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  [No.807] 第5話「9月1日」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/11/08(Tue) 08:02:13   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「テンサイさん、今日から仕事始めだそうですね、しかも私と一緒のタンバ学園!」

 9月1日、登校初日。時刻は7時37分、俺はタンバ学園へ向かっている。もう目と鼻の距離だ。しかし、何故か緊張する。若い頃は旅、その後は研究をしていたから、学校というものはどうにも馴染みが薄いんだよな。ま、教えることは慣れているから大丈夫だろ。それより、ナズナと同じ職場か。腐れ縁もここまで続けば大したもんだ。

「なんだ、あんたの勤め先はあそこだったのか」

「はい。物理を教えているんですけど、みんな元気いっぱいですよ」

「そ、そうか」

 非常に嬉しくない話だな。若い奴にはもっとこう、「元気」と言うより「ぎらぎらした」感じであってほしいもんだ。もう良い年なんだからな。

「ところで、何故この時期に求人なんてしたんだ? 普通は新年度が始まる前に募集するもんだろ」

「普通はそうですね。けど確か、部活の練習中に顧問の先生が怪我をしたとは聞きましたけど」

「怪我だと? 俺の任期は2年のはずだが、いくらなんでも長すぎるぞ」

 もしや、よほどひどい状態なのか。そう思ったのだが、彼女が内訳を説明してくれた。

「あ、怪我自体は1年でリハビリまで終わるらしいですよ。ただ、その先生が研修で1年抜けちゃうんです。もともと研修に行くことになっていたんで、怪我がなくても募集する必要があったみたいです」

「なるほどな。まあ、任期中は全力を尽くすのみだ」

 誰かのために、なんて陳腐な標語は嫌いだからな。どんな状況でも最良のパフォーマンスを見せる……昔からそれができれば良かったのだが。

 しばらくして、ようやく校門が見えてきた。中々広い敷地だ。町の中に校舎があるのではなく、校舎の中に町があると例えれば分かりやすいだろうか。……おや、あそこにいるのは校長じゃねえか。こんな朝っぱらから校門に立つとは立派なもんだ。しかし、その割には落ち着きが無い。俺達がやって来ると、彼は待ちわびたと言わんばかりにしゃべり始めた。

「おお、やっと来たかテンサイ」

「おはようございますシジマさん。何をそんなに慌ててるんですか?」

「ナズナか。それが……いや、ここで言ってはまずい。まずは職員室に入ってくれ」

 校長はナズナを職員室に向かわせた。俺もそれに続こうとしたが、校長に止められた。

「まずい、もう時間がないぞ。いきなりだがテンサイ、すぐに講堂へ向かってくれ。あそこの建物だ」

「了解。早速初仕事だな」

 俺は校門を通って右方面にある講堂へ走った。何故かあちこちにカメラを持った奴らがいやがる。おい、間違っても俺を撮るなよ。

 講堂に入ると、テレビカメラが目に飛び込んで来た。次に大量の客らしき面々。おいおい、いったい何の真似だ? 俺はなるべく顔を隠しながら進む。最前列に机と椅子が用意されているが、おそらくあそこに行けば良いのだろう。

 机にたどり着くと、俺は腰かけた。机上にはメモ書き1枚と数枚のプリントが置いてある。俺はまずメモ書きに目を通した。

「どれどれ、『これを読んでやり過ごしてくれ』か。人使いが荒いぜ全く」

 俺は不平を漏らしながらプリントの読み上げを始めた。さっきまで騒いでいた聴衆も、瞬く間に静かになる。

「ええ、おはようございます。タンバ学園ポケモンバトル部顧問代理のテンサイです。この度は当校の部員による不祥事、大変申し訳ありません。これより、概要の説明へと入らせていただきます」

 ……なるほど、俺は部活の指導までせねばならんのか。しかも不祥事だと。まあ、今はさっさとこの状況から脱出するのが先だ。俺は棒読みで手早く説明に入った。

「事件が発生しましたのは7月26日。高校ポケモンバトル選手権タンバ大会準決勝にて、部員がポケモンに違法なドーピングをしたとのことです。ポケモン保護の観点から、基準量を超えた薬の投与は厳しく禁じられていますが、今回はこれに抵触する格好となりました。ポケモンの挙動が不自然なことに気付いた相手チームが通報、検査の結果事態が発覚。昨晩部員19人中18人が逮捕されました」

 な、なんだと。ほとんど壊滅したも同然じゃねえか。しかも違法ドーピングてか。部外者の俺には事情が分からんが、確か結構重い刑期が約束されていたはずだぞ。

「当校は今回の事態を重く受け止め、再発防止のために努力する所存です。この度は申し訳ありませんでした」

 くそ、心にも思っていないことを言うのは気分が良くないな。さて、ここからは質問タイムだ。どうにかやり過ごすしかないが……ま、あのセリフを盾にするしかないな。

「顧問は事態を把握していたのですか?」

「それは分かりません、なにせ自分は今日初めてこの学園に来たのですから。顧問の先生は現在怪我の療養中です」

「ポケモンバトル部の廃部はあり得ますか?」

「それもこちらでは判断つきません。まあ、1人残っていますし、存続自体は可能だと思いますよ」

 さあさあ、どんどんかかってきやがれ!










「校長、一体どういうことだ?」

 一通り済んだ後、俺は職員室に足を運んだ。そして校長に事情を尋ねた。他の先生方はいない。多分生徒への対応に追われているんだろう。それにしても、くたくただぜ。

「むう、すまん。まさかこのタイミングで不祥事が発覚するとは思わなんだ」

 校長は頭を下げた。まあな、本来なら始業式でもやるもんだろうに、まさか不祥事の謝罪をするとは露にも思うまい。さて、これからどうしたもんだか。今の俺は雇われの身、上の意見を聞いておこう。

「で、俺は何をすれば良いんだ? 俺が顧問代理なら、再建だろうがなんだろうがやってやるよ」

「……やってくれるか?」

「指示さえあれば今すぐにでも」

 俺はぶっきらぼうに答えた。校長はしばし考え込んだが、それから俺にこう頼んだ。

「そうか。なら君に頼もう。ポケモンバトル部は我が校の魅力の1つ、失えば経営にも関わる。必ず任期中に再建をしてくれ」

「ああ、わかった。まずは部員探しだな」

 ……あ。俺の仕事、増えちまったな。



・次回予告

さて、早速部員集めをすることになった。まずは生き残りの部員を探すのだが、どこを探しても見つからない。もしや、俺から隠れているのか? 面白い、俺の前には全てが用を為さないこと、教えてやるぜ。次回、第6話「部員を探せ」。俺の明日は俺が決める。



・あつあ通信vol.71

展開の構成が非常に悩ましかったです。前作とは毛色が違う上にこの構成難はこたえました。次回からも苦戦が予想されるでしょう。


あつあ通信vol.71、編者あつあつおでん


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