ」
「だけどさ・・・」
 
 小馬鹿にしたように言うルビーにやはり戸惑いを隠せない様子のサファイア。

「あの・・・俺のほうから言うのもなんですけど、いいんですか。見張りがこんな風で」

サファイアがそう聞くと、見張りの一人の恰幅のいいおじさんが笑って答えた。

「坊っちゃんたちが変なことさえしなきゃあ、存分にこの町を楽しんでくれて勿論オーケー牧場さぁ。そうだ
、この町にはゲームセンターがあるんだが、そこで遊んでくかい?」
「でも、ジムリーダーの人はすごい疑ってたみたいだったけど・・・」

 ああ、それはなあ。と。おじさんの顔が少し曇る。内緒にしといてくれよ。と言って彼は話はじめた。
 
「実は・・・ネブラ様も本当はこんなことなんてしたくねえのよ。町に来てくれた、しかもジム戦にきたトレ
ーナーにこんな真似・・・でも、あんな手紙が届いた以上、警戒はしなくちゃならねえ。なにせあのお方はこの
町の警備と電力・・・実質、全てを任されてるような人でさあ。
 
なかなか表には出さねえが、苦労してんのよ。坊っちゃん達には悪いが、少しの間我慢してくれると助かるわ・
・・できるだけ、退屈させねえようにはするからよ」 
「・・・」
 
 そう言われては文句を言うのが子供らしく思えてしまう。押し黙るサファイア。隣で聞いていたルビーはル
ビーで感じるところがあったようで。
 
「ただの厨二病患者かと思ったけど、あの人は自分の責任を果たそうとする大人なんだね・・・どこかの誰か
さんに爪の垢でも煎じて飲ませたいよ」
「・・・シリアのことなのか?」
「まあね。あの人は家を継ぐのが嫌で飛び出して行ってしまった人だから」
 
 さらりと言うルビー。やっぱりまだ兄妹の溝は深いようだ。
 
「そういうことなら、大人しくしておくのも吝かではないね。幸いにして不自由は少なそうだし・・・サファ
イア君もここはジムリーダーに従ってくれると助かるよ」
「そうだな・・・ルビーの疑いを晴らすためには仕方ないのかな」
 
 それで納得するしかないのだろうか。そんなことを思いながら、サファイアは見張りの人の案内でレストラ
ンやゲームセンターを回る。初めて見る食べ物は美味しかったし、ゲームは楽しかったが、やはり気持ちのどこ
かでの引っ掛かりは消せぬまま、ジムに戻る時間になった。
 
 
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
 
 キンセツシティのジムではトレーナーは警備員の役割も果たすらしく、その為共同で生活している。よって
食事もみんなでとり、サファイア達もそこに交じる形になった。
 
 食後に出された珈琲を、サファイアは砂糖のみ、ルビーはミルクと砂糖をたっぷり入れて飲んでいると、ジ
ムリーダーのネブラが話しかけてくる。
 
「報告書は見せてもらった。今日は大人しくしていたようだな。だがだからといって明日以降監視が緩むとは
思わぬことだ。監視員だけでなく、町中のカメラが貴様らを見ているぞ」

 威圧的な口調で言う態度は、一見サファイア達を気遣っているようにはとても思えない。だが監視員の話で
はこのようなことをするのは本意ではない・・・らしかった。

「なあ、提案があるんだけど・・・」
「なんだ、外出なら断じて認めんぞ。闇に乗じて何をされるかわかったものではないからな」
「違う」
 
 サファイアは振り向いて、ネブラをまっすぐ見据えた。

「俺は、あんたにジム戦を申し込む。駄目な理由はないだろ」
「・・・ほう。だが何故今俺様に挑む?疑われるようなことはすまいとそこの女狐と決めたのではなかったの
か?」
 
 サファイアは、一瞬ためらった後意を決して答えた。
 
「やっぱり何も俺達は悪いことしてないのに疑われるのは嫌だ。それに、あんたは言ったよな。カナズミシテ
ィでの戦いを茶番だと見抜いたって」
「確かに言ったな」
「だったら、俺と戦えば俺があいつらと協力してないかも分かるんじゃないのか?バトルでシリアとルビーを
疑うなら、バトルで疑いを晴らしてやる!」
「・・・サファイア君。それは」
 
 正直、理屈としてはかなり荒っぽいというか屁理屈の域だ。だがネブラは、にやりと笑った。
 
「面白いことを言うな、貴様は。ジム戦をしたからといって貴様らの容疑が晴れるとは到底思えんが・・・挑
まれたジム戦は受けるのがジムリーダーの定めよ」
「じゃあ」
「よかろう、その申し出受けてやる。但し、疑いを晴らしたいのならば女狐も戦場に出ることだ」

 ネブラがルビーに視線を移す。ルビーは溜め息をついた。
 
「仕方ないね、サファイア君のわがままに付き合うさ」
「ごめん、ルビー」
「いいんだよ、それが君の優しさだろう?」
 
 わかってるよ、と言いたげにサファイアに微笑みかける。その笑みを見て安心するサファイア。
 
「では、ジム戦は明日の朝7時に行う。ルールは3対3、シングルバトルだ。努々寝坊などせぬことだな」
「今からは駄目なのか?」
「俺様は貴様ら旅人ほど暇ではないのでな。では失礼する」
「なんだよ、もう・・・」
 
 棘のある言い方にむっとするも、言い返すことはせず踵を返して去るネブラを見おくるサファイア。
 
「彼はどうやら、素直じゃない人みたいだね」
「・・・ルビーが言うのか?」
「なんだい?ボクはこれでも君の事を素直に愛しているつもりだよ」
「・・・それ、ずるいだろ」
 
 彼女はムロ以降、いつも通り呆れたり馬鹿にしたりする傍ら、ときどきふっと好意を見せてくるようになっ
た。そのたびに、サファイアの心臓が跳ね上がる。なんというか、ギャップがあるのだ。
 
「冗談だよ、冗談。好きではあるけど、愛しているは言い過ぎさ。まだボクもそこまで大人じゃない」
「あの・・・ルビー?」
「なんだい?」
 
 だが今顔を真っ赤にしているのは、それが理由ではない。そしてその理由を恐らく彼女は忘れている。
 
「今、俺達監視されてるの、忘れてないか・・・?」
「・・・あ」
 
 今度はルビーが顔を赤くした。最近は二人で旅をしていたのと、あまりに監視が気さくなので忘れていたの
だろう。一部始終を見ていた監視員は、にやにやと二人を見ている。
 
「ひゅーひゅー、熱いわねえお二人さん」
「坊っちゃん、男ならここで抱き締めてキスでもしてやれ!」 
「ちょっ・・・できるわけないだろ、そんなこと!」
 
 サファイアが怒鳴ると、ぶーぶーとブーイングがあがった。カイナシティの時のように逃げ出したくなった
が、監視されている立場ではそれすらできない。

「どうしてくれるんだよ、ルビー・・・」
「・・・ごめん」

このあと二人はどこで知り合ったのだとか、想い出の場所はとか、どこまでしたのかとか色々根掘り葉掘り聞か
れ。二人は恥ずかしい思いをしながら夜を過ごしたのだった。そして翌日ーー


「ほお、定刻通り来たようだな。旅人にしては上出来だと誉めてやる・・・ところで貴様ら、まさか寝不足では
ないだろうな」
「ふあ・・・だ、大丈夫さ。問題ない」
「まさか寝床でも質問攻めにされるとは思わなかったよ・・・」

男女別れて寝床に入ってからも、そこはそこで男同士、女同士でしか言えないようなことを聞かれたため弱冠
眠そうにまぶたを擦るサファイア達。

「まあいい、手加減はせんぞ。ーーさあ、どちらからくる」
「まずは俺からだ。いいよな、ルビー」
「後のほうがやり易いし、ボクはそれで構わないよ」
「よし、てば・・・バトル開始の宣言をしろ!」
「バトル開始ィー!!」

話は纏まった。ジムトレーナーの一人が審判となり、宣言すると共に二人はポケモンを出す。
 
「来るがいい、コイル!」
「頼むぞ、オーロット!」
「ほう、カロス地方のポケモンを使うか・・・コイル、ソニックブームだ!」
 
 先手をとったコイルが音の衝撃波でオーロットを襲う。

「ナイトヘッドと同じ、固定のダメージを与える技か・・・でも大したダメージじゃない。オーロット、ゴー
ストダイブだ!」
 
  オーロットがその巨体を自らの影に沈める。そしてコイルの下へ近づいた。敵を見失い、回りを見回すコイ
ル。

「コイル、敵の出どころを見極めよ!」
「出てこい、オーロット!」
 
 オーロットがコイルの真下から突撃し、巨木の一撃を受けてコイルが金属音を鳴らしながら倒れる。まずは
1体だ。
 
「一撃で沈めるか。ならば出でよ、レアコイル!」
「レアコイル・・・」

あのティヴィルが使っていたポケモンだ。サファイアの目が自然ときつくなる。

「十万ボルトを喰らうがいい!」
「オーロット、ウッドハンマー!」

レアコイルが3つの磁石を束ね、強力な電撃を放つのをオーロットは腕を降り下ろして相殺しようとする。だが
、オーロットの体に凄まじい電流が走り、オーロットは倒れた。

「オーロット!」
「ふっ、対処を見誤ったな旅人よ。俺様のコイルは只倒れたのではない。その間際にも『金属音』で貴様の老
木の特防を大幅に下げていたのだ」
「とはいえ、草タイプのオーロットを電気技一発で倒すなんて・・・ゆっくり休んでくれ」

倒れたポケモンをボールに戻し、次に誰を出すのか考える。

「よし、出てこいヤミラミ!」
「またしてもゴーストタイプだと?」
「そうさ、俺の手持ちは全てゴーストタイプだ!」
「堕ちた王者を真似るか。ますます怪しいな。それとも真実を知らぬが故か?」
「・・・俺はシリアを信じてる」

サファイアの答えに、ネブラは口元を歪めた。何か感じるものがあったらしい。
「そうか、ならば御託は無用ーー十万ボルトだ」
「ヤミラミ、シャドーボール!」

再び相殺を試みるが、やはり威力が高く少し電撃を受けるヤミラミ。

「だったらここはメガシンカだ!その輝く大盾で、守り通せメガヤミラミ!」
「果たしてそれで希望の光を見いだせるか?十万ボルトだ」
「受け止めろ、メガヤミラミ!」

今度は電撃をまともに受ける。大盾が防ぐとはいえ、身体中を感電させる一撃のダメージは少なくないが。

「メガヤミラミ、その宝石輝かし、受けた傷み弾き返せ!メタルバースト!」
「む・・・!」

ヤミラミの大盾たる宝石が光輝き、受けた電撃を更に大きくして跳ね返す!予想外の一撃をその身に受け、レア
コイルは戦闘不能になった。

「面白い・・・敢えて攻撃を受けることで更なる攻撃を繰り出したか。どうやら俺様も少し本気を見せる必要
がありそうだな!本来ならこいつはジム戦では使わぬと決めているのだが・・・貴様らを見定めるためだ、光栄
に思うがいい!」
「ジムリーダーの本気・・・!」
 
 サファイアが息を飲む。ジムリーダーがジム戦では本当の意味で本気を出していないことはシリアから聞い
ている。その片鱗が今から見えるというのだ。
 

「出てこい、我が暗雲雷電四天王が一柱!」
 
 
 ある意味凄まじいネーミングセンスとともにジム内に轟音と雷が迸った。そして雷の中心に現れたのは、雷
が獣の形を取ったようなポケモンーーライボルトだ。
 
「ライボルト・・・」
「仰々しい名乗りの割りには、普通のポケモンが出てきたね」
 
 ・・・はっきり言って、それがサファイア達の感想だった。ライボルトの進化前のラクライはその辺の草む
らでも普通に見る。ライボルトもまたそこまで珍しいポケモンではなかった。
 
「ふ・・・その態度がいつまで続くか見ものだな!ライボルト、スパーク!」
「メガヤミラミ、守るだ!」

ライボルトが電気を纏って突進してくるのを、ヤミラミが宝石の盾で防ぎきる。

「よし、防いだ!」
「ならばこれでどうだ、電磁波だ!」
「それは通さない!メガヤミラミの特性の効果発動だ!」

メガヤミラミの特性は『マジックミラー』、相手の変化技を反射することができる。その力で、ライボルトの電
磁波を跳ね返すがーーその電磁波が、ライボルトに吸収された。ライボルトのまとう雷が強くなる。

「なに!?」
「俺様がメガヤミラミの特性を考慮せず電磁波を撃ったと思ったか?こちらのライボルトの特性は『避雷針』
だ。その効果は相手の電気技のダメージ、効果を無効にし、さらにライボルト自身の特攻をアップさせる!」
「その為にわざと電磁波を・・・」

自身の特性だけでなく、相手の特性すら利用して能力をあげる戦術に舌を巻く。

「この一撃を震えるがいい!雷だ!」
「メガヤミラミ、耐えてメタルバーストだ!」

ライボルトの体が電光に包まれ、一気に溜めた雷を放つ。それは神速の如くメガヤミラミに直撃しーー大盾すら
焼き焦がして、メガヤミラミを倒したかに見えた。

「さあ、最後のポケモンを出すがいい」
「いいや、その必要はないさ」
「なに?」

再び、ヤミラミの大盾が輝く。部屋全体を眩しい光が包んだ。そして再び轟音がなり、宝石がダメージを跳ね
返す。


「・・・むう。良いだろう。認めよう、貴様のとポケモンの意思」
  
 
 ライボルトが倒れる。ジムリーダーの納得した表情が見えたーー
 

「これがキンセツジムバッジだ。受けとるがいい」

 稲妻の形をしたジムバッジを渡される。普通の状況なら大喜びするところだが、今重要なのはそこではなか
った。
 
「次は、ルビーの番だな」
「如何にも。貴様の魂はしかと見極めたが、肝要なのはそこの女狐だ」
 
 元よりあちらの疑いはルビーに向けられたものだ。彼女が勝負でネブラを納得させない限り、問題は根本的
には解決しないだろう。
 
「・・・わかった、やるよ」
「いいだろう、では来るがいいーー」
 
 その時だった。ジムの放送する機械から、聞き覚えのあるけたたましい笑い声が聞こえた。そして、後で分
かったことだが声はキンセツシティのあらゆるテレビ、ラジオ、放送機器をジャックしていた。
 

「ハーハッハッハ!!聞きなさい、キンセツシティの民達よ!そしてーージムリーダー!」


「この声は・・・ティヴィル!」
「こいつが岩使いの言っていた悪の総統か・・・」
 
 ネブラもカナズミのジムリーダーから話は聞いているようだ。取り乱すこともなく、放送を聞く。
 

「私たちティヴィル団はあなた方にひとぉーつ要求をさせていただきます」
 
 
 彼らの求めるものといえば、メガストーンに違いない。この町のメガストーンを全て渡せ、とくるのかとサ
ファイアは予想したが。
 
 
「ずばりーー我々がメガストーンを手に入れるために、キンセツシティには犠牲になっていただきます。さあ
、やりなさい!」


「えっ・・・!?」
「・・・」
 
 驚きを隠せないサファイア。キンセツシティを犠牲にするとはどういう意味なのか。その答えは、凄まじい
爆発音によって明かされた。その爆発音は、サファイア達の聞いたことがある音だった。モンスターボールの中
のフワンテが、思わず飛び出てくる。

「これは・・・フワライドの」
「そうだね、あの時と同じだ」
「よもや、これは・・・」

 ネブラが初めて表情を歪めた。なにか心当たりがあるらしい。
 

「今キンセツシティに大量発生しているフワライド達・・・その全てを爆破し、キンセツシティを破壊させて
頂きます。ーー我々がメガストーンを渡さないとどぉーうなるかを知っていただくためにね。そぉーれでは皆さ
んごぉーきげんよう」
 

 トウカの森で見たフワライドの大爆発は凄まじい威力だった。あの時見たフワライド達が全てキンセツシテ
ィに集まり、爆発したとしたら記録的な被害を負うことになるだろう。

「く・・・!最近のフワライドの大量発生はそういうことだったか・・・!」
 
 苦々しげにネブラが呟いたとき、慌ててジムのトレーナーが入ってくる。
 
「大変です、ネブラ様!昨日まで上空に集まっていたフワライド達が、無理やりシティの中に侵入してきまし
た。住民達も放送を聞いてパニックに・・・!」
「そんな・・・!」

 今までとは違う、町全体を覆う恐怖に混乱しそうになるサファイア。
 
「狼狽えるな!こんな時こそ我等が動くとき。お前達は半々に別れ、片方は町の人々を地下ーーシーキンセツ
へと避難させよ!そして残りでフワライド達を食い止めるのだ!」
 
 だがネブラは冷静さを失ってはいなかった。ジムのトレーナーを一喝し、指示を出す。トレーナーは頷いて
他のメンバーにもその指示を伝えにいった。

「あんたは、どうするんだ?」
「あれだけのフワライドを操るのだ。それには相応の電子機器、並びに電力が必要となるはず。この町の電力
を不正かつ大量に使用している場所を探しだす。さあ、お前達にも避難してもらうぞ」

 彼にしてみればそれが当然の判断だろう。不審人物かもしれない民間人を隔離しておけるのだから。
 だが、サファイアはそれに頷くことはできなかった。
 
「いいや、俺にもーー俺たちにも手伝わせてくれ!」
「なんだと?貴様らに何が出来る。子供の遊びではないのだぞ。それに、女狐を自由にさせろというのか?」
 
 確かに、まだルビーへの疑いは晴れていない、だが。
 
「町の人を避難させるのは俺たちには出来ない。だけどフワライドを食い止めることなら出来る。そこにはジ
ムのトレーナーだって向かってるんだろ。だったらルビーを監視することだって出来るはずだ。人手は多い方が
いいんじゃないか!?」
「・・・」
 
 サファイアの必死の訴えに、彼に目をあわせ睨むネブラ。そして折れたように頷いた。

「良かろう、その提案飲んでやる。即刻町の入口へと向かえ」
「ありがとう!いいよな、ルビー?」
「面倒だけどしょうがない、君のワガママに振り回されてあげるよ」

 彼女の表情は、面倒といいつつも微笑んでいた。そのことに感謝しつつ、サファイアはルビーの手を取って
フワライド達の集まる町の入口に走り出す。この町を守るために。



「コイル、電撃波!」
「ラクライ、スパーク!」
「いくぞ、シャドークローだ!」
「キュウコン、火炎放射」

 ジムのトレーナー達の攻撃に、漆黒の一撃と九つの紅蓮が、フワライドの一体に直撃する。あの時二人がか
りでやっと倒せたフワライドを、町に侵入される前に即座に倒していく。自分達はあの時よりもずっと強くなっ
た。だがーー
 
「いったい何体いるんだ・・・キリがない」
「森で見ただけでも相当な数だったからね。ジムリーダーが装置の場所を特定してくれない限り、ずっとかな
・・・サマヨール、守る」
 
 フワライド達のシャドーボールがサファイア達、そしてジムのトレーナーを狙うのをルビーのサマヨールが
防ぐ。他人を守ることも出来るようになったルビーもまた、人として変わりつつあるのだろう。

「これで一気に決めてやる!ルビー、援護してくれ!」
「わかった、キュウコン!」
「コン!」

キュウコンが天井に火炎放射を放つ。天井を焼き、一つの大きな灯りと化したそれはより影を濃く写す。

「ジュペッタ、ナイトヘッドからのシャドークローだ!」
「ーーーー」

ジュペッタの体が、爪が巨大化し。さらにキュウコンの炎を爪に灯して揺らめく火影となる。それを勢いよくフ
ワライド達に振りかざした。気球のような体が燃え、倒れていく。

「よし!散魂焔爪、決まったぜ!」
「まったく、君はそういうのが好きだね」
 
 技同士を複合させた独自の技に名前をつけるのはサファイアにとっての趣味のようなものだ。それに呆れつ
つも笑うルビー。一先ずでも言葉を交わす余裕ができたのは幸いだろう。ジムのトレーナー達も一息つく。
 
 だが、次にやってきたのはフワライド達だけではなかった。両端の方のトレーナーの悲鳴が聞こえてくる。
 

「ったく、いつまでたっても来ねえから向かえに来るはめになったじゃねえか」
「バウワウ!」
 
 
「もう!人々を避難させるのはいいですが、フワライド達にまで人員を割くだなんて・・・面倒なことをして
くれますね!」
 
 
「あいつら!」
「四天王のネビリム・・・それに、ルファと言ったかな」
 
 右側からはルファとグラエナが、左側からはネビリムとミミロップが現れ、ジムのトレーナー達のポケモン
を倒していく。しかも更に、新たなフワライド達もキンセツシティの中に入り込もうとやってきた。再び迎え撃
つサファイアとルビーだがーー

「くそっ、止めきれない!」
「流石に人が足りないね・・・」
 
 トレーナーのポケモンが倒された分、迎え撃つだけの戦力が減り、フワライド達を倒しきれなくなる。フワ
ライドの一部が町の中に入り、爆発する音が聞こえた。
 
「どうする・・・!こんなときシリアなら・・・」
「・・・」
 
 しかも悪いことに、ジムのトレーナーよりもネビリムやルファの方がずっと強い。このままでは迎え撃つこ
とが出来るのは二人だけーーいや、いなくなってしまうかもしれない。それくらい、向こうの二人は強いのは知
っている。焦るサファイアに、考えるルビー。まさに窮地に立たされた時だった。
 
「ぷわ、ぷわ、ぷわわー!」 
「ぷわ・・・?」
 
 フワンテが鳴く。もとは今のフワライド達と一緒にいたフワンテが。仲間の声にはっと我に返ったように、
フワライド達が一斉にフワンテの方を向いた。
 
「ぷわぷわ、ぷわ!ぷわ、ぷわわー!」
 
 何を言っているのかは、サファイアにはわからない。だがフワンテが必死に仲間達に訴えているのはわかっ
た。だからサファイアも一緒に、戦うのではなく言葉をかけた。
 
「お前達は悪いやつらに操られているんだ!だから正気に戻って、町を破壊するのはやめてくれ!そんなこと
をしても、お前達が傷つくだけなんだ!」
「ぷわわー!ぷわー!」
 
 その訴えは、確かに届いたのだろう。フワライド達はゆっくりと後ろを向き、町の外へと出ていこうとする
。だが。
 
「ーーそうは問屋が下ろしませんよ!こんなときこそパ・・・博士にもらったスイッチオン!です!」
 
 ネビリムがポケットから取り出したスイッチを押す。すると再びフワライド達が、何かに操られるように、
町の中へと入ろうとした。
 
「ぷわ・・・ぷわー!ぷわー!」
「だめだ、聞こえてない!やるしかないのか・・・!」
「ぷわ・・・」
 
 フワンテが悲しそうに鳴く。また仲間達が倒されるのが痛ましいのだろう。サファイアだってこんなことは
したくなかった。
 
「ふふん、我等ティヴィル団の科学力の前にはそんな説得など意味なしですよ!とはいえ、また邪魔されても
厄介ですから・・・ミミロップ、あのフワンテを狙いなさい!ルファ君もですよ!」
「へいへい、んじゃ・・・悪く思うなよ」
「ガウウ・・・」
 
 ミミロップとグラエナが、フワンテに飛びかかる。それをサファイアのオーロットとヤミラミが体を張って
防いだ。更にサファイアが指示をだす。
 
「オーロット、ウッドホーン。ヤミラミ、メタルバースト!」
 
 オーロットが大枝を降り下ろし、ヤミラミがミミロップの蹴りの衝撃を光に変えてダメージを跳ね返す。だ
が相手の二匹も素早く、グラエナは獣の身のこなしで、ミミロップは美女の舞いのように攻撃をかわした。

「速い・・・!」
「その程度の攻撃がこの私に当たると思いましたか?有象無象は倒しました。後はあなた方だけですよ」
「!!」
 
 見れば、ジムのトレーナー達は全てポケモンを倒されて愕然としていた。今の攻防の間にも、ルファのフラ
イゴンやネビリムのサーナイトが攻撃を仕掛けていたのだ。この間にも、フワライド達は侵入していく。
 
 残ったサファイア達を倒そうと、近づいてくるルファとネビリム。その時、ルビーがサファイアに小さく耳
打ちした。
 
「・・・出来るのか、ルビー」
「やってみせるさ。君こそ準備はいいかい?」
「大丈夫だ!」
「こそこそと、なんの相談ですか?」
 
 その言葉に。ルビーは答えなかった。サファイアが急に走り出す。そして。

「キュウコン、全力で炎の渦!!」 
「なっ・・・!」
「うおっ、あぶねえ・・・」
 
 キュウコンの逆巻く業火がルファ、ネビリムを、そしてルビーだけを包みーーサファイアだけをその外に逃
がした。そして同時にキンセツシティの入口を炎の壁で覆うことでフワライド達の侵入も封じる
 
「小癪な真似を・・・あの子を逃がしましたか」
「・・・」
 
 ルビーは答えない。いつもサファイアといるときとはまったく違う、不機嫌そうな表情を浮かべている。
 
「ですが、こんな壁私のサーナイトにかかれば!サイコキネシスで炎を吹き飛ばしなさい!」
「キュウコン!」
 
 サーナイトが強い念力で炎を散らそうとする。だが次の瞬間にはキュウコンが炎を張り直した。炎に閉じ込
められ、むっとするネビリム。

「ああもう暑苦しいですね・・・だいたい、あなた一人で私たち二人を止められると思ってるんですか?」
「・・・」
「ちょっと、無視しないでください!」
「でておいで、ハンプジン、クチート」
 
 なおも相手にせず、自分の手持ち全てを出すルビー。
 
「・・・どうやら、やるしかねえみてえだな。
 怪我しても泣くんじゃねえぞ」
 
 ルファの目が据わる。ネビリムも頬を膨らませてミミロップに命じた。あのいけすかない女をこてんぱんに
しなさいと。
 
(やれやれ、らしくないことを引き受けちゃったかな)
 
 ルビーも二人の強さは把握している。恐らくは本気でやっても、勝てない相手だと言うこともわかっている
。それでも自分とサファイア、二人とも彼らに拘束されるよりいいと時間稼ぎをすることにしたのだ。
 
(・・・いつのまにか彼がそばにいてくれることが当たり前になってた。だけど)
 
 サファイアと一緒に旅を始めてから、バトルは手を抜いていても彼がなんとかしてくれた。きっと自分はそ
れに甘えていた部分もあるんだと思う。
 

(今だけは、全力でやらないとね・・・!)
 
 
 キッと相手二人を睨む。自分の負けが半ばわかっていても、少女は自分を大切にしてくれる人のために本気
で挑むーー
 
 
 
 一方サファイアは、ルファとネビリムの二人から離れ、ジムリーダーに連絡を取っていた。理由はもちろん
、フワライドを食い止める応援を呼ぶ為だ。今はルビーがなんとかしてくれているが、あんな大規模な炎の渦は
いつまでももつものではないだろう。
 
「・・・わかった、避難もほぼ完了した。直ぐに避難に割り当てたメンバーをそちらに向かわせよう」
「フワライドを操る装置の場所はまだわからないのか?」
「検討はついた。だが、お前では厳しいだろう。俺様に任せーー」
「頼む、教えてくれ。ルビーに頼まれたんだ。自分が時間を稼ぐ間にフワライド達を止めてくれって」
「・・・あの女狐がか」
「ルビーはそんな子じゃない」
 
 電話の向こうの声が少し止まった。考えているのだろう。数秒後、帰ってきた返事は。
 
「いいだろう、時間が惜しい。装置の場所ーーそれは、キンセツシティを走る地下鉄の環状線、そこを走る電
車の中だ。いけるか?」
「・・・やってみる!」
「俺様も直ぐに向かう。いいか、無茶はするなよ」
 
 返事はなかった。もう地下鉄へと駆け出したのだろう。ジムリーダーもそちらに向かおうとした。その時だ
った。
 
「キンセツのおじさん・・・ちょっと待ってくれない?」
「!?」
 
 振り向く。そこにはいつの間にかオッドアイの幼い少年がいた。いくら集中していたとはいえ、自分の背後
をあっさりととるとはただ者ではない。確信的にそう思った。
 
「貴様・・・ティヴィル団の者か?」
 
 少年はその台詞に、まるで仙人のようににかっと笑って答える。
 
「そうだよ、おじさん、あの子に装置の場所を教えてくれてありがとう。だけどこれ以上の手助けは無用なん
だ。この事件が終わるまでーー僕とバトルしようよ」
「フン・・・ここから出たくば倒してゆけということか」
「そういうこと、出てきてアブソル!」
「いでよ、ライボルト!ーー雷帯びし秘石の力で更なる進化を遂げよ!」
 
 ライボルトの体が光輝く。メガシンカしたその姿は、まるで体毛が雷そのものとなっていた。それに目を輝
かせる少年。

「わあ、出た出たメガシンカ!それじゃあ準備も出来たところで・・・勝負といこっか!アブソル、鎌鼬!」
「ライボルト、スパーク!」
 
 それぞれの場所で、お互いの力をぶつけ合う。そしてサファイアは、装置の場所へと向かうのだったーー
 
 


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