「テンサイさん、調子はどうですか?」
「……まあまあだ。どうにもテストってもんは作るのが難しいな」
9月25日の金曜日。時刻は夕方の7時となったが、俺はまだ学校に残っていた。来る試験の問題作成と、部員の自習の面倒を見るためである。ラディヤは問題無さそうだが、イスムカとターリブンが不安だ。3人は職員室の隣にある自習室に居て、俺がたまに巡回している。ラディヤが2人に教えているから心配は無いと思いたい。
ま、そんなこたあ大したことじゃねえ。厄介なことに、今回の試験で問題を作ることになっちまった。担当は1年生。範囲は三角比、平面図形、確率と場合の数。どれも初歩的なものばかりだが、科学や実生活の基盤となる分野ばかり。なるだけ定着していてほしいもんだぜ。
「確かに、問題作るのは大変ですよねー。私も初めて作った時は大変でしたよ。今はだいぶ慣れましたけどね」
「ほう。じゃあ、ちょっと見てもらえるか? 俺は数学、あんたは化学担当だが……分かるだろ?」
「もちろんですよ。えーと、どれどれ……」
俺は彼女に問題用紙の原稿を見せた。まだ作りかけだから5問ほどしかないが、良し悪しを判断するには充分だろう。
彼女はしばし、その薄っぺらな紙を眺めていた。しかし、どんどん表情が曇りがちになり、最後には頭上にクエスチョンマークを浮かべた。……そういや、昔からあんまり数学が得意じゃなかったよな、彼女は。少しは教えたつもりだが、どうやら中々定着していないようだ。
「て、テンサイさん……これはちょっと難しすぎないですか?」
「そうか? 例えばこれなんか、下手すりゃ全員正解するぞ」
俺は大問3を指差した。内容はこうだ。赤い玉が2個、青い玉が7個入った袋から1個取り出し、色を確認してから戻す。この手順をn回行うとき、赤い玉を取り出す期待値を求めよ。な、簡単だろ?
「い、いやいや。それにしても学校でやる問題にしては誘導も少ないですし、計算も煩雑ですし……。私も似たようなミスをやってたから、大きなことは言えないですけど」
「じゃあどんなのにすれば良いんだよ……」
俺は窓の外に目をやった。9月の終わりとは言え、まだまだ明るいな。なるべく早く帰っておきたいもんだ。週末でしか対戦の研究ができねえし。
「やっぱり、教科書の問題から少しだけ数値をいじってみるのが手っ取り早いでしょうね」
「なるほどな。まあ、どちらにしろ1から作り直しだ」
なるほどとは言ったが、そんな適当なことをする気はさらさら無い。なぜなら、それでは必死に準備してきた生徒が気の毒だからな。やってる奴だけ結果が出て、しかも教科書の模倣ではない問題……必ず作ってやる。生徒と言えば、高校と中学だと生徒、小学校だと児童、大学だと学生と区別するそうだな。
「よし、では試験を始めるぞ。全員、無駄な抵抗はやめとくことだ」
10月2日、金曜日。中間試験1日目。1時間目から数学たあ、実に幸せだろうな。朝は頭が最も働く時間だから、調子良くできるだろう。
さて、俺が監督するのは1年4組だ。つまり、イスムカやターリブンのクラスである。この2人は席に着きながら話をしていた。ターリブンが嘆き、イスムカがそれに受け答えすると言う構図だ。
「お、終わりでマス……」
「まあまあ、先生だってそんなに難しい問題は出さないでしょ。きっとマーヤ先生みたいに分かりやすいはずだよ」
「おいそこ、これ以上しゃべったらカンニングと見なすぞ」
俺は周囲を凝視しながら問題用紙を配った。カンニングでもしようもんなら、容赦無く吊し上げてやるぜ。ポケギアを使ってないかも要チェックだな。
さあ、準備はできた。時計は8時50分を指している。俺は開始の合図を送るのであった。
「では……始め!」
・おまけ:中間テスト やってみたい方はどうぞ
1学年2学期中間試験 数学
年 組 氏名
次の問いに答えよ。
問1:正弦定理を証明せよ(10点)。
問2:余弦定理を証明せよ(10点)。
問3:それぞれ異なる色の玉が17個ある。この中から8個を選び、円になるように並べる組み合わせは何通りか。ただし、回転させて一致するものは同一とみなす(10点)。
問4:赤い玉が3個、青い玉が8個入った袋の中から無作為に1個取り出し、色を確認してから元に戻す作業を何回か繰り返す。この時、
(1)3回繰り返して赤い玉を2回取り出す確立を求めよ(3点)。
(2)4回繰り返して少なくとも1回青い玉を取り出す確立を求めよ(5点)。
(3)赤い玉を取り出す期待値が1回以上になるには、最低何回繰り返す必要があるか(6点)。
問5:方べきの定理を場合分けして証明せよ(15点)。
問6:
┏┳┳┳┳┳┳D
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┣╋╋┻┻┻B┫
┣╋┫ ┣┫
┣╋B┳┳┳╋┫
┣╋╋╋╋╋╋┫
A┻┻┻┻┻┻┛
図において、AからDに向かって格子状の道を最短経路で歩く。すなわち、必ず東か北に向かって歩くことになる。この時、
(1)Bをどちらも通らない経路は何通りあるか(4点)。
(2)Bを通る回数の期待値を求めよ(8点)。
問7:次の内容を証明せよ(各7点)。
(1)円周角の定理
(2)円に内接する四角形の対角の角度の和は180°
問8:半径が6の円Pと7の円Qがある。PとQの中心の距離は12で、PとQの両方に接するように接線がひかれている。接線とP、Qとの接点をそれぞれR、Sとする。この時、
(1)PとQはどのような位置関係にあるか(2点)。
(2)RSの長さを求めよ(6点)。
(3)PとQの接線が常に両方の円の上部を通るとする。PとQの中心の距離をrとする時、RSの長さを求めよ(7点)。
・次回予告
さて、今日はテスト返しをするわけだが、ここまでひどい結果になるとは思わなんだ。やはり、やってない奴にはそれ相応のリターンしか無いと言うことだな。ここから這い上がってくるのが何人いることやら。次回、第17話「テスト返し、解答」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.82
今回はテストを本文に掲載してみました。やはり学園ものは学園ものでしかできない内容をやらねばと考えた結果です。なお、解答は次回行います。皆さん、もしお時間があればふるってご参加ください。
あつあ通信vol.82、編者あつあつおでん