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  [No.282] ポケモンカードゲームシリーズ 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/04/18(Mon) 23:59:15   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
ポケモンカードゲームシリーズ (画像サイズ: 300×400 43kB)

ホットで情熱的な奥村翔と、クールで知的な風見雄大。その他個性的なキャラクター達が繰り広げる、今までにない燃える新感覚な本格的青春カードゲーム小説! ポケモンカードを知らない方でも読めるようにしてあります。

●New Infomation
http://bit.ly/x5R48P

ぴかりさん主催のボイスドラマにPCS(とわたし)が参加! 以上のサイトから拝聴出来ます。ボイスドラマ企画のページ自体は下からどうぞ。

●Old Infomation
・序説部分を変更しました。

・更新日が水曜日と日曜日の週二日になりました。

・ついに、本格的カード小説、ポケモンカードゲームシリーズがボイスドラマに!
ぴかりさんのボイスドラマ企画に参加させていただきました。

●Illustration
たくさんの方から挿絵を頂いています。本当に感謝しています!
☆トビさん
 →初代表紙、28話、
☆レイコさん
 →15話、37話、40話、54話、67話
☆海さん
 →53話
☆とらとさん
 →88話、100話記念絵(気長展示場参照)
☆ぴかりさん
 →ボイスドラマ絵(当スレ未掲載)、etc...

●Links
ツイッターもやってます。「weakstorm」
私のサイト、「気長きままな旅紀行」
http://www.geocities.jp/derideri1215/
でりでりのブログ、「precious flame」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/

キャラクターをまとめてみました。気長wiki
http://www15.atwiki.jp/kinaga/

デッキソースまとめ
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/card/deck.html
カード検索はこちらから
http://www.pokemon-card.com/card-search/

奥村翔botが登場!
https://twitter.com/okumurasho_bot
風見雄大botが登場!
https://twitter.com/kazamiyudai_bot
藤原拓哉botが登場!
https://twitter.com/#!/ftakuya_bot


  [No.283] ファーストバトル編 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:03:13   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

奥村 翔の同級生の風見 雄大が突如として翔に勝負をしかけるところから、全てが始める。


  [No.284] 1話 唐突な出逢い! 翔VS風見(前) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:04:07   90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 平見高校。いたって普通の東京某所にあるやや有名な私立の進学高校だ。この高校ではTCG、トレーディングカードゲームが流行している。もちろん、教師のいない休み時間に目を盗んだり、放課後に遊んだりと中々アンダーグラウンドな流行なのではあるが。もちろん、うちのクラス、一年一組でも大差なくそれは行われていた。
 そしてこの高校の一生徒の俺こと奥村翔(おくむら しょう)も、同じくTCGを楽しんでいた。
「翔、遊ぼうぜ!」
 チャイムが鳴り、先生が教室から出ていった瞬間に、窓際にいた俺の方へ廊下側から一人の男子生徒が駆けてくる。
「遊ぶってまた適当に言いやがって。これから調査、だろ」
 俺が呆れたように言い返すとその男子生徒、長岡恭介(ながおか きょうすけ)は小さくため息をついて明るい色のツンツン髪をポリポリ掻く。
「調査つっても遊ぶようなもんじゃん。なんだっけ、何調査するんだっけ」
 露骨に頭をガクッと落とし、深いため息をつく。成る程確かに何を調査するか分かってないなら遊ぶようなもんだしな。
「昨日食堂で聞いただろ? 一年生の中にポケモンカードの過去の全国準優勝者がいる、って」
「俺ポケモンカード興味無いし……。まあ翔がやるなら着いていくけどさ」
「はぁ。もうなんでも良いや。とりあえず休み時間終わる前にいろいろ調査しよう」
 席を立ち、一度大きく伸びをする。恭介はああ言ったが、俺は主にポケモンカードを遊ぶタイプ。たまたま全国準優勝者が同じ学内、しかも同じ一年生ならば是非とも対戦してみたいもの。所謂チャレンジってやつだ。
「けどなぁ。何か変じゃないか?」
「何がだよ」
 俺が机の横にかけてあった高校の鞄からカードケースを取り出していると、恭介が陽気なこいつにしては珍しく眉を潜めている。
「噂がしたのは良いけどさ、もう二学期だぜ? 遅くない?」
「いやぁ、知らんよ。たまたまでしょ」
 そんなことは今さらどうだっていいのだ。チャレンジ出来るかも知れない。そんなどきどきわくわくが俺の体の中をぐるんぐるん駆け巡っているのだ。そういうややこしい事は後から考えればいい。
「ってかそいつに会ったら翔はそいつと対戦するんだっけ」
「そうそう。そのために昨日夜更かしして新しいデッキを作って来たんだ。俺の熱き想いをこめた魂のデッキさ! 負けるつもりはないぜ!」
 そう言うと、恭介はらしいなあと言って声をあげて軽く笑った。そのとき恭介の笑い声を打ち消すかのように、俺の隣の席のイスが音を立てる。
 俺に向き合うようにして立ち上がったクラスメイトの風見雄大(かざみ ゆうだい)は、俺を彫刻か何かでも眺めるように、怖い顔でじろじろと俺全体を見渡す。いきなり何事だ。
 これも噂で聞いた話だが、風見雄大の親は電子、機械産業界では日本屈指の企業である株式会社TECKを経営しているらしい。そこの御子息が突然なんの御用やら。
 いや、よくよく風見の目線を追えばどうやら俺のデッキケースを見ているらしい。
「何か用なのか?」
 確かに風見よりは背が少し低いが、それだけでなく高校生らしからぬ威圧感がすごい。初めて言葉をかわしたが、風見が誰か他の人と会話している姿を見かけないのも分かる気がする。下手をすれば何かされるんじゃないか、という程の。
 風見はデッキケースから目を離し、すっと俺の目を見据える。凍てつくような視線が怖い。
「さっき熱き想いを。とかかんとか言ってたな」
「あ、あぁ」
 飛んできた言葉が意外と平凡だったことに、自然と強張っていた肩の力がふっと抜ける。
「それが……どうかしたか?」
「カードに気持ちとはなかなか面白いことを言うな」
 いったいぜんたい風見は何が言いたいのか分からなくて、逆に緊張する。
「だからそれが何だって言うんだ」
 風見は俺の事を数秒見つめると、ふっ、と声を漏らして背を向ける。
「放課後、準優勝者と対戦をさせてやる。もちろんただの対戦じゃつまらないから、面白いものを用意してやる」
「面白い……もの?」
 すぐに答えない風見に、嫌な気配を払拭出来ない。そんなどんよりした気分のまま、チャイムが鳴って先生が入って来た。



「ったく何なんだよなぁ、あいつ」
「うん……」
 ホームルームも終わって、放課後の教室を出た俺は恭介と共に校門に向かう。風見にそこで待てと指示を受けたからだ。校内じゃなくてどこか違う場所で対戦になるのだろう。
「にしてもすぐに準優勝者の手掛かり見つかって良かったじゃん」
「ああ」
 恭介は何が楽しいのか俺の背中をバシバシ叩く。
「あんまり嬉しそうじゃないな」
「き、気のせいだって」
 妙に鋭いヤツめ。確かにすぐに手掛かり見つかって嬉しいことは嬉しいのだが、気掛かりもある。
『カードに気持ちとはなかなか面白いことを言うな』
 風見は明らかに馬鹿にしたようにそう言った。その台詞に対して腹はもちろん立つが、そのときの風見の表情が脳裏に焼き付いて離れない。触れられたくないものに触れてしまったような、あの悲しい表情。それがずっとネックになっている。
 やがて俺たちが校門の傍に着くと、先に待っていたと思わしき風見がいた。
「ここからは多少距離があるから、タクシーを使う。そこのタクシーに乗ってくれ」
 俺は頷き、校門前で待ち構えるタクシーに乗り込む。
「俺も俺も!」
 恭介も意気揚揚と入ろうとした瞬間、風見の鋭い目つきに射られる。
「なんだよ! 翔の応援に行くんだぜ?」
「……まあいいだろう。ギャラリーがいた方が多少は盛り上がるだろうしな」
 恭介が喜んで後部座席にいる俺の隣に飛び乗り、風見が助手席に座るとタクシーが進み出す。
 会話がないままただ車だけ進む。沈黙に耐えかねて準優勝者は誰なのか、と尋ねて見たが風見は適当に誤魔化すだけで、明確な答えは返って来なかった。やがて窓から覗ける風景は、大きなビルが立ち並ぶ一帯へと入る。
「まさかとは思うけど……」
 ぽつりと呟いたと同時、大きなビルの前でタクシーが止まる。
「これって、TECKの本社か」
 人事のようにボソッと俺が呟く。タクシーから降りて目の前のビルを見上げる。てっぺんを見ようとしたら首がイカれてしまいそうなほどの高いビルだ。いや、実際にやってみるとそうでもなかったか。
「こっちだ。悪いがこれをかけてもらう」
 ビルに入り、風見から首にかけるタイプの許可証をもらう。話によるとこれがないとフロントより奥には自由に入れないらしい。こういう大きな企業ビルに入るのは初めてなのでちょっと緊張とわくわく感を感じる。隣の恭介も俺と大差ないようで、目を輝かせている。
 風見に言われた通り着いて行き、ビルに入りエレベーターに乗り込む。そして二十四階で止まった。
「この奥だ」
 エレベーターを出てすぐ目の前の扉を開ける。このフロアに人の気配はなく、どうやら俺達三人しかいないらしい。俺は鞄に入れてあったカードケースに手を伸ばす。
 このフロアは学校の教室よりもやや広いくらいか。だがそこにはそのフロアを埋め尽くすほどの巨大な機械がある。どうやらこの機械には乗り入れ口というべきか、なんと呼べばいいのかイマイチ表現方法が見つからないのだが、二箇所窪みになっているところがある。
 しかしいい加減痺れを切らした。いつになったら詳しいことを説明してくれるんだ。
「なあ。いい加減準優勝者についてちゃんと教えてくれよ。後ここは何なんだ? どうして俺を、あと恭介も呼んだんだ」
「準優勝者なら目の前にいるだろう」
 目の前にいるだと? まさか。
「恭介が!」
「俺じゃねーよ!」
「ありがとう、もう帰っていいよ」
 帰らないし! と喚く恭介をよそに、風見をきっと見つめる。灯台もと暗しとはまさにこのことか。まさか隣の席にいたとは。
「続きの説明は動きながらする。そこの窪みに入れ」
 風見がその窪みの一つに入ったので、俺も急いで真似るようにそうする。いざ入ってみると、そこにはプレイマットのようなテーブルが置かれてある。しかしプレイマットの下半分しかないのだが……。
「望み通り今からポケモンカードで対戦をする。これはそれをエキサイティングにする機械だ。そのテストプレイに協力してもらう。これでお前の望みと俺の狙いが一致したわけだが。分かったか奥村翔。……もう一人のお前、お前はその辺で見てろ」
「くっ、名前ぐらい覚えやがれ!」
 恭介の怒鳴り声に一切耳を傾けない風見は、ポケモンカードのデッキをちらつかせる。
「ルールは無論通常のものだ。ハーフデッキを使用する。サイドカードは三枚だ」
 俺はデッキをシャッフルし、半分プレイマットにセットする。このプレイマットのそばに、風見のフィールドが映されているモニターがあった。慣れない感覚が斬新で、しかも望んでいた準優勝者との対戦が叶い俄然燃えてくる。
「先攻はお前に譲ってやろう」
 風見が俺を指差した。よほど自信があるようだが、まあそれもそうか。
「後悔しても知らないぜ。互いにデッキから7枚カードを引き、そしてたねポケモンをバトル場、ベンチにセットする!」
 風見はバトル場とベンチに一体ずつセットする。この一番最初の引きが、ポケモンカードゲームでは非常に重要だ。
 この最初の引きで、俺の手札のたねポケモンにノコッチ60/60とヒノアラシ60/60が既に揃っている。ラッキー。心の中で小さく笑い、俺も風見と同じく一体ずつそれぞれセットする。
 お互いがセットしたのを確認して、プレイヤーはセットしていたカードを表向けにする。俺がバトル場に出していたのはもちろんノコッチだ。
「さあ、行くぜ──」
 張り切って行こうとした俺の目の前で、実際にノコッチとオドシシ70/70が対峙していた。
「ポケモンが……どういうことだ!?」
「言っただろう、エキサイティングと。これはうちが開発中の光学ポケモンバトルシステム。ポケモンが実際にいるように見えるだろう? ちゃんとベンチポケモンも映っているぞ」
 風見のベンチにはフカマル50/50。そして俺のベンチにはヒノアラシが。映像とは思えないほど非常に鮮明に映っていた。
 すごい。かつてないほどの強力な相手に、かつて見たことがない心踊るような舞台。最高だ。
「よし、改めて始めるぜ。まずは俺の番からだ!」
 これがこの先に続く未来への、最初の一歩となる。



翔「今日のキーカードはノコッチだ!
  このノコッチはHPが60と少なめだけど、エネルギーなしで技を使える。
  一番最初に手札に来るととても助かるパートナーだぜ!」

ノコッチLv.21 HP60 無 (DP2)
─ へびどり
 自分の山札からカードを一枚引く。
─ かんでひっこむ 10
 自分を自分のベンチポケモンと入れ替える。
弱点 闘+10 抵抗力 ― にげる 1


  [No.285] 2話 不思議なてかり! ガバイト! 翔VS風見(中) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:06:52   101clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ヒノアラシに炎エネルギーをつける。そしてノコッチの攻撃、へびどり! へびどりの効果によって俺は一枚ドローする!」
「ふっ、そうやってせいぜい無駄なあがきでもすればいい」
 株式会社TECKにて、開発中のなんたらシステムを使って同級生の風見雄大との対戦。今の俺のバトル場にはノコッチ60/60、ベンチには炎エネルギーがついたヒノアラシ60/60。一方風見のバトル場にはオドシシ70/70、ベンチにフカマル50/50。
 俺の手札は炎エネルギーが二枚、ヒコザル、バクフーン、モウカザル、モンスターボールと非常に微妙な手札である。が、次のターンにモンスターボールを成功してマグマラシを手に入れれば少しは優位に立てるはずである。
「俺のターン。ドロー。手札の雷エネルギーをフカマルにつける。さらに、フカマルをガバイトへ進化させる」
 風見がガバイトのカードをフカマルに重ねると、立体映像のフカマルの体が光に包まれてガバイト80/80へと進化を遂げた。
「すげぇ……。まるでアニメみたいだな」
「さらにパッチールをベンチに出す」
 フカマルの隣にパッチール70/70が現れる。アニメ、ゲームと同じように足元がフラフラしていて落ち着きがない。
「そしてオドシシのワザだ、導く。この効果は自分の山札のサポーターを一枚、手札に加える。俺が手札に加えるのはオーキド博士の訪問! 俺はターンエンドする」
「俺のターン、ドロー!」
 勢いよく引いたカードだが、それは炎エネルギーだった。今の手札には不要な、いや、いらなくはないか。
「手札からモンスターボールを発動する! コイントス!」
 指でコインを弾く。表が出ればマグマラシを手札に加え、いきなりチャンスになるのだが……。
「裏……」
「残念だったな。お前の運もその程度だということだ」
「まだだ、炎エネルギーをヒノアラシにつける。そして新たにヒコザル(50/50)をベンチに出す。ノコッチのワザ、へびどりを発動。一枚ドローしてターンエンドする」
 思わず舌打ちをしてしまう。向こうはオドシシ、こちらはノコッチとどちらも攻撃ではなくカードサーチ及びドロー支援のポケモン。まだしばらく試合が動く気配はないのだろうか。
「俺のターン、ドロー。手札からオーキド博士の訪問を発動する。このカードの効果によりデッキからカードを三枚ドローし、手札一枚をデッキの一番下に置く」
 オーキド博士の訪問は強力なドローカード。さらに不要なカードをデッキの一番下に戻すことができるカード。
「さらにガバイトに炎エネルギーをつける。そして手札からトレーナーカード発動、ポケモン入れ替え!」
「なにっ!」
「もちろんオドシシと入れ替えるのはガバイト! ガバイトの攻撃、不思議なてかり。この技はコインを投げ、その裏表によって効果が変わる。オモテのときは相手のポケモン一匹にダメージカウンターを四個乗せる。ウラなら自分のポケモン一匹からダメージカウンターを四個とる」
 風見は手元にあるコインをトスする。
「さあ刻め、俺の最強という道を!」
 バトル場そばのモニターを見つめる。
「オモテ! そこのノコッチに40ダメージだ!」
 風見が宣言するといなやガバイトは強烈な光を放つ。あまりのまぶしさに目を防ぐも、光はすぐに止んだ。そして視界が元に戻ると、先ほどの元気な体だったノコッチ20/60に傷が見える。
「3Dシステム恐るべし……」
「俺のターンは終了だ」
「ドロー!」
 ここで引いたカードはマグマラシであった。
「……」
 考えるんだ、この状況を。下手に犠牲を出したくはない。最小限の被害に食い止めるには……。
「ノコッチに炎エネルギーをつける。そしてそのまま、逃がす! そしてヒノアラシの出番だ」
 ノコッチとヒノアラシは位置を入れ替える。
「ザコがいくら来ようとガバイトの敵ではない」
「まだだ、さらにヒノアラシをマグマラシに進化させる!」
 ガバイトのHPは80。それに対してマグマラシ80/80の技、火花は40ダメージ。うまく行けば二ターンで倒せれる。
「マグマラシでガバイトに攻撃、火花! この技はコイントスをして、裏ならマグマラシの炎エネルギーを一枚トラッシュする!」
 お気に入りのヒノアラシコインを指ではじいた。少し音をたてて落ちたコインは表を向く。
「よしっ、そのままガバイトに40ダメージだ!」
 マグマラシの攻撃とともにバトル場に火花が舞い散る。パシンバチッ! という軽い音や痛い音を耳に挟んでいると、ガバイトはその火花に襲われていた。火花ラッシュはすぐに収まったが、ガバイト40/80の体は傷が付いている。
「ターンエンド」
「ふん。俺のターン、ドロー! ベンチにフカマル(50/50)を出す。そしてベンチのフカマルに水エネルギーをつける」
 これで風見のベンチポケモンはオドシシ、フカマル、パッチールの三匹となった。
「さらに、攻撃だ、不思議なてかり!」
 風見は再びコイントスで表を引き当てる。
「俺が攻撃対象に選ぶのは、ノコッチ!」
「何!? ベンチポケモンに攻撃だと?」
「フハハハハ、散れ!」
 再びフィールドに光が襲いかかる。ノコッチ0/60は体力がなくなり、バタリとその場に倒れこむ。そして光に包まれフィールドから消えた。
「サイドカードを一枚引いてターンエンド」
 形勢は一見悪いように見える。が、マグマラシの次の攻撃でガバイトも倒れ、形勢は振り出しに戻る。落ち着いていくんだ。
「ドロー! 俺はヒコザルをモウカザル(70/70)に進化させる! モウカザルに炎エネルギーをつけてマグマラシで攻撃宣言だ! 火花!」
 コインを指ではじく。が、そう運は続かずバトル場に落ちたコインは裏であった。
「炎エネルギーをトラッシュするがガバイトに40ダメージだ!」
 ガバイトは倒れ伏し、フィールドからいなくなった。
「次のポケモンを選べ!」
「言われなくても分かっている。パッチールだ」
「サイドカードを一枚とってターンエンド」
「俺のターン。……奥村翔」
「なんだ?」
 名前を呼ばれてびっくりする。急に手札をフィールドに置き、こっちを見てきた。何をしでかす気か。
「正直お前程度に本気を出すまいと思っていたが、そうもいかないようだ」
「当たり前だ。俺とこのデッキは熱い絆で繋がっている」
 俺がそう言った途端、風見の目つきがきつくなった。何かまずいことを言っただろうか?
「行くぞ! パッチールに炎エネルギーをつける。さらにフカマルをガバイト(80/80)に進化させ、パッチールの攻撃だ。出し抜く! この効果は、デッキの一番上と一番下のカードを手札に加える」
「さっきオーキド博士の訪問でデッキの下に置いたカードが!」
「そうだ。このカードはこのデッキで最強のカードだ! ターンエンド」
 おそらくやつは次のターンにそのカードで仕掛けてくるだろう。次のドローで何か道は開けないものか……。


翔「今日のキーカードはマグマラシ!
  リスクはあるが40ダメージも与えれるぞ!
  ここから先にバクフーンに進化するぜ」

マグマラシLv.25 HP80 炎(DP2)
炎無 ひばな  40
 コインを一回投げ、裏なら自分の炎エネルギーを一個トラッシュ。
弱点 水+20 抵抗力 なし にげる エネルギー1


  [No.286] 3話 レインボードラゴンカブリアス! 翔VS風見(後) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:07:36   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 オーキド博士の訪問でわざわざデッキの下に置いたカードを、パッチールの出し抜くで回収するコンボ。そして先ほどの風見の態度から見てもデッキの下に置かれていたカードは風見の最強カード……!
 今の俺のバトル場には炎エネルギーが一つついたマグマラシ80/80。ベンチには炎エネルギーをつけたモウカザル70/70。残りのサイドは二枚。
 一方の風見も同じくサイド二枚。バトル場にはパッチール70/70。ベンチに水エネルギー一枚ついたガバイト80/80、オドシシ70/70。
「俺のターン。行くぜ! 俺はマグマラシをバクフーン(110/110)に進化させ、炎エネルギーをつける」
「だがそれでは貴様のバクフーンは攻撃できまい! エネルギーが足りてないぞ!」
「見せてやるよ。バクフーンのポケパワー発動、たきつける。このポケパワーは一ターンに一度だけベンチポケモンにトラッシュの炎エネルギーをつける。さらにエネルギーつけかえ。自分のポケモンのエネルギーを入れ替えるトレーナーカードだ! トラッシュの炎エネルギーをモウカザルにつけ、そのエネルギーをバクフーンに移し替える」
 だがパッチールのHPはバクフーンの技の威力では届かない……。
「一気にエネルギーを揃えたか」
「まだだ、トレーナーカード、プラスパワー! この効果によりこのターンだけバクフーンの技の威力が10上がる!」
「何っ!」
 プラスパワーがフィールドに現れ、バクフーンに付加される。何かされる前にさっさと倒す!
「バクフーン行け! 気化熱!!」
 バクフーンの口から巨大な炎の塊が浮かび上がる。そしてそのままパッチールを炎が包み込んだ。炎が消滅すると、パッチール0/70は床に伏せて倒れた。
「パッチールが気絶したためサイドカードを一枚引く。ターンエンド」
「俺はガバイトを新たにバトル場に出す。行くぞ、俺のターン。これで終わりだ!」
「ターンエンドか?」
「違う、貴様の負けだということだ。ガバイトに水エネルギーをつけ、進化させる! 来い、ガブリアス!」
 俺の冗談をあっさりかわし、風見は大袈裟にガブリアス130/130のカードをガバイトに重ねる。そして機械が反応し、ガバイトはガブリアスへ進化を遂げる。
「お前には消えてもらう。ガブリアスの攻撃、竜の牙!」
 ガブリアスがバクフーンに向かって突進してくる!
「更にガブリアスのポケパワー発動! レインボースケール!」
「レインボー……スケール?」
「このポケパワーの効果は、このポケモンが、このポケモンのエネルギーと同じタイプの弱点を持つバトルポケモンに、ワザによるダメージを与えるとき、そのダメージは、すべてプラス40される」
「何っ!?」
 バクフーンのHPは110。竜の牙の威力は70。さらにレインボースケールの効果によって……。
「バクフーンがたった一撃で!」
 そのままガブリアスの攻撃がバクフーンにヒット。激しい爆風とともにバクフーン0/110が気絶させられる。
「サイドカードを一枚ひく。残りサイドカードは互いに一枚ずつだがもう勝敗は決まったも同然」
「俺はモウカザルをバトル場に出す……」
「まだやるか。好きにするがいい。ターンエンド」
「デッキにカードが。俺の想いの込めたカードがある限り、どんなことがあろうとも決して諦めない! ドロー!」
「どこかで聞いたことのあるようなセリフだな」
 風見が吐いて捨てるように言う。しかし、このドローが全てを変えるチャンスでもある!
「手札からトレーナーカード、ポケブロアー+を発動! このカードはコイントスの表裏によって効果の有無がある。コイントス!」
 頼むぜ、俺のデッキ。頼むぜ、俺のカード。
 静寂な空間に落ちたコインはオモテを指していた。
「オモテ! ガブリアスに10のダメージ!」
「ふん。悪あがきもいいとこだ」
「更にモウカザルに炎エネルギーをつけて進化! 来い、ゴウカザル!」
 モウカザルに光が走り、雄たけびとともにゴウカザル100/100が俺のバトル場に現れた。
「ゴウカザルの攻撃、流星パンチ。この攻撃はウラが出るまでコイントスをする。そしてオモテになった数かける30ダメージを与える! 四回オモテが出れば俺の勝ちだ! 一回目、オモテ!」
「そう運良くオモテが四回も出るわけがない」
「二回目オモテ!」
 あと二回。あと二回だけだ! 頼むぞデッキ! そしてゴウカザル!
「三回目、オモテだ!」
「バカな……。こっ、こんなことがありうるというのか!?」
「四回目は」
 誰もが固唾を飲んだ瞬間、答えは出た。
「オモテだああああ!」
「ばっ、バカな!?」
「五回目はウラ。しかしこれで勝負は決まった! 行け、ゴウカザル。流星パンチ!」
 ゴウカザルの怒涛のパンチラッシュがガブリアスを襲う! 攻撃が止むと同時にガブリアスはその場に倒れ、フィールドから消える。
「そしてサイドカードを一枚手札に。これで俺のサイドカードはなくなった。俺の勝ちだ!」
 俺が最後のサイドカードを一枚をひくと立体システムによって映し出されたすべてのポケモンは消えていく。そして俺は恭介に向ってVサインを作る。恭介もサムズアップで返してくれた。
 しかし一方の風見は。
「またこんなカードに情を入れたやつに負けた……だと」
 その場に膝を立ててくずれおち、なにやら喋っているようだ。『また』という言葉に気をひかれるものがあるが。
 そしてリングから降りて恭介のもとに行く。
「ふぅ。勝てた」
「なんかわからなかったけどすごかったぜ!」
「なんかわからなかったのね」
 恭介のキラキラした眼に俺は顔を引きつらせないと答えきれなかった。
 そんな瞬間、ドンッと何かをたたくような音が聞こえた。風見がリングを叩いた音であるようだ。俺達が何か声をかける前に走り去って行った。デッキを置いたまま……。
 風見側のリングへ向かい、放置されたデッキを眺める。
 ガブリアス、ガバイト、オドシシ……。俺が苦しめられた風見のデッキ。
 あたりを見回してみるが、だれも来る気配もない。風見も戻ってきそうにない。
「とりあえずこれは預かって明日学校で渡すか。恭介、帰ろうぜ」
「おう。帰ろう」
 何故かフロアを出た後も、ビルを出た後も風見の関係者には出会わなかった。大きなビルを尻目に見、歩いて俺達はそれぞれの帰路に着いていった。



翔「今日のキーカードはゴウカザル!
  HPは少ないが、その分攻撃力は高い。
  一気に勝負を決めてやれ!」

ゴウカザルLv.40 HP100 炎 (DP1)
無 りゅうせいパンチ 30×
 ウラが出るまでコインを投げ続け、オモテ×30ダメージ。
炎炎 フレアドライブ 90
 自分の炎エネルギーをすべてトラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 ─ にげる エネルギー 0


  [No.287] 4話 カードティーチング! レッスン1 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:08:07   107clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 注・ここで説明されるルールは旧ルールのポケモンカードDPです。現在のルールとは異なるので、公式サイト等で確認してください。なお、PCC編までは以下のルールで行います。


「雄大。これで最後だ。マッスグマでガブリアスに攻撃、駆け抜ける! ガブリアスは無色タイプが弱点。これで僕の勝ちだ!」
 過去の忌々しい記憶。
「これがカードを信頼する力だ!」
 かつて俺が負けた記憶。
 アイツのセリフを最後に悪夢は覚める。そうだ、昨日俺は奥村翔に負けたんだ。もうあのデッキに用など何もない。



 案の定というかなんというか、風見は昨日の激戦以来姿を見せない。もちろん学校にも来ていない。いやはやメンタル弱すぎだろう……。折角デッキを持ってきてやったのに。
 高慢なやつに限ってこういうのはもはや定番なのかもしれないな。
 風見が俺の言った「俺の熱き想いをこめた魂のデッキさ! 負けることなんてありえない!」という言葉に過剰に反応していたのが気になる。かつて何かあったのだろうか。
 しかし他人の詮索なんて趣味が良いとは言えないし、うーむ。どうすればいいか。まあ今は別にいいかな。
「おっす翔!」
 恭介がポケモンカードの束を持って俺の机にやってくる。
「俺もポケモンカードやろうと思って、デッキ作ってみたんだ。三十枚だよな?」
「おう。見せてくれよ」
「ハナからそのつもりだぜ」
 ポケモンカードは三十枚を超えたり少なかったりしてはいけない。とはいえ、本来は六十枚で戦うルール。三十枚でも戦えるよ、というルールがあり、前日風見とやったのはその三十枚の方のルール。
 さて、恭介がもってきたデッキを見させてもらおうか。
「……。なんだこれ」
「どうかしたか?」
 レアコイル、グラエナ、ウィンディ、ユレイドル、カイリキー……。全然統一性がない。更にエネルギーがたった一枚しかない。これぞまさしくカードの束。デッキに非ず。
「ルール……。知ってる?」
「全然」
「そりゃこうなるわな……。ルールを説明するぞ」
「おっ、頼んだぜ」
「とりあえず放課後な」
 昼休みの刻が終わりを告げるまでわずか一分。そんな時間でポケカのルールを説明するなんて無謀にもほどがある。
 そこから数時間。昼休み後の眠たい授業を乗り越え、巡って来た放課後。掃除をぱっぱと終わらせて恭介を呼ぶ。
「じゃあルールを説明するぞ」
「おう」
「まずカードの説明をするぞ」
 俺は自分のデッキなどから、ナエトル、ハヤシガメ、きずぐすり、炎エネルギーを机の上に広げる。
「左から順に、『たねポケモン』、『進化ポケモン』、『トレーナーカード』、『エネルギー』だ」
「なるほどね」
 その四枚からナエトルを恭介の手前に広げる。
「まずたねポケモンの説明からな」
「たねポケモンとね」
 カード左上のナエトルと書かれた部分に指をさす。
「これがポケモンの名前」
「それはわかる」
 そしてカード右上のHPを指差す。
「これが体力だ。この体力以上のダメージを受けると『きぜつ』しちゃうんだ。ゲームでいう『ひんし』みたいなの」
「なるほどね」
 HPの隣のマークに指を移す。
「これがポケモンのタイプ。ナエトルは草タイプだ」
「常識だ」
 続いてナエトルの絵の下の技の欄を指す。
「ここには使うのに必要なエネルギー、ワザの名前、与えるダメージが書いてるんだ」
「エネルギーとかよくわからないんだけど」
「後で順を追って説明する。とりあえずカードの見方から」
「はーい」
 カード左下の弱点に指を指した。
「これがナエトルの弱点だ。このタイプのポケモンから受けるダメージは、数字ぶん多くなっちゃうんだ。なにもかかれてないときは弱点がないんだぜ」
「なるほどね。炎タイプの攻撃を受けると+10の超過ダメージがあるってことか」
「そうそう」
 中央下の抵抗力に指をスライドさせる。
「これが抵抗力。弱点の反対だ」
「このタイプのポケモンから受けるダメージはこの抵抗力に書かれてるぶんだけ少なくなるんだな?」
「つまり、水タイプのダメージは−20だ」
「弱点に比べて比率大きいな」
「いいことじゃないか。次行くぞ」
 最後に右下のにげるを指す。
「これがこのポケモンがバトル場からベンチににげるために必要なエネルギーだ。エネルギーを2つトラッシュしたらベンチに戻れる。
「ベンチ?」
「後で言うから待ちな」
 そして俺はナエトルのカードを最初の位置に戻し、ハヤシガメのカードを新たに出す。
「これが進化ポケモン。進化ポケモンはすでに場に出ているポケモンを進化させるカードだ」
 ハヤシガメという名前の下にあるテキストを見るように促す。
「ここに書いてる、ナエトルのカードの上にこのカードを置くと進化するんだ」
「なるほどね」
「たね、一進化、二進化という順番で進化できるんだ。まだハヤシガメの上にドダイトスのカードが置ける」
「そうやって強くしていくんだな」
「おう。あとはさっきと一緒。続いてタイプ」
「タイプね」
 ナエトル、ハヤシガメ、きずぐすりを片づけて机の上に水、草、雷、闘、超、悪、鋼、無色エネルギーを置く。
「カードはゲームと違ってタイプが九種類しかないんだ」
「九!? それだとカードになってないやつとかいるのか?」
「落ち着け落ち着け。無色タイプはノーマル、飛行、ドラゴン。炎は炎、水は水と氷、雷は電気、草は草と虫、闘は格闘と地面と岩、超はエスパーとゴーストと毒、悪は悪、鋼は鋼」
「あ、混ざってるのか」
「そう。まあこれが嫌だって人もいるんだけどな。で、次はトレーナーカード」
 エネルギーカードを退けてきずぐすりを机の上に出す。
「トレーナーカードはポケモンの手助けをするカードなんだ。右上がカードの名前。そして中央に説明文」
「なるほどね」
 きずぐすりを戻してナナカマドはかせを出す。
「これもトレーナーカードの種類だけど、その中で『サポーターカード』っていうやつだ」
「サポーターかぁ」
「サポーターは効果が強いけど、一ターンに一度しか使えないのが難点なんだ」
「ふむふむ」
「ドローやサーチ系の能力が多めのカードだぜ」
 ナナカマドはかせを戻しておまもりこばん、マルチワザマシン01、夜明けのスタジアムを出す。
「トレーナーカードは他に、左から順番に『ポケモンのどうぐ』、『ワザマシン』、『スタジアム』とあるんだ」
「いろいろあるな」
「とりあえずそれぞれの説明は後回し。こういうもんがあると思っててくれ。最後にエネルギー」
 三枚を戻して炎エネルギーを再び見せる。
「エネルギーは、ポケモンがワザを使ったりベンチに逃げるために必要なカードだ。場に出ているポケモンにつけて使うのさ。基本エネルギーは八種類。無色エネルギーを抜いた各種類だ」
「さっきの無色エネルギーは?」
「具体的に言うと、あれはマルチエネルギー。特殊エネルギーの一つだ。それぞれ効果が違うからちゃんと読むんだぞ」
「なるほどね」
「じゃあ今度は対戦の仕方について教えるぞ!」


翔「今日のキーカードはナエトルだ。
  進化するとドダイトスになるぞ!
  数少ないパワフルな草タイプなんだ」

ナエトルLv.10 HP60 草 (DP1)
─ たいあたり 10
草 はっぱカッター 20
弱点 炎+10 抵抗力 水−20 にげる 2


  [No.288] 5話 カードティーチング! レッスン2 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:08:42   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 何かが壊れる音がした。なぜだ? 写真立てが割れたからだ。なぜ割れた? 写真立てが投げられたからだ。誰が投げた? 俺だ。なぜ投げた? アイツと共に肩を組んで笑い合っている写真を見つけたからだ。
 改めてこの一人の部屋に静寂が訪れる。ここには俺しかいない。俺しか住んでいない。
 目に映ったカードの束をぶん投げようとしたが思い留まった。
「……」
 もう、俺はアイツにも奥村翔にも……。



「ポケモンカードゲームは、自分の番にポケモンのワザを使って相手のポケモンにダメージを与えて『きぜつ』させて行くんだ」
「なんだかゲームっぽいな」
 放課後、陽も傾き始める。自習している生徒の邪魔にならないようにちょっと小さめの声で恭介にルール説明の続きをしていく。
「ハーフデッキなら三匹、スタンダードデッキなら六匹先にポケモンを『きぜつ』させたら勝ちとなるんだ」
「ハーフデッキ? スタンダードデッキ?」
「ああ、後で説明する。それより、ポケカは基本的に他のTCG(トレーディングカードゲーム)と違って相手のターンに罠カードとかできないんだ。相手の番、自分は何もできないってことだ」
「状況が悪ければ負けを覚悟しなきゃならないのか」
 俺は臨時用のデッキを机の上に置く。そこからカードをいくつか選んで手札にし、コータスを恭介に向けて置く。
「ワザの使い方を言うぜ。ワザを使うのにはエネルギーが必要なんだ。一ターンに一度、エネルギーを自分のポケモンにつけれる。一枚だけだぞ」
「それじゃあワザを使うのにエネルギーがたくさん必要なやつはすぐにワザが使えないんだな」
 恭介の飲み込みの速さに感嘆する。
「よし、それじゃあこのコータスがワザを使うにはどうする」
 俺が恭介に、炎エネルギー三枚と闘エネルギー二枚、きずぐすりの六枚のカードを渡す。
「えーとな。ほのおでこがすをするにはこの炎エネルギー一枚でいいのか?」
「そうそう」
「かえんだまは……。炎エネルギー一枚と無色エネルギー二枚か。だけど無色エネルギーなんてないぞ」
「無色エネルギーはどのエネルギーでもいいってことなんだ。だから、炎エネルギーはともかくそれ以外はとりあえずエネルギーが二つあればいいんだ」
「ははーん。なるほど」
「エネルギーは超過してても技が発動できるんだ。炎二枚、闘一枚とかだったら両方の技が出せるんだぜ」
「便利だな」
 コータスの向かい側にリオルのカードを置く。
「じゃあ今度は攻撃するんだ」
「えっと、じゃあかえんだま」
 かえんだまと書かれているテキストの隣の数値を指差す。
「ここに書かれている数値分だけ相手にダメージを与えれるんだ」
「なるほどね」
「これでリオルは50ダメージ。リオルのもともとのHPは50。これでリオルのHPはなくなり、『きぜつ』した状態になるんだ」
 カード入れと共に入れていたダメージカウンターをリオルに乗せる。
「これはダメージがどれだけ食らったか覚えやすくするためのカウンターね。で、きぜつしたポケモンは『トラッシュ』におくられる。いわゆる墓地みたいな感じね」
「なるほど」
 俺はリオルをトラッシュのエリアに置く。
「『きぜつ』したポケモンはそのポケモンについているカードを全て『トラッシュ』するんだ。エネルギーとかも丸ごとね」
「再利用はできないのか」
「そんな都合よく行ったらゲームバランスめちゃくちゃだ。そしてベンチのポケモンをすぐにバトル場に出すんだ」
「なるほど」
「そしてポケモンを倒すたびに『サイドカード』を一枚手札に加えるんだ』
「『サイドカード』?」
「そう。ハーフデッキだと三枚、スタンダードデッキだと六枚あって、それを全てひいたら勝ちになる」
「だからさっきポケモンを三匹か六匹きぜつさせたら勝ちって言ったのか」
「そう。そして、他にも勝利方法があるんだ。ポケモンをきぜつした時点でベンチ含む自分の場にポケモンがいなくなったらサイドの枚数関係なく負けになるんだ」
「なるほど」
「あと他のカードゲームと同じくドローする時に、デッキにカードがなければ負けってのもあるぜ」
「ふむふむ」
 あ、そうだ。と思い出したように再び机の上にカードを展開する。
「そういや最近は新しく、『ロストゾーン』というのができたんだ」
「それはどんなのだい?」
「一部のポケモンの効果によって、ロストゾーンにカードを送る効果があるんだ。その『ロストゾーン』は『トラッシュ』と違って『ロストゾーン』のカードはそのゲーム中には再度使用することができなくなるんだ」
「なるほどね。厄介そうだ」
「それじゃあトレーナーカードの細かい説明を言うぞ」
 机の上に「ポケモンいれかえ」、「エネルギーリンク」、「ワザマシンTS−1」、「ママのきづかい」、「帯電鉱脈」を広げる。
「トレーナーカードには三種類あるんだ。『トレーナー』、『サポーター』、『スタジアム』だ。更に『トレーナー』の中にも三種類あって『トレーナー』、『ポケモンのどうぐ』、『ワザマシン』があるんだ」
「ほう」
「『トレーナー』は自分のターンに何枚でも使えるんだ。その中で『トレーナー』はポケモンを回復させたりバトルポケモンとベンチポケモンを入れ替える効果があったりするんだ。逆転が狙えたりするぜ」
 たとえば。とポケモンいれかえを指差す。
「なるほどね。これもらっていい?」
「……。いいよ、余ってるし」
「サンキュー! 他のも教えてくれよ」
「『ポケモンのどうぐ』は場に出ているポケモンにつけるトレーナーカードなんだ。一度つけたら効果が働くまではそのままにしておくぜ。『ポケモンのどうぐ』は一匹のポケモンに同時に二枚以上はつけれないんだ。ゲームでもポケモンは道具を一つまでしか持てなかっただろ?」
「だな。このエネルギーリンクもらうぞ」
「はいはい好きにしてくれ。『ワザマシン』は『ポケモンのどうぐ』と同じく場のポケモンにつけるカードだ。このカードに書いてるワザは、このカードをつけているポケモンのワザとして使うことができるんだ。ニュアンスてきには『ポケモンのどうぐ』に近いかな。つけたポケモンが場からいなくなるまでつけたままだ」
「なるほどね。ワザの効果はあんまりよくないみたいだな」
「仕方ないさ」
 恭介はワザマシンTS−1を俺の方に突き返す。なんだ、今度はいらないのか。
「続いて『サポーター』。『トレーナー』の次くらいに大事だ」
「ふむ」
「自分の番に一枚だけしか使えないトレーナーカードだ。基本的にドロー支援系のカードが多い。カードゲームにとって手札は命と同じぐらい大事だからな。一枚だけ使ったってわかるように、使ったら自分のバトル場の横に置いて自分の番の終わりにトラッシュするんだ」
「大事って言う割にはこの『ママのきづかい』は微妙だな」
「『サポーター』の中では弱い部類だからな。強いのだと二枚ドローしてから相手の手札を一枚デッキの下に戻すってのがある」
「へー。とりあえずもらおう」
「最後は『スタジアム』だ。これも自分の番に一枚しか使えないんだ。使ったらバトル場の横に置いておくんだ。どちらかのプレイヤーが別の名前のスタジアムを出したら、今場にあるスタジアムをトラッシュしなくちゃならない。場に出ているスタジアムと同じ名前のスタジアムを、手札から場に出すことはできないぞ」
「バトル場の横にある限り効果を永続的に発動するんだな?」
「そうそう。飲み込みがいいな」
「帯電鉱脈もらうぞ」
「いいぜ。後はターンについてと特殊状態で説明が終わる。これで恭介もポケモンカードができるぜ!」


翔「今日のキーカードはコータスだ!
  危なくなってもかえんだまで、次のポケモンへチャンスをつなげ!」

コータスLv.28 HP80 炎 (DPtエントリーパック・ディアルガデッキ)
炎 ほのおでこがす 10
 コインを一回投げオモテなら、相手をやけどにする。
炎無無 かえんだま 40
 自分のエネルギーを一個、自分のベンチポケモンにつけ替える。(自分のベンチポケモンがいないなら、この効果はなくなる)
弱点 水+20 抵抗力 なし にげる 2


  [No.289] 6話 カードティーチング! レッスン3 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:09:38   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 昨日の戦いを思い返す。そして調べた。
 家の中にある全てのカードを探して作り上げた。これで、もう……負けない。

「もうちょっとで終わるぞ。今度はポケモンチェックと特殊状態だ」
「ポケモンチェック?」
「ポケモンチェックの話をするには先に特殊状態から説明するべきだ。まず、特殊状態には主に五種類ある。『どく』、『やけど』、『ねむり』、『マヒ』、『こんらん』の五種類だ」
「ゲームだと『こおり』とかいろいろあるのにないの?」
「残念ながらないんだ。よいしょ」
 ダメージカウンターを入れてるケースからいろいろマーカーを取り出す。
「まず、『どく』からだ」
 そういって俺は「どくマーカー」を取り出す。かわいらしい(?)髑髏さんのマークだ。いや、俺は髑髏だとかはそんなに好きじゃないけど。
「どくになったポケモンは、目印としてどくマーカーをカードの上に乗せるんだ。どくになったポケモンは、ポケモンチェックのたびに10ダメージを受けるんだ。どくのポケモンは、攻撃できるし逃げることもできるんだ。どくは他の特殊状態と重なるが、どくにどくは重ならないぜ」
「どうやったらどくが治るんだ?」
「いい質問だ。ベンチに戻るか、進化やレベルアップをするか、トレーナーカード等を使うかだ」
「じゃあどくになればすぐ逃げればいいんだな」
「まぁそれが最善の一手になる場合もあるな」
 恭介はどくマーカーをつまみあげて観察する。なにもねーぞ。
「今度は『やけど』だ」
 今度はばんそうこうが二つバッテン印を作った、やけどマーカーを机の上に置く。
「やけどはやけどマーカーをカードの上に乗せる。ポケモンチェックの度にコイントスして、裏なら20ダメージを受けてしまうんだ。あとはどくと全く一緒」
「ダメージが違うだけか。攻撃も逃げたりも出来て、ベンチに戻ったりレベルアップや進化したら回復するんだな?」
「だな。親友として、お前も物理がそれぐらい理解度よければなと思うぜ」
「まったくもって余計な話だぜ」
 恭介の表情が普通に曇る。クソ野郎と言わんばかりだ。
「今度は『ねむり』。厄介な特殊能力だ」
 適当にカードを選び……。こんなもんかな。カモネギだ。カモネギを机の上に置く。
「ねむりのポケモンは───」
「ねむりマーカーか?」
「それがないんだぁ。ねむりの目印には、カードを横にするんだ」
 ほらクイッとな。カモネギを横にする。
「一応、左右どちらでもいいんだが左向けに横にするのが一般的。ねむり状態だと、攻撃も逃げることもできない。だが、『どく』と『やけど』以外の特殊状態とは被らないのが救いだ」
「進化とレベルアップとかで治るんだな?」
「ああ。もちろん、ポケモンいれかえ等でベンチに戻っても回復する。そしてこっからだ。ポケモンチェックの度にコイントスをする。表ならねむりは回復するが、裏ならねむり状態のままだ。これ、大事」
「裏が出続けると何もできないってわけか」
「そう。次は『まひ』。一番うざったい特殊能力」
 カモネギを正位置に戻す。当然正位置だ。
「まひになったら、やっぱり横にする」
 カモネギも忙しいだろう。再びクイッ。ただし、横にする方向はさっきと逆。
「これも横にする方向はどっちでもいいんだ。右が一般的だが。マヒは、ワザを使うこともできず、にげれない。『どく』、『やけど』とだけ被るのは『ねむり』と一緒」
「ふむ。戻るのはねむりと大体一緒?」
「察しがいいぜ。コイントスで回復する以外は一緒。マヒは、自分の番を一回すごしたあとのポケモンチェックで自動的に回復するんだ。絶対足止めを食らう、厄介な特殊状態。次」
 カモネギをまたまた正位置に。
「最後は『こんらん』。あんまし見ないな」
 カモネギを逆位置にする。これが最後だ、お疲れ様。
「今度は目印としてさかさまにする。こんらんのポケモンが攻撃するときは、コイントス。表なら攻撃は通るが、裏なら失敗。そして自分に30ダメージ。あと、逃げれて『どく』と『やけど』と重なる」
「30っておっきいな。戻るのはレベルアップと進化とベンチに戻るときだけ?」
「そう。じゃあさっきから言ってたポケモンチェックの話するぜ。自分の番と相手の番が終わった時に必ずあるんだ。以上」
「じゃあ、自分の番の次はポケモンチェック、そして相手の番でそれが終わればポケモンチェックで自分の番で……ってことか」
「そうそう。そのときに各状態異常の処理するんだ。質問あるか?」
「特にないな」
「それじゃあ最後だ。対戦のスタートと自分の番について」
「待ってました」
 わざとらしく恭介は拍手する。
「まず、対戦相手と握手。礼儀は大事。そんでデッキをシャッフルしてセット。そのまま最初に七枚ドロー。これが最初の手札ね」
「多いな」
「割とすぐなくなっちゃうもんだよ」
「そんなもんなのか」
「ああ。で、手札からたねポケモンを一枚選んでウラにしてバトル場にセット。バトル場にいるポケモンはバトルポケモンって呼ぶんだ」
「もし手札にたねポケモンなかったら?」
「手札を相手に見せて、手札を全てデッキに戻してシャッフル。そして再び七枚ドロー。以降ループ。このとき、相手は後でもう一枚ドローできるから、できるだけ最初の手札でたねポケモンを揃えたい」
「なるほどね」
「手札にまだたねポケモンが残ってたら、五枚まで選んでベンチにセットができる。強制じゃないよ。これ大事」
「ふむ」
「そしてサイドカードをセット。三十枚デッキなら三枚、六十枚デッキなら六枚だ。ちなみにさっき言った、『相手は後でもう一枚ドロー』はこのタイミングな。これ逃すとドローできなくなる。そしてじゃんけん」
「勝ったら先攻後攻を決めれるんだな」
「いや、勝ったら強制的に先攻」
「珍しいな」
「ああ。そしてゲームスタート」
「やっとか」
 長かったなあ、と恭介が。まあそこは同調する。
「自分の番にできること。まず、一番最初はドロー。一枚だけだ。二枚ドローしたら反則」
「それぐらいはわかる」
「自分の番に山札がなくてカード引けなかったらそこで『負け』。もちろん、ドローは強制な」
「普通だな」
「自分の番にできることを説明するぞ。たねポケモンのカードをベンチに出す。ベンチはスペースが五つしかないからな。空きがなければ出せないぞ。続いてエネルギーカードをポケモンに一枚つける」
「一枚だけ?」
「そう。何枚もつければ強すぎる。エネルギーをつけるのはバトルポケモンでも、ベンチポケモンでもどっちでもいいぞ」
「ふむふむ」
「次はポケモンを進化させる。進化させる時は、手札の進化ポケモンのカードを場にいるポケモンに重ねるんだ。場に出したばかりのポケモン、この番に進化させたばかりのポケモンは、同じ番のなかですぐに進化できないから注意な。それをクリアしてれば何回でも進化可能だ。進化したら進化前のポケパワー、ポケボディーは無効。きのみやどうぐも無意味になる。進化してもダメージカウンターとエネルギーはそのままな」
「ああ」
「進化して回復するのは状態異常だけじゃない。それまでに受けていたほかの効果もまとめておさらばだ。いいことづくし」
「みたいだな」
「そんで、トレーナーのカードを使う。使い終わったトレーナーカードはちゃんとトラッシュする。カードの発動タイミングが違うトレーナーカードがごく稀にあるから気をつけてな。スタジアムとサポーターは自分の番にそれぞれ一回しか使えないぞ。あと、先攻の最初の番はトレーナーカードは全て使えないからな」
「先攻ってちょっと不利だな」
「でもその分先に攻撃できるからな。バトルポケモンをベンチににがす。バトルポケモンがベンチに『にげる』ときは、カードの『にげる』にある無色エネルギーの数だけそのバトルポケモンからエネルギーをはがして、トラッシュ。足りなかったら逃げれない。あと、『にげる』にエネルギーが書かれてなかったらそのままエネルギーをトラッシュせず逃げれる」
「ほう」
「バトルポケモンをベンチに戻すと同時にベンチポケモンをバトル場に出す。ベンチに逃げても、エネルギーやダメージはそのまんまな。ベンチポケモンがいないと逃げれないから気をつけろ。あと、『にげる』は自分の番に一回だけだぞ。恭介のことだから調子乗ってホイホイ逃がす……ってことは無理」
「俺ってそんな風に思われてんの?」
「いや、適当に言った。次はポケモンをレベルアップ。進化と基本的に一緒だが、レベルアップ前のポケモンの技やポケパワーが使えて、ポケボディーまで働く。対戦スタート直後の、互いの最初の番にはレベルアップ出来ないし、進化と同じく進化した番にレベルアップは出来ないからな。そして一番大事なことだがバトル場にいるポケモンしかレベルアップ出来ない」
「やっぱレベルアップすると強くなるからか」
「そう。そしてポケモンのポケパワーを使う。説明文に従ってくれ。たねポケモンのカードをベンチに出すからポケモンのポケパワーを使うまでは、どの順番でやっても構わないぜ」
 俺の熱弁は案外声が大きいかったのか、周りの生徒からチラチラ見られる。まあいいや。
「自分の番にできることは、バトルポケモンのワザを使う。ワザを使うとターンエンド。説明文に従ってワザを使えよ。エネルギー不足でワザが使えなかったら、自分の番が終わりだって宣言すること。で、ポケモンがきぜつさせられたらすぐにベンチポケモンを一匹選んでバトル場に出す。さっきも言ったが替えのベンチポケモンがいなかったらサイドカードに関わりなくゲームセット。これでルール説明は終わりだ。他にも細かいのがいろいろあるけど俺が今日言ったことで十分遊べるぞ」
「ありがとうな」
「これやるよ」
 かばんの中から一冊の冊子を渡す。表紙には「ポケモンカードゲームDP 遊び方説明書」と書かれている。
「スターターデッキ買ったら必ずついてくるヤツな。俺が言ったこととか、それ以外のこととか書いてるから読むべき」
 恭介はペラペラと冊子をめくる。
「うん、これ翔の説明よりかなり分かりやすい。よし。ありがとな〜」
 恭介は満足し、かばんを持って帰って行った。
 俺の説明よりかなり分かりやすい……。じゃあ俺が今日こんなに頑張ったのは何だったんだ。無駄に時間消費したのはなんだったんだ。中の人が必至になったのはなんだったんだ。
 口を開けたままその場から動けなくなってしまった。



翔「今日のキーカードはカモネギだ!
  れんぞくぎりは上手くいけば、低エネルギーで50ダメージを狙えるぞ!」

カモネギLv.29 HP70 無色 (DPtエントリーパック・ディアルガデッキ)
無色 とりにいく
 自分の山札の「トレーナーのカード」を一枚、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。
無色 れんぞくぎり 10+
 コインを三回投げる。オモテが一回なら、10ダメージを追加。オモテが二回なら、20ダメージを追加。すべてオモテなら、40ダメージを追加。
弱点 雷+20 抵抗力 闘−20 にげる エネルギー1


  [No.290] 7話 黒色の転校生 恭介VS黒川唯 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:10:07   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 今日の天気は晴れ。所謂秋晴れで、非常に清々しいし心地が良い。
 と言ってももうすぐ秋も終わり、長く寒い冬に入る。マフラーどこにしまってあったか思い出さなくちゃあならないな。
 学校に登校して教室に入ると、相変わらず固まったグループで他愛のない話を繰り広げていた。
 男だろうが女だろうが、やはり気が合うやつ以外とはつるむ気がないようだ。この一体感のないクラスがうちのクラスらしいといえばそれまで。
「恭介おはよう」
 背後から声がかかる。俺の大事な親友の奥村翔だ。
 うちの高校は進学校なのだが、それをトップくらいで合格して授業料等免除の待遇を受けている。うらやましい限りだが、きっと見えないところで努力をしているのだろう。水鳥みたいな感じだ。ほら、見た目のんびりしてそうだけど水面下で足をめちゃくちゃバタバタしてるっていうやつ。
「デッキ作れた?」
 それにこいつは頭がいいと共にゲームの才能もある。3Dアクション以外では翔にゲームで勝てたことさえない。
 デッキの方はもちろん昨日は小遣いを全て使い果たしてカードを買い、デッキを組んでみた。かばんの中のデッキケースに入れてある。
「おう。おかげでなかなか寝れなかったぜ」
「早速やろうぜ!」
 めっちゃくちゃ良い笑顔じゃん。
 ふと背後から肩をたたかれる。
「おい長岡、聞いたか? 転校生が来るって」
 俺と親しいクラスメイトが話しかけてきた。どこでその情報をつかんだのだろう。胸が熱くなるな。
「男!? 女!?」
「そこまでは知らないなぁ」
「というよりなんでこんな時期」
「引っ越しか何かじゃないの?」
 翔はあまり興味なさげに呟く。
「さぁ、転校生が来るしか聞いてないからなぁ」
 とりあえず謎の転校生ということで話がまとまった。まとまってないな。
 チャイムが鳴り、皆席に着く。風見は案の定休みだ。無断で休んでいるらしいが、連絡くらい入れやがれ。担任教師が入ると同時にもう一人の影が教室に入る。
「おおおお!」
 と同時にクラスの男子からざわめきが起こる。入って来た生徒はもちろんのこと転校生だが、背が高くスタイルもよく、長い黒髪をポニーテールにしている。もう美人と褒めたたえるしかなかった。目つきがきついのが気になるが。
「恭介、顔がにやけすぎ」
「仕方ない仕方ない」
「百合ちゃんがかわいそうだろ」
「大丈夫だ」
 百合ちゃんというのは俺の彼女の長谷部百合(はせべ ゆり)。隣のクラスにいる娘だ。きっといつか説明するときがあるだろう。
「えー、この度転校することになった、黒川唯さんだ」
「黒川唯(くろかわ ゆい)です」
 黒川唯さんはクラスを見回してから礼をする。
「そのあいてる席に座ってくれ」
 おおっ、結構近いぞ! フラグが立ったかな?
「ん……?」
 翔が小さく声を出す。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
「なんだよー紛らわしい」



 休み時間、唯ちゃんのそばにはひとがたくさん集まってきた。満員御礼ですが、俺達の席も相当圧迫されている。俺は近くから唯ちゃんを見れるからいいものの翔はウンザリした表情を浮かべていた。
 これが昼休みにもなるともっと人が集まって厄介。押し合い押し合い。俺も苦しい。ウゲッ、今蹴ったやつ誰だ。
 でも予鈴と同時に帰って行く。昼休み後に俺らの教室である英語の授業の先生が怖いだけに違いない。
 他の奴らがいなくなった後、翔が唯ちゃんに話しかける。
「お前、ポケカやってるだろ?」
 常に目つきが鋭く、いつも誰かを恨んでるのか睨んでいるのかしてるように思えた唯ちゃんに驚きの表情が走る。
「どうして唯ちゃんがポケカやってるって分かったんだ?」
 このセリフは俺。だが、このセリフを言ったと同時に唯ちゃんにすごい勢いで睨まれた。ちゃん付けそんなに嫌だったか。
「勝手にちゃん付けするな」
「はぁ」
 怒られてしまったけど悪い気はしないぞ! 構ってくれてるだけでうれしいのだ。
「はっ、なんだその返事。で、ポケカやってるのが分かった理由は、黒川のブレザーにポケカの袋のゴミがついてる。破空だな?」
 よく見ると本当に少しだけついてた。よく分かるな。唯も少し動じていた。
「で、私がポケカやってるのがどうした」
「こいつとポケカで勝負してくれないか?」
 翔がトンと俺の肩を叩く。そして唯と目が合う。いつもの睨んだような目つきではなくて人を観察する目つきだった。
「そうね。……いいわ」
「じゃあ放課後、駅のそばのミスドで勝負だ」



 学校から駅までは歩いて五分となかなかである。そして大きめの駅の地下にあるミスド。邪魔するような人はなかなかいなく、カードやるには絶好の場所だ。
 ふと思えば唯は先ほどまでの堅苦しい表情が消えている。そして翔も満面の笑みになっている。
 似た者同士……?
 翔は普段は割ときついところもあるが、遊びになると精神年齢が十歳ぐらい若くなったかのようにはしゃぎまくる。唯も先ほどまで他人を睨むような感じだったのが目が笑っている。
「さて、見さしてもらうぜ」
 翔がハニーチュロスを口に入れながら言う。俺達は互いにデッキをシャッフルする。
 ハーフデッキルールなのでサイドカードは三枚だ。サイドを出して手札を……。うーん、たねポケモンが一匹だけか。しかもビリリダマ50/50。HPは高くない。
 仕方ない。ビリリダマを裏伏せにしてバトル場に出す。どうやら唯もたねポケモンは一枚しかないようだ。バトル場にポケモン一匹をセットするだけだった。
「よし、じゃんけんほい」
 俺がグーで唯がチョキ。
「もちろん俺が先攻だ」
 初めてのポケモンカードゲーム。翔とちょっと練習はしたが本格的な勝負はこれが初めて。どうやら唯のポケモンはバトル場のヤミラミ60/60だけのようだ。
「俺のターン!」
「その前にヤミラミのポケボディー発動」
「へ?」
「ポケボディー、いさみあし! 対戦スタート時にオモテにしたバトルポケモンがこのポケモンならジャンケンで負けていても私が先攻になる。よって私のターン、ドロー!」
「ええええ!?」
「よって私のターンから。ドロー。アブソル(70/70)をベンチに出してトレーナーカード発動。ポケモン入れ替え。これでアブソルとヤミラミが入れ替わりアブソルがバトルポケモンよ。そして悪の特殊エネルギーをアブソルにセット」
 なんだそれ聞きなれないエネルギーだ。
「悪の特殊エネルギー?」
「悪の特殊エネルギーが悪タイプのポケモンについているとワザのダメージがプラス10されるのよ」
 ビリリダマのHPはわずか50だがアブソルのワザの威力はたったの10。+10されても20なので3ターンはもつ。問題ない。
「それだけじゃ勝てないぜ」
「アブソルの攻撃、襲撃! このワザのダメージはこのアブソルを場に出したターンだけ40になる。そして悪の特殊エネルギーの効果によって50!」
「は!?」
 思わず声がひっくり返る。客の視線が俺に向く。顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
「ビリリダマはきぜつ。あなたのベンチにポケモンはいないから私の勝ちね」
 唯はそう告げるとカードを直してさっさとミスドから去って行った。
 ハニーチュロスを食べ続けている翔とふと目が合いしばらく見つめあってしまった。



翔「今日のキーカードはアブソル。
  奇襲をかけて攻撃だ! エネルギーひとつで40の高火力!
  二ターン目以降はベンチに戻してやれよ!」

アブソルLv.31 HP70 悪 (DP3)
無 わざわいのかぜ
 相手の手札から、オモテを見ないでカードを1枚選び、トラッシュ。トラッシュしたカードが「トレーナーのカード」なら、さらに1枚トラッシュ。
悪 しゅうげき
 このワザのダメージは、この「アブソル」を手札から場に出した番だけ、「40」になる。(対戦のスタートのときに出していた場合は、そのまま。)
弱点 闘+20 抵抗力 超−20 にげる 1


  [No.291] 8話 リベンジ!  翔VS風見(前) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:10:49   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 期末テストまで二週間となり、そわそわしてきた生徒たち。
 掃除も終わり、放課後となった教室には自主的に残る生徒が複数いた。もちろん、俺も恭介も残っている。
 俺はさっさと帰りたいのだが恭介が残りたいというので仕方なく俺も勉強している。
 そう、勉強しているはずなのだが、教室に先生はいないため軽い雰囲気が生まれて自由に会話している生徒が大半だった。
 だが扉に音があると皆は背筋を急に伸ばし、いかにも「勉強してます」を装うとする。
 また扉に音が。皆して机の上に適当に置いてあった問題集に向かう。
 扉が開く。だが、いつもの担任教師ではなかった。俺らと同じ制服姿の風見雄大だった。
「奥村翔、お前に用事がある」
「良いところに来たな。実は俺もお前に用事があったんだ」
 机の上にまとめてた物をさっと鞄に詰め込む。人によってはぶち込むとも言う。
 椅子から立つ間際、隣の席の恭介に囁く。
「風見がリベンジを挑みにきたそうだ。もちろん来るよな?」
「……。仕方ないな。言ってやろうじゃねえか」
「なんでそんな上からなんだよ。それにどうせあんまりはかどってないんだろ。応援しか役目はないけど頼むぜ」
「うるせぇ。さっさと行くぞ」
 嫌味を言ったせいか鞄で小突かれた。膝はやめろ。



 再び来ましたTECK本社前。しかし何度見ても首が痛くなりそうな高さのビルだ。作るのにどれだけの時間とお金がかかったのだろうか。
 風見の後を追い、前回と同じ手順で同じフロアに着く。三人とも終始無言なのが気まずいを通り越して苦痛だった。
「ここに来たことはどういうことか分かっているだろうな」
「もちろんだ。勝負を挑まれて断ることなんてしないぜ。相手が誰だろうと」
「俺は……。お前に勝つために日を費やしてきた。そのリベンジだ」
 ここで一つの憶測が生まれる。まさか、ずっと学校休んでたのはこのせいなのか?
「それもいいんだが、忘れモンだ」
 鞄からデッキケースを取り出す。そこに入れていたのはこの前の戦いで、風見が置き去ったガブリアスのデッキ。俺の用事はこれを返すことだ。しかし、風見に渡そうとするやいなや。
「その雑魚デッキにもう用はない。くれてやる」
 まるでただのゴミを捨てるような言い方だった。それが許せない。
「お前……。それでもポケモンカードが好きなのか? 自分が折角作ったデッキをそんな捨てるようなこと……」
「負けたデッキに用はないと言ってる!」
「それは聞き捨てならないな。負けたデッキに用はない? 勝つだけが全てじゃないんだぜ」
「いいや勝利だけが全てだ!」
「……。言っても仕方ない、か。それに勘違いしているかもしれないがこのデッキは強いよ。俺が証明する」
 そこまで言うのなら。風見はそう一息置く。
「ならばその雑魚デッキで俺に勝ってみろ。もしも勝てたら俺がそのデッキを取り戻してやろう」
 えー、なんかおかしくない? あまりにも上からすぎない? 少し妙なことになった。が、まあそれでも十分だ。俺は風見にカードのことをもっと想って欲しい。負けたからカードを破棄なんて許せない。
 互いに対戦場に向かいあい、デッキをシャッフル。そして手札を引いてポケモンをセット、さらにサイドカードを順にセットしていく。
「さあ、勝負だ!」
 俺と風見のリベンジマッチが始まる。裏側だったカードが表側となり、3Dとして目の前に現れる。
 と、同時に心配そうな声でそばにいた恭介が俺に向けて声をかける。
「……。おい、翔もしかして」
「ああ。そのもしかしてかもしれない」
 俺のバトル場はオドシシ70/70、ベンチはフカマル50/50。
 そして風見のバトル場はノコッチ60/60、ベンチはヒノアラシ60/60だった。
「俺のコピーデッキ……?」


翔「今日のキーカードはフカマル!
  進化すれば超強力カードのガブリアスになるぜ!」

フカマルLv.9 HP50 無色 (DP2)
無 つきとばす 10
 相手を相手のベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるベンチポケモンは相手プレイヤーが選ぶ。
弱点 無+10 抵抗力 なし にげる 1


  [No.292] 9話 信じる心  翔VS風見(後) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:11:23   80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 驚くべきか、前回のときとゲーム進行はほとんど同じであった。
 ノコッチが倒れ、ガバイトも倒れ、俺のベンチはフカマル50/50とパッチール70/70とオドシシ70/70。風見のバトル場はダメージを受けたマグマラシ40/80とベンチのモウカザル70/70。
 そしてガバイトが倒された俺はベンチからポケモンを一体選ぶことになる。
 前回はパッチールを出していたな……。そしてわざとデッキの下に置いたガブリアス130/130を回収していた。
 だが俺はそんな勿体ぶった行動はしない。手札にガブリアスをキープしておく。
「俺はフカマル(50/50)をバトル場に繰り出すぜ」
「っ……!」
 風見の表情にようやくアクションが起きる。驚いたような、笑ったような。だが風見のような人間だと俺を小馬鹿にしたようにも見える。
「俺のターン。ドロー! フカマルを進化! 現れろ、ガバイト(80/80)! そしてガバイトに炎エネルギーをつけてバトルだ。不思議なてかり!」
 このワザはコイントスをしてオモテなら、相手のポケモン一匹にダメージカウンターを四つ乗せ、ウラならガバイトのダメージカウンターを四つ取り除く効果のワザだ。効果のためにコインを放つ。何回転もしながら宙を舞い、カタンと音を鳴らしておちていく。
「オモテだ。マグマラシに40ダメージ!」
「ぐう!」
 HPが0となったマグマラシはその場にバタリと力なく倒れる。
「サイトカードを一枚ひくぜ」
「俺はモウカザル(70/70)をベンチからバトル場へ出す」
 ……。ヤツは次のターン、必ず進化させてくる。フレアドライブが来たらガバイトは一発でやられてしまう。
 しかし風見はフレアドライブを使えない。なぜならモウカザルにエネルギーがまだついていないからだ。フレアドライブは炎エネルギーを二つ要求するワザ。そのため、エネルギー一つで打てる流星パンチしかできない。
 それでもコイントスを三回連続で成功されたら勝ち目はなくなってしまう。ここからは運次第だ。
「俺のターン、ドロー。ふん、モウカザルをゴウカザル(100/100)に進化! さらに炎エネルギーを手札からつけて攻撃する。流星パンチ!」
 流星パンチは裏が出るまでコイントスをして、そのオモテだった回数×30ダメージを与える高火力の技だ。
 モニター越しに風見の手元を見る。オモテ、オモテ、ウラ。
「ふん、二回だけか。まあいい。行け、ゴウカザル!」
 風見は露骨に不満そうな顔を見せた。それに構わずゴウカザルはガバイトにスピードをつけたパンチを二発繰り出す。後方まで飛ばされたガバイト20/80だったが、それでも立ち上がる。HPが少ないとはいえ、残ったものは残ったんだ。
「20だけ残ったか……。ターンエンドだ。しかしHP20なぞ直に吹き飛ぶ数値だ!」
 手札にはガブリアスのカード、そしてガバイトには水エネルギーがついている。
「今のターンで俺を倒しきれなかったのを後悔するんだな! 俺のターン、ドロー! ガバイトを進化させる。こい、ガブリアス(70/130)! さらにガブリアスに水エネルギーをつける!」
「何っ!?」
 風見は余程驚いたのか声が若干上ずっている。しかしもう驚くのはこれで終わりだぜ。
「これで決まりだ! 行けっ、ガブリアス、竜のキバ!」
 ガブリアスがゴウカザルめがけて走りだす。
「ガブリアスのポケボディー、レインボースケールは、このポケモンにエネルギーと同じタイプの弱点を持つバトルポケモンにワザによるダメージを与えるときに技の威力を+40するポケボディーだ。よってガブリアスがゴウカザルに与えるダメージは70+40=110ダメージ!」
 ゴウカザル0/100はガブリアスの攻撃を受けると宙を舞い、その場に崩れ落ちる。俺が最後のサイドカードをひくことによって、3D映像のポケモン達は消えていった。
「馬鹿な……!」
「翔すげえ! よくやったな!」
 信じられない風景を見たかのように唖然としている風見とは対照的に、恭介は目を輝かせ嬉々としていた。
「そんなコピーデッキで勝てると思ったか」
 うなだれる風見のそばに行き、俺が言い放つ。
「とりあえず、これはお前のデッキだ。返すぜ。このデッキをどうするかはお前次第だぜ。……どうして負けたか、よく考えてみな」
 黙ったままの風見の傍らにデッキをそっと置き、俺達は静かに去っていく。



「それにしてもやっぱすげーバトルだったな。俺もあれぐらいのバトルができるようになりたいぜ」
 TECK本社ビルを出て、バスに乗って帰路へ。バスの中では恭介が興奮が冷めないまま大声で話していた。
「よし、それなら俺と練習でもする?」
「OK! 今度こそ負けないぜ!」
 自分自身とデッキ信じる気持ちと諦めない気持ちが大事なことを、風見はあの勝負を通じて分かってくれたのだろうか……。
 今はそれを考えても仕方がない。とにかくポケモンカードを楽しむだけだ!



翔「今回のキーカードはガブリアス!
  強靭なHP、そしてにげるエネルギーは0だ。
  エネルギーさえ合えば、一回の攻撃で110のダメージになるぞ!」

ガブリアスLv.66 HP130 無 (DP2)
ポケボディー  レインボースケール
 このポケモンが、このポケモンのエネルギーと同じタイプの弱点を持つバトルポケモンに、ワザによるダメージを与えるとき、そのダメージは、すべて「+40」される。このボディーは、このポケモンに特殊エネルギーがついているならはたらかない。
無無無 りゅうのキバ 70
弱点 無+30 抵抗力 ─ にげる 0


  [No.300] 異議ナシ! 投稿者:ふにょん   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:37:34   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 一番上のところにあるイラスト……
 逆転裁判のアノ人に見えてしまった……
『異議ナシ!』

 はい。異議なんてありません。
 
 こんなふにょんは負け組です。


  [No.301] Re: 異議ナシ! 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 07:39:56   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

>  一番上のところにあるイラスト……
>  逆転裁判のアノ人に見えてしまった……

その発想はなかったw


  [No.293] 風見杯編 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:12:34   90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

突如翔に借金を突きつけられるも、風見によって賞金つきの風見杯の存在を知り、それに挑むことになる。
風見杯の真意とは、そして翔の前に立ちふさがる敵とは……。


  [No.294] 10話 生じる予感 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:13:05   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 冬の空気は凍てつき寒く、息を吐けば白くなる。手袋やセーターの着用が目立ち、そして迫りくる来年へと世間はせわしくなっていた。
 うちの高校は期末考査が終わり、言わずとも残念だった人や普段の勉学の成果が出た人など大きく分かれた。
 恭介はかなり底の方の成績だったが、俺が指導することによってなんとか平均点に近づいてきた。
 文理分けもそろそろ始まり、俺も恭介も共に理系に進むことに決めた。ただ、変わったことはそれだけではなかった。
 この間の対戦の後、風見が再び学校に来始めた。そして少しずつではあるが俺たちと打ち解けて来るようになったのだった。
 性格も喋っていると意外とフランクなことも分かった。周囲は今までずっと独りだった風見が俺らのグループに入ってきたという大ニュースに驚きを隠せないでいた。
 試験も終わり、再びカードゲームで遊び始めた俺ら。あと一週間とちょっとで冬休みだが、それが近づくごとに様子がおかしくなる奴がいた。
 彼の名前は藤原拓哉。ほとんどのやつは拓哉とか藤原とか普通に名前を呼ぶだけである、やや地味な男友達。ただ、男の割には銀色の綺麗な髪を腰ほどまで伸ばしていたり、その柔和な笑顔から女の子に間違われることも多い。
 性格は非常に引っこみ思案で、揉め事などが苦手で一歩後ろを歩いてくるような感じである。カードをあまり持ってなく、四色混合デッキとかなり暴挙に出ていたりする。俺もカードを譲ってあげたことが何度かある。余談だがムウマが好きなそうだ。
 で、その拓哉の調子が変なのだ。どう変かと言うと、やけに何かを気にするようそわそわしている。俺達がいくら訪ねても「何もないよ」と誤魔化しているのだが。
 よそ様のことであるのであまり深追いしないようにしているのだがどうしても気になる。
 だが、他人の心配をしていられる暇はなかった。


 珍しく風見と二人っきりで喋りながら帰っていた時のことだった。本来風見と俺は全然違う方向なのだが、用があるとのことで共に歩いている始末である。うちのボロアパートのそばまで来たとき、大きな体格でいかつい顔をした男が一人。そしてその後ろにやや細めのひょろい男が一人いた。
 こちらを見るや否や近づいて来る。え、そんな変なことしたっけ。俺の目の前まで来ると大柄ないかつい男の方が声をかけてきた。
「君、奥村昌樹さんの息子さん?」
 奥村昌樹とは俺の父の名前である。俺の両親は三年前、飛行機の墜落事故で命を落とした。現在は社会人である姉に養ってもらい、なんとか二人で暮らしているのである。死んだ父に用があるのだろうか。
「はい、そうですけど」
「昌樹さんは今いるかな?」
 見た目のいかつさとは違って割とジェントルマン。もしかして昔の知り合いとかか?
「いえ、三年前に飛行機事故で……」
 俺が表情を曇らせると、相手もそうか、と一つ呟く。
「そうかそうか、すまないな」
 男は遠くを見るような眼で俺を見る。
「あまり子供に対して言うのは気が進まないが」
 そう言うと、男は持っていた鞄から一枚の紙を取り出した。そこには「借用書」と大きく書かれている。
「君の伯父さんが、一年前に借金をしたままなんだ。ところが夜逃げされてねぇ。悪いけど、保証人のお父さんの御子息である君に払ってもらいたいんだ」
 冬なのに冷たい汗が背中を流れた。思わず頬をつねるが、手渡された借用書には変わらず五百万とかかれていた。
「俺は未成年の、こっち系でないヤツにこんなことをするのは嫌いだが、こちとら仕事なんでね。悪いけど頼むよ」
 男が俺の肩をやさしく叩く。細い男は大柄な男の後を追うように去って行った。
 取り残された俺は渡された借用書を持ったまましばらく動けない。どうしてこうなるんだ。膝ががくがく震え始めた。
「翔」
 後ろにいた風見の手が俺の左肩に置かれる。
「聞け、翔。運が良いのか悪いのか、タイミングだけは非常にいい。TECK主催のポケモンカードゲーム大会の風見杯。これが一月に行われるのだが、この大会で優勝すればちょうど五百万の賞金が出ることになっている」
 黙ったままの俺に風見は話を続ける。
「この大会はこの間俺とお前で使った3D投影機のプロモーションも兼ねていて、それなりに提供も多い。人数を集めるためにさっきも言ったが優勝者には賞金を出している。翔、お前は風見杯に出ろ」
「……」
 もう何が何やらわからず頭がパニックを起こしている。もはや今持っている紙が何を示しているのか、風見が何を言っているのかもう分からない。
「……とりあえず詳しいことが決まり次第教えるからな」
 風見は一切動かない俺を見つめていたが、やがて踵を返して立ち去って行った。



翔「今回のキーカードはムウマ!
  相手がねむりならばこいつは一気にキラーカードになるぜ!」

ムウマLv.19 HP60 超 (破空)
─ こもりうた
 相手をねむりにする。
超 あくむのうたげ
 相手がねむりなら、相手に50ダメージを与え、自分のダメージカウンターを5個とる。相手がねむりでないなら、このワザは失敗。
弱点 悪+10 抵抗力 無−20 にげる 1


  [No.295] 11話 希望を掴め 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:13:40   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……」
 部屋に入るとかばんを投げ捨て、床の上に大の字で寝転がる。
 あの借用書はリビングの机に置いてきた。今は何も考えたくない。
 これからどうするか。この後どうなるか。カイジみたいにエスポワールにのって限定ジャンケンでもしなくちゃならないのか。
 どうやらまだどうでもいいことを考える余裕はあるようだ。
 あまりにも非現実的すぎるような気がして脳がどこぞにでも行ってしまったかのようである。でもこれはたぶん行ったきり戻ってこないかもしれない。
 ちらと部屋の時計を見ると、もう七時を指していた。かれこれ一時間半以上はぼんやりと打開策がない迷路に迷っていることになる。
 そろそろ姉が帰ってきそうだ。両親がいなくなってから、家計を支えてくれた姉が。このご時世に一流の機会、電子企業EMDCに勤めているが不況故、給与も若干の右肩下がりである。
 風見が言っていた風見杯。自社製品の宣伝のために賞金つきのポケモンカードの大会を開催すると言っていた。望みがあるとすればそれしかないか……。
 ふと玄関の鍵が開く音がする。
「ただいま〜」
 明るく元気な声が聞こえてきた。姉の奥村雫だ。
「どうしたの、暗い顔して」
 亜麻色の長い髪を巻いている姉さんは巻き毛の部分を指に絡めてクルクルするのが姉さんのクセである。現に今もしている。
 俺はそんな明るい姉にどうとも言うことができず、黙って借用書の紙を渡す。間もなく姉さんの表情が一変した。



 どんな絶望的な気分でも、誰にも等しく朝はやってくる。今日は朝の明るさがやけに恨めしい。
 学校を休んでバイトして、少しでも借金のアテにしたかったのだが姉さんは決してそれを許してくれなかった。こっそりバイトしてお金を稼いでも、姉さんは受け取ってくれそうにもない。
 せめて学校では明るく振舞おうとしてもうまく笑顔が作れない。
 だからと言って借金のことを話し、同情されるのも嫌だ。我ながら自分の気持ちに整理が行ってない。
「おう。翔」
「よっ」
 愛想良く振舞っているつもりでも、精彩に欠ける。恭介もそんな俺を不審がる。
「オーラが死んでるぞ。なんかあったのか?」
「まあいろいろな」
「そうか……。まぁ頑張れよ」
 恭介は戸惑った顔を作ったが、そのまま何も聞かずに席についてくれた。こういう気遣いこそがありがたいということを痛感せざるを得ない。
 当たり前のように授業には集中出来ず、周りも怪しがっていたがぎこちなく笑うのが今できる精一杯だった。



 昼休み、なんとなく風に当たりたくなって、普段は利用しない屋上に上がることにした。
 屋上は昼休みのみの開放スペースで、俺以外にもたくさんの生徒がそれなりに広い屋上でお弁当の包みを広げていた。
 いつもは教室や食堂でみんなでワイワイ食べているのだが、今日はそんな気になれずに一人ベンチに座り、ぼんやりと虚空を見つめていた。
「おい」
 誰かに声をかけられる。振り返ると、風見が立っていた。
「お前らしくないな」
「そんなこと言うほど俺のことを知っているわけでもないだろう」
「それもそうかもしれないな」
 風見が妬ましい。親がTECKの社長ってことは間違いなく裕福な家庭に生まれ、そりゃあ苦労とかはしただろうが破滅的危機には遭遇していないと思う。俺のようなスレスレ、ギリギリな生活を送っていない。……だろう。
「で、何の用だ」
「昨日言っていた風見杯についての資料だ」
 透明なA4クリアファイルが手渡される。中には言われた通りの資料が数枚入っている。
「お前は俺を倒した程のヤツだ。これくらいの大会で負けてもらっては困る。見ればわかるが、風見杯の賞金は破格の五百万だ。TECKもTECKで全力でかかってる」
 基本的に大会の概要に関する資料だった。基本概要、開催日、開催場所、募集要項、レギュレーション、ジャッジ、大会ルールなど。
 ハーフデッキの大会か。だがどんなヤツであっても必勝などはない。大会経験の少ない俺としては怖いんだ。
「このようなところでお前のようなやつが終わってもらっては困る。必ず勝て!」
 そんな心を見透かした風見の喝が俺に飛び込む。俺を見る眼差しは真剣そのものだった。こいつは本気でそう言ってくれている。
 そこまで言うと風見は踵を返し、屋上を去ってゆく。口では言えなかったが心の中で風見の叱咤激励と、俺に希望をつなげてくれたことを感謝する。
 ふとポケットにしまってあったデッキを見ると、一番上にあったバクフーンのカードまでもが俺に叱咤激励をしてくれるような気がした。



翔「今回のキーカードはバクフーン!
  気化熱は水タイプに有効なワザだ。
  俺のお気に入りのカードだぜ!」

バクフーンLv.46 HP110 炎 (DP2)
ポケパワー たきつける
 自分の番に1回使える。自分のトラッシュの炎エネルギーを1枚、自分のベンチポケモンにつける。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
炎炎無 きかねつ  60
 相手の水エネルギーを1個トラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 − にげる 2


  [No.296] 12話 壊れた心 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:14:15   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 夕陽は当たっているが、室内灯が点いていないためやけに暗い。
 小さなマンションの五階、そこに一つ小さな声が聞こえる。
「ただいま……」
 近づいて聞かないと聞き取れないようなか細い声。しかしその声を聞く相手などそもそもいない。
 声の主の藤原拓哉、その母は仕事に出ていた。父は彼の幼い頃に母と離婚し、いわゆる母子家庭。貧困な生活の中、母はいつもパートで家におらず、彼は常に独りぼっちだった。
 小、中学校時代共にいじめられたがようやく高校で彼は自分の居場所を見つけた。居場所というのは翔達のグループ。きっかけはずっと独りぼっちだった彼に翔が話しかけたことが始まりだった。
 だが、この居場所を失えば今度こそ独り……。
 それは彼を押さえつけるある種の呪縛でもある。彼はなけなしの自分の手持ちのお金を全てカードに変え、かろうじてついてきているような状態。翔達のグループはよくカードで遊んでいるためこのような呪縛が本人に植えつけられてしまった。
 翔自身は彼がカードを持っていなくとももちろん仲良くするつもりなのだが、拓哉はそれを知っていない。
 カードがなくなれば翔達にお払い箱にされ、すべてが破滅、終わりだと思っている。
 拓哉の母が稼げど稼げど消えゆく金は、主に拓哉の養育費である。それゆえ嫌がらせも激しい。
 仕事で何かある度に、そのストレスは全て拓哉にぶつけられていた。怒鳴り、蹴り、殴り。それら全てが拓哉の感情を不完全にしていった。
 本日拓哉は学校の帰り、昼食をケチったお金でカードを買い、それを家で開けることをささやかな楽しみにしてパックを手に持っていた。
 母の仕事の帰りは遅いはず。その普段が、安心感が非情を呼ぶ。
 部屋へ行こうと廊下を歩むと、リビングの方から本来はいないはずの母がいた。
「おかえり……」
 母は拓哉が帰ってきたことに感じる苛立ちをまるで隠さない挨拶を放つ。
「……アンタ、何よそれ」
 拓哉が持っていたパックを目ざとく見つけ、取り上げる。
「ぽけもんかーどげーむ……?」
 パックを読み上げるとそれを後ろに放り投げ、母は拓哉の服を掴む。
「いい御身分でして!」
 拓哉はそのまま後ろに押され、床に倒れこむ。母の怒りは止まらなく、頭を抱えてうずくまっている拓哉に追い打ちをかけるよう蹴りを何度も入れていく。
「アンタ育てるのにどれだけ苦労してるか分かってるの!? アンタにどれだけ金とられてるか分かってるの!?」
 声を荒げ、何度も何度も拓哉に蹴りを入れていく。そして蹴られていく度に拓哉の憎悪は拡大していく。
「このゴミっ……!」
 と叫び、再び拓哉に蹴りかかろうとした途端。ふと空気の流れが変わった。
「おい……。どっちがゴミか教えてやろうか?」
 頭を抱えてうずくまっていた拓哉が、蹴りかかろうとしていた母の脚を掴む。拓哉の真っすぐストレートの髪が、怒りの感情を現わすかのように方々にはねている。
 力を入れて脚を掴んでいるためか母は痛がり、狂乱ゆえに声にならない悲鳴を叫び続ける。
「おらぁ!」
 そのまま逆に母を押し倒し、母を無視して拓哉は投げ捨てられたパックを拾いに行く。
「アンタ、どうなるか分かってるでしょうね! 私に手を……」
「貴様の運を試してやるよ」
 拓哉は母の言葉を流し、拓哉はパックを開封する。
 母は拓哉を殴りつけようと近づこうとしたが体が思うように動かない。
 拓哉からの剣幕、威圧感が自然に動きを妨げていた。逆光で拓哉の顔はよく見えないが、声は笑っている。
 通常、ポケモンカードゲームに入っているカードは十一枚入っているが、拓哉はその十一枚をシャッフルしランダムに一枚抜き取る。
「ほぉ、サマヨールか。当たりだな」
 拓哉がサマヨールのカードを母親に向けると、カードが黒い靄に包まれていく。
「さぁ、恐怖に慄け!」
 黒い靄は母の手前で止まり、何かを形成していく。モゾモゾと音を立て、カードと同じ絵の───サマヨールが現れる。
 拓哉がやれ、と言うと、サマヨールのその両手が母を掴む。するとサマヨール諸共跡形もなく綺麗に消えていく。
 母が最後に見た拓哉の顔は極上の悦びに浸っていた顔だった。



翔「今回のキーカードはサマヨールだ!
  なんと相手の手札もトラッシュできちゃうカードだ」

サマヨールLv.41 HP80 超 (破空)
超 やみのひとつめ  20
 のぞむなら、自分の手札を1枚トラッシュしてよい。その場合、相手プレイヤーも手札を1枚トラッシュ。
超無無 おそいかかる  40+
 コインを一回投げオモテなら、20ダメージを追加。
弱点 悪+20 抵抗力 無色−20 にげる 1


  [No.297] 13話 決戦の朝 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:14:45   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「よし、準備は万端だ」
「いざ戦地へ! だな。早くしないと時間に遅れるかもしれないから早く行こうぜ!」
「いやいや、予定よりもだいぶ早く動いてるから大丈夫だって。恭介は短気すぎるぞ」
「そういえば翔、お前のねーちゃんは?」
「俺達とは別行動で来るってさ」
「じゃあ百合が駅で待ってるから急ごうぜ」
 年明けての一月十日、冬真っ盛りでとても寒い。俺と姉さんが住んでいるボロアパートは冷たい風がよく通る。ストーブを点けないと部屋の中も外も対して差異はない。そりゃそうか。
 ボロい反面に駅からは近い。徒歩三分は結構魅力的である。
 地下鉄の駅に行くと、チケット売り場で長谷部 百合(はせべ ゆり)さんが待っていた。
 長谷部さんはゆったりとした感じの子で、短気な恭介とは逆だ。彼女もポケモンカードをやるらしい。
 白い暖かそうなコートに身を包まれていた彼女を見て羨ましいと思った。一言添えると、恭介がうらやましいわけではなくコートがうらやましい。お古のダウンじゃ限界だ。
「おはよう」
 いくら身は寒くとも、長谷部さんの笑顔を見ると心は暖かくなる気がする。良い子だ。
「おはよう」
 こちらも一言挨拶を返す。
「さて、行くか。忘れ物してない?」
「おう、バッチリだぜ」
「えーと、してないわ」
 切符も買ったし問題ない。いつでも行ける用意は出来ている。
 休日の朝。平日ほどではないが、社内にはそれなりに人はいる。車内暖房のせいもあるが、人口密度のせいでより暑く感じられる。
 当然の如く席になんて座れない。吊り手は満員で、仕方ないから今日のデッキについていろいろ考え事をしていた。隣にいる長谷部さんの少しウェーブがかった亜麻色の長い髪からくる甘いシャンプーの匂いが考え事の妨げとなり、結局ほとんど考えれなかった。
「いつ見てもでかいな」
「こんなところを会場にするなんてさすがは風見だなぁ。ちょっとドキドキしてきたぜ」
「恭介、初戦で負けるなよ」
「翔こそ負けるなよ? なんせお前は……」
 恭介は言葉に詰まる。彼なりに気を使ってくれているのだろうか。
「まあ、とにかく頑張れよ!」



 大会の会場は、野球の試合でも使われるような大きなドーム。
 そのドームにはこの間TECKで使った、3Dマシンが十六台置かれていた。よくもまぁ搬入できたもんだ。
「恭ちゃん、エントリーあっちだって」
 当日参加制のこの大会は、ドーム内でエントリーしないと出場できない。まあ普通だが。
 エントリー申請をする場所では結構な行列が出来ていた。
「翔くんおはよう」
「おっ、拓哉。調子はどう?」
「頑張れるだけ頑張るよ」
「期待してるぜ!」
 拓哉はいつも通りそうだった。向こう側では黒川唯、そして姉さんもいた。
 他に辺りを回すと知り合いが何人かいる。こういうところでは誰かがいるということがとても大事だ。
 エントリー申請をする場所ではエントリーカードと記念プロモカードが渡される。
 エントリーカードには自分の名前、対戦相手の名前、勝ち負けを記入する場所が七箇所あった。七回勝てば優勝なのだろうか。
 一方プロモカードはペラップのカード。公式大会ではないのに中々粋なことをしてくれる。株ポケも絡んでるのかな。



 大会開催時間になった。檀上で知らないおっさんによる開催宣言の後、TECKのうんたらという演説を聞かされる。TECKの社長が風見のお父さんと聞いたのだが、このおっさんは風見と名乗っていなかったので風見の父親ではないようだ。
 スピーチ自体に面白みは一切なかった。だが、おっさんがある程度話きると、ルール説明を始め出す。こっちはちゃんと聞いておかないと。
「諸君が首にしているエントリーカードには勝敗を記入できる箇所が七箇所ある。当然と思うが七回戦える。だが、多少変則的にさせてもらった。よく聞いてほしい。
 諸君は『七回まで戦える』。詳しく言うと、五勝すれば決勝トーナメントに進むことができるのだ。つまり負けていいのは二回まで。
 そして五勝した人全員が決勝には上がれない。早いもの順、先着十六名までが決勝トーナメントに出場可能だ。
 五勝したらエントリーカードをこの壇まで持ってくる。それで決勝進出となる。
 戦う相手はスタッフが放送した番号のエントリーカードを持っているもの同士となる。以上」
 要するに五勝すれば勝ち。対戦相手はエントリーカードの番号によって決まるとのことだ。
 エントリーカードはただの紙だが3Dマシンがバトルを自動処理するらしい。最近の科学の力ってすげー。
 それはともかく、さっさと五勝して決勝へ行かなければ。
 檀上の傍には風見もいる。その風見もこちらに気づき、ふっ、と笑うと控え室へ去っていった。
 風見も大会に出るとかなんとか言ってたのでそのうち会えるでしょう。もし戦える機会があれば……、それはそのときまでの楽しみにしていよう。



翔「今日のキーカードはペラップ!
  アンコールの使い方がキーになるぜ!」

ペラップLv.29 HP60 無色 (PROMO)
無 アンコール
 相手のワザを1つ選ぶ。次の相手の番、その相手は、そのワザしか使えない。
無無無 みだれづき  20×
 コインを3回投げ、オモテ×20ダメージ。
弱点 雷+10 抵抗力 闘−20 にげる 1


  [No.298] 14話 風見杯予選! 翔VSM[ムービー]ポケモン(前) 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/04/19(Tue) 00:15:17   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ありがとうございましたー」
「ありがとうございました……」
 これで四勝。負けはない。あと一勝すれば決勝進出サクサクだ。
 次の試合のコールはまだないのでとりあえずデッキ調整をしよう。
 今日はデッキを二つと、予備のカードを少しばかし持ってきた。主にトレーナーカードをいじるためだ。
 デッキを組む時はこれで完璧と思っていても、いざ使ってみると使えそうなカードが邪魔になったりと言うことがカードゲームにはよくある。その点ドロー支援のカードは万能だ。という持論。
「おっす翔、そっちはどうだ?」
 恭介が声をかけてきた。
「四勝の負けなし。リーチかかった感じ」
「俺はまだ三勝無敗だわ。一歩遅いなー」
『エントリー番号38と97は試合会場14番に集合してください』
「おっと、それじゃあ後でな」
「おう! 負けんなよ?」
「決勝会場で会おうぜ」
 恭介は自分の試合のために急ぎ足で去って行った。
 この大会にはうちの借金返済がかかっている。本来はもっとプレッシャーがあっていいはずなんだが、なんだかやってることがポケモンカードなのでそういうものがまるで感じられない。
 これはこれでいいのかもしれないが複雑な心境だ。
『エントリー番号36と15は試合会場3番に集合してください』
 俺にもお呼びがかかったようだ。さっさと行ってサクッと勝とう。



 この大会と公式大会の異なる点を挙げれば、いろんな都道府県の人が参加できることと、当日参加可能と、なにより子供と大人が混ざって戦うところだ。
 普通、実力差があるため子供と大人は部門別で分かれているのだが、この風見杯は子供も大人も同じ土俵に立つ。
 勝って優勝というよりも大会に出るということがメインのヤツと当たると悪いが楽に勝たせてもらえる。
 実際俺の目の前の相手は小学生。楽に決勝に進めそうだ。
「よろしくお願いします」
 互いに挨拶を交わし、順番を決めてデッキをシャッフル。カードを引いてたねポケモンをセット。互いにセットしたポケモンを同時にオープンして試合が始まる。
 俺の最初のバトルポケモンはノコッチ60/60、ベンチポケモンはヒトカゲ60/60。
 一方相手の小学生はバトルポケモンはギザみみピチューM30/30、ベンチポケモンはミミロルM50/50。
「M(ムービー)デッキねぇ……」
 ファンデッキだなこりゃ。瞬殺とまでは行かないがこれは楽だな。
「僕のターン。えっと、ギザみみピチューMに雷エネルギーをつけてともだちパーティー発動! 山札から好きだけMとついたポケモンをベンチに出せる!」
 ギザみみピチューがおいでおいでしてる。
「ピカチュウM(60/60)とニャースM(50/50)、ポッチャマM(60/60)とパルキアM(90/90)をベンチに出します」
 一気にベンチが埋まる。この辺はプレイングが甘い。この後にいいポケモンが手札に考えたときのケアがまるでない。とはいえギザみみピチューのHPが低いためすぐに場が一つ減るという点はあるのだが。
「ドロー! ヒトカゲに炎エネルギーをつけてノコッチのへびどりを発動。カードを一枚引いて終わりだ」
「僕の番だね。カードを引いて、スタジアムカード、ミチーナ神殿を発動!」
 3D投影機によって対戦相手の男の子の背後に映画で観たあのミチーナ神殿が現れる。思ったよりも大きい神殿で、それは見るものを圧巻させるほどだ。
「さらにトレーナーカードの命の宝玉を発動! デッキからエネルギーカードを五つまで選択して手札に加える。僕は水エネルギーを三枚、雷エネルギーを二枚手札に加えます。その後五回コイントスをして表の回数だけMと名のついたカードにエネルギーをつけることができる」
「なっ」
 なんていう速攻プレイ。しかし相手の山札はすでに十一枚。下手にサーチしすぎるとあっという間に山札が無くなるぞ……。
 ところで、この間風見と戦ったときよりこの3Dなんたらマシンは進化している。どの点が進化しているかというと、コイントス機能がついたことだ。
 デッキを置くところの傍にあるボタン一つを押すと自動的にコイントスを行ってくれる。イカサマコイントスを使ったコイントスをされることもなく非常に公平なシステムだ。
 ウラ、オモテ、オモテ、ウラ、オモテ。つまり相手の男の子は三枚までエネルギーをつけれる。
「パルキアMに水エネルギーを二枚、雷エネルギーを一枚つけます。そしてパルキアMに水エネルギーをつけます。ギザみみピチューMの雷エネルギーをトラッシュして逃がし、パルキアMを新たにバトルポケモンにします」
 これは弱ったな。水タイプのカードを出されるのは困る。炎デッキの俺には鬼門となる。
「パルキアMの攻撃! 一刀両断。コイントスをして表ならベンチポケモンにもダメージを与える」
 ウラ。かろうじてヒトカゲは無事だった。パルキアMがノコッチに向かって右手を振り下ろす。重低音と共に、モニターのノコッチ10/60にはダメージカウンターが五つ乗った。
 ムービーデッキを侮ってました。いやはやヤバいぞ、これは思ったよりも強い。どう対応していこう。



翔「今日のキーカードは命の宝玉!
  Mと名のついたポケモンにエネルギーをたくさんつけれるぜ!

命の宝玉 トレーナーカード (オリジナル)
 自分の山札から基本エネルギーを5枚まで選択し、開いてプレイヤーに見せてから手札に加える。その後、山札を切る。さらに、5回コイントスをし、表の数だけ自分の「名前にM[ムービー]がつくポケモン」に基本エネルギーをつける。


  [No.303] 15話 予選終了! 翔VSM[ムービー]ポケモン(後) 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/04/20(Wed) 18:36:22   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
15話 予選終了! 翔VSM[ムービー]ポケモン(後) (画像サイズ: 340×400 50kB)

 今の俺のバトル場にはノコッチ10/60、そしてベンチには炎エネルギーがついたヒトカゲ60/60。対戦相手の小学生のバトル場には水エネルギーが三枚、雷エネルギーが一枚ついたパルキアM90/90に、ベンチにはピカチュウM60/60、ポッチャマM60/60、ニャースM50/50、ミミロルM50/50、ギザみみピチューM30/30。互いのサイドはまだ三枚。
 相手が使うのはムービーデッキ。そもそもファンデッキは基本的にデッキパワーに乏しく、しかも高コストなことがある。分かりやすく言うと、千五百円のカラフルな弁当があるが、五百円の弁当のほうがうまかった。
 まあこの際分かりにくさはどうでもいいとして、要するにコレクション用のカードなのでそもそも強くないということだ。
 しかし油断大敵とはまさにこのこと、思う以上に理想の展開につなげることが出来ない。
「俺の番だ」
 引いたカードはふしぎなアメ。気を抜いていられない状況の中でどう攻めるべきか。今ある手札で必至にめぐらせる。
「ヒトカゲを対象にふしぎなアメ発動。このカードの効果によりヒトカゲをリザードンに進化させる!」
 ヒトカゲの足元から光の柱が立つ。俺は手札のリザードンのカードをヒトカゲに重ねた。光の柱が消えるとともにリザードン140/140の雄たけびが会場に響く。
「リザードンに炎エネルギーをつけて、ノコッチのへびどりを発動。山札からカードを一枚引いてターンエンドだ」
 防戦一方だが仕方ない……。しかし次の番には逆襲の始まりだ。
「僕のターンドロー! 手札の雷エネルギーをピカチュウMにつけてパルキアMで攻撃。一刀両断!」
 轟音と共にパルキアMがノコッチを粉砕する。これでノコッチ0/60は気絶だ。
「さらにコイントス! えっと、オモテなのでリザードンに20ダメージ!」
 パルキアMがリザードンに向かって腕をふるうと、真空波のようなものがベンチのリザードン120/140に直撃する。ベンチへの攻撃は弱点や抵抗力の計算を行わないのが救いだ。
「ノコッチが気絶したのでサイドカードを一枚引くよ」
「次のバトルポケモンはリザードンだ」
「それじゃあターンエンド」
「俺のターン!」
 引いたカードはマグマラシ。しかし肝心のヒノアラシがいない。リザードンを倒されるとベンチポケモンがいなくなり、負けてしまう。だがあいにくたねポケモンを呼べそうにはない。ここは強気で攻め続けるしか。
「手札のリザードンに炎エネルギーをつけて攻撃! バーニングテール!」
 リザードンが尻尾でパルキアMに攻撃する。派手な音をたててパルキアMに傷を負わせる。
 致命傷にはなったものの倒しきることはできない。HP90のパルキアMに80ダメージを与えたため残りHPは10/90となる。
 そしてバーニングテールのコストとしてリザードンの炎エネルギーを一枚トラッシュする。
「僕のターン。ミチーナしんでんの効果発動! 自分の番に一回、自分の場のM[ムービー]と名の付くポケモンを一枚選択し、ダメージカウンターを二つ取り除けます。僕はパルキアMを選択」
 パルキアMはHPを20回復したため、これで残りHPは30/90だ。
「ピカチュウMに雷エネルギーをつけていっとうりょうだんで攻撃!」
 パルキアMの攻撃が続く。炎タイプのリザードンに弱点のタイプである水タイプが攻撃したため、通常の50ダメージにさらに30ダメージが追加され80ダメージ。残りHPは40/140。パルキアM以外から攻撃を受けようとあとほぼ一、二撃で倒される。 
「俺の番だ、ドロー!」
 引いたのはスーパーボールだ。山札のたねポケモンをベンチに出すことができるカードである。これでヒノアラシを呼びこまないと。
「手札のスーパーボールを発動! デッキのたねポケモンを選択し、ベンチに出すことができる。俺はヒノアラシを呼ぶぜ」
 ベンチエリアにヒノアラシ60/60が元気よく登場する。
「ヒノアラシに炎エネルギーをつけて、リザードンで攻撃! 炎の翼!」
 炎の翼は本来30ダメージなのだが、リザードンのポケボディーである火炎の陣の効果により、ベンチの炎タイプの数だけ与えるダメージが+10される。今、ベンチには炎タイプのヒノアラシが一匹いるので30+10=40ダメージを与える。
 高く跳び上がったリザードンは、炎を身に纏いながらパルキアMに向かって急降下して突撃する。パルキアM0/90はこれで気絶。相手の次のバトルポケモンはポッチャマM60/60である。あくまで相性で攻める気か。
「相手のポケモンを気絶させたため、サイドカードを一枚引いて終わりだ」
 引いたカードはヒトカゲ。たねポケモンを引けたのはラッキー。
「僕の番です。ドロー。ピカチュウMに雷エネルギーをつけてターンエンドです」
 弱点で攻めるという予想は大きく外れる。やはりというかなんというか、あのベンチで蓄えられているピカチュウM60/60がキーになるようだ。
「俺のターン!」
 エネルギー転送のカードを引いた。このカードはデッキから基本エネルギー一枚を手札に加えるカードだ。デッキ圧縮(山札の数を減らす手段)にはもってこい。
「俺はエネルギー転送を発動。炎エネルギーを手札に加える。そしてヒトカゲをベンチに出し、ヒノアラシをマグマラシに進化させる」
 ベンチにヒトカゲ60/60がこれまた元気よく飛び出る。一方のヒノアラシは白い光に包まれマグマラシ80/80へと姿を変えた。
「そしてリザードンに炎エネルギをつけてポッチャマMを攻撃。バーニングテールっ!」
 リザードンのポケボディー、火炎の陣の効果により80+20=100ダメージ。HPが60しかないポッチャマMは一瞬で気絶の大技だ。そして相手の最後のポケモンはピカチュウM。本命がようやく登場らしい。
「サイドカードをひかせてもらうぜ」
「僕の番、ピカチュウMに水エネルギーをつけます。そしてピカチュウMをレベルアップ!」
 ピカチュウMが光輝き、ピカチュウMLV.X90/90へレベルアップを遂げる。なるほど、レベルアップはバトル場のポケモンにしかすることが出来ない。この時をずっと待っていたのか。
「リザードンに攻撃、ボルテッカー!」
 ピカチュウMLV.Xが黄色い光に包まれてリザードンへ突撃していく。
「ピカチュウMLV.Xは自分にも20ダメージを受けるけども、相手に100ダメージを与える強力な技です」
「100ダメージ!?」
 3ケタのダメージなんて滅多にない。リザードンはHPが0/140を下回り、気絶となる。俺の最後のバトルポケモンはマグマラシ80/80だ。
 一方ピカチュウMLV.Xはボルテッカーの反動として20ダメージを受けることになり、残りHPが70/90となる。しかしマグマラシの攻撃一撃で沈めることが出来ない。そうなれば返しのターンにマグマラシはやられてしまう。
「サイドカードを引いて終わりです」
「俺のターンドロー!」
 この番で打開策を見つけなくてはいけないが……。どうやらいいものを引いた。これで逆転への方程式が完成だ!
「行くぜ、マグマラシをバクフーンex(150/150)に進化させる!」
 マグマラシは普通のバクフーンより一回り大きいバクフーンに進化する。
「そしてこの進化した瞬間にバクフーンexのポケパワー発動! バーストアップ!」
 相手の小学生の顔が驚愕と困惑に歪む。
「このポケパワーは自分の番にこのカードを手札から進化させた時に発動する。相手のベンチポケモンの数までデッキから炎エネルギーを自分の炎ポケモンにつけることができる。今、君の所のベンチポケモンは三匹なので、デッキから炎エネルギーを三枚このバクフーンexにつけることができる!」
 これでバクフーンexには炎エネルギーが四枚ついたことになり、唯一のワザを使えるようになった。準備は完璧、一気に畳み掛ける!
「これでトドメだ! バクフーンexの攻撃。メラメラ!」
 バクフーンexの口から巨大な火の玉が発せられ、ピカチュウMLV.Xに襲い掛かる。巨大な爆音と同時に、ひっくり返ってすっかり伸びたピカチュウMLV.X0/90の姿が。
 残りHPが70のピカチュウMLV.Xは80ダメージのメラメラを受けて気絶となったのだ。
「最後のサイドカードをひいて、ゲームセットだ!」
 ゲームが終わると同時に3Dで映し出されていたポケモンは消滅。モニターにはYOU WINと味気ない文字が浮かび上がった。
「ありがとうございました」
 互いに礼をする。これで五勝、決勝への切符を手に入れた。
 予選用のエントリーカードをスタッフに渡し、本戦用のエントリーカードをもらう。エントリーカードの番号は2だ。この番号によって本戦のトーナメントの相手が決まる。
 本戦用のエントリーカードの番号は勝ち抜け順なので、先に勝ち抜いた人が一人いるらしい。
 予選を勝ち抜いた人は檀上で待機することになっている。つまりそこに一番抜けがいるということだ。一番抜けの顔を一瞬でも早く見たい思い出階段を駆け上がり、檀上にいる一番抜けの少年を見て驚く。
「お前が一番抜けか。……拓哉」
 しかし拓哉は似合わない不敵な笑みを浮かべていた。




翔「今日のキーカードはバクフーンex!
  exのカードは気絶すると二枚もサイドカードをひかれてしまうが、
  その分パワーにあふれてるぜ!」

バクフーンex HP150 炎 (構築済みスターター「バクフーンex★炎」)
ポケモンexがきぜつしたとき、相手プレイヤーはサイドを2枚とります。
ポケパワー バーストアップ
 このパワーは、自分の番に、このカードを手札から出して、自分のポケモンを進化させたとき、1回使うことができる。 自分の山札から、相手のベンチポケモンの数ぶんまでの炎エネルギーを選び出し、自分の炎ポケモン1匹につける。 その後、その山札を切る。
炎炎無無 メラメラ 80
 自分のエネルギーを1個トラッシュする。 その後、相手のエネルギーを1個トラッシュする。
弱点 水闘×2 抵抗力 ─ にげる 1


  [No.317] 16話 本戦開始! ポイズンストラクチャー! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/04/27(Wed) 16:45:26   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 少しすると、壇上にも人が集まって来る。
 きちんと風見も現れる。やはりこうでなくちゃ。他にも長谷部さんや姉さん、恭介もやってきた。
 十六名が勢ぞろいしたが、その半分近くは身内になってしまった。
 そして十六名で戦う順番を決めるくじ引きを行う。
 その結果、一回戦二回戦に知り合いとは当たりそうにないが、隣のブロックには長谷部さん、姉さん、恭介、風見と四人もいる。しかも長谷部さんと風見が一回戦でぶつかる。
 一方俺が最初に知り合いと戦いうるのは拓哉と当たる準決勝だ。ぶつかるかどうかはまだ分からないが、上手く行けば、と言ったところ。
 一時間の休憩の後、風見杯本戦が始まる。



 風見杯本戦は決勝と準決勝以外は常に二試合ずつ同時に行われることになっている。
 先ほど一回戦の第一試合、第二試合が終わり、観戦こそしていなかったが拓哉は快勝していたようだ。
 そして第三、第四と終わり俺の出番である第六試合。
 エントリーカードを見ると、半田幸治(はんだ ゆきじ)という人が対戦相手だ。ちなみに年は俺の一つ上。
「よろしくお願いします」
 挨拶をし、デッキをシャッフルして手札七枚を引く。そしてたねポケモンを互いに伏せる。俺も相手もバトルポケモン一匹だけのようだ。
 続いてサイドカードを三枚伏せて先攻後攻を決める。じゃんけんの結果により先攻は俺がもらった。
 相手の最初のバトルポケモンはマニューラG80/80、こちらはいつもながらノコッチ60/60。
「俺のターン! アチャモ(60/60)をベンチに出し、アチャモに炎エネルギーをつける。ノコッチのワザ、へびどりによってカードを一枚引く」
 引いたカードはヒコザル。今は少しでも兵を増やすべきという場面なのでたねポケモンを引けたことは嬉しい。
「俺の番。カードをドローする。手札からスタジアム発動! ギンガ団のアジト!」
 周囲がゲームで見たようなギンガ団の───たぶんトバリビル───アジトに変貌する。一体どんなスタジアムカードだ。
「このカードがある限り、手札からポケモンを進化させるとそのポケモンにダメージカウンターを二つ乗せる」
 つまり普通に進化すると20ダメージ。進化がメインとなってる俺のデッキにはかなり手痛い。そして半田さんのデッキは恐らく進化を使わないデッキか。
「そしてスカタンクGをベンチに出してポケパワー発動。ポイズンストラクチャー!」
 スカタンクG80/80が体から紫色の霧を出し、各々のバトルポケモンのマニューラG、ノコッチがその霧に包まれてしまう。
「このポケパワーはスタジアムが場にある時、互いのバトルポケモンを毒にする!」
 霧が晴れると毒に冒され苦しそうなノコッチと、同じく苦しそうなマニューラGが……。ってあれ?
 毒を受けて苦しそうなノコッチに対し、マニューラGは元気そうだ。
「ポイズンストラクチャーはSPポケモンには効果がない。SPポケモンであるマニューラGは毒にならない!」
 半田さんのポケモンはSPポケモンだ。つまり、一方的にこちらが毒になるというコンボになってる。
「スカタンクGに超エネルギーをつけてマニューラGで攻撃。仲間を呼ぶ!」
 マニューラGは半田さんを方を見て、おいでおいでと腕を振る。
「山札のSPポケモンを二枚まで選び、ベンチに出す。ドンカラスG(80/80)とドグロッグG(90/90)をベンチに出してポケモンチェックに移行。ノコッチには毒のダメージを受けてもらう!」
 ノコッチにダメージカウンターが一つ乗る。残りHPが60から50/60に。これがじわじわ続くのが厄介だ。
「俺のターン、ドロー!」
 アチャモをワカシャモに進化させるとギンガ団のアジトの効果により20ダメージを受けてしまう。しかし手札のキズぐすりを使うとワカシャモから20ダメージを取り除くことができる。よし、行ける!
「ヒコザル(40/40)をベンチに出してアチャモをワカシャモに進化させる」
「ポケモンを進化させたことにより、ギンガ団のアジトの効果発動!」
 進化したばかりのワカシャモ80/80の周囲に電気を帯びた棒が現われ、ワカシャモに放電する。20ダメージを受け、残りHPが60/80に。
「ワカシャモに炎エネルギーをつけてポケモンいれかえ発動。ノコッチとワカシャモを入れ替える」
 ノコッチがベンチに引っこみ、ワカシャモをバトル場に出す。ベンチに戻ったことでノコッチの毒は回復する。
「手札からキズぐすりを使い、ワカシャモのHPを20回復させる。そしてワカシャモで攻撃、火を吹く! この技は基本値の20に加え、コイントスをしてオモテなら20ダメージ追加する」
 コイントスはウラ。つまり20ダメージだけだ。ワカシャモ80/80がマニューラGに火を吹きかける。攻撃を受けてふらふらになったマニューラGのHPは60/80。
「ターンエンド! 勝負はこれからだ!」



翔「今日のキーカードはスカタンクG!
  場にスタジアムを出してポイズンストラクチャー!
  しかしSPポケモンには効果がないぞ!」

スカタンクG[ギンガ]Lv.46 HP80 超 (DPt1)
ポケパワー ポイズンストラクチャー
 場に自分の「スタジアム」があるなら、自分の番に1回使える。おたがいのバトルポケモン全員(SPポケモンはのぞく)を、それぞれどくにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
無無 えんまく  20
 次の相手の番、このワザを受けた相手は、ワザを使うときコインを1回投げ、ウラならそのワザは失敗。
弱点 闘×2 抵抗力 ─ にげる 2


  [No.318] 17話 ギンガ団の脅威! 発動、エナジーゲイン! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/04/27(Wed) 16:45:57   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 風見杯の本戦一回戦。俺と半田さんの戦いはまだまだ序盤だ。
 俺のバトル場には炎エネルギーが二つ付いたワカシャモ80/80、ベンチにノコッチ50/60、ヒコザル40/40。
 半田さんのバトル場にはマニューラG60/80。ベンチには超エネルギーが一つついたスカタンクG80/80、ドクロッグG90/90、ドンカラスG80/80。サイドはどちらも三枚ずつだ。
「俺のターン。手札のトレーナーカードを発動。ギンガ団の発明G−105 ポケターン! このカードは自分のSPポケモンとそれについているカードを手札に戻す効果を持つ。マニューラGを手札に戻す!」
 フィールドのマニューラG60/80が黒い光の球となり、半田さんの手札へ飛んでいく。
 一見無意味に思える行為だが、そうではない。手札に戻すという行為は自分のポケモンのダメージを全て回復させることと同値だ。
 エネルギーも戻ってきてしまうビハインドがあるが、それでも普通、ダメージを全回復なんてなかなかない。そして新手をバトル場に出す役目も果たす。
「新しいバトルポケモンはドクロッグGを選択」
 ドクロッグG90/90がかったるそうにバトル場へやってきた。
「続いてポケモンのどうぐ、ギンガ団の発明G−101 エナジーゲインをドクロッグGにつける。このカードはSPポケモン専用の道具だ」
 ドクロッグGが左腕を掲げると、ギンガ団のマークがかかれた腕時計のようなものが装着される。
「このカードをつけているポケモンのワザエネルギーはそれぞれ無色エネルギー一個ぶんずつ少なくなる。ドクロッグGの技、ディープポイズンは超と無色エネルギーが必要だがエナジーゲインの効果により、超エネルギー一つだけでディープポイズンが使えるようになった。そしてスカタンクGのポケパワー発動。ポイズンストラクチャー!」
 またもやスカタンクGが紫色の霧を出す。ワカシャモだけが影響を受け、苦しそうにしている。
「ポイズンストラクチャーは場にスタジアムがあるとき発動できるポケパワー。SPポケモン以外の互いのバトルポケモンを毒にするためドクロッグGが影響を受けない。ドクロッグに超エネルギーをつけて攻撃。ディープポイズン!」
 ドクロッグGがあっという間にワカシャモに近づく。そしてとがったツメでワカシャモに一突き。ワカシャモは空に舞うとドサッと力なく倒れる。
「ディープポイズンは相手が毒状態だと40ダメージを追加するワザだ」
 もともと与えるダメージが20なので60ダメージ。高火力のダメージを受けてワカシャモの残りHPは20/80。毒のダメージを受け、俺の番が始まったころには残りHPが10となる。
 しかし手札にはこのピンチを打開してくれるカードがない。
「ターンエンド。そしてポケモンチェックにより、ワカシャモは毒のダメージとしてダメージカウンターを一つ乗せる」
「俺のターン!」
 デッキの一番上のカードを掴む。なんでもいい、この状況を打開してくれるカードをっ……!
「っしゃ来たぜ!」
 俺の無邪気な笑みに、半田さんは面食らう。
「何を引いたかしらないが、ドクロッグGにはきけんよちというポケボディーがある。このポケボディーによって相手のワザの効果を受けないぞ」
「手札からサポーターカード、ミズキの検索を発動。俺は手札のカードを一枚山札に戻す代わりに山札からバシャーモを手札に加える!」
「なっ……!」
 訪れた好転にふっと笑みがこぼれる。
「そう。進化したら毒は回復、さらに最大HPも上昇する。俺はワカシャモをバシャーモに進化させる!」
 ワカシャモはさらに大きく成長し、バシャーモ60/130へと姿を変えた。
「だがスタジアム、ギンガ団のアジトの効果発動。進化したポケモンにダメージカウンターを2つ乗せる!」
「くっ!」
 再び電撃がバシャーモ40/130に襲う。残りHPがこれだけじゃ、安心なんて到底出来ない。
 しかし攻めれるときには攻めていきましょうか!
「バシャーモのポケパワー発動。バーニングブレス! この効果により相手のバトルポケモンを火傷にする!」
 バシャーモは火炎放射に似た炎の息をドクロッグGに吹きつけようとした。まさにその時だ。
「この瞬間、手札のトレーナーカード。ギンガ団の発明G−103 パワースプレーをバシャーモを対象に発動!」
「俺の番なのにトレーナーカードだって?」
 通常、ポケモンカードは他のカードゲームとは違い、自分の番には自分しか動けず、相手の番には相手しか動けないものだ。だがこのカードはどうやら相手の番に使える相当貴重なカードだ。
「このカードは自分の場にSPポケモンが二匹以上いないと発動できないカードだが、俺の場にはドクロッグG、スカタンクG、ドンカラスGの三匹がいるため発動できる。そして相手の番に発動する珍しいカードだ。その効果は、相手のポケパワーを無効にする!」
 バシャーモの目の前に謎の黒い機械が現れた。その機械の上部にとりつけられたレーザーがバシャーモのバーニングブレスを妨げる。これじゃあドクロッグGを火傷には出来ない。
「だったら炎エネルギーをバシャーモにつけて攻撃だ! 炎の渦!」
 このワザはバシャーモにつけていたエネルギー二枚をトラッシュへと置かないといけないワザだが威力は強力だ。バシャーモはドクロッグGを中心に炎の渦を作りだすと、そのままじわじわと炙っていく。100ダメージの威力を持つこのワザで、ドクロッグG0/90は一発KOだ。
「次はドンカラスGだ」
「サイドを引いて俺の番は終了」
 サイドが一枚少ない俺が優勢。……のように思えるかもしれないがそうでもない。気絶寸前のバシャーモ40/130とノコッチ50/60。そして全く育ってないヒコザル40/40。しかし半田さんの場には無傷のドンカラスG80/80とスカタンクG80/80、さらに手札にはマニューラGもいる。
「俺のターン!」
 半田さんが山札からカードを引く。
「俺はポケモンの道具、エナジーゲインと悪の基本エネルギードンカラスにつける」
 またエナジーゲインか。今度はドンカラスGの首に装着された。このエナジーゲインはワザまでの時間が一ターン分短くなるのが非常に恐ろしい。本来エネルギーが二つ必要なドンカラスGのワザ、「傷を狙う」がこれで発動できる。
「マニューラG(80/80)を再びベンチに出してスカタンクGのポケパワー、ポイズンストラクチャーを発動」
 もう見飽きたこのポケパワーだ。これでバシャーモがまたしても一方的に毒になる。しかしドンカラスGで結局バシャーモを倒せるんだし何のメリットが……。
「さらに手札のクロバットGをベンチに出す。そしてこの瞬間にポケパワーのフラッシュバイツが発動。このポケモンを手札からベンチに出した時、相手のポケモン一匹にダメージカウンターを一つ乗せる!」
「なっ!」
 バシャーモを避けてノコッチの元まで飛んできたクロバットG80/80は、ノコッチの背中にがぶりと一噛み。これでノコッチのHPは40/60。俺の場の全てのポケモンのHPが40にまで落ちてしまう。
「ドンカラスGで攻撃。きずをねらう!」
 ドンカラスGが黒い翼で羽ばたくと、バシャーモを……。ではなくてノコッチの上方へとやってきた。
「きずをねらうは相手のポケモンに20ダメージを与える技。しかしそれはバトルポケモンでなくてもいい。そしてワザを受けるポケモンにダメージカウンターが乗ってると20ダメージを追加する!」
 ドンカラスGが翼でノコッチ40/60を撥ねるように攻撃する。真上に吹き飛ばされたノコッチはそのまま力を失くして倒れ伏す。
「サイドを引いてターンエンド。そしてポケモンチェックで毒状態のバシャーモに10ダメージだ」
 バシャーモが苦しそうに動く。残りHPは30/130、後は無い。余裕の表情の半田さんに対して苦い顔をする俺。だがこんなところで負けるわけにはいかない!
「俺のターンだ!」
 山札の一番上のカードを力強く引いた。
「ドロー!」



翔「今日のキーカードはギンガ団の発明G−101 エナジーゲイン!
  SPポケモンにしかつけられないカードだが、SPポケモンのワザに必要な無色エネルギーを一つ減らせるカードだ!
  一気にガンガン攻撃しよう!」

ギンガ団の発明G−101 エナジーゲイン ポケモンのどうぐ (DPt1)
 このカードをつけているポケモンのワザエネルギーは、それぞれ無色エネルギー1個ぶんずつ少なくなる。
 ポケモンのどうぐは、自分のポケモンにつけて使う。すでにポケモンのどうぐをつけているポケモンには、つけられない。
 このカードは、SPポケモンにしかつけられない。SPポケモンについていないなら、このカードをトラッシュ。


  [No.387] 18話 運命のコイントス 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/05/04(Wed) 19:57:31   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ドロー!」
 互いのサイドは二枚。しかし半田さんの場にはエナジーゲイン、悪エネルギーのついているドンカラス80/80、ベンチにクロバットG80/80、マニューラG80/80、超エネルギーが一枚ついたスカタンクG80/80。
 俺の場には炎エネルギー一枚ついたバシャーモ30/130、ベンチにヒコザル40/40だけと場を見るとどちらが有利かは火を見るより明らかだ。
 そして回ってきた俺の番。引いたカードはオーキド博士の訪問だった。山札からカードを三枚引いて、その後手札から一枚デッキの下に置くカードだ。手札補充をしよう。新たに引く三枚に賭けるんだ。
「サポーター、オーキド博士の訪問を発動!」
 オーキド博士の訪問で引いたのは不思議なアメ、炎エネルギー、ゴウカザル。
 半田さんはドンカラスGでベンチのヒコザルをきずをねらうで攻撃すればダメージカウンターのないヒコザルには最初に20ダメージ、次のターンはすでにヒコザルにはダメージカウンターが乗ってるため40ダメージ。HPが40しかないから気絶。残りHPが30のバシャーモは毒で倒れ、サイドを二枚引く算段なのだろう。
 俺の手札にはあらかじめモウカザルがあったがスタジアムのギンガ団のアジトのせいで進化するとダメージを受けてしまい、ドンカラスGによるワザのダメージが増えるためため迂闊に進化できなかった。しかしヒコザルからゴウカザルへと一気に進化できるならHPも一気に増えるため問題ない。
 オーキド博士の訪問の効果で戻すカードはモウカザルにした。
「不思議なアメを発動。ヒコザルをゴウカザルに進化させる!」
 ヒコザルの足元から光の柱が現われ、それが消えた頃にはゴウカザル110/110へと姿を変えていた。
「進化させたためダメージカウンターを二つ乗せてもらう」
「それくらいは構わないさ。バシャーモのポケパワー、バーニングブレスを今度こそ喰らってもらうぜ!」
 バシャーモが炎の息をドンカラスGへ吹きかける。ドンカラスGは羽を動かして必死に抵抗している。リアルな演出だ。
「バシャーモの炎エネルギーをトラッシュしてベンチのゴウカザルと入れ替える。ゴウカザルに炎エネルギーをつけてワザを使うぜ。ファイアーラッシュ!」
 ベンチに逃げたことでバシャーモの毒は回復した。ゴウカザル90/110がドンカラスG80/80へと四足歩行で駆けて行く。
「自分の場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュして、トラッシュしたエネルギーの枚数だけコイントスをする。そしてオモテならオモテの数かける80ダメージを相手に与える。俺の場にはゴウカザルにつけている炎エネルギー一枚しかない。それをトラッシュしてコイントスだ!」
 モニター手前のコイントスボタンを押す。オモテが出ると一気に情勢が変わる。来いっ、オモテが出てくれっ!
 が、そうはいかず無情にもウラと表示された。それに対応してゴウカザルの攻撃はドンカラスGに当たらず。
「ふぅ」
 半田さんは外れたことに安堵しているようで、一瞬緊張が入った表情も元通りに戻っていく。
「だけどポケモンチェックで火傷の判定をしてもらうぜ」
 火傷は毒と違い、ポケモンチェック毎コイントスが必要である。オモテならダメージはないがウラなら20ダメージだ。
 半田さんがコイントスをした結果オモテとなりダメージはまだ0。
「俺のターン。ギンガ団の賭けを発動。互いに手札を全て山札に加えシャッフルだ」
 ここで手札リセット。タイミングが微妙なので俺の頭にはクエスチョンマークが一つ。
「そしてじゃんけんをしてもらう。勝ったら山札から六枚、負けたら三枚引くのさ」
 確実な一手を踏んできた半田さんが急にギャンブルカードを使うことにまたクエスチョンマークが増える。しかしここは迷うところではないだろう。じゃんけんに勝って確実に手札が増やしたい。
「よし、そうとなったら! 最初はグー、じゃんけんほい!」
 ……。勢いだけではどうにかならず、じゃんけんでも負けてしまったか。
「俺が勝ったから六枚引かせてもらうよ。そしてスカタンクGに超エネルギーをつけてポケパワー発動、ポイズンストラクチャー!」
 スタジアムが場にあるとSPポケモン以外のバトルポケモンを毒にするポケパワーが発動し、ゴウカザルは毒に冒される。
「ドンカラスGの攻撃、きずをねらう。バシャーモに攻撃だ!」
 ドンカラスGは飛び立つとベンチにいるバシャーモ30/130を襲う。バシャーモにはダメージカウンターが乗っているため受けるダメージは40。この一撃でバシャーモはHPが0になったのでこれで戦闘不能となってしまった。
「サイドを引かしてもらう。俺の番は終わりだが、ゴウカザルは毒のダメージを受ける」
 110あったHPがもう80/110まで減っていく。じわりじわりと減っていくHPは、まるで残り僅かの砂時計。なんとかタイムリミットまでに勝ちきらねば。
「だがそっちも火傷判定をしてもらう!」
 威勢よく言ったのはいいが、またしても半田さんはオモテを出す。運を味方にしすぎである。しかしここで火傷の20ダメージの有無はどうでもいい。
「俺のターン! ゴウカザルに炎エネルギーをつけて攻撃。ファイアーラッシュ!」
 今つけたばかりの炎エネルギーをトラッシュ。そして今度こそ決まってくれ! と強く念じてコイントスボタンを押す。……願いは通じたのかオモテだ!
「っしゃあ! 行っけえ!」
 ゴウカザルは大きな火球をドンカラスGへぶつける。盛大な爆発のエフェクトと共に吹き飛ばされたドンカラスGのHPをたった一撃で削りきる大技は綺麗に決まった。
「サイドを引いてターンエンド! 追いついたぜ」
「次の俺のバトルポケモンはスカタンクGだ。そしてポケモンチェックが来たのでゴウカザルには再び毒のダメージを受けてもらう」
 じわじわと痛みつけられるゴウカザル70/110。そろそろHP半分を切ってしまう。
「俺のターン、スカタンクGに超エネルギーをつけて攻撃だ! 煙幕!」
 スカタンクGが灰色の煙……って普通の煙だな。目くらましで使うような煙幕を発する。ゴウカザル50/110のHPは更に削られていく。
「ゴウカザルに20ダメージだ。そして次のターン、ゴウカザルはワザを使う時にコイントスをしなくてはならない。そのコイントスがウラだとワザが使えなくなる。俺の番が終わると共に毒のダメージを受けてもらおう」
 もう残りHPは40/110。次にワザを外すか倒しきれなかったとしたら俺の番の終わりのポケモンチェックで毒の10ダメージ、そして半田さんの攻撃で20ダメージ、そして半田さんの番の終わりのポケモンチェックでさらに10ダメージ。これでゴウカザルは気絶してしまう。サイドが残り一枚の半田さんはこれで勝利だ。
「くっ、俺のターン!」
 引いたカードは炎エネルギー。毒をなんとかするカードでなければ種ポケモンでもない。こうなったらこのゴウカザルで勝つしかないか。
「炎エネルギーをゴウカザルにつけて攻撃だ!」
 つけた炎エネルギーをすぐにトラッシュする。もはやつけた気がしないが……。
「まずは煙幕の効果の判定だ」
 コイントスボタンを押す。ウラが出た時点で詰み、負けだ。
「オモテだ! 続いてファイアーラッシュの判定!」
 ここでオモテを決めれば勝ち、ウラが出れば負け。こんなところで負けるとまた俺は姉さんに頼ることになる。もう高校一年生、いや。あと何ヶ月かで高校二年生だ。なのにまだ姉さんの脚を引っ張ってしまうのか。それだけは嫌だ。
 俺はまだ、負けられない!
「俺はまだまだ勝ち続けるんだ!」
 叫び声が響くと同時にモニターに文字が映る。
「オモテか? ウラか!?」
 半田さんも釣られて叫ぶ。モニターにはオモテと表示されていた。
「おっしゃあああ! 喰らえ!」
 ゴウカザルが右手にもった火球をスカタンクGに力いっぱいぶん投げる。派手な爆発のエフェクトの後、スカタンクGは力なく倒れる。最後のサイドカードを引くと試合終了のブザーが鳴る。



「ありがとうございました」
 挨拶を終え、熱戦をした相手と握手をする。
「最後までドキドキハラハラで怖かったよ。でも楽しかった。また機会があれば」
 半田さんは悔しさの一切ない笑顔を浮かべる。清々しい対戦だったのは俺も同じだ。半田さんの言葉に俺は黙ってうなずく。
「頑張れよ」
 去っていく半田さんは右手拳を俺に向かって突き出す。それに返すように、半田さんの拳に俺の拳をぶつけた。



翔「今日のキーカードはゴウカザル!
  エネルギーをトラッシュすると80ダメージ!
  ただしコイントスはしっかりとな!

ゴウカザルLv.44 HP110 炎 (EPDPt)
炎 ファイアーラッシュ  80×
 自分の場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュし、トラッシュしたエネルギーの枚数ぶんコインを投げ、オモテ×80ダメージ。
無無 いかり  30+
 自分のダメージカウンター×10ダメージを追加。
弱点 水+30 抵抗力 ─ にげる 0


───
半田幸治の使用デッキ
「ギンガ団の脅威」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-639.html


  [No.428] 19話 竜VS草&水VS鋼 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/05/11(Wed) 16:51:59   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 俺の後には唯が戦った。相手はたねポケモンが上手く引けず、相変わらずと言うかなんというか1キル(1ターンキル。一ターンで勝つこと)で勝負を決した。
 そして別ブロックの試合が始まる。いきなり風見VS長谷部さん。それと姉さんの対戦だ。どちらも見逃せまい。
 俺の隣にいる恭介は必至に長谷部さんの方を凝視している。彼女の対戦なんだし、気になる気持ちは分かるな。
 そして試合が始まった。風見対長谷部さんは風見が先攻。姉さんと、えーと。向井って人との対戦は向井が先攻らしい。
 元来の大会ならテーブル一つあれば対戦が簡単に出来るからこの大会のように二試合ずつとか十六試合ずつとかではなく、同時にほぼ全員が戦うのでこうして誰かの試合を観る余裕なんてない。なのに今回はスペース上戦える場所が限られているので試合が出来ない人が出て来て、観戦の余裕がある。
 とはいえ待ってる人もデッキ調整をしていたりとして自分のことに必死で、他の人を真剣に応援してる人も少ない。折角の機会だし、ここは応援しよう。



「先攻は俺からだ」
 相手は長岡(恭介の苗字)の彼女とだったか。手合わせするのは今回が最初だ。相手のバトル場にはフシギダネ60/60。そしてベンチにはモンジャラ70/70。
 その一方俺のバトルポケモンはタツベイ50/50。ベンチには同じタツベイ50/50ともう一匹、フカマル50/50。
 俺の場のポケモンのHPはどれも貧弱な部類だが、相手のポケモンを見る限りいきなりやられるということはないだろう。しかし早く進化しないと後々辛い展開になることがあるかもしれない。
「手札の炎エネルギーをバトル場のタツベイにつけて攻撃。こわいかお。コイントスをしてオモテなら相手は次の番ワザも使えず逃げられなくなる」
 コイントスのボタンを押す。瞬時にオモテウラの判断がつくのも、あまりに味気なく面白くないということで二秒程度してから結果が表示されるように作られている。この緊張感がたまらないと言う人もいるはずだ。
「ウラか……。終わりだ」
「私のターン! 不思議なアメを使ってフシギダネをフシギバナに進化させます」
 早い、あっという間に二進化ポケモンが出るとは。フシギダネは光の柱に覆われフシギバナ140/140へと姿を変える。HPも見るからに、かなり大型ポケモンの登場だ。
「そしてスタジアム。夜明けのスタジアムを出します」
 周囲が平原へ変わり、東と思わしき方向から太陽が現れる。まだ僅かに薄暗いところが雰囲気を醸し出している。
「えっと、このスタジアムは自分の草または水ポケモンに手札からエネルギーをつけるたびにダメージカウンターを一個とって状態異常を全て回復させる効果です」
 たったダメージカウンター一つと言えど、されど一つ。侮れない。僅差というものが勝負には非常に大きい存在となり、壁となる。相手は草タイプ主軸のデッキだろう、ほとんど毎ターンHPを回復されるというわけだ。状態異常も回復されるのだがフシギバナのポケボディー、アロマグリーンによって草タイプはそもそも状態異常にならない。
「フシギバナに草エネルギーをつけて攻撃! どたばた花粉!」
 草エネルギーひとつで30ダメージのワザだ。あっという間にタツベイの残りHPが20/50。ただ幸いなのはフシギバナに乗っているダメージカウンターが一つもないということだ。
 どたばた花粉はフシギバナにダメージカウンターが八個以上のっていると相手を毒と火傷と混乱にする効果を持っている。これで火傷になっていて、ポケモンチェックでウラを出していればタツベイは俺の番が回るまでに気絶している。
 予選は俺を楽しませる勝負が少なかった、この本戦ではなんとか満足できそうだ。



「僕のターン」
 あたしのバトル場にはノコッチ60/60。ベンチにはワニノコ50/50。翔がよくやることと同じように、あたしもノコッチでまずは戦闘準備を整える。ノコッチのドロー効果で序盤は体勢を整え、中盤以降から一気に攻める。このデッキの定番パターンを、この対戦でもするつもりだ。
「僕は手札の鋼の特殊エネルギーをつけてダンバルのポケパワー発動。メタルチェイン!」
 一方相手のバトル場はダンバル50/50、ベンチはコイル50/50。水タイプをメインとするあたしのデッキにとって、コイルが雷タイプではなく鋼タイプであることが救いとなっている。
「自分の番に一回、手札から鋼エネルギーをダンバルにつけたときに発動できる。自分の山札のダンバルをベンチに呼び出す!」
 ダンバルの体からジジジとやや不快な重苦しい電磁音が鳴り、開いているベンチスペースに新しいダンバル50/50が現れる。
「これで僕の番は終わりです」
 ダンバルの持つワザの突進はエネルギーが二つ必要なワザ。まだダンバルにはエネルギーが一枚しかついていないためワザ使えない。
「あたしの番ね、ドロー」
 引いたカードはアリゲイツ80/80。まずはベンチのワニノコを早速育てよう。
「手札から不思議なアメを発動し、ワニノコをアリゲイツに進化させる。そしてアリゲイツのポケパワー発動。進化で元気! 手札からアリゲイツを進化させたときに自分の山札を上から五枚見て、その中のエネルギーを手札に加える。残りのカードは山札に加えシャッフル!」
 上から五枚を確認すると順に水エネルギー、オーキド博士の訪問、ブイゼル、ワニノコ、水エネルギー。そのうち水エネルギー二枚を相手に見せてから手札に加える。
「そしてノコッチのワザ、へびどりを発動。カードを一枚引いて終わりよ」
 場外にいるギャラリーをちらと横目で見る。予選は皆それぞれ自分のことに必死になっていたが、この本戦トーナメントはそうではない。帰ったものは帰ったが、残ったものは残ったもので試合を観ている者もいる。そしてあたしは観られている。それがいつもとは違う緊張感が漂わせる。
 ギャラリーを見渡しているとこちらを見ていた翔と目が合う。長年いた姉弟だからアイコンタクトでわかる。頑張れ! と応援してくれているのが。
 もちろんここで勝って、あたしも優勝をもらうつもりよ。そのためには絶対に負けられないんだから。



翔「今日のキーカードはフシギバナ!
  どたばたかふんとスペシャルリアクトのコンボは最強!
  相手はたちまち状態異常地獄だ!

フシギバナLv.55 HP140 草 (DPt3)
ポケボディー アロマグリーン
 自分の場の草ポケモン全員は特殊状態にならず、受けている状態異常はすべて回復する。
草 どたばたかふん  30
 自分にダメージカウンターが8個以上のっているなら、相手をどくとやけどとこんらんにする。
草草無無 スペシャルリアクト  40+
 相手が受けている特殊状態の数×40ダメージを追加。
弱点 炎+40 抵抗力 ─ にげる 4


  [No.451] 20話 刺激する細胞 バトルドーパミン! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/05/18(Wed) 16:55:23   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「俺のターン!」
 今の俺のバトル場には炎エネルギーがついたタツベイ20/50、ベンチにはタツベイ50/50とフカマル60/60。
 相手の長谷部百合のバトル場には草エネルギーがついたフシギバナ140/140にベンチにモンジャラ70/70。スタジアムカードに夜明けのスタジアム、サイドはどちらも三枚ずつ。
 そしてこの番の始まりに引いたカードは不思議なアメ。これによって今の手札はコモルー、ガバイト、水エネルギー、ボーマンダ、不思議なアメの五枚となった。
 不思議なアメを使わずバトル場のタツベイをコモルーにするのもいいが、コモルー程度でフシギバナに耐えれるか、と考えると不安になる。
 やはりここは多少強引だが不思議なアメを使って力押ししよう。
「不思議なアメを使いバトル場のタツベイをボーマンダに進化させる!」
 タツベイの足元から光の柱が現われ、背中に翼が生えて体が大きくなり、雄々しいボーマンダ110/140が姿を現す。
「ボーマンダのポケボディー。バトルドーパミンの効果により、相手の場に最大HPが120以上のポケモンがいるならこのポケモンのワザに必要な無色エネルギーは全て無くなる」
「そんなっ!」
「そして俺はボーマンダに水エネルギーをつける」
 通常はエネルギーが炎水無無の合計四枚で発動できる蒸気の渦。しかしバトルドーパミンの効果でそれが炎水の二枚だけになる。相手に依存してしまうが、効果さえ発揮してしまえば非常に心強いポケボディーである。
「そしてベンチのタツベイとフカマルをそれぞれコモルー(90/90)とガバイト(80/80)にそれぞれ進化させてボーマンダで攻撃。蒸気の渦!」
 このワザは威力120と一級の威力を誇る大技だが、炎と水エネルギーの二枚をトラッシュしないと使えない。ボーマンダにつけているカードをトラッシュすると、ボーマンダが大きく開いた口から可視の白い渦がフシギバナ20/140に襲い掛かる。
 手札は尽きたが相当のダメージだ、満足出来るだけ暴れさせてもらった。
「私の番ね。トレーナーカード、ゴージャスボールを使います。効果でデッキからLV.X以外のポケモンを山札から手札に加えます」
 一見万能なサーチカードに見えるこのゴージャスボールの弱点は、トラッシュにゴージャスボールがあると発動できないということ。つまり基本的には二枚目以降は使用できない。
「私はモジャンボ(110/110)を手札に加えてモンジャラを進化させます。そしてモジャンボに草エネルギーをつけてフシギバナの攻撃ね。どたばた花粉!」
 フシギバナが背中の花を大きく揺らす。先ほど俺のポケモンを襲ったのは黄色い花粉だけだったが、今回は赤に紫に白と色とりどりの花粉がボーマンダに降りかかる。
「フシギバナが80以上のダメージを喰らっていた時にこのワザを使うと、相手を毒と火傷と混乱にする!」
 攻撃を受けたボーマンダ80/140は、残りHPから比べると特殊状態のせいかやけに満身創痍に見える。
「私の番は終わりだけどここでポケモンチェックね。まずは毒の10ダメージ。続いて火傷判定よ」
 火傷は毎ポケモンチェックのときにコイントスをし、ウラなら20ダメージを受けてしまう特殊状態。オモテが出ればダメージは回避できるのだが。
「……ウラだ」
 ボーマンダ50/140のにげるエネルギーは三つもある。逃げて特殊状態回復などという手段を取るのはエネルギーのロスを考えると厳しい。素直に諦めるべきだろう。
「俺のターン。サポーター、デンジの哲学を発動させてもらう。手札が六枚になるまで山札からカードを引く。俺の今の手札は0なので六枚ドローだ」
 手札の補給から今後の動きを立て直さなければならない。フシギバナ20/140のどたばた花粉が厄介過ぎる。まずはこいつからなんとかしないと。
「ベンチのガバイトをガブリアス(130/130)に進化させる。そしてボーマンダに炎エネルギーをつけて攻撃する」
 と言いたいのだがボーマンダは混乱状態である。混乱は攻撃するときにコイントスをして、オモテだと攻撃は通常通り可能なのだがウラの場合は攻撃ができず自身に30ダメージを与える状態異常。
 ここでコイントスを外すと返しのターンでボーマンダは間違いなく倒されてしまう。フシギバナを手早く倒すためにはここが分岐点だ。
「混乱の判定をする。……オモテだ。よし、フシギバナに火炎攻撃!」
 ボーマンダが口からその体長と同じ程の大きさの火球を吐きフシギバナにぶつける。このワザの威力は50。残りHPが20/140だったフシギバナは戦闘不能だ。
「わたしはモジャンボ(110/110)をバトル場に出します」
「サイドを引いてターンエンドだ。ポケモンチェックでボーマンダは毒の10ダメージ。続いて火傷の判定だ」
 今度もウラ。このポケモンチェックで計30のダメージを受けてボーマンダの残りはHP20/140。相手の番にボーマンダは気絶させられるか。しかし今引いたサイドは……。
「私のターンね。モジャンボに草エネルギーをつけてレベルアップさせますわ」
 モジャンボLV.X130/130はその長い両腕を突きあげて叫びを上げる。なんという迫力だ。エースカードはフシギバナではなくこのモジャンボLV.Xか。
「モジャンボLV.Xに草エネルギーをつけてワザ、大成長!」
「なっ、ここで大成長だと!?」
「大成長は自分のトラッシュの草エネルギーを好きなだけ選び自分のポケモンにつけるカード。私のトラッシュには草エネルギーが一枚だけなのでモジャンボLV.Xにつける。そして私の番は終わりね」
 舐めているのか。モジャンボの攻撃でボーマンダを倒せるはず。なのにどうせわざわざ倒せなくてもその程度と高をくくっているのか。もし俺のボーマンダが次のポケモンチェックで火傷のコイントスがオモテならば場に残り続けるというのにだ。
「ポケモンチェックだ。毒のダメージを乗せる。火傷判定だ!」
 荒々しくコイントスのボタンを押す。念を押して言うが残りHPが10/140のボーマンダはここで火傷のダメージを受けると気絶する。
 その判定の結果はウラ、ボーマンダは力なく体を横にして倒れる。くっ、これじゃあ相手の理想の展開じゃないか。
「ボーマンダが気絶したのでサイドを引きますわ」
 上品な微笑みの浮かぶ長谷部百合。だが、俺はやや下品な笑みを浮かべてベンチのガブリアス130/130のカードをバトル場に移動させる。
 そうだ、これくらいやってもらわなくては面白くない。いいぞ、その調子で俺にぶつかって来い!
「俺の二番手はガブリアスだ!」



 向井の番が始まる。互いにサイドは三枚で、あたしのバトル場にはノコッチ60/60。ベンチにはアリゲイツ80/80。
 相手のバトル場には特殊鋼が一枚ついたダンバル50/50。ベンチにもダンバル50/50と、コイル50/50。鋼タイプ、あまり数が多くないだけにやや珍しい相手の部類に入る。
「バトル場のダンバルをメタング(80/80)に、ベンチのコイルをレアコイル(80/80)にそれぞれ進化させます。そして僕はメタングに鋼エネルギーをつけて攻撃。高速移動!」
 気付くと先ほどまで向井の場にいたメタングがいつの間にやらあたしのノコッチに突撃していた。あたしが見たのは突撃を喰らって宙に舞うノコッチ40/60だけだった。ワザの威力自身はたったの20、何か効果があるのか。
「そして高速移動の効果により僕はコイントス。オモテなら次の相手の番、ワザのダメージや効果を受けなくなる。……、オモテだ」
 これで次のあたしの番、あたしはメタングにダメージを与えられない。……が、与えるつもりなどハナからなかった。どうせノコッチでカードを引くだけだ。
「あたしのターン、ドロー。ブイゼル(60/60)をベンチに出し、アリゲイツに水エネルギーをつけてノコッチのワザ、へびどりを発動。カードを一枚引いてあたしの番は終わりね」
「僕の番だ」
 カードを引いた向井の顔がしかめっ面になっている。いいカードは引けなかったのかな。
「僕はスタジアムカード、帯電鉱脈を発動。……ウラか。それじゃあ手札からメタングに鋼エネルギーをつける。そしてメタルクローで攻撃!」
 辺りが電気を帯びた殺風景な鉱脈に変わる。この帯電鉱脈の効果は確か互いのプレイヤーはそれぞれの番にコイントスが一回でき、オモテならトラッシュの雷か鋼エネルギーを手札に戻せるというカードだ。
 メタングがノコッチに対し、硬化させた大きな右腕の爪でノコッチに激しい一撃を与える。メタルクローの威力は50、残りHPが40/60だったノコッチのHPはこれで0、ね。
「サイドを引いて僕の番終わりです」
 カードを引いた時の表情は、今度は笑っていた。どうやら欲しいカードはサイドにあったみたいね。
「あたしの次のポケモンはアリゲイツよ。あたしのターン!」
 来た! このカードで、ようやく反撃の機会が。
「アリゲイツをオーダイルに進化させるわ!」
 バトル場のアリゲイツが口から放たれる大量の水。それはまるでカーテンのように己の身を包みこみ、シルエットは段々大きくなっていく。放水が止み噴水が解けるとそこにはオーダイル130/130の姿があった。
「そしてトレーナーズカード、スーパーボールを発動。この効果で山札のたねポケモンをベンチに出すわ。あたしはワニノコを選択し、ベンチに出す」
 ベンチの開きスペースに現れたスーパーボールが開き、ワニノコ50/50が軽快な鳴き声とともに颯爽と登場する。
「オーダイルに水エネルギーをつけてメタングに攻撃。破壊のしっぽ!」
 オーダイルはその長い尻尾を振りまわし、ボールを蹴るようにメタングを弾き飛ばす。
「メタングについている鋼の特殊エネルギーは、鋼タイプのポケモンについていると相手のワザによるダメージを10減らす。よって破壊のしっぽのダメージは60だけど僕のメタングが受けるダメージは60引く10で50!」
 10減らされたとしてもメタング30/80のHPを半分以上削ったんだ、次の一撃が決まれば気絶させれる。さらに破壊のしっぽにはまだ効果がある。
「このワザの効果により相手の手札一枚をオモテを見ずにトラッシュする!」
 先程向井がサイドから引いたカードは一番右に入れられていたのをあたしはしっかりと見ていた。喜ぶようなカードなら、トラッシュに落として当然でしょう。
「あんたから見て一番左のカードをトラッシュしてもらうわ」
 向井は驚愕し、悔しそうにカードをトラッシュする。予想通り、良いカードを落とせたようだ。モニターを使って相手のトラッシュを確認すると。
「おっ、ついてるついてる」
 向井のトラッシュの一番上はメタグロスのカードだった。



翔「今日のキーカードはボーマンダだ。
  ポケボディーで相手が強いほど強くなる!
  蒸気の渦で決めてやれ!」

ボーマンダLv.66 HP140 無 (破空)
ポケボディー バトルドーパミン
 相手の場に最大HPが「120」以上のポケモンがいるなら、このポケモンのワザエネルギーのうち、無色エネルギーは、すべてなくなる。
炎無 かえん  50
炎水無無 じょうきのうず  120
 自分の炎エネルギーと水エネルギーを、それぞれ1個ずつトラッシュ。
弱点 無+30 抵抗力 闘−20 にげる 3


  [No.473] 21話 目指すもののために 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/05/25(Wed) 16:28:08   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 対戦相手の長谷部百合のバトル場には草エネルギーが三つついたモジャンボLV.X130/130。それに比べ、俺の場はエネルギーが一つもないガブリアス130/130、ベンチにはコモルー90/90
 長谷部の戦略はこうだろう。俺がポケモンを育てている間に攻撃する。もし攻撃を受けてもモジャンボにはポケボディーの再生緑素でポケモンチェックの度にHPを10回復。さらにモジャンボLV.Xのポケパワー、モジャヒールによって自分の番に一回コイントスをしてオモテならHPを40も回復できる。それに加えスタジアムの夜明けの疾走の効果により草エネルギーをつけると状態異常とHPが10回復する。
 たった一ターンにHPを60回復出来る。持久戦に持ち運ぶということだな。
「俺のターン!」
 加えたカードはガブリアスLV.X140/140。ここは迷わずレベルアップさせよう。
「俺は、ガブリアスに炎エネルギーをつけてレベルアップさせる! そしてガブリアスLV.Xのポケパワー発動。……と言いたいが、ガブリアスLV.Xのポケパワー、竜の波動は、レベルアップしたときに使えるがその効果は相手のベンチにダメージカウンターを乗せる効果。今、お前にはベンチポケモンがいないから使う意味がないので使わない。そしてガブリアスLV.Xのワザを使わせてもらおう。蘇生!」
 ベンチの空きスペースに白い穴が開く。その穴から這い上がるように、ボーマンダ140/140が再び現れる。
「蘇生の効果で俺のトラッシュのポケモン一体をたねポケモンとしてベンチに出す。戻ってこいボーマンダ! そして蘇生したポケモンにトラッシュの基本エネルギーを三枚までつけることができる。炎二枚と水一枚をつけ、ターンエンド」
 この蘇生は相手にダメージを与えるワザではないが、トラッシュにあるポケモンをエネルギー三枚つけた状態で呼び戻せる強力無比の大技だ。
「私の番、モジャンボLV.Xに草エネルギーをつけて攻撃。つるを伸ばす!」
 モジャンボLV.Xが大きな腕を鞭のように伸ばし、しならせてガブリアスLV.Xに攻撃する。が、それだけでは物足りないつるは、ベンチのコモルーとボーマンダにも被害を及ばす。
「つるを伸ばすは元々の威力60に加え、相手のベンチポケモン二体にも20ダメージを与えます」
 これでガブリアスLV.Xは残りHPは80/140、ボーマンダは120/140、コモルーは70/90。一度に計100のダメージか。
「俺のターンだ。手札からガブリアスLV.Xに水エネルギーをつけてベンチに逃がし、ボーマンダをバトル場に出す。ガブリアスに逃がすためのエネルギーは必要ない。そしてボーマンダのポケボディー、バトルドーパミンの効果。相手のモジャンボLV.Xの最大HPが120より大きい130なのでワザに必要な無色エネルギーは不要となる。さあ攻撃だ。蒸気の渦!」
 ボーマンダについている炎と水エネルギーをトラッシュすると、ボーマンダが口から可視の白い渦を巻き起こし、モジャンボLV.X10/130に120のダメージを叩きつける。
「で、でもこのポケモンチェックでモジャンボLV.Xのポケボディー、再生緑素が発動。モジャンボLV.XのHPを10回復させるわ。そして私のターン。カードを引いてモジャンボLV.Xに草エネルギーをつける」
 夜明けのスタジアムの効果は自分の草または水ポケモンに手札からエネルギーをつけたときに全ての特殊状態とHPを10回復する効果。再生緑素とこれを合わせてモジャンボLV.XのHPは30/130。よし、この程度なら次の番、ボーマンダで簡単に倒すことが出来る。
「ここで私はトレーナーカード、ポケヒーラー+を二枚発動。このカードは同じカードと二枚同時に使え、そのとき自分のバトルポケモンの状態異常を全て回復させ、ダメージカウンターを八個取り除きます!」
「八個だと!?」
 ここで一気に回復してHPは110/130まさかそこまでHPを盛り返してくるとは。
「そしてモジャンボLV.Xのポケパワー発動。モジャヒール! コイントスしてオモテなら、さらにダメージカウンターを四つ取り除くわ」
 そう言って彼女はコイントスボタンを押す。……がしかし幸いにもウラ、モジャヒールは失敗だ。それに加えこの番に相手は手札を全て使い切ってしまった。手札の供給手段はない、俗に言う詰みだ。
 彼女自身そう分かっているようで、バツの悪そうな顔をする。仕方ない、と一息ついてから最後のワザを宣言した。
「うーん、モジャンボLV.Xの攻撃、つるをのばす!」
 モジャンボLV.Xの攻撃がボーマンダとベンチのガブリアスとコモルーを襲う。……が、ダメだ。気絶には至らない。
「ポケモンチェックのとき、またポケボディー再生緑素でモジャンボLV.XのHPを10回復よ」
「行くぞ。まずはボーマンダに水エネルギーをつける。そしてトドメだ。ボーマンダについている炎エネルギーと水エネルギーをトラッシュして攻撃、蒸気の渦!」
 ボーマンダの口から再び白い爆風が相手の場をえぐる。モジャンボLV.X0/130のHPバーが無くなったのを確認してからサイドを引けば、試合終了のブザーが鳴り響く。
 勝利の余韻に浸りながらのんびりと並べられたカードを片付け終えふと傍に目をやると、長岡が長谷部の肩を優しく叩きながら慰めていた。
 恋人、か……。



「僕のターン」
 あたしのバトル場にはエースカードかつ水エネルギーが三枚ついたオーダイル130/130が。ベンチにはブイゼル60/60、ワニノコ50/50。
 相手の場には特殊鋼エネルギーが一枚、基本鋼エネルギーが二枚ついているメタング30/80。ダンバル50/50とレアコイル80/80がベンチで出番を今かと待っている。サイドはあたしが三枚、相手が二枚。
 先ほどの番、対戦相手の向井のキーカードであろうメタグロスをオーダイルの破壊の尻尾の効果で手札からトラッシュさせた。ハーフデッキでは同じカードは二枚までしか入れられない。あと一枚、メタグロスを潰せれば勝利はもらった!
 だがそう決めつけたのはあまりに早計だった。
「よし、まずはレアコイルに雷エネルギーをつけてジバコイル(120/120)へと進化させる。そしてジバコイルのポケパワー発動。磁場検索!」
「じ、磁場検索……?」
「このポケパワーは自分の番に一度使え、自分の山札の雷、鋼タイプのポケモンを山札から一枚相手に見せてから手札に加える。そしてその後デッキをシャッフルする!」
「そ、そんな!」
 折角一枚トラッシュしたのに、次の番にすぐさまそれを手札に加えるだなんて……。
「僕は山札からメタグロスを手札に加えて、早速メタングを進化させる! そしてポケパワー発動。マグネットリバース!」
 慌ててテキストを確認する。メタグロス70/120のポケパワー、マグネットリバースはコイントスをしてオモテならベンチポケモンとバトルポケモンを無理やり入れ替える能力だ。相手がどのポケモンを引きずり出すか選べる、単純だが弱っているポケモンにトドメをさせたり、牽制に使えたりと安い効果より遥かに恐ろしい。
 が、コイントスの結果はウラ。思わず胸に手を当てほっと一息ついてしまう。
「メタグロスでオーダイルに攻撃。コメットパンチ!」
 相手のメタグロス70/120は右腕を大きく振りかざし、彗星を思わせるスピードでオーダイル80/130に鉄の腕を振り下ろす。
「コメットパンチのダメージは50。だけど次の番にもう一度コメットパンチを使うと与えるダメージは100になる! ターンエンド」
 い、威力100!? そんな二発目のコメットパンチを喰らってしまえばあたしのオーダイル、ベンチのブイゼルとワニノコ全員が一撃で気絶してしまう。次にマグネットリバースが決まっても決まらなくても、メタグロスをどうにかしない限り……。
「あたしの番ね、まずはワニノコをアリゲイツ(80/80)にしてポケパワー進化で元気を発動。山札の上から五枚を見てその中の水エネルギーを相手に見せてから手札に加え、その後山札を切る。……水エネルギーは二枚だったわ」
 これで手札七枚のうち五枚が水エネルギー。とてもじゃないけどこんなにエネルギーばかりではいい手札とは言えな……いわけでもない! そうかその手があったわ!
「ブイゼルに水エネルギーをつけてオーダイルで攻撃するわ!」
 そう宣言すると同時にブザーが鳴り響く。首を右に傾けると隣の試合は終わったようだ。恭介くんがその彼女をなだめているように見えるから、やはり風見君が勝ったのだろう。もしあたしがこの対戦に勝てば次は彼か……。
 この大会は前の試合が終わればどんどん次の試合へと進んでいくので、休む暇なく今度は恭介くんが場に立つ。
 他の対戦も大事だけど、まずは目の前の彼を倒すことから! 手札にエネルギーばかり溜まってしまったのならそれを逆に活かすまでよ!
「メタグロスに攻撃、エナジーサイクロン! 自分の手札のエネルギーを好きなだけ選び、相手に見せる。このワザのダメージはその見せたエネルギーかける20ダメージとなる!」
 あたしは突きつける様に手札に残った水エネルギー全て、四枚を見せつける。メタグロスについている特殊鋼エネルギーは、鋼ポケモンの受けるダメージを10減らす効果をもつ。しかし20×4−10=70ダメージあれば、きっちりメタグロスを撃破出来る。
 オーダイルの周囲に水エネルギーのシンボルマークが四つ現れる。そのマークがゆらゆらと回りながらメタグロスの足元へ移動し、オーダイルの咆哮と共に水色の竜巻を起こす。しばらくして解放されたメタグロス0/120は、大きな音を立てて地面に落ち、そのまま気絶し動けなくなる。
「このエナジーサイクロンで相手に見せた水エネルギーは全て山札に戻してシャッフルする。サイドを一枚引いて終わりよ」
「僕の次のバトルポケモンはジバコイルだ」
「オーダイルはダメージを受けているけどサイドの枚数はあたしたち共に二枚だし、君のジバコイルはまだエネルギーが一枚。あたしの優勢よ!」
 ちらと右を見ると大きくガッツポーズをする恭介くんが。どうやら善戦しているようだ。仲良く皆で優勝。……なんてできないけど、せめて彼とも戦ってみたいと思う。
 そのためにはまず目の前の一勝を。



翔「今日のキーカードはメタグロス!
  マグネットリバースで相手を狙い、
  コメットパンチを連打しよう!」

メタグロスLv.58 HP120 鋼 (DP5)
ポケパワー マグネットリバース
 自分の番に1回使える。コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモンを1匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
鋼無無 コメットパンチ  50
 次の自分の番、自分が使う「コメットパンチ」のダメージは「100」になる。
弱点 炎+30 抵抗力 超−20 にげる 3


  [No.484] 22話 フローゼルとチャンス 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/06/01(Wed) 18:48:04   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 現在お互いのサイドは二枚。あたしのバトル場には水エネルギー三枚ついたオーダイル80/130、ベンチにはブイゼル60/60とアリゲイツ80/80。
 対戦相手の向井のバトル場にはジバコイル120/120、ベンチには50/50。そしてスタジアムは帯電鉱脈が広がっている。
「僕のターン。特殊鋼エネルギーをジバコイルにつける。そして帯電鉱脈の効果発動、自分のターンに一度コイントスをし、オモテならトラッシュの鋼または雷エネルギーを手札に加える」
 特殊鋼エネルギーが鋼ポケモンについてると、その鋼ポケモンが受けるダメージを−10させる効果を持つ特殊エネルギーだ。
 そして帯電鉱脈のコイントスはウラ。効果は不発に終わる。そこから向井は手を顎に上げてやや長考するが、その末に出した決断は意外なものだった。
「……。トレーナーカード、ポケモン入れ替えでダンバルとジバコイルを入れ替えてターンエンド」
 い、入れ替える? 入れ替えるくらいなら最初からダンバルをバトル場に出していればいいものの。それにHPの低いダンバルをバトル場に晒して。もしかして誘っているのだろうか。
「あたしの番ね。まずはブイゼルに水エネルギーをつけてフローゼル(90/90)に進化させる。そしてサポーターカード発動。オーキド博士の訪問! 山札からカードを3枚引いて、その後手札を一枚山札の下に置く」
 オーキド博士の訪問の効果でオーダイル、不思議なアメ、フローゼルの三枚を引く。望んでいたのは水エネルギーだけど山札の下の方で固まっているのだろうか。私は今引いた不思議なアメを山札の下に戻す。
「ベンチのアリゲイツもオーダイル(130/130)に進化させてバトル場のオーダイルで攻撃、破壊の尻尾!」
 オーダイルが尻尾を鞭のように振り回し、ベチーンとダンバル0/50を弾き飛ばす。HPの低いダンバルに威力60の破壊の尻尾は痛恨の一撃だ。
「破壊の尻尾の効果発動、相手の手札から表を見ずに一枚選んでそれをトラッシュする。私から見て右のカードをトラッシュしてもらうわ」
 向井がカードをトラッシュしてから、モニターで何を捨てたか確認する。む、鋼エネルギーかぁ。本当はキーカードを落としてやりたかったんだけど。
「ダンバルは気絶したためサイドを一枚引いて私の番は終了ね」
「次はジバコイルをバトル場に出す」
 あとはジバコイル120/120を倒せばあたしの勝ちね。ところで今引いたサイドはまたしても不思議なアメ。ここまで縁があるんだったら帰りに飴買おうかしら。
 さて、ジバコイルはよほどのことがない限り倒せる。ジバコイルの技、クラッシュボルトは80ダメージだ。この向井の番でオーダイル80/130は倒されるが、ベンチにいるフローゼル90/90はなんとかギリギリで耐えきれる。
「僕のターン、帯電鉱脈の効果を発動。コイントスをしてオモテならトラッシュの雷か鋼エネルギーを手札に加える。……、オモテなので鋼の特殊エネルギーを手札に加え、それをジバコイルにつける。そして攻撃! クラッシュボルト!」
 ジバコイルがオーダイル80/130に向かって真っすぐ電気の塊の玉を飛ばす。それがオーダイルに触れると、盛大に光をバラ捲いて爆発する。
「オーダイルは80ダメージを受けて気絶! そしてクラッシュボルトの効果により僕はジバコイルについている雷エネルギーをトラッシュする。サイドを一枚引いて終わりだ」
「次のポケモンはフローゼルよ。そしてあたしの番よ」
 ジバコイルに鋼の特殊エネルギーが二枚……。これでワザのダメージを与えても特殊鋼エネルギーの効果で−20されてしまう。だとしたら。
「サポーターカード、オーキド博士の訪問を発動。三枚引いてその後一枚を山札の下に置く」
 今度引いたのはポケヒーラー+、水エネルギー、水エネルギー。今度は当たりだろう。先ほどサイドを引いた際に加えた不思議なアメを山札の下に置く。
「フローゼルに水エネルギーをつけて水鉄砲!」
 フローゼルの口から激しい水流が噴き出され、ジバコイルのフォルムを痛めつける。
「このワザは、このワザに必要なワザエネルギーより多く水エネルギーがついている場合そのエネルギーの数かける20ダメージを追加する。今、フローゼルには水エネルギーが三枚。よって合計60ダメージとなる!」
「ジバコイルについている鋼特殊エネルギーの効果! 鋼のポケモンに特殊鋼エネルギーがついている場合ダメージを減らす。その効果で20受けるダメージを減らしてジバコイルが受けるのは40ダメージ!」
 向井のジバコイル80/120はまだピンピンしている。むう、思うように相手のHPが減らない。
「僕の番です。まずは帯電鉱脈の効果を発動。……ウラなので不発です。続いてジバコイルのポケパワー、磁場検索を発動! その効果でジバコイルLV.Xを手札に加え、バトル場のジバコイルをレベルアップ!」
「なっ!」
 思わず拍子抜けした声をあげてしまう。さっきのターンに磁場検索を使わなかったから、ジバコイルLV.X100/140は入っていないものだとばかり思っていた。
「ジバコイルLV.Xに雷エネルギーをつけて攻撃。サイバーショック!」
 拡散するように放たれた電撃が、多角的にフローゼル10/90を襲う。HPはギリギリ10だけ残り、首の皮一枚だけ繋がったか!
「サイバーショックの効果で、自身の雷エネルギーと鋼エネルギーをそれぞれ一個ずつトラッシュし、相手をマヒにする!」
「マ、マヒ!?」
 マヒ。それは状態異常の一つである。
 マヒは二回目のポケモンチェック。この場合だと次のあたしの番が終わった後に自然に回復する。
 しかし、マヒになったポケモンは逃げることもワザを使うこともできない。
 手札のポケモン入れ替えを使ってオーダイルに入れ替えたりすればフローゼルの麻痺は治るが、ロクにエネルギーのついていないオーダイルはただの木偶の坊。攻撃せずにやられるのがオチだ。
 今の状態は俗に言う手詰まり。これ以上どうしようも出来ない。
 振り返ってこちらを見つめる翔の方を向く。ごめんねという表情を作ろうとしたそのとき。
「姉さん!」
 翔の怒声が耳に反響する。
「まだだ、まだ終わってねえ! 自分のデッキを信じたら、必ず奇跡は起こるんだ!」
 ……そうだね。何はともあれ、一緒に戦ってくれたデッキのために最後まで精一杯頑張ろう。 
 最愛の父がいつも言っていた言葉を反芻する。「勝負事は諦めの悪いヤツが最後に笑うんだ」
「あたしのターン!」
 恐る恐る引いたカードを確認する。……ポケヒーラー+。奇跡は起きた!
「ポケヒーラー+を二枚発動! このカードは二枚同時に使うことが出来る。二枚同時に使ったとき、自分のバトルポケモンのダメージカウンターを八つ取り除き、特殊状態をすべて回復させる!」
「しまった!」
 フローゼルに明るく優しい光が包み込む。状態異常のマークが外れ、HPも90/90に全回復。
「本当に首の皮一枚で助かったわねぇ。さあ、フローゼルに水エネルギーをつけて攻撃。スクリューテール!」
 フローゼルが巧みに尻尾を回転させ、ジバコイルLV.Xにぶつける。
「スクチューテールの効果はコイントスをしてオモテなら相手のエネルギーをトラッシュする。……オモテね、鋼の特殊エネルギーをトラッシュ!」
 しかしスクリューテールのダメージは30。−10されてわずか20ダメージ。しかしジバコイルLV.X60/120についてるエネルギーは全て無くなった。
 これで鋼の特殊エネルギーにダメージを減らされることもなくなる。
「僕のターン、帯電鉱脈を発動。……ウラなので不発。雷エネルギーをジバコイルLV.Xにつけてターンエンド」
 もうジバコイルLV.Xを守る盾はない。これで決めてやる!
「あたしの番ね、フローゼルで攻撃するわ。水鉄砲! フローゼルにこのワザに必要なエネルギーよりも多く水エネルギーがあれば、その数かける20ダメージを追加する。余分なエネルギーは二つあるので80ダメージ!」
 フローゼルから放たれた強力な水流を受けたジバコイルLV.X0/120はこれで気絶。最後のサイドを引くと、試合終了のブザーが鳴り響く。
「勝った……」
 目をつぶりながら上を向く。肩の力が一気に抜けて、ちょっとした至福の時間だ。
 翔が背中を一押ししてくれたお陰ね。



翔「今日のキーカードはフローゼル!
  相手のエネルギーをトラッシュしつつ、
  みずでっぽうで一気に倒せ!」

フローゼルLv.29 HP90 水 (DP1)
水無 スクリューテール  30
 コインを1回投げオモテなら、相手のエネルギーを1個トラッシュ。
水水 みずでっぽう  40+
 ワザエネルギーよりも多く水エネルギーがついているなら、多い水エネルギー×20ダメージを追加。追加できるのは水エネルギー2個ぶんまで。
弱点 雷+20 抵抗力 ─ にげる 1

───
向井剛の使用デッキ
「マグネットバーン」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-642.html


  [No.519] 23話 本戦二回戦開始 太古の化石 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/06/08(Wed) 23:36:25   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「エレキブルで攻撃!」
 激しい音と光が巻き起こるが、モニターはしっかりと確認出来る。相手のポケモンのHPは尽き、最後のサイドを引くと試合終了のブザーが鳴る。
 急いでステージから降りて愛する彼女の元へ向かった。
「百合、仇はとったぜ」
 コツンと誰かが後ろから俺の頭を叩いた。振りかえれば仏頂面の翔がいる。
「バーカ、お前が勝っただけで長谷部さんの仇はとれてねーよ。仇とった言うなら風見倒してからにしろよ」
「ちぇっ」
 不満そうに言葉を吐くと、深く深呼吸してからふざけていた雰囲気を捨て、真剣な眼差しで翔を見つめる。
「翔、お前も負けんなよ」
「当たり前だ。そんな簡単に負けるかってんだ。ま、決勝で当たったらそんときはよろしくな」
「おうよ」
 決勝……。そう考えると胸の中からふつふつと熱いものが湧きあがってくる。ようし、やってやる! 待ってろよ!



 恭介と言葉を交わしたすぐあとに、違う場所から対戦終了のブザーが鳴る。そっちに目をやると、悠然と立ち去ろうとする拓哉。その様子から勝ったのだと伺える。負けてあんな立ち回り出来るほどあいつはおとなしくない。
 ステージが二つ開いたとなれば、そろそろ俺の出番がやってくるはずだ。一分経たないうちに、予想通り俺の名前が呼ばれる。
 指定されたステージに上がり、山札をシャッフルして所定の位置に置く。俺の二回戦の対戦相手はボサボサの短髪にポケットが大量にあるベージュのズボン、そしてやや汚れた白いTシャツを身に纏っている。とてもじゃないが季節を間違えている。今は冬だ。寒くないのかこいつ。
 ……ああ、でも小学校のときって冬でも半袖短パンのヤツいたよなぁ。アレと同じ理論なのか。
 してその対戦相手の名前は石川薫か。俺の一つ年下らしい。一つ下ってことは中三か。中三でこの服装なのか。
「よろしくな」
「……よろしく」
 うーん、返ってきた返事があんまり芳しくない。まあいい、ただただ全力でぶつかるだけだ。
「さあ、そこの坊主! 勝負だ!」
「……俺は女だ!」
「そうか、じゃあ……って今なんて?」
「俺は女だって言ってるんだ。坊主じゃない」
 はぁ? 渋柿を食べたような苦い表情がモロに現れる。
 えーと、どういうことだろう。もう一度石川の容姿を見てみる。うん。さっきと一緒の季節感が一切ない服装だ、変身したわけでもなんでもない。
 いやいやそんなことではないだろう。ルックスなんて関係ないんだ、ボーダーレスだ! 見た目で判断するのは一番いけない。先入観は危険だ。そう言って必死に自分をなだめる。うん。そういうのは良くないね。
 とはいっても一人称が俺って珍しいよね。っと、今はそっちに現(うつつ)を抜かしてる場合じゃない。
「はぁ、そうか。じゃあ仕切り直しだ」
 と言って一つ咳払い。
「よし、そこの……。勝負だ!」
「そこの、ってなんだよ。いいからさっさと始めよう!」
 先攻は俺がもらうことになった。山札から七枚カードを引き、たねポケモンをセット。続いてサイドカードを三枚伏せて対戦が幕を開ける。
 俺の最初のバトルポケモンはヒコザル50/50。一方相手のポケモンは……。なんだこれ、これはポケモンなのだろうか。
 バトル場にはポケモンがおらず、ただただ小さな石ころが転がっているだけで、イシツブテでもなさそうだ。
「なんだこれ? まぁいいや、俺のターン。手札の炎エネルギーをヒコザルにつけて、噛みつく攻撃だ!」
 ヒコザルが果敢に突撃して攻撃すると、石ころは無機質な音をたてて転がっていった。念のためにモニターで確認すると、きちんと石ころ30/40にダメージカウンターが乗ってる。ということはポケモン扱いのようだが。
 と同時に妙なことに気づいた。俺のヒコザル40/50がいつの間にかダメージを受けている。
「あれ、ヒコザルになんでダメージカウンターが」
 戸惑う俺に、向かい側から得意げな顔をした石川が声をかける。
「お前が攻撃したことによってツメの化石のポケボディーが発動したんだ。鋭い石室。このポケモンが相手によるワザのダメージを受けたとき、ワザを使った相手にダメージカウンターを一つ乗せる」
「か、化石?」
「そう、化石だ。化石のカードは本来はトレーナーカードだが、総じて無色のたねポケモンとして場に出すことができる。そしてこれを気絶させればもちろんお前はサイドを引くことが出来る。化石は特殊状態にはかからず、逃げれない。そして俺の番に任意にこいつをトラッシュできる。しかし俺が任意でトラッシュした場合はお前はサイドを引けない」
 へえ、つまりその石ころもほとんど普通のポケモンと大して変わらない立ち振る舞いが出来るってことだな。
「化石デッキか。ツメの化石ということはアノプス、アーマルドだな」
「へっ、俺のターン。ベンチに新たな化石を呼び出す。ねっこの化石!」
 相手のベンチエリアにこれまたちっさい石ころ40/40が転がる。
「ねっこの化石はポケボディー、吸い取る石室の効果によってポケモンチェック毎にダメージカウンターを一つ取り除いていく」
 中々味な効果だ。ダメージを与える化石と、回復する化石と、か。
「そして化石は現代に蘇る! 手札から不思議なアメを使い、ツメの化石をアノプスに進化させる!」
 化石が光を放ちながら大きくなり、そこからようやくご存じアノプス70/80の登場である。
「アノプスに闘エネルギーをつけて攻撃。ガードクロー!」
 近づいてきたアノプスの鋭い爪による一撃を受け、ヒコザル20/50のHPがあっという間に風前の灯だ。まさかいきなりこんな後手に回されるとは。
「ガードクローを使ったため、次のターンアノプスが受けるワザの威力はマイナス20される」
 二ターン目で早速−20されるというのはいくらなんでも厳しいぞ。
「お前がいくらヒコザルにエネルギーをつけたところで使える技は噛みつくと炎のパンチだけ。炎のパンチは追加効果もなくダメージも20。お前は俺のポケモンにダメージを与えることすらままならない」
「だが、進化したらそれも別の話だろう? 俺のターン、まずはヒコザルをモウカザル(50/80)に進化させる! そしてベンチにもう一匹のヒコザル(50/50)を出す」
 次の相手のターンでアノプスのもう一つの技、シザークロス、元の威力は30だがコイントスでオモテなら威力が20上がるワザで攻撃されればコイントスの結果次第だがモウカザルは気絶してしまう恐れがある。目先を追うより先を見たプレイングで手を打っていかないと。
「ヒコザルのほうに炎エネルギーをつける」
「ん、それでいいのか?」
「ああ。モウカザルのワザは二つある。片方がエネルギー二個で使えるにらむだ。コイントスがオモテなら相手をマヒにできるが、ワザの威力は20。ガードクローの効果で相殺されてダメージが与えられない。それならエネルギー一つでも使えて40ダメージもあるファイヤーテールを優先するぜ。さて、モウカザルで攻撃。ファイヤーテール!」
 モウカザルが燃え盛る尻尾を振って、アノプスを殴りつける。
「ファイヤーテールのダメージは40。ガードクローがあれど20ダメージは受けてもらう。そしてファイヤーテールの効果。コイントスしてウラならば、モウカザルについている炎エネルギーを一枚トラッシュ!」
 コイントスをオートで判定してくれるボタンを押す。その結果は……ウラ。仕方あるまい、炎エネルギーをトラッシュへ送る。
「俺のターン! 手札の闘エネルギーをアノプスにつけ、ひみつのコハクをベンチに出す。ひみつのコハクのポケボディーはハードアンバー。ベンチにこのカードがある限り、このカード自身はワザのダメージは受けなくなる」
 ツメの化石とは違って、ねっこの化石ともやや違う方向性だが保守的な効果だ。
「そしてねっこの化石をリリーラへと進化させる」
 先ほどと変わらないエフェクトで、ねっこの化石がリリーラ80/80が現れる。闘タイプのアノプスに対し、こちらは草タイプか。
「そしてアノプスで攻撃。シザークロス!」
 石川がワザの宣言と同時にコイントスボタンを押す。
 このシザークロス、先ほど言ったように攻撃時にコイントスをしてオモテなら追加ダメージを与える。ウラが出ればモウカザル50/80はかろうじて耐えれるが……。
「オモテだ!」
 石川の声と同時にアノプスの二対の鋭いツメがモウカザルに振り下ろされる。
「サイドを引いて俺の番は終わりだ」
「くっ、俺のターン」
 俺のベンチにはヒコザル50/50しかいないので次のバトルポケモンは強制的にヒコザルになる。しかし参ったな、まさかこんなに早くサイドをとられるのか。
 今引いたカードはノコッチ。しかしアノプスが闘ポケモン。下手してノコッチを出すのは相性的にリスキーか。
「サポーターのオーキド博士の訪問を発動。カードを三枚引いてその後手札を山札の一番下に置く」
 一番下に置いたのはノコッチ。そして引いたカードはモウカザル、アチャモ、ゴージャスボール。よし、いい感じだ。
「続いてグッズカード、ゴージャスボールを発動。山札から好きなポケモンを一枚手札に加えてデッキをシャッフル。俺はゴウカザルを手札に加える」
 打開策への道は開けた。とりあえず今は攻勢に回って攻めて攻めて攻めまくる!
「アチャモ(60/60)をベンチに出し、ヒコザルをモウカザルへ進化させる。そしてアチャモに炎エネルギーをつけてモウカザルで攻撃。ファイヤーテールだ!」
 モウカザル80/80がアノプスに再び炎の尻尾で攻撃する。これでアノプスの残りHPは10/80だが、コイントスの結果によってはエネルギーをトラッシュしなくてはならないが。
「コイントスの結果は……オモテ。これでエネルギートラッシュの必要はないな」
 しかしなんて面白味のないやつなんだこいつ。ただ対戦を淡々と作業のようにこなしているように感じる。
「俺のターン。サポーターの化石発掘員を発動。自分の山札からトラッシュを選び、その中から名前に化石とつくトレーナー、または化石から進化するポケモンのうち一枚を選び手札に加える。俺は山札のアーマルドを手札に加え、アノプスに進化させる!」
 地を這っていたアノプスが、急に一・五メートルの二足歩行になるだけで威圧感がある。が、そういう大きさによる威圧感だけではなく、このアーマルド70/140はきっと面倒くさい相手になるようなそういう予感も感じさせる。
「アーマルドに草エネルギーをつけて攻撃。ブレイククロー!」
 指示を受けたアーマルドは、姿かたちに似合わず全速力でこちらに駆けて来て爪を振り下ろし、その実力を徹底的に発揮する。



注・一番最初に化石のカードをセットするというプレイングは実際の対戦では行えません。このプレイングはあくまで演出によるものですので、真似はしないでくださいね♪

翔「今日のキーカードはアーマルド!
  硬いガードで相手の攻撃を防ぎつつ、
  ブレイククローで大ダメージ!」

アーマルドLv.52 HP140 闘 (DP5)
ポケボディー かせきのよろい
 このポケモンの受けるワザのダメージが「60」以下なら、このポケモンはそのダメージを受けない。
闘闘無 ブレイククロー  60
 次の自分の番、このワザを受けた相手が受けるワザのダメージは、「+40」される。
弱点 草+30 抵抗力 ─ にげる 2


  [No.542] 24話 一進一退 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/06/22(Wed) 20:28:04   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「アーマルドに草エネルギーをつけて攻撃。ブレイククロー!」
 対戦相手の石川薫のアーマルド70/140が右手を高く振り上げ、その先にある鋭い爪でモウカザルに襲いかかる。一閃を受けてまるで弾かれたゴムボールのように吹き飛ばされるモウカザル20/80。
 たった一撃で相当なダメージを受けてしまった。しかも俺のサイドは三枚、相手のサイドは二枚。これ以上相手に有利な状況を作らせることは出来ない。
「ブレイククローの効果はこのワザを受けた相手は次のターン受けるダメージがプラス40される」
 +40……。今のモウカザルの残りHPは20。どんな些細なダメージでも一撃は避けられないということか。
「俺の番だ」
 引いたカードは不思議なアメ。残念なことに、今の手札では活用出来ない。
「まずはモウカザルをゴウカザル(50/110)に進化させ、続けてアチャモに炎エネルギーをつける」
 これで残った手札はアチャモと不思議なアメだけ。ここでなんとか活路を切り開かないといけない。
「モウカザルからゴウカザルに進化したため、ブレイククローの+40の効力はなくなるぜ」
「言われなくても分かってる」
 それにしてもこいつ姿恰好の割には偉そうだな、少年味がまるでない。俺の方が年上なのに完全に見下されてる気がする。そこがちょっと不愉快だ。
「それじゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ。ゴウカザルの攻撃、ファイヤーラッシュ! 俺の場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュし、トラッシュした数だけコイントス。そしてオモテの数かける80ダメージ。俺はゴウカザルについている炎エネルギー一枚をトラッシュ」
「一枚だけでいいのか?」
「ああ。ここでいっちょ運だめしって奴だ。……オモテ、よっしゃ! それじゃあ遠慮なく喰らってもらうぜ!」
 アーマルドはポケボディー、化石の鎧によって60以下のダメージを喰らわない厄介な相手だ。だがしかしゴウカザルのファイヤーラッシュは60を上回る80ダメージ。これでポケボディーの効果は受け付けない。
 右手に大きな炎を宿したゴウカザルが、アーマルドの手前で跳躍してその肩の辺りに炎の拳を強く打ち付ける。アーマルド0/140は苦しそうな声を僅かに漏らすと、ドシンと音を立てて前へ倒れ伏す。数秒のインターバルをもってアーマルドの映像は消えていった。
「よし。これでサイドを一枚引かせてもらうぜ」
 サイドを引いてから深呼吸を挟む。もしもここでウラを出してしまったらもう後が無かっただろう。オモテが出て良かったぁ。
 と一息ついていると、ドン、と何かを叩く音が響く。慌てて音源の方に向けば、握りこぶしでテーブルを殴りつけた石川が目に映った。
「俺はリリーラをバトル場に出す」
 口調こそ平静を装っているが、声音は明らかに荒々しい。いくらなんでも対戦中にこんなことをあからさまにされちゃあ不満を抱いて当然だ。俺も例外ではない。
「なあ。お前さ、カードしてて楽しいか?」
「急に何だよ」
「いやいや。カードって楽しむためのモノだろ? 確かに不利になったりして腹立たしく思ったりもするけどさ、まだ負けが決まったわけでもないのにそんなに怒るのもないだろう。対戦相手に失礼じゃないか?」
 説教をもらうとは思わなかったのか、石川は顔をうつ伏せてなかなかこちらを見ない。
「俺は……、どうしても勝たなくちゃいけないんだ」
 石川は変わらずこちらを見ずに、震えながら声を出す。ワケアリな雰囲気に、ついつい気圧されてしまう。
「お、俺だってこの対戦、いいやこの大会に勝たなくちゃいけない」
「……俺のこのデッキは事故死した地質学の研究者である父がくれたものだ」
 思わず言葉に詰まった俺を置いて、石川は続ける。
「俺はなんとしてでもこの大会で優勝して、父がやりとげれなかった化石発掘の事業をしたいんだ」
 その夢は四百万でなんとかなるものなのだろうか……。それはともかく、石川にも事情があるのは分かるし、それに同情したい気持ちもある。
「俺だってこの大会で優勝して借金を返さなくちゃならない。事情があるのはお前一人じゃないんだ。俺やお前、他の人だって自分の信念のために戦ってるんだ。お前のそれは甘えだ。肝心なことはこいつで伝えろ」
 右手でカードを一枚摘む。こちらを向いた石川は、何のことかとつい首を傾げた。
「ぶつかり合いだ! 自分の感情、過去、信念、事情。それらを全てぶつけ合ってこそのポケモンカードだ。そんな言葉で語るのは無しだろ!」
 石川の目が大きく見開かれると、やがてふっと一つ笑って目をしっかりと俺に向ける。
「確かに一理あるな」
「だろ! だったら悔しいとか負けたくないとかそういう気持ち、お前のプレイングに乗せてみろ!」
「俺はこの戦い絶対負けられないんだ! 俺のターン!」
 俺がやった訳なのだが、これで石川は吹っ切れた。あのまま感情任せのプレイングにさせれば楽に勝てたかもしれないけど、そんなもの何も楽しくない。
 さて、相手のバトル場にいるリリーラ80/80は草タイプ。炎タイプが弱点なので俺の方が相性はいいはずだ。あくまで相性は。
「リリーラをユレイドル(120/120)へ進化させ、草エネルギーをつける。そしてグッズカード、エネルギーパッチを発動。コイントスをしてオモテなら、トラッシュの基本エネルギーを自分のポケモンにつけることが出来る。コイントスだ!」
 エネルギーパッチはコイントス次第だが、自分の番に一度しかエネルギーをつけれないという制約を越えてつけることが出来る厄介なカードだ。簡単にオモテは出てほしくないのだが……。
「よし、オモテだ。トラッシュの草エネルギーをユレイドルにつけて攻撃! ドレインドレイン!」
 何かの曲名にありそうなワザ名だな。と思っているのも束の間、ユレイドルの首の辺りからピンク色の触手というべきなのか、それらしきものがゴウカザル20/110に食い込む。
 30ダメージか。ダメージ自体は痛くないが、まだ何かあるのかもしれない。油断はできない。
「俺のターン!」
 引いたカードは炎エネルギーか。悪くない。
「手札のゴウカザルに炎エネルギーをつけてファイヤーラッシュ。トラッシュするのはゴウカザルのエネルギー」
 ユレイドルの弱点は炎+30。ここでオモテを出せれば80+30=110で、ユレイドルのHPをかなり削ることが出来るが……。
「オモテだ! さあ、ダメージを喰らってもらうぜ」
 ゴウカザルが先ほどと同様に炎の拳をユレイドル10/120にぶち込む。俺のゴウカザル20/110のHPもギリギリだが、これで状況はほぼイーブン。やられても次の番にやり返せる。
「俺のターンだ。まずは闘エネルギーをユレイドルにつける。そしてサポーター、デンジの哲学を発動。手札が六枚になるように山札からカードを引く。今俺の手札は0。よって六枚引く」
 ここに来て手札補充か。手札が六枚になれば、きっといろいろ仕掛けてくるはずだ。
「ベンチのひみつのコハクをプテラに進化させる」
 ずっとベンチに残されていたコハクが大きな翼竜、プテラ80/80に進化する。
「ユレイドルの攻撃、ドレインドレイン!」
 先ほどと同じエフェクトでゴウカザルに触手が襲いかかる。HPが残り20/110のゴウカザルはこの一撃によって気絶させられてしまう。ここでゴウカザルが倒されるのは痛い。痛い、がこのユレイドルならアチャモでさえ倒すことが出来る。
「残りHPが僅かな俺のユレイドルをアチャモでも倒せると思ったか?」
「何が言いたいんだ」
「ここでドレインドレインの効果発動。このワザにより相手を気絶させた場合、自分のダメージカウンターを全て取り除く!」
「す、全て!?」
 HPが0になったゴウカザルが光の玉となってユレイドルの体に取り込まれる。あっという間に瀕死状態だったユレイドル120/120のHPが元通りに戻ってしまった。ほぼイーブン状態だった対戦だったが一気に石川の流れに傾く。
「サイドを引いてターンエンドだ」
 俺はダメージ表示がなくなったユレイドルのモニターを虚ろに眺めた。マズい、俺よりもサイドを一枚分完全に上回っている。残されたのは炎エネルギーが二枚ついたアチャモ60/60のみ。どうやってこのピンチを切りぬくものか……!



翔「今日のキーカードはユレイドル!
  ドレインドレインは30ダメージ!
  相手を気絶させると全回復だぜ!」

ユレイドルLv.49 HP120 草 (DP5)
草 ドレインドレイン  30
 このワザのダメージで、相手の残りHPがなくなったら、自分のダメージカウンターをすべてとる。のぞむなら、ダメージを与える前に、相手のベンチポケモンを1匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替えてよい(新しく出てきたポケモンにダメージを与える)。
草無無 ようかいえき  50
 次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
弱点 炎+30 抵抗力 ─ にげる 3


  [No.556] 25話 ギリギリの攻防 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/06/29(Wed) 23:19:09   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ここでドレインドレインの効果発動。このワザにより相手を気絶させた場合、自分のダメージカウンターを全て取り除く!」
「す、全て!?」
 ユレイドルのドレインドレインでゴウカザルが倒されたが、それでもユレイドルのHPは残り10/120。この程度ならいくらでも取り返せる。
 そう思っていた矢先のこの異常なまでの回復力。あっという間にユレイドル120/120は元の元気を取り戻し、目の前に大きな壁として立ち憚る。
「サイドを引いてターンエンドだ」
 今、サイドを取られたため石川のサイドは残り一枚。場には草エネルギーが二枚ついたユレイドル120/120に、ベンチにプテラ80/80。
 対する俺のサイドは二枚。しかも炎エネルギーが二つついたアチャモ60/60が唯一俺を支えてくれる仲間である。
 場もサイドもそうだが、それに加えて手札の数でも石川に大きく劣る。俺の手札は今三枚。それに対して今の石川は六枚だ。しかも俺の手札はアチャモ、ノコッチ、不思議なアメと今すぐに活きるカードがない。どちらが有利かだなんて火を見るより明らかだ。
 しかし頭で考えるだけでは何も進まない、対戦は理論だけじゃない。流れだ。ピンチの後にはきっとチャンスがある。そう、信じている!
「俺の番だ!」
 この一枚で命運が決まる。
 恐る恐る引いたカードを確認すれば……、オーキド博士の訪問。このカードは山札を三枚引き、その後手札を一枚山札の下に置くサポーター。まだワンチャンスがある、このチャンスを信じよう。
「俺は、サポートカードのオーキド博士の訪問を発動!」
 一枚ずつカードを引く。炎エネルギー、炎エネルギー。ダメだ、そんなに固まらなくてもいいじゃないか。引けるカードは一枚だけしかない。どうにかして逆転の一手を導き出さないと。
 緊張のせいか手が汗ばみ、意識していないのに心なしか呼吸のペースが早まっている気がする。落ちつけ。無念無想だ、余計なことは考えるな。
 数度深く息をし、平静を取り戻す。そして一気に三枚目のカードを引く。
「逆転の兆しは見えた! オーキド博士の訪問の効果で、手札を一枚山札の底に戻す。俺はノコッチを戻す」
「この圧倒的に俺が有利な状況でどう逆転するつもりなんだ? アチャモをいくらワカシャモに進化させても程度は見えている」
「惜しい、でも違うぜ。俺は手札から不思議なアメを発動! 自分のたねポケモンを手札の一進化、あるいは二進化ポケモンに進化させる。俺はアチャモをバシャーモへと進化!」
「バ、バシャーモだと!」
 アチャモの足元から光の柱が現われ、すっぽりアチャモの姿を覆い隠す。光の柱の中でアチャモの背丈が大きく伸び、敵を捕える力強い腕、大地を駆け抜ける屈強な脚。フォルムが変わり、光の柱が消えていくと勇敢なバシャーモ130/130が姿を現わす。
「バシャーモに炎エネルギーをつけて、ユレイドルに攻撃っ。炎の渦!」
 バシャーモが豪快に放った力強い炎の渦がユレイドル120/120を包み込む。このワザの威力は100。それに加え、ユレイドルの弱点は炎+30。受けるダメージは100+30=130ダメージ、これでユレイドルを撃破だ。
「炎の渦のデメリット効果により、俺はバシャーモについている炎エネルギーを二つトラッシュする。そしてサイドを一枚引くぜ」
 石川は呆気にとられていたが、やがて首を振って最後のポケモン、プテラ80/80をバトル場に送りだす。
「これであっという間に状況がひっくり返ったぜ。プテラが攻撃するにはエネルギーが二つ必要。でもお前のプテラにはエネルギーがない、今度こそ押し返してやった」
「それはそっちもだろう、エネルギーが二つトラッシュされては炎の渦は連発できない」
「そいつはどうかな」
 俺のバシャーモは炎の渦以外にも無無で威力40の鷲掴みというワザも持っている。確かにこれではプテラを倒すには至らないが、それでもワザさえ打てないプテラよりよっぽどいい。
 そういう含みを込めた挑発を石川にすれば、むっと顔を作られた。
「俺のターン。プテラに闘エネルギーをつけ、ベンチにひみつのコハク(40/40)を出し、俺の番は終わりだ」
 やはり攻撃出来ず、か。ならば叩きこませてもらう。
「今度は俺の番だ。俺はバシャーモに炎エネルギーをつけてポケパワーを発動。このポケパワーは相手のバトルポケモン一匹をやけど状態にする。喰らえ、バーニングブレス!」
 焼けるような真っ赤な吐息がバシャーモから放たれると、それはプテラを覆い、苦しませる。
「くっ。プテラは火傷になったが、この瞬間プテラのポケボディーも発動する。原始のツメ!」
 バシャーモの火炎の吐息に抗うように、苦しみながらもプテラは果敢にバシャーモにツメで襲いかかる。
「相手がポケパワーを使う度に、ポケパワーを使ったポケモンにダメージカウンターを二個乗せる」
「これぐらいのリスクなんてことないぜ。バシャーモで攻撃。鷲掴み!」
 跳躍一つでプテラの前に躍り出たバシャーモ110/130が、鋭く腕を伸ばしてプテラの首根っこをガッシリ掴む。そしてこのワザを受けたプテラ40/80は鷲掴みの効果によって次の番、逃げることが出来ない。
 これで次の番にじっくり攻撃をすればプテラは倒せるはずだ。
「俺の番が終わったのでポケモンチェックだ」
 やけどの判定はポケモンチェック毎にコイントスを行い、ウラならば20ダメージを受ける。今のプテラのHPでは二回ダメージを受けるだけでノックアウトだ。
 コイントスボタンを押す石川の顔が、心なしか楽しそうに見える。きっとアイツもこの勝負が楽しくて仕方ないんだろう。
「よし、オモテだ。これでプテラはやけどのダメージを受けることはない」
「とはいえ鷲掴みで逃げられない状況に変わりはないぜ」
「それくらい分かってる、俺のターン。プテラに草エネルギーをつけて攻撃。超音波!」
 首根っこを掴まれたままのプテラが口を開き衝撃派を放つ。バシャーモは左腕で顔をガードするがそのHPは着実に削られていく。超音波の威力は30だから、残りHPは80/130。
 しかしプテラの攻撃技はこの超音波だけだ。威力自体は大したことはない。
「超音波の効果発動! このワザを受けた相手を混乱状態にする」
 混乱はワザを使うときにコイントスをしてウラならワザは失敗かつ30ダメージを受ける厄介な状態異常。うかつにワザを打つと逆にこっちが危なくなってしまう。そして石川の番が終わると同時に鷲掴みの効果も切れ、バシャーモはプテラの首をそっと離す。
「ここでもう一度ポケモンチェックをしてもらうぜ」
「……、オモテだ」
 思うようにやけどでダメージを重ねれない。しかし、ここは些細なダメージで一喜一憂してる余裕はない。
「俺のターン。バシャーモに炎エネルギーをつけ、バシャーモでプテラに攻撃。炎の渦!」
「ここでバシャーモの混乱の判定をしてもらう。ワザを使う時にコイントスをしてオモテならワザは成功。ただしウラならワザは失敗の上バシャーモにダメージカウンター三つ乗せる」
「分かってらぁ……、ウラか」
 プテラに近づこうとしたバシャーモだが、寸でのところでつんのめってしまい、残りHPが50/130に減少する。マズい、あと超音波二発で倒れてしまうか。
「お前の番が終わったことでプテラのポケモンチェック。……、ウラなのでダメージカウンター二つ乗せる」
 しかし相手も同じく限界に近づく。プテラも残りHPが20/80、互いに状態異常のコイントスによって決着がつきそうでもある。
「俺のターン。もう一度超音波!」
 プテラから発された超音波が俺のバシャーモのHPを20/130まで削る。もう後がない。
 次の俺の番に攻撃する際、混乱のコイントスでウラが出れば俺の負け。だが次のポケモンチェックで石川がウラを出す、あるいは俺の番に攻撃する際混乱のコイントスでオモテが出れば俺の勝ち。全てはコイントスの、二分の一の確率に委ねられた。
「ポケモンチェックだ!」
 ウラが出れば、さっさとこの勝負にキリがつく。頼むからウラでいてくれ……!
「オモテだ!」
 声高に石川が言い放ち、続けて深く息を吐く音が聞こえる。流石にそこまでうまく行かなかったか。だがまだツーチャンスはある。
「俺の番、バシャーモで攻撃する。まずは混乱判定だ」
 固唾を飲み、コイントスボタンを押す。一秒一秒がひどく長いように感じてしまう。早く終わってほしい気持ちと、まだ終わって欲しくない気持ちが混ざりあい、視界が溶けてしまいそうだ。
 どれだけ経ったか分からないが、気付けばコイントス判定はオモテを指していた。一瞬自体が飲みこめなかったものの、気付くと内側から悦びが爆ぜ出す。嬉しさあまりに頬が緩み、強く握りこぶしを作ってしまう。
「っしゃあ決まった! バシャーモでトドメだ。炎の渦!」
 俺の声に呼応して、バシャーモがプテラに向けて最後の攻撃を放つ。炎のエフェクトの向こうで、石川の表情はそこが清々しいものがあった。



 試合終了のブザーが鳴り響く。カードを片づけふと石川を見ると、首を上げて脱力してただただドームの天井を見つめている。
「楽しいバトルだったぜ」
 ついそうぽろりと言葉が零れる。すると、石川は右手で目の辺りを拭ってこっちを向く。その顔は、どこか赤い。
「ああ、俺もだよ。どうしてか負けてもなぜか悔しくない。むしろすっきりしたよ」
「さっきとは大違いじゃないか」
 嫌味を一突きしてやると、石川は微かに微笑む。どうしてなかなか綺麗な笑顔じゃないか。
「一言うるさいっ。……奥村、この先の試合も頑張れよ」
「翔でいいよ。元からあんまり名字で呼ばれないからこっちの方が慣れててさ。じゃあな」
「……ああ。またきっと」
「カードを続けている限り、きっとどこかでまた会えるさ」
 最後に自分のデッキをトントンとテーブルに叩きつけて揃え、ステージから立ち去る。
 石川の気持ちを背負った分、次の対戦は余計に負けられなくなった。いいじゃないか、上等だ。しっかり気合いを入れて、次に挑もう。



翔「今日のキーカードはふしぎなアメ!
  たねポケモンから一気に2進化ポケモンにもなれるぞ!
  2進化ポケモンが多いデッキには必須のカードだ」

ふしぎなアメ トレーナー (DP4)
 自分の「進化していないポケモン」を1匹選び、そのポケモンから進化する「1進化カード」、またはその上の「2進化カード」を、自分の手札から1枚選ぶ。その後、選んだ「進化カード」をそのポケモンの上にのせ、進化させる。


  [No.570] 26話 初心者と熟練者の差 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/06(Wed) 20:12:39   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あたしのターン!」
 風見のサイドは既に一枚だが、対して姉さんは二枚。ベンチの状況も伺えば、形勢は圧倒的に姉さんの不利だなんてのは火を見るよりも明らかだ。
「オーダイルに水エネルギーをつけて攻撃。破壊の尻尾!」
 それでも果敢に姉さんのオーダイルが尻尾を振りかぶってガブリアスに攻撃を続ける。強いテールスイングに弾き飛ばされたガブリアスは、そのままぐったり倒れてしまう。
「よし、ガブリアスはこれで気絶ね。サイドを引いて終わりよ」
「ならば俺はボーマンダをバトル場に出す。そして俺の番だ。ボーマンダのポケボディー、バトルドーパミンの効果によりオーダイルの最大HPが130なのでボーマンダのワザに必要な無色エネルギーは全て必要無くなる。ボーマンダに水エネルギーをつけてトドメだ。蒸気の渦!」
 ボーマンダが勢いよく口から吐き出した白い蒸気の塊がオーダイルの巨体を持ち上げて吹き飛ばしてしまう。オーダイルのHPが尽きたのを目視した風見が最後のサイドを取ると、試合終了のブザーが鳴り響く。
「ここまで、か」
 姉さんが苦虫を潰したような、今にも泣き出しそうな渋い顔を作るも、やや間を置いていつもの強気な笑顔に戻る。姉さんだってすごく悔しいのだろう。それでも無理に笑顔を作ってステージから戻ってきた姉さんは、まだぎこちない笑顔でそっと俺に呟いた。
「ごめんね、負けちゃった」



 翔の姉ちゃんと風見が早速ぶつかったように、やっぱり皆仲良く勝ち上がるのはさすがに無理だった。分かってた事だけど、いざ現実となると寂しいものがある。
 でも俺だって負けたくない。翔たちと対戦することになっても、勝ちに行きたい。負けたら悔しい、当たり前だ。
 召集の放送が鳴り、呼ばれるままにステージに向かう。二回線の俺の相手は坊主頭の小太りの男性である。ネームプレートを見れば名前は喜田敏光(きだ としみつ)とある。黒縁の眼鏡を支える鼻の頭で脂汗が僅かに光っているように見える。
「よろしくお願いします」
「よっ、よろしく」
 おれが挨拶をするのがそんなにおかしいのかと、キョドる喜田さんを見て考えた。
 悩んでる暇なく対戦が始まる。対戦前の抽選で俺は後攻と決まった。後攻上等! やってやろうじゃねえか。
 相手の最初のバトルポケモンはペラップ60/60のみ。対する俺のバトルポケモンはヒートロトム80/80に、ベンチポケモンのエレブー70/70。相手がどんなデッキか全然想像つかねえ。
「えっと、俺の番からだね。ペラップに超エネルギーをつけてワザの先取りを使わせてもらうよ。その効果で俺は山札からカードを一枚引く」
 まずはカードを積極的に引いてくる、か。風見はよく、「カード(手札)が多ければそれだけ戦略のパターンが増える」と言っていたような気がする。手札、ねえ。
「よし! 俺のターン。ヒートロトムに雷エネルギーをつけてトレーナーカード発動、ゴージャスボール。その効果で山札から好きなポケモンを手札に加える。俺はエレキブルを加えるぜ」
 ゴージャスボールはノーリスクでポケモンを選べる強力なサーチカードだ。しかしその分欠点もあり、ゴージャスボールがトラッシュにあるとき新しくゴージャスボールを使うことが出来ない。つまり基本的に一回だけしか使えないというカードになる。
 さて、ヒートロトムだ。ロトムの強みはなんといってもポケパワー。ヒートを含むそれぞれのフォルムによっていろんなタイプになることが出来るのだ。例えばヒートロトムのポケパワー、ヒートシフトを使うと自分の番の終わりまで炎タイプになれる。これで草タイプのポケモンの弱点を突くことが出来るのだけど、相手はペラップ。いちいちポケパワーを使わなくても相性が良いじゃん。
 早速攻める、と言いたいが、ヒートロトムがワザで攻撃するにはエネルギーが足りない。まずはチャージからだ。
「ヒートロトムのワザ、温める。自分の山札の炎エネルギーを一枚、自分のベンチポケモンにつける!」
 チン、と電子レンジ特有の心地よい軽い音がヒートロトムから放たれた。そして自らが宿る電子レンジの扉を開くと、炎エネルギーのシンボルマークがどことなく現れ、エレブー70/70に吸収されていく。
「俺の番。まずはラルトス(60/60)を場に出してラルトルに超エネルギーをつける。そしてサポーターカード、ミズキの検索を発動。手札を一枚山札に戻し、その後山札のポケモンを選んで手札に加える。俺はキルリアを手札に加える」
 かなり流暢な手つきでプレイを進めていく喜田さん。そのせいかかなり熟練していそうな感じがする。
「ペラップのワザ、先取りを発動。その効果で、俺はまたカードを引かせてもらうよ。っんしょ」
 再びカードを引いてくる。ペラップ60/60は無一つでもう一つある別のワザが使える。音痴というワザで、コイントスしてオモテなら相手を混乱させる厄介な効果だ。ただ、ワザの威力はたったの10。そう、10ダメージしか与えられないのだ。俺のヒートロトムは無色タイプに抵抗力をもっているため、いくら音痴を使われてもダメージはない。その点先取りしかしてこないのはなるほど確かに頷ける。
「俺のターン! よっし、まずはエレブーをエレキブル(100/100)に進化させて、ヒートロトムに雷エネルギーをつける。つづいてウォッシュロトムをベンチに出すぜ」
 ウォッシュロトム90/90もポケパワー、ウォッシュシフトで水タイプになることが出来る。しかし喜田さんのペラップの弱点は雷、ラルトスは超。このポケパワーが活きると考えるのは難しいか。
「俺はトレーナーカード、エネルギー付け替えを使うぜ。その効果でエレキブルについている炎エネルギーをヒートロトムに付け替える」
 これでヒートロトムで攻撃出来る。温めるは無で使えるワザだが、もう一つのワザは炎無無とエネルギーを三枚も要求しやがる。
「さあ、ヒートロトムで攻撃だ、熱で焦がす!」
 ヒートロトムが再び電子レンジの扉を開く。が、先ほどとは違って今度はそこから決して優しくない熱風がペラップ60/60を襲いかかる。翼を盾にして攻撃を防ごうとするペラップだけど、それでも十分翼が傷つくような気がする。
「このワザの元々の威力40に加え、ペラップは雷タイプが弱点なので10ダメージ追加で受けてもらうぜ。よって合計50ダメージだ! さらに熱で焦がすの効果によりペラップは火傷状態になる!」
「うっ……!」
 ペラップのHPはこれでわずか10/60。火傷はポケモンチェックでコイントスをしてウラなら20ダメージを与える状態異常だから、ウラを一度でも出すとあっという間にお釈迦になる。むしろなって欲しい。
「さあ、ポケモンチェックだ。ペラップの判定をしてもらうぜ!」
 今の所、俺のプレイングにミスはないはずだ。順調順調! このまま一気に上手く行けば……。
「……オモテなので火傷のダメージなしだ」
 くっそ、なんだよー。そこはウラが出て欲しいのに。まあどうせペラップがバトル場にい続けても、先取りで山札からカードを引くだけなんだし何の脅威でもない。
「俺の番。ラルトスをキルリア(80/80)に進化させ、手札の超エネルギーをキルリアつける。そしてトレーナーカード発動。ポケモン図鑑HANDY910is!」
「ポケモン図鑑はんでぃきゅういちぜろ? ……何だそれ」
「自分の山札のカードを上から二枚確認し、そのうち一枚を手札に加えてもう一枚を山札の下に戻す」
 なんだ、たった一枚だけ引くのかよ。それならもっといいサポーターとかでたくさんドローすれば良いと思うんだけどな。
「ペラップの超エネルギーをトラッシュし、ペラップをベンチに逃がす」
「なっ、しまった!」
 ベンチに逃げれば状態異常は消えてしまう。これじゃあペラップは火傷のダメージで気絶なんてことはなくなる。
「キルリアをバトル場に出し、サイコリサーチを発動。このワザの効果は自分のトラッシュのサポーター一枚と同じにする。俺はトラッシュのミズキの検索を選択する。その効果で手札を一枚戻して山札からサーナイトを加える」
 サーナイトを加えたということは次の番に進化させてくる可能性が極めて高い。
「くそっ、俺のターン」
 なんとかせめてあのペラップを倒せないものか。そのためのカードを! そう願って山札の一番上のカードを引く。
「お! よっしゃあ! まずそこのペラップから倒してやるぜ!」



翔「今日のキーカードはヒートロトム!
  なんと炎タイプにもなれる!
  相手の弱点を狙っていこう」

ヒートロトムLv.46 HP80 雷 (DPt2)
ポケパワー ヒートシフト
 自分の番に一回使える。この番の終わりまで、このポケモンのタイプは炎タイプになる。
無 あたためる
 自分の山札の炎エネルギーを一枚、自分のベンチポケモンにつける。その後、山札を切る。
炎無無 ねつでこがす  40
 相手をやけどにする。
弱点 悪+20 抵抗力 無色−20 にげる 1

───
石川薫の使用デッキ
「夢への願いと古代の化石」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-646.html


  [No.583] 27話 一撃必殺 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/13(Wed) 23:56:51   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「お! よっしゃあ! まずそこのペラップから倒してやるぜ!」
 風見杯二回戦。俺、長岡恭介と相手の喜田敏光の対戦はまだまだ序盤。どちらもサイド三枚だが、ダメージの比重は俺に分がある。
 雷エネルギーが二枚、炎エネルギーが一枚ついた俺のヒートロトム80/80がバトル場にいて、ベンチにはエレキブル100/100とウォッシュロトム90/90。
 対する向こうはバトル場に超エネルギーが二枚あるキルリア80/80に、ベンチにペラップ10/60。そして今俺の手札の中にはペラップをどうにか出来る手立てがある。
「行くぜ、手札のサポートカード。プルートの選択! このカードの効果によって俺のロトムはダメージカウンターとエネルギーをそのままにしてフォルムチェンジが出来る。ヒートロトムを山札に戻し、フロストロトムを場に出すぜ!」
 これがペラップ撃破への秘策だ! ロトムは電子レンジから離脱し、普通のプラズマ体であるロトムに戻る。ロトムがいなくなった電子レンジは、ふっとその場から煙のように消えると、代わりにどこからか冷蔵庫が現れる。それに気付くや否や飛び付くようにロトムは冷蔵庫に入り込み、これでフロストロトム90/90の誕生だ。
 ヒートロトム達と同様に、フロストロトムも例外なくポケパワー、フロストシフトで水タイプになることが出来る。とはいえ、やはり今は不要な効果なのでスルー。
 なによりも大事なのはワザ。ベンチにいるペラップの息の根を止めることは、ヒートロトムには出来なくてフロストロトムに出来る技術。一発ぶち込んでやりますか!
「ベンチのウォッシュロトムに水エネルギーをつけて、俺はフロストロトムで攻撃する、霰!」
 霰というには少々、いや、相当おこがましいエフェクトだった。フロストロトムが自身の冷蔵庫の扉を開くと、そこからマシンガンのように大量の小さな氷弾が飛び出て相手側全方位にこれでもかというほど叩きつける。
「この霰は相手のポケモンならばバトル場だろうとベンチだろうと全員に10ダメージを与えるワザだ。これでペラップも撃破!」
 キルリア70/80の後ろでキルリア同様霰を喰らったペラップ0/60が倒れ、喜田は「ああっ」という情けない声をあげながら僅かに右手をのばした。
「サイドを一枚引いてターンエンドだぜ」
 よし。サイドを一枚引いたのにまだ俺のポケモンはダメージを受けていない。
 理想以上の展開が来てる。もしかしたら俺勝っちゃうかもしれないんじゃね? いやいやいや。そういう油断でいつも失敗するじゃんか。落ちつけ俺。一人頭を横に振る。
「俺の番、行くよ。えっと、キルリアをサーナイトに進化させて超エネルギーをつける。そしてサーナイトで攻撃、サイコロック!」
 進化したてのサーナイト100/110は白く細い腕でフロストロトムに標準を合わせると、紫色の小さな念波弾が冷蔵庫を後方、つまり俺の方に飛ばす。
 ズドン、ドガーン、グシャーン、と騒々しい音三連打に、ついつい耳を塞いでしまった。
 しかし立ちあがったフロストロトム30/90は、ワザを受け終わった後だというのに体が先ほどの念波と同じ紫色に包まれて、身動きがとりづらそうにしている。いいや、フロストロトムだけじゃない。ベンチのウォッシュロトムも、エレキブルも。一体ぜんたい何が起きてるんだ?
「このサイコロックを受けると、次の番君はポケパワーが使えなくなる!」
「なっ、なんだって!? っていうかロトムだけじゃないの!?」
「そういうこと」
 ポケパワーを封じられるなんて。ロトムはもちろん、発動条件が満たせていないがベンチのエレキブルだってポケパワーを使えるはずだったんだが。
 とはいえロトムのポケパワーに旨味はないし、気にせず全力で行くだけだ。
「俺のターン!」
 引いたカードはまたまたエネルギー付け替え。だが今このタイミングで来たのは喜ぶべきだ。いいタイミングで来た。
 というのも、フロストロトムのもう一つのワザ、アイスクラッシュに必要なワザエネルギーは水無無。そして当のフロストロトムには炎雷雷しかついていないためワザの発動条件を満たせていない。
 悪いけど、フロストロトムにはここでは壁になってもらうしかない、か。
「雷エネルギーをウォッシュロトムにつけて、エネルギー付け替えを使わしてもらうぜ。フロストロトムの炎エネルギーをウォッシュロトムに付け替える。そしてもう一度霰攻撃!」
 どれだけ激しい霰が降ろうと、与えるダメージは僅か10ダメージ。サーナイト90/110を見てみれば、なんてことの無いようにピンピンしている。もうちょっと痛そうな素振り見せてくれないと無駄みたいで悲しいじゃねーか!
「俺のターン、まずはトレーナーカードのポケモン図鑑HANDY910isを発動。山札の上から二枚を見て、一枚を手札に、もう一枚を山札の下に置く。そしてサーナイトで攻撃! サイコロック」
 攻撃をくらったフロストロトムは再度後ろへ吹っ飛ばされる。冷蔵庫から命からがら脱出したロトム0/90だが、そのまま起き上がること無く力果ててしまう。
 壁にして悪い。でも、その分きっちり後に引き継がせてやる。俺はバトル場にウォッシュロトム90/90を送りだした。
「サイドを一枚引くよ」
「なんの、俺のターン!」
 俺のベンチにいるエレキブルのポケパワー、電気エンジンはトラッシュに雷エネルギーがあるとき、自分の番に一回だけ雷エネルギー一枚をエレキブルにつける効果。
 しかしサーナイトのサイコロックでそれを阻まれてしまっている。歯がゆい、ようやくサイコロックの鬱陶しさを掌握したぜ。
「だったらバクのトレーニングを発動! 山札からカードを二枚引く。そしてエレキブルに雷エネルギーをつけてウォッシュロトムで攻撃だ! 脱水! このワザは30しかダメージが与えられないが、コイントスをウラが出るまで行え、その数だけ相手の手札をトラッシュさせる効果がある!」
「手札破壊だって!?」
「さらにバクのトレーニングの効果で、この番自分のポケモンが相手に与えるダメージをプラス10する!」
 これで合計40ダメージだ。そしてワザの効果の判定に移る。コイントスのボタンを押せば、オートで結果がモニターに現れる。続けざまに出るそれは……オモテ、オモテ、ウラ。
「よし。それじゃあ一番左のやつとそれの二つ隣のやつをトラッシュしてもらうぜ!」
「あぁ、ラルトスとサーナイトLV.Xが!」
 サーナイトLV.Xをトラッシュ? やった! LV.Xとはいえ、サーナイトもサーナイトLV.Xも同名カードとして扱われるし、ハーフデッキでは同名カードは二枚まで。
 つまりもう喜田のデッキにはサーナイトもサーナイトLV.Xも入っていないってことになる。LV.Xなんて切り札級のカード、使われる前に対処出来れば最高じゃねーか。
 それに加えサーナイトの残りHPも40/110まで追い詰めた。OK、良い感じだ。
「まだまだ、俺のターン。手札のポケモンレスキューを発動! トラッシュのポケモンカードを手札に加える。俺はサーナイトLV.Xを選択し、バトル場のサーナイトをレベルアップさせる!」
「あれっ!?」
 サーナイトが光の帯に一瞬包まれ、サーナイトLV.X60/130へレベルアップする。この投影機ではLV.Xと普通のポケモンが大差ないのが、分かりにくい。
「そしてサーナイトLV.Xにポケモンの道具、達人の帯を持たせる。達人の帯をつけたポケモンはワザで与えるダメージと最大HPが20増える!」
 サーナイトLV.Xは突如上から降ってきた帯を腰に巻き付ける。HP増強の効果もあり、残りHPは80/150、さっきの番と同じじゃねえか。だがその代償として、達人の帯をつけたポケモン、サーナイトLV.Xが気絶したとき俺はサイド二枚引くことが出来る。要するにこいつを倒せさえすれば勝てる……!
「このサーナイトだけで勝負を決める! サーナイトのポケパワーを発動。テレパス! このポケパワーは相手のトラッシュにあるサポーターのカードと同じ効果を得る。俺は君のトラッシュにあるバクのトレーニングを発動。山札からカードを二枚ひき、このターンサーナイトLV.Xのワザの与えるダメージが10増える」
 達人の帯とバクのトレーニングの効果ですでにサーナイトLV.Xのワザの威力は+30。ヤバい、ワザを受ければ一撃もある。
「サーナイトLV.Xで仕留める攻撃!」
 技の宣言と同時にパァァンと銃声に似たような音がする。何があったのか、まさか発砲かときょろきょろ場を見渡すと、知らぬ間にウォッシュロトム0/90が倒れ伏していた。
「このワザはサーナイトLV.X以外で残りHPが一番低いポケモン一匹を気絶させるワザ。つまり今現在この場で残りHP90で最も低いウォッシュロトムを気絶させる」
「いっ、一撃で!?」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 マズい、次のターンで何か手を打たなければ負けてしまう。
 俺のバトル場には新たに出たエレキブル100/100。しかしベンチには他にポケモンがいない。
 今の喜田のサイドは一枚、つまり一度でも仕留めるを使われてしまうと俺は負けてしまう。
 負ける? イヤだ。負けたくない。勝ちたい。勝つんだ。勝つにはどうする? そんなの決まってるじゃないか。
 この番でサーナイトLV.Xを倒さなくちゃいけない。でも、どうやって倒す……?
 達人の帯でHPも上がったサーナイトLV.X80/150を倒す以前にエレキブルでワザを使うことさえままならない。
 今のエレキブルにはエネルギーがついていないのに、エレキブルの唯一のワザ放電には雷無無の三枚が必要。
 どうしろって言うんだ、くっそ!
「俺の、タァーン!」
 エレキブルLV.X。そうか、その手があったか! 今引いたこのカードが最後のチャンス!
「行くぜ、俺はバトル場のエレキブルをレベルアップさせる!」
 エレキブルは両腕でガッツポーズを取り、地鳴りのような雄叫びをあげながら光に包まれてエレキブルLV.X120/120にレベルアップする。
「まずエレキブルLV.Xに雷エネルギーをつけ、こいつのポケパワーを発動する。電気エンジン! トラッシュの雷エネルギーをこのポケモンにつける!」
 レベルアップ前は放電しか使えなかったけど、今はもう一つ新しいワザが使える。そのワザを使うためのエネルギーは用意出来ている。
「エレキブルLV.Xで攻撃。パルスバリア! このワザは通常の50ダメージに加え、場の相手のポケモンの道具とスタジアムをトラッシュさせる! サーナイトLV.Xの達人の帯ごと粉砕だ!」
 達人の帯が無くなりかつパルスバリアのダメージを受けたことによってサーナイトLV.XのHPは10/130になる。気絶させるにはギリギリ届かなかったか。
「残念だね。頑張って攻撃したのはいいけれど、HPが10でも俺の番が回ってこれば何も問題はない! 俺のターン。これで終わりだ! サーナイトLV.Xで仕留める攻撃!」
 再び銃声。と同時に耳に響く甲高い音が鳴る。決まった。ニヤリと笑ったのは……俺だ。向かいの喜田は起こり得ないハプニングに驚いて可哀そうなほど青ざめている。
「なんでエレキブルLV.Xは倒れない……。場にはサーナイトLV.XとエレキブルLV.Xしかいないから、どうしてもエレキブルLV.Xが倒れるはずなのに……?」
「甘いな! 前の番に使ったパルスバリアのもう一つの効果だ。このワザの効果で相手のスタジアムかポケモンの道具をトラッシュしたとき、次の相手の番にこいつはダメージもワザの効果も一切受けない!」
「な、なんだって!?」
「さあこれで終わりだ! 俺のターン。もう一度パルスバリア!」
 二度目のパルスバリアがサーナイトLV.Xの残りHPを削り取る。力を失ったサーナイトLV.Xはふらふらと前に倒れていく。
 まだ俺のサイドは後一枚残っているが、相手に戦えるポケモンがいなくなり、これで俺の勝ちだ。
 決まった! やれば出来るじゃん俺、この調子で勝ち進んでやる。準決勝、一体誰が俺の相手になろうとも全力でぶつかるだけだ。



翔「今日のキーカードはエレキブルLV.X!
  エネルギーをのせた相手にダメージ!
  パルスバリアで守りながら攻めれるぞ!」

エレキブルLV.X HP120 雷 (DP2)
ポケボディー ショッキングテール
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手プレイヤーが、手札からエネルギーを出してポケモンに1枚つけるたび、そのポケモンにダメージカウンターを2個のせる。
雷無 パルスバリア  50
 場にある相手の「ポケモンのどうぐ」「スタジアム」を、すべてトラッシュ。トラッシュした場合、次の相手の番、自分はワザによるダメージや効果を受けない。
─このカードは、バトル場のエレキブルに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 鋼−20 にげる 3

───
喜田敏光の使用デッキ
「愛しのサーナイト」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-650.html


  [No.589] 28話 準決勝を懸けて 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/20(Wed) 09:07:20   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
28話 準決勝を懸けて (画像サイズ: 400×500 18kB)

 風見杯も三回戦、言い方を変えると準々決勝に進んだ。既に準決勝進出者も一人決まっている。藤原拓哉だ。
 クラスメートなので同じ教室にいるが存在感も薄く、翔に無理やり言われて俺と戦ったことがあるが、初心者すぎて相手にならなかった。そんなヤツが準決勝進出だと?
 よっぽど相手が弱いか何かだろう。藤原の対戦は自分の対戦と被ったりなどして時間の都合が合わず見れていないが、……まさかな。
 準決勝ではないが準々決勝に長岡も進んでいる。俺と翔との対戦の後に興味を持って始めたという割には、見た感じ何かしらセンスがある。
 いざという時の運が優れている、言い方を変えれば運以外は並程度で特に秀でたものがない。もし長岡が準々決勝を勝ち、俺もコマを進めれば準決勝でぶつかることになる、か。面白い。
 時刻はすでに昼を回り二時。時間がいっぱいいっぱいだったため俺はまだ昼食を食べれていない。参加者の中にはコンビニでおにぎりやら何やらを買った奴がいるらしく、勝手に飲食禁止のエリアで食べている。そういう奴らは係員に注意され、飲食許可のエリアへ追いやられる。
 そして俺もその飲食許可エリアへ足を向けているのだが、目的は昼飯を取るのではなく人に会うためだ。
「こんにちは」
 ちょうど昼を終わらせたのか、薄っぺらいコンビニの袋を閉まっているレディーススーツ姿の女性に声をかける。
 身長はわずか百三十程度で俺とは頭二つ程の差があるため、必然的に相手は俺を見上げるようになる。
「あら、風見君」
「こんなところにいたんですね」
「さっきまでは見てたわ。大会は順調みたいね」
「お陰様で」
 彼女は株式会社クリーチャーズに所属している松野藍(まつの あい)。仕事柄、付き合いの多い関係だ。
 うちの会社、TECKは父が大学の仲間と共に作り上げた会社(母体は町工場)であり、一代で成した会社だ。
 しかし父と母が不仲で、父親が忙しいのを良いことに母親が俺を北海道の洋館に閉じ込めていた……らしい。詳しく知らないのはこれは小耳に挟んだ程度の話だからである。
 そんな感じで小学校、中学校と過ぎ去って行ったのだが、高校生になる前に突如父が俺の元にやって来て、俺を東京に連れて行ってくれた。
 その際俺をエンジニアとして買ってくれてTECKの特別社員として入社、学校が終わるとすぐに会社でいろんな機器の開発に携わることになった。
 そしてこの風見杯は俺にとって非常に重要なプロジェクトだ。この3D投影機を実戦で初投入する。
 このプロモーションが上手く行けば、後の一番の狙いであるプロジェクトがかなり良い状態になる。社運がかかっていると言っても過言ではない。
「でもこの調子だと風見くんが優勝しそうね」
「まだ油断は出来ません」
「いつになく弱気じゃない。何かあったの?」
「彼です」
 俺は翔のステージを指差す。相手は……、同じクラスのあの転校生か。黒川唯、彼女はここ一番では強くないが安定した実力の持ち主だ。
 丁度彼女がドンカラスをレベルアップさせたところらしい。レベルアップさせると、既に貼られてある月光のスタジアムの効果、超と悪タイプのポケモンは逃げるエネルギーがなくなる、を利用してベンチに逃がし、ヤミカラスへ交代させる。
 ドンカラスのポケボディー闇の遺伝子は、自分のヤミカラスはドンカラスに必要なワザエネルギーがついていればドンカラスのワザをワザエネルギーなしで使うことが出来る面白いものだ。黒川はこれを早速活かすつもりだ。
「へえ。注目選手みたいね」
「既に負けたことがあって」
「なるほどね。そこまでの実力者なら私も是非ともお手合わせ願いたいわ」
「いずれ戦える機会は来ますよ」
「そうだといいけど」
 翔のゴウカザルはヤミカラスの攻撃に耐えきり、逆に返しの番に怒り攻撃でヤミカラスを倒す。これで翔のサイドの残りが一枚になりリーチがかかる。
 そうだ。お前はこの程度で負けるようなやつじゃない。
「へえ。もう追い詰めたのね」
「デッキの回転の良さと、ここ一番の引きのよさ。それが魅力です」
「珍しいじゃない。過大評価」
「そう……かもしれませんね」
「彼の名前は?」
「奥村翔」
 翔の名前を告げると、松野さんの表情が一気に驚きに包まれる。知っているのだろうか? いや、翔を見て分からなくて名前だけしか知らない、か。だが翔は別に有名なプレイヤーでもないし、情報力には自信のある俺でも聞いたことがない。何を知っているんだ。
 一方でステージでは黒川はドンカラスLV.Xの闇の羽ばたきで攻撃し、翔のゴウカザルを撃破した。闇の羽ばたきはこのワザで相手を気絶させたとき、トラッシュのカードを手札に加えることができる効果を持つ。ここからでは何を加えたのかは見えないが、勿論良いカードを手にしたのだろう。両者サイド一枚、対戦もクライマックスに入る。
「あいつのことを知ってるんですか?」
「ええ。私の前任者の息子さんなの。非常に優しく朗らかな人だったんだけど、飛行機の事故で亡くなられて……。彼からはたくさんの事を学んで、私の恩人のような人だから」
「……」
 寂しそうな横顔の松野さんに何か声をかけようとしたが、何と言っていいのか声をかけられない。こんなケースに出遭ったことがほとんどないためにどう対処していいのか分からない。
 気安く言葉をかけるのだけはよろしくないことだけは分かっているし、適切な言葉が見つからないので沈黙を守る。
 目のやり場に困った俺は仕方ないので翔の試合に視線を移す。達人の帯をつけたバシャーモが、黒川のドンカラスLV.Xを強襲する。激しい炎が舞い、ドンカラスを一撃で吹き飛ばしてしまう。これで勝負は決まった。
 予定では翔と黒川の対戦が終わると俺の準々決勝の対戦が入ることになっている。招集の前にさっさと赴き、集中力を高めておきたい。
「さて、出番なので行ってきますね」
「風見君……」
「はい?」
「応援してるわよ」
「安心してください。そう簡単に俺は負けませんよ」
 応援、か。一人で勝手に戦うのとは違って、背中を後押しされている気がする。なんだか気持が落ち着いて、どことなく頼もしい。こういうのも悪くないじゃないか。
 なおさら負けられなくなった俺は、託された気持ちを背負って次の戦いへ赴く。



翔「今日のキーカードはドンカラスLV.X!
  やみのはばたきで敵を倒し、
  使ったトレーナーやサポーターをサルベージ(回収)!」

ドンカラスLV.X HP110 悪 (DP4)
無無 だましうち
 相手のポケモン1匹に、そのポケモンの弱点・抵抗力・すべての効果に関係なく、40ダメージ。
悪悪無 やみのはばたき  60
 このワザのダメージで、相手の残りHPがなくなったとき、のぞむなら、自分のトラッシュのカードを1枚、相手プレイヤーに見せてから、手札に加えてよい。
─このカードは、バトル場のエレキブルに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 雷+30 抵抗力 闘−20 にげる 0


(挿絵提供:びすこさん)


  [No.601] 29話 至上命令! 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/27(Wed) 09:50:33   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「よろしくお願いします」
 対戦開始のブザーが鳴り、準々決勝第三試合の火蓋が切って落とされる。
 今回の俺、風見雄大の対戦相手は田嶋玲子。俺よりも年齢が二つ程高いようだ。余談だが、この準々決勝には中学生以下は一人も残っていない。カードゲームにおいては子どもと大人では、財力とプレイングが物を言うところがある。年齢の低いものから抜けていくとなるのは、大会をする前から予想出来ていた事だった。
「私のターンから始めます」
 先攻は相手からだ。相手のバトル場にはラプラス80/80。俺のバトル場にはフカマル60/60。互いにベンチにはまだポケモンがいない。
「私はシェイミ(70/70)をベンチに出し、ラプラスに水エネルギーをつけてラプラスのワザを使います。運び込む! その効果で山札から『ポケモンのどうぐ』、『サポーター』、『基本エネルギー』を手札に加えるわ。草エネルギーとミズキの検索、しあわせタマゴを手札に加えてターンエンド!」
 まずは堅実に土台を固めてきたか。ラプラスとシェイミ。水と草タイプと考えるのが妥当なところだろうか。
「今度は俺の番だ」
 新たにカードを引くが、手札の大抵が進化系のカードばかりで動くに動けない。だったら。
「フカマルにコールエネルギーをつける。そしてこの瞬間に特殊エネルギー、コールエネルギーの効果が発動! 自分の山札からたねポケモンを二匹までベンチに出す。その効果でタツベイを二匹を山札からベンチに出させてもらう」
 ベンチエリアに隣同士でタツベイ50/50が並ぶ。このデッキは高火力だが、速攻出来る代物ではない。コールエネルギーはそれをなんとか助けようとする俺なりの工夫だ。
「コールエネルギーの効果を発動した場合、強制的に自分の番は終わる」
「それなら私のターン、ポッチャマ(60/60)をベンチに出し、手札のサポーターカードを発動。ミズキの検索」
 前の番にラプラスで加えたカードか……。ミズキの検索は自分の手札を一枚戻す代わりに山札から好きなポケモンを手札に加えれるカード。果たして何を引いてくるか。
「手札を一枚戻して、私はエンペルトを手札に加えるわ。そして不思議なアメ発動! ポッチャマをエンペルトに進化させるわ」
 光の柱がポッチャマを包むとポッチャマはシルエット状態のまま姿を変えていく。ぐんぐん背が伸び体が鋭くなって、エンペルト130/130のフォルムを形成すると、光の柱はスッと消えていった。
 さて、エースクラスカードが早速のお出ましか。どう仕掛けてくる。
「エンペルトに水エネルギーをつけて、この番もラプラスのワザ運び込むを使うわ! 再び草エネルギーとしあわせタマゴ、ミズキの検索を手札に加えて私の番はおしまいよ」
 また同じカードをサーチ。幸いにもまだ時間をかけてくれるらしい。ならばそのうちにこちらも一気に攻め立てれるよう準備をしよう。
「俺のターンだ。俺は、ベンチのタツベイを二匹ともコモルー(80/80)に進化させる。そしてフカマルに炎エネルギーをつけてこちらも不思議なアメだ!」
 ポッチャマと同じエフェクトがフカマルにも起きる。先ほどの小さなフカマルから大きなガブリアス130/130に変わる瞬間は圧巻である。
「そして手札のサポーター、デンジの哲学を発動。手札が六枚になるまで山札からカードを引く。今の俺の手札は一枚。よって五枚引かせてもらおう」
 引いたカードはボーマンダ、ガバイト、炎エネルギー二枚、水エネルギー一枚。あまり良い言いにくいが、文句を言ったところで何か変わるモノでもない。
「ガブリアスで攻撃。ガードクロー! このワザは相手に40ダメージを与えるとともに、次のターンにこのガブリアスが受けるダメージを20軽減する」
 ガブリアスの翼がラプラスの首めがけて襲いかかり、攻撃の動作を終えたガブリアスは両腕で顔を隠し防御態勢に移る。これでラプラスの残りHPは40/80。次のターン、もう一度ガードクローで攻撃すれば気絶させれるだろう。
「私のターン。もう一度ミズキの検索を発動よ。手札を一枚戻し、ポケモンを一枚手札に加える。続いてトレーナーカードのゴージャスボールも発動するわ」
 ゴージャスボールはノーリスクで山札から好きなポケモンを一枚手札に加える優秀なカード。ミズキの検索も同じサーチカードなのでこのターンで手札に任意のポケモンが二匹加わることになる。
「エンペルトに水エネルギーをつけ、ベンチにチコリータ(50/50)を出すわ。ラプラスの水エネルギーをトラッシュして逃がし、エンペルトを新たにバトル場に」
 予想はしていたが、やはり守りに入られた。ベンチを攻撃する術が無いのでラプラスに追撃することが出来ない。
「そして更にエンペルトをレベルアップさせるわ! カモン、エンペルトLV.X!」
 ポケモンのレベルアップは通常はバトル場でしか行えない。だがその代わりより強力なステータスを得られる。今現れたエンペルトLV.X140/140も、恐らく。
「ここでエンペルトLV.Xのポケパワーを発動。至上命令!」
 ポケパワー宣言とともにエンペルトが右の翼を俺に向け、青いレーザー光線のようなものを二本俺の手札に突き刺す。
「むっ」
「至上命令は自分の番に一回使えるポケパワー。相手の手札をオモテを見ずに二枚選んでそのカードを相手の番の終わりまで手札として扱わずバトル場の横に置いてもらうわ」
 手札封じか。ボーマンダと炎エネルギーが持って行かれた。次の番に即座にベンチのコモルーを進化させようと思っていたが、予想していないところから歯車が狂わされてしまった。
「まだよ。エンペルトLV.Xで攻撃。氷の刃!」
 エンペルトLV.Xは地面スレスレを凄まじい速度で滑ると、バトル場のガブリアス……ではなくベンチのコモルーに鋭い右の翼を振り下ろす。
「ベンチポケモンに攻撃か!」
 一撃をモロに受けたコモルー40/80は横に転ばされる。もう一度氷の刃を受ければ気絶してしまう。
 ここに来て至上命令で持って行かれたボーマンダがジワジワと効いてくる。次の番にボーマンダに進化していればコモルーの最大HPも上昇し、また氷の刃を受けても耐えれるようになるのだが……。
「俺のターン」
 引いたカードはゴージャスボール。よし、俺のデッキにはボーマンダは二枚ある。ゴージャスボールの効果で山札からボーマンダを手札に加えれば。
「グッズカード、ゴージャスボールを発動だ。その効果で山札から……」
 残り十枚になった山札を探すが、そこにはボーマンダの姿が見当たらない。一体どこに行ったんだ。
 至上命令で封じられたボーマンダが一枚。残りの一枚は手札に無いし、トラッシュにも無い。デッキにも無ければ……。
 くっ、サイドカードか。そんなところにあるのならば手出しが出来ない。
「俺はフカマルを手札に加える。そしてガブリアスに水エネルギーをつけて攻撃だ。スピードインパクト!」
 ガブリアスが衝撃波を発しつつエンペルトLV.Xに頭から突撃していく。轟音を生みながら、エンペルトLV.Xの巨体を軽々と弾き飛ばした。
「このスピードインパクトの威力は120だが、相手のエネルギーの数かける20分の威力が軽減される。エンペルトLV.Xには水エネルギーが二枚ついているので80ダメージだ」
 エンペルトLV.Xの残りHPは60/140だ。たとえ次の番にコモルーが倒されようと、ガブリアスで返り討ちにすることが出来る。そして俺の番が終わったことで至上命令で封じられていたボーマンダと炎エネルギーが再び手札に戻ってくる。
「私の番よ。草エネルギーをシェイミにつけるわ」
 無理をしてエンペルトLV.Xにエネルギーをつけず、次のポケモンを育てるか。流石準々決勝と言うべきか、もう甘いプレイングを見せてくれる相手はそうそういないということだろう。
「まずはチコリータをベイリーフ(80/80)に進化。そして手札からトレーナーカード、レベルMAX!」
「レベルMAXだと!?」
「コイントスをしてオモテなら自分の山札からLV.Xのポケモンを一枚選べ、自分のポケモンに重ねることが出来る効果よ。さあコイントス」
 相手のベンチはシェイミとラプラスとベイリーフ。その中でLV.Xのカードが存在するのはカードはシェイミのみ。シェイミのレベルアップを狙っているのだろう。
 しかも厄介な事に、通常レベルアップはバトル場でしか行えないのだが、このカードはベンチでのレベルアップを可能にさせる。
「よし、オモテね。シェイミをレベルアップさせるわ」
 ベンチにいるシェイミが眩い光を放ち、シェイミLV.X100/100へと進化する。一見小さくてひ弱そうだが、このカードはとんでもない能力を持っている。
 レベルアップをさせるにしても、別のカードであって欲しかった。LV.Xの中でもとりわけ厄介なそのポケボディーが、番狂わせとなってしまう。
「さあ、シェイミLV.Xのポケボディー発動よ!」



翔「今日のキーカードはエンペルトLV.X!
  至上命令で相手を押えつつ、
  ハイドロインパクトで大ダメージだ!」

エンペルトLV.X HP140 水 (DP1)
ポケパワー しじょうめいれい
 自分の番に1回使える。相手の手札を、オモテを見ないで2枚まで選ぶ。選んだカードは、ウラのまま相手のバトル場の横におき、手札としてあつかわれない。次の相手の番の終わりに、それらのカードを相手の手札にもどす。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
水水水 ハイドロインパクト
 相手のポケモン1匹に80ダメージ。次の自分の番、自分はワザを使えない。
─このカードは、バトル場のエンペルトに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水+30 抵抗力 ─ にげる 2

───
奥村雫の使用デッキ
「エネジックアクア」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-656.html


  [No.625] 30話 オーバースペック 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/03(Wed) 07:34:47   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さあ、シェイミLV.Xのポケボディー発動よ! 感謝の気持ち!」
 シェイミLV.Xの厄介さはなんといってもポケボディーである感謝の気持ち。シェイミLV.X以外の草ポケモンの最大HPを40も増やしてしまう。
 40。バカみたいな上昇幅だ。お陰様で相手のベンチのベイリーフの最大HPは80だったのが120まで上昇してしまう。
 風見杯準々決勝、準決勝へ進む四人を絞る熾烈な戦い。互いにサイドは残り三枚。俺のバトル場には炎、水、コールエネルギーがついたガブリアス130/130、ベンチにはコモルー40/80とコモルー80/80。
 そして相手の田嶋のバトル場には水エネルギー二枚ついているエンペルトLV.X60/140、ベンチにはベイリーフ120/120、ラプラス40/80、草エネルギー一枚ついたシェイミLV.X100/100。
 互いに上手いこと攻撃を定められず、睨みあいが続く中。レベルMAXを絡めて田嶋が一気に攻勢に動き出す。
「エンペルトLV.Xのポケパワー、至上命令を使うわ」
 宣言と同時に、エンペルトLV.Xの指先から発された青いレーザーが発せられ、俺のカードを二枚、次の俺の番が終わるまで使用不可能にする。
 その中にはまたもボーマンダのカードが含まれていた。まだボーマンダに進化させてくれないか!
「わたしはエンペルトLV.Xにポケモンのどうぐ、しあわせタマゴをつけて君のコモルーに攻撃よ。氷の刃!」
 エンペルトLV.Xがコモルーに恐るべきスピードで肉薄し、鋭く凍らせた右翼の刃でコモルーにトドメの一閃。ラケットに弾かれたボールのように吹き飛ばされたコモルー0/80は立ち上がること無く、消えていく。
「コモルーが気絶したことにより、私はサイドを一枚引くわ」
 先にサイドを取られたか。やはり至上命令で前の番、コモルーをボーマンダに進化出来なかったことが響いてる。
 だが次の番でエンペルトLV.Xを仕留め、至上命令も封じる。
「今度は俺の番だ。ベンチのコモルーに炎エネルギーをつける。そしてガブリアスで攻撃、スピードインパクト!」
 一気に加速し衝撃波と化したガブリアスが、エンペルトLV.Xに大きな体当たりを食らわす。このワザの威力は120に、ダメージを与える相手についているエネルギーの枚数×20ダメージを引いたもの。よって120−20×2=80。
 正面から攻撃を受けて、弾き飛ばされたエンペルトLV.X0/140は仰向けに倒れる。
「サイドを引かせてもらうぞ」
 そうして引いたサイドはボーマンダ。それに加え、自分の番が終わったため至上命令の効果が切れて弾かれていた手札二枚が戻ってくる。お陰で手札に二枚のボーマンダ、コモルー一匹が欠けた今となってはいい迷惑だ。
「ここでエンペルトLV.Xについていたしあわせタマゴの効果発動よ。このカードをつけているポケモンが相手のワザによって気絶させられたとき、私は手札が七枚になるようドローするわ」
「七枚か……」
 田嶋の手札は四枚なので、三枚引く計算になる。やられることを想定しての防衛策か。対処のしようがないので計算通り事が進むハメになるが、これくらいは厭わない。
 そして田嶋の次のポケモンがシェイミLV.X100/100ということに、少々意表を突かれた。シェイミLV.Xが倒れればポケボディー、感謝の気持ちの効果は切れる。それならば最初からレベルMAXを使う必要があったのかも問いたくなる。一体何のつもりだ?
「私の番よ。まずはベイリーフをメガニウム170/170(感謝の気持ちの効果込みのHP)に進化させるわ。続いて手札の草エネルギーをシェイミにつけて、トレーナーカードを発動。エネルギーパッチ! コイントスをしてオモテならトラッシュのエネルギー一枚を自分のポケモンにつける」
 シェイミLV.Xのワザ、シードフレアは草無無の三つのエネルギーを要求するが、今の段階では草エネルギー二枚しかない。エネルギーパッチで補おうという算段か。
 目論見通り、コイン判定はオモテ。芳しくないな、上手いこと事が運ばれている。
「私はトラッシュの水エネルギーをシェイミLV.Xにつける。さあ、シェイミLV.Xで攻撃。シードフレア! 私はその効果で手札の草エネルギーを三枚メガニウムにつけるわ。更に三枚つけることによってシードフレアのダメージが上昇、つけた草エネルギーかける20ダメージが追加され、元の威力40にそれを加算して計100ダメージ!」
「何!?」
 シェイミの背中から幾重もの緑の波紋が発せられ、ガブリアスを強襲する。吹き飛ばされ、とはいかず地面でふんばるガブリアス30/130だが、バトル場からだいぶ圧されてベンチにいるコモルーの目先まで追いやられている。
 ダメージもさながらシードフレアの効果もかなり苦しい。草エネルギー限定だがつけ放題はいくらなんでもやりすぎだ。メガニウムまで臨戦態勢になるとは。
「だがこの瞬間、ガブリアスのポケボディー発動。竜の威圧! ガブリアスに攻撃をしたポケモンのエネルギー一枚を手札に戻す。俺は水エネルギーを手札に戻させる」
 再びシードフレアで悪用されるのを防ぐため、水エネルギーを戻させる。しかしあまりに小さすぎる反逆だ。どうすれば状況を打破出来るか。考えるんだ。
「俺のターンだ」
 ここで引いたカードはガブリアスLV.X。悪くは無い。だが、良いと言うほどでも無い。一気に状況を好転させる力が無い、ならばここは堪え時だ。
「俺はコモルーをボーマンダ(140/140)に進化させ、ベンチにフカマル(60/60)を出す」
 今引いたカードが水エネルギーだったとする。それをボーマンダにつける。ガブリアスは逃げるエネルギーが不要なのですぐさまボーマンダに交代出来る。
 相手のベンチには感謝の気持ちの効果でHPが170/170となったメガニウムがいるので、ボーマンダのポケボディーであるバトルドーパミンが発動可能となる。
 バトルドーパミンによって威力120の蒸気の渦が炎と水エネルギーだけで使用出来るので、シェイミLV.X100/100を一撃で倒せる。
 だが残念ながら水エネルギーはない。そしてこのままだと次のターンにシェイミはベンチに逃げるだろう。だが、打つ手がない以上違う策を講じるしかない。
「ボーマンダに炎エネルギーをつけ、俺はガブリアスをレベルアップさせる。そしてレベルアップした瞬間にガブリアスLV.X(140/140)のポケパワー、竜の波動を発動させる。このカードがレベルアップしたとき、コインを三回投げてオモテの数ぶんのダメージカウンターを相手のベンチポケモン全員に乗せる」
「ぜ、全員ですって!?」
 ……オモテ、ウラ、オモテ。コイントスによる判定が終わると、ガブリアスLV.Xが深く息を吸い込み、口を開けば白い波紋が周囲に広がる。波紋はシェイミLV.Xを通過して田嶋のベンチのポケモン達にダメージを与える。
 オモテが二回でベンチのラプラスとメガニウムに20ダメージずつ。田嶋のベンチポケモンの残りHPはようやっとラプラス20/80、メガニウム150/170。まだまだ崩せそうにない。
「なら、ガブリアスLV.Xで攻撃。スピードインパクト!」
 何もしないより苦肉の策! シェイミLV.Xにはエネルギーが二枚なので80ダメージ。しかしシェイミLV.X20/100はなんとか持ちこたえる。やはりガブリアスLV.Xでは届かないか!
 さらにこのデッキの弱点はベンチには手が出せないことにもある。このガブリアスLV.Xのポケパワーでしかダメージを与えられないので、ベンチに逃げられてしまうと一切の対処が出来ない。
 つまりHPをどれだけ下げようと、逃げられてしまえばトドメが刺せない。シェイミLV.Xを仕留め損ねたツケは回ってくる、か。
「私のターン。シェイミLV.Xについている草エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、メガニウムを場に出すわ。そしてメガニウムでガブリアスLV.Xに攻撃よ。火事場の一撃!」
 メガニウムがガブリアスLV.Xに向かって走り、頭から突っ込んでくる。車に撥ねられたかのようにガブリアスLV.X0/140の体は吹っ飛び、そのまま地面に大きな音を立てて倒れこむ。
「サイドを引いて、ターンエンドよ」
 火事場の一撃は威力60。残りHP僅か30のガブリアスLV.Xでは耐えきれるワザではない。これで田嶋のサイドは後一枚か。ついに余裕が無くなった。
 やむなく俺はボーマンダをバトル場に繰り出す。
「俺の番だ。さあ行くぞ! 手札の水エネルギーをボーマンダにつける。ポケボディーのバトルドーパミンによって、相手の場にHPが120以上のポケモンがいるとき、ワザエネルギーの無色エネルギーが不要になるので蒸気の渦がエネルギー二つで使用できる。そして攻撃だ。蒸気の渦!」
 ボーマンダが放つ白い強烈な渦状のブレス攻撃がメガニウムに向けて吹き荒れる。重たい巨体を持ち上げるほどの一撃で、ついに異常な程と思われたメガニウムのHPを30/170まで削れた。あと一歩、あと一歩だけで倒せるとこまでやってきた。メガニウムさえ突破出来れば残りの田嶋のポケモンは満身創痍、全てはここにかかっている。
 蒸気の渦でボーマンダについている炎と水エネルギーをトラッシュしたが、まだ炎エネルギーが一枚残っている。そうなれば次の俺の攻撃で、もう一つのワザ火炎が使える。効果はないワザだが、威力50のこのワザは、残りHPが虫の息になっている田嶋のポケモン全てを一撃で倒せる。
 とはいえ油断は禁物。メガニウムのもう一つのワザ、ウルトラパウダーが曲者だ。こちらはワザの威力は僅か20と微々たるものだが、コインを三回投げて一回目がオモテなら毒、二回目なら火傷、三回目ならマヒにさせることが出来る厄介な効果。
 毒や火傷だけではダメージを受けるだけだが、マヒにされてしまうとあらゆる行動が防がれてしまう。そうなってしまえば本当に勝負がどうなるか分かったものじゃない。
「私の番よ。……っ、メガニウムで攻撃するわ。ウルトラパウダー!」
 もしもここで三回目のコイントスがウラだと勝負は分からなくなる。もしそうでなければ返しの番に俺がメガニウムを倒し、そして次の番の田嶋は打点の低いラプラスか、エネルギーが足りなくてワザが使えないシェイミLV.Xをバトル場に晒すことになる。
 全てはこのウルトラパウダー次第だ。賽は投げられた。
「……オモテ、ウラ、ウラ」
 メガニウムが首の花から花粉のようなものを撒き散らす。グウウウウと苦しそうに悲鳴を上げるボーマンダ120/140がなった状態異常は、毒だけだ。
 よし、行ける。
「ポケモンチェックだ。毒のポケモンは各々の番が終わった後にあるポケモンチェックの時、ダメージカウンターを一つ乗せる。そして俺の番だ。ボーマンダに水エネルギーをつける」
 このメガニウムが倒れると田嶋の場からHPが120以上のポケモンがいなくなるのでバトルドーパミンの効果がな無くなる。しかし火炎に必要なワザエネルギーは炎無のみ。
 今水エネルギーをつけたことによって、いつでも火炎を継続して使えるようになる。ぬかりはない!
「ボーマンダでそのメガニウムにトドメだ。火炎!」
 先ほどの蒸気の渦とは違い、口から目が覚めるような真っ赤な炎の大きな弾がボーマンダから発せられる。メガニウムに被弾するや否や、激しい爆発がフィールドを包み込む。
「メガニウムはこれで気絶。サイドを引いて俺の番は終わりだ。そして、ポケモンチェックに入ったことでボーマンダに毒のダメージを乗せる」
 相手の最後のポケモンはシェイミLV.X20/100と虫の息。その一方で俺のボーマンダは毒などを受けたとはいえ、まだHPは100/140もある。さらに相手の残りの山札は二枚で、チャンスを産み出す可能性も低いだろう。
 田嶋が逆転するにはこの番に俺のボーマンダを倒すしかない。しかしその手段は無いはず。無いはず、だが何が起こるかなんて分からない。
 こういった相手の勝利の可能性が完全にまだ潰えていない時が非常に怖い。相手の一挙動が非常にスローに感じられ、自分の思考スピードが加速する。
 負けてしまうのではないかという不安、いや、大丈夫だという根拠のない自信、そして……。
「私のターン!」
 なんにせよこれが相手にとって最後のカードドローとなる。
 歯と歯を強く噛み合わせる。目にも力が入る。目だけではない、体のあらゆるところに力が入ってしまう。
 相手はなかなか動かない。どうした、どうした。必死に考えを巡らしているのか。周りが凍りついたかのような一時。膠着状態。そして彼女の出した結論は……。
「……降参します」
 深く安堵の息をつく。万が一、という状況にはならず無事次へ駒を進めれたか。頭での理解から遅れて、ふつふつと勝利の喜びが湧いてくる。
 降参の宣言と同時に、対戦終了のやかましいブザーが鳴り響く。カードを片付けてステージを降りると、待ちうけていたと思われる長岡は俺を見るや否や失礼にも俺を指差しこういう。
「俺も準々決勝勝ったぜ。だから次の準決勝、お前に絶対勝ってやる! 決勝に進むのはこの俺だからな」
「ふん、言ってくれるじゃないか。だがお前に実力差というものを骨身に教え込んでやろう」
 勝利の余韻に浸る間もなく、準決勝への緊張が始まる。ヤツの言葉から滲み出る確かな自信が、意気込みが。決して嘘ではないと胸を張る。
 良いだろう、俺とて出し惜しみは無しだ。



翔「今日のキーカードはシェイミLV.X。
  かんしゃのきもちで草タイプを支援!
  シードフレアでエネルギーをつけまくれ」

シェイミLV.X HP100 草 (破空)
ポケボディー かんしゃのきもち
 自分の場の草ポケモン全員(「シェイミ」はのぞく)の最大HPは、それぞれ「40」ずつ大きくなる。自分の場で、すでに別の「かんしゃのきもち」がはたらいているなら、このボディーははたらかない。
草無無 シードフレア 40+
 のぞむなら、自分の手札の草エネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけてよい。その場合、つけたエネルギーの枚数×20ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のシェイミに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 水−20 にげる 1

───
田嶋玲子の使用デッキ
「玲子スペシャル」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-661.html


  [No.627] 31話 怨み 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/07(Sun) 07:46:17   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 緊張してきた。何もないのに何かしないと不安になるから、意味無く辺りをキョロキョロ見渡したり、手を握って開いたりを繰り返す。
 こんなにジーッとしていられなくなるとは思わなかった。落ち着きがないとは割と普段から言われて来たけど、まさかここまでとは。
 ついにやってきた準決勝、同級生の藤原拓哉を倒し、風見と恭介のどちらか決勝に上がって来た方を倒す。そうすれば優勝だ。賞金だ。
 だが、気になるのは藤原拓哉。拓哉がなぜ準決勝に残っているのか。前々から学校で幾度となく対戦していたが、悪いがそこまでの実力を感じなかった。
 しかし現にここまで来たということは、何かあるということなのだろうか。もちろん、やるからには油断はしない。全力でやるつもりだ。
『準決勝第一試合を始めます。選手は試合会場七番にお集まりください』
 気合いは十分。コンディションも問題なし。さあ、一暴れしてくるか!



「拓哉、よくここまで来たな! 俺とお前で楽しい勝負にしようぜ!」
 右拳を前に突き出し、拓哉にそう言い放つ。気弱だけれど優しいあいつは、恐らく「うん」と笑顔で返してくるだろう。と、思っていたが様子がおかしい。
 似つかわしくない不気味な低い笑みを放つだけで、何も返してこない。おかしい。おかしいと言えば、あいつのトレードマークとも言える腰ほどまである長いストレートの銀色の髪が荒々しく方々に跳ねているのも、普段髪を気にする拓哉らしくなくて何か変な感じがする。
 その時だった。
「何が楽しい勝負だ。ふざけるな!」
 激しい剣幕で、空を割くような怒号に思わず体が震えてしまった。向かい側の拓哉の表情は険しく、いつもにこやかなあいつとは同一人物とは思えないほど暗い。
 あまりに突然な出来ごとに思わずたじろぐ俺は、怯んでしまってやや声が上ずる。
「ど、どうしたんだよ」
「俺様はお前を許さねぇ」
「は? 何をだよ」
 訳が分からない。どうしてそんなことを言われるのか、急いで検証しても浮かばない。
 悪戯なんてしてないし、嫌がらせもしてない。拓哉に対して嫌がるようなことは一切してないはずだ。
 だったら何故。思案を続ける俺に痺れを切らしたかのように、さらに怒号が飛んでくる。
「あぁ!? どこまでもふざけた野郎だ!」
「いや、その……」
 頭が回らない事に加え、驚きや戸惑いが足を引っ張って上手い返しが出来ない。くそ、ワケが分かんねえ!
「お前は俺様を。いいや、俺様の分身を傷つけた。それが許せねえ」
「はぁ!? 分身って何だ? ちょ、ちょっとどういうことか分かるように言ってくれ! さっきからさっぱり分からん」
「けっ……。察しの悪いヤツだな」
 察し? バカ、無茶言え。分身ってどういうことなんだ。
 もしかしてあいつは拓哉のそっくりさんか何かなのか? ダメだ、もう頭がこんがらがってゆっくり考えられない。だというのにあいつの鋭い目線のせいでまるで尋問されているかのような気になる。
「拓哉の親戚か何かか……? あいつは一人っ子だったはずだし」
「違ェよ! 俺は俺だ。藤原拓哉だ」
「じゃあなんだ。同姓同名の──」
「それでもねェ! 俺が正真正銘お前らの知る藤原拓哉……いや、お前が実際に俺と会うのは初めてだな」
「もうさっぱり分かんねえよ! 何なんだ一体!」
「俺はアイツの……。藤原拓哉の負の感情そのものだ。傷つき、ボロボロになったあいつを守るために生まれた人格だ!」
「じ、人格だって!?」
 な、何を言ってるんだこいつ。人格ってアレか……。水曜の夜にやってそうなバラエティー番組でたまに放送してたりする二重人格だとかそんな感じだなんて言うのか。
 まあ、確かに本当にそうであるならこの普段と違う様子も納得出来るっちゃあ出来るが……。
「だからってちょっと待て! 俺何かしたか!?」
「あァ? 自覚ないとは本当におめでたい野郎だ。全てはこいつが元凶だ!」
 拓哉は裏面のポケモンカードを俺に見せつける。さっきから勿体ぶるような事ばっかするせいで、全然事が進まない。
 だが今回はあいつが何を指しているか、流石に分かるぞ。
「ポケモンカードか」
「ああ。その通りだ」
「それは分かったけどどうして!」
「……。お前らが高校入学したばかりの時に俺に話しかけてくれた時は正直言って嬉しかった。中学時代に虐めを受けていた身としては、お前らが差し伸べてくれた手、かけてくれた言葉、何より共に居られると事がとてつもない喜びだった」
「それはどうも……」
「そしてある日、奥村翔。お前は俺様にカードを教えた。カードもくれた。とは言っても所詮はもらったカード。そんなカードを集めた紙束デッキでは、対戦で勝つには無謀にも近い」
 確かに俺が拓哉にあげたカードは、俺にとっては不要だなと思ったカードだった。流石に必要なカードまでは渡せなかった。だが、そこは仕方がないことだろう。
 こちとら裕福な家庭ではない。そこまで恵んでやれるほど、俺は余裕が無い。
「お前らといるのは楽しいし、遊ぶのは楽しい。しかし負け続けるにつれ一つの欲望が産まれた。……勝利への渇望だ」
「……」
「だがうちは両親が離婚し、母親との二人暮らし。金が無い我が家の家計でポケモンカードを続けるのはいかんせん厳しいものがあった。僅かな貯蓄を切り崩し、カードを買っていた矢先の出来事だ。母親にカードが見つかり、酷い目に遭った」
 拓哉が服をめくり上げると、右のわき腹に青く変色した痣が姿を現す。俺と拓哉は十メートル程離れているのにくっきりと見えるそれに、思わず息を飲んだ。
「む、惨い……。まさかそれって!」
「そうだ。母親にやられたんだ。母親にはポケモンカードなんて買う事は極めて愚行に見えたらしい。お前が教えたポケモンカードのせいで、綱渡り状態だった親子関係も限界に来た。崩壊だ。体も心も傷ついた俺、いや、俺の分身は助けを求めた!」
「だからお前がいるってことか……」
「分かってるじゃねェか! だったら俺が仕返しに何をしてやったか分かるよな?」
 そんなこと……知るもんか。言葉にしようとしたが、喉に突っかかって出て来ない。この間の持ち方から少なくともよろしいものではない。もしかして、と最悪の予想をしている時。
 突然、拓哉の唇の両端がつり上がる。とてつもない悪寒にゾッとしたが、その予感ははずれではなかった。
「俺様は怒り余って『こうした』んだよ!」
 拓哉が右手を横に薙ぎ、場外でぼんやりしていた小学生くらいの男の子を指差すと、その男の子の足元から紫色の靄(もや)が現れて彼を包み込んでしまう。
「な、何だ、何が起きてるんだ!?」
 嘘だ。まだ対戦は始まって無いし、そうだとしてもあそこはステージの外。ポケモンのエフェクトではないはず。だというのになんなんだ? 拓哉の手にはスプレーとかそういった小道具の類は一切ない。
 しかしそれだけじゃなかった。靄が晴れるとそこに男の子の姿が無い。辺りを探せど、探せど、探しても。いたはずの彼の姿がいない。
 消えたというのか? そんな事がっ……!
「あの子はどうした!」
 待ってましたと言わんばかりに拓哉の顔が喜色に変わった。ククク、と喉を数度鳴らし、少しずつそれが大きくなってやがてハハハハハッ! と大きく狂気じみた笑い声を木霊させる。
「『別の次元に幽閉した』んだよ。これが俺様の能力(ちから)だァ!」
「ち、能力!? 何なんだそれは! 答えろ!」
「知ったこっちゃねェ! カードに触れてたら気付いたら力が湧いて来たんだ。今なら俺様の望むように出来る……。そんな気がする!」
「まさか……。それをお前の親にしたのか!?」
「だったらどうした。お前がカードを勧めたせいで身に付けた力でな! お前が俺にカードを勧めさえしなければこういうことにはならなかった」
「くっ、そんなの結果論だ!」
「なんとでも言え! お前はクラスで一人ぼっちだった俺様をお前らの仲間にしたわけじゃあない。お前の遊び相手を増やすという自己満足のために俺に近づいたんだ」
「違うっ……! 俺は──」
 なんて逆恨みなんだ。ダメだ、拓哉の暴走が収まらない。しかも得体の知れない謎の能力まである。となると下手な手出しが出来ない。
「だったら勝負だ! 俺が勝てばさっきの男の子や、他の人達を解放しろ!」
「いいぜ……。だが、だがだ! その代わりお前が負けたらどうなるか分かるよなァ!? あァ?」
 負ければ逆に俺が拓哉にさっきの男の子と同じ目に合う……か。
 どっちにしろ言葉で説得は無理だ。こいつで。ポケモンカードでぶつかって、あいつの心に直接当たる!
「さあ、行くぞ!」



翔「今日のキーカードはゴージャスボール!
  好きなポケモンをサーチ出来るぞ!
  ただしデメリットルールは忘れるなよ」

ゴージャスボール トレーナー (破空)
 自分の山札の「ポケモン(ポケモンLV.Xはのぞく)」を1枚、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。
 自分のトラッシュに、すでに別の「ゴージャスボール」があるなら、このカードは使えない。

───
8/8でPCSが三周年! と言うわけでちょっとした三周年記念イベント。

1・藤原拓哉botが登場!
https://twitter.com/#!/ftakuya_bot

2・PCSリメイク三倍速!
今週は通常の水曜日更新だけでなく、8/7、8/10、8/14と新規書き下ろしされた翔VS拓哉が三話公開!

これからも何卒よろしくお願いします。


  [No.633] 32話 拓哉のゴーストデッキ 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/08/10(Wed) 08:37:35   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さあ、行くぞ!」
 ただでさえ負けられない戦いだと言うのに、余計そうなってしまった。怒り、というよりも逆恨みに我を忘れた拓哉の目を覚まさせるには戦うしかない。
 風見杯準決勝、互いの最初のポケモンは一匹ずつ。俺のポケモンはアチャモ60/60に対し、拓哉のポケモンはフワンテ50/50。超タイプのポケモンを使うのか。今まで見てきたデッキとは違うデッキのようだけど……。
「先攻は俺からだ。俺のターン。まずはアチャモに炎エネルギーをつける。そしてアチャモでバトルだ。火の礫! このワザはコイントスをしてウラの場合、ワザが失敗する」
 エネルギー一つで威力20ダメージを叩き出せるワザだが、ワザの可否はコイントスに委ねられてしまう。大事な一手目なので、しっかり決めておきたいところだが。
「よし、オモテだ。ダメージを受けてもらう!」
 アチャモは大きく息を吸うと、自身の顔の大きさ程ある火球を打ち出しフワンテにぶつける。ダメージを受けたフワンテ30/50はその煽りで遠くまで吹き飛ばされるが、ゆるりゆるりと場に戻る。
「けっ、早速やってくれるじゃねえか。今度は俺様の番だ。まずはフワンテに超エネルギーをつけ、フワンテでワザを使う。絡みつく」
 フワンテはアチャモに近づくと、体についている紐のようなものをアチャモに巻きつける。
「このワザの効果はコイントスをしてオモテの場合、相手のポケモンをマヒにさせる効果だァ!」
 マヒになるとワザを使うことや、逃げることなどありとあらゆる行動を封じられてしまう。序盤の急ぐ時に鬱陶しいことを。
「ちっ。ウラかよ。運の良い奴め。これで俺様の番は終わりだ」
 アチャモは体をぶんぶんと繰り返し横に振ると、フワンテは振りほどかれて拓哉のバトル場に舞い戻る。よし、良い感じだ。このまま畳み掛けてやる。
「俺の番だ。お、いいカードを引いたぜ。俺はバトル場のアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、ワカシャモに炎エネルギーをつけてからこいつを発動する。オーキド博士の訪問だ」
 オーキド博士の訪問は山札からカードを三枚引き、その後手札から一枚山札の下にカードを戻す効果。ハンドアドバンテージとしては一枚しか稼げないが、不要なカードを一度手札から放すことを可能とする。
「続いてヒコザル(50/50)とノコッチ(60/60)をベンチに繰り出し、ワカシャモで攻撃する。火を吹く!」
 この火を吹くもコイントスが絡むワザだが、アチャモが使った火の礫とは違い、ウラでもダメージを与えることが出来る。
 このワザの基本威力は20だが、オモテならそれに20加算する事が出来る。……が、結果はウラ。
 もしもここでオモテを出していれば40ダメージを与えることになり、フワンテ30/50のHPを消し飛ばすことが出来た。あと一歩届かないか。
「だがしかし、しっかりダメージは受けてもらうぜ!」
「ぐうっ!」
 ワカシャモの口から橙色に燃える炎が吐かれ、フワンテ10/50を包み込む。次の番、あと一つでも有効打を与えれば有利な状況のままフワンテを気絶させれる。
「やってくれるじゃねえか。今度は俺様のターンだァ! ふん、フワンテに超エネルギーをつけ、フワンテを進化させる。さあ来いよ、フワライド!」
 フワンテの姿が光に包まれながら、まるで風船が膨らむようにどんどんと大きくなり、新たなフォルム、フワライド50/90へと進化を遂げる。
 もしもさっきフワンテを火を吹くで倒せていたら、拓哉のベンチには他にポケモンが存在しないためその時点で試合続行が不可となり、俺の勝ちとなった。
 しかし進化してきたということは何かあるはず、過ぎたことを悩んでも仕方は無いのだが、それでもやはり惜しいことをしたと胸に突っかかりが残る。
「俺様はフワライドのワザ、乗せてくるを発動する。このワザの効果で、俺は自分の山札のたねポケモン二匹をベンチに出し、さらにそのポケモンそれぞれに山札から基本エネルギーを一枚ずつつける!」
「な、何だと!?」
 ベンチに突如現れたヨマワル40/40と、ムウマージGL80/80。これで拓哉の場があっという間に潤ってしまった。
 マズい。後攻なのに俺の場のポケモンよりもエネルギーの数が多い。まだ攻撃してこないのが幸いと言うべきか。
 攻撃してこない。そうだ。あれだけ俺にいちゃもんをつけておいて一切攻撃する素振りを見せない。どういうつもりなんだ?
「来ないならこっちが攻めるぞ。俺のターンッ! よし。ワカシャモを進化させる。現れろ、バシャーモ!」
 ワカシャモの体躯がより屈強かつ大きくなり、見慣れた頼れるバシャーモ130/130へと進化する。このデッキの二本柱のうちの一角だ。そしてもう一角を続けて呼び出す。
「手札の不思議なアメを発動。その効果でベンチのたねポケモンを、一、或いは二進化ポケモンへ進化させる。ベンチのヒコザルをゴウカザルに進化だ」
 足元から突如現れたアメを一舐めしたヒコザルの体が光り輝き、あっという間に姿を変えて進化前のひ弱さを見せぬ大柄なゴウカザル110/110へと進化する。
「まだだ。サポーターカード、ハンサムの捜査を発動。その効果で相手の手札を確認する」
 このカードの効果で相手の手札を確認した後、俺か拓哉の手札を全て山札に戻しシャッフル。その後手札が五枚までカードを引くことが出来る。
 モニターに映された拓哉の手札は超エネルギー、ワープゾーン、ゴージャスボール、ポケモン入れ替えが二枚の計五枚。
「俺はハンサムの捜査の効果で自分の手札を戻し、五枚までカードを引く。今の俺の手札は0。よってカードを五枚引くだけだ」
 一応最初から自分の手札の補給をするつもりだった。いかに拓哉の手札が良かろうと、俺の手札が無ければどうしようもない。
 それにこのドローによって炎エネルギーを手札に加え、バシャーモにつければ威力100の炎の渦が使え、フワライドを気絶させることが出来る。
 いかに拓哉の場の方がエネルギーに富んでいるとは言え控えにいるのはまだ貧弱なたねポケモンばかり。さっさと倒すに限る。
「くっ……!」
 だが手札はそうはならなかった。狙ったか、と問いたいように炎エネルギーが来ない。これではフワライドが倒せないじゃないか。
 いや、まだ可能性は0じゃない。百パーセント、にならないのが悔しいがまだ道は残されている。
「バシャーモのポケパワーを発動する。バーニングブレス! その効果で相手のポケモンを火傷状態にする」
「やってくれるじゃねえか!」
 濃い赤の絵の具で塗りたくったような赤い炎がバシャーモの口から放出され、フワライドを苦しめる。火傷のポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをして、ウラなら20ダメージを与える状態異常。これで足りない分を補うしかない。
「バシャーモで攻撃。鷲掴みだ!」
 軽いフットワークであっという間にフワライドまで間合いを詰めると、鋭い突きがフワライド10/90を刺したと同時にフワライドを放さぬようしっかりと押さえつける。
「鷲掴みの威力は40だが、次のお前の番にこのワザを受けたフワライドは逃げることが出来ない」
「やってくれるねェ。さあ! 俺の番の前にポケモンチェックだ。……オモテ。火傷によるダメージは無し。残念だったな」
「だが逃げるを封じた以上、フワライドの状態異常を回復する術は僅か。次のポケモンチェックで気絶するかもしれないぞ」
「ここさえ凌げば特に問題はねぇよ! 俺様のターン。さァ、ゴージャスボールを発動だ。その効果で山札のサマヨールを手札に加え、ヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させる。続いて手札からエネルギー付け替えを二枚発動! その効果でフワライドに付いている超エネルギー二枚をサマヨールに付け替える」
 二枚移動したことでフワライドについている全てのエネルギーがサマヨールに移動した。フワライドを棄てるつもりなのだろうか。
「さらにサポーターカード、シロナの導きを発動だ。自分の山札の上から七枚を確認してそのうち好きなカード一枚を手札に加える。そして超エネルギーをサマヨールにつける。ここでフワライドのワザを発動。お届け。その効果でトラッシュに存在するカード一枚を手札に戻す。俺が選択するのはゴージャスボール!」
「手札に戻すだと?」
 ゴージャスボールはトラッシュにゴージャスボールがあると使えない。だから普通は一度しか使えないのだが、使ったそれを手札に戻してしまえばもう一度使えると言う訳か。
 なんてコンボだ……。しかもお届けはエネルギーなしでも使えるワザ。それも考えてエネルギー付け替えでエネルギーを全て移し替えたのか。
 さらに続くポケモンチェックでもオモテで火傷のダメージをかわす。火傷で自然と倒れてくれればよかったものの、トドメを自ら刺さなくてはいけないから攻撃が一度手間になる。
「っ……。俺のターン! よし、ヒコザル(50/50)とアチャモ(60/60)をベンチに出し、バトル場のバシャーモに炎エネルギーをつける。フワライドにトドメの一撃だ。鷲掴み!」
 バシャーモの一突きがフワライドを捉え、HPを最後まで削り取る。不本意な形だが、倒したことには変わりない。
「へっ。俺はムウマージGLをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 いくら思い通りの展開では無いとはいえ、まだ俺は一切のダメージを受けてない。問題無い、まだまだ良い調子のはずだ。
 しかし突っかかりはある。もしかしてこの後一発大きいのが来る予兆なのか? だとしてもそれに耐えきれるようなアドバンテージを稼がないと。
 今の俺のバシャーモなら威力100の炎の渦が使える。これで並大抵のポケモンには対処出来るはずだ。来い、来てみろ拓哉。お前の力を見せつけてみろ!
「俺様のタァーンッ! ゴージャスボールだ。その効果でヨノワールを手札に加え、ベンチのサマヨールをヨノワールに進化させる」
 サマヨールを黒い靄が包み込み、形をヨノワール120/120へ進化する。至って静かだが、それでいて重みのある存在感を放つそれに思わずたじろいでしまった。
 ただ一点に俺を睨みつけるヨノワールは、ひたすらプレッシャーをかけてくる。目線をヨノワールから逸らそうとしても、ヨノワールの視線を感じてしまい引き戻される。ただ見つめるだけの無言の圧力に圧殺されてしまいそうになり、胸が苦しくなる。
「まだ俺様の番は始まったばかりだぜ。ムウマージGLに超エネルギーをつけ、トレーナーカード発動だ。ワープゾォーン!」
 突然バシャーモとムウマージGLの足元に青い渦が現れ、二匹を飲みこんでしまった。かと思えばベンチにも青い渦が湧き、そこから飲み込まれたかと思ったバシャーモとムウマージGLが再び現れる。何のつもりだ。
「このカードの効果で互いにバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替えなくてはならない。俺はムウマージGLの代わりにヨノワールをバトル場に出す」
 エネルギーがついているバシャーモが次の番に猛攻をかけることを察して遠ざけたか。だったら。
「俺はゴウカザルをバトル場に出す」
 ゴウカザルの逃げるエネルギーは0。次の番、ノーリスクでゴウカザルとバシャーモを入れ替えて攻撃すれば……。
「これでジャストだ! ヨノワールのポケパワーをここで発動する」
「何っ?」
「ヨノワールのポケパワーは相手のベンチポケモンが四匹以上の時、自分の番に一度だけ使う事が出来る。相手のベンチポケモン一匹を選び、そのポケモンとそのポケモンについているカード全てを山札に戻す」
「な、なんだと!?」
 今の俺のベンチにはノコッチ、アチャモ、ヒコザル、バシャーモの四匹。うっかり前の番にアチャモとヒコザルを出したのが軽率だったか。
「俺が戻すのは当然、バシャーモだ! 闇の手のひら!」
 ヨノワールが右手で拳を作り、それをやや後ろに引いてから閉じた手を開いて前に突き出す。突き出された手から発せられた濃い紫の靄がバシャーモめがけて直進し、バシャーモを包み込む。靄はやがて薄くなると、バシャーモと共に消え去っていく。
 このエフェクト、対戦前に拓哉が男の子を幽閉したのとほとんど同じエフェクトじゃないか。
「ククク……。どうしたどうしたどうしたァ! ビビッてんじゃねえぞ。戦いはまだまだこれからだァ! ポケモンの道具、達人の帯をヨノワールにつける。このワザをつけたポケモンのHPは20上昇し、与えるワザのダメージを20増加させる。その代わりこの道具をつけたポケモンが気絶した場合、相手はサイドを一枚多く引くことが出来る」
 達人の帯でHPが140/140に上昇したヨノワールは、両手で拳を作り力を蓄えている。威力を上げるのも厄介だが、俺のサイドは残り二枚。こいつさえ倒してしまえば。勝つことが出来る。ここは堪え時だ!
「ヨノワールで呪怨攻撃。このワザは相手のバトルポケモンにダメージカウンターを五個乗せる。更に相手が引いたサイドの枚数分のダメージカウンターを追加して乗せる。お前が引いたサイドは一枚、よって六個をそのゴウカザルに乗せる!」
 ヨノワールは拳を解いたと同時に腹を突き出すと、腹部の口が開き、そこから赤い火の玉が六つ現れる。ふわふわとヨノワールの周りを漂っていたそれは、ヨノワールが右手でゴウカザルを指すと同時に飛んでいき、ゴウカザルの体へ入りこむ。
 体を丸めてのたうつゴウカザル50/110のHPが半分程まで減ってしまったが、おかしい。達人の帯はワザの威力を上げる効果があるはず。だというのにその様子が見受けられない。
「そうそう。念のために言っておくが、呪怨はダメージを与えるワザではなくダメージカウンターを乗せるワザだ。だから達人の帯で威力を上げる効果の恩恵は受けられねえ。だがな、お前の今の場はエネルギーが0。そんな些細なことはどうだっていいんだよ!」
 確かに言われる通り、俺はバシャーモにばかりエネルギーを乗せていた。そのバシャーモが場から戻されてしまった以上どうすることも出来ない。
「それでも諦めねえ! エネルギーが無くなったからといって、勝機が無くなった訳じゃない。まだまだこれからだ!」
「ムカつく野郎だ。いいぜ、来いよ! 全力のお前をブッ潰してこそ俺様の喜びも、より大きなモノになる。クカカカカカッ、ハハハハハっ!」
 耳を突くような拓哉の笑い声が、ステージを覆う。どうにかしてあいつを止めてやらないと。さっきも言ったけど、チャンスは無くなったけじゃない。
 拓哉の怒りは逆恨みだが、その元となったのは俺だ。だからこそ俺が拓哉をなんとしてでも倒さなくちゃならない。
「思い通りにさせてたまるかよ! 必ず勝って見せる!」
 肝心なのは、次の俺の番。この一瞬の覚悟で全てが決まる。
「俺のターンッ!」



翔「今回のキーカードはヨノワールだ。
  やみのてのひらで相手のベンチを削りつつ、
  じゅおんでダメージを与えていけ!」

ヨノワールLv.42 HP120 超 (DP1)
ポケパワー やみのてのひら
 相手のベンチポケモンが4匹以上いるなら、自分の番に1回使える。相手のベンチポケモン1匹と、そのポケモンについているすべてのカードを、相手プレイヤーの山札にもどし、切る。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超無 じゅおん
 相手にダメージカウンターを5個のせる。さらに、相手プレイヤーがすでにとったサイドの数ぶんのダメージカウンターを、相手にのせる。
弱点 悪+30 抵抗力 無−20 にげる 3


  [No.640] 33話 二つの心 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/14(Sun) 09:09:23   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「俺のターンッ!」
 来た。まだ可能性を広げるカードが。
 風見杯準決勝、俺と拓哉の対戦は中盤に移り始める。拓哉の奇策で優勢が文字通りひっくり返ってしまったが、まだ負けたと決まったわけではない。
 サイドは俺が二枚、拓哉が三枚。俺のバトル場にはゴウカザル50/110。ベンチにはノコッチ60/60とヒコザル50/50、アチャモ60/60。
 対して拓哉のバトル場にはポケモンの道具、達人の帯をつけ超エネルギーが三つついているヨノワール140/140。ベンチには超エネルギー一枚ついたムウマージGL80/80。
 とにかくあのヨノワールを倒す、いや、まずは有効打を与えていかないと。そのためにはゴウカザルに体を張ってもらうしかない。
「まずはベンチの二匹をそれぞれワカシャモ(80/80)、モウカザル(80/80)に進化させてサポーターを発動する。オーキド博士の訪問。その効果で山札からカードを三枚引き、手札を一枚山札の下に戻す。続いてゴージャスボールも発動だ!」
 ゴージャスボールは山札の中から好きなポケモンを一枚手札に加えることが出来るカード。ここで前の番に山札戻されてしまったバシャーモを手札に戻す。
「炎エネルギーをつけ、ゴウカザルでバトルだ。ファイヤーラッシュ! このワザは場の炎エネルギーを任意の数だけトラッシュしてコイントス。そしてオモテの数かける80ダメージを相手に与える」
「あァ? お前の場には今ゴウカザルにつけた炎エネルギー一枚だけじゃねえか。まさかそんなんでどうにかするつもりか?」
「だったらどうした! ゴウカザルについている炎エネルギーをトラッシュ。そしてコイントスだ。……オモテ! よし、攻撃を受けてもらう」
 右の拳に大きな炎を宿したゴウカザルは一つ大きな跳躍でヨノワールの上を取り、灼熱の一撃をヨノワールに上から叩きつける。
 攻撃のヒットと同時に爆発のエフェクトが発生し二匹が黒煙に包まれる。脱するように舞い戻って来たゴウカザルに対し、煙が晴れてもヨノワール60/140はダメージの苦悶からか蹲(うずくま)る。
「やるじゃねェか。だがその程度で俺様は止められねェ」
 確かに、俺の場には再びエネルギーが消え去った。ゴウカザルは恐らく返しの番に倒されてしまうだろう。しかしベンチのポケモンで残りのヨノワールのHPをエネルギー一枚で削りきれるポケモンがいない。
 どうしても二ターン以上かかってしまう。可能なことはそれまでに被害を最小限にすることのみ。
「俺のターン! クク……。ベンチのムウマージGLに超エネルギーをつけ、ヨノワールで攻撃。呪怨!」
 ヨノワールの腹部にある口から六つの火の玉が吐き出され、ゴウカザルを襲う。
 このワザは相手のポケモンに相手が引いたサイドの枚数+五つのダメージカウンターを相手のポケモンに乗せるワザ。今の俺が引いたサイドは一枚なので、六つのダメージカウンターがゴウカザルに乗せられる。ヨノワールの攻撃を受け、苦しみのたうち地を転がるゴウカザル0/110は、やがて手足がだらりと下がってぴくりとも動かなくなる。
「サイドを一枚引いて俺様の番は終わりだ。さあ、これでもまだやると言うなら来なよ」
「俺はワカシャモをバトル場に出す。……そして俺の番だ。まずはモウカザルをゴウカザル(110/110)に、ワカシャモをバシャーモに進化させ、ポケパワー発動。バーニングブレス」
 進化したばかりのバシャーモ130/130は姿が変わるや否や焼けるような赤みを持った炎をヨノワールに吹き付ける。
 両腕でバリケードを組んでヨノワールは抵抗するも、やがて炎の勢いに押されてその身を焼かれてしまう。
「このポケパワーを受けた相手のバトルポケモンは火傷状態になる。炎エネルギーをバシャーモにつけて、俺は自分の番を終了する」
 バシャーモのワザはエネルギーを二枚以上最低でも要求する。ワザが使えないなら、せめて火傷にして少しでもダメージを与えるのみ。
 願いが通じたのか、このポケモンチェックで拓哉はウラを出す。と同時に突然ヨノワールの体が一瞬炎に包まれて、HPを20削る。これでヨノワールの残りHPは40/140。ようやく手の届きそうなところまで削れたか!
 流れはまだぶり返せる、まだまだ終わらない。
「やってくれる! だがこいつでどうだ。俺様のターン。俺は再びワープゾーンを発動。互いのバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える」
「ま、またやるのか!」
 俺のベンチにはノコッチ60/60とゴウカザル110/110。高いダメージが飛び交う中でノコッチをそんなのこのこと出すわけにもいかない。
「くっ。ゴウカザルをバトル場に繰り出す」
「俺はムウマージGLをバトル場に出す。なお、ヨノワールがベンチに戻ったことでヨノワールの火傷状態は回復する。そしてサポーター、デンジの哲学を使わせてもらうぜ」
 デンジの哲学は手札が六枚になるまでカードを引くことの出来る強力なドローソース。今の拓哉の手札は0なので、そっくりそのまま六枚を引く事になる。
「ムウマージGLに超エネルギーをつけ……、お楽しみはここからだァ! 俺はムウマージGLをレベルアップ。さあ現れろ、ムウマージGL LV.X!」
 禍々しいほどの紫の閃光が一瞬視界を覆い尽くし、ムウマージGL LV.X100/100が姿を現す。まだヨノワール以外にも切り札があるのかっ……。
「ポケパワーを発動だァ! マジカルスイッチ。その効果で俺のポケモンについているポケモンの道具を一枚手札に戻す」
 ムウマージGL LV.Xの眼が光ると、ベンチに控えているヨノワールの達人の帯がしゅるりとほどけて消えていく。達人の帯が消えたことでヨノワールの最大HPが下がり、20/120へ。
「な、どうしてわざわざHPを下げるような真似を!」
「パーティの始まりだァ! ムウマージGL LV.Xでバトル。闇の呪(まじな)い! このワザは相手のポケモンに手札の枚数だけダメージカウンターを乗せる!」
「手札の数だけだって!?」
 なるほど、確かにそれならマジカルスイッチで達人の帯を戻し、手札を増やした意味が分かる。ムウマージが謎の呪術を呟くとゴウカザルの体が宙に浮き、締め付けられる。今の拓哉の手札は五枚なので、ゴウカザルに乗せられるダメージカウンターも五つ。これで残りHPが60/110まで削られた。
 ヨノワールといいムウマージGL LV.Xといいダメージを与えるのではなくダメージカウンターを乗せるだったり、奇妙なプレイスタイルのせいで動きが読めない。
 今まで戦ってきた拓哉とは本当に別人の様な気がする。……よくよく考えたら別人格とからしいから、それも当たり前か。
「まだまだァ! 俺のターン。ゴウカザルをベンチ逃がし、バシャーモをバトル場に戻す。ゴウカザルの逃げるエネルギーは0なので、コスト無しで交代が可能だ。さらにバシャーモに炎エネルギーをつけ、ポケパワーのバーニングブレス。ムウマージGL LV.Xを火傷状態にする」
「けっ、しつけぇ野郎だ」
「更に攻撃だ。鷲掴み!」
 どういう原理かは知らないが、幽体のムウマージGL LV.X60/100の首元をがっちり押さえこんでバシャーモは放そうとしない。
 ワザの威力は40と平々凡々だが、このワザは相手を逃がさなくする追加効果がある。逃がさなくすれば火傷を継続させやすい。それを加味してのバーニングブレスと鷲掴みのコンボだ。
「ポケモンチェック。……けっ、ウラか」
 ムウマージGL LV.Xの体が炎に包まれ、HPを削っていく。残りHPは40/100。後一発鷲掴みを決めるだけで倒せるまで削れた。
「俺様のターン。攻撃だ。闇の呪い!」
 手札が一枚増えたことで闇の呪いの威力も上がる。ダメージカウンターを六つ乗せられたバシャーモ70/130は、ムウマージGL LV.Xの手を放さまいとただひたすら堪える。
 ダメージの計算が終わり、拓哉の番が終わったことでバシャーモはムウマージGL LV.Xから離れる。さらにポケモンチェックでウラを出したため、続けざまに火傷のダメージを受けてついにムウマージGL LV.XのHPも20/100まで削られる。
「拓哉! お前は本当はポケモンカードが好きなんじゃないのか?」
「何を言いやがる!」
「ずっと俺と対戦してる間、お前は常に楽しそうにしていた。なのにそのポケモンカードで誰かを傷つけるなんて間違ってるだろ!」
「う、五月蠅い! 俺の、俺らの辛さがお前なんかに分かるか!」
「分からないさ。お前がこうして俺に伝えてくれないと」
「っ……」
「こうして対戦をやってると、相手がどんな気持ちでどんな風に思ってプレイしてるかが伝わるんだ。でもお前のやってるそれは、ただ現実から逃げて苦しみを紛らわせているだけだ。本当に苦しみから逃れたいならば、辛い現実と向き合って乗り越えなきゃならない!」
「余計なお世話だッ!」
「ならば力づくで分からせてやる。俺のっ、ターン! ベンチのゴウカザルに炎エネルギーをつけてバシャーモで攻撃。鷲掴み!」
 最後のバシャーモの一突きがムウマージGL LV.Xを攻撃する。勢いよく宙に投げ出されたムウマージGL LV.X0/100は、ヨノワールの隣まで吹き飛ばされてそのまま起き上がること無く倒れる。
「ぐううう!」
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ。さあ、カードを引け! お前の全てをぶつけて来い」
「ヨノワールをバトル場に出し、俺のタァーン! ヨノワールで呪怨攻撃だ。お前が更にサイドを引いたことで呪怨の威力が増し、バシャーモにダメージカウンターを七つ乗せる」
「なっ! くう。やるじゃないか」
「サイドを一枚引いて俺様の番は終わりだ! これで互いにサイドは一枚ずつ。次の俺の番で決着をつけてやる」
 バシャーモの残りHPを全て削り取られる。まさかあいつ、ここまで計算してムウマージGL LV.Xとヨノワールを入れ替えたりしたのか。やっぱり強い。
 だけど勝利への道筋は見えている。ゴウカザルをバトル場に出し、最後の攻防に挑む。
「悪いが、お前の番まで回すつもりはないぜ。俺のターン。ゴウカザルに炎エネルギーをつけて、攻撃。これがトドメの一撃だ。怒り!」
 拓哉が舌打ちをして一歩下がる。対峙するゴウカザルは、体中から猛る炎を発し、今にもヨノワールに飛びかかろうとしている。
「怒りの元の威力は30だが、ゴウカザルに乗っているダメージカウンターの数かける10ダメージ威力があがる。今のゴウカザルに乗っているのは五つ、よって80ダメージだ!」
 ゴウカザルは赤い閃光となってヨノワールに飛びかかり、会場中に響き渡るような大きな爆発音と同時にダウンナックルをぶちかます。
 地面に叩きつけられたヨノワール0/120はゴムボールのように一度弾み、そのまま倒れ伏す。
「最後のサイドを引いて、俺の勝ちだ。──っておい! 拓哉!」
 サイドを引いて試合終了のブザーが鳴る。と同時に突然拓哉が糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちるのを見て、カードを残したまま慌てて拓哉の元まで駆け寄る。
 ショックで放心、なんてそんなものじゃなくて本当に危ない倒れ方をした。俺がいた場所からは良く見えなかったが、後頭部を打ちつけたかもしれない。
「拓哉! 大丈夫か! おい、しっかりし──」
「そんな騒ぐなよ……」
 倒れている拓哉は薄めを開き、唇から洩れるような小さな声で応対する。特別容態が悪いという感じがしなくて、少し安堵した。
「騒いで当たり前だろ。友達なんだから」
「……何だか突然力が入らなくなりやがった。能力(ちから)の方も、さっぱりだ。急に抜けたっていうか、俺も全然分かんねえけど」
 能力が無くなった? もしかして、と思いギャラリーの方に視線を動かすと、試合前に拓哉に幽閉されていた男の子が元の場所に再び現れている。消されたまま、という訳ではないようなので安堵する。きっと同じような目にあった人、例えば拓哉のお母さんとかもきっと戻ってきているかもしれない……。
 とにかく拓哉が分からない以上俺もさっぱり分からないが、拓哉の能力とやらが効力を失ったのだろうか?
「今から医務室だか救護室だかに連れていくからな!」
「……世話焼きな奴だ」
「良いだろ。……今度はちゃんと、楽しい勝負をやろうぜ」
「ああ……」
 拓哉の唇が閉じると、やがて瞼もふっと閉じる。一時は驚いたが、すぐに心地よさそうな寝息が聞こえて胸を撫で下ろす。
 能力が何かは分からないままだったけど、とりあえず一段落ついたからよしとしよう。
 結局自分一人だけでは拓哉を抱え上げるほどの筋力がなかったので、助けを求めて担架で運んでもらった。



「もしもし、松野です。今風見杯会場なんだけどまた能力(ちから)が確認されたわ。今回は『異次元へ幽閉する』ってものみたい。えぇ。……いや、奥村翔っていう少年が能力を持っている少年を倒したわ。倒されたらやはり急にその場に倒れこんで意識を失ったみたい。今は医務室に行ってるけど別段異常はないらしいわ。とにかくそれに関するレポートもまた用意しておくから。それじゃあ」
 松野は青色でシンプルデザインの携帯電話を閉じると、近くにある椅子に腰かける。
 ポケモンカードを介して通常では考えられないことを引き起こす能力。ある日突然姿を現して以来、松野はそれの対応に追われ続けていた。
 意味のわからない上対策の仕方も分からないままの状況で引きずりまわされ、松野もうんざりし続けている。ただただ謎ばかり積み重なり、一切の糸口が見えない。どうして? なんのために? どうすれば?
 そんな松野の疑問は解決しないまま、準決勝の第二試合、風見雄大対長岡恭介も今から始まろうとしていた。



翔「今日のキーカードはムウマージGL LV.X!
  マジカルリターンで手札を増やし、
  やみのまじないで一気に決めろ!」

ムウマージGL LV.X HP100 超 (PROMO)
ポケパワー マジカルリターン
 自分の番に何回でも使える。自分のポケモンについている「ポケモンのどうぐ」または「ワザマシン」を1枚、自分の手札に戻す。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超無 やみのまじない
 自分の手札の枚数ぶんのダメージカウンターを、相手にのせる。このワザでのせられるダメージカウンターは、8個まで。
─このカードは、バトル場のムウマージGL(ジムリーダー)に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 悪×2 抵抗力 無−20 逃げる 1


  [No.647] 34話 遡行せよ、蘇生せよ! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/08/17(Wed) 22:44:18   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 運ばれていく藤原を見送り、準決勝第二試合が始まる。先ほどの異常とも思える光景から平静を取り戻した会場は、再び熱気を巻き起こしている。
 第一試合の勝者は翔。既に決まっている。つまり、これから始まる第二試合。俺か、長岡恭介のどちらかが決勝で翔と戦うことになる。
『準決勝第二試合を始めます。選手は試合会場八番にお集まりください』
 俺の対戦を観ると言っていた松野さんの姿が見当たらないが、今は集中だ。翔には既に二度痛い目に遭っている。今日こそ、この場で大々的にリベンジを目指す。
 そのためには目の前の一勝を取らなくては話にならない。たかが三十枚しかないハーフデッキを右手で握り、意を決してステージへ向かう。
「風見、俺はお前に勝つぜ!」
 ステージに着くなり長岡の堂々とした勝利宣言が待っていた。さすがに準決勝まで勝ち進んだからなのか、まだカードを始めたばかりの初心者とは思えない、ある種の風格を僅かに感じる。
 対戦相手としては悪くない。最低限の条件はクリアだ。
「笑わせる。返り討ちにしてやる」
「へっ、そうはさせないぜ。俺のターンからだ!」
 バトルポケモンにプラスル60/60、ベンチポケモンにはエレブー70/70を並べた長岡が先攻で始まる。俺はフカマル50/50のみだ。
「まずは手札からウォッシュロトム(90/90)をベンチに出す。続いて水エネルギーをウォッシュロトムにつけてプラスルのワザを使うぜ。欲張りドロー! 自分の手札が相手の手札の数より一枚多くなるよう山札からカードを引く。今俺の手札は四、お前の手札は六枚だ。よって三枚カードを引く」
「ふん、中々面白いワザだな。今度は俺の番だ」
 しかし手札が芳しくない。ボーマンダ二枚に炎エネルギー、水エネルギー、スージーの抽選、不思議なアメ、ガブリアス。重たいポケモンが被ってしまい、身動きが取り辛い。
 もしかして運の強い長岡は俺の手札をも悪くしたとでも言うのだろうか。それはともかくこうなった以上は作戦変更、ここまでは何も予定内だ。
「不思議なアメでフカマルをガブリアス(130/130)に進化させる。そしてスージーの抽選を発動」
「スージーの抽選……。手札をトラッシュしてトラッシュした枚数に応じて新たにデッキからドローできるカードか」
「俺は手札を二枚トラッシュする」
 トラッシュするカードはボーマンダと水エネルギー。躊躇い無くトラッシュしたそれらのカードをモニター越しに確認した恭介が驚愕する。
「えっ、ボーマンダをトラッシュすんのかよ!」
「そして俺はカードを四枚引いてターンエンドだ」
「何でボーマンダをトラッシュしたんだろう……。まあいいや、俺のターン! ウォッシュロトムに雷エネルギーをつけて手札からワープポイントを発動だ」
 プラスルとガブリアスの足元に青い穴が開き、青い穴にそれぞれのポケモンが吸い込まれていく。
「このカードの効果によって、互いにバトルポケモンとベンチポケモンを入れ替える。俺はプラスルをベンチに戻してウォッシュロトムを場に出すぜ」
 ウォッシュロトムの足元にも青い穴が開き、穴へ落ちていった。するとウォッシュロトムが落ちた穴からプラスルが。プラスルの落ちた穴からウォッシュロトムがそれぞれ入れ替わるように現れる。
「俺のベンチにはポケモンがいないのでガブリアスは入れ替わらない」
 こちらは滑稽にもガブリアスが落ちた穴からガブリアスが這い出て来た。落ちる必要性がなかったなと軽く一笑する。
「ウォッシュロトムでガブリアスに攻撃だ。脱水!」
 恭介は技の宣言と共にコイントスをする。脱水はウラが出るまでコイントスをして、オモテが出た数だけ相手の手札をトラッシュさせるワザだ。所詮確率なんて高が知れている。という認識はあまりにも浅はか過ぎた。
「オモテ、オモテ、オモテ、ウラ! 30ダメージと同時にお前の手札を二枚トラッシュするぜ。左側の三枚だ」
「さ、三枚だと!? くっ。ボーマンダと炎、水エネルギーの三枚をトラッシュする」
 ウォッシュロトムの攻撃が襲いかかり、弾ける水の音と共にモニターにダメージカウンターが加算されていく。ガブリアス100/130が体勢を持ち直す横で、二枚目のボーマンダがトラッシュされたためか、恭介がかすかにガッツする。同じカードはハーフデッキは二枚までしか入れられない。つまり俺は新たにボーマンダを加えることが出来ない。そう思っているのだろう。
「ポケボディー、竜の威圧がこのタイミングで発動する。このポケモンがバトル場で相手からダメージを受けたとき、そのポケモンのエネルギー一個を手札に戻させる。雷エネルギーを戻してもらおう」
「マジかよっ……。めんどくさい効果だな!」
「何とでも言え。俺の番だ」
 すっかり寂しくなった手札が賑わいを見せる事は無いが、良くぞこのタイミングで来てくれた、と手を打ちたい。序盤から全速力で攻める好機だ。
「お前がトラッシュにカードを大量に送ってくれたことで、俺のコンボが早々に完成することになる。感謝するぞ。さあ、俺はガブリアスをレベルアップさせる!」
 ガブリアスに一瞬だけ白い光が包み込む。ガブリアスの咆哮と共にその光は弾け消えていき、モニターにもガブリアスLV.X110/140と表示される。
「そしてこのレベルアップした瞬間、ガブリアスLV.Xのポケパワー、竜の波動が発動する。コインを三回投げ、オモテの数ぶんのダメージカウンターを相手のベンチポケモン全員に乗せる。……ウラ、オモテ、ウラ。計10ダメージだな」
 ガブリアスが再び体を前に傾けながら長岡のベンチにいるエレブーとプラスルを一瞥してから咆哮した。見えない力かプラスル50/60とエレブー60/70は衝撃波を食らったかのように後ずさる。
「レベルアップしただけでダメージかよ!」
「ここからが本番だ。ガブリアスLV.Xのワザを使う。さあ、遡行せよ! 蘇生!」
 ベンチゾーンに光る白い穴が開く。そしてその中から這い出るようにボーマンダ140/140が姿を現す。予定調和だ、いい感じで事が進んでいる。
「このワザは俺のトラッシュのポケモンを一体選び、たねポケモンとしてベンチに出す。その後トラッシュの基本エネルギーを三枚まで蘇生したポケモンにつける。ボーマンダに炎エネルギー一枚と水エネルギー二枚をつけて俺の番は終了だ」
「なっ、わざわざトラッシュしたのはこのためか! なんのっ、俺のターン!」
 苦虫を潰したような顔をチラと見せた長岡だったが、引いたカードが良かったのか再び喜色満面になる。忙しいやつだ。
「よし、まずはサポーター、プルートの選択を発動するぜ。バトル場のウォッシュロトム(90/90)を山札のスピンロトム(70/70)と入れ替える!」
 洗濯機に憑依していたロトムが分離すると、洗濯機の元に白い穴が開いてそれが吸い込まれていく。それに代わるように扇風機が穴から出してきて、ロトムはそれに憑依する。
「そしてスピンロトムに雷エネルギーをつけてエレブーをエレキブル(90/100)に進化させる! まだだぜ、風見。目ん玉ひん剥いてよーく見とけよ。スピンロトムのポケパワー発動。スピンシフト! スピンシフトは自分の番の終わりまで、スピンロトムを無色タイプとして扱うポケパワーだ」
「無色タイプに。なるほどな、ガブリアスLV.Xの弱点は無色タイプだ。それを狙ってか」
「そういうこと! スピンロトムで攻撃、エアスラッシュ!」
 スピンロトムが不可視の衝撃でガブリアスLV.Xを弾くように攻撃する。本来は60ダメージなのだが、無色タイプとなったスピンロトムはガブリアスLV.Xの弱点をついている。60ダメージが二倍となって120ダメージだ。残りHPが尽きたガブリアスは天井を見上げるように仰向けに倒れ、気絶に追いやられた。
「そしてコイントス。ウラならスピンロトムのエネルギーを一枚トラッシュする。……オモテ、セーフだ」
「それだけじゃないぞ。ガブリアスのポケボディー、竜の威圧を忘れてもらっては困る。雷エネルギーを戻してもらう」
「でもガブリアスLV.Xが気絶したから俺はサイドを一枚引く。ターンエンド」
 長岡の番が終わることでスピンロトムは元の雷タイプに戻る。虚を突くようなプレイングで予定よりも早くガブリアスLV.Xが倒されたが、まだエネルギーが大量についているボーマンダ140/140がいる。
「勝負はこれからだ。今度は俺から行かせてもらうぞ」



翔「今日のキーカードはスピンロトム!
  こいつは無色タイプにもなれる!
  せんぷうで2進化、LV.Xのポケモンを手札に戻してやれ!」

スピンロトムLv.46 HP70 雷 (DPt2)
ポケパワー スピンシフト
 自分の番に一回使える。この番の終わりまで、このポケモンのタイプは無色タイプになる。
無無 せんぷう
 コインを1回投げオモテなら、相手と相手についているすべてのカードを、相手プレイヤーの手札にもどす。
無無無 エアスラッシュ  60
 コインを1回投げウラなら、自分のエネルギーを1個トラッシュ。
弱点 悪+20 抵抗力 無色−20 にげる 1

───
藤原拓哉の使用デッキ
「ペインフルナイト」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-668.html


  [No.651] 35話 智略のスピードインパクト 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/08/21(Sun) 08:52:56   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 風見杯準決勝第二試合。残す対戦数も僅かとなった。
 俺のバトル場には炎エネルギー一枚、水エネルギー二枚のボーマンダ140/140、サイドは三枚。
 向かいの長岡のバトル場には水エネルギー、雷エネルギが一枚ずつついているスピンロトム70/70。そのベンチにはエレキブル90/100とプラスル50/60がいる。サイドは二枚、やや長岡有利な状況だが、いくらでも巻き返しは効く。
「今度は俺から行かせてもらうぞ。俺の番だ」
 引いたカードはミステリアスパール。ベスト、なカードではないが、ここは手早く使っておこう。
「手札のトレーナーカードを発動。ミステリアスパール」
「なんだそれ。始めてみるカードだぜ……」
「このカードの発動後、俺は自分のサイドを確認して望むならポケモンを一枚相手に見せてから手札に加える。その場合、このカードをオモテにしてサイドに置きかえるカードだ」
 そう言ってサイドを確認。炎エネルギー、フカマル、コモルー。ポケモンは二枚いる。ここはたねポケモンがほしいのでフカマルを長岡に見せて手札に加える。
「フカマル(50/50)をベンチに出して炎エネルギーをボーマンダにつける。さあ、ボーマンダでスピンロトムを攻撃だ。蒸気の渦!」
 蒸気の渦の威力は120。白く強く渦巻く激しいボーマンダの攻撃を正面から食らったスピンロトム0/70は空高く吹き飛ばされ、力なく落ちていく。
「俺は蒸気の渦のコストとしてボーマンダの炎エネルギーと水エネルギーをトラッシュする。サイドを引いてターンエンドだ」
 スピンロトムはポケパワーと特性の効果が相まって、俺のデッキには脅威となる。蒸気の渦はやや勿体無い気がしないでもないが、後を考えれば当然のプレイングだ。
 長岡の次のポケモンはプラスル50/60。低HPのポケモンを晒すという事は、本命であるベンチのエレキブルを育てる為の時間稼ぎだな。
「俺のターン! エレキブルに雷エネルギーをつけてヒートロトム(80/80)を場に出す。そしてプラスルの欲張りドローだ。今、互いの手札は三枚だからカードを一枚引くぜ」
「もう終わりか。ならば俺の番だ。フカマルをガバイト(80/80)に進化させ、ガバイトに炎エネルギーをつける。そしてボーマンダで火炎攻撃!」
 ボーマンダが口から人一人は飲み込めるほどの大きく真っ赤に燃え盛る火球を発し、プラスル0/60を飲み込むようにぶつける。良い感じだ。
「プラスルが気絶したことにより、サイドを一枚引く」
 どうやら長岡のデッキは燃費があまりよろしくない。お陰でこうして壁を作らざるを得ないのは、敵としては非常においしい。長岡の最後のバトルポケモン、エレキブル90/100は果たしてどこまでやるか。
「俺のターン。エレキブルに雷エネルギーをつけて、ポケパワーを発動する。電気エンジン!」
 帯電して電撃をバチバチと散らしながらエレキブルは右手を地面に突き刺し、引っこ抜くとその右手には雷のシンボルマークがしっかり握られ、それが手のひらに吸収されていく。
「このポケパワーによってトラッシュの雷エネルギーをエレキブルにつけることができる。さらに手札の雷エネルギーをエレキブルにつけて攻撃だ。放電! このワザはエレキブルについてる雷エネルギーをすべてトラッシュし、トラッシュしたエネルギーの数だけコイントスしてオモテかける50ダメージを相手に与える大技だ」
「はっ。ボーマンダのHPは120もある。三回全てオモテでも出さない限り倒すことは出来ない」
「だったら三回オモテにすればいいんだろ?」
 思わず聞き返したくなるセリフだった。コイントスは実際にコイントスをするのではなくて機械のスイッチを押して機械が判定を出す仕組みである。よってコインに何かするなどという人為的な作用は一切効かない。
 それで三回ともオモテにする確率は八分の一だ。そんな馬鹿げた事が簡単にあってたまるか、とでも言いたくなる。言って出来れば誰も苦労はしない──。
「ほら、オモテ、オモテ、……オモテだ!」
「馬鹿な!」
 エレキブルが蓄えていた体から迸る電撃が咆哮とともに波動状に飛び散り、向かいのボーマンダ0/140の体を持ち上げるまでの強烈な衝撃を与える。
 俺のベンチにはもうガバイト80/80しか残っていない。切り替えて、こいつをバトル場に送る。
「さあ、サイドを引いてターンエンドだ!」
 ウォッシュロトムの脱水に引き続きエレキブルの放電。本当に何か仕掛けをしたのかと疑いたくなるし、今起こっている状況に目も疑いたくなる。
 運の差は天地のそれそのもの。あいつに比べて俺があるのはカードとの知識と、経験だけだ。
 そう、それだ。俺は自分で考えてデッキを組み、考えに考えてプレイングしている。現に今までその努力の結晶が実を結び勝ち進んできた。それこそ運の左右にも負けないくらいに!
「へっへーん、どうだ風見! 参ったか!」
「その程度で浮かれるようじゃ、まだまだ話にならないな。俺のターン」
 今の手札で可能なことを考える。しかし今の手札だけではパッとしない。いや、今の手札でダメならば新しい手札にすればいいのだ。今、手札には自分の手札が六枚になるまでドローできるデンジの哲学がある。それを最大限に活かすには……。
「トレーナーカード、ポケモンレスキューを発動する。トラッシュのポケモンを手札に加える。俺はガブリアスを手札に加え、ガバイトをガブリアス130/130進化させる。続いてガブリアスに水エネルギーをつけてサポーターカード発動、デンジの哲学。その効果で俺は手札が六枚になるようにカードを引く。さらにこのカードを発動させるとき、任意で手札一枚をトラッシュできる。俺はミステリアスパールを捨てたことにより手札はない。よって六枚ドロー!」
 だがまたしても手札が芳しくない。手札はこれだけあれど、今から新たに何かする事が出来ない。
「ならばガブリアスで攻撃だ。ガードクロー!」
 ガブリアスがエレキブルに向かって、風となるようにダッシュし、右の翼の一振りでエレキブル50/100に襲いかかる。さらに攻撃後、バトル場に戻ってきたガブリアスは両翼を前で交差して守備の動作を取った。
「たった40ダメージくらい、なんてことないぜ。俺のターン! エレキブルのポケパワー、電気エンジン発動。トラッシュの雷エネルギーをエレキブルにつける。さらに手札の雷エネルギーもつけるぜ。それだけじゃない。エレキブルをレベルアップ!」
 エレキブルが光に包まれ、エレキブルLV.X70/120にレベルアップする。なるほど、これが長岡のエースカードか。
「さあ、エレキブルLV.Xで攻撃だ。パルスバリア!」
 エレキブルLV.Xは電気で四角形の壁を作りだすと、それを真正面にいるガブリアスへと押し出す。
「この瞬間ガードクローの効果発動。相手の攻撃を受ける時、ダメージを20だけ軽減する。よってパルスバリアの威力は50だが、ガブリアスが受けるダメージは30! そしてガブリアスのポケボディー、竜の威圧が発動。エレキブルLV.Xの雷エネルギーを手札に戻してもらおう」
「それでもガブリアスの残りHPは100だ。次のターンに電気エンジンをして、今戻したエネルギーをつけなおしてエレキブルLV.Xで放電したら俺の勝ちだぜ?」
 放電はコイントスでダメージを与えるワザだ、確実性に欠ける。……と言ったところでこいつには薬にも何にもならない。おそらく本気でやってみせるだろう。
 しかし恐れていた事態は逃れた。なんらかして先ほどのターンに雷エネルギーをつけられ、放電でガブリアスが倒されることもない、またはエネルギー3つ残したまま俺の番が回っても来なかった。
「果たして、そんなことを俺がみすみすやらせるかと思ったか」
「なんだと?」
「俺のタクティクス、しかと目に焼き付けるがいい。俺のターン! ガブリアスに炎エネルギーをつける」
「待った! その瞬間にエレキブルLV.Xのポケボディー発動。ショックテールっ! 相手が手札からエネルギーをポケモンにつけたとき、そのポケモンに20ダメージを与える!」
 エレキブルLV.Xの尻尾から一筋の電撃がガブリアスにヒットする。ふらついたガブリアス80/130だが、なんなく元の体勢に戻ってエレキブルに向けて構える。
「そんな微々たるダメージは構わない! さあ食らえ、ガブリアスでスピードインパクト!」
 ガブリアスが一瞬にして衝撃波と化して見えなくなると共に爆音が会場に響き渡る。ガブリアスは翼を折りたたんでエレキブルLV.Xに特攻したのだ。
「このワザのダメージは120から相手のエネルギーの数かける20を引いた数値。今エレキブルLV.Xについているエネルギーは一つだけだ。よってエレキブルLV.Xに100ダメージだ」
「100だって!?」
 攻撃を受けて吹っ飛び、仰向けに倒れたエレキブルLV.X0/120が気絶し、消えていく。
「サイドを一枚引いて、これで終わりだ」
 最後のサイドを引くと試合開始の時と全く同じブザーが聞こえる。時計を見れば試合時間はたいした事がないが、もっと長い間戦っていたような気がした。
「なかなか、お前にしては頑張ったほうだな」
「くっそー、自信あったのになぁ。またいつかリベンジだ」
 ふっ、とつい笑みがこぼれた。どこまでも前向きなヤツだ。踵を返し、背中を向けながらこう言ってやった。
「その時を楽しみにしている」
 さあ、後は最後の戦いを控えるだけだ。俺と翔の、因縁の戦いとでも呼ぼうか。決勝を飾るにふさわしい組み合わせだ。



翔「今日のキーカードはガブリアス!
  ポケボディーでエネルギーをバウンスさせて、
  スピードインパクトで決めてやれ!」

ガブリアスLv.71 HP130 無 (DPt1)
ポケボディー りゅうのいあつ
 このポケモンが、バトル場で相手のワザのダメージを受けたとき(このポケモンのHPがなくなっても)、そのワザを使ったポケモンのエネルギーを1個、相手の手札にもどす。
無無 ガードクロー  40
 次の相手の番、自分が受けるワザのダメージは、「−20」される。
無無無 スピードインパクト  120−
 このワザのダメージは、相手のエネルギー×20ダメージぶん、小さくなる
弱点 無+30 抵抗力 ─ にげる 0

───
長岡恭介の使用デッキ
「10000Ω」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-672.html


  [No.658] 36話 運命の激突 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/24(Wed) 13:38:26   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 宿命と呼ぶにふさわしい対戦。この時を俺はいつの間にか待ち望んでいたらしい。
 奥村翔、あいつに負けてからというものの負けによる虚しさとは違う、俺にとってプラスになる『何か』が芽生えた気がする。
 その『何か』を確かめる為に、今一度手加減のない全力の戦いを望む。迷いは無い、ただ真っ直ぐに行くだけだ。
『決勝戦を始めます。選手は試合会場七番にお集まりください』
 ラストコール。時刻は既に午後の三時半を廻り、初めはたくさんいた人も自分の対戦が終わって興味が失せたという人が散らばり会場の人口が減ってきている。しかしギャラリーはこれだけいれば十分だ。
 そして最後の最後に今まで共に闘ってきた三十枚のカードを見つめる。お前たちは非常に頑張ってきてくれた。お陰で俺はこうして翔と戦える。だから、次の一戦は負けるわけには行かない。
 ステージに立ち、向かい合う。翔は特に負けられない戦いなのだというのに、普段と変わらぬ満面の笑みでこう言った。
「さあ、楽しい勝負にしようぜ!」
「望むところだ」
 ガラになく胸が早く鼓動を刻む。そのせいかデッキを切る手がおぼつかない。ようやっとデッキを切り終わり、カードを引く。そしてサイドを三枚伏せてポケモンのカードを伏せる。
 互いに準備が出来、ポケモンをリバースさせる。俺の最初のポケモンはフカマル60/60。翔のバトルポケモンはノコッチ60/60で、ベンチにヒコザル50/50。
「さあいくぜ、風見。俺が先攻だ! 手札の炎エネルギーをヒコザルにつけてノコッチの蛇取りを発動。その効果で山札からカードを一枚引いてターンエンド」
「遠慮はせん。俺のターンだ。フカマルに炎エネルギーをつける。続いてサポーター発動、スージーの抽選。その効果によって手札のボーマンダと水エネルギーをトラッシュし、山札からカードを四枚引く。更に、トレーナーカードのゴージャスボールを発動して山札からガブリアスを手札に加える。そこで不思議なアメを使い、フカマルをガブリアス(130/130)に進化させる!」
「い、一ターン目からガブリアス!?」
 これでこのターンで一気にデッキが半分を切った。手札とトラッシュは潤ったものの、ガブリアスはエネルギーが足りずノコッチにダメージを与えるワザが使えないのでここで自分の番を終わらせる。
「俺のターン。まずはアチャモ(60/60)を場に出す。そして俺もゴージャスボールを発動だ。山札からゴウカザルを手札に加え、もうひとつトレーナーカード、不思議なアメ! その効果でヒコザルをゴウカザルへ進化させる!」
 ベンチのヒコザルが光の柱に包まれる。そしてゴウカザル110/110へとフォルムを変える。ゴウカザルの雄たけびと共に、ゴウカザルを包んでいた光の柱は拡散しながら消えていく。
「まだだぜ。更にアチャモに炎エネルギーをつけ、ポケモン入れ替えを発動。そしてノコッチとベンチのゴウカザルをバトル場へ出す!」
 先に仕掛けてくるのは翔からだった。ノコッチを引っ込めてゴウカザルから攻勢に入る。早速来たか。
「ゴウカザルで攻撃、ファイヤーラッシュ! このワザでゴウカザルの炎エネルギーをトラッシュしてコイントスを行い、オモテの数かける80ダメージを与える!」
 序盤からいきなりの大技にたじろぐ。これが決まればガブリアスのHPが半分以上持って行かれてしまう。
 それだけは避けたい。……と思っていると、願いが通じたのかウラ。攻撃は不発に終わった。
「調子があまりよろしくないようだな」
「これで勝負が決まるのもつまらないだろ?」
「ふっ、俺のターン。ガブリアスに水エネルギーをつけさせ、ガブリアスでゴウカザルを攻撃、ガードクロー!」
 ガブリアスがゴウカザル70/110に右の翼を叩きつける。攻撃後、自分の場に戻ったガブリアスは両手を自分の前でクロスさせた。ガードクローは相手に40ダメージ与えるだけではなく、次の番に相手から受けるダメージを20だけ軽減させる効果を持つ。攻めと守りを文字通り一体化させたワザだ。
 もし次の番にファイヤーラッシュを食らってもダメージは60だけでHPは70も残る。そして俺の手札には水エネルギーがあるので次の番にガブリアスのもう一つのワザ、スピードインパクトを使って確実にとどめを刺せる。手はずに間違いは無い。
「俺のターンだ。アチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、炎エネルギーをゴウカザルにつける」
 これで翔は手札を使い切った。捨て身の戦法、とでも言うべきか。
「ゴウカザルでもう一度ファイヤーラッシュ! ゴウカザルについている炎エネルギーを一枚トラッシュする。……よし、今度はオモテだ!」
「しかしガードクローの効果によってガブリアスが受けるダメージは60となる!」
 ゴウカザルの炎の一撃を、ガブリアスはがっちりと両手で受け止める。それでもガブリアス70/130は圧されてダメージは受けたが想定通り次のターンにゴウカザルを撃破できる。問題ない。
「俺のターン。水エネルギーをガブリアスにつけて、トレーナー、ミステリアスパールを発動。発動後にサイドカードを確認し、その中のポケモンのカードとミステリアスパールを入れ替える。俺はタツベイを手札に加え、ミステリアスパールを表向きのままサイドに置く。そしてタツベイ(50/50)をベンチに出す」
 今の手札はまだ使えそうなカードがない。ここは後のために温存して今は攻めるのみ。
「ガブリアスでゴウカザルに攻撃、スピードインパクト! このワザのダメージは、相手のエネルギーかける20ダメージぶん、小さくなる。ゴウカザルにはエネルギーがない、よって120ダメージだ!」
 ガブリアスは翼を頭の前でクロスさせると、そのままジェット機のように加速してゴウカザルに突っ込んだ。派手な爆発音とボールのように吹き飛ぶゴウカザル0/110が印象的だ。まだまだ余裕があると思っているかもしれないが、120を叩き出せば並大抵のポケモンは抗えない。それはゴウカザルとて例外ではない。
「ゴウカザルはこれで気絶だ。サイドカードを一枚とる」
 俺はミステリアスパールではないサイドカードを一枚手札に加える。今手札に入ったのは不思議なアメだ。もちろんミステリアスパールの効果でめくったときに確認していたので予定調和だ。ミステリアスパールではトレーナーカードを手札に加えれないので、このタイミングで取らないと次のターン使えない。
 そう、今の俺の手札にはボーマンダもいる。次のターンにベンチのタツベイを一気にボーマンダに進化させ、ゆっくりベンチ育成させる。畳み掛けるように。
 ふとモニターを観ると、次の翔のバトルポケモンは予想外にもノコッチだった。ノコッチはエネルギーなしでワザを使えるが、デッキからカードを一枚引く「蛇取り」と、相手に10ダメージだけ与えてベンチポケモンと入れ替わる「噛んで引っ込む」のワザしかなくノコッチ自身のHPも60。確実に次のターン、ガブリアスの餌食となる。そうとわかっていて何故ノコッチだ。飛んで火にいる夏の虫、と言いたいところだが翔がこうする以上何かあるのかもしれない。
「見てろよ風見! ここからが俺のタクティクスだ!」



翔「今日のキーカードはスージーの抽選!
  手札のカードをトラッシュさせながら、
  一気に複数ドローだ!」

スージーの抽選 サポーター (DP4)
 自分の手札を2枚までトラッシュ。
 1枚トラッシュしたなら、自分の山札からカードを3枚引く。2枚トラッシュしたなら、4枚引く。

 サポータは、自分の番に1回だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。


  [No.667] 37話 決戦の果て 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/28(Sun) 12:15:02   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
37話 決戦の果て (画像サイズ: 450×270 29kB)

「見てろよ風見! ここからが俺のタクティクスだ!」
 今、俺の場にはノコッチ60/60。そしてベンチには炎エネルギーが一つついたワカシャモ80/80。
 対する風見の場には炎エネルギーが一つ、水エネルギーが二つついたガブリアス70/130に、ベンチにはもう一匹タツベイ50/50がいる。
 サイドは俺が三枚残しているのに対し、風見は二枚。場の状況を考えても俺が劣勢だ。でも、まだまだ!
「俺のターン!」
 俺の手札は今引いた一枚だけ。しかし今引いたカードはサポーターカードのハンサムの捜査。このカードの効果によって相手の手札を確認し、自分か相手の手札のどちらかを山札に戻させて戻したプレイヤーがカードを五枚引くことができる。
 つまりその効果を自分に使えば、戻すカードがないので単純に山札からカードを五枚補充出来るのと同値だ。
「俺は手札のハンサムの捜査を発動! まずは風見の手札を見せてもらうぜ」
 風見の手札はボーマンダ、炎エネルギー二枚、不思議なアメ、デンジの哲学。不思議なアメとボーマンダが多少引っかかるも、それ以前に自分がなんとかしなければ始まらない。予定通り、自分を対象にカードの補充を行う。
「俺は自分の手札を山札に戻してカードを引く。だが、俺の手札は0なので普通にカードを五枚引くぜ」
 このドローで戦況を大きく変えてしまう……。来い、キーカード!
「っ、よーし! まずはワカシャモに炎エネルギーをつけて、ワカシャモを進化させる! 現れろ、バシャーモ!」
 荒ぶる炎と共に進化したバシャーモ130/130が威圧するように雄たけびを上げる。ハンサムの捜査で引いた当たりのカードが、まだまだチャンスを作ってくれる。
「進化したバシャーモのポケパワー発動。バーニングブレス! このポケパワーによって相手のバトルポケモンを火傷にさせる」
 ベンチのバシャーモが風見の場のガブリアスに向かって赤い吐息を吐く。数歩後退しつつ体を横に振るガブリアスは、ぶんぶんと体を振りながらなんとか対応しようとするものの勿論火傷状態。逃れる事は出来ない。
「ノコッチで攻撃だ。噛んで引っ込む」
 のそのそとノコッチはガブリアスのもとへ進み寄ると、右足に噛みつく。ガブリアス50/130が鬱陶しそうに足を払うと、ノコッチは振りほどかれてバトル場まで戻される。
「威力は10しかないけど、ガブリアスの弱点は無色タイプ! よってガブリアスが食らうダメージは20だ。さらにノコッチは攻撃した後、自分のベンチポケモンと入れ替わる。その効果でバシャーモをバトル場に出させる」
 ポケモンが入れ替わり、俺の番が終わる。そしてここでポケモンチェックに入る。火傷によってコイントスをしてウラの場合、ガブリアスは20ダメージを受けるが……。
「……ウラだ。ガブリアス(30/130)はダメージを受ける。今度は俺の番だ。手札の不思議なアメを発動してベンチのタツベイをボーマンダ(140/140)に進化させて水エネルギーをつける。そしてガブリアスをレベルアップさせる」
 ガブリアスの体が一瞬光に包まれ、ガブリアスLV.X40/140が現れる。面倒なことにレベルアップしたため、火傷状態が回復してしまう。いや、まだある。確か──。
「レベルアップしたこのタイミングでポケパワー、竜の波動を発動。レベルアップしたときに三回コイントスをしてオモテの数かける10ダメージを相手のベンチポケモンに与える。ウラ、オモテ、オモテ。よって翔のベンチポケモン、ノコッチに20ダメージを与える」
 ガブリアスの口から青色の球体が発せられ、ノコッチ40/60に触れると小さな爆発を起こす。ダメージを与えるポケパワー、危ない。もし致命傷を負っているポケモンがいる状態でこれを食らえばたまったもんじゃない。
「更にデンジの哲学を発動。手札の炎エネルギーをトラッシュして山札から六枚引く」
 デンジの哲学は手札が六枚になるまでカードを引けるサポーターだ。カードを引く前に一枚だけ手札をトラッシュできる。今、風見が炎エネルギーをトラッシュしたことによって手札が0となり、六枚引いた。スージーといい手札を捨てるカードが多いということは、やっぱり来るか。
「ガブリアスLV.Xのワザ、蘇生を発動。トラッシュのポケモン一匹をたねポケモンとしてベンチに呼び出し、トラッシュの基本エネルギーを三枚までつけることができる。俺はトラッシュのボーマンダに炎と水エネルギーをつけて蘇生させる!」
 あらかじめベンチにいるボーマンダの隣に白い穴が開き、そこから新手のボーマンダ140/140が這い出てきた。これでボーマンダが二匹並んだ状態となる。マズイ、ボスラッシュ並みの圧巻だ。
 ただでさえ俺にはポケモンが二匹しかいない上にノコッチが非戦闘要員であるのに、こんなにバカバカと大型ポケモンが乱発されては立つ瀬が無い。
 さらに加えて不味いことに俺のバシャーモはHPは130/130。このせいでボーマンダのポケボディーのバトルドーパミンが発動してしまう。バトルドーパミンが発動している限りボーマンダのワザは無色二個分だけワザエネルギーが減る。
「くっ、ドロー! ヒコザル(50/50)をベンチに出し、バシャーモに炎エネルギーをつける! 更にサポーター、オーキド博士の訪問を使うぜ。山札からカードを三枚引いて一枚をデッキの一番下に置く。そしてバシャーモで攻撃、鷲掴み!」
 バシャーモがジャンプ一つでガブリアスLV.Xまで距離を詰め、その喉元に右手を出してそのまま握力で締め付ける。抵抗して両腕を振っていたガブリアスLV.X0/140だったが、次第に力を失って倒れていく。
「レベルアップしてガブリアスLV.Xの最大HPを増やしただろうが、それでも残りHPは40! わしづかみのダメージも40だ、これでガブリアスLV.Xは気絶だぜ!」
「それでもガブリアスのポケボディー、竜の威圧を発動する。ガブリアスに攻撃したポケモンはエネルギーを一枚手札に戻さなくてはいけない。そして俺の次のポケモンは今蘇生したばかりのボーマンダだ」
「竜の威圧の効果で炎エネルギーを戻す。そしてサイドを一枚引いてターンエンド」
 これでサイドの残り枚数はなんとかイーブンに持ち込んだ。まだ勝機はいくらでも残っている。なんとかその糸を手繰り寄せないと。
「あの状況をここまで持ち直すとは流石というべきか。だがそれでもまだまだ足りない! 俺のターンだ。手札の水エネルギーをバトル場のボーマンダにつけてバシャーモに攻撃。蒸気の渦!」
「うおわっ!」
 白い渦がバシャーモを空へと持ち上げ、吹き飛ばす。無造作に受身も取れずに落下したバシャーモ10/130は、右腕を立ててなんとか立ち上がる。
「蒸気の渦のコストとしてボーマンダの炎、水エネルギーを一枚ずつトラッシュ」
 たった一撃で気絶寸前まで。しかもベンチのポケモンも全然育っていない、圧倒的不利な状況。……なのだが、俺の心はいまひとつ緊迫感がなく、むしろワクワクしている。
 だってこんなに楽しいことがあるか? そうそうないぜ。風見だけじゃない、今まで戦ってきたライバル達が皆が皆強かった。こんなに一日中ワクワクドキドキするなんて滅多に無い。
「……。楽しいな」
 そんな俺の心を見透かしたかのように風見が呟く。
「ああ、楽しいな。やっぱりカードはこうじゃないとな」
「まったくだ」
「……、続けるぜ。俺のターン、ヒコザルをモウカザル(80/80)に進化させてバシャーモに炎エネルギーをつける。そしてバシャーモのバーニングブレスでボーマンダを火傷にする! そして攻撃だ、鷲掴み!」
 本来は100ダメージを与える大技の炎の渦を使いたかったが、エネルギーが竜の威圧で戻されたせいで計算が狂い、一枚足りない。だが足りない以上は足りないなりになんとかするしかない。
 バシャーモはボーマンダ100/140の首をがっちりと押さえたまま離さない。
「鷲掴みを受けたポケモンは次の番、逃げることが出来ない。そして俺の番が終わったことでポケモンチェックだ」
「……ウラなのでボーマンダは20ダメージだ」
 これでボーマンダのHPは80/140。まだ気絶には遠い。でも着実に近づいてるのは確かだ。さらに鷲掴みの効果で逃げれないため、火傷から逃れる術はない。あわよくばもうワンチャンスあるかもしれない。
 それに加えてボーマンダのワザは火炎と蒸気の渦の二つ。前者は炎で、後者は炎水で使えるワザ(バトルドーパミンの計算を加えているので本来はさらに無色が前者は一つ、後者は二つ必要)。しかしあのボーマンダについているエネルギーは水エネルギーのみで、風見が次のターンに炎エネルギーをつけれなければ攻撃出来ない。攻撃さえ受けなければ──。
「俺のターン。手札の炎エネルギーをボーマンダにつける」
 しかし淡い期待は見事に粉砕。しかしそれもそうか。そこまで虫のいい話もないのも当然といえば当然だ。
「そしてボーマンダで火炎攻撃だ」
 ボーマンダの口から無慈悲なほど大きい火球がバシャーモめがけてぶつけられる。HPはもう尽きた。あまりにも早い展開についつい舌打ちしたくなる。
「俺の次のバトルポケモンはモウカザルで行く」
「サイドを引いてターンエンドだ」
 風見はまたしてもミステリアスパールではないほうのサイドを引く。それも当然か。
 それはともかく、さっき唱えたもうワンチャンスがある!
「ポケモンチェックをしてもらうぜ」
「ふん。……ウラか」
 これでボーマンダのHPは60/140。さらにHPが120以上のポケモンが俺の場からいなくなったことでバトルドーパミンの効力も消え、風見のボーマンダはワザを使うのに多大なコストが必要になる。チャンスだ!
「俺のターン!」
 引いたカードはワカシャモ。ゴウカザルではない。手札にはサーチカードも、ドローサポートカードもない。ここでゴウカザルがくれば一気にペースを持ってこれたのに、とはいえ仕方あるまい。
「モウカザルに炎エネルギーをつけて攻撃だ! ファイヤーテール」
 俊敏な動作でボーマンダに近づくと大きく跳躍し、縦に回転しながら適当な高さに至るとその尾でボーマンダを叩きつける。背に一撃を受けたボーマンダ20/140は悲鳴を上げ、バランスを崩しかけるも持ち直す。
「ファイヤーテールは威力が40だけど、デメリットとしてコイントスをしてウラならばエネルギーをトラッシュする必要がある。……オモテなので回避だ!」
「ならばここでポケモンチェックだ。なっ……、またウラだと!?」
 決まった! 残りHPが20/140だったボーマンダはこれで20ダメージを受けて気絶。ここまでおいしくは行かないかもしれないと考えていただけに、まさしく僥倖だ!
「サイドを一枚引くぜ」
「まだ俺にはもう一匹のボーマンダが残っている。俺のターンだ。炎エネルギーをつけてバトル。火炎だ!」
 モウカザルよりも一回り大きな火球がモウカザルを包み込む。これでHPわずか30/80。やっぱりボーマンダとモウカザルでは地力が違いすぎる。
「もし次の番で、お前が俺のボーマンダを倒さない限り、お前に勝利はない。たとえプラスパワーなどの小細工をいくらしようともこの圧倒的なHPをモウカザルが削り切ることなど出来ない」
 風見の言うとおりだ。モウカザルのままでは勝てない。せめてゴウカザルに進化させないと。でも手札にゴウカザル、もしくはそれをサーチしたりするカードがない。このドローに全てが懸かる。
 俺の山札は四枚、つまりゴウカザルを引き当てる確率は四分の一。いや、サイドカードがまだ一枚あるから五分の一。それも違う。前に使ったオーキド博士の訪問でキズぐすりを山札の一番下に置いたのでやはり四分の一だ。
 しかし確率論は所詮机上の空論、引いてみなくちゃわからない。信じるんだ、自分が引くことを。そしてカードが自ら現れてくれることを。
「俺のターン!」
 思わずドローした瞬間目をつぶってしまう。右目を恐る恐る開くとそこには一枚のサポーターカードがあった。
「よし! 俺は手札から二枚目のオーキド博士の訪問を発動!」
 残った三枚の山札を全て引く。するとそこにはきっちりゴウカザルがあった。良かった、サイドに行ってなくて。これでまだまだ戦える。勝利の可能性は開かれる!
「モウカザルに炎エネルギーをつけて、モウカザルを進化させる!」
「何っ、ここに来て進化だと!?」
 フォルムをあっという間に変えて現れたゴウカザル60/110が、首を回しながら威圧するような咆哮を上げる。
「行くぞ風見! これが最後の攻撃だ、ゴウカザルでバトル。ファイヤーラッシュ!」
 このワザはバトル場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュし、コイントス。オモテの数×80ダメージを相手に与えるワザ。俺の場にある炎エネルギー全て、ゴウカザルについている炎エネルギーを二枚トラッシュする。
 ボーマンダのHPは140/140。つまりここでオモテを二回出せば俺の勝ちだ!
「ま、まさか本当に二回連続でオモテを出すつもりじゃないだろうな」
「出すつもりに決まってるだろ! 勝負だ! 一回目のコイントスはオモテ!」
「っ……!」
「二回目のコイントスは……オモテだ!」
「ばっ、馬鹿な!」
「行っけえええ!」
 ゴウカザルは右手に盛る炎を纏い、ボーマンダに殴りかかる。爆発のエフェクトで一瞬視界が白に包まれた。



翔「今日のキーカードはガブリアスLV.Xだ。
  そせいはなんとエネルギーなしで使える!
  トラッシュされた仲間を蘇生させよう!」

ガブリアスLV.X HP140 無 (DP4)
ポケパワー りゅうのはどう
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。コインを3回投げ、オモテの数ぶんのダメージカウンターを、相手のベンチポケモン全員に、それぞれのせる。
─ そせい
 自分のトラッシュから「ポケモン(ポケモンLV.Xはのぞく)」を1枚選び、「たねポケモン」としてベンチに出す。その後、のぞむなら、自分のトラッシュの基本エネルギーを3枚選び、そのポケモンにつけてよい。
─このカードは、バトル場のガブリアスに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 ─ にげる 0


───
風見雄大の使用デッキ
「ドラゴンエフォート」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-675.html


  [No.678] 38話 終わりと新たな始まり 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/31(Wed) 17:42:19   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「──です。そして今度の3D投影機はベルト状になっていて、簡単な操作で簡単になおかつコンパクトに立体映像を伴ったカードバトルが出来るようになります。お手元の資料の十二ページをご覧ください。これが設計図案です。現在まだ正式名称は未定ですが、仮名として『バトルベルト』という名前としています。小売希望の方は、まだしばらくは調整中というところです。図案を見て分かると思われますが、バトルベルトは前回のステージ式3D投影機との相違点が見られると思います。その点に関して何か質問等ございますか」
 昨日に風見杯があり、翔との壮絶な戦いをした。そんなことは遠い過去のような気がする程静かに今日は始まった。
 風見杯で使ったステージ式3D投影機とは違う、新型光学機器『バトルベルト』のPR。株式会社TECKの社員(どちらかというとエンジニアかもしれないが)である俺は、TECKの大プロジェクトの責任者として早速この戦場でまた新たな戦いを繰り広げている。
 風見杯はそう、全てはこのバトルベルトへの布石だ。
 俺の一人演説が終わり、静寂が再び訪れた会議室に小さな腕が一つ上がる。松野さんだ。
「調整中って言ってあるけど価格はどうなの? 主なユーザー年齢的にも四万越えると苦しいわよ?」
「そこも踏まえて調整中です。出来る限り抑えるつもりですが」
「わかったわ、私からは他に質問はないわ」
 しばらくしてようやく会議が終了した。会議室を出る人がそれぞれ伸びをしたり、うーだのあーだの言って視界から消えていく。これで会議室に残ったのは片づけをしている俺と、一人座ってそんな俺を見ている松野さんだけだ。
「ねぇ風見君……、この後時間あるかしら」
「はい? 大丈夫です」
「ちょっと込み入った話なのよ。あまり人に知られたくないから」
「分かりました、部屋を手配しておきますね。……風見杯関係ですか?」
「惜しいわ。『風見杯に出ていた藤原拓哉について』、よ。お昼取ってからいつもの場所でね」
 それだけ言い残すと松野さんは会議室から去って行った。一人取り残された俺は考える。
 藤原、確かに明らかにおかしいことばかりだ。少年を3D投影機無しでサマヨールを呼び出し、幽閉。恐らく松野さんの話とは大方これに関することだろう。
 不穏な心が渦巻く中、資料を整え会議室を出る。



 風見杯から二日。前日の月曜は祝日だったので本日火曜からが学校だ。
 教室に着くなり、どこから話を聞いたかは知らないがクラスメイトの蜂谷 亮(はちや りょう)がいきなり話しかけてきた。
「五百万ってすげえな!」
 ああ、やっぱりか。大方恭介から聞いて来たんだね。あのバカ口軽すぎ。
「まあもう手元にはないけどな。借金返してまたいつも通りすっからかんだ。俺みたいな素寒貧捕まえてもうまい棒一本さえ出てこないぜ」
「別に金目当てで聞いてる訳じゃないけどさ。いや、そういうと嘘になるかもしれないけど、俺もポケモンカード始めようかなぁ」
「どうしてさ」
「賞金だろ賞金!」
「滅茶苦茶金目当てじゃねーか!」
 蜂谷のあまりに眩しい笑顔を、思わずグーで真正面から殴りつけたい。そのあとパーで。
 というよりそもそも賞金が出る大会は数少ない。本当に少ない。その辺をこいつは舐めてる。ポケモンカード舐めるな!
「ばーか。風見杯が異例なんだよ」
 突然俺の背後から恭介が現れて、俺より先に釘を刺す。お前がこいつに喋ったんだろうが。
「なんだ、恭介かよ。お前も初心者なんだろ? お前が言ってもあんまり信用できないな」
「しょ、初心者っつったってお前よりは経験者だ!」
 急いで胸を張る恭介だが、とても虚しく見える。うーん、これが準決勝まで行ったんだよなあ。
「なあ、翔。本当に今回だけなの?」
「たぶんね。余程の事がないと賞金なんて出ねーよ」
「そらそうだ」
「恭介お前は黙っとけ」
「はぁ。一攫千金のチャンスだったのになぁ。……でも俺もちょっとポケモンカードやってみようかな」
「おっ! だったら俺が教えてやるぜ!」
 再び恭介がしゃしゃり出るも、右手だけであっさり恭介はどかされる。若干悲しそうに視線を下に向けていた恭介を見て、ちょっと可哀想かなと思ったものの二秒でそんなこと吹き飛んだぜ! 恭介だし。
「で、俺にも教えてくれよ!」
「ああ、いいぜ蜂谷。放課後からやるか?」
「えーと、うん。今日部活休み出し頼むわ」
 蜂谷が満足そうに自分の机へ戻っていくと次の来客者が現れる。
「おはよう、翔くん恭介くん」
「おっ……拓哉か」
 一昨日の記憶が思わず蘇る。しかしあの時の変な拓哉は嘘のような。というか夢だったんじゃないのかな。
 いろいろ考えすぎた俺が応答に少し詰まっていると、元気そうに恭介が拓哉に声をかける。
「おお、拓哉! 昼休みに俺と本気の勝負しようぜ!」
 本気の勝負と聞いて拓哉の眉がピクッと反応する。
「俺と本気の勝負だぁ? いいぜ、ブッ潰してやる」
 アァ、ユメジャナカッタノネ。
 ハハハハハと高らかに笑いながら席へ着く拓哉をよそに、俺と恭介はただ固まるばかり。特に事情を知らないほかのクラスメイトは皆揃って口あけながら拓哉を見る。そして鋭い眼光に睨みつけられたのか、皆授業の準備に戻っていく。
「なんだあれ……」
「二重人格だったか」
「うおお、風見か」
 虚空に呟く恭介の問いに答えたのは、いつの間にか教室に来ていた風見だった。
 さっきから、右に左にいろいろ出てきて忙しい。
「うんうん。そんなこと言ってた気がする」
「なるほどねぇ……。ごめん俺にはぜーんぜんわかんねえ」
「まあ特に気にかけることはしなくていいな。それよりも三月にある公式大会のこと知ってるか?」
 三月の公式大会、ああ。もちろん聞き覚えはあるし、参加するつもりだ。
 そのことを知らなかった恭介は、喜色満面で本当か? と風見の方をガン見する。やや困った顔を浮かべたものの、一歩下がって風見が答える。
「嘘をついてどうする。ポケモンチャレンジカップ、略してPCCという大会だ。翔は出るよな」
「ん、ああ。勿論。恭介はどうする?」
「俺? お、おう。もちろん出るぜ」
 俺たちの答えに風見は満足そうな表情を見せる。また風見杯みたいな熱い対戦が出来そうな気がして、まだまだ先の話だというのにもう胸が熱くなる。
 しかし新たな脅威は、既にじわりじわりと滲み寄っていた。



翔「今回のキーカードはバシャーモ!
  俺を支え続けてくれた相棒だ。
  これからもよろしくな!」

バシャーモLv.59 HP130 炎 (DPt1)
ポケパワー バーニングブレス
 自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
無無 わしづかみ  40
 次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
炎炎無 ほのおのうず  100
 自分のエネルギーを2個トラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 − にげる 1


  [No.687] PCC編 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/09/02(Fri) 19:14:07   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ついにポケモンカードの公式大会に参加する翔たち。
加えて風見が開発した新型の小型3D投影機、「バトルベルト」が世に出て新しいポケモンカードのバトルの世界が広がる!
しかしそこに新たな能力者の影が忍び寄る。


  [No.688] PCC編を読む前に 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/09/02(Fri) 19:16:44   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

第三章PCC編を読んでいただく前に

カードテキストや用語をLEGEND準拠にさせていただきます。
具体的にはダメージカウンターをダメカンと読んだり、トレーナーをグッズと言い替えたり。
しかし、カードのレギュレーションは前章と同じくDPとDPtのみです。

───この物語はフィクションです。劇中に出てくる人物、団体は架空の物と実在の物が存在しますが、実在の団体とこの小説に書かれることは何の関係もありません。───


  [No.697] 39話 風見の用事 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/04(Sun) 09:38:50   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 二月下旬、非常に寒い季節は続く。私立高ゆえに土曜日も授業があり、今日がその土曜日。昼までだからと言えど喜ばしくない。とんでもなく喜ばしくない。
 そんな朝の教室で、俺と風見はいつものように談笑をしていた。
「相変わらず寒いな」
「寒すぎて黒い塊が出そうだ」
「なんだそれ」
「まるで鼻からよだれが出る」
「……どういう状況か分からん。大丈夫か?」
 渾身のボケがことごとくかわされ、風見は笑うどころか苦笑いを浮かべている。
「もしかして翔、お前熱でもあるんじゃないか」
「失礼な! いや、中学時代の友達の真似事をしたんだ」
「と言うと?」
「大阪出身の友達がいてさ、こんな感じで面白い事言ってたんだけども俺には面白いこと言えないなぁ」
「しかしどうして急に?」
「久々にメールがあったんだ」
 と言って制服ズボンの左ポケットから携帯を取り出し、受信ボックスを開く。
 受信ボックスの一番上にから宇田 由香里(うだ ゆかり)と書かれたメールが数通ある。その中の一つを表示して風見に見せた。
「『ポケモンチャレンジカップに出るん?』、か。こいつもポケモンカードをしているのか?」
「ああ、中々強いぜ」
「一度手合わせしたいもんだな。大会でぶつかれたらいいな」
 ポケモンチャレンジカップ、略してPCCはまず全都道府県で地区予選を行い、その後は地方予選、全国大会となる。
 由香里は大阪出身の友人だが父親の仕事の関係で中学時代の一部、二年間だけ東京で過ごし、今は大阪に戻ってそっちの高校に通っている。つまり会うとしたら全国大会だ。
「ああ、そのためにはまず東京での激戦勝ち抜かなきゃなー」
「そうだな」
 その刹那、教室の扉が開く。担任かと思い振り返ると担任ではなく拓哉がやってきた。すかさず風見が声をかける。
「藤原か。悪いが今日の放課後暇か?」
「え? 僕? うーん、大丈夫と思うよ。急にどうしたの?」
「翔とお前とでちょっと着いてきてもらいたいところがあるんだ」
 あれ? 何その話。ちょっと何かおかしいぞ!
「俺が行くのはもう確定済みなの!? 今初めて聞いたんだけど」
「よし、これできまりだな。放課後よろしくな」
「いや、初耳なんだけど……」



 放課後、タクシーに三人乗り。予想は出来たけど風見は助手席、俺ら二人は後部座席。
「タクシーとは偉い身分だよな」
「そうか、翔はそんなに歩いていきたいか」
「ごめんなさい。普段からタクシー使ってるのか?」
「いや、そうでもない。地下鉄とか私鉄とかJRとかも何でも使うぞ。今日は急ぎだからこうしてる」
「へえ。さすが風見君。都心慣れしてるよね」
 いきなり拓哉が身を乗り出して会話に割り込んできて、びっくりした。手で制して座らせる。
「都心慣れと言ってもようやく慣れたくらいだけどな。東京はいろいろややこしい」
「何その言い方、県外の人みたいだ」
「いや、実際俺が東京に来たのは高一の春からだぞ」
「えー!」
「なんだってー!」
「バカ、二人とも声のボリューム。言ってなかったけか。俺は元々北海道で住んでたんだ」
「トンネルを越えると」
「それは新潟」
「あれ新潟だったんだ」
「北海道の屋敷で母親と、後はまあその辺いろいろと住んでたんだが嫌気がさしてな。東京から屋敷にたまたま来ていた父親に頼んで、俺を北海道から東京に連れて行ってもらった」
「ふーん。じゃあ今はお父さんと二人暮らしか」
「いいや、一人暮らしだ」
「えー!」
「なんだってー!」
 さすがに調子に乗って騒ぎ過ぎたか、ミラーに映る運転手さんの顔がひどく歪んだ。申し訳ない、もうしません。
「さっきからそれ流行ってるのか?」
「いや、別に。……そういえば風見が手製の弁当持って来てるとこみたことないのは一人暮らしだったからなんだな。お世辞にも料理する風見が俺には見えねえ」
「うん。いつも食堂かお弁当だったよね。僕も料理する風見君はちょっと……」
「……まあそういうことだ」
「というより風見はお母さんのこと嫌いなのか?」
「ああ。面倒にも程がある、今は一人で暮らせて快適だ」
「いろいろあるんだなぁ」
「まあ戸籍的には俺はまだ北海道に住んでることになってるしな」
「えらく長い旅行ですね」
「その言い方は腹が立つな」
「そういえば僕と翔くんはどこに向かってるの?」
 話が一段落して、拓哉が忘れられていた本題を口にする。何をするかも聞いてないよね。
「もうすぐ着く。着いてからの楽しみだ」
「というより俺と拓哉っていう組み合わせがイマイチ謎だな。恭介とかはいいのか?」
「ああ。用事があるのは翔と藤原の二人だ。それ以外は関係ない。具体的に言うと、翔とこないだの大会で翔と戦った方の藤原だ」
 と風見が言ったが同時、拓哉の態度や雰囲気がコロッと変わる。
「俺様に何の用なんだ?」
「着いてから話そう。もう着く」
 今の拓哉、そうだな。仮称・拓哉(裏)の扱いはまだよく分からないからこんな車内で引っ張り出してほしくなかったんだけどな。
 会話の止まった俺たちを乗せたタクシーは、夕方の都会を走り続ける。



「着いたぞ」
「おー、ようやくかあ。って、公園?」
「ああ。公園だ。さ、出よう」
「いや、その前に金払えよ」
 グダグダしてる風見を置いてタクシーから降りて、公園に入る。昼間とは違う静けさがちょっとドキドキする。が、誰もいない。カップルさえいないじゃないか、話が違うぞ恭介。いや、そうは言ってもまだ晩だしこんなもんだろうか。
「ったく。呼んでおいて誰もいねえじゃねえか」
「落ちつけよ」
 声を荒げる拓哉を制する。こいつはあまりにも短気すぎる。まあ成り立ちが成り立ちだけに仕方ないかもしれないがいくらなんでも難アリだ。
「そんなとこでぼさっとしてないで行くぞ」
 唐突に背後から現れた風見が俺たちの間を通り抜けて公園の奥に進んでいく。勝手に公園の入り口で待ってたと思ってただけだけど、どこか裏切られたような気がして拓哉と二人、少しバツの悪い顔を浮かべて風見の後に着いていく。
 が、その顔が余計バツの悪いそれになるのには時間がかからなかった。公園の奥まで連れて行かれた奥で小さな人影が。目を凝らして見れば、暗がり一人レディーススーツを着た小学生程度の背の小さな女の子がまるで俺たちを待っていたかのように立っていた。
「え、この人?」
「そうだ」
「ほんとに?」
「そうよ。初めまして、奥村翔君、藤原拓哉君」
 その女の子は背丈とは合わぬやけに大人びた笑みを浮かべていた。



翔「今日のキーカードはハマナのリサーチ!
  たねポケモンと基本エネルギーがサーチできる!
  試合展開をこれで早めよう!」

ハマナのリサーチ サポーター
 自分の山札から、「たねポケモン」または「基本エネルギー」を合計2枚まで選び、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。

 サポーターは、自分の番に1回だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。


  [No.702] 40話 バトルベルト! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/07(Wed) 23:59:42   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
40話 バトルベルト! (画像サイズ: 240×320 40kB)

「誰だよそこのチビ」
 俺がどなたですかと『丁寧に』尋ねる前に拓哉が言い放った。思わず背中に汗が流れて「馬鹿」と拓哉を罵倒してしまった。背はあれだけど身なりからして明らか目上の人だろう、その人に向かってチビとは。確かにチビだけど。
 そしてチビと言われて彼女は真面目そうな表情が一瞬で崩れた。
「あら。礼儀ってものを知らないのね」
「ァんだと?」
 おいおい出会い頭でいきなり抗争状態か。本当にロクな奴じゃないぞ拓哉のもう一つの人格。って長いな。そうだ、良い呼び名思いついた。拓哉(裏)! これでどうだ。
 いやいや、そんなことよりも話題を逸らそう。
「あの、俺たちを呼んだ用事ってのは──」
「そんなのどうでもいいんだよ、黙ってろ」
 ダメだこいつ。ネジが八本以上足りてない。
「私は松野藍(まつの あい)。ポケモンカードゲームの制作に携わっている人間よ。翔君のお父さんにはお世話になったわ」
「父さんの知り合い?」
「ええ、上司よ」
「へえ! そうなんですか!」
 父さんのことをいろいろ聞きたかったのだが、拓哉が妨げるせいで叶わぬものになってしまった。
「そんなことはどうでもいい。このチビに人に対する礼儀っていうのを教えてやる」
「それはお前だろ!」
 と言い返したものの人の話まるで聞いてない。ダメだ、もうどうにでもなれ。風見も頭を手で押さえて日本海溝並に深いため息を漏らした。
「……はぁ。どうしても戦いたいなら戦ってあげるわ。その代わり、負けたら勝った方の言う事を一つ聞く」
「いいぜ。やってやろうじゃねえか」
 更に雲行きが怪しくなってきた。どうしてこうなるんだ。松野さんは腋に置いていた鞄からデッキを取り出し、拓哉はポケットから無造作にデッキを取りだす。
「ってちょっと待てー! 対戦するのはいいけどここ公園じゃないか。プレイマットも何もないし」
「それが出来るんだな。ちょっと待ってろ」
 さっきまで黙っていた風見が突然持っていたスーツケースを大切そうに地面に置いて、これまた大切そうに開く。開かれたケースの中には変なベルトが三本もついていた。
「『バトルベルト』という、うちの最新商品だ。これがあれば公園だろうと対戦が出来る。とりあえず二人ともつけてくれ」
 いやいや、むしろ対戦を止めろよ!
 真顔で突っ込みそうな俺をよそに、松野さんは素直にベルトをつけ、拓哉は渋そうな顔をするもベルトをつける。
 拓哉のベルトは紫色。松野さんがつけたのは白色である。どちらもへその下の辺りから右ポケット側へとモンスターボールのようなものが合計六つ並んでいる。アニメのポケモントレーナーっぽい。
「起動させるためには手順がある。俺の言う通り動いてもらいたい」
 拓哉は仕方なく言う通りを聞くという合図か、両手を力なく挙げた。頷いた風見は続ける。
「まず、ベルトに六つモンスターボールのようなものがついていると思う。一番右側の、いわゆる一番ポケット側のモンスターボールの真ん中のスイッチを押しながら、更にポケット側へ押してくれ」
 二人ともボールの、ポケスペでいう「開閉ボタン」を押しながら更にポケット側へ押し込む。カチッという軽快なスイッチ音が聞こえた。
「そして今度は一番左側、つまりへその下のモンスターボールのボタンを押してくれ。押した後は危ないのでベルトの傍に手を出さないでほしい」
 危ない? 少し疑問だったが答えはすぐ分かった。二人とも今度はへその下のボールの開閉ボタンを押すと、パソコンが作動するような電子音が鳴り始め、トランスフォームし始めた。
 本当に何が起きているか分からない。ただ分かることはへそ側からポケットに向けての五つのボール、言い換えると最初に動かしたやつ以外の全てのモンスターボールが目にもとまらぬ速さでガシャガシャ音を立てて別の物へと変形しようとしていた。
「これがバトルベルトの『テーブルモード』だ」
 五つのボールはプレイマットに形を変えていた。しかし、公式のプレイマットとは少し違う。テーブルにはバトル場、ベンチ、トラッシュ、山札を入れると思わしきポケット。そしてテーブルの左右にはカードを置くところが合計六つ。恐らく数的にサイドカードを置くところだろう。
 テーブルの配置位置は微妙にプレイマットと違う。バトル場の後ろにベンチがあるのは同じだが、バトル場の右の方にトラッシュと山札を置くポケットがある。
 それにしても腹から机を突き出しているようで少し滑稽だ。
「それじゃあテーブルの手前にあるボタンを押してくれ」
「これか?」
 テーブルの一番右手前に指先と同じ程度の大きさしかないボタンがあるようだ。それを二人が押すと、テーブルの裏側からテーブルの脚が生えた。生えたっていうのも変か。
 そしてベルトとテーブルのつなぎ目が外れ、完全に一つのテーブルとして独立した。
「このテーブルだけで独立したものの名称を『バトルテーブル』、と言う。さあこれで勝負の準備は整った。デッキをデッキポケットに入れてくれ」
 二人とも指示通りデッキをデッキポケットに突っ込む。
「最後にデッキポケットの隣の青いボタンを押してくれ」
 デッキポケットの隣には青いボタンと赤いボタンが縦に並んでいる。そのうちの青い方を押すと、デッキがオートでシャッフルし始めた。どうやらデッキポケットに秘密があるようだが、これでわざわざ自分でシャッフルしたり、相手にシャッフルさせたりする手間が省けるもんだ。
「バトルベルトを使った場合は少しだけルール変更として、サイドカードは自分のデッキの下から取ることになっている。システム的に仕方がないことなんでな、勘弁してくれ」
 シャッフルが終わり、デッキの上からカードが(おそらく)七枚デッキから突き出る。そして左側のサイドゾーンにいつの間にかサイドカードが三枚置かれていた。おそらく山札からカードが突き出た時にサイドもおかれたのだろうか。
「それは手札だ」
 拓哉と松野さんは突き出た七枚を左手に持つ。
「これで対戦準備の完成だ」
 と言えど、風見のペースになってしまったので拓哉の戦意は見るからに衰えている。そりゃあ、あんだけ鋭気に満ちていたのに長々と説明をされれば気も削がれるのは頷ける。
 ところが松野さんはそうでもないようだ。いつでも来いと言わんばかりの余裕の表情だ。
「私をブッ潰すんじゃなかったかしら?」
 煽りも上手い。
「ケッ、ほざきやがって! ブッ潰してやる!」
 隣にいる風見は勝負が始まったのをニヤリと眺望する。拓哉も拓哉だが風見も風見だ。もうやだこいつら。




風見「今日のキーカードというよりは次回のキーカードだな
   このスタジアムが場にある限り超、悪タイプは逃げ放題だ!
   これで試合を有利に運べ!」

月光のスタジアム サポーター
 おたがいの超ポケモンと悪ポケモン全員のにげるエネルギーは、すべてなくなる。

 スタジアムは、自分の番に1回だけバトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが出たなら、このカードをトラッシュ。


  [No.712] 41話 力の証明 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/11(Sun) 19:34:16   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 やや暗がりの晩の公園で、学生とポケカの開発者がバトルベルト制作者の陰謀を交えて対戦を始める。全く意味がわからん。
 何が何だか。俺の必要のなさを考慮して帰らさせてくれないかな。
 さて拓哉の最初のポケモンはフワンテとヨマワル。一方で松野さんのポケモンはポチエナだ。
 風見杯とかで3D投影機とは違い、ポケモンの左下に緑色のバーがついてある。その緑色のバーのすぐ上には、たとえばフワンテには「50/50」、ポチエナにも「50/50」とある。これはHPの数値だ。きっとダメージを受けるとバーは減っていく仕組みだろう。
「先攻は俺がもらう! ドロー」
 拓哉の使うゴースト(超)タイプは基本的に悪タイプが弱点となっている。相性で既に負い目を背負っている拓哉だがどう戦っていくのだろう。
「手札の超エネルギーをヨマワルにつけ、ベンチにムウマージGL(80/80)を出す」
 どうやら対戦を見ている限り、『バトルベルト』とやらはやはり3D投影機を簡易化にしたもののようで、風見杯と同様にポケモンが実際にいるように映像が見える。
「へぇ、ゴーストタイプねえ。じゃあ今度は私の番よ。まずは手札からスタジアム発動。破れた時空!」
 松野さんはバトル場の左にあるスタジアム置きに破れた時空のカードを置いた。すると、先ほどまで夜の公園だった辺りが一気にダイパなどで見た槍の柱に変わる。そして松野さんの背景には破れた世界の入り口が現れる。
「このスタジアムがあるとき、お互いにその番に出たばかりのポケモンを進化させれるわ。その効果によって、ポチエナをグラエナに進化させる」
 ポチエナがより立派な体躯に進化する。左下のバーの数字が50/50から90/90へと変わる。
「そして手札からスカタンクGを場にだす」
 スカタンクG……。風見杯本戦一回戦を思い出す。半田さんに使われたあの毒コンボには苦しめられた。
「拓哉! 気をつけろ!」
「行くわよ。スカタンクGのポケパワー発動、ポイズンストラクチャー」
 スカタンクGの体から紫色の霧が噴出され、バトル場のグラエナとフワンテを覆う。
 このポケパワーはスタジアムがあるとき、互いのバトル場のSPポケモン以外を毒にするポケパワー。風見杯の時は相手もSPポケモンを使っていたから毒を食らったのは俺だけだったが、グラエナはSPポケモンではない。自分のポケモンを巻き込んでまですることか?
「そしてグラエナで攻撃。グラエナのポケボディー、逃げ腰によってグラエナが状態異常の時、ワザエネルギーは全てなくなる。やけっぱち攻撃!」
「な、なんだと!?」
 グラエナが首をあちこちに振り回して暴れながらフワンテに頭から突進をかます。フワンテは「50+10」と書かれた数字を表記しながら思い切り跳ね飛ばされると、左下のHPバーがゲームのように減少して0になった。
「見やすくなっただろう?」
「ああ。さっきのフワンテに現れた数字は食らったワザのダメージだろ?」
「そう。通常のワザダメージは青文字で。弱点補正が入るときはさっきみたいに+10が赤文字で書かれる。×2とかもあるぞ」
 しかし気になるのは笑顔で解説する調子の良い風見ではなく、明らかに苦しい試合運びにされてしまった拓哉だった。
「サイドカードを一枚引くわ」
「クソっ、だったらムウマージGLをベンチからバトル場に出す」
「そしてポケモンチェック。グラエナは毒なので10ダメージ受けるわ」
 グラエナが体を苦しそうに縮める。紫色の文字で10と表記表記され、HPバーがわずかに削られる。しかしまだ80/90もあるのだ。拓哉はこれをどう攻略するか。
「俺のターン!」
 山札からカードを引いた拓哉は、怒りで爆発しそうなほど不機嫌だった。
「クソッ! ヨマワルをサマヨールに進化させる(80/80)! そしてお前が出したスタジアムの効果でヨノワール(120/120)にまだ進化させる! さらに超エネルギーを……」
 そう、ムウマージGLにはつけたくてもつけれない。ムウマージGLが超エネルギー一枚で使えるワザはサイコリムーブのみ。しかしこれは与えるダメージが10しかなく、グラエナは超タイプに抵抗力をもつため結果的に与えるダメージは0となる。ワザの効果も、コイントスを二回行い両方ともオモテなら相手のエネルギーを全てトラッシュするというものだがグラエナにはそのエネルギーが初めからついていない。
「ヨノワールにつけてターンエンドだ……」
 渋った結果、控えのヨノワールにつけるだけで何も出来ない。
 そしてグラエナは更に毒のダメージを受ける。これで残りHPは70/90となるも、拓哉からの攻撃はまだ一つも受けていない。
「私のターン。ベンチにポチエナを出し、さらに破れた時空の効果でグラエナ(90/90)に進化させる。そしてクロバットGをベンチに出す」
 クロバットGはHP80/80。バトル場のグラエナの残りHPを上回るくらいだ。忙しそうに羽を羽ばたかす。
「そしてこの瞬間にクロバットGのポケパワー発動、フラッシュバイツ!」
 視界が一瞬白に変わる。まばゆい光に思わず目を腕でかばう。ようやく目が見えると、ベンチにいたヨノワールのHPが110/120に変わっていた。
「クロバットGのフラッシュバイツはこのカードを手札からベンチに出した時、相手のポケモン一体にダメカンを一つ乗せる効果を持つ。これでヨノワールも圏内だ」
 風見が関心するように解説をする。圏内、というのも、グラエナのやけっぱちは相手が自分よりつけているエネルギーが多いと与えるダメージが+30され、80ダメージになる。さらにヨノワールの弱点は悪。さらに30ダメージ食らうことになり一撃で倒されてしまう。ここまで計算されているプレイングは拍手物、流石だ。
「さらにユクシー(70/70)をベンチに出してポケパワー、セットアップを発動。その効果により手札が七枚になるよう、つまり五枚ドローする」
 そう宣言すると、松野さんのデッキの上からカードが五枚突き出される。へえ、バトルベルト。中々便利だ。前の風見杯のやつは自分でカードを引かないと行けなかったし。
「そしてグラエナで攻撃。やけっぱち!」
 ムウマージGLもフワンテと同じようダメージを受ける。50×2と表示され、80/80あったムウマージGのHPも一瞬で0/80となる。
「あら、ケンカ売ってこの程度? がっかりもいいとこね。これで私の残りのサイドは一枚よ」
「くっ……、俺の最後のポケモンはヨノワールだ。それでお前のグラエナにはこのポケモンチェックのときに毒のダメージを受けてもらう」
 完璧、と言っても過言ではない松野さんのプレイングだが、たった一つだけミスを犯した。まだ可能性はある、かもしれない。今のグラエナのHPは60/90こちらも圏内だ。
「俺のターン! まだだ、ヨノワールのポケパワー発動。消えてなくなれ! 闇の手の平!」
 ヨノワールがバトル場から姿を消すと、松野さんのベンチのグラエナの背後に移動していた。そして音も立てずグラエナを両手で握る。すると、そのままグラエナは音も無く消えてしまった。
「相手のベンチに四匹ポケモンがいるとき、そのうち一匹についているカードを全て山札に戻してシャッフルしてもらう」
「へぇ……」
 松野さんが苦い顔をしてベンチに置いていたグラエナとポチエナのカードをデッキポケットに差し込む。すると、勝手にシャッフルし始めた。
「便利だろう?」
 風見がやってやったと言わんばかりの表情、どや顔でこちらを見る。そんなに自信に満ちた表情をされるとちょっと腹が立つ。
「ヨノワールにエネルギーをつけて呪怨! このワザは相手にダメカンを五個、さらにプレイヤーが既に取ったサイドの数のダメカンを乗せる。よって合計七個だ! そしてこれはダメカンを『乗せる効果』なので抵抗力は無視できる」
 今のグラエナのHPは60。そして呪怨によってのせられるダメカンは七、つまり70ダメージ。ようやく逆転の一手だ。HPを削られたグラエナは少しのたうちそのまま倒れていった。
 しかも相手のベンチにはロクに戦えそうなポケモンもおらず、どれもエネルギー一つさえ乗っていない。巻き返せるか。
「よし、サイドを引くぜ!」
「私の次のポケモンはユクシーよ。私のターン、手札のサポーター、ハマナのリサーチを発動。山札の基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加える。私はポチエナとユクシーを選択」
 デッキの中途半端な位置からカードが二枚突き出る。デッキの中のカードを勝手にサーチもしてくれるのか! いちいち自分でデッキを見るよりよっぽど早い。これはすごいぞ風見!
「ポチエナをベンチに出し、グラエナ(90/90)に進化させる」
「なっ、バカな!? 三枚入れてるのか?」
「悪いわね、このターン引いたカードがグラエナだったのよ。運も実力のうちってことね。破れた時空をトラッシュして月光のスタジアムを発動!」
 辺りがやりの柱から公園に戻る、のもつかの間で今度は薄暗い夜の草原に変わった。松野さんの上空には綺麗な三日月が浮かんでいる。
「月光のスタジアムがある限り、超と悪タイプの逃げるエネルギーはなくなるわ。ユクシーを逃がしてグラエナをバトル場に出し、スカタンクGのポケパワー、ポイズンストラクチャー発動。これでお互いに毒状態にさせるわ」
 拓哉が右手に作った拳は外から見ても汗ばんでいるのが分かる。もうここから逆転は無い。拓哉の番が回ることはない。
「そして逃げ腰の効果でグラエナはワザエネルギーが必要なくなった。グラエナで攻撃。トドメよ、やけっぱち!」
「くっ……!」
 グラエナの攻撃により吹き飛ばされたヨノワールに「80+30」のダメージ値が表示され、ヨノワールのHPバーは尽きた。
 松野さんが最後のサイドを引き、勝負の決着と共に夜の草原やポケモンが消えて元の公園に戻る。
 公園の街灯が、圧敗して項垂れる拓哉を悲しく照らしていた。



松野「今日のキーカードはグラエナよ。
   特殊状態にさえなっていればワザエネルギーは不要よ。
   やけっぱちとのシナジー性もバッチリね」

グラエナLv.47 HP90 悪 (DPt1)
ポケボディー にげごし
 このポケモンが特殊状態なら、このポケモンのワザエネルギーは、すべてなくなる。
悪無 けったく  20+
 この番に、自分が手札から「サポーター」を出して使っていたなら、20ダメージを追加。
悪悪無 やけっぱち  50+
 自分のエネルギーの数が、相手のエネルギーの数より少ないなら、30ダメージを追加。
弱点 闘+20 抵抗力 超−20 にげる 0

───
松野藍の使用デッキ
「期待への謀略」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-687.html


  [No.718] 42話 能力者の影 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/14(Wed) 17:25:30   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「戻すときは逆の手順だ。テーブルに近づいて、ベルトとキッチリ合わせてテーブル手前のボタンを押す。そう、それでテーブルの脚がなくなる。今度は一個だけ残ったポケット傍のモンスターボールのボタンを押してくれ。その時も危ないから手とか近付けるなよ。最後にさっきのボールを最初とは逆にへそ側へ押してカチッと鳴ったら終わりだ。そう、そうだ」
 言われた通りの操作して二人はバトルベルトをはずして風見に返す。しかめっ面の拓哉とは反対で、風見はテストプレイが上手く行ってご満悦のようだ。
「さて、私に負けたから言うことを一つ聞いてもらうわよ」
『……はぁ。どうしても戦いたいなら戦ってあげるわ。その代わり、負けたら勝った方の言う事を一つ聞く』
 そういやそんなこと言ってたね。だんまりの拓哉の元に、静かに松野さんが歩み寄る。
「私の言う事は、『私の言う事を聞いてほしい』よ」
「は?」
「え?」
 俺と拓哉から思わず間抜けた声が出る。意味を理解するまでに少しの間を必要とした。
「まあ、分かりやすく言うと、貴方達を呼んだ理由を話すからさっきみたいに喧嘩とか売らないで私の話を黙って聞いてほしいの」
 意外と従順で、拓哉はあっさり黙り込んだ。松野さんはそれを見てようやく満足したのか、その話を始める。
「大事な大事な話だから、ちゃんとよく聞いててね」
 松野さんの目が真剣になり、それに誘われるように自然と雰囲気が重たくなる。張りつめた空気ゆえに、自分の唾を飲み込む音が聞こえた。
「まず、君」
 と言って松野さんは拓哉を指差す。
「この前の風見杯で、君は人を消した。君の言い方を借りると、異次元に幽閉した、かしら」
「あ、ああ」
「君みたいに不思議な『能力(ちから)』を持つ人が最近あちこちに現れたの」
「なんだと?」
「どういうことですか? 詳しく教えてください」
 風見だけは話を聞くというより、話を聞いている俺と拓哉を静観しているようだった。事情は既に聞いているまたは知っているのだろうか。
「それぞれ藤原君とは違う能力だけど、まあ似た類のものが跋扈して困ってるのよ。たとえば、ここ東京では対戦相手がことごとく意識不明になったり、青森県ではカードのポケモンが具現化したり、島根県では左半身麻痺の女の子がポケモンカードをやっているうちに麻痺が回復したり」
「いろいろありますね」
「今のところ二十八人確認されてるわ。このままだと増加していく一方よ」
「それで?」
「この、能力を持つ人のこと。まあ能力者って名づけようかしら。その人達の全員が勝率百パーセントなのよ。ほら」
 ポケットから取り出した小さなモニターにはその能力者の名前が羅列してあり、名前の隣に勝敗数が並んでいる。勝数にはばらつきがあるが、負けは揃って0。しかし気になることが一つ。
「あれ? 拓哉の名前はないけど」
「ええ。理屈はさっぱり分からないけど、対戦で負けると能力が無くなるみたい。だから藤原君はもう欄外なの」
 確かに、拓哉はあの能力はもう使えないと言っていた。あまりしっくりこない理由だが、そうなった以上事実と認めるしかない。
「今のところ、負けた能力者は藤原君を含め五名。その五名とも、事情を聞く限り何かしら出来事があって精神状態が崩れてから、能力を身に付けたらしいわ」
 拓哉が心なしか萎れている。まあ気持ちは分かる。あまり触れられたくない過去だろうし、最も能力のこと自体がそうかもしれないけど。
「俺達を呼んだのはそれを伝えるだけじゃないでしょう?」
「ええ、もちろんよ。君たちにはお願いがあるの。風見君も含めてね」
 じっとこちらを見つめていただけの風見がふと我に返ったように松野さんを見る。
「そうなんですか?」
「いや、昨日言ったじゃない」
 本題に入る、気が引き締まる場面で風見のこれだ。空気が読めそうで読めないところはなんとかしてほしい。お陰で文字通り気が抜けて行ったよ。
「はぁ。何だかグダグダになったけど、本題よ。貴方達には能力者を倒してほしい」
 予想はしていたけど、倒してほしいって簡単に言ってくれる。拓哉と戦うときだって大変だったのに。
「まだそうなってないのが不思議だけど、このまま不祥事が表立ってしまったらポケモンカード自体が完全に信用を失ってしまうの。我儘なのは承知よ。でもこれもポケモンカードの、いや、むしろポケモンの存続のためなの!」
 最後の言葉で完全にお願いが脅迫になったじゃないか。ポケモンカードの存続がかかっているとかまで言われれば、こうなったらもう選択肢は一つしかない。
「なんとかします」
「おい翔! それでいいのか!?」
「いや、いいもクソもないだろ」
「そうだ。実質俺たちには拒否権はないようなもんだ」
「おい、風見。テメーまで!」
 拓哉は不満を口に現わすが、やがて威勢は消えていき、「仕方ねえ」と静かに言い放った。
「皆ありがとう。能力者のほとんどが、後に開かれるPCCに出場登録してるらしいの。対戦表は操作できないけど、高確率で勝ちあがってくるはずよ。つまりいつかは戦う事になる。その時に、必ず……」
「ちょっと待ってください。それはいいんですけど、東京はまだしも他の道府県は?」
「勿論手を回してあるわ。貴方達には目の前の事だけ考えてれば大丈夫よ」
 風見杯も決して穏やかな動機じゃなかったが、PCCもまたそうなるのだろうか。いいや、今からそんなことを考えてもどうにもならない。
「まあなんにせよ、俺たちは初めから相手が誰だろうと勝ち抜くつもりですよ」
「それもそうだな」
「ふん、全くだ!」
「ふふっ。それじゃあ頼んだわよ、頼もしい三人さん」
 からかわれているのか、本気で言ってもらえているのやら。とりあえずただ、今は笑っていた。
 やがて俺たちは能力者の真の恐ろしさを知ることになるが、それはまだまだ先の話になる。



松野「今日のキーカードというよりは前回のキーカードよ。
   このスタジアムが場にある限り出した番、あるいは進化した番にも進化できるわ。
   これがあるだけで試合のスピードが一気に変わるわね」

破れた時空 サポーター
 おたがいのプレイヤーは、自分の番に、その番に出たばかりのポケモンを進化させられる。(その番に進化したポケモンも進化させられる。)

 スタジアムは、自分の番に1回だけバトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが出たなら、このカードをトラッシュ。


  [No.726] 43話 かーどひーろー 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/18(Sun) 09:48:46   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 眠れない。あんな話を聞いてしまった日だ。
 実際に拓哉という前例があるだけに信じるほかないが、あんなのが二十人もいる。恐ろし過ぎる。
「どうしたの? 翔」
「いや、なんでも。ちょっと水飲みたくて」
 隣の布団で寝ていた姉さんを起こしてしまったようだ。別に水は欲しくなかったけど、言ってしまったものなので蛇口の水をひねり、コップの水を飲む。
 能力者は負けると能力(ちから)が失われてしまうらしい。理由は分からんが、だいたい負ければ能力が消えると考えていいだろう。
『このまま不祥事が表立ってしまったらポケモンカード自体が完全に信用を失ってしまうの。我儘なのは承知よ。でもこれもポケモンカードの、いや、むしろポケモンの存続のためなの!』
 松野さんが言っていたセリフ、あれはやっぱり脅しだ。強烈な脅し。卑怯過ぎる……。



「なあ、翔。この辺でシングル買い(カードをパックで買わず、カード屋で一枚だけカードを買うことをシングル買いと言う)出来るカード屋あるか?」
 日曜を挟んで月曜日の放課後。恭介がそんなことをふと尋ねてきた。
「カード屋? あるっちゃあるけど学校からそれなりに距離があるぜ」
「どれくらい?」
「自転車で二十分するかしないかかな」
「それなら行けるじゃん! 蜂谷も誘っていいか?」
「おう」
「よし、先に駐輪場行っといてくれ」
 と言うなり俺の机を離れ、廊下に出ようとしていた蜂谷の元へ駆けだす。背後から急に肩を叩かれ驚いた蜂谷だが恭介の話を聞いて嫌そうな顔がどんどん好奇の顔に変わる。
 そんな二人を傍目に先に学校の駐輪場に向かうことにした。



「うおおおおおおおお、さみいいいいいいいいいいいい」
「寒いぞちっきしょおおおおおおおおおおお」
「うっせえええええ」
 本日の最高気温はわずか八度。五時くらいで日も傾き始めた今では五度切ってるんじゃないかな?
 そんな寒空の下を男三人が自転車に乗って道を爆走している。しかもそのうち二人は寒さにやられてしまった。こいつら五月蠅い、一緒にいて恥ずかしい!
「っておまえら道知らないクセに勝手に俺より先行くな! ってそこまっすぐじゃない! 曲がれえええええ! 左に曲がれえええ!」
 俺も叫んでしまってる。どうやらもうダメみたいだ。
 そんなややこざがあって二十三分かかってようやく着いたカード屋「かーどひーろー」は珍しくポケモンカードをシングル買いできるカード屋である。
 ポケカは他のカードよりも置いてる店が少なく、シングル買いになるとより少なく、売ってくれる店となればさらに少なくなる。というのも理由がちゃんとあるのだ。
 一応子供向けであるポケカは主に大人が集まるカード屋ではあまり人気ではない。シングル買いになると同じくだ。あんなスペースをとるのに客が来ないとなればもうやる意味がない。
 売ってくれるのはまたちょっと違い、いわゆるポケカショックというやつだ。恐らくほとんどの方はご存じだろうが、ポケカは裏面が変わったことがある。そのおかげでポケカを見限ったカード屋が多い。裏面が変わるということは対戦では絶対使えなくなる。まあ、今もレギュ落ち(ポケカのシリーズが変わると、前のシリーズが大会で使えなくなることがある。そのことをレギュ落ちという。最近新シリーズLEGENDに移行したためWCS2010でDPシリーズが使えなくなる)が存在するんだけども。まあもう一度裏面が変わるかもしれないということで売り手が増えても買い手がつかなくなる。ということで売れる店は基本ない。売りたい人はヤフオクでなんとかしてください。
「早く入ろうぜ」
「言われなくてももちろん」
 自転車を店の傍に止めてカード屋に入る。かーどひーろーは一階は普通のカード屋である。あちこちに棚があり、遊戯王、ポケカ、ヴァンガードのシングルがある。二階はカード屋によくあるデュエルスペース。ジムチャレ(ジムチャレンジのこと。ポケカの店舗公認大会。詳しくはポケモンカードゲーム公式サイトなどで)もここで開かれることがある。また、デュエルターミナルも二台置かれている。
「うおおおお、いっぱいカードあるじゃん!」
「とりあえず静かにしてくれ」
「いやだって翔よ、こんなにカードあるなんて思ってなかったもん。なあ恭介!」
「うんうん」
「いや、あのさ」
 俺よりも十センチ以上背丈の大きい二人の肩に手を置き俺の口元に無理やり二人を近づけ、店主に聞こえないように小さな声で話しかける。
「店主いるじゃんか、あの人すっげー無愛想でむしろ怖いくらいだからあんまりそんなんされると追い出されるかもしれないからさあ」
「それは困る」
「だったら静かにしてくれよ」
「分かった、分かった、心配すんな」
 だといいんだけど。こいつらは元がうるさい。先生が静かにしろと言ってまともに静かにする試しがほとんどない。つまり心配するし信用もしない。
 巻き添えはごめんだと思って俺は二人から離れ、先にカードを見始める。
 バシャーモFB LV.X1820円か……。結構下がってきたな。DPt1のバシャーモの値段も下がってきた。他のカードも値段変動が若干あったみたいだ。これがあるからどのタイミングでカードを買うかが迷ってしまう。
 そしてショーケースから離れて今度はカードが雑多に積まれている十円コーナーを見る。
「おっ」
 アンノーンGが十円かよ! これは買いだな。ハマナもミズキもあるじゃんか。破れた時空もマークか、いやいや迷うなら買いだ。店主、価値わかってねえな。
 その後もカードを見続け欲しいカードを手に持ち、レジの傍にある紙切れとボールペンを取って再びショーケースに戻る。
 カード屋は主に盗難防止のために高いカードはショーケースに入れてある。で、そのショーケースに入ったカードをどう買うかというとだいたい二パターンある。
 一つ目は店の人をショーケースまで呼び寄せ、これが欲しいと直に訴える方法。
 そしてもう一つは店に紙切れとボールペンがあるのでそれに欲しいカードの番号(ショーケースの中のカードにはカードの下に番号が書かれたタグが置いてあることが多い)を書く。かーどひーろーは後者だ。
 欲しいカードを書いた紙をレジに持っていくと、店主がこれでもかというほどめんどくさそうに立ち上がり、うわめんどくせえというオーラを体から発しながらショーケースに向かって歩き出す。
 先ほども述べたがこの店主、愛想が最悪である。ちなみに髪の毛の残り具合も最悪である。大抵は二階のデュエルスペースでこれまたクソめんどくさそうにぼんやり座ってるだけなのだが今日は割と珍しくレジにいた。普段は三人いる店員のうち誰かがレジの番をしているというのに。
「これかい?」
 背後で聞こえるデュエルターミナルのデモプレイの音声よりも声が小さくていちいち聞き取りにくい。
「はい」
 ショーケースの鍵は足元当たりについている。いちいちショーケースを開けるためには屈伸運動をしなくちゃいけないのでこの店主はそれがどうも嫌いなようだ。別のショーケースにすればよかったのに。
「1910円ね」
 何言ってるかわからない(聞こえない)のでレジの表示を見て財布から二千円を差し出す。ちゃんと90円帰ってきました。ちょっと帰ってくるか不安だった。
「恭介、蜂谷、先に上で待ってるわ」
「おう」
「分かったぜ」
 ポケモンとデュエルマスターズのスペースの間に階段があるので登っていく。この階段横が狭くてすれ違うとなると大変である。そして傾斜がかなり急な作りになっている。
 登り切った先の二階はパイプ椅子とテーブルが綺麗に並べてあり、全部で二十四席ある。ただ、かなり大きな窓がついているためこの季節では窓際はかなり寒い。
 休日はそれなりに混んでいるものの、今日は男か女か分かりにくい中学生か高校生かくらいのヤツが一人いるだけだった。ポケカをしているが知らない人だろう。ここで行われるジムチャレに何度か来たが、見たことがない相手だ。
 しかし、そいつは俺を見るなりどこか聞き覚えのある声で話しかけてきた。
「翔、久しぶり」
 と。



翔「今回のキーカードだ。って言っても名前だけだけど。
  ポケパワーのGUARDが非常に強力!
  相手の強力なワザの効果をシャットアウトする究極のメタカードだ!」

アンノーンGLv.17 HP50 超 (DP4)
ポケパワー GUARD[ガード]
 このポケモンがベンチにいるなら、自分の番に1回使える。このポケモンについているすべてのカードをトラッシュし、このポケモンを「ポケモンのどうぐ」として、自分のポケモンにつける。このカードをつけているポケモンは、相手のワザの効果を受けない。(ポケモンについているかぎり、このカードは「ポケモンのどうぐ」としてあつかわれる。)
超無 めざめるパワー  50
 自分にダメージカウンターがのっているなら、このワザのダメージは「10」になる。
弱点 超+10 抵抗力 ─ にげる 1


  [No.730] 44話 再会 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/21(Wed) 10:24:48   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「翔、久しぶり」
「……誰?」
 首の辺りまでボサボサに伸びた髪と茶色の暖かそうなダウン、そして青色のジーンズ。デジャヴがまるで起きない。顔もこれといって目立つほくろとかもないようだし、本当に誰かわからん。
「俺だよ俺」
「ワリオだよ?」
「ちっがーう! 石川薫だ。確かにそのフレーズは知ってるけど」
「ああああああ! 思いだした」
 ようやと思いだした。風見杯決勝トーナメント二回戦で戦った石川薫だ。こいつ、一人称が「俺」だけど女なんだよな。
 にしても雰囲気がだいぶ違うように思える。前回はボサボサは同じだがもっと短髪で、風見杯はまだ十二月くらいなのに半袖半ズボンと季節違いも甚だしい格好をしていたのだが、今回はちゃんと季節をわきまえている。進歩だ。
「ってどうしてここに。家が近所なの?」
 風見杯は一応大会だ。ちょっと遠場でも無理してくる人が多いのだがこんなカード屋に来ると言う事は近所だろう。念のために聞いてみる。
「うん。ここまで電車で二駅」
「電車ってこの辺じゃあ……JRか。でもJRからまた歩かなきゃならないじゃん?」
「足がある」
「なるほどね」
 呆れた反面、なんとなく納得してしまった。中身は前から変わらずと言ったところか。
「その制服……。翔は平見高校なのか?」
「そうだけど」
「実は俺も二カ月したらそこに通うことになるんだぜ!」
「へえ。平見高校かあ。……ってえええ!?」
「で、今日は制服採寸の帰りだ」
「あーなるほど。だから今日体育館使えなかったんだな」
 ここまで喋って立ちっぱなしだったということに気づく。石川の目の前の席に着いた。
 制服採寸といや、そういえばこいつ女子だから一応スカートか。全然想像できんというのはある意味すごい。ちょっと見てみたいな。
「ここで会ったのも折角だし、やろうよ」
 と、石川が鞄からデッキを取り出す。枚数的にハーフデッキだな。
「よし受けよう」
 俺も鞄からデッキケースを取り出して応手する。石川がひいたプレイマットの上に、シャッフルしたデッキを置いて、手札、ポケモン、サイドの用意を整える。
「先攻は翔からだ」
「よし。俺の先発はヒトカゲ(60/60)だ。そっちはトリデプスGL(90/90)か、相変わらず化石が好きだな」
「そりゃあ、好きなモノは好きだからな」
 そう言って、石川はニッと笑って見せる。それにしてもやっぱり笑うとちょっと可愛いな。傍に思いつつヒトカゲに炎エネルギーをつける。
「ヒトカゲの助けを呼ぶでデッキからヒノアラシを手札に加えるぜ」
「よし、俺のターンだな。って勝負やってるけど連れが来たら帰らなくちゃいけないんだよな」
 とか言いつつしっかりベンチにたての化石50/50を置き、それに鋼エネルギーを乗せる。
「俺の番は終わりだ」
「連れ?」
「ああ。俺の友達で一緒に平見高校行くことになってるヤツだ。下でカード見てると思うぜ」
 ヒトカゲをリザード80/80に進化させ、ヒノアラシ60/60をベンチにだす。続いて炎エネルギーをリザードに乗せて手札のゴージャスボールを石川に見せる。石川が頷いたのでデッキからヒトカゲを選び出す。
「へえ。名前は?」
 デッキをシャッフルし直しヒトカゲ60/60をベンチに出した。
「よし、攻撃する。叩きつけるだ」
 テーブルの端のコインを取ってトスする。
「向井ってやつだ。こないだの風見杯にも出てたんだぜ」
「向井……? どっかで聞いたことあるような……。オモテ、ウラだから30ダメージ。そんでもって弱点で二倍になって60ダメージだな」
 たたきつけるはコインを二回投げ、オモテの数かける30ダメージのワザだ。そしてトリデプスGLは弱点が炎なので、二倍である60ダメージをくらうことになる。これで残りHPは20/80まで一気に消耗、次のターンは倒せるだろう。
「あああ! そうだ、向井ってどこかで聞いたと思ったら風見杯で姉さんと戦ったヤツか!」
 石川は鋼エネルギーをたての化石につけ、化石にタテトプス80/80を重ねて進化させ、そしてママのきづかいを俺に見せる。ママのきづかいは山札からカードを二枚引くサポーターカードだ。石川はその通り二枚山札から引く。
「あの人お姉さんなのか! 翔と同じ名字だったからもしかしたらと思ったらそうだったんだな。ターンエンドだ」
「そういやお前には兄弟姉妹いるのか?」
 俺はリザードをリザードン140/140に進化させて炎エネルギーをつけ、サポーターのハンサムの捜査を発動する。俺は石川の手札を見せてもらい、自分の手札を戻して五枚までカードを引く。
「いないぜ」
「そうなのか。リザードンの、炎の翼で攻撃。ポケボディーの火炎の陣の効果で、俺のベンチに炎タイプのポケモンが二匹いるからワザの威力は20アップだ。30に20足してそれを二倍、100ダメージだ」
「やるね! 兄弟ってどんな感じ?」
 石川がトリデプスGLをトラッシュし、ベンチのタテトプスを場に出す。俺はサイドを一枚引いて、自分の番を終わらせる。
「そーだなぁ。まあ家によってマチマチじゃないか?」
 石川がタテトプスをトリデプス130/130に進化させ、鋼エネルギーをつける。そして達人の帯をつけた。むう。
「まあそうだけど、翔のところはどうだ、って聞いてるんだ」
「俺のとこは姉さんが俺を助けてくれてるって感じかな。喧嘩なんて小学校出て以来したことないからな」
 トリデプスは鉄壁というワザをもつ。このワザは30ダメージだが、コイントスをしてオモテなら次の番ワザによるダメージや効果を受けない。
 達人の帯の効果でトリデプスはHPとワザの威力が20増えるので、トリデプスのHPは150/150。さらに鉄壁を食らうとリザードンは残りHPが90/140になり、次の俺の番はダメージが与えれないので何もできない。そして次の石川の番にまたエネルギーを一つつけられるとアイアインタックルを食らうと80ダメージ。達人の帯でさらに20ダメージ加算され100ダメージをリザードンが食らうことになり、リザードンが気絶してしまう。
「なるほどね。鉄壁攻撃。トスは……オモテ」
「うわっ、これはめんどいな」
「ラッキーだぜ」
 鉄壁の効果でトリデプスは全てのダメージをシャットダウン。これでは攻撃したくても出来ない……。
 いや、しかし鉄壁を破る方法はいくらでもある。
「俺のターン。ワープポイントだ! 互いのバトルポケモンを入れ替える。お前のベンチにはポケモンがいないからそのままだが、俺はベンチのヒトカゲをリザードンと入れ替える」
「何のつもりだ」
「ヒノアラシをマグマラシ(80/80)に。ヒトカゲをリザード(80/80)に進化させ、リザードに炎エネルギーをつけてターンエンドだ」
「ちぃ。手札の鋼エネルギーをトリデプスにつけて……」
 詰んだな。俺の手札にはリザードンがある。次の番に進化させればリザードのHPは更に140まで上昇する。
 石川がこの状況を打開するには鉄壁で三回連続コイントスを成功させなければならない。
 というのも、鉄壁を三回連続で成功させてリザードもといリザードンを倒さなければベンチのリザードンがトリデプスを一撃で焼くことが出来る。
 勝つ確率はまさに八分の一、だが──。
「あーもう、何考えてもダメだぁ! 降参だ降参! 無駄に運使いたくないし」
「おっと、辞めちゃうのか。ま、また高校とかで会ったらまた相手になってやるよ」
「その前にPCCがあるだろ、そこで勝負だ」
 階段の方から複数の足音が聞こえる。恭介達だろうか? ベストタイミング、と言ったところかな。
「石川もPCC出るのか。でも戦えるかどうかは分からないぞ」
「きっと戦うことになるさ。なんとなく」
 そう言って石川は今度はニヤリと笑うと、手早く荷物を鞄に片付けて立ち上がり、階段に向かった。
「それじゃあまたな」
 階段から現れた足音の主は知らない大人二人と向井だった。予想とは全然違ったじゃん。
 それよりも大人二人はともかくとして、たまたま目が合った向井はこちらに一礼すると、石川にひと声掛けて共に階段を降りて行った。
「……。PCC、楽しみが増えたな」
 一人でカードを片付け、硬いパイプ椅子にもたれて誰に向けてでもなく呟く。今度ははっきりと聞き覚えのある声が階下から聞こえてきたので自分も荷物をまとめることにする。
 下からガヤガヤ声を立てながら興奮してやってきた恭介と蜂谷を叱りながら俺達は家路に着くことにした。



薫「今回のキーカードはトリデプス。
  鉄壁で守りつつ、アイアンタックルで攻撃!
  ポケボディーもなかなか優秀な俺のカードだ!」

トリデプスLv.56 HP130 鋼 (DPt1)
ポケボディー きんぞくしつ
 このポケモンに「ポケモンのどうぐ」がついているなら、ポケモンチェックのたび、このポケモンのダメージカウンターを1個とる。
鋼鋼無 てっぺき  30
 コインを1回投げオモテなら、次の相手の番、自分はワザのダメージや効果を受けない。
鋼鋼無 アイアンタックル  80
 自分にも30ダメージ。
弱点 炎+30 抵抗力 超−20 にげる 4


  [No.741] 45話 姉弟 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/25(Sun) 15:54:09   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 PCCが着実に近づいてきた二月のとある寒い日曜日の昼ごろ。姉さんがキッチンでチャーハンを作ろうとしていた時だった。
 ピンポン、と軽快な音を鳴らして玄関のチャイムが鳴る。家はボロアパートだがチャイムだけついているのだ。
「翔、悪いけど見てくれない?」
「はいはい」
 丁度床で寝転がって英単語集を見ていた俺は、今開けてるページをスプーンの尻で栞代わりに挟み込んで玄関へ向かった。
「宅配便です」
 扉を開けると少し年を取った男の人が細長い段ボールを抱えていた。
「ここにハンコを……」
 男の人は段ボールを左足と左脇で器用に挟むと、開いた両手で伝票を渡してくる。
 ハンコをきっちり押して伝票を渡すと、先ほどと同じ器用な動作で伝票を直すと段ボールを手渡してきた。それを抱えていると邪魔なので、先に家の中に入れて玄関の床に置く。
「ご苦労様です」
 男の人は律儀に社名とロゴの書かれた帽子を脱いでこちらに深くおじぎをする。誘われてこちらも少し体を全体的に傾けた。
 宅配便が去り改めて段ボールを見ると、風見のとこの会社、TECKのロゴマークが。もしやと思って差出人を確認すれば、そこにはきっちりと風見雄大と書かれていた。
 確かにこのデカさ、学校で渡されると軽いが非常に迷惑である。そんなに重くはないけれど。
 一体何を送って来たのか、と段ボールに貼られた伝票の品名を覗くと「バトルベルト」と書かれていた。
 なんだ。バトルベルトか。……ん、バトルベルトだって?
「うおおお! バトルベルトじゃん!」
 駆け足でリビングへ戻り、サンタさんがプレゼントをくれたかのように無邪気に段ボールを開けていった。



 姉さんのチャーハンはとてもおいしかったです。さて、昼ごはんも食べて段ボールの中身をようやく確認する。開けた段ボールの中にはバトルベルトが二つと、風見の手紙が入っていた。
 手紙といっても、「普段の礼だ」みたいな大したことは書かれていなかったので早々にトラッシュした。そういえばくれるとか言ってた記憶があったような無かったような。ともかく恩に切るぜ。
 バトルベルトは赤と青の二つで、俺は赤のベルト、姉さんは青のベルトをもうらことに。
「折角だし、早速やってみよう」
 もらったバトルベルトをPCCが開かれるまで埃かぶせる気はさらさらない。それにこの前の拓哉と松野さんの対戦を見てから結構ワクワクしてるんだ。
 ちっさい部屋の中でバトルベルトを装着し、起動させようとする。使い方はこないだの勝負で見て覚えてる。
「ちょっと待って! ここじゃ狭すぎて出来ないらしいわよ」
 姉さんが取扱説明書の一部分を見せるが、確かに互いに距離を取り合って広い空間で遊ぶようにと書いてあった。場所取るのはめんどくさいな。
「えー。じゃあこんな二月のクソ寒いのに外でなくちゃいかんのか」
「仕方ないじゃない。まあ風邪ひかないようにちゃんと何か着といてね」



 幸いにも今日はまだ暖かい方で、ダウンを着てさえいればなんてことない寒さだった。といえど、外でカードをしてたら手はほぼ間違いなくかじかむだろう。
 だがそれでも早速。ドキドキワクワクした気持ちでバトルベルトを起動する。
「おおおおっ、おおおお!」
 いざやってみるとめちゃくちゃ楽しい! 勝手にベストがテーブルに変形するなんて、子供時代に見た戦隊アニメの合体ロボットを思い出す。
「このボタンでテーブルとベルトを切り離すんだな」
 よし、離れた。デッキをデッキポケットに入れてオートシャッフルのボタンを入れる。
 本当に勝手にシャッフルしてくれて、さらに最初の手札となる七枚をデッキから突き出して用意してくれる。手札のポケモンをセットすると、いつの間にかサイド置き場にサイドが三枚置かれていた。
「よし、先攻は俺からだ!」
 俺の最初のバトルポケモンはヒノアラシ60/60でベンチにポケモンはなし。姉さんの最初のバトルポケモンはデリバード70/70でベンチはタマザラシ50/50だ。
 風見杯編の時のように、目の前にポケモンの映像が出ている。不思議なようで、胸の鼓動が高まるぞ。
 さて、姉さんのデッキは氷タイプねぇ。氷タイプといってもポケモンカードでは氷タイプは水タイプにカテゴライズされていているのだが、弱点が違う。
 ポケカの水タイプは基本的に雷タイプに弱いのだが、ゲームで氷タイプとなっているポケモンはカードでは鋼タイプが弱点になっている。現に今目の前にいるデリバードとタマザラシは弱点が鋼タイプだ。
 もっとも、俺のデッキではどちらの弱点も付けないのだけれど。
「まずはヒノアラシに炎エネルギーをつけて攻撃。体当たり!」
 ヒノアラシがデリバードに頭から突っ込んで体当たりを仕掛ける。デリバードは少し後方に飛ばされると、体当たりを食らった場所をさすりながら元のポジションに戻る。デリバードの緑色のバーが少し削られ、HP表示は60/70となる。
「あたしの番ね。手札のスーパーボールを発動。デッキのたねポケモンを一枚選んでベンチに出すわ」
 タマザラシの右側にどこからかスーパーボールが現れた。スーパーボールは閃光を放つと、そこからユキワラシ50/50が放たれる。
「ユキワラシに水エネルギーをつけてデリバードのプレゼント!」
 デリバードが尻尾の袋をごそごそ漁り始める。一体何をするつもりなんだろう。
「コイントスをしてオモテなら、デッキから好きなカードを一枚手札に加えれるわ。さて、トスよ」
 姉さんがコイントスのボタンを押す。運は俺の方に傾いていないらしく、オモテと表示された。好きなカード、となるとめちゃくちゃ範囲が広いじゃないか。
 ポケモンカードはカードをサーチするモノが多いが、大抵はたねポケモン限定だったりエネルギー限定だったりと縛りが存在する。このワザはそれを打ち破るモノだ。
「この効果で山札のカードをサーチしたとき、相手に見せる必要はないのよ。さあ、何を引いたでしょう?」
「そりゃ知らん」
 どうせ進化系のカードだろう。トドクラーかトドゼルガかオニゴーリかユキメノコか。いや、それとも……。考えても仕方がない!
「行くぞ、俺の番だ!」
 よし。引いたカードはハマナのリサーチ。まずはこちらもポケモン達を立てていかないとな。
「手札のハマナのリサーチを発動。山札から基本エネルギーまたはたねポケモンを合計二枚まで選び、相手に見せてから手札に加える。俺が選ぶカードは……」
 デッキのカードをサーチする前に気づく。近所の小学生が俺たちの周りに集まっていた。
 そうか、バトルベルトが物珍しくて見学か。子供が見てる前で負けるなんてちょっと恥ずかしいな。
 安いプライドだが、炎対水デッキと相性は悪いものの安易に負けるわけにはいかないな。



雫「今日のキーカードはデリバードよ
  コイントス次第だけど、プレゼントはなかなかいい効果。
  好きなカードを一枚、ってのは大きなアドバンテージになるわよ!」

デリバードLv.26 HP70 水 (DP4)
─ プレゼント
 コインを1回投げオモテなら、自分の山札の好きなカードを1枚、手札に加える。その後、山札を切る。
水 アイスボール  20
弱点 鋼+20 抵抗力 ─ にげる 1

───
奥村雫の使用デッキ
「DD・フローズン」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-692.html


  [No.755] 46話 凍結! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/29(Thu) 23:22:53   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「俺はハマナのリサーチの効果によりデッキからヒトカゲとヒノアラシを手札に加える。そしてその二匹をベンチに出す。あらかじめバトル場にいるヒノアラシに炎エネルギーをつけ、ヒノアラシをマグマラシに進化させる!」
 バトルベルトの機能によってヒトカゲとヒノアラシが現れ、ヒノアラシはマグマラシへ進化した。
 冬の公園で行われている俺と姉さんの突発対戦。元は風見がうちに寄こしたバトルベルトが原因だ。
 現在互いにサイドは三枚。俺のバトル場には今進化させたばかりで炎エネルギーを二つ付けたマグマラシ80/80、ベンチにはヒトカゲ60/60。
 対する姉さんのバトル場は水エネルギー一枚ついているデリバード60/70、ベンチにユキワラシ50/50とタマザラシ50/50の計三匹。
 さて、こういうバトルベルトのような光学機器は俺からすれば風見との対戦や風見杯、こないだの拓哉と松野さんの戦いのせいで至って普通に思えるのだが、世間一般的にはこうして空想上の生き物が生きているように見える、そんな素晴らしくかつ、かつて見た事のない珍しい技術だ。
 そのせいか辺りの野次馬、もっとも小学生だが、そいつらが俺たちが何かアクションを起こす度にワーだのキャーだの黄色い声を上げるので耳が痛い。
「うーん、なんか調子狂うなぁ」
「さっさとしなさいよ」
「はいはい。マグマラシで攻撃。火花! コイントスをしてオモテなら技は成功、ウラなら失敗する。……ウラ」
「あっはっは、運に見放されてるわね」
「うるさいなぁ」
 自分の番でダメージを与える唯一のチャンスを失ってしまった。これは痛い。後に響かなければいいんだけど。
「あたしのターン! ユキワラシに水エネルギーをつけ、タマザラシをトドグラーに進化させる。更にユキワラシもユキメノコに進化させるわよ」
 トドグラー80/80、ユキメノコ80/80とポケモンが二匹とも進化すると同時に、子供たちの歓声も上がる。ちょっとまずいぞ。
「そして進化した瞬間にユキメノコのポケパワー、雪の手土産を発動! ユキメノコに手札から進化させた時、自分の山札から好きなカードを一枚手札に加える」
「ま、また?」
 姉さんはうふふと小さく笑いながら、何かしらデッキからカードをサーチして手札に加える。何かが続けて来る……!
「そして手札からサポーターカードのギンガ団のマーズを発動。このカードの効果によってあたしは山札からカードを二枚引き、その後相手の手札をウラのまま一枚選んでデッキの下に置いてもらうわ。それじゃあ翔から見て一番左のカードを」
「うっそー!」
 次の番、進化させようと思っていたバクフーンが山札の底、デッキボトムへ行ってしまった。だめだ、姉さんは欲しいカードをどんどん引いてるのに俺はどんどん調子が下がっていく。何とかしなければ。
「デリバードのワザ、プレゼントを発動。……ウラね」
「まだまだ! 俺の番だ。ベンチのヒノアラシもマグマラシ(80/80)に進化させ、手札のゴージャスボールを発動する」
 カードの発動宣言と同時に、バトル場のマグマラシの横にゴージャスボールが現れた。
「その効果で好きなポケモンを山札から一枚加えることが出来る。俺はリザードンを手札に加える」
 そう宣言するとゴージャスボールが開き、リザードンのカードの拡大コピーが数秒姿を見せる。
「そして手札の不思議なアメを発動。ベンチのヒトカゲを手札からリザードンに進化させる!」
 ヒトカゲは突如現れた小さな飴を飲み込むと、ヒトカゲを大きな光の柱が覆い、徐々にリザードンへとフォルムを変えていく。シルエットがリザードンになると、リザードン140/140は光の柱をかき消して大きく吠える。
「手札からハンサムの捜査を発動。まずその効果によって相手の手札を見ることが出来る」
 姉さんが俺の方に手札を見せると同時に、デリバードの前に姉さんの四枚の手札が先ほどのゴージャスボールと同じように拡大して現れる。
 水エネルギーにワープポイント、トドゼルガとハマナのリサーチ。ワープポイントが気になるってところか。
「俺はハンサムの捜査の効果によって手札をデッキに戻してシャッフルした後、カードを五枚ドローする。しかし今の俺の手札は0なので、手札をデッキに戻す行為は省略だ」
 これで手札が五枚まで潤う。キーカードも来た、行ける。
「手札の炎エネルギーをベンチのリザードンにつけてマグマラシで攻撃。火花!」
 コイントスボタンをもう一度押す。子供らも見守る中で表示される結果はウラ。子供らの笑い声が聞こえてちょっとムッとなる。
「くっそー、二回連続失敗かよ」
「調子悪いみたいね。それじゃああたしの番よ。まずはトレーナーカード、ワープポイントを発動」
 バトル場のマグマラシとデリバードの足元に青い渦が現れ、二体ともそれに引き込まれていく。
「ワープポイントによって互いのバトルポケモンを自分のベンチポケモンと入れ替える。あたしはユキメノコを場に出すわ」
「ならば俺はリザードンを出す」
 さっきと同様にユキメノコとリザードンの足元にも青い渦が現れて二匹を引き込み、バトル場に残っていた青い渦からその二匹が現れる。同じようにベンチにデリバードとマグマラシが帰っていく。
「よし、それじゃあ手札の水エネルギーをトドグラーにつけて、トドゼルガに進化させるわ。そしてこの瞬間にトドゼルガのポケパワー発動」
「この瞬間で!?」
「トドゼルガのポケパワー、凍結はさっきよりも強力よ。このカードを手札から進化させたときに一度使えるポケパワーで、コインを二回投げて全てオモテなら相手のバトルポケモンとそのポケモンについているカードをトラッシュさせる!」
「な、なんだって!」
「さ。コイントスよ」
 ……オモテ、オモテ。姉さんはまるで俺から運を吸収しているかのようにコイントスを見事に成功させた。
「効果発動、凍結!」
 トドゼルガ130/130が足元から放つ冷気がリザードンを包み込み、リザードンは文字通り氷漬けとなった。
「このポケパワーで唯一残念なのはこの効果でトラッシュさせても、気絶扱いじゃないことね」
 気絶扱いじゃない。ということは姉さんはサイドを引けない。でも折角手塩にかけてここまで育てたポケモンがほんの一瞬で無に帰すのはあまりにもダメージが大きい。
「くっ……。俺はエネルギーが付いていない方のマグマラシをバトル場に出す」
 このままだとまだ何かされそうだ。大事をとって、エネルギーをつけていない育ってない方を壁としてバトル場に送りだす。
「あたしはハマナのリサーチを発動。水エネルギーとタマザラシを手札に加えて、タマザラシ(50/50)をベンチに出すわ」
 姉さんの手札は前の番、ハンサムの捜査で確認した限り水エネルギー一枚だけのはず。これ以上の追撃はないとだけ信じたいが。
「ユキメノコで攻撃よ。霜柱!」
 マグマラシの足元から人の背ほどあるような霜柱が何十本も伸びてきてマグマラシを襲う。こんな大きさの霜柱は果たして「霜柱」と分類していいのかっ。
 しかし大きいのは霜柱だけでなく、被ダメージ量も半端ない。マグマラシのHPゲージがほとんどなくなり、色も緑から黄、赤色と変わっていく。
 ユキメノコの霜柱の威力は50に加え、マグマラシの弱点が水+20なので合計50+20=70ダメージとなり、残りHPはたったの10/80。でも、首の皮一枚繋がっただけまだマシとするべきか。
「ぐう。俺の番だ、ドロー」
 引いたカードはバクフーン。巡り巡りでようやく手札に戻ってきた。しかし少し遅かったか。いいや、なんとかしてみせる。
「ベンチのマグマラシを進化させる。さあ来い、バクフーン!」
 ベンチのマグマラシが四足歩行から後ろ脚二本でしっかりと立ち上がり、バクフーン110/110へと進化。そして辺りに響くよう、大きく咆哮する。子どもたちも様々に反応してみせた。
「ポケパワー焚きつけるを発動。トラッシュの炎エネルギーを自分のベンチポケモンにつける。俺はバクフーンにトラッシュの炎エネルギーをつける」
 さて、手札がリザード、リザードン、不思議なアメ、ポケドロアー+、ワープゾーン。山札からカードを一枚引く効果をもつトレーナー、ポケドロアー+に賭けてもいいが、これまでの戦況的に運に持ち込むのは危ないような気がする。だったら。
「俺もワープポイントを発動。マグマラシとバクフーンを入れ替える」
「あたしはトドゼルガと交代よ」
 再び青い渦がポケモン達を入れ替える。思えばこれはかなりおいしい選択だ。トドゼルガは逃げようにも逃げるエネルギーが多い。交代させられないままサンドバッグするのは良い判断だ。しかもトドゼルガには十分なエネルギーがついていない。攻めるなら今しか!
「バクフーンで攻撃。気化熱!」
 バクフーンが口から溢れんばかりの炎をトドゼルガにぶつけると、大きな音を立てて蒸発していき、白い水蒸気に覆われてトドゼルガが一瞬隠れてしまう。トドゼルガのHPバーが半分近くの70/130まで削られ、トドゼルガの体から水エネルギーのマークが出てくると、水エネルギーのマークが真っ二つに割れる。
「気化熱は攻撃を与えた相手の水エネルギーをトラッシュさせる!」
「へぇ。これじゃあトドゼルガはどうあがいても、ワザを使う事も逃げることもできないってことね。それくらいしてくれなきゃ」
 当たり前だ、それくらいしなきゃ負けてしまう。まだ可能性はいくらでも残っている。不利を蹴飛ばし勝利をもぎ取ってみせる!



雫「今回のキーカードはトドゼルガ。
  コイントスで二回連続表は大変だけど、効果は絶大!
  ワザのアイスバインドは任意トラッシュかマヒの付属つき!」

トドゼルガLv.51 HP130 水 (DP2)
ポケパワー とうけつ
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンを進化させたとき、1回使える。コインを2回投げ、すべてオモテなら、相手のバトルポケモン1匹と、そのポケモンについているすべてのカードをトラッシュ(この効果はきぜつでなはい)。
水水無  アイスバインド 70
 相手プレイヤーが手札を1枚トラッシュしないかぎり、相手をマヒにする。
弱点 鋼+30 抵抗力 ─ にげる 3


  [No.762] 47話 油断大敵 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/02(Sun) 20:07:32   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あたしの番よ。手札の水エネルギーをタマザラシにつけて、ギンガ団のマーズを発動。デッキから二枚ドローしたのち、相手の手札を表を見ずに一枚選択し、それをデッキの底に戻す。一番右のカードを戻してもらうわ」
「くっ……」
 ポケドロアー+がデッキの底に戻される。煩わしい……!
「タマザラシをトドクラーに進化させてターンエンドよ」
 今、俺のバトル場には炎エネルギーを三枚つけたバクフーン110/110と、ベンチにはHPが風前の灯火となったマグマラシ10/80。そして姉さんのバトル場にはトドゼルガ70/130と、ベンチにはデリバード60/70、水エネが二枚ついているユキメノコ80/80と水エネルギーを一枚つけたトドクラー80/80。
 ポケモン的には俺の方が不利だが、流れは今俺に来ている。まだワンチャンスはあるはずだ。
「俺のターン。手札の炎エネルギーをマグマラシにつけてバクフーンで攻撃。気化熱!」
 炎と蒸気のエフェクトを受け、大きく後ずさったトドゼルガのHPバーが0に近づく。60ダメージを受けて残りはわずか10/130。トドゼルガはエネルギーが足りないのでワザを使えず、逃げることも出来ない。次の番には倒せるはずだ。
「あたしの番ね。トドクラーに水エネルギーをつけて、……そうね。終わりよ」
 姉さんの手札は未だ一枚のまま。その調子が続く限り、姉さんも大きな動きは出来ないはず。姉さんが動けないうちに一気に押してやる。
「俺のターン。もういっちょバクフーンで攻撃、気化熱だ!」
 トドゼルガ0/130の悶絶する声と共にズシンとその巨体が倒れ、気絶する。サイドカードを一枚引くと、姉さんはユキメノコをバトル場に出す。
 やっと初めて引けたサイドだ。このまま俺のペースをキープしたい。
 しかも今引いたカードはヒトカゲ。たねポケモンを新たに加えられたことで、次の俺の番再びまた新たなポケモンを育てられる。
 今バトル場にいるバクフーンが倒されると、ベンチにいるのはマグマラシ10/80のみ。でもこれで不安が残るベンチに安寧の風が流れるだろう。
「あたしの番よ。トドクラーをトドゼルガに進化させるわ」
「進化? ということはまさか……」
「そのまさかよ! この瞬間にトドゼルガのポケパワー発動。氷結!」
 進化したときのみ使え、二回連続コイントスをオモテにすれば、相手のバトルポケモンをトラッシュさせる強力なポケパワー。確率は四分の一だし、さっきもそれでリザードンが倒されてしまっている。だから今度こそ無いと信じたいところだが。
「よそ見してていいの?」
 はっ、と気付いた時には時すでに遅し。バクフーンが目の前で氷漬けになっていた。氷結が成功していたのだ。
「今日はなんか運がいいわね」
「ちょっ、えー!?」
 バクフーンはトラッシュされ、今や残るは瀕死のマグマラシ10/80のみ。そして止めの一撃が襲いかかる。
「ユキメノコでマグマラシに攻撃。霜柱!」
 再び鋭い音と共に巨大な霜柱がフィールドにいくつも現れ、マグマラシ0/80を下から突き刺すように襲う。
「ぬおおっ!」
「マグマラシが倒れたからサイドを一枚引くわ。でも、今マグマラシが倒れて、翔の場にポケモンがいなくなったからあたしの勝ちね」
「え。あー、しまった!」
 時既に遅し。気付いた時には既に決着が着いており、場のポケモンの映像が全て消滅していた。
 敗因はほとんどコイントスによるものだ。運で負けるというのはどうもやりきれない悔しさが勝って気が晴れない。
 さて、ギャラリーの子供たちは姉さんの元に集まっていく。すごいねー、だの強いねー、だのかんだのと、そういう称えるような声が聞こえた。
 やや不貞腐れながらバトルベルトを直していると、突如野次馬の子供のうちの一人が俺の顔の傍にやってきてボソッと呟く。
「全然ダメじゃん」
 その声を聞いて、俺は寒空の中膝から崩れ落ちた。



「ほらほら、翔。そんなに落ち込まないの。そうだ、今日は外食に行こうか!」
「どーせ弁当屋だろ。落ち込んでないし」
「どーせ、って失礼ね。なんなら翔だけ晩御飯無しでもいいんだけど」
「いや、あの。ごめん」
「分かればよろしい。さ、行くよ」
 ああ、なるほど。これで二連敗ってことか。確かにダメかもなー俺。
 口から漏れた白い息に顔を隠し、ひっそりと姉さんの後に着いて行った。



雫「今回のキーカードはユキメノコね。
  進化したとき、好きなカードを一枚サーチ!
  霜柱もエネルギー二個で50ダメージよ」

ユキメノコLv.45 HP80 水 (DPt4)
ポケパワー ゆきのてみやげ
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンを進化させたとき、1回使える。自分の山札の好きなカードを1枚、手札に加える。その後、山札を切る。
水無  しもばしら 50
 場に「スタジアム」があるなら、このワザは失敗。
弱点 鋼+20 抵抗力 ─ にげる 3


  [No.766] 48話 訪問者 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/05(Wed) 21:25:15   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 電車を乗り継いで自宅のあるマンションへ向かう。23区内にある築六年、2LDKのそこそこのマンションが俺の家だ。
 一人で暮らすにはちょっと広すぎて寂しい。家と云っても勉強するスペースとパソコン、ベッドと風呂トイレがあれば問題なかったのだが、なんだかんだでここに決めてしまった。アクセスが良いのが何よりだった。
 まだ新しいエレベーターに乗り込み、俺の家がある九階に止まる。外廊下はまだ冷える風が直接かかって少し寒い。
 そして風見と表札に書かれた自宅の前にたどり着いた時、家の中から誰もいないはずなのに僅かに声が聞こえた。
 泥棒か? と、逸る気持ちが胸の鼓動を早くさせるが、盗られて困るような物は特にない。落ちついてとりあえず様子を見てみよう。こういうときこそ冷静にならないと。
 玄関の扉に耳をあてる。冷たさに体が一瞬震えたが、すぐに慣れて中の声が聞こえてきた。
「風見君は何作ったら喜んでくれるかなー? ラザニア? チャーハン? カルパッチョ?」
 聞こえた声は泥棒とはまるでかけ離れた平和なものだが、それはある種、俺にとっては泥棒よりも驚異的な存在だ。
 足音を立てないよう、こっそりとエレベーターホールへ逆走する。
 なんだってあいつがいるんだ。
 あいつ、というだけあって『一応』知り合いである。知り合いたくなかったがどうしてか知り合ってしまった。
 それは京都の大手の製薬会社の跡取り娘の久遠寺麗華(くおんじ れいか)。繰り返すがどういうわけか知り合ってしまい、俺に一目惚れしたらしい。
 かつて北海道に居たときにパーティーだなんだで偶然向こうから話しかけられて以来、感覚的に余り良い印象が無い。
 そもそも俺が東京にいることすら教えていないはずなのだがどうしてここに、というより家の中にいるんだ。鍵は俺が持ってないはずだ。確認してポケットに手を伸ばせば、確かにそこにあった。
 とりあえずあいつがどこか行くまで誰かの家に厄介しよう。携帯を取り出して目ぼしい相手に連絡をつけてみる。
『すまんな、さすがに無理だ』
『俺は行けるけど親がなぁ』
『この電話は電波のつながらないところに───』
 翔、蜂谷、恭介諸共壊滅。恭介に至っては電波がダメ。次にあてになりそうな人は……。藤原の家にかけるのは億劫だな。親子仲がよろしいという感じの話を一度も聞いたことが無い。
「退くわけにはいくまい」
 家に泊めてくれと言えそうな人はもうこの人しかいない。
「もしもし、風見です」
『あら、風見くん。珍しいわね』
「松野さん、えーと、無理を承知で言うんですが、家に泊めてくれませんか?」
『……は? ごめん。なんかあったの?』
「実は──」



 結局OKをもらってしまった。
 松野さんの家は同じ23区内だが区が違う上に離れているので徒歩では行けず、東京メトロを駆使して約二十分かけて松野さんが住むマンションに向かう。
 大きくないが駐車場まで完備してあるしっかりとしたマンションだ。インターホンを潜り抜け、七階までエレベーターで昇ると、エレベーターホールで松野さんが待っててくれていた。それにしても中廊下はいいな、風が来なくて暖かい。
 松野さんの家は黒色のソファーと透明なテーブルのようにシックな家具が多く、大人な雰囲気を放つ……のだが、ところどころにあるポケドールが折角のシックさを削っていく。
「風見君はご飯食べてるの?」
「いえ、食べてないです」
「じゃあ何食べたい? ある程度のものなら作れるつもりなんだけど」
「うーん。それじゃあお世話になります。……しっかりしたものが食べたいです」
「それじゃあそぼろ丼でも作るわ。適当にくつろいどいて」
 と言われてもやることがない。なんとなくテレビを見ながらソファーでごろごろしていよう。こういう無意味な時間を味わうのが久しぶりなような気がして、どこか新鮮な感じがする。
 ……しかしテレビを観てもまるで面白さを感じない。それにしてもソファーが気持ちいいが、このままでは寝てしまいそうになる。いつもより重力がかかっているように感じられる体に鞭打ち、ソファーから立ち上がらせる。
 が、疲れからか足元がふらついてよろけてしまう。両手をばたばたさせて何か支えになるようなものを掴めないか手さぐりする。
 あった。右手でがっちり握る。……と、そのとき取っ手が動いた。完全にバランスを崩した俺は尻もちをついてしまう。
 だけならよかったのだが、さらに大量の衣類が被さってきた。
 どうやら握ったのはくの字型に開くクローゼットで、掴んだはいいものの体の重心が後ろに傾き、それと同時にクローゼットを引いてしまったらしい。
 そしてクローゼットに無理やり山積みにされてた衣類が大雪崩を引き起こしたのだ。
 良い感じに動けない。体の四方をどっさりと衣類で囲まれ、ついでに頭には紫色のブラジャーがちょこんと居座っている。
 目の前のブラジャーのタグを見ると、Bとしっかり表記されていた。……、Bあったのか。ちなみにこの間、ソファーから立ち上がってわずか三十秒足らず。
「大きな音立てて何かあったの──ってちょっ、風見くん!」
 物音を聞いて様子を見に来た松野さんがお箸を片手に慌てふためく。
「すみません、動けないんで助けてください」
「あ、うん。そうね。そうよね」
 いつもは冷静な松野さんがこんなに取り乱すなんてちょっと意外で可笑しい。
 松野さんの懸命な救出作業の甲斐もあり、なんとか動けるようになった。何やってんのよと怒られて弁明したが、むしろなんでこんなにたくさん衣服が積まれてたんですかと返すと顔を真っ赤にして背を向け、返事をせずに逃げるようにキッチンへ向かった。
 そういえば松野さんのデスクもいろいろ物がかさばっていたような記憶が──。
「風見くん、そぼろ丼出来たわよ」
「おっと、ありがとうございます」
 キッチンから戻ってきた松野さんの両手にはおいしそうな匂いのする茶色のどんぶり茶碗。松野さんは先に食べといて、と言って再びキッチンへ戻った。
「いただきます」
 そぼろ丼だなんて中々食べる機会がないな。折角だから堪能しよう。木製のスプーンで掬いあげ、口に入れ咀嚼する。ふんわりとした卵と肉汁が溢れるようなミンチ肉が食欲を更に加速する。これはおいしい!
「気にいった?」
 微笑みながら戻ってきた松野さんの両手にはワインとワイングラス。
「そぼろ丼にワインですか?」
「あは、私はこれでも結構ワインが大好きなのよ。毎週火、木、土曜日はワインっていう自己週間」
 まるでゴミ出しの曜日みたいだ。
「風見くんも飲む?」
「遠慮します。それよりもアレ……」
 未だに事故現場となる大量の衣類に視線を移す。
「……私実は片付けが苦手なのよ」
 あははと乾いた笑みを浮かべる松野さん。すみません知ってました。
「片付け手伝いますよ」
「それじゃあ折角だし、い、衣服は自分でやるから他のを頼もうかしら……」
「はいはい、分かりました。ご飯奢ってもらうだけでは申し訳ないですし。それより一人暮らしなんですね」
「……。まあね、私は実家が嫌で東京に逃げ出したクチなの」
「東京出身じゃないんですか」
「ええ。広島よ。でも小さい頃からこっちにいたから広島弁は抜けてるけどね」
「そうだったんですか」
「うちの親父がうるさくてちょっといろいろね。中学から東京の女子校に寮住まいしに上京してたわ」
 やはり複雑な家庭事情を抱えているのは俺だけではない、か。誰もが何かしらの事情を抱えている。そんなことは分かっている。ただ、それでも自分の方がと心のどこかで奢っていたのかもしれない。松野さんの瞳を見て、ふとそう思った。
「……ごちそうさまでした。そぼろ丼おいしかったです」
「それは結構」
 松野さんがにっこり笑う。それにつられて、俺も頬の筋肉が緩んだ。食器を下げようと立ち上がると、家のチャイムが鳴り響いた。
「あら、結構遅い時間なのに。宅配便かしら。まだ食べてるから代わりに出てくれない?」
 タイミングが悪い。折角立ち上がったばかりなのに、食器を再びテーブルの上に置き直して玄関へ向かう。
 後から思えば玄関のごく小さい丸窓などで一体誰が来たのかを確かめずに、玄関の扉を無警戒で開けたのが失敗だった。
 なぜなら扉を開けた先には、わざわざ捲いたはずの久遠寺麗華がいたのだから。



風見「次回のキーカードとなるギャラドスだ。
   三種類の技で多彩に攻めろ!
   テールリベンジの威力には素晴らしいものがある」

ギャラドスLv.52 HP130 水 (破空)
─  テールリベンジ
 自分のトラッシュの「コイキング」の数×30ダメージ。
水無  あばれまくる 40
 ウラが出るまでコインを投げ続け、オモテの数ぶんのカードを、相手の山札の上からトラッシュ。
水水無無無  ドラゴンビート 100 
 コインを1回投げオモテなら、相手のポケモン全員から、エネルギーをそれぞれ1個ずつトラッシュ。
弱点 雷+30 抵抗力 闘−20  にげる 3


  [No.769] 49話 二人目 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/09(Sun) 12:28:48   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 松野さんの家まで逃げてきたというのになぜか久遠寺麗華が俺の目の前にいた。それがあまりに衝撃過ぎて、扉を閉めるのも忘れてしまう。
 呆気にとられていると、何事かと様子を見に来た松野さんが玄関にやってくる。
「風見くん……。折角お料理作って待ってたのに、他の女の人のところに行くなんて」
 非常に嫌な予感がする。俺が言葉を返す前に、ふと横を抜けて俺の前に現れた松野さんが先制する。
「ふーん。この子が言ってたストーカーね。風見くんも迷惑がってるからやめたら?」
 挑発するような態度で言い寄ると、眉を引きつらせて久遠寺が激昂する。
「くっ、風見くんはなんでよりにもよってこんなチビを選ぶのよ!」
「チビィ? 頭の容量の小ささは貴女の方がトップクラスね」
 松野さんは前も触れたが小学生並に身長が低い。そのことがコンプレックスにならざるを得ず、触れられるとどうしてもやや冷静さを欠いてしまう。が、冷静さを欠いたのは久遠寺もどっこいのようだ。
「何よこのチビ! わたくしと比べたら家柄は確実に下でしょう」
「家柄とかはどうでもいいの。問題は風見君の気持ちよ」
「えっ?」
「私か、彼女か。どっちがいい?」
 悪戯っぽく俺に笑いかける松野さん。ああ、遊んでるんだな。その向こうでは久遠寺のきつい眼差しが光る。
 どちらにせよ俺は久遠寺を選ぶことは出来ないんだから、答えは決まっている。
「松野さ──」
「そうね、どうしても私から風見君を引き剥がしたいなら、丁度あなたが持って来てくれてるんだから対戦して決着をつけましょう」
「対戦?」
 言われて久遠寺の左手を見ると、どこから持ち出したのか俺のバトルベルトと、もう一つ別の黄色のバトルベルトが握られていた。
「ふふっ。いいわ、それじゃあわたくしと早速勝負よ」
「そう言ってくれないと。と、いうことで風見くんよろしくね」
「え、俺ですか?」
「だって風見君のバトルベルトでしょ? それに風見君の問題だし」
「いや、俺は──」
 背を向けて部屋へ戻ろうとした松野さんに手を伸ばそうとすると、振り返った松野さんから俺のデッキケースが飛んできた。
「……」
「家の中じゃ狭いから、このマンションの駐車場の屋上とかどうかしら。そこなら一番近くてバトルベルトを使う広さがあるはずよ」
「いいわ、それじゃあ早速行きましょう。風見君」
 俺の話なのに気付けばどんどん勝手に進んでいく。久遠寺は先にエレベーターホールへ向かって行くし、松野さんはキッチンへ戻っていくし。
「ごめんね、ちょっと食器洗いしてから行くから先に行っておいて」
 観念して自分の革靴を履き、玄関から出ようとした時家の中から松野さんの声が聞こえてきた。
「ああ、言い忘れてたけど彼女は能力者だから」
 唐突さに数秒固まってしまった。一体、どういう。それ以上問うても有益な事は何も教えてくれなかった。



「駐車場の屋上、ここだな」
 三月とはいえ夜なのでいくばか寒い。それにしても屋上という立地条件か、停まっている車の台数はまばら。立体映像で対戦しても問題はなさそうだ。
 しかし久遠寺が能力者とはにわかには信じられない。藤原の時は体からいかにもヤバそうな雰囲気を発していたが、目の前のやる気マンマンなお嬢様にはそんな雰囲気を微塵も感じれない。いや、隠しているのか?
 どちらにせよ緊張を高め、下手な失敗を犯さないよう細心の注意を払わなければ。無論負けられない。
「約束は約束よ!」
「ああ、分かってる」
 ……PCCでも能力者を倒していかないといけないんだ。そうだ。こんなところで躓いてられない。
「よし、行くぞ!」
 俺の言葉を合図に、互いにバトルベルトを起動させる。いつもは枚数三十枚のハーフデッキで戦っていたが、今回は本格的に六十枚のスタンダードデッキでの対戦だ。
 スタンダードデッキはデッキの枚数が増えるだけでなく、それに伴ってサイドの枚数も六枚になり、ハーフに比べて長期戦になるがその分より白熱した対戦を楽しめる。
 さてデッキポケットにデッキをセットし、オートシャッフルさせる。バトルテーブルは自動で手札七枚とサイド六枚を割り振り、それぞれセットされる。
 最初の手札となる七枚を手に取るが、やはりこういうときに限って雲行きはあまりよろしくない。
「先攻はわたくしからよ」
「いいだろう」
 俺の最初のバトルポケモンはフカマル50/50でベンチはコイキング30/30。相手のバトルポケモンはストライク60/60。ベンチにはチェリンボ50/50。草タイプだろうか。
「わたくしの番よ。まずは手札の草エネルギーをストライクにつけるわ」
 ストライクのテキストをモニターで確認するが、ストライクが草エネルギー一枚で使えるワザは剣の舞のみ。剣の舞は次の番にストライクの使えるもう一つのワザ、スラッシュダウンの威力を上げるだけだ。威力が上がるのは怖いが、それでも先攻でいきなりフカマルが深手のダメージを負うことはない。
「ストライクで剣の舞。それにしても風見君がコイキングなんて、堕ちたものね。北海道を飛び出さない方が良かったわよ絶対」
「ふん。何とでも言え、ただし俺に勝ってからだがな。俺のターン」
 手札に来たのはコイキング。いいタイミングで来た。これなら初期手札の悪さをすぐにでもリカバリーし得る。
「まずはこのサポーターカードからだ。俺はスージーの抽選を発動。その効果で手札のコイキング二枚をトラッシュし、山札からカードを四枚ドローする」
「たねポケモンを二匹も捨てるの!?」
「さらに手札から不思議なアメを発動。その効果でフカマルはガブリアスに進化する!」
 フカマルを光の柱が覆う。光の柱からはその姿を変えて大きく雄々しく成長したガブリアス130/130が雄たけびを上げながら現れた。
「ガブリアスに水エネルギーをつけ、レジアイス(90/90)をベンチに出す。ガブリアスについているエネルギーが足りないのでワザは使えない。これで俺の番は終わりだ」
「わたくしのターン。手札の草エネルギーをストライクにつけて、ストライクをハッサム(100/100)に、チェリンボをチェリム(80/80)に進化させますわ。続けて手札のゴージャスボールを発動。その効果で山札から好きなポケモン一体、ストライクを手札に加えます」
 ハッサムの隣にゴージャスボールが現れ、これまた白色の光を吐きだしながらボールが開く。ボールの中からはハッサムとほぼ同サイズの縦幅を持つ拡大されたストライクのカードの絵が現れ、やがてゴージャスボールもろもろ消えていった。
「さらに新たにストライク(60/60)をベンチに出し、ハッサムでガブリアスに攻撃します。振りぬく攻撃!」
 ハッサムが赤いハサミを大胆にガブリアスに叩きつける。すさまじい衝撃音と共にガブリアスは大きく足を数歩下げ、さらにガブリアスの右下に表示されているHPバーが大きく削られ50/130になる。
「ハッサムの振りぬくは、自分の場にポケパワーを持つポケモンがいなければ30ダメージ追加で攻撃を与えれますの。更にチェリムのポケボディー、日本晴れによって炎、草ポケモンが相手に与えるワザのダメージも10追加。よって元の威力40に30と10を加え80ダメージですわ」
「……ほう。中々やるな」
 感心したように言ったが、正直のところそんなことをしている余裕はない。序盤からの80ダメージは想定外のかなりの痛手だ。もっと穏やかな攻撃と思っていたんだが、なかなかどうしてやってくれる。
「今度はこちらから行くぞ、俺の番だ。まずはガブリアスをレベルアップさせる! そしてこの瞬間にガブリアスLV.Xのポケパワー発動。このポケモンが手札からレベルアップした時に発動でき、三回コイントスをしてオモテの回数分のダメージカウンターを相手のベンチポケモン全員に与える!」
 バトルテーブルのデッキポケット横の赤いボタンを押す。オモテ、ウラ、オモテ。よってオモテの回数は二回。
「20ダメージを受けてもらおう。やれっ、竜の波動!」
 ガブリアスLV.X60/140が雄叫びを放ちながら口から白い波状の衝撃波を放つ。ベンチにいたチェリムは花弁を閉じようと、ストライクは両手で体をカバーしようと体勢をとるも衝撃波をモロに受けてダメージを負う。これでチェリムのHPは60/80。ストライクは40/60だ。
「お前はコイキングを見て俺を堕ちたと言ったな? 最初は弱くとも、いずれ信じる力と共に強く成長する証を見せてやる! コイキングを進化させ、現れろギャラドス!」
 力なくベンチで跳ねていたコイキングが白い光に包まれ、より大きく。より力強くギャラドス130/130へとそのフォルムを変えていく。
「こ、これはっ!」
「ガブリアスLV.Xは逃げるためのエネルギーが不要だ。ガブリアスLV.Xを戻してギャラドスをバトル場に出す。更にレジアイスのポケパワー、ポケムーブを発動。その効果で俺は手札を二枚トラッシュする」
 俺がトラッシュしたのは四枚目のコイキングとニドクイン。
「レジアイスのポケパワーによって、お前のベンチの進化していないポケモンとバトル場のポケモンを入れ替えてもらう。どのベンチの進化していないポケモンを選ぶかの選択権は貴様にあるが、残念ながら条件に該当するポケモンはストライクだけだな」
 久遠寺の顔が少し歪んだ。その目の前でレジアイスの発する波動によってストライクとハッサムの位置が一瞬で入れ替わる。
「でも貴方のギャラドスにはエネルギーが一つもついてませんわよ」
「こいつにエネルギーなど不要だ! ギャラドスでストライクに攻撃、テールリベンジィ!」
 ギャラドスがその巨大な体躯をうねらすと、長い尻尾でストライクを力いっぱい叩きつけた。ゴム毬のようにストライクの体が宙に浮きながらそのHPバーは0/60を刻む。
「テールリベンジはトラッシュのコイキングの数かける30ダメージの威力だ。今俺のトラッシュにはコイキングが三枚なので、90ダメージ。受けてもらったぞ、俺の渾身の一撃を! サイドを引いて、これで俺の番は終わりだ」
 そうだ! 俺はこんなところで負けていられない。立ち止まる暇はない!
「この対戦、必ず俺が勝つ!」



風見「今回のキーカードはハッサムだ。
   エネルギー二つで最大70ダメージを与えることができる。
   もう一つのワザも、ポケボディーも非常に優秀でオススメ出来るぞ」

ハッサムLv.47 HP100 草 (破空)
ポケボディー  ハニカムディフエンダー
 このポケモンにダメージカウンターが6個以上のっているなら、このポケモンがワザによって受けるダメージは、「−40」される。
無無  アクセレート 30
 このワザのダメージで、相手を気絶させたなら、次の相手の番、自分はワザのダメージや効果を受けない。
草草  ふりぬく 40+ 
 自分の場にポケパワーを持つポケモンがいないなら、30ダメージを追加。
弱点 炎+20 抵抗力 ─ にげる 1


  [No.777] 50話 精神戦 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/16(Sun) 09:24:56   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「風見君!」
「松野さん」
 夜の闇に包まれた駐車場に松野さんが現れた。多少走ったのか肩が上下している。息を整えながら、場を見渡しているようだ。
 俺のサイドは残り五枚で、久遠寺のサイドは残り六枚。俺のバトル場にはギャラドス130/130に、ベンチにはレジアイス90/90、水エネルギーのついたガブリアスLV.X60/140。
 対する久遠寺のバトル場は草エネルギーを二枚つけたハッサム100/100、ベンチポケモンにチェリム60/80。
「今のところは優勢ね」
「まだ始まったばかりですけどね。ところで久遠寺が能力者っていうのは?」
 能力者。この前の風見杯で起きた藤原拓哉の例を思い出す。もしかしてやはりまたあのような事が起こりうるのだろうか。
「やっぱり藤原とかのように……」
 藤原の能力は『相手を消すこと』だった。本人は『次元幽閉』と言っていたが、やはり久遠寺も──。
「久遠寺さんの能力は『位置検索』よ」
「は?」
 かなり身構えていたのに帰ってきた答えが意外と小さいことで気が抜けた。しかし位置検索? いや、でも確かに俺の住所を教えていないのに俺の家を知っていたのは説明が行くが……。どうもしっくり来ない。
「だから、まあ負けたとしても消されたり病院送りとかそんなことはないはずだけど、決して気を抜いちゃダメよ」
 松野さんはグッと目に力を入れてこちらを見る。やはりこの人の目力は恐ろしく強い。思わずシャキンと背筋が伸びる。
「それに、能力者と戦う事だけで精神的に負担になるんだから。能力者との戦いで一番大事なのは強い心! さあしっかりね」
「……分かりました」
「そろそろわたくしのターンを始めてもよくって?」
「ああ、すまない。始めてくれ」
「わたくしのターン。ハッサムに達人の帯をつける」
 ハッサムの突出したお腹の辺りに帯が巻かれるが、ちょっと不格好。
 達人の帯は装備したポケモンのHPと与えるワザのダメージを20増やすポケモンの道具だが、達人の帯がついているポケモンが気絶したとき相手が引くサイドは普段より一枚多くなる。久遠寺はそれを承知で打点を増やしに来た。
「続いてサポーターのハマナのリサーチを発動。このカードの効果はもちろん分かっていらして?」
「たねポケモンおよび基本エネルギーを合計二枚までデッキから手札に加えるカードだ。馬鹿にするな」
「ふふっ。その効果でわたくしはストライクとチェリンボを加えますわ」
 しかし加えたところでベンチには出せないはずだ。出したとしても、出した番には進化できないからレジアイスでバトル場に引き出され、俺のギャラドスの餌食になる。久遠寺もそれを分かっているのかポケモンをベンチに出してこない。
「さ、参りますよ。ハッサムでギャラドスに攻撃。振りぬいてくださって!」
 一つ跳躍してハッサムがギャラドスにハサミを振りぬく。居合切りのような瞬間的な一撃が、ギャラドス30/130の豊富なHPをあっという間に虫の息まで追い詰める。
 振りぬくは自分の場にポケパワーを持つポケモンがいなければ威力が30上がるワザで、更にチェリムのポケボディー、日本晴れによって草タイプであるハッサムの威力が10、達人の帯で20上昇している。よって元のダメージが40のはずの振りぬくが100という強力な威力に変わる。
 気持ちで負けたら飲み込まれる。確かにハッサムの一撃は強力だったが、俺のギャラドスもそれに対して劣らぬ強力な一撃を放つポテンシャルを持っている。焦ることはない!
「行くぞ、俺のターン!」
 しかし引き札に恵まれない。手札は三枚。まずはあのハッサムをどうするかを考えるんだ。。
 今の俺の場には満身創痍のギャラドス、ベンチには傷を負ったガブリアスLV.Xとレジアイス。レジアイスのポケパワー、レジムーブは手札を二枚トラッシュして相手のベンチの進化していないポケモンをバトル場に出させるモノだ。しかし久遠寺の場にそれに合う条件のポケモンがいないので使えない上、ギャラドスは逃げるエネルギーが多くて逃がすこともできない。
「俺もハマナのリサーチを発動する。その効果でフカマルと超エネルギーを手札に加え、フカマル(50/50)をベンチに出し、超エネルギーをフカマルにつける」
 これで手札は残り二枚。最低二枚はレジアイスのポケパワーの発動コストとして常にキープしていたいが……。
「行くぞ、ギャラドスで攻撃だ。テールリベンジ!」
 テールリベンジはトラッシュのコイキングの数×30ダメージを与える変則的なワザ。今のトラッシュにはコイキングが三枚。よって30×3=90ダメージを与えられる。
 ハッサムが両手の鋏でバリケードを作るも、荒々しく振り下ろされたギャラドスの尻尾の一撃に叩きつける。なんとか立ちあがって姿勢を整えるハッサム30/120だが、これで十二分に消耗させてやった。
 調子は悪くない。このまま押し切ってやる。
「さあ、お前の番だ」



 一見サイドの枚数的にも風見君が有利のように見えるけど、今流れがあるのは確実に久遠寺麗華だ。
 あのハッサム30/120だけで風見君のポケモン二体は気絶させる程のポテンシャルを持っている。
 油断だけはしてはいけない。能力者との戦いは精神戦。先に心が挫けた方が負ける。能力者達は概して強い意思を持っている、もしも油断なんて見せるようでは勝てない。
 とはいえ相手は人間、揺さぶればその強固な意思も崩れるはず。なのだけど、残念ながら風見君はそういった会話能力が無い。力で打ち負かすことを祈るしかない。
「わたくしのターン。グッズカードのポケドロアー+を二枚発動。このカードは一枚単品で使った時と、二枚同時に使った時で効果が変わるわ。二枚同時に使ったので、わたくしはデッキから好きなカードを二枚加えてシャッフルします」
「ほう……」
「そしてサポーターカードのオーキド博士の訪問を発動。山札から三枚引いてその後、手札から一枚デッキの底に戻します」
 手札を増強してきたわね。一気に動いてくるはず。
「手札からスタジアムカード発動。破れた時空!」
「破れた時空だと」
 周囲の風景が一変し、禍々しい空と突き出るような槍の柱が現れる。
「このカードがある限り、互いにその番に場に出たばかりのポケモンを進化させれますわ。私はストライクをベンチに出し、ハッサムに進化させて草エネルギーをつけまして。バトル場のハッサムで攻撃! アクセレート!」
 アクセレートのワザの元々の威力は30だけど、チェリムと達人の帯によって威力は60まで上昇する。加速して踏み出したハッサムがすれ違いざまに一閃、一撃を受けたギャラドス0/130は動きを止め、横に倒れて行く。
「なんのこれしき! 俺の次のポケモンはガブリアスLV.Xだ」
「わたくしはサイドを一枚引いてターンエンド」
 久遠寺はギャラドスを倒した、いや、それだけじゃない。
「風見君! アクセレートの効果に気をつけて!」
「効果……」
「アクセレートで相手のポケモンを気絶させたとき、そのハッサムは次の風見君の番ではワザのダメージも効果も与えれないわ」
「ガブリアスにエネルギーをつけてガードクローをしようとしても、わたくしのハッサムには傷一つ付きませんわ」
「なるほど、やはりそういうことか。だったらやることは一つだ!」
 風見君の目に強い闘志が宿った。さあ、どんな戦術を見せてくれるのかしら。
「フカマルをガバイト(80/80)に進化させる。そして俺も破れた時空の効果を使わしてもらうぞ。今進化したばかりのガバイトをガブリアス(130/130)に進化だ! 更に水エネルギーをガブリアスにつける」
 風見君の手札が一気に消費されて残り一枚になる。
「俺は手札からユクシーをベンチに出す。そしてこの瞬間にポケパワーを発動だ。セットアップ!」
 セットアップは手札が七枚になるまでドローする強力なポケパワーだ。しかし、当のユクシー70/70自体のステータスは乏しく、HPはわずか70
「手札のスージーの抽選を発動。俺は手札のニドラン♀と不思議なアメをトラッシュしてデッキから四枚ドローする。そしてガブリアスLV.Xのワザを使わしてもらう。蘇生!」
 空いているベンチに白い穴が形成された。そしてその穴の中からギャラドス130/130が、舞い上がるように飛翔して出現する。
「ガブリアスLV.Xの蘇生は、自分のトラッシュのLV.X以外のポケモンをたねポケモンとしてベンチに出す。俺はその効果によってギャラドスを戻した。ターンエンドだ」
「一度倒されたポケモンを戻してきたところでどうなるのかしら」
「どうとでも言え」
 どうやら少しずつ、自分のペースを取り戻してきたようだ。本人に自覚はないかもしれないが、どうも彼は思っているよりも周りに流されやすい。しかしそれは一度だけ。自分のペースを取り戻した彼はもう迷わない。
「わたくしのターン。手札のポケモン図鑑を発動しますわ」
 ポケモン図鑑は自分のデッキのカードを上から二枚を確認し、片方を手札に。もう片方をデッキの底に戻すグッズカード。グッズなのに新たにカードを手札に加えることが可能という扱いやすさがウリだ。
「続いてチェリンボ(50/50)をベンチに出します。続いてサポーターのデンジの哲学を発動。手札が六枚になるまで引きます。今のわたくしの手札は0。よって六枚引かせてもらうわ」
 さらに久遠寺は手札を一瞥すると、左から二枚目のカードを抜き取り、バトルテーブルに叩きつける。
「チェリンボをチェリム(80/80)に進化させます。そしてベンチのハッサムに草エネルギーをつけて、そのガブリアスLV.Xに攻撃をしますわ。アクセレート!」
「またアクセレートかっ!」
 一気に加速したハッサムが鋏でガブリアスLV.X0/140の腹部を強く打撃するように突進する。わずかに宙に浮いたガブリアスLV.Xは、そのまま受け身も取れずに仰向けに倒れた。
「サイドを一枚引きますわ。これで追い抜きましたわね?」
 確かにサイドは久遠寺麗華が一枚上回っている。その上、彼女の場には次の番に攻撃を受けないハッサム。ベンチには同じくすぐに攻撃に移れるハッサムがいる。そしてそのハッサムを支援するチェリムが二匹。それに対して風見君のポケモンは、置物と化したユクシーとレジアイス。そして蘇生したばかりのギャラドス、エネルギーが二個ついたガブリアス。状況的には風見君が責められ続けているという感じだ。
 それでも。
「だったらガブリアスが次の俺のポケモンだ」
 風見君の表情は、どこか純粋なところから来る笑みに包まれていた。



風見「今回のキーカードはチェリム。
   ベンチにいてこそ活躍するカードだ。
   ポケボディーの日本晴れで炎、草タイプのワザの威力が上がるぞ」

チェリムLv.30 HP80 草 (破空)
ポケボディー   にほんばれ
 自分の草ポケモンと炎ポケモンが使うワザの、相手のバトルポケモンに与えるダメージは、すべて「+10」される。
  あまからかふん 20
 自分のポケモン1匹から、ダメージカウンターを2個とる。
草無無  ソーラービーム 50
弱点 炎+20 抵抗力 水−20  にげる 1


  [No.791] 51話 決別 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/23(Sun) 23:47:21   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「風見君、変わりましたわね」
「どういうことだ?」
 俺がデッキからドローする前に、久遠寺が急に話しかけてきた。
「昔の風見君と今の風見君、だいぶ変わりましたわね」
「そういうことか、当然だ。俺はこの半年で自分を変えてきた。そして俺は過去と決別する」
「それじゃあわたくしも過去なの? これだけ風見君の事を想ってるのに! ここまで来てすぐ向かいにいるのに!」
「っ……」
「今までわたくしが貴方に接してきたことも全て無になるってこと?」
 正直こいつに関してはロクな事があった試しが無い。もっとも、今もそうだが。
「そうだ。そういうことになる」
「あんまりです! ど、どうしてそういうことにっ……。あああああああああああああああ!」
 鼓膜が爆発しそうな叫びだった。両手で耳を塞ぎ、姿勢を低く維持する。正面にいる久遠寺の表情は、既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「風見君、もうちょっと他になかったの!?」
「いや、だって……」
「だってじゃない! 余計無駄に怒らせちゃって……、逆に勢いづけてどうするのよ」
「どうするも何も、元より勝つしかないでしょう」
 そう答えると、松野さんが深くため息をついて、好きにしなさいと投げやりに言い放った。
「久遠寺、俺がお前とのこの勝負で俺の意志を見せてやる! 俺の番だ」
 まずは目の前のハッサムをどうにかしなくてはいけない。先ほどのターン、ハッサムはアクセレートでガブリアスLV.Xを倒したためこのターンはワザのダメージと効果を一切受けない。
 俺のバトル場はエネルギーが二つついたガブリアス130/130。ベンチにはユクシー70/70とレジアイス90/90とギャラドス130/130。一方の久遠寺のバトル場は達人の帯をつけ、草エネルギーが二つついたハッサム30/120、ベンチには同じく草エネルギー二つのハッサム100/100とエネルギーなしのチェリムが二匹。それぞれ60/80、80/80。
 久遠寺の手札は五枚、サイドは四枚。俺の手札は今九枚でサイドは五枚。スタジアムは久遠寺が発動させた破れた時空がある。押されているがまだいくらでも押し返せる。押し返して見せる。
「水エネルギーをガブリアスにつける。まずはそのハッサムを退けてやる。グッズカード、ワープゾーンを発動。互いのバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるポケモンを選ぶのは各々だ」
 ガブリアスとハッサムの真下に青い穴が現れ、穴が二匹を青い闇に吸い込む。
「俺はその効果でギャラドスを選択する」
 ベンチのギャラドスも同じように青い穴に吸い込まれた。久遠寺からは声がしなかったが、ベンチのハッサムを選択したようで、同じように青い穴に吸い込まれる。
 そして吸い込まれた計四匹のポケモンはバトル場とベンチを入れ替えて青い穴から現れた。これで俺のバトルポケモンはギャラドス。久遠寺のバトルポケモンは達人の帯がついていないハッサムに変わる。
「更にサポーターのクロツグの貢献を発動。トラッシュのポケモンと基本エネルギーを合計五枚までデッキに戻し、シャッフルする。俺はフカマル、ガブリアス、ガブリアスLV.X、ニドラン♀、水エネルギーの五枚をデッキに戻してシャッフルする」
 この一連の操作が、ボタン一つで出来るのはかなり進んだものだなと我ながら思う。デッキポケット隣の青いボタンを押すと、トラッシュからカードを自動回収(オートサルベージ)してバトルテーブル内を通ってデッキポケットに収まり、自動でシャッフルするのだ。
「行くぞ、ギャラドスでハッサムに攻撃。テールリベンジ!」
 ギャラドスが大きな尻尾を勢いよくハッサムに叩きつける。轟音と巻き起こる煙とともにハッサム0/100は軽々と吹き飛ばされ地面にバウンドし、仰向けに倒れる。
 やられればやられた分だけやり返してやる。リベンジテールの威力はトラッシュにあるコイキングの数×30。今トラッシュにはコイキングは四枚。よって30×4=120ダメージでお返しだ。
「サイドを引かせてもらうぞ」
 ようやくイーブン、互いにサイドは四枚か。だが確実に良いペースを掴めている。久遠寺は先ほどベンチに戻されたハッサム30/120をバトル場に出すも、そのHPに限度は見えている。
「わたくしの……ターン。草エネルギーをチェリムにつけますわ」
 久遠寺は力ない声と動きでカードを動かす。少し震えている唇からは荒れた吐息が絶え間なく続く。松野さんは能力者との戦いは精神戦と言っていたが……。
「ハッサム、で、振りぬく、攻撃っ」
 壊れそうな久遠寺とは打って変わってハッサムの動きは相変わらず機敏にギャラドスに襲いかかる。130あったHPが僅か鋏の一振りで20/130まで削られた。元の威力でさえ高いのに、達人の帯やチェリム達がその威力を増長させる。
「俺の番だ。まずはグッズカード、夜のメンテナンスを発動。トラッシュのポケモン及び基本エネルギーを三枚までデッキに戻してシャッフル。俺はコイキング一枚とニドクインの計二枚をデッキに戻す。夜のメンテナンスで戻せるのは三枚までなのであって、三枚以下であるなら何枚でも可能だ!」
「コ、コイキングをデッキに……?」
「まだだ。俺は手札のスージーの抽選を発動。手札のアンノーンGとミステリアスパールをトラッシュして四枚カードを引く。……ハッサムにはハニカムディフェンダーというポケボディーがあるのは知っている。ハッサムにダメカンが六個以上のっている時、ハッサムが受けるダメージは−40されるという優秀なポケボディーだ。だが、そのハニカムディフエンダーを適用した上でも俺のギャラドスの攻撃は防ぎきれない。ギャラドスでハッサムに攻撃だ、リベンジテール!」
 ハッサムは体を硬化させ、攻撃による衝撃を和らげようと動いたものの、それでも威力は90−40=50。これだけあればハッサム0/130を気絶させるのには十分すぎる。
「お前のハッサムには達人の帯がついている。達人の帯はつけたポケモンは最大HPもワザの威力も上がるが、それがついているポケモンが気絶した場合、俺が引けるサイドは二枚となる。これで優劣が一気に変わったな」
 中盤でのサイド差二枚。淀んだ表情の久遠寺は、肩で息をしながらバトルテーブル上のカードを動かす。次のポケモンは先ほどエネルギーをつけたチェリムだ。
「ま、まだですわ……。負けるわけにはいきませんの。わたくしの、番です。ベンチのチェリムに、草エネルギーをつけてチェリムで攻げ、コホッ! 攻撃です。甘辛花粉!」
 ワザを指定されたチェリムは一度花弁を閉じると、勢いよく開いた。開くと同時に黄色の細かい花粉がギャラドスに襲いかかった。甘辛と名のつくだけに、ギャラドスは花粉に反応して大きな体をぐねらして暴れている。
 甘辛花粉の威力20。もっとも、チェリムのポケボディーの効果で20+10×2=40ダメージまで与える威力が増えていく。花粉を振り払おうとギャラドス20/130は、ある程度暴れるとそのままぐたりと動かなくなった。
「風見君、チェリムの甘辛花粉はダメージを与えるだけじゃないわ。自分のポケモン一匹のダメージカウンターを二つ取り除く効果もあるわよ」
 松野さんが背後から声を掛けてくれた。ベンチのチェリムの目をやると、先ほど撒き散らされた花粉がベンチのチェリムにも行き届いていたようなのだが、チェリム80/80は回復して元気よく花弁を開かせる。なるほど。どうやらギャラドスにかかったのは辛い花粉で、チェリムにかかったのは甘い花粉ということのようだ。
 俺はガブリアスを次のポケモンとしてバトル場に投入した。久遠寺がサイドを引いたのを確認してから俺のターンを始める。
「行くぞ、コイキング(30/30)をベンチに出す。スタジアムの破れた時空の効果により、この番出したばかりのポケモンも進化させられる。その効果でコイキングをギャラドス(130/130)に進化させるぞ!」
 手札の残り枚数が危うくなる。手札を増強するカードも手元にないためハンドアドバンテージも稼げない。ならばその分パワーで稼ぐだけだ!
「ガブリアスでチェリムに攻撃。スピードインパクト!」
 低く姿勢を落としたガブリアスが急に見えなくなると同時、チェリムの元で衝撃と風が発生する。物凄い初速で突撃したガブリアスの攻撃を受け、チェリム0/80は呆気なく吹き飛ばされて倒れる。
「スピードインパクトは120から相手のエネルギーの数かける20分だけ減らしたモノが威力になる。この場合は与えるダメージは100! チェリムが気絶したことによってサイドを引かせてもらう」
 これで残りのサイドは一枚。油断は最後まで出来ない。俺の場にはまだガブリアスもギャラドスもいるが、下手に凌がれるとどうなるか。久遠寺の最後のポケモンは草エネルギーが一枚ついた二匹目のチェリムだ。
 しかし久遠寺は固まったまま動く気配が無い。電池が切れたロボットのように。
「どうした久遠寺」
 何も答えは返ってこない。先ほどまでドンパチしていたのが嘘のように、ただただ夜の風が駐車場をなぞる。
 大人げないだろうと思われるかもしれないが、黙られるということに対してひどく嫌悪する。一体俺に何を思い、何を伝えたいのか分からない、その苛立ちからだ。
「……。黙っていても名にも伝わらないぞ」
「わたくしはどうすればいいのか……。分からなくて……」
「貴女、風見君を見て何も感じてないの?」
 久遠寺にどう言葉を返そうと迷っていたところ、松野さんが鋭く一声放った。久遠寺は驚いた様相で顔を上げ、俺の後ろに居る松野さんを見つめる。
「風見君はこの対戦に自分の未来を、進むべき道を懸けているの」
「進む……べき道?」
「そうよ。貴女も自分の望むモノのためにここに来たんでしょ? だったらそれをぶつけないと」
「ぶつける……。わたくしの望むモノ……」
 呪文のように幾度か小さく呟いた久遠寺は、やがてハンカチで涙で濡れた顔を拭き、元の強気の表情に戻った。
「風見君! わたくしも全力で戦います。わたくしは、わたくしのために。だからもしわたくしが勝てば──」
「いいだろう。お前が勝てば好きにすればいい。しかし俺は負けるためには決して戦わない。立ちはだかる者は誰であろうと容赦はしない!」
 久遠寺は小さく頷いて、デッキトップに手を乗せる。
「わたくしの番です! 草エネルギーをチェリムにつけて、グッズカードを。ポケブロアー+を二枚、発動!」
 虚空から赤い手が現れ、ガブリアスを掴む。それだけではなく、再び虚空からもう一つの手が現れてベンチのギャラドスも掴んだ。そして掴んだまま二匹を持ち上げ、二匹それぞれの場所を入れ替える。
「ポケブロアー+は一枚だけで使うときと二枚同時に使うときで効果が異なるカードよ! 今のように二枚同時に使った時は相手のベンチポケモンを一匹選んでバトルポケモンと入れ替える効果を持つわ」
 松野さんが背後から再びアシストしてくれる。しかしなぜ、ガブリアスからギャラドスに変えたのか。ギャラドスはエネルギーなしでもワザが使えるのに。
「わたくしはまだ諦めてませんわ! チェリムに草エネルギーと達人の帯をつけて、甘辛花粉!」
 ポケモンの道具、達人の帯の効果でチェリムのHPが100/100まで上昇し、ワザの威力も20上がる。チェリムのポケボディー、日本晴れの効果も加えてギャラドスに襲いかかるダメージは合わせて20+20+10=50ダメージ。
 花粉を受けて苦しむギャラドス80/130は、しばらくのたうつと花粉を振り払い、大きく吠えて威嚇する。そうだ。まだまだギャラドスは戦える。
「そうだ、立ち向かって来い! 俺のターン。ならばギャラドスで攻撃する。リベンジテール! トラッシュのコイキングは三枚。よって90ダメージを与える」
「チェリムは、水タイプに抵抗を、持っていましてよ! それによって受けるダメージは70ですわ」
 つぼみを閉じてチェリム30/100はなんとか身を守り、ダメージを軽減する。そう、このせめぎ合いこそが本当の戦い!
「わたくしの番ですわ! 草エネルギーをチェリムにつけて攻撃」
 久遠寺の視線が、静かに闘志を燃やしながら真っすぐ俺を見つめる。そして彼女は右腕を真上に上げて叫んだ。
「ソーラービーム!」
 突如夜にも関わらず、太陽を直視したような眩い光と平衡感覚を揺るがす轟音がチェリムから真上に放たれ、やがてギャラドスに降り注いだ。眩さ余り、思わず目を閉じ右腕で顔を覆う。
 視界は防がれても、音で何が起きてるかはわかる。ギャラドスのHPバーが尽き、ギャラドス0/130が大きな音を立てて崩れ落ちる。
 ようやく視界が戻ったときには久遠寺が五枚目のサイドを引いていたところだった。
「くっ、ソーラービームの元の威力は50、帯とポケボディーで80まで威力が上がったか。確かにギャラドスを倒すには十分……」
 バトルテーブルでベンチにあるガブリアスのカードをバトル場へと動かす。それに対応するようにガブリアスが足音を出しながらバトル場へ歩み寄る。
「だがお前の反撃もここまでだ。これが、俺の望むべき道! 今度はガブリアスで攻撃! スピードインパクトォ!」
 ガブリアスが突進する前に、久遠寺の目じりに涙が浮かんでいるのを見かけた。その次の瞬間、ガブリアスの突進によって巻き起こる砂煙のビジョンで久遠寺が見えなくなる。
 スピードインパクトの威力はその効果によって120−20×3=60ダメージ。衝撃波がフィールドを駆け、撥ねられたチェリム0/100が宙を舞う。
 最後のサイドを引くとガブリアス達の映像が消え、そして砂煙のビジョンも晴れる。そして向かい側の久遠寺は、うつ伏せに倒れていた。
「はぁ……、はぁ……」
 その刹那、物凄い脱力感が包み込み、疲労が体を支配する。苦さと苦しさに少しだけ目頭がジーンとしてきた。
「風見くん、大丈夫?」
 松野さんが必死に背中を支えてくれて、ようやく平静を取り戻した。それでもまだ疲労は残っているが、とにかくバトルテーブルをバトルベルトに戻す。これが能力者との戦いか。風見杯のとき、翔は藤原拓哉と戦ってなおかつまだ俺と戦っていたのか。改めてその強靭さを、こうして身で知るとは。
「なんとか、大丈夫……です」
「それじゃあ私は久遠寺麗華をどうにかするから、悪いけど自力で私の家に行って、ベッドとかでもいいから休んでおきなさい」
 松野さんが家の鍵を手渡した。携帯電話で誰かと連絡を取り始めた松野さんをよそに、息を整えてから一人先に駐車場を後にする。
 最後にもう一度だけ振り返り、うつ伏せに倒れている久遠寺を見る。別段、こうして互いにぶつかりあった以上可哀想とは思わないが何かこう、胸に来るものがあった。
 これが俺の決別、その最初の戦い。やがて次の来るときまで、俺は力を蓄えるだけだ。



松野「今回のキーカードはポケブロアー+。
   一枚だけでは効果は微妙だけれど、
   二枚使うと相手のポケモンと入れ替えれるわよ」

ポケブロアー+ グッズ
 このカードは、同じ名前のカードと2枚同時に使ってもよい。
 1枚使ったなら、コインを1回投げる。オモテなら、相手のポケモン1匹に、ダメージカウンターを1個のせる。
 2枚使ったなら、相手のベンチポケモンを1匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替える。(この効果は、2枚で1回はたらく。)

───
久遠寺麗華の使用デッキ
「ハッサムPB」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-719.html


  [No.795] 52話 出陣 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/26(Wed) 21:23:34   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 三月下旬の日曜日、待ちに待ったPCC(ポケモンチャレンジカップ)の※東京Aの地区予選が開催される日だ。
 ※東京A・東京は参加する人数が多いため、東京Aと東京Bに分けられることがある。
 姉を置いて一人、先に会場となるサンシャインシティを目指し池袋駅に着いた。
 「姉を置いて一人」とは言ったものの、日ごろの仲間達とは待ち合わせをしてある。集合場所はJR池袋駅の改札だ。
 どうやら一番乗りらしい。集合時間の七分前に来てしまったのだが、とりあえず歩行者の邪魔にならないよう壁際で待つ。
 三分ほどしてやってきたのは石川薫だった。
「あれ? 遅れてごめん」
「まだ集合時間の四分前だから問題ないぜ」
「いや、本当はおれが一番に来るつもりだったんだけどやられちまった」
 三月下旬の東京はようやく春めいてきた。今日の最高気温は十五度だが、それでも薄着だとそこそこ寒いと感じることもある。
 俺もそれを見越して、真ん中に英語がプリントされた長袖のTシャツの上に長袖の赤系チェックシャツを羽織っているのだが、事あろうか石川は肩出しニット一枚だ。ちなみにパンツは俺が薄青ダメージジーンズで、石川がレギンス付きスカートを履いている。
 しかし肩にギリギリ届かない程度の石川の髪が、柔らかい雰囲気を持ったためなのか可愛らしい印象を受ける。
「毎度思うけど寒くないの?」
「そもそも今日って寒い? 暖かいと思うんだけど」
「いや、なんでもない」
 思えばこいつは真冬にあった風見杯で半袖半ズボンという理解不能な服装をしていた。それに比べれば今回はマシというわけだが、やはり理解に及ばず。
 ちなみに石川とはこの間かーどひーろーで会った後にもう一度別の日にかーどひーろーで会い、そこで連絡先を交換した。折角なので、一緒にPCCに行こうと誘ってみたのだ。
「もうすぐ時間かな」
 他愛ない話をしている最中、ジーンズの尻ポケットに入れていた携帯で時間を確認する。時刻は丁度集合時間の一分前を指していた。
「おっすー、待たせたな」
 図ったかのようなタイミングで人ごみの中から声が聞こえてきた。
 まずやってきたのは恭介と蜂谷と拓哉だった。
「ちょっとまてよ翔、そこの女の子はどなただよおい」
 蜂谷が眉間にしわ寄せ問うてくる。そんながっつくなよ。
「こないだの大会で戦って、かーどひーろーで再会してから連絡先交換したんだよ。お前も初めてかーどひーろー来た時顔見ただろ?」
 人がマジメに答えてやったのに、蜂谷は頭をひねる。そのまま百八十度まわしてやろうか。
「ちょっと待てよ、こないだの大会?」
 蜂谷に代わり今度は恭介が食いついてきた。
「ああ、風見杯本戦の二回戦で」
「ってあの季節違いの服装してたやつか! って男じゃないの!?」
 やっぱりそういう覚え方してたかー。でも本人の目の前で言うのはどうかと思うぞ。
「おれは女だ!」
「説得力ねー!」
 さかさず突っ込んだ石川だが、恭介に返される。互いに睨みあうせいで(恭介が睨む必要性はないと思うが)妙に緊迫した雰囲気になった。
「そういえば確かに風見杯のときと比べて急に印象変わったよね」
 俺の問いかけに石川は睨みあいを中断し、素直に首を縦に振る。
「お母さんに、高校に入るんだから女の子らしくしろって言われてさ」
「じゃあ風見杯のアレは黒歴史になるわけか」
「さっきからうっさい!」
「ごべばっ!」
 鳩尾を思いっきり殴ってきた。とてつもないダメージで、思わず床に両手をつく。その様子を見ていた恭介は、口は笑っているも目が死んでいた。
「遅れてすまんな。何かあったのか?」
 背後から風見の声がした。怪訝な顔を作る風見から手を借りて立ち上がる。
「いや、大丈夫、何でもないさ。おそらくだけど」
「? まあそんなことより時間だしそろそろ行こうか」
「ちょっと待ったぁ!」
 会話を割ったのは蜂谷だ。
「風見の後ろにいる人誰?」
「ああ、お前は風見杯に来てなかったんだな。風見杯ベスト16の向井剛だっけか。PCCに来るようだったからな」
 要は拾ってきたという事か。向井は恥ずかしそうにお辞儀をした。人見知りっぽいね。
 向井と同級生(幼馴染でもあるらしい)である石川は、「一緒にいこーぜ!」と背中をバシバシ叩きまくってる。手綱は石川にアリ、か。
「それじゃあそろそろ行くぞ」
 音頭を取ったのは風見だった。皆が風見の後ろをついていく形になる。
 風見と絡むようになってから知ったのだが、非常にリーダーシップを持っている。働いているという理由もあるのだろうが、各々に別方向を向いているヤツらを一気に同じ向きに向かせる程のリーダーシップは天性のものだろう。
「今回の会場はサンシャインシティだ。35番出口から出るのが一番早い」
 下調べもバッチリか、風見先導のまま地上に出てからも迷うことなく進んでいく。休日日曜の朝も、池袋は人の行き交いがとても盛んだ。七人で固まってあるいていると通れる道も通れないので、自然とだいたいな二列縦隊に組まれる。
 俺はなんとなく先頭の風見の左隣りで落ち着いた。俺の後ろには恭介と蜂谷と拓哉、その更に後ろは石川と向井と続く。
「翔、今回の自信の程は?」
「まあ少なからず予選は抜けたいな」
「なんだ、風見杯の優勝者がこんな弱気とは拍子抜けだな」
「本当のことを言うと全国に出たい」
「本音はそっちか。まあ会場に向かう人の大多数が望むことだからな」
「いや、約束なんだ」
「約束?」
 風見が眉をひそめる。風見の疑問に応えるために、ポケットに入れていたデッキケースから一枚のカードを取り出す。
「『マニーの決意』? 見た感じ創作カードのようだが」
 まるで警察官が証拠品をみるかのように、そのカードをいろんな角度から見る。
 このカードは、裏面は普通のカードと変わりないのだが、表面の部分は剥がされ、ザラザラになった表面にボールペン等でイラストとテキストが書かれているものだ。
「一応サポーターか。筆跡は翔のではないな」
 風見が呟いたように、一応このカードはサポーター扱いである。どっちにしろ実際に勝負するときには使わないけどね。バクフーンを連れ、腕組みをした男がイラストの部分に鎮座している。
 このカードの効果のテキストは、『全国大会で再会する約束を守る』とある。風見が言った通り、これを書いたのは俺ではない。
「これは?」
「中学時代の仲間と書いたんだ。これと同じのがあと二枚、その仲間が各自持ってる」
「ほう、じゃあその仲間というのも翔とあと二人か」
「ああ。一人は今大阪にいて、もう一人は東京にいるはずなんだけど……」
「?」
「連絡がつかないんだ。メールしても電話しても、年賀状も帰ってこないし」
「気になるな」
「冴木才知(さえき さいじ)ってやつなんだけどな……」
「全国に出れば何も分かるかもしれない、ってことか」
 黙って頷く。風見が返してきたカードをデッキケースに戻す。
「翔、これを貸しておく。使うか使わないかはお前次第だ」
 風見がポケットから十枚程度のカードを裏向けのまま渡した。拒否出来ない雰囲気に負け、何事もないかのように受け取ってしまう。
「よし、後はこのエレベーターで三階まで昇ったら会場だ。気を引き締めていくぞ!」
「おー!」
 カリスマ性だな、と感じる。今の風見がとった音頭も、普段は俺がするポジショリングなんだが今日は風見の機嫌がいいような気もする。おー! と返した恭介達の表情も実に柔らかい。
 サンシャインシティ、文化会館展示ホールへ向かうエレベーターは四つ。エレベーターホールには、俺たち以外にPCCに出ると思われるような人達が見受けられる。
 バトルベルトを既に装着している人はカードで出るのだろうと分かるが、俺のようにまだ未装着の人をゲームかカードかどちらで出るのかは分からない。
「翔、エレベーター来たぞー」
 蜂谷に小突かれる。辺りを見回すのに必死で、目の前の目的を忘れるところだった。稼働するエレベーターは四つあるが、どれもこれもエレベーター一つではここにいる人を運びきれない。ちょうど他にも降りてきたエレベーターに人が分かれて乗り込む。
 自分の意志でエレベーターに向かわずとも、人ごみに押されて自然とエレベーターの中に収まる。エレベーターが閉まる瞬間、ホールの方から嫌な視線を感じたような気がした。



翔「今回のキーカードはマニーの決意。
  一年前の約束のカードだ」

マニーの決意 サポーター
 全国大会で再会する約束を守る。

 サポーターは、自分の番に1枚だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。

※このカードは実在しません。


  [No.800] 53話 PCC予選 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/30(Sun) 19:06:05   30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
53話 PCC予選 (画像サイズ: 440×340 49kB)

 聞いた話によると、カード部門は予選は普通にバトルベルトを使わないでテーブルを使用し、決勝トーナメントからはバトルベルトを使用するということらしい。
 展示場Cの入り口でポケモンだいすきクラブのカードを提示し、そのあとセキュリティーチェックと手荷物検査を受けてようやく会場内に入る。
 入ったその先、展示場Cには大量のテーブルとDSを置いた台が綺麗に並んでいる。
「思ったよりも味気ねーなぁ」
 蜂谷がぼやいた通りである。真っ白な壁と地面に、青く着色された柱が十本近く並んでいる展示場Cに、緑のプレイマットが敷かれたテーブルだけでは味気がない。ゲームの方では用意されているDSも、そのDSを置いてある机も白なので、会場全体が虚しさを放っている。
「まあ大会は普通こうだよ」
 公式大会に初めて参加するのは恭介と拓哉と蜂谷と向井の四人。四人の顔はどこかしら少し興奮が混じって見える。
「おっとすみません」
 背後から誰かと浅くぶつかった。保護者らしき男の人が、人の多い会場を駆ける子供を追っている。
「修也ー! 待ちなさい」
 親になるっていうのは大変なんだなぁ。感慨にふける先、その男の人とクロスするように小さな女性のシルエットが現れる。
「一か月ぶりくらいかしら?」
 あの人は、クリーチャーズの。確か松野さんだったかな。
 前回会ったときのレディーススーツと違って、ベージュのシフォンタックワンピに茶色のパンチングベルト、そしてヒールの高いベージュのスプリングブーツ。前回会った時のレディーススーツがピシッとしている印象を与えたせいで、大人の女性というイメージが強かったのだが、何だかやけに可愛らしい服装を着ていてるためどんなキャラかが掴めない。
「風見くん、翔くん、藤原くん。ちょっと」
「あの人誰? 知り合い?」
「うわー! まさか藤原まで女の子の知り合いが!」 
 後ろから石川や蜂谷の痛い目線を受けながら適当に手を振って松野さんに着いていく。時間が時間なので、俺らを除く四人のエントリーを石川に託したのだが、恭介や蜂谷みたいなクセのあるやつをなんとかできるかな。
 俺たちは松野さんと共にスタッフのみしか入れない部屋にでも行くのかと思えばそうでもなく、ついた先は会場の隅だった。
 松野さんは携帯電話を操作して、俺達に画面を見せる。
「今回の大会に参加してる能力者は二人。一人目は『高津 洋二(たかつ ようじ)』。丁度そこの柱の傍にいるわね」
 松野さんが指さす方向には、柱にもたれかかって携帯電話をいじくる男がいる。こいつの能力は「影響直受」という名前らしく、ワザのダメージが実体化するものらしい。しかしプレイマットでの戦いでは能力が発動しないとのこと。
「そして二人目が『山本 信幸(やまもと のぶゆき)』よ。うーん、見当たらないわね、まあここに写真があるからいいけれども」
 携帯電話に映っている写真には、黒縁の眼鏡をかけた不健康そうな男がいた。これがこの間聞いた、「意識幽閉」の能力をもつヤツらしい。こいつに負けると病院送りは必至、意識不明になってしまう。
「対戦表までは操作できないから、予選で当たるか決勝戦で当たるかなんてのは分からないわよ」
 三人とも同時に固唾を飲み込む。どことあらぬ方向に意識を向けていたが、松野さんが携帯を閉じる音によって現実に引き戻される。
「そもそもこの二人に戦う前に負けたら承知しないわよ。さ、また後でね」
 さっさと去りゆく松野さんを見て、この人は精神が強いなと思わずにはいられない。俺の心臓の鼓動は緊張のせいで早くなっているのに、松野さんの顔はそういう類の感情がまるで浮かんでいないように見えるのだ。
「こいつらに当たろうが、当たらなかろうが、俺は勝つ」
 藤原(性格の悪い人格の方)が反吐でも吐くように呟き、エントリーに一人で先に向かう。追いかけようとしたときには既に雑踏の中に紛れて姿が見えなくなっていたのだが。
 ……あいつ、大会初出場なんだからちゃんとエントリー出来るかが心配だな。
「翔、さっさとエントリーを済ますぞ」
「そうだな」
 藤原の後をつけるように、俺と風見もエントリーをしに人ごみの中に歩み寄る。




「俺のターン! 手札の炎エネルギーをつけてバクフーンでサワムラーに攻撃。気化熱!」
 PCCはゲームもカードも共に、小学生以下と中学生以上の二部門に分かれる。もちろん俺たちが出るのは中学生以上の部門だ。
 そして予選は同じ勝ち数の人が適当に対戦することになる。分かりやすく砕いて言うと、自分が今0勝なら対戦相手も0勝の人で、今1勝ならば相手も1勝。という感じ。その予選で三連勝すると先着三十二名が本戦を進むことができる。予選からも一度たりとも負けることを許されない。
 さっきも言ったが、予選はテーブルでの試合で行われる。今俺は二連勝同士のテーブル、つまり予選最後の勝負をしていた。「していた」と過去形なのは、たった今俺のバクフーンの攻撃で勝利が確定したわけで、サイドを引いてスタッフに勝利の判を押してもらったところなのだ。
 テーブルから離れて、俺は先に最初にエントリーを行った場所で本戦に進むために必要なバトルシートを貰った。
「翔はえーな!」
 恭介が笑いながらこっちにやってきた。その様子だと、恭介も勝ち抜いてきたようだ。
「忘れずに本戦のバトルシートもらっとけよ」
「おう!」
「とりあえず他の奴らの応援しとくぜ」
 恭介と別れてテーブルの方へ向かう。試合をしている選手以外は入れないようにテープが敷かれてあり、その周りを囲むように負けた人或いは勝ち抜いた人が応援をしたり、トレードしたりと自由に活動している。
 別に風見の応援をする、だとか蜂谷の応援をする、みたく別に誰の応援をするとかは考えてなくて、とにかく目についた奴の応援をしようと思っているので適当に辺りを見渡す。
「俺のターン。ハクリューをカイリューに進化させて攻撃。破壊光線!」
 聞きなれた声の方を振り向くと。風見が小さくガッツポーズを組んでいた。風見もこれで予選を勝ち抜きだな。
「行くぜ、ビークインで攻撃だ。ビーパウダー!」
 その風見の二つ奥のテーブルで蜂谷が拳を天井に向けて突き上げた。初挑戦ながらも蜂谷が本戦に参戦確定。風見杯での恭介を彷彿させる。
「おれのターン。バトル場のプテラを逃がして、ラムパルドを新たにバトル場に出す。ラムパルド、真空頭突きだ!」
 蜂谷の斜め右では石川がおっしゃー! と拳を握る。
「私のターン。グラエナでトドゼルガに攻撃、やけっぱち!」
 石川の三つ手前で、松野さんも勝利をしたようだ。ん? よく見ると、松野さんの相手は姉さん。ということは姉さんは予選落ちか。後で適当に慰めておこう。
「そりゃ皆が皆本戦に行けるわけじゃないよなぁ」
「何言ってんだ、んなの当り前だろうが」
 俺のつぶやきに応えるように、背後から拓哉の声がした。
「勝ったのか?」
「当たり前だ、この俺を誰だと思ってる」
「はいはい、藤原拓哉だろ」
 他にも勝ち抜けを決めたメンバーが集まってきた。しかし本戦は一時から始まるとのことなのでそれまで昼飯を食う事になった。昼飯を用意してるやつ、してないやつなどいろいろいるので基本的に各自自由行動になる。
「翔! 一緒に飯食おうぜー!」
 石川が俺の肩をバシバシ叩きながら笑顔で言ってくる。手加減ないから痛い痛い。
「分かったから叩くのやめっ、ちょマジ痛い!」
 ようやく叩くのをやめてくれた石川は、「ちょっと待ってて」と鞄をごそごそ漁る。
 そんなとき背後から俺を射す視線に気づいたので、振りかえってみると風見がいた。
「翔、ちょっと」
「分かった。石川、悪い! すぐ戻るから待っててくれ」
「はっ? ちょっと翔!」
 不貞腐れた石川を置いておくのは気が引けるが、風見の真剣な表情が大きな事情───恐らく能力関係だろう───があることを物語っていたのでそちらを優先させていただく。
「能力者は両方とも予選抜きをしたようだ。高津は前述したとおり、プレイマットの試合なので影響なし。一方の山本は能力が作動して、負けた三人は皆一旦救護室にいるようだ」
「……」
「藤原のときのように、山本に勝てば意識を失った人々が戻ってくるかもしれない。俺達次第だ」
「そうだな……」
 風見が俺の肩を軽く叩く。そしてそのままどこかへ去って行く。
 どうしようもなくなった俺は、石川の元に戻ることにした。



翔「今日のキーカードはビークごふっ!」
蜂谷「今日のキーカードはビークイン!
   状態異常に火力上昇。なのにエネルギーコストは悪くないんだぜ!」

ビークインLv.44 HP100 草 (破空)
ポケボディー  みどりのいげん
 このボディーは、自分のサイドの枚数が、相手のサイドの枚数より多いなら、はたらく。このポケモンが使うワザの、バトルポケモンに与えるダメージは、自分のベンチの草ポケモンの数×10ダメージぶん大きくなる。
草  ビードレイン 20
 相手に与えたダメージぶんのダメージカウンターを、自分からとる。
草無  ビーパウダー 50 
 コインを2回投げ、すべてオモテなら、相手をどくとやけどとマヒにする。
弱点 炎+20 抵抗力 闘−20  にげる 1

───
番外編「ハロウィン」

恭介「トリックオアトリート!」
風見「……翔、恭介が変なんだが」
恭介「……」
翔「風見、今日は何の日か知ってるか」
風見「10月31日だろう。……秩父事件か!」
翔「そうなの!?」
恭介「なんで知ってんの!? いやあ、他にあるだろ他に」
風見「他……? スティーブ・コックスの誕生日か」
翔「だ、誰だ……」
恭介「メジャーリーガー。よく知ってるな……。ってそれじゃなくて、記念日あるだろ記念日」
風見「記念日か、……だったら宗教改革記念日だな?」
翔「記念日かもしれんけど! しれないけど!」
恭介「そんなのあるんだ……」
風見「わからん、早く正解を言え」
恭介「あ、知らないんだな。ハロウィンだよハロウィン」
蜂谷「仮装している可愛い子供が見れる素敵な行事だぜ」
全員「……」
風見「で、どんな行事なんだ」
蜂谷「おい」
翔「そういやなんだろう」
恭介「キリスト教の諸聖人の日(万聖節)の前晩に行われる行事なんだってさ」
翔「へー。で、仮装した子供がトリックオアトリート、御馳走しないと悪戯するぞと唱えながら近隣の家を回るんだよな。それは知ってる」
風見「強盗の類いか」
翔「いや、大人気ねーよ」
蜂谷「カボチャくりぬいたりするんだよな」
全員「……」
蜂谷「正しい事言ったじゃん! ねぇ!」
恭介「まあ日本じゃあ土地柄、浸透率はイマイチってとこだな。ヨーロッパでさえやってない場所もあるのに」
翔「今さらだけどなんでそんな詳しいんだよ」
(黙って翔にピースする恭介)
恭介「それで、風見改めて。宿題代わりにしてくれオアトリートォ!」
風見「……翔、恭介が変なんだが」
恭介「おいいい!」


  [No.803] 54話 昼時 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/11/03(Thu) 00:18:31   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
54話 昼時 (画像サイズ: 290×250 143kB)

「翔! 頑張って早起きして弁当作ったんだ、食ってくれ!」
 石川の元に戻ると、腕を引っ張られて展示ホールの外へ(展示ホール内での飲食はご遠慮くださいということらしかった)連れ出された。そして座れるところまで来ると、まるで飛んで跳ねるようなテンションで俺に弁当の入った包みを渡してきた。
「これで昼飯代は浮くな、ありがとう」
 とは口で言ったものの、包みを開ける手は化学の実験をしてるかのような慎重な手つきだった。偏見で悪いけど、いかにもご飯作れなさそうなタイプだもんね。
「おっ」
 水色の包みの中から可愛らしいくまさんのお弁当箱が出てきた。俺の予想ではこの辺ですさまじい臭いが襲いかかってくるはずだったのだが、そんなことはなさそうだ。
「よし、それじゃあいただきます」
 意を決して弁当箱を開けてみると、悪臭どころかむしろおいしそうな匂いが。予想はいい方向に外れたらしい。しかし、具を良く見ると。
「ハンバーグにからあげに肉団子にたこさんウインナー……」
「からあげと肉団子は冷凍のやつだけど、他は全部自分でやったんだぜ」
 野菜がどこにも見当たらん。
「あ、ありがとう……」
 そのときどこかからこちらを見つめる視線を感じた。慌てて視線の元へ顔を向けたが別段こちらを向いてるような人は見受けれなかった。
「翔」
「うん?」
「お口あけて」
「いや、ハンバーグを一口で食わせようとするのはどう考えてもあばばばばっ!」



「クソッ、本当なら百合ちゃんのお弁当をお口あーんでいただけたのに」
「ざまあ」
 蜂谷が口に含んだコンビニおにぎりをこぼしそうな勢いで笑いだす。イラっとしたので睨み返す。
「ていうか口の中にモノ入れながら喋るな」
 頭を少し叩いてやると、蜂谷は左手を俺の眼前に突き出した。止まれってこと?
 ようやく飲み込んだらしい蜂谷は左手を下ろす。
「なあ恭介、さっきから気になってるんだけどアレは何の騒ぎなんだ?」
 口の中がようやく開いたらしい蜂谷は、人だかりができてる一帯を指差す。
「行ってみるか」
 慌ててコンビニおにぎりを口の中にねじ込み、ゴミを捨てて人だかりの中に突っ込む。
 どうやらこの人だかりの何人かはカメラを構えているようだ。人と人の間を頭を無理やり突っ込んで先に進む。
「ぬおぅわ!」
 右の方から呑気な蜂谷の声が聞こえる。どうやら転んだようだ。一方で俺はようやく最前列までたどり着いたのだが、目の前の光景を見るとこれがまたとんでもない。
 なんとメイドさんがいたのだ。
「おおおおおおおおぉぉぉぉ!」
 どうやらこの人だかりはメイドさんを写真に撮ろうとしてるようだ。急いでポケットから携帯を取りだす。
 どうやらメイドさんは派手に転んだ蜂谷を労わっているようだ。蜂谷は後で肩パン。
「あの大丈夫ですか?」
「あいてて……、うん?」
 辺りを軽く見渡してようやく状況を飲み込めた蜂谷は、彼女の手を借り立ち上がる。服の砂埃を払った蜂谷は、俺に向かって
「恭介、写メ撮って俺の携帯に送って!」
「断る!」
「あの、一緒に写真撮ってもらってもいいですよね」
 聞けよ!
「え、いいですけどそれよりもお怪我は大丈夫なんですか?」
 メイドさんはどうすればいいか分からずはたまた蜂谷を気遣う。
「ええ大丈夫です。紳士ですから」
 意味がわからん。
「はいチーズ」
 二人がきちんとこちらを向く前に携帯カメラのシャッターを押した。
「まだ準備できてねーだろ! マジメに頼む!」
「お前といるからメイドさん困ってるじゃん! むしろ俺が一緒に!」
 あぁ、これはいつもの終わらない醜い言い争いのパターンだな……。メイドさんとの写真は諦めるべきか。
「あの……」
「はい?」
「それじゃあ三人で撮りましょう。それなら問題ないでしょう?」
 俺と蜂谷は急いで携帯をその辺の人に渡し、写真を撮ってもらうことにした。



 写真を撮ってもらった長岡君と蜂谷君は喜色満面の表情を浮かべながら肩を組んでホールの方へ走って行く。
「平和ねぇ」
「ですね」
 私こと松野藍はその様子を職場の部下である一之瀬和也(いちのせ かずや)と共に眺めていた。
「ずっとこんな状態が続けばいいのにねぇ」
「そうですね」
「それよりも能力者、か。いったい何でそんなのが現れたのよ」
 隣にいる一之瀬君にはっきりと聞こえるよう溜息をつく。
「とか口に言いながらアイコさんあんまり困った表情してませんね」
「どっちかっていうとめんどくさいって感じね。対応が」
「言いますね」
「こういうときに前の主任がいればなぁ」
「奥村昌樹さんでしたっけ」
「ええ、あの人にはお世話になったわ」
 奥村昌樹さんは奥村翔君の父親である。面倒見がいい人で、常に笑顔を絶やさない太陽のような人だった。……父親か。
「アイコさんがそんなに人を褒めるのはみたいことないなぁ」
「一之瀬君は会ったことないもんね。さて、私達もそろそろ戻るわよ。一之瀬君は別の業務よろしくねー」
「アイコさんも負けないで下さいよ」
「当たり前じゃない。むしろ負けるわけにはいかない、って感じよ」
 鞄からバトルベルトを取り出し、装着する。
「折角コーディネートしてきたのにバトルベルトのせいでブチ壊しね」



「拓哉! 飯は食ったのか?」
「あっ翔君。うん、ちゃんと食べたよ」
「そうか。……そろそろ決勝リーグの時間だな」
「僕と蜂谷くんの出番だね」
 バトルベルトは広い空間を要するため、スペース上の問題からか同時に四試合しか出来ない。そして決勝リーグのバトルシートに記載されてる番号が1〜8の選手が最初に戦う。
 拓哉は1番、蜂谷は5番である。うまくいけば三回戦(準々決勝)でぶつかることができる。一方で俺は27番なので一回戦をするのは最後(前に書いたとおり決勝リーグは32人)だ。
「しっかり行ってこいよ!」
「うん。……風見杯のときに迷惑かけたからさ」
「ん?」
「だから、PCCで少しでも役に立ちたいんだ。だから絶対負けない!」
「ああ、その心意気だ。絶対勝てよ!」
「うん!」
 先を行く拓哉の後ろ姿がいつもよりも大きいように感じられた。



風見「前回使ったキーカードだ。
   エネルギーはたくさん必要だが、威力は申し分ない」

カイリューLv.61 HP140 無 (DP5)
無無無  はかいこうせん 40
 コインを1回投げオモテなら、相手のエネルギーを1個トラッシュ。
無無無無  りゅうせいぐん 
 相手の場のポケモン全員に対して、それぞれ1回ずつコインを投げ、オモテが出たポケモン全員に、それぞれ50ダメージ。
弱点 無+30 抵抗力 闘−20  にげる 3


  [No.806] 55話 ケンカ 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/11/06(Sun) 23:42:58   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「よし、決勝リーグ一回戦頑張ろう!」
 両頬をパチンと手のひらで叩いて気合いを入れる。すると、耳の奥から僕にだけしか聞こえない声が聞こえる。
(俺が出なくてもいいのか?)
 とある事情で二カ月ほど前に僕の中で生まれたもう一つの人格。彼が心の奥から声をかけてくる。
「大丈夫。予選も僕が勝ち抜いたし、僕だって出来るってことをさ」
(そうか。応援はしてるが、ヤバそうになったら俺が出るからな。例えば……能力者とか)
「分かってるさ、そのときは頼むよ」
 外からすれば独り言にしか聞こえない。そのため傍にいるスタッフがこちらを変な人を見る目で見つめる。
(ケッ、損な役回りだ事)
 心の中の存在のため、表情は見えないがきっと笑っているのだろう。
 スタッフに誘導され指定位置につくと、バトルベルトを起動する。
 かつてもう一人の人格がバトルベルトを使用したことがあるが、僕自身がバトルベルトを使うのは初めてである。そのためどう操作すればいいかわからない。
(おいおい。そんなんで本当に大丈夫か?)
「ごめん、変わって」
 折角頑張ろうと思ったのにこれじゃあどうしようもない。息を吸って目を閉じればもう一人の人格がなんとかしてくれるだろう。



「フン」
 相棒がようやくしっかりしたかと思えば結局これかよ。以前にあの松野とかいうチビと戦ったことを思い出すのは癪だが、そのときに言われた通りベルトを起動させる。
「ねえ、この程度の操作も満足にできないの」
 既にバトルベルトを展開してバトルテーブルを組み立てた対戦相手が声をかけてきた。
「ああん? 今組み立ててんのが見えねぇのか」
「早くしろよな……」
「ケッ、どうしてこうもチビガキの相手ばっかり俺がしなくちゃいけないんだ」
 対戦相手の背丈からして中坊程度だろう。しかし相手の容姿で気になるのは背丈よりも左目にしている眼帯と、対戦をするというのに未だつけられているヘッドホンだ。
 肩にかかるぐらいに伸びたちょっとパーマ掛かった黒髪。そして上は半袖の白色Tシャツの上から手が隠れるほどぶかぶかな白のパーカだが、下は鼠色と黒のチェック柄のスーツというやや変わった格好がそいつの変わり具合を更に醸し出す。
「準備出来たぜキテレツ野郎」
「ちゃんと沙村凛介(さむら りんすけ)っていう名前があるんだけど」
「お前の名前なんて知ったこっちゃねえ。せいぜい俺に潰されるっていう程度でしか価値はねーよ」
「一々五月蠅いな……」
 今のはきっと本人にとって独り言のつもりで言ってるのだろうが、声が大きいため耳に普通に入ってくる。それが俺の苛立ちを加速させる。
(揉めても仕方ないよ)
「それくらい分かってる」
 デッキをデッキポケットにセットして、デッキ横の赤いボタンを押す。カードがオートでシャッフルされ、デッキの底から六枚サイドがセットされる。そしてデッキの上から手札となる七枚が突き出される。
 互いに最初のバトルポケモン及びベンチポケモンをセットする。
「さあ潰しあいと行こうか!」
 セットされたポケモンが表示される。俺のバトル場にはヨマワル50/50。そしてベンチには同じくヨマワル。一方、相手のバトル場のポケモンはドーブル70/70からのスタートだ。 
「先攻は僕がもらう。ドロー。ディアルガをベンチに出し、ディアルガに鋼エネルギーをつける」
 いきなりベンチに大型ポケモンのディアルガ90/90が現れたため、ドーブルがとても小さく見える。もちろんドーブルだけではなく俺のヨマワルもだ。
「ドーブルの色選びを発動。自分のデッキから基本エネルギーを三つまで選び、手札に加える」
 ドーブルが自分の尻尾で空中に絵を描く。鋼のシンボルマークが三つ描かれた。
「鋼ねぇ。まあ俺様のオカルトデッキの相手になんねえな」
「所詮エスパーじゃん」
「どこまでも喧嘩売んのが好きなガキだな。よっぽど痛い目に遭いたいと見た」
「そんなこと言ってると自分が負けた時すごくはずかしいから気をつければ?」
「ケッ。俺のターン! ベンチにヤジロンを出してバトル場のヨマワルに超エネルギーをつける。手札からサポーターのミズキの検索を発動する。デッキからたねポケモンか基本エネルギーをそれぞれ二枚まで選択して手札に加える。俺が選ぶのはゴースと超エネルギーだ」
 デッキ横の赤いボタンを押すと、デッキから指定通りのカードが出てくる。便利なこった。
「ヨマワルで攻撃。影法師! このワザの効果によって相手にダメカンを一つ乗せる!」
 ヨマワルは一瞬で姿を消すと、ドーブルの影から現れ右手でドーブルをはたく。ドーブルが振りかえる前にヨマワルは再び姿を消し、俺のバトル場に戻った。
「ターンエンドだ」
「僕のターン。ディアルガに鋼エネルギーをつけてベンチにコイルを出す」
 ディアルガの隣にコイル50/50が現れるが、ディアルガと大きさを対比すると小さいのなんの。
「そして手札のモンスターボールを発動。コイントスをして表ならデッキから好きなポケモンを手札に加える」
 そうして沙村はデッキ横の青いボタンを押した。ドーブルとヨマワルの間に大きなコインが現れ、虚空にトスされる。示された結果は裏。沙村はおもむろにバツの悪そうな顔にする。
「ドーブルでもう一度色選び」
 再び鋼のシンボルマークが三つ、ドーブルによって描かれる。
「鋼しか入ってねえのかよ」
「いちいち五月蠅いなあ。ムカつく。マジでくたばっちゃえよ」
「そおかい。だったらお前に特別に地獄を見せてやる。まずはそのための下準備だ。俺のターン、手札からミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを手札に加える。俺はネンドールを手札に加えさせてもらうぜ」
 手札のカードを一枚デッキトップに置いて青いボタンを押すと、ネンドールがオートで選ばれデッキから突き出される。俺がネンドールを手札に加えるや否や、デッキは再びオートでシャッフルしだす。
「ベンチのヤジロンをネンドールに進化させ、バトル場のヨマワルに超エネルギーをつけてサマヨールに進化させる!」
 それぞれのポケモンが進化する。ポケモンの右下に表示されるHPバーはサマヨールが80/80で、ネンドールも同じ80/80だ。
「ここでネンドールのポケパワーを発動だ、コスモパワー! 自分の手札を二枚まで好きな順にデッキの底に戻し、自分の手札が六枚になるまでドローする!」
 手札のクロツグの貢献をデッキボトムに戻す。これによって俺の手札は0。よって六枚きっちりドローすることができる。
「手札のポケモンの道具、ベンチシールドをネンドールにつける。ベンチシールドがついたポケモンはベンチにいる限りワザのダメージは受けなくなる」
 ベンチにいるネンドールの前に六角形の水色の薄い盾が現れる。
「ここでサマヨールで攻撃だ。闇の一つ目!」
 サマヨールが目を閉じて息を大きく吸うと辺りが暗くなった。サマヨールが勢いよく目を開くと、まさにインパクトは大。ドーブルは衝撃で後ろへ吹っ飛ばされる。ドーブルのHPバーは60/70から40/70へ。
「闇の一つ目の効果によって、俺は手札を一枚捨てる。そしてお前も手札を一枚捨てるんだ」
 俺は手札からヨマワルを捨てる。相手は鋼エネルギーを捨てたようだ。
「僕のターン。手札の鋼エネルギーをドーブルにつける。ベンチのコイルをレアコイルに進化させてサポーターカード、スージーの抽選を発動。手札を二枚トラッシュしてデッキから新たに四枚ドローする」
 沙村が手札からトラッシュしたカードは鋼エネルギーとディアルガLV.Xだ。
(LV.Xのカードを捨てるって一体……)
「なんかしらのサルベージ手段があンだろな」
「手札からゴージャスボールを発動。デッキからLV.X以外のポケモンを手札に加える。僕が手札に加えるのはジバコイル」
 ドーブルの横にゴージャスボールが現れ、パンと軽快な音を立てて開く。中からはジバコイルの拡大コピーの絵が現れた。
「ドーブルでトレース。このワザはコイントスをして裏ならば失敗する」
 再びコイントス。さっきのモンスターボールで外れたせいか、今回はきっちり表を出した。
「トレースのダメージや効果は相手のベンチポケモンのワザと同じになる。あんたのネンドールのワザをもらうよ。回転アタック」
 ドーブルがコミカルに回転し、サマヨールに突撃していく。
「わりぃな。サマヨールの抵抗力は無色だ。よってサマヨールが受けるダメージは40から20へ減少する」
 サマヨールのHPバーは60/80。まだまだ余裕はある。
「さあ俺のターンだ。ドロー。ゴースに超エネルギーをつけてゴーストに、サマヨールをヨノワールに進化させる!」
 これでヨノワールのHPは100/120。一気に40上昇だ。ゴーストも80/80までHPが上がる。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。俺は手札を一枚デッキボトムに戻して六枚になるよう、つまり五枚ドローする。ベンチのヨマワルをサマヨールに進化させ、サポーターのシロナの導きを発動する。自分のデッキの上から七枚を見て、そのうち一枚手札に加える。残りをデッキに戻してシャッフル!」
 上から七枚めくって確認する。コール・エネルギー、ヨノワールLV.X、アンノーンQ、ネンドール、ミズキの検索、不思議なアメ、ゴーストの七枚だ。
「ケッ、憎いほどいいタイミングだな」
 黙ってヨノワールLV.Xを手札に加える。シロナの導きの効果によって手札に加えたカードは相手に見せるまたは知らせる必要はない。残りの六枚をデッキに戻してシャッフルさせる。
(場は揃ってきたけど油断は禁物だよ)
「はいはい。だがまあまずは目の前のドーブルを潰すとっからだな」
 今の手札は五枚。ヨノワールを効率よく動かすには一枚邪魔だな。
「ゴースをベンチに新たに出すぜ」
 これで俺のベンチはサマヨール、ネンドール、ゴースト、ゴースの四匹がいることになる。空きスペースに入れるのは残り一匹か。
「ここでヨノワールのポケパワーだ。影の指令! デッキからカードを二枚ドローし、手札が七枚以上ならば六枚になるようにトラッシュする。その後ヨノワールにダメージカウンターを二つ乗せる」
 手札をわざわざ四枚にしたのはこのためだ。用無く手札からカードを捨てるのはあまり得策ではない。
「ダメカンを乗せてまでドローしたいの?」
「俺がわざわざ手札を引きまくった理由を教えてやる。ヨノワールでダメージイーブン!」
 ヨノワールの腹にある口が開き、四つの赤い玉が現れる。
「さっさとそのドーブルを潰させてもらうぜ」
 頬の筋肉が痛くなりそうなほど笑ってやる。ヨノワールが放出した赤い玉はドーブルに突き刺さり、HPバーを削って0にする。するとドーブルは急に力を失ったように前に倒れこんだ。
「ダメージイーブンはヨノワールに乗ってるダメージカウンターの分だけ相手のポケモン一匹にダメージカウンターを乗せる。影の指令でダメージカウンターを乗せなきゃドーブルのHPは20しか削れず20/70で耐えられるが、わざわざカードを二枚引くだけでお前のドーブルは気絶だ。ざまあねえな」
「っ……。次のバトルポケモンはディアルガだ」
「ケッ。サイドを一枚引いてターンエンドだ。この俺様にケンカを売ったんだ、もうちょっと楽しませてくれよ?」



拓哉(裏)「今回のキーカードはヨノワールだ。
      影の指令、ダメージイーブン、ナイトスピンとそれぞれ方向性が違う。
      このカードを使うトレーナーのプレイングが鍵だ」

ヨノワールLv.48 HP120 超 (破空)
ポケパワー かげのしれい
 自分の番に、1回使える。自分の山札からカードを2枚引き、自分の手札が7枚以上になったら、6枚になるまで手札をトラッシュ。その後、このポケモンにダメージカウンターを2個のせる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超無  ダメージイーブン
 自分のダメージカウンターと同じ数のダメージカウンターを、相手のポケモン1匹にのせる。
超超無  ナイトスピン 50
 次の相手の番、自分は、ついているエネルギーが2個以下のポケモンから、ワザのダメージや効果を受けない。
弱点 悪+30 抵抗力 無−20 にげる 3


  [No.808] 56話 地獄 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/11/09(Wed) 20:04:51   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「僕のターン、ドロー。手札の鋼エネルギーをディアルガにつけ、ベンチにココドラとコイルを出す。そしてミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻し、好きなポケモンを手札に加える。ボスゴドラを手札に加え、更に不思議なアメを発動。自分のたねポケモンから進化するポケモンを手札から一枚選び、そのポケモンに乗せて進化させる。僕はココドラをボスゴドラへ一気に進化させる!」
 現れたばかりのココドラの足元から光の柱が形成される。光の中でシルエットだけ浮かぶココドラのフォルムが徐々に変わり、光の渦が消えるや否やボスゴドラが現れる。だがディアルガに比べると大きさは半分以下。フィールド的には俺の方が威圧されている雰囲気がある。
 これで今の沙村のバトル場は鋼エネルギー三つのディアルガ90/90。ベンチにはレアコイル70/70、ボスゴドラ130/130、コイル50/50。
「ディアルガでラスターカノン!」
 ディアルガが口を開くと口の前で鈍色のエネルギー体が形成され、ヨノワールに向けて放たれた。ディアルガの口元にあるときラスターカノン自体は大きく見えなかったが、ヨノワールの元に来ると意外とでかい。ヨノワールのHPが40削られ60/120へ。
「なんだぁ? そんなもんか? つまんねえな」
(……)
 サイドも一枚有利なため勢いづく俺だが、相棒はむしろ危機感を持っているようだ。
「どうした相棒」
(あんまり熱くなり過ぎちゃダメだよ)
「それくらい言われなくても分かってる」
 どちらかというと、いちいちそんなことを口に出されることで冷静さを欠きそうだった。
「俺のターン! ゴースに超エネルギーをつけてゴーストに進化させる。そしてベンチのサマヨールをヨノワールに進化させる!」
 これで俺のバトル場には超エネルギー二つのヨノワール60/120と、ベンチにはエネルギーなしのヨノワール120/120、ベンチシールドのついたネンドール80/80、超エネルギーがついたゴースト80/80が二体。相手と比べ、ほとんどベンチのポケモンが立っている。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動する。俺は手札を一枚戻し、手札が六枚になるまで。つまり四枚ドロー。それだけじゃねえ、バトル場のヨノワールをレベルアップさせる!」
 これでヨノワールのHPは更に増強され、80/140となった。これでだいぶタフになった。簡単にはやられまい。
「さて、ヨノワールLV.Xで攻撃だ。ダメージイーブン!」
 ヨノワールに乗っているダメージカウンターの数だけ、つまり六個の奇妙な赤い玉がヨノワールの腹部にある口からディアルガに向けて放たれる……。と誰もが思ったはずだが、ディアルガを通り抜けてその後ろにいたコイルに赤い玉の群れが襲いかかる。
「なっ……!」
「ダメージイーブンによってダメージカウンターを乗せられるのは『相手』ではなくて『相手のポケモン』だ。よってベンチのポケモンにもダメージカウンターが乗せられるってわけだ」
 コイルのHPバーがあっという間に底を尽き、急に力を失ったよう空中から地面に落ちた。
「サイドを引いてターンエンドだ」
 これで俺の残りサイドは四枚。相手とは二枚の差ぶん引き離している。決勝リーグってのに大した事ねえな。
「僕のターン。手札からグッズカード、プレミアボールを発動。自分の山札またはトラッシュからLV.Xを一枚手札に加える。僕はトラッシュからディアルガLV.Xを加えて場のディアルガをレベルアップさせる!」
「ディアルガLV.X……。二ターン前のか!」
(あのときにスージーの抽選で捨てたカード、やっぱりサルベージしてきたね)
 ディアルガのHPは90/90からレベルアップすることによって110/110まで上昇。ダメージイーブンで倒そうとするにもヨノワールの残りHPが10だけでなくてはならない。
「そしてサポーターカード、デンジの哲学を発動。手札を六枚になるようにドローする。また、ドローする前に手札を一枚トラッシュ出来る。僕は手札の鋼の特殊エネルギーをトラッシュ。これによって今の手札は0。なので六枚ドロー!」
「特殊鋼……」
 エネルギーはエネルギーでも、基本エネルギーはサーチやサルベージ手段が豊富であるが特殊エネルギーはその逆でサーチもサルベージもしづらい。そんな貴重なカードをトラッシュしてまで六枚引きたかったのだろうか。
「ベンチのレアコイルをジバコイルに進化させ、バトル場のディアルガLV.Xに特殊鋼エネルギーをつける!」
 ジバコイルに進化することによってHPが70/70から120/120へと大幅に上昇した。更にディアルガLV.Xについた特殊鋼エネルギーは、そのエネルギーが鋼タイプのポケモンについているなら受けるワザのダメージを10減らす厄介なものだ。
「ディアルガLV.Xのポケパワーを発動。その効果によって相手プレイヤーはコインを二回投げる」
「ふん」
 コイントスのボタンを押す。……裏、裏。二回とも裏か。
「ディアルガLV.Xでヨノワールに攻撃。メタルフラッシュ!」
 ポケパワーは発動されなかったのか……? 考える間もなくディアルガLV.Xの体が眩く輝きだし、視界が白で覆われる。その中でヨノワールLV.Xは両腕を使って目をかばうも、HPバーは順調に削られて0になった。
「メタルフラッシュの威力は80。だけどメタルフラッシュを使った次のターン、このワザは使えない」
「そんな程度知ったこっちゃねえ。だがたった今、お前は自分で地獄行きのチケットを切った。ヨノワールLV.Xのポケパワー発動。エクトプラズマー!」
「そんな、倒したはずなのに……」
「こいつのポケパワーは、こいつ自身がバトル場にいて相手のワザによって気絶させられた時に発動する」
 俺と沙村の周囲が一気にスタジアム状で紫色の何かに包まれる。観客の姿は見えなくなり、俺と沙村とそのポケモンしかモノが見えなくなった。上下左右前後全てが紫色で、足元までも紫色なので地面に立っている感じがしないでもない。
「その効果により、ヨノワールLV.Xはスタジアムカードとして扱われる」
 急きょ俺たちを包んでいた紫の景色にスゥっと切れ目がいくつも入り、それは開いた。目だ。人の目のような小奇麗なものではない。少し濁った白目の真ん中にあるその瞳孔は闇のように暗い。上下左右前後にウン百万、ウン千万もある目は丁度俺達の方を向いている。
 普通なら気分が悪くなる。あまりの不快感に吐き気を催すだろう。だが俺はこの程度じゃ何ともない、そのついでに沙村も戸惑いはしたが、やがて何事もないように俺をしっかり見据えた。なかなか根性があるじゃねーか。周りにいた観客共は嫌そうな顔をして俺らから離れるのが大半だ。
「このスタジアムの中ではポケモンチェックの度に『相手のポケモン全員に』ダメージカウンターを一つずつ乗せていく。ギリギリな寿命でファックしとけ。俺の次のポケモンはもう一匹のヨノワールだ」
「サイドを引いてターンエンド」
 沙村がターンエンドをすると同時にポケモンチェックが行われる。急に沙村のポケモンが苦しそうにのたうつ。HPバーが10ずつ減って行き、ディアルガは100/110。ジバコイルは110/120。ボスゴドラは120/130。どいつもなかなかタフそうだな。
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、ディアルガLV.Xのポケパワー発動、タイムスキップ!」
「あぁ?」
「このポケパワーによって行ったコイントスで二回とも裏を出した場合、次の相手の番の最初に相手がドローした瞬間、そこで強制的にターンエンドとなる」
「俺のターンを……スキップだと!?」
 予想外の展開に驚かざるを得ない。まさか自分のターンが簡単に飛ばされるだなんて。だが。
「ポケモンチェックは行ってもらうぜ」
 再びポケモン達がのたうつ。苦しそうな悲鳴を上げる奴もいる。なかなかな情景じゃねぇか。ディアルガLV.Xは90/110。ジバコイル100/120。ボスゴドラ110/130。少しずつ。少しずつだが確実にダメージを負わせている。
「それじゃあ僕のターン、ドロー。特殊鋼エネルギーをボスゴドラにつけ、ディアルガLV.Xを逃がしてボスゴドラと入れ替える」
(そうか、ジバコイルのポケボディー、電磁波によってあの人のバトルポケモンに鋼エネルギーさえ乗っていたら逃げるエネルギーは必要なくなるんだ)
「ケッ、入れ替えるのは構わねえがそいつ(ボスゴドラ)には生憎まだエネルギーが一個しか乗ってねえぞ」
「僕は手札からエネルギー付け替えを発動。その効果によってディアルガLV.Xについている鋼の基本エネルギーをボスゴドラに付け替える」
 その辺も考えているのか。気に食わねえな。
「さらにスタジアムカード、帯電鉱脈を使う。新しいスタジアムが発動したことにより、前のスタジアムはトラッシュされる」
 紫色の空間は霧のように消え行き、一度元のホールに戻る。だが休む間もなくまた新たな背景へと変わる。今度は殺伐とした谷だ。その谷の底の部分にあたるところに立っているようだ。辺りからは紫電が飛び交っている。
「悪いが地獄はこの程度じゃ終わんねぇぜ。ヨノワールLV.Xはトラッシュされるとき、手札に戻ってくる」
 常に辺りに不快感を撒き散らしていた沙村だが、今回ははっきりと悪意のある目を向けて舌打ちをしてきた。
「帯電鉱脈の効果により自分の番にコインを一回投げることができる。表なら自分のトラッシュの雷または鋼エネルギーを一枚手札に加えることができる」
 なるほどねぇ。さっきから鋼エネルギーを簡単に捨てていたからどうかと思っていたが、リカバリー手段はあるんだな。
 沙村のコイントスの結果は表。ヤツはトラッシュから鋼の基本エネルギーを手札に加えた。この帯電鉱脈では鋼の特殊エネルギーもサルベージ出来るはずなのに、あえて鋼の基本エネルギーを選んだ。何かあるな。
「ココドラをベンチに出し、ボスゴドラで攻撃。山盛り」
 ボスゴドラは右腕で地面を殴りつけた。もちろん立体映像なので会場自体にヒビが入るわけもないのだが、ボスゴドラの腕は帯電鉱脈の地面に深々とめり込んでいた。そして力技で右腕を引っこ抜く。
 引っこ抜いた時に鉱脈がヒビ割れ、ヨノワールの足元までヒビが広がり、そのヒビから大量の土砂がヨノワールめがけて飛んでくる。しかし飛んできたのは土砂だけではない。土砂の中に鋼のシンボルマークがいくつも混ざっていた。
「自分のトラッシュにあるエネルギーを全てデッキに戻してシャッフルする。戻すエネルギーの中に鋼の特殊エネルギーがある場合、元の威力40に加え更に30ダメージ追加する」
 だから帯電鉱脈のときに鋼の特殊エネルギーを戻さなかったのか! 沙村は自分のトラッシュにある鋼の基本エネルギー二枚と鋼の特殊エネルギーを一枚デッキに戻した。これによってヨノワールが受けるダメージは70。HPも50/120と大幅に減った。
「ほう。行くぞ、俺のターン」
 今の沙村は勝ち急いでいる。俺に優勢をとられていたため、流れを持ち返そうとしていて、実際流れは沙村にあるように見える。
 が、実際は全然逆だ。その理由として先ほどのターンにディアルガLV.Xの効果を使わなかったのが挙げられる。もしこれでタイムスキップを発動すれば利率は大きい。しかしタイムスキップは相手が二回とも表を出した時にそこで自分のターンが終わってしまうというデメリットも存在する。沙村はそれを恐れたのだ。
「中々頑張ってる。と褒めてやりたいところだが、俺と戦(や)ろうってんならその程度じゃ困るな」
 沙村は再び悪意のある視線を送りつけてきた。感情的だな。ああ、感情的だ。こうも簡単に挑発に乗ってくれると助かるぜ。
「手札からミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻し、俺はゲンガーを手札に加える。ベンチにいるゴーストを二匹ともゲンガーにし、ヨノワールをレベルアップさせる!」
 ゲンガーはのHPは二匹とも110/110と高水準に昇り、ヨノワールLV.Xは70/140となった。
「片方のゲンガーに超エネルギーをつけてネンドールのコスモパワーを使うぜ。手札を二枚デッキの底に戻して三枚引くぜ。これでターンエンドだ」
「僕のターン。スージーの抽選を発動。ドーブルと鋼の特殊エネルギーをトラッシュして四枚ドロー! 更にボスゴドラに鋼の特殊エネルギーをつける!」
 さっきまでおとなしい口調が、段々荒くなっている。語尾に力がこもってる。完全に冷静さを欠いているな。戦法も粗い。
「さあ、タイムスキップでもすんのか? またしょっぼいコイントスして裏二回出るといいな、ああ?」
 もはや脅しともとれるような声音でもう一段階挑発する。
「……。ボスゴドラでヨノワールLV.Xに攻撃! 山盛り!」
 再び地面にヒビが入り、土砂がヨノワールLV.Xを襲う。さっき捨てられたばかりの鋼の特殊エネルギーはデッキに戻ってシャッフルされる。ヨノワールLV.XはHPが尽きた。
「さあもう一度地獄の幕開けだ!」
 演出っぽく指をパチンと鳴らすと同時、殺風景な谷から元のホールへ。そして再びあの紫の空間に戻って行く。またもや空間のあちこちから目が現れて二人を、どちらかというと沙村を見つめる。
「俺様のお次は超エネルギー一個の方のゲンガーだ!」
「サイドを一枚引いてターンエンドっ!」
 もう一段階深い地獄を見せてやる。
 乾いた下唇を少し舐めて憤っている沙村を見つめる。



拓哉(表)「今日のキーカードはディアルガLV.X。
      特徴的なポケパワーはコイントス次第。
      だけど決まればすごいことになるよ!」

ディアルガLV.X HP110 鋼 (DP3)
ポケパワー タイムスキップ
 自分の番に、1回使える。相手プレイヤーは、コインを2回投げる。すべてオモテなら、この番は終わる。すべてウラなら、次の相手の番の最初に、相手プレイヤーが山札からカードを1枚引いた後、すぐにその番は終わる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
鋼鋼無無  メタルフラッシュ 80
 次の自分の番、自分は「メタルフラッシュ」を使えない。
─このカードは、バトル場のディアルガに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 超−20 にげる 2

───
翔の使用デッキ
「フレイムブースト」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-747.html


  [No.815] 57話 俺流 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 09:39:25   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さあ、ポケモンチェックだ。エクトプラズマーの効果によってお前のポケモン全員にダメージカウンターを乗せる」
 沙村のポケモン達は各々の姿勢で苦しみだす。そしてそのままHPバーは緩やかに減少していく。
 バトル場にいる鋼の特殊エネルギーが二枚、基本エネルギーが一枚ついたボスゴドラは100/130。ベンチのジバコイルは90/120。鋼の基本エネルギーが二つ、鋼の特殊エネルギーが一つついたディアルガLV.Xは80/110、ココドラは40/50。
 それに対して俺のバトル場のポケモンは超エネルギー一つついているゲンガー110/110、ベンチには同じゲンガー110/110、ベンチシールドのついたネンドールは80/80。
 残りのサイドは互いに四枚だが、主導権は完全に掌握している。
「俺のターン。ゴースとヤジロンをベンチに出し、ゲンガーで攻撃する。シャドールーム!」
 ゲンガーは両腕を自分の腹部に持っていく。すると右手と左手の間に黒と見違えるほどの濃い紫色の立方体の謎の物体を作り出す。ゲンガーが腕を広げるとその立方体もそれに合わせて大きくなる。ある程度の大きさになると、ゲンガーはその立方体を投げつけた。
 謎の立方体は沙村のバトル場にいるボスゴドラに───。少なくとも沙村はそう思ったはずだ。実際には、謎の立方体はボスゴドラの脇腹の横を通り過ぎてベンチにいるココドラにぶつかった。
 ぶつかっただけならまだしも、謎の立方体はココドラを包み込む。謎の立方体にココドラが捕えられる様子になった。
「なっ」
 ココドラのHPバーが40から10へと減少すると、ココドラを包んでいた謎の立方体は霧散した。
「シャドールームは『相手のポケモン一匹』にダメージカウンターを三つ乗せる技だ。そこのデカブツみたいに真正面しか殴れないと思うなよ。ポケモンチェックだ!」
 休む間もなく沙村のポケモンが苦しみ始める。ボスゴドラのHPは90/130、ジバコイルは80/120、ディアルガは70/110。そしてココドラのHPは尽きた。
「サイドを一枚引くぜ」
「くっ、僕のターン! ジバコイルにマルチエネルギーをつける」
(マルチエネルギーはポケモンについてる限り全てのタイプのエネルギー一個ぶんとして働くエネルギーだね)
「あいつのジバコイルのワザには鋼エネルギーと無色エネルギーしか必要としねぇはずだ。何かあるかもな」
「そしてグッズカードのエネルギーつけかえを発動。ディアルガLV.Xについている鋼の基本エネルギーをボスゴドラにつけかえる! 更にサポーターのバクのトレーニングを発動」
 バクのトレーニングとは、自分の山札からカードを二枚引くサポーターだ。しかし効果はそれだけでなく、このカードを使用したターンはポケモンのワザの威力を10上げるのだ。
「来いよ、潰してみろ!」
「ボスゴドラでゲンガーに攻撃。ハードメタル! ボスゴドラに40ダメージを与えることによって、ワザの威力は60から100へ。更にバクのトレーニングの効果によってゲンガーに与えるダメージは110!」
 鈍色の光に包まれたボスゴドラが地面を蹴り勢い良くゲンガーに肩からぶつかっていく。ゲンガーを地面に叩き伏せるようにのしかかると、ボスゴドラは思い切り頭をゲンガーの頭に叩きつける。爆ぜるような音が衝撃の強さを物語り、頭突きを見舞ったボスゴドラでさえ、ふらつきながら後退るとゲンガーから距離をとった。
 ゲンガーのHPは110から一気に0へ。ボスゴドラのHPは70/130。ハードメタルの効果で自らも40ダメージを受けるはずだが、現に20しか受けていない。
「ハードメタルの効果でボスゴドラが受けるダメージは、鋼の特殊エネルギーで軽減できる。ボスゴドラについている鋼の特殊エネルギーは二つ。よって受けるダメージは20軽減され、20ダメージ」
「まーたトリガー引いたな。再び天国か地獄かのターニングポイントだ! ゲンガーのポケパワー発動。死の宣告!」
「倒したはずなのに……」
「倒されたときに発動するポケパワーなんだよ。今から俺様はコイントスをする。裏なら効果はないが」
 出来るだけ相手に緊張感や動揺を与えれるようにわざと言葉を区切る。
「表だった場合は問答無用でボスゴドラは地獄送り(気絶してトラッシュ)だ!」
 バトルテーブルを叩きつけるようにコイントスのスイッチを押す。結果は、
「わりぃな、表だ」
 倒されたゲンガーの影がすっと伸びてボスゴドラの影と重なり、重なった影はゲンガーの形を形成した。ボスゴドラが異変に気づいて振りかえったのが最期、なんと影が立体と化してボスゴドラを殴りつけた。70も余力のあったボスゴドラのHPはあっという間に0になる。
 今まで無表情、それかかろうじて悪意の眼差ししかしなかった沙村の顔が初めて負の色に包まれた。思い通りにいかない動揺、予想しない出来ごとの連続から来る驚愕。
「ようやくいい表情しはじめたじゃねえか」
「……ゲンガーが気絶したことによってサイドを一枚引く。新しいバトルポケモンはジバコイル」
「俺も引かしてもらうぜ。ベンチにいたもう一匹のゲンガーをバトル場に出す。そして楽しみポケモンチェックだ」
 何度目だろうか、またも沙村のポケモンが苦しみ始める。先ほどよりもポケモンの数が減ったのでうめき声の音量は控えめだ。今回のエクトプラズマーによってジバコイルは70/120、ディアルガLV.Xは60/110へ。
「俺のターン、ドロー。ゴースに超エネルギーをつけ、ヤジロンをネンドールに進化させてベンチシールドをつける」
 これでベンチにベンチシールドがついたネンドールが二匹ずつ並んだことになる。
「まずは一匹目のコスモパワーだ。俺は手札を二枚デッキボトムに戻し、手札が六枚になるよう。つまり三枚ドロー。さらに二匹目のコスモパワーもいくぞ。手札を二枚デッキボトムに戻して二枚ドロー。そしてベンチのゴースをゴーストに進化させる」
 一見手札をぐるぐる回してるだけに思える行為だが、「今自分に要らない手札」をデッキボトムに戻し、「これから必要になるであろう手札」をデッキから新たに探っているのだ。そして、そのためのピースは揃った。
 ケッ、もうサポーターを使う必要性も感じねえ。チェックメイトどころかもう、剣が体に突き刺さってるじゃねえか。後は息の根が止まるのを待つだけだな。
「ゲンガーで攻撃。シャドールーム!」
 再びゲンガーが謎の立方体を生み出す。今度はベンチのディアルガLV.Xに向けて投げられた。投げられた謎の立方体はディアルガLV.Xに届く前に自然と大きくなり、あの大きなディアルガLV.Xをも閉じ込めた。
「ダメージカウンター三つだけではまだディアルガLV.Xは気絶しない!」
「カードテキストも読めねえのか? シャドールームは確かに相手のポケモン一匹にダメージカウンターを三つだけ乗せる技だ。だが、乗せる相手がポケパワーを持っている場合は更に乗せるカウンターを三つ増やす!」
 今のディアルガLV.XのHPは60/110。きっちりHPは0となり、ディアルガLV.Xは足に力が抜けて崩れ落ちるように倒れた。
「タイムスキップで逆転の可能性もあったのにこうなっちゃどうしようもねえな。サイドを一枚引いてターンエンド。あれ、もう残りサイド一枚か?」
 沙村の舌打ちが聞こえる。だが、舌打ちだけじゃなかった。
「さっきからいちいち一言余計でむかつくんだけど」
 態度だけで我慢していた沙村だったが、ついに言葉に表した。
「むかつかせてんのはどっちの方だ?」
「くっ……!」
 返す言葉がないようだ。そしてジバコイルに再びエクトプラズマーの効果が適用され、HPは60/120まで下がった。
「僕のターン。ジバコイルに鋼の基本エネルギーをつけて、レベルアップさせる!」
 ジバコイルはレベルアップしたことによってHPが80/140へと拡張。それだけでなく新しい技をも使えるようになった。だが、その位想定内だ。
「ジバコイルLV.Xでゲンガーに攻撃。サイバーショック!」
 ジバコイルLV.Xを中心に、眩い青白い光が拡散する。眩さあまり思わず目を伏せ両腕で顔を隠したが、健康に悪そうな光ったらありゃしねえ。
 光が収まったので目を開いてフィールドを見ると、ゲンガーのHPバーは30/110まで一気に下がっていた。さらに、ゲンガーは体が麻痺しているのか、立っているだけでつらそうに見える。
「エネルギー二個でなかなか大技だな」
「サイバーショックは相手に80ダメージを与えて更に相手を麻痺にする技。自分についている鋼と雷エネルギーをトラッシュしなくてはいけないけど、効果は十分」
 沙村のターンが終わったのでポケモンチェックが入る。エクトプラズマーによってジバコイルLV.XのHPは70/120へ。
「俺のターン。まさかゲンガーが動けないからこのままターンエンド。……とか言うと思ったか?」
「……」
「手札からグッズカード発動。ワープポイント!」
 ゲンガーとジバコイルLV.Xの足元に青い渦が発生する。
「ワープポイントの効果により、互いにポケモンを入れ替える。ただ、お前は替えるポケモンがいないからそのままだな。俺はゲンガーとゴーストを入れ替える!」
 青い渦はゲンガーを飲み込んだ。ベンチのゴーストの足元にも青い渦が現れて、同様に吸い込む。そして互いに先ほどとは違う渦から現れる。沙村のジバコイルLV.Xの足元にあった青い渦は別段何もせずに消えていった。
「新しくバトル場に来たゴーストをゲンガーに進化させ、ジバコイルLV.Xに攻撃だ。シャドールーム!」
 これで三回目となるシャドールーム。謎の立方体がジバコイルLV.Xを包んだ。
「ジバコイルLV.Xには使われなかったが、ポケパワーがある。よって乗せるダメカン六つだ」
「ジバコイルLV.Xの抵抗力は超タイプ。だから受けるダメージは───」
「ダメージじゃねえよ。このワザは『相手にダメージを与える』んじゃなくて『相手のポケモン一匹にダメージカウンターを乗せる』効果だ。抵抗力はダメージに対してしか働かねえ。これでジバコイルLV.XのHPは10/140だな」
 沙村は左手に持っていた手札六枚をポロポロと落とす。そんな沙村とは関わりがまるでないように、ジバコイルLV.XのHPバーは残り僅かの赤へ減少する。
「そしてポケモンチェック。スタジアム、エクトプラズマーの効果発動だ」
 今度こそジバコイルLV.XのHPが0となる。急に浮力を失ったジバコイルLV.Xは金属音を放って落ちた。
「最後のサイドを引いて終わりだな」
 ようやく紫色の空間が消え、辺りは元の展示ホールへ戻った。「くっそぉ!」と声を荒げてバトルテーブルを叩く沙村に向けて言い放つ。
「俺は自分の場と相手の場にある全てのカード、全てのポケモンを最大限に活かして一つのバトルを組み立てる。そのためにあいつほどじゃねえが、俺も俺なりにデッキを信じてる」
 そうやって観客として試合を観ているはずの翔を探した。目があったが、それだけだった。再び沙村に視線を戻す。
「お前に足りないのはそういうものと、後は簡単に挑発に乗ってくる精神の弱さだ。ま、戦う分には最高ってくらいやりやすかったけどな」
 バトルテーブルを変形させて元のバトルベルトに戻し、その場から立ち去ろうと振りかえると背後から声がかかった。
「次は絶対ぶっ倒す」
「ケッ、そんときゃ精々スクラップにならないようにな」
 何はともあれ一回戦突破だ。誰にも見えないように拳をグッと握って小さくガッツポーズを作る。



「やるわね彼」
 今の勝負を静観していた松野がようやく口を開いた。ずっと腕組みして試合を見続けていた風見は腕組みを解いて松野に話しかける。
「藤原だってなんだかんだ言って元能力者ですしね。松野さんは今の勝負見ていてどう思いました?」
「まず最初の方で、わざわざ自分でヨノワールにダメカンを乗せてダメージイーブンを放ったときに感覚でやってるのじゃないというのは感じたわね。あの挑発も、感情的にやってるものかと思えばそうではなくて相手の冷静さを欠くもの。私と戦った時より全然成長して、今は立派な策士ね」
「このまま順当に昇って行けばあいつは準々決勝で能力者の高津洋二との対戦、ですか」
「風見くんも勝ち続ければ準決勝で山本信幸との対戦よ」
「まずは目の前の一勝を、ですね」
 能力者の足音が聞こえる位置にいることを、風見は改めて自覚した。



拓哉(表)「今日のキーカードはジバコイルLV.X。
      サイバーショックはリスキーだけど威力も効果も高レベル!
      エネルギーが足りなくなったらポケパワーでつけなおそう!」

ジバコイルLV.X HP140 鋼 (DP5)
ポケパワー でんじトランス
 自分の番に、何回でも使える。自分のポケモンの雷エネルギーまたは鋼エネルギーを1個選び、自分の別のポケモンにつけ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
雷鋼  サイバーショック 80
 自分の雷エネルギーと鋼エネルギーを、それぞれ1個ずつトラッシュし、相手をマヒにする。
─このカードは、バトル場のジバコイルに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 超−20 にげる 4

───
沙村凛介の使用デッキ
「鋼の世界」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-752.html


  [No.816] 58話 痛快 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 10:32:14   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 藤原が勝負を繰り広げようとしている時と同じころ、同じブロックにいた俺こと蜂谷亮も決勝リーグの一回戦が始まろうとしていた。
 対戦相手の名前は沙羅 比香里(さら ひかり)と言うらしく、俺(16)より二つ上の年上のお姉さんである。艶のある黒色の長髪に、スタイルの良さを魅せる紅蓮のライダースーツ。正直カードに対するわくわくよりも違う方向でわくわくが働いて仕方ありません!
「ふっ、これは役得」
 近くで試合を見ている恭介をニヤニヤしながら見つめると、なんか腕でジェスチャーをし始めた。何を伝えたいかは分からないのだが。
 ここは勝負で勝って、「お姉さん、僕がカードの勝ち方をご教授しますよ」みたいなことを言ってそのまま……。
「……。早くしてくんない?」
「へあ?」
 妄想しているうちにお姉さんはバトルテーブルを組み立て、デッキをセットしていた。俺も遅れないようセットする。
 俺の遅さに遅れたお姉さんはポケットから小さな青い箱を取り出し、箱の中身を開けようとした。が、なぜか辺りを見渡しながら箱をポケットに戻す。
 理由は単純。あの青い箱の中身はタバコだ。うちの親父が吸ってる、ピース・インフィニティっていうやつだ。お姉さんもまだ未成年、特にこういう年齢のバレやすい場所で吸うとすぐに注意されたりする可能性があるからな。特に目の前の対戦相手とか。
 代わりに違うポケットから緑の大きな箱が出てきた。アレはプリッツのサラダ味だ。そっちなら問題ないです。
「よし、準備出来た!」
 俺も遅れてデッキポケットにデッキをセットし、シャッフルさせる。手札が七枚引かれ、サイドが六枚セットされる。そして互いに最初のバトルポケモンを選ぶとポケモンが表示される。俺のバトルポケモンはフィオネ60/60、ベンチにはヤジロン50/50。一方で相手のバトルポケモンはロコン50/50、ベンチにはブビィ40/40。
「俺から先攻だぜ。ドロー!」
 一ターン目の先攻はトレーナーカードが使えず、進化もできない。俺の今の手札がゴージャスボール、ポケドロアー+、コール・エネルギー、破れた時空、バトルサーチャー、ミズキの検索となっているだけにほとんどすることがない。
「よし、手札のコール・エネルギーをフィオネにつけてエネルギーの効果発動だ! 自分の山札からたねポケモンを二匹ベンチに出すぜ」
 俺のベンチエリアにビードル50/50が二匹現れる。しかし出したはいいけど、相手は炎デッキっぽいぞ……。どう対処しようか。
「私のターン。手札からスタジアムカードの破れた時空を発動」
 辺りがあっという間に破れた世界への入り口が開いた槍の柱に変わる。この瞬間俺の手札の破れた時空が腐った。よりによって相手が発動かよ。
「破れた時空が場にある間は互いに場に出したばかりまたは進化したばかりのポケモンをさらに進化させることができる。よってロコンをキュウコンに、ブビィをブーバーに進化させる」
 沙羅さんのポケモンが一気にキュウコン90/90、ブーバー70/70へと進化する。全体的にHPの少ない俺のポケモンからすると、大きさもHPも圧迫されている気がする。
「そしてサポーター、地底探検隊を発動。自分の山札のカードを下から四枚見て、好きなカードを二枚手札に加える。その後残りのカードを好きな順番にして山札の下に戻す」
 沙羅さんが手札に加えたカードは俺からでは分からない。地底探検隊のテキストには加えたカードを相手に見せる必要はないからだ。しかし四枚のうち二枚と言えど、ある程度のレベルでチョイスが可能だ。何を引いたのか……。
「キュウコンに炎エネルギーをつけて、ワザを使うわ。炎の宴! 裏が出るまでコイントスをして、表の数だけデッキから炎エネルギーを選んで好きだけ自分のポケモンにつける」
 コイントスの結果は表が三回出てようやく裏、つまり炎エネルギーを三枚自由につけることが出来る。
 キュウコンの周りに炎のシンボルマークが三つ現れて三つともブーバーに吸収されていく。
「私はブーバーに炎エネルギーを三つつけてターンエンド」
「よし、俺のターンだ! 手札からグッズカード発動。ゴージャスボール! 自分の山札からLV.X以外のポケモンを一枚手札に加える。俺はコクーンを手札に加えるぜ」
 バトル場にいるフィオネの隣にゴージャスボールが現れる。ゴージャスボールが開くと、拡大されたコクーンのカードの絵が映し出された。
「更にサポーターカードのハマナのリサーチも使うぜ。デッキからビードルを二匹加えてそいつらもベンチに出す!」
 これで俺のベンチはヤジロンとビードル四匹で全て埋まった。
「ビードルのうち一匹をコクーンに進化させるぜ」
 ビードルのうち一匹がコクーン80/80へと進化する。他のポケモンはポケモンバトルレボリューションみたいな感じである程度各自で動作を取っているが、コクーンだけは微動だにしない。流石だ。
「そしてコクーンに草エネルギーをつけ、フィオネのワザを使う! 進化の願い。自分のデッキから、自分のポケモン一匹から進化するカードを選んでそのポケモンに進化させる。俺はベンチのヤジロンをネンドールにさせるぜ」
 フィオネが両手を胸の辺りで手を合わせると、ヤジロンに淡い光が降り注ぐ。するとヤジロン自身が白く輝きフォルムを変えてネンドール80/80へと進化する。
「よし、ターンエンドだ」
「私のターン。ブーバーをブーバーンに進化させ、ベンチにデルビルを出すわ。そしてキュウコンに炎エネルギーをつける」
 進化したブーバーン100/100と新たに現れたデルビル50/50が壁となる。かろうじてデルビルが悪タイプなのが救いだが、残りが丸ごと炎タイプ。草タイプを主として戦う俺にとっては不利だ。
「キュウコンで攻撃、怪しい炎!」
 九色の火の玉がフィオネの周りを輪のように遊泳し、同時にフィオネに襲いかかる。フィオネのHPが20/60へ一気に下がり、更に火傷のマーカーと混乱の象徴としてフィオネの頭上で幾多の星が回り始める。
「怪しい炎は自分の場のエネルギーの数が相手の場のエネルギーより多いとき、相手を火傷と混乱にする。今の私の場のエネルギー五つ。あんたのエネルギーは二つ。よってフィオネは火傷と混乱になってもらうわ。そしてポケモンチェックよ」
「む……」
 火傷は各ターン終了後に行われるポケモンチェックでコイントスをし、裏ならそのポケモンに20ダメージを。混乱は、ワザを使用するときにコイントスをして裏ならワザが失敗してそのポケモンに30ダメージを与える状態異常だ。
 このコイントスで裏が出ればフィオネは気絶。ベンチが整っていない状況でのこれは出来る限り避けたい。
「せあ!」
 コイントスボタンを押すと、結果は表。ダメージはなんとか免れた。
「ふうー」
 一息つかざるを得ない。肺に溜めていた空気をすべて吐き出す。
「よし、俺のターンだ。手札からグッズのポケドロアー+を二枚発動。ポケドロアー+は同時に二枚使うと効果が変わるカードだ。二枚使った場合、自分の山札の好きなカードを二枚選んで手札に加えることが出来る。もちろんこの効果は、二枚で一回しか働かないけどな。俺はカードを二枚手札に加え、ベンチのビードルを二匹コクーンに進化させる!」
 俺がポケドロアー+の効果で手札に加えたのはコクーン二匹だ。
 ベンチのビードル二匹がコクーンに進化したことによって、コクーン三匹ビードル一匹という割と奇妙な構図が出来あがる。
「そして草エネルギーのついたコクーンをスピアーに進化させる!」
 コクーンが殻の内側から光を発すると、そこからスピアー110/110が現れる。小型ポケモンばかりの俺のベンチにようやく大きめのポケモンがようやく登場だ。
「まだだ、ミズキの検索発動。手札のカードを一枚デッキに戻して好きなポケモンを一枚手札に加える。俺が加えたのはスピアー! ベンチのコクーンをスピアーに進化させる」
 再びベンチのコクーンがスピアーに進化する。だが俺のデッキのエンジンはかかったばかり。相手が強力な炎のビートダウンなら、やられる前にやるまで。
「ベンチのスピアーのポケパワーを使う。羽を鳴らす! 自分のデッキから草ポケモンを一枚手札に加えることができる。俺はコクーンを手札に加え、ベンチのビードルをコクーンに進化させる。そしてもう一匹のスピアーの羽を鳴らすも発動。スピアーを手札に加えてコクーンを進化させる!」
「嘘!?」
 相手もようやく危機感を感じたらしいが、これだけじゃあ止まらない。ちなみに今進化させたスピアーはポケパワー、羽を鳴らすを持つスピアーとは別のスピアーだ。シリーズ分けで呼ぶなら、羽を鳴らすのスピアーがスピアー(DPt2)で、今進化させたのがスピアー(DP4)。
「更にネンドールのポケパワーを発動。コスモパワー! 手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、手札が六枚になるようにドローする。俺は手札を一枚戻すことによって今の手札は0。だから六枚ドローだ!」
 これで残りデッキ枚数は三十。
「貴女が発動させてくれた破れた時空のお陰でおお助かりだぜ。更にベンチのコクーンをスピアー(DP4)に進化させ、そのスピアー(DP4)に草エネルギーをつける。そしてフィオネのコール・エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、草エネルギーのついたスピアー(DP4)と入れ替える!」
「くっ」
 フィオネがベンチに逃げることで、混乱と火傷が回復する。これでいつ気絶するかわからないハラハラする状況は防ぎきった。
「スピアー(DP4)でキュウコンに突撃だ! 皆で襲う!」
 バトル場のスピアーがキュウコンに向かって襲いかかる。それを号令に、ベンチにいる他のスピアー三匹もキュウコンに飛びかかる。
「皆で襲うは俺の場にいるスピアーの数かける30ダメージを与えるワザ。今俺の場にはベンチにいるスピアーが三匹、そしてバトル場にいるスピアーが一匹。よって合計四匹。与えるダメージの累計は120だ!」
 スピアーの突撃から身を守っているキュウコンのHPバーはあっという間に0になり、その場に崩れ去る。
「やるね。私はブーバーンを新たにバトル場に出すわ」
「よし! やられる前に勝負を決めるぜ! サイドを一枚引いてターンエンド!」
 ふう、一時はどうなるかとひやひやしたけどもなんとか捲き返せそうなとこまで試合を運んでやったぜ。
 俺だってまだポケモンカードを始めて二ヶ月くらいだけど、やればここまで出来るんだ!
 満更でもない表情でチラと後ろにいる恭介を見つめる。予想通り驚いた顔をしているあいつを見れてなかなか痛快だ。



蜂谷「今日のキーカードはスピアー!
   ベンチにスピアーを集めれば、
   草エネルギー一個で120ダメージも与えれるんだぜ!」

スピアーLv.41 HP110 草 (DP4)
草  みんなでおそう
 自分の場の「スピアー」の数×30ダメージ。
無無無  ダブルニードル 50×
 コインを2回投げ、オモテ×50ダメージ。
弱点 炎+30 抵抗力 − にげる 0

───
蜂谷亮の使用デッキ
「ハイパービートスピア」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-756.html


  [No.817] 59話 真剣 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 10:34:38   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「へへっ」
 笑いながら鼻の下を指でこする。俺の残りサイドは五枚で、対戦相手の沙羅さんは六枚。
 俺のバトル場には草エネルギーのついたスピアー(DP4)110/110。ベンチにはネンドール80/80、草エネルギー一つついたスピアー(DPt2)110/110、スピアー(DPt2)110/110、スピアー草(DP4)110/110、ダメージを負っているフィオネ20/60。
 相手のバトル場には新しく登場した炎エネルギーが三つついているブーバーン100/100、ベンチにはデルビル50/50。まだまだ俺の方が有利だ。
「喜ぶにはまだ早いぞ。私のターン」
 しかし沙羅さんの手札は今ドローしてもようやっと二枚だ。たった二枚じゃ俺のこのリードは揺るがないさ。
「手札の炎エネルギーをデルビルにつけて、ベンチにユクシーを出す。そしてこの瞬間にポケパワー発動。セットアップ!」
 ユクシー70/70が新たにベンチに現れると、ユクシーの周りにカードを象った長方形が七つどこからともなく出てきた。
「このポケモンを手札からベンチに出した時、自分の手札が七枚になるようにデッキからドローする。今の私の手札は0。よって七枚ドローする」
 なんということだ。一気に相手の手札が潤ってしまった。文字通り開いた口が塞がらない。
「そしてブーバーンをブーバーンLV.Xにレベルアップさせてサポーターカード、ミズキの検索発動。手札を一枚戻し、ポケモンのカードを一枚手札に加える。私はヘルガーを手札に加え、ベンチのデルビルを進化させる」
 沙羅さんの手札はあっという間に四枚まで減るものの、バトル場には悠然とブーバーンLV.X130/130、ベンチにはヘルガー80/80とユクシー70/70が構えている。
「ブーバーンLV.Xで攻撃。火炎太鼓!」
 ブーバーンLV.Xがバトル場のスピアーに向かって大きな咆哮をあげると、それに遅れてブーバーンLV.Xの体から溢れんばかりの火炎がほとばしり、それは拡散しつつも確かにスピアーを狙った。
 スピアーのHPバーは減り続ける。半分を切り、四分の一を切り、そして0。
「えっ、もう気絶!?」
「ブーバーンの火炎太鼓は威力は80と高いけど、自分の進化前にブビィが無ければ自分の手札のエネルギーを二枚トラッシュしないと使えないワザ。私のブーバーンLV.Xはブビィから進化しているからカードをトラッシュする必要はないわ。更にスピアーの弱点は炎+30。よってスピアーが受けるダメージは110!」
「110って、スピアーのHPと同値じゃねえか……。くそっ、俺はスピアー(DP4)をバトル場に出すぜ」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「たった一ターンで追いつかれるとは思わなかったな。俺のターン! 手札からグッズカード、夜のメンテナンスを使うぜ。トラッシュの基本エネルギーかポケモンを合計三枚までデッキに戻す。俺はビードル、コクーン、スピアー(DP4)をデッキに戻してベンチのスピアー(DPt2)のポケパワー、羽を鳴らすを発動。その効果によってデッキからビードルを手札に加える。さらにもう一匹のスピアー(DPt2)の羽を鳴らすを発動してスピアー(DP4)を手札に戻す! ビードルをベンチに出して不思議なアメを発動。ベンチのビードルをスピアー(DP4)に進化させるぜ」
「倒したばっかりなのに?」
 俺のベンチには再びスピアーが三匹並んだ。沙羅さんは驚いて絶句しているようだ。
「倒されても諦めねー! それが俺の根性だ。バトル場のスピアー(DP4)に草エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を二枚デッキボトムに戻し、デッキから五枚ドロー!」
 またたく間にデッキの残り枚数は二十七枚になる。流石にドローしすぎかな?
「スピアー(DP4)で攻撃。皆で襲う!」
 またスピアーの大群がブーバーンLV.Xに襲いかかる。130あるブーバーンLV.XのHPがあっという間に10まで削り取る。
「よっし、ターンエンド!」
「私のターン。……、それにしても正直驚いたわ。まさか倒した次のターンにポケモンをすぐ並べるだなんて」
「俺にとっては造作ないことですさ」
「そう。だったらそのリズムを崩すとこから攻めていくわ」
 沙羅さんが余裕の笑みに。思わず俺は身をグッと構える。
「まず手始めに。あんたのポケモンが手早く進化する流れを断つ。新しいスタジアム、ポケモンコンテスト会場を発動。新しいスタジアムが発動されたため、破れた時空はトラッシュされる」
 暗い背景が元の展示場に戻ると、今度は明るいポケモンコンテスト会場がバックに現れる。辺りもヨスガシティの栄えた街になり、平和な光景が広がった。
「そしてポケモンコンテスト会場の効果発動。お互いのプレイヤーは、自分の番ごとにコインを一回投げれる。そして表だった場合、自分のデッキからたねポケモンを一枚ベンチに出してポケモンのどうぐをつけることができる。……表ね、デッキからデルビルをベンチに出し、達人の帯をつける」
 コンテスト会場の扉が開くと、中から達人の帯をつけたデルビル50/50が現れる。しかし、達人の帯の効果でHPが20増えてデルビルのHPは70だ。それ以外にも達人の帯をつけたポケモンはワザの威力が+20され、気絶させられた場合相手はサイドを二枚引くという効果もある。
「ブーバーンLV.Xに炎エネルギーをつけて、ブーバーンLV.Xのポケパワー発動。灼熱波動!」
 ブーバーンLV.Xが深く息を吸い込むと、紅蓮の吐息を俺のバトル場のスピアー(DP4)に吹きかける。吹きかけられたスピアーには火傷マーカーがつけられた。
「灼熱波動は相手のバトルポケモンを火傷にするポケパワー。このポケパワーで火傷になった場合、火傷で受けるダメージは通常の20から30になるわ」
「30!? いや、でもまあある程度は余裕あるか……」
「草ポケモンをサーチし続けるスピアー(DPt2)は厄介だけど、それ以上にドローエンジンとなるネンドールが一番厄介。ブーバーンLV.Xでネンドールに攻撃。フレイムブラスター!」
 ブーバーンLV.Xは真正面にいるスピアー(DP4)ではなく、ベンチにいるネンドールに向けて真っすぐに右腕を突き出すと唸るような低い音と共にすさまじい火炎が放たれ、それは広がりはしないものの不規則に荒れ狂いながらネンドールを包み込んだ。そしてネンドールのHPは瞬きする間に80から0へ下がって行く。
「一撃でこんなにやられるとは」
「フレイムブラスターはブーバーンLV.Xについている炎エネルギーを二個トラッシュしなくてはならない上に次の番にこのワザが使えないデメリットがあるけど、相手の場のポケモン一匹に100ダメージを打ち込む大技よ。『相手』ではなくて『相手のポケモン一匹』だからベンチのネンドールを攻撃できたってワケ。サイドを引いてターンエンド」
 沙羅さんの番が終わったため、ポケモンチェックが行われる。コイントスボタンを押すと、儚い願いは届かず裏。スピアー(DP4)の体が一瞬だけ炎に包まれるエフェクトが発生し、HPバーが110から80へ緩やかに削られる。
「俺のターン! 手札の草エネルギーをベンチのスピアー(DP4)につけ、俺もポケモンコンテスト会場の効果を発動させるぜ。コイントス!」
 今度こそと憤ってみるも、またもや裏。俺には分かる。こういうときはダメだ。運も流れもついてこない。
「バトル場のスピアー(DP4)をベンチに逃がし、今エネルギーをつけたばかりのベンチのスピアー(DP4)を新たに場に出すぜ。逃げるエネルギーは0だからエネルギーはトラッシュしなくて済む上に、ベンチに逃がすことで火傷も回復だ」
 俺にちょくちょくカードを教えてくれた風見が、「運が向かないと思ったらコイントスは避けろ」と言っていたのを思い出す。思えばあいつのデッキにはコイントスを要するカードがほぼないな……。と余計なことを考えていた。
「よーし。スピアー(DP4)で攻撃だ。皆で襲う!」
 本日何度目だろうか、スピアーの大群が残りHP10しかないブーバーンLV.Xにとどめの一撃を───いや、スピアーが大勢で襲いかかる様を一撃と言い表すのには無茶があった───食らわす。
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 次の沙羅さんのポケモンは先ほどポケモンコンテスト会場の効果でベンチに出した達人の帯つきのデルビルだ。
「私のターン。流れを断ったと思ったら考えは甘いわね。手札のグッズ、ゴージャスボールを発動。自分のデッキからLV.X以外の好きなポケモンのカードを手札に加える。私が加えるのはもちろんヘルガー。そしてバトル場のデルビルを進化させる。
 小柄なデルビルの体が二倍程大きくなってヘルガーとなる。達人の帯をつけているせいでHPが通常のヘルガーより20大きい100/100だ。
「そしてこのヘルガーに炎エネルギーをつけて、傷を焦がす攻撃!」
「へへん、傷を焦がすは威力たったの20! 達人の帯と弱点の効果で20、30と加算していったところで俺のスピアー(DP4)が受けるダメージは70だぜ!」
「甘いわね。ヘルガーには復讐の牙というポケボディーがあるの。私のベンチポケモンの数があなたのベンチポケモンより少ない場合、ヘルガーがバトルポケモンに与えるワザのダメージは+40される。今の貴方のベンチにはスピアー三体とフィオネの四体。私のベンチはヘルガーとユクシーのみ。よってポケボディーが働き、このワザでそのスピアー(DP4)に110ダメージを与える」
「110って俺のスピアー(DP4)の最大HPと一緒じゃねえか!」
 気付いた時にはスピアー(DP4)はぐったりと倒れていた。仕方なく、さっき火傷を受けたスピアー(DP4)70/110をバトル場にだす。
「残念ね、サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「俺のターンだ。えーと、くそ! どうすんだ」
 俺の手札は今八枚ある。しかし、内訳がネンドール、草エネルギー二枚、コール・エネルギー二枚、フィオネ、アグノム、ミズキの検索。このピンチを打開する手がない。アグノムやフィオネをベンチに出せばヘルガーのポケボディーで……。
 焦りを通り過ぎてイライラしてしまっていた。風見に「どんな不利な状況であっても自分をしっかりと保て。チャンスは必ず来る」とアドバイスを受けていたのだがそれさえ思い出す余裕がなかった。
「ベンチのあらかじめ草エネルギーが一つついてあるスピアー(DPt2)に草エネルギーをつけ、バトル場のスピアー(DP4)で皆で襲う攻撃!」
 しかしヘルガーを倒しきることは出来なかった。スピアーの数が減ったため、皆で襲うの威力は90しか出ずにヘルガーのHPを10だけ残すという状況で俺の攻撃は終わった。
「私のターン。ベンチのヘルガーに炎エネルギーをつけ、傷で焦がす攻撃!」
 またも110の三ケタダメージで俺のスピアー(DP4)は気絶。さっきエネルギーをつけたスピアー(DPt2)をバトル場に出す。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 俺のサイドは四枚なのに沙羅さんのサイドはもう二枚だ。どうすれば勝てるんだ。どうやったら。
「俺のターン、スピアーに草エネルギーをつけて攻撃だ。ニードルショック!」
 さっきみたいにスピアーをまたトラッシュから速攻でベンチに戻すコンボは、トラッシュのカードをデッキに戻してから始まる。しかし俺の手札にはそれを可能にさせるカードがない。だからがむしゃらに攻撃するしかない。
 本来ニードルショックは相手を毒とマヒに出来るワザだが、残りHP10のヘルガー相手ではその効果も無意味。勿体ないな、と思った。
「私はベンチのヘルガーをバトル場に出すわ」
「今倒したヘルガーは達人の帯をつけていたため、俺はサイドを二枚ドローできる!」
 ようやく夜のメンテナンスが来た! 間に合うか……!?
「私のターン。手札の炎エネルギーを更にバトル場のヘルガーにつけて攻撃。紅蓮の炎!」
 ヘルガーが口をあんぐりと開くと、そこから真っ赤な炎が射出された。
「紅蓮の炎の威力は60。弱点とポケボディーの効果によって与えるダメージは130だ」
 HP110は本来決して低いという数字ではない。そのはずが、さっきから何度も何度も三ケタダメージばかりを食らっているのだ。どういうことだ。
「紅蓮の炎を使った後、コイントスをして裏ならヘルガーについている炎エネルギーを二枚トラッシュ。……表。よってエネルギーはトラッシュしないわ」
 もう後がない。ベンチの最後のスピアー(DPt2)をバトル場に出した。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「俺のターン!」
 手札の夜のメンテナンス。これを使えばまたスピアー(DP4)を呼び出せるかもしれない。
「手札からグッズカード、夜の───」
 いや、ちょっと待てよ? もしスピアー(DP4)を呼んで、攻撃できるようになったとしてもそのスピアー(DP4)と今バトル場にいるスピアー(DPt2)の二体しかスピアーがいないため、皆で襲うは60しか威力が出せない。それじゃあ今目の前にいるヘルガー80/80は倒せない。
 そして次の番、沙羅さんがヘルガーで紅蓮の炎をしたら……。
 そこから導き出せる結論、俺がすべきことは一つ。
「降参します」



 俺のナンパ計画は終わった。そのまま膝からがっくりと崩れ落ちるが、沙羅さんはそんな俺に見向きもせずにどこぞに行ってしまった。
 後ろの方で拓哉が対戦相手の中学生の男子に向かって「俺は自分の場と相手の場にある全てのカード、全てのポケモンを最大限に活かして一つのバトルを組み立てる。そのためにあいつほどじゃねえが、俺も俺なりにデッキを信じてる」と言っていた。
 翔ぐらいだと「ちゃんとデッキを信じずに自分の目先の欲望だけ考えてたからこうなったんだろ?」と言ってきそうだ。
 そこまで考えると胸に堅いものが突き刺さり、もう自力でそこから立てそうになかった。


蜂谷「今回のキーカードはブーバーンLV.X……
   レベルアップ前も非常に強くてバラエティに富んだ戦い方が出来るみたい……。
   帰っていい?」
翔「こないだ俺のセリフを俺を撥ね退けてでも無理やりでも言ったヤツとは思えないなぁ。っておい大丈夫か!?」

ブーバーンLV.X HP130 炎 (DP2)
ポケパワー しゃくねつはどう
 このポケモンがバトル場にいるなら、自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。ポケモンチェックのとき、このやけどでのせるダメージカウンターの数は3個になる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
炎炎炎炎  フレイムブラスター
 自分の炎エネルギーを2枚トラッシュし、相手のポケモン1匹に100ダメージ。次の自分の番、自分は「フレイムブラスター」を使えない。
─このカードは、バトル場のブーバーンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 − にげる 3

───
沙羅比香里の使用デッキ
「爆炎!咆哮の光」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-760.html


  [No.818] 60話 下準備 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 10:40:47   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 最初の四試合が終わり、拓哉は無事に二回戦へ駒を進めた。その一方で蜂谷は敗北から来た喪失感なのか、「心ここに在らず」状態でどこを見てるのかイマイチ分からない状況だ。
 そしてこの最初の四試合のうち一つに、能力者の一人である高津洋二の試合があった。そう、あったはずなのだがなぜか全然目に止まらなかった。
 試合が終わってからそういえば高津の試合があったなと思い出す程度で、びっくりするくらい存在感のない試合だった。
 そして担架でその対戦相手が運ばれてたのに、ほとんどの人が知らんぷりというよりは気づいていない感じだった。
 真っ白な服を着た男性が数人で担架を運んでいればどう考えても目立つのは必至なのに、周りはそれに気付かない。
 この不思議な光景に一抹の不安を感じた俺は、風見と共に首をかしげるしかなかった。
 そして次の四試合。向井が三十近く見えるおっさんと戦って圧勝。相手の引きが悪くて、たねポケモンが二匹しか揃わなかったところを向井は遠慮なく叩きのめした。
 一回戦は残り八試合。今から行われる四試合には、恭介と風見が。そしてその後は俺と石川と松野さんと、もう一人の能力者である山本信幸が戦う。
 恭介の選手番号は17で、風見の選手番号は21。二人がぶつかるのは三回戦だ。そしてその恭介らの試合が今から始まろうとしている。



「恭介ー! 俺の仇をとってくれー!」
「えー」
「おいこら『えー』ってなんだよ!」
 蜂谷が外野からぎゃーぎゃー騒いでいると、翔がコツンと蜂谷の頭を叩いた。
「蜂谷、お静かに。周りから変な目で見られると一緒にいる俺らが恥ずかしいじゃん」
「……はい」
 とりあえず蜂谷は翔に任せれば大丈夫そうだ。気分を入れ替えるために両頬をピシャと叩いて、これから始まる試合に集中しようと図る。
 バトルベルトをマニュアル通りに起動させる。今まで遠目で見てたが、目の前で使ってみるとなんだか楽しい。時代の最先端にいる気がする。
「うおおお、すげえ楽しい!」
 とはしゃいだはいいものの、今から決勝リーグ一回戦だと考えると緊張する。部活のバスケの試合前とかと同じような緊張感があって、ポケモンカードは遊びだが、その遊びにいろいろ懸けている人がいるんだなあと認識させられる。
 負けたくないな。勝ちたい。別に勝って優越感に浸りたいとかそんなんじゃなくて、純粋に勝ちたいなと思う。
「よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
 俺の対戦相手は八雲 真耶(やくも まや)と言う名前らしく、綺麗な艶のある黒色の痛みの少ない肩甲骨辺りまでのロングヘアー。カールした毛先が可愛らしい。
 身体は細いが若干引き締まっていて、ウェストにくびれがある。首に黒のチョーカーを付けていて、色の濃い長袖のシャツと、タイトなジーンズを履いている。男装が似合いそうな印象がある。あと、年齢はタメだ。ピシッとしている印象があって年上に見えた。
 デッキをデッキポケットに入れ、オートシャッフルのボタンを押す。バトルテーブルがデッキを認識して、人がするシャッフルの何十倍もの速さでデッキがシャッフルされ、手札とサイドが分配される。
「う」
 最初の俺の手札は雷エネルギー、雷エネルギー、ピチュー、ライチュウ、ナギサシティジム、ハマナのリサーチ、ゴージャスボール。最初のたねポケモンがピチューのみのため、下手をすれば相手に一撃でやられてしまう恐れがあるため決していい手札とは言い難い。
 やむなくピチューをバトル場にセットする。相手のセッティングも終わったらしく、同時に最初のポケモンを開示する。
 俺のバトル場はピチュー50/50で、八雲のバトル場はサイホーン60/60、ベンチにはヒポポタス70/70。
「最悪だ……」
 右手でパシンと額を叩く。ここまで来ると言葉にせざるを得ない。雷タイプの最大の弱点となる闘タイプのポケモンがまとめてやってきた。こっちの弱点でもあるし、相手にとっては抵抗力があるためダメージが綺麗に通らない。
「恭介、まだ諦めんなよ! 始まってさえないんだから!」
「そうだ! 翔の言う通りだ! ……セリフ取られて大して言う事がない」
 翔と蜂谷が後ろの方からエールを送ってくれる。根拠はないが、なんだか安心できる気がする。
 運が悪いと嘆いている俺だが、実は相手の手札はこのとき五枚とも全て闘エネルギーという俺よりもっと悲惨な典型的な逆エネ事故を起こしていた。もちろん、俺は知る余地がなかったのだが。
「先攻は俺がもらうぜ! ドロー」
 今引いたのはピチュー。ハマナのリサーチやゴージャスボールを使ってなんとかやられる前に立てようと思うが、先攻一ターン目はトレーナーカードを一切使えない。
「雷エネルギーをバトル場のピチューにつけ、俺は新たにベンチにピチューを出すぜ。そしてピチューのワザ。おさんぽ! このワザは自分のデッキのカードを上から五枚見て、その中のカードを一枚手札に加える。そして残りのカードをデッキに戻してシャッフルする技だ!」
 バトルベルトがオートでデッキの上から五枚のカードのディスプレイを表示する。エレキブルFB LV.X、ピカチュウ、雷エネルギー、バクのトレーニング、ベンチシールドの五枚だ。今一番必要なカードは……。ピカチュウだ。ピカチュウを手札に加えてシャッフルボタンを押すと、再びバトルベルトが高速でシャッフルを行う。
「私のターンです。ドロー。……手札の闘エネルギーをサイホーンにつけて攻撃します。角で突く!」
 サイホーンがドスンドスンと大きな足音を立てながらピチューに突っ込み、そしてそのまま額の角でピチューを突き飛ばした。本来角で突くのワザの威力は10だが、ピチューは弱点として闘ポケモンからワザを食らうと更に10食らう。ピチューのHPは30/50となった。
「よし、俺のターンだ。まずはゴージャスボール。自分のデッキから好きなポケモンを一枚手札に加える。俺が手札に加えるのはライチュウ。そして更にサポーター、ハマナのリサーチを発動。俺はヤジロンとピカチュウを手札に加える。そしてヤジロンをベンチに出すぜ」
 ベンチのピチューの隣にヤジロン50/50が現れる。
「そしてバトル場のピチューのポケパワー発動。ベイビィ進化! 自分の番に一度使え、自分の手札のピカチュウをピチューに重ねて進化させる。そのときピチューの受けているダメージは全て回復だ!」
 ピチューのHPゲージがMAXまで回復すると、その体が白く包まれてピカチュウ60/60へと進化する。
「ベンチのピチューも同様にベイビィ進化だ! 更にバトル場のピカチュウに雷エネルギーをつけて、手札からスタジアムカードを発動。ナギサシティジム!」
 スタジアムカードを所定の位置にセットすると、丁度俺達二人を中心に周りの景観が変わって行く。回転する歯車やスイッチなどが辺りに大量に現れ、ゲームを想わせる環境になった。
「このナギサシティジムが発動している間、互いの雷タイプの弱点はなくなり、雷ポケモン全員のワザは相手の抵抗力を無視してダメージを与えることができるようになる。なんとかこれでバトルはイーブンに持ちこめるぜ」
 雷タイプの最大の弱点をこれで補うことができる。俺のデッキに入ってるポケモンのほとんどが闘タイプが弱点であり、その逆の闘タイプは雷タイプに抵抗力を持っていることが多い。現にサイホーンとかがそうだ。
「ピカチュウで攻撃。ビカビカ!」
 ワザの宣言と同時にコイントスをする。このワザはコイントスが表の場合、与えるダメージを10追加することができるワザだ。
「ラッキー! コイントスは表! よって20に10足してサイホーンに30ダメージ!」
 ピカチュウの頬から放たれる電撃がサイホーンに襲いかかる。それだけでなく、なんとジムのギミックからもサイホーンに向けて放電されていた。何はともあれ、サイホーンのHPは30/60。もし次のターン進化できず、またビカビカが成功すれば倒せる。
「ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。サイホーンに闘エネルギーをつけ、サイドンに進化させます」
 サイドン60/90がドスドスと響くような足踏みをして現れる。一通り足音を鳴らし終えると、こちらを睨んできた。その目が妙にリアルに感じられて気圧される。
「サイドンで攻撃。突き壊す!」
 サイドンが牛のように左足で数回地面をならすと、頭のドリルを前にして突っ込んできた。ピカチュウがトラックに撥ねられたように、というよりはコミカルに吹っ飛んだが、サイドンはピカチュウなんて最初からいなかったと想わせるようまだまだ突進していく。そしてベンチのピカチュウとヤジロンの間をすり抜け、俺の隣もすり抜け、俺の背後にあるナギサシティジムの壁に激突する。するとジグソーパズルが崩れるような感じでナギサシティジムの景観は失われ、元の会場に戻って行く。
「突き壊すは場にスタジアムがある場合20ダメージを追加し、そのスタジアムをトラッシュさせます」
 突き壊すの威力は30。それに20追加されると50ダメージ。ピカチュウのHPはあっという間に10/60となった。しかしサイドンが隣を通った時は冷や汗が浮かんだ。
「幸いなのはワザのダメージを計算してからスタジアムがトラッシュされたことだな……。もし処理順がスタジアムのトラッシュを優先されてたら弱点も計算してピカチュウは気絶していたぜ」
 俺がそうつぶやくと、対戦相手の八雲もまったくだと言わんばかりに頷いてきた。
「俺のターン! よし。手札のポケドロアー+を二枚発動。このグッズは二枚同時に発動したとき、自分のデッキから好きなカードを二枚手札に加える効果を持つ!」
 ナギサシティジムを手札に加えようとした。しかし、それを選択する前に一つの考えが頭をよぎる。
 もしこのターン、再びジムを発動させても次のターンまたまたサイドンにトラッシュされてしまうのではないか。もしドサイドンに進化できる環境であっても、再び突き壊すをしてくるという可能性は否めない。
 だからといってジムを手札に加えないと、俺のポケモンがやられてしまう。どちらも阻止するにはどうすればいいか。
「これだ!」
 適当に山札から引くこと! 全ては後から考える。引いたカードはワープポイント。……良いこと思いついたぜ。もう一枚は順当にネンドールを選ぶ。
「ヤジロンをネンドール80/80に。ベンチのピカチュウをライチュウ90/90に進化させるぜ。そしてネンドールのポケパワー発動。コスモパワー。手札を一枚か二枚デッキの底に戻して手札が六枚になるようにドローする!」
 俺は手札のライチュウをデッキの底に戻す。これで手札はワープポイントのみとなり、新たに五枚ドローする。
「エレキブルFB[フロンティアブレーン]をベンチに出す」
 これで俺のベンチにはライチュウとネンドールとエレキブルFBが並ぶことになる。
「そして雷エネルギーをこのエレキブルFBにつけ、グッズ発動。ワープポイント!」
 バトル場のピカチュウとサイドンの足元に青い渦が現れて両者を飲み込む。
「ワープポイントによって互いにバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える! 俺はエレキブルFBをバトル場に」
「私はヒポポタスを……」
 八雲の顔が陰る。これが俺の即興タクティクス。ヒポポタスを引きずり出すことに一見意味はなさそうだが、ヒポポタスは逃げるエネルギーが二つ必要なうえに使えるワザもまだ大したことない。
「そしてエレキブルFBのワザを使うぜ。トラッシュドロー。自分の手札のエネルギーを二枚までトラッシュし、トラッシュした枚数×2枚ドローする。俺は手札の雷エネルギーを二枚捨てて四枚ドロー。ターンエンド」
「私のターン。手札の闘エネルギーをヒポポタスにつけ、スタジアム発動します。ハードマウンテン!」
 今度は周囲が険しい山に変わる。丁度山の高いところにいるようで、俺達より低い(ように見える)ところに雲がかかっている。
「ハードマウンテンの効果は、互いのプレイヤーは自分の番に一度自分のポケモンの炎または闘エネルギーを一個選んで別の炎または闘ポケモンにつけかえることが出来ます。これでサイドンの闘エネルギーをヒポポタスに一つつけかえます」
「これでヒポポタスのエネルギーは二つ!?」
「そしてサポーター、ミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻し、LV.X以外のポケモンを手札に加えます。私が加えるのはドサイドン」
 ヒポポタスを逃がさないでくれ……! と祈っていたが、よく考えるとそれをする利率は低そうだ。
 サイドンの今の闘エネルギーは一つ。そしてサイドンのワザエネルギーは闘無の突き壊すと闘闘無の激突。既にこのターン、ヒポポタスにエネルギーをつけかえているのでサイドンは攻撃できないことになる。
「ヒポポタスで攻撃、突き飛ばす!」
 ヒポポタスが体で思い切りタックルをすると、エレキブルFBはベンチエリアまで吹っ飛んだ。弱点が闘×2のエレキブルFBは10×2の20ダメージを受けて70/90に。
「突き飛ばすの効果で、相手はバトルポケモンとベンチポケモンを強制的に入れ替えなくてはなりません」
「俺はピカチュウをバトル場に出す」
「ターンエンド」
「俺のターン、ドロー。ピカチュウの雷エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、エレキブルFBをまたバトル場に出すぜ。そして手札の雷エネルギーをベンチのライチュウにつけて、サポーター発動。ハマナのリサーチ。その効果によってデッキからピチューとピカチュウを手札に加る。そしてベンチにピチューを出してピチューのポケパワー、ベイビィ進化によってピカチュウに進化させるぜ!」
 これで俺のベンチに二匹目のピカチュウが並ぶ。
「エレキブルFBをレベルアップさせるぜ!」
 エレキブルFB LV.Xの咆哮が響く。HPも100/120と大台に乗り、ポケパワーも強力になる。
「さあ、こっからが本番だ!」



恭介「こいつが今日のキーカード!
   ポケパワーを使うとターンは終わるけど、
   エネルギーをトラッシュするワザの多い雷タイプとの相性はいいぜ!」

エレキブルFB LV.X HP120 雷 (DPt3)
ポケパワー エネリサイクル
 自分の番に、1回使えて、使ったら、自分の番は終わる。自分のトラッシュのエネルギーを3枚まで選び、自分のポケモンに好きなようにつける。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
雷無無  パワフルスパーク 30+
 自分の場のエネルギーの合計×10ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のエレキブルFBに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 鋼−20 にげる 3


  [No.819] 61話 チェーン 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 10:41:28   26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 PCC東京Aのカード大会は決勝リーグに入った。そしてその一回戦。俺こと長岡恭介と八雲真耶との対戦が行われている。
 俺のバトル場には雷エネルギーが一つついたエレキブルFB LV.X100/120と、ベンチにはネンドール80/80、ピカチュウ60/60、雷エネルギー一つついたライチュウ90/90、同じく雷エネルギーが一つついたピカチュウ10/60。
 一方の八雲のバトル場は闘エネルギーが二つついたヒポポタス70/70と、ベンチには闘エネルギー一つのサイドン60/90。スタジアムはハードマウンテンが依然発動されたままだ。
 そして今は俺のターン。
「エレキブルFB LV.Xのポケパワーを発動。エネリサイクル!」
 トラッシュをチラと確認する。
「エネリサイクルは自分の番に一度使え、自分のトラッシュのエネルギーを三枚、好きなようにつけれるパワーだ。俺はトラッシュの雷エネルギーを二枚ライチュウにつけ、もう一枚の雷エネルギーをダメージを受けていないピカチュウにつける! エネリサイクルを使うと自分のターンは終了する」
「私のターン。手札からサイホーンをベンチに出して、ヒポポタスをカバルドンに進化させます」
 これで八雲のバトル場にはカバルドン110/110。ベンチにサイドン60/90とサイホーン60/60がいる形になる。
「そしてカバルドンに闘エネルギーをつけます」



「なんだかんだあったけどだいぶ相手も食いついてるなあ」
「まだまだ始まったばっかだろ? ……まあ風見の方はもう勝負決まったみたいだけど」
 蜂谷がいろんな試合を見ては、何を納得したかふんふん言っている。確かに流石は決勝リーグだけあってどの試合もプレイングは丁寧だ。だがその中で光るプレイングをしているのは風見である。
「ギャラドスでナッシーに攻撃。テールリベンジ!」
 風見の最後の一撃が決まった。ナッシーが倒れたことによって、風見の対戦相手の戦えるポケモンがいなくなったので風見の勝利だ。
 風見はバトルベルトを閉じるとそのまま観客エリアにいる俺達の方へやってきた。
「長岡はまだ対戦中か。相手は……、闘タイプ。雷タイプを主に使う長岡では苦戦しそうな相手だな」
「ああ。でも、恭介ならなんとかするんじゃないかな?」
「俺もそう思う」
 蜂谷は分かっているのか分かっていないのかというような言い方で適当に相槌を打つ。決勝リーグまで勝ち進んだとはいえ本当に強いのかどうかよくわからない。恐らく単純に運が良いんだろうなあ。
「カバルドンの闘エネルギーは三つか。ハードマウンテンの効果でサイドンの闘エネルギーをカバルドンにつけかえるとグランドクエイクが使えるな」
 風見の解説に蜂谷が聞き返す。
「グランドクエイク?」
「グランドクエイクは闘闘無無で使えるカバルドンのワザだ。威力は80で、互いのベンチにいる進化していないポケモンに10ダメージを与える効果をもつ」
「それじゃあグランドクエイクが使われれば恭介のエレキブルFB LV.Xも、ピカチュウも一気に気絶になんのか!」
 俺よく計算出来ました! とでも言いたそうな蜂谷の肩をトンと叩いて「バーカ」と言う。
「恭介のピカチュウは、どれもピチューから進化してるからグランドクエイクでダメージは受けねーぞ。むしろ対戦相手自身のサイホーンがダメージを受けるだけだ」
「じゃあもう一個のワザを使うのか?」
「だろうなあ。砂をため込むは無色エネルギー一個で使えるワザの割に小回りいいしな。元の威力は20だけど、自分のエネルギー×10ダメージ分追加できて、ダメージを与える前にトラッシュの闘エネルギーを一枚つけることができるからな。まあ最もその闘エネルギーがトラッシュにないんだけど」
「エレキブルFB LV.XのHPは100/120だからハードマウンテンの効果は使わなくてもいいんだな!」
「そういうことだ! 今度こそよく出来ました」
「馬鹿にすんじゃねー!」
 蜂谷は血眼になって俺を睨んできた。その様子が面白おかしくて「ははっ」と微かに声を出して笑った。風見も声には出さなかったが、口元は緩んでいた。



「カバルドンで攻撃。砂をため込む!」
 カバルドンに向かって周囲から砂が大量に集まっていく。その砂にエレキブルFB LV.Xが足を取られ、後ろへ倒れこんでしまう。そんなエレキブルFB LV.Xに遠慮なく砂はどんどんカバルドンに集まって行くため、エレキブルFB LV.Xは砂に埋もれてしまう形になった。地形変化したため、カバルドンの位置が高くなり逆にエレキブルFB LV.Xの位置が低くなる。カバルドンが見下ろす形になった。
「砂をため込むのワザの威力は20に30足され、更に弱点を突いたことによって二倍。つまり100ダメージ!」
「つまり……、エレキブルFB LV.Xは気絶っ……!」
 エレキブルFB LV.Xの体が崩れ落ち、表示されているHPバーにはしっかりと0/120と書かれていた。
「俺の次のバトルポケモンはライチュウだ」
「サイドを一枚引いてターンエンドです」
「くっそー……。俺のターン!」
 今引いたのはナギサシティジム。発動してもいいが、ベンチにはまだサイドンがいる。あのサイドンがいる限り、ナギサシティジムはまた破壊されるだろう。デッキにこのカードは三枚しかない上に、スタジアムはトラッシュからサルベージする手段がほぼ無いので使いどころが大事だ。そう。プレイングを求められている。
 少しくらいは長考してもいいだろう。気の向くままにトントン拍子で戦って、知らぬままに相手のペースにハマるのはもう御免だ。蜂谷の二の舞はしたくない。
 手札を、自分の場を、相手の場を、そして互いのサイドの数、トラッシュのカードをチェックして「自分なり」でベストと思うプレイングをするんだ。
「よし、手札からスタジアムカードを発動。ナギサシティジム! 新しいスタジアムが発動されたため、ハードマウンテンはトラッシュ!」
 八雲の顔が僅かに陰る。
「そして手札の雷エネルギーをベンチのピカチュウ(60/60)につけ、サポーター発動。バクのトレーニング! デッキからカードを二枚ドロー!」
 まだ手札は六枚ある。頭の中でやりたいことと手札との釣り合いを考え直す。
「ライチュウをレベルアップさせるぜ」
 これが俺がこの大会のために作ったデッキのエースカード。このライチュウLV.X110/110で、逆転への軌跡を紡ぐ。
「ライチュウLV.Xで攻撃だ! 必殺! ボルテージシュート!」
 ライチュウLV.Xの頬から紫電が矢のような速さで射出され、カバルドンの横を通ると後ろにいるサイドンに命中する。サイドンの残りHPは一瞬で削られて0になった。
「ボルテージシュートは手札の雷エネルギーを二枚トラッシュすることによって、相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ。残りHP60だったサイドンは一発KOだ! サイドを一枚引くぜ」
「くっ……。私のターン───」
「まだ俺はターンエンドを宣言してないぜ。サイドンを倒したこの瞬間、ポケボディー発動。連鎖雷! レベルアップした番にボルテージシュートを使ったなら、もう一度ライチュウLV.Xは攻撃出来る!」
「二回攻撃!?」
 八雲の表情が困惑のそれになる。
「二撃目を食らえ! 炸裂玉!」
 ライチュウLV.Xの半分くらいの大きさの黄色と白が入り乱れた球体が先ほどのボルテージシュートとは違って遅いスピードで発射される。その玉がカバルドンの目先まで来ると、辺りの人が皆振り返る程の大きい音を発して爆発を起こした。
「炸裂玉は場のエネルギー三枚をトラッシュするカード。俺はベンチにいるピカチュウ10/60についている雷エネルギー一枚、ピカチュウ60/60についている雷エネルギーを二枚トラッシュだ」
「炸裂玉の威力は100。抵抗力で威力は20引かれて───」
「ナギサシティジムを忘れちゃ困るぜ。こいつの効果によって、雷タイプが闘タイプに攻撃するとき、抵抗力の計算を行わない!」
「しかしカバルドンのHPは110! なんとか10は耐えきった。カバルドンのポケボディー、サンドカバーであなたのポケモンLV.X全員に10ダメージを与えます」
「ちゃんと目の前のカバルドンを見てみな」
 八雲は怪訝な表情を浮かべ、ワンテンポ置いてからカバルドンをチェックする。本来ならHP10を残しているはずのカバルドンだがそこにいたカバルドンのHPバーは0/110と表示されていた。
「どうして!?」
「俺がさっき使ったバクのトレーニングの効果は、このカードが自分のバトル場の横にあるときに自分のバトルポケモンが与えるワザの威力を10足すというものだ。サポーターは使ったら自分のバトル場の横に置き、自分の番の終わりにトラッシュするカード。だから炸裂玉の威力は100に+10で110。カバルドンも気絶ってことさ。サイドを一枚引いて今度こそターンエンド!」
 八雲は苦虫を潰すような顔で渋々とサイホーンをバトル場に出す。このサイホーンはまだエネルギーが一枚もついておらず、八雲の手札は五枚ある俺に比べて僅か二枚。そしてサイドは俺の方が四枚、彼女は五枚でなおかつベンチポケモンはなし。
 この勝負勝てるかもしれない。決して、油断はしない。とは思うものの、頭をひねって考えたコンボが上手く決まったことに快感を感じずにはいられない。
 よっしゃ! と心の中で大きなガッツポーズを作る。
「私のターン! っ……」
 暗い八雲の表情が、少しだけマシになる。もしかしたらなんとかなるかもしれない程度のカードを引いたのだろうか。
「サイホーンに闘エネルギーをつけ、ベンチにユクシー(70/70)を出します。そしてユクシーをベンチに出したタイミングでユクシーのポケパワー、セットアップを発動。手札が七枚になるようにドロー。今の私の手札は一枚。なので六枚ドロー」
 あれよあれよと言う間に手札の数が俺を越す。もしかしたらもしかしてしまうかもしれない。なんとなく握った拳に手汗が生じる。
「サポーター発動。ミズキの検索。手札を一枚デッキに戻し、私はデッキからドサイドンを手札に加えます。そしてグッズカードの不思議なアメを使います」
 不思議なアメはたねポケモンを一進化、或いは二進化ポケモンに一気に進化させるカード。ドサイドンを手札に加えたという事は。
「サイホーンをドサイドン(140/140)に進化! そしてドサイドンのポケパワー、地割り!」
 ドサイドンはその重たい腕を持ち上げると、地面に向けて振り下ろす。地面はあっさり砕けると、ドサイドンの位置から俺の位置まで亀裂が生じ、カード(もちろん実際のカードではなく、立体映像のカード)が亀裂の中に三枚吸い込まれる。別に映像と音だけであるはずなのに、ドサイドンが腕を地面に叩きつけた時は本当の衝撃があるような錯覚を覚えた。
「ドサイドンのポケパワー、地割りは手札からこのカードを進化させたとき、相手のデッキを三枚トラッシュする効果!」
 トラッシュしたカードはエレキブルFB、達人の帯、そして三枚目のナギサシティジム。サイドンがいないので破壊されることはないが、もし今発動されているナギサシティジムが破壊されればもうリカバリーはできない。
「まだです。もう一枚グッズを使います。レベルMAX!」
 八雲はカードの宣言と同時にコイントスのボタンを押す。判定は表、効果が適用される。
「レベルMAXの効果はコイントスして表のときに発動でき、自分の山札から自分のポケモン一匹からレベルアップさせるLV.Xのカードを選び、そのポケモンの上に乗せレベルアップさせるカード。もちろん、私はドサイドンをレベルアップ!」
 ドサイドンのHPバーは既に140/140という高水準から更に伸び、170/170。
「ひゃ、170!?」
 170だなんてHPは壊れ物である。平均的な二進化ポケモンのLV.XのHPは140が相場だ。170なんてどんな攻撃をすれば倒せるんだ。
「そしてドサイドンで攻撃。ハードクラッシュ! このワザはエネルギーなしで使え、自分の山札のカードを上から五枚トラッシュしてその中にあるエネルギーの数かける50ダメージを与えるカード。もしも三枚トラッシュできれば、ライチュウLV.XのHPは0、気絶です!」
 ドサイドンLV.Xは両腕をライチュウLV.Xに突きだす。すると両手の噴射孔から茶色い弾丸がいくつか発射された。効果的に弾丸一つにつき50ダメージだろう。打ち出された弾丸が三つなら絶体絶命……!



恭介「こいつが今日のキーカード! そして俺のデッキのエースカード!
   ボルテージシュートはピカチュウ(DP2)とも相性がいいし、
   連鎖雷はライチュウ(破空)の炸裂玉とも相性がいいぞ!」

ライチュウLV.X HP110 雷 (破空)
ポケボディー れんさかみなり
 このポケモンが、レベルアップした番に「ボルテージシュート」を使ったなら、そのあとに追加で1回、このポケモンはワザを使える(追加できるのは1回だけ)。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
雷雷無  ボルテージシュート
 自分の手札の雷エネルギーを2枚トラッシュし、相手のポケモン1匹に、80ダメージ。(トラッシュできないならこのワザは失敗。)
─このカードは、バトル場のライチュウに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 鋼−20 にげる 0


  [No.820] 62話 初歩的ミス 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 10:58:56   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 射出された弾丸は……二つ!
 弾丸がライチュウLV.Xに衝突するや否や、鼓膜が破れそうな轟音が響き渡る。
「くっ、あぶねえ。首の皮一枚繋がったや……」
 もしライチュウLV.XがレベルアップしていなかったらHPは0となっていた。また、スタジアムのナギサシティジムが無ければそれでもライチュウLV.Xは気絶。まさに間一髪。
 ドサイドンのハードクラッシュによってトラッシュされた八雲のカードはアンノーンQ、闘エネルギー二枚、ハードマウンテン、ミステリアス・パール。
 しかしいずれにせよもう一度アレを食らってしまえばライチュウLV.Xの息の根は止まるもかもしれぬ。
 今の俺のバトル場は雷エネルギー三つのライチュウLV.X10/110、ベンチにはネンドール80/80、ピカチュウ10/60、ピカチュウ60/60。スタジアムは前述したとおりナギサシティジム。
 向かいにいる八雲のバトル場には闘エネルギーが一枚ついたドサイドンLV.X170/170。しかしベンチにはユクシー70/70のみ。
「俺のターンだ。ベンチにいるピカチュウのポケパワーを発動、エレリサイクル。ピカチュウがピチューから進化している場合自分の番に一回使え、トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加える。もう一匹いるピカチュウもエレリサイクルを使うぜ」
 トラッシュを多用する俺のデッキにとって、弾切れは最大の弱点。こうして補給し続けていないと攻めれなくなる。
「ピカチュウ(60/60)に雷エネルギーをつけ、ライチュウLV.Xの雷エネルギーを三つトラッシュして攻撃だ。炸裂玉!」
 再び低速の玉がドサイドンLV.Xに襲いかかる。激しい音と光を纏った炸裂玉は、ドサイドンLV.Xに直撃するとより大きな音を放つ。
「よし、なんとか100ダメージ削ってやったぜ」
 ドサイドンのHPバーは大きく削られて70/170まで落ち込む。
 しかし次のターン、高確率でライチュウLV.Xは倒されてしまう。ライチュウLV.Xの代わりを勤めれるアタッカーがいないので大きなビハインドになるだろう。
「私のターンです。手札からヒポポタス(70/70)をベンチに出してそのヒポポタスにエネルギーをつけます。そしてドサイドンLV.Xのハードクラッシュ攻撃!」
 ドサイドンLV.Xが再び両腕を真っすぐ伸ばす。八雲がデッキの上からトラッシュする五枚のカードのうち、一枚でも闘エネルギーがあればライチュウLV.Xはおじゃんとなる。
「っ、南無三!」
 当たるなと願ったのはいいが、ドサイドンからは弾丸が一つ発射される。
 音に耐えるため両手で耳を塞ぐ。しかし手で妨げる音なんてたかが知れていて、それでも耳をつんづくような音波が発生する。
 これでライチュウLV.XのHPは尽きた。
「俺はピカチュウ(10/60)をバトル場に出すぜ」
「私はサイドを一枚引いてターンエンドです」
 これでお互いに残りのサイドは四枚ずつ。出来ればサイドうんぬんの前に、八雲の場のポケモンを全て倒しきってしまいたいが……。
「行くぜ、俺はピカチュウのポケパワー、エレリサイクルを発動。トラッシュにある雷エネルギーを一枚手札に加える。もう一匹のピカチュウも同じようにポケパワーを使って合計二枚の雷エネルギーを回収する! そしてバトル場のピカチュウをライチュウ(40/90)に進化させ、ベンチのピカチュウに雷エネルギーをつける!」
「ライチュウにエネルギーは乗ってないのに何を……」
 へへっ、と笑って鼻の下を人差し指でなぞる。
「ライチュウでスラッシュ攻撃!」
 ライチュウが尻尾を鞭のように器用に扱い、尻尾で鋭い斬撃を起こす。ドサイドンLV.XのHPバーは40/170まで減り、ようやくゴールが見えてきた。
「スラッシュはエネルギーなしで攻撃出来て、しかも30ダメージも与えれる強力なワザだぜ。でも次のターンにこのライチュウはスラッシュを使えないけどな」
「くっ、私の番です。……」
 八雲はさっきのドサイドンLV.Xの攻撃で闘エネルギー以外にサイホーンが二枚とドサイドン、不思議なアメの四枚がトラッシュされている。相手の残りデッキも25枚。こっちがデッキ破壊のスキルを持っていればよかったなと思った。
「手札の闘エネルギーをヒポポタスにつけて、ヒポポタスをカバルドンに進化させます」
 ベンチにもう一度カバルドン110/110が現れる。折角頑張ってここまで八雲の陣営を削ってきたのに、またまたここでタフなポケモンが現れたか。
「ドサイドンLV.Xでハードクラッシュ!」
「またかよチキショー!」
 ドサイドンLV.Xの両腕から再び弾丸が……。
「あれ?」
 出なかった。バトルベルトのモニターで何をトラッシュされたか確認する。念のために左手で左耳は塞いでいたが、無用だったようだ。トラッシュされたカードはサイドン、レベルMAX、ワープポイント、ドサイドン、シロナの想い。安心して左耳のガードをはずす。
「なんかしっくり来ないけど俺のターン! これ以上ハードクラッシュを打たれると心臓と鼓膜がもたないや。そろそろドサイドンLV.Xには帰ってもらうぜ」
「……」
 あまりにも八雲が冷静すぎて、逆にこっちが冷めてしまいそうになる。いやいや、俺は俺のペースで自分なりに行けばいいんだ。
「ベンチのピカチュウに雷エネルギーをつけ、ポケパワーのエレリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを手札に加える。サポーター、ミズキの検索を使って手札一枚をデッキに戻し、デッキからライチュウを手札に加えてベンチのピカチュウに進化!」
 ベンチにもライチュウ90/90が並ぶ。しかしこれでピカチュウのポケパワーは使えなくなってしまった。でもこれだけ手札に雷エネルギーあれば大丈夫だろう。たぶん。
「バトル場のライチュウ(40/90)とベンチのライチュウ(90/90)を入れ替える! ライチュウの逃げるエネルギーは0だから安心して逃げれるぜ。そんでバトル場のライチュウにポケモンの道具、達人の帯を使うぜ」
 ライチュウ90/90の頭に鉢巻きのように帯がつけられる。ぽっこりお腹だから腰には巻けなかったようです。
「達人の帯をつけたポケモンはHPと、与えるワザの威力が20アップ。その代わりつけたポケモンが気絶したとき相手は一枚多くサイドを引くことができる」
 これでライチュウのHPが110/110へ。
 達人の帯は確かに強い。しかしサイドを一枚多く引かせるディスアドバンテージがあるので、この一匹で二匹くらい倒さないとダメなのがネックだ。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を一枚デッキに戻して六枚になるよう、つまり三枚ドロー。ライチュウでスラッシュ攻撃だ」
 威力20増しの、50ダメージ攻撃がドサイドンLV.Xを襲う。ようやっとドサイドンLV.XのHPが0となったが、一匹倒すのにここまで手間がかかるとはなかなか。
「私はカバルドンをベンチからバトル場に出します」
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ」
「行きます、私のターン。サポーターのシロナの想いを発動。前のターンに自分のポケモンが気絶された場合、手札をデッキに全て戻してシャッフルし、八枚ドロー」
 八枚ドロー!? たぶん俺が知る限り一番カードを引くサポーターだ。
「闘エネルギーをカバルドンにつけ、カバルドンをレベルアップさせます。そしてカバルドンLV.Xのポケパワーを発動。サンドリセット!」
 轟、と音が鳴り始めて砂嵐が巻き起こる。どうしてこいつのポケモンは耳に優しくないのばっかなんだ、カバルドンLV.X130/130を中心に起こる砂嵐のせいで、フィールドも八雲も見づらいったらありゃしない。
 しかしこの砂嵐が3Dで本当によかった。あまりにも砂嵐が激しすぎて、本物であったら目が一切開けられない状況だっただろう。
「サンドリセットは対戦中に一回使え、互いの場にあるポケモン、サポーター以外のカードを全てデッキに戻してシャッフルする。先ほどライチュウにつけた達人の帯をデッキに戻してもらいます!」
 砂嵐の強風によってライチュウが頭に巻いていた達人の帯が吹き飛ばされて空高く消え去る。そして砂嵐がようやく止んだ。大きな音に慣れ過ぎて、八雲の声が先ほどよりはっきり聞こえない。後で風見に音をどうにかしろとケチをつけないとな。
「カバルドンLV.Xで砂を飲み込む攻撃。その効果で、ダメージを与える前にトラッシュの闘エネルギーを一枚このポケモンにつける。砂を飲み込む攻撃は20に加え、自分についているエネルギーの数かける10ダメージを与える。今、このポケモンに闘エネルギーは四つついているので60ダメージ!」
 再び熾烈な攻撃が始まる。帯がなくなってHPが減ったところに、火力の高いワザが飛んでくる。あっという間にライチュウのHPは30/90。
「くそっ、俺のターンだ!」
 引いたカードはプレミアボール。まだまだ運は俺に味方してる。
「よし、グッズのプレミアボールを発動だ。デッキかトラッシュのLV.Xポケモンを手札に加える。俺はトラッシュからライチュウLV.Xを手札に加え、バトル場のライチュウにレベルアップさせる!」
 しかしそれでもHPは50/110。次の攻撃はとてもじゃないが耐えられない。
「手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして攻撃、ボルテージシュート! ベンチのユクシーに80ダメージだ!」
 どこにでも届く紫電が再び八雲の場を荒らす。HPが70/70しかないユクシーもこれで一撃、気絶だ。
「俺はサイドを引いてライチュウLV.Xのポケボディーの連鎖雷の効果でもう一度攻撃する。効果は言わなくても分かるな?」
「しかしそれでもカバルドンLV.Xは倒せませんよ。ボルデージシュートはユクシーでなくカバルドンLV.Xにして、そこから追撃でカバルドンLV.Xを倒すべきでしたね。初歩的なミスです」
「……。ライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュして炸裂玉!」
 やはり三つトラッシュはかなりのボードアドバンテージを失うが、100ダメージはそれだけの価値がある。これでカバルドンLV.XのHPは30/130だ。
「私のターンの前のポケモンチェックでカバルドンLV.Xのポケボディー、サンドカバーが発動します。このポケモンがバトル場にいる限り、ポケモンチェックの度に相手のポケモンLV.X全員にダメージカウンターを一つずつ乗せる。よってライチュウLV.XのHPを削って行きます」
 砂がライチュウLV.Xを足元から襲う。これで40/110。しかし今さら10ダメージ、たかが知れている。
「それでは私のターン、カバルドンLV.Xに闘エネルギーをつけます。そしてカバルドンLV.Xの闘エネルギーを二つトラッシュして、ダブルシュート!」
 カバルドンLV.Xの足元の砂から、直方体の砂の塊が現れてそれが俺のベンチへ飛んできた。
「バトル場のポケモンは攻撃しないのか!」
「ダブルシュートは相手のベンチポケモン二匹にそれぞれ40ダメージ与えるワザです」
 ベンチのネンドールとライチュウに砂の塊がぶつかり鈍い音を放つ。それぞれHPは40/80と0/90。
「サイドを一枚引いてターンエンド。そしてカバルドンLV.Xのサンドカバーで再びライチュウLV.Xに10ダメージです」
「俺のターン! さっき、俺が初歩的ミスをしたって言ったよな。でもそれは俺じゃなくてお前の方だぜ! ライチュウLV.Xで攻撃、スラッシュ!」
「しまっ……」
「エネルギーを全てトラッシュしたからもうワザが使えないと思ったその根拠のない余裕が命取りだぜ!」
 最後のライチュウLV.Xの一撃がカバルドンLV.Xにヒットする。ドスンと重い音を立てて崩れ落ちたカバルドンLV.XのHPは0/130、サイドを一枚引くがもう八雲には戦えるポケモンがいないのでここで勝敗が決まった。
「よっし! ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 遠くから見ていた翔達に向かって、拳を突き出して親指を立ててニッと笑う。蜂谷も同じように返してくれ、翔や風見はただ頷いてくれた。
 勝利を分かち合える仲間がいるのはなかなかいいもんだな!



恭介「今日のキーカードはドサイドンLV.X!
   出来ればもう戦いたくないな……。
   MAX250を出せるハードクラッシュが脅威だぜ」

ドサイドンLV.X HP170 闘 (DP5)
─ ハードクラッシュ 50×
 自分の山札のカードを上から5枚トラッシュし、その中のエネルギーの枚数×50ダメージ。
闘闘無  なげあげる 60
 自分のトラッシュの闘エネルギーをすべて、相手プレイヤーに見せてから、山札にもどす。その後、山札を切る。
─このカードは、バトル場のドサイドンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 雷−20 にげる 4


  [No.822] 63話 ハイレート 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 11:00:48   36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ドサイドンLV.Xで一気にヤバくなったけどなんとか捲き返したぜ!」
「よくやった」
「よくやったってお前一回戦で負けただろ!」
「それとこれとは別の話だろ!」
「恭介も蜂谷も折角のおめでたムードが台無しだろ」
 俺が間に割って二人のじゃれ合いを止める。割と似た者同士な二人なのでこんなのは喧嘩になんか入らない。
「今から俺の出番だから二人仲良く応援してるんだな」
「絶対応援しない」
「翔応援するなら薫ちゃん応援する」
「それがいい」
「なんでそんなときに限って息合うんだ」
 一回戦の最終試合は、俺と石川と松野さんの三人が出場する。この三人はそれぞれ別の人と当たるので、順当に行けば二回戦で俺と石川が当たる。
 そしてその二回戦のもう一試合には松野さんと能力者の一人である山本信幸が。拓哉(裏)をあっさりと倒してしまう実力の持ち主なので負けるなんてことはないだろうが。
「翔、ボサッとしてないで早く行ってこい」
 風見が俺の背中を突きだす。なんだなんだ、今日はやけに皆冷たいな。三人を少し睨んで所定位置へと足を運ぶ。
「よろしくお願いします」
 俺の左のフィールドでは石川が。そして俺の向かいでは松野さんが、それぞれ勝負を始めた。……が、俺の対戦相手が一向に出て来ない。
 すると困惑した表情のスタッフがこちらへ駆けて来て、対戦相手が見つからないと伝えてくる。
「それってもしかして」
「不戦勝になります」
「……、はあ」
 折角の気持ちや意気込みも、塩をかけられてどんどんすぼまっていく。仕方ないので他の二人の応援をすることにしておこう。



「お昼に翔様とご飯食べてるヤツと戦えるなんて運がいいわ、ケチョンケチョンにしてやる!」
「は……?」
 いきなり突っ込みどころが満載だ。翔様? なんだこいつ。
 自分よりも二十センチは低い身長で当然小柄な少女だ。顔立ちも押さなく、黒く長い髪をピンクのリボンでツインテールにしている。年齢は一つ下のようだ。
「いいこと、この勝負でわたしが勝ったらわたしの翔様に近づかないで」
「い、いきなりなんだよ」
「だーかーらー! わたしが勝ったら石川薫、あんたは翔様に近づかないで! って言ってるのよ」
「なんでそうしなきゃいけないんだ」
「あんたみたいな男みたいなやつを、翔様が好きになるわけないでしょ! だからお邪魔虫はこうやって力づくで排除するの」
「……」
「言ってること分かる?」
「それじゃあもしこっちが勝てばお前は翔に近づかないってことだな」
「っ……、言うわね。ということは条件を飲んだってことでいいかしら」
「ああ」
 なんでこんなわけのわからない勝負を引き受けたのだろう。自分でもよくわからないが、少なくともいろいろ馬鹿にされたのが悔しかった。
「そんなことを言ってるんだからもちろん実力はあるんだろうな」
「もちろんよ、さあ勝負! わたしのターンから」
 おれのバトル場はラプラス80/80、相手の如月 麻友(きさらぎ まゆ)のバトル場にはグライガー60/60。互いにベンチはガラ空きだ。
「わたしは闘エネルギーをグライガーにつけ、ガーディをベンチに出すわ」
 如月の場に新たな小柄ポケモンが現れる。しかし、そのガーディはHP70/70。進化するたねポケモンにしては割と高めのHP。
「グライガーでラプラスに攻撃。え〜い、ライトポイズン!」
 一つ一つが可愛らしい挙動で、カードの配置の仕方も、ワザの指示も、そしてライトポイズンのエフェクトで行うコイントスを行っていく。なんだか浮ついた気持ちになっていて真剣になれないような気がする。
「表ね。ライトポイズンはコイントスが表じゃないとワザが発動しないからよかったわ。それじゃあ今度こそ攻撃よ!」
 グライガーは尻尾をバネにしてラプラスへと飛びかかり、そのまま尻尾をチクリとラプラスに突き刺す。HPバーが僅かに10だけ減り、数値の隣に毒のマークがついたところでラプラスから飛び離れる。
「10ダメージと毒ダメージよ。逃げるエネルギーが多くて進化しないラプラスにとっては痛手よね? わたしのターンエンドと同時にポケモンチェック。毒のラプラスは10ダメージ受けてもらうわ」
 これであっという間に60/80。グライガーと並んでしまった。
「行くぞ、おれのターン。手札からグッズカード、ひみつのコハク、こうらの化石を使ってそれぞれをベンチに置く。この二枚は手札やデッキにあるときはトレーナーだが、無色タイプのたねポケモンとして場に出すことができる」
 ラプラスの後ろに石ころとほぼ同然な化石が二つ現れる。各々HPは50/50。
「化石ね」
「水エネルギーをラプラスにつけ、ラプラスの運びこむ。デッキからポケモンのどうぐ、サポーター、基本エネルギーを手札に加える。おれは達人の帯、化石発掘員、闘エネルギーを加えてターンエンド」
 そしてポケモンチェック。毒のダメージを受けたラプラスのHPは50/80と落ち込む。相手のグライガーに劣ってしまう結果になったが、まだまだ。そんなすぐにやられはしないはず。
「わたしのターン。手札から闘エネルギーをグライガーにつけて、グライオンに進化させる!」
 グライガーの体が一回りも大きくなり、グライオンが姿を見せる。しかしHPは80/80。決して高いとは言えない数値だ。
「そしてぇ、ベンチに新しいグライガーを出すわ。そしてサポーター、ハマナのリサーチを発動。デッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで手札に加えれる効果によって、リオルとユクシーを手札に加える。わたしはリオルをベンチに出してユクシーもベンチに出すわ。このときユクシーのポケパワーのセットアップを発動。手札が七枚になるようにデッキからカードを引くわ」
 このターンであれよあれよと如月のベンチが埋まる。先のターンに出たガーディに加え、グライガー60/60、リオル60/60、ユクシー70/70で空きスペースはもう一枠しかない。しかも減った手札をユクシーのセットアップで補充。今の如月の手札は一枚なので六枚も引くことになる。
「グライオン、ラプラスをやっちゃいなさい! 追撃!」
 びしっ、と如月がラプラスに向けて指をさすと、それに合わせるかのようにグライオンがラプラスにキバを使って噛みついてくる。そして、重たいハサミの一撃もラプラスに加わる。
「追撃は相手が状態異常だと、威力が40も上がるの。元の威力は40だから、80ダメージ。イチコロよ」
 舌をちょろっと出して笑う如月。しかしこっちは一切笑えない。思っていたよりも強い。
「くっ……。おれはこうらの化石をバトル場に出す」
「そんな石ころで何が出来るのかしら。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「おれのターン! 手札の闘エネルギーをこうらの化石につける。この瞬間でこうらの化石のポケボディー、ロックリアクションが誘発!」
「化石なのにポケボディー……」
「ロックリアクションはこのカードに闘エネルギーをつけたときに発動され、デッキからカブトを一枚選んでこうらの化石の上に重ね、進化させる!」
 化石の内側から光が発せられ、表面の砂や石がはがれて中からカブト80/80が現れる。余談だが、カブトは化石から進化しているので扱いはたねポケモンではなく一進化ポケモンである。
「ヤジロン(50/50)をベンチに出し、サポーターの化石発掘員を発動。デッキから化石またはそれから進化するカードを一枚手札に加える。おれはプテラを手札に! そしてひみつのコハクの上に重ねて進化させる」
 コハクも先ほどと同じエフェクトがかかって中からプテラが現れる。ようやく自陣に現れた大きめのポケモンは、登場するや否やけたたましい雄たけびを上げる。
「プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからかいの化石、こうらの化石、ひみつのコハクのうち一枚を手札に加える。おれはかいの化石を選択」
 プテラが空中から地面に向かって急降下し、立派な足でガッチリとかいの化石をつかみ取る。
「そして加えたばかりのかいの化石をベンチに出し、カブトに達人の帯をつける」
 また新たな化石50/50がベンチに現れる。如月のように四匹までとはいかないが、こちらもベンチに三匹揃える。そしてカブトに達人の帯をつけたことで、HPとワザの威力が20ずつ上昇して100/100。しかしこのカブトが気絶したとき、相手は二枚サイドを引ける。
「カブトのワザ、進化促成を発動。デッキから進化ポケモン二匹を手札に加える。おれはカブトプスとオムスターを加えてターンエンド」
「わたしのターン、リオルに闘エネルギーをつけてグッズカードのプレミアムボールを発動よ! デッキからグライオンLV.Xを手札に加えるわ」
 プレミアムボールはデッキまたはトラッシュからLV.Xをサーチするカード。サーチ手段が限られているLV.Xの数少ないそれである。
「そしてグライオンをレベルアップさせ、その時にグライオンLV.Xのポケパワーを発動させるわよ。スピットポイズンッ!」
 グライオンLV.X110/110がレベルアップするや否やカブトに噛みついてくる。ダメージはないものの、カブトは毒とマヒの二つの状態異常を負ってしまう。
「スピットポイズンはレベルアップしたときのみ使えるポケパワーで、相手のバトルポケモンを毒とマヒにさせるのよ。これであんたは思うどおりに動けない!」
 マヒになっているポケモンは、ワザを使う事も逃げることも出来ない。その上毒でHPを奪われていく。本当に思い通りにはできない。
「そしてグライオンLV.Xで攻撃よ。追撃!」
 あっという間にHPが20/100へ。しかも、ポケモンチェックで毒のダメージを受けて更に10ダメージ。これで残り10!
「さああんたのターンよ。もっとも逃げることもワザも出来ないから何もできずにターンを終えて、毒のダメージでカブトは気絶ね」
「おれのターン。おれがカブトプスを手札にしていたことを忘れていたか? カブトをカブトプスに進化させることによって、状態異常は全て回復する!」
 カブトプス60/150に進化することによって状態異常はこれで回復、毒はもちろん麻痺に悩むこともない。
「そしてプテラのポケパワー、発掘によってデッキからひみつのコハクを手札に加え、ベンチにこうらの化石50/50を出してかいの化石に水エネルギーをつけることによってポケボディーのアクアリアクションが発動する」
 これもこうらの化石と同様に、水エネルギーをつけることでデッキからオムナイト80/80を一枚選び出してかいの化石に重ね進化させる。
「カブトプスで攻撃、原始のカマ! 手札のひみつのコハクをトラッシュして攻撃」
 原始のカマの威力は20だが、手札のかいまたはこうらの化石、ひみつのコハクを手札からトラッシュすると50足される闘エネルギー一つで使える大技であり、達人の帯の効果で更に20追加。合計90ダメージとなる。
 カブトプスが乱暴に切りつけたカマの一撃によってグライオンLV.XのHPは20/110。次のターンは手札の化石類をトラッシュしなくても倒せる!
「今の攻撃で倒せなかったのが運のツキねぇ。わたしのターン。リオルに闘エネルギーをつけてルカリオ(90/90)に進化させるわよ!」
 運のツキ……? その意味がイマイチ分からない。
「スタジアム、ハードマウンテンを使用するわ。このカードの効果は自分のターンに一度、自分のポケモンの炎または闘エネルギーを一個選んで自分の炎または闘ポケモンにつけかえる効果。グライオンLV.Xの闘エネルギーをベンチのグライガーに移すわ」
 っ!? グライオンLV.Xは闘エネルギー二つで相手に60ダメージを与えるワザ、辻斬りを持っているのだがそれで攻撃すればカブトプス60/150を気絶させることが出来る。
 しかもカブトプスは達人の帯をつけているのだから如月はサイドを二枚引け、これでサイドの差が三枚とかなりのアドバンテージを稼げるはず。行動の意図が分からない。
「グライオンLV.X、やっちゃって! バーニングポイズン!」
 グライオンLV.Xはカブトプスに噛みつく。ダメージはないが、カブトプスは毒になっていた。
「バーニングポイズンは相手を毒か火傷のどちらかにするワザ。わたしは毒を選択したわ。そしてこのワザの発動後、任意でグライオンLV.X自身とそれについているすべてのカードを手札に戻す。それで新たにユクシーを出すわよ」
 ポケモンチェックで毒のダメージを受け、カブトプスのHPは50/150。一撃食らうと倒れかけないギリギリのボーダーへ。
 しかし一見残りHPが減っているグライオンLV.Xを手札に戻すのは良い手に見える。何せレベルアップしたときに使えるポケパワーもあるのだ。だがそれが悪手だということを教えてやる……!



石川「今回のキーカードはグライオンLV.X。
   相手を毒とマヒにするポケパワーは強烈!
   ワザも使い勝手がいいぞ」

グライオンLV.X HP110 闘 (DP5)
ポケパワー  スピットポイズン
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。相手のバトルポケモン1匹をどくとマヒにする。
闘無  つじぎり 60
 のぞむなら、自分を自分のベンチポケモンと入れ替えてよい。
─このカードは、バトル場のグライオンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 闘−20 にげる 0


  [No.823] 64話 ギガントパワー 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 11:09:20   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 奥村翔くんが不戦勝で勝ち上がり、他の二試合が試合を始めた最中こちらも戦いが始まろうとしていた。
 これは勝たなければいけない試合。既に光が閉ざされつつあるポケモンカードの命運を分かつ事件。能力者……。忌々しいことこの上ない。
 当然、理論も分からない。能力とは一体なんなのか? なぜポケモンカードに破れると能力が失われるのか?
 初めて能力が見つかった日からほぼ半年。この疑問だけは常に胸の中にあった。
 とにかくここで勝てば、二回戦に能力者の一人である山本信幸と対戦することになる。今現在分かっている能力者で一番危険な力を持つ男だ。他の人をこれ以上犠牲にさせないため、この一回戦はしっかり勝たないと。
 一回戦の相手は桃川 めぐみ(ももかわ めぐみ)。過去の大会やイベントでも何度か見たことがある。いつも着ている服がメイド服という変わった人なので目立ちやすい。
 直接対戦したことはないが、いつもそれなりの成績を残しているため実力はあるのだろう。そして現に決勝トーナメントまで勝ち抜いている。油断はもちろん、勝ち急ぎもしないようにしなくては。
「お願いします」
 先攻は桃川めぐみ。最初のバトルポケモンはイーブイ60/60のみ。私のバトルポケモンはレジギガス100/100、ベンチにはレジスチル90/90。
 相手のポケモンが小型でこちらが大型なだけに、威圧感が凄いことになっている。
「私の番です。イーブイに悪エネルギーをつけてワザを使います。仲間を呼ぶ」
 イーブイが可愛らしく鳴き声をあげると、どこからかベンチに他のイーブイ60/60が三匹現れる。
 仲間を呼ぶは、自分のデッキのイーブイを好きなだけベンチに出せるワザ。あっという間に展開してきたのは流石だと言うべきだろう。
「私のターン。手札の水エネルギーをレジギガスにつけてサポーター、ハマナのリサーチを発動。その効果でデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで加えるわ。私はレジアイス、レジロックを手札に加えてそれぞれベンチに出すわよ」
 ベンチにレジアイス90/90とレジロック90/90が現れると、レジギガスの体にある橙、青、鈍色の点が光を放つ。
「レジギガスは、ポケボディーのレジフォームの効果で場にレジロック、レジアイス、レジスチルの三匹がいるときワザエネルギーが無色一個ぶんだけ減少するわ。さあ、レジギガスの攻撃よ。メガトンパンチ!」
 大きな拳がゆっくりとした動作で、だがしかし威力は十分なそれが小さなイーブイを殴りつける。まるで投げられたかのように放物線を描いてイーブイが飛んでいく。メガトンパンチは追加効果なしの30ダメージのワザ。後攻一ターン目で30はなかなか価値を持つ。
「さあ、貴女のターンよ」
「行きます! 私はバトル場のイーブイをブラッキーに。そしてベンチのイーブイをグレイシア、エーフィに進化させます! そしてベンチにヤジロンを」
 彼女の場があっという間にがらりと変わる。バトル場はブラッキー50/80、ベンチはエーフィ80/80にグレイシア80/80とイーブイ60/60、ヤジロン50/50。しかも、それだけではない。
「サンライドヴェールね……」
「そうです。エーフィのポケボディー、サンライドヴェールはイーブイから進化するポケモンのHPを20ずつアップさせるもの。そしてブラッキーのムーンライトヴェールはイーブイから進化するポケモンの弱点と逃げるエネルギーを0にさせます」
 正確にはブラッキーのHPは70/100、そしてエーフィとグレイシアは100/100だ。どれも一撃で倒すのは難しいHP。
「ブラッキーを逃がし、グレイシアをバトル場に出してグレイシアに水エネルギーをつけます。そして攻撃、雪隠れ!」
 グレイシアを中心に強い雪風が舞い起こり、雪に襲われたレジギガスのHPが70/100まで下がる。このワザで厄介なのは水エネルギー一個だけで30ダメージを与えれる威力ではなく、その効果。
「雪隠れの効果でコイントスをします。……オモテ! よって次のターンにこのグレイシアは相手のワザのダメージや効果を受けません。ターンエンド」
「そうねえ。私のターン。雪隠れによってワザを受け付けないのはそのグレイシアだけならば除けてしまえばいいだけよ。行くわよ、手札のポケブロアー+を二枚発動。このカードは二枚同時に使用したとき相手のバトルポケモンとベンチポケモン一匹と強制的に入れ替える! イーブイを場に出してもらうわ。更にスージーの抽選を使うわよ」
 スージーの抽選は手札を一枚または二枚捨ててデッキからカードをドローするサポーターだ。手札のバトルサーチャーと闘エネルギーの二枚をトラッシュして四枚ドローする。
「レジギガスに闘エネルギーをつけ、ベンチにユクシーを出すわ。そしてユクシー(70/70)をベンチに出した時にポケパワーのセットアップを発動。デッキからカードを四枚引くわよ」
 セットアップはベンチに出した時のみに使えるポケパワーであり、手札が七枚になるようドロー出来るモノだ。今の手札は三枚なので四枚引けるという訳。
「さて、行くわよ。メガトンパンチ!」
 再びレジギガスの激しいパンチがイーブイを襲う。これでHPは30/60。イーブイは当然イーブイから進化したポケモンではないのでブラッキーやエーフィのポケボディーの恩恵を受けることができない。次のターン、イーブイはエネルギーを一つつけないと逃げることはもちろんできない。
「私の番ですね。ミズキの検索を発動して手札を一枚戻し、デッキからネンドール(80/80)を加えてヤジロンを進化させます。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動!」
 コスモパワーはポケモンカードの中でユクシーのセットアップに並ぶトップクラスのドローエンジン。手札を一枚か二枚デッキの底に戻してデッキから六枚になるようにドローするそれは、手札の不要なカードを処理しつつドローできるという超強力なものだ。実際に桃川は二枚戻して手札は0枚、そして六枚ドローした。
「私はバトル場のイーブイをグレイシアに進化させます」
 グレイシアのHPはエーフィのサンライドヴェールの効果を含めて70/100。これで彼女の場は全て進化ポケモンで埋まった。たねポケモンは一匹もいない。
「そしてバトル場とベンチのグレイシアを入れ替え、新たにバトル場に出たグレイシアに水エネルギーをつけて攻撃します。雪隠れ!」
 コイントスは再びオモテ。また攻撃が通用しなくなる。レジギガスのHPは40/100とやや余裕がなくなりつつある上、攻撃への道筋が塞がってしまいる。
「私のターン。ここは凌ぐしかないわね、手札からスタジアムカード、キッサキ神殿を発動!」
 周囲が一気に雪景色に変わり、私の背後にゲームと同じように大きなキッサキ神殿が構える。
「キッサキ神殿がある限り、互いの進化していないポケモンの最大HPは20ずつ上がる。よって、レジギガスは60/120、ベンチのレジスチル、レジアイス、レジロックは110/110、ユクシーは90/90になるわ」
 進化ポケモンしかいない彼女の場を逆手に取ったカードだ。
「手札のカードを二枚トラッシュしてレジロックのレジサイクルを発動。このポケパワーは自分のトラッシュに闘エネルギーがあるときに使え、手札を二枚トラッシュすることでその闘エネルギーをこのポケモンにつけることができるようになるわ」
「闘エネルギーなんていつ……?」
「前のターン、スージーの抽選を発動したときのコストであらかじめ送っていたのよ」
 手札の鋼エネルギーと水エネルギーをトラッシュすると、ベンチにいるレジロックの点字が全て橙色に光りだして足元から闘のシンボルマークが出現。それはレジロックの体に直接吸収される。
「そしてバトル場のレジギガスをレベルアップさせるわ」
 レジギガスLV.Xが大きく雄たけびを上げる。元からの巨大さもあってかなりの迫力だ。HPもレベルアップ前から50も上がり、110/170との大台に到達。進化しないポケモンでもLV.Xとはいえこんな高いHPになるのは滅多である。
「ここからよ。レジギガスLV.Xのポケパワーを発動。サクリファイス!」
 相手のグレイシアを睨んでいたレジギガスが振り返り、私のベンチポケモン達を睨む。そして大きな足音を立てながらベンチポケモン、レジスチルの元に近づいて行く。すると自分の背の半分ほどあるレジスチルを大きな右手で掴むとそのまま持ち上げ、握り潰してしまう。
「サクリファイスは自分の番に一回使え、自分のポケモンを一匹気絶させる! もちろん貴女はサイドを一枚引いていいわよ」
「自ら気絶させるなんて……」
 この勝負で先にサイドを引いたのは桃川。しかしサクリファイスはただ気絶させて相手にサイドを引かすだけではない。
「そしてレジギガスLV.Xにトラッシュの基本エネルギーを二枚つけてダメージカウンターを八個取り除く! トラッシュにはさっきのレジサイクルでトラッシュしておいた鋼と水エネルギーが。それをつけるわ。そしてレジスチルが場を離れたことでポケボディーのレジフォームは効果を失う」
 一気にレジギガスLV.XのHPがMAXの170/170。このタフさを削り取れるカードはそうそうない。
「ただ、雪隠れの効果でレジギガスLV.Xは攻撃しても意味がないわね。ターンエンド」
「私の番です。バトル場のグレイシアをレベルアップさせて水エネルギーをつけます!」
 グレイシアもレベルアップしてHPを120/120にのばしてきた。
「これであなたのポケパワーを封じれますね」
 そう。グレイシアのポケボディー、凍てつく吹雪はグレイシアLV.Xがバトル場にいる限り相手のポケモン全員のポケパワーを封じるものだ。ポケパワーを主体としているこちらを妨げる絶好のポケボディー。
「そしてグレイシアで攻撃、雪雪崩! ワザの効果でコイントスをします。……オモテ!」
 雪雪崩は70ダメージに加えてコイントスをしてオモテならベンチポケモン全員に20ダメージを与えるワザだ。
 グレイシアの背後からポケモンバトルレボリューションの波乗りのような感じで多量の雪がこちらの陣営めがけて襲ってくる。しかし目の前で大きな雪の波が襲ってくるのを見ると結構迫力がある。思わず右腕で顔をカバーする。
「きゃっ」
 雪崩の波がこちらのポケモンを飲み込もうと、ずしんと重い音が響くと凄い風が吹きすさぶ。バトルベルトは実際の衝撃はないが、それっぽさを出すためワザのエフェクトに被せて風を噴き出す仕組みがある。
 これでレジギガスLV.X100/170、レジアイス、レジロックは90/110、ユクシーは70/90。合計130ダメージだ。
「それじゃあ今度は私のターンね。手札の鋼エネルギーをレジロックにつけてさらにレジギガスLV.Xに達人の帯をつけるわ」
 他の選手も使ってるから効果はお馴染みだがもう一度説明しておく。達人の帯はつけたポケモンのHPを20上げ、ワザの威力も20上げるポケモンの道具。しかしデメリットとして達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合は相手はサイドを一枚多く引くのだ。ただでさえとてもつもなく高いHPを誇るレジギガスLV.Xが、120/190へ。これでちょっとやそっとじゃびくともしない。
「雪隠れの効果が切れた今、精一杯攻撃出来るわ。ギガブラスター!」
 レジギガスLV.Xが右手を後ろに下げると、右手の手のひらいっぱいにオレンジ色のエネルギー球体が現れる。レジギガスLV.Xは思いっきり右手を前に突きだすと、グレイシアLV.Xを包み込むほどのとても太いレーザー光線が発射された。地面を跳ね返ったレーザーの一部が相手の手札とデッキポケットをも射る。
「ギガブラスターの効果で、あなたのデッキの一番上と手札を一枚トラッシュしてもらうわ」
 手札からは夜のメンテナンス、デッキからはクロツグの貢献がトラッシュに送られた。
 そしてギガブラスターは元の威力が100、達人の帯で20足されて与えるダメージは120。レーザーによる猛攻を受けて吹っ飛ばされたグレイシアLV.XのHPはあっという間に0。
 このワザはかなりの大技であるため次のターンにギガブラスターを撃つことができない。レーザーを打ち切ったレジギガスLV.Xは右膝を地につけて片膝座りになっている。
「これでポケパワー封じもおしまいね。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
 新たにバトル場に出てきたグレイシア70/100程度じゃこのレジギガスLV.Xの勢いは止められない。さあ、一気に行くわよ!



松野「今日のキーカードはグレイシアLV.X
   そのポケボディー、凍てつく吹雪は
   ポケパワー中心に組み立てているデッキを凍らすモノね」

グレイシアLV.X HP100 水 (DP4)
ポケボディー  いてつくふぶき
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手のポケモン全員は、ポケパワーを使えない。
水水無  ゆきなだれ 70
 コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモン全員にも、それぞれ20ダメージ。
─このカードは、バトル場のグレイシアに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 鋼+30 抵抗力 ─ にげる 1


  [No.824] 65話 ライバル! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 11:10:27   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「おれのターン!」
 今のおれの場は闘エネルギーと達人の帯をつけたカブトプス50/150。ベンチにはプテラ80/80とヤジロン50/50とこうらの化石50/50に水エネルギー一つのオムナイト80/80。
 それに対して如月のバトル場はユクシー70/70。ベンチにいるポケモンは闘エネルギー一つ乗っているグライガー60/60と闘二つのルカリオ90/90、そしてガーディ70/70だ。スタジアムは今ハードマウンテンが発動している。
「手札の闘エネルギーをこうらの化石につけることでロックリアクションが発動される。こうらの化石をカブト(80/80)に進化!」
 ロックリアクションは自分の番に手札から闘エネルギーを出してこのこうらの化石につけたとき、自分のデッキからこのポケモンから進化する進化カードを一枚選んでこのカードの上に乗せて進化させる便利なポケボディー。手札にカブトが無くても使える分、デッキ圧縮にもなって良いアドバンテージとなる。
「さらにヤジロン、オムナイトもネンドールとオムスターに進化させる」
 これで俺のベンチのポケモンが徐々に戦闘体勢になりつつある。オムスター120/120はカブトプスに次ぐこのデッキのキーカードだ。そしてネンドール80/80は強力なドローソース!
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を二枚戻してデッキから六枚になるように、つまり六枚ドロー!」
 デッキポケットに表記されている残りのデッキ枚数を確認すると残り二十八枚。デッキ切れには気をつけたいものだ。
「プテラのポケパワーの発掘を発動。デッキから化石カードを一枚手札に加える。おれが加えるのはひみつのコハクだ。更に化石発掘員を使用してトラッシュのひみつのコハクを手札に加える」
 化石発掘員はデッキかトラッシュにある化石と名のつくトレーナーか、化石から進化するポケモンを一枚選んで手札に加えるサポーターだ。化石をトラッシュしながら攻めるカブトプスとは相性がいい。
「そして手札のひみつのコハクをトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
 カブトプスの鋭い両腕のカマがユクシーを切り裂く。このワザの元の威力は20だが、手札の化石カードをトラッシュすることで威力を50上げる。更に達人の帯の効果を含めて20+50+20の合計90ダメージ。HPが70しかないユクシーは即気絶だ。
「やるわね。わたしはルカリオをバトル場に出すわ」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
「わたしのターン! ルカリオに闘エネルギーをつけて、ベンチのグライガーをグライオン(80/80)に進化。そして新たにグライガー(60/60)をベンチに出すわよっ」
 ここまで激しい手札消費をしたのにまだ七枚も残っている。手札にはまだグライオンLV.Xがいるのは分かっているが、いったい何が来るか。
「へへーん。ルカリオもレベルアップさせるわ! そして見極めを発動!」
 見極めはルカリオLV.X110/110がレベルアップした時に使えるポケパワー。このカードを手札から出してレベルアップさせたときのみ一度使えて次の相手の番に相手のワザのダメージや効果を受け付けなくするものだ。さっきの逃げたグライオンLV.Xといい小癪な真似をする。
「ルカリオLV.Xでインファイト!」
 ルカリオLV.Xは軽い身のこなしでカブトプスに近づき、手や足、体全体を使ってカブトプスに激しい物理攻撃の連打を見舞いする。80ダメージを受けてカブトプスはそのまま気絶する。おれの次のポケモンは……オムスターだな。
「インファイトを使った次のターン、このルカリオLV.Xが受けるダメージは+30されるけどもまあどうせダメージ受けないしいいわ。達人の帯の効果でサイドを二枚引いてターンエンドよ」
「おれのターン! ダメージを受けないのはそのルカリオLV.Xだけ。だったらワープポイントを使えばそれでいい!」
 開いたサイドの差は力で押し縮める! ワープポイントは互いのバトルポケモンをそれぞれのベンチポケモンと入れ替えるもの。これでルカリオLV.Xの見極めの効果は無視してターンを行える。
 おれはオムスターとカブトを入れ替え、如月はルカリオLV.Xとグライオンを入れ替えてきた。
 なるほど分かりやすい。カブトプスでいくら攻撃してもこのターンで出せる火力は(達人の帯を考慮しなければ)70であってグライオンの80/80を削ることはできない。そして次のターンにバーニングポイズンで逃げるということか。
「おれはバクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚ドローする。そしてカブトに闘エネルギーをつけてカブトプス(130/130)に進化させる。プテラの発掘を使ってデッキからかいの化石を手札に加える!」
 御膳立ては整った。
「手札のかいの化石をトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
「残念だけど、いくら手札の化石カードをトラッシュして原始のカマの威力を50上げたところで70ダメージ。グライオンのHPはギリギリ10残るわよ」
「バクのトレーニングがバトル場の隣にあるとき、このターン自分のポケモンが相手のバトルポケモンに与えるダメージは+10される」
「嘘っ!?」
 カブトプスの鋭い一撃がグライオンを仕留める。これでグライオンLV.Xのループは一旦止まった。如月は再びルカリオLV.Xをバトル場に繰り出す。
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 しかしこれでもサイド差は一枚不利。こうなれば相手の戦えるポケモンを封じ込めてひたすら攻めきるしかないか……。
 ん? 如月が拳を作ってうつむいている。どうやら体も少し震えているようだ。
「絶対こんなやつに負けたくない……。わたしなんて頑張って頑張って可愛く見てもらえるように必死になってるのに、あんたより絶対私の方が可愛いのに! たまたま大会で戦ってその後偶然遭ったからってだけで大した苦労もしないで、それなのにわたしよりも翔様の近くにいるなんて許せない!」
「……」
 急に飛び出た本音に気圧されてしまう。しかしなんでおれと翔が再会したことまで知ってんだ。
「わたしはあんたのような男みたいなやつには絶対負けたくない! あんたなんて翔様とは不釣り合いよ!」
 流石にこの言葉には衝撃を、というかショックのようなものを受けた。
 確かに言う通りかもしれない。自分なんかじゃ確かに不釣り合いかもしれない……。
「行くわよ! わたしのターン! 手札からミズキの検索を発動。このカードの効果によって手札を一枚デッキに戻し、デッキから好きなポケモンを選択して手札に加えることができるわ。わたしはウインディを手札に加えてベンチのガーディに進化させる! そしてウインディに炎エネルギーをつけるわ」
 ウインディ100/100にはフレアコンディションというポケボディーがある。このポケボディーは炎エネルギーがこのウインディについているなら、ウインディの弱点は無くなるというものだ。
「更にベンチにロコンを出すわよ」
 ベンチにロコン60/60が現れると、一気に如月の場の炎ポケモンの比率が上がる。グライオンLV.Xによるヒットアンドアウェイが通じないとわかったからの戦法転換か。
「40、80。ちょっと足りないわね。ルカリオLV.Xでインファイト!」
 如月のさっきまでの可愛らしげな様子から一変して、猛る獣のような雰囲気を受けれる。つまり、勝ちたいのだ。
 この大会に優勝したいのではなく、この試合に。
 ルカリオLV.Xは命じられた通り一瞬で間合いを詰めて拳や蹴を含めた多連段攻撃をカブトプスにぶつける。80ダメージの威力を受けたカブトプスのHPは50/130。次のインファイトは喰らうとおしまいだ。
「ターンエンドよ」
「……」
 気持ちは揺らいでいた。確かに翔は好きだ。だからこそ幸せになって欲しい。おれが勝ったところで本当に翔は喜ぶのだろうか。
「なーに弱気になってんのよ! それでもあんたはわたしのライバルなの?」
「ライバル……」
「ライバルよライバル。あんたとわたしはライバルよ。もしかしてわたしがさっき言ったこと気にしてるの?」
「……うん」
 そういえば如月は年下だったなと今さら関係ないことを思い出す。
「これからがあるじゃない! あんたがそのことで気にかけるならこれからなんとかしていけばいいの。可愛くなりたいとかそんなこと思えれば今はそれでいいじゃない。もちろん、わたしに勝ってからだけどね」
 背丈も差があるはずなのに、年上に説教された気になった。が、嫌だとはまったく思わなかった。むしろこんな自分にここまで声をかけてくれただけでもうれしい。そう、これからだよね。
『薫、もし父さんが何かあったら俺のでっかい化石を掘る夢を頼むな』
 小さい頃から父さんがよく言っていたことだった。そんな憧れの父の背を見て成長していた自分は小学校のころから今のような感じでオトコオンナと言われることもあったが別段気にはしていなかった。父の夢を追おうとするのに一生懸命だったからそんなことは別段どうでもよかった。
 しかし、そんな父とは対照的に母はこう言った。
『薫は自分がやりたいと思ったことをやりなさい。お父さんの言う事は……、まあそんなに心に受けないで自分で決めなさい?』
 今分かった。自分がやりたいことが。
「お、お……」
「お?」
「わ、あ、あたしのターン!」
 不安ながらも如月を見ると、そこには僅かながらも笑顔のようなものが見受けられた。
「あ、あたしはオムスターに水エネルギーをつけて、プテラの発掘でデッキからこうらの化石を加える……わ」
 インファイトを使ったルカリオLV.Xは、その反動としてこのターンに受けるダメージが+30されるデメリットを抱えている。そこをうまく突きたいのだが、これもまたさっきのグライオンと同じ。
「いくらインファイトで弱ってるからって、原始のカマしても10余るわよ? 流石にさっきと同じ展開にそうそう上手く行くわけないわよね」
「サポーター、化石発掘員を発動。このカードの効果によってデッキまたはトラッシュから化石カードまたは化石カードから進化するポケモンを手札に加えれる。あ……あたしが加えるのはトラッシュにあるカブトプス!」
 残念ながら如月の思惑通りになるもバクのトレーニングは手札にない。そして達人の帯も。自分のデッキの中で打点を強化するこの二枚が手元にない。だったらとりあえずダメージを与えることが先決。
「手札のひみつのコハクをトラッシュして原始のカマ!」
 元の威力20にひみつのコハクをトラッシュして+50。更にインファイントの効果でダメージは+30加わり100ダメージ。インファイトの反動で片膝を立てているルカリオLV.Xはカブトプスの攻撃を受けて倒れこむ。うんしょと体全体を使って立ち上がるもののHPは10/110。
 ここまでいけばダメージを少しでも与えれたなら倒せる! まだ如月のベンチは戦える準備が不完全だったのでこのターンのうちに仕留めておきたかったがそこまではいかなかったようだ。
「さあ、わたしのターン! 手札のサポーター、ライバルを使うわ。デッキの上から五枚をめくって相手に見せ、相手はその中から三枚選ぶ。その選んだカードがわたしの手札に加えられる!」
「ライバル……」
「良い響きよね? さあ、選んで頂戴」
 相手のバトルテーブルの情報がこちらのバトルテーブルに転送される。タッチパネル形式でモニタを確認する。如月のデッキは上からハードマウンテン、キュウコン、炎エネルギー、闘エネルギー、バトルサーチャー。
 キュウコンは相手のアドバンテージになるから余り手札に加えさせたくない。そしてエネルギーも同じく。だがどちらかを選ばざるを得ない。
「じゃあ闘エネルギー、ハードマウンテン、バトルサーチャーを」
「それじゃあ早速グッズカードのバトルサーチャーを発動するわ。トラッシュのサポーターを手札に一枚加える。わたしはミズキの検索を手札に戻すわ。早速もらったばかりの闘エネルギーをウインディにつけて、ベンチのロコンをキュウコンに進化させるね」
 手札にもキュウコンがいたのか! それじゃあさっきわざわざキュウコンを避けて三枚選んだ意味はない。むしろエネルギーを与えてしまっただけだったようだ。
 キュウコン80/80は色化けという変わったポケパワーがある。相手のポケモン一匹と同じタイプになるというものだが、それがどう絡んでくるか。
「ルカリオLV.Xのインファイト!」
 ルカリオLV.Xの他のワザでは威力が最大40まで。こちらもインファイトでしか倒せない歯がゆい状況だ。なぜ歯がゆいかというと、ルカリオLV.Xの他のワザはエネルギーが二つ以下。どうせ次のターンにルカリオLV.Xは気絶させられてしまうだろうから、その前にハードマウンテンの効果で今着いているエネルギーをベンチのウインディなどにつけかえた方が間違いなく勝手がいい。
 しかしエネルギー三つを要するインファイトを使わなければカブトプスを倒すことができないというわけだ。
 二撃目のインファイトを食らったカブトプスはもう立ち上がることができない。ベンチには次のカブトプスがまだいないのでここはオムスターで勝負だ。
「サイドを一枚引いてターンエンド。さあこっからが勝負よ!」



石川「今回のキーカードはルカリオLV.X。
   見極めはレベルアップしたターンしか使えないけど、
   相手のワザのダメージでなく効果もかわす強力なポケパワー!」

ルカリオLV.X HP110 闘 (DP2)
ポケパワー  みきわめ
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。次の相手の番、このポケモンはワザによるダメージや効果を受けない。(このポケモンがバトル場を離れたなら、この効果は無くなる。)
闘闘無  インファイト 80
 次の相手の番、自分が受けるワザによるダメージは「+30」される。
─このカードは、バトル場のルカリオに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 1


  [No.825] 66話 機転 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/12/14(Wed) 11:41:04   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「私の番です!」
 桃川めぐみのバトル場はグレイシア70/100。ベンチには悪エネルギー一つついたブラッキー70/100とエーフィ100/100、ネンドール80/80が控えている。
 その一方で私の場は達人の帯と水エネルギー二枚、鋼と闘エネルギーが一枚ずつついているレジギガスLV.X120/190。そしてベンチにはレジアイス90/110、闘エネルギー一枚と鋼エネルギーが一枚ついたレジロック90/110、ユクシー70/90がいる。
 私の場のポケモンのHPの高さからも予想できるでしょうけど、スタジアムはたねポケモンのHPを20上げるキッサキ神殿が発動している。
 サイドは共に五枚だが、どちらが有利かは誰だって分かるだろう。
「グレイシアに水エネルギーをつけて、手札からグッズカードのポケモンレスキューを発動。トラッシュのポケモンを一枚手札に戻します。私はイーブイを手札に戻し、ベンチへ出します」
 さっきからのプレイングを考えるともしやこのデッキでメインで戦えるポケモンはイーブイしかいないのかしら。イーブイの元のHPは60だが、キッサキ神殿の効果で20増幅し80/80とネンドールと同値になっている。
「更にネンドールのコスモパワーを使います。手札を二枚デッキに戻して六枚になるようにドロー」
 彼女の手札は最初は四枚。二枚戻したので引くカードは四枚だ。
「ミズキの検索を使います。手札を一枚戻してデッキから好きなポケモンを一枚手札に加えます。私はシャワーズを選びますね」
 今引いたシャワーズ以外にもグレイシアとエーフィ、ブラッキー以外にもブイズがまだまだ控えているようだ。
「グレイシアで雪隠れ! コイントスは……オモテです」
 雪隠れは威力30のワザで、効果でコイントスを投げてオモテの場合このグレイシアは次の相手の番にワザのダメージや効果を受けない。激しい吹雪が発生し、レジギガスLV.Xを襲ってHPを90/190まで下げると同時にグレイシアの周りに雪のカーテンのようなものが現れる。
「私のターンよ。レジギガスLV.Xのサクリファイスを発動。ベンチのポケモンを一匹気絶させ、ダメカンを八つ取り除くわ」
 80も回復したためHPは170/190とほぼ全回復。サクリファイスはこれ以外にもトラッシュの基本エネルギーを二枚まで選んでこのポケモンにつけるという効果もあるのだがトラッシュには残念ながら基本エネルギーがない。とにかく今は主軸となっているレジギガスLV.Xを気絶させないことだけを念頭にするべきだろう。
 その巨体を180度回転させてこちらにむいたレジギガスLV.Xは私のベンチにいるユクシーをガッシリ握ってそのまま握りつぶしてしまう。何度も見たが決して楽しい光景じゃないわね。
「サイドを一枚引きます」
「攻撃が防がれているからやることがないわ。ターンエンドよ」
「私の番ですね、手札の水エネルギーをイーブイにつけてこのイーブイをシャワーズに進化させます。ネンドールのコスモパワーを発動! 手札を二枚戻して四枚ドローしますね。ではグレイシアで再び雪隠れ!」
 シャワーズは進化したためキッサキ神殿の恩恵は受けれなくなったが代わりにエーフィのサンライドヴェールの効果を受けれるようになり、再びHPが20上がって110/110。
 コイントスの結果は再びオモテ。先ほど回復したばかりのレジギガスLV.XのHPを140/190へと削っていく。
「私のターン。……」
 基本的に私のデッキは力でゴリ押す短期決着型のデッキ。不本意にもこういう風に長期戦を強いられるとやることがなくなってしまう。
 それに追い打ちをかけるかのように、手札のカードは良いとは言えない。
「エムリットをバトル場に出すわよ。そしてサイコバインドを使うわ」
 エムリット90/90(キッサキ神殿の効果でHPが+20されている)のポケパワー、サイコバインドはこのカードを手札からベンチに出した時に使え、次のターン相手のポケパワーを使えなくさせるというカードだ。だが相手のポケパワーを持ったポケモンはネンドールのみ。あまりプラスの方向には働いてくれなさそうだ。
「エムリットに超エネルギーをつけてターンエンド」
「行きますね、私は水エネルギーをシャワーズにつけてグッズのミステリアス・パールを使います。サイドを全て確認し、その中にあるポケモンのカードを一枚手札に加えて発動したミステリアス・パールを新たにサイドに置きます」
 攻め手にかける桃川と、攻めあぐねる私。どちらも膠着状態だったのだが、その膠着がようやく解ける。
「グレイシアでもう一度雪隠れ行きます」
 しかしここでのコイントスはウラ! ようやくグレイシアを守る盾はなくなった。攻撃を受けたレジギガスLV.XのHPは110/190と半分に近くなっているが今はそんなに重要ではない。
「私のターン、ハマナのリサーチを発動。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを手札に二枚まで加える。私はユクシーとアグノムを手札に加えるわ」
 今引いた二匹を両方ともベンチに一気に出すとベンチが埋まってしまう。レジギガスLV.Xのサクリファイスを使えば減ると言っても、結局は気絶扱い。そんなに調子に乗るわけにはいかない。ここは温存か。
「レジギガスLV.Xでギガブラスター!」
 轟音と巨大な橙色のレーザーがグレイシアと手札、デッキポケットを襲う。ギガブラスターの効果は攻撃した後相手のデッキトップと手札のカード一枚を強制的にトラッシュさせるものだ。
 相手のデッキの一番上からはブラッキー。手札からは悪エネルギーがそれぞれトラッシュされる。
 肝心のグレイシアは威力100に達人の帯で20足された120ダメージを受けて気絶。これで雪隠れで攻めあぐねる心配は取り払われた。
 次の桃川のポケモンはシャワーズ。先ほどからベンチで育てていたポケモンだ。
「サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「私の番です、手札から時空のゆがみを使います」
 時空のゆがみはコイントスを三回し、オモテの数だけトラッシュにあるポケモンを手札に加えるグッズカードだ。そのコイントスの結果はウラ、オモテ、ウラ。彼女はイーブイを再びトラッシュから手札に戻した。
「シャワーズに雷エネルギーをつけてイーブイをベンチに出し、更にサポーターカードのクロツグの貢献を発動。トラッシュの基本エネルギーまたはポケモンを合計五枚まで選んでデッキに戻します。私はトラッシュの水エネルギー三枚と、グレイシア、グレイシアLV.Xをデッキに」
 イーブイのHPはスタジアムの効果で20追加され80/80。これで通算六回目の登場だ。 
「シャワーズで破壊の渦潮攻撃! この効果でウラが出るまでコインを投げます」
 コイントスはオモテ、オモテ、ウラ。このコイントスのオモテの数だけ、相手のエネルギーをトラッシュさせるという効果を持つ。
「それではレジギガスLV.Xの水エネルギーを二枚トラッシュしてもらいます!」
 レジギガスLV.Xの足元に大きな渦潮が発生し、レジギガスLV.Xを飲み込もうとする。エネルギー三つで使うワザとしては60ダメージに二枚のエネルギーをトラッシュというのはかなり上々だろう。これでレジギガスLV.Xの残りHPは50/190。
「私のターン。アグノムをベンチに出してポケパワー、タイムウォークを発動」
 ベンチに出てきたアグノム90/90(通常は70/70だが、スタジアムのキッサキ神殿の効果でHP+20)の足元(?)を中心に紫色の波紋が発する。
「この効果はサイドを確認し、その中にいるポケモンを望むなら一枚手札に加えれるもの。加えた場合は手札から一枚カードをサイドにセットするの。……、ノーチェンジね」
 というのも単純にサイドにポケモンがいなかっただけなのだが。
「そしてエムリットに超エネルギーをつけて手札からグッズカードレベルMAXを発動。コイントスをしてオモテなら自分のポケモンをレベルアップさせるわ」
 レベルアップさせるだけならなんてことないと思うかもしれないが、レベルアップできるのはバトル場にいるポケモンのみ。この効果でならベンチのポケモンもレベルアップさせることが可能だ。
「オモテね。ベンチのアグノムをアグノムLV.Xにレベルアップ!」
 このときレベルアップするLV.Xのカードはデッキから選択しなければならない。手札やトラッシュでは意味がないのだ。また、アグノムLV.X110/110はサイキックオーラというポケボディーを持っている。これにて自分の場の超ポケモンの弱点はすべて無くなる。
「そしてサクリファイスを発動。ベンチのレジアイスを気絶させ、トラッシュにある水エネルギー二枚をこのポケモンにつけてHPを80回復させるわよ」
 トラッシュさせられたエネルギーも、受けたダメージもこれで大丈夫HPは130/190。これでなんとか……。いや、違う。これはわざとサクリファイスを使わせているのか。
「サイドを一枚引きますね」
 そう、達人の帯がついている上に高火力を誇るレジギガスLV.Xは私の攻撃の要。その分ダメージを受けるとすぐにサクリファイスで回復させているのだがそれを逆に利用しているのか。
 自力で高HPを誇る私のポケモン一匹ずつ倒すより、レジギガスLV.Xによる攻撃を無理に受けてまでもサクリファイスによって引くことのできるサイドで自分のサイドを減らしていく作戦のようだ。しかし分かってしまえば怖いことはない。
「レジギガスLV.Xでギガパワー!」
 ギガブラスターは使った次のターンにもう一度使えないという反動効果を持つので不本意だがこのワザを使うしかない。
 ゆっくりと、それでいて力強く前進するレジギガスLV.Xはシャワーズの元に来ると両手を組んでそのままハンマーのように両手を振り下ろす。ズシンという鈍い音が響いた。
 このワザの元の威力は60だが、効果で40ダメージ追加することができる。その分レジギガス自身が40ダメージを受けるのだが。達人の帯の効果も含め120ダメージ、110しかHPのないシャワーズはこれで気絶。一方攻撃した方も90/190。このままレジギガスLV.Xを捨てるのか維持するべきか。
 次のポケモンはまだ進化していないイーブイ。私がサイドを引いたことでこれで両者残りのサイドは三枚。ここからが終盤、油断はなおのこと出来ない。
「それじゃあ私の番ですね。手札からポケモンレスキューを使い、イーブイを回収してベンチに出します」
 七回目のイーブイ80/80(キッサキ神殿の効果含め)を見ると、流石に萎えてくる。
「バトル場のイーブイをブースターに進化させ、炎エネルギーをつけます」
 ブースター110/110(エーフィのサンライドヴェールの効果含む)、シャワーズと来ると次は予測できる。それにさっきのシャワーズに雷エネルギーがついていたということが予想をより盤石にする。
「ネンドールのコスモパワーで手札を一枚デッキボトムに戻してデッキから六枚引きます。それではブースターで炎の牙攻撃!」
 ブースターがレジギガスLV.Xの元に駆けつけて足に炎を纏った牙で噛みつく。大きさ的に大したことはなさそうに見えるのだがHPバーはしっかりと30削って60/190。
「コイントスをしてオモテだったら炎の牙の効果で相手のバトルポケモンは火傷になります」
 ここで下手に火傷になると相手の思うツボ。だが運よくコインはウラを出してくれた。
「それじゃあ私のターン。手札の闘エネルギーをレジロックにつけ、手札からユクシーを場に出してセットアップを発動。今の手札は三枚なので四枚ドロー」
 ユクシーもキッサキ神殿の効果を受けHPは90/90。しかしさっきからドローで引いてくるカードがイマイチだ。
「レジギガスLV.Xでギガブラスター!」
 あえてここでサクリファイスを使えばそれこそ思い通りになってしまう。ここはレジギガスLV.Xを切る勢いで突っ込んでいってしまおう。
 再び破壊力抜群の攻撃がブースターを。手札を。デッキを襲う。あっという間にブースターを気絶に追い込み、相手の手札の時空のゆがみとデッキの一番上にあるグレイシアLV.Xを丸ごとトラッシュだ。しかしまたしても出てくるポケモンはイーブイ。
「サイドを一枚引いてターンエンドよ」
 ようやくサイドが私の方が一枚上回った。このままあと二枚、なんとか突っ切れるか。
「私だって、行きます! イーブイに雷エネルギーをつけ、ミズキの検索を発動! 手札を一枚戻してデッキからサンダースを手札に加えます。そしてイーブイをサンダースに進化!」
 これでサンダースもHPが110/110。イーブイから進化するポケモンのHPを20上げるサンライトヴェールがやはり厄介だ。
「サンダースで雷の牙!」
 さっきと同じような感じのワザだが、威力はブースターのそれに比べて10劣る20。レジギガスLV.Xは40/190とまだ二発は耐えれる。
 そしてここでもコイントス。今度は火傷よりも厳しくマヒだ。だが今さらどっちもどっちのような気がしないでもないが。
「オモテです」
 レジギガスLV.XのHPバーにマヒと黄色い字で表示される。マヒはワザを使う事も逃げることも出来ない特殊状態だ。そしてサクリファイスも特殊状態だと使えない。そして桃川の顔が少し緩む。
 頬が緩むと言う事は余裕が出来たと言う事か? まだHP40をあるが、それをあっさりひっくりかえせるのだろうか。いや、意外と簡単だ。キッサキ神殿をトラッシュしてしまったり達人の帯をはずしたりすればHPは20下がり、次のサンダースの雷の牙でも十分倒せる。
「私のターン、ドロー。マヒで自分から逃げられないのならば、手札からワープポイントを発動するわ。その効果で互いにバトル場とベンチのポケモンを入れ替える!」
 桃川はブースターからエーフィへ。私はレジギガスLV.Xからユクシーへ。私の今の場ではレジギガスLV.X以外でエーフィを一撃で砕くポケモンがいないと踏んだからか。
「ユクシーに超エネルギーをつけて、ユクシーをレベルアップさせるわ。そしてユクシーLV.Xのポケパワー、トレードオフを発動するわ」
 ユクシーLV.X110/110(キッサキ神殿の効果含め)のトレードオフは自分のデッキのカード上から二枚見て片方手札に加えてもう片方をデッキの底に戻す効果だ。今確認した二枚はプレミアボールとポケドロアー+。わたしが選んだのはプレミアボールだ。
「続いてグッズのプレミアボールを発動。デッキまたはトラッシュからLV.Xのポケモンを手札に一枚加える。私はデッキからエムリットLV.Xを加えるわよ。そしてユクシーLV.Xの超エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、ベンチのエムリットをバトル場に出してレベルアップ!」
 これでシナジー完成! エムリットLV.X110/110(キッサキ神殿の効果含む)が私のレジギガスLV.Xに次ぐもう一枚のキーカード。
「エムリットLV.Xで攻撃。ゴッドォブラスト!」
 エムリットLV.XとアグノムLV.X、ユクシーLV.XがZ軸方向に輪を結ぶように集まり、回転し始めるとと三匹の間に紫色のエネルギー球体が集まる。そして回転が目まぐるしく早くなった刹那、エネルギー球体がレーザーとなってエーフィめがけて襲いかかる。
 このゴッドブラストはアグノムLV.X、ユクシーLV.Xがいないと使えない上エムリットLV.Xについている全てのエネルギーをトラッシュしないと使えないワザだが威力はポケモンカード最強の200。今のところ200を越えるカードがないので実質一撃必殺だ。しかも追い打ちをかけるようにエーフィの弱点である超タイプを突いているので+20され220ダメージ。HPが100しかないエーフィには十分すぎる。
 これでエーフィが気絶したのでサンライトヴェールの効果は失われ、ベンチにいるブラッキーとサンダースのHPはそれぞれ20下がって元通りの50/80と90/90に戻る。桃川は次のポケモンにサンダースを選んだ。だが、
「サイドを一枚引いてターンエンド!」
 これで残りサイドは一枚。実質桃川は詰みである。
 たとえ雷の牙で連続してマヒを出してエムリットLV.Xを倒したところでその次に控えているレジギガスLV.Xは倒せない。
 彼女のブイズデッキは小粒揃いのテクニカルタイプ。こういう状況に持ち込まれるとどうしようもないのは本人が一番分かっているはずだ。
 しばらく黙りこんでいた彼女が口を開いた時、やはりね、と思った。
「……参りました」
「どーも。いい勝負だったわ。途中何度か危ないと焦ったわよ」
「いえいえ、私の力不足です。またいつか対戦するときがあれば今度は負けませんよ」
「ええ、望むところよ」
 対戦に熱中していたため気付かなかったが隣の山本信幸が戦っていたステージはもう勝負は終了していた。様子を見る限り予想通りというか山本信幸が勝ったようだ。
 次の二回戦ではとうとう山本信幸との対戦。それを意識すると嫌な汗が背をつたうのを感じた。



松野「今回のキーカードはレジギガスLV.X。
   サクリファイスは相手にサイドを引かせてしまうけども超強力。
   そしてなによりギガブラスターは破壊力ばっちしよ!」

レジギガスLV.X HP150 無 (破空)
ポケパワー  サクリファイス
 自分の番に1回使える。自分のポケモン1匹をきぜつさせる。その後、自分のトラッシュの基本エネルギーを2枚まで選び、このポケモンにつけ、このポケモンのダメージカウンターを8個とる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
水闘鋼無  ギガブラスター 100
 相手の山札のカードを上から1枚トラッシュ。相手の手札から、オモテを見ないでカードを1枚選び、トラッシュ。次の自分の番、自分は「ギガブラスター」を使えない。
─このカードは、バトル場のレジギガスに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 − にげる 4


  [No.834] 67話 天王山 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:23:38   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 他の二試合も終わり、一回戦はこの試合だけとなった。残りサイドは如月が二枚、こちらは四枚。
 その如月のバトル場には残りHP10/110のルカリオLV.X、ベンチにはグライガー60/60とキュウコン80/80。更に炎と闘エネルギーが一枚ずつついているウインディ100/100がいる。
 こっちのバトル場には水エネルギーが二枚ついたオムスター120/120とベンチにはプテラ80/80にネンドール80/80。終盤に来てかなり余裕がなくなってきた。
「あ、あたしのターン!」
 なんだかまだ慣れないな……。ちょっと自分でも恥ずかしいような、なんというか。いや、そんなことを考えてる暇はなかった。
「プテラの発掘でデッキからかいの化石を手札に」
 プテラの発掘は自分のデッキからかいの化石、こうらの化石、ひみつのコハクのうち一枚を手札に加えるカード。ずがいの化石などには対応していない。
「手札からこうらの化石をベンチに出してグッズカードのふしぎなアメを発動。自分の場のたねポケモンから進化するポケモンを手札から選んで進化させる。あたしはこうらの化石をカブトプスに進化させるわ」
 カブトプス130/130の三度目の登場だ。指定された手札をトラッシュしないと高い火力が出せないものの、やはりうちのエースカードだ。
「ネンドールのコスモパワーを発動。手札を一枚戻して二枚ドロー」
 コスモパワーは手札を一枚か二枚デッキの一番下に戻し、手札が六枚になるようにドローするポケパワーだ。
「とりあえずはオムスターで攻撃。原始の触手!」
 のろい動きでルカリオLV.Xの元まで詰め寄ったオムスターは触手を使ってルカリオLV.Xの体を縛り上げるとそのまま締め上げる。このワザの元々の威力は30。それに自分のトラッシュにある化石カードの数かける10ダメージ追加出来る。今あたしのトラッシュにはひみつのコハクとこうらの化石が二枚、かいの化石が一枚あるので50追加となり80ダメージ。残りわずかしかHPのないルカリオLV.Xはこれで気絶だ。
「わたしの次のポケモンはウインディよ」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
「あと一息ね。わたしのターン! 手札の炎エネルギーをウインディにつけ、更にミズキの検索を発動。手札を一枚戻してデッキから好きなポケモンを手札に加えるわ。わたしが加えるのはグライオン! ベンチのグライガーを進化させるわよ」
 今、如月の手札にはグライオンLV.Xがいる。ここでグライオン80/80がレベルアップしたとき、序盤と同じように状態異常ラッシュを食らうようになってしまうことへの対策も練っていかなければ。
「ウインディで怒りの炎!」
 真っ赤な炎を体に纏ったウインディがオムスター目がけ突進してくる。簡単に撥ねられたオムスターのHPは60減って60/120。怒りの炎は威力60に、炎エネルギーを一つトラッシュしてこのポケモンに乗っているダメカンの数かける10だけ威力が上がるワザ。だがまだウインディにダメカンはないので威力は60のままだ。
「怒りの炎の効果でこのポケモンの炎エネルギーをトラッシュするわ。ターンエンド」
「あたしのターンだ。カブトプスに闘エネルギーをつけて……」
 ウインディのHP100に対し、原始の触手の威力は80。そしてウインディは水タイプに対し弱点+20を持っている。本来なら80+20でなんなくウインディを倒せる。……はずなのだがウインディにはフレアコンディションというポケボディーがある。このポケボディーはウインディに炎エネルギーがついているとき、弱点が全てなくなるというものだ。だから原始の触手では倒せない。
 いや、出来る。化石カードの基本効果をすっかり忘れていたじゃないか。
「よし、プテラの発掘でこうらの化石を手札に加えて手札からベンチにこうらとかいの化石を出す……わ」
「今さらそんなに化石を出してなんになるのよ」
「この二枚の化石を自身の効果でトラッシュさせるわ! もちろんこの効果はトラッシュするだけであって気絶判定にはならない」
「自分で自分をトラッシュ……?」
「全ての化石カードは、このカードの持ち主は自分の番に場からこのカードをトラッシュしてよい、この効果は気絶とはならない。という効果を持っている。これを使わせてもらっただけだ」
「だからそんなことして何になるのよ」
「トラッシュの化石が増えたと言う事だ。……いや、言う事よ。オムスターで原始の触手!」
 このワザはトラッシュにある化石の数だけ威力が増すワザ。元の威力30に対し、これでトラッシュの化石は七枚で足される威力は70。よって与えれるダメージは100! 弱点計算無しで決めれた。ウインディの巨体も軽々と持ち上げた触手はHPバーが底に尽きるまで絞め続けた。
「これで追いついた!」
「む……。わたしの次のポケモンはグライオンよ。分かってるわよね」
「う……」
 ウインディを倒したことによってサイドはどちらも二枚ずつ。だがダメージを受けているオムスターを抱えている分こちらが幾分不利だ。
「わたしのターン。手札の炎エネルギーをキュウコンにつけ、グライオンをレベルアップ! そしてスピットポイズン!」
 グライオンLV.X110/110が羽を広げて飛んできて、オムスターに噛みつく。オムスターのHPバーにマヒと毒のアイコンが現れた。
 スピットポイズンはレベルアップしたときにだけ使えて相手のポケモンを毒とマヒ状態にする恐ろしいポケパワーだ。
「さらにグライオンLV.Xでバーニングポイズン! 相手を毒または火傷にし、その後このポケモンについているカードを自分の手札に戻してもよい。この効果で火傷を選ぶわ。そしてこのグライオンLV.Xはまだ手札に戻さない!」
 状態異常を三つも抱えるハメになってしまった。如月のターンが終わると同時にポケモンチェック。毒のダメージで10ダメージを受けHPは50/120。そして火傷はコイントスを行ってオモテならノーダメージ、ウラなら20ダメージ。ここでウラを出すと余裕がなくなる。が、無情にもコイントスの結果はウラ。これで残りHPは30/130。
「あたしのターン。手札の闘エネルギーをカブトプスにつけて、アンノーンG(50/50)をベンチに出す……わよ」
「アンノーン……?」
 マヒになっているオムスターはワザを使うのはもちろんベンチに逃げることも出来ない。
「やることがないのでターンエンドだ」
 ここで再びポケモンチェック。毒のダメージで10受け、続いて火傷の判定。ここでオモテを出さなければオムスターはここで気絶、この後始まる如月のターンで相手のポケモンの攻撃をモロに受けてしまう事になる。お願いっ……!
「うーん」
 と唸ったのは如月の方だ。なんとかオモテを出したのでオムスターは延命。そして二回目のポケモンチェックなのでマヒもここで自動的に回復。しかしオムスターのHPはもう20/130しかない。
「わたしのターンよ。手札から炎エネルギーをキュウコンにつけてターンエンドね」
 グライオンLV.Xは逃げるエネルギーが0。その気になればキュウコンでオムスターに止めをさすことができたのだろうがする必要がないと判断されたのだろうか。
 毒のダメージで残りHPは10。そして火傷の判定。ここでオモテが出ればオムスターで……。
「運はあまり良い方じゃなかったわね」
 無情にも結果はウラ。これでオムスターのHPは尽きて気絶となる。先にリーチをかけたのは如月だった。あたしの最後のポケモンはカブトプス。しかし、化石カードはもうデッキに一枚も残ってはいない。このデッキにはひみつのコハクとかいの化石が三枚ずつ、こうらの化石が四枚という構成にしてあるのだ。
 カブトプス得意の原始のカマは効果を使うことはできず、ただの20ダメージしか与えれない地味なワザに降格してしまう。
「あたしだって負けたくない……。あたしのターン! 手札の闘エネルギーをカブトプスにつけて、アンノーンGのポケパワー、GUARDを発動! ベンチにいるこのポケモンについているカードをトラッシュし、このカードをポケモンの道具として自分のポケモンにつけることができる。あたしはカブトプスにアンノーンGをつける」
 ベンチにいたアンノーンGがバトル場にいるカブトプスの元までやってきてシールを貼り付けたかのようにカブトプスにひっついた。
「カブトプスで岩雪崩攻撃!」
 大量の岩が相手の場を一斉に襲いかかる。このワザは威力60、効果は相手のベンチポケモン二匹にも10ダメージを与えるというものだ。このワザでグライオンLV.XのHPは50/110。ベンチにいたキュウコンは70/80。如月には他のベンチポケモンがいないので岩雪崩のダメージを受けるポケモンはこの二匹だけだ。
「しつこいわね。わたしのターン! グライオンLV.Xでバーニングポイズン!」
 グライオンLV.Xがカブトプスに噛みついてきた。だがしかしカブトプスには先ほどと同じように状態異常のマーカーが現れることはなかった。
「ど、どうして?」
 驚きを露わにして戸惑う如月、勝負どころでついにボロが出てしまった。相手のカードのテキストを読むという至極普通な行為を忘れると言うミスだ。
「アンノーンGがポケモンの道具として働いている時、アンノーンGをつけているポケモンは相手のワザの『効果』を一切受け付けない! 攻撃するならダメージを与えるワザで戦うべき……ね」
「しまっ……。でもバーニングポイズンの効果でグライオンLV.Xを手札には戻すわ。これはグライオンLV.Xに対する効果であってカブトプスに対する効果ではないもんね」
 如月お得意のヒット&アウェイ。だがしかしなぜキュウコン70/80しか場に残らないのを承知でそんなことを。
 原始のカマが来ないと分かるのはデッキに何を何枚入れたかしっている自分だけのはず。原始のカマを食らってしまえばキュウコンは気絶して、それで勝負は終わりなのだ。
「あんたのデッキにもう化石カードがないのは分かり切ってるわよ」
「……」
「さっきからずっと続けていたプテラの発掘を、急に使わなくなった、いや、使えなくなったと言った方がいいかしら。そこから簡単に導き出せるわよ。そして手札についてでもさっきのオムスターの原始の触手のワザの威力を上げるために使った策のときのあんたの表情見ればあれで化石が尽きたっていうことはすぐに分かるわ。喜怒哀楽が浮かびやすいのがあんたの弱点ね」
 何も言い返せない。御名答です。そんなに表情に出しているつもりはなかったのだがこれはこれからの課題かな。でも、この試合はまだポーカーフェイスにはならないでいよう。わざとニヤッと笑みを作る。
「一つだけ忘れていたことがあるんじゃないか?」
「なっ、何よ。そんなブラフ(※はったり)には引っ掛からないわよ」
「ならば自分で確かめる……のよ。あたしのターン、手札からサポーターカードのバクのトレーニングを使うわ」
 如月の表情が驚きと慄きで一杯になった。バクのトレーニングはデッキからカードを二枚ドローする以外にもう一つ効果を持つサポーターだ。
「確かに化石カードはもうデッキにはない。でもそれでもバクのトレーニングが一枚しかないとは限らない」
 そのもう一つの効果はこのカードを使ったターン、自分のポケモンの与えるダメージの量を+10するもの。
 そう、中盤でグライオンを倒したときと似ているシチュエーションだ。
「カブトプスで岩雪崩!」
 威力が+10されてこのワザの威力は70。そしてキュウコンの残りHPは70/80。そして如月のベンチポケモンは一匹もいない。戦えるポケモンがベンチにいなくなったことでこの勝負は決着となった。
「あんたの勝ちね。約束通り、翔様には───」
「そのことなんだけど、やっぱりその賭けやめないか?」
「えっ?」
 試合が終わって握手を交わしながら如月に提案してみる。
「そんなことしても誰も嬉しくないからそんな賭けやめよう」
「でも。あんた」
「またどこかで会えることを楽しみにしてる……わ」
「はぁ。分かったわ。そこまで言うなら賭けはなかったことにしてあげる。……それじゃあ、またね」


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 おれ……いや、あたしよりも年が一つ下なのにそんなあたしよりも強い意思を持って、そして一度口にしたら曲げない性格で。そんな彼女の事は忘れないだろう。自分が変わるきっかけとなったライバルなのだから。
 そういえばメルアドか何か聞いとけば良かったなあと、人ごみに紛れて消えてしまった如月の背中を探しつつぼんやり思うのであった。



「ようやく一回戦も終わりね、一之瀬君」
「そうですねえ。良い試合多くて見応えありますね」
 スペース的にバトルベルトを使った勝負は同時に四つしか行えない。32人いた一回戦は四つに分けて対戦していたが、16人に減った二回戦では二つに分けて対戦することになる。
 そして能力者は高津洋二は沙羅比香里と、山本信幸は私こと松野藍と対戦する。
「絶対に勝たなくちゃ。こんな変な能力のせいで私達のポケモンカードが汚されるなんてたまらないわ」
「松野さん……」
「もし、私に何かあった場合は悪いけどよろしく頼むわ」
「珍しく弱気ですね」
「ええ、何せ山本信幸は対戦相手を植物状態にさせてしまう最悪の能力者だから」
「……」
 一之瀬君の難しそうな顔は、普段見る穏やかなそれとは別人のように見えた。



石川「今日のキーカードはカブトプス。
   闘エネルギー一個でMAX70ダメージ。
   序盤から一気に畳み掛けれるわ!」

カブトプスLv.59 HP130 闘 (DPt4)
闘  げんしのカマ 20+
 のぞむなら、自分の手札から、「かいの化石」「こうらの化石」「ひみつのコハク」のうち1枚を選び、トラッシュしてよい。その場合、50ダメージを追加。
闘無無  いわなだれ 60
 相手のベンチポkモン2匹にも、それぞれ10ダメージ。
弱点 草+30 抵抗力 − にげる 2

───
おまけ・ポケカ番外編
「芸能人事情」
恭介「なあなあ聞いてくれよ!」
翔「朝から騒がしいなおい」
恭介「俺さ、昨日さ、五反田ではるな愛を見たんだ! 芸能人みっけたの久しぶりだったぜ」
翔「俺もこないだ学校の帰りに生田斗真くん見たぞ」
恭介「いやいやはるな愛の方がレアだろ」
翔「一体レアの基準はなんだよ」
恭介「そういえば蜂谷はなんか芸能人と会ったことある?」
蜂谷「俺は……。先週に新宿のビッグカメラの傍で岡本信人を見つけたから声をかけたら野草を食わされた……」
翔&恭介「……」


  [No.835] 68話 弱気 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:24:49   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「石川おめでと」
 辛くも勝利をもぎ取ってきた石川が溢れんばかりの笑みを携え俺達の元に戻ってきた。
「……。あのさ、なんかよそよそしいから下の名前で呼んでくれない?」
「下の名前はえーっと。薫だっけ?」
「うん」
「薫、おめでと」
「うん、ありがとう」
 あれ、こいつってこんなキャラだったかな。
「けっ、陽気な事だな」
 拓哉(裏)が呆れた目でこちらを見る。こいつの言いたいことはだいたいわかる。
「はいはい。二回戦ももう始まるな」
「二回戦といえば翔とあたしが対戦だね」
 と、薫。そういやそうだった。他にもこの二回戦は蜂谷を下した沙羅比香里と、能力者の高津洋二の対戦。そして松野さんともう一人の能力者の山本信幸の対戦もある。注目のカードが多い二回戦だ。
「さて行ってくるか」
「拓哉しっかりな」
「誰に向かって言ってやがる」
 相変わらずコミュニケーションの取りにくい奴である。素直になれ素直に。ま、らしいと言えばらしいのだが。
「あっ剛出番だ」
「うん?」
 二回戦第一ブロックでは俺らの中では拓哉(裏)と向井剛が出番となる。ちなみにここで二人は潰しあう事はなく、二人が戦うのは順当に行けば準決勝(四回戦)だ。沙羅と高津の対戦もこのブロック。
 一方第二ブロックは恭介、風見、俺と薫に松野さんの五人が出て忙しい。恭介と風見は共に勝てば三回戦での対戦。風見杯以来の勝負だ。そして俺か薫のどちらかと松野さんか山本が三回戦で当たることになる。
「頑張ってね」
「……僕も負けないように頑張るよ」
 向井の声はどうも弱気だ。
「うーん、剛ももっと自信持てばいいのに」
 今から対戦に向かう向井と喋っていた薫を見つめる。……松野さんが負けるとは思わないのだが、万が一。もし俺が負けて薫が勝ち上がって、それで山本も勝って二人の対戦となって山本が勝てば、薫は植物状態になってしまう。
 こういう変なややこざに薫はもちろん恭介達を巻き込んじゃダメだ。絶対に勝たなければならない。元より負けるつもりで勝負に挑む気なんてさらさらないのだが。



 自信を持て、というのは小さい頃から言われ続けていたことであって、特に小さい頃から馴染みのある薫には事あるごとに言われ続けた。
 でも自信を持つというのはどういうことなのか分からず、気丈な振りをしたりもした。
 自信というのは辞書によると自分の才能等を信じるということらしいのだが周りの人は僕よりも立派なそれを持っているのでとてもじゃないが信じれない。奥村先輩、風見先輩、長岡先輩、藤原先輩。誰もかれもがこないだの風見杯で上位にいたメンツだ。
 手元にあるのは今にも消えそうな炎。しかし周りにはより強い輝きを持つ大きな炎だらけ。委縮するのも仕方ない。
 実際ここまで来れたのも、予選といい一回戦といい御世辞にも上手じゃない初心者といったような感じの相手ばかりであったからで、なんとか利を拾う形となっていた。
 だがもうそれも通用しない。今、僕の目の前に対戦相手として立っているのは過去の大会(大会に参加したわけではないので聞いた話)やイベントなどで何度も勝ち続けてきた男。中西 哲(なかにし てつ)だ。
 スーツを着た四十を越えているパパさんプレイヤーで、柔和な顔つきをしているのだが、それに反して鋭いプレイングで他を寄せ付けない。優勝候補の一角を担う人だ。そして過去に僕自身ジムチャレで完膚なきまで叩きつぶされたことがある。
「お久しぶりですね」
「君は……、先月のジムチャレでの。あのときは私の息子が御世話になりました」
「まぁ……」
 二月に行われたジムチャレで彼と対戦した後、小学校中学年くらいの彼の息子とも対戦したのであった。ちなみにそっちは勝てた。
「さて、そろそろ始めますか。私も息子に負けるなと言われているんですよ。というわけで君には悪いが手抜かりは一切ナシで行かせてもらうよ」
「……お願いします」
 バトルベルトを起動して対戦の準備を整える。前回はコテンパンにされたのだから、今回は前よりはマシな戦いをすることを目標だ。そう、たとえばせめてサイドを四枚引くくらいか。
「さて、私が先攻をさせてもらってもよろしいですかな」
「はい」
 中西さんの最初のバトルポケモンはヒンバス30/30。ベンチにはヤジロン50/50。前戦った時の中西さんのデッキは闘タイプメインのパワーデッキだったがあの時とはまた違うデッキのようだ。
 一方僕のバトルポケモンはダンバル50/50でベンチにも同じダンバルが一匹。理想の形ではないが戦えない訳ではない。
「それでは私のターンから。手札の水エネルギーをヒンバスにつけまして、ヒンバスのワザのカウントドローを使わせていただきます。このカウントドローは相手の場にある進化していないポケモンの数だけ山札からカードを引く効果を持っています。今君の場にいる条件に該当するポケモンは二匹。よって二枚引かせてもらい、ターンエンドです」
 今回の彼のデッキはどういうデッキなのか、出来れば早めに見切りたかったのだが。もしかして準備に手間がかかるのか?
「僕のターン。ゴージャスボールを使います」
 ゴージャスボールはデッキから好きなポケモン(ただしLV.X除く)を手札に一枚加えることのできるグッズだ。僕が選んだのはヌマクロー。
「更にハマナのリサーチを使って僕はデッキから鋼エネルギーとミズゴロウを手札に加え、ベンチにミズゴロウを出します」
 ハマナのリサーチはデッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで選んで手札に加えることのできるサポーターだ。そしてベンチに出したミズゴロウ60/60は二進化するたねポケモンでは高水準のHPを持つ部類だ。
「さっき加えた鋼エネルギーをダンバルにつけてピットサーチ!」
 ダンバルの赤い眼から真っすぐ会場の天井に向けて同じ赤いレーザーポイントのような光が発せられる。このワザは自分のデッキからスタジアムカードを一枚選んで相手プレイヤーに見せてから手札に加えるもの。僕は破れた時空を加えた。
「私のターンだね。手札からサポーターカードのデパートガールを使わせてもらうよ。このカードの効果で私は自分の山札からポケモンの道具を三つ手札に加えるんだ。私はエネルギーリンク二枚とベンチシールドを一枚手札に入れてそのベンチシールドをヤジロンにつけさせてもらおうか」
 ベンチシールドをつけたポケモンはベンチにいるかぎりワザのダメージを受けない。つまりヤジロンにダメージを与えるならバトル場にひきずりださないといけないわけだ。
「さらにグッズカードのミステリアス・パールを発動。このカードの効果で自分のサイドを全て確認し、その中にあるポケモンを一匹相手に見せてから手札に加えることができる。加えた場合はこのミステリアス・パールをオモテにしてサイドに置くんだ。私はミロカロスを加えるよ」
 ミステリアス・パールはかなり人気なレアカードだ。大会上位者のみもらえる限定カード。よく持っているな。
「そしてヒンバスをミロカロスへと進化させて水エネルギーをつけよう」
 小さい小さいヒンバスが、光り輝きながらそのフォルムをより大きく、美しく作り変えていく。ミロカロス90/90はヒンバスのHPの三倍もある。これはどう切り抜けるべきか。
「ミロカロスで攻撃といこうか。クリアリング」
 大きな体を活かしたミロカロスの攻撃がダンバルに襲いかかる。しかしダメージは思ったより軽く20で済んだ。まだHPは30/50残っている。
「僕のターン! 手札からスタジアムカード、破れた時空を発動」
 フィールド全体が破れた時空に姿を変えていく。このスタジアムが場にある限り、お互いのプレイヤーは自分のターンに場に出したばかりのポケモンを進化させられる。
「バトル場のダンバル、ベンチのミズゴロウをそれぞれ進化させる!」
 これで僕のポケモンは全体的に強化された。メタング60/80もヌマクロー80/80もHPは一進化の平均。簡単には倒されまい。
「そしてメタングのポケボディー、メタルフロートの効果で逃げるエネルギーがなくなったメタングを逃がしベンチのダンバルを新しくバトル場に出してメタングに闘エネルギーをつける!」
 メタングのメタルフロートはこのポケモンに鋼エネルギーがついているなら逃げるエネルギーがなくなるというもの。ここはダンバルを盾にして自分の体勢を整えておきたい。
「ダンバルにはエネルギーがついてないからワザは使えない。ここでターンエンド」
「では私のターン。遠慮はしないよ。ヤジロンをネンドール(80/80)に進化させてポケパワーのコスモパワーを使おう。この効果は手札を一枚か二枚を山札の底に戻して手札が六枚になるようにドローするものだ。今の私の手札は六枚。そのうち二枚を山札の底に戻して山札から二枚引く。そしてサポーターのミズキの検索を発動だ」
 ミズキの検索は手札のカードを一枚戻してデッキからポケモンのカードを手札に加えるサポーター。一気に攻めてくるつもりか。
「私はヒンバスを手札に加えてベンチに出す。さらに破れた時空の効果で、ヒンバスをミロカロスに進化だ」
 しかし今回のミロカロスはさっきのミロカロスと違う。色違いのミロカロス80/80だ。既にバトル場にいるミロカロスよりもHPが10少ない。
「バトル場のミロカロスに水エネルギーをつけて攻撃だ。スケイルブルー!」
 ミロカロスの足元から僕の背丈の三倍くらいはありそうな巨大な波が発生し、ダンバルに打ちつける。見た目通りの壮絶な威力で、あっという間にHPが0だ。次のポケモンに僕はメタングを選択。
「このワザの威力は90から自分の手札の枚数かける10引いたものでね、今の私の手札は二枚。だから与えるダメージは70だ。サイドを引いてターンエンド」
 サイドを引く……。つまり手札が一枚増えたことになる。だからなんだっていうんだ。でも何か引っかかる。
「それじゃあ僕のターン! 手札からハマナのリサーチを使って闘エネルギーとヤジロンを手札に加え、ヤジロン(50/50)をベンチに出す。そして破れた時空の効果でヤジロンをネンドール(80/80)に進化させ、僕もコスモパワー!」
 手札を一枚だけデッキの底に戻す。これで二枚になったから四枚ドローだ。
「メタングに鋼の特殊エネルギーをつけ、メタグロスへ進化だ! メタグロスのポケボディー、グラビテーションの効果で場のポケモンのHPは全て20ずつ小さくなる!」
 メタグロスを中心に薄い紫色のドームが形成され場のポケモン全てを包み込んだ。その中にいるポケモンは変な重力に押しつぶされそうでいる。
 このポケボディーで僕のポケモンのHPはメタグロスが90/110、ヌマクローとネンドールが60/60。中西さんのポケモンはミロカロス70/70にネンドールと色違いのミロカロスが60/60。
 更にメタグロスにつけた鋼の特殊エネルギーは通常の鋼エネルギーと違って鋼ポケモンについているなら受けるワザのダメージを10減らしてくれる。これでグラビテーションのディスアドバンテージも多少はどうにかなる。
「10足りない……。くっ、メタグロスでミロカロスに攻撃。ジオインパクト!」
 メタグロスが四つもつ腕のうち一つを地面に擦りつけながら低空移動しミロカロスに近づく。そしてずっと地面に擦りつけていた腕を一気にアッパーカートのように振り上げミロカロスに強大な一撃を喰らわせた。さらに地面から腕を振り上げた際に同時に地中から飛び出した岩がベンチの色ミロカロスに襲いかかる。
「ジオインパクトは場に自分のスタジアムがあるとき、攻撃した相手と同じタイプのポケモンにも20ダメージを与える」
 このジオインパクトの元の威力は60。よって相手のミロカロスのHPは10/70、ベンチの色ミロカロスは40/60。
「むっ」
 中西さんの表情が僅かに陰る。
「なかなかいい攻撃だ。だが少しだけ足りなかったね」
 そう、バトル場のミロカロスは10だけHPを残している。さっき引かれた分のサイドをここで取り返しておきたかったのだが……。
「それでは私のターン。ベンチにカゲボウズ(グラビテーションの効果を受けてHPは30/30)を出そう。そしてバトル場のミロカロスについている超エネルギーをトラッシュしてベンチの色ミロカロスと交代だ」
 ここで交代か。だが意図することが分からない。次にジオインパクトを食らえば二匹ともども気絶なのに。更に色ミロカロスにはまだエネルギーはついていない。ワザを使うにはエネルギーが三つ必要なのだ。
「更に手札のポケモンの道具、エネルギーリンクをバトル場の色ミロカロス、ベンチのミロカロスにつけて効果を発動。エネルギーリンクがついているポケモン同士ではエネルギーの移動が自由になるのでね、ミロカロスについている水エネルギー二枚をバトル場の色ミロカロスに移動させ、手札の水エネルギーを色ミロカロスにつけるよ」
 これであっという間に色ミロカロスにエネルギーが三枚ついた。早すぎる。
「色ミロカロスで引き潮攻撃といこう」
 引き寄せる波がメタグロスを襲う。グラビーテションが発動している中ではいつもよりもダメージの比率が大きい。だから僅かなダメージでも痛いのだが。
 引き潮攻撃は80に、色ミロカロスに乗っているダメージカウンターの数×10だけ引いた分の威力を与えるモノ。今色ミロカロスには二つダメカンがあるから80−20で60、更に鋼の特殊エネルギーで10引いて50ダメージだ。これでメタグロスのHPは40/110。
「……」
 次同じだけダメージを受ければまずいな。確実にダメージを与えていきたいところだが……。
「先に言っておくが、この色ミロカロスにはアクアミラージュというポケボディーがあるんだ。アクアミラージュは手札が一枚もないときこのポケモンはダメージを受けないというものでね、今の私の手札は?」
「0……」
「そう。だから次のターンに色ミロカロスがダメージを受けることはなく、君のメタグロスを確実に仕留めるよ」
 中西さんが前もって説明するということは当然余裕があるということだ。このままでは前と同じく一方的にやられて終わるだけだ。
 そんなのは、イヤだ……!



向井「僕もこのコーナーいいんですか?
   えっと、それじゃあ今回のキーカードはメタグロスです。
   ポケボディーのグラビテーションをどう使うかがカギです」

メタグロスLv.68 HP130 鋼 (DPt3)
ポケボディー  グラビデーション
 おたがいの場のポケモン全員の最大HPは、それぞれ「20」ずつ小さくなる。おたがいの場で複数の「グラビテーション」がはたらいていても、小さくなるHPは「20」。
鋼鋼無  ジオインパクト 60
 場に自分の「スタジアム」があるなら、相手と同じタイプの相手のベンチポケモン全員にも、それぞれ20ダメージ。
弱点 炎+30 抵抗力 超−20 にげる 3


  [No.836] 69話 無から有を 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:26:52   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 手札が0。
 カードゲームでは果てしなく無謀に近い行為だ。手札が0ということはやることがない、出来ることが無いというのと同意。しかし目の前にいる中西さんは簡単にやってみせた。
 僕の場には闘、鋼、特殊鋼エネルギーがついているメタグロス40/110とベンチにはヌマクローとネンドールどちらも60/60。
 中西さんの方にはエネルギーリンクと水エネルギー三つつけた色違いのミロカロス40/60と、ベンチシールドのついたネンドール60/60、エネルギーリンクのあるミロカロス10/60とカゲボウズ30/30がいる。
 全体的にHPが少ないのは僕のメタグロスのポケボディー、グラビテーションのせいだ。全てのポケモンの最大HPが20ずつ下がるという特徴あるポケボディー。
 しかしこれより強烈なのは中西さんの色ミロカロスのポケボディーだ。アクアミラージュは手札が0枚の時、相手のワザのダメージを受けない。さっきも述べたが今の中西さんの手札がそれだ。つまりダメージを与えれない。
「このままじゃあ……。僕のターン!」
 ……。今引いたカードはミズキの検索。このカードで何が出来るか。
「長考かい? まあ軽率な行動をせずにじっくり考えるのはとてもいいことだね。でもこのハンドレス(手札0)コンボを攻略出来るかな?」
「ここは運否天賦で! ヌマクローのポケパワーを使います。飛び込む!」
 デッキポケット横のコイントスボタンを押す。コインが回転するアニメーションが出る。そしてその結果は。
「オモテか……」
 もしこれでウラだったら万策尽きていた。ほっと胸を撫でる。
「このポケパワーはコイントスでオモテだったときに効果を得、自分のバトル場のポケモンのエネルギーを全てヌマクローにつけかえてヌマクローとそのポケモンを入れ替える!」
 メタグロスがベンチに戻ると、ヌマクローが水泳の飛び込みの要領でバトル場にやってきた。ヌマクローはメタグロスの鋼、闘、鋼特殊エネルギーを引き継いだが、鋼特殊エネルギーの効果は当然受けることができない。
「? これが一体……。ヌマクローのワザでは私のミロカロスは突破できない上に次の私の番に攻撃すればヌマクローは気絶なのだけども」
「もちろんこれだけじゃないですよ。ミズキの検索を発動。手札を一枚戻してデッキからラグラージを加え、進化!」
 ヌマクローの体が光に包まれ大きくなり、ラグラージへ変わっていく。足はもちろん両手を地につけてから雄たけびをするパフォーマンスも中々良い。
「なるほど、ラグラージのHPは130。正しくはメタグロスのグラビテーションで110/110になるけどもこれでなんとか次の番は凌げるね」
「それだけじゃありませんよ」
「……?」
「ラグラージに水エネルギーをつけて手札を一枚戻しネンドールのコスモパワー! 今の手札が二枚だから四枚ドロー。そしてベンチにミズゴロウ40/40(グラビテーション計算済み)を出して、ラグラージで攻撃! 引きずり出す!」
 ラグラージは僕のバトル場から跳躍して相手の場へと向かう。
「攻撃? 私の色ミロカロスは───」
 しかしラグラージはその色ミロカロスの上を通過し、ベンチで控えている普通のミロカロスに地面に着く際に拳でハンマーのように殴りつけた。ズシンと会場震える程の音で勢いよく殴りつけられたミロカロスは気を失い、さらにラグラージはミロカロスを掴むと乱雑にバトル場へブン投げる。場所を失った色ミロカロスはベンチへ仕方なく下がるしかなかった。
「これは……」
「ラグラージの引きずり出すはダメージを与える前に相手のベンチポケモンを一匹を無理やりバトル場に文字通り引きずり出すことが出来るワザ。これならアクアミラージュをかわして攻撃出来る!」
 中西さんは参ったなと顎を撫でた。引きずり出すは威力30のワザだが、虫の息だったミロカロスを倒すには十分だ。中西さんは懲りずに色ミロカロスをバトル場に出す。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「いいね。私のターン。……それじゃあ私もネンドールのコスモパワーだ。手札を一枚デッキの底に戻し、手札が六枚になるようにドローする」
 今の中西さんの手札は1枚、それを一枚戻してからドローなので六枚ドロー。だけど何故ハンドレスをやめる? 手札を六枚消費するのは中々骨で、ポケモンカードならたねポケモンがいないのに進化ポケモンが来ると詰んでしまう。
「私はカゲボウズをジュペッタ70/70(グラビテーション計算済み)に進化させる。そしてレックウザC80/80(同じく)をベンチに出そう」
 グラビテーション下でたねポケモンなのに80/80なんて、なんてHPの高さだ。
「更にレックウザCにエネルギーリンクと超エネルギーを一つつけるよ」
 あっという間に残り手札が二枚。でもこの二枚を処理するのは流石に厳しいはず!
「ここでジュペッタのポケパワーだ。癇癪!」
 合図と共にベンチでジュペッタが一人暴れだす。しかしそれは誰に向けられたものでなく、自分を傷つけるだけであった。ジュペッタのHPが50/70へ、20下がる。自分を傷つけるポケパワー、一体どういうことだ?
「この癇癪は自分の手札を好きなだけトラッシュし、トラッシュした枚数分のダメージカウンターをこのジュペッタに乗せるんだ。私は残りの手札二枚をトラッシュしてジュペッタにダメージを与えたと言う訳だ」
 リスクはあるもののきちんとそういうための策も取ってあると言う事か。トラッシュされたカードはカゲボウズ、マルチ・エネルギーの二枚。そして中西さんの手札は再び0となった。
「それでは攻撃。ミロカロスで引き潮だ」
 色ミロカロスに乗っているダメージカウンターは依然二つ。80から20引かれた60ダメージがラグラージに襲いかかり、HPは50/110となる。このままでは次のターン気絶してしまう。
「さあ、君のターンだ」
 いや、気絶してしまう。というトラップか! よくよく考えればそれは必然じゃあないか。色ミロカロスにダメージを与える方法は意外と簡単なところにあった。問題なのは自分の場ではそれをやるだけの役者が揃っていないということ。
「僕のターン、ドロー!」
 引いたカードはアンノーンQ。このカードを使えばやろうとしていることが案外簡単にできるかもしれない。
「アンノーンQ10/10(グラビテーション計算済み)をベンチに出します」
「HPがたった10……」
「そしてダンバル30/30(グラビテーション計算済み)を出してこいつに鋼の特殊エネルギーをつけます。さらに破れた時空の効果でダンバルをメタング60/60(計算済み)に進化させ、ネンドールのコスモパワー。手札を二枚デッキの底に戻して四枚ドロー。そしてアンノーンQのポケパワーをここで使います。QUICK!」
 ベンチでぼんやりとしてたアンノーンQは指令と共にバトル場のラグラージによると、そのまま背中に張り付いた。まるでアンノーンQがシールになったかのようだ。
「QUICKは1ターンに一度このポケモンについているすべてのカードをトラッシュしてこのポケモンをポケモンの道具として自分のポケモンにつけることができる。このカードをつけているポケモンの逃げるエネルギーは一個分少なくなる。だからラグラージの逃げるエネルギーは二から一へ下がるんだ。そしてラグラージの特殊鋼エネルギーをトラッシュしてベンチのミズゴロウと入れ替える。ターンエンド!」
「ミズゴロウ……。なるほど、確かに」
 中西さんはまるで出したクイズの答えを当てられたかのような表情をする。
「私の色ミロカロスが相手を気絶してサイドを一枚引くとなると私に手札が発生する。そして色ミロカロスのアクアミラージュは効果を失う。確かにその通りだ」
 だがその顔には余裕がある。
「私がその辺の対策をしていないとでも?」
 一気に血の気が引いた気がする。そして積み上げたものが一気に瓦壊したような。
「それでは私のターン。エネルギーリンクの効果で色ミロカロスについている水エネルギーを二つ程レックウザCに動かそう」
 色ミロカロスとレックウザCについている装置が共鳴しあって、色ミロカロスについている水シンボル二つがレックウザCに移る。
「そして水エネルギーを一つトラッシュして色ミロカロスをベンチに逃がし、レックウザCをバトル場に」
 わざわざ色ミロカロスを控えるのか。そこまで大事にするのは、色ミロカロスが中途半端なダメージを受けると邪魔にしかならないからだろう。確かにそうだ。それが定石だ。自分目線でしか考えれていなかった。
「レックウザCにマルチ・エネルギーをつける。このカードは、これ以外の特殊エネルギーがついているなら無色1個ぶんにしかならないが、そうでなければ全てのタイプのエネルギー1個分として働く。レックウザCで竜巻攻撃」
 中西さんはワザの指定と同時にコイントスを二回行った。ウラ、オモテ。その判定が終わるとレックウザが強力な風を吹き起こす。それはバトル場で一つの竜巻となって、ミズゴロウの体を飲み込んでいく。暴風の中でぐるんぐるんと回され、終いには空高くはじき出されたミズゴロウはそのまま地面に打ち付けられてHPバーを0にする。
 テキストを確認するとこの竜巻というワザは威力50のワザで、二回コイントスしてオモテの数だけ相手のエネルギーをトラッシュしてしまうものだ。ただし二回裏だとこのワザ自体が失敗してしまう。決して安定したワザとはいえない。
 全ての予定がこれで狂ってしまった。しかしここはラグラージでいくしかない。
「さて、サイドを一枚引いてターンエンドだ」
「僕のターン!」
 あのレックウザCを一撃で沈める方法はあることはある。しかしその条件が、そのためのカードが引けない……!
「くそっ、どうしよう」
 今の手札はミズキの検索、ポケモンパルシティ、ネンドール、破れた時空、水エネルギー、鋼エネルギー、ラグラージ。どうにかしないと。どうにかしてチャンスを作り出さないと。
「ミズキの検索を使って、手札を一枚戻してメタグロスを手札に! それでメタングを進化だ」
 ラグラージをデッキに戻してメタグロスを加え、そしてメタグロス110/110(グラビテーション計算済み)に進化。しかしメタグロスのグラビテーションは重複しなのでHPが40減ることはなく、20しか変動がない。
「破れた時空をトラッシュし、新しいスタジアムカードのポケモンパルシティを使う」
 周りの風景が元の会場に戻ると、間髪入れずにポケモンがモチーフとなった建物が並ぶ街並みに変わった。ピカチュウの顔の形をした家や、あちこち空にモンスターボールのバルーンが浮かんでいる。
「そしてパルシティの効果発動。各プレイヤーは自分のターンに一度、デッキの上からカードを七枚確認してその中のたねポケモンを好きなだけベンチに出すことが出来る」
 しかしベンチに出せるたねポケモンがない。確認した後、シャッフルさせる。これで僕の手札は四枚。
「ネンドールのコスモパワー。手札を二枚戻し、四枚ドローだ」
 手札の水エネルギーとネンドールを戻してこのドローに賭けてみた。しかし結果はうまい事行かず。
「ぐっ、水エネルギーをラグラージにつけて押し倒す」
 ラグラージは、レックウザCに向かって走り出すと途中で飛びかかった。そのままショルダータックルをかましてレックウザCのバランスを崩すと、気合いのこもった右拳がレックウザCの体に打ち込まれた。強烈な攻撃を受けたレックウザCは思わずバトル場に倒れ伏し、そのレックウザCの背の上にラグラージが立っていた。辛そうなレックウザCのHPは気絶手前の10/80。
「このワザの元々の威力は60だけど、このカードについている闘エネルギーの数かける10ダメージ追加される! 合計70ダメージだ」
 本当はさっきのコスモパワーで闘エネルギーを引くことができ、それをラグラージにつければ80ダメージ与えれてレックウザCを気絶させることができたのだが、闘エネルギーを引くことができなかったのだ。
 だがしかしラグラージにはルートプロテクターというポケボディーを持っていて、進化していないポケモンから受けるワザの威力を20弱める効果がある。再び竜巻攻撃が来ても50−20で30ダメージだけ。ラグラージは凌ぎきることが出来る。
「それでは私のターンだ。ミラクル・ダイヤモンドを発動」
「ミラクル・ダイヤモンド!?」
 これも超レアなプロモカードだ。ミステリアス・パールといいとても珍しいカードを持っている。
 そしてミラクル・ダイヤモンドのカードは自分のサイドを全て確認し、その中にあるトレーナーのカードを一枚手札に加えることができ、加えた場合このミラクル・ダイヤモンドを表向きにしてサイドに置くというものだ。
「ミラクル・ダイヤモンドでミズキの検索を手札に加え、早速使うよ。手札を一枚戻してレックウザC LV.Xをデッキから加えてレベルアップだ!」
 バトル場のレックウザCが力に溢れた輝きを放つ。残り僅かしかなかったHPも、30/100とまだある程度まで増やした。しかし問題は威圧感を強く放っていることだ。なんていう力強さを放つカード。
「さて、再び私の手札は0」
 中西さんはまるで可愛い幼子を遠目で見るような微笑みで僕を見つめる。
「ポケモンカードでの最大火力を御見舞してあげよう」



向井「今回のキーカードはラグラージです。
   ルートプロテクターで相手の攻撃を防ぎつつ、
   引きずり出して押し倒すパワースタイルがウリです」

ラグラージLv.60 HP130 水 (DPt3)
ポケボディー  ルートプロテクター
 このポケモンが受ける、相手の「進化していないポケモン」のワザのダメージは、「−20」される。
水無無  ひきずりだす 30
 のぞむなら、ダメージを与える前に、相手のベンチポケモンを1匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替えてよい(新しく出てきたポケモンにダメージを与える)。
水無無無  おしたおす 60+
 自分の闘エネルギー×10ダメージを追加。
弱点 草+30 抵抗力 − にげる 2

───
おまけ・ポケカ番外編
「芸能人事情2」
恭介「俺さ、昨日家の近くのコンビニではんにゃの二人にあったんだ!」
翔「また芸能人ネタかい」
恭介「俺ほど芸能人に会う人はいねーだろー!」
翔「芸能人っていうかお笑い芸人ばっかじゃん」
恭介「一応芸能人じゃん!」
翔「俺はこないだ知念君を見かけたぜ」
恭介「お前もジャニーズばっかだろ!」
翔「知らんよ! なんで俺に言うの」
恭介「なあ蜂谷、お前も何か言ってやれよ!」
蜂谷「俺はこないだ上野公園でアンガールズの田中見かけたから声をかけたら苔食わされた」
翔&恭介(なんでいちいち声かけるのかな……)


  [No.837] 70話 挑戦 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:28:10   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「レックウザC LV.Xでラグラージに攻撃。ファイナルブラスト!」
 深く息を吸い込んだレックウザC LV.Xの口から無慈悲なほど巨大で強大な極太レーザーが発射された。
 あまりの光で目が、爆発するかのような音で耳が、大気を震わす衝撃で平衡感覚がどうにかなってしまいそうだった。なんとか両膝を足につけて堪える。
 レーザーにすっぽり飲み込まれてしまったラグラージはHPバーを確認するまでもなく0となり、散っていく。
「これがポケモンカード最大火力、200ダメージ。ポケモンカードでHPが200を越すポケモンはいない。つまりどんな相手でも一撃で倒す強烈なワザだ。ルートプロテクターなんていう小細工も通用しないよ」
「でもそれほどの威力ならデメリットも……」
「ファイナルブラストは確かにデメリットを持っている。……が、それを回避出来るんだ」
「回避?」
「このワザは自分のエネルギーを全てトラッシュしなくてはならないデメリットがある。しかし手札が0のとき、その効果はなくなるんだよ」
 ニヤリ。ああ、あれは勝負師の笑みだ。いや、でも中西さんは本気で僕を相手してくれている。だからこそ諦めちゃダメだ。僕を認めてくれている。こちらも全力で戦ってそれに応じなくてはならない。
 中西さんのレックウザC LV.Xにはポケモンの道具のエネルギーリンクが、エネルギーは水が二つ、超、マルチ・エネルギーがついているが残りHPは30/100。ベンチにはジュペッタ50/70、ベンチシールドをつけているネンドール60/60、エネルギーリンクをつけた色違いのミロカロス40/60がいる。
 今僕のベンチにはネンドール60/60、メタグロス40/110、特殊鋼エネルギーがついたメタグロス110/110。レックウザC LV.Xの残りHPは僅かだが、それに止めを刺すにはどのポケモンでもワザエネルギーが不足している。
 メタグロスのグラビテーションというポケボディーで全てのポケモンのHPを20ずつ下げている。残りサイドは僕が五枚で中西さんが四枚。
「僕はメタグロス(40/110)をバトル場に出す」
「サイドを引いて私はターンエンドだ」
 これで中西さんとのサイド差は二枚になった。
「僕のターン。ポケモンパルシティの効果でデッキの上から七枚確認し、その中のたねポケモンを好きなだけ確認してベンチに出す。……、ミズゴロウ40/40(グラビテーション計算済み)をベンチに出してデッキをシャッフル!」
 そういえば先ほどのターン、中西さんはパルシティを使わなかった。しかし次のターン使われるかもしれない。こういう相互に有益のあるカードは早いうちに自分から潰しておくべき。
「ポケモンパルシティをトラッシュし、破れた時空を発動。さらにメタグロス(110/110)に鋼エネルギーをつける」
 可愛げのある街から元の会場へ戻り、休む間もなく破れた時空へと周囲が様変わりだ。このエフェクトは目が疲れるからもう少しなんとかしてもらいたいなぁ。
「ネンドールのコスモパワーで手札を二枚戻して四枚ドロー」
 この状況をなんとかできそうなカードを引き当てれた。もう少しこれは温存しておこう。
「ターンエンド」
「それではわたしのターン。手札の超エネルギーをジュペッタにつけ、こちらもネンドールのポケパワーを発動。手札を一枚戻して六枚ドロー」
 またもや六枚ドロー。今度は一体何をするのか……。
「ヒンバス10/10(グラビテーション計算済み)をベンチに出し、破れた時空の効果でヒンバスを色ミロカロス60/60(計算済み)に進化させる」
 これで一番の難敵色ミロカロスが二匹揃ってしまった。しかし色ミロカロスの欠点として、ワザエネルギーが水水無の3つもあることが挙げられる。今の色ミロカロスは二匹ともエネルギーがない。まだ大丈夫、まだしばらく大丈夫だ。
「そしてジュペッタの癇癪。手札を四枚捨てる」
「四枚ということは40ダメージ……!」
 中西さんは手札から夜のメンテナンス、ワンダー・プラチナ、思い出の実、ハマナのリサーチを捨ててまたもや手札を0。そして癇癪は棄てた枚数だけジュペッタにダメージカウンターを乗せるポケパワーであり、合計40ダメージ分受けて残りは僅か10/70とギリギリだ。
「さあ、ファイナルブラスト!」
 もう一発、激しい光の束がメタグロスを丸ごと包み込む。自然と目を塞ぎ手で耳を押さえる。大気の震えで体がガクガク震える。本当にこれが3Dなのか、なんていう迫力、パワーだ。もちろんワザとしての威力は言うまでもない。今バトル場にいるメタグロスは当然気絶となる。
「次もメタグロスをバトル場に!」
「サイドを引いて終わりだ。これで残りのサイドは二枚だね」
 そう、中西さんのサイドは既に表向きになっているミラクル・ダイヤモンドとミステリアス・パールだけだ。
「まだまだ! 僕のターン、メタグロスに闘エネルギーをつけてミズゴロウをヌマクロー60/60(グラビテーション計算済み)に進化させてメタグロスでジオインパクト!」
 メタグロスが腕で地面をえぐりながらレックウザC LV.Xに接近し、腕を勢いよく地面から離すとレックウザC LV.Xを下から上へ殴りつける。上へ殴り飛ばされたレックウザC LV.XはHPバーを0に減らしつつ宙を舞うと、そのまま自由落下していく。ズドンと重い音を鳴らして崩れていった。
「む……。それではジュペッタをバトル場に出そう」
「サイドを一枚引いてターンエンド!」
 まだ僕のサイドは四枚も残っている。でもまだまだ諦めない! ようやく一番攻撃力のあるレックウザC LV.Xを倒したのだ。ここからは少し楽になるはず。
「私のターン。ダメージを受けていない方の色ミロカロスに水エネルギーをつけよう。そしてジュペッタの超エネルギーをトラッシュしてダークスイッチ!」
 ジュペッタは口についているファスナを開き、顎が外れるのではないかと疑うくらい大きく開けると、口の中から火の玉と思わしきものが六つ程出てきた。そしてなんとジュペッタのHPが先ほどまで10/70だったのに対し今は70/70となっている。
 それら火の玉はジュペッタの元を離れてメタグロスの傍によると、メタグロスの体の中に侵入していく。火の玉が一つ侵入していくにつれメタグロスのHPは10ずつ下がり、結果的に50/110と60も減らされてしまった。これはまるで……。
「ダメカンが入れ替わった……?」
「その通り。ジュペッタのダークスイッチは自分のエネルギーを一つトラッシュすることで、自分と相手のダメージカウンターをすべて乗せ換えるモノ。癇癪で蓄えていたダメージをここで放出したわけだ」
「ぐっ……。僕のターン! ヌマクローのポケパワーの飛び込むを発動! ベンチにこのポケモンがいるときコイントスをし、オモテの場合自分のバトルポケモンについているエネルギーをすべてこのポケモンにつけかえてバトルポケモンと入れ替える!」
 ここでオモテを出しておかないと後で辛い展開になるのは必至……!
「残念、ウラだね?」
 しかし無情にもオモテは出なかった。決死のポケパワーも決まらなかった。
「だったらヌマクローに水エネルギーをつけてミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからラグラージを手札に加える。ネンドールのコスモパワーでデッキの底に手札を二枚戻し、三枚ドロー」
 いや、よくよく考えるとジュペッタは次のターンワザを使えない。なぜならジュペッタにワザエネルギーはなく、ワザエネルギー一個で使えるワザはダークスイッチのみ。わざわざ使う意味がないからだ。
 だから飛び込むを使うタイミングを間違えていた。ある意味ウラが出てよかったかもしれない。
「メタグロスでジオインパクト!」
 ジュペッタに重い一撃が襲いかかる。先ほどダークスイッチでHPをマンタンに戻したにもかかわらず再び10/70とさっきと同じHPまで下げてやった。
「私のターン。手札から水エネルギーをまだダメージを受けていない色ミロカロスにつけ、グッズカードの夜のメンテナンスを使わせてもらうおう。このカードでトラッシュにあるポケモン、基本エネルギーを合計三枚まで戻すことができる」
 中西さんが指定したのは水エネルギー二枚と超エネルギー一枚。エネルギー蒐集に回ろうとしているのか?
「そしてターンエンドとしておこう」
 やはりジュペッタは棄てに入ったか。しかしそれでも中西さんの手札は再び0になっていた。
「僕のターン。手札の闘エネルギーをヌマクローにつけて飛び込む!」
 今度のコイントスはきっちりオモテ。メタグロスの鋼、闘、特殊鋼エネルギーをも引き継ぐことになった。
「ここでヌマクローをラグラージ110/110(計算済み)に進化し、押し倒す攻撃。今ラグラージには闘エネルギーが二つついているから、60に20足して80ダメージ!」
 残りHP10のジュペッタを一撃であっさり倒してしまうオーバーキルだ。次のポケモンには先ほどからエネルギーをちまちまと蓄え続けていた色ミロカロス60/60。本当は引きずり出すでこちらを攻撃したかったのだが相手の手札は0枚、アクアミラージュでダメージを与えられない。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「私のターン。ネンドールのポケパワー、コスモパワーで今引いたカードをデッキの底に戻し、手札が六枚になるようにつまり六枚引かせてもらう。ベンチにカゲボウズ30/30、ヒンバス10/10(どちらも計算済み)を出し、ミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻してデッキからミロカロスを手札に加えるよ。そして破れた時空の効果でヒンバスをミロカロス70/70(計算済み)に進化し、カゲボウズにポケモンの道具の達人の帯をつける。この効果でカゲボウズのHPと与えるワザのダメージは20ずつ上がりHPは50/50となる。そして最後にバトル場の色ミロカロスに水エネルギーをつけて引き潮攻撃だ」
 ラグラージの背後から襲いかかる波はラグラージを大きく飲み込みダメージを与える。今バトル場にいるミロカロスはダメージを受けていず、引き潮の効果で与えるダメージは80のままだ。これであっさりとラグラージのHPは30/110へと減らされてしまう。
「さあ、君のターンだ。と言っても私の色ミロカロスにダメージを与えることができるかな?」
「出来るさ」
「……?」
「僕のターン。手札からサポーターカードのハンサムの捜査を発動!」
「ハンサムの捜査……。そうかその手が!」
「このカードは相手の手札を確認し、そののち自分か相手を指定して指定されたプレイヤーは手札を全てデッキに戻して手札が五枚までドローしなくてはならない。そうすればそのハンドレスコンボも終わりだ!」
「くっ……」
 中西さんが初めて苦しい表情を見せ、カードを二枚ドローする。ハンサムの捜査は五枚「まで」ドローするカードなので一枚以上五枚以下であれば任意の数だけ引くことができるのだ。
「ベンチのメタグロスに水エネルギーをつけてラグラージで色ミロカロスに押し倒す攻撃!」
 ラグラージがミロカロスに向かって飛びかかる。ズン。と鈍い、重い音を立てて色ミロカロスはバランスを崩すと、そのままラグラージの下敷きになってしまった。
「闘エネルギーが二枚ついているから80ダメージ、その色ミロカロスは気絶! サイドを一枚引いてターンエンド!」
 よし、この調子ならまだまだ行ける。中西さんが次に出したのはHPが僅か50/50で達人の帯をつけた、エネルギーがまだ一枚もないカゲボウズ。
 達人の帯をつけるとHPとワザの威力が20ずつ上昇するものの、このポケモンが気絶したとき逆に相手はサイドを一枚多く引けるデメリットがある。
 そしてラグラージには進化していないポケモンから受けるダメージを20減らすルートプロテクターというポケボディーがあるから一撃でやられるなんてそうそうないだろう。逆にこちらが次のターンカゲボウズを倒してしまえば僕の勝ちとなる。勝てるんだ!
「私のターン。バトル場のカゲボウズに超エネルギーをつけさせてもらい、攻撃だ。ぱっと消える」
 ふよふよとラグラージのそばにやってきたカゲボウズが、頭の棘でチクリとラグラージに攻撃する。見た目通りの威力のなさそうなワザだ。
「残念ですけどラグラージにはルートプロテクターというポケボディーがあって進化していない───」
「それは分かっているよ。ただいろいろ言う前に君のラグラージを確認してごらん」
 一瞬何を言いたいか分からなかったが、ラグラージのHPバーを確認してすぐに分かった。残り30あったHPが尽きている。
「そんな……。50ダメージ与えないと倒せないのに」
「ぱっと消えるの元々の威力は30だが、達人の帯で20プラスされて50ダメージということだ」
「でもカゲボウズのHPは僅か、すぐに倒せば……」
「倒せれるかな?」
「!?」
 中西さんの場を確認するが、なぜかバトル場にはカゲボウズではなくネンドール60/60。ベンチを探してみてもカゲボウズの姿はない。
「ぱっと消えるは自分と自分についているカードを全て手札に戻す効果がある、さすがに手札のポケモンを攻撃する術はないだろう」
「くっ……」
 仕方なくメタグロス50/110を再びバトル場に繰り出す。
「サイドを引いて、これでリーチだ」
「まだまだ! 僕のターン。鋼エネルギーをメタグロスにつけてターンエンド」
「私のターン、カゲボウズ30/30(計算済み)を再びベンチに出し、カゲボウズに超エネルギーをつけてこちらもターンエンドだ」
 どちらもワザエネルギーが足りなくて攻撃ができないのだ。
「僕のターン、手札のマルチ・エネルギーをメタグロスにつけてジオインパクト!」
 重い一撃がネンドールの足元から襲いかかる。巨体が空を舞って無抵抗に落ちていく。HPは一撃圏内だったからこれで僕もサイドを更に一枚引いて同じくリーチになった。次に中西さんが出すポケモンが最期のポケモン。
「私はカゲボウズ(30/30)をバトル場に出そう」
 カゲボウズが出たという事は……。
「そして私のターン。カゲボウズに達人の帯をつけてぱっと消える!」
 中西さんの最後の攻撃がメタグロスに襲いかかる。
「くっ……」
 ヌマクローで飛び込むをした際に特殊鋼エネルギーも移動させてしまったのが後々響いてしまった。
 やっぱり僕じゃダメだったのか……。
 カゲボウズの可愛げな頭突きがきっちりメタグロスのHPを0にしていく。
 中西さんは表向きになっている最後のサイドカード、ミステリアス・パールを引いてこの勝負を終わらせた。
 持てる力を出したはずだが、それでもまだ及ばなかった。少し目頭が熱くなった、もしかすると潤目になっているかもしれない。
「前と比べてかなり腕をあげたね。私のコンボを破られた時は本当に危なかったよ。でも、今回は勝たせてもらった」
 中西さんは優しげな眼でこちらを見つめている。
「次はどうなるかは分からないけどね。また、機会があればそのときは……」
 そう言って中西さんは去って行った。
 悔しかった。中西さんが僕を認めてくれたのは嬉しかったが、ポケモンカードでこんなに悔しかったのは初めてだ。
 抑えていた感情が急に溢れそうになったのでバトルベルトとデッキを急いで直すと人気のないところに走って行った。



向井「今回のキーカードはレックウザC LV.X。
   圧倒的なそのパワー。威力200は最高火力!
   手札が0なら何回でも打てる!」

レックウザC LV.X HP120 無 (DPt3)
ポケボディー ドラゴンスピリット
 このポケモンが、バトル場で相手のワザのダメージを受けたとき(このポケモンのHPがなくなった場合はのぞく)、自分のトラッシュのエネルギーを1枚、このポケモンにつけてよい。
水超闘無  ファイナルブラスト 200
 自分のエネルギーをすべてトラッシュ。自分の手札が1枚もないなら、エネルギーをトラッシュする効果はなくなる。
─このカードは、バトル場のレックウザC[チャンピオン]に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 闘−20 にげる 3


  [No.838] 71話 真摯 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:29:47   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 健闘虚しく破れてしまった向井だったが、その隣では藤原が開始僅か七分で相手を仕留めるという速攻プレイで準々決勝を決めた。
 その準々決勝で藤原が戦うのは能力者の高津。高津のプレイを見ていたが、強烈なパワーで相手をねじ込むタイプのプレイヤーのようだ。
 そしてこの二回戦、今から俺、翔、長岡と戦う訳だがもう一戦は能力者の山本と松野さんの勝負。
 彼女のことだから負けるだなんてことは微塵も思っていない。だから俺はただただ上へ進むことを望むだけだ。
 このPCC、能力者の事で頭がいっぱいになっているがあくまで普通の公式大会なのだ。
 東京の予選を勝ち抜いて、全国大会へと出場。果ては世界大会へ行って頂点を目指すのはここにいる誰もが思っていること。
 例外なくこの俺もそうだ。こんなとこで負けてられない。少なくとも全国へ行って「あいつ」にリベンジを……。
「風見、そろそろ行こうぜ」
「ああ」
 長岡が俺の肩をポンと叩くと、先に向かって行った。この二回戦、俺と長岡の両方が勝てばこいつと当たることになる。
 まだポケモンカードを初めて一年どころか半年も経っていないが、持ち前の運の強さはもちろん実力も着々とついているのは認めよう。だからといって負ける気はさらさらない。なにしろ風見杯では勝っているのだ、どちらかというと得意な相手の部類に入るだろう。
 とはいえまずはこの二回戦だ。勝ちにいかないと。この試合も勝って、その次も勝たないと。
「よろしく」
「よろしくお願いします!」
 対戦相手は井上 心大(いのがみ しんた)という一つ年下の小柄な少年だ。一見すると活発そうに見える外はねの黒髪だが、そう見えないのは臆病そうにおどおどとした表情のせいだろう。
 黒のハイネックに橙色系のパーカー。紺のニット帽を深めに被っている。
 最初のポケモンは井上がポリゴン50/50、俺のバトル場にはコイキング30/30とベンチにタツベイ50/50。
「僕の先攻で行きます。ポリゴンに超エネルギーをつけて、ポリゴンのワザの計算を使用。その効果で自分のデッキの上三枚を確認し、そのカードを好きな順番に入れ替えることができます」
 相手は序盤は様子見から始めるのだろう。定石だ。
「俺のターン、ドロー!」
 初戦は手札の運がよく非常に流れの早いバトルで相手をいなしたが、今回は芳しくないようだ。序盤から苦しい展開は必至だが、それでも最善の手を選んで自分の流れが来るまで耐えるしかない。
「手札からスタジアムカードの破れた時空を使わせてもらう。このカードがあるとき、互いのプレイヤーはその番に場に出た、及びその番に進化したポケモンも進化させることができる。俺はコイキングをギャラドスに進化させよう」
 まだ小さなポケモンしか場にいなかった中、急にギャラドス130/130という大型ポケモンが現れたことによって途端に場全体にプレッシャーが降りかかる。
 井上は一瞬びくっ、と体を震わせたがそれでも目にははっきり闘志のようなものを感じた。芯が強いタイプだろう、こういうタイプは中々折れないため意外と厄介だ。
「タツベイに水エネルギーをつけ、手札からサポーターカードのハマナのリサーチを発動する。デッキからヤジロンとコイキングを手札に加え、ヤジロン(50/50)をベンチに出してターンエンド」
 ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを計二枚まで選んで手札に加えれるカードだ。
 そしてギャラドスは使えるワザがないので今はターンエンドするしかない。
「僕の番です。ドロー! ポリゴンをポリゴン2に進化させ、ポリゴン2のポケパワーのダウンロードを発動します。ダウンロードは手札のサポーターをトラッシュすることでそのカードの効果をこのポケパワーとして扱います。僕はハマナのリサーチをトラッシュしてその効果を得ます。デッキからムクホークFBとポリゴンを加え、それぞれをベンチに出します」
 井上のベンチにポリゴン50/50とムクホークFB80/80が現れる。ここからどう仕掛ける。
「そしてサポーターカードを発動。ミズキの検索。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを手札に加えます。僕はユクシーを選択。さらに特殊エネルギーのワープエネルギーをポリゴン2につけることでワープエネルギーの効果を使います。ワープエネルギーをバトルポケモンにつけたとき、バトルポケモンをベンチポケモンと入れ替えます! よってポリゴン2とポリゴンを入れ替えてターンエンド」
 もうターンエンドするのか? 攻撃しなくていいのか?
 相手も引きが悪いとみなすか、攻撃を誘っているとみなすかだがどちらにせよ立ちふさがる敵をなぎ倒すだけだ。
「だったら行かせてもらおう。俺のターン! 手札のサポーター、スージーの抽選を発動。手札を二枚トラッシュして四枚ドロー」
 スージーの抽選においてドローは副次的なもの。一番肝心なのはカードをトラッシュすることにある。
 手札を効率よく捨てるカードが少ないポケモンカードでは貴重な一枚だ。
「ミズキの検索を発動だ。手札を一枚戻しデッキからネンドールを加え、ヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる」
 今の手札は三枚。最初の良くない手札をなんとかここまで持っていくことができた。しかしこのデッキは手札を結構消費するから供給も絶えず必要だ。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワー。手札を二枚デッキの底に戻し、手札が六枚になるまでドロー」
 三枚から二枚減らしたので五枚ドロー出来る。さっきの手札になかったエネルギーがようやっと来た。
「タツベイに水エネルギーをつけてギャラドスで攻撃。リベンジテール!」
「エネルギーなしで攻撃!?」
「リベンジテールはエネルギーなしで攻撃出来る。そしてその威力はトラッシュにいるコイキングの数×30だ」
「でもトラッシュにコイキングは……」
 ギャラドスが体を大きくうねらせて尻尾で井上のポリゴンを上から叩きつける。弾かれたボールのように飛んで行ったポリゴンのHPバーは0。
「先ほど使ったスージーの抽選のコストでトラッシュしたカード、それはコイキングが二枚だ。よって30×2=60となってポリゴンのHPを削り切るには十分だ」
 井上はまさか、というような困惑した表情を浮かべるとムクホークFBをバトル場に送りだした。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「えっと僕のターン。ムクホークFBをムクホークFB LV.Xにレベルアップさせてベンチのポリゴン2と入れ替えます!」
 ムクホークFB LV.X100/100は逃げるエネルギーを必要としないポケモンだ。そしてすぐにベンチに戻すという事は戦わせるのがメインではなくてベンチにいさせるのがメイン、つまり置物タイプのポケモンか。
「ポリゴン2のダウンロードでデンジの哲学を発動。手札のアンノーンGをトラッシュし、手札が六枚になるまでドローします」
 井上は今手札をトラッシュすることで一枚となった。つまり五枚もカードを引くのか。
「ワザマシンTS−1を二枚ポリゴン2につけ、さらにワザマシンTS−2も一枚ポリゴン2につけます」
「……ワザマシンか」
 ワザマシンはポケモンの道具のようにつけれ、そのテキストにかかれているワザをつけたポケモンのワザとして使う事が出来る。
 まったく使えないことはないのだが、たかが知れている程度の効果なのでデッキに入れる必要性がそこまでない。
 しかも一匹に対し一枚使うならともかく、同じワザマシンが重複している中で三枚もつけるのは異端なんてレベルじゃない。
「ベンチのムクホークFB LV.Xのポケパワーを使います。ファーストコール!」
 ムクホークFB LV.Xは両翼を広げると、天井に向かって大きく鳴き声を上げる。まるで何かを呼んでいるかのようだ。
「ファーストコールは自分の番に一度だけ使え、山札のサポーターを相手に見せてから手札に加える効果を持ちます。よって僕はミズキの検索を手札に加えて発動。手札を一枚戻してポリゴンZを手札に加え、バトル場のポリゴン2に進化させます」
 こっちがエースポケモンか? ポリゴンZ120/120は進化するやいなや、首を360度回転しているが無表情なせいで周りの出来事に興味がなさそうだ。
「そして手札からベンチにユクシーを出してセットアップを発動」
 セットアップはユクシー70/70を手札からベンチに出した時のみ使え、手札が七枚になるようにドローする非常に強力なドローソースである。井上はその効果で六枚も新たにドローする。
「超エネルギーをムクホークFB LV.Xに、ワザマシンTS−2を二枚ポリゴンZにつけます」
 これで計五枚のワザマシンがポリゴンZについたことになる。ここまでワザマシンをつける意味は一体なんだ?
 ワザマシンTS−1にはエヴォリューターというワザがあり、自分のデッキから自分のポケモン一匹から進化するカードを選びそのポケモンの上に乗せて進化させる進化促成のワザ。
 そしてワザマシンTS−2はデヴォリューターがあり、相手の進化ポケモン一匹を一進化分退化させるという風変わりでトリッキーなワザを覚えさせることが出来る。
 しかし大量につける意味はどこにもない。一枚あれば十分なのになぜこうも五枚もつけるのか。
「ポリゴンZでギャラドスに攻撃。熱暴走!」
 首を回していたポリゴンZの動きが急に止まると、ヒーターのようにポリゴンZの体が真っ赤に輝き出し、そこから熱量を持った電子が四方八方へ放出される。
 ギャラドスは非常に痛々しそうな表情を作るもなんとか堪えようとする。しかし無情にも130もあるHPがあっという間に0へ。HPバーが空になったギャラドスはついに自重を支える力を失い倒れ伏す。嘘だろう。まだこんな早いターンで130オーバーのダメージを叩き出すだと?
「熱暴走はワザマシンの数×20ダメージ威力を上げることが出来るワザ。よって元の威力40に20×5を足して140ダメージです!」
 なるほど、あの大量のワザマシンにはそういう意図があったのか。ポリゴンZをどうにかしたいところだが、こちらは一撃で120ダメージを叩き出せるポケモンもいない。ベンチにはネンドール80/80とタツベイ50/50しかいないのだ。仕方ない、ドローソースのネンドールを捨てて準備を整えるしかないだろう。
「俺はネンドールを次のポケモンに選ぶ」
「サイドを一枚引いてターンエンドです」
「よし、行くぞ。俺のターン。タツベイに炎エネルギーをつけ、コモルー(80/80)に進化させる。そしてハマナのリサーチを発動しデッキからコイキングとヤジロンを手札に加えそれぞれベンチに出す」
 コイキング30/30とヤジロン50/50を出したことでベンチのポケモン総数が井上を上回る。しかし皆が皆低HPで育ちあがっていない。あまり使いたくないカードだが止む得ずだ。
「グッズの時空の歪みを発動。コイントスを三回し、オモテの回数分トラッシュからポケモンを手札に加えることが出来る」
 コイントス運がことごとく弱い俺だが、他のカードではトラッシュのポケモンをデッキに戻せても手札に戻せない。苦肉の策だ。
 ウラ、ウラ、オモテ。かろうじてオモテが出たことに安堵し、トラッシュのギャラドスを手札に戻す。
「手札に戻したギャラドス(130/130)をコイキングから進化させ、ネンドールのコスモパワーを発動。二枚戻して三枚ドローだ。ターンエンド」
 ギャラドスを立てることはなんとか叶ったが、ネンドールを逃げさせることが出来ない。こちらも苦肉の策、チャンスを待とう。
「僕のターンです。ムクホークFB LV.Xのファーストコールでデッキからサポーターのオーキド博士の訪問を加え発動します。デッキから三枚ドローし、手札を一枚デッキの底に戻す。そしてベンチに新しいポリゴン(50/50)を出してポリゴンに超エネルギーをつけます」
 やはりというかファーストコールで常にサポーターを引き当てることが出来るためバトルの組み立てが早い。ポリゴンZも勿論厄介だがムクホークFB LV.Xも中々凶悪だ。
「さらにポリゴンにワザマシンTS−1をつけ、アグノムをベンチに出します。そしてアグノムのポケパワー、タイムウォーク!」
 タイムウォークは自分のサイドを確認し、その中のポケモンのカードを一枚手札に加えてその代わり自分の手札一枚を戻すことが出来る便利なポケパワーだ。
 いわゆるサイド落ちしたカードを回収することが出来る上に自分のサイドのどこに何があるかという情報を得ることが出来る。
 相手のポケモンを倒してサイドを引く際に適当に引いて、望んだカードでないときがあるのでそれを未然に防ぐのにも役立つ。
「僕はポリゴンZを手札に加え、手札のカードを一枚サイドに戻す。そしてポリゴンZで熱暴走!」
 ポリゴンZから再び激しい攻撃が発せられネンドールを襲う。HPが80/80のネンドールはその倍近くある140ダメージを受けて気絶させられてしまう。
「なら次はもう一度ギャラドスで行かせてもらう」
「うん、サイドを一枚引いてターンエンドです」
 俺よりも一枚少ない井上のサイドはまだ四枚。そうだ、まだまだ序盤。今回俺がこの大会に懸ける想いはここで負けて終わるようなもんじゃない。ポリゴンZを破る策は整った、これから逆転へ向かって進むだけだ。



風見「今回のキーカードはポリゴンZ。
   ワザマシンをつけることでワザの威力がより強力になる。
   200ダメージを叩き出すのも夢じゃないぞ」

ポリゴンZLv.56 HP120 無 (PROMO)
ポケパワー  インストール
 自分の番に何回でも使える。自分のポケモンについている「ワザマシン」を1枚、自分の別のポケモンにつけ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
─  ラーニング
 自分の山札から、自分のポケモン1匹からレベルアップする「ポケモンLV.X」を1枚選び、そのポケモンの上にのせ、レベルアップさせる。その後、山札を切る。
無無  ねつぼうそう 40+
 自分についている「ワザマシン」の数×20ダメージを追加。
弱点 闘+30 抵抗力   にげる 2

───
番外編「正月」

雫「あっ、日付変わった。あけましておめでとう」
翔「こちらこそ」
風見「今年もよろしく」
雫「よろしくー。……ってあれ!?」
風見「どうしたんですか?」
雫「どうしたんですかじゃなくて! なんでさも平然とうちにいたの!?」
風見「さっきからいました」
雫「そっちじゃなくて!」
翔「正月一人では暇でやること無いんだってさ」
雫「もう……。まあいいわ、今年もよろしくね」


  [No.839] 72話 情熱 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/01/04(Wed) 22:31:19   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 臆病そうな見た目に反して、大胆でいて力強いプレイングだ。
 俺のバトル場にはギャラドス130/130。ベンチにはヤジロン50/50と炎エネルギーが一枚、水エネルギーが二枚ついたコモルー80/80。残りのサイドは五枚。
 対戦相手の井上心大のバトル場は超、ワープエネルギーとワザマシンTS−1が二つ、ワザマシンTS−2が三つついたポリゴンZ120/120、ベンチにはユクシー70/70、アグノム70/70、超エネルギーとワザマシンTS−1がついているポリゴン50/50、そして超エネルギーのついたムクホークFB LV.X100/100。そして残りのサイドカードは俺より一枚少ない四枚となっている。
 ベンチの充実具合でも俺の方が劣っている。そして井上には常にサポーターカードを供給できるムクホークFB LV.X、140ダメージを叩き出すことのできるポリゴンZと難敵が揃っている。
「俺のターン。サポーターのミズキの検索を使う」
 手札のスージーの抽選をデッキに戻してボーマンダをサーチする。今回の俺のデッキのエースはギャラドスだけでなく、ボーマンダとの二大エースだ。
「炎エネルギーをコモルーにつけてボーマンダに進化させる」
 大型ドラゴンのボーマンダ140/140がベンチに現れ、雄叫びをあげる。迫力のあまり井上は少し体を震わせた。
「ギャラドスでポリゴンZを攻撃。リベンジテール!」
 先ほどはコイキングが二匹しかトラッシュにいなかったが今は三匹いる。よって与えるダメージは30×3=90。ポリゴンZのHPも半分を切り30/120。
 90や140という大台ダメージが序盤から飛びまくっている。ここまで乱打戦になるとは戦う前の井上の印象を見ると予想だにしてなかった。
「俺はターンエンドだ」
「それじゃあ僕のターン。ムクホークFB LV.Xのファーストコールでデッキからミズキの検索を手札に加えて効果発動。僕は手札を一枚戻してポリゴン2をデッキから加え、ポリゴンを進化させます」
 角ばったポリゴンのフォルムが白い光に包まれながら丸みを帯び、ポリゴン270/70に進化してゆく。
「ポリゴン2のダウンロードでオーキド博士の訪問を選択。ポリゴン2のポケパワー、ダウンロードは手札のサポーターをトラッシュする効果でその効果を得ることが出来る。僕は三枚ドローして一枚デッキボトムに戻します」
 一ターンにサポーター二枚を使って自分の場を出来るだけ綺麗に整えていくこの素早さが井上の戦法だろうか。そしてポリゴンZの熱暴走の恐ろしい威力で相手の場が立つ前に倒しきるみたいだ。
「ムクホークFB LV.Xに超エネルギーをつけ、ポリゴン2にワザマシンTS−2を一枚つけて攻撃します。ポリゴンZで熱暴走!」
 熱を帯びて真っ赤に染まりゆくポリゴンZが溜めていた熱を四方八方に飛ばしていく。異常な熱気に包まれただろうギャラドスのHPはみるみる削られて0。
 熱暴走の威力は基本ダメージ40に、ポリゴンZがつけているワザマシンの数×20ダメージ増えていく。今ポリゴンZにはワザマシンが五つあるので、40+20×5=140ダメージ、130しかHPのないギャラドスはあっさり倒れるしかない。
 しかしこれで問題はない。むしろ十分良いほどに事が運んでいる。
「ボーマンダをバトル場に出そう」
「サイドを一枚引いてターンエンドです」
「よし、俺のターン!」
 引いたカードはミズキの検索。いいところに来たもんだ。
「サポーターカード、ミズキの検索を使わせてもらう。俺は手札を一枚デッキに戻してネンドール(80/80)を手札に加え、ベンチのヤジロンをそれに進化させる」
 今の手札は二枚。ネンドールのポケパワーであるコスモパワーをめいいっぱい使うにはベストな状態だが、ここでもう一枚だけ使わせてもらおう。
「俺は手札の水エネルギーをボーマンダにつけてからネンドールのコスモパワーを発動だ。手札を一枚戻し、六枚に手札がなるようドロー。俺の手札は一枚戻したことによって0。よって六枚ドローだ」
 井上には火力だけでなく速攻性でも完全に後れを取っている。俺のポケモンは残り二匹だけで、サイドも井上は残り三枚しかない。
 しかしそれでも井上には弱点があった。
「手札からタツベイ(50/50)をベンチに出し、エムリット(70/70)をベンチに出す。更にこの瞬間、エムリットのポケパワーが発動する。サイコバインド!」
 井上の場の全てのポケモンの周りに一匹に対しそれぞれ二つの紫色の輪っかが現れる。しかしそれらの輪っかは何をするでもなく井上のポケモンの周りを舞っているだけだ。
「このポケパワーはエムリットをベンチに手札から出した時に使えるもの。次の相手の番、相手プレイヤーはポケパワーを使う事ができなくなる」
 これはムクホークFB LV.Xとポリゴン2のシナジーを抑えるためのモノ。これ以上都合勝手にはさせない。
「そしてボーマンダで直撃攻撃!」
 ボーマンダが勢いよく体一つでポリゴンZに猛スピードで突進していく。飛行機にはねられたかのような強力な一撃がポリゴンZを簡単に吹き飛ばした。
 もちろん吹き飛ばしたのはポリゴンZの体だけではなく、HPもだ。直撃は相手の弱点、抵抗力、ワザの効果に無関係に50ダメージを与えるワザ。残りHP30のポリゴンZは50ダメージを受け0、気絶だ。
 ただしこれはただの気絶よりも強力な意味合いを持つ。ポリゴンZ以外にも進化前、ついているエネルギーもそうだが何よりワザマシンもトラッシュされること。
 ワザマシンは一度トラッシュに行ってしまえば墓地から回収することは困難極まりない。つまりこれ以上今ベンチにいるポリゴン2にワザマシンが新たにつけられる可能性が極めて低いのだ。
 このポリゴンZを倒したことで井上のポケモンの火力は全体的にダウンする。現に井上の表情は早くも曇っていた。
「ポリゴン2をバトル場に出します……」
「俺もサイドを引かせてもらおう。ターンエンドだ」
「僕のターン」
 井上のターンが始まると同時に井上の場の全てのポケモンが、先ほど現れた二つの紫色の輪っかに絞めつけられる。これで相手のポケパワーは封じられた。
「僕は、ポリゴン2をポリゴンZ(120/120)に進化させてサイクロンエネルギーをポリゴンZにつけ、その効果を発動します」
 サイクロンエネルギーがポリゴンZにつけた刹那、ボーマンダの足元から竜巻が現れてベンチに強制的に飛ばされてしまった。
「サイクロンエネルギーは無色エネルギー一個ぶんとして働き、このカードを手札からバトルポケモンにつけたとき、相手のバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替えさせる。入れ替えるポケモンは相手が選びます」
 まだ自分で選べるだけいくらかマシだろう。
「エムリットをバトル場に出そう」
「サポーター、クロツグの貢献を発動します。その効果でトラッシュのポケモン、基本エネルギーを合計五枚までデッキに戻せるので僕は超エネルギー、アンノーンG、ポリゴン、ポリゴン2、ポリゴンZを選択します」
 五枚トラッシュから回収することで少なくなったデッキを補ったのだろう。
「ポリゴンZで熱暴走攻撃!」
 今ポリゴンZについているワザマシンの数は三つ。よって与えるダメージは40+20×3=100、エムリットの最大HP70を上回る一撃になる。
 一匹目のポリゴンZが倒されたら倒されたですぐに戦法を変えてくるところは評価できる。
 倒されたエムリットの代わりに再びボーマンダをバトル場に出した。
「サイドを一枚引いてターンエンドです」
 ターンエンドと同時に井上のポケモンを縛り付けていた二つの紫の輪っかは消滅していく。
「俺のターンだ。ドロー!」
 すでに井上のサイドは残り二枚。しかし焦ることはない、戦術は既に整っている。
「グッズカード、不思議なアメを手札から発動。ベンチのタツベイをボーマンダ(140/140)へと進化させ炎エネルギーをつける! ネンドールにポケモンの道具、ベンチシールドもつけよう」
 ベンチシールドはこのポケモンがベンチにいる限りワザによるダメージを守るもの。井上のポケモンでそういう攻撃を仕掛けるポケモンは今のところ見当たらないが念には念を、だ。
「コスモパワーを発動し、手札を二枚デッキの底に戻す。そして六枚ドローだ。ミズキの検索を使う。手札を一枚戻しレジアイスを手札に加える。そしてボーマンダで攻撃を仕掛けよう。水エネルギーを二枚トラッシュしてドラゴンフィニッシュ!」
 バトル場のボーマンダが大きく地面を踏みならすとベンチにいるムクホークFB LV.Xの足元から強力な水柱が現れてムクホークFB LV.Xに強力なダメージを与える。
「ベンチにっ!?」
「ドラゴンフィニッシュは攻撃前に水エネルギー二枚または炎エネルギー二枚をトラッシュしなければならない厄介なワザだ。だがトラッシュするエネルギーによってワザの効果が変わる面白いワザでもある。そして水エネルギーを二枚トラッシュした場合、相手のベンチポケモン一匹に100ダメージを与える」
 水柱が無くなり、高く飛ばされていたムクホークFB LV.X0/100が力なく落ちてゆく。
「これでサポーターを自由に供給できなくなったな。サイドを一枚引いてターンエンド」
 サイドは俺が残り三枚、井上が残り二枚。そろそろバトルも最終段階というところか。
「僕のターン。ハマナのリサーチを発動。デッキからポリゴン、超エネルギーを手札に加えてベンチにポリゴン50/50を出して超エネルギーをつけます。ここでバトル場のポリゴンZをポリゴンZLV.Xにレベルアップ!」
 ここでレベルアップか。だがしかしポリゴンZLV.X130/130には新たに攻撃ワザがなく、その代わりポケパワーが二つあるだけだ。
 しかもそのうちのポケパワーの一つ、モードクラッシュはレベルアップさせたときに使え、相手の場の特殊エネルギーをトラッシュするもの。俺の場には特殊エネルギーなど一枚もない。
「ポリゴンZLV.Xのポケパワー、デコードを発動します。自分のターンに一度だけ使え、自分の山札の好きなカードを二枚選び出しデッキをシャッフル。そののち選んだカードを好きな順にして山札の上に戻します。最後にポリゴンZLV.X熱暴走攻撃!」
 レベルアップしたからとはいえワザの威力は変わらない。100ダメージは非常に強力な一撃だがHP140のボーマンダを倒すには足りない。
「俺のターン。バトル場のボーマンダに水エネルギーをつけ、スージーの抽選を発動。手札の不思議なアメを二枚トラッシュして四枚ドロー。ボーマンダの炎エネルギーを二枚トラッシュしてドラゴンフィニッシュ!」
 先ほどとは違い、ボーマンダの口から灼熱の炎が放たれバトル場のポリゴンZLV.Xを焼き尽くす。
 炎エネルギーを二枚トラッシュしたドラゴンフィニッシュは、相手のバトルポケモンに対し100ダメージを与えるもの。ポリゴンZに比べると同じダメージでもいささか効率の悪いように見えるかもしれない。
 しかしそれも今のうちは、だ。ポリゴンZLV.Xの残りHPは30/130。あと一歩というところにまで体力を減らせば十分だ。
「……、心を、心を強く!」
 井上は胸に手をあて深く深呼吸をする。最後に両手で両頬をパチンと叩くと落ち着いた眼差しで場を睨んでいた。
「僕のターン。手札からハンサムの訪問を使います。その効果でまず相手の手札を確認できる」
 自分の手札のカードを井上に見せる。手札は七枚あるが、特にこれといった特徴のない手札である。ハンサムの捜査はこの後自分か相手を選択して選択されたプレイヤーは手札を全てデッキに戻しシャッフル、その後五枚までドロー出来る。井上は自分を選択して新たにカードをドローした。
「ベンチにいるポリゴンをポリゴン2(70/70)に進化させてポリゴン2のダウンロードを発動! 手札のハマナのリサーチをトラッシュし、デッキから超エネルギーとユクシーを手札に加えます。そして超エネルギーをポリゴン2につけ、ポリゴンZLV.Xで熱暴走攻撃!」
 100ダメージの攻撃がボーマンダに止めを刺す。俺の次のポケモンは引き続きベンチに控えていたボーマンダだが、井上はボーマンダを倒したことによってサイドを一枚ドロー。よって残りのサイドが一枚となった。
「よし」
 井上は胸に手を当て一息ついた。終盤に来てサイド差二枚はひっくりかえせまいと思っているからか。
「……。俺のターンだ! 手札の水エネルギーをボーマンダにつけてサポーターのクロツグの貢献を発動。トラッシュの水エネルギー二枚、炎エネルギー一枚とコイキング、ギャラドスをデッキに戻しシャッフルする。そしてボーマンダでポリゴンZLV.Xに直撃攻撃!」
 弾丸のようなスピードでボーマンダがポリゴンZLV.Xに突撃する。固定50ダメージは残りHP30のポリゴンZLV.Xを確実に気絶させた。
「くっ! 僕はポリゴン2をバトル場に出します!」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 六、七、八。ジャストだな。PCCのレギュレーションでポリゴンZにつけれるワザマシンは八枚。そしてトラッシュに送ってやったワザマシンは八枚だ。これで完全に井上の攻めの芽を完全に摘んだ。
 井上の攻撃パターンは基本的にポリゴンZの熱暴走のみ。他のポケモンは全てそれにおいてのアシスト。
 そしてエネルギーもサイクロン、ワープエネルギーを組んでいるところからみていち早く相手のポケモンを倒すことをモットーとしている。
 熱暴走の火力を上げるワザマシンは何度も言っているがサルベージの方法がごくわずかなので、ポリゴンZが倒されると同時にトラッシュされると熱暴走の元の威力40から火力を上げれずただの平凡な、むしろ二進化にしては虚弱なポケモンでしかない。
 よってワザマシンが無くなる前に、いわゆる「殺られる前に殺る」戦法の相手にはその剣を叩き折ってしまえばいい。ワザマシンが切れた井上はもはや恐れるに足らず、だ。
「こ、……」
 井上が弱弱しく右手を挙げながら震える声で発する。
「こ?」
「降参し───」
「ふざけるなァ!」
 降参しかけた井上に対し、俺はバトルテーブルを右手で強く叩きつけ大きく一喝する。周りが一瞬で静まり返ったように思える。
「お前がこのPCCに賭けている情熱はその程度なのか? お前はそんな生半可な気持ちで今ここにいるのか?」
 驚きと困惑が交差している井上は上げかけていた右手を下ろす。だがしかし、井上のリアクションはそれだけで、特に何も言い返しそうにないので勝手に続けることにした。
「勝ったものには負けたものの気持ちを受け継ぐ義務がある。お前がこのPCC二回戦に勝ち進むまでに倒した相手は四人だ。四人分の気持ちをお前は背負っているんだ。勝ちたかった、もっと上へ進みたかった。お前が倒した相手は皆が皆そう思っていただろう。そして倒した相手はお前に自分のぶんまで戦ってほしいと想いを託したはずだ! なのにお前のそのザマはなんだ! 自分が少し不利になったからといって降参? そんな態度でお前に敗れたヤツらは喜ぶのか? 喜ぶわけがないだろ!」
「ぼ、僕は……」
「降参するのも自由だ。諦めずに戦いを続けるのも自由だ。だが、その想いを背負わず捨てたりすることは許さん。それを背負った上でせめて自分の真っすぐな気持ちをプレイにぶつけてみろ!」
「……。僕の、ターン!」
 再び井上の目に強い闘志が蘇った。
 あのまま降参させれば俺が勝っていた? そんなのでは満足しない。去年の九月、翔と出会うまではポケモンカードがこんなに熱いものとは知らなかった。楽しいのは楽しいがただただ単純に勝利を求めるだけの俺に、それ以外の良さを教えてくれた翔のように。俺も全ての感情をぶつけあう、そういう熱い勝負がしたいのだ。今の井上のように。
「ポリゴン2をポリゴンZ(120/120)に進化させてサポーターカードを発動。マイのお願い! 自分のトラッシュから名前の違うトレーナーのカードを二枚選び相手プレイヤーに見せて、そのうち一枚を相手が選択。そして選択されたカードを手札に加え残りをトラッシュする! 僕はワザマシンTS−1、ワザマシンTS−2を選択!」
「なるほど、どっちにしろワザマシンしか選ばせないというわけか。TS−1を選択する」
「僕はワザマシンTS−1をポリゴンZにつけて熱暴走攻撃!」
 40+20×1=60のダメージ。ボーマンダの豊富なHPが幸いして80/140と半分以上余している。
 だが油断は一切出来ない。次のターンにもう一度マイのお願いを使われてワザマシンをつければ80ダメージを食らうことになる。そうすればこちらが終わりだ。それを未然に防ぐには……。
「俺のターン! こいつをボーマンダにつけよう。達人の帯! 達人の帯をつけたポケモンは最大HP、そして与えるワザのダメージが20足される!」
 もちろんデメリットとして達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合相手はサイドを余計一枚多く引ける。しかし残りサイド一枚の井上には無関係なデメリット。そしてボーマンダのHPは100/140。強化された熱暴走が来ても問題はない。
「ボーマンダに炎エネルギーをつけ、ハマナのリサーチを使ってデッキから水エネルギーとクロバットGを手札に加える。そしてクロバットGをベンチに出してワープポイントを発動!」
 バトル場にいるボーマンダとポリゴンZの足元に青い渦が現れて二匹を飲み込んでしまう。
「ワープポイントは互いにバトル場とベンチのポケモンを入れ替えさせるグッズカードだ。俺はベンチに出したばかりのクロバットGをバトル場にだす」
「僕はユクシーをバトル場に」
「クロバットGを逃がして(クロバットGの逃げるエネルギーはなし)ボーマンダを再びバトル場に戻す。ユクシーに直撃攻撃!」
 激しい一撃がユクシー70/70に襲いかかる。ボーマンダに突き飛ばされたユクシーのHPは50+20(達人の帯)=70のダメージを受けて尽きる。
「直撃は全ての効果に関係ないんじゃあ!」
「それは『相手の効果』限定だ。ボーマンダ自身の変化は普通に受け付けるぞ」
「なっ……! ぼ、僕はポリゴンZをバトル場に出します!」
「サイドを一枚引いてターンエンド。これで共に残り一枚ずつ、だ」
 残り一枚ずつとはいえどダメージを受けているボーマンダを抱えてるこちらが分が悪い。達人の帯でHP20強化したとはいえ向こうも達人の帯とワザマシンをつけてしまえばHP100は簡単に吹き飛んでしまう。
「僕のターン! マイのお願いを発動。ワザマシンTS−1、TS−2を選択」
「TS−1を選んでもらう」
「そのワザマシンTS−1をポリゴンZにつけて熱暴走攻撃!」
 これで熱暴走の威力は40+20×2=80となる。ギリギリのところでボーマンダ20/160が踏みとどまった結果だ。
 井上は額の汗をぬぐう。ボーマンダを倒しきれなかったのだが、その顔は先ほどのおどおどした表情と違ってむしろこの勝負自体を楽しんでいた。
「行くぞ! 俺のターン。俺の全てを、情熱を見せてやる! ボーマンダに水エネルギーをつける。そして炎エネルギーを二枚トラッシュしてドラゴンフィニッシュ!」
 達人の帯も相まって100+20=120のダメージを与える超火力の炎がボーマンダからポリゴンZめがけて放射される。
 炎のエフェクトの向こう側にいた井上も、俺が最後のサイドを引くまでこの勝負の中で一番の表情をしていた。



風見「今日のキーカードはボーマンダだ。
   バトル場もベンチも、どこにだって攻撃できる。
   これこそが圧倒的な力だ!」

ボーマンダLv.62 HP140 無 (DP3)
無無  ちょくげき 50
 このワザは、相手の弱点・抵抗力・すべての効果に関係なく、ダメージを与える。
炎炎水水  ドラゴンフィニッシュ
 自分の炎の基本エネルギーを2枚、または、水の基本エネルギーを2枚トラッシュ。炎をトラッシュしたなら、相手に100ダメージ。水をトラッシュしたなら、相手のベンチポケモン1匹に、100ダメージ。(トラッシュできないなら、このワザは失敗)
弱点 無+30 抵抗力 闘−20  にげる 3

───
おまけ・ポケカ番外編
「ホクロ七星」
(次の授業が体育なので着替え中)
蜂谷「新しくギャツビーの制汗スプレー買ってみたんだけど授業の後使ってみる?」
拓哉「ゴキジェット?」
蜂谷「ベタなボケありがとう。っていうか拓哉がボケたのか、なんか斬新」
(シャツを脱ぎ蜂谷は上半身すっぽんぽんに)
蜂谷「三月は涼しいから体育にはちょうどいいよな」
翔「あれ?」
蜂谷「どうかした?」
翔「それってもしかして」
(蜂谷に近づく翔)
翔「胸に七つのホクロを持つ男!」
蜂谷「うわっ、ちょうど北斗七星の形に……」
翔「ホクロ神拳!」
蜂谷「ねーよ!」
翔「ホクロ毛(ホクロから生える毛)が見える」
蜂谷「死兆星が見えるみたいに言うな言うな」
拓哉「あれ、でもこれ」
(拓哉は蜂谷に近づき蜂谷のホクロ七星のうちの一個のホクロを指す)
拓哉「ここにもホクロあるね」
蜂谷「死兆星の位置にホクロが! 俺もう死ぬの!? ってかラオウと戦える資格あるじゃん!(っていうか俺ケンシロウポジションじゃないの?)」
翔「ラオウなら」(と言って恭介を指差す)
蜂谷「髪の色しか一致してねーぞ!」
恭介「我が生涯に一片の悔い無し!」
蜂谷「しかももう死んでるし!」

(このあと授業のバスケで蜂谷は突き指しました)


  [No.860] 73話 五分 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:40:59   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 二回戦の試合が始まろうかとしていた刹那、薫が切り出してきた。
「翔とバトルしたのはこの間かーどひーろーでたまたま会った時だよな」
「だいたい二週間前くらいかな?」
「そうそう。そんで風見杯はもっと前だよな、一月くらいだったっけ」
「一月十日だったぜ。それがどうしたの?」
「いやあ、日数的には久しぶりのはずなのに、こうしていざ戦うとなるとこの間戦ったのがついさっきのように感じるんだ。もうあのときのワクワクした気持ちが来てる!」
 身振り手振りで感動を伝えようとする薫。そんな姿を見ていると非常にうれしく感じる。俺と戦って喜んでくれるのは本望だ。
「だったら今から俺とあのときよりもさらにワクワクする勝負をしようぜ!」
「ああ。勝負だ!」
 バトルベルトの起動の手順はもう慣れたもんだ。風見にもらったバトルベルトで既に何度か遊んだことがある。
 スイッチ数は多そうに見えるが単純な手順で、後は機械が頑張って作動してくれる。
 オートシャッフルのデッキポケットから手札七枚を渡される。開始手札は可もなく不可もなくといったところだ。
 そして互いの最初のポケモンは、俺がアチャモ60/60、ベンチにはヤジロン50/50。向かいの薫のバトル場にはプテラGL80/80。
「先攻はあたしから。ドロー! あたしはプテラGLに闘エネルギーをつけ、ワザの持ってくるを発動。その効果でデッキから二枚ドロー!」
「ツードロー!? そんなに持ってっちゃうの!」
 並のポケモンならエネルギー一個で一枚ドローだ。しかもこのプテラGL、逃げるエネルギーは0。ベンチへの攻撃手段が乏しい今回の俺のデッキにとって、引くだけ引いてベンチに逃げられると非常に厄介。ただ幸いにも薫の化石デッキは起動に時間がかかる。そこまでになんとかプテラGLを倒す術を見つけなくてはならない。
「俺のターン! 手札の炎エネルギーをアチャモにつけ、ミズキの検索を使わせてもらうぜ。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを相手に見せてから手札に加える。俺はバシャーモを手札に加える。続いて手札からグッズ、不思議なアメを発動。自分の進化していないポケモン一匹に、そのポケモンから進化する一進化または二進化カードを重ねて進化させる。俺はアチャモをバシャーモ130/130に進化させる!」
 アチャモを起点に光の柱が現れアチャモをすっぽりと覆い隠す。そしてその光の柱の中でアチャモのフォルムがより屈強に、より逞しくなっていく。光の柱がすっと消えると新たに現れたバシャーモが場に向かって雄叫びを一つあげた。
「バシャーモのポケパワーだ。バーニングブレス!」
 バシャーモから真っ赤な吐息が吐き出され、プテラGLを覆う。直接浴びたプテラGLのHPバーには火傷マーカーが発生した。
 このバーニングブレスは自分の番に一度使え、相手を火傷にするものだ。無条件に火傷にさせることができる結構便利なものだ。
「ターンエンド。っと同時にポケモンチェックだ」
 火傷の判定はポケモンチェックの度にコイントスをし、オモテならなにもないがウラならば火傷のポケモンは20ダメージを受ける。
 薫が放ったコイントス(といってもバトルベルトのコイントスボタンだが)の結果はウラ。ゲームと同じようにプテラGLの体が一瞬炎に包まれHPバーを20減らして60/80となる。
「そんなのまだまだ効かない! あたしのターン! 手札のこうらの化石、かいの化石、ひみつのコハク(どれもHPは50/50)をベンチに出してこうらの化石に闘エネルギーをつける。このタイミングでこうらの化石のポケボディー、ロックリアクションが発動! 手札から闘エネルギーをこの化石につけたとき、デッキからカブト(80/80)をサーチしてこの化石に進化させる!」
「やばいな、思ったより速いな……」
 しまったな、まさかこんなわずかにカブトを立てれるとは思わなかった。完全に作戦ミスか……。薫がベンチでポケモンを立てている間にプテラGLを倒す目論見は崩れる。
「プテラGLをベンチに逃がし、カブトをバトル場に出してワザを使うわ、進化促成! 自分のデッキから進化ポケモンのカードを二枚手札に加える。あたしはプテラとカブトプスを手札に入れてターンエンド」
 ベンチに逃げたことでプテラGLの火傷状態は解除される。そして薫は次のターンへの布石をもう打ったのだ。
「迷っていても仕方ない! 俺のターンだ。ここはこいつだな。手札からサポーターカードのハマナのリサーチを発動だ! デッキから炎エネルギーとバシャーモFBを手札に加え、バシャーモFB(80/80)をベンチに出す!」
 バシャーモFBはSPポケモンだ。こいつ単独でたねポケモン。そしてバシャーモとは同名カードではない。
 二匹のバシャーモ。これが今回の俺のデッキのコンセプト。しかしそのコンセプトを完全に決めるために場を整えなくては。
「バシャーモに炎エネルギーをつける。そして手札からグッズのゴージャスボールを発動だ。デッキから好きなポケモンを手札に加える。俺はネンドール(80/80)を選択し、ベンチのヤジロンを進化させる。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを使わせてもらうぜ。このポケパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、手札が六枚になるようデッキの上からドローする。俺は手札を一枚戻して、これで手札は0。よって六枚ドローだ」
 まだバトルは始まったばかりだが、俺の攻撃を上手くかわしている薫の方に流れが傾きかけようとしている。
 出来るだけそれを阻止しなくてはならないな。
「俺はベンチにアチャモ(60/60)を出してバシャーモのポケパワー、バーニングブレスを使う!」
 真っ赤な吐息がカブトを包み込む。デメリットなしで確実にカブトを火傷にさせた。
「バシャーモで鷲掴み攻撃!」
 バシャーモのがっちりとした腕がカブトを掴んではしっかり握って宙に持ち上げてしまう。ギリギリと強く握られたカブトのHPバーは40/80へとダウンする。
「この鷲掴み攻撃を受けたポケモンは次の番、逃げる事が出来ない!」
「逃がさずに火傷のダメージを与えていく戦法か!?」
「とりあえずはポケモンチェックだ」
 だがしかしコイントスの結果はオモテ。カブトは火傷のダメージを受けない。
「よし。あたしのターンだ! あたしはまずカブトをカブトプスに進化させる」
 カブトの体が白く光り出したところでバシャーモはその輝きから目を守ろうとカブトを鷲掴みしていた腕を離し、両腕で目をガードする。
 進化したカブトプス90/130は、もうバシャーモの拘束に捕らわれることはない。鷲掴みの対象であったカブトから別のポケモンへと変わったカブトプスは自由に逃げることが出来る。さらに火傷といった状態異常も進化すれば回復する。
「そしてベンチのひみつのコハクをプテラ(80/80)へと進化させこのプテラのポケパワー、発掘を発動。デッキからかい、こうらの化石かひみつのコハクを一ターンに一度手札に加えることが出来る。あたしはかいの化石を選択。そしてベンチのかいの化石に水エネルギーをつけてポケボディー発動。アクアリアクション!」
「ロックリアクションのオムナイトバージョンか!」
「その通り! というわけでデッキのオムナイト(80/80)をかいの化石に重ねて進化!」
 まずい、これで低HPのポケモンが薫の場から消えた。とはいえ80も決して高い部類ではないのだが……。
「手札のかいの化石をトラッシュ!」
 化石をトラッシュする行動は……。そうだ、さっきの一回戦で薫が見せた高火力の一撃が来る!
「カブトプスの原始のカマ!」
 真っ白に輝いたカブトプスのカマでバシャーモに切りかかる! 肩口から綺麗にきまった一撃で、バシャーモは攻撃された部位を腕でかばうモーションをしてみせた。
「このワザはかい、こうらの化石かひみつのコハクをトラッシュした場合、このワザの威力は50上がる!」
 元の威力は20。よって20+50=70のダメージがバシャーモ60/130に決まり、半分以上のHPを奪って行った。
「さあ、翔のターンよ!」
「おし! まだまだ行くぜ。俺のターンだ! 手札からこいつをベンチに出すぜ。ヒードラン!」
 ベンチから真っ赤なマグマを噴き出しながらヒードラン100/100が現れる。たねポケモンでこの高いHPがウリでもある。
「そしてサポーターのシロナの導きを発動。自分のデッキの上から七枚を確認して一枚を手札に加える。そしてそのあとシャッフルだ」
 このとき手札に加えたカードは相手に見せなくてもいい。ミズキの検索などとはこの点が違う。そして加えるカードはどの種類であってもいい。
「手札から炎エネルギーをバシャーモにつけて、グッズカードのレベルMAXを発動! まずはコイントス。オモテならこのカードの効果が発動する」
 ここが分岐路。上手くオモテが出ればいいが。
「おっしゃあ! オモテだ! 自分の山札から、自分のポケモン一匹からレベルアップするポケモンLV.Xを一枚選び、そのポケモンの上に乗せてレベルアップさせる。俺はヒードランをヒードランLV.X(120/120)にレベルアップさせる!」
 こちらも薫に負けず劣らずのメンツが揃う。
「さらに手札を二枚デッキに戻してネンドールのコスモパワーを発動。デッキからカードを五枚引き、ベンチのアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させる! これで攻撃だ。バシャーモで炎の渦攻撃!」
 カブトプス90/130がバシャーモが放つ炎の渦に包まれて悶えている。灼熱の炎の中でうごめくそれは結構怖い。
「炎の渦は100ダメージを与える大技だが、炎エネルギーを二枚トラッシュしなければならない。よってトラッシュ。だが100ダメージはカブトプスのHPをきっちり奪って行くぜ!」
 炎の渦から解放されたカブトプスは力なく前へ倒れ伏す。
「くっ、あたしはオムナイトをベンチからバトル場に出す!」
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ」
 よし。これで完全に流れは俺に傾いた。良い傾向だ。
「あたしのターン。あたしはプテラの発掘を発動! こうらの化石(50/50)を手札に加えてベンチにだす。そして手札の水エネルギーをオムナイトにつけて、サポーターのミズキの検索を使うわ。手札を一枚デッキに戻しオムスターを加える。そしてベンチのオムナイトをオムスター(120/120)へ進化!」
「だがオムスターはトラッシュの化石があればこそのカードだろう」
「そんなになくても行けるよ。原始の触手攻撃!」
 オムスターの触手が鋭い槍のように輝きバシャーモ60/130の四肢を突いていく。的確に決まった攻撃はバシャーモのHPを大きく削り……。
「気絶!?」
「原始の触手はトラッシュのかい、こうらの化石またはひみつのコハクの数かける10だけ威力が上がるワザ」
 薫のトラッシュにはかいの化石とこうらの化石の二枚。そして元の威力は30だ。よって30+10×2=50。それではバシャーモのHPを0まで削げないはず。
「弱点のこと忘れたの?」
 そうか。オムスターは水タイプ。水が弱点なバシャーモには更に50+30=80のダメージが。残りHP60のバシャーモを倒すには十分だ。
「俺はバシャーモFBをバトル場に出す」
「あたしはサイドを一枚引いてターンエンド」
「これでイーブンか。俺のターン! 手札の炎エネルギーをバシャーモFBにつけてグッズカードのプレミアボールを発動。このカードの効果でデッキまたはトラッシュからLV.Xのポケモンを手札に加えることが出来る。俺はバシャーモFB LV.Xを選択し、バトル場のバシャーモFBをレベルアップ!」
 このバシャーモFB LV.X110/110が俺の二枚目のエースカードだ。
「手札からサポーター、ハマナのリサーチを発動。俺はデッキから炎エネルギーを二枚手札に加えるぜ。そしてバシャーモFB LV.Xで誘って焦がす攻撃!」
 バシャーモFB LV.Xが圧倒的な脚力で高く跳躍すると薫のベンチのプテラGL60/80の元へ降り立つ。そしてそのプテラGLの首筋を掴むと腕から炎を出して火傷状態にしてしまった。そしてそのままプテラGLをバトル場に投げつける。居場所を失ったオムスター120/120は渋々ベンチへと帰って行く。
 でもこのワザのエフェクトは全然誘ってないな。誘うどころか超強引だったが。
「このワザは相手のポケモンを一匹選択し、バトルポケモンと入れ替えると新たにバトル場に出たポケモンを火傷にするものだ。そしてターンエンドと同時にポケモンチェック」
「よし、コイントスを───」
 ちっちっちっ、と古典的に指を振って見せる。
「その必要はないぜ」
「えっ」
 プテラGL60/80は火傷判定をする前に炎に包まれダメージを受けて残りHPが40/80へと変わっていた。
「どうして……」
「ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルは相手が火傷でのポケモンチェックで行うコイントスは全てウラとして扱う。つまり必ず火傷のダメージを受けるものだ」
 よし、このまま一気に行くぞ。
 ふと他の対戦場を見る。恭介は……、あれはライチュウLV.Xか、良い感じじゃないか。そして風見はポリゴンZに多少押され気味か? サイドの枚数までは攻撃できないが今の攻撃(熱暴走)で風見のギャラドスのHPが0になっているのを確認出来た。
 そして最後に松野さん。相手はあの能力者相手だが、拓哉(裏)を圧倒的な差でひねりつぶした彼女なら。
 現にエムリットLV.Xのゴッドブラストが今、対戦相手の山本信幸のミュウツーLV.Xを襲おうとしていた。
 ゴッドブラストは威力200。どれだけ小細工をしようが200のダメージを防げるポケモンはそういまい。
 エムリットLV.Xから紫の巨大なレーザーがミュウツーLV.Xに向かって放たれた。
 エムリットLV.X、アグノムLV.X、ユクシーLV.Xの三匹がいて初めて使えるこの難しいワザをなんなく使いこなす松野さんだ、負けるはずがない。
 そう思っていた。そう確信していたのだ。
 だがこれはどういうことだ?
 ミュウツーLV.Xが右腕を前に差し出すと、その右腕から楯状の緑色の膜が張られる。そしてその膜はゴッドブラストを別のどことない方向へ弾いてしまった。
 もしかして、と思ったがやはりミュウツーLV.XのHPバーは一切減っていない。無傷。
 嘘だ、あの200ダメージを何事もないように弾いて無傷だと?
 今度は山本のターンだ。ミュウツーLV.Xが両腕から放つ大きな濃い紫のエネルギー弾が、エムリットLV.Xに炸裂した。どちらかというと爆発に近い。そしてその破滅の一撃による音と衝撃は俺達の場所まで響いてきた。



翔「今日のキーカードはバシャーモFB LV.Xだ!
  ポケボディーはなんと火傷の相手に対し威力を上げるもの!
  そしてワザも極めて強力だ!」

バシャーモFB LV.X HP110 炎 (DPt3)
ポケボディー バーニングソウル
 おたがいの場のやけどのポケモンが、ワザによって受けるダメージは「+40」される。おたがいの場で複数の「バーニングソウル」がはたらいていても、追加されるダメージは「+40」。
炎無  ジェットシュート 80
 次の相手の番、自分が受けるワザのダメージは、「+40」される。
─このカードは、バトル場のバシャーモFBに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 − にげる 1


  [No.861] 74話 転落 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:41:45   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「翔……! 翔!」
 薫の俺を呼ぶ声によって我に返る。
「ごめん」
「勝負中に集中力切らすなんて翔らしくないよ」
「ほんとにごめん」
 だがあの山本のミュウツーLV.Xはなぜ松野さんのエムリットLV.Xのゴッドブラストを弾いたのだ? なんで無傷でいられる?
「だから翔!」
 再び薫が俺の名前を叫ぶ。今度は先ほどと違って怒号に近い。
「あたしはそんな翔と戦いたくないね、いつもみたいに勝負に対して真摯な翔と戦いたい!」
「ああ、そうだな」
 改めて場を見回す。
 俺のバトル場には炎エネルギーが一つついたバシャーモFB LV.X110/110、ベンチにはネンドール80/80、ワカシャモ80/80、ヒードランLV.X120/120。サイドは残り五枚。
 石川の方にはバトル場が火傷状態だが闘エネルギー一つのプテラGL40/80、ベンチはプテラ80/80、こうらの化石50/50、水エネルギーが二つあるオムスター120/120。俺と同じくサイドは五枚だ。
 状況はイーブン。流れも今はどちらにもない。
「よそ見する暇は与えない! あたしのターン! プテラGLをベンチに逃がし、オムスターをバトル場へ!」
 プテラGLには逃げるのに必要なエネルギーは0。ノーリスクでベンチに戻ることが出来る。そしてベンチに戻ったことで火傷状態も回復。
「更に手札から闘エネルギーをこうらの化石につけてこうらの化石のポケボディーのロックリアクションが効果を発動! デッキからカブトを選び出してこうらの化石をそのカブト(80/80)に進化させる!」
 俺より打点が控えめな薫だが、その点俺よりも早い展開スピードがある。
 エネルギーが少なめでも十分に戦う事ができ、そしてプテラで化石をサーチしポケボディーでサクサクと進化してしまう展開の早さ。あっという間に薫の場は戦えるポケモンで埋まって行く。
「プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからひみつのコハクを手札に加える。サポーターカード、ミズキの検索を発動。手札を一枚戻してデッキからカブトプスを手札に加える!」
 次のターンにすぐにカブトプスでも攻撃できるように準備に転じたか。早いな。
「オムスターでバシャーモFB LV.Xに攻撃! 原始の触手!」
 硬化され、鋭い槍のようになったオムスターの触手がバシャーモFB LV.Xめがけて真っすぐに突き進み、バシャーモFB LV.Xを貫く。
「このワザはトラッシュのかい、こうらの化石とひみつのコハクの数だけ威力が上がるワザ! 今トラッシュに該当するカードは二枚」
 そして元の威力が30だ。よってバシャーモFB LV.Xが受けるダメージは30+10×2=50。といいたいところだがバシャーモFB LV.Xはさらに水タイプに対し弱点を持っている。なので50×2=100ダメージが受けるダメージ!
 鋭い攻撃で後ろに跳ね飛ばされたバシャーモFB LV.X。そのHPバーが大幅に減少し、今のHPは10/110。首の皮一枚繋がったか!
「これでターンエンド」
 だが首の皮一枚だろうが残ったら残ったで文句はない。むしろ残ってくれて大助かりだ。
「俺の……」
 今から俺のターン。というところでふと隣の松野さんの場に目がいった。



「まだまだ! 私のターン!」
 相手の山本信幸の場にはミュウツーLV.X120/120しかいない。私のサイドは残り五枚だが、このミュウツーLV.Xを倒してしまえば相手の場に戦えるポケモンがいなくなるので私の勝ちだ。
 しかしその一匹が果てしなく遠い。ミュウツーLV.XはエムリットLV.Xの攻撃を弾いてしまった。あれのからくりは一体……!?
 今の私の場にはバトル場は水、鋼、闘エネルギーが揃ったレジギガス100/100、ベンチにはレジアイス90/90、レジロック90/90、アグノムLV.X90/90、ユクシーLV.X90/90。
「私は手札からレジスチル(90/90)をベンチに出して、バトル場のレジギガスをレベルアップさせる!」
 LV.XとはいえたねポケモンなのにHPは最大級の150/150という超大型ポケモンのレジギガスLV.Xは私の頼れるエースポケモンだ。エムリットLV.Xでダメならこっちでいくしかない。
「レジギガスLV.Xのポケボディー、レジフォームによって自分の場にレジロック、レジアイス、レジスチルがいるときこのポケモンのワザエネルギーは無色エネルギー一個ぶん少なくなる! よってこのまま攻撃よ。ギガブラスター!」
 この会場を揺らす程の高濃度の橙色のエネルギーが、レーザーとなって山本の場を襲いかかる!
 発射されるだけで空気が爆発しそうなそのギガブラスター。
「嘘……」
 しかしそれもミュウツーLV.Xが薄い緑の球体の膜を自分を覆うように張ることで、ギガブラスターから完全に身を守っていた。
「残念だが、それも通らない」
「このワザでもダメ……」
「いいや、ワザじゃあないんですよワザじゃあ」
「……?」
 ワザが効かないという効果じゃないのか? ワザ以外の何かが?
「ミュウツーLV.Xのポケボディーはサイコバリア。このバリアはたねポケモンからの攻撃を全てシャットダウンする。だから、いくら威力が高くてもエムリットLV.Xでも! レジギガスLV.Xでも! その攻撃は無に帰すっ!」
 たねポケモンを一切遮断……!? そんな、私のデッキにはたねポケモンしか入っていない……。攻撃出来なければ相手は倒せない……。いや?
「でっ、でもギガブラスターは相手の手札とデッキの一番上をトラッシュ!」
「往生際が悪いですねえ」
 山本は仕方なさそうにそれぞれトラッシュしていく。これで相手の手札の超エネルギーと、ケーシィがそれぞれトラッシュされた。
 そうよ。ギガブラスターは相手のデッキを削ることが出来る。ミュウツーLV.Xのさっきのワザはエネルギーを全てトラッシュしなければいけないというデメリット。ワザとワザを使うまでにあるインターバルのうちに逃げ切って相手の山札を全て削れば勝つことはできる。まだ、まだ勝負は終わってないわ!



「俺は手札から炎エネルギーをバシャーモFB LV.Xにつける。そして俺もミズキの検索を使わせてもらうぜ。手札を一枚戻してバシャーモを加え、ベンチのワカシャモを進化させる!」
 ベンチに再びバシャーモ130/130が現れる。バシャーモ、バシャーモFB LV.X、ヒードランLV.Xのこの三体が揃うときが俺のデッキの真骨頂! ただ、実はあまり理想形ではないのだが。
「バシャーモのポケパワーだ。バーニングブレスを食らえ!」
 ベンチから真っ赤な吐息が放たれ、オムスターを包みこむ。この吐息を食らったポケモンは火傷状態になるのだ。
「ネンドールのポケパワーも発動。コスモパワーによって、手札を二枚デッキの下に戻して四枚ドローする」
 これできっちり手札は六枚。だが、引き自体はあまりいいとは言いにくいな。
「手札からバシャーモFB(80/80)とヤジロン(50/50)をベンチに出す」
 相手のオムスターは水タイプのポケモン。俺のポケモンはネンドールとヤジロン以外は皆水が弱点なのでさっさと駆逐したいところだ。
「バトルだ! バシャーモFB LV.Xでオムスターに攻撃。ベイパーキック!」
 バシャーモFB LV.Xの力強い脚から放たれるハイキックはオムスターの体をサッカーボールのように軽々と飛ばした。
「このベイパーキックは相手の場に水ポケモンがいるとき、威力が30上がるワザだ」
「元の威力が30だから60ダメージね。でっ、でもオムスターのHPは100も減ってるっ!?」
「そう。バシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルは火傷のバトルポケモンがワザによるダメージを受けるとき、そのポケモンが受けるダメージを40追加するポケボディー! よって30にベイパーキックの効果で30、バーニングソウルで40足されて100ダメージ!」
 オムスターのHPは風前の灯、20/120だ。だがまだ終わらない。
「これで俺はターンエンド。だが俺のターンが終わると同時にポケモンチェック! ベンチのヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルによって火傷のコイントス判定は常にウラとなる。オムスターには火傷のダメージ20を受けてもらうぜ」
 オムスターが火傷のエフェクトで炎に包まれると残り少ないHPが尽き、力を失いその場で倒れ伏す。
「あたしはカブトをバトル場に出すわ」
「俺はサイドを一枚引くぜ」
 これで一枚俺が有利? いや、案外そうでもない。流れはまだ不動、どちらも状況はイーブン。
「あたしだって負けないんだから。あたしのターン。ドロー! まずはこれかな。プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからこうらの化石(50/50)を加え、ベンチに出す。そしてベンチに出したこの化石に闘エネルギーをつけることでポケボディーのロックリアクションが発動。デッキからカブトを加えて進化!」
 これでベンチにもバトル場にも闘エネルギーがついたカブト80/80が一枚ずつか。
「そしてバトル場のカブトをカブトプス(130/130)に進化させる! 早速攻撃! 原始のカマ!」
 バシャーモFB LV.XのHPがわずかだからか、今回は化石をトラッシュせずに攻撃してきた。化石は有限だ、こんなところで無駄遣いはしていられない、ということかな?
 カブトプスの一閃でバシャーモFB LV.XのHPは0/110。これでさっき俺が一枚ゲットしたアドバンテージも無くなり、サイドは同数。だが、俺のベンチには攻撃にすぐさま転じれるカードがない。そういう点では多少俺の分が悪い。やむなしでネンドール80/80をバトル場へ。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「まだまだ行くぜ! 俺のターン。うーん、バシャーモに炎エネルギーをつけてバーニングブレス!」
 ネンドールに攻撃の術はない。だが黙ってるのも違うだろう。せめて火傷だけでも与えておく。
「よし、サポーターカードだ。シロナの導き! デッキの上から七枚を確認し、そのうち一枚を加える。……ターンエンド」
 そしてポケモンチェックとなり、カブトプスは火傷のダメージ20を負う。しかし110/130はまだまだ大きい壁だな。
「あたしのターン。あたしはサポーターのバクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚をドロー!」
 だがバクのトレーニングの真骨頂はこのターン、相手に与えるワザのダメージを+10するところにある。
「プテラの発掘を発動し、デッキからひみつのコハクを手札に。そしてバトル場のカブトプスに水エネルギーをつけて、カブトプスについている闘、水エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がしベンチのカブトプスをバトル場へ!」
 火傷を避けたか、カブトプスを入れ替えてきた。ベンチに下がったことでカブトプス110/130の火傷は回復。
「手札のひみつのコハクをトラッシュし、原始のカマ攻撃!」
 ネンドール80/80に重たい一撃がヒット! 弾かれてコマのように回転して倒れていく。
 元の威力20に化石をトラッシュしたことによって+50、バクのトレーニングでさらに+10で20+50+10=80ダメージ。ネンドールをジャストで気絶させた。
「だったら俺はバシャーモFBをバトル場に出すぜ」
「サイドを引いてターンエンド!」
 残りサイドは三枚か。だが流れを俺に引き寄せるチャンスはある。
「さあ、俺のターンだ! まずは手札の炎エネルギーをベンチのバシャーモにつける。そしてグッズカード発動。プレミアボール! このカードの効果でデッキまたはトラッシュからLV.Xポケモンを手札に加える。俺はトラッシュからバシャーモFB LV.X(110/110)を選択し、バトル場のバシャーモFBをレベルアップさせる!」
「またっ!?」
「もう一枚グッズカードだ。ポケモン入れ替えを発動。バトル場のバシャーモFB LV.Xとベンチのバシャーモを入れ替える!」
 このバシャーモがバトル場にいて、バシャーモFB LV.XとヒードランLV.Xがベンチにいる。これが俺の望む陣形だ!
「手札からポケモンの道具、達人の帯をつけるぜ。これでバシャーモのHPと相手に与えるダメージが20上昇! バシャーモ(150/150)のポケパワー、バーニングブレスでカブトプスを火傷にさせて攻撃。鷲掴み!」
 屈強な腕がカブトプスの喉元に伸び、しっかりがっちりと掴み、締め付ける。元の威力が40だが、達人の帯、バシャーモFB LV.Xのバーニングソウルで+40されて40+20+40=100ダメージ。これであっという間にカブトプスのHPが30/130に。
「ターンエンドだが、さらにポケモンチェック。火傷でカブトプスに20ダメージだ」
 これで残り10/130。オムスターと同じHPであればこの時点で気絶させることができたが少し足りなかったか。
「さあ、薫のターンだぜ?」




「まだまだ! ギガブラスター!」
 何度目だろうか、再び巨大な橙レーザーが発射される。しかしミュウツーLV.Xはサイコバリアを張ってダメージから身を守る。
「なかなか貴女しつこいんですねぇ。そんなことしても無駄なのに」
「ギガブラスターの効果よ……、相手の手札と、デッキトップを一枚、トラッシュさせる!」
 能力者との対戦は精神への負荷がかかる。まして相手はワーストワンの能力者。既に松野さんは肩を上下にさせた状態だ。こんな松野さんは見たことがない。
『もし、私に何かあった場合は悪いけどよろしく頼むわ』
 対戦前に松野さんが僕、一之瀬に告げた一言が頭の中でリフレインする。
 松野さんはあらかじめ負けるかもしれないと分かっていたのかもしれないな……。
「そうか、分かりましたよ。貴女は僕のデッキを削り取る気ですか。なるほどねえ。でも僕のデッキはまだ十枚もある。そして僕のサイドは残り二枚だ。しぶとくサクリファイスでHPを補充しているがそれにも限界というものがある。それに、そのパワーバランスは簡単に崩れる。僕は達人の帯をミュウツーLV.Xにつけさせてもらうよ。さあこれでそのあがきも終わりにしてあげよう」
 すっ、と山本は松野さんを指差す。
「貴女も僕に負けて消えていくのではない。僕の能力(ちから)の礎となるのだから、安心して消えていけばいい」
 二ターン前に、松野さんは自分のレジギガスLV.X140/170はHP補強のため達人の帯をつけた。しかし達人の帯は強力ゆえにデメリットも存在する。それは達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合、相手はサイドは一枚更に引けるというもの。つまりここでレジギガスLV.Xが気絶したとき山本が引くことの出来るサイドカードは二枚だ。
 そしてミュウツーLV.Xのギガバーンは120ダメージを与える大技。それも達人の帯の効果でワザの威力は20プラスされて……。
「それではさようなら。ミュウツーLV.Xで貴女を消してやる。咲いては散る花火のように! ギガバーン!」
 深い紫色のエネルギー球体がレジギガスLV.Xに触れると一気に膨張して爆発、轟音放ちながら全てを包み込んでいった。
 僕が松野さん! と叫んだ声も。全て消えていった。



翔「今日のキーカードはバシャーモ!
  ポケパワーはノーリスクで確実に相手を火傷にさせるぜ。
  そしてワザも高火力! 申し分なしだ!」

バシャーモLv.59 HP130 炎 (DPt1)
ポケパワー バーニングブレス
 自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
無無 わしづかみ  40
 次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
炎炎無 ほのおのうず  100
 自分のエネルギーを2個トラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 − にげる 1


  [No.862] 75話 困惑 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:42:44   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「松野さん!」
 二回目の叫びは勝負を終えたばかりの風見くんが上げたものだった。
「くそっ!」
 彼が取り乱したところを見るのは初めてだ。それだから、彼自身が暴走すると何が起こるかが怖い。
「担架っ!」
 担架を呼ぶ指示を声を荒げて僕も松野さんの元へ走る。しかし用があるのは松野さんではない。こちらに向かってくる風見くんだ。
「風見くん、落ちつけ!」
 猛牛のように松野さんの元へ突進してくる彼をショルダータックルで突き飛ばす。
「担架は急いで運んで!」
「はい!」
 ようやくぴくりとも動かなくなった松野さんを担架に乗せてレスキュー班が会場奥へ消えていった。松野さんの姿が見えなくなるまで風見くんは立ちあがってなお松野さんの元へ行こうと僕と格闘を繰り広げていた。
「はっ、はっ、はっ」
 血眼になっている風見くんは今のでかなりの体力を消耗してしまったのだろうか、僕にほとんどもたれかかって体重を預けている様相だ。
「……。風見くん。いくら松野さんが君の恩人だからといって焦っちゃダメだ。怒っちゃダメだ。松野さんは二度と目を覚まさない訳ではない。山本信幸を倒せば松野さんはきっと目を覚ます」
「……」
「だから、松野さんが帰ってくるまで僕、一之瀬がその代役をするよ」
 柱の傍まで風見くんを連れて行ってあげて、柱にもたれれるよう彼を座らせた。利口な彼ならきっとすべきことがわかるだろう。
 ふと目が合った山本がこちらを見て嘲笑ってくれたが、馬鹿馬鹿しくて声を出して笑いそうになった。
 狩られる者の立場を分かってないな、と。



「嘘……だろ」
 気がつけば松野さんは担架で運ばれていったところだった。必死に松野さんの元に行こうとする風見を止める一之瀬さん。
 あんな感情的な風見は見たことないが、それよりも拓哉(裏)をあっさりと倒してしまう実力の松野さんが負けた……?
 松野さんが負け、山本が準々決勝へ駒を進めたということは、だ。
 俺か、……薫が山本と戦う事になる。
 思わず薫が担架で運ばれるところを想像してしまった。そんなことはさせない。絶対にだ!
 能力者との対戦をしたことがあるから分かる。あれはもうカードゲームじゃない。本当に自分自身の精神を削るような戦いだ。
 それを何も知らない薫にはさせたくない。だから勝つしかない……。
「翔! 何ぼさっとしてるの!」
「ああ……」
 この能力者についてはもう一つ疑問がある。能力者が戦うたびに担架が右往左往しているのに、それについて騒ぎ立てる人が一切いないということだ。
 恭介も、蜂谷も、薫も、向井も、皆が皆気づいていないのかどうかはしらないがそれについての言及が一切ないのがおかしい。
 今すぐそこで担架騒ぎがあったのに薫が何も言わないのはおかしい。こういう話で騒ぎ立てるのがしょっちゅうな恭介も蜂谷も何も言わない。
 一体本当にどうなっているんだ? まさかそれも能力なのか?
「あたしのターン!」
 今はとにかく薫に勝つことに集中しなければならない。絶対だ。絶対勝たないと。
 薫のサイドは三枚。俺のサイドは四枚。薫のバトル場には火傷で、闘エネルギー一枚ついたカブトプス10/130、ベンチにはプテラ80/80、カブトプス110/130、プテラGL40/80。
 俺のバトル場には達人の帯、炎エネルギー二枚のついてあるバシャーモ150/150、ベンチにヒードランLV.X120/120、バシャーモFB LV.X110/110、ヤジロン50/50。
「まずはベンチのカブトプスに闘エネルギーをつけて、プテラのポケパワー発掘を発動! この効果で自分のデッキからかい、こうらの化石かひみつのコハクを一枚手札に加えることが出来る。あたしはひみつのコハクをデッキから手札に加える。そしてベンチにかいの化石(50/50)を出す」
 かいの化石、こいつが中々面倒だ。進化されると俺のカードの弱点を突く水タイプのオムスターになる。
「手札のひみつのコハクをトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
 原始のカマは攻撃する前にかい、こうらの化石またはひみつのコハクを手札からトラッシュした場合威力が50上昇するワザ。
 元の威力が20なので、バシャーモが受けるダメージは20+50=70の70ダメージ。
 カブトプスのカマで鋭い一撃を受けたバシャーモは後ずさるも、HPバーは半分以上残って80/150だ。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックね」
「一気に行く! このタイミングで、ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルの効果だ! ポケモンチェックのとき、相手プレイヤーが火傷で投げるコインは全てウラとなる! よってカブトプスには火傷のダメージ20を食らってもらう!」
 エフェクトでカブトプスの身が一瞬炎で包まれると同時にHPも奪われて行く。20ダメージを受けたカブトプス0/130は、力なく膝から崩れていく。薫は次のポケモンにプテラGL40/80をバトル場に出してきた。
「俺はサイドを一枚引く。そして俺のターン!」
 絶対に勝たねばならない。薫は回転の遅い俺のデッキに対し速攻で仕留めにかかってくる。ならばこっちはその速攻を崩す重い一撃を休む暇なくぶつけていくしかない。
「俺は炎エネルギーをバシャーモにつける。そしてサポーターカードを発動。ミズキの検索! 手札を一枚戻してデッキからポケモンを一枚手札に加える!」
 勝つにはパワーだ。ここで勝つには力で押すプレイング、ポケモンが必要!
「この効果で俺は───」
 しまった! パワーのことを考えすぎて本来求めていたカードとは違う、バシャーモを選択してしまった……!
「くっ、俺はバシャーモを手札に加える!」
 今バシャーモが手札に来てもベンチにはアチャモもワカシャモもいない。完全に意味のないカードを選んでしまった。本当はネンドールを加え、ベンチのヤジロンに進化させてポケパワーのコスモパワーを使うつもりだった。コスモパワーは自分の手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、そこから手札が六枚になるまでドローできるドロー支援のポケパワー。そこから自分のデッキに勢いをつけるはずだったが、焦りのあまりプレイングミスをしてしまった……。でもなったものは仕方ない。
「行くぞォ! バシャーモで攻撃! 炎の渦!」
 深く息を吸い込んだバシャーモが、プテラGL40/80を覆い尽くす巨大な炎のうねりを吹き付ける。威力100の大技はプテラGLをあっさり倒してしまった。
「炎の渦の効果で、バシャーモの炎エネルギーを二個トラッシュする!」
「あっ、あたしはカブトプス(110/130)をバトル場に」
「サイドを一枚引いてターンエンド! そしてこのタイミングでヒードランLV.Xのポケパワーを発動する!」
「えっ、自分の番が終わったタイミングで!?」
「ポケパワー、熱風は自分のターンの終わりに一回使える。そのターンに自分の炎または鋼のバトルポケモンのワザで、そのポケモンからトラッシュした基本エネルギーのうち二枚までを選び、そのポケモンにつけ直す!」
「つけ直す!?」
「俺は炎の渦でトラッシュした炎エネルギー二個をバシャーモにつけ直す」
 炎タイプのポケモンは高火力だがいちいちエネルギーをトラッシュしないといけないデメリットがある。それをカバーするためのポケパワーだ。
「……。なんだか翔らしくないな」
「……?」
「翔はいつも勝負を楽しんでるヤツだと思ってたし、実際さっきまでそうだった。だけどさっき集中を一瞬切らした後から、なんだか勝負の楽しさじゃなくてただ勝利を求めて焦るようなプレイングに変わってた。たとえばさっきのミズキの検索、あれはミスじゃない?」
「いや……」
「ミスだよ。ネンドールを選ぶのが正解だったはず。ミズキの検索をしたあと翔の手札は三枚、ネンドールを引いていたならネンドールにヤジロンを進化させて二枚、これでコスモパワー使えば手札の状況はがらりと変わる。そして何よりバシャーモを選択してしまった時の翔の顔は明らかにミスに対するいら立ちみたいな感じだった」
「っ……」
「悪いけど、『そんな程度』の気持ちで倒せるほどあたしは甘くないよ。あたしのターン! あたしはかいの化石をオムナイト(80/80)に進化させて水エネルギーをつける。そしてミズキの検索を使うよ! 手札を一枚戻してデッキからオムスターを手札に加える。さあ、手札のかいの化石をトラッシュして原始のカマ!」
 相変わらずエネルギー一個だけで強襲してくるカブトプスは強力だ。だが、カブトプスの一撃を受けたバシャーモ10/150はすんでのところで耐えきった。
「俺のターン。俺は……」
 本当にこれでいいのだろうか? 薫のためだという理由で薫の望まない意識で戦うというのは結局薫にとっていいことなのだろうか? 分からない。
「俺は、手札の炎エネルギーをバシャーモFB LV.Xにつけて、バトル。バシャーモで攻撃する。炎の渦!」
 激しく荒れ狂う真っ赤な渦がカブトプスを飲み込み大幅にHPを奪う。かろうじて耐えきったカブトプス10/130だが、さらに追い打ちはかかる。
「ポケモンチェックだ。カブトプスは火傷! そしてヒードランLV.Xのポケボディーで確実に火傷のダメージ20を受けてもらう!」
 今度こそHPの尽きたカブトプスは力なく倒れる。
「くっ、あたしはオムナイト80/80をバトル場に出すわ」
「サイドカードを一枚引かせてもらう」
 これで残りのサイドは一枚。あと一匹、あと一匹を倒せば俺は勝てる。そして薫が危険な目に遭う必要性もなくなる。
 丁度そのとき、隣で戦っていた恭介がよっしゃあああああ! と大声を張り上げて右腕を天井に向け突き上げる。どうやら勝って次へと駒を進めたようだ。
 俺も能力者とかがいなければこれくらいの気持ちで戦えたのになあ。ふと見た恭介の背中は近いはずなのにすごい距離を感じる。
「おい翔てめえ! 負けたら承知しねえぞ!」
 後ろから拓哉(裏)の罵声か応援か、その辺の声が飛んでくる。返事に困った俺は、とりあえず苦笑いだけで返しておく。
「無駄に力が入りすぎてんぞバカが!」
 むっ、最後の一言は流石に余計だろう。
「うっせえ! そっちこそバカだろ!」
「けっ、ようやくいつもの表情に戻ったな」
 拓哉(裏)が珍しく普通の笑みを浮かべるが、なかなか様じゃないか。
「……お前、わざわざ俺のために」
「うっせえな。さっさとその勝負、ケリをつけろ」
「ああ」
 柄にもないことしやがって、ほんと拓哉めバカだ。バカなのは裏の方限定だけど。
「よし、薫。来い!」
「うん、あたしのターン! 手札のマルチエネルギーをオムナイトにつける。マルチエネルギーはポケモンについている限り、全てのタイプのエネルギー一個ぶんとして働く特殊エネルギー。続いて手札からオムスター(120/120)をオムナイトに進化させる!」
 これが薫の最後のポケモンか、俺のポケモン達の弱点である水ポケモンが立ちはだかる。
「ただ倒すだけじゃダメ。だから、こんなのはどう? タイムスパイラル!」
 オムスターの触手がバシャーモを縛り付ける。すると、縛り付けられたバシャーモの体が青く光り出し、その姿が縮んでいく。
「タイムスパイラルは相手の進化ポケモンを一進化ぶん退化させる! 退化させたポケモンのカードはデッキに戻してシャッフルよ」
 やがてバシャーモ10/150の姿はワカシャモ0/100へと戻っていく。
「そうか。退化してもワカシャモに乗っているダメージカウンター自体は変わらない。HP150で140ダメージを受けていた状態から退化してHP100で140ダメージ受けた状態になったのか!」
「そうそう。それでワカシャモは気絶!」
 ようやく触手から解放されたワカシャモはぱたりと倒れてしまう。デッキに戻すという効果が結構厄介だ。たとえばデッキの中に入っているあのカードが欲しいと思うと、デッキの枚数が少ない時ほどそのカードを引く確率が高くなる。こうやってデッキを増やされると、望みのカードを引く確率が下がってしまう。
「だったら俺はベンチのバシャーモFB LV.Xをベンチからバトル場に出す!」
「あたしはサイドをドローする。ただ、ワカシャモにはポケモンの道具達人の帯がついていた。達人の帯をつけているポケモンが気絶したとき、あたしは更にサイドを一枚ドローできる。よって二枚ドロー! これで五分よ」
 五分? 五分どころなもんか。むしろ最悪だ。
 今の俺の手札、場ではオムスターを「一撃で」倒す術がない。もし一撃で倒さなかった場合、次の薫の番でオムスターのワザ、原始の触手で攻撃されるとジエンドだ。一撃でバシャーモFB LV.Xは気絶させられてしまう。
 だから俺の勝利条件はこのターン以内でオムスターを倒すことだ。オムスターのHPは120/120。バシャーモFB LV.Xでの最大火力は80で40足りない。40……?
 そうか、バシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルを発動出来ればいい。
 バーニングソウルはバトル場のポケモンが火傷のとき、そのポケモンが受けるワザのダメージは+40させるというもの。オムスターを火傷に出来れば勝てる。
 だがどうやって? ポケパワー、バーニングブレスで相手を火傷に出来るバシャーモはもう俺の場にはいない。生憎と前のターン、俺のプレイミスで手札に来たバシャーモはある。しかし残りの手札四枚はクロツグの貢献、ハードマウンテン、炎エネルギー、ポケモン入れ替えの三枚。これではどうしようもない。
「このドローで全てが決まる。頼むっ!」
 大きな動作でデッキから引いたカード。それは───。
「俺はベンチのヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる!」
 この一枚で逆転にはならない。ただ、逆転へつながる大きな希望だ!
「手札の炎エネルギーをバトル場のバシャーモFB LV.Xにつける。さあ、ネンドールのポケパワー発動だ。コスモパワー! このポケパワーは手札を一枚か二枚をデッキの底に戻し、その後手札が六枚になるまでドローする。俺は手札を二枚戻し、四枚ドロー!」
 このドローで逆転の手札を引かねば。残り十八枚のデッキから勝利の軌跡を描くカードを!
 一枚目はワカシャモ。ダメだ、この場面では重要になりえない。
 二枚目は不思議なアメ。そう、これは起爆剤だ。勝利を得るには必要な一枚。だがこれだけでは勝てない!
 三枚目は炎エネルギー。違うこれじゃない! 最後の一枚に全てを賭けるしかないっ!
「これだ! 手札からサポーターカードを発動! ハマナのリサーチ! 自分のデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚手札に加えることが出来る! 俺はアチャモと炎エネルギーを選択する。そして俺はベンチにアチャモ(60/60)を出す」
「またアチャモ?」
「いいやまだだぜ。手札からグッズカードを発動。不思議なアメ! 自分の場のたねポケモンの上に手札のそのポケモンの進化ポケモンを重ねて進化させる! さあ、来い! バシャーモ!」
 アチャモを覆う白い光の中で、その小さな体躯はより大きく屈強に変わって行く。そして光が消え、バシャーモ130/130が大きな雄叫びを上げながら俺の場に現れる。
「さあ、焼き焦がしてやれバシャーモ。ポケパワー、バーニングブレス!」
 一際激しく全ての色を塗り替えるその真っ赤な灼熱がオムスターを覆い尽くし、火傷状態にする。
「この一撃で決めてやる! バシャーモFB LV.X、ぶちかませ! ジェットシュート!」
 高く跳躍したバシャーモFB LV.X。そのまま赤い彗星と化してオムスター120/120に高い位置から激しい蹴りの一撃を浴びせる。空気を激震させる激しい一撃が、オムスターのHPを奪い取る。
「ジェットシュートは次の相手の番、このポケモンが受けるワザのダメージはプラス40されるデメリットを持つワザだが、エネルギー二つで80ダメージの超火力ワザ。そしてバシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルは火傷のバトルポケモンが受けるワザのダメージを40追加させるポケボディーだ!」
「つまりオムスターが受けるダメージは120!?」
 薫のバトル場にはぐたりと動かなくなってしまったオムスター0/120のみ。
「これでゲームセットだ!」
 最後のサイドカードを一枚引いて、この勝負の幕を下ろす。恭介じゃないが、俺も思わず右腕を突きあげる。
 PCCも二回戦を終わり、次はいよいよ準々決勝。次は絶対負けられない。自然と右手に力がこもっていたのを感じた。



翔「今日のキーカードはヒードランLV.X。
  火傷のポケモンを簡単には逃がさせない!
  そしてハイリスクな炎ポケモンのワザをより安定させてくれるぜ」

ヒードランLV.X HP120 炎 (破空)
ポケパワー ねっぷう
 このポケモンがベンチにいるなら、自分の番の終わりに1回使える。その晩に、自分の炎または鋼のバトルポケモンのワザで、そのポケモンからトラッシュした基本エネルギーのうち2枚までを選び、そのポケモンにつけなおす。
ポケボディー ヒートメタル
 相手のやけどのポケモンが進化・退化・レベルアップしても、やけどは回復しない。ポケモンチェックのとき、相手プレイヤーがやけどで投げるコインは、すべてウラとしてあつかう。
─このカードは、バトル場のヒードランに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 − にげる 4


  [No.863] 76話 不足 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 13:06:06   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「松野さんが倒れた今、松野さんの部下である僕、一之瀬和也が彼女の代役をします」
 拳を強く握りしめ、既に闘志を目に宿した奥村翔くん、不気味な笑みを浮かべている藤原拓哉くん、そしてまだ柱にもたれかかり明日のジョーみたいに燃え尽きている風見雄大くん。
 今の三人は皆が皆意識が違うようだ。別に問題があるわけではない。むしろ、面白いなと笑ってしまいそうなくらいだった。
「まずは藤原くん。君はこの次能力者の高津洋二と戦う事になる。彼の特徴は───」
「言われなくてもあのチビから聞いた。ワザの衝撃をそのままプレイヤーに与えるやつだろ?」
「そう。ただ、どの程度までダメージを与えれるかは分からない。勝てたとしてもどうなるかは分からない」
「けっ」
「彼のデッキはパワー型軸だがテクニカルな戦術も持ち合わせている。その辺も注意して」
「言われなくても分かってる。それだけか?」
「うん。健闘を祈るよ」
 藤原くんは露骨に舌打ちをすると先に対戦場の指定位置へ向かう。
「さて。次は奥村翔くん。言わずとも分かるだろうが山本信幸が相手だ。彼はほとんど自分のプレイングの全てを見せずに勝ち続けている」
「……」
「特にあのミュウツーLV.Xは強烈だ。相手がたねポケモンならばダメージを受けないポケボディー、サイゴバリアは非常に厄介。十分に注意してくれ」
「はい」
 奥村翔くんも強く頷くと、藤原くんの後を追って走って行った。
「さて、風見くん。君はこのままでいいのかな?」
 相変わらず虚空を見つめる彼。しかし彼に命を吹き込む一つの魔法がある。
「『市村アキラ』が全国で君を待ってるよ」
 こう耳打ちした刹那、彼の目は一気に命を取り戻す。
「本当ですか!?」
「彼にリベンジしたいなら、君はここでこんなことをしている暇はないはずだ。能力者なんて関係ない」
「……」
「君は君がすべきことを全うするんだよ」
「アキラ……」
 ようやっと立ち上がった風見くんを背に、僕は一足お先に対戦上へ向かうことにした。



「さてと、お前が話に聞いていた高津洋二か」
「……」
「おいおいおいなんか喋れよクソ野郎」
「お前に話すことはない」
「そぉか。お前はそうでも俺はそうじゃないんだよ」
 灰色のパーカーのフードを被って下を向いている高津は、顔が一切見えない。そして会話に関しても閉鎖的だ。元からそういう質(たち)なのか何も返してこない。
「せめてよぉ。人と人と会話するときは相手の目を見ろなんて学ばなかったのかよ? あぁ!?」
「言葉数が多いな……」
「俺様は喋って好感をもたれるタイプなんでな。そんなことよりお前の能力(ちから)、危なっかしいからとっとと潰させてもらうぜ」
「能力のこと、知っているのか」
 初めて高津の顔が俺を見つめた。とはいえ高津の顔は長い前髪でほとんど見えないのだが、その顔には衝撃的な物が一つあった。
「へぇ、火傷か」
 俺がそう言うと高津の眉が微かに動く。そう、高津は顔の右半分が火傷でただれていた。非常に醜い容貌を彼は必死に隠そうとしていたのだろう。
 ふーんなるほどね。能力というのは嫌なことに対する負の感情から生まれるまさに醜い力。あの火傷の跡から生まれたコンプレックスが高津に能力を与えたか。
「まあいい。俺様がお前をぶっつぶしてやる。さぁ、遊ぼうぜ!」
 先攻は俺からだ。互いにバトルベルトを広げ、バトルの準備を整える。俺のバトル場はヨマワル50/50。ベンチにはゴース50/50。一方高津のバトル場はワンリキー60/60一匹だけだ。
 ワンリキーの弱点は俺が扱う超タイプ。こいつはいい。超タイプを扱う俺にしては飛んで火にいる夏の虫ってところだ。
「へぇ、格闘タイプか。おいしいな」
「相性なんてものはまやかしだ。本当の力を見せてやる」
「力じゃなくて能力の間違いじゃないのかあぁ? 俺様のターン! まずは手札の超エネルギーをヨマワルにつけて攻撃! 影法師!」
 ヨマワルから伸びる影がワンリキーに襲いかかる。しかし与えたダメージは僅かに10。ワンリキー50/60もまだまだ余裕そうだ。
 このワザは相手にダメージカウンターを一つ乗せるワザ。相手に既にダメージカウンターが乗っている場合、更に追加でダメージカウンターをもう一つ乗せることが出来るが、生憎ワンリキーはダメージカウンターが乗っていなかったため10ダメージだけだ。
 そしてこれはワザのダメージを与えるものでなくダメージカウンターを乗せるという効果なので、弱点及び抵抗力の計算を受けない。
「威勢の割にはそれだけか。俺のターン、手札の闘エネルギーをワンリキーにつける。そしてサポーターを発動する。ハマナのリサーチ」
 ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで選び手札に加えるサポーターカード。高津はパルキアGとマンキーを選択した。
「そして俺はパルキアG(100/100)をベンチに出して、手札からグッズカードの不思議なアメを使用」
 不思議なアメはご存じ、進化していないポケモンをそのポケモンから進化する一進化及び二進化ポケモンに進化させることのできるグッズカード。これが二進化ポケモンの弱点である遅さを軽減させる。
「ワンリキーをカイリキーに進化!」
「くっそ、まだ二ターン目なのに遠慮なしかよ」
 光の柱に包まれたワンリキーは全体的に大きくフォルムを変えていき、逞しい体つきへ変わっていく。そして光の柱からカイリキー120/130が現れた。
「同じエネルギー一つでもその違いを見せつけてやろう。落とす攻撃だ」
 カイリキーがチョップをヨマワルの頭部に喰らわせたその時だった。
「!?」
 理解不能の衝撃が頭上にズシンときた。思わず姿勢を崩して前のめりになる。
(大丈夫!?)
 俺のもう一つの人格である相棒が語りかけてくる。心配されるほど俺は軟(やわ)じゃねぇ。
「ああ、まだまだ。……なるほど、これがお前の能力か……」
 いってーな、と呟き頭をさする。口ではそう言ったがそんなもんじゃすまない。かなり硬いもので殴られたような感じがして立ち上がる時は少しふらついた。こいつは厄介だ。
「この落とす攻撃は、攻撃した相手が進化していない場合、ダメージを与える代わりに相手を気絶させるワザ」
「なんだと!? 俺のヨマワルが一撃かよ! くそっ、鬱陶しい!」
 ふらふらと倒れていくヨマワル。最大まであったHPはあの一撃で0/50となった。
「相性なんてまやかしだ。これが本当の力だ」
「ふぅん、そんな程度か。それくらいなら俺だって出来るぜ。俺はゴースをバトル場に出す」
「さっきから口ばかりだな。サイドを一枚引いてターンエンド」
 しかしまさかいきなりサイド先取されるとはね。
(やっぱり強いね……)
「けっ、これくらいやってもらわないとな。さあ、俺様のターン! ドロォー! まずはこうだ! 俺は手札の超エネルギーをゴースにつけ、ベンチにヤジロン(50/50)を出す。サポーター、シロナの導きを発動!」
 シロナの導きはデッキの上から七枚を確認し、そのうち一枚を手札に加えることの出来るサポーター。単純に引くだけとは違いきっちりサーチ出来るのがこのカードの強み。
(ここは手堅くアレで行こうよ)
「ああ、当然だ相棒よォ。このカードで決まりだ。さて、良いもん見せてもらったらしっかりお返ししねぇとな。こっちも不思議なアメだ。進化させるのはもちろんゴース。面白くなるのはここからだ! 来い、ゲンガー!」
 光の柱の中から光を消しさる程の深い闇を纏ったゲンガー110/110が現れる。
「もがいてみせろ! ゲンガー、シャドールーム!」
 ゲンガーは両腕を自分の腹部に持っていく。すると右手と左手の間に黒と見違えるほどの濃い紫色の立方体の謎の物体を作り出す。ゲンガーが腕を広げるとその立方体もそれに合わせて大きくなる。ある程度の大きさになると、ゲンガーはその立方体を投げつけた。
 謎の立方体はカイリキーの元へ飛んでいき、カイリキーにぶつかるや否や謎の立方体がカイリキーを包み込む。
 外からでは何も見えないが、この立方体の中でカイリキーには全身に異常なまでの圧力をかけれらてそれがダメージとなるのだ。
「このワザは相手一匹にダメージカウンターを三つ乗せるワザ。これも弱点と抵抗力は無視だ」
 ようやく解放されたカイリキー90/130、肩を上下させていたが程なく元通りに動き出す。
「その程度のダメージでは俺には効かない」
「へ、ほざいてろ顔面グロテスクが」
 ほとんど動かなかった高津の表情が今完全に憎悪のそれに切り替わった。
(さ、流石に煽りすぎじゃない!?)
「大丈夫だ」
「何を独り言を! 俺のターン」
 一瞬高津の行動が止まった。かと思うと、歪んだ笑顔で突如笑いだす。
「ははははは! 俺を愚弄したことを後悔させてやる!」
(何か仕掛けてくるよ!)
「けっ、口上はいい」
「俺は闘エネルギーをカイリキーにつけ、ベンチにマンキー(50/50)を出す。遊んでやる。カイリキーで攻撃、ハリケーンパンチ!」
 高津はワザの宣言と同時にコイントスを始める。
「このワザはコイントスをしてオモテの数かける30ダメージを与えるワザ。そのコイントスは……、オモテ、ウラ、ウラ、オモテ。60ダメージを食らえ!」
 ゲンガーに向かって走り始めたカイリキーは、右の二本の腕をぐんぐん回すとその二本の腕でゲンガーを思いっきり殴りつけた。ゲームならゴーストタイプに格闘ワザなど効かないが、これはカードなのだ。モロにパンチを受けたゲンガー50/110はその威力ゆえに吹き飛ばされ、衝撃を受けた俺も後ずさりをしてなんとか耐えた。
 左の肩甲骨の辺りと鳩尾のちょっと上に、これまた硬いもので殴りつけられたような衝撃、痛みが走る。
「くっ……」
「お前を少しずついたぶってやることにする」
「ふん、まだまだ! 俺のターン!」
 引いたカードはネンドール80/80。俺の方からサーチをかけようとしていたが自ずとやってきた。どうやら運は俺の方にあるらしい。
「俺はベンチのヤジロンをネンドールに進化させ、手札からグッズカードのゴージャスボールを使う。ゴージャスボールはデッキからLV.X以外の好きなポケモンをサーチするカードだ。俺は……。そうだなぁ、サマヨールを加える。更にネンドールのポケパワーを使うぜ。コスモパワー!」
 コスモパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、その後手札が六枚になるまでドローするドローソースだ。今の手札は二枚。ヨノワールでない方の手札をデッキの底に戻し、五枚ドロー。
「けっ、超エネルギーをゲンガーにつけてヨマワル(50/50)をベンチに出すぜ。サポーター、オーキド博士の訪問を使う。デッキから三枚ドローした後手札を一枚デッキの底に戻す。ポケモンの道具、ベンチシールドをネンドールにつけるぜ。ベンチシールドをつけたポケモンがベンチにいる限り、ワザのダメージを受けない。さあ攻撃だ! ゲンガー、ポルターガイスト攻撃!」
 ゲンガーの影がすっと伸びてカイリキーの影と融合する。
「このワザは相手の手札を確認し、その中のトレーナーのカードの枚数かける30ダメージを与えるワザだ。さあ手札を見せな!」
 高津はバツの悪そうに眉をひそめると手札を見せる。ミズキの検索、闘エネルギー、プレミアボール、ネンドール。ミズキの検索とプレミアボールがトレーナーのカード。二枚だ。
「さあ、やれ!」
 カイリキー90/130の影から耳を壊しかねないような嫌な音が鳴り響く。カイリキーは四本の腕で耳を押さえようとするがそれも無駄。膝をつき、そしてついには倒れていく。
「さっきまではダメージカウンターを乗せるワザばっかだったが、今度は別だ。きっちりダメージを与えるワザだ。弱点計算はきっちりさせてもらうぜ!」
 30×2=60に、カイリキーの弱点は超+30。よって60+30=90。ジャストでカイリキーが戦闘不能になる。
「へっ、弱点がどーだこーだいっときながらこのザマかよ!」
「俺はパルキアGをバトル場に出す」
「サイドを引いてターンエンドだ!」
「……。俺のターンだ。手札からプレミアボールを発動。デッキからパルキアG LV.Xを手札に加える」
 プレミアボールはデッキまたはトラッシュのLV.Xを手札に加えることのできるカード。何か仕掛けてくるか。
「パルキアGをパルキアG LV.X(120/120)にレベルアップさせる」
 大きく咆哮するパルキアG LV.X。ついつい目が合ったが何だこの威圧感は。
「マンキーに闘エネルギーをつけて、サポーターカード発動する。ミズキの検索。俺は手札を一枚戻してヤジロン(50/50)を手札に加え、ベンチに出す。そしてターンエンドだ」
 もうターンエンドだと? まあいい。
「だったら俺のターン! アグノム(70/70)をベンチに出してタイムウォークを発動。このポケパワーはアグノムを手札からベンチに出した時に使え、サイドカードを確認し、その中のポケモンを一枚手札に加えることができる。加えた場合、俺は手札から一枚サイドにウラにして置く。俺はアンノーンG(50/50)を手札に加えて手札を一枚サイドに置く。そしてアンノーンGをベンチに出すぜ」
 これで俺のベンチは四匹。だがまだまだ増える。
「ベンチのヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させて超エネルギーをつける。さらにサポーターカードのハマナのリサーチだ。超エネルギーとヨマワルを手札に加え、ヨマワル(50/50)をベンチに出す!」
 一気にベンチに大量展開したため俺のベンチがMAXの五体に。これで俺はこれ以上ベンチにポケモンを置けないが、それで十分だ。
「ネンドールのコスモパワーだ。手札を一枚戻してデッキから五枚ドロー! よし、攻撃する。ゲンガー、シャドールームだ!」
 高津の手札は一枚だけ。恐らくネンドールだろう。これではポルターガイストで攻撃する意味がない。
 ゲンガーから放たれる謎の物体はパルキアG LV.Xをとらえ、締め付けていく。
「シャドールームはポケパワーのあるポケモンにダメージを与える場合、ダメージカウンター三つに加えさらに三つ乗せることが出来る。パルキアG LV.Xにはポケパワーがあるみたいだな。それが仇となったぜ!」
 パルキアG LV.X60/120が苦しそうな悲鳴を上げたところでようやくシャドールームから解放された。
「おいおいおい、能力者ってこんなに大したことなかったか? 暇つぶしにもなんねぇぜ」
「その言葉が後に自分の首を絞めることになることを教えてやる」



拓哉(裏)「キーカードはこいつだな、カイリキー。
      なかなか鬱陶しい能力じゃねえか。
      特に落とすが強力だ。SPポケモンなんて瞬殺だぜ」

カイリキーLv.62 HP130 闘 (破空)
闘 おとす  40
 相手が進化していないなら、このワザのダメージを与える代わりに、相手をきぜつさせる。
無無 ハリケーンパンチ  30×
 コインを4回投げ、オモテ×30ダメージ。
闘闘無無 いかり  60+
 自分のダメージカウンター×10ダメージを追加。
弱点 超+30 抵抗力 − にげる 2


  [No.864] 77話 絶望 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 13:07:36   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 異様な雰囲気が漂う準々決勝。その雰囲気の発生源であるこの一帯では暗い戦いが続いている。
 どちらもサイドは五枚。俺の場には超エネルギー二枚ついたゲンガー50/110がバトル場に。ベンチにはベンチシールドのついたネンドール80/80、超エネルギーのついたサマヨール80/80、ヨマワル50/50、アグノム70/70、アンノーンG50/50。
 相手である高津洋二のバトル場はパルキアG LV.X60/120、ベンチに闘エネルギー一つついたマンキー50/50、ヤジロン50/50がいる。
 そして次のターンは高津から。
「俺のターン。ヤジロンを手札からネンドール(80/80)に進化させる」
 高津の手札は僅か一枚だが、このネンドールで手札を増強させる気だ。ネンドールの持つポケパワー、コスモパワーはポケモンカード屈指のドローサポート。手札を一枚か二枚戻して六枚ドローするというトンデモ効果はほとんどのプレイヤーを助けてきた。
「ネンドールのポケパワーを発動だ。手札を一枚デッキの底に戻し、デッキから六枚ドロー」
「ちっ」
「続いて手札から闘エネルギーをマンキーにつけ、サポーターカードだ。バクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚ドロー。手札からマンキーをオコリザル(90/90)に進化させる」
「そんな弱小カードで何をする気だ? あぁ?」
「更にワンリキー(60/60)をベンチに出し、パルキアG LV.Xのポケパワーを発動する。ロストサイクロン!」
 互いのベンチの上空に紫と黒の混じった鈍い色の渦が現れる。
「このポケパワーは自分の番に一度使う事が出来る。ベンチポケモンが四匹以上いるプレイヤーは自分のベンチポケモンを三匹選び、その後選んでいないポケモンとそのポケモンについているカードを全てロストゾーンへと送りこむ」
「ロストゾーンだと!?」
「そうだ。ロストゾーンに一度行ったカードは二度とプレイ中に使うことはできなくなる」
 高津のベンチは丁度三匹しかいないので効果対象にはならない。一方、俺のベンチには五匹いる。二匹は必ずロストゾーン行きだ。
「だったら、ネンドール、サマヨール、ヨマワルを残す。アグノムとアンノーンGをロストゾーンに送る」
 バトルテーブルの小脇にあるロストゾーンにカードを置くと、俺のベンチ上空の渦がアグノムとアンノーンGを吸って飲み込み消えていく。幸い、この二匹にはエネルギーなどがついていないのが救いだ。
「グッズカード、ポケモン入れ替えを発動。バトル場のパルキアG LV.Xとベンチのオコリザルを入れ替える、そしてオコリザルで瓦割攻撃だ」
 走り出したオコリザルは、ゲンガーの手前まで来ると跳躍してから右手でゲンガーの頭に瓦割を叩きこむ。
「ぐあっ!?」
 と同時に俺にもダメージが飛んでくる。丁度額のところにものすごい衝撃を受け、思わず後ろにこけそうになった。なんとか踏ん張ったがこれは最悪な気分だ。
(大丈夫!?)
「まだまだ……」
 俺のもう一人の人格はまたもや心配してくれる。その気持ちはありがたいがこの戦いに情け容赦はない。
 ふと鼻の下に何かついていると思い、服の袖で拭うと血がついていた。おいおい鼻血かよ。
「降参するならまだ間に合うぞ」
「誰が降参するかよ……。この顔面グロテスクが! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」
 ふらつく足を気合いで保ち、威嚇の意味を兼ねて吠える。そうだ。精神が先に折れたら負けだ。俺様がこんな弱小能力者に負けるわけがねぇんだよ。
「……。またその目だ」
「あぁ?」
「その俺を見る憎悪の目! 気持ち悪いものを見るかのような、そして俺を消えろと言わんばかりのそれが!」
(……?)
「お前もだ! どいつもこいつも俺をそんな目で見やがる!」
(ねぇ)
「ああ、これがこいつのコンプレックスだ」
 能力(ちから)は負の感情にリンクして生まれる力。こいつの力の由縁はもう予想がついた。
「お前も、お前も、お前も! 潰してやる……! 二度と立ち上がれないくらい!」
 自分を気持ち悪い目でみるようなヤツをまとめて全員潰したい。その負の感情がこいつの、他人にワザのダメージが直接衝撃として与える能力になったのだろう。しかしこいつに必要なのは同情ではない。
「おいおいおいおい! お前のことなんてどーでもいんだよこの弱小が! この俺様が直々にぶっ壊してやる!」
「だがお前のゲンガーはこれで気絶だ! 瓦割の威力は40だが、バクのトレーニングの効果でこのカードがバトル場の横にあるとき(サポーターは使うとその番の終わりまでバトル場の横に置く)相手に与えるワザのダメージを10追加するもの。これで合計50ダメージ、ゲンガーはきっちり気絶となる!」
「んなこと分かってんだよ! 本領はこっからだ! ゲンガーのポケパワーを発動。死の宣告! さぁ、デッドオアアライブ。コイントスの時間だ! もしオモテを出したら、このポケモンを気絶させた相手のポケモンも気絶させる!」
「っ!」
 ……だが、コイントスの結果はウラ。不発に終わる。
「ちっ、ベンチのサマヨールをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 これでサイドは高津が四枚。俺が一枚ビハインドだ。
「けっ。俺様のターンだぁ! 手札からバトル場のサマヨールをヨノワール(120/120)に、ベンチのヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させる。そぉだな。ここでネンドールのコスモパワーだ。手札を二枚戻し四枚ドロー!」
 デッキの残数は二十九枚。まだまだ暴れても足りるな。
「サポーター、ハマナのリサーチだ。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加えることが出来る。俺様はゴースと超エネルギーを加え、ゴース(50/50)をベンチに出しヨノワールに超エネルギーをつける!」
 このターンのうちに体勢を立て直したい。ここはちょっと強引に行ってやる。
「ふん、こんなんじゃあまだまだ足りねえ。ヨノワールのポケパワーを使ってやる。影の指令! 自分の番に一度使え、デッキからカードを二枚ドロー。そして手札が七枚を越えたら六枚になるように手札をトラッシュ。そしてヨノワールに20ダメージだ」
 俺は手札からコール・エネルギーをトラッシュする。ヨノワール100/120は体力が減ったが、減ってこそ、その本領を発揮出来る。
「こうしてやる。ヨノワールで攻撃。ダメージイーブン!」
 ヨノワールの腹にある口が開くと、そこから火の玉が二つ飛び出る。ヨノワールの指示によって飛び回る火の玉は相手のベンチにいるネンドール80/80に襲いかかった。
「またベンチに攻撃か」
「なんとでも言え。ダメージイーブンは相手のポケモン一匹に、このカードに乗っているダメカンと同数のダメカンを乗せる。よってネンドールに20ダメージだ」
 まだまだネンドールはHPが60/80と余裕だが、これも計算の内だ。手はずは整いつつある。
「俺のターン。ベンチのワンリキーをゴーリキー(80/80)に進化させ闘エネルギーをつける。そしてネンドールのコスモパワー。手札を二枚戻して三枚ドロー」
 パルキアG LV.Xのロストサイクロンは確かに強力だが、自分の首も絞めていることになる。自分のベンチに四匹以上並ぶと自分もポケモンをロストしなくてはならないからだ。だから高津は手札にあるポケモンを処理しきれないのだろう。
「ここで俺はペラップG(60/60)をベンチに出す」
「何っ!?」
「ペラップGのポケパワー、撹乱スパイがこのタイミングで発動される。このカードを手札からベンチに出した時、相手のデッキのカードを上から四枚見て好きな順番に入れ替えることが出来る」
 相手のデッキの上を入れ替え……? いったい何が目的だ。
「……。よし、この並びだ。さあ次はパルキアG LV.Xのロストサイクロンを発動。ベンチに四匹以上いるのは俺の場のみ。この効果でペラップGをロストゾーンに送る」
 俺のベンチキルを意識した策略か? ただ相手のデッキを入れ替えることに何の意味が。
「オコリザルで攻撃する。マウントドロップ! このワザは相手のデッキの上を一枚トラッシュし、そのカードがポケモンだった場合そのポケモンのHP分ダメージを与える!」
「けっ、ペラップGはこのためか! トラッシュしたカードは……。ちっ、ゴーストだ」
「ゴーストのHPは80。よって80ダメージだ」
 再びオコリザルがヨノワールの元へ駆けて来て、手前でジャンプしヨノワールに絡みつくとマウントポジションになる。そして拳を高いところから振り下ろし脳天チョップを炸裂させる。
「かはっ……!」
 頭上からまるで鉄の棒で叩きつけられたような衝撃が走る。体の平衡を保てない。思わずおちそうになった、いや、おちた。気がつけばうつ伏せになって倒れていたのだ。
(よかった、起きてくれて……)
 もう一度立ち上がる。立ちくらみが半端なかったが、まだ行ける。服をぱんぱん、と掃う。首も回して腕も回す。俺の体は、いや、俺達の体はまだ大丈夫のようだ。
「なあ、俺はどんだけあんな風に倒れてた?」
(いや、ほんの僅かだったよ)
「ならいい」
 口の中が不快だ。ぺっ、と唾を吐くが血も幾らか混ざっていた。
「ふん」
「しぶといな……」
「七転八起は常識だろ?」
 さて、今のマウントドロップを受けてヨノワールのHPは20/120。もう一度影の指令を使うことは出来ない。自ら自滅しに行く必要はない。
「まだまだ余裕だ。俺のターン! けっ、いいもん引いたじゃねえか。ヨノワールをレベルアップさせる!」
 ヨノワールLV.X30/130になればHPに余裕が出来てもう一度影の指令が使える。レベルアップしてもレベルアップ前のポケパワーやポケボディーを使う事が出来るからだ。
「ふん。ゴースに超エネルギーをつける。サポーター、ミズキの検索だ。手札を一枚デッキに戻し、デッキからゲンガーを加える。そしてヨノワールLV.Xのポケパワーを使う。影の指令。デッキから二枚ドローし、ヨノワールLV.Xにダメカンを二つ乗せるぜ」
 これでヨノワールLV.X10/130はどんな些細なダメージでも気絶だ。だがその前にやるべきことは残っている。
「悪くねぇな。グッズカード、不思議なアメだ。ベンチのゴースをゲンガー(110/110)に進化させる。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを使う。手札を二枚戻し四枚ドロー。そしてヨノワールLV.Xでダメージイーブン!」
 ヨノワールLV.Xの口から十二の火の玉が現れ、オコリザルを襲っていく。圧倒的な火の玉の量にオコリザルはあっという間に気絶していく。
「……。俺はゴーリキーをバトル場に出す」
「へ、サイドを一枚引いてターンエンドだ」
「俺のターン。手札からグッズカード、夜のメンテナンスを発動。トラッシュの基本エネルギーまたはポケモンを三枚までデッキに戻す。俺は闘エネルギーを三つデッキに戻そう。さらにミズキの検索も使う。手札を一枚戻してカイリキーを加える。バトル場のゴーリキーに闘エネルギーをつけて、カイリキー(130/130)に進化させる」
 またカイリキーか。こいつの放つワザはどれもかしこも強力だ。踏ん張らないと。
「ネンドールのコスモパワーだ。一枚手札をデッキの底に戻し、五枚ドロー。さあ止めだ。カイリキーでおとす攻撃」
 そしてそのワザの宣言と同時に高津の右手人差し指が俺を指す。いや、正確には……。
「さらなる絶望を教えてやる」
「っぐああああああああああああああ!」
 カイリキーのチョップがヨノワールLV.Xにクリーンヒットすると同時に、左肘にとてつもない衝撃が走る。思わず左手に持っていた手札をこぼしそうになった。衝撃を喰らった後、痛みが引くまでしばらく右手で患部を抑える。
「あいつめ……」
(今、狙ってきたね)
「ああ……」
 あのとき高津は俺の左肘を指で指した。そしてそこに衝撃が来た。ここから推測出来ることは高津はある程度能力を操作することが出来るということだ。
「おとすはたねポケモンを気絶させる効果だけではなく、普通に40ダメージを与えれるワザだ。これでヨノワールLV.Xは気絶」
「……、面白くなるのは、こっからだ……。ヨノワールLV.Xのポケパワーだぁ! エクトプラズマ!」
 倒れ伏せているヨノワールLV.Xを中心にドーム状に紫色の空間が広がっていく。
「何だこれはっ!?」
 バトル場を。ベンチを。俺達を。俺達が戦っている空間だけ周囲と完全に切り離された。
「どういうことだ。俺はヨノワールLV.Xを倒したはずだ!」
「それが地獄への……、トリガーだ」
(ちょっと、大丈夫?)
 相棒が実際にいたら俺の肩を揺さぶっていただろう。だが俺の肩は自力で上下に揺れていた。
「はぁ、はぁ、……エクトプラズマは、ヨノワールLV.Xが気絶したときに使えるポケパワー……」
 俺達を囲む紫色の空間のあちこちにスッと切れ目が入ると、その切れ目からたくさんの眼が現れた。濁った白目の真ん中の瞳孔はこれでもかというくらい真っ暗だ。上下左右、全方位にウン百万、ウン千万、いやもっとあるこの眼達は俺達を凝視する。まるで監視されているかのようだ。
「くっ、このヨノワールLV.Xは、相手のワザで気絶したとき、スタジアムカードとして、このLV.X一枚だけを、残すことが、出来る……。俺は次のポケモンに、ベンチのサマヨールを選ぶ」
「サイドを一枚引く。これで残りサイドは三枚だ」
 息するのが辛いぞクソ野郎、全力疾走した後みたいな疲弊だ。座り込みてぇ。だが、それはまだ、まだだ。
「さあ、ワザを使ったから、お前の番は終わりだ。はっ、はぁ、ポケモンチェックにフェイズは移行する……。エクトプラズマの効果だ。このカードがスタジアムとして場にあるなら、ポケモンチェックの度に、相手のポケモン全員に、ダメカンを一つ乗せる……。さぁ苦しめ!」
 合図と同時に高津の場の全てのポケモンが苦しそうにのたうちまわる。カイリキー120/130は四つの腕を使って頭を押さえ、ネンドール50/80は変な回転を始め、パルキアG LV.X50/120は首を振りまわしながら悲鳴を上げている。
「ははっ、いい声上げるじゃねぇか……。おいおい……。今度は俺のターンだ。ドォロー!」
 ちっ、こいつじゃない。クソ、引きも悪くなってんじゃねえか。これが翔が言う「流れ」ってやつか。
「サポーターだ。クロツグの、貢献。トラッシュの基本エネルギーか、ポケモンをデッキに五枚戻して、シャッフル……。はぁ、俺は超エネルギー三枚とゴースとゲンガーを、戻すぞ」
 減らしすぎたデッキのリカバリーだ。これで二十四枚……。
「ゲンガーに超エネルギーをつける。ネンドールのコスモパワー、手札を二枚戻して二枚ドロー。ターンエンドだ」
 そしてポケモンチェック。高津の場は地獄絵図と化し、それぞれのポケモンのHPはカイリキー110/130、ネンドール40/80、パルキアG LV.X40/120となった。
「今度こそ降参したらどうだ?」
「けっ、人傷つける割には、そんなことを言いやがって、このクズめ」
 瞼が重い。右腕でバトルテーブルを上から押して、それでなんとか体重を保っている感じだ。さすがにあんだけ連打を受ければ辛い。だが負けたくは、ない。
「不思議だな……」
「む?」
「こんなボロボロになっても、お前にだけは負けたくねぇ……」
 高津は一人笑いはじめる。紫の空間には高津の笑い声がしばらく響いた。
「口だけならなんとでも言える。お前が何と言おうと、それは意味を成さない。俺は俺を否定する奴を認めない。このターンでお前に止めを刺してやる」
(本気だよあいつ!)
「くっ……」
「俺のターン。サポーターカード、地底探検隊を発動。デッキの底から四枚カードを確認し、そのうち二枚を手札に加える。そして俺はカイリキーに闘エネルギーをつけ、レベルアップさせる!」
 ぞわり、身の毛がよだつ。カイリキーLV.X130/150、こいつはヤバい。直感で分かる。あれはダメだ。ヤバい、ヤバすぎる。あんなのの一撃をまともに喰らうと本当にどうなるか分からない。
 思わず右足が一歩下がる。しかし下がったところでどうなるものでもない。
「カイリキーLV.Xで攻撃。斬新だ」
 高津の指はまたもや俺の左肘を指す。しかしどこに衝撃が来るか分かっても対処のしようがない。
「斬新は威力はたった20。だがしかし、カイリキーLV.Xにはポケボディーがある。このポケボディーのノーガードはこのポケモンがバトル場にいる限り、相手に与えるワザのダメージと受けるワザのダメージは全てプラス60。よって斬新で与えれるダメージは80。サマヨールのHPも80。これで気絶だ。だがその前にこの一撃に耐えれるかだがな」
 走り出したカイリキーLV.X。ニンマリ笑うその顔から繰り出されるチョップがサマヨールに届いたとき。
「ぐっ、がああああああああああああああああああああああ!」
 絶叫と共に俺と、俺が左手に持っていた手札六枚が宙を舞う。



拓哉(表)「今回のキーカードはカイリキーLV.X。
      なんといってもポケボディーのノーガード。
      ダメージを受けるのはもちろんだけど、それ以上に与えるダメージ増幅がすごい」

カイリキーLV.X HP150 闘 (破空)
ポケボディー ノーガード
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、このポケモンの、バトルポケモンに与えるワザのダメージと、相手のポケモンから受けるワザのダメージは、すべて「+60」される。
闘無無 ざんしん  20
 次の相手の番、ワザのダメージで自分の残りHPがなくなったなら、コインを1回投げる。オモテなら、自分はきぜつせず、残りHPが「10」になる。
─このカードは、バトル場のカイリキーに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超+40 抵抗力 − にげる 3


  [No.884] 78話 アイツ 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/02/28(Tue) 13:07:21   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『雄大。これで最後だ! マッスグマの攻撃、駆け抜ける! ガブリアスに攻撃だ! ガブリアスは無色タイプが弱点。僕の勝ちだ!』
 何年前かは忘れた。まだ俺が小さい頃の話だ。小学生だった。
 ジュニアリーグで出場し、あれよあれよと全国大会まで駒を進めた俺。
 その当時、俺はうぬぼれていた。何一つ自分で掴み取ってはいないのに、すべて自分の思い通りにいくとでも思っていたのだ。
 自分の圧倒的な力、絶対的な戦術、幼いながらに全て自信を持っていた。
 そしてそれがアイツとの戦いで崩れ去った。しかし、それを認めたくなかった俺は幻にすがりついた。俺は強い、という悲しい幻に。
 母親には怒られた。大企業会社の社長の息子は何においてでも負けることは許さない、だと。
 粉々に砕かれたプライド。あの負け以来今日まで公式大会には出ていなかった。だがそれでもポケモンカードを続けていたのは何故だろう。惰性か、それとも別の何かか。
 アイツとは小さい頃からなんとかパーティーでしょっちゅう会っていて、それなりに仲が良かった。たぶん初めての友達だったかもしれない。
 しかしあの全国大会以来アイツとは会えていない。アイツには恥ずかしい姿しか見せれていないのだ。成長し、変わった俺を。母親の束縛から逃れようと、運命に抗い始めたその俺を。そして何より俺にもたくさん仲間と呼べる人が出来たというのを見せてやりたい。
 母から逃れるために北海道を出、悲しい幻を引きずったまま東京にやって来た。そこで出会った奥村翔、翔は俺をその幻から引きずり出してくれた。口には恥ずかしくて言えないがとても感謝している。
 奥村翔、長岡恭介、松野藍、他にもいろんな人と俺は出会えた。そしてその出会いが今の俺の強さだ。もう一度アイツにあって、それを見せてやりたい。……待っていろ、市村アキラ。
「風見杯以来だな」
「ああ。あんときは準決勝だったけど今回は準々決勝だな」
「今度は負けないぜ!」
「いや、俺は今回も負けない。負ける気はない」
「そうこなくっちゃ! じゃあ始めるぜ」
「来い、長岡!」
 バトルベルトはもうテーブルにトランスフォームした。デッキもシャッフルし終わり、両者の場には既に最初のポケモンが出そろった。
 俺のバトル場にはタツベイ50/50。長岡のバトル場はエレキブルFB90/90。互いにベンチにポケモンはいない。
「先攻はいただくぜ。俺のターン! 俺はまず手札の雷エネルギーをエレキブルFBにつける! うん、エレキブルFBのワザを使う。トラッシュドローだ。自分の手札のエネルギーを二枚までトラッシュし、その枚数かける二枚ぶんデッキからカードをドローする。俺は雷エネルギーを一枚トラッシュして二枚ドロー!」
 長岡はあれからかなりのキャリアを積んだ。もう初心者ではない。一瞬の油断も与えられなくなった程だ。
「全力で戦う。俺のターンだ。炎エネルギーをタツベイにつける。よし、サポーターだ。ハマナのリサーチ! デッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで手札に加える。俺はコイキングを二枚手札に加え、そのうち一枚をベンチに出す」
 ベンチにコイキング30/30が現れ、ピチピチと跳ねる。
「へぇ、コイキングも入ってんのか」
「ふ、タツベイでエレキブルFBに噛みつく攻撃だ」
 タツベイがエレキブルFBの腕に噛みついた。HPバーがごくわずかに減ってエレキブルFBのHPは80/90に。噛みつくの威力はわずか10ダメージ。たねポケモンでエネルギー一個なのだから、多少はやむなしといったところか。
「よし、俺のターンだぜ! ベンチにピチュー(50/50)を出す! ピチューに雷エネルギーをつけ、俺もサポーターのハマナのリサーチを使うぜ。デッキからピカチュウとヤジロンを手札に加える。そして、ヤジロン(50/50)をベンチに出し、ピチューのポケパワーを発動だ!」
 ピチューのようなベイビィポケモンは全員がベイビィ進化というポケパワーを持っている。自分の番に一度使え、自分の手札のそのポケモンから進化するたねポケモンを一枚、このポケモンの上にのせ、進化させる。そのときそのポケモンのダメカンを全て取るというやつだ。この場合はピチューからピカチュウ60/60へ進化する。
「ベイビィ進化でピカチュウへ進化させ、このピカチュウのポケパワーを発動。エレリサイクル! このピカチュウの進化前にピチューがいるとき自分の番に一回使える。トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加えることが出来る!」
 長岡のトラッシュにはさっきのターンにエレキブルFBのワザでトラッシュした雷エネルギーが一枚ある。ここまで考えていたのか?
「もう一度トラッシュドロー。今度は手札の雷エネルギーを二枚捨てる。よって四枚ドロー!」
 ひたすら長岡の手札が増えていく。まだ三ターン目なのにデッキの枚数は着実に減っていく。
「引くだけでは勝てないぞ。俺のターンだ。タツベイに水エネルギーをつける。ここでサポーターだ。スージーの抽選。自分の手札を二枚までトラッシュし、トラッシュしたカードの数によってドローするカードの枚数が決まる。俺は手札を二枚トラッシュして四枚ドロー」
 手札のコイキングを二枚トラッシュしておく。俺のデッキはトラッシュにコイキングがあればあるほど強くなる。
「まずはタツベイをコモルー(80/80)に進化させよう。そして俺も手札からヤジロン(50/50)をベンチに出し、コモルーのワザだ。気合い溜め!」
 コモルーはぐぐぐ、っと力を入れる。だがエレキブルFBへのダメージを与えるワザではない。
「へへっ、そういうお前もダメージ与えれてないじゃないか。俺のターン。ピカチュウのエレリサイクル! トラッシュの雷エネルギーを手札に加える。そしてこのターンもハマナのリサーチを発動だ。ピチューとピカチュウを手札に加える。ベンチのピカチュウをライチュウ(90/90)に進化させ、新たにベンチにピチュー(50/50)を出してピチューのポケパワー、ベイビィ進化! このピチューをピカチュウ(60/60)に進化させる!」
 これでヤツのベンチはライチュウ90/90、ピカチュウ60/60、ヤジロン50/50の三匹か。ポケモンを立てるのが早くなったな。
「そしてだ。新しくベイビィ進化したばかりのピカチュウのエレリサイクルを使ってもう一枚トラッシュの雷エネルギーを手札に加える」
 長岡のトラッシュに雷エネルギーがなくなった。ここまで考慮してのトラッシュだったのだろうか。
「雷エネルギーをライチュウにつけよう。そしてもう一度トラッシュドロー。手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして四枚ドローだ。ターンエンド」
 なるほど。エレキブルFBを盾としてドローしている間、ベンチにポケモンを揃える作戦か。
「俺のターンだ。そうだな、炎エネルギーをコモルーにつけ、ミズキの検索を発動。手札を一枚戻しデッキから好きなポケモンを加える。俺はネンドールを選択。そしてヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる。そしてコスモパワーだ。手札を一枚か二枚デッキの底に戻して手札が六枚になるまでドロー。俺は二枚戻して五枚ドローだ」
 引くだけのことはある。長岡相手だが好カードを引き当てれた。
「ベンチのコイキングをギャラドスに進化させる!」
 小型ポケモンが多かったフィールドに急に大きなギャラドス130/130が現れる。威圧感バッチリだ。
「さあ、行け、コモルー。プロテクトチャージ!」
 コモルーがエレキブルFB80/90目指してチャージをかます。そのチャージを鳩尾に受けたエレキブルFBは辛そうだ。
「プロテクトチャージの本来の威力は僅か30だが、気合い溜めを前のターンに使用していた場合このワザの威力は80となる」
「なんだって!?」
 HPバーを減らしたエレキブルFBは、ふらふらとおぼつかない足取りを見せてそのまま前向きに倒れる。
「思ったより一ターン早いじゃんか。俺はライチュウをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 先にサイドを引かれたが、それでも満面笑みの長岡。何か来るか……?
「よっしゃ、俺のターン!」
 勢いよくカードをドローする長岡。ドローしたカードを確認すると、更にテンションが上がっていくようだ。
「オッケー。ナイスドロー! 俺が引いたカードはこいつだ。頼んだぜ、ライチュウLV.X!」
 ライチュウLV.X110/110が長岡の場に現れる。……先にLV.Xを引いてきたのは長岡の方か。このターンからヤツの激しい攻撃が来るな。
「忘れんなよ、ベンチのピカチュウのポケパワー、エレリサイクルだ。トラッシュの雷エネルギーを手札に加えてライチュウLV.Xにつける。さらにミズキの検索だ。手札を一枚戻してデッキからエレキブルFBを手札に。そしてこのエレキブルFB(90/90)をベンチに出すぜ」
 倒されたエレキブルFBをすぐにリカバリさせるのか? どう来る。
「バトルだ! 手札の雷エネルギーを二枚トラッシュ。こいつが、ビリビリ痺れる強烈な一撃だ! ライチュウLV.X、ボルテージシュートをぶちかませぇ!」
 ライチュウLV.Xの体に大量の電気が集まると刹那、槍のような鋭い紫電が俺の場を襲う。
「ぐぅっ!?」
 紫電はネンドール80/80を襲うと爆風と砂煙のエフェクトを起こす。ネンドールのHPバーはあっという間に0/80となり気絶。予感はこれか!
「ボルテージシュートは手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ! ベンチだろうとどこだろうと問題ないぜ? サイドを一枚引く」
「ふん。今度は俺のターン」
「まだまだ! 俺はターンエンドしてないぜ」
「何っ?」
「俺の攻撃はまだまだ終わらない! ライチュウLV.Xのポケボディーだ。連鎖雷! このポケモンがレベルアップしたターンにボルテージシュートを使ったターン、追加でもう一度ワザを使う事が出来る!」
「二回連続攻撃だと!?」
「もう一枚サイドをいただくぜ。こいつを喰らえ、炸裂玉!」
 ライチュウLV.Xの体の半分ほどある白と黄の入り混じった球体が、目で追えないボルテージシュートとは違ってゆっくりコモルーの傍へ近づき、コモルーに触れると一気に膨張し爆発した。これも強風のエフェクトが強い。
「炸裂玉の効果でライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュする。炸裂玉の威力は100! それに対してコモルーのHPは80だ。サイドはいただき!」
「悪いが、そう簡単にサイドはやらん」
「うっ! 何だこれ!?」
 コモルー10/80の目の前に緑色の六角形のバリアが張られていた。これのおかげで炸裂玉のダメージを削りなんとか耐えきった。
「先ほどのターンに放ったプロテクトチャージの効果だ。次の相手の番に自分が受けるワザのダメージを30減らす。コモルーが受けるダメージは100から30引かれて70! ギリギリだ」
「流石だぜ。ターンエンド」
 しかしネンドールが気絶させられたのは痛い。俺の数少ないドローエンジンだったのだが……。
「よし。俺のターン。まずはベンチにタツベイ(50/50)を出し、バトル場のコモルーに水エネルギーをつける。そして、バトル場のコモルーをボーマンダに進化させる!」
 コモルーの体が光に包まれ、形が変わっていく。見慣れた屈強の体と大きな赤い翼が出来あがれば、いつもの相棒、ボーマンダ70/140の登場だ。
「サポーターカードを使う。ハマナのリサーチ。俺はヤジロン(50/50)とコイキングを手札に加え、ヤジロンをベンチに出す。……俺の熱い情熱を見せてやる。ボーマンダについている炎エネルギーを二枚トラッシュし、ドラゴンフィニッシュ!」
 ボーマンダの口から真っ赤な炎が放たれ、ライチュウLV.X110/110を焼き尽くす。
「このドラゴンフィニッシュは炎または水エネルギーをそれぞれ二枚ずつトラッシュして発動されるワザ。炎エネルギー二枚をトラッシュした場合、相手のポケモンに100ダメージ!」
 なんとか踏ん張ったライチュウLV.X10/110だが、そのHPはたったの10。さらにエネルギーは一つもない。
「ターンエンド」
「くそっ、まだまだ! 俺のターン。俺はピカチュウのポケパワー、エネリサイクルでトラッシュの雷エネルギーを一枚回収し、そのエネルギーをピカチュウにつける。……どっちにするか迷うなぁ。とりあえずこっちだ。俺もハマナのリサーチを使う。ピチューとピカチュウを手札に加え、ピチュー(50/50)をベンチに出す。そしてまたピチューのベイビィ進化! ピカチュウ(60/60)に進化させるぜ」
 これでベンチにピカチュウが二匹いることに。エネリサイクルも二回使える。
「新たに進化させたピカチュウでエネリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを手札に加え、攻撃する。ライチュウLV.Xでスラッシュ!」
「エネルギーなしのワザか」
 ライチュウLV.Xの尻尾が鋭利な武器となってボーマンダを切りつける。ダメージを受けたボーマンダ40/140は、二歩程後ずさるもまだ大丈夫。
「スラッシュを使った次のターン、俺はこのワザを使えない。ターンエンドだ」
 玉砕覚悟というわけか。その気持ち、買ってやろう。俺もただただ前進するのみ。
「俺のターン。スタジアムカード、破れた時空!」
 バトルテーブルにこのカードをセットするや否や、俺達の周りの風景が変わっていき槍の柱へ変わっていく。
「このスタジアムがある限り、互いのプレイヤーは自分の番に場に出したばかりのポケモンを進化させることが出来る。俺はタツベイをコモルーに進化させ、更にボーマンダまで進化させる」
 一見同じボーマンダ140/140の用に見えるがワザやポケパワーなどが微妙に違う。
「ベンチのボーマンダに炎エネルギーをつけ、このボーマンダのポケパワーを発動。マウントアクセル。自分の番に一度使え、自分のデッキの上のカードを表にする。そのカードが基本エネルギーならそれをボーマンダにつけ、そうでないならそれをトラッシュさせる」
 ボーマンダが前足で思いっきり地面を叩きつけて雄叫びを上げる。するとボーマンダの頭上から炎エネルギーのシンボルマークが落ちてきた。
「デッキの一番上は炎エネルギー。よってボーマンダにつける」
 ここまではいいが、今の手札はコイキング一枚だけ。さすがにこれはなんとかしないと。
「バトル場のボーマンダでライチュウLV.Xに直撃攻撃」
 真っ向から突進するボーマンダ。ライチュウLV.X10/110の体を簡単に跳ね飛ばす。直撃の威力は50なので、もちろんライチュウLV.Xは気絶だ。
「やってくれるな! 俺はエレキブルFBをバトル場にだす」
「サイドを一枚引かせてもらおう」
 む、このカードは……。ただ、問題は使い時か。
「どんどん行くぜ。俺のターンだ! まずはこんな殺風景を変えてやるぜ。スタジアムカード、ナギサシティジム!」
 破れた時空の景色は消え、ひとまず元の会場に戻ると休む間もなくゲームよろしくのナギサシティジム内部に変わる。あの動く歯車は厄介だったな。
「お互いの雷ポケモン全員のワザは抵抗力を無視でき、雷ポケモンの弱点もなくなる」
 この効果は俺のデッキに対しては意味はない。ただ、俺の破れた時空を維持させないためのカードだ。長岡のデッキでは破れた時空の恩恵は受けれない。
「そしてグッズカード、ポケドロアー+を二枚同時に発動。このカードは同名カードと二枚同時に使え、二枚使ったなら自分のデッキから好きなカードを二枚手札に加えれる。もちろん、こうの効果は二枚で一回しか働かない」
 選べるカードは好きなカードなので、ポケモンだけだとかエネルギーだけとかいった制限がないのがおいしいところだ。
「へへーん。盛り上がるのはこれからだ! バトル場のエレキブルFBをレベルアップ。行けぇ、エレキブルFB LV.X!」
「またLV.Xか」
 バトル場のエレキブルFB LV.X120/120が雄叫びをあげる。だがこのエレキブルFB LV.Xにはエネルギーが一枚もついていない。その状況で何をする気だ?
「サポーター、ミズキの検索! 手札を一枚戻し、俺はライチュウを手札に加える。そしてあらかじめ雷エネルギーが一枚ついているピカチュウに雷エネルギーをつけ、エレキブルFB LV.Xのポケパワーを使うぜ。エネリサイクル!」
 ピカチュウのエレリサイクルとは一文字違いだが……。
「こいつは自分の番に一度使え、自分のトラッシュのエネルギーを三枚、好きなように自分のポケモンにつけれる。俺はトラッシュの雷エネルギーを三枚ともエネルギーがついていないピカチュウにつける。このポケパワーを使った時点で俺のターンは終了となる」
 だがエネルギーがあっという間に長岡の場に広がった。トラッシュが激しいデッキなだけにこんなにエネルギーを抱えられると後の爆発力が怖い。
「まだまだ始まったばかりだぜ?」
「ああ……」
 俺は強くなった友、いや、強敵に押されているという事を自覚せざるを得なかった。



恭介「今回のキーカードはライチュウ!
   ワザが三種類! しかもスラッシュはエネルギーなしだ。
   とっておきは炸裂玉! トラッシュするエネルギーは自分の場のポケモンであればなんでもいいんだ」

ライチュウLv.45 HP90 雷 (破空)
─  スラッシュ 30
 次の自分の番、自分は「スラッシュ」を使えない。
無無無  ぶんれつだま 50
 自分のエネルギーを1個、自分のベンチポケモンにつけ替える。(自分のベンチポケモンがいないなら、この効果は無くなる。)
雷雷無  さくれつだま 100
 自分の場のエネルギーを3個トラッシュ。
弱点 闘+20 抵抗力 鋼−20 にげる 0


  [No.886] 79話 指針 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/01(Thu) 09:13:38   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 俺のサイドは残り四枚。バトル場には水エネルギーが二枚ついたボーマンダ40/140。ベンチにはギャラドス130/130、炎エネルギーが二枚ついたバトル場にいるのとは違うボーマンダ140/140、ヤジロン50/50。
 向かいにいる長岡恭介のサイドは五枚。バトル場にエレキブルFB LV.X120/120、ベンチにヤジロン50/50、雷エネルギーが二つついたピカチュウ60/60、雷エネルギーが三つついているピカチュウ60/60。スタジアムは長岡が発動させたナギサシティジム。
「俺のターン!」
 引いたカードはネンドール。そして他の手札はコイキングとボーマンダLV.X。どのカードも俺の目指す構想に必要なカード。コスモパワーで戻しにくい。
 いくら相手の場にエネルギーが溜まっているといえいるポケモンは皆小物。ここは多少リスキーな立ち回りでも問題ないだろう。
「ベンチにコイキング(30/30)を出し、手札からヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる」
 ネンドールのポケパワー、コスモパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻して手札が六枚になるまでドローするもの。今左手で持っている唯一の手札、ボーマンダLV.Xは俺にとっての文字通り「キー」となるカード。俺は長岡のように運が良くないし、それに長岡と戦うといつも(高校でたまに戦っている)運気が下がる。これをデッキに戻して自力で引くのは分の悪い賭け。
 カードゲームにおいて「確実」なことなどほとんどない。俺は常に「不安」と戦い続けなければならない。せめてボーマンダLV.Xが手札にあるという僅かな「確実」だけでも手にキープしておかねば。
「ベンチのボーマンダのポケパワーを発動。マウントアクセル!」
 ボーマンダ140/140が右足を持ち上げると、それを振り下ろして地ならしし、ズシンと辺りに響かせる。
「このポケパワーはデッキの一番上をめくり、それが基本エネルギーならボーマンダにつけ、それ以外の場合はトラッシュするポケパワーだ」
 ボーマンダの頭上に降ってきたカードはギャラドスのカード。これはポケモンのカードだからトラッシュしなければならない。
「む……。だったら攻撃だ。ボーマンダで直撃攻撃!」
 勢いをつけたボーマンダの突進がエレキブルFB LV.X120を襲う。直撃は相手の弱点、抵抗力、すべての効果を無視してダメージを与えるワザ。その威力は50。正面から直撃を受けたエレキブルFB LV.X70/120。大きい体が真上に飛ばされ、そのまま地に落ちる。
「よっしゃー! 俺のターンだ。ドロー! まずはベンチのヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる。そしてポケパワー、コスモパワーを使わせてもらうぜ! 手札を二枚戻し、五枚ドローだ」
 俺とは違って手札が潤う長岡。手札の枚数の差が歴然となった。手札の数だけ可能性、翔が良く言う言葉だがまったくもってそう思う。
 いきなり笑みが浮かぶ長岡。
「ふっ、まずはグッズカードのワープポイントを使う! 互いのバトル場のポケモンをベンチのポケモンと入れ替える!」
 ワープポイントだと? 長岡のベンチにはピカチュウ60/60二匹にネンドール80/80一匹。エネルギーがついていなくてワザでダメージを与えれないエレキブルFB LV.X70/120を入れ替えてピカチュウを出すつもりか?
 俺のベンチにはコイキング30/30、ネンドール80/80、ギャラドス130/130、ボーマンダ140/140。コイキングを出すのは愚の骨頂。ネンドールを出してもバトルは出来ない。ボーマンダは俺の切り札、ボーマンダLV.Xを最大限に活かすためには少しでもダメージを受けさせたくない。となるとギャラドスか……。たしかに雷タイプが弱点だがピカチュウ程度の攻撃。そしてギャラドスはエネルギーがなくても攻撃出来るワザ、リベンジテールがある。
「俺はギャラドスをバトル場に」
 バトル場のボーマンダ40/140とギャラドスが渦に呑まれると、互いに場所を入れ替えるように渦から出てくる。
「なら俺は雷エネルギーが二つついたピカチュウをバトル場に出すぜ」
 長岡の方も同様にポケモンの位置が入れ替わる。
「さらに雷エネルギーをピカチュウにつけ、ライチュウ(90/90)に進化させる!」
「進化か……」
 考えない訳ではなかったが、実際に進化されると幾分つらい。いや、そういえば前のターンにミズキの検索でライチュウを手に入れていたな……。ここまでの展開はあいつの予想通りということになるのか?
「そしてグッズカード、プレミアボール。デッキかトラッシュのLV.Xポケモンを一枚手札に加える。俺はトラッシュからライチュウLV.Xを手札に!」
「だが進化させたターンはレベルアップは出来ない」
「もちろん分かってるさ。だからこのグッズを使うんだ。レベルMAX!」
「レベルMAXだと……!」
 あのカードの効果は、コイントスをしてオモテの場合、自分のポケモン一匹をレベルアップさせるカード。進化させたターンはレベルアップ出来ないという制約を破ることが出来るカードだ。
「……オモテ! よし、レベルアップさせるぜ!」
 再びライチュウLV.X110/110が現れる。だがあの厄介なポケボディー、連鎖雷を行うには手札の雷エネルギー二枚をトラッシュさせるワザ、ボルテージシュートを使う必要がある。それに対して長岡の手札はたった一枚。なのでボルテージシュートは使う事が出来ない。ネンドールのポケパワーを使ったあいつに手札補給の機会はない。
「じゃあ手札を増やすぜ。サポーター発動。バクのトレーニングだ!」
「それで勝負に出る気か!」
「デッキの一番上からカードを二枚ドロー。そしてこのターン与えるワザのダメージが10プラスされる!」
 たった二枚しか引かないのにそれで雷エネルギーを二枚引くのは至難の業だ。流石にそこまで運よく行くはずがない。……と信じたいが。
「手札の雷エネルギーを二枚トラッシュし、ライチュウLV.Xで攻撃。ボルテージシュート!」
「っ!」
 宣言と同時に紫電が俺の場を襲う。ベンチにいるネンドールに向けて発射された紫電はネンドールに触れると爆風と砂煙のエフェクトを巻き起こす。
「うぐあっ!」
「ベンチのポケモンに攻撃するときは抵抗力や弱点を計算しないぜ。ボルテージシュートの威力は80。ただ、バクのトレーニングで与えるダメージがプラス10される場合は相手のバトルポケモンに攻撃した場合のみ! だからネンドールには80ダメージだ」
 最大HPが80のネンドールには一撃だ……。
「ネンドールが倒れたことによってサイドを一枚引く。そしてライチュウLV.Xのポケボディー、連鎖雷はこのポケモンがレベルアップした番にボルテージシュートを使ったなら、もう一度攻撃のチャンスを得るもの。よって追撃だ! 炸裂玉を喰らえッ!」
 巨大な電気の集まりの球体がバトル場にいるギャラドスに襲いかかる。早いボルテージシュートに対し緩やかな炸裂玉だが、ギャラドスに触れた途端爆弾でも落ちたかのような轟音が鳴り響く。
 ギャラドスのHPは130あった。そして炸裂玉の威力は100。しかしギャラドスの弱点は雷+30の上、バクのトレーニングの+10効果もあるので受けるダメージは100+30+10=140ダメージ。ギャラドスのHPを上回ってしまった。
「くっ、ここまで想定内かっ」
「いいや、多少の偶然もあるぜ。ボルテージシュートを使えたこととかな。さてと。炸裂玉は自分の場のエネルギーを三個トラッシュしなければならない。俺はピカチュウについている雷エネルギーを三個トラッシュ」
 このターンだけで長岡がトラッシュしたエネルギーは五枚。そして倒したポケモンは二体。痛手にも程がある。
「俺はボーマンダ(40/140)をバトル場に出す」
「サイドを一枚引くぜ。これで逆転だ」
 そう、俺のサイドは四枚だが長岡のサイドは三枚。あっという間に逆転されてしまったのだ。
 やはり格段と強くなっている。元々の運に加え、立ち回りなどといったプレイングもいい。自分の運を過信しすぎる点もあるが、ある程度のリカバリは想定しているようだ。
 とはいえ簡単に引き下がるわけにはいかない!
「俺はまだまだ上を目指す! 行くぞっ! ドロー!」
 引いたカードは水エネルギー。一番欲しいカードではない……。しかも先ほどドローエンジンのネンドールを気絶させられたために俺はデッキからカードを新たに供給することが一切できない。
「くっ、水エネルギーをベンチのボーマンダにつけて、こいつのポケパワーを使う。マウントアクセル!」
 マウントアクセルの効果でデッキの一番上を確認する。しかし一番上はエネルギーではなくポケモンのエムリット。効果によってトラッシュしなくてはならない。
「ついてないなー」
「俺はお前と違って運は最悪だからな。しかたあるまい。ボーマンダで直撃攻撃」
 ボーマンダの突進する一撃でライチュウLV.Xにダメージを与えていく。HPは60/110まで削ったがまだまだ残っている。
「今度は俺のターン。まずはベンチのピカチュウのポケパワー、エレリサイクル。その効果でトラッシュにある雷エネルギーを手札に加えるぜ。そしてこの雷エネルギーをベンチのエレキブルFB LV.Xにつける」
 エネルギーをつけるということはワザを使わせるという事。エレキブルFB LV.Xはベンチにいてポケパワーを使う置物というわけではないのか。
「手札からサポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを一枚加える。俺はライチュウを加える。そしてネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を一枚戻し、デッキから五枚ドローだ」
 俺のデッキは残り二十六枚だが長岡のデッキは僅か十四枚。ドローが自由に出来ない俺との差がここにも顕れる。
「手札を二枚トラッシュし、ベンチのコイキングにボルテージシュートだ!」
 再び鋭い紫電が俺のベンチを抉る。80ダメージを与えるワザに対しコイキングのHPはたったの30。
 二つ前の俺のターンでコイキングをベンチに出したのは失敗だったか。思惑ではこいつをギャラドスにし、リベンジテールでエネルギーなしの90ダメージを与え続けるはずだったが……! しかしギャラドスを引けなければなんの意味もなかった。
 そもそもコイキングを出した番、まだライチュウLV.Xはピカチュウだった。進化してもライチュウはベンチのポケモンを攻撃出来ないと油断していた。まさかベンチにも攻撃出来るライチュウLV.Xがあっさりサルベージされるとはな。
「サイドを引いてターンエンド」
 連鎖雷はレベルアップしたターンにしか発揮されない。二撃目はないものの、それでも俺と長岡のサイドの差は二枚になった。
「……。俺のターン」
 くっ。今引いたカードがギャラドス。しかしコイキングがいなくなってはもうどうしようもない。俺のトラッシュには四枚のコイキング。つまりデッキにもサイドにももうコイキングはいない。ギャラドスが手札で腐ってしまった。
「ベンチのボーマンダでポケパワーだ。マウントアクセル!」
 ここでもデッキの一番上のカードはクロバットG。このカードのポケパワー、フラッシュバイツはこのポケモンを手札からベンチに出した時、相手のポケモンに10ダメージ与えるポケパワー。
 もしもギャラドスでなくこのカードを引いていた場合、ベンチにクロバットGを出してライチュウLV.Xに10ダメージ与え、ボーマンダの直撃で50ダメージ与えれば気絶させることが出来たものを。とことんついていない。
「仕方ない。ボーマンダで直撃攻撃!」
 この一撃でまた50ダメージを与え、ライチュウLV.XのHPは10/110。そう、クロバットGさえ引けていれば!
「一気に畳み掛けるぜ。俺のターン! ベンチのピカチュウのエレリサイクルを発動し、トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に戻す。そしてベンチのエレキブルFB LV.Xに雷エネルギーをつける」
 長岡のトラッシュにある雷エネルギーはあと五枚。
「コスモパワーを使うぜ。手札を二枚デッキの底に戻して三枚ドロー! 続いてベンチのネンドールにポケモンの道具、ベンチシールドを使う。ベンチシールドがついたポケモンはベンチにいてもダメージを受けない! さあライチュウLV.Xで攻撃だ。分裂玉!」
 ライチュウLV.Xから炸裂玉と同じように大きな球体が発せられる。しかし、それが半分に分割されてそのうち一つは俺のボーマンダに。もう一方は長岡のベンチのエレキブルFB LV.Xに向かって飛んでいく。
「ぐうっ!」
 再び光と風の激しいエフェクトが。
「分裂玉の威力は50! それに対してボーマンダの残りHPは40だ。当然気絶になる!」
 ボーマンダのその大きな体が力を失くして倒れていく。
「そして分裂玉のもう一つの効果。このライチュウLV.Xについているエネルギーを一個、ベンチポケモンにつけかえる。俺はライチュウLV.Xの雷エネルギー一枚をベンチのエレキブルFB LV.Xにつけかえる!」
 これでエレキブルFB LV.Xについている雷エネルギーは三つ。エレキブルFB LV.Xはテキストに書かれている全てのワザを使えることになる。
「俺はベンチのボーマンダをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ!」
 長岡の残りのサイドはたった一枚。そして俺にはベンチポケモンがいない。あとはこいつを信じるだけだ。このボーマンダ一匹で、サイドを四枚取らなければ。
「たとえどんな状況に追い込まれたとしても、俺は勝負を諦めるわけにはいかない! 行くぞっ!」
 このターンのドローで引いたカードはクロツグの貢献。これも違う。欲しいカードではない。しかし俺にはボーマンダLV.Xがある。
「ポケパワー、マウントアクセルを発動する。デッキの一番上を確認し、それがエネルギーならボーマンダにつけ、そうでないならトラッシュする。……炎エネルギーだ!」
 ようやっと成功した。これでボーマンダについているエネルギーは四枚。
「サイドの差は三枚。そして俺は背水の陣。しかしそんなことを全てひっくりかえすことのできる、圧倒的力を見せてやる! 来いっ、ボーマンダLV.X!」
 バトル場のボーマンダがレベルアップし、ボーマンダLV.X160/160となる。レベルアップしたときに大きく雄たけびをあげるボーマンダLV.X。威圧感は十分。
「ボーマンダLV.Xがレベルアップしたとき、ポケパワーのダブルフォールを使用する。さあ攻撃だ、一撃決めてやる。ボーマンダLV.X、突き抜けろっ!」
 直撃攻撃と似たようにボーマンダLV.Xは相手のライチュウLV.X10/110に向けて突進していく。ライチュウLV.Xの体を軽々と跳ね飛ばすと、さらにベンチにいるエレキブルFB LV.X70/120の巨体も弾き飛ばした。
「二体攻撃かっ!」
「突き抜けるの通常の威力は50。そしてこの効果で相手のベンチポケモン一匹にも20ダメージを与える!」
 当然ライチュウLV.Xは気絶。エレキブルFB LV.X50/120も残りHPが半分を切った。
「俺はベンチのピカチュウをバトル場に出す。だがサイド一枚引いただけでもサイドの差は二枚に……」
「これこそが頂点を目指す者の力だ。ボーマンダLV.Xのポケパワーの効果が発動する。ダブルフォール!」
「このタイミングで!?」
「このポケモンがレベルアップしたターンにのみダブルフォールは使え、このターンにこのポケモンが使うワザのダメージで相手を気絶させたとき、気絶させたポケモン一匹につき一枚サイドをさらに引くことが出来る! 俺が倒したのはライチュウLV.X一匹。俺は通常引けるサイド一枚に加え、さらに一枚サイドを引く!」
「なんだとっ!?」
「サイドの差はあと一枚だ」
 そしてサイドを二枚引けたことで俺の手札も四枚、ようやく潤い始めた。ネンドールというドローエンジンがいなくなってからカードを大量に引けなかった俺にとっては貴重な手札だ。
「くそっ、俺だってまだまだ! ドロー! ピカチュウのポケパワー、エレリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加える。バトル場のピカチュウをライチュウ(90/90)に進化させる。そして手札の雷エネルギーをベンチのエレキブルFB LV.Xにつけ、ネンドールのコスモパワーだ。手札を二枚戻し二枚ドロー。そしてエレキブルFB LV.Xのポケパワーを使うぜ。エネリサイクル!」
 エレキブルFB LV.Xはその電気コードのような尻尾を地面に突き刺す。
「トラッシュのエネルギーを三枚まで選び、自分のポケモンに好きなようにつける!」
 これでライチュウにエネルギーをつけて炸裂玉でもする気だろうか……?
「俺はトラッシュの雷エネルギー三枚を、全てエレキブルFB LV.Xにつける!」
「エレキブルFB LV.Xに!? そいつは既に雷エネルギーを四枚もつけているぞ! 七枚もつけて何になるんだ」
「慌てんなよ、お楽しみはこの後だ。エネリサイクルを使うと自分のターンは強制的に終了となる。ターンエンド!」
「どんな手を打たれようと、俺はするべきことをするのみ! 俺のターン。ボーマンダLV.Xでマウントアクセル!」
 デッキの上を確認するが、時空の歪み。はずれなのでトラッシュ。
「ならば手札からサポーターカードを発動。クロツグの貢献。トラッシュにある基本エネルギー、ポケモンを五枚まで戻す。俺は炎エネルギー二枚、水エネルギー二枚の四枚をデッキに戻しシャッフル!」
 エネルギーだけ戻したのはマウントアクセルの成功率上昇のためだ。
「この攻撃を受けろ! ボーマンダLV.Xでスチームブラスト!」
 ボーマンダが口を開くと、口のすぐ前に白い蒸気が集いだす。そしてそれが限界まで凝縮されると、ボーマンダLV.Xはそれを放つ!
 白い強力な一撃は熱気と湿気を保ちながら長岡のライチュウ90/90にヒット、そしてライチュウの姿が隠れてしまうほどの蒸気が発散する。
「うおっ!」
 エフェクトの激しさに長岡の素っ頓狂な声が聞こえる。
 蒸気が晴れると、そこには力なく伸びているライチュウ0/90の姿のみ。スチームブラストの威力は100。ライチュウ程度は一撃だ。
「スチームブラストの効果で、俺はボーマンダLV.Xについている炎エネルギーをトラッシュ」
「俺はエレキブルFB LV.Xをバトル場に出す!」
「サイドを一枚引く。これで残りサイドはどちらも一枚! しかもお前のエレキブルFB LV.Xの残りHPは半分なのに対し、俺のボーマンダLV.XのHPはマンタンだ。俺の方が優勢だな」
「まだ分からないぜ! 俺のターン。俺は手札のポケモンの道具、達人の帯をエレキブルFB LV.Xにつける!」
 エレキブルFB LV.X50/120の腰の部分に青い帯が巻かれる。この帯をつけたポケモンは、最大HPが20上がり、相手のバトルポケモンに与えるワザの威力も+20されるが、このカードをつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドをより一枚ドローすることができるデメリットを持つ。とはいえこのデメリット、残りサイド一枚の俺にとっては無意味。
 HPが上昇する効果でエレキブルFB LV.Xの残りHPは70/140。
「エレキブルFB LV.Xで攻撃。電気飛ばし!」
 体毛から弾ける電気をボーマンダLV.X160/160に向けて飛ばす。電撃がボーマンダLV.Xを襲い、そのHPを100/160まで削る。達人の帯をつけてこれなのだから元の威力は40か。
「電気飛ばしの効果で、このカードについている雷エネルギー一つを自分のベンチポケモンにつける。俺はエレキブルFB LV.Xの雷エネルギーをネンドールに一枚つけかえる」
「言っておきながら半分も削れていないな。俺が次のターンにエネルギーを引き当て、スチームブラストで100ダメージを与えれば俺の勝ちだ」
「へへ、悪いが俺はお前がエネルギーを引き当てないことを祈るだけだぜ」
 緊張。このドロー次第で俺は準決勝に進めるか否かが決まる。
「ドロー!」
 ドローしたカードを確認するのが怖い。たった一枚で運命が決まってしまうのだ。だが逃げるだけでは何もならない。引いたカードを確認すれば……。
「顔色が良くねーな」
 引いたカードはスタジアムカード、破れた時空。今は不必要なカード。
「だがもうワンチャンスある。ボーマンダLV.Xのポケパワーを発動! マウントアクセルだ!」
 ボーマンダLV.Xが右前足で地面を叩きつけ咆哮する。
「デッキの一番上のカードは……」
 このターンの最後の運否天賦。恐る恐る確認すると、……ボーマンダのカードがそこにあった。
「くそっ! だが攻撃は通す! 突き抜ける攻撃!」
 さっきのターンエレキブルFB LV.Xは60しかダメージを与えれなかった。次のターン、もう60ダメージを受けて俺のターンが回ってこればいずれにしろ倒すことが出来る!
 エレキブルFB LV.Xを弾き飛ばすボーマンダLV.Xだが、長岡の他のベンチポケモンはネンドールのみ。ネンドールのポケモンの道具、ベンチシールドの効果でベンチにいるネンドールにダメージを与えることが出来ない。
 ひとまずエレキブルFB LV.Xの残りHPは20/140。あとどんな一撃でも倒せる。
 そう半ば勝利を確信した時だった。長岡がニヤリと笑みを浮かべる。
「この勝負っ、もらったぁ! 俺のターン! エレキブルFB LV.Xで攻撃。パワフルスパークだ!」
 エレキブルFB LV.Xは右の拳と左の拳をガチンとぶつけると、体中から溢れんばかりの電気を生み出し、それを全て右腕に集中的に溜める。
「パワフルスパークは元の威力の30に加え、自分の場にあるエネルギーの数かける10ダメージ威力が上がるワザだ!」
 長岡の場には雷エネルギーが七つ。そして達人の帯の効果も加わり、パワフルスパークのダメージは30+10×7+20=120になる。ボーマンダLV.X100/160の残りHPを上回る……!
「いっけー!」
 駆けだしたエレキブルFB LV.Xは、電気を大量に溜めた右腕でボーマンダLV.Xの腹部を力いっぱい殴りつける。
 弾ける電気の中、ボーマンダLV.Xの苦しそうな悲鳴、そして減っていくHPバーは目に焼きついた。
「これでゲームセットだな」
 長岡が最後のサイドを引くと同時にゲームが終わる。全ての3Dが消えた。
 今年の俺の大会はこれで終わってしまった。ここから先への戦いに進むことはない。全国大会での市村アキラとの再会、そしてリベンジは叶わぬ夢となった……。
「……」
 首を上に向ける。もちろん天井しか映らなかった。目をつぶり、右拳に力を入れることでなんとか悔しさをやり過ごす。
 ああ、単純に悔しい。ここまで純粋に悔しい気持ちでいっぱいになったのは初めてだ。不運の連続もあるし、俺のプレイングミスもあった。そしてなにより単純に、長岡恭介は強かった。
「風見」
 長岡の声が聞こえる。首を再び正面に向け目を開くと、すぐそこにいつもの笑っているあいつの姿が見える。
「お前、やっぱ強いな!」
「ああ。でも───」
「でも、俺の方がもっと強かった、ってことだ」
 差し出される右手。俺も右手を出し強く握手をする。
 いつの間にか悔しさがなくなり、心が温かくなって何とも言えない充足感を感じた。負けても、楽しい。これが本当の戦いか。
 また来年。次こそは全国の舞台へ進んでやる。そう、俺のリベンジは最下層からまた始まるのだ。新たなる決意を胸にしまった。
 そんなときだった。藤原の悲鳴が聞こえたのは。



風見「今回のキーカードはボーマンダLV.X!
   ボーマンダには豊富なレベルアップ前がある。
   どのカードからレベルアップするかによってこのカードの活かし方が変わるぞ」

ボーマンダLV.X HP160 無 (DPt4)
ポケパワー ダブルフォール
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。この番、このポケモンが使うワザのダメージで、相手のポケモンをきぜつさせたなら、自分がサイドをとるとき、きぜつさせたポケモン1匹につき1枚、さらにサイドをとる。
炎水無無 スチームブラスト  100
 自分のエネルギーを1個トラッシュ。
─このカードは、バトル場のボーマンダに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 闘−20 にげる 2


  [No.888] 80話 恐怖 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/05(Mon) 12:24:50   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あれだけ派手に戦っていた一帯が、急に静まり返った。
 藤原拓哉は後方に向かって倒れたため、尻から落ちたとはいえ後頭部もモロに床に打ちつけている。
 六枚の手札もあちこちに散らばっている始末だ。
「……こいつが悪いんだ。こいつが悪いんだあああ! 俺は忠告をしたはずだ、降参しろと! そうだ、こいつが悪いんだ。俺は何も悪くない!」
 顔の右半分が火傷でただれた高津洋二はそう一人ごちると、高らかに笑い始めた。
 本当は藤原拓哉の元へ駆けつけたい。流石に心配だ。とはいえ選手に試合中触れることは出来ない。
「一之瀬さん!」
 自分の勝負を終えた風見雄大が僕の元に駆け寄ってくる。
「藤原は……」
「分からない。ただ、あと一分だ」
 この大会には、三分以上何もしなかった場合は遅延行為として棄権扱いになるルールがある。藤原拓哉が倒れて既に二分。
 高津洋二のカイリキーLV.Xの攻撃で藤原拓哉のサマヨールが気絶したので、次は藤原拓哉が新たなバトルポケモンを選ばなくてはならない。
 今の藤原拓哉の場はバトル場は不在。ベンチにはベンチシールドをつけたネンドール80/80、超エネルギーが二つついたゲンガー110/110。残りサイドは四枚。藤原拓哉のヨノワールLV.Xが、そのポケパワーの効果でスタジアムカードとなっている。
 一方の高津洋二のバトル場は、闘エネルギーが三つつき、なおかつ強力な存在感を放つカイリキーLV.X130/150。そしてベンチにはパルキアG LV.X40/120に、ネンドール40/80。さらに、残りサイドはあと三枚だがサマヨールが気絶したためこの後一枚引くことができる。
 様子を見ても圧倒的に高津洋二が有利だが……、まずはそれ以前の問題。残り時間は三十秒を切った。立ち上がれるのか?
 気づけばいつの間にか藤原拓哉のぼうぼうにはねていた銀髪が、綺麗にまっすぐに伸びていた。



 痛みが走った。
「ああっ! くっ、うう……」
 完全に気絶してしまったパートナーの人格の代わりに、せめて僕が立ち上がらないと。
 左腕が焼けるように痛い。そして完全に動かせない。左腕が揺れるだけでも痛みが走る。体の節々が痛い。打ちつけた後頭部も、たんこぶくらいはあるだろうか。
 まだ無事な右腕を支えに、なんとか立ち上がる。
「そんな馬鹿なっ!?」
 あの一撃で決まったと確信していたのか、立ち上がった僕を見てたじろぐ高津。
「僕はバトル場に、ゲンガーを出す!」
 手札を拾う前にまずゲンガーを出さないと。バトルテーブルのベンチにあるゲンガーのカードをバトル場へとスライドさせる。
 三分以上何もしなければその時点でもう戦いは終わってしまう。それだけは。それだけは避けないと。
「藤原っ!」
 後ろから風見くんの声が聞こえる。振り返って、うんとだけ頷く。
「あれだけダメージを受けて、どうして!?」
「それは、……負けられないと思ったからだ!」
「くっ、サイドを一枚引いてターンエンド!」
 ターンエンドと同時に、スタジアムカードになったヨノワールLV.Xのエクトプラズマの効果が発動する。
 このカードがスタジアムとしてあるなら、ポケモンチェックのたびに相手のポケモン全員にダメージカウンターをそれぞれ一つずつ乗せるという効果だ。
 高津のポケモンは皆苦しみもがき始める。そして今のHPの状況はカイリキーLV.Xが120/150、ネンドールは30/80。そしてパルキアG LV.Xの30/120となる。
 自分の番を始める前に、まずは床に散らかった手札を拾わないと。手札を持っていた左手はこの有様だから、手札はバトルテーブルの端に置くしかない。
 ……。痛覚、いや触覚を共有していないことが唯一の救いだった。僕らは視覚、聴覚、嗅覚を共有しているが、それ以外は何も感じられない。例えば僕が何かを食べていても、パートナーの彼がその味を知ることはない。
 同様に、僕も彼が受けていたダメージを受けることはなかった。ただ、自分が主人格に戻った時には傷の痛みを感じたが。これだけの傷を負うほどのダメージ。彼はそれに耐えて相当頑張ってきたんだ。その努力を無駄になんて絶対にできない!
「よし。僕のターン!」
 このデッキは僕のデッキではなく彼のデッキ。彼がこのデッキで戦っているところは何度も見たが、自分で運用するとなると使い方がよく分からないのだ。
 だから、今の僕に出来ることは。
 彼がもう一度目を覚ますまで、ひたすら時間を稼ぐことだけだ。
 ……。手札は七枚ある。右手で引いては、それをバトルテーブルの端っこに広げる。彼が考えに考え抜いて作ったデッキのカード達。
 しかし、待てど待てど彼はまだ起きない。そろそろドローから三分が経つ、何かしなくては。でも、何をすれば……?
「うん、ゲンガーをレベルアップさせる!」
 バトル場のゲンガーが、よりパワーアップしてゲンガーLV.X140/140となる。この大会ではまだ出してない、彼の本当のエースカード。
 彼のデッキは非常にややこしい。処理もややこしいが、なにより手順がややこしい。
 ただ単に目の前のバトル場のポケモンを攻撃するだけでなく、バトル場もベンチも、時と場合によればそれ以外も。自分の場も相手の場も、縦横無尽に動き回るプレイングは、見ていて痛快だが行うのは非常に複雑。
 そして僕にはそのプレイングを再現するほどの腕がない。彼の軌跡をなぞるだけならまだしも、臨機応変に動くことなんて……。
「サポーターカード発動。オーキド博士の訪問! デッキから三枚ドローし、その後一枚手札をデッキの底に戻す!」
 三分経つ前に再び動く。しかし引いたのはいいがどのカードを戻すか。手札には超エネルギーが三枚もある。一枚くらい戻してもいいよね……。
 疑問抱きつつひとまずそれをデッキの底に戻す。
 手札にはたねポケモンがない。余ったエネルギーは、ゲンガーLV.Xにつけるか。それともネンドール、いやいやつけないという選択肢もある。
「手札の超エネルギーをゲンガーLV.Xにつける!」
 迷った挙句、ゲンガーLV.Xにつけることにした。あとは……。ポケパワーを使うとか? ゲンガーLV.Xには非常に強力なポケパワー、レベルダウンがある。このレベルダウンは自分の番に一度使え、相手のLV.X一匹の、LV.Xのカードを一枚はがしてレベルダウンさせ、そのLV.Xのカードをデッキに戻すという強力なモノ。
 ただ、高津の場にはLV.Xポケモンは二匹。カイリキーLV.Xを戻すのか、それともパルキアG LV.Xを戻せばいいのか……。
「ベンチのネンドールのポケパワーを発動。コスモパワー! 手札を二枚戻して二枚ドロー!」
 お願い、そろそろ起きて……! もうこれ以上君のプレイングを妨げずに時間稼ぎをすることは出来ない。
 後はゲンガーLV.Xのポケパワー、或いは攻撃を残すのみ。サポーターは一ターンに一度しか使えないし、手札には出せるポケモンや使えるグッズカードはない。
 この三分、この三分以内に!
(……待たせたな)
 その声が聞こえた瞬間、再び僕の感覚は遠のく。



 理由は分からないが、俺が主人格になると髪の毛があちこちにはねる。俺の荒々しい、及び攻撃的な性格を上手く現わしているかのようにも見える。
 俺が気を失っている間に場は多少変わったようだが、なるほど。相棒がなんとか凌いでいてくれたのか。
「……すまんな」
(当然じゃないか。こっちこそ君にばっか辛い思いさせて……)
「けっ、こんなもん大した事ねえ。……おい! そこのクソ野郎!」
「っ!」
 声をかけられ驚く高津。あれだけの傷を負わせたのに、俺が立ち上がってくるということに対する驚きが大きいようだ。
「自分を認めないヤツを叩きつぶすだのなんだのほざいてやがったな。俺様がいーことを教えてやる。他人を信じない奴、なおのこと自分自身を信じない奴を認めてくれる人はいないってな!」
 全ての手はずは相棒が整えてくれた。百点満点とは言わないが、及第点には間違いない。
 少し休めて体調も多少良くなった。やられた左腕はいまだ焼けるような痛みを発しているが、耐えれないわけじゃない。
 どっちにしろ、この痛み、傷を落ちつかせれるのはこいつをブッ倒してからだ。
「多少自分に分があるからって良い気になってんじゃねぇぞ! ゲンガーLV.Xのポケパワーだ! レベルダウン!」
 バトル場のカイリキーLV.X120/150の体に黒い靄(もや)がかかる。その黒い靄の中でカイリキーLV.Xの苦しそうな声が響く。
「レベルダウンの効果でカイリキーLV.Xをレベルダウンさせ、LV.Xのカードはデッキに戻してシャッフルしてもらう!」
「デッキに戻すだと!?」
 カイリキーLV.Xのポケボディー、ノーガードは危険すぎる。このカードがバトル場にいるかぎり、このポケモンがバトルポケモンに与えるワザのダメージと、このポケモンが相手から受けるワザのダメージを+60させるもの。
 自分もリスクを負うのだが、それと同時にこちらも非常に怖い。たった威力20のワザが80になって飛んでくるのだから。
 レベルダウンしたカイリキー100/130、これでノーガードのことは気にせず戦える。
「へっ、一気に潰してやる! ダメージペイン!」
 ワザの宣言と同時にゲンガーLV.Xが右手を真上に振り上げると、上空から一立方メートル程の紫色の立方体が三つ、それぞれカイリキー、ネンドール、パルキアG LV.Xの元へ降り注ぐ。
「ぐおおっ!」
 爆発と風のエフェクトを起こすこの強烈な攻撃は、ダメージカウンターが既に乗っているポケモンに30ダメージを与えるワザ。
 生憎高津の場のポケモンは皆ダメージカウンターが乗っている。ダメージを受けたポケモンに、さらなるダメージを与えるというワザだが、しかもこれはエクトプラズマとの相性も良好。
 ポケモンチェック毎に相手にダメージカウンターを一つずつ乗せるエクトプラズマで、傷ついたポケモンに追い打ちをかけるダメージペインというわけだ。
 煙のエフェクトが晴れてようやく辺りを見渡せるようになった。残りHPが30しかないネンドールとパルキアG LV.Xは気絶。さらにカイリキーも大ダメージ。このワザはダメージを与えるワザなので、バトル場のポケモン限定だが弱点計算をする。よってカイリキーが受けるダメージはその分を計算して30+30=60ダメージ。これで残りHPは40/130。
「サイドを二枚引く。けっ、サイド差二枚もあっという間に埋まるもんだな。ターンエンド。そしてターンエンドと同時にポケモンチェックだ。エクトプラズマでダメージを受けてもらう!」
 カイリキーが再び悶絶する。残りHPは僅か30/130。何も攻撃しなくても、このままでは次の高津の番の後に10ダメージ、俺の番の後に10ダメージ、そしてさらに次の高津の番で10ダメージ受けて気絶だ。
 そのとき、そのまま高津が新たにポケモンを出さなければ、サイドはまだ残っているが高津の場に戦えるポケモンがいなくなり俺の勝ちとなる。自分のターンも終えたので、そっと右手で左腕を押さえる。
「どうしてだ、くっ、俺のターン! ……そうだ。そのゲンガーLV.Xさえ倒してしまえばお前のベンチには非攻撃要員のネンドールしかいない。それにネンドールが攻撃するにしてもワザに必要なエネルギーは二つ! まずはこのターンでゲンガーLV.Xを倒し、その次のターンにネンドールを倒してしまえばもう何も問題はない。エクトプラズマの効果で倒れる前に勝つことは出来る!」
「このターンでゲンガーLV.Xを倒すだと? カイリキーLV.XなしでこのHP140を一撃で倒すとはついにそのチンケな頭も終わっちまったか?」
「だったら見せてやる! カイリキーに闘エネルギーをつけて怒り攻撃だ。このワザは元の威力60に加え、自分のダメージカウンターの数かける10ダメージを与えれるワザ! 今のカイリキーに乗っているダメージカウンターは十! よって与えるダメージは160となる!」
「ひゃ、160だと!?」
「そうだ! それでゲンガーLV.Xは気絶となる! だがその前にお前自身が持つかどうかだが。今度は右腕をもらう! さあ、行けっカイリキー!」
 高津の右人差し指が今度は俺の右肘を指差す……瞬間を逃さなかった。
「このタイミングで!」
 思いっきり大声を出してやる。すると大げさなほどに高津の体は震え、そのせいで右人差し指は狙いを外れて俺の首の右側、右腕の上側。つまりは虚空を指した。
 そしてカイリキーは何事もないようにゲンガーLV.Xへ攻撃を仕掛ける。
「バーカ、ブラフ(はったり)だよ」
 カイリキーの渾身のパンチがゲンガーLV.Xの顔面を殴りつける。だが、俺の右肘には何の衝撃もない。
「貴っ様ああああ! ブラフか!」
「身を守るためだ、悪く思うなよ。そしてこれで完全にお前の能力(ちから)は見切った。お前は相手に衝撃を与えることが出来る能力を持っていて、なおかつどこに衝撃を与えるかを指定することが出来るようだが、ワザの宣言時に自分の指で指したところにしか衝撃を与えることが出来ないようだな。現に左肘に衝撃を与えたときは攻撃宣言時に左肘を指し、今も俺の右肘を指差そうとした。俺自身、体がふらふらで避けるなんて急な動作は出来ないし、バトルテーブルの前から離れると棄権扱いになるからな。こうでもしなきゃ避けられねぇ」
「しかしそれでもゲンガーLV.Xは気絶!」
「調子に乗んなよ! ゲンガーLV.Xが相手のワザで気絶したときにこのポケパワーは発動する。死の宣告! 俺がコイントスをしてオモテだったら、こいつを気絶させたポケモンも気絶させる!」
 左腕を押さえていていた右手をそっと離し、バトルベルトのコイントスボタンを押す。
「これでオモテが出ればお前のカイリキーは気絶っ! ベンチに戦えるポケモンがいないからその時点で俺様の勝ちだ!」
「なっ、なんだと!?」
 画面に表示されたのは、オモテ表示のコインだった。
「残念だがこれまでだ!」
 倒れたゲンガーLV.Xの影がカイリキーの方まで伸びていき、その影がカイリキーの首をしめつける。残り僅かだったカイリキーのHPバーは0を刻んで決着が着く。
 勝負がついたと同時に、高津の体が糸の切れた操り人形のように倒れる。バトル場にいたポケモンや、あのスタジアム、エクトプラズマの映像が消え、元の会場に戻る。
「お前の敗因は、この俺様に一度でも恐怖したことだ。俺、いや、俺らが立ち上がった時にお前は確かにビビッたろう? その恐怖が後からでも目に見えたぜ」
 デッキの片づけは後回しだ。後ろを振り返れば風見と一之瀬が。
「おい一之瀬! これで良いだろ? 俺らはもうここらで限界だ。左腕が動かねえし立つのもやっとだ。休ませて……くれよ」
 右腕を支えに使い、ゆっくりと仰向けに寝転がる。無理のしすぎか、意識が落ちるのは早かった。
 能力者は勝負に負けると能力を失う、らしい。理屈は分からないが、まだ分からない以上はそういうものだと思うしかない。高津はこれを機に俺のようにやり直すことが出来れば、……な。



拓哉(裏)「今回のキーカードは俺様が使ったゲンガーLV.Xだァ!
      レベルダウンにダメージペイン。どれもこれも使い時が複雑。
      さらにレベルアップ前のゲンガーも複数種類がある。プレイヤーの実力が試されるってやつだな!」

ゲンガーLV.X HP140 超 (DPt4)
ポケパワー レベルダウン
 自分の番に1回使える。相手の「ポケモンLV.X」1匹の上から、「ポケモンLV.X」のカードを1枚はがし、レベルダウンさせる。はがしたカードは、相手の山札にもどし、山札を切る。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超無 ダメージペイン
 ダメージカウンターがのっている相手のポケモン全員に、それぞれ30ダメージ。
─このカードは、バトル場のゲンガーに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 悪×2 抵抗力 無−20 にげる 0


  [No.889] 81話 真価 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/05(Mon) 12:25:35   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「久しぶりだな、一之瀬」
 突然背後からかかってきた声に僕は驚いて振り返った。この声はこの前のPCC大阪が終わった後にかかってきた電話の主だ。
「……会うのは久しぶりですね」
 そこには端正な顔立ちがあった。整った顔のパーツは小奇麗で、シャープな目とメタルフレームの眼鏡が印象的な二枚目だ。
「君がなかなか会いに来てくれないからね」
 少し困った様子を顔に浮かべるも、きっと心の中では微塵も思っていないのだろう。そういう男だということくらいは知っている。
「僕じゃあそう簡単にあそこへ行けませんよ。……さて、このタイミングで来たということは奥村翔目当てですか」
「ああ、そうだ」
 やっぱりか、と僕は呟くと、再び口を開く。
「それじゃあ僕は藤原拓哉の方を見てきます」
「ああ。すまないな」
 手を振りながら僕はこれから戦おうとしている藤原拓哉の元へ向かう。
「さて、最後に直接会ったのはまだ二歳くらいだったからな。どれだけ成長したか、見せてもらおう」
 後ろから聞こえた彼の声に、僕は聞かない振りをした。



「さて、早速準々決勝を始めようか」
「その前に聞きたいことがある」
 俺の前には対戦相手となる山本信幸。痩せこけた頬、黒縁の眼鏡と首にはギリギリ届かないくらいの短い黒い髪。更に黒いシャツまで着ているのに、全身から陰鬱な雰囲気を放っているため不気味さを感じる。その山本が持つ能力(ちから)は意識幽閉だったか。対戦相手が敗北したとき、意識を失い植物状態になる。現に松野さんも……。
「どうしてこんなことをしてるんだ?」
「年下のクセに生意気な口をするんだな」
 二回戦のこともあって敬語的な喋り方をするイメージがあったから、急にこういう威圧的な話し方をされるのは驚いた。松野さんのときは年上だから多少は丁寧な言葉遣いだったのか? こっちが素だとしたらずいぶんとどこかの誰かさんを彷彿させるな。
「誤魔化すなよ。お前はどうしてその能力でいろんな人を……」
「なんだ、そんなことか」
 山本は肩を上下させつつ軽く笑う。
「野望のため」
「野望……?」
「そうさ!」
 今までの静かな声と違い、その声が急に大きくなる。それと同時に両手を横に広げた。
「野望! この世から不要な人間を全て消し去り、おれがおれの理想とする世界をこの手で!」
 広げた左手を元に戻し、右手は体の前に持っていくと拳を作る。まるで何かを握りつぶすかのように。
「そう。この手で造り上げるのだ!」
「どういうことだ?」
「政治家、教育者、労働者をこき使って上でふんずり返る腐った会社人、親……。他にもいくらだっている! 愚図が上で蔓延るがためにこの世界はどんどん淀んでいく! それをおれが造り直してやるのさ!」
 山本の顔が歪んだ笑みを浮かべる。とてもじゃないが正常とは思えない……。なんなんだこいつ……。
「それなら自分が政治家にでもなればいいじゃないか」
「そんなのでは駄目だ。貴様は何にも分かってない。恐怖だ。この能力をもって恐怖を知らしめてやる。同じ舞台で戦うのではない、常に上から愚図共を消し去って行く必要がある!」
 何を言ってるのかがさっぱり分からない。そんなことを本当にしようというのか?
「そのためにいろんな人を犠牲にしたっていうのか?」
「そうだ」
「っ!」
「戦いで勝てば勝つほどおれは能力の増幅を感じる! もう少し、もう少しでおれはこの能力の真の力を解放できる!」
「真の力だと?」
「ポケモンカードなんていう煩わしい手段を使わずとも、他人の意識を消し飛ばし、植物状態にさせることができる。それが真の力だ!」
「なんだとっ!?」
 今まで聞いてきた能力者で、他人に干渉があるものは全てポケモンカード関連だった。拓哉だってそうだ。その拓哉がこれから戦う高津だって。松野さんから聞いた他府県の能力者だってそうだった。
 もしこいつの言う事が本当だとしたらとんでもないことになる。もっと悲惨なことが起きてしまう。
「さあ始めよう。そしておれに負け、おれの力の礎となれ!」
 バトルテーブルのデッキポケットに差し込んだデッキは、オートでシャッフルされる。そして手札の用意とサイドの用意も全てしてくれる。
 俺の最初の手札には、ポケモンは炎タイプのアチャモ60/60だけ。多少心細いが仕方がない、このアチャモをバトルポケモンにするしかないか。
「行くぞ、俺のターン!」
 山本のバトル場にはミュウツー90/90、ベンチにはクレセリア80/80。さっき松野さんとの勝負を見ていた時は、山本はミュウツーLV.Xしか使っていなかった。一之瀬さんもそれ以外は未知数だと。クレセリアがどんな力を秘めているのかは不安だが、まずは目の前の敵から!
「俺は手札からアチャモに炎エネルギーをつけ、アチャモで攻撃、火の礫(つぶて)」
 コイントスボタンを押す。このワザは、コイントスをしてオモテならワザが成功し、ウラなら失敗してしまう。
「オモテだ。20ダメージを喰らえ!」
 アチャモの口から小粒の炎が複数発射され、ミュウツーに襲いかかる。それらがミュウツーに触れるとHPバーを削りながら爆竹が破裂するような音が響き、黒い煙が立ち込める。まずは20ダメージだ。これでミュウツーの残りHPは70/90。
「その程度……。おれのターン! サポーター発動。スージーの抽選! 手札を二枚捨てることでデッキからカードを四枚ドローすることが出来る! おれは手札の超エネルギーを二枚捨てて四枚ドロー」
 エネルギーを二枚捨てる? わざわざそれをやる必要が分からない。エネルギーがなければワザは使えない。その資本であるエネルギーを捨てる? 何を考えてるんだ。
「おれはケーシィ(50/50)をベンチに出し、ミュウツーに超エネルギーをつける!」
 三枚目の超エネルギーがあったのか。しかし捨てた理由にはならないはず。
「ミュウツーでエネルギー吸収。このワザはトラッシュにあるエネルギーを二枚までこのミュウツーにつけることが出来る。おれはさっき捨てた超エネルギーを二枚、このミュウツーにつけさせる」
 なるほど、ミュウツーのワザを見越してのコンボだったのか。たった一ターンでミュウツーにエネルギーはもう三枚もついてしまった。
「俺のターンだ。ドロー! まずはアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、ワカシャモに炎エネルギーをつける。そしてベンチにバシャーモFB(80/80)を出すぜ。さらにサポーター発動。ハマナのリサーチ!」
 ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを合計二枚まで手札に加えることのできるサーチ効果のサポーター。俺はヤジロンとヒードランを手札に加える。
「今加えたヤジロン(50/50)とヒードラン(100/100)をベンチに出し、ワカシャモで火を吹く攻撃だ」
 もう一度コイントスをする。このワザの元の威力は20であり、今度はウラが出てもワザが失敗にならない。だが、オモテが出れば与えるダメージを20ダメージ追加することが出来る。
 しかし結果はウラ。追加ダメージはなく、本来の20ダメージがミュウツーに与えられる。
 ワカシャモが口から炎を吹き出し、ミュウツーに吹き付ける。HPバーが小さく減って、50/90。まだ半分以上も残ってるか。
「おれのターンだ! おれはベンチのクレセリアに超エネルギーをつける」
 クレセリアにエネルギー……。目の前のミュウツー以外にも警戒しなくては。
「サポーター、ミズキの検索を発動! 手札を一枚デッキに戻し、デッキからLV.X以外の好きなポケモンを一枚手札に加える。おれはアブソルGを手札に加え、ベンチに出す」
 新たに山本のベンチにアブソルG(70/70)が現れる。超デッキと思っていたが悪タイプも仕込んでいるようだ。
「ミュウツーで攻撃だ」
 ミュウツー50/90が左足を前に踏み出し、体は右向きに半身の格好になる。そして間にボールでもあるかのように右手を上に、左手を下に添えるとその中間から薄紫の球体が現れた。
「サイコバーン!」
 ワザの宣言と同時にミュウツーが溜めていた球体を一気に打ちだす。投げられたボールのように放物線を描くのではなく、まるで渦潮に飛び込んだかのように螺旋を描きながら飛んできた。
「ぐおっ!」
 ワカシャモに直撃するやいなや、風と爆発のエフェクトが一斉に襲いかかる。なんて攻撃だ……。
「サイコバーンは60ダメージ! 貴様のワカシャモのHPを吹き飛ばしてやる」
 この攻撃を受けてワカシャモのHPは20/80まで落ち込む。次のターンにもう一度サイコバーンを喰らうとワカシャモは気絶してしまう。だが、大丈夫、対応策はある。
「今度は俺のターン! ワカシャモをバシャーモに進化させる!」
 ワカシャモの体が大きくなり、力強い体躯へ進化していく。HPも上がり70/130。サイコバーンをもう一度受けてもまだ大丈夫だ。
「さあ、全てを焼き焦がせ! バシャーモのポケパワー、バーニングブレス!」
 バシャーモの口から真っ赤な炎が吹き付けられ、ミュウツーを覆う。
「このポケパワーは一ターンに一度、相手のバトルポケモンをやけどにする!」
 だが山本の顔は微動だにしない。
 ……。本当はここで炎エネルギーをつけて、炎の渦をして完全にミュウツーを仕留めたい。だが手札には炎エネルギーはなく、それらをドローできるカードもない。
 ここはバシャーモのもう一つのワザでなんとか耐え凌ぐしかないか……。
「行け、バシャーモ。鷲掴み攻撃!」
 バシャーモがミュウツーの元へ駆けより、バシャーモの腕がミュウツーの喉元をしっかりとつかむ。締め付けられ、ミュウツーのHPは10/90に。
「この攻撃を受けたポケモンは次のターンに逃げることが出来ない。ターンエンド。そして、ターンエンドと同時にポケモンチェックだ。やけどのポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをし、それがウラなら20ダメージを受ける」
 山本がコイントスのボタンを押す。ここでやけどのダメージを受ければミュウツーは気絶……。がしかし結果はオモテ。ミュウツーはやけどのダメージを受けることがなかった。
「ぬるいな。おれのターン! おれは手札からグッズカードのポケモン入れ替えを発動。ベンチのポケモンとバトル場のポケモンを入れ替えることができる」
 ミュウツーの首を掴んでいたバシャーモが強制的にミュウツーから弾かれ、俺の方へ戻ってくる。山本はミュウツー10/90を戻してベンチにいたクレセリア80/80をバトル場に出すようだ。
「もう一枚グッズカード、不思議なアメを発動。手札の進化ポケモンのカードをたねポケモンの上に重ねる。ケーシィをフーディン(100/100)に進化させる」
 松野さんと戦った時と全然違う戦い方じゃないかこれは。どう来るんだ。
「さらにベンチにアンノーンG(50/50)を出し、ポケパワーGUARD[ガード]を発動。このポケモンについているカードを全てトラッシュし、このポケモンを自分の場のポケモン一匹のポケモンの道具として扱う。おれはフーディンにアンノーンGをつける」
 ベンチにいたアンノーンGが、フーディンのそばに移動するとシールを貼ったかのようにフーディンの体に張り付く。
「アンノーンGをつけたポケモンは相手のワザの効果を受けなくなる。クレセリアで攻撃だ。月のきらめき」
 クレセリアの体が光を吸収し、それを一気に放出させる。目に痛いほどの光はごくわずかにバシャーモのHPを削った。
「このワザは場にスタジアムがあれば自分のダメージカウンターを二つ取り除けるが、今は場にはない。10ダメージだけ受けてもらう」
 バシャーモのHPは60/130。ギリギリ半分を切ってしまった。ミュウツーもベンチに戻ったために火傷は回復したか。だが山本の手札はたった一枚だ。
「俺のターン」
 引いたカードはミズキの検索。炎エネルギーではない。が、炎エネルギーを引こうとするなら……。
「ミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからネンドールを手札に加える。そしてヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる!」
 今の手札は三枚。ネンドールのポケパワー、コスモパワーの手札のカード一枚または二枚をデッキの底に戻し、六枚になるまでドローする効果で炎エネルギーを気合いで引き当てるしかないか。
「ポケパワー、コスモパワー発動。手札を一枚戻し四枚ドロー。……よし、バシャーモに炎エネルギーをつけて攻撃だ。炎の渦!」
 バシャーモが螺旋を描く炎の渦をクレセリアに吹き付ける。炎の渦に覆われ悲鳴を上げるクレセリア。そのHPは100ダメージを受け0/80へ。
「炎の渦の効果で、バシャーモについている炎エネルギーを二個トラッシュする」
「おれはベンチのミュウツーをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 これで相手より先にサイドを引いた。しかも山本のミュウツーの残りHPはたったの10。恐れるに足らず。
「ふん。おれのターン。ベンチにクレセリア(80/80)を出す」
「またクレセリアか……」
「そしてサポーターカード、デンジの哲学を発動。手札が六枚になるまでドローする。俺の手札はこれで0。六枚ドローする」
 山本のデッキのカードがどんどん減っていく。あっという間にさっきのターンの終わりに一枚だった手札が六枚に。
「ここでベンチのクレセリアに超エネルギーをつけてミュウツーで攻撃する。サイコバーン!」
 ミュウツーからまたもエネルギー弾が放たれ、バシャーモに攻撃して爆発を起こす。
「バシャーモ!」
 煙が晴れると、そこにはHPバーを0/130にして倒れたバシャーモが。
「サイドを一枚引く」
「くっ。俺はヒードランをバトル場に出す」
「いくらあがいても無駄だ。ターンエンド」
 俺のヒードラン100/100は基本的に非戦闘要員だ。薫と勝負したときのようにベンチで控えて主にバシャーモのサポート役をやっていたようなのが正しいヒードランの使い方。今、そのバシャーモが倒されてしまった。それでもバシャーモがまた戻ってきたときのためにサポートは手を抜かない。
「俺のターン。まずはヒードランをレベルアップさせる!」
 レベルアップしたヒードランLV.X120/120の咆哮が周囲に響く。
「そしてポケモン入れ替えを発動。バトル場のヒードランLV.XとベンチのバシャーモFBを入れ替える。続いてバシャーモFBに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を二枚戻し、四枚ドローだ」
 ようやくエネルギーがちゃんと手札に入るようになってきた。だがまだ流れはどちらにもない。この勝負の主導権を早く握りたい。
 出来ることなら目の前のミュウツーをこのターンのうちに倒したい。だが、バシャーモFBが炎エネルギー一個で出せるワザで、ミュウツーを倒すことが出来ない。
「バシャーモFBで誘って焦がす攻撃。このワザは相手のベンチポケモンを一匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替えさせる。そしてそのポケモンをやけどにさせる!」
 フーディンはアンノーンGの効果でワザの効果を受け付けない。選べるポケモンはアブソルGとクレセリアか……。
「クレセリアを選択する!」
 バシャーモFBは跳躍して相手ベンチのクレセリア80/80の元まで行くと、これまたクレセリアの首根っこを掴む。するとバシャーモFBの手首の炎が激しく燃え、クレセリアをも燃やした。そして燃えるクレセリアをバシャーモFBがバトル場めがけて投げつける。あらかじめバトル場にいたミュウツー10/90は驚きたまらずベンチに下がる。これでバトル場にはやけど状態となったクレセリアが新たに出ることになった。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックをしてもらう」
 ポケモンチェックで山本がやけど判定のコイントスをしようとしたときだ。
「このとき、ヒードランLV.Xのポケボディーのヒートメタルが発動。やけど状態のポケモンがポケモンチェックでコイントスをするとき、そのトスの結果を全てウラとして扱う。よってクレセリアはやけどのダメージを受け20ダメージ!」
「何っ?」
 クレセリアは火傷のダメージを受け、HPを60/80まで減らす。
「くっ! 小賢しい……」
「これ以上お前の好き勝手にはさせない!」
「なかなかどうして、流石は準々決勝と言うべきか。思っていたよりも多少は強いようだ」
「?」
「貴様を倒した時、おれの能力はより強くなれる。その時こそこの能力は最大まで増幅し、おれの目的は達成されるッ!」
 目的……、ポケモンカードなしで相手の意識を奪うことか。もしかして脅しなのか、これは……? そう言って俺の気持ちを乱そうとしているのか?
「もちろん脅しではない。おれも持てる力を全て出し、まずは貴様を叩き潰してこの世界の淀みを、愚図を、消してやる! おれのターン!」



翔「次回のキーカードはアブソルG LV.X。
  ポケモンをロストさせるポケパワーと、
  エネルギー二個で60ダメージの強力カード!」

アブソルG LV.X HP100 悪 (DPt3)
ポケパワー やみにおくる
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。コインを3回投げ、オモテの数ぶんのカードを、相手の山札の上からロストゾーンにおく。
悪無 ダークスラッガー 30+
 のぞむなら、自分の手札を1枚トラッシュしてよい。その場合、30ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のアブソルGに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 超−20 にげる 1


  [No.893] 82話 窮境 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/09(Fri) 12:03:45   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「おれのターン!」
 俺のサイドは残り五枚。バトル場には炎エネルギー一枚ついたバシャーモFB80/80。ベンチにはヒードランLV.X120/120とネンドール80/80。
 山本信幸のサイドも同じく残り五枚。そしてバトル場には超エネルギーが一枚つき、やけど状態のクレセリア60/80、ベンチにはポケモンの道具となったアンノーンGをつけたフーディン100/100、超エネルギーが三つついたミュウツー10/90。
 山本はこの勝負に勝つと、自信の能力(ちから)が強まりポケモンカードを介せずとも能力を使い、相手の意識を奪って植物状態にさせれるという。そんなことが本当に起きればとんでもないことになってしまう。だからこの勝負にだけは絶対負けられない。これ以上こいつの好き勝手にさせる訳にはいかない。
「まずはスタジアムカードを使う。月光のスタジアム!」
 風景があっという間に月夜の草原になった。穏やかだが冷たい風が吹いて草が揺れ、ざわざわとその音がする。灯りは唯一空に浮かぶ月だけ。どことなく寂しい感じのするスタジアムだ。
「このスタジアムがあるとき、互いの超、悪ポケモンは逃げるエネルギーが0になる。おれはバトル場のクレセリアを逃がし、ベンチからミュウツーをバトル場に出す」
 ベンチにクレセリアが戻ったことで、クレセリアのやけどは回復する。だがバトル場に出たミュウツーの残りHPが10。虫の息もいいとこだ。
「手札からサポーターカードの地底探検隊を発動。デッキの底から四枚確認し、そのうち二枚を手札に加え、残り二枚を好きな順にして戻す。続いて手札の悪エネルギーをアブソルGにつける。そしてミュウツーのワザを使う。ミュウツーの超エネルギーを一枚トラッシュし、自己再生だ」
 ミュウツーの体が薄い青の光に覆われる。それと同時にHPバーも徐々に回復していく。これでミュウツーのHPは70/90にまで回復した。
「この自己再生はミュウツー自身についている超エネルギーを一つトラッシュすることで、そのHPを60回復させるワザ。ターンエンドだ」
 バシャーモFBでとどめがさせなかったがために回復をさせてしまったか……? いいや、全然そんなことはない。むしろ好都合だ。
「俺のターン。まずはバトル場のバシャーモFBをレベルアップ!」
 バシャーモFB LV.X110/110が威嚇の雄叫びをあげる。レベルアップ前なら無理だったが、レベルアップしたバシャーモFBならミュウツーを倒すことが出来る。
「サポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからワカシャモ(80/80)を手札に加えてベンチのアチャモを進化させる!」
 手札はこれであと三枚。やはりこれでは心細いな。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを使い、手札を一枚戻して四枚デッキからドロー。そしてバシャーモFB LV.Xに炎エネルギーをつけてミュウツーに攻撃だ。ジェットシュート!」
 バシャーモFB LV.Xは高く跳躍すると、そこからミュウツーに向かってとび蹴りを放つ。その様はまるで降り注いでくる赤い彗星だ。ワザのヒットと同時に大きな音と爆風を生み出す。80ダメージのこの大技はミュウツーの体も吹き飛ばし、HPを0にした。
「……。おれはベンチのアブソルGを新たにバトル場に出す」
「よし! レベルアップさせる前になんとか倒したぜ。サイドを一枚引いてターンエンド!」
「おれのターンだ。ドロー。……、まずはアブソルGに悪エネルギーをつける」
 山本が使うポケモンはミュウツーやらクレセリアやらフーディンやら、超タイプばかりなのに、そこに一匹だけ混ざるアブソルG。一体どういう戦術で来るんだ……。
「愚図ばかりで腐りに腐ったこの世界を粛清するための第一歩だァ! アブソルGをレベルアップ。出でよ、アブソルG LV.X!」
 バトル場にアブソルG LV.X100/100が場に現れたと同時に冷気を感じ、肌に触れる空気がずしりと重くなった。山本の雰囲気も急に静かだったのが力強さを感じつつある。……何か来る。
「アァブソルG LV.Xのポケパワーを発動! 闇に送るッ!」
 山本がコイントスを三回行う。その結果はオモテ、オモテ、ウラ。どこに干渉するポケパワーだ。俺のバトル場か、それともベンチか。いや、手札に関係するものか?
「この効果はこのポケモンがレベルアップしたときにのみ使えるポケパワー! コイントスを三回行いオモテだった数だけ相手のデッキの上のカードをロストゾーンに送る! 淀んだ貴様のデッキを消してやるッ!」
「ろっ、ロストだと!?」
 ロストゾーンに送られたカードはゲーム中、一切使うことが出来なくなる。オモテは二回出た、よって俺のデッキからカード二枚がこのゲームから消えてしまう。
「まずは一枚目! ハードマウンテンか……。まあいい。二枚目もだ! ……カカカカッ! バシャーモもロストだァ!」
「しまった!」
 二枚のカードが、アブソルG LV.Xの額にある角が造り出した異次元に吸い込まれ消えていく。あの二枚はもうこの勝負で使うことが出来ない。
 ハードマウンテンはまあまだいいが、問題はバシャーモだ。山本の本来のキーカード、ミュウツーLV.Xは進化していないポケモンのワザと効果を受け付けないポケボディーをもつ。だがその進化ポケモンであるバシャーモがロストされてしまった……。
「さァらに! サポーター、ハマナのリサーチを発動! デッキからミュウツーとユクシーを手札に加え、ミュウツーをベンチに出すッ!」
 二体目のミュウツー90/90が山本のベンチに現れる。
「不要な物を切り落とし、新たな世界への一歩とするッ! 手札を一枚捨てアブソルG LV.Xで攻撃! ダークスラッガー!」
 山本が捨てたカードはスージーの抽選か。ワザの起動に入ったアブソルG LV.Xの角から黒い三日月形の波動が打ち出され、それがバシャーモFB LV.Xを襲う。
「ダークスラッガーは手札を一枚捨てることで、威力を30上げるワザ。元の威力が30なので60ダメージッ! さらに貴様のバシャーモFB LV.Xが前のターンに使ったジェットシュートのデメリット」
「このワザを使った次のターンに、このポケモンが受けるワザのダメージはプラス40される……」
「そうだ! よって100ダメージっ!」
 バシャーモFB LV.XのHPは110。それが今の一撃で100ダメージを受け、残りHPはたったの10。ダメージを与えれるワザを受けたらどんな些細な一撃でも倒れてしまう。
「くっそ、俺のターン! まずはワカシャモをバシャーモ(130/130)に進化させ、バシャーモに炎エネルギーをつける!」
 俺のデッキにはバシャーモは三枚しか入っていない。一枚はトラッシュ、もう一枚はロスト。よってこれが最後のバシャーモ。
 このターン、バシャーモFB LV.Xでジェットシュートをして80ダメージを与えると、アブソルG LV.XのHPは残り20になる。
 さらにバシャーモのポケパワーで火傷にしてやれば、ベンチのヒードランLV.Xのポケボディーで相手は必ずやけどの20ダメージを受け、アブソルG LV.Xを気絶させることができる。山本のベンチのポケモンはほとんど育っていない、今がチャンス。
「バシャーモのポケパワーを使う。バーニングブレス! このポケパワーは一ターンに一度、相手のバトルポケモンをやけどにさせる!」
 バシャーモが赤い吐息をアブソルG LV.Xに吹き付けたそのときだった。
「愚図はこれだから何も分かってないッ! 思い通りに行くと思うなァ! 手札を二枚捨てフーディンのポケパワーを発動。パワーキャンセラァー!」
 山本がバトルサーチャーとミズキの検索を捨てると、フーディンがスプーンをアブソルG LV.Xの方に向けた。するとアブソルG LV.Xの周りに青いバリアのようなものが張られ、バーニングブレスを弾く。
「なっ、ポケパワーを防がれた!?」
「このパワーキャンセラーは相手のターンに発動したポケパワーを、手札を二枚捨てることで一ターンに一度だけそのポケパワーを無効にすることが出来る!」
 このターンでアブソルG LV.Xを倒す手はずが完全に崩れてしまった。でも出来ることは今やらないと。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃だ。ジェットシュート!」
 またも激しい一撃が山本の場を襲う。強力な80ダメージのワザはアブソルG LV.XのHPを20/100まで減らした。
「おれのターンッ! まずはベンチのクレセリアに超エネルギーをつける。そしてユクシー(70/70)をベンチに出し、ポケパワーを発動する。セットアップ!」
 セットアップは、ユクシーをベンチに出した時デッキから手札が七枚になるまでドローできる強力ポケパワー。山本の手札がたったの一枚だけだったのにこれで七枚まで補充される。そしてこの手札がまたフーディンのパワーキャンセラーに回るのか……。
「サポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻しデッキからユクシーを手札に加える。そしてアブソルG LV.XでバシャーモFB LV.Xに攻撃だァ。だまし討ち!」
 ふとアブソルG LV.Xの姿が掻き消えると、瞬時にバシャーモFB LV.Xの背後に現れ、その背中を角で一突き攻撃する。残りHP10/110だったバシャーモFB LV.Xはもちろんたまらず気絶してしまう。
「このワザは相手一匹に弱点、抵抗力、ワザの効果を無視して20ダメージを与えるワザ。これ程度で十分だ!」
「ちっ。俺は新たにバシャーモを出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだっ!」
 あとアブソルG LV.XのHPはわずか20。だが、またしても俺の手札にエネルギーがない。ポケパワーが邪魔される以上、ワザで倒さなくてはならないのにこのままではそのワザさえ使えない。バシャーモについているエネルギーは炎エネルギー一つ。しかしバシャーモのワザはエネルギーを二つ以上要するから、このままでは攻撃出来ない。
「俺のターン、ドロー」
 引けたのはエネルギーじゃなくバシャーモFB80/80。くっ、ないよりはいささかマシか。
「ベンチにバシャーモFBを出し、ネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を二枚戻し三枚ドロー」
 山本はここでは動かない。あくまでバーニングブレス対策だけか。そして引いたカードの中には……。エネルギーがない。ダメだ、完全に流れは山本の元にある。なんとかして戻さないと。
「くそっ、バシャーモでバーニングブレ──」
「無駄だ。手札のハマナのリサーチと月光のスタジアムをトラッシュし、フーディンのパワーキャンセラーを発動ゥ!」
 またしても青いバリアに阻まれる。だが無意味じゃない。山本の手札は確実に削れている。
「……ターンエンド」
「おれのターン。アブソルG LV.Xに悪エネルギーをつけ、ハマナのリサーチを発動だ。デッキから超エネルギー二枚を手札に加る。アブソルG LV.Xについている悪エネルギー三枚を全て手札に戻して攻撃。破滅の知らせェ!」
 しかし場は静まり返っており、ワザのエフェクトは何も起こらない。ワザは条件を満たさなかったために失敗したのか?
「このワザを受けた相手は次の貴様の番の終了時に気絶する!」
「っ!」
「おれは望む世界を造るためなら時間を惜しまないィ! 今すぐ消さずとも、その次に消せばいいだけだッ! クキャキャキャ! キヒャヒャヒャヒャ!」
 狂った笑いが辺りに木霊する。こいつもヤバいが俺の状況もかなりヤバい。ウソだろ、HP130もあるのにたった一撃かよ。いくら時間差とはいえひどすぎる。
「まだまだっ、俺のターン! まずはバシャーモのポケパワーを!」
「手札の悪エネルギーを二枚捨ててパワーキャンセラー!」
 なるほど、アブソルG LV.Xの破滅の知らせの効果で戻された悪エネルギーをここで利用するのか、その技術はうまい。
「俺はハンサムの捜査を発動。相手の手札を確認し、その後自分か相手の手札を全てデッキに戻しシャッフル。そして戻した人はデッキから五枚までドローする。さあまずは手札を見せてもらおう」
 山本の手札は先ほどミズキの検索で加えたユクシー以外、エネルギーカードばかり。なんだこの手札、引きは間違いなく良くない。
「俺は自分の手札をデッキに戻しシャッフル。五枚ドロー。……よし、バシャーモFBに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーを使う。手札を二枚戻し四枚ドロー。ターンエンドだ」
「このとき、粛清の知らせが貴様に降りる! 破滅の知らせの効果発動。このワザを受けた相手は次の相手の番の終わりに気絶する!」
 バシャーモの真上から真っ白の極太レーザーが降り注ぐ。情け容赦は微塵もなく、悲鳴を聞く間にバシャーモのHPバーが全て削り取られて気絶してしまった。
 これでミュウツーLV.Xを倒せるバシャーモがこれでデッキと手札からいなくなってしまった。
「っ、俺はベンチのバシャーモFBをバトル場に!」
「サイドを一枚引く。そしておれのターン。クレセリア(60/80)に超エネルギーをつけてターンエンド!」
 もうターンエンドだと? アブソルG LV.Xはあくまでクレセリアを育てるための壁か。
「その挑発、乗ってやる。俺のターン。バシャーモFBに炎エネルギーをつけ、グッズカードのプレミアボールを使う。デッキまたはトラッシュのLV.Xポケモンを一枚手札に加える。俺はデッキからバシャーモFB LV.X(110/110)を加え、レベルアップさせる!」
「LV.Xポケモンを二枚入れてるだと?」
「そしてネンドールのポケパワーを──」
「悪エネルギーと超エネルギーをトラッシュし、フーディンのポケパワーを発動。パワーキャンセラー!」
 今度はネンドールの体の周りに青いバリアが貼られ、ネンドールのポケパワーが封じられてしまった。もうバシャーモのバーニングブレスを恐れる必要がないから、今度は俺のドロー手段を封じるつもりか。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃だ。ベイパーキック!」
 水蒸気を纏った熱いキックがアブソルG LV.Xにヒットし、その体は宙を舞う。30ダメージのこのワザは、アブソルG LV.Xを気絶させるには十分だ。
「クレセリアをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンド!」
 これで俺も山本も残りサイドは三枚。勝負はここから後半戦に入る。
「おれのターン。まァずはクレセリアに超エネルギーをつける。そして、こいつが屑塗れのこの世界に光を与えるおれの力だァ! クレセリアをレベルアップ!」
 バトル場のクレセリアがレベルアップし、クレセリアLV.X80/100に。LV.Xポケモン、これで二匹目……。アブソルG LV.Xであんなだった。今度も厳しい一撃が来るのは間違いない……。
「光を与える? なんかの間違いじゃないのか」
「かつてこのおれが愚図から受けた屈辱、そしておれと同じような目に遭っている悲しき人々を救うための光だ! ポケパワー、満月の舞い!」
「屈辱?」
 クレセリアLV.Xが光をめいいっぱい放ちながら、満月を描くような、どこか妖艶な踊りを繰り広げる。するとクレセリアLV.Xの体から真っ赤な火の玉のようなものが這い出、それがバシャーモFB LV.Xに飛んでいく。火の玉はバシャーモFB LV.Xの体に埋まって行った。
「満月の舞いは自分の番に一度使え、自分または相手のポケモンのダメージカウンターを一つ取り除き、自分または相手の別のポケモンにそれを乗せ換える。おれはクレセリアLV.XのダメカンをバシャーモFB LV.Xに乗せ換える!」
 これでクレセリアLV.XのHPは90/100、バシャーモFB LV.XのHPは100/110に。
「サポーター、地底探検隊を発動。デッキの底のカードを四枚見、そのうち二枚を加え残り二枚を好きな順に戻す。さあ、クレセリアLV.Xで攻撃だ。三日月の舞い!」
 今度は三日月を描くような不思議な舞いを放つ。すると急にクレセリアLV.Xの輝きが強くなり、バシャーモFB LV.XのHPバーが削られる。残りHPは50/110、50ダメージのワザか。
「このワザは望むならこのポケモンのエネルギーを二つトラッシュすることでベンチのポケモンのダメージカウンターを全て取り除ける。だがおれのベンチにはそのようなポケモンはいないためこの効果は使わない」
 ……次のターン、クレセリアLV.Xにもう一度三日月の舞いを喰らうとバシャーモFB LV.Xは気絶になってしまう。
「次のターン! おれが満月の舞いでクレセリアLV.Xに乗っているダメージカウンターをバシャーモFB LV.Xに乗せ換えるとその残りHPは40になる。そこでクレセリアLV.Xのもう一つのワザ、ムーンスキップを使えば貴様の残りの命は減って行く! ムーンスキップの威力はたった40だが、このワザで相手を気絶させたとき、おれが引けるサイドは一枚多くなる。つまりサイドを一気に二枚、引くことが出来る! 貴様のバシャーモFB LV.Xのジェットシュート一撃ではわずかにクレセリアLV.Xを倒すに及ばないッ! もう少しだ……、もう少しで新たな希望に満ち溢れた世界を! クカキャキャキャキャ! ヒーヒャハハハハ!」
 ここで一気にサイドのアドバンテージをとられるともう取り返しがつかない。俺のベンチにはネンドールとヒードランLV.X、共に非戦闘要員。そうなったら本当に終わりだ……! こいつの好きにはさせてたまるか、その能力で身勝手に振る舞えばたくさんの人が傷つく。俺の大好きなポケモンカードでそんなことは絶対にさせない!
「そう思い通りには行かせない! ドロー!」
 来た、ここ一番で必要なカード。
「悪いがお前の思惑ははずれるようだ。ヒードランLV.Xに炎エネルギーをつけ、バシャーモFB LV.Xにポケモンの道具、達人の帯をつける!」
「なんだと!?」
「達人の帯をつけたポケモンは最大HPと相手に与えるワザの威力が20上がる! ……もちろんそのリスクとして達人の帯をつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドをさらに一枚引くことが出来る。しかしそれでもお前の思惑は崩すことが出来る!」
 バシャーモFB LV.XのHPは達人の帯の効果で70/130。これならムーンスキップで倒されることもない。さらに本来のジェットシュートの威力は80で、一撃でクレセリアLV.X90/100を倒すことが出来なかったが威力が20上がることで与えれるダメージは100になる。これなら倒すことが出来る!
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動」
「させるか! 手札のケーシィ、不思議なアメを捨ててパワーキャンセラー発動! そのポケパワーを無効にする!」
「だが今から与えるワザのダメージは無効には出来ないぜ。行け、バシャーモFB LV.X。お前の力を見せてやれ! ジェットシュートッ!」
 真っ赤な灼熱の流星キックはクレセリアLV.XのHPと山本の思惑をまとめて消し飛ばす。熱風と爆煙が辺りに立ち込め山本の場が一瞬隠れる。
「……」
 ようやく煙が晴れると、バトル場には新しくミュウツー90/90が立っていた。これが山本の次のポケモンか……。
「よし、サイドを一枚引いてターンエンド!」
「おれの野望の、邪魔をするなアアアアアアアアアアアア!」
 今までとは格段に違う山本の目つき、雰囲気に思わず気圧されそうになる。体が震え、鳥肌が立つ。どうしてだ、勝負は快調じゃないか。バシャーモFB LV.XでクレセリアLV.Xを倒し、残りのサイドはあと二枚。もう少しで勝って、この悪夢を終わらせることが出来るはず。場のバシャーモFB LV.XのHPもまだまだ半分あるし、それに対し高津のミュウツーも、ベンチのフーディン、ユクシーもエネルギーは一枚もついていない。恐れることは何もないはずだ。なのにどうして。寒気が止まらない。
「くそォ! おれのタァーン! ……クハハ、キュハハハハ! いいタイミングでこのカードを引いたァ! ミュウツーに超エネルギーをつけ、貴様にも全てを消し飛ばす圧倒的闇を見せつけてやる! これが、おれの究極の力! 現れろ、ミュウツーLV.X!」



翔「今回のキーカードはミュウツーLV.X。
  サイコバリアは未進化ポケモンからは一切何も受け付けない!
  そしてギガバーンは威力120の強力なワザだ」

ミュウツー LV.X HP120 超 (DP5)
ポケボディー サイコバリア
 このポケモンは、相手の「進化していないポケモン」のワザによるダメージや効果を受けない。
超超無 ギガバーン  120
 自分のエネルギーをすべてトラッシュ。
─このカードは、バトル場のミュウツーに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 2


  [No.898] 83話 奇跡 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/15(Thu) 00:20:56   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「貴様にも全てを消し飛ばす圧倒的闇を見せつけてやる! これが、おれの究極の力! 現れろ、ミュウツーLV.X!」
 ついに出てしまった……。山本信幸の真のエースカード、ミュウツーLV.X120/120。
 近くで見るととてつもないプレッシャーだ。だが、このミュウツーLV.Xを倒さなければ俺は山本に勝つことはできない。倒れてしまった松野さんを救うことが出来ない。
「今まで戦ってきた相手の中で、貴様は一番強いと認めてやる。だからだァ! だからこそ、おれがこの戦いに勝ったとき、おれの能力(ちから)は新たな境地へ赴き、腐りきったこの世界から愚図を排除するという野望への大きな、大きな一歩となる!」
「どうしてそこまで」
「三年前、おれが十八のころ。つまり高校三年生の頃だ」
 逆算すると山本の年齢は二十一か。何があってこんな危険な思想を産み出してしまったのだろう。
「センター試験、もちろん知っているだろう?」
「ああ……」
「センター試験受験日の四日前の出来事だった。塾の帰り、おれはバイクに轢かれる事故にあった」
 ミュウツーLV.Xが右腕を前にすると、周囲の風景が変わり、急にビルとビルが立ち並ぶ夜の街中へ変わって行く。いったいぜんたいどういうことだ。俺の体、山本の体はその街を上から覗くように宙に浮いていて、落ちることはない。
 空は暗いが、街はビルが放つ光のためにやけに明るい。よく見ればこの街並み、どこか心当たりがある。南池袋辺りだろうか、何度か行ったことがある。ふと見れば街路樹のない広めの道路の脇に、血だらけで倒れている一人の男がいた。
「これはおれの過去。スクーターといった小型バイクでなく、バイクにしては大型の、つまり大型二輪に轢かれたおれだったが、轢いたヤツはもちろん逃げ、さらに運悪く人通りが悪かったため事故に遭ったおれの発見も遅れた」
 救急車のサイレンの音が鳴り、過去の山本のそばでそれが止まる。救急車の中から救助隊員が現れた。遠くで何を言っているかは聞こえないが、怒鳴り声のようなものがいくつか聞こえながら、過去の山本が救急車に搬入されそのまま運ばれていった。
 急に上方から眩しい光が目を襲い、右手で両目を覆い隠すよう光から守る。
「そののち、おれの手術が行われた。あまりにも損傷個所が酷く、一時は助からないと誰もが思ったらしい。しかし奇跡的にもおれは生きることが出来た」
 覆っていた右手をはずすと、夜の街並みから景色が急に変わり、辺りは真っ白な壁に覆われた病院の一個室へと移っていた。しかしここでも体は宙を浮き、上から個室を覗いている。
 個室のベッドにはいろんな箇所に管を通されている過去の山本の姿が。包帯やギプスなどいろいろなものが巻かれて直視するのも痛々しい。
「計二十二針を縫う大事故だった。そして、おれが目を覚ましたのは事故から五日後の夜のこと」
「五日後の夜ってまさか」
「そうだ。センター試験の二日目も終わっている」
 思わず眉をひそめて下を向いてしまう。実際にこれを味わった山本は、言葉で表せないくらい辛かっただろう。
「当然、こんな大事故にあって一週間後のセンター追試験を受けれるわけもない。おれは、深い絶望を味わった。今まで必死に必死に頑張ってきたものが、信号無視で走ってきたバイクに轢かれてパーだ。こんなことがあるか!? あってたまるかァ!」
 山本の顔を直視できない。追試験ではないだろう。私立の試験だって、受けれるかどうか。一カ月やそこらで試験を受けるほどの回復は厳しい。
「おれが事故に遭ってから約一ヶ月後のことだった」
 今まで動きのなかった病室の時が急に動き出したかのように、病室の扉が開く。五十代くらいの女性だ。その女性は過去の山本の傍で何か耳打ちをする。
『ほ、本当か! 犯人が見つかったって』
 犯人。山本をこういう目に合わせたヤツのことだろう。見つかったのであれば当然法によって処罰される。間違いなく山本にとっては良いニュースだ。
『大きな声出さないで。これは秘密なんだから』
『秘密?』
 女性は誰もいないか周囲を見渡してから、再び山本に耳打ちする。その耳打ちを聞くにつれ、山本は目の焦点が合わなくなり、呼吸のリズムも狂いだす。
『なっ、がっ、かっ、はっ、はぁ、はぁ、ぎゅああ、きゅばっ、はっ、ああああああああああああああああああああ』
 荒れる呼吸と共に、意味不明な言葉が吐かれたと思うと、急に過去の山本は狂ったように叫び出し、身辺にあったものを構わず投げ続ける。
 本、携帯電話、果物、花瓶。花瓶は割れてガラス破片が飛び交い、たまらず女性は悲鳴を上げる。
 過去の山本の暴走はどんどんエスカレートして医療器具をも叩きつけ、破壊し、投げつける。
 女性がナースコールのボタンを押し、助けてと叫ぶと、すぐに部屋にはたくさんの看護師が現れ過去の山本を抑えつけようとする。
「何が……あったんだ」
「おれが母親から言われた言葉は……」
 あの女性は山本の母親だったのか。俺たちがこうして話している間も、眼下では暴れる山本を、殴られつつも看護師が必死に抑えつけようとしている。
「事故を無かったことにする」
「無かったことにする……? どういう意味だ」
「そのままの意味だ。……おれを轢いたのは、当時の法務大臣のどら息子だった。このことが公に出れば、もちろん法務大臣の立場は危うい。そこでその親子は金で事件を」
「まさか、もみ消したってことか」
「そうだ」
 ようやく抑えられた過去の山本は、暴れ疲れてか意識を閉ざす。なんとか抑えた看護師も、生傷だらけ。個室はもはやボロボロだった。
「おれは悔しかった。悔しくてたまらなかった。おれの人生があんなゴミのせいで狂ってしまった! 悪は善が裁く? そんなものはまやかしでしかないィ!」
 何も答えることが出来ない。怒りを思い出したのか、山本は続ける。
「それだけじゃない。こんなゴミ共に、金でへーこら手のひらを返すあの愚図もだ! 許せるか? 許せるかアァァァ!?」
 病室の風景が掻き消え、元の月明かりが照らす夜の草原へと戻った。愚図とは母親のことか。
「だが、おれはその気持ちを押し殺した。怨むことは門違いだ。とにかく受験勉強に精を出そう、と。そして翌年、志望校に無事受かり、これからは新たな未来を切り拓いていこうと決意を胸にした」
「それならどうして……」
「去年の四月。おれは大学生活にも馴染み、過去の事を忘れて自分の目標に向かっていた。そんな春のある日、サークルの新入生に忘れるわけもない男が現れた」
「男って」
「そう。おれを轢いたそのどら息子だった。母親から名前は聞いていたため、忘れるわけもなかった。しかもその愚図は、現役でうちの大学に入ってきたばかり。どういうことかわかるか」
 現役で入ったということはそのどら息子とやらは十八歳……。まさか。
「免許か」
 山本は物分かりが良い、と拍手で俺を称え、話を続ける。
「そうだ。大型二輪の免許は十八歳以上からだが、おれを轢いたときの愚図の年齢は十六歳。無免許だったのだ」
 一般的な原付きなどは十六歳以上だが、山本の話によるとそのどら息子は大型二輪を運転していたらしい。そうだとすると大型二輪の免許は当然、ない。
「もちろん、おれのことなどあの愚図は微塵も覚えていない。それはそうだ。一度も見舞いにさえ来なかったのだからなァ!」
 山本の受けた屈辱とはここまで……。
「そして夏、おれはこの能力に目覚めた。最初は何が起きたか分からなかったが、この意識を消し飛ばす能力こそこのおれに本当に必要な力だ! 現にあの愚図も、簡単に手を返した親も消してやった! まだだ……。きっとおれと同じような屈辱を受けたやつはごまんといる! そのためにも、そいつらのためにもォ! おれはこの屑が蔓延る腐りきった世界を変えなくてはならないィ!」
「確かに、お前の受けた屈辱は分かった。……だがそれは違う! お前も結局そのどら息子と一緒じゃないか!」
「おれがあの愚図と一緒だと? 適当な事を抜かすなぁぁぁぁぁ!」
「いいや、同じだ! お前がやろうとしていることは、ただ悲しみの連鎖を広げるだけだ! お前だって、お前くらい賢いやつなら分かってるだろう!? こんなこと、本当は何の意味にもならないって」
「黙れェ! 黙れェッ!」
 ダメだ、俺の言うことをまるで聞いていない……。
「おれはァ! ミュウツーLV.Xのワザを使う! エネルギー吸収ゥ! トラッシュにある超エネルギー二枚をミュウツーLV.Xにつける!」
 俺のサイドは残り二枚、山本のサイドは残り三枚。
 山本のバトル場にはこれで超エネルギーが三つついたミュウツーLV.X120/120、ベンチにはユクシー70/70と道具となったアンノーンGをつけているフーディン100/100。
 俺のバトル場には炎エネルギーを二枚、達人の帯をつけたバシャーモFB LV.X70/130、ベンチに炎エネルギー一枚ついたヒードランLV.X120/120とネンドール80/80。
 場には山本が発動したスタジアムカード、月光のスタジアム。このカードで互いの超、悪ポケモンは逃げるエネルギーなしで逃げることが出来る。
 一見俺のほうが優勢に見えるが、とんでもない。最悪だ。
 山本のミュウツーLV.Xはポケボディー、サイコバリアで進化していないポケモンからのワザのダメージや効果を一切受け付けない。
 今場にあるバシャーモFB LV.XはSPポケモンなのでたねポケモンとして扱われ、ヒードランLV.Xは言うまでもない。ネンドールはワザを使うために闘エネルギーが必要、そもそも最初からネンドールを戦力として計算していないため闘エネルギーなんて入れてない。
 このデッキに入っている進化ポケモンであるバシャーモは、既に二匹気絶し一匹はロストしてしまった。デッキにもサイドにも、言わずもがな手札にもバシャーモはもうどこにもいない。
 俺じゃあミュウツーLV.Xに傷一つ与えることすらできない。
 とはいえ、山本は俺のデッキにもう進化ポケモンがいないことを知らない。それを悟られてはダメだ、弱みを見せてはいけない。そのときこそ本当の負けになる。
「くっ。行くぞ、俺のターン! ん、これは……」
 今ドローしたカードは……。



『翔、これを貸しておく。使うか使わないかはお前次第だ』
 風見がポケットから十枚程度のカードを裏向けのまま渡した。拒否出来ない雰囲気に負け、何事もないかのように受け取ってしまう。



 PCC予選が始まる前に、風見が俺に渡したカード。全てはデッキのスペース上入れにくいので、少しだけ入れたカードだった。
「なるほど、こういうときのため、って言うつもりか。俺はナックラーをベンチに出す」
「ナックラーだと?」
 ベンチにナックラー50/50が現れる。俺のデッキは基本的に炎中心だったが、このナックラーは闘タイプだ。
「月光のスタジアムをトラッシュし、手札からハードマウンテンを発動!」
 辺りが元の会場に一瞬戻ると、間髪入れずに今度は険しい山脈に舞台が切り替わる。さっきの草原と違い足元はガチガチした岩盤だ。
「ハードマウンテンがあるとき、一ターンに一度自分のポケモンの炎、闘エネルギーを一つ選んでもよい。そのときそのエネルギーを自分の炎または闘ポケモンにつけ替えることができる。俺はバシャーモFB LV.Xの炎エネルギーをナックラーにつけ替える」
「その程度ッ」
「まだまだ! サポーターカード発動だ。ハマナのリサーチ。その効果でデッキから炎エネルギーを二枚加え、ナックラーに炎エネルギーをつける。さらにネンドールのポケパワーだ」
「何度無駄と言えば分かるッ! フーディンと悪エネルギーを手札からトラッシュし、フーディンのポケパワーを発動ォ! パワーキャンセラー! 相手ターンに一度、手札のカードを二枚トラッシュすることで相手のポケパワーを無効にする!」
 そんなことは分かっている。無駄ではなく、山本の手札を削ることに意味がある。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃。誘って焦がす。俺はユクシーを選択」
 このワザは相手のベンチポケモン一匹を選び、バトル場のポケモンと強制的に入れ替えさせて新しくバトル場に出たポケモンをやけどにさせる効果だ。これでバトル場にユクシー70/70を引きずり出しやけどにさせた。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックだ。このとき、ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルが効果を発揮する。これは相手がポケモンチェックのときにやけどによるコイントスをするとき、そのコイントスを全てウラとして扱う。よってユクシーはやけどのダメージを確実に受けてもらう!」
 やけどの20ダメージを受け、ユクシーのHPは50/70に。
「そんな小細工が今さら通用すると思ったかアァァ! おれのターン! ハードマウンテンをトラッシュさせ、月光のスタジアムを発動ォ!」
 再び舞台が月夜の草原へと姿が変わる。
「バトル場のユクシーを逃がし、ミュウツーLV.Xをバトル場に出す。さらにミュウツーLV.Xにポケモンの道具、達人の帯をつける!」
「何だと!?」
 ユクシーがベンチに戻ったことでやけどは回復。さらに、達人の帯がミュウツーLV.XについたことでミュウツーLV.XのHPと与えるワザの威力が20ずつ上昇する。これでミュウツーLV.XのHPは140/140。
 だが、達人の帯をつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドを一枚多く引くことが出来る。山本も、ミュウツーLV.Xで勝負をつけに来たということか。
「グッズカード、夜のメンテナンスを発動! トラッシュの基本エネルギー、ポケモンを合計三枚までデッキに戻しシャッフルすることができる。トラッシュの超エネルギー二枚、ミュウツーをデッキに戻すッ!」
 山本のデッキは十枚を切っていたが、これで丁度十枚に戻る。おそらく松野さんと戦った時のようにデッキを削られるのを防ぐための策だろうか。
「攻撃だ! 吹き飛べ、サイコバーン!」
 ミュウツーLV.Xが左足を前に踏み出し、体は右向きに半身の格好になる。そして間にボールでもあるかのように右手を上に、左手を下に添えるとその中間から薄紫の球体が現れた。それをミュウツーLV.Xが投げ飛ばすと、球体は螺旋を描きながらバシャーモFB LV.X70/130を襲う。
「ぐおあああっ!」
 強烈な風と爆発のエフェクトが俺の場全体を包み込む。サイコバーンの元の威力は60。それに達人の帯の効果も相まって、60+20=80ダメージ。バシャーモFB LV.Xはこれで気絶になってしまう。
「だったらヒードランLV.Xをバトル場に」
「バシャーモFB LV.Xについていた達人の帯の効果でェ! おれはサイドを二枚引く! あと一ターンだ! 次のターンで貴様に破滅が訪れる! そして新たな世界の幕が開くゥ!」
 山本のサイドはもうあと一枚だけ。次のターン、山本がギガバーンで攻撃してくれば、ヒードランLV.Xは気絶してしまう。
 ギガバーンの威力はサイコバーンの威力の二倍、120。それに達人の帯の効果で20加算され140ダメージ。しかし、この一撃に耐えれるポケモンはそうそういないし、俺のデッキにはどこにもいない。
 さらにミュウツーLV.XはヒードランLV.Xの攻撃、効果を受け付けない。ナックラーでは言わなくとも完全に力不足。
「まだだ。まだ俺は戦える! ドロー!」
 ドローカードはミズキの検索。よし、まだチャンスはある!
「ミズキの検索を発動。デッキに手札のカードを一枚戻すことで、デッキから好きなポケモンのカードをサーチする。俺はフライゴンを選択!」
「いまさらフライゴンを選択したところで、進化出来るのは一ターンに一度きり! ビブラーバまでが精いっぱいだッ!」
「そうかな? グッズカード、不思議なアメを発動する。自分の進化していないポケモンを進化させる。ナックラーを、フライゴンに進化だ!」
 ナックラーを中心に砂嵐が吹き荒れ、その姿が見えなくなる。数秒たって砂嵐が晴れ、そこからフライゴン120/120が姿を見せる。
「だァが! その程度ではおれのミュウツーLV.Xはびくともしない!」
「まずはフライゴンに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーを発動」
「手札のミズキの検索、達人の帯を捨てパワーキャンセラー! そのポケパワーを無効にする!」
 手札の補給が出来ないため俺の手札はたった一枚。しかも炎エネルギーだ。だけど、立ち止まって諦めるつもりはない。
「フライゴンのポケボディー、レインボーフロートは、このポケモンについている基本エネルギーと同じタイプのポケモンの逃げるエネルギーが0になる。ヒードランLV.Xを逃げるエネルギーなしで逃がし、フライゴンをバトル場に出す」
 フライゴンの足元からヒードランLV.Xに向かって虹が伸びる。ヒードランLV.Xはこの虹をつたいベンチに逃げ、フライゴンがバトル場に現れる。
「ミュウツーLV.Xのサイコバリアは進化しているポケモンのワザ、効果は受けるんだよな」
「だがこのミュウツーLV.XのHPは140! 一撃で倒せるはずがない! 無駄な抵抗はやめるんだなァ! キーヒャハハハ!」
「そいつはどうかな。フライゴンで攻撃。砂の壁!」
 フライゴンが翼をはためかせると、足元から砂嵐が巻き起こる。その砂嵐は範囲を広げ、文字通りミュウツーLV.Xとフライゴンを分け隔てる壁となり、その砂嵐はミュウツーLV.XのHPも40削る。さらに、辺りの風景も月夜の草原から元の会場へと戻っている。ミュウツーLV.X100/140にダメージを与えた後もこの砂嵐は一向に止む気配がない。
「何だ、何が起こっているッ!」
「このワザは相手のスタジアムをトラッシュし、次の相手の番にフライゴンは相手のワザのダメージ、効果を受け付けなくする!」
 これで次の山本のターンにフライゴンが倒される恐れはなくなった。なんとかして打開策を拓かないと。
「くっ、小賢しい! 手間取らせよって! おれのターン! ミュウツーLV.Xに超エネルギーをつけてワザを使う。自己再生! ミュウツーLV.Xについている超エネルギーを一枚トラッシュして、このポケモンのHPを60回復する」
 ミュウツーLV.Xが淡い光に包まれ、HPバーを元に戻していく。さっき40ダメージ与えたのに対し60回復。ミュウツーLV.XのHPは元の140/140に戻る。
「フハハハハハッ! 今度こそ、今度こそ! 次のターンにおれはギガバーンで貴様のフライゴンを倒して勝利するッ!」
 山本のターンが終わると同時に砂嵐が晴れる。砂の壁の効果は無くなった。もう俺を守るものが無くなってしまった。
 今度こそ絶体絶命だ。このターンでミュウツーLV.Xを倒さなければ俺は勝てない。そのための逆転の一枚を……。
「俺のターン」
 ドローのためにデッキの一番上のカードに触れる。何故だか触れた指先が熱を帯び始めた。指をつたって徐々に体全体に熱が広まり、心臓の鼓動が早くなる。
「感じる……。このドローに、俺は全てを懸ける! 行くぞォ! ドロー!」
 俺がドローしたカードは……。フライゴンLV.X!
「こいつが、俺の絆の証しだ! 現れろ、フライゴンLV.X(140/140)!」
「たかがHP140! このおれとミュウツーLV.Xの敵ではない!」
「そいつはどうかな」
「何っ?」
 山本の眉がぴくりと動く。
「この悪夢を終わらせる力だ! フライゴンLV.Xで攻撃。エクストリームアタック!」
 フライゴンLV.Xが空高く舞い上がる。
「このワザは、相手のLV.Xポケモン一匹に150ダメージを与えるワザだ!」
「ひゃ、150だと!?」
「行けぇ! フライゴンLV.X!」
 上空から加速をつけて一気に駆け下りてくるフライゴンLV.Xの体は、白の光に包まれる。
「こんなところでおれはっ、おれはああああああああ!」
 光の束と化したフライゴンLV.Xが、正面からミュウツーLV.Xの体を貫く。それと同時に爆発が巻き起こり、山本側の場が一切見えなくなった。
「達人の帯をつけたポケモンが気絶したため、俺はサイドを二枚取る! これで俺の勝ちだ!」
 これで俺は全てのサイドを引ききった。カードから目を離して前を向くと、勝負が終わったために消えかけているフライゴンLV.Xと目が合う。
「ありがとうな」
 勝った。……良かった。一人だったら絶対に勝てなかったが、こいつのお陰で俺は勝つことが出来た。本当に、ありがとう。



翔「今回のキーカードはフライゴンLV.X!」
風見「エクストリームアタックは、ベンチのLV.Xポケモンも攻撃出来る。ポケボディーもデッキ破壊の強力効果だ」
翔「これが俺達の絆の証しだ!」

フライゴンLV.X HP140 無 (DPt2)
ポケボディー しんりょくのあらし
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、ポケモンチェックのたび、相手の山札のカードを上から1枚トラッシュ。
無無無 エクストリームアタック
 相手の「ポケモンLV.X」1匹に、150ダメージ。
─このカードは、バトル場のフライゴンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 雷−20 にげる 0


  [No.899] 84話 勝敗 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/15(Thu) 00:21:23   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「大丈夫か、翔」
「風見のおかげでなんとか勝てたぜ……」
「ああ。最後だけだが見ていた」
 山本との対戦が終わると同時に、体に急に物凄い疲労感とだるさが襲いかかってくる。これは風見杯のときにも経験したが慣れれるもんじゃない。
「拓哉はどうなった?」
「あいつもきちんと勝った。だが、その代わり肉体にかなりの負傷を負って病院に運ばれた。準決勝は当然棄権だ」
「そうかぁ……」
「そしてお前は今から長岡との対戦だ」
「ということは風見は負けたのか」
「ああ。内容的にも課題がたくさん残る勝負だったが、後悔はしてない」
「だったらいいんだけどな」
 数秒の間があった後、風見が俺の肩をぽんと叩く。
「さあ、頑張ってくれ」
「は?」
「今から準決勝だ。もう一方の試合はさっきも言った通り、藤原が棄権したため準々決勝を勝ち抜いた中西が一気に決勝進出となる」
「え、ちょっと待───」
「もう能力(ちから)がどうとかいった勝負はない。さあ楽しんで来い」
「棒読みで言うな! くそ、行けばいいんだろ行けば!」
 と口では元気そうに言ったものの、ぶっちゃけこうして立って歩いているのがやっとだ。でもここまで来たんだ。俺は全国大会に行って、才知と由香里との約束を果たさなくてはならない。
「あと二戦、勝つだけだ……」
 自分を奮い立たせる呪文のように、一人小さくつぶやいた。



「翔との公式戦は初めてだぜ」
 バトルベルトでの対戦は、ポケモンが3D映像として現れるがために非常にスペースを取る。俺と恭介の距離は、学校の教室の端から端くらいの広さがあり、ちょっと視力の悪い奴だと細かい表情が見れないだろう。
「お前公式戦出るの初めてだろ。当然じゃん」
 俺が突っ込むと、恭介はうっせーな、と、くだをまく。
「いや、そうだけど! もうなんでもいいからさっさとやろうぜ!」
「ああ。楽しい勝負にしようぜ」
 と言ったはいいが、急に焦点がぶれて向かい側にいる恭介の姿が二人に分裂したかのように見えた。数回瞬きをすれば何事もなかったかのように焦点が戻る。
 くそっ、あと一時間くらいはもってくれ俺の体! まだ倒れたくはないんだ。
 最初の手札からたねポケモンを選択する。バシャーモFB80/80しかたねポケモンはいないか。
 恭介の最初のたねポケモンはピチュー50/50が二匹。
「先攻は俺がもらうぜ! 俺のターン。まずはバトル場のピチューに雷エネルギーをつけてワザ、おさんぽを使う。このワザの効果でデッキのカードを上から五枚見て、その中のカードを一枚、手札に加える。残りのカードはデッキに戻しシャッフル」
 ちゃんとプレイング出来るようになってるじゃないか、流石は俺が教えただけあるな。
「今度は俺のターンだ」
 デッキの一番上に手を伸ばした。が、あるはずのカードはそこにない。辺りを手さぐりで探したところ、間違えてデッキの左隣の空を探しまわっていたようだ。自分の視界がズレてしまっている。
「くっそ、頼むって……。なんとかもたしてくれよ。ドロー!」
 ダメだ、今度は手札がぼやける。絵はまだ見れるがテキストはほとんど読めない。
「炎エネルギーをバシャーモFBにつけ、ハマナのリサーチを発動。ヤジロン(50/50)とアチャモ(60/60)を手札に加えて二匹ともベンチに出す。そしてバシャーモFBで誘って焦がす。ベンチのピチューを引きずり出してやけどにする!」
 バシャーモFBが恭介のベンチへ跳んだ。だが、そこからが妙だ。音がエコーして聞こえる。なんだか遠くで反響する音を聞いているようでずいぶんと気持ちが悪い。
「ポケモンチェック。やけどのコイントスだ」
 コイントスが見えない。恭介がウラ、と宣言したのを聞いてやっと理解する。だがその声も反響して……。
「俺のターン。バトル場のピチューのポケパワーだ。ベイビィ進化。ピチューのダメージカウンターを全て取り除き、ピチューをピカチュウ(60/60)に進化させる。進化したことでやけどは回復だ。そして───」
 体の感覚が徐々に分からなくなる。視界も歪み、耳に入る音は不快感しか伴わない。何がどうなって今起きている? ああわからない。もう、どうにでも、な……れ……。



「はっ! へいあ!」
「ごあっ!」
 次に目を覚ましたとき、目の前にドアップの風見の顔があった。顔と顔の距離が十センチしかなかったと思う。反射的に頭突きで風見を襲ってしまった。
 しかし、よく頭突き出来たなと思うくらい体が動かない。
「いたた、起きるのが結構早いんだな」
「俺がなんだかよくわからんことになってる間に何したんだ!?」
「急に倒れたお前をせっかく運んできたのに、頭突きされるとはとんだ恩知らずだ……」
 気がつけばいつの間にか周囲は会場ではなく、廊下で横になっていた。廊下にはいくつかの扉と、額をおさえて痛がる風見だけしかいない。どこだろうか。
 さっき何があったのかを思い返す。
「……あっ、勝負は? 恭介とやっていたはず───」
「落ち着け。お前はその最中に倒れたんだ。皆びっくりしたぞ。あと言わなくても分かるだろうがお前はもちろん棄権扱いだ」
「……」
 それもそうだろう。
「そんなつまらない顔をするな。良い知らせもきちんとあるぞ。松野さんを始めとした山本の被害者の意識が取り戻ったようだ。実際に松野さんから連絡があった」
「本当か!」
「嘘をつく理由はないだろう。それと、藤原は高津との試合の際に左腕を折ったようだ。全治三カ月程度らしい」
「拓哉も頑張ったんだな」
「翔も頑張ったんだろう?」
「まあ、な」
「俺達には来年がある。未来がある。今回は運が悪かったということだ。次こそ、と意気込むのがいいくらいだろう?」
「へへ、そうだな」
 いつまでも仰向けで廊下に寝転がっているのも良くない。なんとか風見の手助けもあって、立ち上がる。
「今会場に戻ればおそらく決勝戦の最中だ。行くか?」
 服をぱんぱん、と簡単にはたく。
「おう。せめて恭介の応援くらいはしてやらないとな」



「ファイナルブラスト!」
 深く息を吸い込んだレックウザC LV.X100/120の口から無慈悲なほど巨大で強大な極太レーザーが発射される。
「ぐおああああっ」
 音と光が爆発する。大気も震えるかの程だ。離れて見ている俺達にもかなりきついものがある。
「病み上がりにこれを見るのはかなりきついな」
「大丈夫か?」
「ああ」
 見れば恭介のエレキブルFB LV.Xがこの攻撃を受けたらしく、気絶してしまったようだ。
「俺の次のポケモンはライチュウだ!」
「サイドを一枚引いてターンエンド。さて、あとサイドは一枚になったけど、どういうプレイを見せてくれるのかな?」
 恭介のライチュウ90/90には雷エネルギーが既に三つついている。攻撃の準備はばっちりのようだ。
「お望みならば見せてやる。俺のターン! こいつが俺のエースカードだ! 来い、ライチュウLV.X!」
 これが恭介のエースカード……。ライチュウLV.X110/110は頬から大量に電気を放電しながら現れる。
「手札の雷エネルギーを二枚捨て、ライチュウLV.Xで攻撃。ボルテージシュート!」
 瞬間、紫電の槍が中西のベンチを抉るよう襲う。攻撃を喰らった色ミロカロスは強力な電撃を浴びHPを0/80にする。
「へへっ。ボルテージシュートは手札の雷エネルギー二枚を捨てることで相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ。色ミロカロスにはアクアミラージュっていう自分の手札が一枚もないときこのポケモンは相手のワザによるダメージを受けないポケボディーがあるが、あんたはさっき俺のエレキブルFB LV.Xを倒してサイドを一枚引いたから手札は一枚。そのポケボディーも働かない! サイドを一枚引く」
「なるほど、私のコンボをそう破るとは流石ですね。ですがサイド差はまだありますよ。君のサイドはまだ二枚ある」
「ライチュウLV.Xがレベルアップしたターンにボルテージシュートで攻撃した場合、ポケボディー連鎖雷が働く。この効果で俺はもう一度だけ攻撃できる!」
「二回攻撃!?」
 決勝戦の相手なのに恭介は一歩も引きさがっていない。それどころか互角の戦いを繰り広げている。もしかしたら……。
「ライチュウLV.XでレックウザC LV.Xに攻撃。炸裂玉!」
 巨大の電気の塊の玉がライチュウLV.Xから放たれ、それがレックウザC LV.Xの元で大爆発する。
「このワザの効果でライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュする。だが100ダメージを喰らってもらうぜ!」
「レックウザC LV.X!」
 丁度残りHPを失ったレックウザC LV.Xは、浮力を失い崩れ去る。
「なんという底力。素晴らしい! 私はベンチのミロカロスを出す!」
「サイドを一枚引いて、今度こそターンエンドだ!」
 中西のベンチから現れたのは、息絶え絶えの傷だらけであるミロカロス20/90。
「長岡のライチュウLV.Xは、エネルギーなしでも30ダメージを与えれるスラッシュがある。これで次のターンミロカロスを倒せば長岡の勝ちだ。ライチュウLV.X自身のHPも110もある。そうそう簡単に倒せる相手ではないな」
「よし、頑張れ!」
 中西の手札はたった一枚。それにミロカロスにはエネルギーが超エネルギー一つだけだ。勝てるぞ!
「私のターン。参りましたね……、これが私にできる最善の策です。ハマナのリサーチを発動。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加える。私は水エネルギーとヤジロンを加え、水エネルギーをミロカロスにつける」
 試合を見ている周りの観客のざわつきが消える。皆、この試合の行く末を見守り息をのんでいる。
「ミロカロスで攻撃。クリアリング!」
 中西のミロカロスが水で出来た透明な輪をライチュウLV.Xに向け放つ。輪がライチュウLV.Xに触れると、輪は水に戻って飛沫を上げた。
「たった20ダメージか? ライチュウLV.XのHPはまだ90もある。次のターン俺の勝ちだ!」
「クリアリングの効果発動」
「なっ」
「望むなら、自分の手札を二枚トラッシュすることで自分のポケモンのダメージカウンターを四つ取り除く」
 なるほど。だから中西はわざわざ手札を0にせず二枚残しておいたのか。
「私は手札のヤジロンとワンダー・プラチナをトラッシュしてミロカロスのHPを回復させよう」
 傷ついたミロカロスの傷が癒え、HPバーが60/90まで回復する。うってかわってさっきのターン炸裂玉の効果でライチュウLV.Xにエネルギーはなし。ベンチにポケモンもいない恭介は劣勢になる。
「嘘だろっ!? くっそー! 俺のターン。手札の雷エネルギーをライチュウLV.Xにつけ、スラッシュ攻撃!」
 ライチュウLV.Xが尻尾でミロカロスを叩きつける。
「ミロカロスの弱点は水プラス20。しかし僅かに足りないな、あの中西という人は相当強いぞ。さらにスラッシュは次のターン連続して使うことが出来ない。長岡はやや不利になってしまった」
 30+20=50のダメージを受け、ミロカロスは10/90、文字通りがけっぷちだけ耐えきる。しかし中西にとってはこれで十分だろう。
「私のターン。手札の水エネルギーをつけてミロカロスで攻撃。スケイルブロー!」
 ミロカロスの体からたくさんの鱗がライチュウLV.X90/110に向かって吹き付ける。それぞれがナイフのようにとがった鱗は、一つ一つがライチュウLV.Xにダメージを与えていく。
「このワザは基本値90に対し、手札の数だけダメージを10減らす。しかし私の今の手札は0。よってそのまま90ダメージを受けてもらいます」
 HPバーが徐々に減り、ライチュウLV.XのHPバーは尽きてしまう。まさかあんなピンチからこうもあっさり勝ってしまうとは。
「サイドを一枚引いて、私の勝ちだね」
 勝利と共に周りの観客から共に激戦を繰り広げた両者に賞賛の拍手が送られる。俺も風見も、共に手を叩いた。
『PCC東京A一日目、カードゲーム部門の優勝者が決まりました!』
 急設された表彰台の上に、中西が恥ずかしがりながら上る。もう一度名誉者への拍手が送られ、これで長かったPCC東京A一日目は幕を閉じた。


 
 会場を出ると、既に外は闇。春の夜はまだ冷たさを伴うものの、大会帰りの俺達の熱気を冷ますには程遠かった。
「くっそおおおあと少しで優勝だったのにいいいい!」
「日頃の態度の悪さ故の当然の結果だ」
「うっせー! お前も人の事言えねーだろうが! っていうか一回戦で負けてるじゃんお前!」
「なんだと!?」
「はいはい暴れんなよ」
 相も変わらずどうでもいいことで揉める恭介と蜂谷をなだめ、俺たちは駅に向かった。
 行きに集合した駅に着き、皆方々に帰って行く。
「あ、風見。これ返しとくよ」
 借りていたフライゴン一式を揃えて風見に手渡す。
「ああ、そうだったな。……、今回能力者を二人倒したが、能力騒ぎはまだ終わってない。それは───」
「分かってるさ。どんな能力を使うやつが現れても俺は戦うさ」
 風見はそうか、と呟くと背を向けて改札を通り抜けて去って行く。
 そう、能力騒ぎはまだ終わっていなかったのだ。



「どうでした? 彼」
 誰もいなくなった会場。閑散とした一帯にはさっきの騒々しさは微塵も感じられない。
 片付けも終わり誰もいなくなったこの会場で、一之瀬は翔の対戦をずっと見つめていた眼鏡の男と対談している。
「素晴らしい素養だ。思った通りだったよ」
「高評価ですね」
 一之瀬は男の言うようには思えなかった。確かに奥村翔は強い部類に入るだろうが、この男からそこまでの評価をもらえるほど強いはずがない。
 全国大会に出る実力はあるかもしれないが、その程度で終わってしまうだろう。彼には一之瀬と違い、戦いに対する覚悟が感じられない。
 その点一之瀬は風見雄大を評しているのだ。
「私がそんなに奥村翔に高評価を出すのがおかしいか?」
「……、貴方がそう言うのが珍しいので」
「そうか。……とはいえ、あくまでもまだ素養だ。とてもじゃないが君には及ばないよ」
「素養……」
 男は何をもって奥村翔を見ているのだろう。一之瀬には分からない。
「ところで山本信幸が言っていましたがポケモンカードに勝てば勝つほど能力(ちから)が増幅するというのは」
「本当だよ。……と、言いたいところだが半分正解というところか」
「その実質は」
「能力は基本的に感情によるものだ。こうしたいという負の感情が集えば集うほど能力はより力を増す。山本は勝てば勝つほど能力が増幅するという思い込みをしていたが、その思い込みという感情によって能力は増幅されていっただけだ」
 つまるところ勝てば勝つほど、はあまり関係ないということか。と、一之瀬は考える。
「彼が言っていた、ポケモンカードを介せずとも能力を使えるというのは?」
「どうだろうね、実質私にも分からないが間違いではない可能性はある」
「それじゃあ逆に高津洋二の能力がバトルベルトでしか発動しないのは」
「あくまで私の考察だが」
 男は眼鏡をくいと上げる。
「高津は能力を恐れていたのかもしれない。自分を認めないものを傷つけたい反面、傷つけることによって余計に自分を認めるものがいなくなるものが増えることへのパラドックスに対して、心のどこかでストッパーがかかっていたのだろう」
 能力……。誰一人として本当のそれを知る由はない。一之瀬だって、この男だってそうだ。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。一之瀬、君にわざわざ残ってもらった理由だ」
「有瀬悠介(ありせ ゆうすけ)の頼みを断れる人間がいるとでも?」
 悪態を突くように一之瀬が言い放つと、有瀬と呼ばれた眼鏡の男は軽く笑う。
「それもそうかもしれないな。では今から君と私でミーティングだ。『最後の能力者の宴』の、な」



翔「今回は実際に使用したPCC編資料集!
  PCC東京A一日目の本戦トーナメントは以下のようになってたんだぜ」

Aブロック(16人)
対戦表・一回戦
(A1ブロック)藤原VS沙村、??VS??、蜂谷VS沙羅、??VS高津
(A2ブロック)??VS??、??VS??、向井VS??、中西VS??
Bブロック(16人)
対戦表・一回戦
(B1ブロック)恭介VS八雲、??VS??、風見VS??、??VS井上
(B2ブロック)如月VS石川、翔VS??、松野VS桃川、??VS山本
二回戦
(Aブロック)藤原VS?? 沙羅VS高津 ??VS?? 中西VS向井
(Bブロック)恭介VS?? 風見VS井上 石川VS翔 松野VS山本
準々決勝
(Aブロック)藤原VS高津 中西VS??
(Bブロック)恭介VS風見 翔VS山本
準決勝
(Aブロック)藤原VS中西
(Bブロック)恭介VS翔
決勝 中西VS恭介


  [No.900] PCC編を終わって 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/15(Thu) 00:22:31   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 PCC編の連載期間的には一年3か月くらいでしょうか。キャラ募集も無事成功しました。

 PCSとしてこのPCC編を終わることで大きな意味があります。
 このPCSには三つの区切り方があります。
 ファーストバトル編だとかPCC編だとかの「章」。
 そして翔たちが高校生一年生の区間を示した「年」。
 最後は、この能力編という一番大きな区切りである「編」。
 PCC編が終わることで翔たちが高校一年生を終え、「一年目」という「年」の区切りもつきました。
 ただ、能力編という「編」は本当にこれからというところで、まだまだ盛り上がって行きます。
 そして能力編と同時に風見個人の「編」である、自立編も始まりました。PCC始まる直前の、久遠寺と戦ったとこあたりから。
 こちらはメインである能力編に比べるとやや地味ですが、次の「章」、この自立編は本格的に始動していきます。
 翔も風見も、そしていろんなキャラが人間的に成長していけたらいいなあと思います。

 そして執筆方法にもいろいろ変わって行ったところがあります。
 とはいえ、翔VS山本からなんですが、今までみたいにパソコンで直接その場の思いつきの行き当たりばったりで勝負経過を考えるんじゃなくて、きちんとルーズリーフに練って考察するということも始めました。
 こっちの方がいいですね、どこでどう演出しようなどと考えれるし。

 そして描写方法が変わっただけでなく、次の「章」、アルセウスジム編からは使用するカードも全て一新します!
 今まではDP〜DPtのカードを使っていたのですが、LEGEND〜BWのカードを使うことになります。
 LV.Xポケモンがいなくなり、LEGENDポケモンや、新しいBWルールで戦うキャラクター達にどうかご声援をお願いします。

 なお、本年もPCSにとっては激動な一年となるかもしれません。


  [No.922] PCC編セリフ集 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/22(Thu) 17:13:26   30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 奥村 翔
・対戦前
「さぁ、楽しい勝負にしよう」
・勝利
「まっ、こんなもんかな。いつでもまた相手してやるよ」
・敗北
「くっそー! でも熱い勝負だったぜ。またやろうな!」
・先攻1ターン目
「さぁ、熱いバトルの始まりだ! 俺のターン!」
・有利ターン
「このまま流れに乗り切る。俺のターン」
「最後までガンガン行くぜ! 俺のターン」
・通常ターン
「どんどん攻めるぜ。俺のターン」
「手加減はなしだ! 俺のターン」
・不利ターン
「くっ、この流れを断ち切らないと……。俺のターン」
「たとえどんな状況だとしても、俺は絶対諦めない! 俺のターン!」
・逆転ドロー
「感じる……。このドローに俺は全てを懸ける! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「ここで」「これだ!」「うん」「そうだなぁ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「ちょっと待った」「悪いな」「このタイミングで」「残念!」「分かってたぜ!」
・ポケモン登場
「よし」「出番だ!」「来い!」「頼んだぞ」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「よし」「うん」
・ワザ(ダメージ発生)
「バトル!」「手加減なしだ!」
・トドメ
「この勝負、もらった!」
・バシャーモ登場
「機は熟した! 頼んだぞ、バシャーモ!」
・バシャーモポケパワー
「全てを焼き焦がせ! バーニングブレス!」
・バシャーモ攻撃
「熱い炎で全てを燃やせ! 今だ、炎の渦!」
・ヒードランLV.X登場
「サポートは任せた。ヒードランLV.X!」
・ヒードランLV.Xポケパワー
「燃え始めた炎は止まることを知らないってな。ポケパワー、製鉄!」
・バシャーモFB LV.X登場
「こいつでどうだ! バシャーモFB LV.X!」
・バシャーモFB LV.X攻撃
「この一撃で、全てなぎ倒す! ジェットシュート!」
・フライゴンLV.X登場
「これが、俺たちの絆の証だ! 現れろ。フライゴンLV.X!」
・フライゴンLV.X攻撃
「悪夢を断ち切る力だ! エクストリームアタック!」

風見 雄大
・対戦前
「いいだろう。俺が相手になってやる」
・勝利
「俺はまだまだ上へ行く。こんなところでは負けられないんでな」
・敗北
「……。ふっ、俺はまた0からやり直す。そのときまた勝負だ」
・先攻1ターン目
「勝負は常に先手必勝だ。俺のターン」
・有利ターン
「最後まで全力で戦う! 俺のターン!」
「退屈だな。俺のターン」
・通常ターン
「遠慮はいらない。俺のターン」
「さあ行くぞ、俺のターンだ」
・不利ターン
「まだ終わらない! 俺のターン!」
「なかなかやるな。俺のターン」
・逆転ドロー
「俺は、こんなところで立ち止まっている暇はない! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「ふん」「これだ」「こいつだ」「行くぞ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「よそ見する暇はないぞ」「どこを見ている」「このタイミングで」「お見通しだ」「させると思ったか」
・ポケモン登場
「出でよ!」「ああ」「こいつだ」「見せてやる」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「このワザだ」「そうだな」
・ワザ(ダメージ発生)
「戦いだ!」「思い知れ!」
・トドメ
「この一撃に、俺の全てを懸ける!」
・ギャラドス登場
「力の差を見せつけてやる。来い、ギャラドス!」
・ギャラドス攻撃
「エネルギーなど俺には不要! リベンジテール!」
・ボーマンダ登場
「こいつが俺の信じる力! 行け、ボーマンダ!」
・ボーマンダ攻撃
「この勝負にかける情熱をぶつけてやる! ドラゴンフィニッシュ!」
・ボーマンダLV.X登場
「たとえどんな劣勢に立たされようと、それをひっくり返す力を見せてやる! 出でよ、ボーマンダLV.X!」
・ボーマンダLV.X攻撃
「この一撃で俺はさらに上へ進む! 砕け散れ! スチームブラスト!」
・ボーマンダLV.Xポケパワー
「圧倒的な力を見よ! ポケパワー、ダブルフォール!」
・フライゴンLV.X登場
「これが、俺が今まで培ってきたものの全てだ! フライゴンLV.X!」
・フライゴンLV.X攻撃
「俺の進み行く道のりの礎となれ! エクストリームアタック!」

藤原 拓哉(裏)
・対戦前
「けっ、この俺に挑んだことを後悔させてやる」
・勝利
「一瞬でもこの俺に恐怖したことがお前の敗因だ!」
・敗北
「くそっ、この俺がお前ごときに負ける……だと!?」
・先攻1ターン目
「楽しい時間の幕開けだァ! 俺のターン!」
・有利ターン
「おいおい……。達者なのはその口だけか? 俺のターン!」
「なんだなんだ? もう限界か? 俺様のターン!」
・通常ターン
「けっ、俺様のターン!」
「ぶっ潰してやるぜ。俺のターン!」
・不利ターン
「くそっ、いい気になってんじゃねぇぞ! 俺のターン!」
「調子に乗るのもいまのうちだ! 俺様のターン!」
・逆転ドロー
「まだだ。まだ終わらせねぇよ! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「おらおら!」「けっ」「へっ」「こいつだ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「待ちやがれ!」「どこ見てやがる!」「このタイミングだァ」「させねぇよ」「クソ野郎が」
・ポケモン登場
「けっ」「さあ」「オラァ!」「悪くねぇな」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「けっ」「ふん」
・ワザ(ダメージ発生)
「バトルだァ!」「やってやれ!」
・トドメ
「俺たちの力、見せつけてやる!」
・ヨノワールLV.X登場
「楽しくなるのはこっからだぜ! ヨノワールLV.X!」
・ヨノワールLV.Xポケパワー
「本当の地獄はここからだ。エクトプラズマ!」
・ゲンガー登場
「雑魚が。手間取らせんてじゃんねぇよ。本当の恐怖を教えてやる、ゲンガー!」
・ゲンガーポケパワー
「さあデッドオアアライブと洒落こもうじゃねぇか! 死の宣告!」
・ゲンガー攻撃
「自分の力に溺れるんだな。シャドールーム!」
・ゲンガーLV.X登場
「調子に乗るのもそこまでだ! ゲンガーLV.X!」
・ゲンガーポケパワー
「いい気になってんじゃねぇぞ! レベルダウン!」
・ゲンガー攻撃
「痛みには痛みだ! ダメージペイン!」

長岡 恭介
・対戦前
「よっしゃー! 張り切って行くぜ!」
・勝利
「オッケー! 今日の俺は誰にも止められねーぜ!」
・敗北
「チキショー! まだダメだったかぁ……。でも次は勝つからな!」
・先攻1ターン目
「最初からガンガン行くぜ。俺のターン」
・有利ターン
「超絶好調じゃん! 最後まで全力疾走だ。俺のターン!」
「へへっ、どーよ俺のパワーは! 俺のターン」
・通常ターン
「よっしゃー、俺のターンだ!」
「戦うぜ。俺のターン」
・不利ターン
「ヤバいじゃんかくっそー……。でも、まだだ。俺のターン!」
「こっ、こういうときこそ落ち着け俺。俺のターン」
・逆転ドロー
「このドローで全てがひっくり変わるかもしれねーよな? さあ、運命のドローだ!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「ああ」「これだ!」「信じるぜ」「どーだ!」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「待ってくれよ」「恨みっこなしだぜ」「このタイミングで」「悪いな」「おおっと」
・ポケモン登場
「よし」「いいね」「頼むぜ!」「こいつでどうだ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「じゃあ」「よし、このワザだ」
・ワザ(ダメージ発生)
「行っけー!」「喰らえ!」
・トドメ
「お前との勝負、楽しかったぜ! でもこれで終わりだ!」
・ライチュウ登場
「出番だぜ、俺の相棒! ライチュウ!」
・ライチュウ攻撃
「フルパワーをぶつけ合いだ! 炸裂玉!」
・ライチュウLV.X登場
「こいつが自慢のエースだぜ! ライチュウLV.X!」
・ライチュウLV.X攻撃
「一撃必殺! ボルテージシュート!」
・ライチュウLV.Xポケボディー
「まだ俺の番は終わってない! 連鎖雷!」
・エレキブルFB LV.X
「準備は万端、出番だぜ! エレキブルFB LV.X!」
・エレキブルFB LV.Xポケパワー
「まずはチャージ! エネリサイクル!」
・エレキブルFB LV.X攻撃
「体から溢れるエナジー、全部ぶつけてやれっ! パワフルスパーク!」

松野 藍
・対戦前
「私と戦うってことはそれなりの覚悟が出来てるってことよね?」
・勝利
「もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、見込み違いだったかしら?」
・敗北
「くっ……、なんて強さ! こんなにあっさりやられるなんて……」
・先攻1ターン目
「最初のターンが肝心なの。私のターン」
・有利ターン
「あら、もう終わり? 私のターン」
「もうちょっと頑張って欲しいわね。私のターン」
・通常ターン
「行くわよ。私のターン」
「互いに後悔の残らないようにしましょう。私のターン」
・不利ターン
「なかなか……、やるわね。私のターン」
「まだまだ戦えるわ。私のターン」
・逆転ドロー
「油断大敵、よ。ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「さあ」「これよ」「抜かりはないわ」「どうかしら」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「ええ」「焦りは禁物よ」「このタイミングで!」「スキだらけね」「そんなに上手く行かないわよ」
・ポケモン登場
「おいで」「この子でどうかしら」「そうね」「行くわよ」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「さあ」「このワザよ」
・ワザ(ダメージ発生)
「耐えれるかしら!」「攻めさせてもらうわ」
・トドメ
「残念だけど、ここまでよ」
・キッサキ神殿発動
「この戦いにふさわしい舞台よ。スタジアムカード、キッサキ神殿」
・エムリットLV.X登場
「本気で行くわよ。エムリットLV.X!」
・エムリットLV.X攻撃
「私と戦ったことを後悔することね。ゴッドブラスト!」
・ユクシーLV.X登場
「遠慮はしないわ。ユクシーLV.X!」
・ユクシーLV.Xポケパワー
「ひとまずは、トレードオフ!」
・ユクシーLV.X攻撃(未登場)
「侮っていると痛い目に遭うわよ。思念の刃!」
・アグノムLV.X登場
「出し惜しみはしない。アグノムLV.X!」
・アグノムLV.X攻撃(未登場)
「ここが最良のタイミングね。ディープバランス!」
・レジギガスLV.X登場
「さあ、これにどこまで抵抗出来るかしら。レジギガスLV.X!」
・レジギガスLV.Xポケパワー
「弱き命を、より強大な力の礎に! サクリファイス!」
・レジギガスLV.X攻撃
「この攻撃を受けて、無事でいられるかしら。ギガブラスター!」

石川 薫
・対戦前
「やるからには負けないんだから!」
・勝利
「よし、あたしの勝ちね。この調子でもっと強くなる!」
・敗北
「そんな! 万全のコンディションだったのに……」
・先攻1ターン目
「最初の一歩は土台を作るための大事なもの。行くよ、あたしのターン」
・有利ターン
「最初の威勢はどこ行ったやら。あたしのターン」
「この調子で一気に決めてやるんだから。あたしのターンだ!」
・通常ターン
「さっ、あたしのターン」
「勝負はまだ始まったばかり! あたしのターンだ!」
・不利ターン
「ううん……、あたしのターン」
「くっ、押されてる? あたしのターン!」
・逆転ドロー
「ここでなんとかするんだ……。ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「よし」「うん」「これだ!」「もらった!」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「ここ!」「待ってよ」「このタイミングで」「させない!」「待ってたよ!」
・ポケモン登場
「じゃあ」「よし」「出番よ」「お願い!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「よし」「このワザね」
・ワザ(ダメージ発生)
「全力で行くよ!」「バトル!」
・トドメ
「これでトドメだ!」
・こうらの化石発動
「こうらの化石!」
・かいの化石発動
「かいの化石!」
・ひみつのコハク発動
「ひみつのコハク!」
・カブトプス登場
「さあ、どんどん攻めてくよ。カブトプス!」
・カブトプス攻撃
「全てを叩き斬れ! 原始のカマ!」
・オムスター登場
「全ての準備は整った。出番だ、オムスター!」
・オムスター攻撃
「貯めに貯めた力を解き放て! 原始の触手!」

向井 剛
・対戦前
「やるからには全力で行きます!」
・勝利
「対戦ありがとうございました! よし!」
・敗北
「やっぱり僕程度じゃまだまだダメなのかな……」
・先攻1ターン目
「先攻をもらいます。僕のターン」
・有利ターン
「よし、あと一息! 僕のターン」
「最後まで気を抜きません! 僕のターン」
・通常ターン
「行きます。僕のターン」
「よし、僕のターンですね」
・不利ターン
「くっ……。僕のターン!」
「まだまだ戦える! 僕のターン!」
・逆転ドロー
「僕だって……、僕だって! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「じゃあ」「これで」「よし」「そうだ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「おっと」「待ってください」「このタイミングで」「すみません」「割り込みます」
・ポケモン登場
「じゃあ」「出番だ!」「よし」「任せた!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「うん」「これにします」
・ワザ(ダメージ発生)
「やりますよ!」「バトルです!」
・トドメ
「最後の攻撃!」
・ラグラージ登場
「君に任せるよ。ラグラージ!」
・ラグラージポケボディー
「読んでました! ポケボディー、ルートプロテクター!」
・ラグラージ攻撃その1
「思い通りにはさせないっ! 引きずり出す!」
・ラグラージ攻撃その2
「このまま一気に! 押し倒す!」
・メタグロス登場
「こいつが僕のエースカード。メタグロス!」
・メタグロス攻撃
「これが僕に出来る全てだ! ジオインパクト!」

蜂谷 亮
・対戦前
「来な! ぎったぎったにしてやるぜ!」
・勝利
「勝った! やっべー俺超強いんじゃね!?」
・敗北
「なんでだよ! なんで負けるんだよ!」
・先攻1ターン目
「最初から全開で行くぜ! 俺のターン!」
・有利ターン
「キてるキてる! 俺のターンだ!」
「これ勝てるんじゃね? 俺のターン」
・通常ターン
「来いよ。泣かせてやるぜ! 俺のターン」
「負けねぇぞ。俺のターンだ」
・不利ターン
「まだ諦めないからな! 俺のターン」
「くっそー、バカにしやがって! 俺のターンだ!」
・逆転ドロー
「ドローなら俺の十八番! やってやるぜ、ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「どーよ?」「これだ!」「へへっ」「面白そうじゃん」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「待ちやがれ!」「おっと」「このタイミングで」「焦んなよ」「させるかっ!」
・ポケモン登場
「へいへいへい!」「行け行け!」「そらっ」「こいつだ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「へへへ」「見せてやるぜ」
・ワザ(ダメージ発動)
「やってやれ!」「ぶちかませ!」
・トドメ
「これで俺の勝ちだ!」
・スピアー登場
「俺のいいとこ見せてやる。出番だ、スピアー!」
・スピアーポケパワー発動
「どんどんスピード上げていくぜ! 羽を鳴らす」
・スピアー攻撃その1
「これでも喰らいやがれ! ニードルショック!」
・スピアー攻撃その2
「ぶちのめしてやれ! 皆で襲う!」

森 啓史
・対戦前
「さあ、全力で勝負や!」
・勝利
「なかなかええ勝負やったやん。めっちゃ熱くなれたな!」
・敗北
「嘘やんもう終わり!? もう一回、もう一回や!」
・先攻1ターン目
「最初からガンガン攻めんで。俺のターン!」
・有利ターン
「この勝負、もらった! 俺のターン!」
「手はずミスらへんかったら俺の勝ちや。俺のターン」
・通常ターン
「さぁ、俺のターン」
「行くで、俺のターン」
・不利ターン
「くそっ、まだまだ! 俺のターン」
「なんとかここで挽回しーひんと……。俺のターンや!」
・逆転ドロー
「肝心なのはここでの勝負強さ! 見せてたるで。ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「うん」「ええやん」「これか」「こうや!」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「待ちや」「そらっ!」「このタイミングや」「狙ってたで!」「思った通りや」
・ポケモン登場
「頼むで」「出番や!」「来い!」「こいつや!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「これや」「よし」
・ワザ(ダメージ発動)
「バトル!」「喰らえっ!」
・トドメ
「もらったぁ!」
・ガブリアスC LV.X登場
「こいつが俺のとっておき! 現れろ、ガブリアスC LV.X!」
・ガブリアスC LV.Xポケパワー
「その程度のダメージじゃ、残念やけど倒せへんで。癒しの息吹!」
・ガブリアスC LV.X攻撃
「どこにおっても射程距離! ぶっ潰せ! ドラゴンダイブ!」
・レントラーGL LV.X登場
「おもろなんのはこっからや! レントラーGL LV.X!」
・レントラーGL LV.Xポケパワー
「何をしたって逃がさへん! 輝く眼差し!」
・レントラーGL LV.X攻撃
「渾身の一撃、受けてみろ! フラッシュインパクト!」
・ゴウカザル四LV.X登場
「こいつでどうや! ゴウカザル四LV.X!」
・ゴウカザル四LV.Xポケパワー
「残念やけどお呼びじゃないで。威嚇の雄叫び」
・ゴウカザル四LV.X攻撃
「俺の全力をぶつけるまでや! 炎の渦!」
・ディアルガG LV.X登場(未登場)
「ディアルガG LV.X! お前の力を見せつけてやれ!」
・ディアルガG LV.Xポケボディー(未登場)
「今さら小細工は無用や。時の結晶!」
・ディアルガG LV.X攻撃(未登場)
「欠片残さず消えて無くなれ! リムーブロスト!」

宇田 由香里
・対戦前
「さぁ、楽しい勝負にしよう、ってね」
・勝利
「あたしを満足させるには全然アカンな。もっと本気にさせて欲しかったわ」
・敗北
「なかなかやるやん! 次は本気でやるで!」
・先攻1ターン目
「満足させてや? あたしのターン」
・有利ターン
「なんや、だらしないなぁ。あたしのターン」
「ふわぁ〜あ。眠たいわぁ。あたしのターン?」
・通常ターン
「さっ、あたしのターン」
「行くで。あたしのターン!」
・不利ターン
「へぇ、見掛けよりやるやん。あたしのターン」
「なかなかえぇセンスやん。あたしのターン」
・逆転ドロー
「ちょびっとだけ本気で行くで。ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「どや」「これや」「うんうん」「これくらいやな」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「おっと」「焦りなや」「このタイミングで」「アホちゃう?」「それっ」
・ポケモン登場
「さあ」「来てや」「頑張りや」「見せたるで」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「こんなんでどうよ」「ほらほら」
・ワザ(ダメージ発生)
「バトルや!」「行くで!」
・トドメ
「最後の一撃、喰らいや!」
・キングドラ登場
「頑張りに免じて遊んであげる。さぁ、キングドラ!」
・キングドラ攻撃その1
「一気に行くで! ドラゴンポンプ!」
・キングドラ攻撃その2
「この機会をずっと待ってたんや! アクアストリーム!」
・フローゼルGL LV.X登場(未登場)
「これで準備はばっちりや。フローゼルGL LV.X!」
・フローゼルGL LV.Xポケパワー(未登場)
「そんなんされても大丈夫や。ウォーターレスキュー!」
・フローゼルGL LV.X攻撃(未登場)
「これでどない? エナジーサイクロン!」

杉浦 孝仁
・対戦前
「やるからには勝ったる!」
・勝利
「なんや、ポケモンカードって案外簡単やねんな」
・敗北
「……。こっち本業ちゃうから別にええし」
・先攻1ターン目
「俺先攻でええねんな? 俺のターン」
・有利ターン
「畳み掛けるで。俺のターン!」
「勝てそうやん。俺のターン」
・通常ターン
「手加減してや? 俺のターン」
「やったんで。俺のターンや」
・不利ターン
「クソゲーが! ……俺のターン!」
「鬱陶しいな。俺のターン」
・逆転ドロー
「ドローだって乱数や! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「こうか?」「一気に行くで」「どや!」「舐めんな!」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「待てや」「割り込むで」「このタイミングやな」「させへんし」「はいはい乙ゲー乙ゲー」
・ポケモン登場
「よし」「ええやん」「頼むで」「行けっ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「こうか」「じゃあ」
・ワザ(ダメージ発生)
「ぶっ潰す!」「決まれ!」
・トドメ
「これで俺の勝ちや!」

藤原 拓哉(表)
・対戦前
「本当に僕が相手でいいの?」
・勝利
「うん、僕もなかなか良い調子だね」
・敗北
「やっぱり君は強いなぁ。僕も、君みたく強くなりたいよ。大事なモノを守れる強さを!」
・先攻1ターン目
「じゃあ先攻はもらうよ! 僕のターン」
・有利ターン
「このまま勝ちに行くよ。僕のターン」
「良い感じ! 僕のターン」
・通常ターン
「遠慮はなしだよ。僕のターン」
「さあやろっか。僕のターン」
・不利ターン
「強いね……。僕のターン」
「くっ……。僕のターン!」
・逆転ドロー
「守られてるばかりじゃ嫌なんだ! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「よし」「うん」「これだよ」「どうかな?」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「あっ、そうだ」「ちょっと待って」「このタイミングで」「ごめんね」「させないぞ!」
・ポケモン登場
「お願い!」「出番だよ」「任せるよ」「一緒に頑張ろう」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「これだよ」「このワザを使うよ」
・ワザ(ダメージ発生)
「バトル!」「よし!」
・トドメ
「これが通れば僕の勝ち!」

一之瀬 和也
・対戦前
「君の力を試してあげるよ」
・勝利
「なんだ、正直のところがっかりしたよ。この程度の実力だったとはね」
・敗北
「君、強いね。君ならば……。いや、なんでもないよ」
・先攻1ターン目
「手加減してあげるから全力で来てよ。僕のターン」
・有利ターン
「つまらないね。僕のターン」
「期待しすぎたか。僕のターン」
・通常ターン
「さあ戦おうか。僕のターン」
「君の力を見せてくれ。僕のターン」
・不利ターン
「いいねぇ。たぎるねぇ。僕のターン」
「面白い。僕のターン」
・逆転ドロー
「ほんのちょっとだけ本気で行くよ。ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「このくらいかな」「多少は抗って欲しいね」「余裕だね」「行くよ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「ここだ」「そこで」「このタイミングで」「見え見えだよ」「効かないね」
・ポケモン登場
「君だ」「現れろ」「来い」「出でよ」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「ふっ」「このくらいかな」
・ワザ(ダメージ発生)
「堪えてくれよ?」「バトルしようか」
・トドメ
「もうお仕舞いか」

山本 信幸(敬)
・対戦前
「ククク……。さぁ! 始めましょうか。どちらかのみが生き残る、究極の戦いを!」
・勝利
「安心して良いですよ? 貴方の血肉は僕の力になるのだから」
・敗北
「たまには負けてあげないと、ねぇ?」
・先攻1ターン目
「先攻譲って良いんですかね? 僕のターン」
・有利ターン
「しっかりしてくださいよ……。まだまだ遊び足らないんだから! キカカカカッ! 僕のタァーン!」
「脆い! 脆い! 脆い! あまりにも脆い! 僕の、タァーン!」
・通常ターン
「さぁ、やりましょうか。僕のターン」
「それでは。僕のターン」
・不利ターン
「認めない! 僕が負けるだなんて……! 僕のターン!」
「まだだ、まだだァ! 僕のタァーン!」
・逆転ドロー
「僕は……。おれは……! 野望のために負けるわけにはいかないィィ! ドロー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「これで」「どうです」「さあさあ」「ほらほら」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「焦りは良くないですよ。本当に大切なものを見逃してしまうのだから!」「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!」「このタイミングで!」「その望みとやらをへし折る!」「儚いねぇ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「ククク……」「キカカカカ……」
・ワザ(ダメージ発生)
「バトル!」「消し飛べ!」
・トドメ
「終わりだァ!」
・アブソルG LV.X登場
「楽しませてあげますよ! アブソルG LV.X!」
・アブソルG LV.Xポケパワー
「希望とやらを掻き消す絶望を! 闇に送る!」
・アブソルG LV.X攻撃
「まとめて吹き飛べ! ダークスラッガー!」
・クレセリアLV.X登場
「努力だけは認めますよ。それに免じてこいつの出番と行きましょう。クレセリアLV.X」
・クレセリアLV.Xポケパワー
「自らの過ちが招く結果がこれですよ。満月の舞い」
・クレセリアLV.X攻撃
「残りの命を削り取らせてもらいましょうか。ムーンスキップ!」
・ミュウツー登場
「見せてあげますよ、僕の力を! 現れろ、ミュウツー!」
・ミュウツー攻撃
「吹き飛べ、サイコバーン!」
・ミュウツーLV.X登場
「ここまで良く出来ましたと褒めてあげましょう。でも、ここまでだァ! キヒャヒャヒャヒャ! ミュウツーLV.X!」
・ミュウツーLV.Xポケボディー
「余りにもか弱すぎる! その攻撃は全て無に帰す! サイコバリア!」
・ミュウツーLV.X攻撃
「それではさようなら。これで貴方を消してやる! ギガバーン!」

山本 信幸(狂)
・対戦前
「貴様に勝てばおれの能力は真の力を発揮でき、汚れた世界をおれが自ら変えることが出来る! 貴様がおれの最後の相手だ!」
・勝利
「これだァ! この能力(ちから)だァ! この世界を粛正し、新たな世界を築き上げる恐怖の力ァ! クキヒャヒャヒャ! キヒャヒャヒャヒャッ!」
・敗北
「嘘だっ! うっ、うああああああああああああああああ!」
・先攻1ターン目
「ふん、先攻で攻めさせてもらう。おれのターン」
・有利ターン
「貴様が強いのは認めてやる。だからこそおれの野望はもう少しで達成されるゥ! おれのタァーン!」
「もう少し……。あと少しだッ! この腐った世界を変えるまでほんの少しィ! 行くぞォ! おれのターン!」
・通常ターン
「足掻け足掻け足掻けェ! もっと足掻いて見せろォ! おれのターン!」
「この戦いにおれの全てが懸かっている。おれのターン」
・不利ターン
「このまま、引き下がれるかァ! おれの、タァーン!」
「くっ、どうしてだ……。あと少しだと言うのに! おれの、おれのタァーン!」
・逆転ドロー
「神でも悪魔でもなんでもいい! おれに、力をォ! ドロォー!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「これだ」「クキカカカ」「粛正への一歩だ」「穢れた世界の浄化の始まりだ!」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「逃がすかァ!」「まだだ、まだだ!」「このタイミングで!」「調子に乗るなァ!」「させると思ったかァ!」
・ポケモン登場
「キヒャヒャヒャ」「こいつだァ!」「怯えろ!」「現れろ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「キカカカカ!」「ヒヒャヒャヒャヒャ」
・ワザ(ダメージ発生)
「悶えろ!」「喰らえ!」
・トドメ
「これで新たな世界の幕が開ける! トドメだァ!」
・アブソルG LV.X登場
「愚図ばかりで腐りに腐ったこの世界を粛清するための第一歩だァ! 出でよ、アブソルG LV.X!」
・アブソルG LV.Xポケパワー
「淀んだ貴様のデッキを消してやるッ! 闇に送る!」
・アブソルG LV.X攻撃
「不要な物を切り落とし、新たな世界への一歩とするッ! ダークスラッガー!」
・クレセリアLV.X登場
「こいつが屑塗れのこの世界に光を与えるおれの力だァ! クレセリアLV.X!」
・クレセリアLV.Xポケパワー
「かつてこのおれが愚図から受けた屈辱、そしておれと同じような目に遭っている悲しき人々を救うための光だ! 満月の舞い!」
・クレセリアLV.X攻撃
「貴様に走馬灯を見る余裕などないィ! ムーンスキップ!」
・ミュウツー登場
「さあ、楽しい楽しいショータイムだ! 出でよ、ミュウツー!」
・ミュウツー攻撃
「まとめて吹き飛べ! サイコバーン」
・ミュウツーLV.X登場
「貴様にも全てを消し飛ばす圧倒的闇を見せつけてやる! これが、おれの究極の力! 現れろ、ミュウツーLV.X!」
・ミュウツーLV.Xポケボディー
「無駄だ無駄だァ! このサイコバリアの前ではそのようなワザなど無力! 格の差を知れェ!」
・ミュウツーLV.X攻撃
「ここまでよく頑張ったと褒めてやろう! だからこそこれで楽にしてやる! 全て消し飛べ! ギガバーン!」

高津 洋二
・対戦前
「お前に話すことはない。ただ戦うだけだ」
・勝利
「……こいつが悪いんだ。こいつが悪いんだあああ! 俺は忠告をしたはずだ、降参しろと! そうだ、こいつが悪いんだ。俺は何も悪くない」
・敗北
「くっ……あああぁっ! ぐぅっ!」
・先攻1ターン目
「本当の力を見せてやる。俺のターン」
・有利ターン
「今度こそ降参したらどうだ? 俺のターン」
「しぶといな……。俺のターン」
・通常ターン
「……俺のターン」
「どうなっても知らないぞ、俺のターン」
・不利ターン
「どうしてだ、くっ、俺のターン!」
「その言葉が後に自分の首を絞めることになることを教えてやる。俺のターン」
・逆転ドロー
「お前も、お前も、お前も! 潰してやる……! 二度と立ち上がれないくらい! ドローッ!」
・トレーナーズ発動時掛け声
「……」「こうだ」「どうだ」「この力を思い知れっ」
・割り込み(前三つ)&妨害(後ろ三つ)
「くだらんな」「邪魔をするな」「このタイミングだ」「芸の無い奴だ」「好きにさせるか」
・ポケモン登場
「さあ」「こいつだ」「現れろ!」「出でよ!」
・ワザ(ダメージ発生せず)
「このワザだ」「やれ」
・ワザ(ダメージ発生)
「さらなる絶望を教えてやる」「さあ、やれ!」
・トドメ
「口だけならなんとでも言える。お前が何と言おうと、それは意味を成さない。俺は俺を否定する奴を認めない。これでお前に止めを刺してやる」
・パルキアG LV.X登場
「圧倒的な力の前に慄け! パルキアG LV.X!」
・パルキアG LV.Xポケパワー
「パルキアG LV.X、力の差を見せつけてやれ。ロストサイクロン」
・パルキアG LV.X攻撃(未登場)
「数多の戒めを吹き飛ばせ! ハイドロシュート!」
・カイリキー登場
「その力、存分に振る舞え! カイリキー!」
・カイリキー攻撃その1
「エネルギー一つでも力の差を見せつけてやろう。落とす攻撃」
・カイリキー攻撃その2
「ははははは! 俺を愚弄したことを後悔させてやる。ハリケーンパンチ!」
・カイリキー攻撃その3
「これが俺の怒りだ! いかり攻撃!」
・カイリキーLV.X登場
「己が過ちに恐れを知れ! 現れろ、カイリキーLV.X」
・カイリキーLV.X攻撃
「さらなる絶望を教えてやる。斬新攻撃!」


  [No.908] アルセウスジム編 投稿者:照風めめ   投稿日:2012/03/17(Sat) 11:14:25   22clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 四月になり学年も上がった翔たち。それぞれがマイライフを謳歌する中、翔たちは一之瀬さんにアルセウスジムというポケモンカードの非公式イベントに誘われる。
 能力騒ぎの終端が徐々に近づく……?


  [No.921] アルセウスジム編を読む前に 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/22(Thu) 17:08:23   31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 第四章アルセウスジム編を読んでいただく前に

 この章からテキストや用語、ルールを全てBW準拠にさせていただきます。
 レギュレーションは前章まで使っていたDP、DPtまでのカードが一切使用せず、LEGEND、BWのカードとなります。

 そして、来週から始まる本編ですが、本編更新とともにカードの画像を実際に使ってルールやその回のカードを解説していくコーナーを設立しようと思います。

 ───この物語はフィクションです。劇中に出てくる人物、団体は架空の物と実在の物が存在しますが、実在の人物、団体とこの小説に書かれることは何の関係もありません。───


  [No.923] 85話 疑惑B 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/22(Thu) 17:15:24   31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 窓の外はすっかり暗く、ビルから溢れていた光も消えていき、もうほとんど街を照らしていない。
 時刻はすでに夜の十一時を回り、オフィス街に立つこのビルもほとんど灯りは消えていた。
 今いるフロアだってそうだ。たった一人暗がりの中でパソコンに向かう俺は、解せない疑問と一人戦っていた。
「……くそっ!」
 勢いよく椅子の背もたれにもたれかかると、ギイギイと椅子が悲鳴を上げる。
 長時間デスクワークに向かっていたがために、俺の腰と肩も悲鳴を上げている。
「……帰ろうか」
 いつからだろうか。人とちゃんと向き合うようになってから、どうしてか人肌が恋しくなることがある。
 パソコンに熱中している間は良かったが、ふと興奮が冷めるとこの誰もいない感じがとても辛い。こうして独り言でも言わないと、寂しさが募り積もってどうにかなってしまいそうになる。
 大事な大事なデータが入っているUSBをパソコンから抜き取ると、大事にケースにしまい、鞄の中に放り込む。忘れモノがないか確認してから一人オフィスを出る。エレベーターを待ちながら、いろいろ思索を巡らせる。
 先ほど抜き取ったUSBにはバトルベルトの、平たく言うと設計プログラムのようなものが入っている。
 このプログラムは俺、風見雄大が全て自分が造ったもののはず……だった。
 そう、「だった」。
 知らず知らずのうちに俺の知らないプログラムが含まれていたのだ。
 しかしそれはバトルベルトを良い方向へ働かせるプログラム。同じ社内の仲間に、バトルベルトの設計プログラムを何かいじくったかどうかを尋ねても、皆が皆否定をする。ならば一体誰が?
 このバトルベルトはうちの会社、TECK社と、提携企業のエレクトロマシーンデベロップメントカンパニー、通称EMDCが共同開発を行ったもの。とはいえEMDCはプログラムにはノータッチのはず。念のために尋ねたところ、もちろん答えはNOだった。
 本来のプログラムではポケモン達の3D映像はもっとカクカクしていて、攻撃ワザの発動と同時に起こる爆風などのエフェクトなんてなかった。他にもいろいろ上げればキリがない。いろいろ検証してみたところ、どうやらこれらが害を与えるようなものはなさそうなので仕方なくこの改変されたプログラムを採用していたのだ。
 そしてバトルベルトは世に出、大ヒットとまでは言いにくいが、予想を超える業績を叩き出した。
 PCCのややこざも一段落したところで、再びこのプログラムが一体何なのかを再検証している。だが本当に何が何やらさっぱり分からない。見たこともない関数、並び、数列、条件。本当に誰が一体何のために?
 一階に着き、誰もいなくなった会社を出る。四月二日の土曜日も、あと何十分かで終わってしまう。高校の春休みもあと一週間程度か。ここしばらく翔らとは会えていない。始業式が始まる前に、俺達二年生は入学式に出席しなければならないからそれまでお預けか。
「ん?」
 暗がりの中、人影が一つ突っ立っている。ライトをつけた車の往来によってかろうじて男であるということしか分からなかった。
 別にその男が誰かだなんて特になんだっていい。それよりも早く帰って飯を食べてシャワーを浴びて寝よう。とにかく疲れた。社内で一夜も考えたが、毛布の一枚も持ってきていないので流石に風邪を引きかねないからな。そう考えながら人影を通り抜けようとしたそのときだった。
「雄大」
 俺の名を呼ぶ声に思わず足を止める。
「久しぶりだな雄大」
 いまだ暗い外のせいではっきりと顔は見えないが、この東京で俺の下の名前を呼ぶ人は一人しか知らない。
「……父さん」
「どうだ、食事でもどうだ」



 俺と俺の父、風見 雄平(かざみ ゆうへい)の関わりは親というより知り合いと言っていいほど極めて希薄だ。
 物心ついたときから母、風見 美紀(かざみ みき)と共に北海道の大きな屋敷に住んでいた。そこに父が来ることは基本的に無く、父親というものがどういう存在かを知らなかった。
 父の話も母から聞くことは一切なかった。二人は政略結婚で結婚したらしく、二人の間には恋愛感情だとかそんなものが一切なかったようだ。夫婦ではなく、あくまで営利目的で知り合った他人……と。
 究極の箱入り息子として育った俺は、母から常に英才教育を与えられ、周りのメディアから得られる情報は母から制限されていた。お陰さまで、本当に世間を知らなかった。
 仕方なしで入った義務教育の私立の小中学校は当時一匹狼だったために自ずから孤立していた。俺が周りに干渉しなければ、自然に向こうから干渉しないようになる。当時の俺としてはそれが一番だった。
 痛々しいのだが、当時の俺は周りを見下すことが普通であった。自分以外の人間は俺より劣った不良品でしかない、と。これは母の差別的主義が反映したものだった。もっともその人を見下す性分は翔に負けるまで当分治ることがなかったのだが。
 ところで、そんな俺は中学を卒業するまで父を見たのは四回程度でしかなかった。そのうちまともに会話したのはたった一回だけだ。中学三年生の一月頃だった。たまたま北海道の屋敷にいる母に用事があった父に帰り際直談判しにいったのだ。
 母と専属家庭教師としか会話をまともにしなかった俺だが、父は俺の話をよく聞いてくれた。俺は、母が縛り付けるこの狭い狭い箱庭から出ることを熱望すると、父はそれを一つ返事で了承してくれた。母に隠れて父のいる東京へ俺を連れてくれ、今住んでいるマンションの一室の付与と、平見高校の受験の手続き、さらに俺のプログラミングの腕を買ってくれて、社会勉強も兼ねて俺をTECKに採用してくれたりと至れり尽くせりだった。
 それから俺はいろいろ苦労をしたが、翔たちと出会えていろいろ知ることが出来たし、バトルベルトを作ることも出来た。だが、母からの介入が何もないのが未だ怖い。母の性格なら地の果てまで俺を追いかけるだろう。しかし今のところ、PCCの前に久遠寺が尋ねる以外俺の過去に関する出来事は今のところ何も起きていない。
 何かそれが嫌な予感を醸し出しているようにしか思えないのだ。きっとこの先なにかが起きる。



「ここ、お気に入りの焼肉屋なんだ」
 高級感が溢れる焼肉屋に連れて来られた。さすがの俺でもこの店は聞いたことがある。有名なところで、完全予約制だとかなんとか。奥のお座敷に通された俺たちは、靴を脱いで掘りごたつ席で腰を下ろす。
「どうだ?」
 優しげな表情で父が問いかけてくる。
「どうだって?」
「いや、最近の調子だよ」
「特に……。いや、バトルベルトのことで悩んでいるかな」
「その話なら私も聞いている。どうやら難儀しているようだな」
「ああ……。こんなことをして誰が何の得になるのかが全く検討がつかない」
「そうか」
 店員がやってきて水とおしぼりを渡してくる。父はBコースをオススメだから、と言って俺の分ごと注文する。
「バトルベルトの方も大事だが、高校はどうだ」
「上手くやれてるよ。友人だって出来た」
「そうか。なら良かったよ」
 ぎこちない断片的な会話がその後も続いていく。だいたいは父が俺のことを聞いて、それに対して一言応えるとそうか、とだけ帰ってくるのだ。
 ここまで来ると若干の気まずさが。俺だけでなく、父もそう思っているかもしれない。しかし俺から何か話しかけようとしても何を言えば良いのか分からないのだ。父親との会話とは一体何をすればいいのか。
 無言だったテーブルに肉が運ばれ、網に移していく。肉の焼けるけたたましい音だけがこの一帯を支配する。
「……」
 黙ったまま肉を口に含む。脂身があって、口の中でそんなに噛まなくても自然と溶けていく。ロースとかカルビとか肉の種類とかはよく分からないのだが、とにかくこれが上等で美味しいものなのは分かる。しかしこの沈黙というスパイスは肉の味を盛り下げているファクターだ。
「実はな」
「うん?」
 やっと父の口が開く。しかし、その言葉の次が中々出て来ない。
「お前に……、伝えとかないといけないことがあったんだ。本当はもっと早く伝えたかったんだが使える機会がなかなか無くてな」
 若干眉間に皺を寄せ、重々しく語るその言葉からその伝えることというのがシリアスなモノだろうと察知する。箸を動かすペースが心なしか遅くなる。
「雄大。お前の母親は風見美紀ではない」
「何っ……? どういうことだ」
「お前は私と亡き前妻との間の子供だ。風見美紀は前の妻が亡くなった後に私が政略結婚して出来た妻だ」
「じゃあ俺の本当の母親は……」
「それを語るためには株式会社TECKがどのように立ち上げられた会社かどうかを語るところからだ」
 株式会社TECK。今は名を馳せた機械、電子産業企業。しかし創立する二十年程前は小さな町工場だったということは知っていた。
「TECKは元々町工場だった。っていうのは知ってるか? 私と、大学時代の友人がその町工場を母体として立ち上げた企業だ。そもそもTECKという企業名は立ち上げたときの私を含む仲間四人の頭文字からとっている」
「それと俺の母親の話とどう繋がるんだ?」
「まあ聞け。Tは田中 秀平(たなか しゅうへい)、Eは遠藤 将(えんどう まさる)、Cは千葉 愛華(ちば あいか)、Kが私、風見 雄平(かざみ ゆうへい)だ。お前も知っている名前もあるだろう」
「遠藤将って……」
 俺が北海道で暮らしていた時、常に俺の傍にいた男。やや細身のつり上がった目が特徴だった家庭教師の一人。それが遠藤将だった。あいつの声は今もまだ耳に残る。耳に響く声は、思い返せばすぐにリフレインされる。目を閉じればあの嫌な笑顔が思い浮かぶ。
「TECKの基盤となる町工場が私の親の物であったためにその場の勢いで社長にされた私。そして遠藤、田中、愛華の三人が私を支えてくれた。そしてTECKを立ち上げて二年経った頃、大学時代から恋仲であった私と愛華は結婚し、雄大。お前が産まれた」
「……」
「結婚してから愛華は仕事を辞め、遠藤、田中が私と共にTECKの中心となって会社をより大きくしていった。ただ、結婚してからたった三年、お前がまだ一歳だったころに愛華は事故で亡くなってしまったが……」
「一歳のとき、か……」
 小さい頃の記憶がない俺にとっては、そんな千葉、いや、風見愛華の温もりは知らない。現に今だって、あまり悲しいとかそういったことを感じなかった。むしろ、遠藤の方に引っかかる。
「田中さんなら今でもTECKで役員をしているのは知っているが、遠藤がTECKにいただと?」
 俺の箸を動かす手が完全に止まった。父は一旦間をおいて、頷く。
「そうだ。遠藤は我々を裏切った。開発部のトップにいた遠藤は、遠藤の知っているTECKの情報を全て他の企業に伝えたのだ。EMDCに」
「EMDC……。エレクトロマシーンデベロップメントカンパニーか。だがTECKとEMDCは提携企業では」
 ふいに父が首を動かし辺りを見渡す。俺もつられて周囲を確認するが、特におかしい様子はない。父は俺の方にやや体を傾けて口を開く。
「提携させられているのだ」
 声音を低くしたものの、父が初めて大きく感情をあらわにした。眉間にも大きく皺が寄せられている。
「……何だと?」
「大きい声を出すな。愛華が亡くなって約一年後、お前が二歳の時に恐らくEMDCに大量の金を積まれた遠藤は機密情報を全て漏らしてTECKを辞め、EMDCの役員になった。そしてEMDCから私に、その社長の娘と結婚をするよう迫ってきた。政略結婚だ」
 政略結婚。相手は間違いなく、俺の母。いや、義母の風見美紀だろう。しかし何故政略結婚を申し込んだのだろう。
「雄大、きっとお前は何故EMDCが政略結婚を申し込んだか考えているだろう」
「え、あ、ああ」
 見事なまでに当てられて、動揺せざるを得ない。だが慌てふためく俺と違って父は至って真剣な眼差しだ。
「EMDCの狙いは恐らく……。お前だ、雄大」
「なっ!? どういうことだ?」
 心臓が一気に委縮した。今までより一際緊張が全身に走る。
「俺にもヤツらの詳しい事情までは分からないが、お前が狙いだと言うことは分かる。事実、結婚してすぐにお前の身元は美紀のいる北海道に移され、私が会おうとしても自由に会う機会を失った。そして美紀や遠藤がお前の教育に当たった。本当はもっと前からお前をなんとかして連れ出そうとしていたが、遠藤が常にお前についていたため中々そうもなかったのだ。お前の方から俺に会いに来た時は間違いなくチャンスだと思ったよ」
「ふっ、偶然にも俺達の思惑が一致したってことか」
「ははは、そうなるな」
 ようやく父の顔が緩む。だが、その表情もすぐに曇ったものに変わる。
「EMDCはTECKを買収していない。ということはまだTECKはヤツらの手のひらの上で踊らされる必要があるかもしれない、と考えている。そんなことはさせない。TECKは必ず私が守る。だから雄大、お前は自分自身を守れ」
「俺自身を……守る」
「お前の居場所を向こうが知らないはずはない。TECKもお前も、泳がされている。とりあえず、お前にも既にボディーガードを何人か既に配置している。遠くからお前を見守り、何か危害を加えられればすぐに救援が向かうはずだ。しかし、結局のところ信じ切れるのは自分だけ。既にTECKにEMDCの手の者が何人潜んでいるか分からない」
「信じ切れるのは俺だけ……」
 いや、それは違うぞ。父さん、俺には信頼出来る仲間が、友がいる。父さんにもきっと亡くなったその風見愛華や、俺がいる。人は他人(ひと)を信じたくなってしまうんだ。
 そう言おうと思ったが、口は閉ざしておいた。父さんだって遠藤に裏切られているんだ。こう言っても何にもならない。
「夜も遅いし私がお前を送って行くよ」
「ありがとう。……父さんも気をつけてくれよ」
「私はお前と違って『大人』だ。心配は無用だ」
 ……子どもと大人か。子と親の違いとは一体何なのかは、まだ俺には分からない。
 しかしバトルベルトの謎のプログラムと遠藤らEMDC、不明瞭かつ危険因子が多すぎる。俺はどう立ち向かえばいいのだろうか。
 星の見えない東京の夜、強い風が巻き起こる。



風見「今回のキーカードはチェレンだ。
   シンプルな効果だが、それでいて効果は強力。
   どのデッキにも入りやすく使い勝手がいいぞ」

チェレン サポート
 自分の山札を3枚引く。

 サポートは、自分の番に1枚しか使えない。

───
今回からPCS更新と同時にポケモンカードを解説するコーナー、「ポケモンカードスーパーレクチャー」が開始!
第一回「カードを知る」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/85.html


  [No.934] 86話 能力C 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/29(Thu) 09:24:00   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 何にもやる気の起きない四月六日の水曜日。午後のうららかな春の日射しが舞い込むリビングでただ一人何もせずにボーッとしていた。
 明日は高校の入学式だ。とはいえ俺、奥村翔は二年生になるので新たに入学するわけではないのだが、そうではなく。入学式には在校生として出席しなくてはいけない。
 果てしなくめんどくさい。動くのがめんどくさい。PCCが終わってからは見事に燃えカスのようにうだうだと日々を過ごしていた。
 せめて生活リズムだけは直さなくては。とりあえず立ち上がるところからだ。
「あよっこいしょ!」
 うおん立ち眩み。焦点が定まらない。千鳥足で二歩床を踏みつけると、ようやくいつもの視界が広がる。
 ……立ち上がったはいいけど何しよう。
「おっ?」
 床に裏面になったカードが一枚だけ落ちている。かがんでそれを手に取ってみた。カードを裏返して見ると、なんてことはないただの炎エネルギーだ。なんてことのない、ただのポケモンカードだ。
 そして俺はこのなんてことはないポケモンカードになんてことはない高校生活を変えられていたんだな……。



 よくよく思い返すとほぼ半年前、九月の十日くらいが全ての始まりだった。
 その日たまたま学校に持ち込んだポケモンカード。それを恭介に紹介してるときの俺の、『熱き想いをこめた魂のデッキ』という言葉に反応した風見が、俺にケチをつけて対戦することになった。
 初めての風見との戦い。風見のガブリアスデッキに苦戦していた俺だったが、なんとかゴウカザルの流星パンチで倒すことが出来た。
 だが、それからしばらくして再び風見が俺に挑んできた。風見のデッキは前回対戦したときに俺が使っていたデッキ。
 カードはデッキだけではダメだ、大切なのはカード一枚一枚に込めるハートだということを伝えるために、俺も風見が前回使っていたガブリアスデッキで対戦したことを覚えている。
 そして風見とカードをしていくうちに、恭介や拓哉達も次第にポケモンカードを始めていくようになった。
 そう、拓哉だ。あいつも俺と同じく、いや、俺以上にポケモンカードに運命を変えられているヤツだ。



 一月十日の風見杯。俺は父さんが保証人となっていた借金のカタをつけるために賞金つきのこの大会に出場した。
 予選を勝ち抜き、本戦の駒もどんどん進めていく。そんな俺の目の前に現れたのが藤原拓哉だった。
 普段は穏やかで優しい性格である拓哉なのだが、行く手を立ち塞ぐ拓哉はそんないつもの様子とは百八十度違っていた。
『俺様はお前を許さねぇ』
 あの冷たい声。ゾッとしたことを覚えている。カードを使って普通は考えられないような事を引き起こす能力(ちから)で、あのときの拓哉は人を消し去った。いや、あいつ風に言うと「異次元に幽閉した」、か。
 拓哉は母親と一人暮らしで、切り詰めた生活を送っていた。後で聞いた話だが、公立高校の受験に失敗し私立高校の平見高校にやむなしで来たらしい。しかし学費の高い私立高校に来たことで拓哉の家の家計はどんどん貧困していった。
 にも関わらず俺達のポケモンカードをうらやましく思った拓哉は苦しい家計にも関わらずカードを買い、そしてそれが母親に見つかって怒りを買い、暴力を振るわれた。それがきっかけで拓哉にもう一つの人格と能力が目覚めることになったのだ。
 こればっかしは本人にも責任はあるだろうが、俺にも責任がないことはない。いつも遊んでる仲間たちがカードを始めれば、その仲間たちについていくがためにカードをやり始めようという気になる。事実、蜂谷だってそういう感じでポケモンカードを始めた。
 そのせいもあって、拓哉との対戦は辛かった。ベンチのポケモンに攻撃をして相手を苦しめるベンチキルの戦術に、俺は押され気味だった。なんとかゴウカザルの怒り攻撃で拓哉を撃破したが、倒したと同時に拓哉は意識を失い倒れ、拓哉の能力は無くなった。
 俺にもとてつもない疲労感が圧し掛かって来たのを覚えている。なんとかして次の決勝戦で風見を倒し、風見杯を優勝することが出来た。
 それでも、拓哉(裏)が使っていたあの能力。ずっと一体あれはなんなのかと考えていた。



 その能力とはその約二ヶ月後、三月二十日に開かれたPCC(ポケモンチャレンジカップ)で再び出くわすこととなった。
 バトルベルトという持ち運び式の3D投影機器が誕生し、俺たちのバトルはより進化した。そのバトルベルトを使った初の公式大会。
 全国に数多いる能力者のうち二人が。しかも能力者の中では特別に危険な二人が現れたといい、クリーチャーズの松野さん、そして松野さんの補佐として現れた一之瀬さんが俺たちにその能力者の高津と山本を倒すようお願いをしてきた。
 予選を勝ち抜きトーナメント形式の本戦二回戦で山本と松野さんが対戦した。山本の能力は対戦相手を打ち負かすと、その対戦相手の意識を無くし植物状態とさせてしまう非常に恐ろしい能力だった。
 松野さんは超大型ポケモンであるレジギガスLV.Xを主体としたデッキで山本に立ち向かうも、山本のミュウツーLV.Xのポケボディー、サイコバリアによってダメージを与えれずにそのまま一方的にやられてしまいそうになる。
 それでも松野さんはなんとかデッキ切れを狙って勝利をもぎ取ろうとするも、それを見越されギガバーンを喰らって敗北してしまった。
 松野さんが敗北したことで、風見は大きく取り乱してしまう。普段は慌てることがない風見のあんな様相を見るのは初めてだった。
 そして三回戦、準々決勝では俺と山本、拓哉ともう一人の能力者である高津と対戦することに。
 拓哉の対戦相手である高津はポケモンのワザの衝撃を実際に相手に与えることが出来る、こちらも極めて危険な能力だ。
 闘ポケモン主体の高津に苦戦した拓哉(裏)。特にカイリキーLV.Xの攻撃で一度は意識を失い、左腕を骨折する大怪我を負ってしまうが、拓哉(表)のお陰でなんとかそれをカバーして、最後は高津の能力の特徴。ワザの宣言時に自分の指で指したところにしか衝撃を与えることが出来ないという欠点を利用して自身に受ける肉体的なダメージを防ぎ、ゲンガーのポケパワーで勝利を収めた。
 その一方で俺は山本と対戦した。山本は勝てば勝つほど自身の能力が強まり、その能力が強まる先にはポケモンカードで相手を負かさずとも相手の意識を奪えるようになると言っていた。
 そんなことはさせられない。緊張の糸がピンと貼った試合展開。あらかじめミュウツーLV.Xの恐るべし力をしっていたがために進化ポケモンを温存しようとしていたが、アブソルG LV.X、クレセリアLV.Xによって俺のポケモンは倒され、あとミュウツーLV.Xを倒せればという肝心なときに限ってミュウツーLV.Xを倒すことが出来る進化ポケモンを失ってしまった。
 そして山本が何故力を得るかの過程を知ることになった。山本がどれほど辛かったか、それはきっと俺には知ることが出来ないだろう。でも、だからと言ってそれが他の人を苦しめる理由にはならない。
 進化前がいなくなったと思っていたが、大会前に風見に借りたフライゴンLV.Xでなんとか逆転の道を切り開くことが出来た。やはり二人とも、風見杯の拓哉(裏)のように対戦に負けると能力が失われたらしい。
 続く準決勝では拓哉は怪我のために棄権し、なんと風見を打ち負かした恭介と俺が対戦することになった。……のだが、先の山本のバトルで疲弊した俺は対戦途中に倒れてしまい、棄権。
 偶然もあり、決勝まで進んだ恭介だったが決勝戦では対戦相手の中西さんに一枚上手の戦法をとられ、敗北してしまった。



 いろいろあっても終わってしまえばなんてことはない想い出だ。
 たまにはこうやって振り返ってみるのもいいかもしれない。振り返ることでまた新しい発見が生まれるかもしれないしね。
 この振り返る過程で、やっぱり引っ掛かるのは能力に関することだ。
 一体なんなんだ。今俺たちが知っていることは、能力は基本的にポケモンカードを通して発生し、そして対戦で敗北すると能力は消える。
 能力は負の感情と連動しているようで、負の感情が高まると能力もその力を増す場合があるらしい。山本は対戦に勝てば勝つほど能力はより力を発揮すると言っていた。
 きっとまだこの能力と俺たちは立ち向かわなければならないかもしれない。辛いことがあるかもしれないけど、絶対に負けられない。ポケモンカードは娯楽だ。遊びだ。そんな人を傷つけたり苦しめたりするものじゃあない。
 結局能力とは一体何なのか。……いつかその全貌が明らかになる日が来るのだろうか。




「もしもし、一之瀬です」
『PCC以来だね』
「有瀬さん。何か用でも」
 今の時期は新商品が発売するわけでもなく、仕事は忙しくない。お陰で早めに上がれて今は帰路だ。
 家の最寄駅に着き舗装された道を歩いていると携帯電話が鳴りだし、それに応じると有瀬悠介の声が聞こえた。この男は僕を友人と言っているが、僕からするとどうも得意ではない。
『前々から言っていた「例の件」だが、日にちを決めたから連絡するよ』
「……いつです」
『七月二十四日、日曜日』
「丁度夏休みといった日程ですね」
『この日程の方が私としても楽なのでね。それで、そのための準備がある』
「それを僕に手伝えと」
『素晴らしい察しの良さだ』
 この男は知っている。誰が何をできる力量を持っているのか。有瀬は僕のキャパシティを越すような頼みは決してしてこない。
『君にはWebサイトを作ってもらう』
「Webサイト……」
『来る七月二十四日、「アルセウスジム」主催のポケモンカードの対戦イベント! そのためのWebサイトだ。頼まれてくれるかな』
「……いいですよ」
 どうせ僕に断る術はないのだ。
『そのページを作るにあたっての必要事項はまた後で連絡しよう』
「僕はいいんですけど有瀬さん、そっちはどうなんですか?」
『WW(ダブルダブリュー)のテストは進んでいるよ。ありとあらゆるシチュエーションを試し、欠陥がないかを探っている』
「貴方でも欠陥とかを気にするんですね」
 皮肉のような一言でもあるが、自身が感じた事をそのまま伝えた。この男でも失敗は恐れるのか。向こうは僕の事を知りすぎているが、僕は有瀬のことをどれだけ知っているだろうか。
『ははは。不具合は怖いからね。万全を期す程良いことはない』
「そうだね」
『一之瀬、君にもまだまだ手伝ってもらわなければいけないことがある。なんたって、君は私の友だからね』
「分かっていますよ」
 と、言ってからこちらから通話を切る。君は私の友、だと。どこまで信用すればいいのか。
 しかし有瀬を信用するしか出来ない。事実彼の力は凄まじい。僕には出来ないことを何でもこなして見せる。
 ……全てはポケモンカードのため。今は何も考えずに有瀬から与えられた仕事をこなしていくだけだ。



翔「今回のキーカードはダブル無色エネルギー!
  このカード一枚でなんと二個分の働きをするぞ。
  これで勝負のスピードを上げていこう!」

ダブル無色エネルギー(L1) 特殊エネルギー
 このカードは無色エネルギー2個ぶんとしてはたらく。

───

ポケモンカードスーパーレクチャー第二回「対戦が始まるまで」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/86.html


番外編「お邪魔します」

翔「……」
風見「なあ翔、いちいちパソコンするためだけに俺の家に来なくていいだろ」
翔「だってうちは姉さんが仕事で使うし」
風見「だからといって」
翔「ついでに飯作ってやってるんだから文句言うなよ」
風見「……」
翔(もう黙ったか)


  [No.935] 87話 新たなカードN 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/29(Thu) 09:26:03   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「めんどくせー、四組とか今日休みだぞ?」
「五組と六組と八組も休みらしいな」
 四月七日の木曜日。蜂谷と恭介が春休みなのに入学式の在校生代表として出なくてはいけないことにケチをつけている。
「仕方ないだろ。担任がくじ引いて、うちのクラスが在校生代表で出ることになったんだし。それに卒業式の在校生代表は入学式に出ないクラスが出るし、プラマイは0だろ。先になったか後になったかだけじゃん」
 と、なだめてみたものの恭介は先に出る分損した気分とまたまた文句を言う。
「そういうのを朝三暮四って言うんだ」
 風見が鼻で笑いながらかつ若干のどや顔で恭介に忠告した。春休みは皆それぞれ都合が合わず、集って遊ぶことが出来なかったためこうして喋るのは久しぶりなのだが相変わらずで安心した。
 いや、相変わらずというのもやや違う。拓哉はPCCで左腕を骨折したためにギプスを巻いているのが物凄く目立つ。痛々しく、それを見る度に能力(ちから)の事を考えてしまう。本人は事情を知らない俺と風見以外には適当にいって誤魔化している。
 余談だが、うちの高校は他の高校とは違って学年が変わってもクラス替えは行わない。これはクラスでの結束を高めるためだとからしいのだが、険悪なムードを持つクラスだったら一たまりもないと常々思う。うちのクラスはそんなこともなく極めて穏やか。
「なあなあ、これって昼までだろ?」
 蜂谷が唐突に切りだす。
「入学式終わったら飯食いに行こうぜ」
「どこにだよ」
「それは決めてないけどさ、街に繰り出してさ!」
 ノープランなのは御愛嬌、ってか。何か考えてから言ってもらいたい。っていうか前日に言え。
「俺お金あんまり持ってきてないぞ」
「えー。翔の財布は寒いなあ!」
 所謂オタマロ顔で言う蜂谷に、事実だから言い返せないのが悔しい。が一発殴りたい。殴らせろ。しかしここは堪えてきっと睨みつけておくだけに留めてやろう。
「風見は大丈夫?」
「構わん。行く」
「拓哉は?」
「僕もいいよ」
「で、恭介はどう」
「うーん、行きたいのはやまやまだけど俺今日家族で出かけるからさ」
 どうしたものかとふーっ、と鼻息を鳴らす蜂谷。
「そうだ。定食屋の二割引きチケットあるんだけど翔それ使うか?」
「百六十円くらいで食べれる?」
「絶対無理」
「だよねー。ということで俺もパス、三人で行ってこい」
 俺がお金の貸し借りを、風見杯の頃のこともあってか極端に嫌っているのを知っているので、皆は俺にそういうことを言ってこない。
 そしてまたどうでもいいことを喋っているとようやく校内放送がかかり、在校生は体育館に行けとアナウンスを鳴らした。



 俺が振り返ることでパイプ椅子がギィと悲鳴を上げる。そんなことはどうでもよく、振り返って蜂谷の頭をバチンとボタンを虫を潰すように叩きつけた。
「ちょっかいかけるな!」
「いや、だって」
「だってじゃない!」
 やや興奮気味に喋っているが、式典会場ということなので小声で怒鳴っている。あまり悪目立ちしたくないのに。喋る程度なら他の生徒もいっぱいしているため百歩譲るが、後ろを振り返るのはどうしても目立つ。
 丁度真後ろに座っている蜂谷が、俺がくすぐりに弱いのを知っていながらやってくる。もちろん我慢できるわけもなく大きなリアクションを音とともに上げてしまった。その腹いせに一発。さっきの殴りたかった分も込めたので若干鈍い音が響いた。
 アナウンスが鳴って新入生が体育館の後ろの入り口から入場してくる。新品のぴっちりした制服を着た新入生が顔を強張らせながら入ってくる。
 初々しいなあと思っていると、後ろで蜂谷と、メタボ体系で顔にいわゆるブサイクゆえに逝ケメンというあだ名を付けられた野田 義弘(のだ よしひろ)が新入女子生徒の品定めをしている。左隣りの風見は腕組みして目をつぶっている。寝ているのか。
「お、翔! 向井いたぞ!」
 肩をぱしぱし叩きながら蜂谷が興奮気味に告げる。新入生の歩く花道を見れば、気弱そうな顔が冷や汗でトッピングされて見ていて気の毒だった。そんなに緊張しなくても。
 向井の所属する二組が着席し、三組、四組と続々入場する。そして五組でようやく薫を見つける。向井とは対照的に、落ちついた表情でしっかりと歩いていた。
 薫こっち気づくかな、と思うとちらとこちらを振り向いてくれた。バッチリ目も合い、笑ってくれた。部活に参加してない俺としては数少ない後輩とのつながりである。
 新入生全員が着席し、式典が始まる。新入生在校生起立だの礼だの着席だの、後は校長とか来賓とかの話を聞いたり校歌を歌ったりと無駄に時間を過ごしてちょっと眠ったりもした。
 式典も終わり、新入生と保護者が退場してからは入学式に来ている二年生だけで体育館に並べられた大量の長椅子の片付けを行う。風見と一緒になって長椅子を四つ同時に持っていこうとしたがそれが崩れ、恭介の右足に長椅子が落下して変な声を上げたことしかあんまり覚えていない。
 もう帰っていいと言われたので、締りがないものの俺と恭介は一足お先に帰らせていただくことにした。新一年生は教室に行っていろいろ説明を受けているようなので、待っているとあと一時間はしそうなので今日のところはパスさせてもらう。



 金欠と用事で帰った翔と恭介を除く、俺と拓哉と蜂谷で昼食を取りに行くことになった。校舎を出たのは良いものの、どこに食べに行くかを知らない。
「一体どこに食べに行くんだ?」
「全然決めてないけど、拓哉はどこか食べに行きたいとこある?」
「僕はどこでもいいよ」
 ノープランなのか。予想はしていたが一体どこにいくのか。
「とりあえず駅前まで行ってから考えよう」
 蜂谷の鶴の一声で三人揃って駅に向かう。この学校の辺りは飲食店がほとんどなく、駅前まで七分ほど歩いて行かないとまともなものが食べれない。
 ようやく駅前まで来るものの、結局考えるのがめんどくさいと投げだした蜂谷が目に着いたマクドナルドに入って行った。三人思うように注文する。骨折して片腕しか使えない拓哉のために、俺が拓哉の分と二人分のトレイをテーブルまで運んで行った。
「あー、二年生かあ。全然実感ないなあ」
 蜂谷がポテトを齧りながらぽつりと呟く。それはそうだろう。
「学年が上がってもクラスのメンバーは変わらないしな」
「なんでも受験は団体戦だから結束をうんたらっていう学校の方針だったよね」
「なーんだそれ、新鮮な感じがしないなあ」
 ぶーぶー不平を言う蜂谷だが、何かあったのだろうか。まあ詮索して気まずい空気になるよりは明るい話をしよう。
「新鮮というのならこういうのはどうだ」
 鞄からハーフデッキを三つとりだす。ついでにプレイマットと、ダメカンとコインとマーカーのポケモンカードをプレイするために必要な物一式だ。
「どこがどう新鮮なんだ?」
「ポケモンカードゲームBWだ。今までのポケモンカードとはルールなどが改正され、ある意味新鮮だろう。お前のことだからどうせ知ってないと思ってな」
「失礼な。ルール変わったとか言われても知らないけども」
 食べ終えたトレイを端に除け、プレイマットを広げる。
「対戦しながら説明するのが一番だろう。今用意してあるのははじめてセットという構築済みスターターセットだ。ポカブデッキ、ツタージャデッキ、ミジュマルデッキの三種類がある。好きなのを使って良いぞ」
 夢中でデッキを確認する蜂谷。カードを見ながらほーだのへーだの変な声を一々上げるのだが恥ずかしい。
「ミジュマルデッキにするぜ。ホイーガとかいてかっこよさそうだ」
「どんな基準で決めたんだ。そこはいいか。拓哉、蜂谷の相手をやってやれ」
「え、僕が?」
「折角の機会だし、お前の代わりに俺が手札を持ってプレイする。お前はどのカードを使うかとかの宣言だけしてくれればいい」
「うん。じゃあポカブデッキでやるよ」
 あえて水タイプメインのミジュマルデッキに対して炎タイプメインのポカブデッキにするか。そして対戦をする、となってもいつものようにもう一つの人格の方は出ないようだ。
 隣の席にいる拓哉の補助をするのは若干遠いため、椅子を隣り合わせにして近づく。拓哉からは女性と同じような甘い匂いが。特に長い髪からシャンプーの強い香りがして、どうも近づくのはあまり得意ではないがここは割り切る。
「よし、じゃあデッキをシャッフル。手札を七枚引いて、たねポケモンをセットだ」
 蜂谷がバトル場にポケモンを一匹だけセットしたが、こちらはバトル場に一匹、ベンチに一匹の計二匹をセット。
「続いてサイドを三枚伏せる。スタンダードデッキじゃないから六枚伏せるなよ」
「馬鹿にしすぎ」
 とはいえ蜂谷だし何をしでかすかわからん。初めてポケモンカードのルールを教えたときもモノになるまで大変だった。
「そして伏せたポケモンをオープン」
 蜂谷のポケモンはバオップ70/70。こちらはバトル場にダルマッカ70/70、ベンチにポカブ60/60。
「よし。じゃあ先攻は僕がもらうよ。ドロー!」
 デッキからドローするのは拓哉の役目。ドローしたカードを俺に手渡す。拓哉はうーん、と場と手札を睨みつける。
「まずはダルマッカに炎エネルギーをつける」
 言われた通りカードをつける。ダルマッカは炎エネルギー一つでワザが使えるポケモンだ。この選択に迷いはない。
「さらにグッズカード、モンスターボールを発動。コイントスをしてオモテの場合、自分のデッキからポケモンを一枚に加える。コイントスも代わりにやってくれる?」
「ああ。……オモテ、成功だ」
「じゃあチャオブーを手札に加えるよ。そしてダルマッカで火を吹く攻撃! このワザの基本威力は10だけど、コイントスをしてオモテなら更に10ダメージ追加出来る!」
 コイントスをすると再びオモテ。二連続でオモテを決めて中々幸先がいい。20ダメージ与えたことによってバオップの残りHPは50/70。
「じゃあ俺のターンだな! えーと、まずはバオップに超エネルギーをつける。そしてバオップのワザ、持ってくる! このワザの効果でデッキからカードを一枚ドローする。ターンエンド」
「僕のターン。それじゃあ、シママ(60/60)をベンチに出して、シママに雷エネルギーをつける。さらにポカブをチャオブー(100/100)に進化させてもう一度ダルマッカの火を吹く攻撃!」
 二度目の火を吹く攻撃もコイントスはオモテ。再び20ダメージを喰らい、バオップのHPは更に削られ残り30/70だ。
「まだまだ! 俺のターン! フシデ(70/70)をベンチに出し、フシデに超エネルギーをつける。更に俺もグッズカード、モンスターボールを使うぜ」
 しかしオモテが三回続く拓哉に対し、蜂谷のコインはウラ。ツキの良さが両極端だ。
「くっそ、でも手札の枚数は俺の方が拓哉より多い。バオップのワザ、持ってくるでカードを一枚引いてターンエンドだ」
 確かに拓哉の手札は三枚で、蜂谷の手札は六枚だ。しかし手札だけが全てを決めるわけではない。そのことを教えてやれ。



風見「今回のキーカード、というよりは次回のキーカードになる。
   水タイプの大型ポケモン。ダイケンキだ。
   ロングスピアで敵を丸ごと襲いかかれ!」

ダイケンキ HP140 水 (HS)
無無 ロングスピア  30
 相手のベンチポケモン1匹にも、30ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
水水無 なみのり  80
弱点 雷×2 抵抗力 − にげる 2

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第三回「対戦開始!」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/87.html


番外編「お弁当」

恭介「今日も手作り弁当か?」
翔「はは、当たり前だろ」
恭介「相変わらずだな。……ん? なんで弁当二つもあるんだ?」
翔「ああ、これは風見の分。ほい」
風見「すまんな」
翔「三百円な」
風見「言われなくても分かってる」
恭介(なんだこの商売……)


  [No.936] 88話 プレイT 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/03/29(Thu) 09:27:25   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
88話 プレイT (画像サイズ: 270×382 97kB)

 駅前のマクドナルドでプレイマットを使った拓哉と蜂谷のチュートリアルバトルが行われている。
 左腕骨折のため自由にプレイ出来ない拓哉の代わりに俺が拓哉の腕となっている。
 今の蜂谷の場はバトル場に超エネルギーの一つついたバオップ30/70、ベンチに同じく超エネルギーが一つついたフシデ70/70。拓哉のバトル場には炎エネルギー一つついたダルマッカ70/70、ベンチにチャオブー100/100、シママ60/60。残りのサイドはどちらも三枚。
 どちらも発売されている構築済みデッキを使っているが、蜂谷がダイケンキデッキを選び、拓哉がエンブオーデッキを選んでいるため拓哉の方がやや不利である。
 さらに拓哉はカードをするときいつも出てくる拓哉(裏)ではなく、普段の拓哉のままプレイしている。さて、どういうプレイを見せてくれるか。
「僕のターン。……僕はシママに雷エネルギーをつけ、ダルマッカで火を吹く攻撃。このワザの元々の威力は10に加え、コイントスをしてオモテなら10ダメージ追加する」
 拓哉の右手にコインを乗せるとそれをやや長い親指で高く弾く。パストス(※三回転以上しないコイントスの仕方。回転数が減ってオモテが出やすくなるためやると非常に嫌われる)でない綺麗なコイントスだ。しかし、結果はウラ。ダメージをプラスするには足らずといったところか。だがバオップ20/70に次のターン、火を吹くでオモテを出せば気絶させられる。
「よし。俺のターンだ! ドロー。フシデに手札から超エネルギーをつけ、更にミジュマル(60/60)をベンチに出してもういっちょコロモリ(60/60)もベンチに出す。そしてグッズカード、ポケモン図鑑を発動だ! デッキの上からカードを……ってあれ?」
「どうした?」
「これエラーカード(※表記やフォーマット等が誤っているカードのこと)じゃない? だってポケモン図鑑の効果って『自分の山札のカードを上から二枚見て、どちらか一枚を手札に加える。その後、残りの一枚を、山札の一番下に戻す』って」
「よくそこまで一字一句覚えてるな。でも正しく言うと、お前の言っているポケモン図鑑の正しいカード名は『ポケモン図鑑HANDY910is』であって、今お前が使ったカードは『ポケモン図鑑』だから単純に別物だ。自分の山札を上から五枚見て、好きな順番に入れ替えて山札の上に戻すという効果がポケモン図鑑」
 蜂谷はほぉ、と一つ呟くと、早速デッキの上から五枚を並び替える。
「よし。じゃあバオップのワザ、持ってくる。自分のデッキの一番上をドローする!」
 今ポケモン図鑑で入れ替えたカードをわざわざ手札に加えてきたか。よほど良いカードでもあったのだろうか。
「じゃあ僕の番だね。ドロー」
 拓哉の右手が山札の上に乗り、一番上のカードを引き取る。そのカードを確認したのち、俺が受け取る。左手で手札の持てない拓哉の代わりに俺が手札を持たなければいけないのだ。
「うん。じゃあシママをゼブライカ(90/90)に進化させるよ。そしてダルマッカの火を吹く攻撃」
 高く弾かれたコインは蜂谷の食い散らかしたポテトの容器の隣に落ちて、ポカブ、ミジュマル、ツタージャの三匹が揃ったイラストの面。オモテを上向きにして落ちる。
「火を吹くの効果で威力が10加算されて20ダメージ!」
 早くも蜂谷のバオップが倒される。拓哉は一番手前のサイドを手札に加えると、蜂谷は新たにベンチのフシデ70/70をバトル場に繰り出す。
 今ごく自然にやりとりがなされたが、今まではポケモンが気絶すると、相手が新しいバトルポケモンを選んでからサイドを引くという順番であった。それがBWからは今のようにサイドを引いてから新しくバトルポケモンを出すという順番に変わったのだ。
「ここまで計算済みだぜ! 俺のターン。まずはフシデをホイーガに進化させる!」
 ドローしたばかりの手札、ホイーガをフシデに重ねる。ホイーガ90/90はデッキの中でも強力な部類のポケモンだ。恐らく計算済みというのは、ポケモン図鑑でホイーガをドロー出来るようにデッキの順番を入れ替え、バオップが倒されたことでスムーズにフシデをバトル場に持ち出すということか。
「ホイーガに水エネルギーをつける。さらに、ベンチのミジュマルをフタチマル(90/90)に進化させてホイーガで攻撃だ。転がる!」
 転がるは超無無のエネルギー三つで行えるワザ。効果はない一般的なワザだが威力は50。この威力ではダルマッカ20/70には致命傷となる。
「よっしゃあ! ここから逆転していくぜ」
 早くもガッツポーズを繰り広げ目と口を釣りあげる満面のどや顔を披露する。友人間でやってるからいいものの、イベント会場などで知らない人にそれをすれば嫌がれること間違いなし。
「僕のターン。僕は、手札の炎エネルギーをベンチのゼブライカにつける。そして新たにベンチにバッフロンを出すよ」
 たねポケモンでHPが90/90もあるバッフロンは、壁としても戦力としても有力だ。さあどう戦う。
「ダルマッカで火を吹く攻撃! ……ウラなので10ダメージだ」
 たった10ダメージではホイーガ80/90には無傷も同然だ。その程度で一体どうになる。
「へっ、俺のターン。俺はフタチマルに水エネルギーをつける。そしてホイーガの転がる攻撃! これでダルマッカ、ようやく気絶だぜ!」
 まさにようやく。ポケモン一匹気絶させるのに十ターンは流石に時間のかかりすぎだろう。蜂谷がサイドを一枚引くと、拓哉はずっと温存していたゼブライカをバトル場に出す。蜂谷がホイーガを用意していたのと同じシチュエーションだな。
「いくよ、僕のターン。まず、手札の雷エネルギーをチャオブーにつける。そしてゼブライカで攻撃、ワイルドボルト!」
 ワイルドボルトは雷雷無と、ホイーガの転がるよりも条件が厳しいために威力が70と高めだ。その反面自身にも反動として10ダメージを受けてしまう。これでホイーガの残りHPは10/90、ゼブライカ80/90となる。先の拓哉のターンにダルマッカの火を吹くでオモテを出していればホイーガを気絶させれていた。ここは拓哉の運が悪かったと言うより蜂谷の運が良かったと言うべきか。
「俺のターン、ドロー! お、いいカードが来たぜ。フタチマルに超エネルギーをつけ、グッズカードのモンスターボールを発動。コイントスをしてオモテならばデッキの好きなポケモン一枚を手札に加える!」
 引いたカードがいいカードといいながらその隣のカードをプレイした。いいカードとやらはこの後来るか。
「グッズカード、エネルギー付け替えを発動だ。自分のポケモンについているエネルギーを一つ選び、別のポケモンに付けかえさせる。俺はホイーガの水エネルギーをフタチマルに付け替える!」
 いいカードとやらがこれのようだ。果たしてこのプレイングが後にどう影響するのか。恐らく、返しのターンでホイーガを気絶させられることを読んでのことだろうが。
「ホイーガで毒針攻撃! このワザの威力は20だけだが、相手を毒にする!」
 ゼブライカにダメカン二つと毒マーカーを乗せる。このダメージを受けてもゼブライカ60/90のHPはまだまだ余裕だが、そう余裕をもってはいられない。毒の影響でじわじわとそのHPは削られる。
「蜂谷の番が終わったことでポケモンチェックに入り、毒の処理を行う。ゼブライカにダメカンを一つ乗せるぞ」
 更にダメージを受けゼブライカ50/90は残りHPがほとんど半分だ。ポケモンチェックの度に10ダメージを受けるのは微々たるように思えるかもしれないが、実際にはその数値以上に苦戦することになる。塵も積もれば山となる、10ダメージが継続的に重なるのは痛い。
「僕のターン。僕はゼブライカについている炎エネルギーをトラッシュしてゼブライカを逃がし、新たにチャオブーをバトル場に出す。そしてグッズカードを使うよ。エネルギー回収! エネルギー回収の効果でトラッシュにある基本エネルギーを二枚まで手札に戻す。僕は炎エネルギー二枚を回収する」
 ゼブライカがベンチに戻ったことで毒状態から解放される。そしてエネルギー回収で戻したのはダルマッカについていた炎エネルギーと、今逃げることでトラッシュした炎エネルギーの二枚だな。手札にエネルギーがないこの状況でこのカードを引き当てれたのは運が良い。
「チャオブーに炎エネルギーをつけてもう一枚グッズカード、きずぐすりを使うよ。この効果でベンチのゼブライカのHPを30回復させる!」
「は!? ちょ、待った待った!」
 急に声を上げて慌てる蜂谷。その反動で椅子を大きく後ろに引き、軽く立ちあがっている。今のどこに何があった。
「きずぐすりの効果って『自分のポケモン1匹から、ダメージカウンターを2個とる』じゃないの? もしかしてそれこそエラーカードじゃあ」
 なんだ、その程度のことか。というよりさっきからだがよくもテキストを正確に覚えているな。
「そういうことか。エラーカードじゃなくエラッタだ」
 蜂谷が首を傾げる。若干キモイ。
「エラッタとは、カードのテキストが変更されることだ。今お前が上げたのが『昔のきずぐすり』の効果であって、ポケモンカードBWから『新しくなったポケモン図鑑』の効果にならう必要がある。新しくなったきずぐすりの効果は『自分のポケモン1匹のHPを「30」回復する』」
「ほえー。カードの効果って変わるのね。じゃあ昔のポケモン図鑑は使えなくなるのか」
「いや、使えなくなることはない。ただし、使用カードが旧テキストであってもエラッタ後のテキストとしてカードを使用しなければならない。きずぐすりだけでなく、ふしぎなアメ、スーパーボール、プラスパワーもエラッタされてあるぞ」
「どんな風に変わったのさ」
「長くなるが……。ふしぎなアメは、最初の自分の番に使えず、その番に出したばかりのポケモンや、たねポケモンを1進化ポケモンに進化させることが出来なくなった。前の番から出していたたねポケモンを2進化ポケモンに進化させるカードになる。そしてプラスパワーは自分のポケモンのワザのダメージを+10する効果に変更し、今までのようにどのポケモンに使うかが選べなくなった。また、使うとポケモンにつける処理を行わず、すぐにトラッシュする。そしてスーパーボールは効果が大きく変わり、『自分の山札の上から七枚見る。その中からポケモンを1枚選び、相手に見せてから、手札に加えてよい。残りのカードは山札にもどし、山札を切る』というものに変わった」
 ほうほう、と蜂谷は頷くが、本当に分かっているかは甚だ疑問だ。とにかくこれでゼブライカのHPは80/90とほぼ全快した。
「続けていい?」
「あ、ああ。すまんな」
「僕はチャオブーのワザ、ニトロチャージを使うよ。この効果で自分のデッキの炎エネルギー一枚をこのチャオブーにつける」
 エネ加速を促すワザだ。チャオブーの進化系、エンブオーは必要なエネルギーは多いが一撃が非常に大きい重量級ポケモン。今のうちに準備をしておくといったところか。
「俺のターンだ。くっそ、計算狂ったなあ。じゃあ、ホイーガに超エネルギーをつけて転がる攻撃!」
 あえてホイーガを倒さなかったのは蜂谷の狙いを外させる意味もあったのか。柔和で臆病な雰囲気とは反して、拓哉(裏)のように案外策士のようだ。だが、転がるを受けてチャオブー50/100のHPは大きく削られてしまった。さあどうする。
「僕のターン、まずはポカブ(60/60)をベンチに出す。続いてグッズカードのモンスターボールを使うよ」
 コイントスの結果はウラ。よって効果の発動はなし。だが特にこのモンスターボールは発動する必要はないカードであっただろう。何せ手札には既にエンブオー100/150がいる。
「チャオブーをエンブオーに進化させ、エンブオーに炎エネルギーをつける。そしてエンブオーでバトル! ヒートスタンプ!」
 ヒートスタンプの威力は50。残りHPが10/90だったホイーガにトドメの一撃が刺さる。手札を全て消費してしまったが、今サイドを引くことで希少な手札を得た。残りのサイドはこれで一枚。そして蜂谷はフタチマル90/90をバトル場に出す。単純だが炎に水、懸命な判断だ。
 しかしフタチマルの持つ一番威力の高いワザのシェルブレードの威力は40+。コイントスをしてオモテなら20ダメージ追加できる。さらにエンブオーの弱点をつけることで、最大(40+20)×2=120ダメージを与えれる。その場合残りHPが100/150のエンブオーを気絶させることが出来るが、ウラが出てしまうとエンブオーのHPを削りきれない。
 そして返しの拓哉のターンでエンブオーのフレアドライブ。炎炎無無と厳しく、さらに攻撃後にエンブオーの炎エネルギーを全てトラッシュしなければならないワザだが威力はなんと150もある。それを決めてしまえばHP90のフタチマルは気絶して拓哉の圧勝となる。二分の一の運だめしになるか……?
「楽しくなるのはここからだぜ! 俺のターン! ドォロー!」
 気合いの入ったドローの動作の後、ニヤリと笑みを浮かべながら引いたカードを手札に加える。何かする気か。
「ベンチのフタチマルをダイケンキに進化!」
「進化だと!」
 今加えたカードをフタチマルに重ねる。ダイケンキ140/140はデッキに一枚だけしか入っておらず、ドローする時点で蜂谷のデッキは十枚、サイドは二枚。十二分の一の確率をここぞというタイミングで引き当てたのか……。
「ダイケンキで攻撃。ロングス……いや! いや、ちょっと待った」
「今度は何だ何だ」
 また待ったか、と蜂谷に対しやや呆れ気味に言い放つ。
「ロングスピアで拓哉のベンチのポカブを攻撃したら弱点計算するよな?」
 今蜂谷が言ったロングスピアとは、無無で打てる威力30のワザ。このワザの効果でベンチポケモン一匹にも30ダメージを与えることが出来、今言ったようにポカブ60/60の弱点を突ければ30×2=60で気絶させることが出来る。のだが。
「はぁ、カードのテキストをよく読め。ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしないとしっかり書いているだろ」
「うおっ、本当だ。危ない危ない。じゃあ波乗り攻撃!」
 波乗りの威力は80。効果はなく水水無とエネルギー三つで打てる中々の威力を持つワザだ。さらにエンブオーの弱点は水×2なので、実際に受けるダメージは160。蜂谷はこれで拓哉のエースポケモンを一撃で倒してしまった。しかもダイケンキ140/140にはHPに余裕がある。
「サイドを一枚引く。これで互いに残り一枚だ!」
「じゃあ僕はゼブライカ(80/90)をバトル場に出すよ」
「え、ゼブライカとかいたの!?」
 ここまでの逆転劇は見事なものだった、と言いたかったがどちらにしろゼブライカがベンチに残っていた時点で蜂谷は詰んでいた。
「僕のターン、炎エネルギーをゼブライカにつけて」
「ちょちょちょ、タイム! ちょっと待った!」
「待ちません! ゼブライカで攻撃、ワイルドボルト!」
 ゼブライカ自身にもワザの反動で10ダメージを受けるが、雷タイプが弱点のダイケンキ140/140は70×2=140のダメージを受けなくてはいけない。ゼブライカの上にダメカンを大量にばらまくと、拓哉は最後のサイドを引いた。
「終わりだな。と、まあこんな感じだ。中々良かっただろう」
「自分のデッキじゃなくて構築済みデッキだったけど思ったより楽しめたねー」
 すぐ真横で首を少しだけ傾けながら拓哉が満面の笑みを浮かべる。……どうも俺は拓哉は苦手のようだ。
「上手いプレイングだったな。元々相性的に不利なデッキだったが余裕を持って勝てたじゃないか」
「えへへ、これくらいは余裕だよ!」
 カードセットを片付けて鞄を直し、鞄を担いでゴミを乗せたトレイを拓哉の分も持って立ちあがる。いつまでもうなだれる蜂谷をあごで動かし、トレイを片付け店を出る。
 春の気持ちいい風が流れる街へ再び三人で繰り出す。



風見「今回のキーカードはエンブオーだ。
   エネルギーのロスは多いが、
   フレアドライブの威力は目を見張るものがある」

エンブオー HP150 炎 (HS)
炎無無 ヒートスタンプ  50
炎炎無無 フレアドライブ  150
 このポケモンについている炎エネルギーをすべてトラッシュする。
弱点 水×2 抵抗力 − にげる 4

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第四回「ポケモンを気絶」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/88.html

番外編「いただきます」

風見「いただきます」
松野「……風見君いくら自分の自炊能力がないからって人の家に上がってきてご飯作ってくださいはないよねー」
風見「……」
松野「まあまだ毎日来るわけじゃなくて週一だし、おいしそうに食べるからいいんだけど」
風見「すみません」
松野(それにしても食事作法だけはやけにいいのよねえ。どれだけ食べ専なのよ)


  [No.967] 89話 新天地へM 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:48:35   26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「風見ってトラック運転出来る?」
「馬鹿言え」
「じゃあトラック運転出来る人知ってる?」
「馬鹿言え」
「馬鹿言ってねえよ」
 四月十三日の水曜日、始業式も二日前に終わって健康診断もさっき終わって、そして今は委員会の役員決めを執り行うホームルームの真っ最中だ。俺は委員会とかは遠慮してさっさと数学係、いわゆる数学の教師のパシリに就任した。ちなみに風見とは席が隣同士であって、横で喋っている最中なのだ。
「第一に翔、どうしていきなりそんなことを言いだすんだ」
「土日辺りに引っ越しするんだけどさ、業者に頼むよりも自力で何とか出来たら金銭的になあって」
「引っ越しだと?」
「あ、うん。けどもそんな遠くないし、電車二駅くらいの距離」
「なるほどな。トラック運転出来る人を呼んだところで、翔と雫さんと運転出来る人の三人だけじゃあ流石に無理だろう」
「えっ、もちろん風見も手伝うでしょ?」
 一瞬ぴくりと風見の眉が動いたのを見逃さなかった。
「いや、俺はまだ何も」
「えっ?」
「だからだな、俺は」
「風見が手伝うのはもう揺るぎない真実だしあとは恭介、蜂谷、拓哉とあと向井とかその辺呼べばまあ十分になるんじゃないかな」
「ちょっと待てまだ俺はなんとも」
「あー、八人いれば十分かー。っていうか八人いないときついなー。八人いないと無理だよなー引っ越しとかどう考えても」
「……手伝えばいいんだろう?」
 ヤケクソ気味に風見が言い放ったが、思う以上に簡単に承諾してくれた。心の中でガッツポーズ十回ぐらいした。
 恭介と蜂谷は二回くらいゴリ押しすればあいつらだし首を縦に振るし、拓哉もなんとかなるでしょう。向井も……まあなんとかしてしまいましょう。問題はトラック運転出来る人が確保できるかどうかだなあ。
 そしてまだ風見にする用事がもう一個だけある。
「うん?」
 思いっきり眉をひそめて風見の右腋を凝視する。
「どうした翔」
「いや、風見の右腋の辺りに何かついてるなって。ちょっと右手あげてみてくんない?」
「ああ」
 そうやって風見が右手を高く持ち上げると。
「それじゃあ文化委員は風見君で」
 教壇に立っていた委員長がそう言って黒板に名前を書き始めた。ちょうど文化委員の立候補を集っている時に風見が手を上げた、いや、上げさせたので周りは勘違いしたのだ。というよりさせたのだ。
 一瞬状況整理に戸惑った風見がその意味をようやっと理解した瞬間、騒ぎ立てないように口を塞ぐ。もごもご大声で言ってる間に風見が文化委員という方向で進んでしまい、体育委員の立候補を集い始めた。
「暴れるな風見、運命を受け入れろ」
 そう言ってようやく塞いでいた風見の口を放してやる。怪訝な顔をされたが仕方ないだろう。一方で蜂谷が体育委員に立候補し、これで全委員が確定した。
「くっ、さっきから!」
「でもさ、チャンスじゃん」
「チャンスだと?」
「去年はあんな感じ(ファーストバトル編辺り)でまともに学校行事参加してなかったんだからさ、今年くらいは積極的に参加するとやっぱ良い思い出になるんじゃないかなって」
 なるほどな、と、風見は右手を顎にあてて考え始めた。思ったよりも乗せられやすいな。
 実のところは去年風見が文化祭への取り組みを一切しなかったがために、俺に雑用が大量に回ってきたことに対する腹いせである。せいぜい今年は苦労してください。
 担任がいろいろプリントを配布して、それの説明があり、それらを終わると下校になる。部活のある蜂谷と恭介には引っ越しの件をまた後で言うとして、とりあえずまずは拓哉に……。



「ははは、風見くんも大変だね」
「笑わないで下さいよ」
 学校が早く終わってその午後に、ちょっと洒落たカフェで俺と一之瀬さん、男二人で談笑する。本来は仕事の話なのだが一之瀬さんと会話をするとよくペースが乱されてしまう。なんというか、掴みどころのない不思議な人だ。
 それでいて実力もある。実力といっても仕事の方ではなくポケモンカードのことを指す。かつての世界大会優勝者とは名ばかりではない。PCCの後にたまたま対戦する機会があり、互いにサンプルデッキとはいえ完膚なきまでにやられたのはしっかり覚えている。
 この人の表情の裏が読めない。裏があるのかさえも読めない。今まで出会った人の中ではトップクラスの怖さをもっている。そして出会う度身構えている。しかしそれでも彼のペースに巻き込まれ、談笑したりしてしまう。
「忘れないうちに渡しておくよ」
 USBメモリが俺の手にしっかりと手渡されたのを確認してから鞄の中に大事にしまいこむ。このメモリの中にはバトルベルトにアップデートする新しいカードの情報が記載されており、これをTECKにあるマザーコンピューターに使うと、全てのバトルベルトの情報が更新されて新しいカードに対応するようになる。
 今回の更新でバトルベルトにはカードの情報だけでなく、バトルベルト自体の仕様も若干変更する。いわゆるちょっとしたバージョンアップ、バトルベルトVer1.37と言ったところだ。
「ところで」
「ん? どうしたの?」
 今日の昼にあったことを思い返すとわざわざ聞いてやるのもためらうが、助け合うのが友というものだろう。
「一之瀬さんはトラック運転出来ます?」



「絶対に落とすなよ! 絶対だぞ! それダチョウ倶楽部だからとかいって本気で落とすなよ! せーの!」
 俺と向井と蜂谷と恭介の四人で横に倒し、梱包材で包んだ冷蔵庫を運び出す。ボロアパートとはいえ二階なので、この重たい冷蔵庫を運びながら四人で階段を通らなければならない。
 一階では風見がスカウトしてくれた一之瀬さんがトラックを構えて用意してくれてる。なんと休日を返上してまで一之瀬さんはわざわざ来てくれた。本当に感謝。そして梱包材やダンボールは姉さんの友人が引っ越し業者らしいのでそこから徴収したらしい。
 本日四月十七日、日曜日の丁度お昼頃だった。拓哉と向井と一之瀬さんを除いた三人は文句を言いながらもきちんと仕事をしてくれる。
「くっそ、さっきまで部活あったんだぞこれ重てー!」
 と、愚痴を言いながら運んでいるように恭介に至っては午前にバスケ部の練習をした後に来てるので結構ごねている。こういう重いものを動かせそうな肉体派が俺ら四人と一之瀬さんしかいないので、殺生だが恭介の働きには期待してます。一方非力組の残りの姉さん、風見、拓哉は家で小物類をダンボールにまとめている。
「せーの!」
 掛け声をあげて冷蔵庫をトラックに乗せる。一仕事終わると恭介はぺたんと地べたに座り込み、額をぬぐう。蜂谷は軍手を外して手をぷらぷらさせながら休憩。
「次はテレビ動かすぞー。三人のうち一人来てくれ」
「あ、僕行きます」
 へこたれてる恭介と蜂谷をよそに、向井が自ずと立候補してくれる。本当に優しいいい子です。
 一之瀬さんは大型トラックの免許を持っていたので非常に助かります。当のトラックはレンタルしたものだが、いやあ本当に人脈は持つべきものです。
 一之瀬さん自身はPCCでいろいろ迷惑をかけたから、と好意的に手伝いに来てくれた。風見ら三人もこれくらいの好意を持ってほしい。まあ来てくれてるだけ十分かな。
 俺と向井と一之瀬さんで再び家に荷物をとりに階段を上ろうとしたとき、ふいに上の階から人が降りてきた。
 眼鏡をかけた小奇麗な顔立ちの男だ。こんな人このアパートに住んでいただろうか。すれ違うまでその男は薄く笑いながら俺をひたすら凝視していた。何か、その視線に嫌な予感を感じる。そしてこういう勘に限ってよく当たってしまうのだろう。
 出来るだけ今の男のことを忘れようと頭を横に振って、歩みを続ける。本当に今の感じはなんだったのだろうか。しばらくあの顔が頭の中に残り続ける……。
 それから一時間すれば、荷物は全てトラックに詰まった。元々荷物の多い家ではないのでそんなに苦戦することはないのだ。
 トラックには一之瀬さんと、新居までのガイドをするために姉さんが乗り込み、残りの男五人は電車で俺が引率した。
 引っ越し先も前と同じくアパートだが、向こうは築三十年以上してるのに対しこちらは築三年。家賃も上がり家も若干小さくなったが交通の便は何よりよくなった。
 というよりも姉さんが働いているEMDCまでは新居の最寄駅から電車一本で乗り換えずに済む、というエゴな理由で引っ越しすることになったのであって、お陰で俺は自転車通学可能な距離だったのに電車通学にさせられるハメになった。
 白塗りの新アパートの前では既にトラックが来ており、一之瀬さんが手を振って俺たちを待っていてくれた。そしてもう一人俺たちを待っている人がいた。
「翔! 皆!」
 黒いジャージを羽織った薫もこちらに向かって手を振っていた。
「向井から連絡あって来たの。どーして呼んでくれなかったの?」
 若干怒ったように言ってくる。まさかこんなことになるとは。
「いや、手伝わせたら悪いなと思って」
 一応は本当のことである。予想通り、後ろから恭介と蜂谷がじゃあ俺らはなんなんだとまたもやぶーぶー言い始める。
「まあでも来ちゃったし手伝わせてよ。これでも体力は向井よりはあるつもりだし」
「僕が言うのもなんだけどあながち間違ってないしね」
 向井がはにかみながら人差し指でこめかみをポリポリかく。なるほど、確かに半年前の薫を思い返すとそれも十分頷ける。これを本人に言うとそれもそれで怒り出すのだが。
 それにしても結局はいつものメンバーが揃ってしまったじゃないか。それもそれでもちろん結構。
「よし、第二ラウンド始めるぞ!」
 ここまできたら蜂谷と恭介も文句を言わなくなった。先に上に上がっていた姉さんの的確な指示で、運ばれた家具がどんどん並べられていく。
 すっかり辺りも暗くなり、お腹の虫も鳴き始めた頃ようやくトラックの中身を全て新居に持ち運んだ。まだダンボールが壁際に鎮座しているものの、とりあえず残りは俺ら姉弟でやるために手伝ってもらうことはこれで終わりだ。
「今日はほんとにありがとな。一応お礼としてはなんだけど引っ越し蕎麦でも食べてくか?」
「待ってました!」
「マジ腹減ってどうにかなりそう」
「俺もだな」
「風見そんな重労働してないだろ」
「そういう恭介もしょっちゅう休んでいただろう」
「はいはい、喧嘩しないの。今から作るけど蕎麦がダメな人とかいる? ……いないならよし! じゃあちょっとの間待っててね」
「あ! あたしも手伝います」
 姉さんの後に続いて薫も台所に駆けていく。九人分のお蕎麦を用意するのは大変だろうな、と他人事に思う。
 ちょっと待っているとお蕎麦が出来た。そもそもうつは俺と姉さんの二人暮らしなので小さなテーブルしかなく、どう囲んでも四人が限界なので後輩二人と姉さんと一之瀬さんがテーブルを囲み、残り五人が床にあぐらをかきながら食べることになる。
 冷えたお蕎麦がおいしくて、とても心地いい。皆が皆談笑しているときにふと、一之瀬さんが何かを思い出したように大きな声を上げる。
「そうそう。皆に知らせたいことがあるんだ」
 と言うと、鞄から一枚の紙を取り出す。
「まだ三カ月くらい先の話だけど、七月にアルセウスジムっていうポケモンカードの非公式団体が大会を開くんだ。それに僕と松野さんが出ようと思うんだけど皆もどうかい?」
「えー、二人も出るんですか? ちゃんと仕事してくださいよ」
 そう恭介が文句を言うのも頷ける。あんたらはカードを開発したりしてるとこで働いてるのに。
「あはは、まあそう言わずに。実を言うと僕の友人が開催しているんだ、そいつのイベントの成功のために手伝ってやってくれないかな」
 一之瀬さんが苦笑いを浮かべながら頭をかく。なるほど、そういう事情があるのか。
「俺はこの日に何か用事がなければ行ってもいいかな」
「翔が言うなら俺も行こう」
「俺も俺も」
 俺が引き金となって恭介、蜂谷、拓哉、姉さん、向井、薫も参加を表明する。しかし風見だけは何も言ってこない。
「風見はどうするの?」
「ああ……。考えておくよ」
 今日のことで相当迷惑をかけたために無理やり参加させるわけにもいかないが、やはり風見という刺激的なライバルが来ないと面白くないだろう。そして風見の乗らない一言のせいで場が少しだけ凍りつく。
「そ、そういえばさ───」
 なんとか俺が話のきっかけを作りだすと、その後もしばらくはどうでもいい話を繰り返し、ようやく九時には皆が帰った。
 アルセウスジム……。そんな団体聞いたことはないが、面白いことにはなりそうだ。
 公式大会は冬から春にかけて地方予選、そして初夏に全国大会があってその一カ月か二が月後には世界大会となる。地方大会で終わってしまった俺にとっては半年後の地方予選へのいい調整、腕試しになる。折角誘ってくれたんだ。参加するに限るだろう。今度こそ、ポケモンカードを純粋に楽しめるはずだ……。



翔「今日のキーカードはふしぎなアメ!
  エラッタして使いにくくはなったけど、
  それでも二進化デッキからは外せないカードだぜ」

ふしぎなアメ グッズ
 自分の「たね」ポケモン1匹から進化する「1進化」の上の「2進化」ポケモンを、手札から1枚選び、その「たね」ポケモンの上にのせて進化させる。
 [最初の自分の番と、この番出したばかりの「たね」ポケモンには使えない。]

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第五回「特殊状態を扱え」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/89.html

───
番外編「あれは凶器」

翔「いつつ……」
蜂谷「あれ、足でも怪我したのか?」
翔「朝の満員電車でヒールに踏まれて足が」
蜂谷「うわあそれは痛いな。チャリ通で良かった」
翔「いやもうアレはほんとヤバいって! 凶器凶器」
蜂谷「キラーマシン2。いや、キラーマジンガくらいヤバいよな」
翔「なんだその喩え」
風見「……」
翔「おはよ。って足痛そうだけど大丈夫か?」
風見「大丈夫とは言い難い。朝の電車でヒールの踵にやられてな」
翔「お前も!?」
蜂谷「まあ爪がエグいことになってたり指が動かなくなったりしなければ大丈夫っしょ」
風見「ああ。にしてもあれは凶器だな。キラーマシン2。いや、キラーマジンガくらい」
翔「流行ってんの!?」
恭介「いたたた」
蜂谷「うぃっす。足どした」
恭介「ヒールにやられて」
翔「お前チャリ通じゃん!」


  [No.968] 90話 プライスマッチP 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:49:24   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「どうした文化委員」
「うわっ、翔か。掃除はどうした」
「さっき終わった」
 ホームルームが終わってから掃除が終わるまで、風見は教室の隅に貼られていたちらしをさっきからずっと眺めていた。なんのちらしかと思えば……。
「なんだこれ、次世代型光学機器の講演?」
「ああ。五月にあるんだが非常に興味深くてな」
「ふーん。さっきホームルームに先生がちょっとだけ言ってたやつか」
「翔も一緒にどうだ?」
 誘う相手が完全に間違っているぞ。
「お断る。俺は楽しくなさそう」
「それをお断る。こないだから引っ越しだの文化委員だのさせといてそれはフィフティフィフティじゃあないだろう?」
 引っ越しから二日経ったのに結構根に持ってやがる。意外と執心深いのね。
「フィフティフィフティって、引っ越し蕎麦おごったぞ」
「雫さんが作ったのであって翔は俺たちと喋っていただろう。それに蕎麦を勘定に入れても文化委員の分がだな」
 結構頑固だ。でもまあ、正直なところ俺としても風見には悪い気が非常にするので別に一日付き合うくらいはいいかな。
「分かったよ、一緒に行くから」
「言ったな? 後々適当に誤魔化すなよ」
「信用ないな、そんなに言われなくてもちゃんと行くって」
 ふと教室の扉が開いて蜂谷が現れる。俺を見つけるとおいでおいでのジェスチャーを取る。
「翔、行くぞ!」
「ごめんごめんすぐ行く。それじゃあな!」
「ああ」
 名残惜しいが風見と別れ、蜂谷に連いていくように教室を出る。



「へえ、喧嘩別れなの?」
「そーいう感じらしいぜ?」
 蜂谷のやや古臭い自転車に、俺と蜂谷で二人乗り。今はもっぱら恭介が付き合ってた長谷部百合と別れたという話について語っていた。
 今回の向かい先はかーどひーろー。いつもなら俺も自転車で行けたのだが引っ越して電車通学になったために蜂谷の自転車の後ろに乗っている。超ケツ痛い。
「まあでもこれで長谷部さんと接点なくなるんだなー」
「良い匂いだったよなー。ってか翔には薫ちゃんいるじゃん」
「まあそうだけど」
「健気で可愛いよね」
「えへへ。ってうおおお自転車揺らすな! 落ちる落ちる!」
 このシスコンめ、危ないことしやがる。そう言うとまた自転車を揺らして本当に事故りそうなので出かけた言葉を再び飲み込む。げぷ。
「っていうか折角着いてきてやってるのに落とそうとするなよな」
 そこの信号を渡り交差点の角を曲がればかーどひーろーが見えてくる。また落とされたらひとたまりもないので信号待ちの間に勝手に降りる。
 バツの悪そうな顔をした蜂谷だが、信号が青になると蜂谷も自転車を降りて俺の歩幅と合わせてくれる。
「そもそも俺呼ぶ必要あった?」
「いや、あんまりない」
 今日の朝にいきなりかーどひーろー一緒に行こうぜと蜂谷に誘われた。特に断る理由もないので着いてきたが、なんだ。ただ一人で行くのが嫌なだけなのか。
 蜂谷が自転車を停め、二人で店に入る。
「あ、いらっしゃい」
「ちわっす」
 無愛想な店主は相変わらずだが、店員は非常に愛想がいい。二、三週間前くらいに入ったようで、佐藤春菜(さとう はるな)という大学生のバイトの人。無愛想店長の姪のようだ。元気なショートカットが特徴で、かーどひーろーとロゴの描かれた青いエプロンが似合ってる。
 今日は店にほとんど人がおらず、客は俺たちと知らない二人。休日祝日といった人の多い日は、店を歩きまわるのが大変だということがしばしばあるので今日は羽を伸ばし放題だ。
「翔、これ安くない?」
「前より値段下がってるね」
 カード屋のカードは相場によって値段が変動するので店に着くまで値段が分からないことがある。高くなるもの、安くなるもの、その基準は手に入れにくさと強さで決まる。言わなくても普通に考えれば分かることだ。
「あー、本命は値段下がってないな……」
 蜂谷がショーケースを見つめながら絶望の表情を浮かべる。
「何欲しいのさ」
「あれだよあれ」
 アララギ博士のことか。確かに、高いのは高い。七百円はいくらなんでも厳しい。食堂でラーメンが二杯半くらいは食べれる。
「佐藤さん、これ値下げ出来ないかな」
 蜂谷は佐藤さんを呼びつけて、値下げ交渉をし始める。もししてもらってもどうせ百円減ったら関の山だろうし、そんなに変わらないんじゃないかな。
「え、どれのこと?」
「このアララギ博士、半額に出来ません?」
 いやいや、半額は流石に無理だろ。
「半額はいくらなんでも無理よ。そもそも値下げ自体ねえ」
 案の定佐藤さんは小さくため息をつく。
「どうかお願いします!」
 両手を合わせて腰を折る蜂谷だが、どう考えても無謀すぎる。佐藤さんも困った顔をして可哀そうだ。
「じゃ、じゃポケモンカードで俺が勝ったら半額に!」
 もはや意味が分からない。デュエル脳か。佐藤さんは苦笑いを続けるも、お願いします、お願いしますと五月蠅い蜂谷に対し意外にも腰を持ち上げた。
「おじさーん、話聞いてた? 仕方ないから彼と勝負してもいい?」
 店長に向かって佐藤さんが言い放つ。だが、当の店長は興味もないらしくカードの整理を続けているようでうんともすんとも言わない。
「じゃあ二階に行ってやろうか」
「え、いいんですか?」
「おじさんはダメならダメってはっきり言う人だから大丈夫よ。それにどうせ半額になってもその半分を私の財布から出せばいいし。最も、私も腕に自信があるから負けるつもりじゃないけどね」
 満面の笑みで蜂谷はこっちを見る。
「今喜んでも結局負けたら意味無いんだぞ」
「もちろん分かってるぜ。でもこうとなったらやってやる!」



 いつもは自由に行けるデュエルスペースとなっていてテーブルがあちこちに置いてあるかーどひーろーの二階だが、今日は階段の入り口で関係者以外立ち入り禁止の立て札が立っていた。佐藤さんはそれを避けて階段を進み、おいでおいでと言ってくる。
 なぜ立ち入り禁止かは二階に着けばすぐ分かった。二階の足元にはブルーシートが張ってあり、歩くたびにざわざわ音が鳴る。そしてたくさんあったテーブルはどこにいったのかその姿がない。
「今、ここはリフォーム中なの。だから誰もいなくてね」
「なるほど……。でもテーブルないとカードは出来ないんじゃあ」
「出来るじゃない。ほらぁ、バトルベルト!」
 確かにバトルベルトならベルト自体がテーブルになるのでどこでも出来る。そもそもそういうスタンスで作られてもいるし納得の理由だ。勝負とは直接関係ない俺は、邪魔にならないように壁際による。
 二人がバトルベルトを起動させるとベルトが変形してテーブルに変わり、ベルトから切り離されてバトルテーブルとなる。
 このバトルテーブルのデッキポケットにデッキを差し込めば自動的に対戦が始まるのだが……。
「あれ、おかしいな」
 蜂谷は何度もデッキポケットにデッキを突っ込んでいるが一向にバトルテーブルが動く気配はない。
 念のために近づいて様子を見てやると、バトルテーブルのモニター画面に本体を更新中と表示されていた。要するにちょっと待っとけってことだな。
 そういえばこの前に風見がバトルベルトをバージョンアップだのどうの言ってたような気がする。
「お、更新終わったな。もう一回デッキを突っ込んでみ」
 更新終了とモニターに出たのを確認してから蜂谷に操作を促す。
 デッキポケットに再びデッキを突っ込むと、バトルテーブルからなんと男の声の音声が聞こえはじめた。
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。……相手のバトルテーブルとの距離が近すぎます。もう少し距離をとってから起動をしてください』
 蜂谷はバツの悪そうな顔をしてからバトルテーブルを持ち上げて、佐藤さんから距離をとる。元からそれなりに距離をとっていたが、五歩くらい更に下がって再び起動させる。
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
 バージョンアップとして音声ガイドとかがついたのか。中々面白い。蜂谷のやや後ろで、蜂谷の様子を見ながら観戦しよう。
 互いのデッキがバトルテーブルによってオートシャッフルされ、手札とサイドをセットされる。そして両者が最初のポケモンをセットすれば対戦の始まりだ。
 オープンされたポケモンは、佐藤さんがバトル場にムウマ60/60、ベンチにズバット50/50。そして蜂谷はバトル場にドーブル70/70だけ。
「先攻は私に譲ってね」
「いいですよ」
 そりゃこんな勝負を仕掛けたんだから譲って当たり前だ。
「私のターン。私は手札の超エネルギーをムウマにつけるわ。続いてサポートカード、ウツギはかせの育てかたを発動。このカードは、自分の山札の一進化、または二進化ポケモンを一枚相手に見せてから手札に加える。私はデッキからムウマージを手札に加えるわ」
 見た感じ佐藤さんのデッキは超タイプを主体にしたデッキのようだ。特にムウマは無色タイプに抵抗力を持っている。ドーブルで蜂谷が攻撃しても与えるダメージは自然と小さくなる。
「ムウマのワザ、どっちもドローを使わせてもらうわ。この効果で互いにカードを山札から三枚引く」
 お陰で佐藤さんの手札は八枚、蜂谷の手札は九枚と両者の手札がかなり多い状態になった。相手にドローさせてでもカードを引きたかったのだろう。
「よし、俺のターン! まずはベンチにレディバとチラーミィを出すぜ!」
 蜂谷がベンチにポケモンを置くと、対応した位置にレディバ50/50とチラーミィ60/60が現れる。が、その登場の仕方が前と若干変わった。今まではモンスターボールからポケモンが飛び出るような感じだったのが、バージョンアップしてからは対応するベンチのエリアに白い穴が開き、そこからポケモンが飛び出して登場する演出になった。前よりもポケモンの勢いというかなんというか、そういったものが一層現れて好感が持てる。
「サポートカードのポケモンコレクターを使うぜ。デッキからたねポケモンを三枚まで加える。俺が加えるのはヤンヤンマが二体とチラーミィが一体だ! さあ現れろ!」
 手札に加えるや否や、三枚を全てベンチに出す。これで蜂谷のベンチはレディバ一体にチラーミィが二体、そしてヤンヤンマ50/50が二体。相変わらず草タイプデッキのようだ。
「さらにドーブルのポケパワーを使わせてもらうぜ。似顔絵!」
 ドーブルが宙空に尻尾で何かを描き始める動きを取ると、ムウマとドーブルの間に九枚のカードの柄が現れる。
「このポケパワーはドーブルがバトル場にいる時にのみ使えて、相手の手札を確認してからその中にあるサポートを一枚選ぶことが出来る。そして選んだカードの効果をこのパワーの効果として使える!」
 先ほど現れた九枚は佐藤さんの手札ということか。そしてその中にあるサポートカードは一枚、チェレンだけだ。
「チェレンの効果を使わせてもらうぜ。その効果で、デッキからカードを三枚ドロー。じゃあベンチのレディバに草エネルギーをつけてターンエンドだ」
 ドーブルのポケパワーは優秀だが、ワザを使うにはエネルギーカードを二枚も必要とする。さらにムウマの抵抗力もあってうかつに手を出せないということか。
「私のターン。まずはムウマをムウマージに進化させるわ」
 やはり進化もバージョンアップしたためか、その仕方が前よりも非常にスムーズになった。前はポケモンの進化の演出に十五秒くらいかかっていたが、今は五秒もかからないくらいサックリしていて対戦のテンポも保てる。ムウマがあっという間にムウマージ80/80に進化したので佐藤さんもスムーズに次の行動が出来る。
「超エネルギーをムウマージにつけ、そしてベンチのズバットをゴルバット(80/80)に進化させる。そしてベンチにスコルピを出すわ」
 スコルピ60/60も他と同様、穴から飛び出る演出で登場する。が、スコルピの登場に違和感を覚えた。
 スコルピ自体は超タイプのポケモンだが、その進化系であるドラピオンは悪タイプ。超タイプデッキとどうシナジー(相乗効果の意)するんだ……。それとも。
「サポートカードのチェレンを発動。山札からカードを三枚引いて、更にグッズカードのポケモン通信を使うわ」
 ポケモン通信はグッズカードでありながら非常に優秀なサーチカード。自分の手札のポケモンを一枚相手に見せてから山札に戻し、自分の山札からポケモンを一枚選んで相手に見せてから手札に加えることが出来る。手札的には一枚ディスアドバンテージになるが、結果的には望んだカードを引けるためにプラスだ。
「私は手札のブラッキーを戻してドラピオンを手札に加える」
 ブラッキーにドラピオン。やはり悪タイプがいる。佐藤さんのデッキは超悪混合デッキと読んだ。
「そしてムウマージで攻撃よ。ポルターガイスト! このワザは相手の手札を確認してその中のグッズ、サポート、スタジアムの枚数かける30ダメージを与えるわ」
「そ、そんなに!?」
 蜂谷の手札の画像がムウマージとドーブルの間に現れる。その手札にはポルターガイストの効果に該当するカードはクラッシュハンマー、ジャンクアーム、チェレン、リサイクル、ポケモンコレクターの五枚もある。よって30×5=150ダメージがドーブルに襲うことになる。
 ムウマージがその画像のうち条件を満たす五枚のカードを操って、ドーブルに向けてぶつけていく。ドーブルのHPはたったの70。二倍以上のダメージを与えたオーバーキルだ。
「サイドを一枚引かせてもらうわ」
「くっ、次のポケモンはレディバだ。俺のターン。手札からグッズカード、クラッシュハンマー!」
 コイントスをしてウラなら失敗だが、オモテの場合相手のポケモンのエネルギーを一枚トラッシュすることが出来る。
 エネルギーをトラッシュされるということは、一ターンに一枚しかつけれないというルール上、一ターン無駄になるということ。もちろんとても厳しい。だが、コイントスの結果はウラで不発に終わってしまう。
「だったらまずはレディバをレディアン(80/80)に進化し、レディアンに草エネルギーをつける。そしてチラーミィをチラチーノ(90/90)に進化だ! そしてもう一枚グッズカードを使う。ジャンクアーム!」
 ジャンクアームは手札のカードを二枚トラッシュすることで、トラッシュにあるジャンクアーム以外のグッズカードを手札に戻すことが出来る。
 蜂谷はリサイクルとポケモンコレクターをトラッシュ。こうもトレーナーズばかりトラッシュしたのは恐らくムウマージのポルターガイスト対策と思われる。バトル場にいるレディアンのHPは80/80。次の佐藤さんの攻撃の時に手札にトレーナーズが三枚以上あるとレディアンは一撃でやられてしまう。
 もしくはムウマージをこの番で倒してしまわなければいけない。もしくは……。
「ジャンクアームの効果でクラッシュハンマーを戻す!」
 このクラッシュハンマーでエネルギーをトラッシュさせ、次の番ムウマージにエネルギーをつけることが出来なければレディアンは気絶させられることはない。
「もう一度クラッシュハンマー! ……ウラなので不発。仕切り直してサポートカードのチェレンを発動。デッキからカードを三枚引くぜ」
 このチェレンを使うのが良くなかった。引いたカードは全てサポートカード。サポートカードはどうしても一ターンに一度しか発動出来ないため、必ず佐藤さんの攻撃を受けるときにサポートが三枚持った状態でいることになってしまう。
「レ、レディアンでムウマージにスピードスター!」
 レディアン80/80から星型のエネルギーが大量にムウマージめがけてぶつけられる。スピードスターはクセのないワザで相手の弱点と抵抗力、そして相手にかかっている効果を無視して40ダメージを与えることが出来る。
 ムウマージのHPバーが丁度半分削られ残りHPは40/80。だが、倒しきれなかった。
「私のターン! まずはサポートカード、ポケモンコレクターを使うわ。この効果で山札からイーブイを三枚手札に加えて全てベンチに出す。さらにスコルピをドラピオンに進化!」
 ひょこんと三匹同時にイーブイ50/50が現れる横で、スコルピが大型ポケモンのドラピオン100/100に進化する。イーブイ三匹が並ぶ横でドラピオン、ゴルバットは流石に変な感じ。
「手札のグッズカード、エネルギー交換装置を使わせてもらうよ。自分の手札のエネルギーを一枚相手に見せてから山札に戻し、その後山札からエネルギーを一枚手札に加える。私は超エネルギーを戻してダブル無色エネルギーを手札に加える」
 ポケモン通信のエネルギー版と言ったところか。このカードの利点は特殊エネルギーを手札に加えれるということだ。実際に佐藤さんはそれを最大限に利用している。
「ベンチのドラピオンに特殊悪エネルギーをつけ、さらにゴルバットを進化。行くよ、クロバットグレート!」
 普段なら進化する演出は、進化するポケモンの体が白く輝いて姿かたちが変わるものだったが、今ゴルバットの体は金色に輝いた。そしてそのまま姿かたちを変えてクロバットグレート130/130に進化した。登場してからもクロバットの体の縁から僅かに小さな金色に光る粉のようなものが零れている。
「グ、グレートポケモン……」
 グレートポケモンは、例えばクロバットグレートならクロバットと同じ名前のポケモンとして扱うが、その普通のクロバットよりもHPが高く、ワザの威力が強い、ついでにレア度も高い。まさに文字通りグレートなポケモンだ。
「グレートポケモンに目を取られている余裕はないでしょ? ムウマージでポルターガイスト!」
 再び先のターンと同じように蜂谷の手札七枚の画像が公開される。そしてそのうち三枚、ジャッジマン、アララギ博士、アララギ博士がレディアンに向けて飛んでいく。三枚のカードがぶつけられ、そのHPは90も削られて気絶する。
「二枚目のサイドを引かせてもらうわ」
「へへっ、まだまだこれから! ヤンヤンマをバトル場に出すぜ」
 蜂谷のサイドは一枚もまだ引けずに六枚のまま。それに対して佐藤さんはもう残り四枚。圧倒的に不利だがまだ負けた訳じゃない。あれ?
「……ってお前既にアララギ博士二枚も持ってるじゃん!」



蜂谷「今回のキーカードはクロバットグレート!
   どちらも超エネルギー一枚で使えるワザだ!
   そして最凶クラスの毒の威力を持つカードだぜ」

クロバット HP130 グレート 超 (L1)
超 バッドポイズン
 相手のバトルポケモンをどくにする。ポケモンチェックのとき、このどくでのせるダメカンの数は4個になる。
超 ちょくげきひこう
 相手のポケモン1匹に、30ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
弱点 雷×2 抵抗力 闘−20 にげる 0

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第六回「勝利のためには」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/90.html


  [No.969] 91話 グレートな奴G 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:50:09   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 改装中のかーどひーろーの二階で行われている、蜂谷と店員の佐藤さんとの対戦が熱い。
 蜂谷のバトル場にはヤンヤンマ50/50、ベンチにはチラチーノ90/90とチラーミィ60/60、ヤンヤンマ50/50。そしてサイドは六枚。
 その一方で佐藤さんのバトル場には超エネルギーが二枚ついたムウマージ40/80、ベンチには特殊悪がついたドラピオン100/100とイーブイ50/50が三体、そしてクロバットグレート130/130。更にサイドは四枚と、蜂谷を大きく上回っている。
「俺のターン! ……グレートポケモンか」
 ベンチで泰然と構えるクロバット。その体からほんの僅かに小さな金色の粉末のようなモノが零れているのはグレートポケモン特有の演出だ。
 圧倒的な威圧感を放つそのクロバットだが、蜂谷は怯えるどころかむしろ笑っていた。
「グレートポケモンは佐藤さんだけの専売特許じゃないぜ! 手札からグッズカードのポケモン通信! 手札のポケモンを一枚デッキに戻し、自分のデッキからポケモンを一枚手札に加える。俺は手札のドーブルを戻してメガヤンマグレートを手札に加え、バトル場のヤンヤンマをメガヤンマグレートに進化だ!」
 グレート返しと言わんばかりに蜂谷もメガヤンマグレート110/110を繰り出すが……。こいつは強いぞ。
「そして手札のダブル無色エネルギーをベンチのチラチーノにつける。このエネルギーは、無色エネルギー二個分として働くエネルギーだ。さらにサポートカード、ジャッジマン!」
 このジャッジマンが後にメガヤンマに生きる。ジャッジマンの効果は、互いの手札を山札に戻したのちに四枚山札からカードを引くもの。こうして蜂谷と佐藤さんの手札は互いに四枚になった。
「メガヤンマグレートでバトル!」
「えっ!? メガヤンマにはエネルギーが一つもついてないのに」
 驚く佐藤さんに対し、蜂谷は待ってましたと言わんばかりににやける。これがメガヤンマグレートの真骨頂だ。
「メガヤンマのポケボディー、インサイトは自分と相手の手札の枚数が同じ時、このポケモンに必要なワザエネルギーがなくなる!」
「そんな!」
 メガヤンマの赤い複眼がキラリと光る。メガヤンマの口が開くと、そこに空気の塊が目に見えるように集まって行く。
「よし。メガヤンマでムウマージに攻撃する。直撃弾!」
 溜めに溜めていた空気の塊がムウマージ40/80に向けて放たれる。直撃弾は相手のポケモン1匹に40ダメージを与えることの出来る汎用性の高いワザだ。
 この一撃を受けたことでムウマージのHPは無くなり、糸の切れた凧のように崩れ落ちる。これでようやくサイド差が一枚に縮まった。
「サイドを一枚引くぜ」
「私はクロバットグレートをバトル場に出すわ。私のターン」
 グレートポケモンとグレートポケモンが互いに向かい合う。どういう戦術で来るか。
「クロバットに超エネルギーをつけて、そしてベンチのイーブイを進化させる。おいで、ブラッキーグレート!」
「何っ!?」
「に、二種類目のグレートポケモン!?」
 ベンチのイーブイのうち一匹が、光り輝きブラッキー100/100へと進化を遂げる。クロバットに続いてのグレートポケモンが出るだなんて俺も蜂谷も完全に予想外だ。一体どういう風に仕掛けてくる。
「さらにサポートカード、ウツギ博士の育てかたを使うよ。この効果で山札の進化ポケモンを一枚手札に加える。私が加えたのはエーフィグレート! そしてベンチのイーブイをエーフィグレートに進化させる!」
「ま、またグレートポケモン!?」
「多すぎだろチキショウ……」
 ブラッキーグレートの横に並ぶように、エーフィグレート100/100が現れる。二体とも他のグレートと同じように体から金色の粒子が零れている。
「そっちにばかり見とれてちゃダメよ? クロバットで攻撃。バッドポイズン!」
 高速でメガヤンマの上をとったクロバットが、そのままメガヤンマの背中を強く噛みつく。体を揺らしてメガヤンマが抵抗するものの、完全に張り付いたクロバットはまったく振り落とされない。そしてさらに数秒してからメガヤンマからクロバットは離れ、自分のバトル場に戻って行く。
「あれ、俺のメガヤンマのHPバーは減ってないぞ……」
「このバッドポイズンは相手にダメージを与えるワザじゃないの。これは相手を毒にするワザ」
 そう聞いてほっ、と落ち着く蜂谷。確かに毒ならポケモンチェックの度に10ダメージを受ける程度の特殊状態であって、不利なモノは不利とはいえ60ダメージを喰らったりするよりかは遥かにマシだ。
「なんだ。毒程度なら別に問題は」
「バッドポイズンによって毒になったポケモンは、ポケモンチェックのときに10ダメージではなく40ダメージを受ける!」
「よっ、40!?」
 分かりやすいようなリアクションで蜂谷の顔が一気に驚きのそれに変わる。そんな蜂谷を置いてけぼりに、苦しそうにするメガヤンマ70/110のHPは一気に40も削られてしまった。
 ポケモンチェックはそれぞれの番の終わりに来る。もし蜂谷の番が終われば残りHPは30/110、そして佐藤さんは攻撃をしなくてもメガヤンマは勝手に気絶。グレートと名のつくポケモンらしく、非常に豪快なワザだ。
「俺のターン! 残念だけど俺のメガヤンマは逃げるために必要なエネルギーは0。こいつを逃がしてベンチのチラチーノ(90/90)を新たにバトル場に出すぜ」
 特殊状態はベンチに戻ってしまえば回復してしまう。これでバッドポイズンで苦しむことはなくなった。逃げるエネルギーが0で幸いしたな。
「ベンチのチラーミィにダブル無色エネルギーをつけて、ヤンヤンマ(50/50)をベンチに出す。そしてアララギ博士を発動!」
 アララギ博士は手札を全てトラッシュしてから手札が七枚になるようにデッキからカードを引くサポートカード。ついでに蜂谷はかーどひーろーで売っていたこれを半額にしてもらえるように頼み込んだのが対戦の始まりだったんだが、少なくとも蜂谷は二枚もこのカードを持っている。本当に必要あるか?
 今の蜂谷の手札はレディアンとオーキド博士の新理論の二枚。その二枚とトラッシュしてデッキから七枚引く。しかし、あまり恵まれたドローとは言えない。
「うーん。ベンチのチラーミィをチラチーノ(90/90)に進化させる。そしてバトル! チラチーノでクロバットグレートに攻撃だ。友達の輪!」
 ベンチのヤンヤンマ二匹、メガヤンマ、チラチーノの体から淡い白い光が発せられ、その光が宙をふわふわ漂いながらバトル場のチラチーノの元に集まる。
「このワザは自分のベンチのポケモンの数かける20ダメージを相手に与えることが出来る。俺のベンチには今ポケモンが四匹! よって80ダメージだ!」
 チラチーノが集った白い光をクロバットめがけて打ち放ち、クロバット50/130に大ダメージを与えた。次の番にもう一度友達の輪を使えばクロバットグレートを倒せる。
「私の番ね。まずは手札のダブル無色エネルギーをベンチのブラッキーにつけるわ。そしてサポートカードのオーキド博士の新理論、行くよ。手札を全て山札に戻してシャッフルし、その後手札が六枚になるように山札からカードを引く。……ベンチにイーブイを出すわ」
 デッキに同名のカードは四枚までしか入れられない。今現れたイーブイ50/50で佐藤さんのイーブイは全て場に出たことになる。
「ベンチのイーブイを、ブラッキーに進化させる」
 今進化したブラッキー90/90はグレートポケモンじゃない。基本的にグレートポケモンの方が優秀だが、あえてグレートでないブラッキーを採用した意図は一体なんだ?
「さらにグッズカードのポケモンキャッチャー! 対象はヤンヤンマ!」
 突如佐藤さんの場から捕縛用の網が飛び出しヤンヤンマを捕まえた。そしてそのままバトル場に強制的に引きずり出される。
「ポケモンキャッチャーは相手のベンチポケモンを一匹選び、そのポケモンを強制的にバトル場に出させる! そしてそのままクロバットでヤンヤンマにバッドポイズン!」
 今度はヤンヤンマがバッドポイズンを受けてしまった。ヤンヤンマのHPはたったの50/50、ポケモンチェックで毒の判定を受けるだけで瀕死状態だ。
「バッドポイズンで毒になったポケモンはポケモンチェックの度に40ダメージを受ける。さあ、受けてもらうよ」
 ヤンヤンマのHPバーが10/50と大きく削られてしまった。しかし、進化及びベンチに逃がせばバッドポイズンであろうとなんだろうと特殊状態は回復する。
「俺のターン!」
 今の蜂谷の手札は七枚ある。が、その中にサポートカードも無ければメガヤンマのカードもない。毒状態を逸するには逃げるしかない。しかし、逃げるために必要なエネルギーカードさえも手札にない。ヤンヤンマがベンチに逃げるためには逃げるエネルギーが一つ必要だ。このまま蜂谷の番が終わってポケモンチェックに入ればヤンヤンマは毒で気絶してしまう。
「ヤンヤンマのポケボディー、フリーフライトは、このヤンヤンマにエネルギーがついていないならこのポケモンの逃げるエネルギーは0となる。だからヤンヤンマを逃がしてベンチのチラチーノを出すぜ」
 なるほど、ポケボディーか。確かにその効果でバッドポイズンから楽々逃れることに成功した、良い調子だ。
「グッズカードのクラッシュハンマーを発動するぜ。コイントスをしてオモテなら、相手のポケモンのエネルギーを一枚トラッシュする。……またウラかよ。だったら力づくで行くぜ、チラチーノでバトル! 友達の輪!」
 今の蜂谷の場は先ほどと変わらずベンチポケモンが四匹。20×4=80ダメージがクロバットグレートを襲う。この攻撃でHPの尽きたクロバットは、ふらふらと勢いを失くして倒れる。
「よし、グレートポケモンまずは一匹目撃破だ。サイドを一枚引くぜ」
「私はブラッキーグレート(100/100)をバトル場に出すわ。私のターン。まずはグッズカードのポケモン通信、発動するよ。手札のゴルバットを山札に戻してエーフィを加える。そして残り一匹のイーブイをエーフィに進化させるわ」
 先のブラッキーと同じく今現れたエーフィ90/90もただの普通のエーフィ。ただの普通のっていうのもなんか変な気もするが、これで今の佐藤さんの場にはバトル場にブラッキーグレート100/100、ベンチにエーフィグレート100/100、エーフィ90/90、ブラッキー90/90、そしてドラピオン100/100。イーブイの進化系が四匹……。はっ、これは!
「サポートカード、チェレンを使うわ。その効果で山札から三枚カードを引く。続いてグッズのエネルギー交換装置! 手札の超エネルギーを戻して山札から特殊悪エネルギーを手札に加える。そして今手札に加えた特殊悪エネルギーをブラッキーグレートにつけて攻撃。エボルブラスト!」
 ブラッキーが身をやや屈めると、その額にある黄色の縞模様から虹色に輝く力強い光線が放たれてチラチーノに直撃する。グレートポケモンだけあってか、すさまじいエフェクトで床のビニールシートもものすごい勢いでバサバサと騒ぎ立て、はがれて飛び散るものもあった。
「ぐおおおおっ!」
「ぐうううっ!」
 近くで見ている俺も思わずそのパワーに堪えようと脚に力を入れてしまった。
「このエボルブラストは、基本値50に加えて自分の場にいるイーブイから進化するポケモンの数かける10ダメージを加算する。ベンチにはエーフィ、ブラッキー、そしてエーフィグレート。さらにバトル場にいるブラッキーグレート自身も含めて40ダメージが加算! さらに特殊悪エネルギーが悪ポケモンについている場合、このポケモンが相手のバトルポケモンに与えるダメージを10加算する。よって100ダメージ!」
「だからあんなにイーブイの進化系を並べて……!」
 チラチーノのHPは90、それを削りきる強烈な一撃! 佐藤さんはサイドを一枚引いて、蜂谷はベンチにいた二匹目のチラチーノをバトル場に繰り出す。
「今の君のベンチのポケモンは三匹、友達の輪で攻撃してもたった60ダメージ。それじゃあこのブラッキーは倒しきれないよ。さらにこのブラッキーにはポケパワー、月隠れというものがあるの。このポケモンがバトル場にいるとき自分の番に一度使えるポケパワーで、コイントスをしてオモテならこのポケモンとついている全てのカードを手札に戻せる。ヤワな攻撃をされても、このカードを戻してしまえば問題ないってことよ」
 月隠れが決まる確率はあくまで二分の一。しかし確率はたかが確立、成功するときは成功してしまう。
 佐藤さんのサイドは残り三枚、蜂谷のサイドは残り四枚。ここでブラッキーグレート100/100を倒しきれないとこの後の苦戦は必至!
 さあどうする蜂谷!



蜂谷「今回のキーカードは俺の使ったチラチーノ!
   ベンチを肥やすだけでなんと100ダメージも与えれるぜ!
   無色タイプだからどのデッキにも入れやすい!」

チラチーノ HP90 無 (BW1)
無 スイープビンタ  20×
 コインを2回投げ、オモテの数×20ダメージ。
無無 ともだちのわ  20×
 自分のベンチポケモンの数×20ダメージ。
弱点 闘×2 抵抗力 − にげる 1

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第七回「ベンチを肥やす」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/91.html


  [No.970] 92話 連撃を越えてJ 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:51:17   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「さらにこのブラッキーにはポケパワー、月隠れというものがあるの。このポケモンがバトル場にいるとき自分の番に一度使えるポケパワーで、コイントスをしてオモテならこのポケモンとついている全てのカードを手札に戻せる。ヤワな攻撃をされても、このカードを戻してしまえば問題ないってことよ」
 蜂谷のバトル場にはW無色エネルギーがついたチラチーノ90/90、ベンチにメガヤンマグレート70/110、ヤンヤンマ10/50、ヤンヤンマ50/50。そして残りのサイドは四枚。
 一方で佐藤さんのバトル場には特殊悪、ダブル無色のついたブラッキーグレート100/100。ベンチにはエーフィグレート100/100、エーフィ90/90、ブラッキー90/90、特殊悪のついたドラピオン100/100でサイドは三枚と佐藤さんがやや優勢。
 そして一撃でブラッキーグレートを倒せないと上述のように月隠れで逃げられてしまう恐れがある。
「くっ、俺のターン!」
 今蜂谷の手札は八枚あるが、どれも扱いにくいカードが溜まっている。ブラッキーグレート100/100を一撃で沈めるためにはチラチーノの友達の輪で100ダメージを叩き出さないといけない。
 友達の輪は自分のベンチのポケモンの数×20ダメージのカードで、今のベンチにはポケモンが三匹。あと二匹をベンチに出さないと倒すことが出来ないが、生憎と手札にたねポケモンはない。
「俺は、サポートカードのチェレンを使う。このカードによって、俺は山札からカードを三枚ドローする。ドロォー!」
「おおっ!」
「へへ、手札からチラーミィ(60/60)を二匹ベンチに出す!」
 あの状況からたねポケモンを二匹も手札に加えるなんて、すさまじいドロー力だ。余裕綽々と構えていた佐藤さんにも若干焦りが見える。
「チラチーノで攻撃、友達の輪!」
 ベンチポケモンから放たれる優しげな白い光を打ち出してブラッキーグレートに攻撃する。ベンチが五匹で埋まったため、友達の輪の威力は20×5=100ダメージ、ブラッキーを一撃で撃破だ。
「よし、サイドを一枚引く。これでようやく追いついた!」
「追いつかれたら追い抜き返すだけ! 私はドラピオンをバトル場に出すわ。そして私のターン、まずはドラピオンにダブル無色エネルギーをつける。このダブル無色エネルギー一枚で無色エネルギー二枚分として扱うことが出来る。そしてサポート、オーキド博士の新理論を発動。手札を全て山札に戻してシャッフル、その後六枚カードを引く」
 オーキド博士の新理論を使うことによって佐藤さんの手札は二枚になったが、この効果で手札が六枚まで増える。新たに手札となったカードの左から三番目のカードを抜き取ると、それをバトルテーブルに叩きつけるように置いて発動する。
「行くよ、ポケモンキャッチャー!」
 グッズカードのポケモンキャッチャーは相手のベンチポケモン一匹を選択してそのポケモンをバトル場のポケモンと強制的に交代させるカード。佐藤さんはメガヤンマグレートを引きずり出した。
「ドラピオンでメガヤンマに攻撃。毒々の牙!」
 佐藤さんがコイントスのボタンを押すと同時にドラピオンがその大きな腕を伸ばして鋏でがっちりメガヤンマの体を押さえつけると、そのまま大きなキバでメガヤンマに喰らいつく。HPバーが50下がってメガヤンマの残りHPは20/110。そして佐藤さんのコイントスの結果はオモテだ。
「ドラピオンについている特殊悪エネルギーは悪ポケモンについているときにバトルポケモンに与えるワザの威力がプラス10される。そして毒々のキバはコイントスをしてオモテだったとき、相手を毒にする。この毒で受けるダメージは従来の10ダメージではなく20ダメージ!」
「まっ、また強力な毒か!」
 ポケモンチェックに入ると毒の判定が入る。苦しむメガヤンマの残り少ないHPバーは、毒々のためにさらに削られてしまい気絶してしまう。
「サイドを一枚引くわ」
「俺は新しくバトル場にチラチーノを出す。俺のターンだ! よし。ドーブルをベンチに出し、ベンチのチラーミィにダブル無色エネルギーをつけてそのチラーミィをチラチーノ(90/90)に進化させる」
 ドーブル70/70が新しくベンチに並んだことで再び蜂谷のベンチには五体のポケモンが揃った。だがその一方でベンチにはヤンヤンマばかり並び、なかなか進化することが出来ない。特に残りHPが10/50のヤンヤンマはほんのちょっとしたダメージで気絶してしまうために出来るだけ早くに進化させたいのだが……。
「くっ、とりあえず今は目の前の敵を潰ーす! チラチーノで攻撃、友達の輪!」
 負けじと蜂谷も押し返す。100ダメージの大技が炸裂し、ドラピオン0/100の体躯が吹き飛ばされて一撃でKO。先ほどからどちらかが倒されれば一方が倒しかえすという激しい攻防が続いて目が離せない。
「よし、サイドを一枚引くぜ」
 新たにバトル場に現れたのは佐藤さんの三匹目のグレートポケモンであるエーフィ100/100。今度はどんな攻撃をしてくるか。
「私のターン。エーフィグレートにレインボーエネルギーをつける。このエネルギーをつけたとき、つけたポケモンにダメカンを乗せる」
「自分でダメカンを……」
 だが、その代わりこのレインボーエネルギーは全てのタイプのエネルギー一個ぶんとして働くことが出来る強力なカードだ。
「ズバット(50/50)をベンチに出して、エーフィグレードで攻撃。エーフィグレートのポケボディー、進化の記憶は、ワザに必要なエネルギーがついているなら自分の場のイーブイから進化するポケモンのワザを全て使うことが出来る!」
「な、何っ!?」
「何だと!」
「その効果でベンチのエーフィのワザをエーフィグレートのワザとして使うよ、太陽の暗示!」
 エーフィグレート90/100の額が強く輝いて場を覆う。思わず右腕で両目を覆うように隠してしまった。
「このワザは、自分のポケモンのダメカンを四つまで取り除き、取り除いた分のダメカンを相手のポケモンに好きなように乗せることが出来る。私はエーフィグレートのダメカン一つをベンチの残りHPが10のヤンヤンマに乗せる!」
 ようやく強烈な光が収まると、エーフィグレートのHPは100/100に全快してベンチの蜂谷の死にかけだったヤンヤンマのHPは0/50となりそのまま倒れてしまう。
 なるほど、このワザを成功させるためにわざとレインボーエネルギーでダメカンを乗せたのか。
「さあ、サイドを一枚引いてターンエンド。これで残りのサイドは一枚よ」
 佐藤さんが早くも勝利に王手に手を掛けてしまったことになる。ここから逆転は至難だ。
「まだまだ! 俺のターンだ。やっと来た! まずはベンチのヤンヤンマを進化させる。現れろ、メガヤンマグレート!」
 ようやく蜂谷の手札にエースカードのメガヤンマ110/110が再臨する。しかし、手札にたねポケモン及びそれらを呼び寄せる可能性のあるカードはない。友達の輪でエーフィグレートを突破する手立ては、ない。
「蜂谷」
「翔、何も言うなよ。……目の前の敵が倒せないなら、こうだ! ポケモンキャッチャーを発動。ベンチのエーフィをバトル場に出させる!」
 蜂谷の場から突如捕縛網が佐藤さんのベンチのエーフィ90/90めがけて飛んでいく。すっぽり覆われて動けなくなったエーフィを強制的にバトル場に出させ、エーフィグレートをバトル場から退けた。
「さらにプラスパワーだ。このグッズカードを使った番に、自分のポケモンがバトルポケモンに与えるダメージはプラス10される! そしてチラチーノでバトルだ。友達の輪!」
 今の蜂谷のベンチは四匹、さらにプラスパワーの効果で与えるダメージは20×4+10=90ダメージ。ジャストでエーフィを気絶させることが出来た。
「これで太陽の暗示はもう使えないぜ? サイドを一枚引いてターンエンド」
 残りの蜂谷のサイドも一枚となった。佐藤さんが再びエーフィグレート100/100をバトル場に出す。蜂谷の引いたサイドは草エネルギー。相変わらずたねポケモンが引けない。もしチラチーノが場に残ったままで蜂谷の番が回った時、次のドローでたねポケモンを引いてそれをベンチに出して友達の輪で攻撃すればエーフィグレートを倒して逆転勝ちすることが出来る。
 何はともあれまずはこのターンを凌ぎ切らなければいけないのだが。
「私のターン! むう。バトル場のエーフィに超エネルギーをつけてグッズカード、クラッシュハンマーを発動。コイントスをしてオモテなら相手のポケモンのエネルギーカード一枚をトラッシュさせる! ……オモテ、バトル場のチラチーノのダブル無色エネルギーをトラッシュ!」
「うっ!?」
 チラチーノの上部に大きな赤色のハンマーが現れる。そしてそのハンマーが勢いよく振り下ろされてチラチーノを殴りつける。チラチーノが殴られる寸前にチラチーノの体から無色のシンボルマーク二つが飛び出してハンマーに粉砕される。そして同時にハンマーもふっ、と消滅したのだった。
「エーフィはポケボディー、進化の記憶の効果で全てのイーブイの進化系のワザを使うことが出来る。私はブラッキーのワザ、月影の牙を選択して攻撃!」
 ふいにエーフィの姿が消えたと思うと、チラチーノの影から現れて首筋をガブリと一噛み。ダメージは30だけなので60/90とまだまだチラチーノのHP自体には問題ないが、必ず何か効果があるはず。
「このワザを使ったポケモンは次の相手の番、ポケパワー、ポケボディーを持つ相手のポケモンからワザのダメージや効果を一切受け付けない!」
 蜂谷の場のポケモンでその条件に該当するのはドーブルとメガヤンマの二匹。チラチーノで攻撃すれば問題はない。だが、チラチーノはクラッシュハンマーで要のダブル無色エネルギーをトラッシュされてしまった。
 友達の輪を使うためにはエネルギーが二つ必要になる。ダブル無色エネルギーが今の蜂谷の手札には無く、草エネルギーのような基本エネルギーでちまちまつけていくと最低でも蜂谷のターンで数えて二ターンはかかってしまう。そうやってちまちま時間がかかっているうちにエーフィにやられてしまう。全体を睨んだ上手い攻撃だ。
「まだだ! 俺のターン!」
「おっ」
 思わず良いカードだと口が滑りそうになった。今引いたカードはまたまたポケモンキャッチャー。俺には見えたぜ、勝利の方程式。
「……そうか! まずはチラチーノに草エネルギーをつける。そして今つけた草エネルギーをトラッシュすることでチラチーノをベンチに逃がすことが出来る。俺は新たにバトル場にメガヤンマを呼び出す!」
「え? メガヤンマ? さっきも言ったけど月影の牙はポケボディーがあるポケモンからダメージは受けないのよ?」
「俺のグゥレートなポケモンを舐めちゃダメだぜ。手札からグッズカードを発動。ポケモンキャッチャー! 佐藤さんのズバットをバトル場に出す!」
「しまった!」
 いいぞいいぞ! ズバットのHPは僅か50/50。そして今の佐藤さんの手札は六枚、一方の蜂谷の手札も六枚。条件は全て整った!
「メガヤンマグレートのポケボディー、インサイトは互いの手札の枚数が同じ時、このポケモンに必要なワザエネルギーは0となる。トドメの一撃、ソニックブーム!」
 このワザの威力は70。深く息を吸い込んだメガヤンマは、空気の刃を三つ四つ射出する。その刃を慌てて一つ、二つとズバットがかわしていくが最後の刃がズバットの体を襲う。弾かれて、重力のままに落ちていくズバットのHPバーは0/50。蜂谷が最後のサイドを引くことで長い戦いもこれでゲームセットだ。
「っしゃ勝ったあああ!」
「うーん、やられたね」
 だがバトルベルトの風のエフェクトのせいで地面に敷かれていたブルーシートはことごとく吹き飛ばされ、バラバラに散らかってしまった。
「……さあお片付けしようか」
 にっこりほほ笑む佐藤さん。
「えっ」
「えっ」
「二人揃えて言っても、きちんと後片付けはしてもらうからね」
「ええええ、俺観客だし関係ないんじゃあ」
「そういう問題じゃないの。ほら、窓側の方よろしく!」
 蜂谷は、まあ自分に責任があるのは当然のことだと言わんばかりに既に階段側のブルーシートを敷き直し始めている。佐藤さんも壁際にいって自分のすべきことを行っている。
 なんだこれ。不満だ、不満だ!
「ちくしょー、ほんとに蜂谷と一緒に来るんじゃなかった!」



翔「今日のキーカードはメガヤンマグレート。
  なんといっても魅力はインサイトだ。
  エネルギーなしでワザを打てる、まさに理想のポケボディー!」

メガヤンマ HP110 グレート 草 (L3)
ポケボディー インサイト
 自分の手札と相手の手札が同じ枚数なら、このポケモンのワザに必要なエネルギーは、すべてなくなる。
草無 ちょくげきだん
 相手のポケモン1匹に、40ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
草草無 ソニックブーム  70
 このワザのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。
弱点 雷×2 抵抗力 闘−20 にげる 0

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第八回「グレートなカード」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/92.html

──
番外編「兄弟」

拓哉「へぇー! 兄弟いたんだ!」
恭介「おう。兄貴と弟がな」
向井「この写真の右にいるスーツピシッと着こなしてる人が」
恭介「それが兄貴」
蜂谷「こいつと違って真面目で超いい人だぜ」
恭介「うっせぇ」
拓哉「で、写真左のこのまだあどけない方が」
恭介「弟」
蜂谷「で、二人の間にいるツンツン頭は誰?」

恭介「……俺だよ」


  [No.971] 93話 大阪からの刺客!?Y 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:52:30   31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『もう行っちゃうんだな』
『うん……。ほんとにいろいろありがとね』
『急に改まるなんて由香里らしくない』
『らっ、らしくないってなんやねん!』
『そうそう。やっぱり由香里はそうじゃなくちゃな』
『ったく、翔は……』
『ほら、才知も何か言いなよ』
『ま、また会えるよね』
『きっと会えるから、そんな今にも泣きそうな顔しーひんの。じゃあ、またね』



 四月も終わりかけの二十四日の日曜日。今日はどうしても外せない用があるのだ。今月はしょっちゅう用事があって充実しているなあ。
 久しぶりに会う友人との再会に、俺の胸は昨晩寝る前から踊りっぱなし。まるで遠足の前日のようだった。その友人は宇田由香里、中学時代の俺の親友だ。
 父親の仕事のせいで中学入学と同時に大阪から東京に越してきて、そして中学三年になるときに大阪に帰って行った。
 僅か二年間、と思われるかもしれないが、俺の中学生活を振り返るためには彼女抜きでは語れない。
 俺と、由香里と、もう一人冴木才知の三人はよく遊んでいた。だが、中学三年になって由香里が大阪に戻り、俺と才知が違うクラスになってからは三人が集まることはなかった。
 今日も才知とは連絡が取れず、俺と由香里の二人だけで会うことになった。連絡が取れないものは仕方ないのだが、本当に才知とは中学を卒業してから連絡がほとんど取れない。
 ところで今回由香里は東京にいる親戚のおばさんとおじさんのところに用があって、二泊くらいしていくようだ。なので折角だから遊ぼう、と誘われた始末。
 集合場所である東京駅で待ち続けて約三十分、未だに由香里は姿を見せない。約束していた十五分前には来ていたのだが、流石に不安になってきた。そんなとき、背後から急に肩を叩かれた。
「うわっ、由香里ぃ!」
「久しぶりやね。だいたい二年ぶりかな」
「どこから来たのさ。改札向こう側だぞ」
「めんどいし行きながら話すわ。とりあえず駅出よ」
 久しぶりに聞くこのイントネーション、懐かしい。見た目はやや大人っぽくなったが、中身は良い意味であの頃とは変わっていなかった。
 腕を掴まれてバランスを崩しそうになる。そしてそのまま由香里の為すがままに引っ張られていった。
「ほんとはさ、予定より一本早い新幹線乗って来ててん」
「え?」
「良く考えてみーや。重たいトランク振り回したまま遊んでられへんやろ? 先に荷物をおばさんに渡して来ててん」
 確かに、由香里の手元には重そうな荷物はまるでなく、上品なハンドバッグ一つだけだ。
「ま、別に翔が荷物持ってくれるんやったら一考の余地はあったかもしれへんけどねー」
 これ以上ない笑顔でこちらを見る。全く、その調子は相変わらずだ。
「そんなことより最近どうなん。翔にも彼女出来た?」
「うーん、なんていうか微妙なんだよな」
 由香里の表情が一変して口半開きの怪訝な顔になる。バラエティ豊富だ。
「はぁ? どういうことよ」
「いや、俺も説明しにくいんだけど、まあ後輩なんだけどもなんていうか両想いっぽいけど告白とかしてない感じ?」
「ふーん。少女漫画くさいな」
「由香里が少女漫画って」
 思わず笑いを隠せず、由香里に肘で小突かれる。
「なんやそれ。あたしのような純情な乙女にはバイブルバイブル」
「エイブルかなんかの間違いじゃないのか」
「おもんない。0点」
 ぐっ、相変わらず言いたい放題しやがって。久しぶりに聞くとなかなか堪える。
「そういうそっちはどうなのさ」
「どう思う?」
「質問を質問で返すな。じゃあ出来てる?」
「当たり!」
「どうせそんな質問してくるからそうだと思ったよ」
 携帯電話をいじる由香里は、プリクラを急に見せてくる。
「ほら、このあたしの隣におるのがそれ。森啓史ってやつ」
「ふーん」
 お世辞にも見た感じあんまりパッとしない感じの男だ。でも、二人とも楽しそうに笑っているのは確か。
「良かったじゃん」
「で、東京におる間は会えへんから翔が代理彼氏やってな」
「は? なんだそれ」
「あんたは別に気にせんでええで。あたしについてくればええだけやから」



 そこからは由香里に引っ張られるようにショッピングに付き合わされて、荷物を持たされ、そして小洒落たレストランでスパゲッティも食べた。
 もうやめて! 既に俺の財布ポイントは0に近い。昼飯ケチって溜めたお金が跡形もなくなりそうだ。スパゲッティ美味しかったけど高いんです。
「で、次は何を」
「うーん。まあ粗方ショッピングも満足したし適当にふらつこっか」
「ふらつくって……。あ、そうだ。俺この前引っ越したんだ」
「え、何処に?」
「前のボロアパートから良い感じのアパートに引っ越した。距離的には電車で二駅程度だけど」
「じゃあ新しい翔の家行こか」
「ああ」
 そこから一番近い駅から電車に乗って、うちの新しい自宅の最寄り駅に着く。その駅の切符売り場で偶然、薫の後ろ姿を見かける。
「どないしたん?」
 薫に目線が行ってた俺を、由香里の声が引き戻した。
「えっ、いや。友達が」
「相変わらず嘘ヘタクソやなあ。さっき言ってた気になる子って今の子やろ?」
「う、正解」
「分かりやすっ」
 突如由香里が急に俺の空いている右手を、いわゆる恋人繋ぎしてきた。今の流れからのそれはまるで意味がわからんぞ。
「今日は代理彼氏やし、これくらいしないと」
「はぁ……」
 やっぱり意図がさっぱり読めない。何をしたいんだろう。断るとまた面倒そうなので仕方なくそのままでいる。
 駅から徒歩三分くらいでたどり着く新しいアパート。まだ住み慣れないが、居心地は良い。
「このアパート」
「へえ。なかなか良いんじゃない?」
 突如由香里の言葉のイントネーションが変わる。由香里の特技の一つの猫かぶりだ。そう言うと本人はぐちぐち言うが、まあ平たく言うと関東や近畿地方の方言を使い分けることが出来るという特技を使って演技するのが好きらしい。今の言葉のイントネーションは明らかにこちら(標準語)のものだ。
「いきなりどうした」
「ね、そこの貴女もそう思うでしょ?」
 くるりと回るように後ろに振り返る由香里につられて俺も首を捻って後ろを見ると、六歩程離れたところに見慣れた薫の顔があった。
「薫!」
 首だけでなく体ごとひねって完全に薫の方に向く。この薫のなんとも言えない表情に、俺もまたなんとも言えなくなる。その中で由香里だけがご機嫌なようだ。
「どうやら駅から着いてきたみたいよ?」
「そうなの?」
 薫は何も言わずに首をかすかに縦に振る。
「人が楽しんでるところを着けてくるなんて非常識な子ねえ」
 確実に喧嘩を吹っ掛けいる。元から性格が良いとは断定していいにくい由香里であるが、こんなに意地が悪いとは。険悪なムードが由香里と薫の中に漂い始めたので俺が何か言おうとしたら、口を由香里の右手に塞がれた。
「別に人が何しようと勝手でしょう、あたしはここを通りたかっただけなのに」
 薫も薫でヤケになっているぞ。落ちつけ。
「さっき着いてきたかどうかって翔が聞いた時に首を縦に振ったのにそんなこと言うの?」
「っ……」
 ああ……。由香里はこの状況を楽しんでる。人を煽って遊んでいる。こういうどろどろした感じの流れは俺は好みじゃないのに。ならいっそ逃げよう。そう思って一歩後ずさりしようと思ったところ、左腕を由香里に掴まれる。もう逃げられないし腕痛い握力強い。
「翔のせいでこうなってるんだから逃げないの」
「は!? いやいやいや由香里のせいだろ!」
「ちょっ、もういいからとりあえず黙ってて」
 頭を小突かれた。何が何かもうさっぱり分からん。どうにでもなれ。再び由香里が何か口撃して薫を煽り、薫も何か反論しているがもう聞かないもう聞かない。二ヶ月後の修学旅行のことでも考えていよう。とても楽しみなのだ。行先はオーストラリア。外国に行ったことのない俺としてはもう未知なる体験で、ワクワクが止まらない。修学旅行委員会に参加したのは下調べとかもしたいためで、もう興奮の渦がとにかく収まらないからだ。
 あぁ、オーストラリア。おぉ、オーストラリア。未知の土地に思いを馳せる。写真で見たあの美しい海、山、街! 早く行きたいな。そのためには中間考査という困難を乗り越えねばならない。いや、目の前の困難もなんとかしなきゃいけないな。
 そう思った時だった、由香里が芝居くさく右手人差し指で薫を指差したのは。
「それじゃあこれでどっちが翔にふさわしいか白黒つけましょう。生憎と貴女もバトルベルト持ってるみたいだし」
 そんなとき、由香里が唐突に薫にこう言って、ハンドバッグからバトルベルトを取りだした。
「えっ!?」
 なんでそれで白黒決めるの?
「望むところ!」
「ええっ!?」
 薫もそれでいいのかよ! というよりなんでこんな話になったのかがまるで分からんぞ!



 ちょっと歩いて公園に着く。休日なので遊具で遊ぶ子どもたちを傍目に、由香里と薫は火花を散らしながらバトルベルトを起動していた。周囲との温度差はとても大きいが、本人たちは熱中しているため特に何も思ってないだろう。
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。ハーフデッキ、フリーマッチ』
「さあ、かかってきなさい!」
「望むところ!」
 いまいちなんでこうなったかがよく分かってないけども、とにかく久しぶりに由香里のプレイングを見れるのはいい勉強になる。
 薫……、由香里は強いぞ。



由香里「今回の、というよりも次回で活躍するカードよ。
    世界大会優勝者も愛用したこのワタッコ。
    エネルギー一つでやりたい放題なんだから」

ワタッコ HP90 草 (L1)
草 みんなでアタック  10×
 おたがいの場のポケモンの数×10ダメージ。
草 リーフガード  30
 次の相手の番、このポケモンが受けるワザのダメージは「−30」される。
弱点 炎×2 抵抗力 闘−20 にげる 0

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第九回「みんなでアタック」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/93.html

佐藤春菜の使用デッキ
「ツヴァイカノン」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-881.html


  [No.972] 94話 争奪戦L 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:53:34   25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。ハーフデッキ、フリーマッチ』
「さあ、かかってきなさい!」
「望むところ!」
 周りでほのぼのと子どもたちが遊んでいる公園の中、とりわけピリピリとしたこの一帯では何故か由香里と薫が戦うことになっていた。まあ対戦を見れるのは楽しいということに変わりはないからいいんだけど。
 最初の由香里のポケモンはバトル場にピィ30/30、ベンチにハネッコ30/30。対する薫はバトル場にエイパム60/60。サイドは僅か三枚だけなのに、由香里のポケモンは全体的にHPが少なすぎるのが気になる。30/30はポケモンカードにおけるHPの最低ライン、それを二匹も晒すとは。
「あたしのターン」
 由香里は左手に手札を持ち右手でカードをプレイする。なんてことはない右利きのプレイヤーの動作だが、由香里は本来左利きだ。中学時代の由香里はよく、気合いが入るからという理由で右手に手札、左手でプレイをしていたはずだが矯正したのだろうか。それとも手加減のつもりなのだろうか。
「まず、手札の草エネルギーをハネッコにつける。そしてグッズカード、デュアルボール。コイントスを二回行いオモテの数だけデッキのたねポケモンを手札に加えることが出来る」
 期待値としてはオモテが一回出るといったところ。オモテ、ウラ、と確立通りの結果を叩き出す。由香里が手札に加えたのはタッツー50/50。手札に加えるとすぐに、タッツーはベンチに出される。
「ピィのワザを発動。ピピピ!」
「ピッ、ピピピ!?」
「自分の手札を全てデッキに戻す。その後、デッキをシャッフルしてカードを六枚引く。そしてピィを眠り状態にする」
 一見わざわざ自分で自分のポケモンを眠らせる行為に疑問点が湧くかもしれないが、きちんと理に適った効果である。
 ピィのポケボディー天使の寝顔は、このポケモンが眠り状態であるときこのポケモンはワザのダメージを受けない。つまりピィは眠りである限り無敵なのだ。
「ポケモンチェック。眠りのポケモンがいるとき、ポケモンチェックの度にコイントスを行う。オモテなら眠りを回復し、ウラなら眠りは継続。……ウラなので眠りは継続」
「あたしのターン! まずはエイパムにダブル無色エネルギーをつける。サポートカード、ポケモンコレクターを発動。デッキからたねポケモン三匹まで手札に加えることが出来る。加えるのはゴマゾウ二匹にグライガー。そして加えた三匹を全てベンチに出す!」
 閑散としていた薫のベンチにゴマゾウ70/70が二匹とグライガー70/70が並ぶ。薫のデッキはいつもの化石ではなく、闘タイプデッキか。
「エイパムでワザを使うわ、猿真似!」
「だけどピィは天使の寝顔でダメージを受けないわよ」
「猿真似は自分の手札が相手の手札と同じ枚数になるようにカードを引くワザで、元よりダメージを与えるワザじゃないの。今のあたしの手札は五枚で、あんたの手札は六枚。よって一枚だけ引くわ」
「ふーん、なるほどね。そしてポケモンチェック。……ウラなので眠りが継続」
 眠りのままではポケモンを逃がすこともワザを使うこともできない上、ピィは進化できないベイビィポケモン。自力で由香里のターンに回復することは出来ないことはないが厳しい。
「よし、あたしのターン。ベンチのタッツーをシードラに。そしてハネッコをポポッコに進化」
 盤石に由香里は場を整えていく。シードラ80/80にポポッコ60/60。二進化ポケモンを二ライン並べるつもりか。
「サポートカード、チェレンを発動。その効果で三枚カードを引き、ベンチにタッツー(50/50)を出してあたしの番はこれで終了。ポケモンチェックで眠りの判定。……オモテ、これでピィの眠りは回復する」
 由香里としてはこのタイミングでの眠り回復は痛い。肝心の攻撃を受けうる薫のターンで天使の寝顔が使えない、わざわざHP30のポケモンをバトル場に出しただけだなんて倒してくださいと言っているようなものだ。
「運が悪いわねぇ」
 左手に持った手札で扇子のように口元を隠し、目で笑う。そんな態度に薫はバツを悪そうにしている。妙に調子が狂っているのだろうか。
「ええい、あたしの番よ。まずはグライガーをグライオン(90/90)に進化。そしてインタビュアーの質問!」
 インタビュアーの質問は自分の山札の上からカードを八枚確認し、その中のエネルギーを好きなだけ選んで手札に加えることが出来るサポートカード。特殊エネルギーまでサーチ出来る点が優秀な一枚だ。
「その効果で闘エネルギーを二枚加える。グライオンに闘エネルギーをつけ、さらにグッズカード、ポケモン通信を使うわ。手札のエイパムを山札に戻してエテボースを山札から手札に加え、続いてバトル場のエイパムを今加えたエテボースに進化させる!」
 現れたエテボース80/80の持つワザはどちらも無色エネルギー二つで使えるワザだがその効果が曲者だ。両者とも嫌なプレイングをする。案外似た者同士かもな。
 一つは驚かす。威力は20と控えめだが、相手の手札をオモテを見ずに二枚選び、その後そのカードを確認してから相手の山札に戻し山札を切る。
 もう一つはテールスパンク。驚かすと違って威力は60だが、自分の手札を二枚トラッシュしなければワザは失敗してしまう。薫の手札は四枚あるので使えないことはない。
 ピィ30/30を倒すためにはテールスパンクだろう。もし驚かすを使って倒しきれないと、ピィの逃げるエネルギーは0なので次の由香里の番に簡単に交代されてしまう。
「まだよ、手札からグッズカード、プラスパワーを発動。このカードを使った番は、相手のバトルポケモンに与えるダメージをプラス10する! エテボースで攻撃、驚かす!」
 プラスパワーで驚かすの威力を20+10=30にしてきたか! 確かにこれならピィを気絶させて上手いこと相手の手札も減らすことが出来る。
「あんたの一番左とその二つ隣のカードを山札に戻してもらうわ」
「ワタッコとキングドラグレートを戻すわ」
 素晴らしい。まさかここまで上手く行くとは思わなかったが、由香里のベンチポケモンの進化系を二種とも戻すとは。これで由香里は動きが鈍くなる。
「そしてピィが気絶したことによりサイドを一枚引く」
 次の由香里のポケモンはポポッコ60/60か。逃げるエネルギーが0なので次の由香里の番のカードの引きによって気軽に動かすことが出来るな。
「ピィを倒したからって良い気にならないでよね。あたしのターン、手札からデュアルボール! ……ウラ、オモテ! よってデッキからハネッコ(30/30)を手札に加えてベンチに出す。そしてシードラに水エネルギーをつける。さらに、このシードラをキングドラに進化させる!」
「そんなっ!?」
「手札に二枚もあったのか!」
「おいで、キングドラグレート!」
 由香里のベンチに現れたグレートポケモン、キングドラ130/130。その体からはグレートポケモン共通のエフェクト、金色の粉末のようなものがはらはらと放たれている。まずいな、薫のゴマゾウも。さらにはグライオンも水タイプが弱点、一撃を喰らうととんでもない痛手を食うぞ。
「サポートカード、オーキド博士の新理論! 手札を全て戻し山札を切る。そして手札が六枚になるようカードを引く。続いてバトル場のポポッコをワタッコに進化!」
「っ!」
 さっき苦労して薫が山札に戻させたのをまるで嘲笑うかのように、由香里はその驚異的な引きでポケモンを揃える。ワタッコ90/90が出たということはベンチに逃がしてポケモンを変えるとかそういうつもりはないってことだな。
「布石を打っておくわ。キングドラのポケパワー発動。自分の番に一度、相手のポケモン一匹に10ダメージを与える。飛沫を上げる!」
 キングドラは盛大に上空に向かって水の塊を噴射する。水の塊はまとまったまま互いのバトル場を通り越し、ベンチのゴマゾウ60/70に襲いかかる。まだ飛沫を上げるを六度耐えれるが、問題なのはこのゴマゾウがバトル場に出てしまった時だ。10のダメージが大きく生死を分かつことなどはよくある。
「そしてワタッコでバトル! 皆でアタック!」
「来るぞ!」
 ワタッコの頭の綿が光り輝くと、それが光線となってエテボースを直撃する。激しい一撃にエテボース0/80の体は風に飛ばされた紙切れのように舞う。
「そんな、エテボースが一撃で!」
「皆でアタックの威力は互いのポケモンの数かける10となる。今貴女の場にはエテボース、ゴマゾウが二匹、グライオン。あたしの場にはワタッコ自身とキングドラ、ハネッコ、タッツーの計八匹。よって80ダメージ! エテボースのHP丁度分ってことね。気絶させたためサイドを一枚引くわ」
 たったエネルギー一枚で80ダメージ……。これが由香里のローコストで大ダメージを叩き出す強力なポケモン。
 続いて薫がグライオン90/90をバトル場に出したが、ワタッコは闘タイプに抵抗力を持つ。完全に薫の闘タイプデッキとは最悪のデッキとぶつかっていて、正面突破は厳しい。
 このまま一方的な展開となるのだろうか……?



翔「今回のキーカードはキングドラグレートだ。
  エネルギー一つでなんと60ダメージ。
  ポケパワーも合わせて70ダメージを出せる!」

キングドラ HP130 グレート 水 (L2)
ポケパワー しぶきをあげる
 自分の番に1回使える。相手のポケモン1匹にダメカンを1個のせる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
水 ドラゴンスチーム  60
 相手の場に炎ポケモンがいるなら、このワザのダメージは「20」になる。
弱点 雷×2 抵抗力 − にげる 1

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十回「ダメカンを乗せる方法」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/94.html

───
番外編「携帯電話」

翔「……」
担任「奥村、学校で携帯すんなよ」
翔「すみません。家族に連絡しなくちゃいけないんで」
担任「終わったら仕舞えよ」
翔「はい」



恭介「……」
担任「長岡、学校で携帯すんなよ」
恭介「すみません。大学の資料請求が」
担任「終わったら仕舞えよ」
恭介「はい」



蜂谷「……」
担任「蜂谷、学校で携帯すんなよ」
蜂谷「すみません。えっと、そ、そう。家族に連絡を――」
担任「没収だ」
蜂谷「はい!?」
担任「月末まで没収だ」
蜂谷「え、ちょっ!」

翔&恭介「……」


  [No.973] 95話 相性は最悪A 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:54:22   26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「もう終わりじゃないよね?」
 由香里のバトル場には草エネルギー一つついたワタッコ90/90、ベンチにはハネッコ30/30とタッツー50/50に加えて水エネルギーをつけたキングドラグレート130/130。
 そして薫は闘エネルギーが一つついているグライオン90/90をバトル場に出し、残りのゴマゾウ60/70とゴマゾウ70/70がベンチに控えている。
 どちらも残りのサイドは二枚だが、薫の闘ポケモン達は全て水タイプが弱点。その上にワタッコは闘タイプに抵抗力をもつ。可哀そうなほど絶望的状況だ。
 今の言葉も由香里らしい嫌なセリフだ。Sってやつか、違いない。
「くっ、あたしのターン!」
 しかし問題なのは闘タイプをメタられているというより、薫は頭に血が昇っているということだ。そんな感じじゃあいつも通りのプレイングは出来ない。
「薫、そう力まず落ちつけよ」
「翔は黙ってて!」
 えー……。いや、そうか、そう来たか。むしろ由香里は狙ってこの状況を作り出したのか。今由香里と目があったが微かに口元が緩んでいたのが証拠だ。
「抵抗力があるからっていい気にはさせない! スタジアムカード、アルフの遺跡!」
 二人の周囲の地面から、重い地鳴りを思わせる音を伴いながら古い建造物が現れる。丁度俺の足元からも石柱が出てきたので左に避ける。もちろん、ただの映像なので避けなくともいいのだが周りからは石柱に俺が埋まっているように見えてしまう。当前だがそれは不格好なのでお断りだ。
 これで俺たちは周りのしょぼい公園とは隔離されて遺跡気分を味わえる。んなワケあるか。
「このスタジアムが存在する限り、互いのポケモンの抵抗力は全てなくなる!」
「へぇ、やるじゃない」
 なるほどな、確かにこれでワタッコの抵抗力に関わらずに攻撃できるため突破出来そうだ。
「手札からポケモン通信を発動するわ! 手札のエテボースを戻してドンファングレートを加える! さらにベンチにいるゴマゾウ二匹を両方ドンファングレートに進化!」
 勝ち急ぎなプレイングか? ドンファングレート110/120と120/120が並ぶことで薫のベンチはボリュームを増す。
「グライオンにダブル無色エネルギーをつけ、ワタッコに攻撃。忍びのキバ!」
 穴を掘って地中に消えたグライオンは、ワタッコの背後の、死角から飛び出して鋭利な牙で噛みつく。だが、ワタッコ60/90に30ダメージを与えただけではないようだ。
「おお、これは!」
「ダメカンが乗っていないポケモンが忍びのキバによるダメージを受けたとき、そのポケモンをマヒにする!」
「へぇ。中々いいパンチじゃない」
 ちらと由香里がこっちを向いてくる。さっきからしょっちゅうこっちを向いてくるのだが、何を意図しているのかさっぱりわからない。ちゃんと前向いてやりなさい。
「あたしのターン。グッズカード、不思議なアメ。自分のたねポケモンを二進化ポケモンに進化させる。あたしはベンチのタッツーをキングドラグレート(130/130)に進化!」
 これで由香里も薫もグレートポケモンが二匹ずつ、ベンチで向かい合いっこだ。しかしキングドラはベンチからでも攻勢に回れる。
「キングドラのポケパワー、飛沫を上げる! 相手のポケモン一匹に10ダメージ。既にダメージを受けているドンファングレートに飛沫を上げるを二匹分受けてもらう!」
 キングドラグレートは二匹揃って口から水の塊を噴射。大きな軌跡を描いてドンファン90/120を襲う。10ダメージならまだしも、20ダメージを毎ターン受けるのは辛いが……。
「そして今進化させたキングドラに水エネルギーをつけ、サポートカードのオーキド博士の新理論を発動。手札を全て山札に戻しシャッフル。そして手札が六枚になるようにカードを引く。これであたしの番は終わりよ」
 そしてこのポケモンチェックのときに、ワタッコ60/90はマヒ状態から回復する。
「よし、あたしのターン!」
 先のターンで手札を使いきった薫。今あるのはさっき引いたカード一枚っきり。元から弱点等、不利な条件の元で戦っているのに手札も僅か、だが。
「うん。サポートカード、チェレンを発動。山札からカードを三枚引く」
 ここで上手いことカードを引けた!
「体力がマンタンの方のドンファンに闘エネルギーをつけ、グライオンで毒突き攻撃!」
 飛びかかったグライオンはその鋏でワタッコの体を一突き。50ダメージの威力でワタッコ10/90は窮地に陥る。
「毒突きの効果! このワザを喰らったポケモンは毒状態になる」
 これは綺麗に決まった。薫の番が終わったこのポケモンチェック、ワタッコは毒の効果で10ダメージを受ける。これでHPが無くなったワタッコは気絶だ。
「サイドを一枚引く。これで王手よ!」
「……キングドラをバトル場に出すわ。あたしのターン。ポケパワー、飛沫を上げる。二匹ともまだダメージを受けていないドンファングレートにダメージを与える!」
 今度は今までダメージを受けていたドンファンの隣のドンファン100/120に水の塊が打ち付けられる。あえてダメージを分散した意図は一体。
「グッズカード、ポケモンキャッチャー! 今ダメージを与えたドンファンをバトル場に出させる!」
 このカードは相手のベンチのポケモンを一匹選んでそのポケモンを強制的にバトル場に出させる強力なグッズカードだ。ドンファン100/120がバトル場に出たことでグライオン90/90はベンチに戻る。
「サポーター、フラワーショップのお姉さんを発動。自分のトラッシュのポケモンを三枚、基本エネルギーを三枚選んで山札に戻す。あたしは草エネルギー、ハネッコ、ポポッコ、ワタッコをデッキに戻す! そしてキングドラで攻撃。ドラゴンスチィーム!」
 キングドラが口から勢いよく水流を放出すると、それが竜の形を成してドンファンを飲み込む。
「きゃっ!」
 激しいエフェクトが薫まで襲いそうになり、両腕で顔を覆って可愛い悲鳴を一つ上げる。
「ドラゴンスチームの威力は60だけど、ドンファンは水タイプが弱点。よって60の二倍、120ダメージ!」
「で、でもドンファンのポケボディーの硬い体によって、ドンファンが受けるダメージは20減る!」
 とはいえ受けるダメージは大きい。そのダメージは60×2−20=100! ドンファンのHPを丁度削りきれるじゃないか。さっきの飛沫を上げるはこれを見越してのダメージ調整だったのか!
「サイドを一枚引いてあたしのターンは終わりよ」
「はぁ、はぁ……、あたしはベンチのドンファン(90/120)をバトル場に出すわ」
 今のドンファンじゃキングドラを一撃で倒すことは出来ない。エネルギーが一枚もついていない上に次の番にドラゴンスチームを受けると一撃だ。もう今度やられると由香里のサイドは0になる。勝機は無い、か。
「まだまだ! あたしのターン!」
「もうどうやっても無駄よ? 降参しても」
「降参なんかしない! あたしも翔みたいに最後の最後まで戦う!」
「……」
「薫……」
 どうやら薫はさっきまでの頭に血が昇っている状態から、今は興奮状態に徐々にシフトしている。良い感じでトランス状態だ。これなら本当に何かすごいことを起こしてしまうかもしれない。
「ドンファンを対象にグッズカード、まんたんの薬を発動。自分のポケモンのダメカンを全て取り除き、その後そのポケモンのエネルギーを全てトラッシュする!」
 ドンファンのHPバーが徐々に回復していく。このカードのデメリットも、そもそもドンファン120/120にエネルギー自体がついていないのでトラッシュする必要はない。だが、回復させても結局は飛沫を上げるとドラゴンスチームの効果で倒されてしまうが……。
「グッズカード、プラスパワーとディフェンダーを発動!」
「そう来るか!」
「プラスパワーはこの番相手に与えるダメージを10加算するグッズ、ディフエンダーは次の相手の番にワザで受けるダメージを20減らすグッズ。なるほどねぇ」
「ドンファンに闘エネルギーをつけて攻撃。地震!」
 ドンファングレートは高らかに脚を持ち上げると、それを強く地面に叩きつける。流石にバトルベルトとはいえ揺れは実感できないが、場のポケモン達は実際に地震を受けたかのように振動している。
 この地震は闘エネルギー一つで使えるワザだがその威力は60。しかしデメリットとして薫のベンチポケモン全員に10ダメージを与えることになる。
「プラスパワーの効果でキングドラには70ダメージ!」
「だけどそっちのグライオンも地震のデメリット効果で10ダメージよ」
 これでそれぞれの残りHPはキングドラ60/130、グライオン80/90。なるほどこれで次の薫の番、地震でキングドラグレートを倒すことが出来る!
「そう来ないとね! あたしのターン」
 理論的には今キングドラが飛沫をあげるを二回ドンファンに使い、ドラゴンスチームで攻撃しても、ポケボディーとディフエンダーで20+60×2−20−20=100ダメージでギリギリ耐えきり、さっき言った通り次の番に地震を喰らわせればキングドラを撃破出来る。まさにこれぞ起死回生の一手だ。
 だが、由香里は至って冷静だ。むしろ不敵な笑みが怖いくらいに。
「あたしは手札から、グッズカードを発動。ポケモンキャッチャー!」
「に、二枚目の!?」
 またもや由香里の場から放たれた捕縛網が薫のベンチのグライオン80/90をひっ捕らえ、強制的に入れ替えさせられる。
 グライオンもまた水タイプを弱点に持つポケモン。さらにディフェンダーの効果の対象になっているのはドンファンであってグライオンはダメージを軽減されない……!
「さて、これで終わりよ。ドラゴンスチーム!」
 最後の一撃がグライオンを飲み込んだ。



「あははは! この子ええ子やん」
 バトルベルトをハンドバッグに直した由香里は、俺の肩をばしばし叩きながら笑う。いつの間にか関西弁が帰ってきました。
「えーと騙してごめんな、薫ちゃんやっけ。改めて自己紹介するわ。宇田由香里って言うねん、よろしく。翔とは中学校時代の友達なだけで別にコレでもなんでもないで」
 コレと言いながら右手の小指を立てる。おっさんくさい。薫はさっきとは打って変わった態度を取る由香里にただただ呆然としている。俺もそうだ。
「翔が気になる子がいるって言ってて、その子が丁度そこにおるからどんな子なんかなあと試してみよか思(おも)てあんなケンカ吹っ掛けてん。ほんとごめんね」
 両手を合わせて小首をかしげるも、未だに笑いながらそう言っているので反省の気はこれっぽっちもないようにしか思えない。薫も、あ、はあ、と気の抜けた言葉しか返せないでいる。
「なかなか度胸もあって芯の強いええ子やん、あたしが彼女にしてやりたいくらいやわ」
「いや、本当に何言ってんの」
 俺が由香里に持たされていた荷物を、由香里がひったくるように奪う。一瞬取られたことに気付かなかった。
「ま、二人の邪魔するみたいな野暮なことはせずに、あたしはここでトンズラさせてもらいます。じゃあねー」
「え、じゃあね、ってちょ!」
 呼び止めようとしても由香里は聞く耳持たずでどんどん俺たちからは離れていく。あっけにとられて固まっていると建物の陰に隠れて見えなくなった。
 公園に俺と薫の二人ぼっち。きょとんと二人、視線を合わせてじーっとするだけだ。なんとかしてこの気まずい状況を打破しなければ。
「せ、折角だしご飯でも食べに行く?」
「え……、う、うん!」
 こういう時の機転の利かなさの悪さを怨む。そしてしまったな、由香里と昼飯食べたせいでもう金ほとんどなかったじゃん……。と気付くのはその後になってからだった。



薫「今回のキーカードはドンファン!
  こっちだってエネルギー一つで60ダメージ!
  さらにポケボディーでダメージ軽減だって出来るんだから」

ドンファン HP120 グレート 闘 (L1)
ポケボディー かたいからだ
 このポケモンが受けるワザのダメージは「−20」される。
闘 じしん  60
 自分のベンチポケモン全員にも、それぞれ10ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
闘闘闘 ヘビーインパクト  90
弱点 水×2 抵抗力 雷−20 にげる 4

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十一回「1エネ120ダメージ」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/95.html


  [No.974] 96話 偶然の再会S 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:57:47   25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「待たせたな」
「ん? 俺もさっき来たばかりだし」
「そうか。じゃあ早速行こうか」
 五月十五日は日曜日、俺と風見の二人で出かけることになった。余談だがさっき来たばかりとは言ったが俺は十五分前から待っていた。まあ風見は時間ぴったしに来たから別に責めはしないが。
 そもそもこいつと俺が一緒に出かけるのは、うちの引っ越しが終わって二日後の放課後のことだった。
 引っ越しを無理やり付き合わせたのだから今度は俺の用に着いてこい、という至極単純明快なものだ。
 その用と言うのも今日開かれる次世代型光学機器? とやらの講演を聞きに行くものらしい。
 俺としてはまるで興味がないが、まあ前述したとおり引っ越しに無理やり付き合わせたのだからこれくらいは仕方がない。寝ればいいし。あ、あと文化委員に無理やりさせたことも怨んでたな。
 駅から八分程歩いて大きめの区民会館につく。なんだかやけに仰々しい。入口の立て看板に従って進んでいく風見の後を俺はただただ追うしかない。
「なあ、ちょっと」
「どうした」
「俺たちより明らか年上の人ばっかりじゃない? スーツ来てる人までいるし」
「そいつらはそいつら、俺たちは俺たちだ」
「いや、まあそうだけど」
 俺は完全に場違いだ。もっと気楽なもんだと思っていたが、もしかしてこれ普通に技術者とかが来るやつじゃないのか。うーん、まあ確かに風見は技術者かもしれないが。
 ホールに着く。席は自由らしいので出来れば端っこでひっそりと過ごしていたかったのだが風見にかなり前の方まで連れて来られた。
「ほぁ〜、眠いな」
「寝不足か?」
「まあそんな感じ。昨日の深夜中継のサッカー見てたからあんまし寝てなくて」
 もう一発あくびが出る。視界が若干滲んだのはあくびで涙が出たからだろう。両手で両目を軽くこするとやっぱりその通り。
「これいつ開演?」
「二時からだからあと十二分くらいあるな」
「あとさ、どれくらいかかるのこれ」
「講演のことか? 二、三時間くらいだろうきっと」
「え、そんなにあるの」
「お前の引っ越しに付き合った時なんて一日持っていかれたぞ」
「あ、まあうん」
 引っ越しは体動かせるから暇じゃないじゃん。とは流石に言えなかった。風見が本気で怒ったところを見たことはないが、まあ本気までいかなくてもそれなりには怒るだろうし。
 そこからボーッとしていると、突如アナウンスと同時に拍手が巻き起こる。壇の端からはやや薄い白髪が気になる老齢の男が現れた。その中でも紺のスーツの胸元にある赤いリボン徽章が一際目立つ。
 机の上のマイクを手にとってから男は喋りはじめる。
「えー、この度は……」
 前の方にいたからかろうじて聞き取れたものの、マイクは電池が入っていないようで、男がこんこん鳴らしたり振ったりしてもそりゃあ出ないものは出ないだろう。
 男が現れた方とは反対側から、やや駆け足気味で助手と思わしき別のスーツを着たオレンジ色の短髪の男が新しいマイクを渡しに来……。
「あ!」
 思わず大声を出して立ちあがってしまった。それと同時にこのホールの時も止まったかのように固まる。
 もちろんのこと周囲の目が俺に集中した。俺に目線をやったのは風見や、周りの客だけではなく壇上にいた老齢の男と、その助手と思わしき男、冴木才知も。
「座れ!」
 小声で怒鳴って風見がジーパンを下に引っ張る。あ、ああ。と情けない声を出して着席すると、時が動き出したかのように才知は男にマイクを渡し、そそくさと壇から消えていった。
「不手際やハプニングがございましたことをお詫びいたします。さて、この度はこの講演会にいらしていただき誠にありがとうございます。今回は、次世代光学機器のあり方や、将来についてをわたくしが話させていただきます」
 さっきのあれは間違いなく才知だ。ここ一年程ほとんど連絡のとれなかった才知。
 あいつは俺たちと同い年のはずだ。なんで壇上にいたのかさーっぱりわからん。いや、壇じゃなくても俺の歳でこの席に座ってることも十分不自然なんだけども……。
 さて壇上では相変わらず老齢の男がなんだかんだ言ってるが、聞いたところで分からないので瞼を伏せる。リズム良く喋ってくれているので聞き心地がいい。
 そういえばこの老齢の男の名前なんだったかな……。



 次に目を覚ましたとき、辺りは割れるような拍手喝さいによって包まれていた。その中でたった一人腕を前にのばして伸びをする。
 どうやら講演会も終わったらしく、あの男ももう壇上から消えて行った。周りの人たちも席を立ち始めているようだ。
「あー、よく寝た」
「……はぁ。何があったか知らないが、急に立ち上がったかと思えばその過ぎ後に寝るとはな」
 急に立ち上がった時?
「あ! あー! それだよそれ! 思い出した」
「だからなんだ。分かるように話せ」
「最初のさ、マイクが電源入って無かった時に新しいマイクを渡しにきた人いたじゃん、あいつ絶対俺の中学時代の友達」
 風見は鼻でふんと笑うと椅子から腰を上げる。
「中学時代の友達が壇上にいるだと? 俺たちと同級生ってことは高校生二年生くらいだろう。そんなやつがなぜ壇上にいたんだ」
「いや、その」
「見間違いだろうどうせ。そんなことよりとりあえず帰るぞ。帰りはどこかで飯でも食べるか?」
「……いいけど」
 風見は俺の話を一向に信じてくれない。たぶん、風見が早口なのは俺が変に大声を出して目立ったことについて少しだけ怒っているからだろう。
 とはいえ風見をなだめる方法なんて何かあったか? うーん、恭介とかなら適当に飯食わしたら黙るんだけどなあ。
「お、おい、ちょい待てって」
 先に進んでる風見を追いかけ慌ててホールを飛び出した。と、同時に。
「おっと!」
「うわっ!」
 走っている俺は、途端に横から現れた人とぶつかりそうになる。
「ごめんなさい、大丈夫ですか? って、あれ」
 思わず頭を下げて謝る。そして顔を上げれば……。
「……才知、だよな」
「やっぱり翔だ!」
 今ぶつかりそうになったのは、さっき壇上でマイクを渡してきた男。目の前で見て確信した、やっぱり冴木才知だ。
「おい、どうした」
 風見が俺たちの大声を聞きつけて何事かと戻ってくる。
「お、紹介するよ。俺の高校の友達の風見雄大。で、こっちは俺の中学時代の友達の、冴木才知」
「よろしくね」
「えっ、あ、ああ」
 何が何だか分からない戸惑いを見せつつも、才知が出した右手に応えるよう握手をし返す。どうだ、見間違いなもんか。
「風見くんの話はよく知ってるよ、バトルベルトの開発者」
「ああ、ありがとう」
「へぇ。才知は風見のこと知ってたのか」
 才知は首を縦に振る。やはりバトルベルトの開発者となると有名になるのは当然か。そういえば気になっていたことが。
「どうして壇上にいたんだ?」
「え? だって今回は伯父さんの講演会だから手伝いに来たんだ」
「伯父さんだったのアレ!」
 あの老齢の男、明らかに見た目は六十歳行ってる気がするんだけど本当に伯父なの?
「そうだ。折角だし一緒にご飯食べに行こうぜ」



 スーツから私服に着替えた才知と俺と風見で会館からすぐそこのファミレスにやって来た。
 本当はまだ五時半くらいで食事には早いのだが、この後も才知は用が詰まっているらしいのでまあそこは仕方ない。
 聞く話によると、才知はさっき演説してた伯父さんの研究室で光学機器の研究の助手をしているらしい。
 風見と同じく学業との二足草鞋だが、風見以上に研究に時間を割かれていて研究室用の携帯電話を持たされていてそっちばかりを触っていたから俺のメールになかなか気付かなかったらしい。もはやその携帯はないのと同じじゃないのだろうか。
 それを取り繕うように聞かされたが、自分の携帯を見るのは一週間か二週間ごとに一度程度のようで、こないだの由香里が来たという話ももちろん後になってから知ったとのこと。せめて後からでいいから返信くらいしてくれれば良いものを。
「へー、忙しいんだね」
「でも僕としては充実しててすごい楽しいから満足してるんだよ」
 元から才知は何でもこなす天賦の才があったから、将来は研究者にでもなってるかもしれない。そう思っていたことも多々ある。が、まさかもうなっているとは完全に思いの外だ。風見もそうだがお前ら早い。早すぎる。
「正確にはいろいろと違うところはあるんだけど、バトルベルトも一応光学機器だし僕と風見くんはきっとそれなりに通じるとこがあるかもしれないね」
 そう言って向かいにいる才知はスパゲッティを口に押し込む。一方左隣りにいる風見はどうかしたのか細かく切ったハンバーグをフォークに突き刺したまま固まっている。
「……その手もありか」
「うん? 風見さっきからどうした」
「あ、ああ。それより冴木、君の仕事用の携帯のアドレスを教えてくれないか」
「もちろん」
 風見は刺しっぱなしのハンバーグを口にいれると携帯を取り出す。応じた才知も携帯を出して赤外線通信でやり取りをする。
 本当は俺もよく連絡が取れるならと思ってそっちのアドレスを聞こうと思ってたのだが、邪魔をしちゃ悪いなと思って言えない。風見も才知も自分のやるべきことをしっかりと見つけてやっているんだ。その邪魔は出来ないよなあ。
「おっとそろそろ戻らなきゃいけないからごめんね、お金は置いとくよ」
 腕時計を確認してから冴木はポケットから千円札を取り出して机に叩きつけ、席を立つ。
「若干多くてもおつりはいいから!」
「お、おお! じゃあまたな!」
「後で早速連絡させてもらうぞ」
「それと翔、あのときの約束はまだ続いてる。今年こそ、三人で全国大会で会おう!」
 そう言うと才知は駆け足で去っていった。約束。由香里が大阪に戻るとき、ポケモンカードの全国大会でまた三人で集まろうという約束だ。もしかしたら才知は由香里が東京に来てた時、約束が叶う前に三人が揃うのを拒んで来なかったのかもしれない。……いや、いくらなんでも考えすぎかな。
 手を振りながら才知の背中を追っていたが、すぐに壁の向こうとなり見えなくなる。
 四人席に座っていたのだが、向かい側にいた才知がいなくなって俺と風見が隣同士。これじゃあ不格好なので食器を動かし風見の向かい側に座る。
「そういや才知に連絡って、何かあるの?」
「まあバトルベルトの事でいろいろ参考程度にな」
「ふーん」
 深く聞いたところでどうせ素人の俺にはわからないだろう。この辺でこの話は切り上げるとするか。
「今さらだが」
 風見が話を切りだした。しかし話しかける割には目線は俺にではなく才知が置いて行った千円札に。
「冴木の分、千円じゃ多少足りないよな」
「……確かに」



風見「今回のキーカードというより次回のキーカードだな。
   大型の二進化ポケモンカイリューだ。
   コイントスの結果次第ではドラゴンスタンプは強大なワザとなる」
   
カイリュー HP140 無 (LL)
無無無 やすらぎウインド  50
 このポケモンの特殊状態をすべて回復する。
無無無無 ドラゴンスタンプ  80
 コインを2回投げ、すべてオモテなら、相手のバトルポケモンをマヒにする。すべてウラなら、このワザは失敗。
弱点 無×2 抵抗力 闘−20 にげる 4

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十二回「計算順序」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/96.html


  [No.975] 97話 不穏な影E 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 19:59:22   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 冴木才知に連絡先を教えてもらった翌日に早速メールを出してみた。
 その内容はバトルベルトに関すること。前々から調査している、いつどこから現れたか分からない謎のプログラムについての解析を依頼したものだ。
 しかし三日経ってもまだ良い結果は受け取れない。やはりそれほど困難なモノなのだろう。とりあえず明日の事もあるので時計が九時半を指したのを確認してからTECKを出た。
 僅かに感じる空腹感と、疲れた体がとにもかくにも早めの休息を欲しがっている。心もそうだ。早く休んでしまいたい。しかしこの疲労感、やりきったという達成感がクセにもなる。
 そんなときだった。
 誰かに後をつけられている。そう感じたのは五分歩いたところにあるTECKの最寄り駅についてからだ。おそらくTECKを出たときから既に着いてきたのであろうか。エースキャップを深く被っていて顔が見えない。口元もマスクで見えない。不自然過ぎてかえって目立つ。
 時間をかけてややいつもと違う電車の乗り換えをして振り切ろうとするが、それでもしっかり着いてくる。
 結構しつこいな。このまま逃げ続けてもキリがない。むしろこちらから向こうをなんとかして捕まえる方が早いか。
 自宅のあるマンションの最寄り駅から二つ前の駅で降りる。五番出口から出て、街灯が少ない暗く狭い道をいくらか通る。闇の中に立つカーブミラーで正体を確認しようとしたが、いくらなんでも暗すぎるし、やはり相手ががっちり見た目を隠そうとしていることもあってか分からない。
 それでもこの状況を打開しうる最低限の情報はしっかり得た。
 角を曲がるときに走り出す。向こうが慌てて走り出す足音が聞こえる。身体的能力に自信がない俺だが、夜の公園に誘うことくらいは出来た。
 走りながらバトルベルトにプログラムチップを挿入して立ち止まり起動させ、そして振り返る。
『周囲の使用可能なバトルベルトをサーチ。コンパルソリー。ハーフデッキ、フリーマッチ』
 突然相手のバトルベルトが勝手に起動してバトルテーブルを形成する。この公園にも灯りが少ないために向こうの顔が見えないが、おそらく驚いていることだろう。
 これは他のバトルベルトを探し出し、もっとも至近距離にあるそれを強制的に起動させるシステムプログラム。開発したは良いが使うことはないと思っていたのに、まさか使うチャンスがあるとはな。さっきのカーブミラーで相手がバトルベルトを身につけているのを確認したため思いつきでやったまでだが、成功と言ったところか。
「さあ、お前が何を思っているかは知らないが、悪いが無理にでも相手をしてもらうぞ」
 このコンパルソリー状態で起動したバトルテーブルは、普段は切り離されるはずのバトルベルトと連結したままでバトルテーブルから離れることが出来ない。バトルテーブルのような大きいものを体の前に携えながら動くことなど無謀もいいところ、笑止千万だ。
 さらにバトルテーブルには使用者の登録情報がデータ上に示され、対戦相手にも名前が分かるようになっている。これで正体を掴めるはずだが。
「……どういうことだ?」
 モニターにはEnemyとしか表示されない。なぜ相手の情報が出ない。自分の情報にはきちんとYudai Kazamiと表示されている、故障ではないはずだが一体どうして。
「まあいい。ともかく戦うまでだ」
 俺の最初のポケモンはミニリュウ50/50。相手のポケモンはバトル場にノコッチ60/60、ベンチにムウマ50/50。
 コンパルソリー状態で勝負を仕掛けた場合、仕掛けた側から先攻をとることになっている。相手が一向に動じる様子を見せないのが気になるが、迷ってる余裕はない。なんとしても正体を明かしてやる。
「行くぞ、俺の番からだ。まず俺は手札からダブル無色エネルギーをミニリュウにつけ、サポートカードのポケモンコレクターを発動。自分の山札からたねポケモンを三枚まで手札に加える。俺はチルット二匹とモグリュー一匹を手札に加え、その三匹を全てベンチに出す」
 すかすかだったベンチがチルット40/40二匹、モグリュー70/70と一気に満たされていく。ポケモンがベンチに登場するときのエフェクトの光で相手の顔を伺ったが、やはり白い大きなマスクに目深に被った赤いエースキャップのせいで顔が見えず、特徴という特徴がまるで掴めない。その屈強な骨格からかろうじて男であることを類推するのが限界だ。
「ミニリュウでノコッチにぶつかる攻撃」
 体をくねらせてノコッチに体当たりを仕掛ける。攻撃を受けたノコッチ40/60は軽くふらついてバランスを崩しそうになる。
「私のターン。私は、ノコッチに超エネルギーをつけてデュアルボールを発動」
 案外従順に勝負を受けるじゃないか。余程腕に自信があるのか。デュアルボールはコイントスを二回行い、オモテの数だけたねポケモンを手札に加えることができるグッズカード。俺と同じくたねポケモンを増やすつもりだな。コイントスの結果はウラ、オモテ。
「私はダンバルを手札に加えてベンチに出す」
 超タイプのダンバル60/60か。珍しいカードを使ってくる。警戒するに越したことはないな。
「サポートカード、エンジニアの調整を発動する。手札の超エネルギーカードをトラッシュし、カードを四枚ドロー。更にもう一枚デュアルボールを発動する」
「二枚目か」
 だがその結果は芳しくなく二回ともウラ、不発に終わる。ハーフデッキは同名カードは二枚までしかデッキに入れられない。これ以上デュアルボールを使われることはないな。しかしあいつはさらにもう一枚グッズカードを使ってくる。
「手札からポケモン通信を発動。私はジラーチを戻し、デッキからムウマージを手札に加える」
 ムウマージを加えたか。おそらく次の自分の番にベンチのムウマを進化させる手はずといったところだろう。しかしどうせムウマージを加えるならば次のターンでも良いはずだ。
「ノコッチでバトルだ。恩返し! 与えるダメージは10ダメージだが、攻撃した後自分の手札が六枚になるようにカードを引く」
「手札増強だと!?」
 今の敵の手札は四枚。さっき無理やりポケモン通信を使って手札を減らしたのはこの効果で引けるカードを一枚でも増やすためか。
 やはり佇まいからして中々のやり手が相手のようだ。それだけに何故こんな俺をつけるようなことをしてくるかが気になる。
「一体俺に何の用だ」
「そっちこそ対戦を仕掛けてきて何になる」
「……」
「そうだな。良いことを思いついた」
 暗がりの中、敵は両手を横に広げる。雰囲気から感じてきっと顔は笑っているのかもしれない。
「折角こうなったんだ、取引でもしようか」
「取引だと?」
 相手のペースに惑わされないように気をつけなければならない。向こうが有利な方にことを運ばせることだけはさせてはならない。
「そうだ。取引だ。私が負ければ素直に引き下がろう。だが私が勝てば、君は我々のところに来てもらう」
「我々だと?」
「そうだ。美紀様がお前が戻ってくるのを望んでおられる」
 風見美紀。俺の母親、いや、義母か。俺を中学時代まで育ててきた親。しかしあいつの元、北海道からわざわざ離れてここ東京に来ている。そんな簡単にのこのこと帰ってたまるか。
「そうか、お前が父さんが言っていた刺客か? 悪いが俺はそれを望んでなくてな」
 先月の頭、父さんと食事を取った時に言っていた言葉を思い出す。
『EMDCの狙いは恐らく……。お前だ、雄大』
 その読みは正解のようだよ父さん。ここまでして俺に用があるだなんて、向こうもそれなりに本気のようだ。
「……望もうと望まなかろうとお前はいずれ有無も言えなくなる」
「出来るものなら是非ともそうさせてほしいものだ。今度は俺の番だな」
 引いたカードは研究の記録。手札のチェレンと合わせれば上手く活用することが出来る。
「まずはバトル場のミニリュウをハクリューに、そしてベンチのチルットをチルタリスに進化させる」
 ハクリュー70/80とチルタリス90/90がそれぞれ雄々しく力強い鳴き声を上げる。布石は順調だ。
「ここでグッズカード、研究の記録を使わせてもらう。自分の山札の上からカードを四枚確認し、その中のカードを好きなだけ選んで任意の枚数を好きな順にデッキの底に戻し、残りのカードを好きな順にデッキの上に戻す」
 確認した四枚はポケモン通信、焼けた塔、オーキド博士の新理論、闘エネルギー。手札と合わせて必要なカードを考慮した結果、焼けた塔を一番下、闘エネルギーをその上に置き、オーキド博士の新理論をデッキの一番上、ポケモン通信をその下に戻す。そして今確認したカードを引く手立てもきっちり用意してある。
「サポートカード、チェレンを発動。自分の山札の上からカードを三枚引く」
 今確認して置きなおしたカード二枚ともう一枚がすぐ手札に来るようにしたコンビネーションだ。しかしポケモン通信はまだ温存。使うのは次のターンだ。
「そしてハクリューに闘エネルギーをつけてノコッチに攻撃。叩きつける! このワザはコイントスを二回行い、オモテの数かける40ダメージを相手に与える。……ウラ、オモテ。40ダメージだ」
 ハクリューの長い尾が鞭のようにしなり、ノコッチの背中を強く叩きつけた。弾んだボールのように跳ね返ったノコッチ0/60はこれで気絶だ。
「サイドを一枚引かせてもらう」
「ほう。……私はダンバルをバトル場に出す」
 三ターン目にしていきなりポケモンを倒された割にはやけに反応があっさりしている。それにダンバルのHPは60、運によっては叩きつけるで80ダメージを受けて返しのターンで倒される。何かあるか。
「私のターン、手札から不思議なアメを発動。自分のたねポケモンを二進化ポケモンに進化させる。現れろ、メタグロス!」
 ダンバルの目の前に青色の飴が現れる。ダンバルがそれに触れるとダンバルが光だし、あっという間に姿を変えて大型ポケモンメタグロス130/130現れる。メタグロスは登場と共に腹の底まで響くような咆哮を上げる。なるほど、こいつがエースカードだな。
「勇ましくメタグロスを出したところはいいが、そのメタグロスがワザを使うには最低でもエネルギー二個が必要だぞ。一つもついていないメタグロスでは何もできない」
「果たしてそうかな」
「何だと?」
 どういうつもりだ。普通自分の番にはエネルギーは一枚しかつけることができないが、そこまで言うなら何か策があるというのか。
「私はベンチにジラーチを出し、ポケパワーを発動。星屑の歌!」
 ジラーチ60/60がベンチに現れると同時に奇妙な旋律の歌を奏ではじめる。
「このポケパワーはジラーチを手札からベンチに出した時のみ使うことが出来る。コイントスを三回し、オモテの数だけトラッシュの超エネルギーをジラーチにつけることが出来る。……オモテ、ウラ、オモテ。よってトラッシュにある超エネルギーを二つジラーチにつける」
 エンジニアの調整で捨てたものと、ノコッチについていたものの二枚か。
「なるほど。だがジラーチについたところで肝心のメタグロスの懐がお留守だぞ」
「ムウマをムウマージに進化させ、ムウマージのポケパワーを発動。マジカルスイッチだ」
 ジラーチの体から超のシンボルマークが飛び出し、それがメタグロスの体に吸収されていく。
「自分の番に一度、自分のポケモンについている超エネルギー一つを別のポケモンにつけ替えることが出来る。そしてメタグロスに超エネルギーをつける」
「なっ!」
 たった一ターンでエネルギーを二個つけたというのか。やはりこいつは一筋縄ではどうもならないか!
「さらにサポートカード、チェレンを使いカードを三枚ドロー。そしてベンチにダンバル(60/60)を出してメタグロスでそのハクリューに攻撃だ。波動砲!」
 メタグロスは前の二つの腕を近づけると、腕と腕の間に藍色のエネルギーの弾を作りだす。
「波動砲の威力は60。受けるがいい!」
 放たれたエネルギー弾は直進してハクリューの体に直撃し、強い爆風のエフェクトが発生する。
「ぐう、これしき!」
 ハクリューのHPは残り10/80だが、慌てることはない。きちんとそれに対抗する手段を俺は持ち合わせている。
「俺のターンだ! 手札からグッズカード、ポケモン通信を発動する。手札のモグリューを山札に戻し、カイリューを加える。そいつがお前のエースカードというならこちらも全力で行こう。ハクリューをカイリューに進化させる!」
 ハクリューの体が白く輝き、そのフォルムを大きく変えていき、このデッキのエースカード、カイリュー70/140が雄叫びと共に登場する。
「そして俺はカイリューに闘エネルギーをつけ、サポートカードのオーキド博士の新理論を発動。手札を全てデッキに戻してシャッフルしたのちカードを六枚ドロー。そしてモグリューをドリュウズ(110/110)に進化させてカイリューで攻撃。ドラゴンスタンプ!」
 ワザの宣言と同時にコイントスボタンを押す。このワザの威力は80だが、コイントスをして二回ウラならワザは失敗してしまう。その一方で二回オモテならば、相手をマヒにさせる強力な追加効果がある。しかしそこまでは恵まれず、コイントスの結果はオモテ、ウラ。失敗でないだけ合格点だ。
 カイリューはその大きな体でメタグロスを踏みつける。大きな音と土煙のエフェクトがこの小さな公園を覆った。
 相手のメタグロス50/130のHPを大きく削げた上、カイリューのHPは70/130。もう一度波動砲を受けたところで10だけHPが残り、返しのターンでドラゴンスタンプを決めればメタグロスを倒すことが出来る。
 そうしたならば俺のサイドは残り一枚、ハーフデッキでここまで痛手を負うと相手はそこから立て直すことが出来なくなって当然だ。
 俺は風見美紀や、EMDCと戦う決意をした。そういう訳もあって、いくら手強いとはいえ刺客程度にそう簡単に負けるわけにはいかない。
 必ず勝つ!



風見「今回のキーカードはメタグロス。
   重いように見える逃げるエネルギーもポケボディーで軽減。
   二つのワザで相手の内も外も崩していけ」

メタグロス HP130 超 (E)
ポケボディー サイコフロート
 自分のバトルポケモンに超エネルギーがついているなら、そのポケモンのにげるエネルギーは、すべてなくなる。
無無 はどうほう  60
超超超 ダブルレッグハンマー
 相手のベンチポケモン2匹に、それぞれ40ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 4

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十三回「二枚以上」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/97.html

蜂谷亮の使用デッキ
「友達百人デストロイ」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-885.html


  [No.976] 98話 新たなる決意D 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 20:00:21   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「カイリューで攻撃。ドラゴンスタンプ!」
 カイリューはその大きな体でメタグロスを踏みつける。派手な大きな音と土煙のエフェクトがこの小さな公園を覆った。
 これで相手のメタグロス50/130のHPを大きく削げた上、カイリューのHPは70/130もある。もう一度メタグロスの波動砲を受けたところで10だけHPが残り、返しのターンでドラゴンスタンプを決めればメタグロスを倒すことが出来る。
 そうしたならば俺のサイドは残り一枚。ハーフデッキでここまで痛手を負うと相手はそこから立て直すことが出来なくなって当然だ。
 今の俺のバトル場にはダブル無色一枚、闘エネルギーが二枚ついたカイリュー70/140。そしてベンチにはチルット40/40とチルタリス90/90、ドリュウズ110/110。
 相手のバトル場は超エネルギーが二つついているメタグロス50/130にベンチにムウマージ90/90、ダンバル60/60、超エネルギーが一枚ついたジラーチ60/60。サイドは現在俺が残り二枚で相手が残り三枚。
 通常バトルベルトの持ち主の名前が表示されるはずであるバトルテーブルのモニターには、対戦相手の名前はEnemyとしか表示されず、大きなマスクに赤のエースキャップで正体を隠すこの男はどうやら俺を狙っているようだ。
 俺の義母から送られたこの刺客、Enemyを振りきるにはこの対戦で勝つしかない。確かに相手はやり手だが、今の場は俺の方が極めて優勢だ。
「ふん。私のターン。まずはベンチにいるダンバルをメタング(80/80)に超エネルギーをつける。さらにムウマージのポケパワー、マジカルスイッチを発動」
 ジラーチの体から超のシンボルマークが飛び出て、それがベンチにいるメタングの体に吸収される。
「このポケパワーで自分の番に一度、自分のポケモンについている超エネルギーを一つ別のポケモンにつけかえることが出来る。そして続けてサポートカード、チアガールの声援を使わせてもらう。その効果で私はカードを三枚引く。そして相手は任意でカードを一枚引くことが出来る」
 俺もカードを引くことが出来る、だと。舐めているのか?
「いいだろう、俺もカードを一枚引く」
 しかしあいつのカードを引くペースが早いように思う。六ターン目にして残りの山札のカードはたったの四枚。これだと相手はもうドロー出来るサポートカードは使うに使えないだろう。
「山札が気になるのか?」
「ふん……」
「安心しろ。私の山札が切れる前にお前の負けは決まる。グッズカード、プラスパワーを発動。このターン、相手のバトルポケモンに与えるワザのダメージを10プラスする」
「な、何っ!?」
「メタグロスで攻撃だ。喰らえ、波動砲!」
 相手のメタグロスが放った強烈な波動攻撃をカイリューは腹で受ける。と同時、再びその衝撃が風のエフェクトとなって襲いかかる。あまりのそれに右腕で顔を守る。少しして風が止んだと思うと、HPが尽きたカイリューが倒れ伏し同時にまた僅かに風が舞う。
 油断していないと言えば嘘になる。余裕があったといってもプラスパワー一枚でエースカードがやすやすと撃墜されるとは。60+10=70できっちりと気絶させに来たか。
 問題はまだカイリューがもう一ターン以上持つとばかり思っていたがために、俺のベンチのポケモンはどいつもエネルギーがついていない。見事にしてやられた。
「サイドを一枚引く。どうしたどうした、余裕がなさそうに見えるが」
「ふっ、思ったよりも饒舌なんだな。俺はチルタリスをバトル場に出す。そして俺の番だ、まずは手札の闘エネルギーをチルタリスにつけ、ベンチにモグリュー(70/70)を繰り出す」
 今の俺の手札にはダブル無色エネルギーとスタジアムカードの焼けた塔がある。無無無でチルタリスが使えるスタジアムパワーは元の威力が40ダメージだが、スタジアムが場にあれば威力をさらに30増やすことの出来る大技に化ける。これでメタグロスを退けることが出来る。今はそのための時間稼ぎをしよう。
「チルタリスで攻撃。黒い瞳!」
 俺のチルタリスが不思議な念動力で、メタグロスを眠りに入らせる。このワザは相手をただ眠らせるだけでなく、20ダメージも与える効果がある。これでメタグロスの残りHPは30/130、あと一撃で倒せるところまで追いつめた。
「さてここでポケモンチェック。眠りのポケモンはコイントスをしてオモテなら眠りが回復する。……オモテ、これでメタグロスは眠りから回復」
 それでもチルタリス90/90は必ず波動砲は間違いなく耐えることが出来るはずだ。返しのターンでスタジアムパワーを喰らわせ、メタグロスを気絶させればまだ勝負を持ち返すことは出来る。
「私の番。ベンチのメタングに超エネルギーをつけ、ムウマ(50/50)をベンチに出す。そしてメタグロスのポケボディー、サイコフロート。超エネルギーがついているポケモンは逃げるエネルギーがなくなる」
「なっ、……メタグロスを逃がすだと?」
「メタグロスを逃がしてベンチのメタングをバトル場に出し、そして私はメタングをメタグロス(130/130)に進化させる」
「二体目のメタグロスか!」
 完全に予想外な展開にややたじろぐ。これだと返しのターンにスタジアムパワーで倒すことが出来ない。
「さらにグッズカード。ポケモンサーキュレーター!」
 バトル場のメタグロスの隣に現れた巨大扇風機が強い風を巻き起こし、チルタリスをベンチまで吹き飛ばす。
「このカードの効果で相手のバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるポケモンは相手が選ぶ。さあ何を繰り出す」
 今のベンチはモグリュー70/70、チルット40/40、ドリュウズ110/110。波動砲のことを考慮すれば、選択肢などあってないようなものじゃないか。
「ドリュウズをバトル場に出す」
「だろうな。それではメタグロスで攻撃、ダブルレッグハンマー!」
 相手のメタグロスはバトル場のドリュウズ……を通り過ぎ、ベンチまで進むと隣り合うチルットとモグリューに対して前の腕を二本持ち上げ、叩きつけるように振り下ろす。ずしんと土煙を伴った重い音が響く。
「ベンチに攻撃だと!?」
「このワザは相手のベンチポケモン二匹にそれぞれ40ダメージを与える」
 重い一撃を受けたチルット0/40とモグリュー30/70はどちらもうつ伏せに倒れている。モグリューはゆっくりと立ちあがったが、もちろんチルットは立ちあがることはなかった。
「サイドを一枚引く。私の番はここまでだ」
 いつの間にやらサイドの枚数が追い抜かれてしまっている。しかもドリュウズはエネルギーがついていない上に逃がすにはエネルギーが一つ必要だ。
 慌てるな、冷静に対処しろ。場をよく見渡せ、手札を確認しろ、必ず活路はあるはずだ。場……? そうか。チルタリスだ。
「俺のターン。手札の闘エネルギーをドリュウズにつけ、グッズカード、エネルギー付け替えを発動。チルタリスの闘エネルギーをドリュウズにつけ替える」
 無理にチルタリスで戦わす必要はない。スタジアムパワーを諦めてドリュウズにしっかりシフトをすれば、十分戦うことが出来る。
 ダブル無色エネルギーがドリュウズに適用されればよかったのだが、ドリュウズの一番威力の高いワザは闘エネルギーを三つ要求する。ダブル無色エネルギーは仕方ないが使えない。
「続いてベンチのモグリューをドリュウズに進化させる」
 ドリュウズ70/110に進化すれば次の番にダブルレッグハンマーを受けても耐えることが出来る。
「さらにグッズカード、ポケモンキャッチャー。相手のベンチポケモン一匹を強制的にバトル場に出す。ベンチにいるメタグロスをバトル場に出してもらおうか」
「なんだと?」
 突如放たれた捕縛網がベンチのメタグロス30/130を捕え、そのままバトル場に引っ張られる。今はとにかくこいつを仕留めることが先決だ。
「ドリュウズで攻撃。メタルクロー!」
 鋭い爪の一撃がメタグロスを襲う。独楽(こま)のように弾かれたメタグロス0/130はそのまま倒れて動かなくなる。メタルクローの威力は30、相手のメタグロスを十分倒せる威力だ。
「サイドを一枚引いて俺の番は終わりだ」
「メタグロスをバトル場に出す。私の番だ、ベンチのムウマをムウマージ(90/90)に進化させて、メタグロスで攻撃。ベンチのチルタリスとドリュウズにダブルレッグハンマー」
 再びベンチに激しい二撃が襲いかかる。メタグロスの怒涛の攻撃に、俺のチルタリス50/90もドリュウズ30/110も、残りHPはギリギリだ。
 しかしどんなに苦戦を強いられていようと、まだ逆転の可能性はある。俺の山札は残り四枚。サイドを含め残った五枚のうち、あの一枚を確実に引けるかがカギだ。
「俺のターンッ!」
 引いたカードはまんたんのくすり。良いタイミングで来たもんだ。
「手札からグッズカードを発動。まんたんのくすり。自分のポケモン一匹のエネルギーを全てトラッシュして、そのポケモンのダメージを全て回復させる。俺はベンチのドリュウズを回復」
「なっ、何だと!?」
 ドリュウズが淡い緑の光に包まれれば、HPバーがみるみる110/110に戻っていく。まんたんのくすりには前述したデメリットがあるが、ベンチのドリュウズにはエネルギーがついていないので、トラッシュする必要がない。
「そしてドリュウズに闘エネルギーをつけてメタグロスに攻撃! ドリルライナーッ!」
 ドリュウズは両腕を上げて頭のそれと合わさって一つの大きなドリルとなり、その姿のまま回転してインパクトある一撃でメタグロスを襲う。
「このワザの威力は80。そしてこのワザでダメージを受けた相手のエネルギーを一つ、トラッシュする! メタグロスの超エネルギーを一つトラッシュしてもらおう!」
 次の番に相手の手札に超エネルギーがあって、メタグロス50/130のダブルレッグハンマーを受けたとしてもベンチのドリュウズは気絶しない。また、プラスパワーを使われたとしてもプラスパワーの効果はバトルポケモンに与えるダメージのみ。残りHPが50/90のチルタリスはそれによっては倒されることはない。
 それに相手の手札は二枚、山札のカードも二枚だけだ。
「くっ、私のターン! ……メタグロスで波動砲攻撃だ」
 もう恐れることはない。メタグロスの一撃を受けたところでドリュウズ50/110はしっかり俺の場に残っている。
「決まったな。ここまでだ」
「くっ……!」
「俺の番だ。さて、これで終わりだ。ドリルライナー!」
 トドメの一撃がメタグロスに決まり、爆発のようなエフェクトから熱と風と煙が暗がりの公園に舞う。
「最後のサイドを引いて俺の勝ちだ」
 モニターにWINと三文字表示され、全てのポケモンの映像が消えていく。バトルテーブルを元のバトルベルトに戻して尻もちをついた刺客に近づくと、相変わらず顔は見えないがぐう、と唸っている声は聞こえた。
「何故だ……何故、負ける」
 俺が見下ろした先にいる刺客は左拳を地に叩きつける。熱くなり過ぎた。それがこいつの敗因だ。目の前の状況に囚われ、場を見渡すほどの広い視野が足りなかった。
「さて、そこまで言うならば俺に勝つ自信はあったのか」
 首を横に回したそいつは少し黙っていたが、やがて容器から溢れた水のように言葉を零す。
「過去のデータを参照にして、お前と戦っても勝てるように対策を練ってデッキを組んできた。だと言うのに──」
「悪いな。俺はお前たちと戦うと、新たに決意を固めた。過去と決別するために、俺は常に自らを進歩させていかねばならない。いつまでもあの時と同じ俺だと思うな。そう伝えておけ」
 言い終えたが同時、刺客が急いで立ちあがり走り去って行き、闇に紛れて見えなくなってから俺は深く安堵のような息をつく。先ほどまで全身に張りつめていた緊張が抜けて、思うように体に力が入らなくなりそうだった。
 しかしまさかこんなことまでしてくるだなんて。これからの雲行きが限りなく不安になる。だが、それでも俺は負けない。どんなに辛い戦いが待ち受けていようと、新たな決意を胸に立ち塞がるってくるならばどんな敵であろうともこの手で捻り潰すまでだ。



風見「今回のキーカードはドリュウズ。
   ドリルライナーは相手のエネルギーをトラッシュ出来る。
   トラッシュするエネルギーを選べる、というのは大きなポイントだな」

ドリュウズ HP110 闘 (BW1)
無 メタルクロー  30
闘闘闘 ドリルライナー  80
 相手のバトルポケモンについているエネルギーを1個選び、トラッシュする。
弱点 水×2 抵抗力 雷−20 にげる 2

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十四回「致命的なミス」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/98.html

宇田由香里の使用デッキ
「クイックフルフォース」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-886.html


  [No.977] 99話 解せない疑問W 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 20:01:11   30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「一之瀬くん、……あれ? 一之瀬くーん!」
 いつも彼が座っている椅子にいないことを、相変わらず低身長の松野藍は呼びかけてから気付く。
「アイコさん、一之瀬ならさっきトイレに行ってましたよ」
 後輩が、戸惑う松野藍にひと声かける。このアイコというのが松野藍の社内でのあだ名である。元々は一之瀬が下の名前を勘違いしてアイコと言ったのが始まりだった。
 一之瀬に用事を頼もうと思っていた松野だったが、いないのは仕方がない。待つ他ない。
「そう。……最近彼、なんだかしょっちゅうトイレに行ってない?」
「どうせ頻尿とかじゃないんすか?」
 後輩の今の一言で、オフィスにはやや笑い声が広がる。



「本当にそんなことが……」
『今理論を言ったところで君が理解できる保障は一切ない、が、それでもメカニズムを知りたければ』
「分かった……。それじゃあ頼む」
 一之瀬は他に誰もいない男子トイレの端っこで、携帯電話を通して有瀬悠介と連絡を取っていた。
 連絡を寄こしたのは向こうからだった。携帯が鳴ったときは、どうせまたアルセウスジム杯に関する用事を押しつけられるのだろうと思っていたが、それとはまるで違う話に虚を突かれてしまっていた。
 有瀬が話していたことは文字通り、一之瀬からしては「次元が違い過ぎて」一之瀬を含む常人はそんな馬鹿なと口を揃えて言うだろう。とはいえ、有瀬は嘘をつかない。元より嘘をついてもなんらメリットはない。だから一之瀬は有瀬の言葉を消化不良のまま飲み込むしか無かった。
 約束も守り真実しか言わない有瀬を信用する、だがあまりにも常識から外れすぎた馬鹿げた話が多いため、心のどこかでセーブがかかり、百パーセントは信じれていない。最も有瀬の話し方が胡散臭いのもあるのだが。
 一之瀬はふと自分の右手を見つめる。百パーセント信じれない、そんなことはどうだっていいんだ。現にとんでもないことは既に起きているのだから。能力(ちから)のこともそうだし、有瀬だってそうだし、そして自身に起きていることだってそうだ。
 有難いことなのか、有瀬によって能力に関する全ての情報を知ってしまっている。その事実を知った上で、一之瀬は自分で出来ることで手伝いたいと有瀬に言ったのだ。
 ところであんなに騒がれそうな存在である能力が世間に知られていないのは、有瀬の特殊な催眠術じみた情報操作のお陰なのだが、有瀬にも限度はあると言っていた。もし限度が来て大々的に報道でもされてみれば、世間からのバッシングから来てポケモンカードは終わりだ。
 ポケモンカードを愛し続けた一之瀬にとってそれはあまりにも耐えがたい。早く能力をどうにかしなくてはいけない。
 有瀬が言ったのはその状況を打破する方法だった。
『準備が出来た。行くぞ』
 突如一之瀬の足元の空間が裂け、そのまま重力に従って落ちていく。空間の裂け目が一之瀬を飲み込むとそこで裂け目は元より存在しなかったようにそっと消えた。
 そして別の空間に送られた一之瀬は、ゆっくりと足を地に付ける。一之瀬の目の前には、先ほどまで電話していた相手の有瀬がいた。
「会うのはしばらくぶりか」
「そうかもしれないね。そして、ここに来るのも久しぶりだ」
 相変わらずここは何度来ても慣れないな、と一之瀬は思う。空間の裂け目からを通って無理やり呼び出されたこの空間。前後左右上下ともどこまでも果てしなく黒の世界が続く。明らかに自分たちのいる世界を逸脱したここが、有瀬の領域だ。
 その黒の空間にふさわしくない白色の巨大な装置が一之瀬の目を引く。こんなものいつの間に。
「こいつが私たちの計画を進める」
 有瀬は自分の背の五倍程はある装置に触れると、装置中央にある半径一メートルはある透明な大きな玉がオレンジ色にほのかに光る。
「気になっているようだな。それでは話そう、こいつが一体何なのか」
「ああ、頼む」
「こいつは───」




「え、ええええ!?」
「ちょ、それマジ!? マジなの!?」
 ホームルーム中のクラスでどよめきが広がる。今のように騒ぎ立てるやつもいる。思わず椅子から立ち上がったやつもいる。脱力して口が金魚のようにパクパクしてるやつもいる。
 事の発端は担任の一言からだった。
「修学旅行の件だが、本来予定されていたオーストラリアには行けなくなった」
 修学旅行実行委員の俺は既に昼休みから聞かされていたが、騒ぎになるからお前は黙ってろと教師から釘を刺されていた。だからこうしてクラスメイトがさっきのようにオーバーなリアクションを取ったということだ。
「先生どうしてですか!」
「ちょ、理由は!」
 怒号が教室を轟かす。そりゃあそうだ。楽しみにしているやつが恐らく大半なのに、行けなくなったの一言で片づけられてはどうしようもない。無理なら納得させる理由をよこせ、とのことだ。まあそうなるのも当然だ。
「理由はだな。えー、最近テレビでニュースになってるように、オーストラリアで発生した連続凶悪犯罪のこともあって、PTAからの御意見と校長先生や学年の担任達で相談した結果オーストラリアには行かない、ということになった」
 再び教室はざわざわし始める。ところで、この凶悪犯罪というのは丁度俺たちが行く予定になっている地域で発生した事件だ。死傷者二十人が出るかなりの大事なのに、犯人がまだ捕まっていない。
 そんなとこにみすみす行くなんて馬鹿しかいない。いや、馬鹿でさえしないだろう。生徒の安全が第一な学校やPTA側としては行かないという判断を取るのは当然だ。とはいえ俺のように初めて海外に行くやつも多い生徒も多い。そうした海外に行けることを楽しみにしていた生徒からしたらいい迷惑だ。
「その代わり! ちゃんと修学旅行はやるぞ。行先が変わったんだ。これはさっき決定したばかりなのだが……」
 急に教室のざわめきがぴたりと止む。俺も聞いてない情報だ、おそらくホームルームの直前にあった会議か何かで決まったのだろうか。さて、一体どこなんだ。
「北海道だ」
 その一言に対してのクラスの反応は様々だった。喜ぶ者もいれば、夏に北海道かよと文句を言う者もいれば、もうとりあえず修学旅行に行けるだけでいいと言う者もいる。ちなみに俺は一番最後。
 もちろん北海道にも行ったことのない俺からすれば、どちらにせよ未知の土地であるから期待も膨らみ始める。テレビで雪がすごいイメージが強いから、夏の北海道かあ、どんなのかちょっと気になるなあ。
 北海道? そうか、そういえば確か風見は北海道にいたことがあったはずだ。
「なあなあ風見!」
「……ああ、どうした翔」
 隣の席の風見に声をかけたが、物憂げな表情から察するにどうしてか機嫌はあまりよろしくないようだ。声をかけたのはまずかったか。
「で、なんだ?」
 俺が言葉に詰まっていると、風見がさっさと言えとばかりに俺に催促する。
「えあ、北海道ってどんなとこかなあって聞きたくてさ、あはは、あはははは……」
「はぁ。それを調べるのが修学旅行委員の仕事だろう」
 まったくだ。だが、そう言った風見の目は笑っていなかった。何かある。
 首を俺の反対の方に向けて教室の窓から外を眺めながらため息をつく風見の姿は、どこか憂いのようなものがあって、いちいち探りを入れるのも悪い気がしてきた。



「拓哉、一緒に帰ろうぜー」
「あ、ごめん。今日は病院行かなくちゃダメだから」
「そっか、それ、取れるんだな。修学旅行までに間に合って良かったじゃん」
「うん。ほんと、ようやく解放されるって感じだよー。それじゃあ、またね」
「おう、明日な!」
 校門で蜂谷の誘いを断った俺の相棒は、蜂谷とは違う方向に歩きだす。
 今日、相棒はようやく左腕のギプスが取れるのだ。長い間俺のせいでギプスをつける羽目になってしまったため、そのことを考えると胸が痛む。
 よく考えるとPCCからは既に二カ月以上が過ぎたのか。長いような、短いような。
「どうしたの? 今日はやけに静かだね」
(ああ、いろいろ考えててな)
「もしかして、まーたこれが自分のせいとか考えてないよね?」
 そう言って相棒は左腕のギプスをさする。
(違ぇーよ。あれからもう二カ月経ったのかな、って思ってただけだ)
 風見杯が終わってからももちろんそうだが、特にPCCが終わってからの相棒はすこぶる良い意味で変わった。出番がないからというワガママではないが、俺が体を使って前に出る、という機会が少なくなった。
 俺は相棒の負の感情から生まれた。言うなれば俺という存在は相棒の負の感情そのものと言っても過言ではないだろう。その俺が前に出る機会が減ったということは良いことだ。きっとそれは相棒が成長したということを示唆しているのかもしれない。
 もしそうだとして、相棒がこのまま成長すれば、俺は要らなくなる……のだろうか。
 この頼りない相棒を守るために現れたこの俺という存在は、いつしか相棒が強くなることで俺は不要になって、やがて消えるのだろうか。ああ、当然のことじゃないか。俺にとっては相棒が全てだ。そうなればなったで俺は受け入れるしかないし、俺にとっても本望だ。いつか一人でしっかりと、この世界の暗いところも明るいところも受け入れるようになって欲しい。
 だというのになんだこの妙な突っかかりは。まだ俺は消えるわけにはいかない、相棒を護らなければいけない。そんな胸騒ぎがしてやまない。
 その突っかかりのうち一つはかつて俺に宿っていた能力(ちから)のこと。初めて母親を異次元に幽閉したとき、俺はカードからサマヨールを呼び出した。
 俺が出来ることは生き物を違う次元に幽閉することだけだ。なのに何故サマヨールはカードから「現れた」? 俺の能力とは関係ないはずだ。
 そしてもう一つ。能力とはそもそも一体なんなのか。これに関しては当然のように翔たちも疑問に感じているはずだ。
 いや、これだけじゃない。まだ何かがある……。
 そんなとき、ふと脳裏に一之瀬のいけすかない顔が過ぎる。なんで今あいつの顔が出るんだ。ケッ、鬱陶しい。
 今までの俺たちが見知った情報を合わせると、能力は負の感情に作用して宿り、そして対戦に負けると能力が無くなるということだ。
 事実そうだったのだ。が、負けて能力がなくなるというより、正しくは「能力が吸い取られる」という感覚だった。風見杯で翔に負けたとき、俺、いや、俺たちの体には何かを吸い取られたような、形容しがたい虚脱感が残った。そしてそれ以降、能力が使えなくなった。
 ……吸い取られる、ということは吸い取るやつが必ずいるはずだ。
 なんて至極胸糞悪い話だ。きっとまた、能力絡みの何かが起こるだろう。そのときは今度こそ、この相棒を護ってやらないといけない。もう同じヘマはしない。相棒を護る、それだけが俺の存在する理由だから……。



翔「今回のキーカードはプラスパワー!
  たかが+10と思えばその10ダメージに泣くぜ?
  グッズカードで使い勝手にも困らないカードだ!」

プラスパワー グッズ
 この番、自分のポケモンが使うワザの、バトルポケモンへのダメージは「+10」される。

 グッズは、自分の番に何枚でも使える。

───
ポケモンカードスーパーレクチャー第十五回「あ痛っ!」
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/lecture/99.html

番外編「ドリンクバー」

翔「ファミレスのドリンクバーって値段するからさ、その値段以上分飲んでやりたくならない?」
風見「気持ちは分からなくもないが、だからといって肝心のメインディッシュを残すのはどうかと思うぞ」
翔「いや、まだだ。意地でも食べる……」