こんにちわー!
チョロネコヤマトです!
本日限定、パティシエール配達サービスをご利用いただき誠にありがとうございます。
受け取りにはハンコかサインを……。ここにお願いします。
あ、会話は苦手なのでコミュニケーションはなるべく筆談でお願いします。大丈夫、硬筆三段の腕前ですから。
……え?頼んでいない?いいえ、確かにご注文受けましたよ。
パティシエールの方から。
あ、サインされましたね。はい、ありがとうございました―。
……もちろん、終わり次第引き取りに参ります。
では、良いバレンタインを!
箱を開けてみて私は、途方に暮れた。
中に入っていたのは、チョコレートをはじめとした、お菓子の材料。そしてお菓子のレシピ。でもって一匹のゲンガー。
……何で我が家にポケモンが?しかも宅配便で。
確かに、家には時々カゲボウズが寄りついてくるけど、基本的に私の一人暮らし。まあ、時々寂しくなることもないわけじゃないけど、それでも一人好きなところもあって、うまくやっていけてる。
パートナーとしてポケモンを連れてみることも……、まあ、考えなかった訳じゃないけど、結構仕事忙しいし、そんな無責任に連れられるもんじゃない。
……のに。どうして我が家にゲンガーが?
不思議に思っていると、ゲンガーが紙を見せてきた。
『バレンタインの お手伝いに 来ました』
やたらと綺麗な文字で書かれている。
え?バレンタインのお手伝い?手伝いって言ってもそんな……いったい何?
そう思っていると、ゲンガーはすらすらと文字を書き出した。
『ポケモンから 人間まで お菓子なら何でもござれ』
……こ、このゲンガー、明らかに私より字が綺麗!……めちゃくちゃ敗北感を感じる。ポケモンの方が字が上手いってどういうことよ。人間としてものすごーく恥ずかしいぞ、自分。
そこまで落ち込んでようやく、配達員さんが筆談がどうとかって言っていたことを、記憶の片隅から取り出す。ああ、筆談ってそういうことか……。
「で、どうしてアンタ、私の家に?」
『バレンタイン 乙女の聖戦 協力します』
……聖戦なんて言葉よく知ってるなぁ。
「でも、私、今恋なんてしてないし、そんな乙女って言えるような人間じゃないし……」
『女の子は 誰だって 乙女です!』
……何故私はゲンガーに乙女だと言い聞かされているのだろうか。自分が人間としてどうなのかという気持ちが、ますます膨らんでくる。
『とにかく 作りましょ! 乙女の聖戦に向けて!』
ゲンガーはそう書き記すと、キッチンへ飛んでいく。……って、それ私のキッチンなんだけど! おーい!
結局、ゲンガーに押し切られる形で、私はお菓子作りをすることになった。チョコレートケーキを作るべく、チョコレートを湯煎にかけつつ、小麦粉をふるう。
ゲンガーは慣れた手つきで、どんどん私にボディーランゲージ(流石に調理しながら筆談は大変らしい)で指示をしていく。
えっと、次は、こっちのチョコを湯煎に……?
手渡されたのは、見慣れない濃紫色のパッケージのチョコレート。
「……怨念チョコレート!?」
なんじゃいそりゃ。
裏面を見てみると「原材料:砂糖、カカオ豆、牛乳、怨念」……。怨念って、そんないったいどこで手に入るんだ……と一瞬考えたけど、呪われそうな気がするのでやめといた。
『それは カゲボウズの 向こうのとは 混ぜないように』
流石にボディーランゲージでは伝えきれなかったのか、ゲンガーが筆談で指示を出してくる。
ものすごくテキパキした完璧な指示。完全にプロの犯行。先生と呼ばざるを得ない。
……って、あれ? カゲボウズ相手にチョコ作ること知ってる、ってことは……。
何となく突然の来訪者の情報源が読めてきた。まさか酔っぱらいの一言がこんなことになるとは……。
さらに手渡される怨念入りビターチョコ。あ、これも別に作るのね。苦いの好きな子用か。そこまで注文わたってるのね……。
カゲボウズたちからのある種の怨念に、私は苦笑いを浮かべつつ、先生の指導下でお菓子作りを続けるのだった。
家中に広がる甘い香り。そして、ケーキの焼き上がりを告げる、オーブンの音。
ゲンガー先生指導の元、ついにガトーショコラの完成!
焼き上がりは……ありゃ、ちょっと足りなかったか。そう思った瞬間、先生はちょっと離れてて、と合図を私に送り次の瞬間。
サイコキネシスによって、ふわりと浮かんだケーキ。その周りに現れたるは青い炎。おにびの火力でガトーショコラは内部まで完全に火が通った。焼き加減十分。……流石先生。
さて、今度こそ焼き上がり十分。
カゲボウズたち用のトリュフは、冷蔵庫で冷やしてるし、これで完せ……え、まだ?
『仕上げは まだまだ これからよ』
そう書くと、取り出したるは、ハート型の型紙と粉砂糖。あら熱がとれた後、先生の指示に従って、粉砂糖をケーキに振りかけていく。茶色い大地に舞い降りる、ハート型の粉雪。うーん、なんて綺麗。
可愛い装飾の箱にしまい、リボンをかけて完成!
……それにしても、先生が用意したこの純白の箱にピンクのリボン、私だったら絶対恐れ多くて絶対チョイスできないくらい、乙女。というか、このお菓子作りの腕からして、まず間違いなく女子力上だ!
……ポケモンに女子力で負けたという事実、正直かなり悔しい。
その、私に猛烈な敗北感を与えている先生は、そんなことを気にも止めず。ケーキを崩さないよう、ゆっくりとサイコキネシスで箱を浮かべ、次に私を……って、え?
「ちょ、ちょっと! 何するの!?」
私は抵抗するすべもなく、そのままガトーショコラとともに、ゲンガー先生に連れ出されるのであった。
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【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【パティシエールありがたいのよ】
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修正して再投稿。
冒頭部は当時音色さんが投稿したものをそのまま使わせていただきました。
怨念チョコレートはスズメさんの作品からのインスパイアです。