マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1623] VS01.Nine tales 投稿者:造花   投稿日:2018/02/10(Sat) 21:11:03   22clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 険しい山脈が東西に走り、南北を隔てる島国・イヨノフタナ地方。
 ポケモンリーグが存在しない辺境の地方だが、各地に点在する寺院は、古くから人とポケモンが共に歩む道筋を求道していた言い伝えが残り、現在もポケモンジムに代り、多くのトレーナーとポケモンたちの修行場として親しまれている。

 この地方で一人前のポケモントレーナーとして認められるには、各地に点在する八十八の寺院を巡り、全ての試練を乗り越えなければならない。
 その風習は『お遍路』と呼ばれ、現在も廃れる事なく受け継がれており、多くのポケモントレーナーたちが挑戦しにやってくる。

八門書房刊『赤井勇のお遍路ぶらり旅』より

 卍

 雲ひとつ見当たらない快晴の青空、太陽がギラギラと地上を照らす。
 その真下、鮮やかな紅葉が広がる山林のどこか、周囲の紅葉と交わるように、赤い鳥居がひっそりと立つ。
 鳥居の先には長い階段が続いており、駆け上がってみれば厳かな雰囲気のある立派な寺院が佇んでいた。
ここはイヨノフタナ地方八十八箇所の一つ、キュウコン寺。
 聖なる力を持つ九人の仙人が合体したとされる伝説のキュウコンが本尊と共に祀られている。
 住職はキュウコン使いの専門家(エキスパート)として名高く、キュウコンの力を最大限に引き出す心得、秘伝の奥義を代々引き継ぎ、寺を訪れる後進のポケモントレーナーたちの指導に当たっている。
 お遍路の挑戦者は、住職が手塩をかけて育てたキュウコンと手合わせし、彼等に認めてもらわなければならない。

 キュウコン寺の境内の奥に設置されたポケモンバトルの試合場では、たった今、一人のポケモントレーナーがお遍路の試練に挑戦しようとしていた。

 卍

「 カントー地方の生ける伝説と謳われたポケモンチャンピオンとお手合わせできる日が来るとは・・・・・・この僥倖しかと応えなければなりませんね」

 法衣を纏う坊主頭の壮年の男性は、朗らかな微笑みを浮かべながら、モンスターボールをバトルフィールドに投げ込んだ。

「推して参れキュウコン!」

 モンスターボールが解放され、眩い光と共に出現したのは、金色に輝く美しい毛並みに、九本の長い尻尾を生やした赤眼のキツネポケモン・キュウコン。
 キュウコンの平均的な体長は約1.1m前後くらいだが、この個体はその倍以上の大きさはあるようだ。
 対する挑戦者、赤色のキャップ帽を被り、赤と白のラグランTシャツ・青いジーンズを身に付けたラフな格好の青年・・・・・・ポケモントレーナーのレッドは、肩に乗せていた体長0.4m体重6.0kg両頬に電気を蓄える赤い袋を有する黄色い体色のネズミポケモンをフィールドに送り込む。

「任せたピカチュウ」
「ピカァっ!!」

 巨大キュウコンと対面したピカチュウは、臆する様子を見せる事なく掛け声を上げると、両頬の電気袋をスパークさせて臨戦態勢に入る。
 真剣勝負の場に進化前のポケモンを出すなど、ルーキーでない限り、対戦相手を舐めた態度と受け取られかれないが・・・・・・レッドにとってピカチュウは先鋒を任せられる立派な切込み隊長である。
 誤解を解くには語るよりも力を示した方が手っ取り早く、それ故に彼のピカチュウは手持ちのメンバーの中でもレベルが一番高い。
 坊主は笑っているように見えてしまう糸目を微かに見開き、対戦相手たちを品定めするように見つめ、キュウコンに指示を仰ぐ。

「小型ポケモンと侮ってはいけませんね。九尾の構えで迎え撃ちましょう」

 坊主の指示を受けたキュウコンは、その場から動く事ない。しかし、九本の尻尾がたなびく度に、周囲の空間に微かな歪みが生じて見える。
 その異変を探るべくレッドは、ピカチュウに指示を出した。

「10万ボルトで攻撃しろ」
「ピッカァァァアアアっ!!!」

 ピカチュウは両頬の電気袋から、キュウコンに目掛けて一直線に強烈な電撃を放つ。
 しかし、ピカチュウの必殺の一撃は見えない障壁によって防がれてしまう。
 電流が見えない障壁の表面を駆け巡ると、一瞬だけ空気に溶け込んだ透明な九本の尻尾が姿を顕す。それはキュウコンの九尾から伸びているようで、うねりながら本体を丸々包み込んでいた。

(あれは・・・・・・サイコショックの類いか)

 レッドは積み重ねてきた戦闘経験を頼りに、透明な障壁の正体を見破った。サイコショックとは不思議な念波を実体化させて攻撃する技だ。キュウコンは九本の尻尾一本一本から不思議な念波を発生させ、透明な尻尾を実体化させているようだ。
 キュウコンの尻尾には神秘的な神通力が宿っていると言い伝えがあり、ふざけて尻尾を掴む者は1000年祟られると言われる程、それだけ特別な部位である。
 あの透明な九尾は本物の尻尾を保護する為、独自に発展させた技術なのだろうか?
 何にせよこのままではやり辛い・・・・・・トリックのタネを見破る事はできても、攻防一体の透明な九尾を対処するのは骨が折れそうだ。

 しかし、そんなレッドの心情を見透かしたのように、キュウコンは透明な九尾の輪郭を金色に輝かせ、目視できるようにしてみせた。
 金色に輝く九尾のオーラは、空間を揺らぎ、奇妙に歪ませるが、その姿はまるで後光をさす仏様が如く神々しく美しい。
 
「・・・・・・!」
「あのままでは、フェアプレイの精神に欠けますのでね。さぁ戦いはこれからですよ!」

 坊主は相変わらず張り付いたような微笑みを振り撒く。トレーナーとポケモン双方から自分の思考を見抜かれているような気がするが、レッドは悪い気持ちにはならなかった。
 この対戦相手は今まで相見えた事のない強さを秘めている予感がする・・・・・・ならば俄然闘志が燃え上がるものだ。

「九重の神通力!その極意をお見せしましょう!九尾の構え壱ノ型!鉄扇!」

 坊主の指示を受けた途端、キュウコンは姿を消した・・・・・・かのように、目にも写らぬ速さでピカチュウの目前に迫り、体を旋回、金色の九尾のオーラで薙ぎ払う。通常のキュウコンも素早い部類に入るポケモンだが、このキュウコンは通常個体を遥かに上回る高速の身のこなしで襲い掛かってきた。

 ピカチュウはとっさに閃光の如き光速の身のこなし『電光石火』で身に迫る危機を回避する。九尾のオーラが目標なき虚空を薙ぎ払うと、大地が抉り取られるように砕け散る。
 
「そのままボルテッカー」

 レッドは反撃の号令をかける。ピカチュウは光速の身のこなしを維持したまま、両頬の電気袋から膨大な電力を放出しながらフィールドを駆け巡る。その光景は圧巻、激しい迅雷が四方八方縦横無尽に閃いたかと思えば束の間、キュウコンの頭上目掛け落雷のように突撃する。

 並みの動体視力・反射神経ではまず捉える事のできない光速の動きだが、キュウコンはこの動きを予測していたかのように、金色の九尾のオーラを重ね合わせ、九重の守りの体勢に入った。
 電撃のエネルギーと超能力のエネルギーがぶつかり合うかと思えば、キュウコンは九尾のオーラを巧みに操り、強烈な推力を柳のように受け流す。さらに畳み掛けるように、いなしたピカチュウ目掛けて、口から灼熱の業火を放射する。その一連の動きにトレーナーたちが介入する隙はなかった。
 全身全霊の攻撃を避けられたピカチュウだが、勢い余って地面に衝突するような事はなく、身を翻して『電光石火』の身のこなしを継続、全身に電力を纏わせたまま『ボルテッカー』の体勢まで維持しながら、背後から迫り来る『火炎放射』の驚異から逃れようとする。
 炎は光速で動くピカチュウを掠める事すら出来ず空を焦がすが・・・・・・突如、キュウコンの姿を思わせるよな輪郭を描いたかと思えば虚空を旋回、紅蓮に燃え盛る灼熱の九尾がフィールド全域を薙ぎ払おうとする。
 キュウコンは神通力を用いて火炎を自在に操る能力を持つが、ここまで大規模且つ複雑な火炎操作はレッドも初めて見る。

「ピカチュウ、光の壁だ」

 レッドは闇雲に攻撃を避けようとするピカチュウを静止した。炎の猛追を避けきる事は可能かもしれないが、そこにキュウコン本体の追撃が加われば回避する事は至難、さらに致命傷を受けかねない。

 主人の意図を汲み取ったピカチュウは体を丸めて防御体勢に入りながら、周囲に光輝く半透明の防御壁を展開する。

 刹那、戦場に紅蓮の大輪が咲き、辺りは火の海に包まれる。そしてキュウコンは猛火の勢いなどものともせず、ピカチュウとの距離を一瞬で詰めると一転、体を丸めて前方に宙返り、九尾のオーラを頗る勢いで叩きつけた。
 衝撃で大地が砕け散るが・・・・・・特殊攻撃の威力を軽減するフィルター『光の壁』は砕けない。
 九重の九連撃を受けきったピカチュウは、満身喪失の状態になりながらも不敵な笑みを浮かべ、両頬をスパークさせて臨戦態勢を継続している。
 キュウコンはそんなピカチュウを見つめると、瞬く間に後方に身を退き、遠吠えをあげると辺りの炎を鎮火させた。先程のように『火炎放射』で畳み掛ける事もできるハズだが・・・・・・挑戦者に情けをかけているのか、或いは次の展開を先読みしているのか、若しくは相手の思考を読み取っているのかもしれない。
 無論キュウコンの出方がどうあれ、レッドも空元気でバトルを続行しようとする相棒をこれ以上闘わせる事は良しとしない。

「もういい、戻れピカチュウ」

 レッドはモンスタボールを構え、ピカチュウをボールの中に回収すると、即座に新たなポケモンをモンスタボールから呼び出す。

「君に決めたカメックス」

 現れたのは背中の甲羅に二対の大砲を備えた青い体色の亀型ポケモン・カメックス。炎タイプとは相性的に有利な水タイプのポケモンだ。
 相手がキュウコンであるなら先鋒を任せても良かったが、戦いを通じて相手の実力や戦法を知ろうとする事もポケモンバトルの醍醐味の一つである。

 ピカチュウの奮戦のおかげ、九重の神通力の一端も垣間見え、相手の強みを推し測る事が出来てきた。
 キュウコンがこれまで見せてきた戦法は、九尾に纏わせた『サイコショック』による九重の攻防に、変幻自在の『火炎放射』が織り成す波状攻撃だが、その裏で距離を一瞬で縮める高速移動術・縮地法、相手の思考を読み解く読心術、未来を見通す予知能力等、いわゆる超能力或いは神通力と呼ばれる不思議な力を活用して、こちらの攻撃を的確に回避しているようだ。
 ポケモンの技にも『神通力』と呼称されるエスパータイプの攻撃技があるが、このキュウコンが扱う神通力とは、仏教の原典で言い伝えられる仏や菩薩が会得した特殊能力の類いに近いのかもしれない。
 相手の全容は未だ不鮮明、見せてない手の内・搦め手は当然あるだろうが、相手が見せてきたこれまでの戦法に対抗できる術をレッドは知っている。
 
「これは一筋縄ではいかないようですね」
「キュウ・・・・・・」

 坊主たちも相手がこれから何をしてくるのか検討がついているらしい。

「カメックス、悪の波導弾」
「ガメエエエエエエ!!!」

 カメックスは二対の大砲から、悪タイプのエネルギーを帯びた暗黒の波導弾が発射される。
 それは文字通り『悪の波動』と『波導弾』を掛け合わせた合成技。エスパータイプの技『サイコショック』を元に発展させた九尾のオーラの守りも、超能力に干渉されない悪タイプのエネルギーが貫き、神通力を活用する超回避能力は、相手を追尾する波導の攻撃で対応できる。
 この戦い、最早無傷では済まされない・・・・・・坊主とキュウコンはレッドの対抗策に即座に対応する。

「悪狐の相!」
 
 キュウコンの赤い瞳から黒煙のような闘気が立ち上がる
と、金色に輝いていた九尾のオーラが瞬く間にドス黒く変色、禍禍しい闇のオーラに様変わりする。『悪の波動』には『悪の波動』で対抗し、さらに+αの技術を加える。

「九尾の構え 弐ノ型 回天!!」

 キュウコンは闇の九尾のオーラを全身に包み込ませ、その場で独楽のように超高速回転する。その様は闇の球体だ。
 二対の暗黒弾は吸い寄せらるように接触し炸裂するが、回転の勢いは止まらず、まるでダメージを与えられていないようだ。
 刹那、闇の球体は突如引き裂かれ、九尾が纏う闇のオーラが伸び広がると、真っ黒な悪の大輪がバトルフィールドに花咲かす。
 九重の『悪の波動』がカメックスの胴体に連撃をお見舞いするが、ピカチュウがフィールドに残した『光の壁』が威力を軽減し、戦闘不能には至らず。
 カメックスのタフさもあり戦闘は継続可能だが、容赦ない連撃に威圧されたカメックスは一瞬怯んでしまった。その隙をキュウコンたちは見逃さない。

「奥義 ・・・悪滅!」

 キュウコンは九尾の闇のオーラを一つに束ねると真一文字に一閃、闇はカメックスを吹き飛ばすのではなく呑み込んだまま、バトルフィールドに残留する。そこにキュウコンは束ねた九尾のオーラを紐解き、四方八方から九重の連撃を浴びせる。
 まるで墨汁を染み込ませた書道筆で乱雑に塗り潰したかのように、辺りは不自然な闇に侵食され異常な景色が出来上がった。

「・・・カメックス!」

 これには流石のレッドも驚きを隠せず、闇に閉じ込められた仲間の名を叫ばずにいられなかった。
 相手が手練れたキュウコン使いである事は重々承知していたが、ここまで神通力を使いこなされてしまっては、いよいよ手も足も出せない。 

 闇は徐々に薄れていく最中、坊主は新たな指示を出した。
 
「せめて安らかに・・・・・・闇を祓え!九尾の構え 参ノ型、燈幻郷(とうげんきょう)!」

 九尾の本体を覆い隠す禍禍しい闇のオーラは、坊主の号令と共に罅割れ、金色に光輝く神々しいオーラが再び顕現し、眩い閃光を放つ。
 閃光はバトルフィールドに残留する闇を瞬く間にかき消した。闇の中に取り込まれていたカメックスは『光の壁』の中で、四肢や頭部・二対の大砲・尻尾を甲羅の中に忍ばせ、殻に籠っている状態でいた。
 身を守る術を持たないポケモンなら、悪滅・・・・・・『悪の波動』を帯びた九尾の連撃に耐えきれず戦闘不能に陥るか、真っ暗闇の中で攻撃の苛烈さに威圧されて戦闘不能になるまで怯み続ける事だろう。
 カメックスは甲羅から尻尾だけを伸ばし、主人に戦闘続行可能である事をアピールしてみせた。
 それだけの事が堪らなく嬉しくて、笑みが溢れてしまう。


「よくやったな」

 レッドは怒濤の連撃に怯みながらも、咄嗟に防御態勢に入ったカメックスに賞賛の言葉を送り、反撃の号令を仕掛ける。

「これで決めるぞ波導の嵐!」

 カメックスは甲羅に空いた四肢の洞穴から波導のエネルギーを噴射、超高速回転をしながら宙を舞うと、波動のエネルギー弾を乱射する。
 かつて戦った事のある同郷のポケモントレーナーは、ゼニガメの『ハイドロポンプ』を甲羅の穴から放出させ、宙を舞いながら戦いを繰り広げていた。その動作をヒントに、ロータの波導使いに稽古をつけてもらい編み出したとっておきの必殺技だ。

「これは・・・!」

 坊主は自分の判断が誤っていた事を悟る。
 燈幻郷は『怪しい光』と『催眠術』を掛け合わせた閃光を放ち、相手の意識を争いとは無縁の平和な別天地に飛ばして無力化する業だが、カメックスは殻に籠った状態で防御態勢に入っており、視覚から催眠状態を引き起こす燈幻郷は不発に終わった。
 奥義で仕留めきれなかった相手を瀕死の状態にせず無力化して退場を促す・・・・・・そんな坊主の驕った甘さが仇となったのだ。

「回天!!」

 キュウコンは金色の九尾のオーラを全身に包み込ませ高速回転・・・・・・攻撃をいなし反撃に転じる返し業を繰り出す。
 波導のエネルギー弾は高速回転する金色の球体に吸い寄せられるように接触するが、やはり弾き返されてしまう。

 しかし、カメックスの回転が止まらない限り波導の猛攻は止まらず、キュウコンは決して反撃に転ずる事はできない。
 どちらが先に止まるかの持久戦となれば、両者ともに長くは持たないだろうが・・・・・・回天は長時間の継続を想定した業ではない。『身代わり』を修得していれば、ここから反撃に転じられる型分けの技術はあるが、無い物強請りをしても意味はない。
 坊主は溜め込んでいた息を吐き出して宣言する。

「・・・・・・参りました。貴方たちの勝利です」


 卍

「噂通り素晴らしい腕前ですね」
「貴方こそ」

 戦いを終えたレッドと坊主は、ポケモンたちを労いながらモンスターボールに戻すと、先ほどの戦いについて談話を交えていた。

「何故降参したんですか?」

 レッドは率直な疑問をぶつける。
 もし自分が坊主ならあの時どうしていたかと考えると、ふと打開策があったのではないかと邪推してしまう。
 例えば、一瞬で距離を詰められる高速移動術を修得しているのであれば、『波導弾』をひきつけて宙を舞うカメックスにぶつける・・・とか 、ポケモンバトルを追求する者として、戦いの途中で降参する事にはつい疑問を浮かべてしまう。
 対する坊主は負けても相変わらず、朗らかな笑みを浮かべながら返答する。

「あのままでは、我々が押し負けていた事でしょう。私は君のカメックスを侮り不利な戦局を招いてしまったのです」
「・・・見切るのが早いですね」
「戦いは傷つけ合う事が常ですが、不用意に傷つける必要はありません。勝敗だけが戦いの価値を決めるとは限らないのですよ」
「・・・・・・?」
「私の友達は尻尾を一番の武器にしていますが、とても大切にしていてね。あのまま戦っていれば友達の大切なものを傷つけてしまいそうだった。無理に戦えば勝っていたかもしれませんが、そんな戦い方をしていては共に歩む仲間の信頼は決して勝ち取れないでしょう。一つの戦いの中にも様々な戦いがあるのです」
「・・・・・・なるほど納得できました。ありがとうございます」
 レッドはようやく腑に落ちた様子で、頭を下げて一礼する。
ふと先ほどのバトルを思い返せば、キュウコンがピカチュウに追撃をしなかったのは、情けをかけた分けでも、交代する事を先読みしていたのでもなかったのだろう。
 ポケモンバトルに毒されていたなと、レッドは苦笑いを浮かべながら自省する。

「野暮なことを聞いてしまい申し訳ありませんでした」
「いえいえ謝らないでください。それより君はお遍路の試練に打ち勝ちました。まだまだ先は長いですが、ご武運を祈りしています」
「ありがとうございます」


 糸目の坊主は最後まで笑顔を絶さず、次の札所に向かうレッドの背を見送った。
 彼のキュウコンには九人・・・・・・否それ以上の歴代住職とその相棒が切磋琢磨して編み出した数々の技術を宿していたが、それでも負ける時は負けてしまう。
 しかし、その敗北は決して無価値なものではなく、彼等が受け継ぐ技術の一部に姿を変えて組み込まれて往く。


 イヨノフタナ地方には、そんな古豪の強者たちが他にも沢山いる。例えば・・・・・・キュウコン寺を見下ろす紅葉の木々に紛れ、真っ赤な顔をしたスリーパーが、ひっそりと戦いを観戦していた。
 修験者、或いは山伏が着るような衣装を見にまとっており、その姿はまるで天狗のようだ。
 その背に少年をおんぶしているが・・・・・・このスリーパーは決して誘拐犯でも天狗拐いの怪異でもない。
 
「ぎょーこーさん、ほんきだったのにまけちゃった。つよいねあのおにーちゃん」

 赤いスリーパーはこくりと頷きながら、自分が対峙した別のポケモントレーナーたちの事を思い出す。
 ツンツン頭でチャラそうだが実力派の青年、マントを羽織る由緒正しいドラゴン使い、石マニアの御曹司、黒衣に映える金髪の美しい女性、変わった髪型に変わった格好をした科学者・・・・・・他に多々いるが、どいつもこいつもべら棒に強かった。

 辺境の古豪たちは、次世代の強者たちに通用するのか・・・・・・彼等はお遍路の挑戦者を楽しみに待ち構えている。


卍 続く 卍


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