マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.474] 【再投稿】Unhappy Valentine? 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/25(Wed) 17:00:09   105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「はあ……」

 大学時代の友人と久々に女子会して、目一杯飲んできた帰り道にはあまりに似つかわしくないため息。つきたくなかったのに、思わずついてしまった。
 久しぶりに会う友人ばかりで、楽しみにしていたはずだったのに。

 そう、女子会。
 女子会の話と言えば、そりゃ仕事のグチとかもあるけど、メインはいわゆるガールズトーク。特にバレンタインが近いせいで、みんな私にお構いなしでノロケ話のオンパレード。

 あー、はいはい、しーちゃん別れた彼氏と復縁した。そりゃよかったねー。
 りっちゃんは付き合いはじめてもう5年かー。え、指輪もらった!? はいはい、よかったねー。
 ユウは何、上司と別れて部下に乗り換えた!? へー、そうですかそうですか。よくやるねー。
 え、カナ! アンタまで彼氏できたの!お幸せにー。

 「アンタ、今日相槌適当じゃない?」と訊かれたときは、ちょっと焦ったわ。お酒入ってるせいで気持ち悪くなったふりしてごまかしたけど。


 つい先ほどまでの甘い空気を思い出して、うんざりしている私の近くに、紫色のトラックが止まった。
 路肩にトラックを止めて、降りてきたのは、紫色の制服を着た女性配達員。持っているのは有名高級チョコの包み。制服のポケットから、紫のガスが出ているような……気がした。ああ、酔ってるのか、自分。
 気が付くと、一面紫の彼女を目で追っていた。
 配達先の家から出てきたのは、嬉しそうな女性。きっとあらかじめお取り寄せしておいて、バレンタイン当日に渡すのだろう。当日が楽しみだという、幸せオーラがあふれ出ている。
 はいはい。どうぞどうぞ。お幸せにー。横目で観察し、通り過ぎながら、心の中で感情の全くこもってない言葉を吐き出す。


 ああ、それにしてもこの空気。街を歩けばバレンタインバレンタインって。
 彼氏どころか好きな人すらいない、完全フリーの私にとっては、独り身の寂しさを肌身で感じさせられるばかり。
 ああ、もう!世間みんな幸せそうで!! 友人一同もいちゃついてばかりで! 余計私にひもじさ感じさせやがって!!

「ああ! もう! ばくは……」

 爆発すればいいのに、と思わず言いかけて。
 確かに今は周りに人がいないとはいえ外。爆発しろなんて発言するのは問題だ。でも、酔った私がそんな細かいことを気にして発言をやめたわけではない。

 確かに、目の前に人はいない。

 が、ポケモンはいるのだ。さっきまではいなかったはずなのに。しかも大量に。

 そう。大量のカゲボウズ。黒いてるてる坊主の集団が、じっと私の方を見つめていたのである。
 そんな光景に出くわしたら、一気に酔いも醒める。

「あ、あたし、そんなに負の感情出してたの……!」

 このあたりにはカゲボウズが頻出する。以前見かけた時は野生かと思っていたけど、どうやら家の近くのアパートに住み着いているらしい。そう噂で聞いた。
 確かにカゲボウズがこんなごく普通の街に野生で大量に住み着いている……というのは考えにくいけど、まさかアパートに住み着いてるとは。よっぽど負の感情に満ちたアパートなのか。

 カゲボウズは、負の感情に引き寄せられる性質を持つ。以前こっぴどく失恋した際、その負の感情に引き寄せられた大量のカゲボウズを、そのまま勢いで世話したことがあった。
 その日以来、目を付けられてしまったのか、私がネガティブモードになるとしばしば私に寄ってくるようになった。今では寄ってきたカゲボウズの数で、自分の精神状態を客観的に判断できるようになったくらいだ。

 でも、これだけ大量に寄ってくるのは久しぶりだ。それこそ、あの失恋以来かも。

「……あのさ、とりあえず落ち着こう。ね。外だし。」

 カゲボウズたちに言っているのか、やっぱりまだ酔いが残る自分に言い聞かせているのか。

 さっきまであれほど凄かった負の感情が収まって、ある程度冷静になっているのは、カゲボウズたちがそれを吸収したせいなのか。それともこの真っ黒な状況を見て、私が叫んでるどころではなくなっているせいなのか。
 とりあえず、気がついたら、酔いに任せて爆発しろと叫ぶどころではなくなっていたのは確かだった。



 結局、カゲボウズたちは、家までついてきてしまった。家の中を縦横無尽にふわふわと動き回る彼ら。そんな彼らを後目に、冷蔵庫から缶チューハイ、そして食料庫からはチョコレートを取り出す。
 仕方ないからカゲボウズ交えて二次会だっ。カゲボウズにお酒はあげないけど。そもそもポケモンにお酒あげていいのかもわかんないし、第一、酔っぱらって家の中でわざ使われたら、たまったもんじゃない。お酒の代わりに、私の負の感情で満足して欲しいところ。

 え? 何でつまみがチョコレートなのかって?私、甘党だから、普通のおつまみよりこっちの方が好きなのよ。……体重は気にしない方向で。

「お酒はないけど、これだったら食べて良いわよー」

 机の上に出したのは、ちょっと大きめだが、ごくごく普通の板チョコ。綺麗なチョコが街を彩る季節だが、私の食料庫にそんな豪華なものはない。線に沿って小さく割られたものが、そのまま皿代わりにされた銀紙の上に置いてあるだけ。ポケモンに人間用のチョコあげていいのかも実はあやふやだけど。まあ酔っているし仕方ない。

 カゲボウズたちは私の声に反応して、一気に食べ始める。
 嬉しそうに頬張る者。初めて見るのかちょっと警戒心を持って食べ始める者。じっくり味を確かめるかのように噛みしめて食べる者。反応は様々だ。

 そんな中、食べた後明らかに嫌そうな顔をしている者たちも。……あ、こいつら、甘い物嫌いだな。直感的にそう気づく。

 客人に申し訳ないことをしたなぁと思い、私は食料庫から別の物を出してくる。
「アンタたち、甘い物嫌いなの?だったらこれどう?」
 それは、いわゆるカカオ99%チョコ。一昨日興味本位で買ってきたけど、一片食べただけであえなくリタイア。そのままになっていたものだ。

 甘い物嫌いのカゲボウズたち。さっきよりも黒い欠片に興味津々な者、警戒している者。反応は分かれたが、興味津々な者が食べ、今度は美味しいといった姿をしていると、警戒している者も食べだした。
 ……うん、反応は悪くなさそうだ。

 不満げだった客人をももてなせて、何となく嬉しくなってくる。

 ……だが、これだけでは終わらなかった。目の前にやってきたのは、甘い物好きのカゲボウズたち。ふと机の上を見ると、あれだけあった板チョコはすっからかん。もっとくれといった表情で、私の目を見つめる。

「……申し訳ないけど、今日はこれでおしまい。さ、帰った帰った。」

 カゲボウズたちにそう言い聞かせるが、彼らは動こうとしない。どんどん私に迫ってくる。今にも「のろい」や「うらみ」を発動しそうな雰囲気。……ヤバい。

「こ、今度来たときはちゃんと作ってあげるから!」

 気が付いたら発していた言葉。
 その言葉に反応して、表情が和らぐカゲボウズたち。
 負の感情の圧力から解放され、安心したところで、ふと気づく。

 あ、あれ? あたし今、何て言った?


「ちゃんと作ってあげるから」


 つ、作る……!!?


 そ、そうか……。
 彼氏がいない今年のバレンタインに手作りチョコを送る相手は、まさかのカゲボウズたちか……。予想外の展開に、驚きと絶望とが混ざりあったような何とも言えない感情を隠しきれない。
 そしてその横で、私のその感情すら、肥やしにしているような、嬉しそうなカゲボウズたち。

 ま、言ったからには作らないと仕方ないか。カゲボウズたちに恨まれたら怖いし。それにお菓子づくり自体は嫌いじゃないしなー。
 その複雑な感情すら、カゲボウズたちは吸い取ってしまったのか、結構すぐに前向きに検討を始めている自分。カゲボウズたちに踊らされまくっている気がしないでもないが……。まぁいっか。

 とはいえ、ポケモンのためだけに作るのも何だよなー。せっかくだからついでに誰かにあげようかしら。

 そう思った瞬間、目に留まったのは継ぎ接ぎだらけのヒメグマのぬいぐるみ。
 ヒメちゃんを見て脳裏に浮かぶのは、以前ヒメちゃんをボコボコにしたあの元気なジュペッタ。
 そして、その後ものすごい勢いで謝りに来て、ヒメちゃんを直してくれた、あの優しい瞳の青年。

 ……あ、そういえば、あたし、まだお礼出来てない。何かお礼しようと思ってたのに、結局仕事に忙殺されててすっかり忘れてた……。ダメすぎる……!

 この機会に、感謝の気持ち込めてってのも、いいかもしれないな。世の中には義理チョコっていう、こういう時にピッタリなものもあるわけだし。うん、ちょうどいいかも。

 気が付いたらバレンタイン爆発しろなんて感情は、どこへ行ってしまったのか。
 彼氏はいないけど、何だかんだでチョコ作りに励む、前向きなバレンタインにはなりそうな予感。



おわりませう



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【テーマ:悪(バレンタイン爆発しろ的な意味で)】


【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【いろいろお借りしてしまったのよ】
【勝手にフラグたててしまったのよ】

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修正して再投稿です。


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