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  [No.962] 2話  角飾り(前編) 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2012/04/22(Sun) 12:55:30   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 山の中へと続く坂道を、軽い足取りで進んでいく。うららかな春の陽気を含んだ空気が、やがてしっとりとした土の香りの空気に変わってきた。

 ナツキが、祖母と一緒に暮らし始めて一ヶ月。両親が死んだ日、山から帰ってきた彼女は祖母に引き取られる事になった。今は、家の手伝いが一段落したので、山へと遊びに行くところである。生活は、祖母と暮らす前の習慣とあまり変わっていない。
 こんな山奥で幼い女の子が、一体何をしようとしているのか。彼女のスキップの訳はとても単純な理由で、“友達と遊ぶから”。しばらく山の道をゆっくりと散歩していれば、大抵気が付くと目の前にいたりするのだ。
 どこからともなく現れる、白昼から輝く銀色。
「やっほー、フウ!」

 種族名が分からないので、フウ(風)と呼んでいる。女の子だったし、一番感じが合っていたから、自然とこう呼ぶようになった。

  *

 数週間前に遡る。ナツキは山の中で山菜を探していた。美味しいし、何よりも、沢山見つければ祖母が喜ぶからだった。小さい頃から親しんでいる、優しい祖母が彼女は大好きだったのだ。
 しかし、あの美味しい春の山菜はなかなか見つからない。倒れた木を見つけて、その上にへたっと座り込んだ。
「ないよぉ……」
 ぽろりと口から出てきた言葉、次に溜め息をつく。それから気合を入れ直す様に顔を上げた。なんとしてでも見つける、たとえ一つでも! そして、奇妙な事に気が付いた。

「……え」

 目の前に、探している山菜が十数本程度、こんもりと置かれていたのだ。思わず声が出る。
 まさに魔法のような一瞬の出来事に、ナツキは驚く他無かった。何故? どうやって? そう思っていると、すぐそばで生き物の鳴き声がした。
 振り向くと、少々得意げな色を映した赤い瞳と目が合ったのだ。

  *

 それからのことだ。何かあって山に行くと、フウはナツキの目の前に現れるようになった。見守ってくれているような雰囲気と、人懐っこい性格を彼女は不審に思うこともなく、いつしか自然と遊ぶようになった。今ではフウの言いたい事も大体理解できる。言葉で会話するというよりは心で感じる、という方が近い。

(ナツキ、花畑って行った事あったっけ?)
「花畑? あるんだ?」
(うん、今が一番綺麗な時期なの。行きたい?)
「うん!」
 笑顔でうなずいた彼女は、フウの背中にぴょんと飛び乗った。


 その花畑というのは、山の中、木が生えていないちょっとした空間にできた小さな原っぱだった。それでも、白、桃、紫、様々な色の春の花が咲き乱れている。
 さっきまでしゃがみこんでいたナツキが、地面に腹ばいになっていたフウの方を振り向いた。見て見て、と言いながらフウに手招きをする。フウが、ナツキの手を覗き込んで歓声を上げた。
(すごーい)
 ナツキは色々な種類の花を使い、手のひらに乗るほどの小さな輪を作ったのだった。人間にしか、こんな事ができる手と指は無い。目を輝かせるフウの反応はナツキの予想以上のものだった。ナツキはふと思いつき、顔の横についた黒い角に手を伸ばす。
(え、なに?)
「ちょっと動かないで…」

 曲がって生えた黒い角の根元に、小さな花が咲いた。ナツキが満足そうに笑う。
「フウかっわいい〜」
(私見えないんだけどぉー)
 言葉とは裏腹に、フウの表情はとても生き生きとしていた。

「あとでさ、水溜りとか見てみればいいんじゃない?」
(雨、降らないかなー、なんてね)
 二人は原っぱに寝転んで、空を見上げた。白んだ空が、少しばかり朱鷺色を映している。
「明日は晴れちゃうかも」
 いつもなら憂鬱になる春の雨の日も、楽しみな事が一つでもあれば期待したくなるのだった。

(しおれちゃったらさ、また作ってくれる?)
「花があれば、すぐ作れるよ」
(ありがと! ふもとまで送るよ)
 ここでフウが言う“送る”とは、背に乗って行くということである。村に続く坂道まで、フウにナツキは乗せてもらう。ほんの十分もかからないのだ。


 家に帰ったナツキが、野菜を水で洗っていた時。

 ふいに、家の外がざわざわと騒がしくなった。ほぼ同時に、ドンドン、と戸口が叩かれ、祖母が玄関に出たのをナツキは背後に聞いた。村で何かあったのだろうか。
 手を止め、ガラス窓の外を見ると、日が沈んだ空は暗い藍色とも紫色ともつかない色だった。暗く透き通った空に、ぽつぽつと小さな星が輝き始めているのを、ナツキはガラス越しにただ眺めていた。

「なんだって!?」
 直後、夕闇の空へと飛びかけたナツキの意識は、祖母が珍しく出した大声に引き戻されることになる。相変わらず玄関でざわざわと声がするが、祖母の声以外はよく聞き取れなかった。しかし祖母の声色から察するに、緊迫した状況らしいという事だけは感じられる。
 ナツキは耳をそばだて、少しでも大人たちの会話を聞き取ろうと努めた。


「また……、“アブソルが出た”ってのかい!!」
「生き残りが…まだ……今年………」

 あぶそる?
 ナツキは聞いた事の無い単語を頭の中で繰り返す。会話の流れとしては、何か良くない事なのだろう。

 久々に感じた冷たい胸騒ぎに、彼女は嫌な予感が湧き出るのを必死に押さえ込むしか無かった――。


―――――
スーパーお久しぶりです、生きてます。
訳あって前後編です。同時に上げたかったのですが、後編が完成しない(お
というわけで、せめて前編だけでも上げておこうかと。
今年に入るとますますスローペースになりますが、学業に負けずに頑張りたい…です……。

【好きにしていいのよ】


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