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  [No.737] Hyper fresh 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/09/24(Sat) 08:57:54   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※この作品は「ポケモンカードゲームシリーズ(PCS)」の番外シリーズとなっておりますが、そちらが未読でも楽しむことが出来ます。
東京から遠く離れた大阪の地。森啓史は幼馴染と共に公式大会、PCCへの出場をするが、そこでとんでもないことに巻き込まれ……。

ポケモンカードゲームシリーズ、略称PCSの番外編です。
こちらの略称はHF。
PCSを読んでいればこちらは大丈夫でしょう。

【時間軸的にはPCSのPCC編頃です】

ツイッターもやってます。「weakstorm」

私と霜月さんのサイト、「気長きままな旅紀行」
http://www.geocities.jp/derideri1215/
でりでりのブログ、「Over fresh」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/


キャラクターをまとめてみました。気長wiki
http://www15.atwiki.jp/kinaga/

デッキソースまとめ
http://www.geocities.jp/derideri1215/library/card/deck.html
カード検索はこちらから(公式サイト。だいすきクラブのログインが必要です)
http://pcgn.pokemon-card.com/help/index.php

奥村翔botが登場!
https://twitter.com/okumurasho_bot
風見雄大botが登場!
https://twitter.com/kazamiyudai_bot
藤原拓哉botが登場!
https://twitter.com/#!/ftakuya_bot


  [No.738] 1話 発端 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/09/24(Sat) 09:01:22   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 この駅は今日もうざったくなる程人が集まっている。
 ここを通学に使う身としては、ここを訪れる修学旅行生や外人、旅行に来たおっさんおばはんが邪魔で仕方ない。
 特に外人なんて最悪で、タチが悪いと道を聞いてくる。
 こちとら英語の成績ひどいんだ。これ以上ない迷惑である。
 道くらい調べてから来なさい。
 などと一人で悪態をつきながら歩いていると、唐突に肩を叩かれた。
「おはよ」
 幼なじみの宇田由香里(うだ ゆかり)であった。
「おはよ」
 こいつとは家が近所な上に親同士が仲良しだったせいか、幼稚園以前からの知り合いで、小学校も中学校も一緒だった。
 と言えど中学校に入る春のときに由香里の父が東京に赴任することになり、一緒に東京に行って一時離れることになってしまった。二年後の中学三年の春には戻って来て再び同じ中学で学ぶことにはなったのだが。
 そしてたまたま同じ高校に入り、今のように同じ通学路を行くことに。
 決して悪い奴ではないんだが、ちょっと絡みがめんどくさいところがあるのがたまに傷。
「昨日寝不足でめっちゃ眠いわ……」
「何してたん?」
「ネット」
「相変わらずやなあ。ほらもうあくび移ったやん」
 一つ大きなあくびをすれば、由香里も続いて大あくび。は、いいんだが叩くな、痛い痛い。
 朝の駅は今日も変わらず人で雑多していて、改札口は人と人がぶつかりそうになる。
 駅を抜けて学校までの長い長い徒歩の時間を学校の話やら他愛のない話で潰していると、由香里がこんな話を切り出した。
「そういや来週のバトチャレ行く?」
 バトチャレとはバトルチャレンジの略で、ポケモンの公式イベントのことだ。
 ゲームとカードの対戦が行えるイベントで、特にゲームのようにWi-Fiなどなく対戦機会が少ないカードにとっては絶好のイベントである。
 丁度学校の側のショッピングモールで行われるので、交通費も定期があるし行こうかと誘われたのだ。行かない手はないだろう。
「中学生以上は午前はカード部門のみで午後はゲーム部門のみやってさ。両方出るやろ?」
「当たり前やろ」
 と、言ったはいいが気になる点が少しばかりある。
「日付は?」
「安心しーや。別になんかと被ったりはしーひんから」
「せやったらええねんけど」
 その後は話題が再び学校の話に戻り、長い道のりを歩いてようやく学校に辿り着く。
 階段を登り我ら一年生の教室のある二階に着くと、由香里と離れた。高校までも同じ俺たちだが、俺と由香里は隣のクラス同士である。



 デッキをどうしよう。
 今日はほとんどそんなことを考えていた。なんせここしばらくまともにデッキを組んでいなかったものでどう構築していいかが手探り状態だ。半日考えていたらもう下校時刻になっていた。時の流れが早すぎる。
「どないしたん? そんな鳩がロケットランチャーを喰らったような顔して」
「鳩死んでるぞそれ」
 学校から駅までの長い道を、一人デッキを考えながらのんびり帰っていると行きと同じように由香里が声をかけてきた。
「うん、せやから啓史の顔が死んでるような顔」
「ケーシィ言うな」
 啓史と言うのは俺の下の名前で、名字は森。この下の名前を伸ばすとケーシィに聞こえるからそう呼ばれたりすることがあるのだが、呼ばれる度になんだかバカにされたように言われるのでただの蔑称でしかない。個人的には嫌いな呼び名だ。
「言うてへんわ! ちょっと自意識かずっ、過剰ちゃう?」
「なんやねん、詰まるとこちゃうやろ」
「うっ、うっさいなぁ」
 からかうように笑ってやると、由香里が顔を赤らめて、すぐにプイッと前を向く。横髪のせいで由香里の顔が見えなくなる。
 ちょっと怒らせてしまったのか、会話は絶えて周囲の雑踏しか聴こえなくなる。
 こういう沈黙は大の苦手。こうなった責任をもってこちらから話しかける。
「噛むといえばさぁ」
「せや、バトチャレのことやねんけど」
「俺の話……」
「他に誰か誘った?」
「え? ああ、誘ったよ」
 そう聞くと由香里は右手を軽くデコに当てた。この動作に果たして何の意味があるのか。
「で、誰誘ったん」
「タカ」
「ホンマに杉浦好きやなぁ」
 タカというのは杉浦孝仁(すぎうら たかひと)という俺の親友の名前である。高校は別々だが、由香里同様付き合いが長い。
 彼は俺や由香里のようにカードはやらないが、ゲームが非常に強くてそこそこ名が知れている。
 ちなみに私見だが非常にイケメンである。
 呼び方で分かるかもしれないが、俺とタカはかなり仲がいいが、由香里とタカはそんなに仲がいいわけではない。せいぜい友達ってとこだ。
「杉浦は朝から来んの?」
「うん。来るって言ってた」
「朝はカード部門だけやのになんで来るん?」
「聞いたところだと理由は一人で行くのが嫌っていうのと、(※)野良試合したいからやってさ」
※野良試合・ポケモンのワイヤレス通信を利用し、適当な人と対戦をすること。
「なるほどな、納得したわ」
「まあタカ自体は場所わからんし賢明な判断やろ」
 ようやく着いた駅のホームでは今にも新快速が出ようとしていたところだった。
 鞄を閉まろうとしていた扉に挟み、無理やり扉を開かせる荒業を使って乗った電車はいつもより乗客が多かった。
 夏は終わったがまだ九月。熱気が溢れる車内では、一日の疲れが直接に体に来てデッキを考えるまでに思考能力は届かなかった。


  [No.759] 2話 バトルチャレンジ 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/10/01(Sat) 19:34:06   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 イベント当日。学校に行く日と同じ時刻に起きた。
 学校のそばが会場なので、この時刻に起きるのは当然と言えば当然だ。
 とはいえ日曜日なのにこんな早くから起きるのは気にくわないのだが、二度寝をしてしまわないうちに芋虫のようにベッドから這い出る。



 地元のJRの駅の改札で待ち合わせをしていた。駅の側のコンビニでお茶のペットボトルを買い、一人先に待つ。
 待ち合わせの時間は七時十分。もう八分なのに二人が来る気配が一切感じられない。
 いわゆる時間にルーズというものが信じられないタチなのでだいたい十分前に集合場所に来るのがモットーなのだがいかんせん他の二人は遅すぎる。
 携帯をいじいじしてるとようやく由香里がやって来た。十七分になってからだった。
 黄文字で雑多に書かれた英語をプリントしたピンクの長袖のシャツと、白のプリーツスカートで現れた由香里は着くや否や肩で息をする。
「間に合った?」
「全然間に合ってへんわ」
 これだけ待たして何を抜かす。仕方ないのでペットボトルを渡してやると、ありがとうと一言言ってからガブガブ飲み始める。一口のつもりがこの野郎。
 さて、問題はあと一人だが―――。
「ちょっとタカに電話してくる」



 由香里も遅刻癖があるが、特別タカは時間にルーズ過ぎる。
 ルーズというかただ単に朝が弱いというか、七割近く寝坊してるだろう。
 しつこく電話をかけて四回目でようやく繋がった。
 今もう出るとこだ、とタカは言っていたが今もう起きたとこだの間違いだ。声が寝惚けている。しっかりしなさい。そんなことを言っても何もならないので通話を切る。
 あと二十分待ちか……。このとき既に時刻は七時二十分を越えようとしていた。



 京都駅に着いたのは九時になってからだった。
 由香里とタカの遅刻者二名に加え、人身事故で電車が遅れたため更に予定が狂っていく。集合時間を早めに設定していて本当に良かった。
「いつも八条西口から学校に向かって行ってるけど、今日は反対(こっち)側からやねんな」
「会場にはバスで行かなあかんからな。アホみたいにバス停多いこっちから行かな」
 梅田のバス地獄で経験済みだが、バスが大量にある場所ではどのバスがどこにつながるか確認しなければならない。特に三人ともあまりバスを使わないタイプなのでこの作業は困難だった。
 バスの路線図がびっしり書かれている大きなボードの前に立ち、目的のバスはどれかと探していると、背後の人とぶつかった。
「あっ、すいません」
 そう言って、左に体を動かした。
 ぶつかった男も申し訳ないように軽く会釈する。
 少し太った体型と、大きな黒縁眼鏡。なのに坊主頭な地蔵を思わせるその男と目があったが、意外と愛嬌のある顔だった。
 後から「はよせー!」と、由香里の怒号が飛びかかり、我に帰る。いやいやお前も手伝え。
 ようやく目的のバスを見つけると、今にも発車しそうなそれに俺達三人は駆け込んだ。



 ようやく着いた。
 会場のあるショッピングモールは、中に入ればここが会場だよという甘いものではない。むしろ会場を探すのはここからだ。
 アホみたいに広いショッピングモールの一角にある会場を自分達で探さなければいけない。地図はあれどもそこまでが遠い。
 割りと人見知りな俺とタカは、由香里に職員に会場がどこか尋ねる仕事を押し付けてようやく会場にたどり着く。
 バトルチャレンジ会場。既に熱い対戦があちこちで始まっていた。
 ちびっこ共がゲームで、その隣のスペースでは大きいお友だちがカードで戦いを繰り広げている。
 ちなみにグッズ売り場もあり、カードや各種グッズが売ってある。
「んじゃ行ってくるわ」
「おう」
 俺と由香里は目的の違うタカとは別れ、カードコーナーへ。
 用紙(正式名はバトルシート?)を受け取り、列に並ぶ。
 カードをする机には数が限られているので、溢れた人らは机が開くまで、係員の指示に従って並ぶのが一般的。今回もそうだ。だいたいこの時間がすごく退屈。
 列から目を凝らせば、少しばかし対戦の様子が伺える。
 デッキシールドが東方、しかもその相手は恋姫無双、いわゆるキャラスリーブかよ。分かる自分もアレやけど、回りのテーブルを見たら他にもいろいろあるのにポケモンスリーブが少なすぎる。
 ちなみに俺のデッキシールドはアルセウスが書かれた暗い青色のものである。逆に浮きそう。
「ボサッとすんな」
 急に体を引っ張られる。
 列が進んだから、お前も前に来い、と前にいる由香里に引っ張られた。申し訳ない。
 ところで今の列は、俺の前には由香里とおっさん(に見えるだけで実際は若いかも)が一人いるだけなので、テーブルが二つ開けば出番だ。いつでも戦えるようにデッキケースからデッキを出しておく。
 そんなことをしていると、由香里とその前の人が机につき、そして俺の番が回って来て俺も席につく。
 子供の付き添いで来ました風のパパさんプレイヤーが相手だったため、大人気なくスタン(スタンダードデッキの略)にも関わらず速攻を決めて倒してしまった。
 まずは一勝。このイベントでは勝てば勝つほどプロモカードがもらえる。
 プロモカードはごく一部を覗いて扱い辛いカードだが、コレクター的には希少価値はある。
 スタッフからカードをもらって机に構える。
 そして続けてやってきた人にも圧勝し、勝利のメダル(プロモカードの名前)をもらって最後の挑戦者を待つ。
 そうして俺の前に座ったのは、京都駅のバス停で会った地蔵のような人だった。
「よろしくお願いします」
 デッキを互いにシャッフルして手札のポケモンを伏せ、最後にサイドを並べる。
 最初のポケモンは俺がゴウカザル四90/90。相手はペラップ60/60でベンチにラルトス60/60。
 先攻を決めるじゃんけんで負けた俺は後攻からのスタートだ。


啓史「今日のキーカードはゴウカザル四。
   四っていうのは四天王の四って意味な。
   レベルアップしてからがこいつの本領発揮やで」

ゴウカザル四[してんのう]Lv.55 HP90 炎 (DPt)
炎無  ばくれつだん
 相手のポケモン2匹に、それぞれ20ダメージ。
炎無無  とびひざげり 50
弱点 水×2 抵抗力 ― にげる 1


  [No.767] 3話 三戦目 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/10/08(Sat) 21:02:42   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 バトルチャレンジにて俺と地蔵っぽいの(バトルシートを確認したところ、名前は喜田敏光というらしい)の勝負が始まる。
 最初のポケモンは俺がゴウカザル四90/90。相手はペラップ60/60でベンチにラルトス60/60。そしてサイドは互いに三枚。
 俺の手札は少なくともいいとは言えないが、いつでも挽回の効く範囲だ。
 さすがにペラップじゃあ1キルは起きないだろうし、それに警戒する必要もないだろう。
「俺のターン。ペラップに闘エネルギーをつけて、ワザ、仲間を呼ぶを発動。その効果でデッキからラルトス(60/60)をベンチに出す」
 ラルトスのような超ポケモンがいるにも関わらず闘エネルギーがあるということはエルレイドがいるってことか……。
「俺のターン、ドロー!」
 引いたカードはゴウカザル四LV.X。だが、互いに最初のターンはレベルアップは出来ない。
「サポーターカード発動。アカギの策略! 自分のデッキからサポーターと基本エネルギーと名前に『ギンガ団の発明』とつくトレーナーをそれぞれ一枚ずつ選んで相手に見せてから手札に加える」
 自分のデッキを一枚ずつ確認していき、目当てのカードを探す。
「俺が選ぶのはアカギの策略と炎エネルギーと、ギンガ団の発明G-101 エナジーゲインや!」
 サーチしたカードを喜田に見せつける。喜田は了承したと首を縦に振る。
「手札のガブリアスC(80/80)をベンチに出す。そしてゴウカザル四に炎エネルギーをつけて、ポケモンの道具のエナジーゲインをゴウカザル四につける」
 エナジーゲインはSPポケモン専用の道具で、これがついたポケモンは必要なワザエネルギーが無色エネルギー一つ分減る。実質エネルギーカードをつけているようなもので、ワザエネルギーが多いSPポケモンには必須のカードだ。
 ちなみにSPポケモンとは昔のジムリーダーのなになにみたいなポケモンであり、全てたねポケモンとして扱われる。SPポケモンはポケモンの名前の後に四だのGLだのCだのGだのついているのが特徴。
「ゴウカザル四で攻撃。爆裂弾! このワザは相手のポケモン二匹に20ダメージを与える。俺が選ぶのはベンチのラルトス二匹や!」
 ベンチのラルトス二匹のHPが40/60に。目の前のペラップを殴らない理由は、展開ポケモンとしてはぺラップは弱い部類で害が少なく、俺のキーカードで瞬殺出来ると踏んだからだ。
「俺の番だ!」
 喜田が勢いよくドローする。喜田が座っているパイプ椅子が少しボロいせいで、ギィィと耳を突くような音が聞こえる。
「闘エネルギーをラルトスにつけ、サポーター発動。ミズキの検索」
 ミズキの検索は自分の手札を一枚デッキに戻し、デッキから好きなポケモンを手札に加える効果をもつ。
「俺はエルレイドを手札に加える!」
 やはりエルレイドがデッキに入っていたか。
「グッズの不思議なアメを使って、闘エネルギーのついたラルトスをエルレイドに進化させる」
 不思議なアメは自分の進化していないポケモンを、1進化及び二進化ポケモンに進化させるカード。
 その効果によって、ポケモンを出した番にも進化できるし、通常はラルトス、キルリア、エルレイドと順番を経ていかないといけない進化も今のようにラルトスからエルレイド110/130へ、いわゆる飛び進化ができる。
「そしてペラップで仲間を呼ぶ。デッキからまた新たなラルトス(60/60)をベンチに出す」
 これで相手のベンチはエルレイドとラルトス二匹が並ぶことになる。
「俺のターン!」
 引いたカードはアグノム70/70。
「手札のアグノムをベンチに出す。そしてこの瞬間にアグノムのポケパワー発動や! タイムウォーク! タイムウォークの効果によって俺はサイドを確認し、その中のポケモンのカードを相手に見せてから手札に加えてよい。俺はレントラーGLを手札に加える。そして手札一枚をウラにしてサイドに戻す!」
 戻したカードは雷エネルギー。エネルギーに関しては困っていないので、このカードを戻すのは当然とも言える。
「レントラーGL(80/80)をベンチに出し、更にゴウカザル四をレベルアップさせる!」
 ゴウカザル四LV.X110/110が現れたことで場は整った、ペースはこちら側に確実に傾いている。押すなら今だ!
「ゴウカザル四LV.Xのポケパワーを発動。威嚇の雄叫び! 相手のバトルポケモンとベンチポケモンを入れ換える。入れ換えるポケモンは相手が選ぶ」
「ならペラップとダメージのないラルトスを入れ換える」
 やはりそう来たか。このままだと攻撃してもHPが10届かない!
「手札のアカギの策略を発動! その効果によってアカギの策略と炎エネルギー、そしてギンガ団の発明G-105 ポケターンを手札に加える」
 再び消費した手札をリカバリーする。これによって手札は六枚。
「炎エネルギーをゴウカザル四LV.Xにつけて攻撃」
 レベルアップした今ゴウカザルが使える技は三種類。そのうち一つが先のターンに使った爆裂弾。そして飛び膝蹴りと炎の渦。
 飛び膝蹴りは相手に50ダメージを与えるワザだが、それではHP60/60のラルトスを倒せない。だったら、リスクはあるが……。
「炎の渦! このワザのリスクとしてゴウカザルについているエネルギーを二つトラッシュする。せやけど100ダメージや!」
 ゴウカザルの炎エネルギーを二枚トラッシュに置くが、相手も気絶したラルトス0/60をトラッシュする。これでサイドを一枚引く。
 先手は打てた! 流れは掴めたはずだ。喜田はエルレイド110/130をバトル場に繰り出した。
「俺の番。ドローだ!」
 喜田の手札は僅か二枚。手札も試合運びも俺が押している。
「手札からエネルギー付け替えを使う」
「エネルギー付け替え!?」
「その効果によってペラップについている闘エネルギーをエルレイドに付け替える」
 喜田はベンチのペラップについていた闘エネルギーをエルレイドつけなおす。これでエルレイドには闘エネルギーが二つついていることになる。
「手札からサポーター発動、デンジの哲学。デンジの哲学は自分の手札が六枚になるようドローするカード。そして今の俺の手札は0。よって六枚ドロー!」
 大幅に手札補強を図ったか。どう攻めてくるんだ。
「ベンチのラルトスをキルリア(60/80)に進化させ、エルレイドに超エネルギーをつける。更にエルレイドにポケモンの道具、達人の帯もつけさせてもらう」
 達人の帯はつけたポケモンのHPを20上げるだけでなくワザで与えるダメージも20増える。が、達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合に相手がとるサイドは二枚となるカード。メリットとデメリットが混ざった強力カードだ。
 エルレイドのHPが20上昇し、130/150。もう倒すの難しくなる。
「エルレイドでゴウカザル四LV.Xを攻撃。サイコカッター! このとき、ウラになっている自分のサイドを好きなだけ選び、オモテにしてよい。その場合、オモテにした枚数かける20ダメージを追加する! 俺はサイドを二枚オモテにする!」
「なっ!」
 サイコカッターの元の威力は60。それが達人の帯で20、サイドを二枚オモテにしたことによって40ダメージ追加されてゴウカザル四LV.Xが受けるダメージは120。ゴウカザルのHP110/110を上回るダメージだ。一撃でゴウカザル四LV.Xが気絶だなんて。
「俺もサイドを引かしてもらう」
 相手の場には強力なエルレイドが残っているのが極めて厄介だ。しかしこいつを倒さなければ勝つことは出来ない。
 俺の二番手はレントラーGL80/80。しかしこのままではエルレイドを突破できそうにない。どうしたものか。
「俺のターン!」
 引いたカードは四枚目のアカギの策略。トラッシュに既に二枚あり、先のターンにあらかじめ一枚を手札に加えていたので、これで手札に二枚アカギの策略が入ったことになる。
「アカギの策略を発動。その効果で雷エネルギー、クロツグの貢献、ギンガ団の発明G-109 SPレーダーを手札に加え、俺は手札からSPレーダーを発動だ!」
 SPレーダーは手札を一枚デッキに戻すことで、SPポケモンをデッキから一枚手札に加えれる強力なサーチカードだ。
「俺はレントラーGL LV.Xを手札に加える。そしてレントラーに雷エネルギー、エナジーゲインをつけ、レントラーをレベルアップ! そしてこの瞬間にレントラーGL LV.X(110/110)のポケパワーを発動させる! 輝く眼差し!」
「なにっ!?」
「このポケパワーによって、相手のポケモンを入れ換える。エルレイドとキルリアを入れ換えてもらうで!」
 喜田がベンチのカードの入れ換えを行う。目の前のエルレイドが倒せないのなら相手のベンチを潰すまでだ。
「レントラーで攻撃。フラッシュインパクト! 相手に60ダメージ! だがこのワザの効果によって、自分のポケモン一匹も30ダメージ受ける」
 フラッシュインパクトの威力は60。目の前のHPが残り60のキルリアは撃破できたが、ワザの効果でベンチのアグノムにも30ダメージだ。これでアグノムの残りHPは40/70。
 喜田は気絶したキルリアをトラッシュし、再びエルレイドをバトル場に出す。
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ」
 取って取られての繰り返しの、気の抜けない戦いが続く。



啓史「今回のキーカードはエルレイド!
   サイコカッターでダメージを調整。
   相手を一撃で押しきれ!」

エルレイドLv.55 HP130 闘 (DP3)
闘無  ソニックブレード
 相手の残りHPが「50」になるように、相手にダメージカウンターをのせる。のせた場合、相手を相手のベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるベンチポケモンは相手プレイヤーが選ぶ。
超無無  サイコカッター 60+
 のぞむなら、ウラになっている自分のサイドを好きなだけ選び、オモテにしてよい。その場合、オモテにした枚数×20ダメージを追加。(オモテにしたサイドは、そのカードをとるまでオモテのまま。)
弱点 超+30 抵抗力 ― にげる 2


  [No.776] 4話 サイコカッターを打ち破れ! 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/10/15(Sat) 23:34:39   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「行くぞ、ドロー!」
 喜田のターンが再び始まる。
 俺のサイドは残り四枚、手札は五枚。バトル場には雷エネルギーとエナジーゲインのついたレントラーGL LV.X110/110、ベンチにはガブリアスC80/80と、アグノム40/70。
 一方の喜田はサイド五枚の手札六枚で、バトル場には超エネルギーが一枚、闘エネルギーが二枚、さらに達人の帯がついているエルレイド130/150。ベンチにはペラップ60/60だけだ。サイドでは俺は有利だが、サイコカッターで高火力を弾き出すエルレイドが厄介極まりない。
「手札のラルトスをベンチに出し、超エネルギーをつける。そしてサポーターのオーキド博士の訪問を発動。デッキからカードを三枚ドローし、手札のカード一枚をデッキの底に戻す」
 四匹目のラルトス60/60が場に現れる。同名のカードは四枚しか入れらないからこれが喜田の最後のラルトスなのは間違いない。
「更に手札からグッズカード、夜のメンテナンスを発動。トラッシュのポケモンと基本エネルギーを三枚まで選び、デッキに戻してシャッフル。俺が戻すのはラルトス二枚とキルリアだ」
「ラルトスがデッキに戻った!?」
「エルレイドでレントラーGL LV.Xを攻撃。サイコカッター! レントラーGL LV.Xの弱点は闘タイプ! 元々の威力80の二倍、160ダメージだ!」
 レントラーのHPは110/110は一撃でやられてしまう。普通は一撃でやられるようなHPちゃうって……!
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「俺は新しくアグノムをベンチに出す。そして俺の番や!」
 アグノムは壁役だ。あのエルレイドを倒すには犠牲になるポケモンが要る。壁になってもらう間になんとか後続のポケモンを育てなくては。
「サポーター、アカギの策略を発動。その効果でデッキからハマナのリサーチ、炎エネルギー、エナジーゲインを手札に加え、炎エネルギーとエナジーゲインをガブリアスCにつける」
 今はぐっと耐えるときだ。準備をミスれば勝機はなくなる。
「ベンチにゴウカザル四90/90を出し、スタジアムカード、ギンガ団のアジトを発動。このカードがある限り、互いのポケモンが手札から進化したときそのポケモンにダメージカウンターを二つ乗せる!」
 ギンガ団のアジトでこの後に立つ喜田のポケモンをある程度妨害出来る。HP満タンのエルレイド二匹目だけは避けたいしな。
「ターンエンドや」
 準備は整った。さあかかって来い!
「今度は俺のターン! サポーターカードのミズキの検索を発動。手札を一枚戻してデッキからキルリアを手札に加え、その後デッキをシャッフル。ベンチのラルトスをキルリア(80/80)に進化させる!」
「スタジアムのギンガ団のアジトの効果によって、進化したキルリアは20ダメージだ」
 これでキルリアのHP60/80。
「キルリアに闘エネルギーをつけ、エルレイドでアグノムに攻撃! サイコカッター!」
 放たれたサイコカッターの威力は元の威力に加え、達人の帯の効果で20加算され80。残りHPが僅か40のアグノムはもちろん耐えれず気絶してしまう。
 今、喜田がサイドを引いたことによって、これで相手のサイドは三枚になった。
 エルレイドのサイコカッターの効果は攻撃時、自分の伏せてあるサイドを任意の数だけめくり、その枚数×20ダメージを追加出来るものだ。今の喜田のサイドは全てウラだ。つまりサイコカッターでめくれるサイド、加算出来るダメージは最大60。
 エルレイドが最も苦手とする『終盤』へ勝負は差し掛かった。
「俺の次のポケモンはガブリアスCや」
 今の手札はリョウの検索、ハマナのリサーチ、ポケターン、SPレーダー。
 次のドローがなんであれ、逆転へ繋がるターンとしなければ。
「俺のターン! 手札のサポーター、リョウの採集を発動。その効果によってトラッシュのゴウカザル四LV.X、炎エネルギーを手札に戻す」
 リョウの採集は、トラッシュのSPポケモン、基本エネルギーを合計二枚まで手札に戻すサルベージ能力を持つサポーターだ。
「更に手札からSPレーダーを発動。その効果でデッキからガブリアスC LV.Xを手札に加え、バトル場のガブリアスCをレベルアップ! ガブリアスC LV.X(110/110)に炎エネルギーをつけ、エルレイドに攻撃だ。ドラゴンダイブ!」
 ドラゴンダイブの威力は80。このワザを受けたエルレイド50/150のHPはもう少しのところまで削れた。ただ、ドラゴンダイブはエネルギーを二枚トラッシュしなければならないデメリットがある。
「俺はドラゴンダイブの効果でガブリアスの炎エネルギーを二枚トラッシュしてターンエンドだ」
 ここまでは考えていた通りの流れだ。だが、目の前のエルレイドを倒すための計算が相手の番で狂うかもしれない。大丈夫のはず。とはいえ不安が突っかかる。
「俺のターン!」
 喜田の表情は変わらない。
「手札のラルトス(60/60)をベンチに出し、超エネルギーをつける」
 また新しいラルトス。そんなに出してなんのつもりだ。
「サポーター、ミズキの検索を使う。手札を一枚戻してデッキのエルレイドを手札に加えさせてもらう。そしてベンチのキルリアをエルレイドに進化させる!」
 二匹目のエルレイドがベンチに現れる。一匹倒すのに精一杯なのに、易々と出しやがって!
「だがスタジアムの効果で、進化したエルレイドに20ダメージだ」
 二匹目のエルレイドのHPを90/130まで削る。俺のささやかな抵抗に、喜田は苦い顔でダメカンをベンチのエルレイドに乗せた。
「エルレイドでガブリアスC LV.Xを攻撃。サイコカッター! サイドを二枚めくることで計120ダメージだ」
 受けるダメージは60+20+40=120ダメージ。強烈な一撃にガブリアスC LV.X0/110は為す術もなく気絶になる。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 喜田はサイコカッターによって表側になった不思議なアメを手札に加えていた。
 次のターンにベンチのラルトスを進化させるのかもしれない。
 喜田のサイドは一枚表側(超エネルギー)、もう一枚が裏側。もう俺のLV.Xポケモンが一撃で倒されることはないはずだ
「行くで、俺のターンや!」
 引いたカードは四枚目のエナジーゲイン。これで俺の手札はエナジーゲイン、炎エネルギー、ハマナのリサーチ、ポケターン、ゴウカザル四LV.X。
「荒い手やけど、そのエルレイドを今から倒すぜ!」
 俺の宣言に喜田は怪訝そうな顔をする。
 誰だってそうだろう。俺の場にはもうゴウカザル四しか残っていない上に、このまま次のターンになれば喜田のエルレイドにゴウカザル四は一撃で倒されてしまうのだ。だけど手札にはそれを打破出来るカードは揃っている。
「行くぜ、俺は炎エネルギーとエナジーゲインをゴウカザル四につけて、ゴウカザル四LV.X(110/110)にレベルアップさせる! それだけじゃない。手札のハマナのリサーチを使って俺はデッキのクロバットGを二枚手札に加える」
「クロバットGを二枚だって!?」
 ただ、デッキからカードを大量に加えたことによって俺のデッキの残量も刻々と少なくなって行ってる。もう三十枚は確実にない、な。
「クロバットG(80/80)二匹をベンチに出し、この瞬間にクロバットのポケパワーを使うぜ。クロバットのポケパワーはベンチに出した時に使え、相手のポケモン一匹にダメージカウンターを一つのせる。二匹同時にポケパワーを使うことによってエルレイドに二つダメージカウンターを乗せるぜ。フラッシュバイツ!」
「でもこれだけではエルレイドは……」
 エルレイドの残りHPは30。ゴウカザル四LV.Xのワザでエルレイドを倒すには後、10ダメージ足りない。
「だからこのカードや。グッズカード、ポケターン発動!」
 喜田の表情にようやく驚きが現れる。
「ポケターンの効果によって、ベンチのSPポケモンを手札に戻す。戻すカードはもちろんクロバットG」
 わざとらしくクロバットGを喜田に見せてから手札に戻す。まぁ戻すと言っても今の手札はこのクロバットのみだが。
「そしてもう一度クロバットGをベンチに出してエルレイドにフラッシュバイツ。これで射程圏内や! ゴウカザル四LV.Xで攻撃。爆裂弾! このワザは相手のポケモン二匹に20ダメージを与える。そのエルレイドとベンチのラルトスに20ダメージずつプレゼントや!」
 ようやく苦戦し続けたエルレイドを気絶させることが出来た。今倒したエルレイドは達人の帯がついている。達人の帯がついたポケモンが気絶した場合、相手は二枚サイドを引くことが出来る。よって俺はサイドを二枚引く。
 これで俺と喜田の残りサイドは共に二枚。ようやっとこれで追いついた。
「暴れた利子はしっかりもろたで!」



啓史「今日のキーカードはゴウカザル四LV.X!
   ポケパワーで相手のベンチからポケモンを引きずり出し、
   炎の渦で薙ぎ倒せ!」

ゴウカザル四LV.X HP110 炎 (DPt2-S)
ポケパワー いかくのおたけび
 自分の番に1回使える。相手のバトルポケモンを、相手のベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるベンチポケモンは相手プレイヤーが選ぶ。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
炎炎無 ほのおのうず 100
 自分のエネルギーを2個トラッシュ。
─このカードは、バトル場のゴウカザル四に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 ─ にげる 0


  [No.786] 5話 光景 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/10/22(Sat) 09:11:29   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ようやく苦戦させられたエルレイドを撃破したものの、喜田の次のポケモンはまたもやエルレイドだが、そのHPは90/130。
 ギンガ団のアジトなどでじわじわ削った甲斐があった。
 今の俺と相手のサイドは共に二枚。喜田のベンチにはラルトス40/60とペラップ60/60。
 そして俺のバトル場にゴウカザル四LV.X110/110とベンチにクロバットG80/80が二匹。
「俺のターン。手札の闘エネルギーをエルレイドにつける」
 喜田はエルレイドに三つ目のエネルギーをつける。これで再びサイコカッターの使用条件が満たされる。
「手札の不思議なアメを発動! 自分のたねポケモンから進化するポケモンを手札から一枚選び、進化させる。ベンチのラルトスをサーナイトに進化させる!」
「手札からの進化やからギンガ団のアジトの効果受けてもらうで」
 先のターンのダメージと加算して、サーナイトのHPはすでに70/110。俺のデッキの火力やと一撃圏内であるのは確かだ。
「まずはエルレイドでゴウカザル四LV.Xを倒す! サイコカッター!」
「それはええけど倒しきれんの?」
「っ……」
「裏側のサイド一枚しかない上に、達人の帯もない状況。どうあがいても80ダメージが関の山や。これやとゴウカザル四LV.Xは倒しきれへん」
「……分かっている! くっ、サイドを一枚めくってサイコカッター!」
 最後の喜田のサイドがめくられ、ゴウカザル四LV.Xに80ダメージだ。
 残りHP30/110は決して喜ばしくないが、喜田は全てのサイドを開いた。もうサイコカッターの威力は上がらない、今なら押していける。
「さあ、俺のターンや!」
 引いたカードはリョウの採集。SPポケモンと基本エネルギーを計二枚まで手札に戻せるサポーターだ。ここは使うの一択!
「サポーターのリョウの採集を発動。トラッシュのレントラーGL、レントラーGL LV.Xを手札に加える。そしてレントラーGL(80/80)をベンチに出して、ゴウカザル四LV.Xに炎エネルギーをつけるで!」
 残りの展開は読めてきた。おそらくこの勝負で俺がこれ以上たねポケモンを出すことはないだろう。これで勝負を決めてやる。
「ゴウカザル四LV.Xでエルレイドに攻撃! 炎の渦!」
 炎の渦の威力は100。残りHP90/130のエルレイドにトドメを刺す。
「炎の渦の効果でゴウカザル四LV.Xの炎エネルギーを二枚トラッシュするけど、エルレイド倒したからサイド引くで!」
 残るサイドはあと一枚。ようやくリーチに差し掛かった。あと一匹倒せれば!
 その時、不意に背後から由香里の声がかかる。
「先に三連勝したから杉森とフードコートで先にお昼食べとくで?」
 声のした方に振り返ると、由香里は三連勝したらもらえるカードをちらつかして会場から離れていく。わざわざ見せびらかすとこがいやらしいし腹立たしい。
 由香里が会場から出ると同時に長身の女の人がやってきた。パッと見、俺より大きい、百七十五センチくらいの背の高さで胸辺りまで濃い青色の髪を真っ直ぐ伸ばしている。綺麗だが、ちょっと怖い印象だ。
 辺りが男ばかりなだけあって由香里同様に目立つのだが、なんというかオーラが違う。そのせいで、悪い意味で目立つ。なんだか嫌な予感がする。
 その女の人は俺の二つ左の席に座ったが、妙に気になる。目の前の喜田も同様だった。
「こほん」
 喜田がわざとらしく咳き込んだ。そのお陰で目の前の現実に俺は戻って来る。
「まだ勝負は終わってないぞ。俺のターン」
 喜田の手札は僅か二枚。しかし、カード一枚で最大八ドローするポケモンカードでは手札の数は簡単にひっくり返ってしまう。
 ……のだが、喜田はここで長考してしまう。考えるなら手札を増強してからが普通だろうが。おそらく、喜田の手札に手札を増やすカードはないようだ。
「まずサーナイトをレベルアップさせる!」
 サーナイトLV.Xにレベルアップしたため、HPが90/130に。さらに使えるワザが一つから二つに増えた。
 今、サーナイトLV.Xには超エネルギーが一枚ついている。レベルアップ前のワザは超無無とエネルギーを三つ要求するため、このターンはダメージがないと踏んでいた。しかしレベルアップしてから使えるワザ、仕留めるは超エネルギー二枚あれば使えるワザ。しかもそのワザの効果は、サーナイトLV.X以外の互いのポケモン全員の中から残りHPが一番少ないポケモンをきぜつさせる。というとんでもないワザだ。
 今一番HPが少ないのは30/110ゴウカザル四LV.X。喜田の手札の残り一枚が超エネルギー及びそれを引き寄せる物であるなら……。
「サーナイトのポケパワー、テレパスを使う。相手のトラッシュのサポーター一枚をこのポケパワーとして使う。ハマナのリサーチを選択!」
 ポケパワーからサーチに来たか!
「待ってたぜ! 手札からパワースプレーを発動。自分の場にSPポケモンが三匹以上でなおかつ相手の番に相手がポケパワー使ってきたときに発動できるカードや。そのポケパワーを無効にする!」
 最後の希望を失った喜田は金魚のように口をパクパクさせる。我に帰ると残りの一枚のカードを苦い顔でプレイする。
「サーナイトLV.Xに闘エネルギーをつけて、ターンエンド……」
「よし、俺のターン!」
 このドローで手札は四枚。手札0の喜田よりは良いが、手札を増強するカードがない。
「手札からポケターンを発動。ゴウカザル四LV.Xについているカードを全て手札に戻す!」
 ゴウカザル四LV.Xについているカード、つまりゴウカザル四、ゴウカザル四LV.X、エナジーゲインを手札に戻す。
 ゴウカザル四LV.Xがバトル場からいなくなったため、ベンチのレントラーGL80/80をバトル場に上げる。
「エナジーゲインをレントラーGLにつけ、更に手札の雷エネルギーもつける。そしてレントラーGLでサーナイトLV.Xに噛みつく攻撃!」
 30ダメージを受けたサーナイトの残りHPは60/130になる。手札の状況を考えると次のターンで倒せる!
 ターンが重なるごとに、喜田の顔が苦しそうになっていく。そんな喜田を見て少し心に余裕を持った俺は、プレイマットから顔を上げて試合を適当に見ているギャラリーを見渡した。
 しかし、ギャラリーは皆が皆、同じテーブルを見つめている。
 その視線を追い続けると、さっき見た青い髪の女の人がいるテーブルだった。何かあったのだろうか。
「俺のターン!」
 喜田が自分の番を始める合図を放ったので、俺は再び目の前の戦いに集中する。
「手札の超エネルギーをサーナイトLV.Xにつける!」
 どうやら喜田は超エネルギーを引き当てたようだ。これでワザ、サイコロックも仕留めるも使えるようになる。
「サーナイトLV.Xで仕留―――」
「それでええん? 仕留めるの効果は、互いの番にいるサーナイトLV.X以外で一番HPの低いポケモンを気絶させるやけど、その条件に適合するのはそっちのペラップやで」
 最初にベンチに戻ってから、ノータッチだったペラップ60/60。可哀想だがまあ忘れていても致し方ないかな。
「く、サイコロック!」
 威力は60。レントラーGLのHPが一気に20/80へと減少する。
「俺の番や! レントラーGLをレベルアップさせ、そのまま攻撃。フラッシュインパクト!」
 フラッシュインパクトの威力は70。残りHPが60/130のサーナイトLV.Xはこれで気絶。俺がサイドを一枚引くことによってサイドを全て引ききった。
「ありがとうございました」
 対戦が終わり一礼すると、俺がカードを片付けるよりも早く喜田はテーブルを発った。
 のこのこやって来たスタッフから三連勝記念のプロモカードをもらい、やっとカードを片付けた俺は由香里の元へと向かわんと、数十分お世話になったパイプ椅子から腰を上げる。
 その刹那、二つ隣の席からパイプ椅子が蹴飛ばされたかのような音と同時に、嫌な異臭とピチャピチャと何かが滴る音がする。
 その元に目を移すと、あの女の人と戦っていた不健康そうな男が、体をくの字に折って会場で嘔吐していた。
 休む間もなく、やけに用意周到な救護班らしき人たちに介抱されたその男はどこか他所へ運ばれていく。
 その様子を見ていた女の人は、まるで何事にも興味がないような目をしてプロモカードももらわず人々の雑踏に紛れて行った。
 何が今起きたんだ……?


啓史「今日のキーカードはサーナイトLV.X!
   ポケパワーで場を動きつつ、
   仕留めるを使って勝負を決めろ!」

サーナイトLV.X HP130 超 (DP4)
ポケパワー テレポーテーション
 自分の番に、1回使える。自分のバトルポケモン、または自分のベンチポケモンを1匹選び、このポケモンと入れ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超  しとめる
 自分以外の、おたがいのポケモン全員の中から、残りHPが一番少ないポケモンのうち1匹を選び、きぜつさせる。
─このカードは、バトル場のサーナイトに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 なし にげる 2


  [No.801] 6話 昔の約束 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/10/30(Sun) 20:06:49   36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 フードコートにやってきた。大概こういうところは相当な広さを誇り、人が多くて困るのだが由香里達を探すのに時間はかからなかった。
 それもそのはずフードコートに入ると同時に石焼きビビンバを乗せたお盆を運ぶ由香里とすぐに出会った。
「勝てた?」
「当たり前やん、ちゃんとカードもらって来たで」
「まあそれくらいは当然やな。で、とりあえず杉浦も待ってるから席教えるわ」
 今いるところからタカが待っているところまではそう距離はなく、ちょっと歩くだけで席に着いた。タカはラーメンを食べながらDSしている。
 席について由香里はビビンバを置くと水取ってくると言って雑踏に混ざっていった。
「どやった?」
 タカがスープをレンゲで掬いながら話しかけてくる。こっちを見てない。
「ちゃんと勝てたで。そっちの方は?」
「ここ来てからワイヤレス通じるようなって、今三戦目。ちょこちょこギラティナ出てきてめっちゃうっといわ」
「パルキア入れてへんかったっけ」
「いつもとちゃうPTでやってる」
「ふーん。とりあえず俺もなんか飯買ってくるわ」
「ゲームの方までまだ一時間あるからあんま慌てなくてもええで?」
「じゃあのんびり決めてくるわ」
 そう言って、タカのいるテーブルを離れる。そんなお昼の一時だ。
 店を回ってうんうん言った割には、俺もタカと同じくラーメンを食べることにし、ささっと食べるとデッキケースを直して午後のゲーム部門のためにDSを取り出した。
「あれ、由香里はゲームも出るっけ」
「あたしも出るよ? ちゃんとDS持ってきたし」
 と、ハンドバッグから黒いDSLiteを見せつける。
 DSを出したのと入れ替わりにデッキケースを直しかけた由香里だが、手が滑ったらしくケースを床に落としてしまう。
 しかも蓋がきちんと閉まっていなかったがために中のカードがこぼれ落ちている。
「おっと」
 なんだか俺のせいで落とした気がしてなんだか悪い。という訳でもないのだが、脊髄反射的に落ちたカードを拾うのを手伝う。
 由香里のカードは基本的にデッキシールドされているのだが、一枚だけデッキシールドのされていないカードが落ちていた。
 他のカードがまだ拾われていないにも関わらず、先にそのカードを拾いあげる。
「なんだこれ」
 裏面は普通のカードだが、表面の部分は剥がされ、剥がされたところにボールペンでイラストとテキストが書かれていた。※プロシキカードかと思ったがそうでもないようだがなんだこれ。
※プロシキカード・代理のカード。持って無いカードを代理で別のカードを入れて使うこと。
 カード名は「マニーの決意」とのことで、サポーターカードらしい。バクフーンを連れ、腕組みをした男がイラストにある。
 そのカードテキストには、「約束を守る」。はぁ?
 なんだこれと思っていると、由香里がひったくるようにそのマニーの決意を奪い取った。
「……」
 急に手元のカードをひったくられたことに呆気に取られ、由香里を見つめる。
「な、なんでもええやん!」
 顔を赤くして大きな声を出す由香里。よくわからないままこれまた反射的にごめんと謝ってしまう。
 とはいえあのカードのことを思い返してしまう。あの字は筆跡からしても由香里のではない。力強くカクカク書かれた具合が男の字だと物語っていた。
 まさか彼氏とかか!
 一人でニヤニヤしていると、隣のタカが不審な顔でこっちを見てきた。
「なるほど、そういうことか」
 確証を得るためにアタックを仕掛ける。
「な、何よ」
「誰からもろたん?」
「……」
 自分でも余計に顔がニヤつくのを実感する。そして自分で自分が気持ち悪いとも思う。
「もー、鬱陶しいし隠すことでもないから言うわ」
 開き直って白状モードか! さあ真実はなんなのか!
「ほらあたしさ、中学んとき東京行ってたやろ? 東京から大阪に戻るときにあたしと向こうの友達二人と作ってん」
 もらった、ではなく作ったらしい。まあ自作カードなのは分かるが。
「離れても、ポケモンカードやってたらまた三人いつか会えるっていう約束こめて、な」
 青春臭くて妬ましい。いや、でもポケカしてたらまたいつか会える? 意味が分からん。
「やからポケモンカードで会うっていう約束を守ろう! って忘れへんようにね」
「なるほど」
 あんましわからん。
 そういえば、由香里は東京行く前はポケモンカードやってなかったのに、戻ってきたらポケモンカードをやっていたな。
 その東京の友達らに影響されたんだろうか。
 でもこれ以上根を掘るのはなんだか野暮っぽいから、今は遠慮しておこう。
 さっさと残りのカードを拾い、ぐだぐだしていると、割りといい時間になっていた。
「よし次のゲーム部門もサクッと行こか!」



 再び会場に戻ると、先程よりも大きいお友達が一段と増えていた。
 予想していたよりも多く、少し面食らいそうになる。
「来年のPCCの調整に来てるんやろな」
 タカは俺の表情を察してか、声をかける。
 PCCとはポケモンチャレンジカップの略で、毎年行われるポケモンの世界大会である。
 各都道府県で予選を行い、その予選と東日本、西日本で行われる敗者復活戦の勝者が東京で更にトーナメントで戦い、そのうち何名かがハワイで行われる世界大会に行くのだ。
 このバトルチャレンジはゲームもカードもPCCと同じルールなので、各環境を調べる絶好の場である。Wi-Fiとは違った臨場感もある。
「うーん、なんかちょっと緊張するな」
 ちなみに俺は、PCCではカードではなくゲームで出場予定。
 というわけでここからが正念場だ。



「メタグロスで大爆発!」
「ディアルガのトリックルーム」
「ミュウツー、吹雪だ!」
「ドーブルでこの指止まれ!」
「ギラティナのシャドーダイブだ」
 声が飛び交う会場の中に俺はいなかった。
 現在、ギャラリーに混じって遠目でタカを応援している。
 距離があるのでもちろんDSなんて見えず、かろうじて浮き沈みするタカの表情で試合の優劣を推し測るのみ。
 俺は一回戦で手持ちのカイオーガが放った雷の威力が足りず、相手の攻撃を急所に受けてリズムを狂わされたために負けてしまった。
「まさか一回戦で負けるってのはなぁ」
「運ゲーで負けたんやろ? しゃーないやん」
 同じく一回戦負けの由香里が、ざまぁねぇなと言わんばかりににやつきながら話す。
「くっ、めっちゃ腹立つ」
「あたしはカードでPCC出るから別にええんやけど、啓史はゲームやろ? この調子やったら予選も危ういやん」
 タカが大きくガッツポーズを作る。
 俺らとは違って、きっちり三連勝をして記念品を受けとる。
「俺、やっぱさ」
「?」
「ゲームよりカードで出るわ」
「これまたずいぶん都合良い考えやん。ま、相手になっても手加減せーへんで?」
 調子の良い由香里の返事を鼻でふんと笑って一蹴する。
 そんなことをしているうちにどうやらタカも戻ってきたし、時刻も陽が沈み始める頃だ。半日くらい世話になったショッピングモールを離れ、俺たちは大阪の街へと戻っていく。



啓史「今日のキーカードはマニーの決意!
   約束のカード、ねぇ」

マニーの決意 サポーター
 全国大会で再会する約束を守る。

 サポーターは、自分の番に1枚だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。


  [No.805] 7話 PCC大阪開戦! 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/11/06(Sun) 00:16:09   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あっ、アイコさん。今着きましたよ」
『お疲れ様ね』
「とりあえずホテルにチェックインしてからポケモンセンターオーサカにでも行ってみます」
『遊びに行かした訳じゃないわよ、ちゃんと仕事しなさい』
「分かってますよそれくらい」
『いつもはもっと大人数で行くんだけどもごめんね? こっちもいろいろ忙しくて。言わなくても分かってるだろうけど』
「大丈夫です。任せてください」
『うーん、そう言われると逆に不安ねぇ。とにかく、大阪はよろしくね。一之瀬くん』
 PCC大阪地区予選が明日に控えた日の昼頃、新大阪駅に一人の男が現れた。
 一之瀬と呼ばれた彼は、携帯電話の通話が切れたのを画面で確認する。通話相手は松野藍。クリーチャーズの社員であり、彼の上司である。
 とある仕事のために彼は東京から大阪にやって来たのだ。
 携帯電話を畳んでポケットに入れると、彼は新大阪駅の出口を目指す。



 来る二月下旬の土曜日。翌日が模試とぶつかるため、二日あるPCC大阪予選を、日曜日ではなく土曜日を選んだ。由香里ももちろん土曜日だが、タカは俺達の都合に合わせてくれた。
 会場はインテックス大阪。大阪市の南西部に位置する建物で、こういうイベントにならなければ陽の目を浴びない埋め立て地である。とはいえ割りと頻繁にイベントは行われているが。
 地元の地下鉄の駅で集合した俺達は、しばらく電車に揺られると、途中から中央線へ乗り換えて今度はコスモスクエア駅に行き、そこから更に南港ポートタウン線に乗り換えて二駅次の中ふ頭駅で降りる。
 もちろん、電車に乗っている間は口を開けて天井を眺め、だらっと寝ている訳もない。
 タカのようにゲーム部門出場者はギリギリまでポケモンを確認、及び努力値を振っていない場合はさっさと振る。ちなみにこの作業は電池との戦いであり、前日にきちんと充電しないと痛い目に会う。余談だが去年のタカはその目に会った。
 今年からカードで出場する俺と由香利は、自分のデッキとスペアカードを見比べうんうん唸る作業をしなくてはならない。他のカードゲームとは違い、デッキが60枚以上ではなく60枚ジャストでなければならないので、欲しいカードを全部詰めておくという訳にはいかないのだ。そもそもデッキ圧縮的に60枚を越すというような考えは普通はないのだが。
「啓史、コスモスクエア着いたで」
 由香利が俺の右肩を結構な力でバシバシ叩きながら言ってくれる。痛いです。
 適当に頷き、広げてたカードを慣れた手つきで手に持ったケースに直して席を立つ。そしてホームへと降り立ち、南港ポートタウン線へと向かおうとしていた時、背後から急に現れた人とぶつかった。
「でふっ!」
 後ろからの衝撃に耐えきれず、思わず前に倒れそうになる。
 ギリギリのところで踏みとどまったが、手に持っていたカード数枚が手の中からこぼれ落ちる。線路に落ちなくてよかった。
「ごめん、大丈夫!?」
 ぶつかった張本人が、慌てて重そうなショルダーバッグを下ろして落ちたカードを回収する。
 幸いにもそんなにあちこちに散らばりまくったわけでもないのですぐに回収することが出来た。
「本当にごめんね」
「えっと、大丈夫です」
 時間ギリギリだったらぶちギレだった。早めに家を出れて本当に良かった。
 改めてぶつかった男を見れば、ひょろい体格で、髪型にもあまり特徴がなく、大学生のように見えた。この人にかろうじて印象をつけるなら優男?
 しかしまあ用は済んだわけだし、軽く会釈して立ち去ろうとすると、それを引き止めるように男が声をかけてきた。
「君たちはPCCに出るんだよね」
「はぁ」
「僕も行くんだけど、連れて行ってくれないかな、この辺全然来ないもんだから分からなくて」



 別に断る理由があるわけでもないので、この優男と一緒に行くことにした。
 男の名前は一之瀬 和也(いちのせ かずや)というらしい。
 言葉の訛りが関西圏ではなさそうなので、どこの人かと尋ねたところ、なんと東京から来たらしい。
「なんで東京から大阪に来たんですか?」
「えーと、まあ仕事みたいなのかな」
 仕事ってことはスタッフ? 会場のスタッフって東京からわざわざ来てるの? っていうか選手と同じ時間で来るってどーよ。
「ところで森くん達はカードでPCCに出るの?」
「えっとここにいるタカだけゲームで、俺と由香里はカードです」
「へー。それじゃあさっきのお詫びも兼ねて、僕が森くんと宇田さんにプレゼントをあげよう」
 と言うなり一之瀬さんはすぐさま重そうなショルダーバッグをごそごそ漁り始めた。
 一之瀬さんは横に広い直方体の段ボールを二つ取り出し、それぞれ俺と由香里に渡した。
「お?」
「それは『バトルベルト』。今年から公式大会で導入される機械で、TECKって会社が作ったんだよ。企画したのが高校生らしいけどすごいね」
 バトルベルトはよく聞くし、玩具店などでショーウィンドウ越しに見たことはある。
 一色のベルトにモンスターボールのような球体が六つついた機械で、一定の操作を行う事でモンスターボールがテーブルに変形し、そのテーブルを使ってポケモンカードを使うと鮮明な3D映像として実際にポケモンが動いてるように見える最新機械である……らしい。
 もちろん、立派なものだけあってか値段が相当なので買う気にはなれなかった。大会の予選はともかく本選ではこれが導入されるのだが、レンタル可能なのでそっちに頼るつもりだったものの、もらえるなんて嬉しい誤算。俺は一之瀬さんの手を握って何度もありがとうといいながらその手をぶんぶんと強く振った。
「杉浦君はごめんね。今はゲームの方も作ってるらしいから、そっちが出来てまた会えたときに」
「あっ、ありがとうございます!」
 しかしこんな高いものをくれるなんてただ者ではない。親しくなってウルトララッキー。ここで運を使い果たしたかもしれない。
「箱のまま持っていくのは大変だし、大会まで時間があるからここで開けてみたら?」
 一之瀬さんは荷物の減ったショルダーバッグを担ぎ直して提案する。
「よっしゃ、開けよか!」
 段ボールに一切の配慮なく豪快に開けていった由香里を尻目に、俺も自分のを開けていく。
 薄いブルーのバトルベルト。なかなかいい色だ。持った感じはやはり重みがあるのだが、これくらいはなんてことない。
「よし、着けれたで」
 今つけていたベルトを外して新たにバトルベルトをつける。
 由香里も着けたらしく、自慢気に見せつける。色は薄い赤だ。
「似合ってる似合ってる」
 一之瀬さんはご満悦らしく、俺たちのことを称賛する。
 いやぁ、しかし結局はほんと時間よりも早めに出てよかった。早起きは三文の得ということわざを初めて体で知った。
 段ボールや梱包材等を駅のゴミ箱に押し込み、説明書や備品を鞄の中に入れ、目的地に向かい再び歩き出す。
「思ってたより遅くなったけど、そろそろ行こか」
 コスモスクエア駅からようやく南港ポートタウン線に乗り換え、中ふ頭へ向かう。
 予想通りであるが、南港ポートタウン線にいる人のほとんどがDSをいじくっている。
 俺はゲームで出場しないのでこいつらすげぇと遠目に見るも、隣にいるタカにしてはプレッシャーを感じているかもしれない。
 この二駅の間は短く、中ふ頭駅に着いた。
 乗客の大多数がこの駅で降りる。普段は使われなさそうな線なだけに多少は金が回るな、なんてどうでもいいことを考えていた。
 中ふ頭駅は至ってシンプルな駅で、キップ売り場と改札とホームしかないといっても反論はないような小さい駅だ。そこがごった返すんだから大変大変。
 人で溢れる改札をサクッと通り、駅から直結している白い橋を渡る。
 橋を渡り終え、別れ道を右に進むとすぐにインテックス大阪が見えてくる。
 インテックス大阪は国際会議に使われることもあるらしく、そのときに旗をつけるであろう白い棒が風でカタカタ騒いでいた。
 そこから少ししてインテックス大阪の玄関口が見えてくる。
「ねぇ、この辺りってコンビニとかない? 喋り疲れて喉渇いちゃってさ」
 一ノ瀬さんが尋ねてくる。
 この人、出会ってからずっと喋りっぱなしなのだからそりゃ渇くだろう。が、
「ないです」
 そう、全くない。
 一ノ瀬さんが後ろにエフェクトが付き添うなほど露骨なリアクションをとった。
「えぇ!? お昼ご飯もなし!?」
「あ、でも会場内に売店みたいなのがいくつかあるからそこで弁当やらペットボトルやらありますよ」
「それならよかった」
 とやりとりしてる間に、インテックス大阪の玄関を越える。すると開放的な空間が広がり、いくつか売店の姿が見える。
「ほら、あれとか売店ですよ」
「おぉ、ありがとう! みんなも喉乾いてるんじゃない? なにか買ってあげるよ」
「いや、いいですいいです」
 いいですと言いつつ、めっちゃ欲しいです。
 でも露骨におごってもらうと悪い気がするからね。無駄な抵抗をして少しでもいい人っぽく装った方が印象がいい。
 由香里はそのことを知っているのですごい白い目で俺を見つめた。どうせお前も欲しいだろうに。
「いやいや、案内してくれたお礼ってことで」
 俺の呼び止めも虚しく一ノ瀬さんは売店の中に入っていった。しめしめ。しかし同時にタカも一之瀬さんとは反対方向に去っていく。
「それじゃあまた後でな」
「おう」
 タカはネットの友人と会いに行くため、ここからは別行動である。あとでまた合流することにはなっているのだが。
 遅れて売店から出てきた一ノ瀬さんは、おにぎりと爽健美茶と、缶ジュースの温かいコーンスープを三つ持って来た。
「あれ、杉浦くんは?」
「別の友達のとこに合流しました」
「そっか。じゃあとりあえず二人にはコーンスープを。僕もこれからいろいろあるからまた後でね」
 立て続けに一ノ瀬さんとも別れてコーンスープを手に持った俺と由香里の二人はただ立ち尽くす。なぜコーンスープ。とにかくもらったコーンスープをさっさと飲んで処理(入場の際に持ち物検査があり、そのときに飲み物は徹底的に調べられて面倒だから)して会場へ入場する。
「ゲームのカテゴリーBの最後列はこちらでーす!」
 スタッフ専用の赤いウインドブレーカーを羽織った男性職員が大きな声を張り上げる。
 まだまだ寒さの続く二月。海に近いため冷たい海風もやってくるインテックス大阪で、ゲームカテゴリーBみたいな列に並ぶだなんて冷えて冷えてたまらない。
 そんな行列を横目に、俺たちは手早く会場の方に進んでいく。ゲームと違ってカード出場選手は少ないため、列は並ばずさっさと中に入れるのだ。
 会場入り口のスタッフに、だいすきクラブのカードと身分証明となる高校の生徒手帳を提示すると選手証を受けとる。
 そのあと、荷物検査と金属検査を受ける。
 そしてようやく会場内だ。俺と由香里は迷う暇なくカードの予選ラウンドが行われる方へ向かった。

啓史「今回のキーカードはガブリアスC LV.X!
   ポケパワーも強力やけど、なんといってもそれ以上の魅力はワザやな。
   ドラゴンダイブに死角はなし!」

ガブリアスC[チャンピオン] LV.X HP110 無 (Pt)
ポケパワー いやしのいぶき
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。自分のSPポケモン全員のダメージカウンターをすべてとる。
無無無 ドラゴンダイブ
 自分のエネルギーを2個トラッシュし、相手のポケモン1匹に、80ダメージ。次の自分の番、自分は「ドラゴンダイブ」を使えない。
─このカードは、バトル場のガブリアスC[チャンピオン]に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 ─ にげる 0