マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1518] ティヴィルとの決戦! 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/02/15(Mon) 15:11:18   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「地下鉄の入り口は・・・確か、ここだったな」

キンセツジムのトレーナーに案内してもらったときのことを思いだしながら、サファイアは地下鉄へと急ぐ。だ
が、入り口にはやはり邪魔者がーー顔面にガスマスクを付けたミッツ達がいた。地下鉄へ降りる階段を、律儀に
3人で塞いでいる。

「そこの少年!この先には何もないから戻るべきだ!」
「そうだ!ティヴィル様は別の場所にいるから帰るべき!」
「その通り!・・・えーと、とにかくここは通るべきではない!」
 
 口々にここから去るように言ってくるが、これでこの先にティヴィルがいるとはっきりしたようなものだ。
サファイアはボールを取りだし、前に投げる。それに応じて、向こうもポケモンを繰り出してきた。

「出てこいオーロット、ジュペッタ!」
 
「ユキワラシ、粉雪を放つべき!」
「ラクライ、電撃波を放つべき!」
「ドンメル、火炎車を放つべき!」
 
「オーロット、身代わり!」

 三体が同時に攻撃してくる。サファイアが命じるとオーロットは自身の体力を削ることで、影で出来た実体
のある大樹を生み出す。そこにジュペッタと一緒に身を隠した。三体の攻撃が大樹に当たるが、崩れ落ちること
はなかった。

「よし、ここは一気に決める!オーロット、ゴーストダイブ、ジュペッタは影打ちだ!」
 
 ジュペッタが素早く自分の影を伸ばし、オーロットが影の中に隠れる。

「むむっ、どこへ消えた!出てくるべき!」
「すぐにわかるさ!」

 ジュペッタの影がさらに延び、三匹のうち真ん中にいたラクライに当たる。そして同時にーーオーロットが
伸びた影から現れその巨体による攻撃を存分に振るった。三体とも巻き込まれ、地面を転がる。

「た、たった一撃で三体を・・・」
「ここまで強くなっているとは・・・」
「ま、またしてもオシオキを受けるはめに・・・」

 驚愕しているミッツたちに構っている暇はない。サファイアは彼らの横をすり抜けて地下鉄へと向かう。
 
 中にはいると、普段は多くの人の往来があるであろうホームは無人でがらんとしていた。電車を利用したこ
とのないサファイアだが、駅員すらいない改札は不気味に感じる。改札口は機能しているため、入場切符を買っ
て中にはいった。するとーー
 
「ハーハッハッハ!よぉーやく来ましたね、ジャリボォーイ」
「ティヴィル・・・!」

 この騒動を起こした張本人たる博士の声が駅の中のスピーカーから聞こえてきた。サファイアの声にも怒り
が籠る。
 
「ジムリーダーの協力を取り付け、ここまで来たことはほぉーめてやりましょう。ですがここまでです」
「!」

 どういう意味かと回りを見れば、ホームから一台の電車が動き始めているではないか。ここで逃がせば追う
手段はなくなってしまう。全速力で追いかけるサファイア。
 
 だが、動き始めとはいえ相手は電車だ。サファイアの足ではぎりぎり追い付けず、伸ばした手から電車が離
れていくがーー
 
「ジュペッタ、影打ち!」
「ーーーー」
 
 ジュペッタの影が再び伸びる。それは電車の影と繋がった。サファイアがジュペッタの体をガッチリと掴む

 
「影よ、戻れ!」
 
 伸ばした影が戻る。ただしジュペッタの方ではなく電車の方に。結果としてジュペッタとそれにしがみつい
ているサファイアの体が引っ張られ、電車へとへばりつくことが出来た。影打ちのちょっとした応用だ。
 
「ふう・・・今度はシャドークローだ!」
 
 漆黒の爪が電車のドアを切り裂く。電車の速度に振り落とされる前に、サファイア達は電車の中に転がり込
んだ。
 
「よし・・・いくぞ!」

 フワライドを操る装置はここにあるのだろう。もうすぐこの騒動を止めてみせる。
 
(だからルビー、もう少し持ちこたえてくれよ・・・!)
 
 
 
 
「ミミロップ、飛び膝蹴り!」
「グラエナ、毒々の牙!」
「サマヨール、重力」
 
 一方その頃、ルビーは未だにキンセツシティの入り口を守り続けていた。今も襲い来る二匹の攻撃を、強烈
な重力場を発生させて接近を許さない。ネビリムのミミロップには火傷を負わせてもいる。

「・・・さすがはチャンピオンの妹様ってところか。隙がねえな」
「感心してる場合ですか!ああもう、忌々しい子ですね・・・」 
 
 ルビーの敷いた布陣は強力だ。前をメガシンカしたクチートが守り、後方をパンプジンとサマヨールが固め
。最後尾でキュウコンが炎の渦で入り口を防いでいる。その徹底した守りが、ルファとネビリムを寄せ付けない


「こうなったら・・・ルファ、貴方もメガシンカです!私も本気でやりますよ、出てきなさいサーナイト!」
「へいへい・・・出てこいオニゴーリ」
 
 ルファの剣の柄と、ネビリムの髪飾りが光輝いた。同時にオニゴーリとサーナイトの体が光に包まれる。
 
「絶氷の凍牙よ、全てを震撼させろ!」
「更なるシンカを遂げなさい!その美しさは花嫁が嫉妬し、その可愛さは私と並ぶ!」
「メガオニゴーリ、凍える風だ!」
「メガサーナイト、ハイパーボイス!」
 
 メガシンカした二匹の攻撃は、最早吹雪と破壊の音波と言って差し支えなかった。まともにぶつかり合えば
歯が立たないだろうことがはっきりわかる。だがーールビーは単純に力負けしたからといって太刀打ち出来なく
なるそこらのトレーナーとは違う。
 
「サマヨール、『朧』重力」
 
 サマヨールが手のひらを合わせて離すと、そこには漆黒の球体が発生した。それはゆっくり前に飛んでいく
と、凍える風とハイパーボイスを綺麗に吸い込んでしまう。上から押し潰すのではなく、ブラックホールのよう
に全てを吸い込むもうひとつの重力の使い方だ。それを使い分ける意味でルビーは朧、と呼び分けている。
 
(別にサファイア君に影響された訳じゃない・・・と、思うんだけどね)
 
 ちょっぴり中二病な彼を思いだし、嘆息。その間にもクチートが動いている。技を吸い込まれて驚いている
サーナイトに噛み砕くを決めるために。
 
「しまった、サーナイト!ミミロップ、フォローしてください!」
 
 接近戦には弱いサーナイトの代わりに、控えていたミミロップが間一髪で蹴り飛ばして防ぐ。ルファもそれ
に乗じてクチートに攻撃を仕掛けてきた。
 
「オニゴーリ、噛み砕け!」
「パンプジン、ハロウィン。クチート、噛み砕く」
 
 動じずルビーはパンプジンに命じると、ハロウィンの効果でオニゴーリの体はまるで氷で出来たジャック・
オー・ランタンのようになり、ゴーストタイプが付加された。悪タイプの噛み砕くの一撃が効果抜群となり、オ
ニゴーリの体の表面に罅が入る。
 
「っと・・・やってくれんな」
「・・・」
 
 ルビーはルファを睨む。どうにもこの男、まだまったく本気を出していないような気がしてならないのだ。
そうでなければ自分はもっと苦戦を強いられたはずだ。メガシンカを使ってこそいるが、そんなものはただの『
力』でしかないと彼の目は語っている。
 
 ルファもそんなルビーの目に気づいたのだろう。彼はネビリムには見えないようにーーそっと、唇に人差し
指を当て、口角をつり上げる。
 
(・・・獅子身中の虫、ということかな?)
 
 ともかく、彼が本気で来ないのは幸いだった。目線をネビリムに切り替える。
 
「サーナイト、ハイパーボイスです!」
「ーーーー!」
 
 サーナイトが再び強烈な音波を放ち、クチートの体が吹き飛ばされる。だが鋼・フェアリーのクチートには
フェアリータイプの技はあまり通用しない。平然と起き上がり、体勢を立て直す。

「く・・・まだ倒せませんか。ですがもう貴女のキュウコンは限界でしょう!その時がこの町の最後です!」
「・・・」
 
 そう、二人の攻撃は今の分ならいなせるだろう。だが、問題はキュウコンの方だった。今も少しずつ、彼女
の吐く炎は弱くなっている。守るだけでは限界があるが、ルビーは攻めるのは得意ではない。
 
(・・・それでも、やるしかないんだ。
 
サファイア君、少し力を貸してくれるかい?)
 
 自分の想い人に乞い願う。勿論彼に聞こえるはずもないし、直接彼が何かしてくれるわけでもない。
 
 借りるのは、彼の技を組み合わせるセンス。今まで見てきた彼だけの才能を、出来るだけ真似た一撃を放つ

 
「パンプジン、花びらの舞い!サマヨール、シャドーボール!そしてキュウコン、クチート、火炎放射!」
 
 パンプジンの花びらが舞い、漆黒の球体がそれを黒く、火炎が赤く染め上げてまるで無数の黒薔薇の花弁と
化け、ルファとネビリムに襲いかかる。
 
「墨染の薔薇ブラックローズ・フレア」
 
 無数の黒薔薇に対し、それをサイコキネシスで弾き飛ばそうとするネビリムをルファが片手で制す。
 
「やらせませんよ!サーナイト、防いで・・・」
「いいや、ここは俺に任せろ」
「・・・出来るんですか?」
「オニゴーリの氷を舐めんなよ?」
「・・・わかりました」
 
 そう言って、ネビリムはサーナイトを下がらせる。ルファはネビリムの知る限り一番いい笑顔で頷いた。オ
ニゴーリに指示をだす。
 
「オニゴーリ、わかってんな?」
「ゴッー!!」
 
 放たれた氷は。
 
 ルビーの総力を込めた攻撃より遥かに弱く。
 
 激しい炎の花弁が、二人を包み込んだーー。




「・・・生きてるかい?」
「おかげさまでなんとか、な」
 
 仰向けに倒れたルファに、ルビーはそう話しかける。ルファはゆっくりと体を起こし、伸びているネビリム
の方にも命に別状は無さそうなのを確認するとルビーの方を見た。

「いやー空気読んで技ぶちこんでくれて助かったぜ。・・・これでこんなやつらの真似事ともおさらばだな」
「・・・その辺の事情は後で彼が聞くよ。それより今は」
 
 キュウコンはさっきの炎でもう技を放つ力が尽きた。今にもフワライド達が町に浸入しようとしている、そ
れを止めなければいけない。
 
「ああそうだな。さくっと片付けますか・・・」
 
 ルファがそう言った時だった。町のなかから一台の自転車が階段をかけ上がって飛び出してくる。ルビーが
不快そうに眉を潜め、ルファが苦い顔をした。
 
「てんめえええルファ!こんなところにいやがったのか!あの時の借り、きっちり返してやるぜ!」

 ・・・エメラルドの登場により、どうやら事態はまだややこしくなりそうだった。ルファが寝返ったことを
伝えようにもルビーもまだ詳しい話を聞いていないし、そもそも聞く耳を持つとも思えない。
 
(・・・サファイア君、早く戻ってきてくれないかな)
 
 ある意味自分にはどうしようもない事態に溜め息をつきつつ、ルビーはそう思うのだった。


 

「ティヴィル!フワライド達を止めるんだ!」
 
 そしてサファイアは、やっと車両の最先端にいたティヴィルの元にたどり着いた。彼の後ろの車掌室には、
装置であろう巨大な機械がある。サファイアからは良く見えないが、いくつもの画面にグラフや警告表示のよう
なものが映っていた。ティヴィルは不必要にスケートのダブルアクセルのような回転を決めながら、サファイア
に言う。
 
「とうとうここまでやって来ましたねジャリボォーイ。君のような諦めの悪いガキは嫌いですよぉー?あの時
のように、軽く捻ってあげましょーう」
「うるさい!俺はあの時よりずっと強くなった。もうお前なんかに負けたりしない!」
「その態度、いつまで持ぉーちますかねぇ?では・・・さっそぉーく始めましょうか?」
「お前だけは許さない・・・ここで終わりにしてやる!」
 
 ティヴィルとサファイアが睨み合う。そしてお互いにポケモンを繰り出した。電車の中で二人はキンセツシ
ティの命運をかけてぶつかり合うーー
 
「出てきなさい、レアコォーイル!」
「いけっ、オーロット!」


「探したぜ……この前のオカマが街を破壊しようとしてやがるからてめえもいるんじゃねえかと踏んでみたがや
っぱりだな!」

 どや顔でルファを指さすエメラルドは既にモンスターボールを地面に叩きつけ、自慢の御三家を繰り出して
いる。上に放り投げなかったのは以前そうした際にボールをキャッチされた

からだろう。そういう対策は怠らないのもまた彼らしい。

「ってことは、ポセイの奴がここに来ないのは……」
「俺がブッ飛ばした、文句あるか!」
「……やれやれ、あいつも運のないこった」

 呑気に肩を竦めるルファ。ルビーにはこの状況は解決しがたいため、既に意識はフワライドたちに向かって
いて、町に入ろうとする彼らに応戦している。
 
「悪いけど、俺はもうティヴィル団から抜けるんだ。そこの嬢ちゃんのおかげでな。ここは勘弁してくれねえ
か?」
 
 ルファは正直に言うことにしたらしい。だがそれを聞いてはいそうですか、というエメラルドではない。
 
「ふざけんな!悪の手先のそんな言葉、誰が信じるかよ!やれバシャーモ、火炎放射だ!」
「シャッ!」
 
 バシャーモの放つ火炎放射は、ルビーのキュウコンが放つそれに比べれば本数は一本だけだが、正に業火の
柱。威力は確実にこちらの方が上だろう。それに対するルファは――軽く身

をひねって躱した。背後に近づいていたフワライドがまともに浴びて倒れる。
 
「やれやれしょうがねえな……ならちっとの間、静かにしててもらうぜ?」
 
 ルファが刀を抜く。エメラルドは上等だ、と吠えた。そして二人はぶつかり合――わない。
 
「ジュカイン、リーフブレード!ラグラージ、波乗り!」
「っと!効かねえなあ!」
 
 エメラルドの猛攻を、ルファは身をかわし、避けきれない広範囲の攻撃はポケモンに一点突破させて凌ぐ。
そしてその間にも、やたら威力の高いエメラルドの攻撃は町に侵入しようと

するフワライドをバタバタと倒していく。
 
(まさか、彼は……)
 
 それを見ていたルビーは勘づく。これは恐らく偶然ではないと。ルファは意図的にエメラルドの攻撃を誘導
し、その威力を利用してフワライドたちを倒しているのだ。それは単純にポ

ケモンバトルが強い、というだけで出来ることではない。ポケモンなしでは全く戦えないルビーとは違う、彼
自身が強いからこそ出来ることだった。

 
(まあいいや、その辺も彼が聞いてくれるだろう)
 
 結局そこはサファイア任せにしつつ、ルビーは自分が巻き込まれないように守りつつ、フワライドを倒して
いく。二人のようで三人による撃退が始まった。



「レアコォーイル、電撃波!」
「オーロット、身代わり!そしてウッドホーンだ!」
「フフーフ。当たりませんねえそぉーんなもの!」
 
 走る電車内でのバトル。それは間違いなくサファイアにとって不利だった。何故なら車両というのはそう広
くなく、いつもの影分身により敵の攻撃を躱すことを中心としたバトルが難

しいからだ。おまけに時折揺れるのがサファイアやポケモンの足取りを乱す。故にサファイアはオーロットで様
子見をしつつ、対策を練る。今も電撃波を影の大樹で守りつつ攻撃を仕掛

けるが、揺れでバランスが崩れて上手く攻撃できない。
 
「それではそぉーろそろ見せてあげましょう。真・トライアタック!」

 レアコイルの磁石が体から離れ、三角形の頂点を作り出す。発生した強力な磁力でレアコイルの体の周りが
熱くなり――そこから、バーナーのように炎が噴き出た。影の大樹に直撃し

、焼け落ちる。
 
「もう一度身代わりだ!」
「無駄ですよ、こちらももぉーう一度です!」
 
 再びオーロットが影で大樹を模した身代わりを作り出すが、レアコイルの炎によって焼き尽くされてしまう
。一見すれば防げているようだが、身代わりには体力を使うのだ。このまま

防戦一方では、オーロットの体力が尽きる。
 
「なら今度はゴーストダイブ!」

 自身の影の中に身を隠すオーロット。普通のポケモンバトルなら手が出せないところだが、目の前の博士は
そんなもの物ともしない。
 
「自分の身を護るポケモンを隠すとはおぉーろかですねぇ。レアコイル、やってしまいなさい!」
 
 レアコイルの攻撃の照準がこちらを向く。やはりこの博士はポケモンで人を傷つけることをなんとも思って
いない。ーー故に、読めていた。
 
「今だ、出てこいオーロット!」
「オーッ!」

 レアコイルの影からオーロットが出てきて突撃する。するとレアコイルの体が真っ赤に燃え上がり、仰向け
に倒れた。
 
「ノォー!?私のレアコイルが!」
「この前シリアが言ってただろ、お前のトライアタックは強力な反面で、ポケモンに負担をかけてるってな!

 
 レアコイルの発生させた磁場は強い炎を発生させるほどだ。故にその磁場が崩れてしまえば己自身を焼くと
シリアは言っていた。それをサファイアなりに実行したまでだ。
 
「フン・・・まあこぉーの前よりはマシになったようですねえ。こぉーうでなくては面白くありません。出て
きなさい、ロォートム!」
「戻れオーロット、そして・・・いくぞフワンテ!」
 
 ティヴィルが影を纏った電球のような姿をしたポケモンを繰り出す。たしかこの前は、芝刈機の姿に変身し
てリーフストームを使っていた。
 
「フフーフ、随分と小さくて頼り無さそうなポケモンですねえ。ロォートムの攻撃、受けてみなさい!放電!

「それはどうかな。フワンテ、シャドーボール!」 
 
 車両を埋め尽くさんとするような放電に、フワンテが漆黒の球体で迎え撃つ。が、力負けしてフワンテの体
が電撃を受けた。サファイアの体も少し痺れる。
 
「それ見たことですか。そんなポケモンでは私には勝てませんよぉー?」
「・・・いいや」
「?」
 
 サファイアが呟くように言う。電撃を受けたフワンテの体が輝き始めた。その小さな体が、巨大化していく

 
「本当の勝負は、これからだ!お前の仲間達を傷つけられた怨み晴らせ、フワライド!」
「ぷわわぁー!」
「ほぉーう、進化させてきましたか・・・ですがその程度でなんとかなると思わないことですね」

 特別進化には驚かないティヴィル。むしろ面白そうに笑みを浮かべた。
 
「フワライド、シャドーボール!」
「では見せてあげましょう、我がロォートムの真の力を!ウォッシュロトム、チェンジ!そしてハイドロポン
プ!」
 
 先程より大きく威力を増したシャドーボールに対し、ティヴィルはロトムの体を洗濯機のように変型させる
。そしてそのホースの部分から、大量の水を放ってきた。シャドーボールが相殺される。
 
「折角の進化もそぉーの程度ですか?」
「まだまだ!フワライド、妖しい風!」

 漆黒の弾丸は相殺出来ても、吹きすさぶ風は打ち消せまい。そう考えて攻撃する。

「ならばウインドロトム、チェンジ!そぉーしてエアスラッシュ!!」

 今度はロトムが扇風機の姿を取り、幾多の風の刃を放ち。またしても攻撃が掻き乱され、ロトムには届かな
い。
 
「くそっ、なんでもありかあの変型は・・・」
「そぉーのとおり。そしてそろそろ見せてあげましょう、我がロトム最大級の攻撃を」
「!!」
「ヒートロトム、チェンジ!そぉーして・・・オーバーヒートォー!」
「ぷわわぁー!」
 
 サファイアが何か指示をだす前に、フワライドがサファイアを庇うために動いた。進化したその巨体はサフ
ァイアの体を覆い隠すのに十分で、ヒーターに変型したロトムの猛火を防ぐ盾となる。
 
「フワライド!!」
「ぷわ・・・」
 
 だがそれは相手の最大級の攻撃をまともに受けるのと同じ。フワライドの体が焼け焦げ、すさまじい熱を持
ち。
 
「ぷーわーわー!」
 
 その体がみるみるうちに。車両の天井につくまでに大きく膨らんでいく。
 
「こぉーれはまさか・・・熱暴走!?」
 
 わずかだが焦ったティヴィルの声に、これはチャンスだと直感するサファイア。
 
「踏ん張れフワライド、もう一度シャドーボール!」
 
 フワライドのシャドーボールは自分の体と比例するが如く大きく膨らんでいく。ティヴィルがロトムを変型
させて攻撃を仕掛けるが、漆黒の球体は縮まるようすはない。
 
「ぷー、わー、わー!」
「ノオオオオオオ!!」
 
 放たれた一撃は確かにロトムに直撃し、戦闘不能にした。サファイアの知る限りのティヴィルの手持ちはこ
の二体だけだ。降参するように呼び掛ける。

「・・・もう勝負はついただろ!大人しく装着を止めるんだ!」 
「降参・・・?ク、ククク・・・ハーハッハッハ!!」
 
 哄笑するティヴィル。どうやらまだ諦める気はないらしい。次はどんなポケモンが来るのか警戒するとーー
なんと、車掌室の装置から雷が飛び出した。フワライドに命中し、フワライドが倒れる。
 
「なっ・・・!!」
「あまり使いたくはありませんでしたが見せてあげましょう。こぉーれが私の最高傑作にして最終兵器!ポリ
ゴンZ !」
 
 装置についている幾つものモニターが光を放ち、一つの立体映像を作り出す。それは赤と青で構成された、
なんとも説明の難しいフォルムをした紛れもない一匹のポケモンだった。

「・・・出てこいヤミラミ!その輝く鉱石で、俺の大事な人を守れ!」

 ヤミラミをメガシンカさせて、宝石の大盾を構えさせる。それをティヴィルは笑った。
 
「このポリゴンZの前に防御などぉー無力!冷凍ビーム!」
「ヤミラミ、メタルバースト!」
 
 ポリゴンZが立体映像から冷凍ビームを吐くのを、大盾で受け止め、盾を凍りつかせながらも跳ね返す。だが
ーー

「フッ・・・」
「なっ・・・!?攻撃が効かない・・・?」
 
 跳ね返した攻撃は、あっさりと立体映像をすり抜け、車両内で散乱した。車掌室の装置が壊れないように電
車ごと改造したのか、傷ひとつつかない。
 
「そう!これこそポケモン預かり装置とヴァーチャルポケモンことポリゴンZの能力を組み合わせた無敵の戦略
!どんな攻撃でも、私のポリゴンZを傷つけることは出来ません。何故ならポリゴンZは装置の中にいるのですか
らね!」
 
 また無駄にポーズを決めつつ自分の発明をペラペラ話すティヴィルだが、これは確かに本格的に不味い。向
こうからは一方的に攻撃できて、こっちの攻撃は一切通らないのだから。
 
「さあいきますよ!ポリゴンZ、破壊光線!」「また俺を狙って・・・!ヤミラミ、守る!」 
 サファイアとヤミラミの体が緑色の防御壁に包まれ、破壊光線を弾き飛ばす。向こうは反動で動けなくなる
が、こちらからも手の出しようがない。
 
(いったいどうすれば・・・待てよ、預かりシステム?)

 ティヴィルは確かに預かり装置と組み合わせている、と言っていた。それなら、勝機はあるかもしれない。
だがこれは危険な賭けだ。託すなら相棒のジュペッタだが、果たしていいのかーーそんな思いを込めてジュペッ
タを見つめる。
 
「ーーーー」
「よし・・・頼むぞジュペッタ」
 
 相棒から帰ってくるのはいつもの返事。任せてください。そう聞こえた。

「何をこぉーそこそ話しているんですか?」
 
 無視してサファイアは走り出す。ポリゴンZが破壊光線の反動で動けない今がチャンスだ。
 
「フフーフ、さては直接『雷同』を壊す気でぇーすね?ですがこぉーの『雷同』はあなた程度に壊せるもので
は・・・」

 得意気に語るティヴィルだが、サファイアの狙いはそこではない。『雷同』というらしい装置まで走り抜け
ーージュペッタの入ったモンスターボールを、預かりシステムの利用法と同じように入れた。ティヴィルがぎょ
っとする。
 
「な・・・まさか」
「そのまさかさ。ポリゴンZの本体がこの中にいるっていうんなら、こっちのポケモンも中に送り込んでやれば
いい!」
「フン・・・相変わらず勘のぉーいいガキですが・・・あなたは意味がわかっていますか?電子空間の中で戦
い、負けたポケモンの末路は戦闘不能ではなくデータとして消滅です。自分のポケモンを喪う恐ろしさ、味わっ
ても知りませんよぉー?」

 サファイアにも、確信はなかったがそうではないかという予測はあった。ジュペッタを喪うなど、考えただ
けでも恐ろしい。が。サファイアは憶さず、ティヴィルを睨み付ける。
 

「俺の相棒は、お前なんかに負けたりしない!」


 斯くして二人の決戦の舞台は、現実世界ではなく電子空間に持ち越されたーー。
 
 
 
 突如として小さく、広大な電子空間に送り込まれたジュペッタは、意外と冷静に己の動きを把握していた。
まずは自分がこの空間でどれだけやれるのか、それがわからなくてはどうしようもない。真っ先に敵の居どころ
に向かわないあたり、サファイアと違って冷静だ。
 
(それに、恐らくは・・・)
 
 ジュペッタにはこの装置が如何なるメカニズムによって動いているのかはわからない。だが町中のフワライ
ドを操るほどとなればそれをコントロールする存在が必要になるだろう。
 
(さっきのポリゴンZの攻撃は、破壊光線を撃ったにしても停止時間が大きかった。そして今も、侵入者である
私になにもしてこない。ーーつまり、彼?こそがこの装置を統制している存在とみて間違いないだろう)
 
 そう予測をつけ、緑色を中心として構成された電子空間を進んでいくジュペッタ。すると程なくしてポリゴ
ンZの姿が見えてきた。
 
「・・・ターゲット、ホソク。デリート、カイシ」
「くっ!」
 
 ポリゴンZはこちらの姿を見るや否や、直ぐ様体の一部を砲台に変えて冷凍ビームを放ってきた。だがそれは
ーー電子空間での動きになれていないジュペッタでも避けられないことはないものだった。あちらとて、本来電
子空間での戦闘などプログラムされていないのだろう。

(ならば一気に決めさせてもらう!)
 
 ジュペッタは今の自分に出来る全速力でポリゴンZに肉薄する。やはりポリゴンZの動きは遅い。一気にその
鋭い爪で引き裂き、勝負を決めたーーかに思われたが。
 
(手応えがない!?これは・・・)
 
 まわりを見回すと切り裂いたはずの体が再構築され、元のポリゴンZの姿を取り戻していた。・・・単純な物
理攻撃は通じないということか、とジュペッタは考える。
 
「デリート・・・デリート・・・デリート・・・」
 
 うわごとのように繰り返しながら、ポリゴンZは砲台を増やして攻撃を仕掛けてくる。片方の攻撃があたり、
ジュペッタの片腕がちぎれとんだ。自分の体が消滅していく感覚に寒気が走るが、ここで止まるわけにも負ける
わけにもいかない。
 
(この一撃で決める)
 
 ポリゴンZは電子空間での戦闘に適応してきている。長引けば長引くほど、戦闘は不利になるーーいや、待っ
ているのは敗北のみだろう。
 
(相討ちにもやってやるつもりはない。私はまだマスターのもとでやるべきことがある)
 
 ミシロタウンでシリアのDVD を見ながら、あんなチャンピォンになりたいといつも言っていたサファイアの
夢を叶えるとジュペッタはカケボウズだったころから誓っているのだ。こんなところで、終わるわけにはいかな
い。
 
(この爪に火を灯してでも私は・・・勝つ!!)
 
 鬼火の炎を自分の爪に。焼けるような感覚にも構わず、再度ジュペッタは肉薄した。これくらいが自分の足
を止める弱気を払うにはちょうどいい。
 
(散魂炎爪・怪)
 
 そして、炎を纏った闇の爪が、今度こそポリゴンZを引き裂いてーー回りの電子空間が、ぶつんと音を立てて
暗くなった。装置が止まったのだろう。
 
(さあ戻ろう、マスターの元へ)
 
 ジュペッタは電子空間から脱出する。自分を心配・・・いや、信じてくれているサファイアのところへーー
 


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