マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.827] [五章]ポモペ 投稿者:ヨクアターラナイ   投稿日:2011/12/24(Sat) 22:21:28   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

前書?
うちきりとか言っておきながらやっぱり続けます。
なんだか矛盾っぽい部分が見つかりましたが、
面倒くさいので放っておきます。
完結を最大の目標として書かせてもらいます。







pocket
monster
parent





『いいから黙ってそいつをこっちに寄こせ!』





 金の少年は博士からポケモンを貰った。
 銀の少年は博士からポケモンを盗んだ。
 二人とも結果は同じポケモントレーナー。
 しかし片方は悪人と呼ばれる。
 シオンはどちらだろうか、悩んだ。
 少なくとも貰える側の人間ではない。




 日が沈むより先に、シオンは帰宅した。
 扉を超えて、ふすまを開けて、隣の部屋をそっと覗く。
 窓の外が夜の色に変わり、天井の灯りは部屋を照らす。
 そこには、絶対にポケモンを譲ってくれない父親がいた。


 酒瓶を片手に、ちゃぶ台にあぐらをかくカントは、
 炎タイプかと錯覚するほどに赤い顔をしていた。
 酔いつぶれたカントのふところに肌色の毛玉が、
 イーブイが丸まって眠っている。
 シオンの口元がにやりと浮ついた。
 千載一遇のチャンスが目の前で転がっていた。


「父さん?」


 シオンが呼んでも返事が返ってこない。
 半分眠ったような状態で座っているようだ。
 覚悟を決するのに時間はかからなかった。

 うつらうつらとしている様子のカントに、
 シオンは全速力で駆け寄った。
 勢いのつけて、
 ためらうことなく、
 赤い顔面に飛び膝蹴りをぶちかました。
 初めて親を蹴り飛ばした。
 カントが思いっきり転倒する。

 シオンが罪悪感に浸る暇などなかった。
 ぶっ倒れたカントから、
 イヌをひったくり、
 そのまま逃走をはかる。
 イヌを右手で掴み、脇にかかえて、急いで部屋の外へと、
 家の外へと突っ走る。
 廊下にさしかかり、玄関を見据えた。
 振り向くことなく、いつもより長い廊下を駆ける。


「シャドーボール!」


 背後から低い声が走った。
 シオンに寒気が走る。
 脇に抱えた肌色の毛玉から、漆黒の球体が生まれるのを目視する。
 慌ててシオンは振り向き、後ろにいた男へ向けイヌをかざした。
 かざした腕の先から漆黒の渦巻きが放たれた。
 小さなブラックホールが真っすぐ吹っ飛び、
 棒立ちしていたカントに直撃した。
 鼓膜を突き抜けるような轟音が鳴り、
 深い漆黒色の煙が部屋にあふれ返った。
 爆発した。
 突風が風向きを変えながらシオンを襲い、
 メキメキと家のどこかの木が壊れる音がした。


「逝ったか」


 シオンは縁起でもない冗談をつぶやいた。
 しかし、本気で死んだとは思っていない。
 黒い靄が空気に溶けるように薄まっていくと、
 シオンは安心して玄関へと足を動かす。


「電光石火!」


 逝ったハズの男の声だった。
 シオンのあごから衝撃が走り、脳天を突き抜ける。
 思考を忘れて、シオンは背中から倒れた。
 ふと、右腕が軽くなった。
 横に目をやると、イヌが体を揺らして遠く離れていくのが見えた。
 壁を駆けているように見えた。

 意識が濃くなり、力を振り絞り、シオンが立ち上がると、
 そこにヤツはいた。
 晴れた黒い煙の中から、
 半壊したふすまを背景に、
 顔を真っ赤にする鬼がいた。

 シオンは今になって昼間のワカバの言葉を思い出した。
 人間にポケモンの技はあんまり通用しないことを。
 完全に油断していた。


「愚息がぁ!」


 震える雄たけびだった。
 顔の赤色は、酔いではなく怒りによるものだ。
 カントは両腕でイヌを大事そうにかかえながら、近づいてきた。


「人のポケモンを盗ったら泥棒! 知ってるだろ!」


 強くギラついた眼光がシオンを見下していた。
 イヌもカントの両腕から顔を出し黒い眼でじっと見つめている。
 シオンは責められている気分でいいわけした。


「赤の他人のポケモンを盗めば警察沙汰になるのは間違いない。
 けど父さんのポケモンを盗むのだったら、
 ただの親子喧嘩で済むと思ったんだ」

「許されると思ったら盗むのか!」

「俺はポケモンが欲しい。だから盗もうとした。それだけ」

「この腐れ外道が! じゃあ、ロケット団と同じだな!」

「なんだよ悪人扱いして! 誰が好き好んで泥棒なんてするか!
 ポケモン盗む人間の気持ちにもなってみろよ!」

「ロケット団の気持ちになんかなれるか!」

「相手の気持ちになろうとしない父さんが
 ポケモンの気持ちなんて理解できるハズないだろ!」

「イヌが悲しんでるのが分からないのか!
 お前、まさかポケモンの気持ちを考えたことがないのか?」

「ポケモンが悲しんでる? 違うだろう?
 父さんが怒っているのは、イヌが可哀想だからじゃないだろう?
 自分が可哀想だから怒っているんだろう?」

「……どういう意味だ」

「父さんはイヌを俺に持ってかれるのか嫌なだけだ。
 今まで大切にしてきたポケモンが他人の所に行ってしまうのが 嫌なだけなんだ。
 ポケモンのためとか言っておきながら、
 結局は自分のためなんだろう? そうなんだろ!」

「……俺は自分のためにポケモントレーナーになったワケじゃねぇ」

「嘘をつくな! そんなこと信じられるワケがないだろ!
 イイ人ぶるんじゃない!」


 カントが鉄球を取り出し、イヌに触れる。光となったイヌを、
 鉄球に収めるとカントは少し息を吸う。


「あの屑どもと俺を同じにするな!」


 カントの怒声で、シオンの顔に唾が飛んできた。


「俺は自分のためにポケモントレーナーになる下種どもとは断じて違う!」

「嘘だ! 俺だって、他の皆だって、誰もがポケモン好きだから、
 ポケモンが欲しいから、だからポケモントレーナーになりたいんだ!」

「私利私欲のためにポケモンを捕まえているようでは、
 ロケット団と五十歩百歩の違いではないか!」


 シオンはひるんで言い返せなかった。
 「ロケット団と同じだ!」、ではなく
 「五十歩百歩の違い」という曖昧な表現をされてしまったが故に、
 「そんなことない!」と断言できなかったのだ。
 困ったシオンは、関係のない話題で誤魔化した。


「俺とポケモン、どっちが大切なんだよ!」

「お前に決まっているだろう!」


 もっと困ってしまった。


「そっ……それじゃ、俺にイヌを譲ってくれてもいいじゃないか」

「だからこそやらんのだ!
 俺はな、お前にポケモンに迷惑かけるような
 人間になって欲しくないんだ。
 ポケモン達の苦労で築き上げた成功を、
 自分がやって見せたみたいに披露するポケモンマスター
 とかいう阿呆にも、本当は憧れて欲しくはないんだ!」


 和室内に静けさが蘇る。
 一つだけシオンは理解できた。
 カントはシオンにポケモンを譲ってはくれない。


「シオン。お前の都合で、人間の都合で関係のないポケモンを
 巻き込んだりして欲しくないんだ。それだけなんだ」

「うおおおおおお!」


 シオンは唐突に叫び、カントに向かって走り出した。
 カントはボールからイーブイを再び召喚し、盾のように構えた。
 シオンの繰り出した拳は、イヌに触れる寸前で静止した。


「お前なら、ポケモンの気持ちを考えてやれる。
 俺はそれを信じてる」

「とっ……言ってることとやってることが滅茶苦茶じゃないか!」

「ポケモンを殴ることよりも、
 ポケモンを支配することの方がよっぽどたちがわるいぞ。
 ポケモンを殴る程度のことをためらっているようなら、
 ポケモンをゲットするなんて馬鹿な真似は止めろ」


 シオンは拳を構えた。カントはイヌを盾のように構えた。
 シオンはいつまでたってもパンチを決められなかった。
 そしてシオンは、仕方なくカントに背を向けた。


「今日のところは見逃してやる」

「何様のつもりだ?」

「でもね、明日も明後日も父さんが眠っている隙にでも
 俺はイヌを奪いに行くからな!
 俺は絶対ポケモントレーナーになりたいんだからな!
 覚悟しておけよ!」


 シオンは馬鹿正直に脅した。
 それから力なくヨタヨタと部屋を去っていった。
 廊下を歩いていると、体中の熱が冷めていくのが分かった。
 暗い玄関で泣きながらスニーカーのひもを結んだ。


 冷えた風に吹かれながら、暗い夜道を歩いた。
 どこの家も電気が灯り、時折にぎやかな声が届いてくる。
 楽しそうな声は今のシオンにとって耳触りだった。


「くそ! どうして俺がトレーナーになることを許してくれない?
 そのくせ自分はポケモントレーナーなのに!
 差別だ! えいこひいきだ! 異常なまでの自己愛だ!」


 大きな独り言だった。


「父さんが認めてくれればそれでおしまいなのに……」


 小さな独り言になった。
 冷たい夜の道をシオンは無言で歩いた。
 光を失った希望を胸に秘めて。




 ゴールドはウツギからポケモンを貰った。
 シルバーはウツギからポケモンを盗んだ。
 二人の道は違えども、たどり着いたのは同じポケモントレーナー。
 シオンは自分がどちらだろうか試してみた。
 しかし前者にも後者にもなれなかった。








つづく?


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