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  [No.957] Mr.ウォーク! 投稿者:ぱるぷんて   投稿日:2012/04/18(Wed) 21:22:35   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

R‐zero


  6月X日 雨
  
  今日からミライシティの中等学校へ転校することになった。お父さんにはとても申し訳ない。
  自分はもう転校には慣れてしまったが、そんな事に慣れたということが悲しい。
  取り敢えず、いじめられないよう頑張ろう。
  自分は問題児で暴れん坊だという話が転校先でも伝わっている。
  が、実際大人しすぎるくらいだと自負している。
  それどころか、性格や雰囲気のせいでいじめられ易い体質である。
  だから、いじめられたらアイツが目醒めない事を願うしかない。
  取り敢えず、眼帯は外れないようしっかり身に付けるように注意し直そう。
  新しい学校にもすぐに馴染めるよう努力しよう。
  それに、この街は近代化が進み始めているので今までのなかで一番ポケモンが多い。
  困ったら近くに大きな病院があるから診てもらえるし、カウンセリングもしてくれるだろう。
  
 これ以上走ったら止まらなくなりそうなペンを止めてパタンと日記帳を閉じる。日記帳の表紙の真ん中にはアルクと書かれ、端っこにはイーブイと書かれている。
 アルクは憂鬱だった。毎日欠かさず書いている日記はルーチンワークとなってきた。転校初日は街並みについてとか、馴染めるよう頑張るとかいじめられないようにするとかそんな事を書いて二、三日のうちは日常を書き綴る。しかし二、三日経つといじめられ……結果、また転校する羽目になる。
 それに、とアルクは考える。――この不気味なオッドアイとアイツには困る。もうそろそろ何とか和解して早く普通な生活を送りたい……
 そう言って、新たな家のドアを開けるのだった。


「行ってきます」


 アルクが挨拶をしても家には返事をしてくれるポケモンは何処にもいないのだが。
 
 アルクには母がいない。ブラッキーの父と二人で暮らしている。その上生まれつき目の色がおかしいのだ。
 通常目には二色の色がある。角膜と結膜の二色。アルクの右目は普通のイーブイと同じ黒を基調として、真ん中に白目がある。が、左目はそれが逆だった。つまり広い範囲が白色で、ポケモンたちからすれば異様なものである。
 詳しい事はまだ解明していないが、その目のせいでアルクは大変な思いをしてきた。だからアルクは自称悲劇の主人公だ。
 因みにアルクは眼帯をしているが、何故か通常色の目を隠して異常色の目を晒している。そうなると勿論、


 いじめられる。

 
 また今日から長い長いルーティンワークの一部が始まる。そして、一見ループしているようで終おわりのある物語の幕を開けるのだった。

 彼は、終の見えない道を歩き始める。


  [No.958] Mr.ウォーク!  投稿者:ぱるぷんて   投稿日:2012/04/18(Wed) 21:25:12   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

R1 拍子抜け


「その話は本当なの?!」

「どうやらマジのようっす……俺らの担任が鬼だからってこっちに回さなくてもさぁ…」

 私はミライ中学の生徒会長であるツグミ。種族はサザンドラ。あだ名はパペット。あだ名の由来は手が顔だから。それだけ。別に嫌いというわけじゃない。因みに見た目が男っぽいそうだが女だ。間違えた相手には先生だろうと容赦しないつもりだ。
 話し相手はエルフーンのライク。女らしいが男であるこのエルフーンのライク。あだ名はモコ。あだ名の由来はいたって単純モコモコだから。こいつもあだ名に関しては結構気に入っているらしい。そしてライクは生徒会書記。私とは仲が良い。
 因みに私達のあだ名は生徒会員が殆どのあるグループ同士の呼び名である。 

 さっき話していたのは今日から新しく私達のクラスに入ってくる転校生の話だった。
 新しく入ってくる転校生の噂はまったく酷いものである。曰く目があっただけで気絶する、曰くそいつを見たら悪いことが起きる、曰くそいつの周りでは良くポケモンがどこかへ消える、曰くそいつはポケモンを食うらしい、
 曰く、行く先々の学校で何度注意されても何度も不良共に喧嘩をふっかけて何度も戦闘不能にしては問題になり転校を繰り返しミライシティへきた。
 
「まともな噂は一つくらいかしらねー……しかも私の横の席が空いてると来た……モコ、この席変わって」
 
 私は隣の列、ちょうど横に居るモコに頼む。

「ムリっす。先生に問い合わせてくだちい。ま、あの鬼教師に直訴できるならだけど……ん? みんなどうした? 俺の事見つめて。……ははぁーん。俺ってそんなイケメン」

 イケメンまで言ってモコは気づく、皆の視線が自分の後ろだということに。そして後ろから殺気を感じる。
 モコは直感的に悟った。

 後ろを見てはいけないと!
 
 しかしモコは後ろが気になる、しかし見てはいけない、しかし気になる。

「……さぁ、どーするモコ! ……って痛!」

 モコは後ろにいたレイズ先生に教科書でチョップされた。レイズ先生はバシャーモで、すごく怖いが生徒を愛するいい先生だとみんな分かっているので結構人気がある先生だ。

「一人でナレーションすると気持ち悪がれるぞライク。それと……鬼教師上等だゴルァ」

 ……全文訂正。レイズ先生はバシャーモで生徒のことを大事にしているいい先生だが怖すぎて話しかけられないし、さっきのセリフの最後のゴルァは冗談だが冗談抜きで怖い。とにかく怖い。

「まーいい。皆席につけ。もう皆知っている通り、今日から新しく転校生が来る。良からぬ噂が出回っているが、その噂一体どこから拾ってきたのというくらい優しくて拍子抜けするからみんな仲良くしてやれ。だからツグミ、席を変えるように直訴しなくてもいいぞ。おーい、アルク君入れ」

 そこまで話を聞いていたのか……ってあの先生のことだ、多分噂の転校生が優しいというのも嘘だろう。なぜならあの先生の冗談なんかは冗談になった試しはない。というより嘘から出た真になるし、先生があのポケモンは白だと言えば黒なのである。
 皆そんな事百も承知なので固唾を呑んでドアを見つめる。一体どんな奴なのか、種族は一体なんなのか、どれだけデカイのか。
 そんな事を考えていると、前の方の机で隠れて良く見えなかったが何か茶色い毛が横切ったような気がする。
 ――転校生? 机に隠れるほど小さいのか? 前の席では何やら驚きと拍子抜けしたような声が聞こえる。

 そして、私は初めて見た。奥底に憂いを秘めた不思議な目を。胸の内で不思議な感覚がする。

  どうしてあの子はあんなに悲しそうな目をしているんだろう?
 どうしてあの子は……どうして……あなたの目は私の目と似ているの?

疑問が止まらない。
 初めて見た彼の目は私にはとても神秘的にも見えた。私とモコ以外の皆は何か恐れを抱いてるようだったが。

 そして、彼の自己紹介は皆をさらに拍子抜けさした。

「初めまして。これから一緒に過ごす時間は少ししかないですが、よろしくお願いします。この学校での目標は、

 いじめられない事です」


  [No.961] R2 ルーティンワーク其の一 始め 投稿者:ぱるぷんて   投稿日:2012/04/20(Fri) 20:47:24   30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

注意 残酷描写が含まれます。自分では大丈夫かどうか判断しかねますのでご了承ください。
これからはこの注意書き無しで残酷描写が含まれる場合がありますのでそちらもご了承ください。




「いじめられない事です」

 皆驚いている。中には笑いを堪えている物やどう見ても悪意の篭った目で何か思案しているような幼稚な奴もいる。もう誰が何を考えているか聞かなくても良く分かる。何度も経験したのだから。
 どうせ僕は噂だけはいっちょまえで、チビで、進化しないと何もかも劣っているイーブイで、それも目が殆ど真っ白で異常だ。それにすぐにいじめられる。
 父さんがどうしても学校に通わせたのは僕は友達が居ないと一生このままだからである。だけどやっぱり友達なんぞ出来ない。馬鹿みたいな噂が一人歩きして、そこにこんな茶色い毛玉が来るのだから笑いものだしいいカモだ。後できっとカツアゲされる羽目になる。
 なんて事を考えながらいつも通りの自己紹介を終え、先生の言葉は殆ど聞き流し、どの席へ座るかだけを聞く。指定された席を見る。見た事の無いポケモンが、他の人とは違う眼差しで見ている。その隣のモコモコした奴も同類を見るような目で見ている。こんな奴らは初めて見る。
 
 不愉快だ。お前らにこの気持ちが分かるもんか。そう思いながら席へ向かう。

 なんて強気なことを思うけど、目はきっといつものように虚ろなものだろう。情けない、嗚呼情けない。
 気付いたら席についていた。四足用の高い椅子。どうやら無意識に席に座っていたようだ。たった10回程転校するだけでこうも慣れるのか。今気づいた。

「隣よろしくね。アルク君……私の種族分かる?」

 突然話しかけられた。青いドラゴンタイプのポケモンのようで両腕に顔……がついている。

 ――分かるものか。

 そう怒鳴りたくなった。けど初対面でそんなこと言えるほど肝が座ってないし、何より向こうは友好的に、真剣に聞いてきた。初対面であんな声で話しかけられるのは初めてだ。母さんの声に似ている優しい声だ。母さんは確か僕が5歳の頃に、死ん

 波紋上に広がった    を受けて、顔が消し飛んで肩から上が無く、鮮血を吹き出す  を僕はただ見ている。体が勝手に動く。僕は文字通り   た。
 白い目で涙を流しながら、逆の  い目でわら……う 

 突然鮮やかに蘇る記憶。ブンブンと頭を振る。僕は吐き気を抑えて何十年も前のように思える隣のポケモンの質問に答える。
「ごめん。知らない」
 ただ質問に答えるだけでイライラしそうだ。でも昔の母に面影を重ねてしまうのだからその感情を露わにすることも叶わず余計イライラが募る。
「私はイッシュに居るべきポケモンよ。種族名はサザンドラ。名前はツグミ。これからよろしくね。あ、そうそう。私生徒会長もやってるからそこもよろしくね」
 生徒会長、か。だからこんなに優しくしてるのかな? って確かイッシュは未だに真実を求めるレシラムと理想を求めるゼクロムはいつしか別れ内戦が勃発し、今もそれは続いている。確かそうだった。さっき僕を同類を見るような目で見ていたのは……
 ここで思考を止める。
 ……すべての関心を捨てて自分の世界に引きこもっていたはずの自分はどこへ行ったのだろう? 今回は何かが違う。そんな気がする。とりあえずもう何も考えないでいよう。

「おい。今日は先生用があるから皆自習しとけ」

 自習。言い方を変えれば自由。我ながら寒い。
 やった。とかよしっ! とかそんな事をほざく奴が居る。先生が出てしばらく様子を伺ってから教室から出ていく奴もいる。教室から出るような奴は少数な上にさっき自分を悪意のこもった目で見ていたやつだが。
 取り敢えず、参考書をパラパラと前足で捲る。何故か溜息が出る。
「どうしたの? 溜息ついて。幸せ逃げちゃうぞ」
 いつの間にかツグミは自分の机を僕の机に接岸している。 
「ちょ! いきなり何を」
「何ってただ仲良くなりたいだけだよ〜」

 やっぱりいつも通りの筈のループが少し狂っているような気がした。