マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.811] 第7話「新たな仲間は人気者」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/11/20(Sun) 09:38:26   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「来たか。賢明な判断だ」

 9月2日の放課後、職員室で仕事を片付けていた俺の下にイスムカがやって来た。俺は既に明日の準備を済ませ、いつでも帰宅できる状態だ。なにせ3時間しか教壇に立たなくて良いからな。さすがに私立高校とだけあり、この辺りは充実している。

 そんなことを考えていると、イスムカが俺に疑問をぶつけてきた。質問は学習における4つの基本の1つ。中々分かってるじゃねーか。

「……先生、部員集めなんてどうするんです? もう大半の人は部活に入ってますよ」

「それなら心配はいらない。この学校は1学年6クラスだそうだが、内2クラスは進学に特化しているそうじゃねえか。ならば放課後に勉強している可能性が高い。そんな暇な奴を狙って押し倒す! どうだ、良い考えだろう」

「押し倒すんですか……」

 イスムカの額からうっすら冷や汗が出てきた。おっと、ここは職員室だったな。ついついがらん堂のノリで話してしまった。俺はすぐさま話題を切り替えた。

「真に受けるな、これは比喩だ。それより、勉強に使えそうな場所はどこだ?」

「それなら図書室か教室しかありませんよ。とにかく静かですからね」

「まあ、そうだな。ではまず教室から回るか」










 俺達はとある教室の前で立っていた。引き戸の上には「1-1」と書かれた板が妙に目立っている。どんなに時代が変わっても、この板だけは昔のままだ。まあ、俺はこの学校にいたわけではないんだがな。

 俺達は遠目に、後ろの引き戸から室内を見回した。机が30台程ある中、内5台には人が座っている。また死角になる部分にも誰かいるのだろうが、よく分からない。

「ここが1年1組か」

「さすが、進学目指しているだけあって勉強してますね。僕のクラスはもう誰もいないのに」

「類は友を呼ぶ。お前さんみたいな奴らなら無理もねえだろうな。さて、まずは突入だ」

 俺はイスムカを先に入れた。奴が教室に足を踏み入れた瞬間、右から何者かが飛び出してきた。そいつとイスムカはぶつかり、しりもちをつく。

「うおっ!」

「きゃっ!」

 やれやれ。どこのどいつだか知らねえが、教室で走り回るなよ。部の貴重な戦力が怪我でもしたらどうしてくれるんだ。

「いてて、危ないじゃ……ああ、君は!」

「なんだ、この女は知り合いか? そこらの衆人とはちょっと違う気がするが」

 俺はぶつかってきた奴を眺めた。なるほど、これは美形だな。まず目を引くのが、流れる水のごとくつややかな黒髪。これはかなりの量であると同時に、長さも腰まで届く程だ。布でできたコスモスをあしらったシュシュでまとめても、なお毛先は自由自在に舞う。次に、身なりが完璧である。制服の着方はどこにも隙がみられないし、長方形に近い楕円形レンズの眼鏡はいささかも傾いてない。また、面やつれした色白で、いわゆる「おしとやか」な分類に入るだろう。しかも、制服のせいではっきりと判別できないが、山あり谷ありの体だと予想される。……しかし、俺は面識がない。そんな俺に、イスムカが説明してくれた。

「え、先生知らないんですか? この人は学園で1番の美人と評判のラディヤさんですよ。しかも見た目だけでなく、勉強もできるし運動神経もそこそこ。おまけに誰にでも親切にするから、学園中の人気者なんです」

「人気者、なあ」

 俺は首をかしげた。まるで超人だが、がらん堂にいた身としては普通なんだよな。あと、こういう奴は目をつけられて大変な場合が多いと思うのだが。……まあ、それでも人気者ってのは好都合。少し動いてみるか。

「お嬢ちゃん、ちょっと俺達の話に付き合ってくれねえか?」

「え、はい……」

 俺達3人は廊下に出た。そして、俺が話を切り出す。小細工は無しだ、ストレートに頼もう。

「さて、単刀直入に言わせてもらう。ポケモンバトル部に入ってくれ」

「ぽ、ポケモンバトル部と言いますと、もしかして……?」

「そうだ、部員のほとんどが逮捕された。だがこの男が、イスムカが残っている。俺は部を立て直し、大会で勝たせようと思う。そこで、あんたのように暇そうな生徒を探していると言うわけだ」

 俺が遠慮なく事情を説明すると、彼女は困惑した表情を浮かべた。なんだ、意外と普通な一面もあるじゃねえか。もっとも、普通の反応をされて普通に断られたら困るんだがな。

 しばらくして、彼女は結論を聞かせてくれた。申し訳なさそうな顔である。

「……すみませんが、遠慮しておきます」

「何故だ? 放課後に勉強をするなんて、暇だからだろ? それに学業は十分すぎるほど出来が良いと聞く。何が問題なんだ」

 俺は追及の姿勢を見せた。彼女の顔つきを観察してみるに、あまり本意と言う感じには見受けられない。これはもしやチャンスかもしれないと考えたからだ。もし本当に人気者ならば、入部は確実に部の評判を上げる。この好機、みすみす逃すわけにはいかない。さあ、どんな理由でも説得してみせるぜ。ところが、身構えていた俺に彼女が答えた理由は、思いもよらないものであった。

「……私はもっと勉強して、良い大学に入りたいのです。」

「だ、大学だと?」

 俺は思わずのけぞった。これは……なんと言えば良いのか見当もつかん。だが1つ言えることは、とにかく交渉を続けるしかないと言うことだ。

「さ、さすがに真面目ですね……」

「感心している場合か。全く、この俺の誘いを断るなど、よほどの理由があるのかと期待したと言うのに大したことねえな。大学なんて、ただ勉強して入っても全然楽しめないぞ」

 俺は大学に入ってないから偉そうなことは言えたもんじゃねえがな。科学者としての知識はほとんど自力で身につけた。何も固執する理由なんざ無い。しかしどういうわけか、彼女は血相を変えて怒りだした。

「大したことないとはなんですか! これは家族も望んでいることなんですよ!」

 お、おいおい。まさか彼女、そんなつまらない理由のために死に物狂いで勉強しているのか? 故郷に錦を飾るつもりか知らないが、自分のために生きることを知らないようだ。しかしその辛抱強さ、ますます気に入った。

「家族の願い、なあ。それを聞いて尚更がっかりした。一体、あんたの意思はどこにあるんだ!」

「ど、どこと言われましても……これは私の望みでもあります」

「そりゃ違う、そう思わされているだけだ。それにな……」

 ここで俺は一息入れた。失礼は承知の上だ。それでも、今は手を緩める余裕はない。俺は澄ました顔で自らの考えを述べた。

「どちらにしろ、そう言うのは理由にならない。世界を見渡してみろ、部活をばりばりやった奴だってちゃんと合格しているそうじゃないか。中には生活苦のため、バイトをしながら学んだ奴も大勢いる。『勉強があるから部活ができない』と言うのは、『部活があるから勉強ができない』と言ってる群衆と同じだ。そうではないと示したいのなら、俺達と一緒に練習をしてくれ」

 俺は彼女を睨みつけた。サングラス越しでもわかるくらい俺の視線は鋭い。しばし沈黙が続いたが、遂に彼女は顔を引き締め、首を縦に振った。

「……そこまで言うのであれば、私も黙っているわけにはいきません。是非とも参加させてください。私、ラディヤがちゃんとした考えを持っているということを証明して見せましょう」

「そうか。ならば期待しておこう」

 い、意外とあっさり決めたなあ。思った以上に駄目なのかもしれない。……人数不足だから仕方ないか。それに、俺の手腕をもってすればこれくらい、造作もなく改善できるだろうしな。

「先生、ラディヤさんを引き込むなんて凄いですよ! これは流れがこちらに来ますよ」

「だったら良いな」

 俺は気のない返事をした。注目を浴びるようになるのは構わないが、にわかが殺到しそうなんだよな。ま、その時にまた手を打てば良いだけの話だ。今は部員が増えたことを喜ぼう。俺は疲れから伸びをした。すると、彼女は以下のように頼むのであった。

「……あ、先生。できればこのこと、家族には言わないでくださいね。とても厳しいですから」

「おいおい」

 こりゃ中々タフな奴だぜ。



・次回予告

ラディヤを入部させることに成功した途端、大挙して入部希望者が押し寄せてきた。正直なところ、あまりに多いのも考え物である。そこで、希望者に少し実力を見せてもらうことにした。果たして、期待のニューフェイスはいるのだろうか。次回、第8話「選考会」。俺の明日は俺が決める。


・あつあ通信vol.73

最近は名前のネタがないんですよね。というわけで、今はアラビア語からとっています。6話のイスムカの由来は「あなたの名前は」という意味なんですよ。これは、ローマ字読みでisum-u-kaと分けられます(正確には発音が少し違います)。isumは「名前」、uは格変化で「〜は」、kaは「あなた(男)」を表します。例えば、これが「あなた(女)」の場合はkiになるのです。格変化は単語によって形が違います(同じ「〜は」でもuや、un、aだったりするという意味です)。更に複数形があり、変化の仕方は実に豊富ですよ奥さん。アルファベット覚えるだけでかなりてこずりました。


あつあ通信vol.73、編者あつあつおでん


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー